説明

太陽光−熱変換部材、太陽光−熱変換装置、及び太陽熱発電装置

【課題】新規な太陽光−熱変換部材を提供する。また、このような太陽光−熱変換部材を有する太陽光−熱変換装置及び太陽熱発電装置を提供する。
【解決手段】太陽光−熱変換部材は、β−FeSi相材料を含有している。太陽光−熱変換部材は、数百nmの波長の可視光に対しては吸収率が高く、かつ数千nmの波長の赤外光に対しては吸収率が小さく、それによって数百nmの波長の可視光を効率的に吸収して熱に変換し、かつ数百℃の温度での熱輻射による放熱が少ない。したがって、太陽光を効率的に吸収して熱を得、かつ熱輻射による放熱を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光−熱変換部材、太陽光−熱変換装置、及び太陽熱発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を熱に変換し、そしてその熱を利用して発電を行う太陽熱発電装置が知られている。このような装置では、集光部で太陽光を集光し、そして集光した太陽光によって、容器又は流路内の熱媒体(オイル、溶解塩、溶融ナトリウム等)を加熱することが提案されている。
【0003】
この分野では、容器又は流路の表面にコーティングを提供し、それによって集光した太陽光による熱媒体の加熱を促進することが検討されている。
【0004】
具体的には例えば、容器又は流路の表面にコーティングを提供し、このコーティングによって、集光した太陽光の吸収を促進し、かつ容器又は流路から外部への熱輻射による放熱を抑制することが検討されている(非特許文献1)。
【0005】
これに関して、図1に示すように、太陽光のスペクトル(約5500℃の黒体放射温度での熱輻射スペクトル)は、数百nmの波長の可視光領域を中心に拡がっているのに対して、太陽光−熱変換装置で容易に得られる温度である数百℃(例えば約580℃)での熱輻射スペクトルは、数千nmの波長の赤外領域を中心に拡がっている。すなわち、太陽光のスペクトルと太陽光−熱変換装置で得られる温度での熱輻射スペクトルとでは、範囲が互いにずれている。
【0006】
特定の温度での熱輻射の輻射率は、この温度に対応する熱輻射スペクトルの光に対する吸収率に対応している。したがって、数百℃の温度での熱輻射による放熱が小さいことは、数百℃の温度に対応する熱輻射スペクトルの光に対する吸収率、すなわち数千nmの波長の赤外光に対する吸収率が小さいことを意味している。
【0007】
したがって、太陽光に対する吸収率が高く、かつ数百℃の温度での熱輻射による放熱が少ないコーティングは、数百nmの波長の可視光に対しては吸収率が大きく、かつ数千nmの波長の赤外光に対しては吸収率が小さいコーティングであるということができる。このようなコーティングは、集光した太陽光の吸収を促進し、かつ容器又は流路から外部への熱輻射による放熱を抑制するために好ましく用いることができる。
【0008】
非特許文献1は、このようなコーティングのための材料について列挙しており、具体的には、W、MoOでドープされたMo、BドープされたSi、CaF、HfC、ZrB、SnO、In、Eu、ReO、V、LaB等を挙げている。
【0009】
また、このようなコーティングのためには、材料自体の選択だけでなく、コーティングの層構造を最適化することが知られている。
【0010】
具体的には例えば、非特許文献1及び特許文献1に記載のように、屈折率が異なる複数の層を積層し、それによってそれらの層の界面での反射による干渉を用いて、数百nmの波長の可視光に対しては吸収率が高く、かつ数千nmの波長の赤外光に対しては吸収率が低いコーティングを提供することも提案されている。この場合には例えば、非特許文献1では、Mo、Ag、Cu、Niのような金属の層と、Al、SiO、CeO、ZnSのような誘電体の層との積層体を用いることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開WO02/103257
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】July 2002,NREL/TP−520−31267,”Review of Mid− to High−Temperature Solar Selective Absorber Materials”,C.E. Kennedy
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明では、新規な太陽光−熱変換部材を提供する。また、本発明では、このような太陽光−熱変換部材を有する太陽光−熱変換装置及び太陽熱発電装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本件発明者等は、β−FeSi相材料が太陽光−熱変換部材に適していることを見出して、下記の本発明に想到した。
【0015】
〈1〉β−FeSi相材料を含有している、太陽光−熱変換部材。
〈2〉上記β−FeSi相材料が95vol%以上である、上記〈1〉項に記載の太陽光−熱変換部材。
〈3〉上記β−FeSi相材料が粒子状であり、且つ上記β−FeSi相材料の粒子が無機材料のマトリックス中に分散している、上記〈1〉項に記載の太陽光−熱変換部材。
〈4〉膜状である、上記〈1〉〜〈3〉項のいずれか一項に記載の太陽光−熱変換部材。
〈5〉1nm〜10μmの厚さの膜状である、上記〈4〉項に記載の太陽光−熱変換部材。
〈6〉上記〈4〉又は〈5〉項に記載の太陽光−熱変換部材の1又は複数の層と、無機材料の1又は複数の層とが、積層されている、太陽光−熱変換積層体。
〈7〉最外層が、酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、酸炭化物又は酸炭窒化物の層である、上記〈6〉項に記載の太陽光−熱変換積層体。
〈8〉金属層;
酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、酸炭化物又は酸炭窒化物の層;及び
上記太陽光−熱変換部材の層
が、この順序で、基材上に直接に又は他の層を介して積層されている、上記〈6〉又は〈7〉項に記載の太陽光−熱変換積層体。
〈9〉上記金属層がMo層であり、かつ上記酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、酸炭化物又は酸炭窒化物の層がSiO層である、上記〈8〉項に記載の太陽光−熱変換積層体。
〈10〉上記〈4〉又は〈5〉項に記載の太陽光−熱変換部材の層又は上記〈6〉〜〈9〉項のいずれか一項に記載の太陽光−熱変換積層体、
集光部、
熱媒体、並びに
上記熱媒体のための容器及び/又は流路
を有し、
上記容器及び/又は流路の表面に、上記太陽光−熱変換部材の層又は上記太陽光−熱変換積層体がコーティングされており、
上記熱媒体が上記容器及び/又は流路内に収容されており、かつ
上記集光部によって上記容器及び/又は流路に光を集光し、集光した光によって上記容器及び/又は流路内の上記熱媒体を加熱する、
太陽光−熱変換装置。
〈11〉上記熱媒体を300℃〜900℃の温度に加熱する、上記〈10〉項に記載の太陽光−熱変換装置。
〈12〉上記集光部が、パラボリック・ディッシュ型、ソーラータワー型、パラボリック・トラフ型、フレネル型、又はリニアフレネル型である、上記〈10〉又は〈11〉項に記載の太陽光−熱変換装置。
〈13〉上記〈10〉〜〈12〉項のいずれか一項に記載の太陽光−熱変換装置、及び発電機を有し、
上記太陽光−熱変換装置によって、上記容器及び/又は流路内の熱媒体を加熱し、かつ
加熱された上記熱媒体の熱エネルギーを上記発電機で利用して、電力を発生させる、
太陽熱発電装置。
〈14〉基材温度300℃以上での物理気相堆積によって上記β−FeSi相材料を得ることを含む、上記〈1〉〜〈5〉項のいずれか一項に記載の太陽光−熱変換部材の製造方法。
〈15〉FeSi相材料を300℃以上の温度に加熱して、FeSi相からβ−FeSi相への転移を行わせることを含む、上記〈1〉〜〈5〉項のいずれか一項に記載の太陽光−熱変換部材の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の新規な太陽光−熱変換部材は、数百nmの波長の可視光に対しては吸収率が高く、かつ数千nmの波長の赤外光に対しては吸収率が小さく、それによって数百nmの波長の可視光を効率的に吸収して熱に変換し、かつ数百℃の温度での熱輻射による放熱が少ない。したがって、本発明の新規な太陽光−熱変換部材によれば、太陽光を効率的に吸収して熱を得、かつ熱輻射による放熱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、太陽光のスペクトル(約5500℃の黒体放射温度での熱輻射スペクトル)と、太陽光−熱変換装置で容易に得られる温度である約580℃での熱輻射スペクトルとの関係を示す図である。
【図2】図2は、実施例1において基板温度600℃及び室温(24℃)で成膜したMo膜の、(a)透過率及び反射率のスペクトル、並びに(b)吸収率のスペクトルを示す図である。
【図3】図3は、実施例1において基板温度600℃及び室温(24℃)で成膜したFeSi膜の、(a)透過率及び反射率のスペクトル、並びに(b)吸収率のスペクトルを示す図である。
【図4】図4は、実施例1において基板温度600℃及び室温(24℃)で成膜したFeSi膜についてのX線回折分析結果を示す図である。
【図5】図5は、実施例2において計算によって得た、(a)積層体1−1〜1−3の反射率スペクトル、及び(b)積層体1−3及び1−4の反射率スペクトルを示す図である。
【図6】図6は、実施例3で得た積層体の、(a)構成及び(b)反射率スペクトルを示す図である。
【図7】図7は、実施例4で得た積層体の、(a)構成及び(b)断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す図である。
【図8】図8は、(a)太陽光のスペクトルと約580℃での熱輻射スペクトルとの関係、及び(b)実施例4で得た積層体の反射率スペクトルを示す図である。
【図9】図9は、実施例5で得たFeSi−SiO複合材料膜及びMo−SiO複合材料膜についての透過率及び反射率のスペクトルを示す図である。
【図10】図10は、実施例5で得たFeSi−SiO複合材料膜及びMo−SiO複合材料膜についての吸収率のスペクトルを示す図である。
【図11】図11は、実施例6で得た積層体の、(a)構成及び(b)断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す図である。
【図12】図12は、(a)太陽光のスペクトルと約580℃での熱輻射スペクトルとの関係、及び(b)実施例6で得た積層体の反射率スペクトルを示す図である。
【図13】図13は、実施例7で得た積層体の、(a)構成及び(b)断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す図である。
【図14】図14は、(a)太陽光のスペクトルと約580℃での熱輻射スペクトルとの関係、及び(b)実施例7で得た積層体の反射率スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(太陽光−熱変換部材)
本発明の太陽光−熱変換部材は、β−FeSi相材料を含有している。
【0019】
本件発明者らは、β−FeSi相材料の光学特性について、数百nmの波長の可視光に対しては吸収率が大きく、かつ数千nmの波長の赤外光に対しては吸収率が小さいことを明らかにした。したがって、このようなβ−FeSi相材料を含有する本発明の太陽光−熱変換部材によれば、太陽光を効率的に吸収して熱に変換し、かつ熱輻射による放熱を抑制することができる。
【0020】
本発明に関して、β−FeSi相材料は、含有されるFe及びSiの少なくとも一部、特に実質的な部分が、β−FeSi相を構成している材料を意味している。また特に、本発明に関して、β−FeSi相材料は、含有されるFe及びSiが、X線回折分析で分析したときにβ−FeSi相の存在が確認される程度に、β−FeSi相を構成している材料を意味している。
【0021】
〈太陽光−熱変換部材(組成)〉
本発明の太陽光−熱変換部材は、任意の割合で、β−FeSi相材料を含有していてよく、例えば10vol%以上、20vol%以上、30vol%以上、40vol%以上、50vol%以上、60vol%以上、70vol%以上、80vol%以上、90vol%以上、95vol%以上の割合で、β−FeSi相材料を含有していてよい。また、この割合は例えば、100vol%未満、95vol%以下、90vol%以下、80vol%以下、70vol%以下、60vol%以下、50vol%以下、40vol%以下、又は30vol%以下であってよい。
【0022】
本発明の太陽光−熱変換部材は、実質的にβ−FeSi相材料のみからなっていてよく、したがって例えばβ−FeSi相材料が、80vol%以上、90vol%以上、95vol%以上の割合であってよい。
【0023】
また、本発明の太陽光−熱変換部材は、β−FeSi相材料と他の材料との複合材料であってよい。
【0024】
具体的には例えば、本発明の太陽光−熱変換部材では、β−FeSi相材料が粒子状であり、且つこのβ−FeSi相材料の粒子が無機材料のマトリックス中に分散していてよい。
【0025】
この場合には、マトリックスとしての無機材料によって、β−FeSi相材料と他の材料との反応を抑制することができる。また、この場合には、マトリックスとしての無機材料によって、本発明の太陽光−熱変換部材の屈折率等を調節することができる。
【0026】
マトリックスとしての無機材料として使用できる材料としては、β−FeSi相材料の粒子を分散させて保持できる任意の材料を用いることができ、具体的には金属又は半金属の酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、酸炭化物又は酸炭窒化物、例えば酸化ケイ素(SiO)を用いることができる。
【0027】
〈太陽光−熱変換部材(形態)〉
本発明の太陽光−熱変換部材は、主に任意の形態で用いることができ、例えば膜状、筒状、板状の形態で用いることができ、特に膜状の形態で用いることができる。
【0028】
本発明の太陽光−熱変換部材を膜状の形態で用いる場合、その膜厚は、1nm以上、5nm以上、10nm以上、20nm以上、30nm以上であってよい。また、その膜厚は、10μm以下、5μm以下、1μm以下、又は500nm以下であってよい。
【0029】
〈太陽光−熱変換部材(製造方法)〉
本発明の太陽光−熱変換部材は、任意の方法で得ることができる。また、本発明の太陽光−熱変換部材で用いているβ−FeSi相材料自体は公知であり、例えば半導体材料として(特開平10−153704号公報)、また光ディスク、カメラ、レーザープリンタ等の光学機器のための光吸収体の光吸収層として(特開2004−303868号公報)考慮されているので、β−FeSi相材料の製造においてはこれらの分野の技術を参照することができる。
【0030】
本発明の太陽光−熱変換部材のβ−FeSi相材料は例えば、基材温度300℃以上、400℃以上、又は500℃以上での物理気相堆積(PVD)、特にスパッタリングによって得ることができる。ここで、基材温度が比較的高いことは、β−FeSi相を形成するために好ましい。また、基材温度は例えば、1000℃以下、900℃以下、800℃以下、又は700℃以下にすることができる。
【0031】
また、本発明の太陽光−熱変換部材のβ−FeSi相材料は例えば、FeSi相材料、例えば基材上に堆積させた膜状のFeSi相材料を、300℃以上、400℃以上、又は500℃以上の温度に加熱して、FeSi相からβ−FeSi相への転移を行わせることを含む方法によって得ることができる。
【0032】
(太陽光−熱変換積層体)
本発明の太陽光−熱変換積層体は、膜状である本発明の太陽光−熱変換部材の1又は複数の層と、無機材料の1又は複数の層とが、積層されてなる。
【0033】
本発明の太陽光−熱変換部材の層を2以上用いる場合、太陽光−熱変換部材に含有されるβ−FeSi相材料の割合を変更すること、β−FeSi相材料と共に太陽光−熱変換部材に含有される材料を変更することと等によって、太陽光−熱変換部材の層の特性、特に屈折率等の光学的特性を調節することができる。
【0034】
このような本発明の太陽光−熱変換積層体では、太陽光−熱変換積層体を構成する各層の間の干渉を利用して、数百nmの波長の可視光に対する吸収率を更に大きくすることができる。具体的には、干渉を利用して可視光に対する吸収率を大きくするためには、異なる層の表面で反射される光の光路差が、可視光の波長(例えば550nm)のn+1/2倍(両方層の表面の反射で位相が1/2波長ずれる場合、又は両方層の表面の反射で位相がずれない場合)、又は可視光の波長(例えば550nm)のn倍(一方の層の表面の反射でのみ位相が1/2波長ずれる場合)になるようにすることができる(nは0又は正の整数)。
【0035】
なお、この場合、光路差が、赤外光(数千nmの波長)の波長のn+1/2倍又はn倍にならないようにすることによって、赤外光に対しては干渉が起こらないようにすることができる。
【0036】
また、このような本発明の太陽光−熱変換積層体の他の態様では、無機材料の1又は複数の層によって、β−FeSi相材料と他の材料との反応を抑制することができる。
【0037】
無機材料の1又は複数の層のために使用できる無機材料は、意図する用途に応じて任意に選択することができ、具体的には金属又は半金属の酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、酸炭化物又は酸炭窒化物を用いることができる。
【0038】
金属層;酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、酸炭化物又は酸炭窒化物の層;及び太陽光−熱変換部材の層を、この順序で、基材上に直接に又は他の層を介して積層させることによって、金属層とβ−FeSi相材料との間の反応を抑制しつつ、金属層による光の反射、吸収等の光学特性を提供することができる。ここで、この金属層としては、モリブデン(Mo)層、タングステン(W)層、銀(Ag)層、金(Au)層、銅(Cu)層等、特にモリブデン(Mo)層を用いることができる。また、酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、酸炭化物又は酸炭窒化物の層としては、二酸化ケイ素(SiO)層を用いることができる。
【0039】
(太陽光−熱変換装置)
本発明の太陽光−熱変換装置は、本発明の太陽光−熱変換部材の層又は本発明の太陽光−熱変換積層体、集光部、熱媒体、並びに熱媒体のための容器及び/又は流路を有し、この容器及び/又は流路の表面に、太陽光−熱変換積層体がコーティングされており、熱媒体が容器及び/又は流路内に収容されており、かつ集光部によって容器及び/又は流路に太陽光を集光し、集光した太陽光によって容器及び/又は流路内の熱媒体を加熱する。
【0040】
本発明の太陽光−熱変換部材の層又は太陽光−熱変換積層体によれば、太陽光を効率的に吸収して熱に変換し、かつ加熱された容器及び/又は流路からの熱輻射による放熱を抑制することができる。したがって、本発明の太陽光−熱変換装置によれば、太陽光によって効率的に熱媒体を加熱することができる。
【0041】
本発明の太陽光−熱変換装置は、熱媒体を300℃以上、400℃以上、500℃以上に加熱するために用いることができる。また、この熱媒体を加熱温度は、例えば1100℃以下、1000℃以下、900℃以下、800℃以下、又は700℃以下にすることができる。
【0042】
本発明の太陽光−熱変換装置で用いられる集光部は、任意のタイプの集光部であってよく、例えばパラボリック・ディッシュ型、ソーラータワー型、パラボリック・トラフ型、フレネル型、又はリニアフレネル型であってよい。
【0043】
本発明の太陽光−熱変換装置で用いられる容器及び/又は流路は、熱媒体を収容できる任意の容器及び/又は流路であってよく、例えばこの流路としてパイプを用い、その中に熱媒体を流通させることができる。
【0044】
(太陽熱発電装置)
本発明の太陽熱発電装置は、本発明の太陽光−熱変換装置、及び発電機を有し、太陽光−熱変換装置によって、容器及び/又は流路内の熱媒体を加熱し、かつ加熱された熱媒体の熱エネルギーを発電機で利用して、電力を発生させる。
【0045】
本発明の太陽光−熱変換装置によれば、太陽光によって効率的に熱媒体を加熱することができる。したがって、本発明の太陽熱発電装置によれば、太陽熱による発電を効率的に行うことができる。
【0046】
本発明の太陽熱発電装置の発電機において電力を発生させるためには、任意の機構を用いることができる。したがって、例えば加熱された熱媒体によって水、アンモニアのような蒸発媒体を蒸発させ、その蒸気で、発電機の蒸気タービンを回転させることによって、電力を発生させることができる。
【実施例】
【0047】
実施例1〜4においては、実質的にβ−FeSi相材料からなるβ−FeSi単相膜、及びこの単相膜を有する積層体について、実質的にMoからなるMo単相膜、及びこの単相膜を有する積層体と比較して評価した。また実施例5〜7においては、β−FeSi相材料及びSiOを含有するβ−FeSi−SiO複合材料膜、及びこの複合材料膜を有する積層体について、Mo及びSiOを含有するMo−SiO複合材料膜、及びこの複合材料膜を有する積層体と比較して評価した。
【0048】
〈実施例1〉Mo膜及びFeSi膜の光学特性の検証
Mo膜及びFeSi膜をそれぞれスパッタリング法により成膜し、これらの膜の透過率、反射率及び吸収率のスペクトルを評価した。具体的には、Mo膜及びFeSi膜の成膜、及び評価は下記のようにして行った。
【0049】
(Mo膜及びFeSi膜の成膜)
石英ガラス(縦30mm×横20mm×厚さ1mm)を基板として用い、基板温度を600℃又は室温(24℃)に設定した。スパッタリング時の雰囲気は、Ar雰囲気(流量20sccm、圧力0.4Pa)とした。ターゲットにはそれぞれ、金属Mo及びβ−FeSiを使用した。また、直流(DC)電源を用いて、スパッタ電力50Wでプラズマを生成させた。成膜時間はそれぞれ30分間とした。
【0050】
得られた膜厚は、Mo膜では約160nmであり、FeSi膜では約90nmであった。
【0051】
(評価)
基板温度600℃及び室温(24℃)で成膜したMo膜及びFeSi膜の透過率、反射率及び吸収率のスペクトルを評価した。Mo膜についての評価結果を図2に示しており、またFeSi膜についての評価結果を図3に示している。
【0052】
なお、図2(b)及び図3(b)の吸収率についてのグラフは、図2(a)及び図3(a)の透過率及び反射率のグラフから、下記の関係に基づいて求めている:
(吸収率(%))=100%−(透過率(%))−(反射率(%))
【0053】
図2及び3から明らかなように、室温成膜の場合、Mo膜とFeSi膜との間で透過率、反射率及び吸収率について大きな差がなかった。
【0054】
これに対して、図2及び3から明らかなように、600℃成膜の場合、Mo膜とFeSi膜との間で透過率、反射率及び吸収率について大きな差があった。
【0055】
具体的には、600℃成膜の場合、FeSi膜の吸収率スペクトルは、可視光付近では高い吸収率を示す一方で、1200nm付近で急激に吸収率が低下して、近赤外域ではかなり低い吸収率を示している。すなわち、600℃成膜の場合のFeSi膜は、数百nmの波長の可視光を効率的に吸収して熱に変換し、かつ数百℃の温度での熱輻射による放熱が少ないことが理解される。
【0056】
600℃及び室温にて成膜されたFeSiの膜についてのX線回折分析(薄膜法(θ=1.5°))結果を図4に示している。この図4からは、600℃で成膜したFeSiの膜がβ相のFeSi膜であること、及び室温(24℃)で成膜したFeSiの膜がアモルファスのFeSi膜であることが理解される。
【0057】
したがって、これらの結果からは、アモルファスのFeSi膜ではなく、β−FeSi膜が、太陽光−熱変換に関して好ましい特性を有すること、及び高温でのスパッタリングによってβ−FeSi膜が得られることが理解される。
【0058】
〈実施例2〉FeSi層を有する積層体の光学特性の検証
下記の積層体1−1〜1−4について、各層の光学定数に基づいて、反射率スペクトルを計算によって求めた。
【0059】
【表1】

【0060】
計算によって得られた積層体1−1〜1−3の反射率スペクトルを図5(a)に示す。また、計算によって得られた積層体1−3及び1−4の反射率スペクトルを図5(b)に示す。
【0061】
図5(a)からは、光吸収層としてMo層を用いる積層体1−1及び1−2(比較例)と比較して、光吸収層としてβ−FeSi層を用いる積層体1−3(本発明)は、数百nmの波長の可視光〜近赤外領域において、反射率が小さく、かつ1100nm付近で急激に反射率が増加して、数千nmの波長の赤外領域において反射率が大きくなっていることが分かる。
【0062】
ここで、不透明材料、すなわち透過率が0%である材料については、吸収率と反射率とが下記の関係を有することから、図5において反射率が大きいことは吸収率が小さいことを意味しており、また反射率が小さいことは吸収率が大きいことを意味している:
(吸収率(%))=100%−(反射率(%))
【0063】
したがって、図5(a)からは、光吸収層としてMo層を用いる積層体1−1及び1−2(比較例)と比較して、光吸収層としてβ−FeSi層を用いる積層体1−3(本発明)は、数百nmの波長の可視光〜近赤外領域において、吸収率が大きく、かつ1100nm付近で急激に吸収率が低下して、数千nmの波長の赤外領域において吸収率が小さくなっていることが分かる。すなわち、この図5からは、光吸収層としてβ−FeSi層を用いる積層体1−3(本発明)は、可視光を効率的に吸収して熱に変換し、かつ数百℃の温度での熱輻射による放熱が少ないことが理解される。
【0064】
なお、図5(b)は、光吸収層として1つのβ−FeSi層を用いる積層体1−3(本発明)、及び光吸収層として2つのβ−FeSi層を用いる積層体1−4(本発明)についての反射率スペクトルを表している。この図5(b)からは、吸収層として2つのβ−FeSi層を用いることによって、吸収率が急激に低下する波長を1100nm付近から1500nm付近にシフトさせることが可能であることが分かった。このように吸収率が急激に低下する波長を1500nm付近にシフトさせると、近赤外領域の吸収率を大きくすることができ、それによって太陽光の吸収率を更に高めることが可能になる。
【0065】
〈実施例3〉Mo膜上に直接にFeSi膜が積膜された構成の問題点
下記のようにして、基材上にMo膜が直接に積層されており、このMo膜状にFeSi膜が直接に積層されている積層体を得た。すなわち、図6(a)に示すような構成を有する積層体を得た。
【0066】
(積層体の製造)
石英ガラス(縦30mm×横20mm×厚さ1mm)を基板として用い、基板温度を600℃に設定した。スパッタリング時の雰囲気は、Ar雰囲気(流量20sccm、圧力0.4Pa)とした。
【0067】
Moターゲット及び直流(DC)電源を用いて、スパッタ電力50Wでプラズマを生成させた。Mo膜の膜厚を約100nmとするために、成膜時間は19分間とした。
【0068】
その後、β−FeSiターゲット及び直流(DC)電源を用いて、スパッタ電力50Wでプラズマを生成させた。Mo膜上のβ−FeSi膜の膜厚を約30nmとするために、成膜時間は10分間とした。
【0069】
(評価)
上記のようにして得た積層体、すなわち図6(a)に示す構成を有する積層体の反射率スペクトルを測定し、図6(b)に「実測値」として示している。
【0070】
また、この反射率スペクトルの実測値と併せて、FeSi膜とMo膜との間で反応が生じていないとした場合の積層体(FeSi:30nm、Mo:100nm)、及びFeSi膜とMo膜とが部分的に反応してMoSi膜を生じているとした場合の積層体(FeSi:15nm、MoSi:40nm、及びMo:80nm)について、反射率スペクトルの計算値を図6(b)に示している。
【0071】
図6(b)からは、反射率スペクトルの実測値は、FeSi膜とMo膜との間で反応が生じていないとした場合の積層体(FeSi:30nm、Mo:100nm)についての反射率スペクトルの計算値よりも、FeSi膜とMo膜とが部分的に反応してMoSi膜を生じているとした場合の積層体(FeSi:15nm、MoSi:40nm、及びMo:80nm)についての反射率スペクトルの計算値に近いことが理解される。すなわち、図6(b)からは、Mo膜上にFeSi膜を直接に積層させる場合には、FeSi膜とMo膜とが部分的に反応してMoSi膜を生じていることが理解される。
【0072】
したがって、この結果からは、Mo膜とFeSi膜との間にこれらの膜の間の反応を抑制する材料のバリア膜、例えばSiO層などの無機材料膜を提供することが好ましいことが理解される。
【0073】
〈実施例4〉FeSi膜及びMo膜を有する積層体の光学特性の検証
図7(a)で示す構成を有する積層体をスパッタリング法により成膜し、この膜の反射率スペクトルを評価した。具体的には、FeSi膜及びMo膜を有する積層体の成膜、及び評価は下記のようにして行った。
【0074】
(Moの膜及びFeSiの膜の成膜)
石英ガラス(縦30mm×横20mm×厚さ1mm)を基板として用い、基板温度を600℃に設定した。スパッタリング時の雰囲気は、Ar雰囲気(流量20sccm、圧力0.4Pa)とした。
【0075】
Mo膜の成膜では、Moターゲット及び直流(DC)電源を用いて、スパッタ電力50Wでプラズマを生成させた。SiO膜の成膜では、SiOターゲット及び高周波電流(RF)電源を用いて、スパッタ電力200Wでプラズマを生成させた。FeSi膜の成膜では、β−FeSiターゲット及び直流(DC)電源を用いて、スパッタ電力50Wでプラズマを生成させた。成膜時間は、図7及び下記の表2で示す各層の厚さが得られるように調節した。
【0076】
【表2】

【0077】
得られた積層体の断面構造を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した結果、各層の膜厚は設定した値に近く、かつ各層が平坦な表面を有していることが確認された。
【0078】
(評価)
得られた積層体の反射率スペクトルを評価した。評価結果を、太陽光及び580℃での熱輻射スペクトルと併せて図8に示している。
【0079】
図8で示されているように、この積層体では、波長300〜1400nmの可視光〜近赤外領域では反射率が10%以下と低い。またこの積層体では、1400nmを超える長波長側では反射率が急峻に立ち上がり、それによって波長3000nm以上では90%以上の反射率を有している。なお、これらの波長範囲では、積層体の透過率はほぼゼロであるので、吸収率は下記の式で表すことができる:
(吸収率(%))=100%−(反射率(%))
【0080】
したがって、図8からは、この積層体が、可視光〜近赤外領域では吸収率が高く、かつ数百℃(例えば580℃)の温度での熱輻射に対応する長波長領域では、吸収率が低いことが理解される。数百℃の温度での熱輻射に対応する長波長領域において吸収率が低いことは、この温度での輻射率が小さいことを意味している。すなわち、図8からは、この積層体が、数百nmの波長の可視光を効率的に吸収して熱に変換し、かつ数百℃の温度において熱輻射による放熱が少ないことが理解される。
【0081】
図8に示す反射率スペクトルから、太陽光の吸収性能を示す吸収率αを求めると、89.6%となり、また輻射熱としての損失性能を示す放射率ε(580℃)を求めると6.62%になった。また、このα及びεより、580℃における光−熱変換効率ηを算出すると、80.0%となった。
【0082】
なお、本発明に関して、太陽光の吸収性能を示す吸収率α、輻射熱としての損失性能を示す放射率ε(580℃)、及び光−熱変換効率ηは下記のようなものである。
【0083】
(太陽光の吸収性能を示す吸収率α)
吸収率αは、JIS R3106に定義されている日射吸収率を意味し、分光吸収率α(λ)に対して太陽光スペクトル分布に基づく重価係数Eλ・λΔを乗じた加重平均として、次式により求めた。
【0084】
【数1】

α(λ): 分光吸収率
Eλ: 直達日射相対値の標準スペクトル分布
Eλ・λΔ: 重価係数(JIS R3106)
【0085】
(輻射熱としての損失性能を示す放射率ε(580℃))
放射率ε(580℃)は、分光吸収率α(λ)に対してプランクの式に基づく580℃での輻射スペクトルB580℃(λ)を乗じた加重平均として、次式により求めた。
【0086】
【数2】

α(λ): 分光吸収率
c: 光速
h: プランク定数
k: ボルツマン定数
T: 絶対温度(580℃=853K)
【0087】
(光−熱変換効率η)
上記により求めた吸収率α及び放射率εをもとに、特許文献1にて定義されている次式により光−熱変換効率ηを求めた。
【0088】
【数3】

σ: ステファン−ボルツマン定数
T: 絶対温度
C: 集光度
I: 太陽光強度(AM1.5)
【0089】
〈実施例5〉FeSi−SiO複合材料膜の光学特性の検証
マトリックスとしてのSiO中にFeSiが分散しているFeSi−SiO複合材料膜(サーセミ膜(Ceramic+Semiconductor=Cersemi))、及びマトリックスとしてのSiO中にMoが分散しているMo−SiO複合材料膜(サーメット膜(Ceramic+Metal=Cermet))をそれぞれスパッタリング法により成膜し、これらの膜の透過率、反射率及び吸収率のスペクトルを評価した。具体的には、これらの複合材料膜の成膜、及び評価は下記のようにして行った。
【0090】
(FeSi−SiO複合材料膜の成膜及び評価)
石英ガラス(縦30mm×横20mm×厚さ1mm)を基板として用い、基板温度を600℃に設定した。スパッタリング時の雰囲気は、Ar雰囲気(流量20sccm、圧力0.4Pa)とした。
【0091】
ターゲットとしては、β−FeSiターゲット及びSiOターゲットを用いた。β−FeSiターゲットには、直流(DC)電源を用いて、スパッタ電力50Wでプラズマを生成させた。また、SiOターゲットには、高周波電流(RF)電源を用いて、スパッタ電力100Wでプラズマを生成させた。
【0092】
FeSi−SiO複合材料膜の膜厚を約100nmにするために、成膜時間は20分間とした。
【0093】
X線光電子分光(XPS)分析の結果、FeSi−SiO複合材料膜中のFeSiの割合は61vol%であった。なお、FeSi−SiO複合材料膜中のFeSiナノ粒子は、マトリックスであるSiOのケイ素とは反応しておらず、また酸化もされておらず、したがってFeSiの状態を維持していた。
【0094】
得られたFeSi−SiO複合材料膜についての透過率及び反射率のスペクトルを図9(a)に示す。また、この複合材料膜についての吸収率スペクトルを図10に示す。なお、図10の吸収率スペクトルは、図9(a)の透過率及び反射率のスペクトルから、下記の関係に基づいて求めている:
(吸収率(%))=100%−(透過率(%))−(反射率(%))
【0095】
(Mo−SiO複合材料膜の成膜及び評価)
石英ガラス(縦30mm×横20mm×厚さ1mm)を基板として用い、基板温度を600℃に設定した。スパッタリング時の雰囲気は、Ar雰囲気(流量20sccm、圧力0.4Pa)とした。
【0096】
ターゲットとしては、Moターゲット及びSiOターゲットを用いた。Moターゲットには、直流(DC)電源を用いて、スパッタ電力20Wでプラズマを生成させた。また、SiOターゲットには、高周波電流(RF)電源を用いて、スパッタ電力200Wでプラズマを生成させた。
【0097】
Mo−SiO複合材料膜の膜厚を約80nmとするために、成膜時間は18分間とした。
【0098】
また、X線光電子分光(XPS)分析の結果、Mo−SiO複合材料膜中のMoの割合は54vol%であった。なお、Mo−SiO複合材料膜中のMoナノ粒子は、成膜過程においてマトリックスであるSiOのケイ素と反応して、部分的にシリサイド化していた。
【0099】
得られたMo−SiO複合材料膜についての透過率及び反射率のスペクトルを図9(b)に示す。また、この複合材料膜についての吸収率スペクトルを図10に示す。なお、図10の吸収率スペクトルは、図9(b)の透過率及び反射率のスペクトルから、下記の関係に基づいて求めている:
(吸収率(%))=100%−(透過率(%))−(反射率(%))
【0100】
(評価結果についての検討)
図10に示す吸収率スペクトルから、FeSi−SiO複合材料膜では、Mo−SiO複合材料膜と比較して、可視光付近の吸収率が高く、かつ近赤外領域での吸収率の変化が急激であることが分かる。また、FeSi−SiO複合材料膜では、Mo−SiO複合材料膜と比較して、膜厚が若干厚いにも関わらず、長波長領域での吸収率が低いことが理解される。これは、FeSi−SiO複合材料膜が、Mo−SiO複合材料膜と比較して、可視光を効率的に吸収して熱に変換し、かつ数百℃の温度での熱輻射による放熱が少ないことを意味している。
【0101】
なお、FeSi−SiO複合材料膜中のFeSiの割合は、FeSiターゲット及びSiOターゲットに供給する電力によって制御できる。例えば、SiOターゲットに高周波(RF)電力200Wを供給しつつ、FeSiターゲットに供給する直流(DC)電力を、10W、30W、及び50Wと変えることによって、FeSi−SiO複合材料膜中のFeSiの割合を、8vol%、31vol%、及び46vol%に制御することができた。
【0102】
〈実施例6〉FeSi−SiO複合材料膜を有する積層体の光学特性の検証(1)
図11で示す積層体をスパッタリング法により成膜し、この膜の吸収率のスペクトルを評価した。具体的には、積層体の成膜、及び評価は下記のようにして行った。
【0103】
(積層体の成膜)
石英ガラス(縦30mm×横20mm×厚さ1mm)を基板として用い、基板温度を600℃に設定した。スパッタリング時の雰囲気は、Ar雰囲気(流量20sccm、圧力0.4Pa)とした。
【0104】
Mo膜の成膜では、Moターゲット及び直流(DC)電源を用いて、スパッタ電力50Wでプラズマを生成させた。Mo膜の膜厚を約100nmとするために、成膜時間は20分間とした。
【0105】
基材側のFeSi−SiO複合材料膜(FeSi:61vol%)の成膜では、β−FeSiターゲット及びSiOターゲットを用いた。β−FeSiターゲットには、直流(DC)電源を用いて、スパッタ電力50Wでプラズマを生成させた。また、SiOターゲットには、高周波電流(RF)電源を用いて、スパッタ電力100Wでプラズマを生成させた。FeSi−SiO複合材料膜の膜厚を約50nmにするために、成膜時間は11分間とした。
【0106】
FeSi−SiO複合材料膜中のFeSiの割合は61vol%であった。
【0107】
外側のFeSi−SiO複合材料膜(FeSi:8vol%)の成膜では、β−FeSiターゲット及びSiOターゲットを用いた。β−FeSiターゲットには、直流(DC)電源を用いて、スパッタ電力10Wでプラズマを生成させた。また、SiOターゲットには、高周波電流(RF)電源を用いて、スパッタ電力200Wでプラズマを生成させた。FeSi−SiO複合材料膜の膜厚を約45nmとするために、成膜時間を19分間とした。
【0108】
FeSi−SiO複合材料膜中のFeSiの割合は8vol%であった。
【0109】
最表面のSiO膜の成膜では、SiOターゲットを用いた。SiOターゲットには、高周波電流(RF)電源を用いて、スパッタ電力200Wでプラズマを生成させた。SiO膜の膜厚を約45nmとするために、成膜時間は55分間とした。
【0110】
得られた積層体の断面構造を走査型電子顕微鏡によって観察した結果、図11(b)で示すように、各層の膜厚は設定した値に近く、かつ各層が平坦な表面を有していることが確認された。
【0111】
(評価)
得られた積層体の反射率スペクトルを評価した。評価結果を図12に示している。
【0112】
図12で示されているように、この積層体では、波長1300nm以下の可視光〜近赤外領域では反射率が約10%以下と低い。またこの積層体では、それよりも長波長側では反射率が急峻に立ち上がり、それによって波長3000nm以上では90%以上の反射率を有している。
【0113】
図12に示す反射率スペクトルによれば、太陽光の吸収性能を示す吸収率αは91.5%、輻射熱としての損失性能を示す放射率ε(580℃)は7.26%、580℃における光−熱変換効率ηは80.6%であった。この光−熱変換効率ηは、実施例4の積層体での値よりも大きかった。
【0114】
〈実施例7〉FeSi−SiO複合材料膜を有する積層体の光学特性の検証(2)
図13で示す積層体をスパッタリング法により成膜し、この膜の光吸収率スペクトルを評価した。具体的には、積層体の成膜、及び評価は下記のようにして行った。
【0115】
(積層体の成膜)
石英ガラス(縦30mm×横20mm×厚さ1mm)を基板として用い、基板温度を600℃に設定した。スパッタリング時の雰囲気は、Ar雰囲気(流量20sccm、圧力0.4Pa)とした。
【0116】
Mo膜の成膜では、Moターゲット及び直流(DC)電源を用いて、スパッタ電力50Wでプラズマを生成させた。Mo膜の膜厚を約100nmとするために、成膜時間は20分間とした。
【0117】
基材側のFeSi−SiO複合材料膜(FeSi:54vol%)の成膜では、β−FeSiターゲット及びSiOターゲットを用いた。β−FeSiターゲットには、直流(DC)電源を用いて、スパッタ電力50Wでプラズマを生成させた。また、SiOターゲットには、高周波電流(RF)電源を用いて、スパッタ電力90Wでプラズマを生成させた。FeSi−SiO複合材料膜の膜厚を約55nmとするために、成膜時間は12分間とした。
【0118】
FeSi−SiO複合材料膜中のFeSiの割合は54vol%であった。
【0119】
外側のFeSi−SiO複合材料膜(FeSi:10vol%)の成膜では、β−FeSiターゲット及びSiOターゲットを用いた。β−FeSiターゲットには、直流(DC)電源を用いて、スパッタ電力10Wでプラズマを生成させた。また、SiOターゲットには、高周波電流(RF)電源を用いて、スパッタ電力200Wでプラズマを生成させた。FeSi−SiO複合材料膜の膜厚を約55nmとするために、成膜時間は21分間とした。
【0120】
FeSi−SiO複合材料膜中のFeSiの割合は10vol%であった。
【0121】
最表面のSiO膜の成膜では、SiOターゲットを用いた。SiOターゲットには、高周波電流(RF)電源を用いて、スパッタ電力200Wでプラズマを生成させた。SiO膜の膜厚を約12nmとするために、成膜時間は15分間とした。
【0122】
なお、この実施例では、SiOターゲットの厚さが実施例6と異なっており、それによってSiOの成膜速度が大きくなっていた。
【0123】
得られた積層体に対して、真空中(圧力5Pa以下)において、750℃で1時間にわたって熱処理を行った。
【0124】
熱処理の前後の積層体の断面構造を走査型電子顕微鏡によって観察した結果、図13(b)で示すように、各層が平坦な表面を有していることが確認された。ただし、ただし、基材側及び外側のFeSi−SiO複合材料膜の厚さはいずれも、熱処理によって、約55nmから約50nmに減少していた。また、FeSi−SiO複合材料膜では、FeSi粒子が結晶成長して粒子径が大きくなっていた。このFeSi−SiO複合材料膜の厚さの減少は、FeSi粒子が結晶成長したことに伴うものであると考えられる。なお、最表面のSiO膜の厚さはわずかに増加していた。
【0125】
(評価)
熱処理の前後の積層体の反射率スペクトルを評価した。評価結果を図14に示している。
【0126】
図14で示されているように、この積層体では、熱処理によって、波長約1300nmでの反射率の増加がさらに急激になっている。
【0127】
図14に示す反射率スペクトルによれば、太陽光の吸収性能を示す吸収率αは、熱処理前が90.6%であり、熱処理後が91.2%であった。輻射熱としての損失性能を示す放射率ε(580℃)は、熱処理前が7.38%であり、熱処理後が6.46%であった。光−熱変換効率ηは、熱処理前が79.7%であり、熱処理後が81.7%であった。すなわち、熱処理によって光−熱変換効率ηが改良された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−FeSi相材料を含有している、太陽光−熱変換部材。
【請求項2】
前記β−FeSi相材料が95vol%以上である、請求項1に記載の太陽光−熱変換部材。
【請求項3】
前記β−FeSi相材料が粒子状であり、且つ前記β−FeSi相材料の粒子が無機材料のマトリックス中に分散している、請求項1に記載の太陽光−熱変換部材。
【請求項4】
膜状である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の太陽光−熱変換部材。
【請求項5】
1nm〜10μmの厚さの膜状である、請求項4に記載の太陽光−熱変換部材。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の太陽光−熱変換部材の1又は複数の層と、無機材料の1又は複数の層とが、積層されている、太陽光−熱変換積層体。
【請求項7】
最外層が、酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、酸炭化物又は酸炭窒化物の層である、請求項6に記載の太陽光−熱変換積層体。
【請求項8】
金属層;
酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、酸炭化物又は酸炭窒化物の層;及び
前記太陽光−熱変換部材の層
が、この順序で、基材上に直接に又は他の層を介して積層されている、請求項6又は7に記載の太陽光−熱変換積層体。
【請求項9】
前記金属層がMo層であり、かつ前記酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、酸炭化物又は酸炭窒化物の層がSiO層である、請求項8に記載の太陽光−熱変換積層体。
【請求項10】
請求項4又は5に記載の太陽光−熱変換部材の層又は請求項6〜9のいずれか一項に記載の太陽光−熱変換積層体、
集光部、
熱媒体、並びに
前記熱媒体のための容器及び/又は流路
を有し、
前記容器及び/又は流路の表面に、前記太陽光−熱変換部材の層又は前記太陽光−熱変換積層体がコーティングされており、
前記熱媒体が前記容器及び/又は流路内に収容されており、かつ
前記集光部によって前記容器及び/又は流路に光を集光し、集光した光によって前記容器及び/又は流路内の前記熱媒体を加熱する、
太陽光−熱変換装置。
【請求項11】
前記熱媒体を300℃〜900℃の温度に加熱する、請求項10に記載の太陽光−熱変換装置。
【請求項12】
前記集光部が、パラボリック・ディッシュ型、ソーラータワー型、パラボリック・トラフ型、フレネル型、又はリニアフレネル型である、請求項10又は11に記載の太陽光−熱変換装置。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか一項に記載の太陽光−熱変換装置、及び発電機を有し、
前記太陽光−熱変換装置によって、前記容器及び/又は流路内の熱媒体を加熱し、かつ
加熱された前記熱媒体の熱エネルギーを前記発電機で利用して、電力を発生させる、
太陽熱発電装置。
【請求項14】
基材温度300℃以上での物理気相堆積によって前記β−FeSi相材料を得ることを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の太陽光−熱変換部材の製造方法。
【請求項15】
FeSi相材料を300℃以上の温度に加熱して、FeSi相からβ−FeSi相への転移を行わせることを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の太陽光−熱変換部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【図7】
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【図11】
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【図13】
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