説明

太陽光選択吸収膜形成用シート、太陽光選択吸収膜の製造方法、および、ソーラーシステムの製造方法

【課題】比較的大型の太陽光集熱管(内管等)の表面に、均一な太陽光選択吸収膜を簡便な方法により低コストで形成すること。
【解決手段】本発明は、可撓性を有する剥離可能な基材フィルムと、上記基材フィルム上に配置された複数の略球状の微小粒子と、上記微小粒子の上記基材フィルムとは反対側の少なくとも一部の表面に形成された金属膜とを備え、上記微小粒子は、可視光および近赤外光の波長に対して透明な材料からなり、上記微小粒子は、その屈折率が上記金属膜の屈折率より小さく、かつ上記微小粒子の屈折率と粒径の積が可視光および近赤外光領域における特定の波長と実質的に等しくなるようにしたことを特徴とする、太陽光選択吸収膜形成用シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光を集光して熱として利用するための太陽光選択吸収膜形成用シート、太陽光選択吸収膜の製造方法、および、ソーラーシステムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を効率よく熱エネルギーに変換するデバイスとして、2重円筒型などの太陽光集熱管が用いられている。この太陽光集熱管は、外側の円筒が、ガラスなどの太陽光を透過する構造材で構成され、内側の円筒が、太陽光を吸収して内部を流動する媒体と熱交換を行うための表面コートされたスチール管や銅管で構成されている。また、両円筒の間隙は真空状態であり、内筒が高温になっても伝熱・対流による熱損失が小さくなるように設計されている。さらに、太陽光を効率よく吸収し、輻射損失をなるべく小さくするために、内筒の表面には太陽光選択吸収膜が形成されている。
【0003】
従来、太陽光選択吸収膜としては、太陽光の吸収効率を高めるために、金属表面にたとえば黒クロム(酸化クロム)めっきを施したものが用いられていた。しかしながら、黒クロムは、太陽光の吸収率は高くなるものの、赤外光の反射率が高くないことから、輻射光の放射が多くなってしまうという問題を有している。また、黒クロムは、高温(>300℃)での耐久性に劣るので高温下での使用には適さない。
【0004】
そこで、特許文献1(特開2003−332607号公報)には、タングステンなどからなる耐熱性基板の表面に、可視光および近赤外光の波長領域での特定波長太陽光の波長と実質的に同じ周期構造を有する表面微細凹凸パターンを形成してなる太陽光選択吸収膜(波長選択性太陽光吸収材料)が開示されている。ここで、表面微細凹凸パターンを構成する多数のキャビティは、可視光および近赤外光の波長領域での特定波長太陽光の波長と実質的に同じ長さの開口径および所定の深さに形成され、かつ所定のスペクトル拡散反射率、所定のスペクトル吸収率、所定のスペクトル放射率を備えている。このため、特許文献1の太陽光選択吸収膜は、表面微細凹凸パターンにおいて光を共振させることにより、高い太陽光吸収率および低い赤外光放射率を示す。また、基板材料が高温耐久性に優れたタングステンなどであることから、熱安定性に優れ、高温での長期間の使用に耐えることのできる高効率の太陽光選択吸収膜が提供される。
【0005】
特許文献1では、表面微細凹凸パターンの形成方法として、耐熱性基板の表面にマスクパターンを形成してドライエッチングする方法が開示されている。また、上記マスクパターンとしては、多孔アルミナ膜マスクとEBリソグラフィー法によるレジストマスクとが例示されている。しかし、ドライエッチングを用いる方法では、エッチング速度や面内均一性などの点で制御が難しく、大面積化には不向きであると考えられる。また、レジストマスクのパターンサイズはサブミクロンオーダーであるため、大面積化が難しいことは容易に想像できる。また、一般にサブミクロンサイズのパターニングが可能な露光設備は高価であるため、製造コストも高くなる。
【0006】
他の従来の太陽光選択吸収膜の形成方法として、例えば、特許文献2(特開昭59−56661号公報)には、集熱管の内筒表面に、無電解めっき法により吸収層となる金属層を形成した後、太陽光の反射を抑制するための整合層となる誘電体層を塗布法により形成する方法が開示されている。このような手法では、集熱管の内筒の形状に関わらず一様な太陽光選択吸収膜の形成が可能であるが、サブミクロンオーダーの膜厚制御が難しく、膜の表面粗さが大きいという問題があり、また、集熱管の内筒を構成する材料が、めっき法で金属層を形成することのできる材料に限定されるという制約があった。
【0007】
また、特許文献3(特開昭57−16756号公報)には、スパッタリング法により、集熱管の内筒(太陽熱コレクターの集熱板)の表面に一様に、モリブデン薄膜およびモリブデンと炭素の固溶体から成る薄膜の積層体からなる太陽光選択吸収膜を製造する方法が開示されている。しかし、大型の円筒状基材にスパッタ膜を形成する場合、膜厚を均一にするために、基材のサイズと同等の大型のターゲットまたは複数個のターゲットを並べる必要があり、コストが高くなってしまう。また、均一に太陽光選択吸収膜を形成できるエリアは装置およびターゲットサイズに依存するために、大型の基材に対して均一に太陽光選択吸収膜を形成することが難しいという問題もある。
【0008】
このように、エネルギー密度の低い太陽光をエネルギー源として利用するためには、平方メートルオーダーの表面積を有する集熱管の内筒が必要であり、その表面を覆う平方メートルオーダーのサイズの太陽光選択吸収膜が必要となる。しかし、従来は、スパッタ、蒸着法、めっき、陽極酸化法などを用いて、基板(スチール、銅、アルミなどから構成される太陽光集熱管の内管の表面上に、直接、太陽光選択吸収膜を形成しており、大型の太陽光集熱管の内管表面に均一な太陽光選択吸収膜を安価に製造できる方法は知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−332607号公報
【特許文献2】特開昭59−56661号公報
【特許文献3】特開昭57−16756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、比較的大型の太陽光集熱管(内管等)の表面に、均一な太陽光選択吸収膜を簡便な方法により低コストで形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、可撓性を有する剥離可能な基材フィルムと、
上記基材フィルム上に配置された複数の略球状の微小粒子と、
上記微小粒子の上記基材フィルムとは反対側の少なくとも一部の表面に形成された金属膜とを備え、
上記微小粒子は、可視光および近赤外光の波長に対して透明な材料からなり、
上記微小粒子は、その屈折率が上記金属膜の屈折率より小さく、かつ上記微小粒子の屈折率と粒径の積が可視光および近赤外光領域における特定の波長と実質的に等しくなるようにしたことを特徴とする太陽光選択吸収膜形成用シートである。
【0012】
さらに、前記金属膜の前記微小粒子とは反対側に貼付された可撓性および粘着性を有する粘着剤を備えることが好ましい。
【0013】
上記微小粒子は、シリカからなることが好ましい。また、上記金属膜は、タングステンまたはモリブデンからなることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、上記太陽光選択吸収膜形成用シートを太陽光集熱管に貼付する工程と、
上記太陽光集熱管に貼付された上記太陽光選択吸収膜形成用シートから上記基材フィルムを剥離する工程と、
を含むことを特徴とする、太陽光選択吸収膜の製造方法にも関する。
【0015】
また、本発明は、太陽光集熱管および太陽光選択吸収膜を備えたソーラーシステムの製造方法であって、
上記太陽光選択吸収膜の製造方法によって上記太陽光選択吸収膜を製造する工程を含むことを特徴とする、ソーラーシステムの製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、剥離可能な基材フィルム上に太陽光選択吸収膜を形成した後、該太陽光選択吸収膜を太陽光集熱管の内筒などの基板に転写することにより、比較的大型の太陽光集熱管(内管等)の表面に、均一な太陽光選択吸収膜を簡便な方法により低コストで形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の太陽光選択吸収膜の製造工程を示す模式図である。
【図2】本発明の太陽光選択吸収膜の製造工程を示す模式図である。
【図3】本発明の太陽光選択吸収膜の製造工程を示す模式図である。
【図4】本発明の太陽光選択吸収膜の製造工程を示す模式図である。
【図5】本発明の太陽光選択吸収膜の製造工程を示す模式図である。
【図6】本発明の太陽光選択吸収膜の製造工程を示す模式図である。
【図7】本発明の太陽光選択吸収膜の製造工程を示す模式図である。
【図8】本発明の太陽光選択吸収膜の製造工程を示す模式図である。
【図9】本発明の太陽光選択吸収膜の製造工程を示す模式図である。
【図10】太陽光および黒体輻射のエネルギー分布を示す図である。
【図11】光学反射率の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<太陽光選択吸収膜形成用シート>
本発明の太陽光選択吸収膜形成用シートは、可撓性を有する剥離可能な基材フィルムと、
上記基材フィルム上に配置された複数の略球状の微小粒子と、
上記微小粒子の上記基材フィルムとは反対側の少なくとも一部の表面に形成された金属膜と、
上記金属膜の上記微小粒子とは反対側に貼付された可撓性および粘着性を有する粘着剤とを備える。
【0019】
(基材フィルム)
可撓性を有する剥離可能な基材フィルムは、微小粒子等の太陽光選択吸収膜形成用シートの他の構成部材から剥離できるものである。基材フィルムの少なくとも微小粒子が設置される側の表面は、剥離可能な程度の弱い接着力で、微小粒子を接着させることのできるような材料からなることが好ましい。かかる材料としては、例えば、耐熱性樹脂フィルム、金属フィルム、ガラスフィルムが挙げられる。耐熱性樹脂フィルムとしては、ポリイミドフィルム、ポリカーボネートなどが挙げられ、好ましくは、耐熱性と柔軟性に優れたポリイミドフィルムである。
【0020】
なお、従来は、一様な金属膜を基材フィルム上に直接形成した場合、基材フィルムと金属膜との接着力が大きいため、基材フィルムを容易に剥離することができなかったが、基材フィルム上にシリカ粒子など微小粒子を介して太陽光選択吸収膜の構成部材が積層されているため、これらと基材フィルムとの接着力が比較的小さくなり、基材フィルムの剥離を容易に行うことができる。
【0021】
(微小粒子)
基材フィルム上に配置される複数の略球状の微小粒子は、可視光および近赤外光の波長に対して透明な材料からなる。また、高温度領域まで使用可能な太陽光選択吸収膜を得るために、耐熱性に優れた材料であることが好ましい。かかる材料としては、例えば、シリカ(酸化ケイ素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、チタニア(酸化チタン)が挙げられ、入手のし易さ等からシリカが好ましい。これらの粒子は耐熱性が高いため、これが微小粒子の材料として用いられると、高温耐久性に優れた太陽光選択吸収膜を得ることができる。また、シリカは可視域および近赤外域の光に対して透明であるため、微小粒子がシリカから構成される場合、微小粒子で太陽光を有利に共振させることができる。微小粒子を構成する材料の屈折率は、好ましくは粒子上に形成する金属膜の屈折率よりも小さいこと(タングステンの場合1.0〜3.0)である。
【0022】
微小粒子の形状は、球状であることが好ましいが、必ずしも完全な球状である必要はなく、太陽光の吸収特性を損なわない程度の変形は許容される。微小粒子の直径は、好ましくは0.1〜1.0μm(微粒子の屈折率と粒径の積が吸収したい太陽光の波長程度(300nm〜1.5μm)になるような組合せ。シリカ粒子を用いる場合、屈折率が1.5程度なので粒径は0.1〜1.0μmとなる。)である。
【0023】
微小粒子は基材フィルム上を一様に覆うように配置されている。粒子の屈折率(シリカの場合1.5程度)は金属の屈折率(タングステンの場合3.0〜3.5)よりも小さいため、空気(屈折率1.0)と金属の急峻な屈折率の変化を緩和する機能を果たす。同時に、略球状の微小粒子を用いて、表面に凹凸構造を形成することでも屈折率変化を緩やかにする効果が得られる。この2つの効果により、金属膜だけの場合に比べて太陽光の反射を抑制し(整合効果)、吸収率を高めることができる。
【0024】
(金属膜)
微小粒子の基材フィルムとは反対側の少なくとも一部の表面に形成される金属膜を構成する材料としては、例えば、タングステン、モリブデン、ニッケル、コバルト、クロム、タンタル、ニオブなどが挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種を主成分とすることが好ましい。これらの材料は、材料定数的に太陽光を吸収しやすいと同時に、500℃程度までの高温輻射を抑制できるので、光−熱変換の効率を確実に高めることができる。金属膜がタングステンまたはモリブデンからなることがより好ましい。
【0025】
金属膜を形成する方法としては、気相法(スパッタ、PVD)などが挙げられる。形成される金属膜の厚さは、好ましくは100nm以上(光を吸収するために十分な厚み以上)である。
【0026】
(粘着剤)
金属膜の上記微小粒子とは反対側に貼付される可撓性および粘着性を有する粘着剤は、一方の表面に金属膜を粘着させることができ、他方の表面を太陽光集熱管に粘着させることのできる接合剤である。粘着剤と金属膜との接着力、および、粘着剤と太陽光集熱管の基板との接着力は、基材フィルムと微小粒子との接着力よりも強いことが好ましい。
【0027】
粘着剤の金属膜と接着される側の表面の材質は、耐熱性を有する無機系の接着剤や低融点の金属が好適に用いられる。そのような無機系接着剤としては、ジルコニアやアルミナベースの接着剤が挙げられる。金属材料としては各種ろう材が挙げられる。このような無機系接着剤を用いる場合、接合処理の直前に金属/粒子複合膜上に接着剤を塗布し、配管などの接合対象に密着・加熱することで接合することができる。また、ろう材の場合、あらかじめ金属/粒子複合膜上に設けておくことで直前の塗布処理を行うことなく接合可能となる。
【0028】
一般的な集熱管の材質としてステンレス鋼や銅管などが使用されている。これらの材料と相性の良い接合剤は一般的に知られており、例えばステンレス鋼とタングステンのような金属間接合剤としてジルコニアベースの無機接着剤を利用することができる。
【0029】
<太陽光選択吸収膜の製造方法>
本発明の太陽光選択吸収膜の製造方法は、太陽光選択吸収膜を太陽光集熱管(円筒管)の表面に直接形成するのではなく、一旦別の基材上に太陽光選択吸収膜を形成し、その後に太陽光集熱管の必要な部位に転写することを主な特徴とする。
【0030】
すなわち、本発明の太陽光選択吸収膜の製造方法は、
上述の太陽光選択吸収膜形成用シートの上記粘着剤側の面を太陽光集熱管に貼付する工程と、
上記太陽光集熱管に貼付された上記太陽光選択吸収膜形成用シートから上記基材フィルムを剥離する工程と、
を含むことを特徴とする。
【0031】
(太陽光選択吸収膜形成用シート貼付工程)
本工程では、上述の太陽光選択吸収膜形成用シートを太陽光集熱管に貼付する。太陽光選択吸収膜形成用シートに塗布した無機系接着剤または、あらかじめ設けられたろう材を介して太陽光選択吸収膜形成用シートと太陽光集熱管を密着させ、数100℃に加熱し、界面の接合を行う。このとき、密着力を高めるために必要に応じて減圧環境下で接合してもよい。
【0032】
なお、太陽光集熱管が2重円筒型である場合は、内筒の外表面に太陽光選択吸収膜形成用シートを貼付する。太陽光選択吸収膜形成用シートを貼付する基板(太陽光集熱管の内管等)の材質としては、例えば、ステンレス、銅、アルミが挙げられる。
【0033】
(基材フィルム剥離工程)
太陽光集熱管に貼付された上記太陽光選択吸収膜形成用シートから基材フィルムを剥離することにより、太陽光集熱管の表面に太陽光選択吸収膜が形成される。
【0034】
(生産性に関する効果)
従来の円筒状の太陽熱コレクター(太陽光集熱管)は、バッチ式のスパッタ装置のターゲットの周囲に、一定サイズに裁断された集熱管を並べ、集熱管を自公転させながら成膜するのが一般的であった。この場合、装置に対する配管サイズの自由度が小さく、また成膜工程がバッチ式であるために生産性が低いという問題があり、さらには、均一に太陽光選択吸収膜を形成できるエリアは装置およびターゲットサイズに依存するために大きな基板に対して均一に成膜することが難しいといった問題があった。
【0035】
これに対し、本発明においては、真空容器内等において、ロールツーロール(roll to roll)方式で太陽光選択吸収膜を剥離可能な基材フィルム上に形成した後、連続的に太陽光集熱管(円筒)に転写することにより、太陽光集熱管(円筒)を1本ずつバッチ処理する方法に比べて生産性が向上する。また、太陽光集熱管への転写工程において、加圧と加熱を連続的に行うことで、任意の長さ(大きさ)の太陽光集熱管の表面に太陽光選択吸収膜を連続的に形成することが可能になる。
【0036】
また、基材フィルム上にスパッタ膜を形成した場合、スパッタ膜は基板に対して強固に密着するため、基材フィルムからスパッタ膜を剥離することは難しく、スパッタ膜を太陽光集熱管に転写することは難しい。一方、本発明においては、基材フィルム上にシリカ粒子単層膜を形成した後、その上にタングステン膜をスパッタ法にて成膜することで微粒子−金属複合膜を形成している。基材フィルム
と該複合膜の界面は粒子が点接触している状態であり、結合力(接着力)は小さい。従って、基材フィルムを容易に剥離することができる。また、ハンドリング性の観点から、ある程度の接着力が求められる場合には、基材フィルム上に予めシランカップリング剤を塗布した後に、微小粒子を配置(接着)することで基材フィルムと微小粒子の接着力を調整することができる。
【0037】
また、集熱管の内筒表面以外の任意の場所に太陽光選択吸収膜を形成することができ、部分的に太陽光選択吸収膜を形成することも可能である。太陽熱吸収膜形成シートは任意の形状に切り出すことが可能であり、かつ柔軟性のある基材シート状に形成しているからである。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
図1〜9を用いて本実施例を説明する。まず、粒子径が表1に記載する値(0.1、0.2、0.5、0.7、0.9μm)であるシリカ粒子を、pH10程度に調整したアルカリ性の水溶液に攪拌しながら加えて超音波分散を行い、10wt%のシリカ粒子分散液を作製した。図1に示すように、このシリカ粒子分散液2に、UV処理により一方の面を親水化したポリイミドフィルム11を浸漬してゆっくりと引上げることにより、ポリイミドフィルム11の一方の表面にシリカ粒子12が自己組織化配列してなる粒子膜を形成した(図2)。粒子膜が形成されたポリイミドフィルムに対して、100℃で熱処理を行い、粒子膜上に残留している水分を除去した。
【0040】
次に、シリカ粒子12にRIE(Raactive Ion Etching)処理を施すことにより、シリカ粒子12同士の間に間隙を形成した(図3)。このようなRIE処理により、基材フィルム11上に配置された複数の微小粒子4の互いの間の間隔(面内方向の間隔)はエッチング量によって決まるため、複数の微小粒子12が実質的に一定のピッチおよび間隔で規則的に配置されることになる。
【0041】
次に、シリカ粒子12の表面上にスパッタ法により厚さ200nmのタングステン膜13を形成し、シリカ粒子/タングステン複合膜を備えた太陽光選択吸収膜形成用シートを得た(図4)。
【0042】
次に、実際の太陽光集熱管の代わりとして、銅配管3に、太陽光選択吸収膜形成用シート1を貼合した(図5〜図7)。具体的には、銅配管3と太陽光選択吸収膜形成用シート1との間にアルミナベースの無機系の接着剤14を塗布して加圧処理した後、窒素雰囲気中で200℃に加熱してインジウムを溶融した後、室温まで冷却した。
【0043】
最後に、基材フィルム11を剥離することにより(図8)、銅配管の表面に、金属膜13および微小粒子12を備えた太陽光選択吸収膜を形成した(図9)。
【0044】
(光学特性の測定)
以上のプロセスで作製した太陽光選択吸収膜の光学特性を測定した。測定には、紫外・可視領域の測定についてはUV−3101PC型自記分光光度計(島津社製)を用い、赤外領域の測定についてはIFS−66v/S(Bruker製 FT−IR、真空光学系)を用いた。
【0045】
具体的には、太陽光選択吸収膜に垂直に光を入射した場合の反射率を求め、得られた結果から太陽光吸収率αおよび輻射光放射率εを計算した。尚、太陽光吸収率αおよび輻射光放射率εは以下の式に基づいて計算した。
【0046】
【数1】

【0047】
上式中、Hλは、JISに規定される太陽光エネルギー分布(JIS C8911)である。
【0048】
【数2】

【0049】
上式中、B100λは、100℃での黒体輻射光エネルギー分布である。
また、100℃到達時の太陽光利用効率ηについて、以下の式に基づいて計算した。
【0050】
【数3】

【0051】
太陽光および黒体輻射(100℃輻射)のエネルギー分布(波長に対する分光放射強度の分布)を図10に示す。また、光学反射率の解析結果を図11に示す。なお、比較対照としてタングステン板単体についての解析結果も記載している。
【0052】
太陽光吸収率、100℃における輻射率、および、変換効率を表1に示す。なお、比較対照としてタングステン板単体についての測定値も記載している。表1の判定において、Aはタングステン板に対して十分な太陽光熱変換能力があり、選択吸収膜として実用的なレベルであることを示し、Bはタングステン板よりも優れた太陽光熱変換能力は認められるものの、実用的なレベルには満たないことを示す。
【0053】
【表1】

【0054】
比較対照であるタングステン板単体に比して、タングステン/微粒子複合膜を備える太陽光選択吸収膜は、太陽光吸収率が高いことがわかる。太陽光を吸収した太陽光吸熱管(銅配管)が100℃まで昇温した状態におけるエネルギー効率(吸収エネルギーと放射損失エネルギーの差分を太陽光照射エネルギーで割った値)に注目すると、評価した全ての粒子径においてタングステン板単体よりも高い結果となった。また、表1に示されるように、特に粒径が0.2〜0.7μmの範囲にあるときにエネルギー効率(変換効率η)が70%以上と大きくなることが分かった。
【0055】
なお、材料の特性として、タングステンやモリブデンは可視光を吸収する機能を持っている。ただし、後述の実施例の通り、タングステン単体の太陽光吸収率は50%程度であり、吸収効率を高める必要があった。吸収に寄与しない光はタングステン界面で反射しているため、これを抑制できれば吸収率を高めることができる。反射は空気とタングステンの屈折率差により生じるため、屈折率差を小さくすれば反射を抑制することができる。
【0056】
本発明によって得られる太陽光選択吸収膜においては、シリカ粒子などの透明な微小粒子を、タングステン膜の表面に配置している。タングステンの可視域での屈折率が3.0〜3.5程度であるに対し、シリカは1.5程度であるため、空気(屈折率1.0)→シリカ(1.5)→タングステン(3.0)と配置することで屈折率の変化を小さくすることができる。また、略球状の微小粒子を用いて、表面に凹凸構造を形成することでも屈折率変化を緩やかにする効果が得られる。この2つの効果により、太陽光の反射を抑制し(整合効果)、吸収率を高めることができたと考えられる。このとき、微細な構造が小さすぎると整合層としての機能が不十分となりフラットな基板に対して十分な優位性を発揮できない(実施例1の粒径が小さい場合に該当)。一方で、微細構造が大きい場合には本来は反射を期待した長波長の領域まで吸収が促進された結果、同波長域での放射率が増加してしまう。従ってεが大きくなるため好ましくない(粒径が大きい場合に該当)。
【0057】
このように、本発明によれば、太陽光を選択的に吸収し、かつ輻射損失が少ない高効率集熱特性が得られる太陽光選択吸収膜が連続的に安定して製造できることがわかる。
【0058】
なお、本実施例では、金属膜を構成する材料としてタングステンを用いたが、タングステンに近い光学特性を持つモリブデンについても同様の効果が期待できる。
【0059】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0060】
1 太陽光選択吸収膜形成用シート、11 基材フィルム(ポリイミドフィルム)、12 微小粒子(シリカ粒子)、13 金属膜(タングステン膜)、14 粘着剤、2 シリカ粒子分散液、3 銅配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する剥離可能な基材フィルムと、
前記基材フィルム上に配置された複数の略球状の微小粒子と、
前記微小粒子の前記基材フィルムとは反対側の少なくとも一部の表面に形成された金属膜とを備え、
前記微小粒子は、可視光および近赤外光の波長に対して透明な材料からなり、
前記微小粒子は、その屈折率が前記金属膜の屈折率より小さく、かつ前記微小粒子の屈折率と粒径の積が可視光および近赤外光領域における特定の波長と実質的に等しくなるようにしたことを特徴とする、太陽光選択吸収膜形成用シート。
【請求項2】
さらに、前記金属膜の前記微小粒子とは反対側に貼付された可撓性および粘着性を有する粘着剤を備える、請求項1に記載の太陽光選択吸収膜形成用シート。
【請求項3】
前記微小粒子がシリカからなる、請求項1または2に記載の太陽光選択吸収膜形成用シート。
【請求項4】
前記金属膜がタングステンまたはモリブデンからなる、請求項1〜3のいずれかに記載の太陽光選択吸収膜形成用シート。
【請求項5】
請求項1に記載の太陽光選択吸収膜形成用シートを太陽光集熱菅に貼付する工程と、
前記太陽光集熱管に貼付された前記太陽光選択吸収膜形成用シートから前記基材フィルムを剥離する工程と、
を含むことを特徴とする、太陽光選択吸収膜の製造方法。
【請求項6】
太陽光集熱管および太陽光選択吸収膜を備えたソーラーシステムの製造方法であって、
請求項5に記載の太陽光選択吸収膜の製造方法によって太陽光選択吸収膜を製造する工程を含むことを特徴とする、ソーラーシステムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate