説明

太陽光高反射塗料用着色顔料

【課題】可視光線から近赤外線に至る波長領域の太陽光を高反射し、しかも、経済的な素材による環境保全型の太陽光高反射塗料用着色顔料を提供する。
【解決手段】本発明は、白色無機顔料の粒子表面に酸化鉄顔料微粒子が海島構造に固着している着色顔料であって、可視光から近赤外光に至る波長領域の高反射性と彩色性を兼ね備えてしていることを特徴とする太陽光高反射塗料用着色顔料である。また、本発明の着色顔料は、体質顔料などの白色無機顔料と酸化鉄微粒子を素材にしているので、経済性および環境保全性に優れた太陽光高反射塗料用着色顔料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光線から赤外線に至る波長領域、即ち、380〜780nmおよび780〜2100nmにおける太陽光を効率良く反射することにより、夏の強い太陽光の下で発生している屋根材やアスファルト道路およびビル外壁などの蓄熱を削減してヒートアイランド現象を抑制し、同時に環境に調和した色彩に着色することができる白色無機顔料の粒子表面に着色酸化鉄微粒子が海島模様に固着している構造の着色顔料であって、光線反射性と着色性の機能を兼ね備えていることを特徴とする太陽光高反射塗料用着色顔料に関する。
【背景技術】
【0002】
夏の強い太陽光が都市部にもたらすヒートアイランド現象は、冷房用の電力需要を激増させ、冷房機からの排熱がヒートアイランド現象をさらに増幅しているという深刻な社会問題になっている。そこで、太陽光の日射を反射して道路や建築物の蓄熱を削減するために遮熱性顔料や塗料組成物などの対策が多数提案されている。
【0003】
これら提案には、光反射機能を有する重金属含有無機顔料または有機物の色素や顔料を用いた塗料や塗布膜に関するもの、塗布膜の構造や組み合わせにより光反射効果を増大させる方法、あるいは、白色体が光線を全反射する特性を利用して、白色の有機または無機粒子の表面に有機色素や有機顔料を被覆した遮熱性、高反射性塗料に関するもの等である。
【0004】
白色体を利用する例としては、白色無機粒子の表面にアルコキシシランから生成するオルガノシラン化合物が被覆されており、該被覆にペリレンブラックが付着している複合粒子からなる熱遮蔽性顔料(特許文献1)は、沈降性硫酸バリウムまたは酸化チタンの白色粒子表面にオルガノシラン化合物を被覆し、その上にペリレンブラックが付着している構造の粒子である。
【0005】
また、『近赤外線反射性および/または近赤外線透過性の有彩色色素または黒色色素で、白色顔料を被覆してなる複合顔料は、近赤外線を吸収せずに反射し、これを着色剤とする塗料が塗布された建築物などは、直射日光により室温が高温になりにくい』(特許文献2[0007])ことが記され、この複合顔料は、白色顔料として『白色の無機または有機の粉体であり、例えば、酸化チタン、亜鉛華などの白色顔料、炭酸カルシウム、アルミナ、シリカ、クレイ、活性白土、含水珪酸、無水珪酸、アルミニウム粉末、ステンレス粉末、有機プラスチックピグメントなどの体質顔料』(特許文献2[0015])などを使用し、『近赤外線非吸収性色素としては、例えば、アゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、ペリノン・ペリレン系、インジゴ・チオインジゴ系、ジオキサジン系、キナクドリン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、ジケトピロロピロール系、アゾメチン系、アゾメチンアゾ系の有機色素が挙げられ、好ましい黒色色素としてはアゾ系、アゾメチンアゾ系、ぺリレン系の有機黒色色素』(特許文献2[0009])などの有機色素で白色顔料を被覆した構造の顔料粒子である。
【0006】
また、特許文献3は、『遮熱性および耐チッピング性に優れた着色塗料に関する』(特許文献3[0001])もので、遮熱性顔料(A)には顔料(a1)と顔料(a2)がある。
『遮熱性顔料(A)は、アゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、ペリノン・ペリレン系、インジゴ・チオインジゴ系、ジオキサジン系、キナクドリン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、ジケトピロロピロール系、アゾメチン系、およびアゾメチンアゾ系から選ばれる少なくとも1種の赤外線反射顔料にて、白色顔料を被覆してなる顔料(a1)』(特許文献3[0009])であり、『顔料(a1)に使用する白色顔料は、白色の無機または有機の粉体であり、例えば、酸化チタン(ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタンなど)、鉛白、亜鉛華、硫化亜鉛、リトポンなどの白色顔料、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、シリカ、クレイ、活性白土、含水珪酸、無水珪酸、アルミニウム粉末、ステンレス粉末、有機プラスチックピグメントなどの体質顔料など』(特許文献3[0010])であり、顔料(a1)は、これら白色顔料を上記の有機色素で被覆した構造の顔料粒子である。
また、『遮熱顔料(A)としては、Si、Zr、Mg、Ca、Fe、Mnから選ばれる元素の酸化物、複酸化物、炭化物及び窒化物から選ばれる少なくとも1種にて、白色顔料を被覆してなる顔料(a2)も用いることができる』(特許文献3[0017])とあるように、顔料(a2)は、上記無機元素の化合物で白色顔料を被覆した構造の粒子であることが示されている。
【0007】
以上のように、白色無機顔料の表面に赤外線反射性顔料や有機色素を被覆または付着させた構造の粒子からなる赤外線反射顔料が開示されている。これらの例が示すように、遮熱性や近赤外線反射効果を発現する塗料を得るためには、多くの場合に有機色素や有機顔料が使用されているのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開2004−10851号公報
【特許文献2】特開2002−249676号公報
【特許文献3】特開2005−97462号公報
【非特許文献1】外岡 和彦、「日射熱を反射するクールなガラスの関連技術について」、はかる、社団法人日本計量機器工業連合会、平成20年1月15日、No.88、p.12〜15
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これら有機色素や有機顔料を用いた遮熱塗料は、これを塗布した建築物の改修や道路の補修工事などの際に、有機物が混入した廃材を大量に発生することになり、廃材中の有機物が環境へどのように影響するかという問題がある。ヒートアイランド対策に必要な環境保全や調和に関して十分な配慮があるとは言えない。環境に配慮したヒートアイランド対策が求められている。
【0010】
また、特許文献2および3には、白色無機顔料としてクレイや活性白土の粘土質顔料が挙げられているが、光線反射特性などについての記述は何もなく、示唆するものもない。単なる例示に過ぎない。
【0011】
また、太陽光線の内の近赤外線を反射することを目的とした対策は、太陽光線のエネルギー分布が赤外線領域で48%、可視光線領域で46%、紫外線領域で6%である(非特許文献1)から、可視光線領域に関する対策が不足している。
【0012】
そこで、本発明は、光線反射性と着色性の機能を兼ね備えた太陽光高反射塗料用着色顔料を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記のような従来技術の現状に鑑み、可視光から赤外線領域を対象にし、環境適応性を重視して取り組みを始めた。そして、カオリンやケイソウ土などの光線反射率特性について鋭意検討した結果、これらには可視光から赤外線に至る波長領域で高い光線反射性能があることを見出した。
【0014】
そして、カオリンやケイソウ土の白色無機顔料の粒子表面に酸化鉄微粒子を海島模様に固着させた構造の着色顔料が、可視光線領域においても光反射率が大きくなることを見出して本発明を完成した。このことは、酸化鉄には特定波長の光を吸収する性質があるので光線反射率が低いものであったが、この光吸収性が弱まった結果であった。
【0015】
このことは光反射率の測定結果から明らかであるが、この現象については未だ十分に解明できていない。考察としては、赤色酸化鉄は850nm近辺の光を吸収し、黄色含水酸化鉄は650nmと900nm近辺の光を吸収する性質があるが、本発明の海島模様の構造粒子から成る着色顔料は、白色無機顔料の海に、酸化鉄微粒子または含水酸化鉄微粒子の島が点在してできた着色顔料であるので、白色粒子表面の反射光が、密着している酸化鉄微粒子の吸収光と干渉しながら相互作用して、酸化鉄微粒子または含水酸化鉄微粒子の光吸収性を弱め、近接する波長の反射光を増強したためであると考えている。
【0016】
前記課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0017】
即ち、本発明は、白色無機顔料の粒子表面に酸化鉄微粒子が海島模様に固着している構造の粒子から成る着色顔料であって、JIS A5759に基づく光反射率が、600〜2100nmの波長領域において40〜90%であることを特徴とする太陽光高反射塗料用着色顔料である(本発明1)。
【0018】
また、白色無機顔料が、平均粒子径0.1〜10μmであり、JIS Z8722に基づく白色度が60%以上のクレイ、タルク、カオリン、ケイソウ土、酸化チタン、亜鉛華、および硫酸バリウム粉の1種または2種以上の混合粉である本発明1に記載の太陽光高反射塗料用着色顔料である(本発明2)。
【0019】
また、酸化鉄微粒子が、赤色系酸化鉄または黄色系含水酸化鉄で平均粒子径が10〜300nmである本発明1に記載の太陽光高反射塗料用着色顔料である(本発明3)。
【0020】
また、酸化鉄微粒子または含水酸化鉄微粒子の固着量が、白色無機顔料の5〜70wt%である本発明1乃至3のいずれかに記載の太陽光高反射塗料用着色顔料である(本発明4)。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る太陽光高反射塗料用着色顔料は、白色無機顔料の粒子表面に酸化鉄微粒子が海島模様に固着した構造の粒子から成る着色顔料で、太陽光高反射性と彩色性を兼ね備えた機能を発揮する。
【0022】
また、本発明の光反射機能は可視光線から赤外線に至る幅広い波長領域で太陽光を40〜90%反射するので、この顔料を用いた塗料は、建造物の日射による蓄熱を低減する大きな効果があり、また、着色性は有彩色顔料としてビル街の景観を保持する効果を発揮する。
【0023】
また、本発明に係る着色顔料の素材には、クレイ、カオリン等の粘土質素材や酸化チタン、亜鉛華等の白色無機顔料と、着色顔料としては酸化鉄を用いるので、建築物や道路に施工した後でも、改修や補修工事で発生する廃材には環境汚染物質を含まないので環境の保全と調和に貢献できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施形態をより詳しく説明すれば次のようである。
【0025】
本発明は、白色無機顔料の粒子表面に酸化鉄微粒子が海島模様に固着している構造の粒子から成る着色顔料であって、JIS A5759に基づく光反射率が、600〜2100nmの波長領域において40〜90%であることを特徴とする太陽光高反射塗料用着色顔料である。
【0026】
白色無機顔料の粒子表面に酸化鉄微粒子を海島模様に固着させた構造の粒子とするのは、太陽光線の反射効果を増大させるためである。白色無機顔料の粒子表面全体を酸化鉄微粒子で被覆した場合には、酸化鉄本来の光吸収性により、本発明の目的とする光線反射効果は発現しない。
【0027】
酸化鉄微粒子は白色無機顔料の粒子表面に強く固着しており、なおかつ、白色無機顔料の粒子表面の光反射機能を阻害しない程度の、5〜70wt%の酸化鉄微粒子を海島模様に固着している場合に、初めて光線を高反射する機能を発現する太陽光高反射塗料用着色顔料が得られる。
【0028】
図1に本発明の着色顔料の海島模様の粒子構造を模式図で示した。図1において、WPは白色無機顔料であり、この海WPの中のCPは酸化鉄微粒子であり、点在する島として表わされているが、粒子形状は一例を示したものである。
【0029】
また、本発明に係る着色顔料のJIS A 5759に基づく光反射率が、600〜2100nmの波長領域において、40〜90%であるとしたのは、酸化鉄の黄色系から赤色系領域における反射光の周波数を考慮すれば反射領域は600〜780nmであり、日射の熱エネルギー分布を考慮して反射効率の良い赤外波長領域である780〜2100nmとした。また、光反射率を40〜90%としたのは、40%未満では性能不足であり、90%を超える場合は太陽光利用の視点からは過剰であると考えた。本発明では、特に、780nm〜1500nmの波長領域において光反射率が60%以上であることが好ましい。より好ましい光反射率の範囲は50〜85%であり、さらにより好ましくは60〜80%である。
【0030】
本発明の太陽光高反射塗料用着色顔料は、一例を示せば、下記のような方法で製造できる。
【0031】
即ち、白色無機顔料を水に分散し、該スラリーに第一鉄塩水溶液を添加して、白色無機顔料の粒子表面に第一鉄イオンを吸着させた後、アルカリを添加して、第一鉄イオンを沈殿物として海島構造に固着させ、ついで、固着している沈殿物を加熱酸化して黄色酸化鉄粒子とし、白色無機顔料の粒子表面に5〜70wt%固着させ、常法に従って、水洗してろ過分離した後、乾燥して粉砕することにより得ることができる。
また、前記黄色酸化鉄微粒子が白色無機顔料の粒子表面に海島構造に固着した黄色系着色顔料の乾燥物を、空気中で加熱することにより、赤色または紫色または茶褐色に発色させて多色化することができる。
【0032】
先ず、白色無機顔料WPを水に分散して、所望の濃度の均一分散水溶液を調整する。
【0033】
この白色無機顔料WPとしては、平均粒子径0.1〜10μmであって、JIS Z8722に基づく白色度が60%以上のクレイ、タルク、カオリン、ケイソウ土、酸化チタン、亜鉛華、および硫酸バリウム粉の1種、または2種以上の混合粉などが使用できる。
【0034】
本発明における白色無機顔料の平均粒子径が0.1μm未満の場合は光線反射性が劣り、10μmを超える場合は、塗料化が困難となる。白色無機顔料の好ましい平均粒子径は0.5〜8.0μmであり、さらにより好ましい範囲は1.0〜6.0μmである。また、使用する白色無機顔料には、経済性と環境調和性を勘案すれば粘土素材の白色無機顔料が好ましい。
【0035】
本発明における白色無機顔料は、JIS Z8722に基づく白色度は60%以上が好ましい。前記白色度が60%未満の場合には、得られる着色顔料の光線反射性が十分とは言い難い。
【0036】
次に、上記の白色無機顔料WPの分散水溶液に、あらかじめ準備した所望濃度の第一鉄塩水溶液を所望量添加して攪拌混合する。
【0037】
この第一鉄塩には、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄などの第一鉄塩が使用できる。
【0038】
次に、上記の混合水溶液にアルカリを添加して、水溶液中の第一鉄イオンを白色無機顔料のWP粒子表面に沈殿固着させた後、該水懸濁液を攪拌しながら加熱し、所望の温度で空気吹き込みによる酸化反応を行い、白色無機顔料のWP粒子表面に含水酸化鉄粒子CPを固着させる。この生成物を水洗洗浄し固液分離した後、乾燥して粉砕することにより黄色系の太陽光高反射塗料用着色顔料が得られる。
【0039】
さらに、上記の黄色系顔料粉を空気中で加熱焼成することにより、発色させ赤色系の太陽光高反射塗料用着色顔料が得られる。
【0040】
上記の製造法で諸条件を変えると、黄色系、赤色系以外の色調の着色顔料を得ることができる。
【0041】
また、上記製法で得られる酸化鉄微粒子CPとしては、平均粒子径が10〜300nmの酸化鉄または含水酸化鉄粒子である。平均粒子径が10nm未満では粒子の結晶性が不完全で発色性も不安定であり、300nmを超える場合では白色無機顔料WP表面への固着が困難となる。平均粒子径の好ましい範囲は30〜250nmであり、より好まし範囲は50〜200nmである。また、異種金属を含有した複合酸化鉄粒子も同様に使用でき、多色化のためには好ましい。
【0042】
また、酸化鉄粒子CPの固着量は白色無機顔料WPの5〜70wt%である。固着量が5wt%未満では着色性が不足であり、70wt%を超える場合には着色性は向上するが光線反射性が低下するので好ましくない。酸化鉄粒子CPの固着量はより好ましい範囲は10〜60wt%であり、更により好ましくは10〜50wt%である。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明する。
【0044】
粒子形態の観察は走査型電子顕微鏡(日立製、S4800)を用いた。
【0045】
X線回折装置は(理研電機製、RINT 2500)を用いた。
【0046】
色調および光線反射率は、顔料試験法によりミラーコート紙に塗布した塗膜を用いて測定した。色調は色差計(Xライト製)を用い、光線反射率は分光光度計(日立製、U−4100、自記分光光度計)を用いて測定を行った。
【0047】
白色無機顔料としては、カオリン(純正化学製、白色度:80以上、平均粒子径4μm)、ケイソウ土(昭和化学工業製、ラジオライト#900。白色度:85以上、平均粒子径6.5μm)および酸化チタン(石原産業製,ルチル型。白色度:90以上、平均粒子径0.8μm)を用いた。
【0048】
合成実験にはウオータバスと攪拌装置、空気吹き込み装置、温度調整器を備えた500mlのフラスコから成る反応装置を用いた。
【0049】
使用水はどの場合もイオン交換水を用いた。
【0050】
海島構造粒子の合成−合成反応
実施例1
合成反応: 500mlのガラスビーカーにカオリン粉末6gと水を投入して全容300mlの混合液とした後、ホモミキサーを用いて30分間分散処理して、乳白色のカオリン分散液を得た。つぎに、この分散液を反応装置のフラスコに移し、攪拌しながら、あらかじめ用意した硫酸第一鉄3.3gを溶解した100mlの水溶液を添加して30分間攪拌混合した後、さらに、あらかじめ用意した炭酸ナトリウムを1.54g溶解した100mlの水溶液を添加した。この時の水溶液は、pHが8.37で、乳白色から緑色に変化した。そして、さらに、30分間攪拌をつづけた後に、水溶液を40℃の温度に加熱し、水溶液中に空気を120分間通気して酸化反応を行った。緑色の水溶液は黄色に変化して含水酸化鉄粒子が生成した。
精製処理: 得られた黄色沈殿物を水洗して精製した後、ろ過分離して得た固形物を乾燥、粉砕して、カオリン粒子に含水酸化鉄微粒子が18.5wt%海島構造に固着した黄色系着色顔料を得た。
【0051】
実施例2〜5および比較例1
白色無機顔料に対する着色酸化鉄粒子の固着割合を変え、白色無機顔料をケイソウ土および酸化チタンに変えた以外は実施例1と同様の条件で合成反応を行った。
実施例2:固着割合を55wt%に、実施例3:固着割合を15wt%に、実施例4:白色無機顔料をケイソウ土に、実施例5:白色無機顔料を酸化チタンにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして着色顔料を得た。
また、比較例1として黄色酸化鉄顔料(戸田工業製STY−1)を用いた。
【0052】
海島構造粒子の合成−加熱発色
実施例6〜8および比較例2
加熱発色: 実施例1、4、5で得た黄色系着色顔料を前駆体として、空気中で加熱することにより発色させ、白色無機顔料粒子に酸化鉄粒子が海島構造に固着した赤色系着色顔料を得た。前駆体は、実施例6:実施例1、実施例7:実施例4、実施例8:実施例5である。また、比較例2として赤色酸化鉄顔料(戸田工業製ED130)を用いた。
【0053】
測定分析結果
a) 粒子形態について
実施例1で得た合成物の粒子形態を図7に示す。図7から海島構造をしていることが確認できた。また、固着している細長い微粒子はX線分析の結果、含水酸化鉄であった。また、固着している含水酸化鉄の平均粒子径は120nmであった。実施例2〜5で得た合成物について観察した結果も同様であった。また、実施例6〜8で得た発色物は前駆体の粒子形態を継承した海島構造が観察され、固着している微粒子はX線分析の結果からヘマタイトであった。また、固着している酸化鉄(ヘマタイト)の平均粒子径は100nmであった。
【0054】
b)色調について
実施例1で得た着色顔料の色調は、L*:65.7、a*:20.1、b*:53.1であり、明るい黄色粉体であった。
【0055】
この他の実施例で得た着色顔料および比較例の色調を表1に示した。
【0056】
【表1】

【0057】
c)光線反射性について
実施例1、6の光線反射率曲線を図2、3に、比較例1、2の光線反射率曲線を図4、5に示した。
【0058】
なお、実施例2〜5で得られた着色顔料について光線反射率を測定したところ、前記実施例1と同程度であることが確認された。また、実施例7、8で得られた着色顔料について光線反射率を測定したところ、前記実施例6と同程度であることが確認された。
【0059】
これらの図から、黄色系着色顔料の実施例1〜5と比較例1を比較し、赤色系着色顔料の実施例6〜8と比較例2を比較してみると明らかなように、光線反射率は、何れの実施例も可視光領域(380〜780nm)から近赤外領域(780〜1200nm)にわたり60〜80%の高反射率特性を示していた。
【0060】
図6は白色無機顔料のカオリンの光線反射率曲線である。
【0061】
図6の反射率曲線は、本発明の海島構造の着色顔料が、白色無機顔料の光線反射特性と酸化鉄微粒子の着色性が一体となってもたらす太陽光高反射着色顔料であることを裏付けるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、省エネ、省資源および環境保全という時代の要請に応えたヒートアイランド対策材料としての太陽光高反射塗料用着色顔料であり、使用する素材が環境調和型で経済性に優れているので、建材塗料用、道路舗装用などの他にも広い用途に利用されることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る着色顔料の海島構造を示す模模式図。
【図2】実施例1で得られた着色顔料の光線反射率曲線
【図3】実施例6で得られた着色顔料の光線反射率曲線
【図4】比較例1(黄色酸化鉄顔料)の光線反射率曲線
【図5】比較例2(赤色酸化鉄顔料)の光線反射率曲線
【図6】カオリンの光線反射率曲線
【図7】実施例1で得られた着色顔料の走査型電子顕微鏡写真
【符号の説明】
【0064】
図1
WP : 白色無機顔料
CP : 酸化鉄微粒子



【特許請求の範囲】
【請求項1】
白色無機顔料の粒子表面に酸化鉄微粒子が海島模様に固着している構造粒子から成る着色顔料であって、JIS A5759に基づく光反射率が、600〜2100nmの波長領域において40〜90%であることを特徴とする太陽光高反射塗料用着色顔料。
【請求項2】
白色無機顔料が、平均粒子径0.1〜10μmであり、JIS Z8722に基づく白色度が60%以上のクレイ、タルク、カオリン、ケイソウ土、酸化チタン、亜鉛華、および硫酸バリウム粉の1種または2種以上の混合粉である請求項1記載の太陽光高反射塗料用着色顔料。
【請求項3】
酸化鉄微粒子が、赤色系酸化鉄または黄色系含水酸化鉄で平均粒子径が10〜300nmである請求項1記載の太陽光高反射塗料用着色顔料。
【請求項4】
酸化鉄微粒子または含水酸化鉄微粒子の固着量が、白色無機顔料の5〜70wt%である請求項1乃至3のいずれかに記載の太陽光高反射塗料用着色顔料。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−263547(P2009−263547A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116284(P2008−116284)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】