説明

太陽電池の製造方法

【課題】Ib族元素、IIIb族元素およびVIb族元素からなる少なくとも1種の化合物半導体からなる光電変換層、および、Alを陽極酸化してなる絶縁層を有する太陽電池の製造において、光電変換層の成膜を500℃を超える高温で行っても、絶縁層のクラックに起因する絶縁特性の劣化を防止できる太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】Alの陽極酸化による絶縁層の形成に先立ち、陽極酸化するAlの表面を酸性洗浄液で洗浄することにより、前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁特性の低下に起因する性能劣化を好適に防止できる太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池においては、バルクの単結晶Siまたは多結晶Si、あるいは薄膜のアモルファスSiを用いたSi系太陽電池が主流であったが、近年では、Siに依存しない化合物半導体系太陽電池の研究開発が行われている。
化合物半導体系の太陽電池としては、GaAs系等のバルク系と、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなるCIS(Cu−In−Se)系やCIGS(Cu−In−Ga−Se)系等の薄膜系とが知られている。CIS系およびCIGS系は、光吸収率が高く、高い光電変換効率が報告されている。
【0003】
現在、太陽電池用の基板としてはガラス基板が主に使用されているが、可撓性を有する金属基板を用いることが検討されている。
金属製の基板を用いた化合物薄膜太陽電池は、基板の軽量性および可撓性(フレキシビリティー)という特徴から、通常のガラス基板を用いたものに比較して、広い用途に適用できる可能性がある。さらに、金属製の基板は高温プロセスにも耐え得るという点で、高温での光電変換層(光吸収層)の成膜が可能であり、これにより、光電変換特性が向上し太陽電池の高効率化が期待できる。
【0004】
ところで、太陽電池(太陽電池モジュ−ル)は、同一基板上で太陽電池セルを直列接続し集積化することで、モジュールとしての効率を向上できる。この際に、金属基板を用いる場合には、金属基板上に絶縁層を形成し、光電変換を行う半導体回路層を設ける必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、太陽電池の基板として、ステンレス等の鉄系素材を用い、CVD等の気相法やゾルゲル法等の液相法によりSiやAlの酸化物を被覆し絶縁層を形成することが記載されている。
しかしながら、これらの手法は、製法的にピンホールやクラックを発生し易く、大面積の薄膜絶縁層を安定に作製する手法としては、本質的な課題を抱えている。
【0006】
これに対し、Al(アルミニウム)の場合には、その表面に陽極酸化被膜(AAO)を形成することにより、ピンホールが無く、密着性が良好な絶縁被膜が得られる。
そのため、特許文献2に記載されるように、Al基板の表面に、絶縁層として陽極酸化膜を形成してなる基板を用いる太陽電池モジュールが研究されている。
【0007】
ここで、非特許文献1に記載されるように、Alの表面に形成した陽極酸化被膜は、120℃以上に加熱するとクラックが発生することが知られている。
ところが、化合物半導体系の光電変換層、特に、CIGS系の化合物半導体の光電変換層の場合、高い光電変換効率を得る為には、成膜温度が高温である方が良く、一般的に、成膜温度は500℃以上となる。
【0008】
そのため、化合物半導体系の光電変換層を有する太陽電池の基板として、Alの陽極酸化膜を絶縁層として有する基板を用いると、光電変換層の成膜時や、成膜後の冷却の過程で陽極酸化膜のクラックや剥離等を生じてしまう。
一度クラックが発生すると、絶縁性、特に、リーク電流が増大してしまい、満足な光変換効率が得られず、また、絶縁破壊等を生じてしまうという問題がある。
【0009】
加えて、Alは200℃程度で軟化する為、この温度以上を経験したAl基板は、極めて強度が小さく、クリープ変形や座屈変形といった永久変形(塑性変形)を生じ易い。
そのため、Al基板を用いた太陽電池は、その製造時も含め、ハンドリングに厳しい制限が必要である。これは、Al基板を用いた太陽電池の屋外用太陽電池などへの適用を、困難なものにしている。
【0010】
一方、特許文献3には、ステンレス、Cu、Al、Ti、Fe、鉄合金等の金属基板の表面に、Alなどの陽極酸化が可能な金属からなる層を中間層として設け、この中間層を陽極酸化した被膜を絶縁層とする、耐熱性絶縁基板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−339081号公報
【特許文献2】特開2000−49372号公報
【特許文献3】特開2009−132996号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】茅島正資、莚正勝、東京都立産業技術研究所、研究報告、第3号2000年12月、p21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
Al層上の陽極酸化膜にクラックが生じる原因は、Alの線膨張係数(線熱膨張係数)が陽極酸化膜の線膨張係数よりも大きいことにあると考えられる。
すなわち、Alの線膨張係数は23×10-6/℃である。これに対し、Alの陽極酸化膜の線膨張係数の正確な数値は不明であるが、その値は酸化アルミニウム(αアルミナ)に近く7×10-6/℃程度と推定される。この点を考慮すると、約16×10-6/℃という大きな線膨張係数差に起因する応力に陽極酸化膜が耐えきれないため、上述のようにAl材上の陽極酸化膜にクラックが生じると考えられる。
【0014】
これに対して、特許文献3に示されるように、金属基材の表面にAl層を形成し、このAl層の表面を陽極酸化することで絶縁層を形成した基板を、太陽電池の基板として用いることにより、基板全体の強度と線膨張係数とを金属基材が担い、さらに、金属基材とAlの陽極酸化膜である絶縁層との熱膨張差に起因する応力を、金属基材および絶縁層に比してヤング率の小さいAl層を介在させる事で吸収することができる。
これにより、線膨張係数の差に起因する絶縁層すなわちAlの陽極酸化被膜のクラックを抑制すると共に、高温処理によるAlの軟化に起因するハンドリングの制限等も、解消することができる。
【0015】
しかしながら、このような金属基材とAl層とを有する構成の基板を用いた場合でも、やはり、500℃以上の成膜温度で光電変換層を成膜すると、絶縁層すなわちAlの陽極酸化膜に、絶縁性能の大幅に低下させてしまうクラックが発生する場合も多い。
【0016】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、Alの陽極酸化膜を絶縁層として利用する基板を用いる太陽電池の製造方法において、CIGS層などの光電変換層の成膜に好適な500℃以上の高温の熱履歴を受けた場合でも、より確実に絶縁層のクラック発生を抑制して、絶縁層が、良好な絶縁特性を維持することがきる太陽電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明の太陽電池の製造方法は、アルミニウムからなる表面を有する基板の、前記アルミニウムの表面を酸性洗浄液で洗浄する工程、前記アルミニウムの洗浄面を陽極酸化する工程、および、この陽極酸化膜を絶縁層として、前記基板に、Ib族元素、IIIb族元素およびVIb族元素からなる少なくとも1種の化合物半導体からなる光電変換層を有する薄膜太陽電池を形成する工程、を有することを特徴とする太陽電池の製造方法を提供する。
【0018】
このような太陽電池の製造方法において、前記化合物半導体の前記Ib族元素が、CuおよびAgの少なくとも一方であり、前記IIIb族元素が、Al、GaおよびInからなる群より選択された少なくとも1種の元素であり、前記VIb族元素が、S、SeおよびTeからなる群より選択された少なくとも1種の元素であるのが好ましい。
また、前記酸性洗浄液が、温度が60℃以上で、濃度300g/L以上の硫酸を含む酸性洗浄液であり、この酸性洗浄液に、前記アルミニウムの表面を3秒以上浸漬することにより、前記アルミニウムの表面の洗浄を行うのが好ましい。
また、前記光電変換層を、500℃以上の成膜温度で成膜するのが好ましく、また、前記酸による洗浄で、アルミニウム表面に存在する金属間化合物を単位面積当たりで50%以上除去するのが好ましい。
また、前記基板が、金属基材の表面にアルミニウム層を形成してなる基板であるのが好ましく、この際において、前記金属基材がステンレス鋼であるのが好ましい。
また、前記Alの陽極酸化による絶縁層の形成を、酸性電解液を用いて行うのが好ましく、さらに、前記基板が、前記金属基材にアルミニウム板を加圧接合してなるものであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
上記構成を有する本発明の太陽電池の製造方法によれば、Al(アルミニウム)の陽極酸化に先立ち、絶縁層となる基板のAlの表面を高濃度の硫酸などの酸性洗浄液で処理することにより、Alの表面に存在する金属間化合物を除去できる。そのため、CIGS系化合物などの化合物半導体からなる光電変換層を成膜する際に、500℃以上の高温で成膜を行っても、金属間化合物を起点として、絶縁層(Alの陽極酸化膜)にクラックが入ることを、抑制することができる。
従って、本発明によれば、光電変換層の高温成膜を行っても、絶縁層のクラックに起因する絶縁性低下を抑制し、絶縁層が良好な絶縁特性を維持することができる。
【0020】
また、本発明によれば、前述のように、500℃以上での光電変換層の成膜工程を経ても、高い絶縁性を維持することができる。すなわち、500℃以上の成膜温度で、光電変換層を成膜できる。
前述のように、CIGSなどの化合物半導体は、高温で形成した方が、光電変換特性を向上させることができる。そのため、本発明によれば、500℃以上の温度で成膜して、光電変換特性を向上させた光電変換層を有する太陽電池を得ることができる。
しかも、温度が500℃以上の高温での製造工程を含む場合でも、基板の十分な強度が確保できるので、製造時のハンドリング等に制限をなくすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の太陽電池の一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付の図面に示す好適実施例を基に、本発明の太陽電池の製造方法について、詳細に説明する。
【0023】
図1に、本発明の太陽電池の製造方法で製造された太陽電池モジュールの一例を断面図で概念的に示す。
図1に示す太陽電池モジュール10(以下、太陽電池10とする)は、金属基材12、Al層14、および絶縁層16を有する絶縁性金属基板18の上に、下部電極32、光電変換層34、バッファ層36、および、上部電極38からなる太陽電池セル(薄膜太陽電池)40を、複数、直列接合してなる、モジュール型の太陽電池である。また、太陽電池セル40の配列方向の両端部の下部電極32の上には、直列接合された太陽電池セル40が発電した電力を外部に取り出すための、第1の導電部材42および第2の導電部材44が形成される。
【0024】
太陽電池10において、絶縁性基板18(以下、基板18とする)は、Al(アルミニウム)の陽極酸化膜を絶縁層16として有するものであり、好ましい構成として、金属基材12と、Al層14と、絶縁層16とから構成される。
なお、本発明で用いる基板は、このような金属基材12を有する物には限定されず、例えば、金属基材12を有さず、Al層14と絶縁層16のみから構成されるものであってもよい。すなわち、本発明においては、表面にAlを有する板材であれば、各種の構成を有する基板が利用可能である。
【0025】
金属基材12(以下、基材12とする)には特に限定はなく、各種の金属材料が利用可能である。好ましくは、後述する光電変換層34と近似する熱膨張係数(線熱膨張係数)を有する材料、特に、CIGSなどのCIGS系化合物と近似する熱膨張係数を有する材料が利用される。
この点を考慮すると、基材12としては、オーステナイト系ステンレス鋼(線膨張係数:17×10-6/℃)、炭素鋼(同:10.8×10-6/℃)、フェライト系ステンレス鋼(同:10.5×10-6/℃)、42インバー合金やコバール合金(同:5×10-6/℃)、36インバー合金(同:<1×10-6/℃)、Ti(同:9.2×10-6/℃)等が、好適に例示される。
中でも特に、ステンレス鋼は好適に例示される。
【0026】
基材12の厚さには、特に限定はなく、太陽電池10(半導体装置)の製造プロセス、および稼働時に要求されるハンドリング性(強度および可撓性)に応じて、適宜、設定すればよい。
この点を考慮すると、基材12の厚さは、10〜1000μmであるのが好ましい。
【0027】
また、基材12の強度にも、特に限定はないが、塑性変形をしない弾性限界応力を有する程度の強度が必要である。この点を考慮すると、基材12の機械加工度と調質にもよるが、基材12は、0.2%耐力値が室温で250〜900MPaであるのが好ましい。なお、太陽電池10の製造時に高温のプロセスが有る場合には、0.2%耐力の温度依存性も重要であり、前述のように、鋼やTiは、500℃で室温の70%程度の耐力を維持する。これにより、基板18が、光電変換層の成膜温度である500℃の熱履歴を受けた場合でも、塑性変形をしない弾性限界応力が確保できる。
0.2%耐力値や、その温度依存性は、「鉄鋼材料便覧(日本金属学会、日本鉄鋼協会編、丸善株式会社)」に記載されている。
【0028】
基材12の表面には、Al層14が設けられる。
Al層14は、Alを主成分とする層で、AlやAl合金が、各種、利用可能である。特に、不純物の少ない、99質量%以上の純度のAlであることが好ましい。純度としては、例えば、99.99質量%Al、99.96質量%Al、99.9質量%Al、99.85質量%Al、99.7質量%Al、99.5質量%Al等が好ましい。
【0029】
本発明の基板18においては、基材12の上に形成されるAl層14の表面に、Alを陽極酸化してなる絶縁層16が形成される。
ここで、前述の非特許文献1にも示されるように、Alの表面に形成したAlの陽極酸化被膜は、120℃以上に加熱するとクラックが発生する。また、前述のように、このAl層上の陽極酸化膜にクラックが生じる原因は、Alの線膨張係数(線熱膨張係数)が陽極酸化膜の線膨張係数よりも大きいことにあると考えられる。
そのため、Al材の表面を陽極酸化してなる絶縁層を有する基板を用いる太陽電池では、500℃以上の成膜温度を要求される化合物半導体からなる光電変換層の成膜時に、加熱によって絶縁層にクラックや剥離が生じてしまい、十分な絶縁性能が得られない。
【0030】
これに対し、図示例の基板18においては、基板全体の強度および線膨張係数を基材12が担い、また、基材12とAlの陽極酸化膜である絶縁層16との微小な熱膨張差に起因する応力を、基材12および絶縁層16に比してヤング率の小さいAl層14を介在させる事で吸収する。これにより、線膨張係数の差に起因する絶縁層16すなわちAlの陽極酸化被膜のクラックを抑制することができる。
また、Alの室温での耐力は300MPa以上であるものの、500℃では、その耐力は室温の1/20以下に低下する。これに対し、ステンレス鋼等の耐力は、500℃でも室温の70%程度は維持される。従って、高温時の基板18の弾性応力限界や熱膨張は、基材12が支配的となる。すなわち、基板18を、Al層14と基材12とを組み合わせて構成することにより、500℃以上の高熱を経験しても、十分な基板18の剛性を確保することができる。また、500℃以上の高温での製造工程を含む場合でも、基板の十分な剛性が確保できるので、製造時のハンドリング等に制限を無くすことが可能となる。
【0031】
Al層の厚さには、特に限定はない。
ここで、Al層14が薄すぎると、十分な応力緩和の効果が得られず、また、絶縁層16が、直接、基材12と接触してしまう可能性も有る。逆に、厚すぎると、高温の熱履歴を受けた際に残留反りが大きくなって、それ以降の製造工程に支障をきたす可能性が有り、材料コストの点でも不利である。
以上の点を考慮すると、Al層の厚さは、好ましくは5〜150μmで、より好ましくは10〜100μmで、特に、20〜50μmが好ましい。
【0032】
ここで、Al層14の厚さは、Al表面の前処理、陽極酸化による絶縁層16の形成等によって減少する(Alが消耗する)。
従って、後述するAl層14の形成時における厚さは、これらに起因する厚さ減少を見越して、設定する必要がある。
【0033】
Al層14の上(基材12と反対側面)には、絶縁層16が形成される。絶縁層16は、Al層14の表面を陽極酸化してなる、Alの陽極酸化膜である。なお、本発明の太陽電池の製造方法においては、この絶縁層の16の形成に先立ち、Al層14の表面を酸性洗浄液で洗浄する。この点に関しては、後に詳述する。
本発明において、絶縁層16は、Alを陽極酸化してなる各種の膜が利用可能であるが、後述する、酸性電解液によるポーラス型の陽極酸化膜であるのが好ましい。この陽極酸化膜は、数10nmの細孔を有する酸化アルミナ皮膜であり、被膜ヤング率が低いことにより、曲げ耐性や高温時の熱膨張差により生じるクラック耐性が高い物となる。
【0034】
絶縁層16の厚さは2μm以上が好ましく、5μm以上が更に好ましい。絶縁層16の厚さが過度に厚い場合、可撓性が低下すること、および絶縁層16の形成に要するコスト、時間がかかるため好ましくない。現実的には、絶縁層16の厚さは、最大50μm以下、好ましくは30μm以下である。このため、絶縁層16の好ましい厚さは、2〜50μmである。
また、絶縁層16の表面18aの表面粗さは、例えば、算術平均粗さRaで1μm以下であり、好ましくは、0.5μm以下、より好ましくは、0.1μm以下である。
【0035】
なお、基板18は、基材12、Al層14および絶縁層16の全てを可撓性を有するもの、すなわち、フレキシブルなものとすることにより、基板18全体として、フレキシブルなものになる。これにより、例えば、ロール・ツー・ロール方式で、基板18の絶縁層16側に、下部電極32、光電変換層34、上部電極36等を形成することができる。
本発明においては、1回のロール巻出から巻取までの間に、複数の層を連続して製膜することにより太陽電池構造を作製してもよいし、ロール巻出、製膜、巻取の工程を複数回行うことによって太陽電池構造を形成してもよい。また、後述するように、各成膜工程の合間に素子を分離、集積させるためのスクライブ工程をロール・ツー・ロール方式に加えることで、複数の太陽電池を電気的に直列接続させた太陽電池を作製することができる。
【0036】
なお、本発明においては、基材12の一面のみにAl層14および絶縁層16を形成するのに限定はされず、基材12の両面に、Al層14あるいはさらに絶縁層16を形成して、本発明の製造方法に用いる基板としてもよい。
【0037】
図示例の太陽電池10は、このような基板18の上に、下部電極32、光電変換層34、バッファ層36、および、上部電極38からなる薄膜太陽電池(太陽電池セル)40を、複数、直列接合してなる、太陽電池モジュール(モジュール型の太陽電池)である。
また、配列方向両端部の下部電極32の上には、第1の導電部材42および第2の導電部材44が形成される。
【0038】
ここで、図示例においては、好ましい態様として、絶縁層16(基板18)と下部電極32との間に、アルカリ供給層50を有する。
アルカリ金属(特にNa)が、CIGS等からなる光電変換層34に拡散されると光電変換効率が高くなることが知られている。アルカリ供給層50は、光電変換層34にアルカリ金属を供給するための層であり、アルカリ金属を含む化合物の層である。このようなアルカリ供給層50を有することにより、光電変換層34の成膜時に、下部電極32を通してアルカリ金属が光電変換層34に拡散し、光電変換層34の変換効率を向上できる。
【0039】
アルカリ供給層50には、限定はなく、Na2O、Na2S、Na2Se、NaCl、NaF、モリブデン酸ナトリウム塩など、アルカリ金属を含む化合物(アルカリ金属化合物を含む組成物)を主成分とするものが、各種、利用可能である。特に、SiO2(窒化ケイ素)を主成分としてNa2O(酸化ナトリウム)を含む化合物であるのが好ましい。
【0040】
アルカリ供給層50の成膜方法には、特に限定はなく、公知の方法が、各種、利用可能である。一例として、スパッタリングやCVD等の気相成膜法や、ゾルゲル法等の液体成膜法が例示される。
例えば、前記SiO2を主成分としてNa2Oを含む化合物であれば、ソーダ石灰ガラスをターゲットに用いたスパッタリングや、SiおよびNaを含むアルコキシドからを用いたゾルゲル反応によって、アルカリ供給層50を成膜すればよい。さらに、これらの方法を併用してもよい。
【0041】
太陽電池10において、下部電極32は、隣り合う下部電極32と所定の間隙33を設けて配列されて、アルカリ供給層50の上に形成されている。また、各下部電極32の間隙33を埋めつつ、光電変換層34が下部電極32の上に形成されている。この光電変換層34の表面にバッファ層36が形成されている。
光電変換層34とバッファ層36とは、下部電極32の上で、所定の間隙37を設けて配列される。なお、下部電極32の間隙33と、光電変換層34(バッファ層36)との間隙37は、太陽電池セル40の配列方向の異なる位置に形成される。
【0042】
さらに、光電変換層34(バッファ層36)の間隙37を埋めるように、バッファ層36の表面に上部電極38が形成されている。
上部電極38、バッファ層36および光電変換層34は、所定の間隙39を設けて、配列される。また、この間隔39は、前記下部電極32の間隙と、光電変換層34(バッファ層36)との間隙とは異なる位置に設けられる。
太陽電池10において、各太陽電池セル40は、下部電極32と上部電極38により、基板18の長手方向(矢印L方向)に、電気的に直列に接続されている。
【0043】
下部電極32は、例えば、Mo電極で構成される。光電変換層34は、光電変換機能を有する化合物半導体、例えば、CIGS層で構成される。さらに、バッファ層36は、例えば、CdSで構成され、上部電極38は、例えば、ZnOで構成される。
なお、太陽電池セル40は、基板18の長手方向Lと直交する幅方向に長く伸びて形成されている。このため、下部電極32等も基板18の幅方向に長く伸びている。
【0044】
図1に示すように、右端の下部電極32上に第1の導電部材42が接続されている。この第1の導電部材42は、後述する負極からの出力を外部に取り出すためのものである。
第1の導電部材42は、例えば、細長い帯状の部材であり、基板18の幅方向に略直線状に伸びて、右端の下部電極32上に接続されている。また、図1に示すように、第1の導電部材42は、例えば、銅リボン42aがインジウム銅合金の被覆材42bで被覆されたものである。この第1の導電部材42は、例えば、超音波半田により下部電極32に接続される。
【0045】
他方、左端の下部電極32上には、第2の導電部材44が形成される。
第2の導電部材44は、後述する正極からの出力を外部に取り出すためのもので、第1の導電部材42と同様に細長い帯状の部材であり、基板18の幅方向に略直線状に伸びて、左端の下部電極32に接続されている。
第2の導電部材44は、第1の導電部材42と同様の構成のものであり、例えば、銅リボン44aがインジウム銅合金の被覆材44bで被覆されたものである。
【0046】
太陽電池10では、太陽電池セル40に、上部電極38側から光が入射されると、この光が上部電極38およびバッファ層36を通過し、光電変換層34で起電力が発生し、例えば、上部電極38から下部電極32に向かう電流が発生する。なお、図1に示す矢印は、電流の向きを示すものであり、電子の移動方向は、電流の向きとは逆になる。このため、光電変換部48では、図1中、左端の下部電極32が正極(プラス極)になり、右端の下部電極32が負極(マイナス極)になる。
【0047】
本実施形態において、太陽電池10で発生した電力を、第1の導電部材42と第2の導電部材44から、太陽電池10の外部に取り出すことができる。
なお、本実施形態において、第1の導電部材42が負極であり、第2の導電部材44が正極である。また、第1の導電部材42と第2の導電部材44とは極性が逆であってもよく、太陽電池セル40の構成、太陽電池10構成等に応じて、適宜変わるものである。
また、本実施形態においては、各太陽電池セル40を、下部電極32と上部電極38により基板18の長手方向Lに直列接続されるように形成したが、これに限定されるものではない。例えば、各太陽電池セル40が、下部電極32と上部電極38により幅方向に直列接続されるように、各太陽電池セル40を形成してもよい。
【0048】
太陽電池セル40において、下部電極32および上部電極38は、いずれも光電変換層34で発生した電流を取り出すためのものである。下部電極32および上部電極38は、いずれも導電性材料からなる。光入射側の上部電極38は透光性を有する必要がある。
【0049】
下部電極(裏面電極)32は、例えば、Mo、Cr、またはW、およびこれらを組合わせたものにより構成される。この下部電極32は、単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。下部電極32は、Moで構成することが好ましい。
下部電極32は、厚さが100nm以上であることが好ましく、0.45〜1.0μmであることがより好ましい。
また、下部電極32の形成方法は、特に制限されるものではなく、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法等の気相成膜法により形成することができる。
【0050】
上部電極(透明電極)38は、例えば、Al、B、Ga、Sb等が添加されたZnO、ITO(インジウム錫酸化物)やSnO、および、これらを組合わせたものにより構成される。この上部電極38は、単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。また、上部電極38の厚さは、特に制限されるものではなく、0.3〜1μmが好ましい。
また、上部電極38の形成方法は、特に制限されるものではなく、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法等の気相成膜法または塗布法により形成することができる。
【0051】
バッファ層36は、上部電極38の形成時の光電変換層34を保護すること、上部電極38に入射した光を光電変換層34まで透過させるために形成されている。
このバッファ層36は、例えば、CdS、ZnS、ZnO、ZnMgO、またはZnS(O、OH)およびこれらの組合わせたものにより構成される。
バッファ層36は、厚さが、0.03〜0.1μmが好ましい。また、このバッファ層36は、例えば、CBD(ケミカルバスデポジション)法により形成される。
【0052】
光電変換層(光吸収層)34は、上部電極38およびバッファ層36を通過して到達した光を吸収して電流が発生する層であり、光電変換機能を有する。本発明において、光電変換層34は、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体である。
【0053】
中でも特に、光吸収率が高く、高い光電変換効率が得られることから、光電変換層34は、CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、Al、GaおよびInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、S、SeおよびTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることが好ましい。
この化合物半導体としては、CuAlS2、CuGaS2、CuInS2、CuAlSe2、CuGaSe2、CuInSe2(CIS)、AgAlS2、AgGaS2、AgInS2、AgAlSe2、AgGaSe2、AgInSe2、AgAlTe2、AgGaTe2、AgInTe2、Cu(In1-xGax)Se2(CIGS)、Cu(In1-xAlx)Se2、Cu(In1-xGax)(S、Se)2、Ag(In1-xGax)Se2、およびAg(In1-xGax)(S、Se)2等が挙げられる。
【0054】
光電変換層34は、CuInSe2(CIS)、および/または、これにGaを固溶したCu(In、Ga)Se2(CIGS)を含むことが特に好ましい。CISおよびCIGSはカルコパイライト結晶構造を有する半導体であり、光吸収率が高く、高い光電変換効率が報告されている。また、光照射等による効率の劣化が少なく、耐久性に優れている。
【0055】
光電変換層34には、所望の半導体導電型を得るための不純物が含まれる。不純物は隣接する層からの拡散、および/または、積極的なドープによって、光電変換層34中に含有させることができる。光電変換層34中において、I−III−VI族半導体の構成元素および/または、不純物には濃度分布があってもよく、n型、p型、およびi型等の半導体性の異なる複数の層領域が含まれていても構わない。
例えば、CIGS系においては、光電変換層34中のGa量に厚み方向の分布を持たせると、バンドギャップの幅/キャリアの移動度等を制御でき、光電変換効率を高く設計することができる。
【0056】
光電変換層34は、I−III−VI族半導体以外の1種又は2種以上の半導体を含んでいてもよい。I−III−VI族半導体以外の半導体としては、Si等のIVb族元素からなる半導体(IV族半導体)、GaAs等のIIIb族元素およびVb族元素からなる半導体(III−V族半導体)、およびCdTe等のIIb族元素およびVIb族元素からなる半導体(II−VI族半導体)等が挙げられる。光電変換層34には、特性に支障のない限りにおいて、半導体、所望の導電型とするための不純物以外の任意成分が含まれていても構わない。
また、光電変換層34中のI−III−VI族半導体の含有量は、特に制限されるものではない。光電変換層34中のI−III−VI族半導体の含有量は、75質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上が特に好ましい。
【0057】
なお、本例においては、光電変換層34が、主成分(75質量%以上)がCdTeの化合物半導体で構成される場合、基材12は炭素鋼またはフェライト系ステンレス鋼により構成されることが好ましい。
【0058】
光電変換層34として、CIGS層を利用する場合には、その成膜方法としては、1)多源同時蒸着法、2)セレン化法、3)スパッタ法、4)ハイブリッドスパッタ法、および、5)メカノケミカルプロセス法等が知られている。
【0059】
1)多源同時蒸着法としては、
3段階法(J.R.Tuttle et.al,Mat.Res.Soc.Symp.Proc.,Vol.426(1996)p.143.等)と、ECグループの同時蒸着法(L.Stolt et al.:Proc.13th ECPVSEC(1995,Nice)1451.等)とが知られている。
前者の3段階法は、高真空中で最初にIn、Ga、及びSeを基板温度300℃で同時蒸着し、次に500〜560℃に昇温してCu及びSeを同時蒸着後、In、Ga、及びSeをさらに同時蒸着する方法である。後者のECグループの同時蒸着法は、蒸着初期にCu過剰CIGS、後半でIn過剰CIGSを蒸着する方法である。
【0060】
CIGS膜の結晶性を向上させるため、上記方法に改良を加えた方法として、
a)イオン化したGaを使用する方法(H.Miyazaki, et.al, phys.stat.sol.(a),Vol.203(2006)p.2603.等)、
b)クラッキングしたSeを使用する方法(第68回応用物理学会学術講演会 講演予稿
集(2007秋 北海道工業大学)7P−L−6等)、
c)ラジカル化したSeを用いる方法(第54回応用物理学会学術講演会 講演予稿集
(2007春 青山学院大学)29P−ZW−10等)、
d)光励起プロセスを利用した方法(第54回応用物理学会学術講演会 講演予稿集(2007春 青山学院大学)29P−ZW−14等)等が知られている。
【0061】
2)セレン化法は2段階法とも呼ばれ、最初にCu層/In層または(Cu−Ga)層/In層等の積層膜の金属プリカーサをスパッタ法、蒸着法、または電着法などで成膜し、これをセレン蒸気またはセレン化水素中で450〜550℃程度に加熱することにより、熱拡散反応によってCu(In1-xGax)Se2等のセレン化合物を生成する方法である。この方法を気相セレン化法と呼ぶ。このほか、金属プリカーサ膜の上に固相セレンを堆積し、この固相セレンをセレン源とした固相拡散反応によりセレン化させる固相セレン化法がある。
【0062】
セレン化法においては、セレン化の際に生ずる急激な体積膨張を回避するために、金属プリカーサ膜に予めセレンをある割合で混合しておく方法(T.Nakada et.al,, Solar Energy Materials and Solar Cells 35(1994)204-214.等)、及び金属薄層間にセレンを挟み(例えば、Cu層/In層/Se層…Cu層/In層/Se層と積層する)多層化プリカーサ膜を形成する方法(T.Nakada et.al,, Proc. of 10th European Photovoltaic Solar Energy Conference(1991)887-890. 等)が知られている。
【0063】
また、グレーデッドバンドギャップCIGS膜の成膜方法として、最初にCu−Ga合金膜を堆積し、その上にIn膜を堆積し、これをセレン化する際に、自然熱拡散を利用してGa濃度を膜厚方向で傾斜させる方法がある(K.Kushiya et.al, Tech.Digest 9th Photovoltaic Science and Engineering Conf. Miyazaki, 1996(Intn.PVSEC-9,Tokyo,1996)p.149.等)。
【0064】
3)スパッタ法としては、
CuInSe2多結晶をターゲットとした方法、Cu2SeとIn2Se3をターゲットとし、スパッタガスにH2Se/Ar混合ガスを用いる2源スパッタ法(J.H.Ermer,et.al, Proc.18th IEEE Photovoltaic SpecialistsConf.(1985)1655-1658.等)、および
Cuターゲットと、Inターゲットと、SeまたはCuSeターゲットとをArガス中でスパッタする3源スパッタ法(T.Nakada,et.al, Jpn.J.Appl.Phys.32(1993)L1169-L1172.等)が知られている。
【0065】
4)ハイブリッドスパッタ法としては、前述のスパッタ法において、CuとIn金属は直流スパッタで、Seのみは蒸着とするハイブリッドスパッタ法(T.Nakada,et.al., Jpn.Appl.Phys.34(1995)4715-4721.等)が知られている。
【0066】
5)メカノケミカルプロセス法は、CIGSの組成に応じた原料を遊星ボールミルの容器に入れ、機械的なエネルギーによって原料を混合してCIGS粉末を得、その後、スクリーン印刷によって基板上に塗布し、アニールを施して、CIGSの膜を得る方法である(T.Wada et.al, Phys.stat.sol.(a), Vol.203(2006)p2593等)。
【0067】
その他のCIGSの成膜法としては、スクリーン印刷法、近接昇華法、MOCVD法、及びスプレー法(ウェット成膜法)などが挙げられる。例えば、スクリーン印刷法(ウェット成膜法)またはスプレー法(ウェット成膜法)等で、Ib族元素、IIIb族元素、及びVIb族元素を含む微粒子膜を基板上に形成し、熱分解処理(この際、VIb族元素雰囲気での熱分解処理でもよい)を実施するなどにより、所望の組成の結晶を得ることができる(特開平9−74065号公報、特開平9−74213号公報等)。
【0068】
また、本実施形態においては、基材12と光電変換層34との線膨張係数の差は、3×10-6/℃未満であることが好ましい。
光電変換層34に用いられる主な化合物半導体の線膨張係数は、III−V族系の代表であるGaAsで5.8×10-6/℃、II−VI族系の代表であるCdTeで4.5×10-6/℃、I−III−VI族系の代表であるCu(InGa)Se2で10×10-6/℃である。
基板18上に光電変換層34として、化合物半導体を500℃以上の高温で成膜した後に室温にまで冷却する際、基材12との熱膨張差が大きいと、剥離等の成膜不良が生じる。また、基材12との熱膨張差に起因する化合物半導体内の強い内部応力により、光電変換層34の光電変換効率が低下する可能性がある。基材12と光電変換層34(化合物半導体)の線膨張係数の差が3×10-6/℃未満であると、剥離等の成膜不良が生じにくくなり、好ましい。より好ましくは、線膨張係数の差は、1×10-6/℃未満である。ここで、線膨張係数、および線膨張係数の差は、いずれも室温(23℃)の値である。
【0069】
以下、このような太陽電池10を製造する、本発明の製造方法について説明する。
【0070】
まず、基材12を準備する。この基材12は、形成する基板18の大きさにより、所定の形状および大きさに形成されている。
次に、基材12の表面に、Al層14を形成する。基材12の表面に、Al層14を形成する方法としては、基材12とAl層14との密着性が確保できる一体化結合ができていれば、特に限定されるものではない。一例として、蒸着法やスパッタ法等の気相法、非水電解液を用いた電気Alメッキ法、溶融Alに浸漬する溶融メッキ法、表面清浄化後の加圧接合法等を用いることができる。なお、溶融メッキ法を用いてAl層14を形成する場合には、基板18とAl層14との界面に、金属間化合物が形成される可能性が高いので、この金属間化合物が厚くならないようにする必要がある。
Al層14の形成法としては、コストや量産性などの点から、ロール圧延等による加圧接合が好ましい。
【0071】
次いで、必要に応じてAl層の表面以外をマスキングして、Al層14の表面(Alの陽極酸化による絶縁層16の形成面)を、酸性洗浄液で洗浄して、Al層14の表面に存在する金属間化合物を除去する。
【0072】
前述のように、Al層の表面に、Alを陽極酸化してなる絶縁層を有する基板は、120℃以上に加熱されると、絶縁層にクラックが入ってしまい、絶縁性が低下してしまう。この原因として、Al(23×10-6/℃)と、Alの陽極酸化膜(7×10-6/℃程度と推定)との熱膨張係数の差が挙げられる。
ここで、前述のように、この熱膨張係数の差に起因する絶縁層のクラックは、基材12の上にAl層14を形成し、このAl層14を陽極酸化してなる絶縁層を形成することで、大幅に回避することができる。しかしながら、このような基材12を有する基板18を用いても、光電変換層34の成膜等の際に、500℃以上の熱履歴を受けると、やはり、絶縁層16に、絶縁性能を大幅に低下させてしまうクラックが発生してしまうことが、多々、生じる。
【0073】
本発明者は、この原因について、鋭意、検討を重ねた。その結果、加熱によって絶縁層16にクラックが入ってしまう原因として、AlとAlの陽極酸化膜の線膨張係数の差の他に、Al層表面の金属間化合物(IMC(Inter Metallic Compound))が、クラックの原因であることを見出した。
純度99.99%(4N)のAlであっても、その表面には、Al3Fe、Al6Fe、Al2Cu、α−AlFeSi、β−AlFeSi等の金属間化合物が存在する。このような金属間化合物が残った状態で、陽極酸化を行って絶縁層16を形成し、さらに、下部電極32等を形成して、その後、500℃などの高温でCIGS層等の光電変換層34を成膜すると、この成膜時に、Al層14の表面に存在する金属間化合物が起点となって、絶縁層16にクラックが発生してしまう。このクラックの発生によって、場合によっては、絶縁性能を、大幅に低下させてしまう。
【0074】
これに対し、本発明の太陽電池の製造方法では、Alの陽極酸化による絶縁層16の形成に先立ち、Al層を酸性洗浄液で洗浄する。
Al層14の表面に存在する前述のような金属間化合物は、多くの物が酸で溶解可能である。従って、本発明によれば、この洗浄によって、Al層14に残存する金属間化合物を大幅に低減して、Alの陽極酸化による絶縁層16を形成できる。そのため、その後、500℃以上の高温での光電変換層34の成膜等を行っても、Al層14の金属間化合物に起因するクラックの発生を、大幅に低減して、絶縁特性を維持することができる。
また、500℃以上のでの成膜工程を経ても、高い絶縁性を維持できるということは、すなわち、500℃以上の成膜温度で、光電変換層を成膜できるということである。従って、本発明によれば、500℃以上の高温でCIGS層などの光電変換層34を成膜できるので、変換特性が優れた太陽電池を製造することができる。
【0075】
本発明において、Al層14の表面を洗浄する酸性洗浄液としては、硫酸、硝酸、燐酸、過塩素酸等の各種の酸、これらの酸の混合物、および、これらの酸を含む溶液が、各種、利用可能である。
中でも、高い金属間化合物の除去効果が得られる等の点で、硫酸は好適に利用可能であり、特に300g/L(リットル)以上の濃度を有する硫酸(300g/L以上の硫酸を含有する酸性洗浄液)は、好適に利用される。
【0076】
また、Al層14の表面を洗浄する酸性洗浄液の温度にも、特に限定はないが、同様に、高い金属間化合物の除去効果が得られる等の点で、60℃以上の酸性洗浄液を用いるのが好ましい。
【0077】
さらに、洗浄方法にも、特に限定はなく、洗浄面を酸性洗浄液に浸漬する方法、酸性洗浄液をスプレーする方法、酸性洗浄液を塗布する方法等、各種の方法が利用可能である。特に、同様に、高い金属間化合物の除去効果が得られる等の点で、酸性洗浄液に、Al層14の表面(洗浄面)を3秒以上浸漬することにより、洗浄を行うのが好ましい。
【0078】
以上の点を考慮すると、本発明は、好ましくは、温度が60℃以上で、かつ、濃度が300g/L以上の硫酸を酸性洗浄液として用い、Al層14の表面を3秒以上、この酸性洗浄液に浸漬することにより、Al層14の表面を洗浄するのが好ましい。
【0079】
また、本発明においては、このような酸性洗浄液を用いたAl層14の表面の洗浄において、単位面積当たり、例えば、5mm2当たり、金属間化合物を50%以上、除去するのが好ましい。
このようにAl層14の表面の洗浄を行うことにより、洗浄の効果を十分に得て、より好適に、後の光電変換層34の成膜時等における絶縁層16のクラック発生を抑制することができる。
【0080】
このようにして、Al層14の表面を洗浄したら、水洗等を行って十分に酸性洗浄液を除去し、Al層14の表面(洗浄面)を陽極酸化して、絶縁層16を形成する。これにより、基板18が得られる。
【0081】
Alの陽極酸化は、公知の方法が、各種、利用可能である。以下、絶縁層16である陽極酸化膜の形成方法について、一例を説明する。
前述のように、絶縁層16はAl層14の表面を陽極酸化してなる陽極酸化膜である。陽極酸化膜は、基材12を陽極として、陰極と共に電解液に浸漬させ、陽極陰極間に電圧を印加することにより陽極酸化膜を形成することができる。
このとき、基材12が電解液に接触すると、Al層14と局部電池を形成するため、電解液に接触する基材12を絶縁しておく必要がある。すなわち、Al層14の表面以外の基材12の端面および裏面(Al層14形成面の逆面)を、マスキングフィルム等を用いて絶縁しておく必要がある。
【0082】
なお、陽極酸化処理前には、必要に応じて、Al層14の表面に、アルカリ等を用いた洗浄処理、機械研磨や電解研磨などの研磨平滑化処理等を施してもよい。
【0083】
陽極酸化時の陰極としてはカーボンまたはAl等が使用される。
電解液には、特に限定はなく、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、マロン酸、酒石酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、およびアミドスルホン酸等の酸を、1種または2種以上含む酸性電解液を用いるのが好ましい。特に、硫酸、リン酸、シュウ酸、またはこれらの混合液が好ましい。
陽極酸化条件は使用する電解質の種類にもより特に限定されるものではない。陽極酸化条件としては、例えば、電解質濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度0.005〜0.60A/cm、電圧1〜200V、電解時間3〜500分の範囲である。
【0084】
陽極酸化処理時には、Al層14の表面から略垂直方向に酸化反応が進行し、Al層14の表面に陽極酸化膜が生成される。上述の酸性電解液を用いた場合、陽極酸化膜は、多数の平面視略正六角形状の微細柱状体が隙間なく配列し、各微細柱状体の中心部には丸みを帯びた底面を有する微細孔が形成され、微細柱状体の底部にはバリヤ層(通常、厚さ0.02〜0.1μm)が形成されたポーラス型となる。
このようなポーラス構造を有する陽極酸化膜は、曲げ耐性および高温時の熱膨張差により生じるクラック耐性が高いものであるのは、前述のとおりである。
【0085】
なお、バリヤ層の層厚を厚くする目的で、酸性電解液でポーラスな陽極酸化膜を生成した後に、中性電解液で再電解処理する、ポアフィリング法を利用してもよい。バリヤ層を厚くすることにより、より絶縁性の高い被膜とすることができる。
また、このようなAlの陽極酸化において、このような酸性電解液を用いず、ホウ酸等の中性電解液で電解処理すると、ポーラスな微細柱状体が配列した陽極酸化膜でなく緻密な陽極酸化膜(非ポーラスな酸化アルミニウム単体膜)となる。
【0086】
絶縁層16である陽極酸化膜の好ましい厚さは、上述のように、2〜50μmである。この厚さは、定電流電解、定電圧電解の電流、電圧の大きさおよび電解時間により制御可能である。
また、陽極酸化処理については、例えば、公知のいわゆるロール・ツー・ロール方式の陽極酸化処理装置により行うことができる。
【0087】
陽極酸化処理後に、マスキングフィルムを剥がす。これにより、基板18を作製することができる。
【0088】
このようにして、基板18を作製したら、この基板18に、太陽電池セル40を形成する。なお、以下の太陽電池セルの形成方法は、基本的に、公知の太陽電池(太陽電池モジュール)の製造方法と同様でよい。
【0089】
まず、基板18の絶縁層16の表面に、例えば、ソーダ石灰ガラスをターゲットとして用いるスパッタリングや、SiおよびNaを含むアルコキシドからを用いたゾルゲル法によって、アルカリ供給層50を成膜する。
次に、アルカリ供給層50の表面に下部電極32となるMo膜を、例えば、成膜装置を用いて、スパッタ法により形成する。
次に、例えばレーザースクライブ法を用いて、Mo膜の所定位置をスクライブして、基板18の幅方向に伸びた間隙33を形成する。これにより、間隙33により互いに分離された下部電極32が形成される。
【0090】
次に、下部電極32を覆い、かつ間隙33を埋めるように、光電変換層34(p型半導体層)を成膜する。
光電変換層34は、例えばCIGS層であり、前述の何れか成膜方法により、公知の方法で形成すればよい。
【0091】
ここで、CIGS等の化合物半導体からなる光電変換層34は、高温で成膜する方が太陽電池の変換効率の点で好ましいのは、前述のとおりであり、500℃以上の成膜温度で、成膜を行うのが好ましい。
ここで、本発明においては、Alの陽極酸化による絶縁層16の形成に先立ち、Al層14表面を酸性洗浄液で洗浄して、Al層14の表面に存在する金属間化合物を除去しているので、500℃以上の温度で光電変換層34の成膜を行っても、金属間化合物を起点とする絶縁層16のクラック発生を、好適に抑制することができ、優れた絶縁特性を維持することができる。
【0092】
光電変換層34を成膜したら、次に、CIGS層上にバッファ層36となるCdS層(n型半導体層)を、例えば、CBD(ケミカルバスデポジション)法により形成する。これにより、pn接合半導体層が構成される。
次に、間隙33とは太陽電池セル40の配列方向に異なる所定位置を、例えばレーザースクライブ法を用いてスクライブして、基板18の幅方向に伸びた、下部電極32にまで達する間隙37を形成する。
【0093】
次に、バッファ層36上に、間隙37を埋めるように、上部電極38となる、例えば、Al、B、Ga、Sb等が添加されたZnO層を、スパッタ法や塗布法により形成する。
次に、間隙33および37とは、太陽電池セル40の配列方向に異なる所定位置を、例えばレーザースクライブ法を用いてスクライブして、基板18の幅方向に伸びた、下部電極32にまで達する間隙39を形成する。これにより、太陽電池セル40が形成される。
【0094】
次に、基板18の長手方向Lにおける左右側の端の下部電極32上に形成された各太陽電池セル40を、例えば、レーザースクライブまたはメカニカルスクラブにより取り除いて、下部電極32を表出させる。次に、右側の端の下部電極32上に第1の導電部材42を、左側の端の下部電極32上に第2の導電部材44を、例えば、超音波半田を用いて接続する。
これにより、図2に示すように、複数の太陽電池セル40が電気的に直列に接続された太陽電池10を製造することができる。
【0095】
さらに、必要に応じて、得られた太陽電池10の表面側に封止接着層、水蒸気バリア層および表面保護層を配置し、太陽電池10の裏面側、すなわち、基板18の裏面側に封止接着層およびバックシートを配置して、例えば、真空ラミネート法によりラミネート加工して、これらを一体化する。
【0096】
以上、本発明の太陽電池の製造方法について詳細に説明したが、本発明は、上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0097】
以下に、本発明の絶縁性基板の具体的実施例を挙げ、本発明を、より詳細に説明する。
[実施例1]
純度99.5%のAl板と、ステンレス鋼板(SUS430)とを加圧接合して、基材12(ステンレス鋼)の厚さが50μm、Al層14の厚さが30μmの(2層)クラッド材とした。
このクラッド材のAl層14の表面を、60℃で濃度500g/Lの硫酸に、10秒間、浸漬して、Al層表面の洗浄を行った。
洗浄後、Al層14の表面を十分に水洗して、基材面および端面をマスキングフイルムで被覆した後、温度16℃、0.5mol/Lのシュウ酸溶液中で40Vの定電圧電解することにより、9μm厚さの絶縁層16(Alの陽極酸化膜)を形成して、図1に示されるような、基材12、Al層14および絶縁層16を有する基板18を作製した。
【0098】
[実施例2]
硫酸による洗浄時間(浸漬時間)を20秒とした以外は、実施例1と同様にして、図1に示されるような基板18を作製した。
【0099】
[実施例3]
硫酸による洗浄時間(浸漬時間)を40秒とした以外は、実施例1と同様にして、図1に示されるような基板18を作製した。
【0100】
[実施例4]
純度99.99%のAl板を用いた以外は、実施例3と同様にして、図1に示されるような基板18を作製した。
【0101】
[比較例1]
硫酸によるAl層14の表面洗浄を行わない以外は、実施例1(Al層の純度99.5%)と同様にして、図1に示されるような基板18を作製した。
【0102】
[比較例2]
硫酸によるAl層14の表面洗浄を行わない以外は、実施例4(Al層の純度99.99%)と同様にして、図1に示されるような基板18を作製した。
【0103】
このように作製した各基板について、Al層表面の硫酸洗浄の効果、および、光電変換層34としてのCIGS層を成膜する際を模した熱処理による、絶縁層16のクラック発生を、評価した。
【0104】
[硫酸による洗浄の効果]
硫酸による洗浄の前後で、Al層14の表面の同位置をSEMで撮影して、撮影画像中で任意に選択した面積5mm2の同位置において、除去された金属間化合物と、残った金属間化合物との割合(除去率)を調べた。
【0105】
[熱処理によるクラックの発生]
光電変換層34としてのCIGS層の成膜を模して、各基板を、400℃、450℃、500℃、530℃、および、560℃の、赤外線加熱炉に15分保持した。
熱処理した各基板から、基材12(ステンレス鋼)とAl層14とを、ヨードメタノール処理して溶解して、絶縁層16(Alの陽極酸化膜)の単膜を取り出した。
この絶縁層16を目視によって観察して、クラックの発生状態を評価した。評価は、以下のとおである。
○; クラックの発生無し。
△; クラックは存在するが、2cm2内に3つ以上のクラックが存在せず、かつ、2つ以上が交差したクラック、2つ以上が連結したクラック、および、2つ以上が接続したクラックが、いずれも存在しない。
×; 前記△の条件を1個以上を満たすクラックが存在する。
【0106】
【表1】

【0107】
上記表1に示されるように、本発明によれば、高温で処理を行っても絶縁層16にクラックが入ることを好適に抑制できるので、例えば、太陽電池の製造において、光吸収層34としてCIGS層を成膜した際にも、十分に絶縁特性を確保することができる。なお、評価が△であれば、絶縁層16にクラックが有っても、太陽電池の絶縁層に要求される絶縁特性として、実用上、何ら問題は無い。
さらに、本発明によれば、純度99.99%のAl板を用いることで、560℃という高温での光電変換層34の成膜が可能であり、光電変換層34を高温成膜した、変換効率の高い太陽電池を製造することが可能である。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明は、発電装置等の太陽電池を利用する分野に、各種、利用可能である。
【符号の説明】
【0109】
10 太陽電池
12 基材
14 Al層
16 絶縁層
18 基板
30 太陽電池
32 下部電極
33,37,39 間隙
34 光電変換層
36 バッファ層
38 上部電極
40 薄膜太陽電池
42 第1の導電部材
44 第2の導電部材
50 アルカリ供給層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムからなる表面を有する基板の、前記アルミニウムの表面を酸性洗浄液で洗浄する工程、
前記アルミニウムの洗浄面を陽極酸化する工程、
および、この陽極酸化膜を絶縁層として、前記基板に、Ib族元素、IIIb族元素およびVIb族元素からなる少なくとも1種の化合物半導体からなる光電変換層を有する薄膜太陽電池を形成する工程、を有することを特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記化合物半導体の前記Ib族元素が、CuおよびAgの少なくとも一方であり、
前記IIIb族元素が、Al、GaおよびInからなる群より選択された少なくとも1種の元素であり、
前記VIb族元素が、S、SeおよびTeからなる群より選択された少なくとも1種の元素である請求項1に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記酸性洗浄液が、温度が60℃以上で、濃度300g/L以上の硫酸を含む酸性洗浄液であり、
この酸性洗浄液に、前記アルミニウムの表面を3秒以上浸漬することにより、前記アルミニウムの表面の洗浄を行う請求項1または2に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記光電変換層を、500℃以上の成膜温度で成膜する請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記酸による洗浄で、アルミニウム表面に存在する金属間化合物を単位面積当たりで50%以上除去する請求項1〜4のいずれかに記載の太陽電池の製造方法。
【請求項6】
前記基板が、金属基材の表面にアルミニウム層を形成してなる基板である請求項1〜5のいずれかに記載の太陽電池の製造方法。
【請求項7】
前記金属基材がステンレス鋼である請求項6に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項8】
前記Alの陽極酸化による絶縁層の形成を、酸性電解液を用いて行う請求項1〜7のいずれかに記載の太陽電池の製造方法。
【請求項9】
前記基板が、前記金属基材にアルミニウム板を加圧接合してなるものである請求項6〜8のいずれかに記載の太陽電池の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−159685(P2011−159685A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18230(P2010−18230)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】