説明

太陽電池アレイ検査装置および太陽電池アレイ検査方法

【課題】 不良の太陽電池パネルについて低下した出力電力の推定値を算出する太陽電池アレイの検査装置および検査方法を提供する。
【解決手段】 複数の太陽電池パネル10を含む太陽電池アレイの検査方法であって、太陽電池アレイに直流電源6を接続して通電し、太陽電池アレイの太陽電池パネル10の画像を取得し、画像を解析して指標を算出し、指標に対する太陽電池パネル10の出力特性を用いて太陽電池パネル10の出力電力の推定値を算出し、算出した推定値に基づいて太陽電池パネル10を交換すべきか否か判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、太陽電池アレイ検査装置および太陽電池アレイ検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、脱石油エネルギーの流れを受け、世界的に太陽光発電システムの導入が急増している。世界各地で発電出力が1MWを超えるメガソーラーといわれる大規模な太陽光発電システムも各国に建設されている。このメガソーラーでは、数万枚の太陽電池パネルが使用されることがあり、故障検出技術やメンテナンス技術が必要とされているが、まだ技術が発展途上である。
【0003】
ところで、太陽光発電システムの出力特性は日射強度などの環境条件によって大きく変動するため、故障などによって本来の出力が得られていない場合でも、出力低下を環境条件の影響によるものと誤認してしまう可能性があった。これまでは、過去の発電量を記録しておき、経時的な変化をみることが一般的であった。さらに故障パネルの特定を行おうとした場合、太陽電池パネルを一枚ずつ取り外して電気特性を測定しなくてはならず、多大な時間と労力を要していた。
【0004】
太陽電池パネルに、はんだ接続部のクラック、バイパスダイオード不良などの異常が発生すると、出力が低下することがある。これらの異常は発熱を伴うため、発電中の太陽電池パネル表面や裏面、温度やバイパスダイオードの取付箇所の温度を測定する検査方法がある。また、発電中ではなく太陽電池パネルに通電して、発熱箇所を特定することも行われている。
【0005】
これらの方法では、発熱の有無によって太陽電池セルに何らかの異常があること、及びバイパスダイオードの故障を検出することができるが、パネルの出力が低下しているかどうかを判断することはできなかった。
【0006】
すなわち、発熱箇所が発見されても、そのパネルが公称最大出力の許容範囲外の不良品であるのか、又は許容範囲内の正常品なのかを判定できない。なお、許容範囲としては、JIS C 8918(結晶系太陽電池モジュール)及びJIS C 8939(アモルファス太陽電池モジュール)では、公称最大出力の90%以上が規定されている。したがって、交換する必要のないパネルを不良品と誤認して交換してしまうリスクがある。
【0007】
また、太陽電池パネルを構成している太陽電池セルに、機械的なクラックやセル表面に配置されたフィンガー電極が断線していると出力が低下することがある。このようなセル内部の異常を検出する方法として、パネルに通電して近赤外線カメラなどで観察する方法がある。具体的には太陽電池パネルに発電時相当の電流を流し、セルから発生する微弱発光を観察すると、クラックやセル表面に配置されたフィンガー電極の断線などの欠陥部分が、発光不良箇所として検出される。この方法は、太陽電池パネル製造メーカが製造ラインの中でパネルの品質管理のために使用されており、屋外に設置されている太陽電池アレイは検査対象としていない。
【0008】
この他、パネル通電時の微弱発光を既設の太陽電池アレイのメンテナンスに適用する方法が提案されている。上記の従来の方法では、太陽電池パネルを構成している太陽電池セルについて、性能低下した太陽電池セルを特定して、交換することが述べられている。
【0009】
しかし、太陽電池パネルは多様な環境で動作するように、非常に頑丈に作られているため、特定の太陽電池セルだけを交換することは困難である。また、太陽電池パネルに性能低下した太陽電池セルが存在していたとしても、パネル全体では許容範囲(公称最大出力の90%以上)を満たしている場合があり、太陽電池パネル一式を交換すると不経済である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−329879号公報
【特許文献2】特開2001−24204号公報
【特許文献3】特開2000−59986号公報
【特許文献4】特開2004−363196号公報
【特許文献5】WO2007/125778号公報
【特許文献6】特許第4235685号公報
【特許文献7】特開2011−29477号公報
【特許文献8】WO2006/059615号公報
【特許文献9】WO2007/129585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、従来の太陽電池アレイの検査方法では、太陽電池アレイ中のどの位置の太陽電池パネルで故障が発生しているかを検出することが困難であった。また、太陽電池パネル表面や裏面の温度測定、通電時の発熱分布又は微弱発光分布から性能低下した太陽電池セルを不良と判定する方法では、特定のパネルに何らかの異常が発生していることはわかっても、どの程度出力が低下しているか判断することが困難であった。
【0012】
本発明は上記実情を鑑みてなされたものであって、不良の太陽電池パネルについて低下した出力電力の推定値を算出する太陽電池アレイの検査装置および太陽電池アレイの検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
実施形態によれば、複数の太陽電池パネルを含む太陽電池アレイの検査方法であって、前記太陽電池アレイに直流電源を接続して通電し、前記太陽電池アレイの前記太陽電池パネルの画像を取得し、前記画像を解析して指標を算出し、前記指標に対する前記太陽電池パネルの出力特性を用いて前記太陽電池パネルの出力電力の推定値を算出し、算出した推定値に基づいて前記太陽電池パネルを交換すべきか否か判断する、太陽電池アレイの検査方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態の太陽電池パネルの検査装置の設置例を示す図である。
【図2】複数の太陽電池パネルを含む太陽電池アレイから発電電力を出力させる場合の切換手段の接続状態の一例を示す図である。
【図3】太陽電池アレイの太陽電池パネルへ、直流電源から直流電力を供給する場合の切換手段の接続状態の一例を示す。
【図4】一実施形態の太陽電池アレイ検査方法の一例を説明するフローチャートである。
【図5A】直流電源から太陽電池パネル(パネルA)へ電圧を印加して、一定時間後に温度が安定したときの熱画像の一例を示す図である。
【図5B】直流電源から太陽電池パネル(パネルB)へ電圧を印加して、一定時間後に温度が安定したときの熱画像の一例を示す図である。
【図5C】直流電源から太陽電池パネル(パネルC)へ電圧を印加して、一定時間後に温度が安定したときの熱画像の一例を示す図である。
【図5D】直流電源から太陽電池パネル(パネルD)へ電圧を印加して、一定時間後に温度が安定したときの熱画像の一例を示す図である。
【図6A】直流電源と太陽電池パネル(パネルE)とを通電し、近赤外線カメラで撮影した発光画像の一例を示す図である。
【図6B】直流電源と太陽電池パネル(パネルF)とを通電し、近赤外線カメラで撮影した発光画像の一例を示す図である。
【図6C】直流電源と太陽電池パネル(パネルG)とを通電し、近赤外線カメラで撮影した発光画像の一例を示す図である。
【図7】図5に示した太陽電池パネルの熱画像を多値化した例を示す図である。
【図8】太陽電池パネルの交換指標として、上記中温部分の比率を採用した場合の推定出力(又は定格出力比)特性の一例を示す図である。
【図9】長期間の使用により出力が公称最大出力の61%に低下した太陽電池パネルの発光画像の一例を示す図である。
【図10】太陽電池パネルの交換指標として、太陽電池セル上のブスバー周辺の温度差又は輝度差が大きい太陽電池セルの個数を採用した場合の推定出力(又は定格出力比)特性の一例を示す図である。
【図11】太陽電池パネルの交換指標として、太陽電池パネルの発光画像および熱画像全面の平均輝度を採用した場合の推定出力(又は定格出力比)特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態の太陽電池アレイの検査装置および太陽電池アレイの検査方法について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1に、第1実施形態の太陽電池アレイの検査装置の設置例を示す。
太陽電池アレイの検査装置は、赤外線カメラ及び近赤外線カメラ等のカメラ(画像取得手段)2と、画像解析装置4と、直流電源6と、を備えている。
【0017】
カメラ2は、太陽電池パネル10を撮影するように三脚等のカメラ架台3により位置を調整され、太陽電池パネル10の画像を赤外線カメラ及び近赤外線カメラで撮影する。赤外線カメラ及び近赤外線カメラと画像解析装置4はケーブルでつないでも良く、無線による伝送、記録メディアでデータの受け渡しを行っても良い。
【0018】
なお、カメラ2は手持ちで撮影しても良いが、後段の画像処理に与える影響を低減するため、できればカメラ架台3を使用するのが望ましい。カメラ架台は安定したものであれば、三脚であっても台車状のものであってもかまわない。
【0019】
直流電源6は複数の太陽電池パネル10に直流電力を供給するように接続されている。直流電源6により通電された太陽電池パネル10は発熱及び微弱発光する。
【0020】
図2に、複数の太陽電池パネル10を含む太陽電池アレイから発電電力を出力させる場合の接続状態の一例を示す。太陽電池アレイのそれぞれは正極端子と負極端子とを備えている。正極端子は接続箱7のスイッチ(切換手段)SWを介して電力出力ライン(正側)と接続される。負極端子は接続箱7を介して電力出力ライン(負側)と接続されている。
【0021】
スイッチSWは、太陽電池アレイの正極端子を、ダイオードDを介して電力出力ライン(正側)と接続する経路と、ダイオードDを介することなく電力出力ライン(正側)と接続する経路とを切換える。ダイオードDは太陽電池アレイの正極端子から電力出力ライン(正側)へ電流が流れる方向に接続され、太陽電池アレイへの逆流を防止する。
【0022】
太陽電池アレイから発電電力を出力させる場合、スイッチSWは、太陽電池アレイの正極端子を、ダイオードDを介する経路で電力出力ライン(正側)と接続する。
【0023】
図3に、太陽電池アレイの太陽電池パネル10へ、直流電源6から直流電力を供給する場合の接続状態の一例を示す。直流電源6は、正極端子が電力出力ライン(正側)と電気的に接続され、負極端子が電力出力ライン(負側)と電気的に接続される。
【0024】
スイッチSWは、太陽電池アレイの正極端子を、ダイオードDを介さない経路で電力出力ライン(正側)と接続する。このようにスイッチSWを切換えてダイオードDを介さない経路を設けることにより、電力出力ラインから太陽電池アレイへ電力を供給することが可能となる。
【0025】
次に、上記太陽電池アレイの検査装置を用いた太陽電池アレイの検査方法について説明する。図4に本実施形態の太陽電池アレイ検査方法の一例を説明するフローチャートを示す。
【0026】
一実施形態の太陽電池アレイの検査方法は、検査対象の太陽電池アレイを選定する工程(ステップST1)と、太陽電池アレイに直流電源6を接続して通電する工程(ステップST2)と、熱画像及び発光画像を取得する工程(ステップST3、ST4)と、熱画像及び発光画像を解析する工程(ステップST5)と、太陽電池パネル10を交換すべきか否か判断する工程(ステップST6)と、太陽電池パネル10を交換する工程(ステップST7)とを含む。
【0027】
本実施形態の太陽電池アレイの検査方法が、従来の赤外線カメラ及び近赤外線カメラによる検査方法と異なる点は、熱画像及び発光画像を画像解析して、太陽電池パネルの出力電力との関係付けを行っていることである。
【0028】
以下、具体的に検査方法を説明する。まず、複数の太陽電池アレイから、検査対象の太陽電池アレイとして一定期間の発電量または任意の時点の出力が最も低いものを選択する(ステップST1)。検査アレイの選択方法は、アレイ出力が低下していることを推定できる方法を用いるのであれば、上記の方法以外でも良い。
【0029】
なお、メガソーラーのような大規模太陽光発電設備では、検査対象の太陽電池アレイを一定期間の発電量または任意の時点の出力が低い順から高い順に選択する。これは、メガソーラーのような大規模太陽光発電所において検査を行う際に、効率よく検査を行うために不可欠な工程である。具体的には、複数の太陽電池アレイからの出力が集まるPCS(パワーコンディショナー)の近くで電流・電圧を監視し、一定期間の発電量や任意の時点の出力が最も低いアレイから昇順に検査対象とする。こうすることで、異常パネルが存在する可能性が高いアレイから検査することができ、メンテナンスの作業効率が向上する。
【0030】
次に、検査対象の太陽電池アレイに直流電源6を接続する。直流電源6と太陽電池アレイとの接続は、直流電源6のプラス側を太陽電池アレイの正側に接続し、直流電源6のマイナス側を太陽電池アレイの負側に接続する。このとき、太陽電池アレイには安全上の理由で逆流防止ダイオードDが接続されていることがあるが、直流電源ケーブルは逆流防止ダイオードを回路に含まないようにスイッチSWを切換えて接続する。
【0031】
続いて、直流電源6と太陽電池アレイとを通電する(ステップST2)。通電条件は太陽電池アレイの枚数によって異なるが、電流は各太陽電池パネル10の最適動作電流相当とし、電圧は開放電圧と太陽電池パネル10の枚数とを乗じた値相当とする。太陽電池アレイに含まれる太陽電池パネル10は直列接続されているため、各太陽電池パネル10に流れる電流はすべて一定である。このため、複数の太陽電池パネル10の熱画像及び発光画像を横並びで比較することが容易にできる。これは、大量の太陽電池パネル10を検査する場合に特に効果的である。なお、直流電源の電圧が不足する場合には、一度に接続するパネル枚数を少なくし、数回に分けて検査しても良い。
【0032】
次に、赤外線カメラおよび近赤外線カメラ等のカメラ2を用いて、熱画像及び発光画像を撮影する(ステップST3、ST4)。熱画像の撮影には8〜14μm程度に感度を持つサーモグラフィが、発光画像の撮影には波長1000nm〜1300nm程度に感度を持つ近赤外線カメラが好適である。発光画像撮影の際には上記波長を含む光が太陽電池アレイに入り込むと、画質が低下して適切な画像が得られない。上記範囲の波長は太陽光にも含まれるため、太陽電池アレイの検査を行うのは日没後が望ましい。なお、LEDライトには上記波長は含まれないため、撮影時にLEDライトから出射した光が太陽電池アレイに照射されていても問題ない。
【0033】
続いて、カメラ2により撮影した熱画像及び発光画像について画像解析装置4により画像解析を行う(ステップST5)。
図5A乃至図5Dに、直流電源により太陽電池パネル10(パネルA〜パネルD)へ電圧を印加して、一定時間後に温度が安定したときの熱画像の一例を示す。図5では、複数の太陽電池パネル10(パネルA〜パネルD)が温度に対応した色で発熱分布が表示される。例えば、低温部分は黒色、高温部分は白色とした場合、低温部分と高温部分との間の中温部分は複数の温度範囲に分割され、グラデーションとなるようにそれぞれに対応する色(輝度)が割り当てられる。
【0034】
通電条件は、電流は各パネルの最適動作電流相当であり、電圧は各パネルの開放電圧相当である。太陽電池パネルA〜Dは、いずれも約5〜12年使用されていた多結晶シリコンパネルであり、いずれもソーラシミュレータにより使用後のIV特性を取得している。パネルAは公称最大出力の98%であり、発熱ムラはみられない。
【0035】
次に、パネルBには3箇所に発熱部/未発熱部を持つセルがみられる。一見すると不良品のようにみえるが、公称最大出力の91%を維持しており、JIS規定では正常品に区分される。パネルCは多くの箇所に発熱部/未発熱部を持つセルがみられ、出力も公称最大出力の61%であるため、不良品に区分される。
【0036】
このように、パネルAからパネルCの間に、様々な出力レベルのパネルがあり、これを画像処理で機械的に判別するのがこの実施形態の特徴である。画像処理の具体例については後述する。また、パネルDは左側中央に高温の発熱点がみられる。ここにはバイパスダイオードが設置されており、画像上部1/3のセルに何らかの異常があるため、バイパスダイオードに電流が迂回し、発熱しているものである。なお、出力は公称最大出力の88%であり、JIS規定では不良品に区分される。
【0037】
図6A乃至図6Cに、直流電源6と太陽電池パネル10(パネルE〜パネルG)とを通電し、近赤外線カメラで撮影した発光画像の一例を示す。図6の発光画像では、複数の太陽電池パネル10(パネルE〜パネルG)の微弱発光が撮影されて光強度分布が表示されている。電流が流れている部分は明るく表示され、何らかの理由で電流が流れていない部分は暗く表示される。
【0038】
通電条件は、電流は各パネルの最適動作電流相当であり、電圧は各パネルの開放電圧相当である。太陽電池パネルE〜Gは、いずれも約5〜12年使用されていた多結晶シリコンパネルであり、いずれもソーラシミュレータにより使用後のIV特性を取得している。パネルEは公称最大出力の98%であり、パネル全面が均一に発光している。パネルFは公称最大出力の81%であり、数箇所のセルに発光ムラがみられる。パネルGは公称最大出力の61%であり、多くの箇所に発光ムラのセルがみられる。このように、パネルE〜Gの間に、様々な出力レベルのパネルがあり、これらを画像処理する(ステップST5)ことにより機械的に不具合品を判別し、交換が必要か否か判断する(ステップST6)。
【0039】
画像解析装置4は、例えば上記熱画像および発光画像を多値化した後、出力低下しているか否かを判断し、交換が必要と判断した太陽電池パネル10についてはパネル交換を行うようにユーザに提示する(ステップST7)。
【0040】
以下、ステップST5乃至ステップST6において、画像解析装置4が画像処理および、不具合品を判別し交換が必要か否か判断する動作例について具体的に説明する。
【0041】
図7に、図5に示したパネルB及びパネルCの熱画像を多値化した例を示す。ここでいう多値化とは、発熱分布を持つ熱画像を1つ以上のしきい値で2レベル以上の温度範囲に分別することをいう。しきい値は熱に対応する輝度値であり、例えば、1つのしきい値で2レベルの温度範囲(低温部分および高温部分)に分別する場合を2値化といい、2つのしきい値を設けて3レベルの温度範囲(低温部分、中温部分、および、高温部分)に分別することを3値化という。
【0042】
図7は3値化の例であり、パネルBについて説明すると、画像解析装置4は、まず元の熱画像を前処理工程で正規化した。続いて、画像解析装置4は、2つのしきい値(第1閾値>第2閾値)を設定して、第1閾値よりも輝度が高い高温部分と、第2閾値以上第1閾値以下の輝度の中温部分と、第2閾値よりも輝度が低い低温部分とに分別した。パネルCについても同様の処理を行い、高温部分と、中温部分と、低温部分とに分別した。
【0043】
図7に示す例では、パネルBは、高温部分(白線に囲まれた部分)は面積比が略10%であり、低温部分(灰色線で囲まれた部分)は面積比が略7%であり、中温部分(線に囲まれない部分)は面積比が83%であった。パネルCは、高温部分の面積比が12%であり、中温部分の面積比が72%であり、低温部分の面積比が16%であった。
【0044】
上記のように3値化した後の熱画像において、高温部分はダイオード故障やはんだクラックにより電流集中した発熱異常の領域、中温部分は正常セルに相当する領域、低温部分はセル割れやブスバー断線により電流経路が遮断された領域と推定される。
【0045】
そこで、画像解析装置4は、画像解析により熱画像および発光画像を多値化し、所定レベルの値の比率(面積比)を指標として算出する。画像解析装置4は算出した比率に対する太陽電池パネル10の推定出力特性から、太陽電池パネル10の出力電力の推定値を算出する(ステップST5)。さらに画像解析装置4は、算出された太陽電池パネル10の出力電力の推定値に基づいて、太陽電池パネル10を交換すべきか否か判断する(ステップST6)。
【0046】
図8は太陽電池パネル10の交換指標として、上記中温部分の比率を採用した場合の推定出力(又は定格出力比)特性の一例である。中温部分の比率を指標とすると、この比率が低いほど正常セルが少ない、すなわち出力(又は定格出力比)が低いと推定される。
【0047】
なお、図8に示す出力特性は、太陽電池パネル10の種類によってそれぞれ異なるので、出力推定の精度を高めるには太陽電池パネル10の種類毎に出力特性を作成しておくと良い。
【0048】
また、ここでは熱画像を例に説明したが、発光画像でも同様の操作を行うことにより出力推定を行うことができる。発光画像を多値化は、光強度分布を持つ発光画像を1つ以上のしきい値で2レベル以上の光強度範囲に分別することである。しきい値は発光強度に対応する輝度値であり、例えば、1つのしきい値で2レベルの発光強度範囲(低発光強度部分および高発光強度部分)に分別する場合を2値化といい、2つのしきい値を設けて3レベルの発光強度範囲(低発光強度部分、中発光強度部分、および、高発光強度部分)に分別することを3値化という。
【0049】
上記のように、太陽電池パネル交換の指標として、熱画像又は発光画像を多値化して得られたあるレベルの比率を用いることができる。この指標を用いる場合、太陽電池パネルの検査に先立ち、あらかじめIV(電流−電圧)特性のわかっている太陽電池パネルの熱画像及び発光画像を撮影しておき、データベース(図示せず)を作成しておく。このデータベースには、電圧、電流、平均輝度などの指標を含む。なお、図8に示す中温比率に対する出力特性はデータベースに格納される。データベースは画像解析装置4に含まれてもよく、外部に設けられてもよい。
【0050】
画像解析でわかるのは、初期の公称最大出力からどのくらい低下しているかであり、交換の判断はそれぞれのケースで決めるとよい。すなわち、JIS C 8918(結晶系太陽電池モジュール)及びJIS C 8939(アモルファス太陽電池モジュール)では、公称最大出力の90%以上が許容範囲であると規定されており、住宅用太陽光発電システムなどでこれを保証している場合には90%で太陽電池パネルを交換する。一方、発電事業者などの場合、公称最大出力90%以下であっても太陽電池パネル交換の費用対効果を考慮して、そのまま使い続けるという判断もある。その場合は、損益分岐点となる指標を設定して交換するか否か判断すると良い。
【0051】
上記のように、本実施形態の太陽電池アレイの検査装置および太陽電池パネルの検査方法によれば、不良の太陽電池パネルを検出するととともに、不良の太陽電池パネルについて低下した出力電力の推定値を算出する太陽電池アレイの検査方法を提供することができ、太陽電池パネル10を交換すべきか否かのユーザ判断を支援することができる。
【0052】
なお、上記図8では、指標として中温部分の比率を採用した場合の推定出力特性を示して説明したが、高温部分の比率、低温部分の比率、高温部分の比率と低温部分の比率との和等を指標としてもよい。すなわち、熱画像および発光画像を多値化した場合、1つのレベルの比率を指標としてもよく、複数のレベルの比率を組み合わせた値を指標としてもよい。その場合であっても、同様の効果を得ることができる。
【0053】
次に、第2実施形態の太陽電池アレイの検査装置および太陽電池アレイの検査方法について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、上述の第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。本実施形態の太陽電池アレイの検査方法は、画像解析装置4の動作が上記第1実施形態と異なっている。
【0054】
図9は、長期間の使用により出力が公称最大出力の61%に低下した太陽電池パネル10(パネルG)の発光画像の一例である。
【0055】
一般的な結晶シリコン系太陽電池セルの場合、太陽電池パネル10は直列に接続された複数の太陽電池セル1を含み、太陽電池セル1表面にフィンガー電極(図示せず)と呼ばれる電流を集める導電層が印刷されている。また、太陽電池セル1表面には、ブスバー(図示せず)と呼ばれるフィンガー電極で集めた電流を取り出すための導電体がはんだ付けされている。
【0056】
ブスバーの本数は太陽電池パネルの型式に応じて設計されるが、公称出力100W以上の大型の太陽電池パネルでは2本から3本使われることが多い。図9の太陽電池パネル10(パネルG)では、互いに略平行に延びる2本のブスバーが使われており、ブスバーが延びる方向と略直交する方向における太陽電池セル1の中央でフィンガー電極が分離している。
【0057】
図9に示す発光画像では2本のブスバー周辺の輝度差の大きい太陽電池セル1(白線で囲んだ太陽電池セル1)が16セルみられる。太陽電池パネルを構成する太陽電池セル1同士は直列接続されているため、太陽電池パネル10に通電した場合、すべての太陽電池セル1には同じ大きさの電流が流れる。
【0058】
ここで、太陽電池セル1に配置された2本のブスバーうちの1本にはんだクラックなどの接続不良が発生すると、そのブスバーには電流が流れにくくなり、残りのブスバーには電流が集中する。その結果、発光画像を撮影すると、電流が流れにくいブスバー周辺は暗く撮影され、電流が集中するブスバー周辺は明るく撮影される。
【0059】
同様に、2本のブスバーうちの1本にはんだクラックなどの接続不良が発生している太陽電池セル1の熱画像を撮影すると、電流が流れにくいブスバー周辺は低温部分となり、電流が集中するブスバー周辺は高温部分となる。
【0060】
このような太陽電池セル1(半分が明るく半分が暗く撮影される太陽電池セル1)は正常な太陽電池セル1と比べて出力が低くなるので、画像解析装置4は、当該太陽電池セル1の個数を指標とすることで出力電力の推定値を算出することができる。
【0061】
そこで、本実施形態では、画像解析装置4は、発光画像および熱画像から複数の太陽電池セル1の位置を検出し、検出した複数の太陽電池セル1のそれぞれについて、画像解析により温度差又は輝度差が大きいものの個数をカウントして指標とする。ここで、画像解析装置4は、太陽電池セル1全体が暗くなっているものもカウントする。画像解析装置4はカウントされた太陽電池セル1の個数に対する太陽電池パネル10の推定出力特性から、太陽電池パネル10の出力電力の推定値を算出する(ステップST5)。
【0062】
さらに画像解析装置4は、算出された太陽電池パネル10の出力電力の推定値に基づいて、太陽電池パネル10を交換すべきか否か判断する(ステップST6)。
【0063】
図10は、本実施形態の太陽電池アレイ検査方法の一例を示す図である。すなわち、太陽電池パネル10の交換指標として、太陽電池セル1上のブスバー周辺の温度差又は輝度差が大きい太陽電池セル1の個数を採用した場合の推定出力(又は定格出力比)特性の一例である。図10は、太陽電池パネル10の種類によってそれぞれ異なるので、出力推定の精度を高めるには太陽電池パネル10の種類毎に推定出力特性を作成しておくと良い。
【0064】
なお、新型の太陽電池パネルなどについて検査を行う場合で経年劣化したパネルの発光画像がない場合には、新品をA点、劣化品をB点として直線近似してもよい。すなわち、A点の推定出力は定格出力(又は定格出力比を100%)であって温度差又は輝度差が大きい太陽電池セル1の個数は0個とし、B点の推定出力は0W(又は定格出力比を0%)であって、温度差又は輝度差が大きい太陽電池セル1の個数は太陽電池パネル10に含まれる太陽電池セル1の総数とする。なお、ここでは発光画像を例に説明したが、熱画像でも同様の操作を行うことにより出力推定を行うことができる。
【0065】
画像解析装置4は、例えば上記熱画像および発光画像の画像解析(ステップST5)の後、出力低下しているか否か(交換すべきか否か)を判断し(ステップST6)、交換が必要と判断した太陽電池パネル10についてはパネル交換を行うようにユーザに提示する(ステップST7)。
【0066】
上記のように、本実施形態の太陽電池アレイの検査装置および太陽電池パネルの検査方法によれば、不良の太陽電池パネルを検出するととともに、不良の太陽電池パネルについて低下した出力電力の推定値を算出する太陽電池アレイの検査方法を提供することができ、太陽電池パネル10を交換すべきか否かのユーザ判断を支援することができる。
【0067】
次に、第3実施形態の太陽電池アレイの検査装置および太陽電池アレイの検査方法について図面を参照して説明する。本実施形態の太陽電池アレイの検査方法は、画像解析装置4の動作が上記第1実施形態と異なっている。
【0068】
複数の太陽電池パネル10を直列接続した太陽電池アレイに通電した場合、太陽電池パネル10中に太陽電池セル1の割れやブスバーの断線など電流経路が遮断された箇所があると、発光画像および熱画像においてその部分が暗くなるため、発光画像および熱画像において太陽電池パネル10全面の平均輝度が低下する。
【0069】
そこで、本実施形態では、画像解析装置4は、画像解析により発光画像および熱画像から太陽電池パネル10の画像の平均輝度を指標として算出し、算出した平均輝度に対する太陽電池パネル10の推定出力特性から、太陽電池パネル10の出力電力の推定値を算出する(ステップST5)。さらに画像解析装置4は、算出された太陽電池パネル10の出力電力の推定値に基づいて、太陽電池パネル10を交換すべきか否か判断する(ステップST6)。
【0070】
図11は、本実施形態の太陽電池アレイ検査方法の一例を示す図である。すなわち、太陽電池パネル10の交換指標として太陽電池パネル10の発光画像および熱画像全面の平均輝度を採用した場合の推定出力(又は定格出力比)特性の一例である。
【0071】
図11に示す出力特性は、太陽電池パネル10の種類によってそれぞれ異なるので、出力推定の精度を高めるには太陽電池パネル10の種類毎に出力特性を作成しておくと良い。なお、新型の太陽電池パネルなどで経年劣化した太陽電池パネル10の発光画像がない場合には、新品及び模擬劣化品の発光画像を取得し、それぞれの平均輝度を求め、それぞれ図中のA点、B点のように対応する出力の箇所にプロットする。ここで使用する劣化模擬品とは、太陽電池パネル10が劣化すると直列抵抗と並列抵抗とが上昇する特性を鑑みて、例えば新品パネルに劣化品相当の抵抗を直並列に接続したものを用いる。
【0072】
画像解析装置4は、例えば上記熱画像および発光画像の画像解析(ステップST5)の後、出力低下しているか否か(交換すべきか否か)を判断し(ステップST6)、交換が必要と判断した太陽電池パネル10についてはパネル交換を行うようにユーザに提示する(ステップST7)。
【0073】
上記のように、本実施形態の太陽電池アレイの検査装置および太陽電池パネルの検査方法によれば、不良の太陽電池パネルを検出するととともに、不良の太陽電池パネルについて低下した出力電力の推定値を算出する太陽電池アレイの検査方法を提供することができ、太陽電池パネル10を交換すべきか否かのユーザ判断を支援することができる。
【0074】
なお、上記複数の実施形態では、太陽電池パネル交換の指標として、熱画像又は発光画像を多値化して得られたあるレベルの比率(面積比)、熱画像又は発光画像において太陽電池セル1上の複数のブスバー周辺の温度差又は輝度差が大きいセルの個数、太陽電池パネル全面の平均輝度のいずれかを用いているが、指標はこれらに限定されるものではない。
【0075】
例えば、図5に示すパネルDの熱画像では紙面に向かって左端部に高温になっている部分が撮影されている。この位置には太陽電池パネル10のバイパスダイオードが配置されている。バイパスダイオードは、太陽電池セル1に異常が発生した場合の電流の迂回路を形成している。したがって、バイパスダイオードの発熱を熱画像から検出することにより、太陽電池パネル10の異常を検出可能である。この場合、画像解析装置4は、例えば、テクスチャ解析の手法の1つであるLBP(Local Binary Pattern)法等、エッジ検出用のフィルタ処理によりバイパスダイオードの発熱を検出することができる。
【0076】
画像解析装置4は、画像解析によりバイパスダイオードの発熱を検出した場合には、安全上の観点から、出力低下の大小に関わらず、太陽電池パネル10を交換するようにユーザに提示することが望ましい。
【0077】
また、上記複数の実施形態で用いた画像解析は、熱画像と発光画像との両方について適用可能であるが、少なくとも一方の画像を用いて検査が行われればよい。どちらの画像を用いても上記複数の実施形態と同様の効果を得ることはでき、2種類の画像を用いて検査を行うことにより、さらに精度の高い検査を行うことが可能となる。
【0078】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0079】
SW…スイッチ(切換手段)、D…ダイオード(逆流防止ダイオード)、1…太陽電池セル、2…カメラ(画像取得手段)、3…カメラ架台、4…画像解析装置、6…直流電源、7…接続箱、10、A〜G…太陽電池パネル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の太陽電池パネルを含む太陽電池アレイの検査方法であって、
前記太陽電池アレイに直流電源を接続して通電する工程と、
前記太陽電池アレイの前記太陽電池パネルの画像を取得する工程と、
前記画像を解析して指標を算出し、前記指標に対する前記太陽電池パネルの出力特性を用いて前記太陽電池パネルの出力電力の推定値を算出する工程と、
算出した推定値に基づいて前記太陽電池パネルを交換すべきか否か判断する工程と、を備えることを特徴とする太陽電池アレイの検査方法。
【請求項2】
前記太陽電池パネルの画像を多値化して所定レベルの面積比を前記指標とし、前記所定レベルの面積比に対する前記太陽電池パネルの出力特性を用いて前記太陽電池パネルの出力電力の推定値を算出する請求項1に記載の太陽電池アレイの検査方法。
【請求項3】
前記太陽電池パネルは、ブスバーが設けられた複数の太陽電池セルを備え、
前記太陽電池パネルの画像から前記ブスバー周辺の輝度差が所定以上である前記太陽電池セルの個数を前記指標とし、前記個数に対する前記太陽電池パネルの出力特性を用いて前記太陽電池パネルの出力電力の推定値を算出する請求項1に記載の太陽電池アレイの検査方法。
【請求項4】
前記太陽電池パネルの画像について前記太陽電池パネル全面の平均輝度を前記指標とし、前記平均輝度に対する前記太陽電池パネルの出力特性を用いて前記太陽電池パネルの出力電力の推定値を算出する請求項1に記載の太陽電池アレイの検査方法。
【請求項5】
複数の前記太陽電池アレイの検査方法であって、
前記太陽電池アレイの出力端子と出力ラインとの間においてダイオードを有する経路と、前記ダイオードを迂回する経路とを切換える切換手段を切換えて、一定期間の発電量又は任意の時点の出力が低い順に前記直流電源を接続して複数の前記太陽電池アレイを検査する請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の太陽電池アレイの検査方法。
【請求項6】
前記太陽電池パネルの画像は、赤外線カメラにより撮影された熱画像と、近赤外線カメラにより撮影された発光画像との少なくとも一方を含む請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の太陽電池アレイの検査方法。
【請求項7】
複数の太陽電池パネルを含む太陽電池アレイの検査装置であって、
前記太陽電池アレイ接続された直流電源と、
前記太陽電池パネルの出力端子と出力ラインとの間において、ダイオードを有する経路と、前記ダイオードを迂回する経路とを切換える切換手段と、
赤外線カメラと、近赤外線カメラとの少なくとも一方を含み、前記太陽電池アレイの画像を取得する画像取得手段と、
前記画像を解析して指標を算出し、前記指標に対する前記太陽電池パネルの出力特性を用いて前記太陽電池パネルの出力電力の推定値を算出するとともに、前記画像の解析結果から前記太陽電池パネルを交換すべきか否か判断する画像解析装置と、を備えた太陽電池アレイの検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−36747(P2013−36747A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170304(P2011−170304)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】