説明

太陽電池モジュールの検査装置およびその検査方法

【課題】 太陽電池モジュール内の封止材の劣化を適切かつ確実に検出し、その寿命を評価することが可能となる太陽電池モジュールの検査方法およびその検査装置を得る。
【解決手段】 一つ以上の太陽電池セル18を有する太陽電池モジュール(太陽電池パネル10)内の封止材13,14の劣化の程度を判定するために、検査対象となる太陽電池モジュールにおける複数の測定点にレーザ光を照射する投光手段21と、測定点における検査対象物から散乱されるラマン散乱光を分光してスペクトルを得る分光手段24と、分光手段で得たラマン散乱光のスペクトルから、前記測定点における太陽電池の状態を解析するスペクトル解析手段25を備える。前記測定点のうちの少なくとも1つは、太陽電池モジュール内の封止材の周辺部分に位置するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの太陽電池セルを備えた太陽電池モジュールにおいて、該太陽電池モジュール内の封止材の劣化の程度を検出することにより、太陽電池モジュールの寿命評価を行う太陽電池モジュールの検査装置およびその検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽エネルギーを利用する方法として、シリコン型の太陽電池や薄膜型の太陽電池が従来から知られている。この種の太陽電池の性能評価、寿命評価等を行うにあたって、製造による欠陥等を検出したり、使用による劣化等の程度を検出する方法や装置等が望まれている。
【0003】
従来、太陽電池モジュールの太陽電池セルの欠陥をEL発光法やサーモグラフィー法などにより検査する技術及び装置が提案されてきている。しかし太陽電池モジュール内の封止材の劣化の程度を評価する技術や検査装置は提案されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような太陽電池モジュール用の封止材の劣化の程度は、封止材単体ではIR(赤外分光)で分析できるが、太陽電池モジュールとして測定するには、太陽電池モジュールのカバーガラスを通して測定する必要がある。しかし、IR(赤外分光)はカバーガラスで吸収されるため、カバーガラス越しには測定することはできない。
【0005】
ここで、このような封止材の劣化の程度の評価の必要性は、以下の通りである。
すなわち、太陽電池モジュールにおいて封止材によるラミネート加工の条件はキシレン法によるゲル化度が70%を超えることを評価基準として決められており、これより低い場合は不採用となる。
一方、タクトを短くしたいため高温で架橋反応を早く進めてしまうことが生産現場のニーズとしてはある。
【0006】
たとえば、ラミネート加工の際に太陽電池モジュールを極端に高温にしてしまった場合、ラミネート装置の熱板上でカバーガラスが反り、中心部分のみが熱板に接触し周辺部は浮き上がるため、中心は早く架橋反応が開始しているが、カバーガラスの周辺部では温度の上昇が遅れ、架橋が不十分な場合が発生する。
また、カバーガラスの周辺部も含めて反応を完了させるために、キュア炉で追加加熱する方法もあるが、大気圧の空気中で反応進行し、より強く熱履歴を受けている中央部の劣化が進行することが懸念されていた。
【0007】
しかしながらIRなどによる分析法では、カバーガラス越しの測定で封止材の劣化を評価することができないため、これまでラミネート条件と封止材の劣化の因果関係はわかっていない。また、発電性能は生産直後の異常な熱履歴でも変化しないため、判断できない。さらに、熱履歴を受けた封止材は経年劣化が加速度的に進行するため封止材の変色による発電性能低下が発生する。
そして、使用済みの中古の太陽電池モジュールを見ると封止材の中央部に変色が確認される。
【0008】
したがって、この種の太陽電池モジュールにおいて、封止材の劣化の程度を、太陽電池モジュールの外側からガラス越しで検出する検出装置および検出方法について、何らかの対策を講じることが望まれている。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、太陽電池モジュール内の封止材の劣化の程度をガラス越しで簡単かつ確実に検出することにより、太陽電池モジュールの寿命評価を適切かつ確実に行うことができる太陽電池モジュールの検査装置およびその検査方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための第1発明の太陽電池モジュール内の封止材の検査装置は、一つ以上の太陽電池セルを有する太陽電池モジュール内の封止材の劣化の程度を判定する検査装置であって、検査対象となる太陽電池モジュールにおける複数の測定点にレーザ光を照射する投光手段と、前記測定点における検査対象物から散乱されるラマン散乱光を分光してスペクトルを得る分光手段と、前記分光手段で得たラマン散乱光のスペクトルから、前記測定点における太陽電池の状態を解析するスペクトル解析手段を備え、前記測定点のうちの少なくとも1つは、前記太陽電池モジュール内の封止材の周辺部分に位置するように設定されていることを特徴とする。
【0011】
第1発明によれば、封止材の劣化の程度を判定するにあたって、太陽電池モジュールの外側からレーザ光を照射することにより封止材の周辺部等といった複数の測定点をラマン分光により適切かつ確実に検出し、そのスペクトル解析により劣化の程度を把握することができ、これにより太陽電池モジュールの寿命評価を確実に行うことができる。
【0012】
第2発明の前記封止材の検査装置は、第1発明において、前記測定点は、x、y、zの3軸方向での位置決め手段を用いて特定されていることを特徴とする。
【0013】
第2発明によれば、測定点を、x、y、zの3軸方向で位置決めして特定しているから、各太陽電池モジュールを精度よく検出することができ、個々の太陽電池モジュールでの封止材の劣化の程度を確実に把握し、モジュールの寿命評価を適切に行うことができる。
【0014】
第3発明の前記封止材の検査装置は、第1発明または第2発明において、前記太陽電池モジュールは、複数の太陽電池セルを電気的に接続して平面的に配置し、封止材を介して透明保護層とバックシートで表裏を挟んだラミネート構造の太陽電池モジュールであることを特徴とする。
【0015】
第3発明によれば、ラミネート構造の太陽電池モジュールにおいて、封止材の劣化の程度の検出をカバーガラス越しに行い、太陽電池モジュール内の封止材の劣化の程度を評価する検査装置としての機能を十分効果することができる。
【0016】
また、上記の目的を達成するための第4発明の太陽電池モジュール内の封止材の検査方法は、一つ以上の太陽電池セルを有する太陽電池モジュール内の封止材の劣化の程度を判定する検査方法であって、検査対象となる太陽電池モジュール上にx、y、zの3軸方向での位置決めされた複数の測定点を特定する工程と、それぞれの測定点に焦点を合わせてレーザ光を照射する工程と、該測定点における検査対象物から散乱されるラマン散乱光を分光してスペクトルを取得する工程と、各測定点における太陽電池モジュール内の封止材の状態を検出する工程と、前記封止材の劣化の程度を解析し、太陽電池モジュールの寿命評価を行う工程とを有することを特徴とする。
【0017】
第4発明によれば、太陽電池モジュール内の封止材の劣化の程度をカバーガラス越しで検出することが可能であり、第1発明と同様の効果を発現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る太陽電池モジュールの検査装置および検査方法によれば、太陽電池モジュール内の封止材の劣化の程度を、太陽電池モジュールの外側からガラス越しで適切かつ確実に検出して把握することが可能であり、これによりラミネート加工でのシール性能の低下による封止材の劣化の進行を正しく検出して把握することができ、結果として太陽電池モジュールの寿命評価を非破壊検査で正確に行うことができる。
【0019】
特に、本発明によれば、太陽電池モジュールをそのままで内部の封止材の劣化の程度を検出することができるから、既設の太陽電池モジュールについても取り外して非破壊で検査できるため、内部の封止材の劣化の程度を把握でき、その寿命評価を適切かつ確実に行い、耐用年数等を確認することができる等の実用面から種々優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】検査対象としての太陽電池モジュールの構造を模式的に示した図で、(a)は平面図、(b)は積層構造を示す分解断面図である。
【図2】1枚の太陽電池セルを受光面から見た平面図である。
【図3】本発明に係る太陽電池モジュールの検査装置の概略構成を示す図である。
【図4】本発明を特徴づけるラマン分光による検査装置の拡大図である。
【図5】本発明を特徴づけるラマン分光による検査装置で封止材のラマンスペクトルを得るためにフローブラマン測定を行ったときのスペクトル強度と波数との関係を示す特性図である。
【図6】本発明の検査装置により封止材の劣化の程度を模擬モジュールにより評価するための測定点を説明するための図である。
【図7】本発明装置により模擬モジュールの各測定点でラマン分光による劣化位置評価を行った場合の特性図である。
【図8】封止材の劣化の評価方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して説明する。
<1>太陽電池モジュール(被測定物)の構成
まず、本実施例の検査装置が扱う検査対象としての太陽電池モジュール10について説明する。ここで、図1は、検査対象としての太陽電池モジュール10の構造を示す図で、(a)は平面図、(b)は積層構造を示す。
【0022】
図1(a)の平面図に示すように、角型の太陽電池セル18がリード線19により複数個直列に接続されてストリング15を形成している。そして、ストリング15を複数列リード線19により接続し、両端に電極16、17を接続したものが、検査対象としての太陽電池モジュール10となる。
【0023】
太陽電池パネル10の成形は以下のようにして行う。
まず、図1(b)に示すように、下側に配置された透明保護層としてのカバーガラス11上に封止樹脂による封止材13を置き、その上に複数個直列に接続されたストリング15を置き、その上から封止材14を配置し、最後に不透明な素材からなる裏面材12を載せている。封止材13、14としては、EVA樹脂(エチレンビニルアセテート)を使用している。この後、上記のように構成部材を積層しラミネート装置などにより、真空の加熱状態下で圧力を加え、EVA樹脂を架橋反応させてラミネート加工する。
【0024】
本発明の検査対象の太陽電池としては、上記の太陽電池モジュール10に限定されず、太陽電池セル18が1枚だけのもの、太陽電池セル18を複数枚直線的につないだストリング15の状態のものも含まれる。また、ラミネート加工前後のどちらの状態でも検査対象とすることができる。
【0025】
図2は、1枚の太陽電池セル18を受光面から見た平面図である。
太陽電池セル18は薄板状のシリコン半導体の表面に電気を取り出すための電極であるバスバー18aが印刷されている。加えてシリコン半導体の表面には効率よく電流をバスバーに集めるためにバスバーと垂直方向にフィンガー18bと呼ばれる細い導体が印刷されている。
【0026】
本発明の実施例では、検査対象として、図2に示す一般にシリコンの多結晶型と呼ばれる太陽電池セル18を例示している。勿論、本発明に係る検査装置および検査方法は、多結晶型に限定されず、単結晶型やシリコンアモルファス型の薄膜の発電素子を太陽電池セルとして電気的に接続した薄膜式太陽電池も含まれる。
【0027】
<2>本発明の検査装置の説明
次に、本発明に係る太陽電池モジュールの検査装置の全体の構成を説明する。ここで、図3は、本発明に係る太陽電池モジュールの検査装置を全体の概略構成を示す図である。
図3に示す本発明の太陽電池の検査装置100は、検査装置本体20、移動装置30及び全体制御部50を備えている。
【0028】
検査装置本体20は、本発明を特徴づける太陽電池モジュール内の封止材の劣化の程度を検出するためのラマン分光法を用いる検査装置本体である。検査装置本体20は、投光手段としての対物レンズ21と、結像レンズ22、スリット23、分光手段24およびスペクトル解析手段25等を有している。
【0029】
スペクトル解析手段25は、図示しない全体制御部50内のパソコンなどにより、分光手段24で得たスペクトルをパソコンの制御部で実行するプログラムにより取り込み、メモリに記憶する。パソコンには基準データファイルがあり、ここには、シリコンは勿論、カバーガラス、封止材やバスバーなどの各種の物質の標準となるスペクトルの線図が格納されており、分光手段24から取り込まれたスペクトルの線図と比較し、物質等を同定する。
【0030】
制御部50は、検査装置本体20の動作を制御する部分である。これは、上述のとおりパソコンを含み、太陽電池モジュールの寸法と太陽電池モジュールの発電部分70(図1の2点鎖線の内側部分)の寸法、太陽電池モジュールの厚さ寸法、カバーガラス11の厚さ寸法および測定点の位置情報(x、y座標)などが入力されている。また全体制御部50にインストールされたプログラムによって、測定する測定点の位置情報(x、y座標)における大略のz座標を決定する。さらに、移動装置30を備え、検査装置本体20内のレーザ光照射部分を各測定点へと移動する。そして、検査装置本体20の測定結果から測定地点のz座標の修正値を求め、対物レンズ21の焦点位置を修正された高さ(z座標)に調整する。
【0031】
<3>ラマン分光法による検査の概要
検査装置本体20による検査方法を、図4を用いて説明する。
投光手段としての対物レンズ21は、図示しないレーザ光源から可視光の波長のレーザ光を、検査対象としての太陽電池モジュール10に照射する。レーザ光は、透明保護層としてのカバーガラス11、封止材13を透過して裏面材12の表面上で焦点を結び、焦点位置からラマン散乱光が生じる。ラマン散乱光は、照射したレーザ光より振動数がずれ、物質固有の振動数を持った散乱光である。
【0032】
ラマン散乱光は、焦点位置からだけでなく光軸上の焦点の前後からも発散されるが、結像レンズ22とスリット23の作用により、焦点から発散された散乱光のみがスリットを通過して分光手段24上で結像するようになっている。分光手段24には回折格子と、CCDなどの撮像素子が設けられ、ラマン散乱光のスペクトルを得ることができる。
【0033】
分光手段24で得られたスペクトルは、スペクトル解析手段25に入力されて、ここで予め登録されている種々の物質のスペクトルと比較することで、焦点位置にある物質を同定することができる。たとえば、太陽電池内の結晶系シリコンは520cm−1に、また、薄膜型のアモルファスシリコンは470cm−1にピークを有する。本発明において適用される封止材のスペクトルについては<4>で後述する。
【0034】
検査装置本体20は、x、y、z軸の3軸方向に移動自在である。移動装置30により、x、y軸に沿って移動することで、太陽電池モジュール10の任意の位置に移動することができる。z軸は、対物レンズ21の光軸に沿った移動で、太陽電池モジュール10に接近・離反する。太陽電池モジュール10のカバーガラス11と封止材13とは透明である。したがって、対物レンズ21の焦点位置は、カバーガラス11の上側の表面から裏面材12の表面上までの間であれば、どこに合わせても、焦点位置におけるラマン散乱光を得ることができる。
【0035】
封止材13の表面にレーザ光の焦点を合わせるのは、たとえば、以下のようにする。
まず、検査装置本体20をz軸上で移動して封止材13の表面と思われる位置に移動させる。その位置でレーザ光を照射すると、焦点からのラマン反射光がスリット23を通過して分光手段24上に結像する。分光手段24のスペクトルをスペクトル解析手段25で、予め登録されている種々の物質のスペクトルと比較することで同定する。その結果、焦点位置の物質が、たとえば、太陽電池モジュールとしてのカバーガラス11であることが判明すれば、検査装置本体20をz軸上で図の下方に移動して同じことを行う。そして、次に封止材13及び14が検知されるまでz軸方向の移動を繰り返す。尚太陽電池モジュールの発電部分70以外では封止材13と封止材14はラミネート加工により溶融固化し一体化している。このようにして、封止材の表面に対物レンズ21の焦点がくるように調整することができる。本発明の実施例では、対物レンズ21をサブミクロン〜数百ミクロンずつ図の下方に移動することによって、封止材の表面に対物レンズ21の焦点がくるように調整している。
【0036】
<4>本発明による検査方法
本発明の検査装置100により太陽電池モジュール内の封止材の劣化度の程度の評価方法について説明する。本実施例では、被測定物としては、図1の構成の太陽電池モジュール10を用いた場合を例にして説明する。
【0037】
図4で説明した検査装置本体20により、太陽電池モジュール10の内部の太陽電池セル18を覆う封止材13,14の複数個所を測定点として検査する。これらの各測定点は、x、y、zの3軸方向での位置決め手段を用いて検査時に特定される。
【0038】
本発明によれば、上記の各測定点に対し、ラマン分光による検査装置本体20の投光手段である対物レンズ21からレーザ光を照射し、該測定点で散乱されるラマン散乱光を分光手段24で分光し、スペクトルを得ることにより、各測定点における封止材13,14の状態をスペクトル解析手段25で解析することができる。
【0039】
このようなラマン分光による封止材の分析結果の例を図5に示しており、封止材(EVA)のラマンスペクトルを得るためにプローブラマン測定を行うことにより、たとえばメチレン基ピークをもつ特性を得ることができ、これにより太陽電池パネル10の外側から内部の封止材13,14のガラス越しでの測定が可能となるものである。図5に示すように封止材のラマンスペクトルは、2847cm−1にピークを有する。このピークは、メチレン基のピークである。
【0040】
本発明の封止材の劣化の程度を評価する方法について説明する。太陽電池セル一つを用いて、図6に示すように、図1の構成の20cm角の太陽電池モジュール10Aを模擬的に作製した(以下模擬モジュールという)。この模擬的な太陽電池モジュール10Aを劣化促進するため、温度130℃、湿度100%2気圧の環境下で168時間処理した。その後図6の測定点(1)〜(5)について劣化評価をおこなった。この測定点(1)〜(5)は、後述する表1の測定点と同じである。
まず、封止材の劣化挙動は一般にエステルの分解とカルボニルの変性である。すなわち、封止材内部のエステル基が減少し、ケトン(カルボニル)基が増加することで劣化が生じる。
【0041】
擬似モジュール10AについてIR測定した結果、エステルの減少とカルボニルの増加が観察された。しかしながらこの方法は該モジュールを破壊して封止材のサンプリングを行ってIR(赤外分光)スペクトルによる分析評価を行う必要があった。そして、この場合にモジュールのピンポイントで測定することができず、サンプリングに時間と労力とを費やしている。
【0042】
一方、劣化促進処理を行った該擬似モジュール10Aについてガラス越しにラマンスペクトルの特性を測定した。測定点(1)〜(3)は、太陽電池セル18上の封止材13の測定点であり、測定点(4)〜(5)はカバーガラス11と裏面材12の間の封止材13,14の測定点である。すなわち、これら測定点(1)〜(5)のうち、特に測定点(3)〜(5)は、太陽電池モジュール10の太陽電池セルの周辺部の封止材13,14に相当する位置である。図1のような一般的な太陽電池モジュールにおいて特に劣化が問題となる部位である。この測定点(1)〜(5)においてラマンスペクトルを解析し比較した。
【0043】
図6に示した模擬的な太陽電池モジュール10Aを上述のとおり高温水に所定時間浸漬した後の各測定点におけるラマン分光のスペクトルを図7に示す。測定点1から5のスペクトルと比較すると以下のことが分る。
【0044】
測定点(1)〜(5)のように擬似モジュール10Aの中央から周辺部に向かうに従って、スペクトルはベースライン(図8のベースラインと記載した部分)が上昇している。この現象はレーザ光が照射されて蛍光を発する成分が増加したことによるものであり、劣化が激しい周辺部にケトン基の量が増加しているためである。
【0045】
従って、例えば太陽電池モジュール10の封止材の周辺部でのシールに不具合がある場合には高温多湿雰囲気で所定時間置いた後、モジュールのエッジ側から中心部へ測定していくと周辺部の劣化が確認できる。また、太陽電池モジュールの封止材がラミネート装置によりラミネート加工により極端な熱履歴を受けた場合には中央部にも上記で説明した劣化が確認できる。
【0046】
以上より製造した太陽電池モジュール内の封止材の屋外へ設置した後の劣化の程度は、以下の様に評価することができる。評価方法を図8により説明する。
すなわち、ラマン分光器を用いて、封止材13,14の基準となるメチレン基(2847cm−1)のスペクトル強度を強度Aとし、ベースラインの強度を強度B(図8では2200cm−1)としたとき、劣化度Dを以下のように定義する。
劣化度 D=B/A×100
目的の場所(測定点)の劣化度を求め評価する。尚、ベースラインとしては1800〜2700cm−1の範囲から任意に選ぶことが出来る。
【0047】
上述の擬似モジュール10Aの中心から周辺部までの位置について、ラマン測定を行い、中心からの距離とベースラインとして2200cm−1での強度を用いて、劣化度Dを求めた結果を表1に示す。
【表1】

表1より、モジュールの周辺部から水の浸入により封止材が劣化していることが分かる。
【0048】
このような本発明の検査装置100および検査方法によれば、製造後の太陽電池モジュールのサンプリング検査時や、実際に現場に設置されて使用された既設の太陽電池モジュールの寿命評価検査を行うにあたって、従来のように太陽電池パネルを破壊したりする必要がなく、非破壊で検査するだけで適切かつ確実な検査結果を得て、寿命評価を行えるものであり、その有用性は大きい。
【0049】
なお、本発明は上述した実施例で説明した構造には限定されず、太陽電池モジュールのラマン分光による検査装置を構成する各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0050】
10 太陽電池モジュール
10A 擬似モジュール
11 カバーガラス(透明保護層)
12 裏面材
13、14 封止材
15 ストリング
18 太陽電池セル
20 検査装置本体
21 対物レンズ
22 結像レンズ
23 スリット
24 分光手段
25 スペクトル解析手段
30 移動装置
50 全体制御部
70 太陽電池モジュールの発電部分
100 本発明の検査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上の太陽電池セルを有する太陽電池モジュール内の封止材の劣化の程度を判定する検査装置であって、
検査対象となる太陽電池モジュールにおける複数の測定点にレーザ光を照射する投光手段と、
前記測定点における検査対象物から散乱されるラマン散乱光を分光してスペクトルを得る分光手段と、
前記分光手段で得たラマン散乱光のスペクトルから、前記測定点における太陽電池の状態を解析するスペクトル解析手段を備え、
前記測定点のうちの少なくとも1つは、前記太陽電池モジュール内の封止材の周辺部分に位置するように設定されていることを特徴とする前記封止材の検査装置。
【請求項2】
前記測定点は、x、y、zの3軸方向での位置決め手段を用いて特定されていることを特徴とする請求項1記載の前記封止材の検査装置。
【請求項3】
前記太陽電池モジュールは、複数の太陽電池セルを電気的に接続して平面的に配置し、封止材を介して透明保護層とバックシートで表裏を挟んだラミネート構造の太陽電池モジュールであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の前記封止材の検査装置。
【請求項4】
一つ以上の太陽電池セルを有する太陽電池モジュール内の封止材の劣化の程度を判定する検査方法であって、
検査対象となる太陽電池モジュール上にx、y、zの3軸方向での位置決めされた複数の測定点を特定する工程と、
それぞれの測定点に焦点を合わせてレーザ光を照射する工程と、
該測定点における検査対象物から散乱されるラマン散乱光を分光してスペクトルを取得する工程と、
各測定点における太陽電池モジュール内の封止材の状態を検出する工程と、
前記封止材の劣化の程度を解析し、太陽電池モジュールの寿命評価を行う工程と
を有することを特徴とする太陽電池モジュール内の封止材の検査方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−93356(P2013−93356A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232760(P2011−232760)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(709002303)日清紡メカトロニクス株式会社 (43)
【Fターム(参考)】