説明

太陽電池モジュール用封止材シート及びそれを用いた太陽電池モジュール

【課題】ポリエチレン系の架橋済の封止材シートを提供する。
【解決手段】密度が0.900以下の低密度ポリエチレンと、架橋剤と、多官能ビニル系モノマー及び/又は多官能エポキシ系モノマーからなる架橋助剤とを含有する組成物を成形し、その後に電離放射線の照射による架橋処理を行なうことで、ゲル分率が2%以上70%以下、80℃以上100℃以下における複素粘度が、3.0E+4Pa・S以上1.0E+6Pa・S以下であり、所定条件によって架橋した後の150℃以上200℃以下における複素粘度が、1.0E+5Pa・S以上4.0E+5Pa・S以下である太陽電池モジュール用封止材シートとする。ポリエチレン系の封止材シートでありながら既に架橋しているので、太陽電池モジュール化の際に別途の架橋工程が不要であるとともに、モジュール化の際の流動も抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエチレン系の太陽電池モジュール用封止材シートに関する。更に詳しくは、電子線等の電離放射線によって架橋処理された太陽電池モジュール用封止材シート及びそれを用いた太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュール用の封止材シートとしては、従来から、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)と、有機過酸化物に代表される架橋剤との組み合わせによるものが多く使用されてきた。また、近年、水蒸気遮断性に優れる利点を生かしてEVAに代わりポリエチレン系樹脂を用いた封止材シートも広く用いられるようになっている。
【0003】
ポリエチレン系の封止材シートとして、例えば、アルコキシシランを共重合成分として含有する変性エチレン系樹脂による封止材も知られている。又、このような変性エチレン系樹脂に架橋剤を配合して、モジュール化工程又はその後の加熱工程によって架橋した封止材シートが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
又、特定の物性を備えるα−オレフィン共重合体とシラン化合物からなる樹脂組成物を熔融押出形成してなるポリエチレン系の封止材シートであって、押出形成時に封止材シートのゲル分率が5〜29%程度となるまで架橋を進ませ、モジュール化工程において更にゲル分率が70〜95%程度となるように架橋を進ませることにより太陽電池モジュール用として用いる封止材シートも知られている(特許文献2参照)。
【0005】
一方、架橋処理の方法としては、有機過酸化物を加熱することによる熱架橋処理の他に、ポリエチレン系樹脂等に電離放射線を照射して架橋させることにより、架橋剤を用いないで封止材シートの耐熱性を向上させる技術が開示されている(特許文献3参照)。又、所定の密度以下の線状低密度ポリエチレンに電離放射線を照射して架橋させ、やはり架橋剤を用いないで長時間の熱キュア工程を省き、耐熱性を付与する技術が開示されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−10277号公報
【特許文献2】特開2011−12246号公報
【特許文献3】特開2009−249556号公報
【特許文献4】特開2011−77357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の封止材シートのように、ポリエチレン系樹脂に、熱架橋処理を行って得られる封止材シートについては、いずれも耐熱性において更なる改善の余地を残すものであった。又、いずれも、架橋反応の大部分はモジュール化工程中において進むことが前提となっているため、モジュール化工程における加熱温度や時間についての制約が大きいことが、生産性の向上を妨げる要因となっていた。
【0008】
又、特許文献3や4に記載の封止材シートのように、ポリエチレン系樹脂に電離放射線を照射して得られる封止材シートについては、上記のようなモジュール化条件の制約からは開放され、且つ架橋による耐熱性の向上も望めるが、従来の熱架橋処理を行った場合に比べて透明性に劣るという欠点があり、この点において改善の余地を残すものであった。又、充分な耐熱性を得るために電離放射線の照射強度を高めていくと、密着性が低下してしまうという問題もあった。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものである。本発明の目的は、高い透明性と耐熱性を兼ね備え、且つ太陽電池モジュールの生産性を向上させることを可能とする太陽電池モジュール用封止材シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、封止材シートの押出形成後、モジュール化前に、予め電離放射線の照射による架橋処理を行い、これにより、ゲル分率と複素粘度が所定範囲に最適化された封止材シートとすることにより、透明性及び耐熱性に優れたポリエチレン系の封止材シートを得ることができること、更に、そのような封止材シートを用いることにより、太陽電池モジュールの生産性を向上しうることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 密度0.900g/cm以下の低密度ポリエチレンと、炭素−炭素二重結合及び/又はエポキシ基を有する多官能モノマーである架橋助剤と、を含有し、ゲル分率が2%以上70%以下であり、80℃以上100℃以下における複素粘度が、3.0E+4Pa・S以上1.0E+6Pa・S以下であり、下記の架橋条件によって架橋した後の150℃以上200℃以下における複素粘度が、1.0E+5Pa・S以上4.0E+5Pa・S以下である太陽電池モジュール用封止材シート。
架橋条件:封止材シートの樹脂温度が140℃以上になるまで加熱し、その後、前記樹脂温度が140℃以上150℃以下となる範囲で5分間以上温度を保持する。
【0012】
(2) (1)に記載の太陽電池モジュール用封止材シートからなる封止材層を備える太陽電池モジュール。
【0013】
(3) 150℃以上200℃以下における前記封止材層の複素粘度が、1.0E+5Pa・S以上4.0E+5Pa・S以下である(2)に記載の太陽電池モジュール。
【0014】
(4) 前記封止材層の厚さ400μmにおけるヘーズ値が3%以下である(2)又は(3)に記載の太陽電池モジュール。
【0015】
(5) 密度0.900g/cm以下、低密度ポリエチレンと、架橋剤と、架橋助剤と、を含有する封止材組成物を溶融成形して未架橋の封止材シートを得るシート化工程と、前記未架橋の封止材シートを、電離放射線の照射によってゲル分率が2%以上70%以下となるように架橋処理する架橋工程とを備える太陽電池モジュール用封止材シートの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の太陽電池モジュール用封止材シート及びそれを用いた太陽電池モジュールによれば、高い耐熱性と透明性を兼ね備えた太陽電池モジュール用封止材シートを提供することができる。又、この封止材シートを用いることにより、太陽電池モジュール化の際の架橋工程が不要であるとともに、モジュール化の際の流動も抑制できるため、太陽電池モジュールの生産性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の封止材シートを用いた太陽電池モジュールについて、その層構成の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の封止材シートの20〜110℃における複素粘度の変化を示したグラフである。
【図3】本発明の太陽電池モジュールの封止材層の20〜200℃における複素粘度の変化を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の封止材シートは、ゲル分率と複素粘度を上記所定の範囲に限定することによって、太陽電池モジュール用封止材シートとして、極めて好ましい耐熱性及び透明性を備えるものとしたことを特徴とする。以下、本発明に係る太陽電池モジュール用封止材組成物(以下、単に「封止材組成物」とも言う。)、太陽電池モジュール用封止材シート(以下、単に「封止材シート」とも言う。)及び太陽電池モジュールの順に詳細に説明する。
【0019】
<封止材組成物>
本発明に用いられる封止材組成物は、密度が0.900g/cm以下の低密度ポリエチレンと、架橋剤と、架橋助剤と、を必須成分として含有する。以下、上記必須成分について説明した後、その他の樹脂、その他の成分について説明する。
【0020】
[低密度ポリエチレン]
本発明においては密度が0.900g/cm以下の低密度ポリエチレン(LDPE)、好ましくは直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)を用いる。直鎖低密度ポリエチレンはエチレンとα−オレフィンとの共重合体であり、本発明においては、その密度が0.900g/cm以下の範囲内、好ましくは0.890g/cm以下の範囲内、より好ましくは0.870〜0.885g/cmの範囲である。この範囲であれば、シート加工性を維持しつつ良好な柔軟性と透明性を付与することができる。
【0021】
本発明においてはメタロセン系直鎖低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンは、シングルサイト触媒であるメタロセン触媒を用いて合成されるものである。このようなポリエチレンは、側鎖の分岐が少なく、コモノマーの分布が均一である。このため、分子量分布が狭く、上記のような超低密度にすることが可能であり封止材に対して柔軟性を付与できる。柔軟性が付与される結果、封止材と透明前面基板との密着性、封止材と裏面保護シートとの密着性等の封止材と基材との密着性が高まる。
【0022】
又、結晶性分布が狭く、結晶サイズが揃っているので、結晶サイズの大きいものが存在しないばかりでなく、低密度であるために結晶性自体が低い。このため、シート状に加工した際の透明性に優れる。したがって、本発明の封止材組成物からなる封止材が透明前面基板と太陽電池素子との間に配置されても発電効率はほとんど低下しない。
【0023】
直鎖低密度ポリエチレンのα−オレフィンとしては、好ましくは分枝を有しないα−オレフィンが好ましく使用され、これらの中でも、炭素数が6〜8のα−オレフィンである1−ヘキセン、1−ヘプテン又は1−オクテンが特に好ましく使用される。α−オレフィンの炭素数が6以上8以下であることにより、封止材シートに良好な柔軟性を付与することができるとともに良好な強度を付与することができる。その結果、封止材シートと基材との密着性が更に高まる。
【0024】
低密度ポリエチレンのメルトマスフローレート(MFR)は、JIS−K6922−2により測定した190℃、荷重2.16kgにおけるMFR(本明細書においては、以下、この測定条件による測定値をMFRと言う。)が0.5g/10分以上40g/10分以下であることが好ましく、6g/10分以上40g/10分以下であることがより好ましい。
【0025】
本発明の封止材シートは封止材組成物の熔融形成後に、電離放射線の照射によって、架橋処理を行う架橋済の封止材シートである。このため、ベースとなる低密度ポリエチレンのMFRが高くても、製膜後の架橋処理によってモジュール化時の流動性は抑制できる。このため、上記範囲のような高いMFRであっても好適に使用することができる。
【0026】
本発明の封止材組成物には、更に、シラン変性ポリエチレン系樹脂を含有させてもよい。シラン変性ポリエチレン系樹脂は、主鎖となる直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)等に、エチレン性不飽和シラン化合物を側鎖としてグラフト重合してなるものである。このようなグラフト共重合体は、接着力に寄与するシラノール基の自由度が高くなるため、太陽電池モジュールにおける他の部材への封止材シートの接着性を向上することができる。
【0027】
シラン変性ポリエチレン系樹脂は、例えば、特開2003−46105号公報に記載されている方法で製造でき、当該樹脂を太陽電池モジュール用封止材組成物の成分として使用することにより、強度、耐久性等に優れ、且つ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐風圧性、耐降雹性、その他の諸特性に優れ、更に、太陽電池モジュールを製造する加熱圧着等の製造条件に影響を受けることなく極めて優れた熱融着性を有し、安定的に、低コストで、種々の用途に適する太陽電池モジュールを製造しうる。
【0028】
直鎖低密度ポリエチレンとグラフト重合させるエチレン性不飽和シラン化合物として、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリペンチロキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリベンジルオキシシラン、ビニルトリメチレンジオキシシラン、ビニルトリエチレンジオキシシラン、ビニルプロピオニルオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリカルボキシシランより選択される1種以上を使用することができる。
【0029】
エチレン性不飽和シラン化合物の含量であるグラフト量は、後述するその他のポリエチレン系樹脂を含む封止材組成物中の全樹脂成分の合計100質量部に対して、例えば、0.001〜15質量部、好ましくは、0.01〜5質量部、特に好ましくは、0.05〜2質量部となるように適宜調整すればよい。本発明において、エチレン性不飽和シラン化合物の含量が多い場合には、機械的強度及び耐熱性等に優れるが、含量が過度になると、引っ張り伸び及び熱融着性等に劣る傾向にある。
【0030】
封止材組成物に含まれる上記の密度が0.900g/cm以下のポリエチレンの含有量は、封止材組成物中の全樹脂成分の合計100質量部に対して、好ましくは10以上99質量部以下、より好ましくは50以上99質量部以下であり、更に好ましくは90以上99質量部以下である。封止材組成物の融点が80℃未満となる範囲内であれば他の樹脂を含んでいてもよい。これらは、例えば添加用樹脂として用いてもよく、後述のその他の成分をマスターバッチ化するために使用してもよい。
【0031】
[架橋剤]
架橋剤は公知のものが使用でき特に限定されず、例えば公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキサイド類;ジ‐t‐ブチルパーオキサイド、t‐ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐パーオキシ)ヘキシン‐3等のジアルキルパーオキサイド類;ビス‐3,5,5‐トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、o‐メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4‐ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t‐ブチルパーオキシアセテート、t‐ブチルパーオキシ‐2‐エチルヘキサノエート、t‐ブチルパーオキシピバレート、t‐ブチルパーオキシオクトエート、t‐ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t‐ブチルパーオキシベンゾエート、ジ‐t‐ブチルパーオキシフタレート、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン‐3、t‐ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート等のパーオキシエステル類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類等の有機過酸化物、又は、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4‐ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジラウレート、ジクミルパーオキサイド、といったシラノール縮合触媒等を挙げることができる。
【0032】
従来は、電離放射線の照射による架橋処理を行う場合には、熱架橋処理の場合と異なり、有機過酸化物等の架橋剤は不要と考えられていた。しかし、本発明に用いられる封止材組成物は、電離放射線の照射による架橋処理を行うものでありながら、尚、少量の架橋剤を含有するものである。この架橋剤の添加により、電離放射線の照射による耐熱性の向上とともに透明性の維持も可能としている。電離放射線の照射による架橋処理における架橋剤の作用は定かでないが、電離放射線はエネルギーが強いので架橋が進行するが、HAZEの要因となる結晶はある温度以上にならないとほぐれず架橋に関与せず残るためであると推定される。
【0033】
本発明の封止材組成物への架橋剤の添加量は、封止材組成物中の全成分100質量部に対して、0.3以上1.5質量部未満であることが好ましく、0.3以上0.7質量部以下であることがより好ましく、0.3以上0.5質量部未満であることが更に好ましい。封止材組成物への架橋剤の添加量をこの範囲とすることにより、耐熱性、密着性に加えて、透明性においても特に優れた封止材シートとすることができる。この場合において、架橋剤の含有量が0.3質量部未満であると透明性向上の効果が不充分であり、0.7質量部を超えると、押し出し時の負荷が高くなり、成形中にゲルが発生する等して製膜性が低下し、透明性も低下する。尚、本発明の封止材シートは、電離放射線の照射による架橋処理を行うことによって得ることができるものであるが、この場合、架橋材の添加量は、従来の熱架橋の場合と異なり、架橋材の添加量が、0.5質量部未満であっても充分な耐熱性を得ることができる。これにより、封止材組成物のシート化工程における封止材組成物のゲル化による生産性低下のリスクが低減でき、又、架橋剤の使用量削減によって製造コストを下げることもできる。
【0034】
尚、一般的に、従来の未架橋の封止材シートはモジュール化の工程内で、架橋処理を行うことが求められている。このため、未架橋の封止材シートの架橋処理に用いる架橋剤の半減期温度は、モジュール化工程での加熱温度及び加熱時間の条件に制約されて、1分間半減期温度が概ね185℃未満のものに事実上限定されていた。しかし、本発明の架橋済の封止材シートを製造する場合には、上記の制約を受けずに架橋剤を選択することができる。一般的に架橋剤の上限温度は、樹脂酸化劣化の観点から230℃程度であるが、本発明の架橋済の封止材シートの製造においては、この範囲であれば、1分間半減期温度が185℃以上の架橋剤も自由に選択することが可能である。又、このように選択範囲が広がることにより、未架橋で成形可能な温度が向上し、生産性が向上するというメリットもある。
【0035】
[架橋助剤]
本発明においては炭素−炭素二重結合及び/又はエポキシ基を有する多官能モノマーが架橋助剤として用いられる。又、より好ましくは、多官能モノマーの官能基がアリル基、(メタ)アクリレート基、ビニル基であるものが用いられる。これによって適度な架橋反応を促進させて、ゲル分率を70%以下とするとともに、本発明においてはこの架橋助剤が直鎖低密度ポリエチレンの結晶性を低下させ透明性を維持する。これによってより透明性と低温柔軟性に優れる封止材シートを得ることができ、具体的にはEVAと同程度の透明性や低温柔軟性を得ることができる。
【0036】
具体的には、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレート、ジアリルマレエート等のポリアリル化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート等のポリ(メタ)アクリロキシ化合物、二重結合とエポキシ基を含むグリシジルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル及びエポキシ基を2つ以上含有する1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物を挙げることができる。これらは単独でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0037】
上記のなかでも、低密度ポリエチレンに対する相溶性が良好で、架橋によって結晶性を低下させ透明性を維持し、低温での柔軟性を付与する観点からTAICが好ましく使用できる。又、シランカップリング剤との反応性の観点から1,6−ヘキサンジオールジアクリレートも好ましく使用することができる。
【0038】
架橋助剤の含有量としては、封止材組成物の全成分100質量部に対して、0.0以上3質量部以下含まれることが好ましく、より好ましくは0.05以上2.0質量部以下の範囲である。この範囲内であれば電離放射線の照射による適度な架橋反応を促進させてモジュール化前の架橋済の封止材シートのゲル分率を2%以上70%以下とすることができる。
【0039】
[密着性向上剤]
電離放射線の照射よる架橋処理を行う本発明の製造方法においては、封止材組成物に、上記の密着性向上剤を添加することが好ましい。これは、電離放射線を大量に照射すると、拡大率を抑制できる一方で、封止材シート表面の密着成分がダメージを受けて密着性が低下する場合もあるが、低分子量のシランカップリング剤の染み出し効果によって密着力が担保できるためであると推測される。これにより、より強い強度の電離放射線を照射することが可能になり、より好ましい拡大率抑制ができる。密着性向上剤としては、公知のシランカップリング剤を用いることができる。シランカップリング剤は特に限定されないが、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のメタクリロキシ系シランカップリング剤等を好ましく用いることができる。尚、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することもできる。これらのうちでも、メタクリロキシ系シランカップリング剤を特に好ましく用いることができる。
【0040】
密着性向上剤として、シランカップリング剤を添加する場合、その含有量は、封止材組成物の全成分100質量部に対して0.1以上10.0質量部以下であり、上限は好ましくは5.0質量部以下である。シランカップリング剤の含有量が上記範囲にあり、且つ、封止材組成物を構成するポリオレフィン系の樹脂に適量のエチレン性不飽和シラン化合物の含量されているときには、密着性がより好ましい範囲へと向上する。尚、この範囲を超えると、製膜性が低下したり、また、シランカップリング剤が経時により凝集固化し封止材シート表面で粉化する、いわゆるブリードアウトが発生する場合があり好ましくない。
【0041】
[ラジカル吸収剤]
本発明においては、ラジカル重合開始剤となる上記の架橋助剤と、それをクエンチするラジカル吸収剤とを併用することにより、架橋の程度を調整してゲル分率を更に細かく調整することができる。このようなラジカル吸収剤としては、ヒンダードフェノール系等の酸化防止剤や、ヒンダードアミン系の耐候安定化等が例示できる。架橋温度付近でのラジカル吸収能力が高い、ヒンダードフェノール系のラジカル吸収剤が好ましい。ラジカル吸収剤の使用量は、組成物中に0.01以上3質量部以下含まれることが好ましく、より好ましくは0.0以上2.0質量部以下の範囲である。この範囲内であれば適度に架橋反応を抑制して、モジュール化前の架橋済の封止材シートのゲル分率を70%以下とすることができる。
【0042】
[その他の成分]
封止材組成物には、更にその他の成分を含有させることができる。例えば、本発明の封止材組成物から作製された封止材シートに耐候性を付与するための耐候性マスターバッチ、各種フィラー、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の成分が例示される。これらの含有量は、その粒子形状、密度等により異なるものではあるが、それぞれ封止材組成物中に0.001〜5質量部の範囲内であることが好ましい。これらの添加剤を含むことにより、封止材組成物に対して、長期に亘って安定した機械強度や、黄変やひび割れ等の防止効果等を付与することができる。
【0043】
耐候性マスターバッチとは、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び上記の酸化防止剤等をポリエチレン等の樹脂に分散させたものであり、これを封止材組成物に添加することにより、封止材シートに良好な耐候性を付与することができる。耐候性マスターバッチは、適宜作製して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。耐候性マスターバッチに使用される樹脂としては、本発明に用いる直鎖低密度ポリエチレンでもよく、上記のその他の樹脂であってもよい。
【0044】
尚、これらの光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び酸化防止剤は、それぞれ1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0045】
更に、本発明の封止材組成物に用いられる他の成分としては上記以外に、核剤、分散剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤、難燃剤等を挙げることができる。
【0046】
<封止材シート>
本発明の封止材シートは、上記の封止材組成物を、その融点を超える温度で溶融成形するシート化工程によって未架橋封止材シートを得て、その後、電離放射線の照射による架橋工程を経て、シート状又はフィルム状の本発明の太陽電池モジュール用の封止材シートとなるものである。尚、本発明におけるシート状とはフィルム状も含む意味であり両者に差はない。
【0047】
[シート化工程]
上記封止材組成物の溶融成形による製膜は、通常の熱可塑性樹脂において通常用いられる成形法、即ち、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、回転成形等の各種成形法により行われる。その際、成形温度の下限は封止材組成物の融点を超える温度であればよく、上限は使用する架橋剤の1分間半減期温度に応じて、製膜中に架橋が開始しない温度であればよく、それらの範囲内であれば特に限定されない。本発明の太陽電池モジュール用封止材シートの製造方法においては、先に説明した通り、従来よりも1分間半減期温度の高い架橋剤を使用することができるため、成形温度を従来よりも高温に設定することにより、押出機等にかかる負荷を低減し、封止材シートの生産性を高めることが可能である。
【0048】
[架橋工程]
上記のシート化工程後の未架橋封止材シートに架橋処理を施す架橋工程を、電離放射線の照射による架橋処理によって、シート化工程の終了後、且つ、封止材シートを他の部材と一体化する太陽電池モジュール一体化工程の開始前に行う。このような架橋工程によって封止材シートのゲル分率と複素粘度を所定の範囲内に最適化したものであることが本発明の封止材シートの特徴である。このように電離放射線の照射による架橋処理を行うことによって、加熱による架橋処理によって製造する場合よりも、より高い密着性、耐熱性を備えた封止材シートとすることができる。
【0049】
封止材シートのゲル分率については、2%以上70%以下となるように電離放射線の照射量や架橋剤の添加量を適宜調整する。ゲル分率は、2%以上70%以下であることが好ましく、10%以上60%以下であることがより好ましい。ゲル分率が2%未満ではモジュール化工程前の架橋工程による流動抑制の効果が発現せず、真空加熱ラミネートにおいて封止材組成物が流動してしまい膜厚を一定に保つのが困難になる。ゲル分率が70%を超えると封止材組成物の流動性が低くなりすぎてモジュールの凹凸にうまく埋まらず封止材シートとしての使用が困難になる。即ち、ゲル分率が上記範囲であれば、過度の流動を抑制しつつ、凹凸への封止性を良好に維持できる。尚、ゲル分率を30%以上とすることで、成形時の寸法安定性を極めて高いものとすることができる。熱収縮率は45%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、20%以下が最も好ましい。
【0050】
ここで、ゲル分率(%)とは、封止材シート0.1gを樹脂メッシュに入れ、60℃トルエンにて4時間抽出したのち、樹脂メッシュごと取出し乾燥処理後秤量し、抽出前後の質量比較を行い残留不溶分の質量%を測定しこれをゲル分率としたものである。
【0051】
又、封止材シートの複素粘度については、80℃以上100℃以下における複素粘度が、3.0E+4Pa・S以上1.0E+6Pa・S以下となるように架橋条件を調整する。複素粘度は、3.0E+4Pa・S以上1.0E+6Pa・S以下であることが好ましく、3.0E+4Pa・S以上5.0E+5Pa・S以下であることが更に好ましい。
【0052】
又、本発明の封止材シートの複素粘度は、下記の架橋条件で架橋した後の150℃以上200℃以下における複素粘度が、1.0E+5Pa・S以上4.0E+5Pa・S以下であることを特徴とする。
架橋条件:封止材シートの樹脂温度が140℃以上になるまで加熱し、その後、前記樹脂温度が140℃以上150℃以下となる範囲で5分間以上温度を保持する。
【0053】
尚、上記の封止材シートの樹脂温度は、加熱時の封止材シートの上面部に温度センサー熱電対を貼付し、温湿度データロガーを用いて測定することが可能であり、本発明における樹脂温度とは、例えば、そのようにして測定した封止材シートの樹脂温度のことを言うものとする。
【0054】
尚、本発明の封止材シートは、他の部材と一体化することにより太陽電池モジュールを構成する部材として好ましく用いることができるものであるが、太陽電池モジュールとしての一体化の工程における一般的条件による熱ラミネート処理によって、上記の架橋条件は実現されうるものである。そのような架橋条件を実現するためのラミネート条件の一例については、後に実施例において具体例を示す。
【0055】
封止材シートの複素粘度及び架橋後の複素粘度を上記範囲とすることにより、封止材シートの流動性と耐熱性が最適化され、太陽電池モジュール製造時の封止材シートの膜圧変化が抑制されることにより封止材シートのモジュール端部外へのはみ出しを防止することができ、且つ、封止材シートを十分な密着性と凹凸に対する回り込み特性を備えるものとすることができる。
【0056】
ここで、複素粘度(Pa・s)とは、回転型レオメーター(Anton Paar製 MCR301)を用いて、パラレルプレートジオメトリー(直径8mm)、応力0.5N、歪み5%、角速度0.1(1/s)、昇温速度5℃/minの条件において測定し、これを複素粘度としたものである。
【0057】
電離放射線の照射による架橋処理については、個別の架橋条件は特に限定されず、トータルな処理結果として、上記のゲル分率及び複素粘度が上位範囲となるように適宜設定すればよい。具体的には、電子線(EB)、α線、β線、γ線、中性子線等の電離放射線によって行うことができるが、なかでも電子線を用いることが好ましい。電子線照射における加速電圧は、被照射体であるシート厚みによって決まり、厚いシートほど大きな加速電圧を必要とする。例えば、0.5mm厚みのシートでは100kV以上、好ましくは200kV以上で照射する。加速電圧がこれより低いと架橋が充分に行われない。照射線量は5kGy〜1000kGy、好ましくは5〜300kGyの範囲である。照射線量が5kGyより小さいと充分な架橋が行われず、又1000kGyを超えると発生する熱によるシートの変形や着色等が懸念されるようになる。尚、両面側から照射してもよい。又、照射は大気雰囲気下でもよく窒素雰囲気下であってもよい。
【0058】
尚、この架橋処理はシート化工程に続いて連続的にインラインで行われてもよく、オフラインで行われてもよい。又、架橋処理が一般的な加熱処理である場合は、一般的に、架橋剤の含有量として封止材シートの全成分100質量部に対して0.5質量部以上1.5質量部以下が必要とされているが、本願発明の封止材シートにおいては、架橋剤の含有量が0.3質量部以上であれば0.5質量部未満であっても充分な耐熱性を得ることができる。
【0059】
<太陽電池モジュール>
図1は、本発明の封止材シートを用いた太陽電池モジュールについて、その層構成の一例を示す断面図である。本発明の太陽電池モジュール1は、入射光の受光面側から、透明前面基板2、前面封止材層3、太陽電池素子4、背面封止材層5、及び裏面保護シート6が順に積層されている。本発明において封止剤層とは前面封止材層3及び背面封止材層5のことを言う。本発明の太陽電池モジュール1は、封止材層である前面封止材層3及び背面封止材層5の少なくとも一方に上記の封止材シートを使用するものである。
【0060】
[太陽電池モジュールの製造方法]
太陽電池モジュール1は、例えば、上記の透明前面基板2、前面封止材層3、太陽電池素子4、背面封止材層5、及び裏面保護シート6からなる部材を順次積層してから真空吸引等により一体化し、その後、ラミネーション法等の成形法により、上記の部材を一体成形体として加熱圧着成形して製造することができる。
【0061】
太陽電池モジュール1は、上記の真空加熱ラミネート中において、封止材シートの付随的且つ限定的な架橋反応が、更に進んだものであってもよい。本発明の封止材シートを用いた前面封止材層3、背面封止材層5の加熱圧着形成後のゲル分率は20以上80%以下であることが好ましい。この範囲とすることで、太陽電池モジュール1を、高い透明性を有する封止材層を備え、且つ、好ましい耐熱性を有するものとすることができる。
【0062】
又、太陽電池モジュール1は、本発明の封止材シートを用いた前面封止材層3、背面封止材層5の加熱圧着形成後の150℃以上200℃以下における複素粘度が、1.0E+5Pa・S以上4.0E+5Pa・S以下であることが好ましい。複素粘度を1.0E+5Pa・S以上4.0E+5Pa・S以下とすることにより、太陽電池モジュールに、充分な耐熱性と基材間の密着性を備えさせることができる。
【0063】
そして、本発明の封止材シートを用いることで、真空加熱ラミネートにおける封止材シートの流動を抑制できる。又、モジュール化工程又はその後の加熱工程による架橋工程がないので、架橋条件を考慮する必要がなくなる分、モジュール化工程における真空加熱ラミネートの条件の自由度が高くなり、又、モジュール化工程の時間も短縮でき生産性も大幅に向上する。特にEVA系に比べて架橋速度が遅いというポリエチレン系封止材シートの問題点も解消でき、モジュール化の時間を大幅に短縮することができる。
【0064】
又、本発明の封止材シートを用いた前面封止材層3、背面封止材層5の加熱圧着形成後のヘーズ値は、厚さ400μmにおけるヘーズ値が4%以下、好ましくは3%以下である。上記のように、本発明においては、組成物として架橋剤を含有しており、これにより、封止材層として、架橋済みのポリエチレン系樹脂を用いた封止材シートを採用した太陽電池モジュールにおいて、耐熱性と透明性を両立させた点に本発明の優れた点がある。
【0065】
尚、本発明の太陽電池モジュール1において、前面封止材層3及び背面封止材層5以外の部材である透明前面基板2、太陽電池素子4及び裏面保護シート6は、従来公知の材料を特に制限なく使用することができる。又、本発明の太陽電池モジュール1は、上記部材以外の部材を含んでもよい。尚、本発明の封止材シートは単結晶型に限らず、薄膜型その他の全ての太陽電池モジュールに適用できる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
<封止材シートの製造>
下記組成からなる封止材組成物を混合して溶融し、常法Tダイ法により厚さ460μmとなるように成膜して、実施例、比較例、及び参考例の未架橋の封止材シートを得た。成膜温度は90℃以上100℃未満とした。
(ベース樹脂)
下記のLLDPE(樹脂M)75質量部と、シラン変性ポリエチレン系樹脂(樹脂S)25質量部を混合溶融したものを封止材組成物のベース樹脂とした。
LLDPE(樹脂M):ポリエチレン系樹脂(LLDPE):エチレンと1−ヘキセンとの共重合体であり、密度0.880g/cm、MFR30g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン。ポリスチレン換算の数平均分子量53000。
シラン変性ポリエチレン系樹脂(樹脂S):エチレンと1−ヘキセンとの共重合体であり、密度0.880g/cm、190℃でのメルトマスフローレート(MFR)が8g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、98質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2質量部と、ラジカル発生剤(反応触媒)としてのジクミルパーオキサイド0.1質量部とを混合し、200℃で溶融、混練して得た、密度0.884g/cm、MFRが6g/10minであるシラン変性ポリエチレン系樹脂。ポリスチレン換算の数平均分子量79000。
(架橋剤)
架橋剤として、t‐ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート(アルケマ吉富株式会社製、商品名ルペロックスTBEC)を用い、各実施例、比較例、参考例の封止材組成物に、それぞれ表1に示す量(質量部)を添加した。
(架橋助剤)
架橋助剤として、トリアリルイソシアヌレート(Statomer社製、商品名SR533)を用い、全ての実施例、比較例、参考例の封止材組成物に、0.5質量部添加した。
(密着性向上剤)
密着性向上剤としてシランカップリング剤を用いた。シランカップリング剤は、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、商品名KBM503)を用い、実施例4の封止材組成物にのみ0.5質量部添加した。
(その他の添加剤)
UV吸収剤(ケミプロ化成株式会社製、商品名KEMISORB12)を全ての実施例、比較例、参考例の封止材組成物に、0.25質量部添加した。
耐候安定剤(チバ・ジャパン株式会社製、商品名Tinuvin770)を全ての実施例、比較例、参考例の封止材組成物に、0.6質量部添加した。
酸化防止剤(チバ・ジャパン株式会社製、商品名Irganox1076)を全ての実施例、比較例、参考例の封止材組成物に、0.05質量部添加した。
【0068】
【表1】

【0069】
次に、実施例1〜4、比較例2、3、及び参考例の未架橋の封止材シートについては、表1に示す架橋条件(電離放射線(EB)照射強度)で電離放射線の照射による架橋処理を施して架橋済の封止材シートを得た。尚、電離放射線の照射は表1に示す強度で封止材シートの両面に行った。
【0070】
比較例4の未架橋の封止材シートについては、表1に示す架橋条件(温度、時間)でオーブンによる熱架橋処理を施して架橋済の封止材シートを得た。
【0071】
比較例1の未架橋の封止材シートについては、架橋処理を行わなかった。
【0072】
実施例、比較例、及び参考例の封止材シートについて、上記に示した通りの条件で架橋処理を行った架橋済み封止材シートについては、上記架橋処理後のゲル分率を、架橋処理を行わなかった未架橋の封止材シート(比較例1)については、製膜後、未架橋の状態でのゲル分率を、それぞれ測定した。結果は表1の通りとなった。
【0073】
又、実施例、比較例の封止材シートについて、上記に示した通りの条件で架橋処理を行った架橋済み封止材シートについては、上記架橋処理後の複素粘度を、架橋処理を行わなかった未架橋の封止材シート(比較例1)については、製膜後未架橋の状態での複素粘度を、それぞれ測定した。測定は、25〜110℃の範囲で、下記の試験方法により行った。結果は図2に示す通りであった。尚、80℃以上100℃以下における複素粘度が、3.0E+4Pa・S以上1.0E+6Pa・S以下であったものについては○を、複素粘度が、その範囲外であったものについては×を、それぞれ、表1の複素粘度1の欄に記した。
[複素粘度の試験方法]
複素粘度は、回転型レオメーター(Anton Paar製 MCR301)を用いて、パラレルプレートジオメトリー(直径8mm)、応力0.5N、歪み5%、角速度0.1(1/s)、昇温速度5℃/minの条件にて測定した。
【0074】
又、実施例と比較例の封止材シートについて、上記各架橋処理後、更に追加の熱架橋処理を行った。追加の熱架橋処理は、旭硝子製アフレックスETFE(厚さ100μm)に封止材シート(厚さ460μm)を挟みこんでラミネーターにて真空加熱ラミネータ処理を施した。熱ラミネート条件は、下記(a)〜(d)の通りとし、真空加熱ラミネータ処理を行うことによって架橋を進行させた。下記熱ラミネート条件(a)〜(d)による熱ラミネート処理によれば、封止材シートの樹脂温度は、2分後に140℃以上となり、その後、140℃以上150℃以下の温度で6分間保持されることとなる。尚、真空加熱ラミネータ処理時の架橋の進行度合いは封止材シートの温度と加熱時間によって決まり、加圧条件には影響されない。そして、真空加熱ラミネータ処理後、即ち追加の熱架橋処理後のそれぞれの封止材シートの複素粘度を、それぞれ測定した。測定は、20〜200℃の範囲において行った。結果は図3に示す通りであった。尚、150℃以上200℃以下における複素粘度が、1.0E+5Pa・S以上4.0E+5Pa・S以下であったものについては○を、複素粘度が、その範囲外であったものについては×を、それぞれ、表1の複素粘度2の欄に記した。
<熱ラミネート条件> (a)真空引き:5.0分
(b)加圧(0kPa〜100kPa):1.5分
(c)圧力保持(100kPa):8.0分
(d)温度150℃
【0075】
尚、上記の封止材シート樹脂温度の時間経過ごとの変位は、上記説明の通りにETFEに挟み込んだ封止材シートの、中央部分の上部に、温度センサー熱電対(ST−14K−060−GW5.0−ANP)を、アズワン・カプトンテープ(P−221 12.7mm巾 5−5018−01)にて貼付し、温湿度データロガー(おんどとり TR−72Ui)を用いて温度プロファイルを測定したものである。
【0076】
<評価例1>
5.0×5.0cmにカットした実施例、比較例及び参考例の封止材シートを、それぞれガラス基板(青板ガラス 150mm×150mm×3.0mm)に上に積層し、更にその上に、同ガラス基板を積層した状態で、真空加熱ラミネータ処理を行い、処理後のそれぞれの封止材シートの拡大率を測定した。
[拡大率(%)の試験方法]
正方形の封止材シートの中央に十字型に引いた線分の長さ(十字型を含む最も小さい円の直径によって示される値とする。)を、ラミネート処理前後で比較した場合の長さの比を測定し、この値を拡大率とした。熱ラミネート条件は、上記(a)〜(d)と同条件とした。それぞれの実施例及び比較例について結果を表2に示す。
【0077】
<評価例2>
7.5×5.0cmにカットした実施例、比較例及び参考例の封止材シートを、ガラス基板(白板フロート半強化ガラス JPT3.2 150mm×150mm×3.2mm)上に2枚重ね置き、その上からガラス基板(白板フロート半強化ガラス JPT3.2 75mm×50mm×3.2mm)を重ね置き、真空加熱ラミネータ処理を行い、それぞれの実施例、比較例、及び参考例について太陽電池モジュール評価用サンプルを得た。これらの太陽電池モジュール評価用サンプルについて、下記の試験条件における耐熱クリープ試験を行い耐熱性を評価した。結果を表2に示す。
[耐熱クリープ試験(mm)の試験方法]
上記の太陽電池モジュール評価用サンプルを垂直に置き、150℃で12時間放置し、放置後のガラス基板(白板フロート半強化ガラス JPT3.2 75mm×50mm×3.2mm)の移動距離を計測評価した。本試験においては、移動距離が1.0mm未満であるものを好ましい耐熱性を備える封止材シートとして評価した。
【0078】
<評価例3>
15mm幅にカットした実施例、比較例、及び参考例の封止材シートを、それぞれガラス基板(白板フロート半強化ガラス JPT3.2 75mm×50mm×3.2mm)上に密着させて、真空加熱ラミネータで処理を行い、それぞれの実施例、比較例、及び参考例について太陽電池モジュール評価用サンプルを得た。ラミネート処理条件は、上記の架橋条件(a)〜(d)と同条件とした。これらの太陽電池モジュール評価用サンプルについて、下記の試験条件におけるガラス密着拒度を測定してガラス密着性を評価した。結果を表2に示す。
[ガラス密着強度(N/15mm)の試験方法]
剥離試験方法:上記太陽電池モジュール評価用サンプルにおいて、ガラス基板上に密着している封止材シートを、剥離試験機(テンシロン万能試験機 RTF−1150−H)にて垂直剥離(50mm/min)試験を行いガラス密着強度を測定した。本試験においては、密着強度が20N/15mm以上であるものを好ましい密着性を備える封止材シートとして評価した。
【0079】
<評価例4>
ガラス基板の代わりに銅板(75mm×50mm×0.1mm)を用いた他は、評価例3と同様の条件で実施例、比較例、及び参考例について、太陽電池モジュール評価用サンプルを得た。これらの太陽電池モジュール評価用サンプルについて、下記の試験条件における銅密着強度を測定して銅密着性を評価した。結果を表2に示す。
[銅密着強度(N/15mm)の試験方法]
剥離試験方法:評価例3と同じ方法及び条件において試験を行い、銅密着強度を測定した。
【0080】
【表2】

【0081】
<評価例5>
30mm×75mmにカットした実施例、比較例、及び参考例の封止材シートを、それぞれガラス基板(青板ガラス 30mm×75mm×3.2mm)に上に積層し、ラミネート後の封止材シートの膜厚が360〜400μとなるようにスペーサーを挟んだ状態で、真空加熱ラミネータ処理を行い、同処理後のそれぞれの封止材シートのHAZEを(%)下記の試験方法により測定して太陽電池モジュールとしての一体化後における透明性を評価した。熱ラミネート条件は、上記(a)〜(d)と同条件とした。
[ヘーズ(%)の試験方法]
JISK7136に沿って、株式会社村上色彩研究所 ヘーズ・透過率系HM150にて測定した。結果を表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
<評価例6>
真空加熱ラミネータによる処理時の加熱温度とラミネート時間の処理条件のみを、下記表4の通り適宜変化させ、他の条件については、評価例3と同条件で、実施例1の封止材シートについて、各処理条件毎に製造した太陽電池モジュール評価用サンプルを得た。これらの太陽電池モジュール評価用サンプルについて、評価例3と同じ試験条件におけるガラス密着強度を測定してガラス密着性を評価した。結果を表4に示す。
【0084】
【表4】

【0085】
表2、図2より、ゲル分率と複素粘度及び上述した加熱架橋後の複素粘度が所定の範囲内にある本発明の封止材シートは、比較例の封止材シートに比べて、モジュール化工程前の架橋によって適度に流動が抑制されていることが理解できる。又、そのような本発明の封止材シートは、モジュール化工程前の架橋工程を電離放射線の照射による架橋処理によって行うことで、加熱処理による架橋処理を行う場合(比較例4)よりも、耐熱性において優れた封止材シートとなっているものであることが分かる。
【0086】
又、表2、図3より、封止材層の複素粘度が所定の範囲内にある本発明の太陽電池モジュールは、加熱処理による架橋処理を行った比較例4の封止材シートを用いたものに比べて、耐熱性において優れた太陽電池モジュールとなることが分かる。
【0087】
又、表2における参考例についての試験結果から分かる通り、モジュール化工程前の架橋工程を電離放射線の照射による架橋処理を充分に行うことにより、加熱処理による架橋処理を行う場合(比較例4)よりも、拡大率を更に低く維持できることが分かる。この場合、ガラスや銅に対する密着性はやや低くなるが、実施例4についての試験結果から分かる通り、そのような封止材シートに更に密着性向上剤を添加することにより、電離放射線の照射による架橋処理による密着性の低下を防ぎ、優れた密着性と耐熱性を兼ね備えた極めて好ましい物性を備えた封止材シートとすることも可能であることが分かる。
【0088】
又、表2から、本発明の封止材シートは、太陽電池モジュールの構成部材の主たる材料であるガラス及び銅に対する密着性も充分に有していることが分かる。特に、実施例及び、比較例4についての試験結果から分かる通り、本発明の封止材シートは、モジュール化工程前の架橋工程を電離放射線の照射による架橋処理によって行うことで、加熱処理による架橋処理を行う場合よりも、特に銅に対する好ましい密着性を備える封止材シートとなることが分かる。尚、その他の基材との密着性についても、積層する基材毎に照射条件を適宜調整することにより、密着性を高めることが可能であると考えられる。
【0089】
又、表3から、本発明の封止材シートは、モジュール化工程前の架橋工程を電離放射線の照射による架橋処理によって行う場合に、少なくとも0.3質量部以上の架橋剤を封止材組成物に添加することにより、優れた透明性を備える封止材シートとなることが分かる。又、表2より、そのような封止材シートは、優れた密着性と耐熱性を兼ね備えたものであることも確認できる。
【0090】
尚、表4から、本発明の封止材シートは、モジュール化工程における加熱温度を110℃以上とすることによって、充分に高いガラス密着性を備える封止材シートとすることができることが分かる。
【符号の説明】
【0091】
1 太陽電池モジュール
2 透明前面基板
3 前面封止材層
4 太陽電池素子
5 背面封止材層
6 裏面保護シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度0.900g/cm以下の低密度ポリエチレンと、炭素−炭素二重結合及び/又はエポキシ基を有する多官能モノマーである架橋助剤と、を含有し、
ゲル分率が2%以上70%以下であり、
80℃以上100℃以下における複素粘度が、3.0E+4Pa・S以上1.0E+6Pa・S以下であり、
下記の架橋条件によって架橋した後の150℃以上200℃以下における複素粘度が、1.0E+5Pa・S以上4.0E+5Pa・S以下である太陽電池モジュール用封止材シート。
架橋条件:封止材シートの樹脂温度が140℃以上になるまで加熱し、その後、前記樹脂温度が140℃以上150℃以下となる範囲で5分間以上温度を保持する。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽電池モジュール用封止材シートからなる封止材層を備える太陽電池モジュール。
【請求項3】
150℃以上200℃以下における前記封止材層の複素粘度が、1.0E+5Pa・S以上4.0E+5Pa・S以下である請求項2に記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
前記封止材層の厚さ400μmにおけるヘーズ値が3%以下である請求項2又は3に記載の太陽電池モジュール。
【請求項5】
密度0.900g/cm以下、低密度ポリエチレンと、架橋剤と、架橋助剤と、を含有する封止材組成物を溶融成形して未架橋の封止材シートを得るシート化工程と、
前記未架橋の封止材シートを、電離放射線の照射によってゲル分率が2%以上70%以下となるように架橋処理する架橋工程とを備える太陽電池モジュール用封止材シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−115211(P2013−115211A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259450(P2011−259450)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】