説明

太陽電池モジュール

【課題】太陽電池セルへの水分侵入を確実に防止し、それと同時に、発電効率も上昇させる太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】基板と、この基板上に、裏面電極と、光を受光して発電する発電層と、光を透過させる透明電極とがこの順に積層されて形成される太陽電池素子と、前記太陽電池素子を保護する保護層と、前記保護層と前記基板との間に充填される樹脂製の封止層と、を有し、前記保護層側から光を取り入れる太陽電池モジュールであって、前記太陽電池素子は、薄膜を複数層積層させて形成されるバリア膜で覆われており、前記バリア膜は、その上層が下層を覆って形成され、各層の外周端部は前記基板に接する部分を有しており、このバリア膜の上から前記封止層及び前記保護層で覆われている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に裏面電極、発電層、透明電極がこの順に積層される太陽電池素子が保護膜で覆われることにより形成される太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年化石エネルギー資源の枯渇が懸念されており、それに代わる新エネルギーが検討されている。特に太陽光発電は、有望なエネルギー源として注目されている。太陽光発電の方法としては、単結晶シリコンや多結晶シリコンなどを用いた結晶系太陽電池や、非晶質シリコン等を用いた薄膜系太陽電池が知られている。薄膜系太陽電池は、単位面積あたりの原材料が少なくて済むので、低コストとして注目されている。
【0003】
薄膜系太陽電池モジュールは、主としてガラス製の基板上に、ITO、SnO2、ZnO等の透明導電性酸化物からなる透明電極と、アモルファスシリコン等からなる光電変換層と、Al、Ag、Cr等の金属からなる裏面電極で構成される太陽電池セルを有する。基板上には複数の太陽電池セルが含まれ、それぞれの太陽電池セルは直列若しくは並列に接続され集積化されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
この薄膜系の太陽電池モジュールは、長年にわたって発電効率の向上が研究されており、その着眼点の一つとして、例えば、太陽電池セルへの水分侵入防止が挙げられる。すなわち、太陽電池セルは、水に曝されると腐食し劣化する性質を有しており、太陽電池セルの劣化は発電効率の低下を招く。そのため、太陽電池セルは、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等の熱硬化性樹脂からなる封止層と、フッ化ビニル樹脂製若しくはフッ化ビニル樹脂を含む複合フィルムを用いた保護層とを積層する。そして、封止層を加熱溶融して架橋硬化させ、真空ラミネート法などで封止することにより太陽電池モジュールを構成し、これらの封止層及び保護層により太陽電池セルに水分が浸入するのを防止している。
【0005】
また、太陽電池モジュールは、基板側が太陽などの光源側になるように設置されることにより、光が基板、透明電極を通過して光電変換層に入射され、入射された光が電気に変換される。そのため、特殊なガラス基板を使用したり、基板に反射防止膜を形成することにより、より多くの光が光電変換層に入射されるよう工夫され、発電効率の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−142720
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、太陽電池モジュールに封止層、保護層を設けた場合でも、太陽電池セルへの水分の侵入防止は十分ではないという問題があった。すなわち、EVAは光劣化により、耐水性、耐湿性、耐アルカリ性といった耐候特性が低下するため、長期的な使用によりEVAが徐々に劣化すると太陽電池モジュールの側面から水分が浸入し、太陽電池セルが水分に曝される。太陽電池セルが水分に曝されると、太陽電池セルが劣化することにより発電効率が低下してしまうという問題があった。
【0008】
また、特殊なガラスを使用したり、基板に反射防止膜を形成するなどの処理を行うと、発電効率は上がるものの、太陽電池モジュールのコストも上昇してしまい、低コストの太陽電池モジュールの供給が困難になる。
【0009】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたものであり、太陽電池セルへの水分侵入を確実に防止し、それと同時に、発電効率も上昇させる太陽電池モジュールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明の太陽電池モジュールは、基板と、この基板上に、裏面電極と、光を受光して発電する発電層と、光を透過させる透明電極とがこの順に積層されて形成される太陽電池素子と、前記太陽電池素子を保護する保護層と、前記保護層と前記基板との間に充填される樹脂製の封止層と、を有し、前記保護層側から光を取り入れる太陽電池モジュールであって、前記太陽電池素子は、薄膜を複数層積層させて形成されるバリア膜で覆われており、前記バリア膜は、その上層が下層を覆って形成され、各層の外周端部は前記基板に接する部分を有しており、このバリア膜の上から前記封止層及び前記保護層で覆われていることを特徴としている。
【0011】
上記太陽電池モジュールによれば、太陽電池セルがバリア膜で覆われているため、バリア膜がない場合に比べて水分の侵入を抑えることができる。すなわち、長期的な使用により樹脂製の封止膜が劣化し大気中の水分が侵入した場合でも、バリア膜が複数層積層させて形成され、さらに各層の外周端部は前記基板に接する部分を有しているため、水分が侵入しやすい基板との界面において、水分の侵入を2重、3重に妨げることができる。したがって、太陽電池セルへの水分侵入を確実に防止し、水分侵入による太陽電池セルの劣化により発電効率が低下するのを抑えることができる。
【0012】
また、具体的な前記バリア膜の様態としては、前記バリア膜は、無機物を堆積させて形成されている。
【0013】
この構成によれば、バリア膜の各層は、無機物で形成されているため、樹脂などの有機物で形成されている場合に比べて水分の侵入をより確実に抑えることができる。
【0014】
また、前記バリア膜は、化学気相成長法により形成されている構成としてもよい。
【0015】
この構成によれば、バリア膜と基板との密着性がよくなるため、基板とバリア膜の界面を伝って水分が侵入するのを抑えることができ、より確実に太陽電池セルへの水分の侵入を抑えることができる。
【0016】
また、前記バリア膜の屈折率は、前記封止層の屈折率と前記透明電極の屈折率との間に設定されている構成にしてもよい。
【0017】
この構成によれば、封止層、バリア膜、透明電極層の順に屈折率の変化がバリア膜がない場合に比べて穏やかになるため、保護層側から入射した光が各層の境界で反射されるのを抑えることができる。したがって、保護層側から入射し光電変換層に達する光量が増加するため、バリア膜を設けることにより水分の侵入を抑えると同時に発電効率も向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の太陽電池モジュールによれば、太陽電池セルへの水分侵入を確実に防止し、それと同時に、発電効率も上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の太陽電池モジュールの断面図である。
【図2】基板と太陽電池セルの境界部分の拡大断面図である。
【図3】本発明の太陽電池モジュールの製造プロセスを説明する図である。
【図4】バリア膜成膜装置の構成を示す断面図である。
【図5】バリア膜成膜装置の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に本発明の太陽電池モジュールの断面図を示す。本発明の太陽電池モジュール1は、基板10と、裏面電極11と、光電変換層12(発電層)と、透明電極13と、バリア膜30とを含む。さらに封止層15と保護層16およびフレーム材17を含むこともできる。本発明の太陽電池モジュールは、保護層16側から光を取り入れて発電させる。そのため、保護層16がある側を太陽電池モジュール1の表面、反対側の基板10側を裏面と呼ぶ。
【0021】
基板10は主としてガラスが好適に用いられる。透明であるため光電変換層12に太陽光線を当てることができるからである。また、ガラスは耐候性が高く、熱、光、水に対しても腐食しにくいからである。ガラスは含有させる元素により、光フィルターとなり得るので、光電変換層12の発電効率のより波長帯を選択的に通過させるガラスであってもよい。また、基板10上に反射防止膜や、基板10の縁近傍に接着性を向上させるためのCr層などの金属層を設けてもよい。
【0022】
裏面電極11は、通常の導電性の金属を利用することができる。具体的には、Al、Agが好適に用いられる。この裏面電極11は、光電変換層12よりも裏面側に存在しているため、透明性はあまり要求されない。したがって、通電効率のよい金属部材を選択することができる。
【0023】
光電変換層12は、特に限定されず、薄膜型、バルク型のどちらを利用してもよい。例えば、CIGSを用いてもよいし、コストや大面積での製造、エネルギーギャップの大きさなどから、アモルファスシリコンは好適に利用することができる。なお、光電変換層12は単に発電素子とも呼ぶ。
【0024】
透明電極13は、多くの光が光電変換層12に供給されるように透明な材料で形成されている。具体的には、FTO(フッ素含有酸化スズ)、ITO(酸化スズ含有酸化インジウム)や、SnO2(酸化スズ)、ZnO(酸化亜鉛)等が好適に用いられる。これにより光電変換層12上に形成しても発電効率を低下させないようになっている。本実施形態では、透明電極としてITOが用いられており、この透明電極の屈折率は、ほぼ1.9である。
【0025】
基板10上に形成された上記の裏面電極11、光電変換素子12、透明電極13で、太陽電池セル20が形成される。太陽電池セル20は基板10上に複数個形成してもよく、それぞれの太陽電池セルの透明電極と裏面電極11を結合させることによって、直列でも並列にでも結合させることができる。
【0026】
次に基板10上に形成された太陽電池セル20上に無機物で構成されたバリア膜30を形成する。図2にバリア膜30を拡大した図を示す。バリア膜30は、基板10と接する部分を有している。また、バリア膜30は基板10と裏面電極11との間を覆うように配置されている。これにより、太陽電池セル20の側面方向からの水分の侵入が防止される。太陽電池セル20の裏面全面と基板10を覆うように形成されていればより好適である。裏面方向からの水分の浸入も防ぐことができるからである。
【0027】
また、バリア膜30は、複数層で形成されており、本実施形態では、第1薄膜層31と第2薄膜層32の2種類の層が交互に積層されて形成されている。具体的には、第1薄膜層31及び第2薄膜層32のうち、上層である層が下層である層を覆うように積層されている。そして、この第1薄膜層31及び第2薄膜層32のそれぞれの層の外周端部は、基板10と接する部分を有している。すなわち、すべての層の外周端部が基板10に接していることにより、バリア膜30と基板10との界面から侵入する水分を幾層にも亘って防止することができる。これにより、水分が太陽電池素子20にまで侵入するのを抑えることができる。
【0028】
また、第1薄膜層31と第2薄膜層32の2種類の層は、それぞれ密度が異なっていることが必要である。基板10や太陽電池セル20に直接接する第1薄膜層31は、密度が低い無機物層で形成し、その上に密度が高い無機物で第2薄膜層32を形成する。密度が低い無機物層は密度が高い無機物層より下地に対する応力が小さく、下地となる裏面電極11、透明電極13の電極や光電変換層12等が基板10から剥離することを回避することができるからである。
【0029】
例えば、密度が低い無機物層(第1薄膜層31)は有機シリコン原料を用いて製膜できるSi膜内にCH4が含まれているSiCH3などのSi化合物膜を利用することができる。また、密度が高い無機物層(第2薄膜層32)はSiO2を利用することができる。SiO2膜は緻密であり、水分の侵入を効果的に防止することができる。図2では第2薄膜層32である。水分の侵入を効果的に防止できる無機物の密度は2g/cm3以上が好適である。従って、密度が2g/cm3以上であれば、SiO2以外の無機物を利用してよい。
【0030】
また、バリア膜30は、屈折率が封止層15の屈折率と透明電極13の屈折率との間の値になるように設定されている。本実施形態では、封止層15としてEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)が用いられており、この封止層15の屈折率は1.46程度である。また、透明電極13としてITOが用いられており、この透明電極13の屈折率は1.9程度である。したがって、バリア膜30の屈折率は、1.46〜1.9に設定される。
【0031】
本実施形態では、バリア膜30の第1薄膜層31には、SiCH3などのSi化合物膜が用いられており、第2薄膜層32には、SiO2などのSi酸化物が用いられている。それぞれ第1薄膜層31の屈折率は、1.65、第2薄膜層32の屈折率は、1.46とすることにより、バリア膜30の屈折率は、1.5になるように調整されている。ここで、バリア膜30は、第1薄膜層31のSi化合物膜に含有されるHの量から屈折率を1.65になるように調節される。すなわち、Hの量が増やすことで屈折率は小さくなり、逆にHの量が減らすことで屈折率は大きくなる。このHの量を調節することにより屈折率を1.46に調節される。一方、第2薄膜層32は、高純度のSiO2を用いることで屈折率を1.46に調節される。すなわち、第1薄膜層31と同様に、SiO2膜の製膜時にHの量を調節することでSiO2の屈折率を調節することができるが、SiO2の純度はバリア性に影響するため本実施形態では高純度のSiO2を使用し、その屈折率を1.46に設定している。このように、EVAの屈折率やITOの屈折率も添加物等により変化するが、バリア膜30の組成を調節することにより、バリア膜30の屈折率が封止層15と透明電極13の間になるように調整することができる。なお、バリア膜30の屈折率とは、第1薄膜層31と第2薄膜層とを複数積層させてバリア膜30を形成したときの実測値である。
【0032】
これにより、保護層16から入射した光は、封止層15、バリア膜30、透明電極13をこの順に透過し光電変換層12に達するが、バリア膜30を設けることでバリア膜30がない場合に比べて屈折率の変化が穏やかになるため、入射した光が各層の界面で反射される光量が小さくなる。したがって、このようなバリア膜30を設けることにより、バリア膜30がない場合に比べて光電変換層12に達する光量が多くなり、発電効率を向上させることができる。
【0033】
なお、バリア膜30の屈折率を封止層15(EVA)と透明電極13(ITO)の屈折率の間に設定することに加え、バリア膜30の第1薄膜層31と第2薄膜層32の製膜順序は、最上面(EVA側)に屈折率がEVAに近い第2薄膜層とし、最下面は透明電極13に屈折率が近い第1薄膜層31を使用するのが好ましい。この構成により、封止層15から第2薄膜層32に入射する光の反射が抑えられるとともに、第1薄膜層31から透明電極13に入射する光の反射が抑えられるため、光電変換層12に到達する光量が多くなり、発電効率を向上させることができる。
【0034】
バリア膜30を構成する無機物層の種類については特に限定されるものではない。少なくとも密度の異なる2種類の無機物層であって、密度が2g/cm3以上の層が少なくとも1層あればよい。従って、図2に示すように、3種類以上の無機物層を組み合わせてバリア膜30を構成してもよい。
【0035】
また、各無機物層の厚みの構成も特に限定されるものではない。バリア膜30に対して下地側に近い部分で密度の低い無機物層の厚みを厚くして、バリア膜30の厚みに従って密度の高い無機物層の厚みを厚くしてもよい。また、各無機物層の境界は明確でなくてもよい。すなわち、密度の低い無機物層から密度の高い無機物層まで連続的に変化する構成が繰り返されてバリア膜30が構成されてもよい。
【0036】
積層の回数も特に限定されることはないが、積層回数が多いと、工数が増えるので、1つの太陽電池モジュールを作製するためのタクトタイムが長くなる。例えば、図2において、第2薄膜層32は密度の低い無機物層であり、第3薄膜層33は密度の高い無機物層である。第2薄膜層32は2層分および第3薄膜層33は1層分だけ示したが、これらはより多くの回数だけ積層した多層膜で構成されてもよい。
【0037】
バリア膜30の作製方法は特に限定されるものではないが、スパッタリング法やECR(Electron Cyclotron Resonance:電子サイクロトロン共鳴)CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法では、成膜対象物が絶えずプラズマに曝されるので、熱CVD法、光CVD法、プラズマCVD法といった方法が好適に用いられる。ここで、バリア膜30を化学気相成長法で形成した場合には、スパッタリング法等に比べてバリア膜30の外周端部と基板10との結合力が大きくなり、バリア膜30と基板10との界面から水分が侵入するのを十分に防ぐことができる。
【0038】
図1に戻って、バリア膜30を形成した後に封止層15および保護層16を形成することができる。封止層15は従来用いられているEVAを用いてよい。また保護層16も従来用いられているフッ化ビニル樹脂製若しくはフッ化ビニル樹脂/Al/フッ化ビニル樹脂といった複合フィルムや、ガラスを用いることができる。また、太陽電池モジュール1の側面はシールを用いて、フレーム17を固定する。
【0039】
図3には、本発明における太陽電池モジュール全体の製造工程を簡単に示す。図3(a)は1枚の基板10上に裏面電極11と発電素子12と透明電極13が形成された状態を示す。発電素子12は複数個が同時に形成されており、裏面電極11と透明電極13のパターンによって直列若しくは並列に結合されている。ここで、太陽電池モジュール1の電極終端22、23はモジュールの両脇に集められる。なお、電極終端はモジュールの両脇以外の場所に設けられてもよい。
【0040】
図3(b)は、2つの電極終端22、23に引出端子24、25が設けられた状態を示す。引出端子24、25は太陽電池モジュール1の正極と負極になる部分である。用いられる材料に特に限定されるものではなく、腐食しにくく導電率の高い金属若しくは合金材料が好適に使用できる。
【0041】
図3(c)は、引出端子24、25と基板10や透明電極13の段差を小さくするためにかつ、引出端子24、25と電極終端22、23を接合した箇所の空隙をなくすために樹脂で被覆した被覆成形部28を配した状態を示す。樹脂で被覆成形するのは、CVD法は回り込みが少ないので、大きな段差を連続膜で被覆することができないからである。
【0042】
図3(d)は、被覆成形部28の上からバリア膜30を形成した状態を示す。バリア膜30は基板10側面からの水分浸入を防止するのが目的であるので、基板10、被覆形成部28、透明電極13を一体的に覆うように配設される。従って、これらを含む領域を全てバリア膜30で覆うのが好適であるが、特に水分が浸入しやすい基板10との境界部分にのみバリア膜30を配置してもよい。すなわち、太陽電池モジュール1の中央部分はバリア膜30を配設しなくてもよい。
【0043】
図3(e)は、バリア膜30上に封止層15としてEVAを形成し、その上に保護層16として保護フィルムを形成した状態を示す。EVAと保護フィルムで覆った後は、側面をフレーム17で保護する。
【実施例】
【0044】
次に本発明の太陽電池を具体的に作製した実施例について説明する。基板10は通常のガラス基板10を用いた。大きさは縦400mm、横300mmで厚さは3.5mmであった。
【0045】
ガラス基板10上には、ZnOとAgを積層した裏面電極11を所定の形状に形成した。裏面電極11には一部が接続するようにpin接合を有するアモルファスシリコン系の光電変換層12を形成した。さらに光電変換層12上にはITOからなる厚さ1μmの透明電極13を所定の形状に形成し、基板上に太陽電池セルを形成した。次にこの基板10上にバリア膜30を形成した。
【0046】
バリア膜30は、バリア膜形成装置で作製した。図4(側面断面図)と図5(平面図)にバリア膜形成装置の構成図を示す。バリア膜形成装置50は、成膜室51となる真空チャンバーとロータリーポンプおよびターボ分子ポンプからなる排気系52とプラズマ発生用の高周波電源66と各種ガスを導入するフランジが配置されている。
【0047】
成膜室51は、排気系52、HMDS供給タンク53、O2供給タンク55、H2供給タンク56、Ar供給タンク57、に接続される。排気系52には流量制御バルブ58を介して成膜室51に接続され、HMDS供給タンク53は流量制御バルブ59を介して接続され、H2供給タンク56及びAr供給タンク57は流量制御バルブ62を介して接続され、O2供給タンク55は流量制御バルブ61を介して接続される。成膜室51の内部には、ループアンテナ63を備える。
【0048】
ループアンテナ63は、プラズマを生成する手段であり、絶縁チューブ64と導電性電極65とにより構成される。絶縁チューブ64は、成膜室51内に互いに2本対向して平行配設される。導電性電極65は、2本の絶縁チューブ64に挿設され、図5のように平面視が略U字形を呈するように成膜室51の互いに対向する側壁を貫通し、高周波電流を供給する電源66に接続される。高周波電源66の周波数は13.56MHzであることが好ましい。なお、使用するプラズマはCCP、ICP、バリア放電、ホロー放電などでもよい。
【0049】
太陽電池セル20を形成した基板10は、基板の固定台68上に、太陽電池セルがループアンテナ63側に向くように配置され、次に排気系52により成膜室51の内圧を9.9×10−5Pa以下になるまで減圧した。
【0050】
成膜室51内の減圧が完了後、流量バルブ62を開くことによりH2ガスとArガスの混合ガスを成膜室51に導入した。同時に流量バルブ59を開いて、HMDS(ヘキサメチルジシラザン)ガスを成膜室51に導入した。Arガスを添加することで、比較的小エネルギーのプラズマで解離反応を行うことができる。このときの各ガスの導入速度は、H2ガスとArガスの混合ガスを20sccm〜40sccmで、HMDSガスを3sccm〜5sccmとした。
【0051】
続いて、電源66からループアンテナ63に高周波電流を流した。これにより、ループアンテナ63の周辺にプラズマが発生する。このときのプラズマ電力は5kW〜10kWとした。基板の表面では表面反応が行われ、図2に示した太陽電池セル20を被覆する第1薄膜層31が形成された。所定時間T1が経過した後、流量バルブ62を閉じ、H2ガスとArガスの混合ガスの導入を停めた。
【0052】
第1薄膜層31が形成されると、次に、第2薄膜層32の形成処理を行った。まず、流量バルブ61を開いてO2ガスを成膜室51に導入した。同時に流量バルブ59によりHMDSガスを導入した。このときの各ガスの導入速度は、O2ガスが20sccm〜1000sccm、HMDSガスが3sccm〜20sccmとした。続いて、電源66からループアンテナ63に、プラズマ電力が0.1kW〜8kWとなるように高周波電流を流し、ループアンテナ63の周辺にプラズマを発生させた。
【0053】
基板10の表面では表面反応が行われ、図2に示すように、第1薄膜層31を被覆するように第2薄膜層32、すなわちシリコン酸化膜を形成した。所定時間が経過した後、流量バルブ61を閉じることによりO2ガスの導入を停めた。このシリコン酸化膜は、SiとOとをSi:O=1:1.9〜2.1の組成比で含むことが好ましい。
【0054】
上記第1薄膜層31と第2薄膜層32で行った処理をN回(本例の場合はN=2)繰り返した。その結果、図2に示すように、シリコンを含む低密度薄膜(第1薄膜層31)の上にシリコン酸化膜(第2薄膜層32)を積層した積層体が2段形成された。
【0055】
以上のように、先ず、原料ガスとして、H2ガスとArガスとHMDSガスとを用い、
基板K上にプラズマCVD法により第1薄膜層31を形成し、次いで、O2ガスとHMDSガスとを用い、シリコン酸化膜である第2薄膜層層32を第1薄膜層31の上に形成した。なお、ここでは、示さなかったが、NH3ガスとSiH4ガスなどを用いてシリコン窒化膜を入れてもよい。
【0056】
第1薄膜層31は、密着性が良いことが判明している。この第1薄膜層31を基板10と第2薄膜層32との間に介在させることで、基板10と第2薄膜層32及びそれ以降の膜との密着性が向上し、その結果、第2薄膜層32は、クラックや剥離が生じ難くなり、性能ばらつきの少ない信頼性のあるものとすることができる。
【0057】
また、第1薄膜層31と第2薄膜層32とを交互に複数層積層することにより、水分や酸素に対するバリア性が著しく向上する。なお、本実施の形態では、2つの無機物層を積層する例で説明を行ったが、3種類以上の無機物を用いた無機物層を利用してもよい。
【0058】
以上のようにして、作成された本発明の太陽電池モジュールは、水分に対する気密性が高く、EVAと保護層だけで裏面を封止した時と比較して、熱サイクル試験において防水性が向上した。
【0059】
本発明の方法は、従来とは異なりエッチング処理等を用いないため、太陽電池セル20にダメージを与えることがない。また、第1薄膜層31と第2薄膜層32との積層体は、基板10の上に化学的に気相成長するに従い、太陽電池セル20をプラズマエネルギーから保護する機能も有するため、プラズマエネルギーによるデバイスへのダメージが少なくて済む。また、第1薄膜層31の形成と第2薄膜層32との形成は、同室(成膜室51)内で行われるため、装置構造が大掛かりなものにならない。また、HMDSガスを原料ガスとして用いるため、爆発の虞がなく安全性に優れる。
【符号の説明】
【0060】
1 太陽電池モジュール
10 基板
11 裏面電極
12 光電変換層
13 透明電極
15 封止層
16 保護層
20 太陽電池セル
30 バリア膜
31 第1薄膜層
32 第2薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
この基板上に、裏面電極と、光を受光して発電する発電層と、光を透過させる透明電極とがこの順に積層されて形成される太陽電池素子と、
前記太陽電池素子を保護する保護層と、
前記保護層と前記基板との間に充填される樹脂製の封止層と、
を有し、前記保護層側から光を取り入れる太陽電池モジュールであって、
前記太陽電池素子は、薄膜を複数層積層させて形成されるバリア膜で覆われており、
前記バリア膜は、その上層が下層を覆って形成され、各層の外周端部は前記基板に接する部分を有しており、このバリア膜の上から前記封止層及び前記保護層で覆われていることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項2】
前記バリア膜は、無機物を堆積させて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記バリア膜は、化学気相成長法により形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
前記バリア膜の屈折率は、前記封止層の屈折率と前記透明電極の屈折率との間に設定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−4550(P2013−4550A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130823(P2011−130823)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】