説明

太陽電池基材用フィルム

【課題】優れた熱寸法安定性と低吸水率を太陽電池の基材として用いたときに製造時の信頼性の高い太陽電池基材用フィルムを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂からなり、120℃から200℃まで20℃/分の昇温速度で昇温したときの熱膨張率が長手方向および幅方向のいずれも50ppm/℃以下であり、吸水率が1%以下であることを特徴とする、太陽電池基材用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池の基材として用いられる太陽電池基材用フィルムに関し、詳しくは、フレキシブルタイプの薄膜太陽電池の基材として好適に用いられる太陽電池基材用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池には、基材としてガラスを用いるリジットタイプと、プラスチックフィルムを用いるフレキシブルタイプがある。近年、携帯電話や携帯端末のような移動体通信機器の補助電源として、フレキシブルタイプの太陽電池が多く用いられるようになってきた。
【0003】
リジットタイプは、フレキシブルタイプに比べて、太陽電池セルでのエネルギーの変換効率は高いものの、太陽電池モジュールの薄型化や軽量化には限界があり、また衝撃を受けたときに、基材のガラスが割れて、太陽電池モジュールが破損する可能性がある。
【0004】
薄型化や軽量化を期待することができ、衝撃に対しても強いため、太陽電池モジュールとしてフレキシブルタイプが有利であり、以前から注目されていた。例えば、特開平1−198081号公報では、高分子フィルムの基材上にアモルファスシリコン層を電極層で挟んだ構造の薄膜太陽電池が開示されている。この他、特開平2−260577号公報、特公平6−5782号公報、特開平6−350117号公報、特開昭62−84568号公報には、可撓性基板を用いた太陽電池モジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−198081号公報
【特許文献2】特開平2−260577号公報
【特許文献3】特公平6−5782号公報
【特許文献4】特開平6−350117号公報
【特許文献5】特開昭62−84568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
太陽電池の種類によって光発電層の形成の際に必要となるプロセス温度が異なるものの、信頼性の高い太陽電池を得るためには、太陽電池基材用フィルムとして、プロセス温度での水の放出が抑制されたフィルムを用いることが必要である。
本発明の目的は、太陽電池製造の際のプロセス温度での水の放出が抑制された、太陽電池基材用フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、熱可塑性樹脂からなり、120℃から200℃まで20℃/分の昇温速度で昇温したときの熱膨張率が長手方向および幅方向のいずれも50ppm/℃以下であり、吸水率が1%以下であることを特徴とする、太陽電池基材用フィルムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、太陽電池製造の際のプロセス温度での水の放出が抑制された、太陽電池基材用フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
[熱可塑性樹脂]
本発明の太陽電池基材用フィルムは熱可塑性樹脂からなる。この熱可塑性樹脂は、溶融押出可能な熱可塑性の樹脂であり、例えば、ポリエステル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドを用いることができる。高い機械的強度と、低い吸水率のフィルムを得ることができることから、熱可塑性樹脂としてポリエステルが好ましく、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用いることができ、中でも、高い機械強度を有し、耐熱性を備えることから、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが特に好ましい。
【0011】
[熱膨張率]
本発明の太陽電池基材用フィルムは、120℃から200℃まで20℃/分の昇温速度で昇温したときの熱膨張率が長手方向および幅方向のいずれも50ppm/℃以下、好ましくは45ppm/℃以下である。なお、熱膨張率は、熱機械分析装置(以下「TMA」と称する場合がある)を用い、20℃/分の昇温速度で昇温して測定した線膨張率である。
【0012】
本発明では、長手方向とはフィルムが連続製膜されるときのフィルムの進行方向である。これを縦方向またはMD方向と称することもある。幅方向とはフィルム面内において長手方向と直交する方向であり、横方向またはTD方向と称することもある。
【0013】
120℃から200℃まで20℃/分の昇温速度で昇温したときの熱膨張率が長手方向および幅方向のいずれか一方または両方が50ppm/℃を超えると、光発電層積層プロセスで温度がかかるときに、膨張したフィルム上に光発電層が積層されることになり、室温に戻した際に収縮し光発電層内に歪を起こし、場合によってはクラックが入り、ショートやリークの原因となる。
【0014】
これらのクラックをより確実に防ぐためには、120℃から200℃まで20℃/分の昇温速度で昇温したときの熱膨張率が長手方向および幅方向のいずれも45ppm/℃以下であることが好ましく、また、30℃から120℃まで20℃/分の昇温速度で昇温したときの熱膨張率が長手方向および幅方向のいずれも30ppm/℃以下であることが好ましい。
【0015】
[吸水率]
本発明の太陽電池基材用フィルムの吸水率は1%以下であり、好ましくは0.8%以下である。吸水率が1%を超えると光発電層製膜プロセス中に水蒸気が放出され変換効率の高い光発電層が積層できなくなる。また、光発電層製膜前に事前にプロセス温度での乾燥を行う場合に長い時間がかかり、太陽電池の生産性に劣ることになる。
【0016】
[添加剤]
熱可塑性樹脂には、フィルムの耐候性を向上させるために、紫外線吸収剤を含有させることが好ましい。紫外線吸収剤としては、少量で効果のある吸光係数の大きい化合物が好ましく、例えば、ベンゾオキサジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾトリアジン系の紫外線吸収剤を用いることができる。これらのなかでも高い耐久性を持つものが好ましく、ベンゾトリアジン系、ベンゾトリアゾール系またはベンゾオキサジン系の紫外線吸収剤が好ましい。紫外線吸収剤は、一種類でも複数種類を組み合わせてもよい。
【0017】
紫外線吸収剤の他に、例えば、酸化防止剤、熱安定化剤、易滑剤、難燃剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤といった添加剤を添加してもよい。
【0018】
[厚み]
本発明の太陽電池基材用フィルムの厚みは、太陽電池の支持基材としてのスティフネスを維持し、太陽電池モジュールの可撓性を確保する観点から、好ましくは25〜250μm、さらに好ましくは50〜200μm、特に好ましくは60〜125μmである。
【0019】
[熱収縮率]
本発明の太陽電池基材用フィルムは、太陽電池への加工工程における加熱工程で寸法変化を抑制する観点から、200℃で10分間熱処理したときの熱収縮率が、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.6%以下である。
【0020】
[塗布層]
本発明の太陽電池基材用フィルムには片面もしくは両面に塗布層を設けてもよい。この塗布層として、例えば、高分子バインダーおよび微粒子からなる層や、無機物からなる層挙げることができる。
【0021】
高分子バインダーおよび微粒子からなる層を設ける場合、高分子バインダーとしては、塗布層と基材の熱可塑性樹脂フィルムとの良好な接着性を得る観点から、ポリエステル樹脂および/またはアクリル樹脂を用いることが好ましい。この場合の塗布層の厚みは、好ましくは0.01〜8.0μm、さらに好ましくは0.02〜6.0μmである。
【0022】
無機物の層を設ける場合、高いバリア性を付与する観点から、SiO、SiNまたはSiCNからなる層が好ましい。無機物の層の厚みは、高々500nm、好ましくは50〜500nmである。500nmを越えると割れやすくなり、かえって太陽電池の安定生産ができない。
【0023】
[フィルムの製造方法]
本発明の太陽電池基材用フィルムの製造方法を、熱可塑性樹脂としてポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを用いる場合を例に、以下説明する。
【0024】
本発明の太陽電池基材用フィルムは、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを溶融し、これらを溶融押出して未延伸シートとし、これを延伸することによって製造することができる。実用的な機械的強度を得るために二軸延伸することが好ましい。
【0025】
ここではフィルムの製造方法について、溶融押出後、逐次二軸延伸によりフィルムを製造する方法を例に詳述する。樹脂を、必要に応じて、通常の加熱または減圧雰囲気下における乾燥により水分を除去した後、通常の溶融押出温度、すなわち融点(「Tm」という)以上、(Tm+50℃)以下の温度で溶融し、ダイのスリットから押出して、樹脂のガラス転移温度(「Tg」という)以下に冷却した回転冷却ドラムの上で急冷固化することにより、非晶質の未延伸シートを得る。得られた未延伸シートは、Tg以上、(Tg+50℃)以下の温度で、縦方向に3.1〜5.0倍の延伸倍率で延伸し、次いで横方向にTg以上、(Tg+50℃)以下の温度で、3.1〜5.0倍の延伸倍率で延伸する。この延伸倍率は、好ましくは縦方向が3.5〜5.0倍、横方向が3.3〜5.0倍である。延伸倍率を高くすることで、熱膨張率の低い本発明のフィルムを得ることができる。なお、縦延伸と横延伸を同時に行う同時2軸延伸も、縦横の機械特性のバランスがとりやすいため、好ましい延伸方法である。
【0026】
縦横に延伸した二軸延伸フィルムは、好ましくはさらに樹脂の結晶化温度(以下「Tc」という)以上、(Tm−10℃)以下の温度で熱固定を行う。上記の用に延伸倍率を上げて分子鎖の配向性を上げることで熱膨張係数を下げた場合、フィルム内部に歪が残りやすく、その結果、熱収縮率が上がりやすい。そこでその歪をとるために、縦方向および/または横方向に、弛緩率0.5〜15%の範囲で熱弛緩処理を行うことが好ましい。熱弛緩処理は、フィルム製造時に行ってもよく、巻き取った後に別の工程で熱処理を行ってもよい。巻き取った後の熱処理方法は特に限定されないが、特開平1−275031号公報に示されるような、フィルムを懸垂状態で弛緩熱処理する方法を例えば用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
なお、各特性値は以下の方法で測定した。
【0028】
(1)熱膨張率(αt)
フィルムから、2種類のサンプルを切り出した。一方はフィルムの長手方向に沿って長さ20mm、幅5mmの長方形のサンプルであり、他方はフィルムの幅方向に沿って長さ20mm、幅5mmの長方形のサンプルである。
これらのサンプルそれぞれについて、セイコーインスツルメンツ(株)製のTMA/SS120Cを用い、チャック間距離15mmにて140g/mmの荷重をかけた状態で200℃で30分間前処理をして、その後、室温まで降温させ、それぞれ長手方向の熱膨張率測定用サンプルおよび幅方向の熱膨張率測定用サンプルとした。
それぞれの測定用サンプルを30℃から200℃まで20℃/分の昇温速度で昇温させて、温度とサンプル長さのチャートを得た。このチャートからL,L,Lを読み取り、30℃から120℃まで20℃/分の昇温速度で昇温したときの熱膨張率αt(120)および120℃から200℃まで20℃/分の昇温速度で昇温したときの熱膨張率αt(200)を、下記式で算出した。
αt(120)={〔(L−L)×10〕/(L×ΔT)}+0.5
αt(200)={〔(L−L)×10〕/(L×ΔT)}+0.5
ここで、
; 30℃時のサンプル長(mm)
; 120℃時のサンプル長(mm)
; 200℃時のサンプル長(mm)
ΔT;90℃=(120℃− 30℃)
ΔT;80℃=(200℃−120℃)
である。なお、上記中の0.5は本測定の試料管に使用している石英ガラスの熱膨張係数(ppm/℃)である。
【0029】
(2)吸水率
JIS K7209−1984 A法 に準拠して測定した。すなわち、サンプルを、50℃で24hrの前処理を行い、サンプルの浸漬処理前の重量(M1)を測定し、この後、23℃×55RH%の環境下でイオン交換水に24hr浸漬する浸漬処理を行った。その後取り出し、浸漬処理後のサンプルの重量(M2)を測定し、浸漬前後でのサンプルの重量変化から、下記式でサンプルの吸水率を算出した。
吸水率(%)=(M2−M1)/M1×100
【0030】
(3)固有粘度
オルソクロロフェノール溶媒による溶液の粘度を35℃にて測定し求めた。
【0031】
(4)フィルムの厚み
フィルムサンプルをエレクトリックマイクロメーター(アンリツ製 K−402B)にて10点厚みを測定して平均値を求めフィルム厚みとした。
【0032】
(5)熱収縮率
フィルムサンプルに30cm間隔で標点をつけ、荷重をかけずに所定の温度のオーブンで所定時間熱処理を実施し、熱処理後の標点間隔を測定して、フィルム連続製膜方向(MD方向)と、製膜方向に垂直な方向(TD方向)において、下記式にて熱収縮率を算出した。この熱処理前の標点間距離Lと熱処理後の標点間距離Lをそれぞれ測定し、熱処理後の寸法変化率を熱収縮率S(%)として下式により算出した。
S(%)=((L−L)/L)×100
【0033】
(6)薄膜太陽電池の動作率および光電変換効率
フィルムサンプルの表面に、スパッタリング法によって200nmの厚みのAg薄膜を形成し、さらにその上に50nmの厚みのAZO薄膜を形成した。その後、これらの薄膜が形成されたフィルムサンプルをプラズマCVD装置に入れ、基板温度を190℃とし、n、i、p型の非晶シリコン(a−Si)層の3層からなる光電変換層(3層の合計厚み0.4μm)を形成した。その後、升目上マスクを設置状態でスパッタリング法によって、190℃温度下でAZO薄膜を100nmの厚みで形成したのち、櫛状のマスクを用いてスパッタリングによってAg薄膜を300nmの厚みで形成することで、薄膜太陽電池を得た。
500Wのキセノンランプ(ウシオ電気社製)に太陽光シミュレーション用補正フィルター(オリエール社製AM1.5Global)を装着し、上記の薄膜太陽電池に対し、入射光強度が100mW/cmの模擬太陽光を、水平面に対して垂直になるよう照射した。システムは屋内、気温25℃、湿度50%の雰囲気に静置した。電流電圧測定装置(ケースレー製ソースメジャーユニット238型)を用いて、システムに印加するDC電圧を10mV/秒の定速でスキャンし、I−Vカーブ特性測定をおこなった。この結果から得られた短絡電流(Jsc)および開放電圧(Voc)FF(フィルファクター:曲線因子)から光電変換効率ηを下記式により算出した。
η(%)=Jsc×Voc×FF
また、これらの測定の際に、ショートおよび電流のリークが起こらず発電したセル数をAとし、作成した全セル数をBとして、これらの比A/Bから動作率(%)を算出した。
動作率(%)=A/B×100
【0034】
[実施例1]
平均粒径0.3μmの球状シリカ粒子(真密度2.2)を0.2重量%およびポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(非晶密度1.33、固有粘度0.65)99.8重量%からなるポリエステル組成物を、170℃で6時間乾燥させた後に押出機に供給し、溶融温度305℃でスリット状ダイより押出して、表面温度を50℃に維持した回転冷却ドラム上で急冷固化させて未延伸フィルムを得た。
次いで縦方向に140℃で4.0倍に延伸した後、横方向に145℃で4.0倍に延伸し、245℃で5秒間熱固定処理および幅方向に2%収縮させ、厚さ100μmのフィルムを得た。さらに得られたフィルムを200℃10分加熱し弛緩することで内部の歪を取り除いた。得られたフィルムの特性は表1のとおりであり、得られたフィルムを用いて作成した薄膜太陽電池の特性は表1のとおりである。
【0035】
[実施例2]
延伸倍率を、縦方向3.8倍および横方向3.8倍とした以外は実施例1と同様の方法を用いてフィルムおよび薄膜太陽電池を作成した。特性は表1の通りである。
【0036】
[実施例3]
弛緩後のフィルムの表面にスパッタリングにより酸化ケイ素層を両面にそれぞれ150nmの厚みで積層した以外は実施例1と同じ方法でフィルムおよび太陽電池を作成した。各特性は表1のとおりである。
【0037】
[比較例1]
延伸倍率を縦方向3.1倍、横方向3.3倍とした以外は実施例1と同様の方法を用いてフィルムおよび薄膜太陽電池を作成した。特性は表1のとおりであり、太陽電池動作率が低下した。
【0038】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の太陽電池基材用フィルムは、フレキシブルタイプの太陽電池の基材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなり、120℃から200℃まで20℃/分の昇温速度で昇温したときの熱膨張率が長手方向および幅方向のいずれも50ppm/℃以下であり、吸水率が1%以下であることを特徴とする、太陽電池基材用フィルム。
【請求項2】
熱可塑性樹脂がポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートである、請求項1記載の太陽電池基材用フィルム。

【公開番号】特開2010−163511(P2010−163511A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5648(P2009−5648)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】