説明

太陽電池封止シート及びフレキシブル太陽電池モジュール

【課題】太陽電池素子との接着性及び形状維持性に優れ、かつ、太陽電池素子を封止する際にカールが発生せず、フレキシブル太陽電池モジュールを高い効率で製造できる太陽電池封止シート、ならびに、該太陽電池封止シートを用いて得られるフレキシブル太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】フッ素系樹脂シート上に、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂とオレフィン共重合体樹脂との混合樹脂からなる接着層を有し、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂の含有量が上記混合樹脂中30〜99重量%である太陽電池封止シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池素子との接着性及び形状維持性に優れ、かつ、太陽電池素子を封止する際にカールが発生せず、フレキシブル太陽電池モジュールを高い効率で製造できる、太陽電池封止シート及び該太陽電池封止シートを用いて得られるフレキシブル太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池として、ガラスを基材とするリジットな太陽電池モジュールと、ポリイミドやポリエステル系の耐熱高分子材料やステンレス薄膜を基材とするフレキシブルな太陽電池モジュールとが知られている。近年、薄型化や軽量化による運搬、施工の容易さや、衝撃に強い点から、フレキシブルな太陽電池モジュールが注目されるようになってきている。
【0003】
このようなフレキシブルな太陽電池モジュールは、フレキシブル基材上に、光が照射されると電流を生じる機能を有するシリコン半導体や化合物半導体等からなる光電変換層等を薄膜状に積層したフレキシブル太陽電池素子の上下面を、太陽電池封止シートを積層して封止したものである。
上記太陽電池封止シートは、外部からの衝撃を防止したり、太陽電池素子の腐食を防止したりするためのものである。
【0004】
このような太陽電池封止シートを用いて、太陽電池素子を封止し、フレキシブル太陽電池モジュールを製造する方法として、ラミネーターによる真空加熱圧着法が一般に用いられる。
また、近年、フレキシブル太陽電池モジュールの製造方法として、量産化に優れる点で、ロールツーロール法が検討されている(例えば、特許文献1を参照のこと)。
ロールツーロール法は、フィルム状の太陽電池封止シートを巻回させたロールを使用し、該ロールから巻き出した太陽電池封止シートを、一対のロールを用いて狭窄することにより、太陽電池素子に熱圧着させて封止を行い、連続的にフレキシブル太陽電池モジュールを製造する方法である。
ロールツーロール法によれば、極めて高い効率で連続的にフレキシブル太陽電池モジュールを製造することが期待できる。
【0005】
上記太陽電池封止シートは、透明シートの保護層上に、太陽電池素子を封止するための接着層を有する。
太陽電池封止シートの接着層の材料として、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂が知られている(例えば、特許文献2を参照のこと)。無水マレイン酸変性オレフィン樹脂からなる接着層は、太陽電池素子や電極との接着性に優れ、高温での形状維持にも優れる。
しかしながら、無水マレイン酸変性オレフィン樹脂からなる接着層を有する太陽電池封止シートを太陽電池素子に熱圧着させると、カール(反り)が発生して、太陽電池モジュールの歩留りが極端に低下するといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−294815号公報
【特許文献2】特開2004−214641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みて、太陽電池素子との接着性及び形状維持性に優れ、かつ、上記太陽電池素子を封止する際にカールが発生せず、フレキシブル太陽電池モジュールを高い効率で製造できる太陽電池封止シート、ならびに、該太陽電池封止シートを用いて得られるフレキシブル太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、フッ素系樹脂シート上に、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂とオレフィン共重合体樹脂との混合樹脂からなる接着層を有し、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂の含有量が上記混合樹脂中30〜99重量%であることを特徴とする太陽電池封止シートである。
以下に、本発明を詳述する。
【0009】
本発明は、特定の成分を一定範囲で含有してなる接着層とフッ素系樹脂シートとを有することにより、太陽電池素子との接着性及び形状維持性に優れ、かつ、カールを発生せずにフレキシブル太陽電池モジュールを製造することができる太陽電池封止シートである。
本発明者らは、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂とオレフィン共重合体樹脂とを混合して接着層を形成すると、同量の無水マレイン酸総含有量であっても、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂単独で接着層を形成した場合と比較して、接着層の収縮応力と貯蔵弾性率が小さくなることを発見した。収縮応力が小さくなると、太陽電池封止シートの熱圧着時に発生するカール(反り)を防ぐことができる。しかし、更に貯蔵弾性率が小さくなると、高温での形状維持性が低下する。
そこで、本発明者らは、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂が有する接着性と形状維持性を有しつつ、かつ、収縮応力を小さくすることができる、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂とオレフィン共重合体樹脂との最適な混合比率を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の太陽電池封止シートは、フッ素系樹脂シート上に、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂とオレフィン共重合体樹脂との混合樹脂からなる接着層を有し、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂の含有量が上記混合樹脂中30〜99重量%である。
本発明の太陽電池封止シートは、特定の樹脂を、特定の割合で混合した樹脂からなる接着層を有することにより、太陽電池素子との接着性及び形状維持性に優れ、かつ、太陽電池素子との熱圧着時にカールの発生を抑制することができたものである。
【0011】
上記混合樹脂中の無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂の含有量が30重量%未満であると、太陽電池素子との接着性や高温での形状維持性が低下するおそれがある。99重量%を超えると、太陽電池素子を封止した際に、カールが発生するおそれがある。
上記混合樹脂中の無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂の含有量は、上記混合樹脂中、下限が40重量%であることが好ましく、50重量%であることがより好ましく、上限が95重量%であることが好ましい。
上記混合樹脂中の無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂の含有量は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて測定することができる。
【0012】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、オレフィン系樹脂が無水マレイン酸でグラフト変性された樹脂であることが好ましい。
上記オレフィン系樹脂は、単一のモノマーからなるホモポリマーであっても、2以上の種類のモノマーからなる共重合体であってもいい。
上記ホモポリマーとしては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等が挙げられる。
上記共重合体としては、具体的には、α−オレフィン−エチレン、α−オレフィン−プロピレン共重合体等が挙げられる。
上記オレフィン系樹脂としては、中でも、熱融着の観点からα−オレフィンとエチレンとの共重合体である、α−オレフィン−エチレン共重合体が好ましい。
【0013】
上記α−オレフィンは、樹脂の非晶性向上による低融点化、柔軟化のため、炭素数が3〜10であることが好ましく、炭素数が4〜8であることがより好ましい。
上記α−オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等が挙げられ、なかでも、上記α−オレフィンとしては、1−ブテン、1−オクテンが好ましい。
すなわち、上記α−オレフィン−エチレン共重合体としては、ブテン−エチレン共重合体、オクテン−エチレン共重合体が好ましい。
【0014】
上記α−オレフィン−エチレン共重合体は、α−オレフィン含有量が1〜25重量%であることが好ましい。
上記α−オレフィン含有量が1重量%未満であると、上記太陽電池封止シートの柔軟性が低下するとともに、上記太陽電池封止シートの融点が高くなるため、太陽電池素子の封止に高温加熱が必要となり、フレキシブル太陽電池モジュールの製造の際に、カールが発生するおそれがある。上記α−オレフィン含有量が25重量%を超えると、上記太陽電池封止シートの結晶性又は流動性が不均一となって歪みが生じたり、上記太陽電池封止シート自体の融点が低くなりすぎるため、太陽電池素子を高温に保持した場合に形状を保持することが難しくなり、その結果、上記太陽電池封止シートの太陽電池素子に対する接着性が低下したり、変形したりするおそれがある。
上記α−オレフィン含有量は、下限が10重量%であることがより好ましく、上限が20重量%であることがより好ましい。
【0015】
上記α−オレフィン−エチレン共重合体における上記α−オレフィンの含有量については、13C−NMRのスペクトル積分値により求めることができる。具体的には、例えば1−ブテンを用いた場合、重クロロホルム中で10.9ppm付近や26.1ppm付近、39.1ppm付近に得られる1−ブテン構造由来のスペクトル積分値と、26.9ppm付近、29.7ppm付近、30.2ppm付近、33.4ppm付近に得られるエチレン構造由来のスペクトル積分値を用いて算出する。スペクトルの帰属については高分子分析ハンドブック(日本分析化学会編、朝倉書店発行、2008年)等の既知データーを利用するとよい。
【0016】
上記オレフィン系樹脂を無水マレイン酸でグラフト変性する方法としては、公知の方法が用いられ、例えば、上記オレフィン系樹脂と無水マレイン酸とラジカル重合開始剤とを含有した組成物を、押出機に供給して溶融混練してオレフィン系樹脂に無水マレイン酸をグラフト重合させる溶融変性法や、上記オレフィン系樹脂を溶媒に溶解させて溶解液を作製し、この溶解液に無水マレイン酸及びラジカル重合開始剤を添加してオレフィン系樹脂に無水マレイン酸をグラフト重合させる溶液変性法等が挙げられる。なかでも、機上混合できる点で、上記溶融変性法が生産上好ましい。
【0017】
上記グラフト変性する方法において使用するラジカル重合開始剤としては、従来からラジカル重合に用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
【0018】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、無水マレイン酸変性量が0.1〜3重量%であることが好ましい。
上記無水マレイン酸変性量が0.1重量%未満であると、上記太陽電池封止シートの太陽電池素子に対する接着性が低下するおそれがある。上記無水マレイン酸変性量が3重量%を超えると、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂が架橋して、上記太陽電池封止シート製造時にゲルが発生して該封止シートの製造ができなくなったり、上記太陽電池封止シートの押出成形性が低下したりするおそれがある。
上記無水マレイン酸変性量は、下限が0.15重量%であることがより好ましく、上限が1.0重量%であることがより好ましく、0.6重量%であることが最も好ましい。
【0019】
なお、上記無水マレイン酸変性量は、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂を用いて試験フィルムを作製し、上記試験フィルムの赤外吸収スペクトルを測定して、1790cm−1付近の吸収強度から算出することができる。具体的には、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂の無水マレイン酸変性量は、例えば、FT−IR(フーリエ変換赤外分光装置 Nicolet 6700 FT−IR)を用いて高分子分析ハンドブック(日本分析化学会編、朝倉書店発行、2008年)等に記載された既知の測定方法で測定することができる。
【0020】
上記オレフィン共重合体樹脂としては、具体的には、エチレンとα−オレフィンとの共重合体、及び、ポリプロピレンとα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる。
上記α−オレフィンは、樹脂の非晶性向上による低融点化、柔軟化のため、炭素数が3〜10であることが好ましく、炭素数が4〜8であることがより好ましい。
上記α−オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等が挙げられ、なかでも、上記α−オレフィンとしては、1−ブテン、1−オクテンが好ましい。
上記オレフィン共重合体樹脂としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、及び、プロピレン−ブテン共重合体からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂であることが好ましい。
【0021】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂及びオレフィン共重合体樹脂は、示差走査熱量分析により測定した吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)が80〜125℃であることが好ましい。
上記吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)が80℃より低いと、太陽電池封止シートの耐熱性が低下するおそれがある。上記吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)が125℃より高いと、封止工程における太陽電池封止シートの加熱温度が高くなって、フレキシブル太陽電池モジュールの生産性が低下したり、又は、太陽電池素子の封止が不充分となったりするおそれがある。
上記吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)は、83〜110℃であることがより好ましい。
なお、上記示差走査熱量分析により測定した吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)は、JIS K7121に規定されている測定方法に準拠して測定することができる。
【0022】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂及びオレフィン共重合体樹脂は、メルトフローレイト(MFR)が0.5g/10分〜29g/10分であることが好ましい。上記メルトフローレイトが0.5g/10分未満であると、太陽電池封止シートの製造時に該封止シートに歪が残り、フレキシブル太陽電池モジュール製造後に該モジュールがカールするおそれがある。29g/10分を超えると、上記太陽電池封止シート製造時にドローダウンしやすくなり均一な厚みのシートを製造することが難しく、フレキシブル太陽電池モジュール製造後に該モジュールがカールしたり、太陽電池封止シートにピンホール等を生じやすくなり、上記太陽電池モジュール全体の絶縁性を損なうおそれがある。
上記メルトフローレイトは、2g/10分〜10g/10分であることがより好ましい。
なお、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂及びオレフィン共重合体樹脂のメルトフローレイトは、ポリエチレン系樹脂のメルトフローレイトの測定方法であるASTM D1238に準拠して荷重2.16kg荷重にて測定された値をいう。
【0023】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂及びオレフィン共重合体樹脂は、30℃での粘弾性貯蔵弾性率が2×10Pa以下であることが好ましい。上記30℃での粘弾性貯蔵弾性率が2×10Paを超えると、太陽電池封止シートの柔軟性が低下して取扱性が低下したり、太陽電池素子を上記太陽電池封止シートによって封止して太陽電池モジュールを製造する際に、上記太陽電池封止シートを急激に加熱する必要が生じるおそれがある。上記30℃での粘弾性貯蔵弾性率は、低すぎると、上記太陽電池封止シートが室温にて接着性を発現して上記太陽電池封止シートの取扱性が低下することがあるため、下限は1×10Paであることが好ましい。また、上限は1.5×10Paがより好ましい。
【0024】
また、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂及びオレフィン共重合体樹脂は、100℃での粘弾性貯蔵弾性率が5×10Pa以下であることが好ましい。上記100℃での粘弾性貯蔵弾性率が5×10Paを超えると、太陽電池封止シートの太陽電池素子に対する接着性が低下するおそれがある。
上記100℃での粘弾性貯蔵弾性率は、低すぎると、上記太陽電池封止シートによって太陽電池素子を封止して太陽電池モジュールを製造する際に、上記太陽電池封止シートが押圧力によって大きく流動して、上記太陽電池封止シートの厚みの不均一化が大きくなるおそれがあるため、下限は1×10Paであることが好ましい。また、上限は4×10Paがより好ましい。
なお、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂及びオレフィン共重合体樹脂の粘弾性貯蔵弾性率は、JIS K7244に準拠した動的性質試験方法によって測定された値をいう。
【0025】
上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂とオレフィン共重合体樹脂との混合樹脂の無水マレイン酸の総含有量は、0.03〜3重量%であることが好ましい。
上記無水マレイン酸の総含有量が0.03重量%未満であると、上記太陽電池封止シートの太陽電池素子に対する接着性が低下するおそれがある。上記無水マレイン酸の総含有量が3重量%を超えると、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂が架橋して、上記太陽電池封止シート製造時にゲルが発生して該封止シートの製造ができなくなったり、上記太陽電池封止シートの押出成形性が低下したりするおそれがある。
上記無水マレイン酸の総含有量は、下限が0.15重量%であることがより好ましく、上限が1.0重量%であることがより好ましく、0.6重量%であることが最も好ましい。
なお、上記混合樹脂の無水マレイン酸の総含有量は、上述した無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂の無水マレイン酸変性量の測定方法と同様の方法により測定することができる。
【0026】
上記接着層は、更に、エポキシ基を有するシラン化合物を含有することが好ましい。
上記シラン化合物を含有することにより、上記太陽電池封止シートと太陽電池素子表面との接着性を向上させることができる。
上記シラン化合物は、脂肪族エポキシ基、脂環式エポキシ基等のエポキシ基を分子中に少なくとも1個有していればよい。上記エポキシ基を有するシラン化合物としては、下記一般式(I)で示されるシラン化合物であることが好ましい。
【0027】
【化1】

【0028】
(式中、Rは、3−グリシドキシプロピル基又は2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基を示し、Rは、炭素数が1〜3であるアルキル基を示し、Rは、炭素数が1〜3であるアルキル基を示し、且つ、nは0又は1である。)
【0029】
上記Rは、下記式(II)で示される3−グリシドキシプロピル基、又は、下記式(III)で示される2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基を示す。
【0030】
【化2】

【0031】
【化3】

【0032】
上記Rとしては、炭素数が1〜3であるアルキル基であれば、特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、メチル基及びエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0033】
上記Rとしては、炭素数が1〜3であるアルキル基であれば、特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、メチル基が好ましい。
【0034】
上記一般式(I)で示されるシラン化合物としては、例えば、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン等が挙げられる。
【0035】
上記一般式(I)において、nは0であることが好ましい。
上記シラン化合物としては、特に好ましくは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0036】
上記接着層中の上記シラン化合物の含有量は、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂とオレフィン共重合体樹脂との混合樹脂100重量部に対して0.05〜5重量部であることが好ましい。
上記シラン化合物の含有量が上述の範囲外であると、太陽電池封止シートの接着性が低下するおそれがある。
上記シラン化合物の含有量は、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂100重量部に対して、下限は0.1重量部であることがより好ましく、上限は1.5重量部であることがより好ましい。
【0037】
上記接着層は、その物性を損なわない範囲内において、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の添加剤を更に含有していてもよい。
【0038】
上記接着層を製造する方法としては、上記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂と、上記
オレフィン共重合体樹脂と、必要に応じて添加される上記シラン化合物と、添加剤とを所定の重量割合にて押出機に供給して溶融、混練し、押出機からシート状に押出して接着層を製造する方法が挙げられる。
【0039】
上記接着層は、厚みが80〜700μmであることが好ましい。
80μm未満であると、本発明の太陽電池封止シートを用いて得られるフレキシブル太陽電池モジュールの絶縁性を保持できないおそれがある。700μmを超えると、フレキシブル太陽電池モジュールの難燃性に悪影響を及ぼしたり、フレキシブル太陽電池モジュールの重量が重くなるおそれがあり、経済的にも不利である。
上記接着層の厚みは、150〜400μmであることがより好ましい。
【0040】
上記接着層は、収縮応力が0.29MPa以下であり、かつ、100℃における貯蔵弾性率が4×10Pa以上であることが好ましい。上記収縮応力及び貯蔵弾性率が上述の範囲にあると、収縮力と高温形状維持性と接着力とが共に優れた接着層とすることができる。
上記収縮応力は、万能材料試験機(オリエンテック製、RTC−1310A)を用いた応力緩和試験方法により測定して得られる値である。
上記貯蔵弾性率の上限は5×10Paが好ましい。
上記貯蔵弾性率は、JIS K7244に準拠した動的性質試験方法によって測定して得られた値である。
【0041】
本発明の太陽電池封止シートは、フッ素系樹脂シート上に上記接着層が形成されたものである。
上記フッ素系樹脂シートは、透明性、耐熱性及び難燃性に優れるものであれば、特に限定されないが、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、エチレンクロロトリフルオロエチレン樹脂(ECTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、テトラフロオロエチレン−パーフロオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、ポリビニルフルオライド樹脂(PVF)及びテトラフロオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)からなる群より選択される少なくとも一種のフッ素系樹脂からなることが好ましい。
なかでも、上記フッ素系樹脂としては、耐熱性及び透明性により優れる点で、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニルフルオライド樹脂(PVF)がより好ましい。
【0042】
上記フッ素系樹脂シートは、厚みが10〜100μmであることが好ましい。
10μm未満であると、本発明の太陽電池封止シートを用いて得られるフレキシブル太陽電池モジュールの絶縁性が確保できなかったり、難燃性が損なわれるおそれがある。100μmを超えると、得られるフレキシブル太陽電池モジュールの重量が重くなるおそれがあり、経済的に不利である。
上記フッ素系樹脂シートの厚みは、15〜80μmであることがより好ましい。
【0043】
本発明の太陽電池封止シートは、上記フッ素系樹脂シートと上記接着層とを積層一体化することにより製造することができる。上記積層一体化する方法としては、特に限定されず、例えば、上記接着層の一面に上記フッ素系樹脂シートを押出ラミネートして形成する方法や、上記接着層と上記フッ素系樹脂シートとを共押出して形成する方法等が挙げられる。なかでも、上記接着層と上記フッ素系樹脂シートとが、共押出工程により同時に製膜加工され積層される方法が好ましい。
上記共押出工程における、押出設定温度は、上記フッ素系樹脂及び上記混合樹脂の融点より30℃以上、かつ、分解温度より30℃未満であることが好ましい。
このように、上記太陽電池封止シートは、上記接着層と上記フッ素系樹脂シートとが、共押出工程により同時に製膜加工され積層された一体型積層体であることが好ましい。
【0044】
本発明の太陽電池封止シートは、表面にエンボス形状を有していることが好ましい。上記太陽電池封止シートは、特に、太陽電池モジュールに適用した際に受光面側となるフッ素系樹脂シート表面に、エンボス形状が賦型されていることが好ましい。
上記エンボス形状を有することにより、太陽光の反射ロスを低減したり、ギラツキを防止したり、外観を向上させたりすることができる。
上記エンボス形状は、規則的な凹凸形状であっても、ランダムな凹凸形状であってもよい。
上記エンボス形状は、太陽電池素子に貼り合せる前にエンボス賦型しても、太陽電池素子に貼り合せた後でエンボス賦型しても、又は、太陽電池素子と貼り合せる工程で同時に賦型しても良い。
中でも、太陽電池素子に貼り合せる前にエンボス賦型して形成するのが、エンボスの転写ムラが無く、均一なエンボス形状が得られるので好ましい。
特に、太陽電池封止シートの接着層とフッ素系樹脂シートとを、共押出工程により同時に製膜加工し、冷却ロールにエンボスロールを用いて、溶融樹脂を冷却する際に同時にエンボス賦型したものは、太陽電池素子に貼り合せる工程でエンボス形状が変形することなく、均一なエンボス形状が保てるので、より好ましい。
【0045】
本発明の太陽電池封止シートは、太陽電池素子を封止して、フレキシブル太陽電池モジュールを製造することができるものである。
図1に、フッ素系樹脂シート1と接着層2とからなる本発明の太陽電池封止シートAの一例の縦断面模式図を示す。
【0046】
上記太陽電池素子は、一般に、受光することで電子が発生する光電変換層、発生した電子を取り出す電極層、及び、フレキシブル基材から構成される。
図2に、フレキシブル基材4上に光電変換層3が配置されてなる太陽電池素子Bの一例の縦断面模式図を示す。なお、電極層は、種々の配置が可能であり、ここでは省略する。
【0047】
上記光電変換層としては、例えば、単結晶シリコン、単結晶ゲルマニウム、多結晶シリコン、微結晶シリコン等の結晶系半導体、アモルファスシリコン等のアモルファス系半導体、GaAs、InP、AlGaAs、Cds、CdTe、CuS、CuInSe、CuInS等の化合物半導体、フタロシアニン、ポリアセチレン等の有機半導体等から形成されたものを挙げることができる。
上記光電変換層は、単層又は複層であってもよい。
上記光電変換層の厚みは、0.5〜10μmであることが好ましい。
【0048】
上記フレキシブル基材としては、可撓性があり、フレキシブル太陽電池素子に使用することができるものであれば、特に限定されず、例えば、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォン等の耐熱性樹脂からなる基材を挙げることができる。
上記フレキシブル基材の厚みは、10〜80μmであることが好ましい。
【0049】
上記電極層は、電極材料からなる層である。
上記電極層は、必要に応じて、上記光電変換層上にあってもよいし、上記光電変換層とフレキシブル基材との間にあってもよいし、上記フレキシブル基材面上にあってもよい。
また、上記太陽電池素子は、上記電極層を複数有していてもよい。
受光面側(表面)の電極層は、透明である必要があるため、上記電極材料としては、金属酸化物等の一般的な透明電極材料であることが好ましい。上記透明電極材料としては、特に限定されないが、ITO又はZnO等が好適に使用される。
透明電極を使用しない場合は、バス電極やそれに付属するフィンガー電極を銀などの金属でパターニングされたものでもよい。
背面側(裏面)の電極層は、透明である必要はないため、一般的な電極材料によって構成されて構わないが、上記電極材料としては、銀が好適に用いられる。
【0050】
上記太陽電池素子を製造する方法としては、公知の方法であれば、特に限定されず、例えば、上記フレキシブル基材上に上記光電変換層や電極層を配置する公知の方法により形成するとよい。
上記太陽電池素子は、ロール状に巻回された長尺状であってもよいし、矩形状のシート状であってもよい。
【0051】
本発明の太陽電池封止シートを用いて、上記太陽電池素子を封止して、フレキシブル太陽電池モジュールを製造する方法としては、上記太陽電池素子の少なくとも受光面上に、上記太陽電池封止シートを、一対の熱ロールを用いて狭窄し、熱圧着する方法が挙げられる。
上記太陽電池素子の受光面とは、光を受けることができる面であって、上記フレキシブル基材に対して上記光電変換層が配置された側の面をいう。
上記フレキシブル太陽電池モジュールを製造する方法では、上記太陽電池素子の光電変換層が配置された面と、本発明の太陽電池封止シートの接着層面とが対向した状態で、上記太陽電池素子と上記太陽電池封止シートを積層し、これらを一対の熱ロールを用いて狭窄し、熱圧着する方法が好ましい。
【0052】
上記一対の熱ロールを用いて狭窄する際の、上記熱ロールの温度は、70〜160℃であることが好ましい。70℃未満であると、接着不良を起こすおそれがある。160℃を超えると、熱圧着時にカールが発生しやすくなる。上記熱ロールの温度は80〜110℃であることがより好ましい。
【0053】
上記熱ロールの回転速度は、0.1〜10m/分であることが好ましい。0.1m/分未満であると、熱圧着後カールが発生しやすくなるおそれがある。10m/分を超えると、接着不良が起こるおそれがある。上記熱ロールの回転速度は、0.3〜5m/分であることがより好ましい。
【0054】
本発明の太陽電池封止シートを用いて、フレキシブル太陽電池モジュールを製造する方法の一例について、図3を用いて、具体的に説明する。
図3に示すように、太陽電池封止シートA及び太陽電池素子Bは、長尺状のものであり、それぞれロール状に巻回されている。まず、太陽電池封止シートA及び太陽電池素子Bのロールを巻き出し、太陽電池素子Bの受光面(光電変換層面)と、太陽電池封止シートAの接着層面とを対向させた状態に配置し、両者を積層させて積層シートCとする。
次いで、積層シートCを、所定の温度に加熱された一対のロールD、D間に供給し、積層シートCをその厚み方向に押圧しながら加熱して熱圧着し、太陽電池素子B及び太陽電池封止シートAを接着一体化する。これにより、上記太陽電池素子が上記太陽電池封止シートによって封止され、フレキシブル太陽電池モジュールEを製造することができる。
【0055】
また、本発明の太陽電池封止シートを用いて太陽電池素子を封止する場合、太陽電池素子の光電変換層側面(受光面)のみを封止してもよいし、太陽電池素子の光電変換層側面とフレキシブル基材側面との双方を封止してもよい。太陽電池素子の両面を上記太陽電池封止シートで封止することにより、上記太陽電池素子がより良好に封止され、長期間にわたって安定的に発電し得るフレキシブル太陽電池モジュールとすることができる。
【0056】
また、太陽電池素子のフレキシブル基材側面を封止する場合は、光透過性は必要でないため、本発明の太陽電池封止シートの代わりに、接着層及び金属板からなるシートを使用してもよい。
上記接着層は、本発明の太陽電池封止シートの接着層と同様の成分からなる層であることが好ましい。
上記金属板としては、ステンレス、アルミニウム等からなる板を挙げることができる。
上記金属板の厚みとしては、25〜800μmが好ましい。
【0057】
上記フレキシブル基材側面(裏面)を封止する方法としては、例えば、上述と同様にして、上記太陽電池素子のフレキシブル基材側面(裏面)に、本発明の太陽電池封止シートを、接着層がフレキシブル基材と対向するように配置し、一対の熱ロールを用いて狭窄することにより熱圧着する方法が挙げられる。
また、太陽電池素子のフレキシブル基材側面(裏面)を、上記接着層及び金属板で封止する場合は、例えば、上記接着層及び金属板とからなるシートを先に形成し、次いで、上述と同様にして、太陽電池素子のフレキシブル基材側面(裏面)に、上記接着層及び金属板からなるシートを用いて、上記フレキシブル基材と上記接着層とを熱圧着させるとよい。
上記太陽電池素子のフレキシブル基材側面(裏面)に、上記太陽電池封止シート、又は、上記接着層及び金属板からなるシートを熱圧着する工程は、上述した太陽電池素子の受光面上に、上記太陽電池封止シートを熱圧着する工程の前に行ってもよいし、同時に行ってもよく、又は、後に行ってもよい。
【0058】
本発明の太陽電池封止シートを使用して、例えば、太陽電池素子の光電変換層側面(表面)とフレキシブル基材側面(裏面)とを同時に封止して、フレキシブル太陽電池モジュールを製造する方法の一例について、図4を用いて説明する。
具体的には、ロール状に巻回されている長尺状の太陽電池素子を用意する一方、ロール状に巻回されている長尺状の太陽電池封止シートを二つ用意する。そして、図4に示すように、長尺状の太陽電池封止シートA、Aをそれぞれ巻き出すと共に、長尺状の太陽電池素子Bを巻き出し、二つの太陽電池封止シートの接着層が互いに対向した状態にして、太陽電池封止シートA、A同士を、太陽電池素子Bを介して重ね合わせ、積層シートCとする。そして、積層シートCを所定の温度に加熱された一対のロールD、D間に供給して、積層シートCをその厚み方向に押圧しながら加熱することによって、太陽電池封止シートA、A同士を接着一体化させて、太陽電池封止シートA、Aによって太陽電池素子Bを封止してフレキシブル太陽電池モジュールFを連続的に製造する。
上記フレキシブル太陽電池モジュールの製造方法においては、太陽電池封止シートA、A同士を太陽電池素子Bを介して重ね合わせて積層シートCを形成すると同時に、積層シートCをその厚み方向に押圧しながら加熱してもよい。
【0059】
また、太陽電池素子として、矩形状のものを用いた場合のフレキシブル太陽電池モジュールの製造要領の一例を図5に示す。
具体的には、ロール状に巻回されている長尺状の太陽電池素子の代わりに、所定の大きさの矩形状のシート状の太陽電池素子Bを用意する。そして、図5に示すように、ロール状に巻回されている長尺状の太陽電池封止シートA、Aをそれぞれ巻き出し、それぞれの接着層を対向させた状態にした太陽電池封止シートA、A間に、太陽電池素子Bを所定時間間隔毎に供給し、太陽電池封止シートA、A同士を太陽電池素子Bを介して重ね合わせ、積層シートCとする。そして、積層シートCを所定の温度に加熱された一対のロールD、D間に供給して、積層シートCをその厚み方向に押圧しながら加熱することによって、太陽電池封止シートA、A同士を接着一体化させて、太陽電池封止シートA、Aによって太陽電池素子Bを封止してフレキシブル太陽電池モジュールFを連続的に製造する。
上記フレキシブル太陽電池モジュールの製造において、積層シートCの形成と同時に、積層シートCをその厚み方向に押圧しながら加熱してもよい。
【0060】
また、本発明の太陽電池封止シートを用いて、上記太陽電池素子を封止して、フレキシブル太陽電池モジュールを製造する別の方法としては、例えば、所望形状に切断した、本発明の太陽電池封止シートと太陽電池素子とを用意し、上記太陽電池封止シートの接着層と、上記太陽電池素子の光電変換層側面、若しくは、両面とを対向させた状態で、上記太陽電池封止シートと上記太陽電池素子とを積層し、得られた積層体を、静止状態で、減圧下で、その厚み方向に押圧力を加えながら加熱して、上記太陽電池素子を上記太陽電池封止シートで封止する方法が挙げられる。
【0061】
上記積層体を、減圧下で、その厚み方向に押圧力を加えながら加熱する工程は、1000Pa以下の減圧雰囲気下で行うのが好ましく、80〜1000Paの減圧雰囲気下で行うのがより好ましい。
上記加熱する工程は、上記積層体を好ましくは100〜150℃、より好ましくは100〜120℃に加熱するのが好ましい。また、その加熱時間は、1〜15分が好ましく、2〜5分がより好ましい。
上記積層体を、減圧下で、その厚み方向に押圧力を加えながら加熱する工程は、真空ラミネーター等の従来公知の装置を用いて行うことができる。
【0062】
本発明の太陽電池封止シートは、上述のいずれの製造方法に適用した場合であっても、架橋工程の時間が短縮でき、かつ、カールが発生せずに、上記太陽電池封止シートと太陽電池素子との接着性に優れたフレキシブル太陽電池モジュールを好適に製造することができる。
【0063】
本発明の太陽電池封止シートを用いて、上述の製造方法により得られるフレキシブル太陽電池モジュールの一例の縦断面模式図を図6〜8に示す。
図6は、太陽電池素子の光電変換層側面を、本発明の太陽電池封止シートで封止して得られたフレキシブル太陽電池モジュールの一例の縦断面模式図である。
図6のフレキシブル太陽電池モジュールは、本発明の太陽電子封止シートと、上述のフレキシブル基材上に光電変換層が配置された太陽電池素子とが、積層一体化したものである。
図7は、太陽電池素子の両面を、本発明の太陽電池封止シートで封止して得られたフレキシブル太陽電池モジュールの一例の縦断面模式図である。
図7のフレキシブル太陽電池モジュールは、本発明の太陽電池封止シートと、上述のフレキシブル基材上に光電変換層が配置された太陽電池素子と、本発明の太陽電池封止シートとが、順に積層一体化したものである。
図8は、太陽電池素子の光電変換層側面を本発明の太陽電池封止シートで封止し、フレキシブル基材側面を接着層及び金属板からなるシートで封止して得られたフレキシブル太陽電池モジュールの一例の縦断面模式図である。
図8のフレキシブル太陽電池モジュールは、本発明の太陽電池封止シートと、上述のフレキシブル基材上に光電変換層が配置された太陽電池素子と、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂とオレフィン共重合体樹脂とからなる接着層と、金属板とが、順に積層一体化したものである。
このような、本発明の太陽電池封止シートを用いて製造されたフレキシブル太陽電池モジュールは、カールの発生がなく、太陽電池封止シートと太陽電池素子との接着性、及び、形状維持性に優れる。
このようなフレキシブル太陽電池モジュールもまた、本発明の一つである。
【0064】
このように、本発明の太陽電池封止シートは、フッ素系樹脂シート上に特定の成分からなる接着層を有することにより、カールを発生せずに、太陽電池素子と太陽電池封止シートとの接着性及び形状維持性に優れたフレキシブル太陽電池モジュールを効率良く製造することができるものである。
【発明の効果】
【0065】
本発明の太陽電池封止シートは、上述の構成からなるものであるため、太陽電池素子との接着性及び形状維持性に優れ、かつ、上記太陽電池素子を封止する際にカールが発生せず、フレキシブル太陽電池モジュールを高い効率で製造できる。このため、本発明の太陽電池封止シートは、フレキシブル太陽電池モジュールの製造に好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の太陽電池封止シートの一例を示した縦断面模式図である。
【図2】太陽電池素子の一例を示した縦断面模式図である。
【図3】本発明の太陽電池封止シートを用いたフレキシブル太陽電池モジュールの製造要領の一例を示した模式図である。
【図4】本発明の太陽電池封止シートを用いたフレキシブル太陽電池モジュールの製造要領の一例を示した模式図である。
【図5】本発明の太陽電池封止シートを用いたフレキシブル太陽電池モジュールの製造要領の一例を示した模式図である。
【図6】本発明の太陽電池封止シートを用いて製造したフレキシブル太陽電池モジュールの一例を示した縦断面模式図である。
【図7】本発明の太陽電池封止シートを用いて製造したフレキシブル太陽電池モジュールの一例を示した縦断面模式図である。
【図8】本発明の太陽電池封止シートを用いて製造したフレキシブル太陽電池モジュールの一例を示した縦断面模式図である。
【図9】変性ブテン系樹脂からなる接着層と混合樹脂からなる接着層の、無水マレイン酸総含有量に対する収縮応力を示したグラフである。
【図10】変性ブテン系樹脂からなる接着層と混合樹脂からなる接着層の、無水マレイン酸総含有量に対する貯蔵弾性率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0067】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0068】
(実験例)
無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂として、ブテン−エチレン共重合体(ブテン成分25重量%)を無水マレイン酸にてグラフト変性し、無水マレイン酸変性量が0.15重量%、0.3重量%である変性ブテン系樹脂を調製した。
また、オレフィン共重合体樹脂として、ブテン−エチレン共重合体(ブテン成分25重量%)を調製した。
上記変性ブテン系樹脂と、上記ブテン−エチレン共重合体とを適宜混合して、無水マレイン酸総含有量が0.08重量%、0.12重量%、0.15重量%、0.21重量%、0.27重量%、0.29重量、0.3重量%の混合樹脂をそれぞれ調製した。
得られた7点の上記混合樹脂、及び、2点の変性ブテン系樹脂(無水マレイン酸変性量0.15重量%、0.3重量%)をそれぞれ押出機に供給して250〜290℃で溶融混錬し、Tダイからシート状に押出して、厚みが0.25mmの接着層をそれぞれ形成した。得られた接着層について、収縮応力及び100℃における貯蔵弾性率を測定し、図9及び10に示した。
なお、上記収縮応力は、万能材料試験機(オリエンテック製、RTC−1310A)の応力緩和試験法により測定した。また、上記100℃における貯蔵弾性率は、動的粘弾性装置(アイティー計測制御株式会社製、DVA−200)の引張モードにより測定した。
図9及び10に示すように、同じ無水マレイン酸総含有量であっても、無水マレイン酸変性ブテン系樹脂単体で形成した接着層よりも、混合樹脂で形成した接着層の方が、収縮応力、貯蔵弾性率が低かった。
【0069】
(実施例1〜10、比較例1〜9)
表1及び2に示した組成の樹脂の合計100重量部と、シラン化合物とからなる接着層用組成物を第一押出機に供給して250℃にて溶融混練した。
一方で、表1及び2に示した所定のフッ素系樹脂を第二押出機に供給して、表1及び2に記載の押出設定温度にて溶融混練した。
そして、上記第一押出機と上記第二押出機とを共に接続させている合流ダイに、上記接着層用組成物及び上記フッ素系樹脂を供給して合流させ、合流ダイに接続させているTダイからシート状に押出して、上記接着層用組成物からなる厚みが0.3mmの接着層と、厚みが0.03mmのフッ素系樹脂層とを積層一体化した、長尺状の一定幅を有する太陽電池封止シートを得た。
なお、表中の変性ブテン系樹脂は、所定量のブテン成分及びエチレン成分を含有するブテン−エチレン共重合体を無水マレイン酸にてグラフト変性してなる変性ブテン系樹脂である。
上記フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(アルケマ社製、商品名「カイナー720」)、又は、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)(旭硝子社製、商品名Fluon ETFE「C−55AP」)を使用した。
上記シラン化合物としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製 商品名「Z−6040」)、又は、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製 商品名「KBM−5103」)を使用した。
また、使用した変性ブテン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)、示差走査熱量分析により測定した吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)、無水マレイン酸変性量及び混合樹脂中の含有量と、ブテン−エチレン共重合体のMFR及びTmと、混合樹脂の無水マレイン酸総含有量とを、表1及び表2に示した。
【0070】
上記で得られた太陽電池封止シートの接着層収縮応力及び貯蔵弾性率を下記の方法で測定し、表1及び表2に示した。
<接着層収縮応力>
万能材料試験機(オリエンテック製、RTC−1310A)の応力緩和試験により測定した。
【0071】
<接着層貯蔵弾性率>
接着層の100℃における貯蔵弾性率を動的粘弾性装置(アイティー計測制御株式会社製、DVA−200)の引張モードにより測定した。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
次いで、上記で得られた実施例及び比較例の太陽電池封止シートを用いて、以下の要領で、フレキシブル太陽電池モジュールを作製した。先ず、上記で得られた太陽電池封止シートがロール状に巻回された太陽電池封止シート2つと、ロール状に巻回されてなる太陽電池素子とを用意した。上記太陽電池素子は、可撓性を有するポリイミドフィルムからなるフレキシブル基材の一方の面上に、薄膜状のアモルファスシリコンからなる光電変換層と、該光電変換層上に更にITOの透明電極とが形成され、他方の面上に金属電極とが形成されたものである。
【0075】
次に、図5に示したように、ロール状に巻回されている長尺状の太陽電池封止シートA、Aをそれぞれ巻き出し、それぞれの接着層を対向させた状態にした太陽電池封止シートA、A間に、太陽電池素子Bを供給し、太陽電池封止シートA、A同士を太陽電池素子Bを介して重ね合わせ、積層シートCとした。そして、積層シートCを、表3に記載の温度に加熱された一対のロールD、D間に供給して、積層シートCをその厚み方向に加熱しながら押圧し、太陽電池封止シートA、A同士を接着一体化させて、太陽電池素子Bの両面を封止し、フレキシブル太陽電池モジュールFを製造した。
【0076】
得られたフレキシブル太陽電池モジュールについて、下記の項目について評価し、その結果を表3に示した。
<カールの発生>
500mm×500mmサイズの上記フレキシブル太陽電池モジュールを、平坦な平面上におき、端部の水平面からの浮き上がり高さを測定し、下記の基準にて評価した。なお、比較例9は、ロールに粘着のため、評価しなかった。
◎:15mm未満
○:15mm以上20mm未満
△:20mm以上30mm未満
×:30mm以上
【0077】
<高温形状維持性>
得られたフレキシブル太陽電池モジュールを段差上に置き、100℃の環境下にて1000時間放置し、変形の有無を目視で観測した。なお、比較例8及び9は、太陽電池封止シートが剥離したため、評価しなかった。
○:変形無し
×:変形有り
【0078】
<電池セル剥離強度>
得られたフレキシブル太陽電池モジュールから、太陽電池素子の透明電極面の太陽電池封止シートを剥離した際の剥離強度をJIS K6854に準拠して測定した。
【0079】
<金属電極剥離強度>
得られたフレキシブル太陽電池モジュールから、太陽電池素子の金属電極面の太陽電池封止シートを剥離した際の剥離強度をJIS K6854に準拠して測定し、下記の基準にて評価した。
○:50N/cm以上
△:10N/cm以上50N/cm未満
×:10N/cm未満
【0080】
<高温高湿耐久性(接着)>
得られたフレキシブル太陽電池モジュールを、JIC C8991に記載された85℃、相対湿度85%の環境下にて放置し、太陽電池封止シートの太陽電池素子からの剥離を、上記放置を開始してから500時間毎に観察し、剥離が確認された時間を測定した。
太陽電池モジュールの認証条件を定めたJIC C8991では発電効率で1000時間以上の耐久性を求めており、1000時間未満で剥離が確認された物は接着性が不足していると判断する。
比較例8及び9の「−」は、1000時間未満で剥離が確認されたことを意味する。
【0081】
<高温高湿耐久性(発電特性)>
得られたフレキシブル太陽電池モジュールを、JIC C8990に記載された85℃、相対湿度85%の環境下にて放置し、最大出力Pmaxの変化量をニッシントーア株式会社製1116Nを用いて測定した。なお、1000時間未満で剥離が確認されたものについては実施しなかった。また、表3に記載の評価結果は、下記を意味する。
>3000H:3000時間経過後に出力95%維持。
2000H:2000時間経過まで出力95%維持。
1000H:1000時間経過まで出力95%維持(JIS−C8991規格)。
×:1000時間経過後に出力95%維持できず。
−:1000時間経過前に剥離したため測定不可。
【0082】
【表3】

【0083】
また、上記で得られた実施例及び比較例の太陽電池封止シートを用いて、以下の要領で、フレキシブル太陽電池モジュールを作製した。
所定の形状に切断した、本発明の上記太陽電池封止シート(50×50cm)2枚と太陽電池素子(40×40cm)とを用意し、上記太陽電池封止シートの接着層と、上記太陽電池素子の光電変換層側面とフレキシブル基材側面とを対向させた状態で、上記太陽電池封止シートと上記太陽電池素子とを積層して、得られた積層体を、真空ラミネーター(SPIRE社製SPI−LAMINATOR 350)を用いて、80℃で2.5分間加熱することにより脱気した後、表4に記載の温度と時間で加熱することによって、太陽電池素子の両面を上記太陽電池封止シートで封止したフレキシブル太陽電池モジュールを得た。
なお、用いた太陽電池素子は、上述で用いた太陽電池素子と同様の構成のものである。
【0084】
得られたフレキシブル太陽電池モジュールについて、カールの発生、高温形状維持性、電池セル剥離強度、金属電極剥離強度、高温高湿耐久性(接着)及び高温高湿耐久性(発電特性)について、上述と同様の方法で評価し、その結果を表4に示した。
なお、比較例9は、上記太陽電池封止シートが太陽電池素子から剥離したため、カールの発生は評価しなかった。
【0085】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の太陽電池封止シートは、フレキシブル太陽電池モジュールの製造に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
A 太陽電池封止シート
B 太陽電池素子
C 積層シート
D ロール
E、F、G フレキシブル太陽電池モジュール
1 フッ素系樹脂シート
2 接着層
3 光電変換層
4 フレキシブル基材
5 金属板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系樹脂シート上に、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂とオレフィン共重合体樹脂との混合樹脂からなる接着層を有し、
前記無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂の含有量が前記混合樹脂中30〜99重量%である
ことを特徴とする太陽電池封止シート。
【請求項2】
無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂は、α−オレフィン含有量が1〜25重量%であるα−オレフィン−エチレン共重合体が無水マレイン酸でグラフト変性された樹脂であり、かつ、無水マレイン酸変性量が0.1〜3重量%である請求項1記載の太陽電池封止シート。
【請求項3】
オレフィン共重合体樹脂は、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、及び、プロピレン−ブテン共重合体からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂からなる請求項1又は2記載の太陽電池封止シート。
【請求項4】
フッ素系樹脂シートは、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、エチレンクロロトリフルオロエチレン樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、テトラフロオロエチレン−パーフロオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリビニルフルオライド樹脂、及び、テトラフロオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも一種のフッ素系樹脂からなる請求項1、2又は3記載の太陽電池封止シート。
【請求項5】
接着層は、更に一般式(I)で示されるシラン化合物を、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂とオレフィン共重合体樹脂との混合樹脂100重量部に対して0.05〜5重量部含有する請求項1、2、3又は4記載の太陽電池封止シート。
【化1】

(式中、Rは、3−グリシドキシプロピル基又は2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基を示し、Rは、炭素数が1〜3であるアルキル基を示し、Rは、炭素数が1〜3であるアルキル基を示し、且つ、nは0又は1である。)
【請求項6】
フッ素系樹脂シート表面に、エンボス形状が賦型されている請求項1、2、3、4又は5記載の太陽電池封止シート。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の太陽電池封止シートと、フレキシブル基材上に光電変換層が配置された太陽電池素子とが、積層一体化していることを特徴とするフレキシブル太陽電池モジュール。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の太陽電池封止シートと、フレキシブル基材上に光電変換層が配置された太陽電池素子と、請求項1、2、3、4、5又は6記載の太陽電池封止シートとが、順に積層一体化していることを特徴とするフレキシブル太陽電池モジュール。
【請求項9】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の太陽電池封止シートと、フレキシブル基材上に光電変換層が配置された太陽電池素子と、無水マレイン酸変性オレフィン系樹脂とオレフィン共重合体樹脂とからなる接着層と、金属板とが、順に積層一体化していることを特徴とするフレキシブル太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−227280(P2012−227280A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92377(P2011−92377)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、太陽エネルギー技術研究開発/太陽光発電システム次世代高性能技術の開発/ロールツーロールプロセスを可能とする封止材一体型保護シートの研究開発の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】