説明

太陽電池封止シート

【課題】太陽電池モジュールに用いた場合に発電効率に優れ、かつ耐熱性においても良好な太陽電池封止シートを提供すること。
【解決手段】下記(i)〜(iii)の要件を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体を50重量%以上含有する太陽電池封止シート。
(i)密度が880〜915kg/m3である。
(ii)20℃〜150℃の範囲において示差走査熱量測定により観察された融解ピーク温度が、75℃以上125℃以下である。
(iii)20℃〜150℃の範囲において示差走査熱量測定により観察された融解熱量を100%として、20℃〜50℃の範囲において観察される融解熱量の割合が5%以下であり、20℃〜100℃の範囲において観察される融解熱量の割合が60%以上95%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池封止シートに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールは、一般に、発電セル、封止シート、及び保護材などを積層することにより製造される。封止シートは、太陽電池モジュールに用いた際に発電効率に優れることが求められる。また、太陽電池モジュールは太陽光を照射するために高温になることがあるので、封止シートには耐熱性も必要である。
封止シートとしては、ポリオレフィン系樹脂を用いたシートが検討されており、例えば、特許文献1には、非晶性又は低結晶性エチレン・ブテン共重合体、非晶性又は低結晶性エチレン・プロピレン共重合体を用いたシートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−210906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のシートは耐熱性、当該シートを太陽電池モジュールに用いた場合の発電効率において、未だ十分に満足のいくものではなかった。
【0005】
かかる状況のもと、本発明が解決しようとする課題は、太陽電池モジュールに用いた場合に発電効率に優れ、かつ耐熱性においても優れる太陽電池封止シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記(i)〜(iii)の要件を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体を含有する太陽電池封止シートに係るものである。
(i)密度が880〜915kg/m3である。
(ii)示差走査熱量計により測定された最大融解ピーク温度が、75℃以上125℃以下である。
(iii)示差走査熱量計により測定された20℃〜150℃の範囲の融解熱量を100%として、20℃〜50℃の範囲の融解熱量割合が5%以下であり、20℃〜100℃の範囲の融解熱量割合が60%以上95%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、太陽電池モジュールに用いた場合に発電効率に優れ、かつ耐熱性においても優れる太陽電池封止シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の太陽電池封止シートは、下記(i)〜(iii)の要件を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体を含有する。
(i)密度が880〜915kg/m3である。
(ii)示差走査熱量計により測定された最大融解ピーク温度が、75℃以上125℃以下である。
(iii)示差走査熱量計により測定された20℃〜150℃の範囲の融解熱量を100%として、20℃〜50℃の範囲の融解熱量割合が5%以下であり、20℃〜100℃の範囲の融解熱量割合が60%以上95%以下である。
【0009】
エチレン−α−オレフィン共重合体は、エチレンと、炭素原子数3〜12のα−オレフィンとの共重合体である。炭素原子数3〜12のα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンなどをあげることができる。炭素原子数3〜12のα−オレフィンとして好ましくは、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンであり、より好ましくは、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンである。これらの炭素原子数3〜12のα−オレフィンは、1種類以上用いられる。
【0010】
エチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、エチレン−プロピレン−1−ブテン共重合体等をあげることができる。エチレン−α−オレフィン共重合体として好ましくは、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体であり、より好ましくは、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体である。
【0011】
エチレン−α−オレフィン共重合体の密度は、太陽電池封止シートの耐熱性を向上させるために、880kg/m3以上であり、好ましくは885kg/m3以上であり、より好ましくは890kg/m3以上である。また、発電効率を向上させるため、915kg/m3以下であり、好ましくは910kg/m3以下であり、より好ましくは905kg/m3以下である。なお、密度は、JIS K 6760(1983)に記載のアニーリングを行った試験片を用い、JIS K 7112に従い測定される。
【0012】
示差走査熱量計により測定されるエチレン−α−オレフィン共重合体の最大融解ピーク温度は、太陽電池封止シートの耐熱性を向上させるため、好ましくは75℃以上であり、より好ましくは80℃以上である。また、発電効率を向上させるため、125℃以下であり、好ましくは122℃以下である。ここでの最大融解ピーク温度は、示差走査熱量計を用いて測定した20℃〜150℃の範囲の融解吸熱カーブにおいて、ピーク高さが最大の融解ピークのピーク温度のことをいう。
【0013】
示差走査熱量計により測定された20℃〜150℃の範囲のエチレン−α−オレフィン共重合体の融解熱量を100%としたとき、20℃〜50℃の範囲の融解熱量割合は、耐熱性を向上させるため、5%以下であり、好ましくは3%以下であり、また、20℃〜100℃の範囲の融解熱量割合は、発電効率を向上させるため、60%以上であり、好ましくは70%以上であり、また、耐熱性を向上させるため、95%以下であり、好ましくは90%以下である。
【0014】
前記の融解熱量割合を充足するエチレン−α−オレフィン共重合体を製造する方法としては、チーグラー・ナッタ系触媒を用いてエチレン−α−オレフィン共重合体を製造する方法をあげることができる。
【0015】
チーグラー・ナッタ系触媒としては、三塩化チタン、三塩化バナジウム、四塩化チタン、及びチタニウムハロアルコラートからなる化合物群から選択される少なくとも1種の化合物を、マグネシウム化合物系担体に担持した成分と、共触媒である有機金属化合物とからなる触媒系をあげることができる。当該触媒系は、マグネシウム化合物とチタン化合物の共沈物又は共晶体と共触媒であってもよい。また、特開平7−316220号公報、特開平9−52911号公報に記載の触媒系であってもよい。
【0016】
JIS K 7210に従い、試験荷重21.18N、試験温度190℃の条件で測定したエチレン−α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR)は、成形性を向上させるため、好ましくは0.1g/10分以上であり、より好ましくは0.3g/10分以上である。また、機械特性を向上させるため、好ましくは100g/10分以下であり、より好ましく50g/10分以下である。
【0017】
重合方法としては、液相重合法、スラリー重合法、気相重合法、高圧イオン重合法等が挙げられる。これらの重合方法は、回分重合法、連続重合法のいずれでもよく、2段階以上の多段重合法であってもよい。
【0018】
重合時には水素などの分子量調整剤を添加してもよい。水素を使用する場合、一般的には水素の添加量を増加させると、重合体のMFRは増加するので、所望のMFRに応じて水素の添加量を決定してもよい。
【0019】
また、重合時には、所望の密度に応じて、エチレンとα−オレフィンの使用量比を変化させてもよい。
【0020】
本発明の太陽電池封止シートは、エチレン−α−オレフィン共重合体以外の成分を含んでもよく、該成分としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体樹脂、エチレン−アクリル酸エステル共重合体樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合体樹脂、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エチレン−環状オレフィン共重合体樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、アイオノマー系樹脂等の熱可塑性樹脂の他、公知の樹脂やエラストマー、老化防止剤、ヒンダードフェノール系やリン系等の酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、ベンゾフェノール系やベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系等の光安定剤、スリップ剤、着色剤、分散剤、アンチブロッキング剤、滑剤、難燃剤、粘着付与剤、シランカップリング剤等の添加剤、炭素繊維、アラミド繊維等の有機充填剤、ナフテン油およびパラフィン系鉱物油等の鉱物油系軟化剤を挙げることができる。
【0021】
本発明の太陽電池封止シートにおけるエチレン−α−オレフィンの含有量は好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは60重量%以上であり、さらに好ましくは70重量%以上である。
【0022】
本発明の太陽電池封止シートは、必要に応じて、イオウ架橋、過酸化物架橋、金属イオン架橋、シラン架橋、樹脂架橋、電子線架橋等の架橋をさせることができる。架橋剤としては、例えば、硫黄、フェノール樹脂、金属酸化物、金属水酸化物、金属塩化物、p−キノンジオキシムまたはビスマレイミド系の架橋剤が挙げられる。架橋剤は、架橋速度を調節するために、架橋促進剤と組合せて用いることができる。架橋促進剤としては、例えば鉛丹およびジベンゾチアゾイルサルファイド等の酸化剤が挙げられる。架橋剤は、金属酸化物やステアリン酸等の分散剤と組合せて用いることができる。金属酸化物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化カルシウム等が挙げられ、好ましくは酸化亜鉛および酸化マグネシウムである。太陽電池封止シートを架橋剤の存在下で動的架橋させてもよい。
【0023】
本発明の太陽電池封止シートは、エチレン−α−オレフィン共重合体を含有する層のみからなる単層シートであってもよく、またエチレン−α−オレフィン共重合体を含有する層を少なくとも1層表層に配置した多層シートであってもよい。
【0024】
本発明の太陽電池封止シートの製造方法としては、エチレン−α−オレフィン共重合体及びその他の成分を、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、一軸および二軸押出機等の混練装置で混練し、その後、押出成形、多層押出成形、ラミネート成形、カレンダー成形、インフレーション成形等の公知の方法によって、通常0.01〜2mm程度のシート状にする方法が挙げられる。
【0025】
混練装置は、密閉式および開放式のいずれの形式であってもよいが、好ましくは不活性ガスによって置換し得る密閉式装置である。混練温度は通常100℃〜250℃であり、好ましくは140℃〜240℃である。混練時間は、通常約1〜10分程度である。混練工程においては、各成分を一括して混練する方法を採用してもよいし、各成分の一部を混練した後、残部を添加して混練を継続する多段分割混練法を採用してもよい。
【0026】
本発明の太陽電池封止シートは、シート成形後に、エンボス加工されたものであってもよい。
【0027】
本発明の太陽電池封止シートを用いて、発電セルを固定することにより、太陽電池モジュールとすることができる。太陽電池モジュールとしては、例えば、透明保護材/封止シート/太陽電池発電素子/封止シート/下部保護材、透明保護材/太陽電池発電素子/封止シート/下部保護材、透明保護材/封止シート/太陽電池発電素子/基板/封止シート/下部保護材、透明保護材/封止シート/太陽電池発電素子/透明保護材/封止シート/下部保護材、透明保護材/太陽電池発電素子/封止シート/下部保護材といった構成をあげることができる。
【0028】
太陽電池素子として、多結晶シリコン、単結晶シリコン、微結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、I−III−VI族化合物を用いるカルコパイライト(CIS)系、カドミウム−テルル系、ガリウム−インジウム−砒素系、ガリウム−砒素系などをあげることができる。
【0029】
上部保護材としては、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フッソ樹脂、ポリオレフィン樹脂などをあげることができる。下部保護材としては、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フッソ樹脂、ポリオレフィン樹脂のほかに、金属を使用してもよい。
【0030】
上部保護材および下部保護材は、その表面を表面処理してもよく、また単層構成でも多層構成であってもよい。
【0031】
本発明の太陽電池封止シートは、発電効率の高い太陽電池モジュールを製造するのに好適である。
【実施例】
【0032】
発明の詳細な説明および実施例および比較例における各項目の測定値は、下記の方法で測定した。
(1)密度(単位:kg/m3
JIS K 6760(1983)に従い、アニーリングを行った後に、JIS K 7112に従い密度を測定した。
(2)最大融解ピーク温度(単位:℃)
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC)を用いて、試片約10mgを窒素雰囲気下150℃で溶融させた後、150℃で5分間保持し、5℃/分の降温速度で20℃まで降温した。その後に20℃で5分間保持した後、5℃/分で昇温させて、5℃/分で20℃から150℃まで昇温させて、融解吸熱カーブを得た。
得られた融解吸熱カーブの最大ピークの温度を融解ピーク温度(Tm)とした。
(3)融解熱量の割合(単位:%)
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC)を用いて、試片約10mgを窒素雰囲気下150℃で溶融させた後、150℃で5分間保持し、5℃/分の降温速度で20℃まで降温した。その後に20℃で2分間保持した後、5℃/分で20℃から150℃まで昇温させて、融解吸熱カーブを得た。
得られた融解吸熱カーブを基に、20℃〜150℃の融解熱量を100%とした時の、20℃〜50℃の融解熱量の割合、及び20℃〜100℃の融解熱量の割合を算出した。
(4)被覆時発電効率
発電量同一の単結晶シリコン型太陽電池RSP−001(NOATEK社製)を2枚用意し、一方の太陽電池の上を、樹脂シートで覆った。屋外にて、これら2枚の太陽電池に太陽光を当て、同時に発電量を測定した。樹脂シートで覆った太陽電池の発電量をP1(単位:W)、覆わなかった太陽電池の発電量をP0(単位:W)として、下記の式(I)により、被覆時発電効率を算出した。

被覆時発電効率=P1/P0×100(%) (I)

(5)耐熱変形温度Ti(単位:℃)
セイコー電子工業社製熱機械的分析装置(TMA100)を用いて、雰囲気温度が23℃に調節された室内に設置された測定装置を針入れモードとし、1mm厚の樹脂シート片を温度調節可能な加熱炉で覆い、加熱炉内の雰囲気温度を23℃から150℃まで5℃/分の速度で昇温させ、加熱炉内の雰囲気温度が150℃に達したところでシート試片を覆っている加熱炉を取り外し、シート試片の極近傍に設置された温度センサが23℃を示すまで冷却した。この一連の操作における針の変位記録から、針が樹脂シートに進入開始した温度を耐熱変形温度Tiとした。この値が大きいほど、耐熱性に優れる。
【0033】
実施例1
エチレン−1−ブテン共重合体(製品名:エクセレンVL EUL731、住友化学社製、チーグラー・ナッタ触媒で重合。)を、温度150℃でプレス成形し、厚さ1mmのシートを作製し、当該シートについて、被覆時発電効率、及び耐熱変形温度を測定した。使用した樹脂の物性測定結果、及びシートに関する測定結果を表1に示す。
【0034】
比較例1
エチレン−1−ブテン共重合体の代わりに、エチレン−1−ヘキセン共重合体(製品名:エクセレンFX FX201、住友化学社製、メタロセン触媒で重合。)を使用したほかは、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0035】
比較例2
エチレン−1−ブテン共重合体の代わりに、エチレン−1−ヘキセン共重合体(製品名:スミカセンE FV201、住友化学社製、メタロセン触媒で重合。)を使用したほかは、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0036】
比較例3
エチレン−1−ブテン共重合体の代わりに、直鎖状低密度ポリエチレン(製品名:モアテック0238CN、出光石油化学(株)製)を使用したほかは、実施例1と同様に実施した。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)〜(iii)の要件を満たすエチレン−α−オレフィン共重合体を含有する太陽電池封止シート。
(i)密度が880〜915kg/m3である。
(ii)示差走査熱量計により測定された最大融解ピーク温度が、75℃以上125℃以下である。
(iii)示差走査熱量計により測定された20℃〜150℃の範囲の融解熱量を100%として、20℃〜50℃の範囲の融解熱量割合が5%以下であり、20℃〜100℃の範囲の融解熱量割合が60%以上95%以下である。
【請求項2】
JIS K 7210に従い、試験荷重21.18N、試験温度190℃の条件で測定したエチレン−α−オレフィン共重合体のメルトフローレート(MFR)が、0.1g/10分以上100g/10分以下である請求項1に記載の太陽電池封止シート。

【公開番号】特開2013−74236(P2013−74236A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214043(P2011−214043)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】