説明

太陽電池封止材シートの製造方法、および、太陽電池モジュール

【課題】太陽電池封止材シートの加熱収縮を低減する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも、以下の(a)〜(c)の3つの工程を、この順番に連続して有することを特徴とする太陽電池封止材シートの製造方法。(a)加熱により溶融した樹脂組成物をシート状に成形し、冷却することで工程シートを得る製膜工程(b)該工程シートの少なくとも一方の表面の最高温度が少なくともこの表面部分を構成する樹脂組成物の融点以上の温度となるように、22〜55秒間、再加熱するアニール処理工程(c)前記この表面部分を構成する樹脂組成物の融点より10℃低い温度からこの表面部分を構成する樹脂組成物の融点より20℃高い温度範囲内に前記工程シートの表面温度を調節した後、エンボスローラー13b’に導入し、該工程シート表面にエンボス模様を付与するエンボス加工工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池封止材シート製造方法に関し、特に、加熱収縮が小さく、表面に明瞭な凹凸模様を有した太陽電池封止材に好適に用いられるシートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、資源の有効利用や環境汚染の防止等の面から、太陽光を直接電気エネルギーに変換する太陽電池が注目され、様々な開発が進められている。太陽電池は、一般に、ガラス基板に代表される受光面保護材とバックシートと称される裏面保護材との間に太陽電池封止材シートにより、太陽電池セルを封止した構成を採っている。
【0003】
例えば太陽電池モジュールとして主流である結晶シリコン型太陽電池の場合、ガラス基板、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以降、エチレン−酢酸ビニル共重合体をEVAと表すこともある)からなる太陽電池封止材シート、太陽電池セル(シリコン発電素子)、EVAからなる太陽電池封止材シート及びバックシートの順で積層され、真空ラミネータにより積層体を真空下で加熱することにより太陽電池封止材シートを加熱溶融して架橋硬化させることにより、気泡なく接着された太陽電池モジュールが製造される。
【0004】
このような太陽電池モジュールの製造において、EVAからなる太陽電池封止材シートの加熱時の収縮が大きいと、その収縮変形によりシリコン発電素子が破損したり、セルの位置がずれたりする場合がある。そのため、EVAからなる太陽電池封止材シートには、加熱時の収縮が小さいことが要求される。さらに近年、結晶シリコンの資源有効活用や、太陽電池モジュール普及に向けたコストダウンの要請から、シリコン発電素子の厚さは100μm前後に薄くなってきており、ますますEVAからなる太陽電池封止材シートの加熱収縮(以降、熱収と記すこともある)を小さくする要求が強くなっている(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、上記の製造時に対する要求に加えて、太陽電池モジュールは、製造後長期間に渡って使用されるために、その信頼性はきわめて重要である。長期間使用した太陽電池モジュールにおいて、発生する代表的な不具合の一つに太陽電池セルと太陽電池封止材シートの間の剥離や、膨れ等の外観不良や、それに伴い発電量が低下することが知られている。これらの不具合現象の理由は、必ずしも明確にされているわけではなく、太陽電池封止材シートを構成するEVAの粘度を調整したり(例えば、特許文献2)、太陽電池セルと太陽電池封止材シートの接着強度を向上させるためにシランカップリング剤を添加するなど(例えば、特許文献3)、太陽電池封止材シートを構成する原材料面からの検討がなされている。
さらに、太陽電池封止材シートの構造面からも種々の検討がなされている。長期間使用に伴う膨れ等を防止するために、製造直後のモジュールに出来る限り気泡が無い状態で接着することが重要とされており、真空ラミネート時に空気を抜けやすくする目的で、太陽電池封止材シートの表面にエンボス模様等の種々凹凸形状を付与する試みがなされている。また、これらの凹凸形状は、ラミネート時のプレス圧力で太陽電池セルが破損することを防止するためや、太陽電池封止材シートのハンドリング性を向上させる等の目的で、太陽電池封止材シートの表面に付与される場合もあり、エンボス模様については、その形状や深さなどについて詳細な提案がされている(例えば特許文献4、5)。
【0006】
上記の様に、太陽電池封止材シートを製造する際には、加熱収縮を低減させつつ、明瞭なエンボス模様を付与することが重要となっている。これまで提案されている方法としては、例えば特許文献6には、2軸押出機などの押出機を用いて太陽電池封止材シートを作成する際に、Tダイから押し出されたシートをキャストする際に、口金直下でシートにエンボス模様を付与し、しかる後に必要に応じて加熱収縮を低減させるアニール処理を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−084996号公報
【特許文献2】特開2002−170971号公報
【特許文献3】特開2000−183382号公報
【特許文献4】特開2006−134970号公報
【特許文献5】特開2002−185027号公報
【特許文献6】特開2010−100032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら特許文献6に記載の方法では、エンボス形状を付与した後に、アニール処理を行う製造方法であるため、太陽電池封止材シートの加熱収縮を十分低減するために加熱すると、その加熱により製造工程中のシート(以降単に工程シートと略す)に付与したエンボス形状が崩れてしまう可能性がある。逆にエンボス形状を保持しようとするとアニール処理が不十分となる可能性があり、加熱収縮の低減と、エンボス形状を明確に付与することを両立させるのは非常に困難であった。
太陽電池封止材シートの加熱収縮を低減する方法としては、これまで数多くの提案がなされているが、一般的には特許文献1にも記載の様に、樹脂フィルムを複数のローラーを有するコンベアで搬送する際に、入り口側のローラーの周速を出口側のローラーの周速よりも速くするなどして、工程シートを収縮させて加熱収縮を低減する方法を用いることがある。しかし、太陽電池封止材に用いるEVAシートの場合は架橋剤を含有していることが多く、工程シートの成形温度が低温となるために、工程シートには残留歪みが多く残っており、しかもそれが広幅の工程シートの幅方向で均一ではないケースがしばしばある。この様な状態の工程シートを上述のようにアニール処理すると、シートの平面性が損なわれ、厚みが不均一になったり、アニール処理中に工程シートが蛇行するなどの不具合が発生することが多々あった。さらに、この様な状態の工程シートを複数のローラーで挟持加圧し、エンボス加工などを連続して実施することは非常に困難であった。
このような状況に鑑み、本発明者らは太陽電池封止材シートの加熱収縮を十分低減しつつ、かつ明瞭なエンボス形状を付与する方法について検討を実施した。その結果、押出機から押し出した工程シートを一旦冷却後、再加熱してアニール処理し、次いでエンボス加工を行い、更にその際の、各工程の温度やエンボス加工時の押し付け圧などの種々条件について詳細に検討を実施することで、上記課題が達成できることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。すなわち、
(1)少なくとも、以下の(a)〜(c)の3つの工程を、この順番に連続して有することを特徴とする太陽電池封止材シートの製造方法。
(a)加熱により溶融した樹脂組成物をシート状に成形し、冷却することで工程シートを得る製膜工程
(b)該工程シートの少なくとも一方の表面の最高温度が少なくともこの表面部分を構成する樹脂組成物の融点以上の温度となるように、22〜55秒間、再加熱するアニール処理工程
(c)前記表面部分を構成する樹脂組成物の融点より10℃低い温度から前記表面部分を構成する融点より20℃高い温度範囲内に前記工程シートの表面温度を調節した後、エンボスローラーに導入し、該工程シート表面にエンボス模様を付与するエンボス加工工程
(2)単軸または2軸押出機を用いて前記樹脂組成物をダイから押し出し、シート状に成形する前記(1)に記載の太陽電池封止材シートの製造方法。
(3)前記エンボス加工工程において前記エンボスローラーにより負荷される線圧力が150〜500N/cmの範囲である前記(1)または(2)に記載の太陽電池封止材シートの製造方法。
(4)前記エンボスローラーの表面温度が樹脂組成物の融点より20℃以上低い温度である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の太陽電池封止材シートの製造方法。
(5)前記樹脂組成物が少なくともポリオレフィン系樹脂と有機過酸化物を含む前記(1)〜(4)のいずれかに記載の太陽電池封止材シートの製造方法。
(6)受光面保護材と、裏面保護材との間に、前記(1)〜(5)のいずれかの製造方法で得られた太陽電池封止材シートにより太陽電池セルを封止したことを特徴とする太陽電池モジュール。
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ラミネート時にはセルが割れたり、位置がずれたりする不具合が発生せず、長期の使用によって気泡や膨れ等が発生しにくい、加熱収縮が小さく明瞭なエンボス模様を有した封止材シートを低コストで効率良く製造することが可能となり、それを用いた太陽電池モジュールが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来の太陽電池封止材シートの製造方法の一例を示した概略模式図である。
【図2】本発明の太陽電池封止材シートの製造方法の一例を示した概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の太陽電池封止材シートの製造方法は、以下の(a)〜(c)の工程をこの順に含むことを特徴とする。
(a)加熱により溶融した樹脂組成物をシート状に成形し、冷却することで工程シートを得る製膜工程
(b)該工程シートの少なくとも一方の表面の最高温度が少なくともこの表面部分を構成する樹脂組成物の融点以上の温度となるように再加熱するアニール処理工程
(c)前記表面部分を構成する樹脂組成物の融点より10℃低い温度から、前記表面部分を構成する樹脂組成物の融点より15℃高い温度範囲内に前記工程シートの表面温度を調節した後、エンボスローラーに導入し、該工程シート表面にエンボス模様を付与するエンボス加工工程
以下、本発明の太陽電池封止材シートの製造方法について、図面を参照しながら説明する。
図2は、本発明の製造方法の一つの実施態様を示す概略模式図である。
製膜工程は、原料樹脂と、添加剤を均一混合し、シート状に成形し、これを冷却して工程シートを得る工程である。
図2におけるシート製膜工程には、高温下で原料樹脂と添加剤を溶かし混練する押出機11、樹脂の圧力変動を低減し、シートの厚みを安定化させる目的でギヤポンプ31、混練された溶融樹脂をシート状に押し出すダイ12、押し出された高温の工程シートを冷却固化して固体の工程シートに成形するポリシングローラー13a、13b、13cが設けられている。
押出機11としては、単軸押出機よりも、2軸押出機を用いたほうが、生産性や樹脂と添加剤の混練性などの点から好ましい。単軸押出機を用いる場合は、押出機内が樹脂で充満されているために、押出機先端のダイ部分での圧力変動は比較的小さいため、ギヤポンプ31などの定量供給装置を具備することは必ずしも必要ではないが、2軸押出機を使用する場合は、押出機内は充満された状態にないため、押出機とダイの間にギヤポンプ31などの定量供給装置を具備することが更に好ましい。
【0013】
押出機11に投入する原料樹脂と添加剤は、予めミキサーやブレンダーなどで混合したものを投入しても良いし、それぞれを個別に投入してもよい。また、押出機の途中からサイドフィードしたり、液体においては注入ポンプなどで添加する方法などを用いてもよい。
【0014】
樹脂と添加剤を混練する時の温度は、使用する樹脂の種類や粘度にもよるが、樹脂の融点より10℃以上高く、融点より60℃程度高い温度以下の範囲が一般的であり本発明においてもかかる条件を適用することが好ましい。なお、本発明において融点とは、示差走査熱量測定(DSC)において、10℃/分で昇温したときの吸熱ピーク値温度のことである。太陽電池封止材シートとして一般的に用いられるEVAシートの場合は、添加剤としてEVAを架橋させるために有機過酸化物を含有していることが多いため、これを出来る限り分解させずに、混練することに留意する必要がある。そのため、樹脂温度としては、例えば融点が70℃程度のEVAの場合は、ダイ出口での樹脂の温度としては、80〜130℃付近であることが好ましく、より好ましくは100〜120℃の範囲である。80℃未満では、混練性が不十分となり、添加剤の均一分散性が低下する可能性があり、太陽電池封止材シートの外観が悪くなる可能性があるため好ましくなく、130℃を超えると、有機過酸化物を配合している場合には有機過酸化物が分解し、太陽電池封止材シートの品質が安定しないほか、連続生産性も低下する場合がある。
【0015】
なお、図2においては、工程シートを製膜する方法として押出機を記しているが、カレンダーローラーによる成形など、既知の異なる方法を用いてもよい。
【0016】
押出機11などで原料樹脂と添加剤を溶かし混連された溶融樹脂は、ダイ12を用いてシート状に押し出される。この様なダイ12としては、Tダイやサーキュラーダイなどを用いることが出来る。平板状のダイは、押し出したいシート幅に従い幅広の形状となるため、押出機に取り付けるとT型となることから、総称してTダイと呼ばれる。また、Tダイでは、ダイの幅方向で滞留時間や流速などが異なるために、偏肉などの問題や、アニール工程にて工程シートを加熱したときに幅方向での厚みムラ等が発生しやすい。これを解決するために円筒状のサーキュラーダイを用いることも好ましい。サーキュラーダイは、樹脂を円筒状に押し出し、これを切開することでシート状に成形するための円筒状のダイであり、シートの幅方向での物性は比較的均一になりやすい。
【0017】
また、Tダイを用いる場合は、複数の押出機を用いて異なる樹脂組成物を押し出し、フィードブロック方式やマルチダイ方式などの共押出方法により工程シートを積層構成とすることもできる。この様な積層構成とすることで、各層ごとに封止材シートとして必要な機能を分離することができることや、添加剤量を調節することでコストダウンさせることができる。
【0018】
Tダイを用いて押し出された工程シートは、ポリシングローラー13a、13b、13cでシート状に成形する。ポリシングローラーは、溶融樹脂を一対のローラーで挟持加圧してシートの厚みと表面性の賦形を同時に行うための、複数のローラーにより構成された工程シート搬送装置のことである。構成される各ローラーは、溶融樹脂の冷却や賦形性に適した温度に調整する機構や、各ローラー間の間隙および加圧圧力を調整する機構を備える。また、必要に応じて、冷却水などの温調水を流すことで工程シートの粘着を防止し、成形性を向上させることが好ましく、0〜30℃の範囲に温度調整することが好ましい。ポリシングローラーのうち最も上流側に位置するポリシングローラー13aは、使用する樹脂の組成によっては、高温の樹脂がローラーの表面に粘着しやすくなることがあるため、表面にシリコンゴムなどを巻きつけ離型性を向上させることが好ましい。更に搬送性を向上させるために最も上流側に位置するポリシングローラー13aの対向ローラーの13bを梨地状の表面形態を有する金属ローラーとすることも好ましい態様の一つである。かかる場合に、梨地状の面粗さは、JIS B 0601−1994で定義される10点平均粗さRzが2〜10μm程度の範囲であることが好ましい。ポリシングローラー13aの表面にシリコンゴムなどを巻きつけ、かつ、対向ローラーの13bを梨地状の表面形態を有する金属ローラーとした場合には、ポリシングローラー13aの表面のシリコンゴムの厚みは3〜10mm程度が好ましく、より好ましくは4〜8mm程度である。シリコンゴムの厚みが薄いと、梨地状の模様の転写が不十分となり、工程シートを搬送するためのフリーローラー等に、工程シートが粘着する場合があり、他方10mmを超えると、ゴム表面が溶融樹脂からの熱が蓄熱するため、ローラーに樹脂が粘着する場合がある。
【0019】
次にアニール処理工程について説明する。
【0020】
アニール処理工程の目的は、製膜工程で成形された工程シートが有する残留歪みを除去し、工程シートの加熱収縮を低減させることである。アニール処理工程では、アニール炉15の中に設置された、ヒータ16で加熱しながら、複数の搬送ローラー17の上に工程シートを通すなどの方法が挙げられる。
【0021】
工程シートを加熱するためのヒータ16は、工程シートを加熱できるものであれば特に限定されず、セラミックスヒータ、ステンレスヒータ、シーズーヒータなど、公知の方法を用いることが出来るが、特に赤外線によりシートを加熱する方式のものがシートの厚み方向に均一に加熱できるため好ましく用いることが出来る。また、熱風やスチーム等の熱媒による加熱や、加熱したロールに接触させる方法なども好ましく用いることが出来る。これらの加熱方法は単独で用いても、幾つかの方法を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
工程シートを搬送するための搬送ローラー17は、加熱された工程シートを搬送するため、離型性に優れていることが好ましい。そのため、エンボス加工や、金属や金属酸化物などの化合物を溶射することにより表面に凹凸を設けた金属ローラーに、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー、パーフルオロアルコキシアルカン等のフッ素樹脂をコーティングしたものを用いたり、離形性のコーティング処理をした紙やフィルムなどを金属ローラーの表面に巻き付けたものを用いてもよい。これらの離形性の付与手段は、特に限定する必要は無く、従来公知の方法を用いることが出来る。これらのローラーの離型性の程度としては、JIS Z0237−2009に規定の方法によって、ニチバン株式会社製セロハンテープに対する剥離強度が5N/mm以下の材質であることが好ましい。また、炉内の搬送ローラー17は、工程シートの収縮に併せて、その速度を個別に制御することが加熱収縮を効率よく除去するためには好ましい。
【0023】
ヒータ16と搬送ローラー17は、アニール炉15の中に設置し、外気との接触を出来る限り少なくするほうが炉内の温度が安定し、工程シートの熱処理が安定するため好ましい。また、炉内の温度を均一に安定化させる目的で、熱風を炉内に供給することは好ましい態様の一つである。
更に必要に応じて、一対のニップローラー14をアニール炉15の上流に有していることが好ましい。ニップローラー14を設けることで、製膜工程へのアニール処理工程の影響を遮断できるため好ましい。具体的には、工程シートを加熱する際の収縮が製膜工程へ影響することを防止したり、アニール工程への工程シートの供給を安定化させることが可能となる。
【0024】
また、アニール炉15の出口とエンボスローラー20との間にシート取り出しローラー18を設けておくことが好ましい。シート取り出しローラー18は、アニール炉15から工程シートを取り出す役割を担う。シート取り出しローラー18が無いと、アニール炉内のローラー17の中で最も出口側のローラーと、エンボスローラー20との間で工程シートが引っ張られて歪みを発生させる場合がある。また、アニール処理に際して、工程シートの加熱収縮に工程シートの幅方向でムラがあるとシワ等が発生することがあるため、そのシワを除くために、シート取り出しローラー18がエキスパンダーローラー(弓形湾曲ローラー)であることも好ましい。またシート取り出しローラー18は、炉内の搬送ローラー17と同様、離型性を付与しておくことが好ましい。
【0025】
また、シート取り出しローラー18は、その表面温度が低すぎると、エンボスローラーへと供給される工程シートが冷却されてしまい、エンボス形状の転写性が低下し、逆に、表面温度が高すぎると、工程シートがシート取り出しローラー18に粘着し、工程シートの搬送が困難になることから、シート取り出しローラー18は表面温度が20〜80℃の範囲に温度調整しておくことが好ましく、更にはアニール炉出口の工程シートの温度と等しいか、それ以下の表面温度としておくことが好ましい。シート取り出しローラー18の表面温度がアニール炉から出た工程シートの表面温度よりも高いと、工程シートはローラーに粘着する場合がある。
【0026】
工程シートの温度低下を防止するために、アニール炉15とエンボスローラー20との距離は、出来る限り近接していることが好ましい。このため、シート取り出しローラー18は複数本設置することも可能であるがより少ないほうが好ましく、多くても3本以下とすることが好ましく、より好ましくは1〜2本である。
【0027】
本出願において、アニール処理工程とエンボス加工工程を連続してこの順に行うのに際して、アニール炉15を出た工程シートの表面温度と、エンボスローラーに導入される工程シートの表面温度を制御することが好ましい。かかる理由から工程シートの表面温度を正しく把握するために、アニール炉15の出口部分、及びエンボス加工直前の工程シートの表面温度を測定するための非接触式赤外線温度計33を有していることが好ましい。さらに、アニール炉15の中にも非接触式温度計を複数設置し、工程シートの表面温度を計測しておくことが好ましい。
【0028】
アニール処理工程での工程シートの表面温度は、工程シートの少なくとも一方の表面の最高温度を、この表面部分を構成する樹脂の融点以上とすることが好ましい。この加熱した側の表面に、次の工程(c)において、エンボス加工が施される。ここで、「この表面部分を構成する樹脂組成物」とは、工程シートが単層シートの場合、この工程シートを構成する樹脂組成物のことであり、工程シートが複数の層が積層した積層シートの場合、加熱した側の表面の層を構成する樹脂組成物のことである。最高温度が樹脂組成物の融点未満の温度にしかならないようなアニール処理を実施しても、加熱収縮率を低減する効果が不十分であったり、長時間の処理が必要となる。また、表面の最高温度は、(加熱した側の表面部分を構成する樹脂組成物の融点+5℃)〜(加熱した側の表面部分を構成する樹脂組成物の融点+35℃)の温度範囲内が好ましい。アニール処理中の温度が高くなり過ぎると、工程シートが搬送ローラーに粘着したり、平面性が低下したり、それらを原因として、次の工程(c)においてシワが発生する場合がある。例えば、融点71℃のEVA樹脂を用いた工程シートの場合は、アニール処理工程での最高到達温度は、75〜105℃の範囲であることが好ましい。75℃を下回るとアニール処理の効果が十分得られない場合があり、それに伴いアニール炉15を長くする必要が生じる場合があり、105℃を超えると、工程シートが搬送ローラー17に粘着したり、平面性が低下したりする場合があり、それらを原因として、次のエンボス加工工程においてシワが発生する原因となる場合があるためである。
【0029】
工程シートの加熱時間、すなわちアニール炉内に滞留する時間は、22〜55秒の範囲とすることが好ましい。アニール炉内に滞留する時間は、ポリシングローラー13によって冷却された工程シートを、工程シートの表面温度がアニール処理に効果的な温度75〜105℃の範囲に到達するための加熱時間と、前記温度に到達後に加熱収縮を低減するためのアニール処理時間との合計である。アニール炉内に滞留する時間が22秒を下回ると、加熱収縮の除去が不十分となり、55秒を超えて加熱しても、効果は飽和しており、炉長がいたずらに長くなるだけである。そのため、22〜45秒の範囲とすることが好ましく、25〜40秒の範囲が最も好ましい。
【0030】
次にエンボス加工工程について説明する。
【0031】
エンボス加工工程は、アニール工程での加熱により高温状態となった工程シートにエンボス加工を施し、工程シート表面にエンボス模様を付与する工程である。工程シートにエンボス模様を付与するためのエンボスローラー20と、エンボス対向ローラー19、及び冷却ローラー21を有している。
【0032】
エンボスローラー20は、目的とする太陽電池封止材シートのエンボス模様に対応して反転した凹凸形状になるように彫刻を施したものを用いる。工程シートに施すエンボス模様は、ランダム形状や、幾何学模様など、必要に応じて決定すればよいが、エンボス模様が不十分であると工程シートの搬送性やロール状に巻いたときにブロッキングが生じやすくなったり、太陽電池モジュールを作成する際に、エアーが抜けにくくなり、モジュール内に気泡を発生させる原因になる可能性がある。凹凸形状が深すぎる場合、エンボス加工時に大きなプレス圧力が必要となり、設備が大型になる。従って、ローラーに彫刻する凹凸の深さは、工程シートの厚みにもよるが、65〜350μmの範囲であることが好ましい。なお、ローラーに彫刻する凹凸の深さとは、エンボスローラーの中心からローラーに彫刻する凸部(山の部分)のうちの最大値と、エンボスローラーの中心から凹部(谷の部分)のうちの最小値との差のことを示す。この彫刻模様の深さは、JIS B0601(2001)に準拠し、表面粗さ測定機を用いて測定される、最大高さPz(μm)により示される。
更に、エンボスローラーの表面には、深さ1〜20μmの微小な凹凸を有していることが好ましい。微小な凹凸を有するローラーでエンボス加工することにより、シートの滑り性が向上しハンドリングしやすくなる他、微小な凹凸により光が散乱し、シートの白色性が向上するため、付着異物等の検査が容易となる。このような微小な凹凸は、エンボスローラーに彫刻した後に、公知のブラスト処理などを実施することによりローラー上に容易に形成することが出来、微少な凹凸の深さは、ブラスト加工時の粒子サイズや、圧力条件により調整が可能である。
【0033】
エンボスローラーと対向するエンボス対向ローラー19は、凹凸形状の転写性を向上させるために、金属ローラーにゴムを巻き付けたものを用いることが好ましい。ゴムの種類についてはシリコンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムなど、特に限定されるものではないが、JIS K 6253−2006に準拠したタイプA硬度が65〜85°の範囲であることが好ましい。65°を下回っても、85°を超えても、エンボス模様の転写性が低下する場合がある。これらのゴムの中でも、高温で粘着しやすい工程シートと離型性が良いことが必要であるため、シリコンゴムが最も好ましい。
【0034】
エンボスローラーに供給される工程シートの表面温度はこの表面を構成する樹脂組成物の融点より10℃低い温度から融点より20℃高い温度範囲内であることが必要である。樹脂の融点より10℃を下回ると、エンボス模様の転写性が低下する場合があり、融点より20℃超えるとアニール工程での工程シートの温度が高くなりすぎ、アニール工程でシワなどが発生しやすくなる場合がある。例えば、表面側の層が、融点が71℃のEVA樹脂を用いる場合は、エンボス加工時の工程シートの表面温度は61〜91℃の範囲であることが好ましい。
【0035】
さらに、エンボスローラー20の押し付け圧力は、線圧力150〜500N/cmの範囲であることが好ましく、より好ましくは、200〜450N/cmの範囲である。線圧力が150N/cmを下回ると、エンボス模様の転写性が低下する場合があり、500N/cmを超えて付加しようとすると設備を大型化する必要が生じ、その場合、対向ゴムローラーの寿命が低下することとなる。
図1に示した従来の技術では、エンボスローラー13b’の押し付け圧力は高くても線圧力100N/cm程度で十分であった。これは、Tダイから押し出される樹脂の温度は、例えば融点が71℃のEVA樹脂を用いる場合は、100〜120℃の範囲であることが多く、高温状態であるためエンボス模様の転写には線圧力100N/cm程度で十分であるためと推測される。一方、本願では、樹脂の融点より10℃低い温度から融点より20℃高い温度範囲内、すなわち上記の融点71℃のEVA樹脂の場合であれば、61〜91℃の温度範囲でエンボス加工を行う。この様に、エンボス加工時の工程シートの表面温度が低くなると、エンボス模様を付与しにくくなるため、エンボス加工に必要な押し付け圧力を高くすることが好ましいためである。なお、本発明で言う線圧力とは、ローラーの押し付け荷重を、ローラーの面長で除したもののことである。
【0036】
さらに、この様に比較的低温でのエンボス加工において、エンボス模様の付与性を向上させるために、エンボスローラー20に工程シートを抱かせるようにすることは好ましい態様の一つである。エンボスローラーへの抱き付け角は30〜270°の範囲であることが好ましい。浅いエンボスを付与するだけであれば抱き付け角度は30°未満でもよいが、深く、はっきりとした形状のエンボスを付与するためには、抱き付け角度を30°以上にするのが好ましい。なお、抱き付け角は、簡易的にはエンボスローラー20に工程シート32が接している部分の円弧の長さと、エンボスローラーの円周との比率から計算することが出来る。例えば、抱き付け角が90°である場合は、エンボスローラーの円周の1/4の長さに相当する部分に工程シートが接触していることを意味する。
【0037】
このエンボス加工工程でのエンボスローラー20の表面温度は、樹脂の融点より20℃以上低い温度とすることが好ましい。エンボスローラーの温度が低いと、工程シートの離型性が良くなり、工程シートがローラーに巻きつきにくくなり、エンボスローラーから工程シートを剥がす際の負荷が軽減されることからより品位のよい太陽電池封止材シートが得られるる。
【0038】
エンボスローラーから離型した工程シートは、冷却ローラー21により、工程シートを冷却し、表面温度を室温付近まで速やかに低下させる。
【0039】
このようにして製膜し、アニール処理によって加熱収縮を除去し、エンボス模様を施された工程シート32は、欠点検査や工程シートの寸法を所望の幅に調整した後、巻き取り機などによってロール状に巻き取ったり、場合によっては所望長さのカットシートに裁断され、太陽電池モジュールの製造に用いられる。

本発明の太陽電池封止材シートの厚みは通常50〜1500μmが好ましい。より好ましくは100〜1000μm、さらに好ましくは200〜800μmの領域である。50μm未満では太陽電池封止材シートのクッション性が乏しい場合や作業性の観点で問題が生ずる場合がある。また1500μmを越えると生産性の低下や密着性の低下が問題となる場合がある。
【0040】
上記の様にして得られた本発明の太陽電池封止材シートは、シートの流れ方向の加熱収縮率が30%以下である。加熱収縮率は、80℃の温水中に1分間放置した際のシートの寸法変化量を測定することにより計算されるもので、測定並びに計算方法は、実施例に記載の通りである。加熱収縮率が大きくなると、モジュール作成の際に太陽電池セルの割れや位置ズレが起きやすくなる。ここで、「温水中に放置する」とは、封止材シートの比重が小さく、封止材シートが温水の表面に浮ぶ場合は、封止材シートを上から押さえて温水中に沈めたりせず、その浮かんだままの状態で放置することである。一方、封止材シートの比重が大きく、封止材シートが温水の中に沈む場合は、封止材シートを下から支えたりせず、その沈んだままの状態で放置することである。
【0041】
また、本発明の太陽電池封止材シートの少なくとも一方の表面には、深さ5〜350μm、好ましくは60〜300μmのエンボス模様を有している。エンボス模様の深さが低いと、モジュール作成の際にエアーが抜けにくくなり、350μmを超えるとエンボス模様の頂部に、ラミネート時の荷重が集中するため、太陽電池セルの破損に繋がる可能性がある。
更に、本発明の封止材シートの突起を有する面には、1〜15μmの微小な凹凸を有していることが好ましい。微小な凹凸を有していることにより、シートの滑り性が向上しハンドリングしやすくなる他、微小な凹凸により光が散乱し、シートの白色性が向上するため、付着異物等の検査が容易となる。
この様な、微少な凹凸は、アニール工程に次いで、エンボス加工を実施する本発明の製造方法によって達成することが出来る。エンボス加工を実施した後に、加熱によるアニール処理を実施する従来の方法においては、数10μm以上の大きな凹凸は加熱処理後もシートに残存することはあるが、数μm程度の微少な凹凸は熱処理に伴って消失する。
なお、シートにおける微少な凹凸は、次のようにして測定した数値である。シートの表面を、JIS B0601(2001)に準拠し、周知のレーザー顕微鏡、例えば株式会社キーエンス製レーザー顕微鏡VK−X100等を用いてシート表面を倍率400で撮影し、得られた画像の粗さ曲線において、カットオフ値0.080mmとしたときのRzとして求める。

次に本発明の太陽電池封止材シートの製造方法に用いる原料について説明する。
本発明で使用する樹脂組成物には、ポリオレフィン系樹脂と有機過酸化物を含んでいることが好ましい。
【0042】
本発明で使用するポリオレフィン系樹脂としては、ホモポリプロピレン、プロピレンを主成分とする他のモノマーとの共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン三元共重合体等のポリプロピレン系樹脂、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレンを主成分とする他のモノマーとの共重合体等のポリエチレン系樹脂、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。エチレンを主成分とする他のモノマーとの共重合体としては、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−不飽和モノマー共重合体を挙げることが出来る。α−オレフィンとしては、α−オレフィンが、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプタン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどが挙げられる。不飽和モノマーとしては、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレ−ト、メチルメタクリレ−ト、エチルアクリレ−ト、または、ビニルアルコ−ルなどが挙げられる。またこれらのポリオレフィン系樹脂に、必要に応じて、シラン化合物や、カルボン酸、グリシジル化合物などを用いて、少量共重合させたり、変性させたりすることは好ましい態様の一つである。
【0043】
これらのポリオレフィン系樹脂の中でも、太陽電池封止材として重要な透明性や、太陽電池セルとの接着性等の観点から、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体、低密度ポリエチレンをエチレン性不飽和シラン化合物で変性したものなどを用いることが好ましい。エチレン酢酸ビニル共重合体や、エチレンメタクリレート共重合体を用いる場合は、共重合成分の含有量は、15〜40質量%の範囲であることが好ましい。
【0044】
本発明で使用する有機過酸化物は、100℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであれば、どのようなものでも使用することができ、太陽電池封止材シートを製造する時の温度、太陽電池モジュールを作成するときの加熱・貼り合わせ温度、及び架橋剤自身の貯蔵安定性などを考慮して選択すればよい。特に、半減期10時間の分解温度が70℃以上のものが好ましい。この様な有機過酸化物の例としては、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル4,4−ジ−(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジーt−ヘキシルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジスクシン酸パーオキサイド、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシー2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソノナノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシノルマルオクトエート、t−アミルパ−オキシイソノナノエート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、ジ−t−アミルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、エチル3,3−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブチレート、1,1−ジ(t−アミルパーオキシ)シクロヘキサンなどを挙げることができる。これらの有機過酸化物は二種以上組み合わせて用いてもよい。これらの有機過酸化物の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部、好ましくは0.1〜3質量部、特に好ましくは0.2〜2質量部の範囲であることが好ましい。有機過酸化物の含有量が0.1質量部を下回るとポリオレフィン系樹脂を架橋させることが出来ない場合があり、5質量部を超えて含有してもその含有効果が低いことに加え、未分解の有機過酸化物が太陽電池封止材シート中に残存し、経年劣化の原因となる可能性がある。
【0045】
本発明の樹脂組成物には、更に架橋助剤、シラン系カップリング剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを含んでいてもよい。
【0046】
架橋助剤は、分子内に複数個の不飽和結合を有する多官能性モノマーであり、有機過酸化物の分解によって発生した活性ラジカル化合物と反応し、ポリオレフィン系樹脂を均一に、効率よく架橋させるために用いられる。これらの架橋助剤の例としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロイキシエチル]イソシアヌレート、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらの架橋助剤は、それぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用してもよい。なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。
【0047】
これらの架橋助剤の中でも、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。これらの架橋助剤を添加する場合の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0〜5質量部、好ましくは0.1〜3質量部、より好ましくは0.3〜3質量部の範囲であることが好ましい。5質量部を超えて含有しても、効果の向上はわずかであり、コストアップ要因となる。
【0048】
シラン系カップリング剤は、太陽電池封止材シートと、太陽電池セル、バックシート、ガラスなどの各種部材との接着性を向上させるために使用することが好ましい。シラン系カップリング剤を添加する場合の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.05〜2質量部の範囲であることが好ましい。0.05質量部を下回ると含有効果が無く、2質量部を超えて含有しても接着性の向上効果は少ない。シラン系カップリング剤としては特に限定されるものではないが、例えばメタクリロキシ基、アクリロキシ基、エポキシ基、メルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、アミノ基、水酸基、の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシラン化合物が挙げられる。その具体例としては、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのメタクリロキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアクリロキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。中でも、ポリオレフィン系樹脂との相溶性の観点からメタクリロキシ基含有アルコキシシラン化合物が好ましく、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランがさらに好ましい。
【0049】
本発明の太陽電池封止材シートには、更に紫外線吸収剤を含むことがより好ましい。紫外線吸収剤は、照射光中の有害な紫外線を吸収して、分子内で無害な熱エネルギーへと変換し、高分子中の光劣化開始の活性種が励起されるのを防止するものである。紫外線吸収剤としては、既知のものを用いることができる。例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、サリチル酸系、シアノアクリレート系などを使用することができる。これらの1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせ使用してもよい。
【0050】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジ(ヒドロキシメチル)ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジ(2−ヒドロキシエチル)ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメトキシ−5,5’−ジ(ヒドロキシメチル)ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメトキシ−5,5’−ジ(2−ヒドロキシエチル)ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジ(ヒドロキシメチル)−5,5’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジ(2−ヒドロキシエチル)−5,5’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2−ジヒドロキシ−4,4−ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0051】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(ヒドロキシメチル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(2−ヒドロキシエチル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−5’−(3−ヒドロキシプロピル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−(ヒドロキシメチル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−(2−ヒドロキシエチル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−(3−ヒドロキシプロピル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(ヒドロキシメチル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(2−ヒドロキシエチル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(2−ヒドロキシエチル)フェニル〕−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(3−ヒドロキシプロピル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−t−オクチル−5’−(ヒドロキシメチル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−t−オクチル−5’−(2−ヒドロキシエチル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール、2−〔2’−ヒドロキシ−3’−t−オクチル−5’−(3−ヒドロキシプロピル)フェニル〕−2H−ベンゾトリアゾール等、あるいは2,2’−メチレンビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(ヒドロキシメチル)フェノール〕、2,2’−メチレンビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(2−ヒドロキシエチル)フェノール〕、2,2’−メチレンビス〔6−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(2−ヒドロキシエチル)フェノール〕、2,2’−メチレンビス〔6−(5−ブロモ−2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(2−ヒドロキシエチル)フェノール〕、2,2’−メチレンビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(3−ヒドロキシプロピル)フェノール〕、2,2’−メチレンビス〔6−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(3−ヒドロキシプロピル)フェノール〕、2,2’−メチレンビス〔6−(5−ブロモ−2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(3−ヒドロキシプロピル)フェノール〕、2,2’−メチレンビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(4−ヒドロキシブチル)フェノール〕、2,2’−メチレンビス〔6−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(4−ヒドロキシブチル)フェノール〕、2,2’−メチレンビス〔6−(5−ブロモ−2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(4−ヒドロキシブチル)フェノール〕、3,3−{2,2’−ビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−1−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル〕}プロパン、2,2−{2,2’−ビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−1−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル〕}ブタン、2,2’−オキシビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(2−ヒドロキシエチル)フェノール〕、2,2’−ビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(2−ヒドロキシエチル)フェノール〕スルフィド、2,2’−ビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(2−ヒドロキシエチル)フェノール〕スルホキシド、2,2’−ビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(2−ヒドロキシエチル)フェノール〕スルホン、2,2’−ビス〔6−(2H−ベンゾトリアゾリ−2−イル)−4−(2−ヒドロキシエチル)フェノール〕アミン等が挙げられる。
【0052】
トリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−4−ヒドロキシメチルフェニル)−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−ヒドロキシメチルフェニル)−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル〕−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル〕−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル〕−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル〕−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(3−ヒドロキシプロピル)フェニル〕−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(3−ヒドロキシプロピル)フェニル〕−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(4−ヒドロキシブチル)フェニル〕−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(4−ヒドロキシブチル)フェニル〕−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル〕−4,6−ジフェニル−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル〕−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−s−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−ヒドロキシメチルフェニル)−4,6−ビス(2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル〕−4,6−ビス(2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル〕−4,6−ビス(2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(3−ヒドロキシプロピル)フェニル〕−4,6−ビス(2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)−s−トリアジン、2−〔2−ヒドロキシ−4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕−4,6−ビス(2−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)−s−トリアジン、2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチロキシ)フェノール、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール等が挙げられる。
【0053】
サリチル酸系紫外線吸収剤としては、フェニルサリシレート、p−tert−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート等が挙げられる。
【0054】
シアノアクリレート系紫外線吸収剤としては、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、エチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート等が挙げられる。
【0055】
これらの紫外線吸収剤の中でもベンゾフェノン系の紫外線吸収剤が紫外線吸収効果と、紫外線吸収剤そのものの着色の観点から最も好ましい。
【0056】
上記の紫外線吸収剤を添加する場合は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.05〜3質量部、より好ましくは0.05〜2.0質量部の範囲で使用することが好ましい。含有量が0.05質量部下回ると含有効果が低く、3質量部を超えると着色傾向となる。
【0057】
本発明の太陽電池封止材シートには、更に光安定剤を含むことが好ましい。光安定剤は、ポリマーに対して有害なラジカル種を補足し、新たなラジカルを発生しないようにするものである。光安定剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤が好ましく用いられる。
【0058】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステル、1,1−ジメチルエチルヒドロパーオキサイド及びオクタンの反応生成物70質量%とポリプロピレン30質量%からなるもの、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート及びメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート混合物、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートとトリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートの混合物、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートとトリデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレートの混合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物、N,N’,N”,N”’−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミンと上記コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物の混合物、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物などが挙げられる。上述したヒンダードアミン系光安定剤は、一種単独で用いられてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
これらの中でも、ヒンダードアミン系光安定剤としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート及びメチル−1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケートの混合物、並びにメチル−4−ピペリジルセバケート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートを用いるのが好ましい。また、ヒンダードアミン系光安定剤は、融点が、60℃以上であるものを用いるのが好ましい。
【0060】
ヒンダードアミン系光安定剤を添加する場合の含有量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、0.05〜3.0質量部、より好ましくは0.05〜1.0質量部とするのがよい。含有量が、0.05質量部未満では、安定化効果が不十分であり、3.0質量部を超えて含有しても着色やコストアップの要因となる。
【0061】
その他、本発明の効果を阻害しない範囲内で、既知の添加剤として、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、滑剤、着色剤などを必要に応じて含有してもよい。
【0062】
また、本発明の太陽電池モジュールは、受光面保護材と、裏面保護材と、その間に、本発明の製造方法で得られた太陽電池封止材シートにより太陽電池セルを封止した層を配置してなるものである。本発明の製造方法により得られた太陽電池封止材シートは、上記構成の材料を積層一体化するときの加熱収縮が小さいため太陽電池セルと太陽電池封止材、受光面保護材および/または裏面保護材と太陽電池封止材との間の成形時の残留応力が小さく長期にわたる耐久性が優れた太陽電池モジュールとなる。
【実施例】
【0063】
本実施例で用いた測定法を下記に示す。特に断らない限り、測定n数は5とし、平均値を採用した。
(1)シートの厚み
成形したEVAシートを、下記測定器にて幅方向20点の厚みを測定し、平均厚みを求めた。
測定器:ミツトヨ社製 シックネスゲージ(547−301型)
(2)エンボス転写率
製造時のシートの走行方向(以降MD方向と略記する)と直角に、幅方向に太陽電池封止材シートをカットし、カットした太陽電池封止材シートの厚み方向断面を実体顕微鏡でシートの全幅に渡って観察した。シートの幅方向におけるシートの厚みの最大値をTmax、最小値をTminとしたときに、エンボス模様の深さTeは以下の式(i)で計算する。
【0064】
Te(μm)=Tmax−Tmin ・・・(i)
次に、JIS B0601(2001)に準拠し、ミツトヨ社製 小形表面粗さ測定器 SJ401を用い、基準長さ20mm、荷重0.75mN、測定速度0.3mm/sの測定条件で、円錐60°、先端曲率半径2μmのダイヤモンド触針を用いて測定された、Pz値(μm)を、エンボスローラーの模様深さ(μm)とした。
【0065】
(i)で計算したエンボス模様の深さTeを、測定したエンボスローラーの凹凸の深さPzで除したものをエンボス転写率とした。
【0066】
エンボス転写率(%)=Te/Pz×100
(3)加熱収縮率
得られたEVAシートから一辺が120mmの平面正方形状の試験片を切り出した。この試験片上に製造時のMD方向に100mmの間隔を空けて二本の互いに平行な直線を引き、各直線を6等分する位置(それぞれ5カ所)に印を付した。
【0067】
次に、試験片を80℃に加熱した温水内に浸漬させ60秒経過してから、EVAシートを温水から取り出し、シート表面の水分を取り除いた。
試験片上に引いた二本の直線に付した5カ所について、印の間の間隔A(mm)をノギスで測定し、下記式に基づいて加熱収縮率を算出し、5カ所の平均値を求めた。
【0068】
加熱収縮率(%)=100×(100−A)/100
(実施例1)
図2に示した製造方法に従って太陽電池封止材シートを作成した。
(a)製膜工程
押出機11として2軸押出機を用い、EVA(酢酸ビニル含有量:28質量%、メルトフローレイト:15g/10分、融点:71℃)100質量部、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート(1時間半減期温度:119℃)0.7質量部、トリアリルイソシアヌレート0.3質量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.2質量部、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン0.3質量部、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート0.1質量部からなる樹脂組成物を80℃に設定した押出機11に供給して溶融混練し、押出機11に接続され且つ105℃に保持されたTダイ12から押出した。なお用いたTダイのリップ幅は1300mm、リップ間隙は0.8mmであった。
【0069】
このように押出した溶融した樹脂組成物を20℃に保持されたポリシングローラー13a、13b、13cによって冷却固化し、シート状にした。なお、Tダイから吐出された時点の工程シートの温度は107℃であった。またこのときの工程シートの幅は1150mm、厚みは450μm、搬送速度は10m/分であった。
(b)アニール処理工程
次に、アニール処理を表1に記載の条件にて実施した。
【0070】
加熱にはセラミックヒータ16を用い、搬送ローラー17には直径150mmで表面に“テフロン(登録商標)”コーティングした金属ローラーを、ローラーの中心間距離が200mmとなるような間隔で設置したものを用いた。アニール炉15は、SUS製の筐体に断熱材を巻きつけたものを用いた。また、アニール炉15の入り口下部と出口下部より、風速1m/secで、熱風を吹き込んだ。
(b)エンボス加工工程
表1に記載の条件に従い、エンボス加工をアニール処理に連続して実施した。その詳細な条件は表1に記載の通りである。
【0071】
エンボス加工は、アニール炉から搬送された工程シートを、模様高さが120μmのエンボスローラー20と、硬度75°のシリコンゴムを厚み10mm巻きつけたエンボス対向ローラー19との間を通すことで実施した。
【0072】
得られた太陽電池封止材シートの加熱収縮率と、エンボス転写率を評価した。結果を表1に示す。表1に示すとおり、加熱収縮率が非常に小さく、かつエンボス模様が明瞭に転写された太陽電池封止材シートが得られたことが確認できた。
(実施例2〜7、比較例1〜5)
表1に示した条件を適用した以外は、実施例1と同様の方法で太陽電池封止材シートを作成した。
(比較例6,7)
図1に示す従来の製造方法にてTダイから押し出した直後にエンボス加工を実施し、次いでアニール処理を行った。アニール処理装置は実施例1と同様のものとし、Tダイ直後のポリシングローラー13b’に模様高さが120μmのローラーを用いた。
【0073】
【表1】

【0074】
(結果)
表1に示すとおり、実施例1〜7で作成した太陽電池封止材シートは、加熱収縮率が小さく、しかもエンボス転写率が高く、エンボス形状が明確に転写されているものであった。
【0075】
これらの太陽電池封止材シートを用いて、太陽電池モジュールを従来公知の方法で作成したところ、モジュール作成時に、セルがずれたり、セルが割れたり、気泡混入してしまうような不具合は発生しなかった。
【0076】
比較例1では、アニール処理時の温度、エンボスローラー20入り口でのシート温度がともに低いため、加熱収縮率も大きく、エンボス転写率も低いシートであった。比較例3では、アニール炉出口とエンボスローラー入り口のとの間を広げたために、シートの温度が低下し、エンボス転写率が低下する結果となった。比較例4では、アニール炉内のシート表面温度が低いために、加熱収縮率を十分低減させることが出来なかった。
【0077】
比較例2では、エンボスローラーに工程シートが巻き付き、サンプルを得ることが出来なかった。
【0078】
比較例5では、アニール処理時間が短いため、太陽電池封止材シートの加熱収縮を十分低減することができなかった。
【0079】
比較例6,7では、ポリシングローラーでエンボス形状を付与したためエンボス形状は明瞭であったが、加熱収縮を低減しようとすると、エンボス形状が崩れてしまい、エンボス形状を保持しようとすると加熱収縮が低減できない結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、太陽電池封止材シートの製造方法に非常に好適に用いることが出来る。特に、加熱収縮を低減し、明瞭なエンボス模様を有しているため、モジュール製造時のセルの位置ズレ、モジュール内への気泡混入などを防止でき、モジュールの生産性を著しく向上させることが出来る。
【符号の説明】
【0081】
1 工程シート
11 押出機
12 ダイ
13a ポリシングローラー(表面に彫刻加工なし)
13b ポリシングローラー(表面に彫刻なし)
13b’エンボスローラー(表面に彫刻加工あり)
13c ポリシングローラー(表面に彫刻加工なし)
14 ニップローラー
15 アニール炉
16 ヒータ
17 搬送ローラー
18 シート取り出しローラー
19 エンボス対向ローラー
20 エンボスローラー
21 冷却ローラー
31 ギヤポンプ
32 シート搬送方向
33 非接触式赤外線温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、以下の(a)〜(c)の3つの工程を、この順番に有することを特徴とする太陽電池封止材シートの製造方法。
(a)加熱により溶融した樹脂組成物をシート状に成形し、冷却することで工程シートを得る製膜工程
(b)該工程シートの少なくとも一方の表面の最高温度が少なくともこの表面部分を構成する樹脂組成物の融点以上の温度となるように、22〜55秒間、再加熱するアニール処理工程
(c)前記表面部分を構成する樹脂組成物の融点より10℃低い温度から表面部分を構成する樹脂組成物の融点より20℃高い温度範囲内に前記工程シートの表面温度を調節した後、エンボスローラーに導入し、該工程シート表面にエンボス模様を付与するエンボス加工工程
【請求項2】
単軸または2軸押出機を用いて前記樹脂組成物をダイから押し出し、シート状に成形する請求項1記載の太陽電池封止材シートの製造方法。
【請求項3】
前記エンボス加工工程において前記エンボスローラーにより負荷される線圧力が150〜500N/cmの範囲である請求項1または2記載の太陽電池封止材シートの製造方法。
【請求項4】
前記エンボスローラーの表面温度が樹脂組成物の融点より20℃以上低い温度である請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池封止材シートの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂組成物が少なくともポリオレフィン系樹脂と有機過酸化物を含む請求項1〜4のいずれかに記載の太陽電池封止材シートの製造方法。
【請求項6】
受光面保護材と、裏面保護材との間に、請求項1〜5のいずれかの製造方法で得られた太陽電池封止材シートにより太陽電池セルを封止したことを特徴とする太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−214050(P2012−214050A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−79376(P2012−79376)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】