説明

太陽電池封止用フィルムの組成物

【課題】 酢酸が発生することによる腐食がなく、リサイクル性にも優れた太陽電池モジュールの封止材に関するエラストマー組成物を提供する。
【解決手段】 芳香族ビニル単量体単位および共役ジエン単量体単位を主要構成単位として含有する特定の水添熱可塑性エラストマーCを100重量部、特定の軟化剤Dを5〜120質量部、エチレン単位を必須単量体単位として含有し、曲げ弾性率1〜200MPaであるエチレン重合体Eを30〜400質量部またはプロピレン単位を必須単量体単位として含有し、曲げ弾性率400〜2000MPaであるプロピレン重合体Fを5〜100質量部含有する太陽電池封止材用熱可塑性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池セルが封止された太陽電池モジュールの封止材に関し、特に透明性、緩衝性、成形性に優れ、リサイクルが可能な封止材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題、エネルギー問題等が深刻さを増す中、クリーンでかつ枯渇のおそれが無いエネルギー源として、太陽電池が注目されている。
太陽電池は、一般に、ガラス基板などからなる受光面側透明保護部材と裏面側保護部材(バックカバー)との間にEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)フィルムの受光面側封止膜および裏面側封止膜を介して、シリコン発電素子太陽電池用セルを複数、封止した構成とされている。
太陽電池は、高温高加湿や風雨に曝される屋外などの環境下で長期にわたって使用されると、電池内部に湿気ないし水が透過する場合がある。このように電池内部に浸水した水分などにより加水分解して遊離した酢酸が発生する。酢酸は電極材料などを腐食する可能性があり、劣化や故障の原因となり、結果として、太陽電池の機能を低下させる。
特許文献1には、これらの酢酸を受酸剤としてMg(OH)2を含ませ酢酸の発生を抑制する方法も用いられる。
特許文献2には、リサイクルや分別回収の観点からアルカリ水溶液で処理する方法が挙げられる。
特許文献3には、太陽電池セルの破損を防止することのできる太陽電池モジュールの製造方法が挙げられている。また、気泡残り、太陽電池セルの移動あるいは封止樹脂の端面からのはみ出しが抑制できる外観良好な太陽電池モジュールの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−118073号公報
【特許文献2】特開2008−307491号公報
【特許文献3】特許第3875715号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記先行文献には、架橋剤を含有するEVAフィルムを用いて太陽電池セルを封止することが記載されている。そして上記先行文献に記載された方法により、製造や分離回収が行われる工程も記載されていた。
しかしながら、EVAフィルムを用いた封止樹脂では継続的に酢酸が発生することになり腐食の進行は止められない。
また、PH10以上の強アルカリ水溶液の作業時の取り扱いや廃液の処理の問題が残されている。製造工程においても、多段階の工程を経ると工程管理または各工程における事故が懸念される。
また、近年芳香族ビニル単量体単位−共役ジエン単量体単位とからなる水添熱可塑性エラストマーは、優れた柔軟性、成形性等の物性や低比重であるという特徴を有し、またリサイクル性にも優れていることから、近年、環境汚染等の問題とも相俟って、加硫ゴムやポリ塩化ビニルの代替として、自動車部品、工業用品、雑貨、スポーツ用途等の広範囲の分野において使用されるようになっている。また、各種用途に応じ、バランスの取れた柔軟性、耐熱性を付与するため、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系重合体等の他の重合体との組成物としても使用されている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、芳香族ビニル単量体単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックAを2個以上、および共役ジエン単量体単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックBを1個以上有するブロック共重合体Zの水素添加物であり、重量平均分子量が5〜15万である水添熱可塑性エラストマーCを100質量部と、40℃における動粘度が50〜380センチストークス(cSt)である軟化剤Dを5〜120質量部と、エチレン単位を必須単量体単位として含有し、曲げ弾性率1〜200MPaであるエチレン共重合体Eを30〜400質量部またはプロピレン単位を必須単量体単位として含有し、曲げ弾性率400〜2000MPaであるプロピレン重合体Fを5〜100質量部と、を含有し、JIS K7136に準拠して測定したヘーズ値が70%以下である太陽電池封止材用熱可塑性組成物に関する組成物を提供するものである。
【0006】
上記エチレン重合体Eは、エチレン単位を必須単量単位として含有し、密度0.85〜0.94g/cm3であるエチレン共重合体および/またはエチレン単位を必須単量体単位として含有するエチレン・α−オレフィン共重合体であることが望ましい。
更に、上記エチレン・α−オレフィン共重合体は、メタロセン触媒を使用して製造されたエチレン・オクテン共重合体であることが望ましい。
上記重合体ブロックAを構成する芳香族ビニル単量体は、スチレンであることが望ましい。
上記水添熱可塑性エラストマーCは、水添熱可塑性エラストマーCの全構成単量体単位を基準とするスチレン単位の割合が15〜50質量%であることが望ましい。
上記太陽電池封止材用熱可塑性組成物はJIS 6253Aに準拠して測定したA硬度が、90以下であることが望ましい。
太陽電池封止材用熱可塑性フィルムは、上記太陽電池封止材用熱可塑性組成物からなることが望ましい。
太陽電池モジュールは、上記太陽電池封止材用熱可塑性組成物により太陽電池セルを封止されることが望ましい。
上記太陽電池モジュールは、ガラスXおよび/またはバックシートYの間に積層されることが望ましい。
上記ガラスXが、形板強化ガラスであることが望ましい。
上記バックシートYが、ポリエチレンテレフタレートフィルムであることが望ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性組成物は、射出成形、押出成形、プレス成形など公知の方法で成形可能である。本発明の熱可塑性組成物を材料として得られた成形体は、太陽電池封止材に要求される重要特性である酢酸ビニル由来の腐食性ガスが発生せず、架橋工程を有さず、透明性に優れ、良好なフィルム成形性を有し、緩衝性に優れ、リサイクル可能な熱可塑性組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を以下に詳細に説明する。
〔水添熱可塑性エラストマーC〕
水添熱可塑性エラストマーCは、得られる成形体の耐熱性、機械特性およびフィルム成形性を良好とするために重要な成分である。
本発明に使用する水添熱可塑性エラストマーCとは、芳香族ビニル単量体単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックA(以下単に重合体ブロックAともいう)を2個以上と、共役ジエン単量体単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックB(以下単に重合体ブロックBともいう)を有するブロック共重合体Zであって、該ブロック共重合体Z中の共役ジエン単量体単位を主要構成単位とする重合体ブロックBは、一部または全部が水素添加されている。
【0009】
上記重合体ブロックAを構成する芳香族ビニル単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t(ターシャリー)−ブチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられ、一般的には入手容易なスチレンが選択される。
上記水添熱可塑性エラストマーCは、重合体ブロックAからなる硬い部分(ハードセグメント)と、重合体ブロックBからなる柔らかい部分(ソフトセグメント)とを有し、全体の物性を決定する観点から、水添熱可塑性エラストマーCにおける重合体ブロックAの含有量は、5〜80質量%が好ましく、10〜70質量%がより好ましく、15〜50質量%がさらに好ましい。スチレン単位の割合が不足すると、得られる熱可塑性組成物からなる成形体は耐熱性が悪いものとなる。
上記重合体ブロックBを構成する共役ジエン単量体としては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン等が挙げられる。
上記重合体ブロックBにおける共役ジエン単量体単位の割合は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。上記共役ジエン単量体単位の割合が70質量%に満たない場合には、結果物である熱可塑性組成物のゴム弾性が不足し、得られる成形体の緩衝性が悪くなる。
【0010】
上記水添熱可塑性エラストマーCの具体例としては、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ピリジン−ブタジエンゴム、スチレン−イソプレンゴム、スチレン−エチレン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン−ポリ(α−メチルスチレン)、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリイソプレン−ポリ(α−メチルスチレン)、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−クロロプレンゴム等が挙げられる。これらは、単独であっても2種以上の混合物であってもよいが、原料調整及び作業性の観点から、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、及びスチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
上記水添熱可塑性エラストマーCの水素添加は、一部であっても、全部であってもよいが、水素添加することにより不飽和結合が減少し、耐熱性、耐候性及び機械的特性が得られる。それらの観点から、水素添加率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
上記水添熱可塑性エラストマーCの重量平均分子量は5〜15万である。耐熱性や機械特性の観点から、5万以上であり、好ましくは6万以上、より好ましくは7万以上である。また、加熱時の流れやすさ、つまり製造時におけるフィルム成形性の観点から、15万以下であり、好ましくは14万以下、より好ましくは13万以下である。これらの観点から、水添熱可塑性エラストマーCの重量平均分子量は、好ましくは6〜14万、より好ましくは7〜13万である。
上記水添熱可塑性エラストマーCの重量平均分子量(Mw)としては、下記するゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)法による測定値を用いる。
【0011】
〔GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)法によるポリスチレン換算分子量測定〕
・測定条件
a)測定機器:SIC Autosampler Model 09
Sugai U−620 COLUMN HEATER
Uniflows UF−3005S2B2
b)検出器 :MILLIPORE Waters 410
Differential Refractometer
c)カラム :Shodex KF806M×2本
d)オーブン温度:40℃
e)溶離液 :テトラヒドロフラン(THF) 1.0ml/min
f)標準試料 :ポリスチレン
g)注入量 :100μl
h)濃度 :0.020g/10ml
i)試料調整 :2,6−ジ−t−ブチル−p−フェノール(BHT)が0.2重量%添加されたTHFを溶媒として、室温で攪拌して溶解させた。
j)補正 :検量線測定時と試料測定時とのBHTのピークのずれを補正して、分子量計算を行った。
上記水添熱可塑性エラストマーCは、1種のみを用いてもよく、重量平均分子量や1,2−ビニル結合量等が異なる2種以上を併用することも可能である。
【0012】
〔軟化剤D〕
軟化剤Dは、得られる成形体の機械特性とりわけ緩衝性を良好にする成分であり、また、加熱溶融された組成物に流動性を付与してフィルム成形性を良好にする成分である。
本発明において使用される軟化剤Dとしては、非芳香族系のオイルが使用され、例えばパラフィン系オイル、ナフテン系オイルが使用されるが、本発明の水添熱可塑性エラストマーCと良好な相溶性を示すパラフィン系オイルは望ましい軟化剤Dである。
上記軟化剤Dとしては、動粘度が40℃で50センチストークス(cSt)以上であるものを使用する。動粘度が40℃で50cStに満たない場合には、組成物を成形する際にガスの発生が著しくなり、ブリードが発生しやすくなる。また動粘度が40℃で380cStを超えると、フィルム成形品のべたつきが激しくなり、作業性が低下する。上記軟化剤Dは2種類以上が併用されてもよい。
軟化剤の動粘度は、ASTMD445に従って測定されるものである。
【0013】
〔エチレン共重合体E〕
エチレン共重合体Eは、得られる組成物に柔軟性および伸びを付与する成分であり、特定の割合で配合されることにより組成物のフィルム成形性を優れたものにする成分である。
上記エチレン共重合体Eは、曲げ弾性率が1〜200MPaであるものが好ましく、5〜175MPaであるものがより好ましく、10〜150MPaであるものがさらに好ましい。このような弾性率の小さいポリオレフィンが特定の割合で併用されることにより、組成物のフィルムの柔軟性を優れたものにすることができる。
上記エチレン共重合体Eとしては、エチレンの単独重合体またはエチレンと炭素数3以上のα−オレフィンが好ましく、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、4−メチルペンテン−1、オクテン−1、ノネン−1、デセン−1等が挙げられる。ブテン−1およびオクテン−1はより好ましく、オクテン−1は特に好ましいα−オレフィンである。
上記エチレン重合体Eは、エチレン単位を必須単量単位として含有し、密度0.85〜0.94g/cm3であるポリエチレンE1および/またはエチレン単位を必須単量体単位として含有するエチレン・α−オレフィン共重合体E2であることが好ましい。さらに、上記エチレン・α−オレフィン共重合体E2は、メタロセン触媒を使用して製造されたエチレン・オクテン共重合体であることが好ましい。
【0014】
本発明において使用されるポリエチレンE1は、所定の物性を満たす限り、特に制限はないが、密度が0.90〜0.94g/cm3、好ましくは0.91〜0.92g/cm3である。
本発明において使用されるエチレン・α−オレフィン共重合体E2は、エチレン単位を必須単量体単位として含有する。 エチレン・α−オレフィン共重合体E2は、エチレン単位の割合が50重量%を超え99重量%以下であるものが好ましく、55〜97重量%であるものがより好ましい。α−オレフィン単位の割合は1〜50重量%以上であるものが好ましく、3〜45重量%以上であるものがより好ましい。
上記エチレン・α−オレフィン共重合体E2は、分子量分布(Mw/Mn)が1〜3である。分子量分布が3を超えると、得られる組成物がフィルム成形性の悪いものとなる。メタロセン触媒を使用して製造されたエチレン・α−オレフィン共重合体E2は、分子量分布が小さくなりやすいため好ましい。
上記エチレン・α−オレフィン共重合体E2は、融解温度が30℃以上110℃未満のものであり、40〜105℃であるものが好ましい。このような融解温度の低いポリオレフィンが特定の割合で併用されることにより、組成物をフィルム成形性の優れたものにすることができる。
【0015】
〔プロピレン重合体F〕
プロピレン重合体Fは、得られる成形体の耐熱性および機械特性のバランスを良好にする成分であり、また、組成物の成形性を良好にする成分である。
上記プロピレン重合体Fは、曲げ弾性率が400〜2000MPaであるものが好ましく、425〜1900MPaであるものがより好ましく、450〜1800MPaであるものがさらに好ましい。このような弾性率のポリオレフィンが特定の割合で併用されることにより、組成物のフィルム成形性を優れたものにすることができる。
上記プロピレン重合体Fとして代表的なものは、ポリプロピレンであり、当該ポリプロピレンとしては、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、ポリプロピレンにポリエチレンやエチレン−プロピレン共重合体を添加した変性ポリプロピレン等が挙げられる。
上記プロピレン重合体Fのメルトマスフローレイト(MFR)は1〜2000g/10min以上が理想的である。MFRが低すぎると成形時に成形材料に加える温度がより高温となるため加工が困難になる。また、MFRが高すぎると、混練時にせん断力がかからず練り込みが行えない。プロピレン重合体Fは異なる2種以上を併用しても構わない。
【0016】
〔第3成分〕
上記成分以外にも所望により、本発明の特徴を損なわない範囲において、必要に応じて他の配合成分を配合することができる。
その他の第3成分としては、老化防止剤、難燃剤、防炎剤、撥水剤、撥油剤、防虫剤、防腐剤、ワックス類、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、DBP、DOP、熱安定剤、キレート剤、分散剤等の各種添加剤を添加してもよい。
また、本発明の組成物は、本発明の特徴を損なわない範囲であれば、他のポリマーをブレンドして使用することも可能である。
【0017】
〔配合〕
本発明の組成物は、上記水添熱可塑性エラストマーC100質量部と、上記軟化剤5〜120質量部と、上記エチレン共重合体E30〜400質量部または上記プロピレン重合体F5〜100質量部配合したものである。
上記水添熱可塑性エラストマーC100質量部に対して、上記軟化剤Dの添加量が120質量部を超えた組成物を使用して成形することによって得られた成形物では、該成形物の表面に該軟化剤Dがブリードしてきて顕著にべたつきが発生する。一方該軟化剤Dの添加量が5質量部以下の組成物の場合には、成形時の溶融物の流動性が殆んどなく、成形が不可能となる。
上記水添熱可塑性エラストマーC100質量部に対して、上記エチレン共重合体Eの添加量が30質量部または上記プロピレン共重合体Fの添加量が5質量部に満たない組成物では、該2成分のつなぎの作用が不十分となり、混練中に混練物がまとまりにくくなりくずれやすくなるので成形が不可能となる。一方該エチレン共重合体Eの添加量が400質量部または該プロピレン共重合体Fの添加量が100質量部を超えた組成物では、ゴム弾性がなくなって柔軟性が悪くなる。
上記材料は、例えばヘンシェルミキサー等の混合装置によって混合され、混合物は、通常、押出機によって溶融混練してストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによってペレットに切断する。得られたペレットは、通常、射出成形、押出成形によって所定の成形品とする。また、混合した組成物をバンバリーミキサーおよびルーダー等でペレットにし成形加工原料とすることもできる。
本発明の熱可塑性組成物の硬さは、太陽電池封止材として用いる場合において、良好な柔軟性を発揮し、十分なシール性(密閉性)を得る観点から、100以下が好ましく、90以下がより好ましい。また、形状保持、機械特性、オイルブリードの観点から20以上が好ましく、30以上がより好ましい。これらの観点から、熱可塑性組成物の硬さは好ましくは100以下、より好ましくは20〜90、さらに好ましくは30〜90である。組成物の硬さは、JIS
K 6253Aに従って測定されるものである。
【0018】
〔太陽電池モジュール〕
本発明の太陽電池封止材用熱可塑性フィルム(以下単に熱可塑性フィルムともいう)は、通常、0.1〜1.5mm、好ましくは0.1〜1mm程度の厚みのシート状で使用される。太陽電池封止材用熱可塑性組成物からなる熱可塑性フィルムは、T−ダイ押出機、カレンダー成形機などを使用する公知のシート成形法によって製造することができる。
太陽電池モジュールについて具体的に、太陽電池セルを封止する場合を挙げて説明する。太陽電池セルとは、光起電力効果を利用し、光エネルギーを直接電力に変換する電力機器である。例えば、本実施の形態における熱可塑性フィルムを、ガラス/熱可塑性フィルム/複数の太陽電池セル等の発電部分/熱可塑性フィルム/バックシートの順に積層した太陽電池モジュールを、真空ラミネーターを用いて、内部の気泡等を排除し、加熱して樹脂を軟化させ、貼り合わせる。これにより封止状態が形成できる。これにより、良好な接着性及び段差埋め込み性を確保しつつ、モジュールの製造時や長期使用中における水分やガスの侵入に起因する性能低下を効果的に防止した太陽電池モジュールが得られる。特に屋外で使用されることが多く、かつ長期間に亘る耐久性が要求される太陽電池や、水分に対する耐久性の低い有機EL等に対し、顕著な効果が発揮される。
ガラスは、水蒸気バリア性が高く、長期の使用に際して水分の侵入を遮断できる。本発明のガラスXは、太陽電池モジュールの使用が屋外であるため、形板強化ガラスであることが望ましい。
【0019】
上記ガラスの反対側のバックシートは、通常、ガラス基盤と比較して水蒸気バリア性が低い樹脂系のシートが使用されるため、高い水蒸気捕捉機能を要求される。また、バックシート側は透明性が要求されないため、捕捉剤の含有量を高くすることができるという利点を有している。本発明のバックシートYは、水蒸気バリア性および高い水蒸気捕捉機能を有するポリエチレンテレフタレートフィルムであることが望ましい。
上記熱可塑性フィルムは、太陽電池セルにおける光起電力を少しでも高く維持するために、透明性が高いものが望まれる。
本発明の熱可塑性フィルムの透明度は、太陽電池封止材として用いる場合において、十分な光起電力を得る観点から、厚み2.0mmにおけるヘーズ値70%以下が好ましく、65%以下がより好ましい。該ヘーズ値はJIS
K7136に準拠して測定した。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明を更に具体的に説明するための実施例および比較例を記載する。
(実施例1〜4、比較例1〜5)
〔原料〕
1.水添熱可塑性エラストマーC
(1)セプトン4033〔商品名、クラレ(株)製〕、スチレン系単量体の含有量:30%、Mw:10.1万
(2)セプトン4055〔商品名、クラレ(株)製〕、スチレン系単量体の含有量:30%、Mw:24.3万
(3)G1650〔商品名、クレイトンポリマージャパン(株)製〕、スチレン系単量体の含有量:29%、Mw:10.9万
(4)MD6932〔商品名、クレイトンポリマージャパン(株)製〕、スチレン系単量体の含有量:20%、Mw8.6万
2.軟化剤D
(1)NTK400〔商品名、日本サン石油(株)製〕、動粘度(40℃):84.0cSt
(2)ケイドール〔商品名、Sonneborn〕、動粘度(40℃):70.0cSt
(3)スーパーオイルM460〔商品名、新日本石油(株)製〕:動粘度(40℃):467.0cSt
【0021】
3.エチレン共重合体E
(1)ノバテックLJ808〔商品名、日本ポリエチレン〕、メルトフローレート(MFR;ASTM D−1238、190℃、2.16kg荷重、単位g/10分):21
曲げ弾性率:110MPa、密度0.917g/cm3
(2)エンゲージ8200〔商品名、デュポンダウエラストマーズ製〕メタロセン触媒による重合品、Mw/Mn=2.2、密度0.87g/cm3、オクテン含有量:24%、融点(DSC、ダウ法):68℃
4.プロピレン重合体F
(1)PWH00N〔商品名、サンアロマー(株)製〕、曲げ弾性率:1600MPa、メルトフローレート(MFR;ASTM
D−1238、230℃、2.16kg荷重、単位g/10分):1750
(2)PH943B〔商品名、サンアロマー(株)製〕、曲げ弾性率:550MPa、メルトフローレート(MFR;ASTM
D−1238、230℃、2.16kg荷重、単位g/10分):21.0
(3)ウインテックWFX4T〔商品名、日本ポリプロ(株)製〕、曲げ弾性率:700MPa、メルトフローレート(MFR;ASTM D−1238、230℃、2.16kg荷重、単位g/10分):7.0
(4)PX600N〔商品名、サンアロマー(株)製〕、曲げ弾性率:1650MPa、メルトフローレート(MFR;ASTM D−1238、230℃、2.16kg荷重、単位g/10分):7.5
(4)PC540R〔商品名、サンアロマー(株)製〕、曲げ弾性率:480MPa、メルトフローレート(MFR;ASTM D−1238、230℃、2.16kg荷重、単位g/10分):5.0
5.EVAフィルム
(1)エバフレックスEV250〔商品名、三井デュポンケミカル(株)製〕、EVA樹脂、VA含有量:28%
(2)ルパゾール101〔商品名、アトケム吉富〕、有機過酸化物、2,5−ジメチル−2,5−ビス(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン
(3)TAIC〔商品名、日本化成(株)製〕、架橋助剤、トリアリルイソシアヌレート
(4)KBM503〔商品名、信越化学工業〕、シランカップリング剤
【0022】
〔組成物の製造〕
上記原料を使用して、本発明の組成物および比較用組成物を製造した。配合割合(質量部)は表1のとおりである。
固体状原料(軟化剤D以外の成分)を混合(ドライブレンド)して固体原料混合物を調整し、該混合物に液状原料(軟化剤D)を添加して混合、含浸させて原料混合物を調整した。該原料混合物を下記の条件で押出機で溶融混練して、組成物のペレットを製造した。
・押出機:株式会社テクノベル製 KZW32TW−60MG−NH
・シリンダー温度:180〜250℃(この範囲で組成物毎に適切な温度を選択する。また比較例5(EVA)については、130℃にて溶融混練する。)
・スクリュー回転数:300rpm
【0023】
〔フィルム成形性〕
各実施例および比較例の組成物を使用して、幅100mm、厚み0.8mmであるTダイが取り付けられた単軸押出機にて押出成形し、フィルム状物を製造した。各実施例の組成物においては、フィルムの幅が変動したり、フィルムが途中で切断したりすることなく、生産性よく均一なフィルムを得ることができた。
比較例の組成物を使用して、幅100mm、厚み0.8mmであるTダイが取り付けられた単軸押出機にて押出成形し、フィルム状物を製造した。フィルムの幅が変動したり、フィルムが途中で切断したりするなど成形不良を生じた。比較例5においては、フィルムを成形できたが均一な成形形状ではなかった。
(単軸押出機仕様)
・メーカー:株式会社パーカーコーポレーション
・スクリュー:直径25mm、フルフライトタイプ、圧縮比1:4
(Tダイ仕様)
・フィッシュテイル型フィルム用ダイ
・フィルム幅100mm
・吐出方向は斜め下方向
・温度条件:200℃(比較例5、EVA樹脂については、130℃にて行う。)
・スクリュー回転数:250rpm
<評価基準>
○:均一なフィルム形状。
△:不均一なフィルム形状。
×:切断等によりフィルム成形不可。
【0024】
〔硬さ〕
上記ペレットを、下記の条件で射出成形し、プレート(厚み2mm×幅125mm×長さ125mm)に成形した。
〔射出成形条件〕
射出成形機:三菱重工(株)製、100MS3−10E
射出成形温度:170℃
射出圧力:30%
射出時間:10秒
金型温度:40℃
<測定>
組成物の硬さは、JIS K 6253Aに従って測定した。
【0025】
〔架橋工程の有無およびリサイクル性〕
比較例5においては架橋工程を有した。
上記条件により作成したフィルムを用い、ガラス/フィルム/太陽電池セル/フィルム/バックシートの順番で積層し、下記の条件でプレスした。
・ガラス:形板強化ガラス、厚み3.2mm
・バックシート:PETフィルム、厚み0.2mm
(プレス機仕様)
・メーカー:東邦マシナリー株式会社
・型式:TBP40−2
・温度条件:200℃
・プレス時間:1分、プレス圧:1MPa
比較例5については、架橋工程が必要になるため、プレス時間は15分を要した。
架橋工程を有した成形物は、熱をかけても変形できないためリサイクル性はない。
〔ヘーズ(%)〕
厚み2.0mmにおけるヘーズ値を、JIS
K7136に準拠して測定した。
【0026】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の太陽電池封止材用熱可塑性組成物は、太陽電池モジュール等に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル単量体単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックAを2個以上、および共役ジエン単量体単位を主要構成単位として含有する重合体ブロックBを1個以上有するブロック共重合体Zの水素添加物であり、重量平均分子量が5〜15万である水添熱可塑性エラストマーCを100質量部と、
40℃における動粘度が50〜380センチストークス(cSt)である軟化剤Dを5〜120質量部と、
エチレン単位を必須単量体単位として含有し、曲げ弾性率1〜200MPaであるエチレン重合体Eを30〜400質量部またはプロピレン単位を必須単量体単位として含有し、曲げ弾性率400〜2000MPaであるプロピレン重合体Fを5〜100質量部と、を含有し、
JIS K7136に準拠して測定したヘーズ値が70%以下である太陽電池封止材用熱可塑性組成物。
【請求項2】
上記エチレン重合体Eは、エチレン単位を必須単量単位として含有し、密度0.85〜0.94g/cm3であるポリエチレンE1および/またはエチレン単位を必須単量体単位として含有するエチレン・α−オレフィン共重合体E2である、請求項1に記載の太陽電池封止材用熱可塑性組成物。
【請求項3】
上記エチレン・α−オレフィン共重合体E2は、メタロセン触媒を使用して製造されたエチレン・オクテン共重合体である、請求項2に記載の太陽電池封止材用熱可塑性組成物。
【請求項4】
上記重合体ブロックAを構成する芳香族ビニル単量体は、スチレンである請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池封止材用熱可塑性組成物。
【請求項5】
上記水添熱可塑性エラストマーCは、水添熱可塑性エラストマーCの全構成単量体単位を基準とするスチレン単位の割合が15〜50質量%である、請求項4に記載の太陽電池封止材用熱可塑性組成物。
【請求項6】
JIS 6253Aに準拠して測定したA硬度が、90以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の太陽電池封止材用熱可塑性組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の太陽電池封止材用熱可塑性組成物からなる太陽電池封止材用熱可塑性フィルム。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の太陽電池封止材用熱可塑性組成物により太陽電池セルを封止した太陽電池モジュール。
【請求項9】
ガラスXおよび/またはバックシートYの間に積層された、請求項8に記載の太陽電池モジュール。
【請求項10】
上記ガラスXが、形板強化ガラスである請求項9に記載された太陽電池モジュール。
【請求項11】
上記バックシートYが、ポリエチレンテレフタレートフィルムである請求項9に記載された太陽電池モジュール。

【公開番号】特開2012−107107(P2012−107107A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256440(P2010−256440)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】