説明

太陽電池用カバーガラス及びその製造方法

【課題】本発明は、太陽電池用カバーガラスに適した高い透過率を有し、さらに風冷強化時に反りの発生を抑制し易いガラスを提供することを課題とする。
【解決手段】太陽電池用カバーガラスであり、該太陽電池用カバーガラスは平面状で厚さ2mm〜4mmのソーダ石灰系ガラスからなり、成分として、質量%で、
Alを1.1〜1.6、CaOを9〜11、MgOを2.5〜3.5、全アンチモン酸化物をSb換算で0.1〜0.5、鉄酸化物をFeに換算で0.005〜0.02有し、Fe2+が(Fe2++Fe3+)の2〜9%を占め、実質的に酸化セリウム及び酸化鉄以外の着色成分を含んでいないソーダ石灰系ガラスからなることを特徴とする太陽電池用カバーガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用カバーガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池はその保護のために、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂膜や、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂膜などの中間膜を介し、カバーガラスと一体化されてパネル化される。太陽電池は高い発電効率が必要なため、カバーガラスは太陽光の高い透過率を有することが求められており、それに使用されるガラスには着色成分をできる限り少なくしたガラス、所謂白板ガラスが望まれている。
【0003】
しかし、前述したようなガラスであっても、代表的な着色成分のひとつである鉄酸化物はガラスを工業的に製造する際、原料に少なからず含まれていることから鉄酸化物による光の吸収量をゼロにすることは難しく、実際に生成されるガラス内において、鉄酸化物はFeOとFeの形で存在する。FeOは光波長1100nm付近に光吸収のピークを有し、それは800〜1000nmの光吸収にも影響し、この波長域でのガラスの透過率の減少をもたらす。一方で、Feは400nm付近に光吸収のピークを有する。上記より、ガラス中に含まれるFeO量とFe量を調整することや、他成分を導入することにより、鉄酸化物に起因する光の吸収量と波長域の調整や、ガラスの色味の調整がなされてきた(例えば、特許文献1、2)。
【0004】
前記したようにガラス中のFeOは、800〜1000nmの光波長域の透過率の減少をもたらす。この光波長域は、シリコン系太陽電池などの最大感度領域と重なることから、太陽電池用カバーガラスは、その成分としてFeO量が少ないことも望まれている。特許文献3及び4は、鉄酸化物の量を減少させたガラス中に、鉄酸化物の価数調整としてCeOを導入し、ガラス中に含まれる鉄酸化物の鉄の価数の制御を行っている。また、特許文献5は、鉄酸化物の量を減少させたガラス中に、鉄酸化物の価数調整としてSbを導入し、ガラス中に含まれる鉄酸化物の鉄の価数の制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−139343号公報
【特許文献2】特公平7−29810号公報
【特許文献3】特開平5−221683号公報
【特許文献4】特開2000−143284号公報
【特許文献5】特開2007−238398号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.Akeyoshi,E.Kanai,K.Yamamoto and S.Shima:旭硝子研究報告書,17,pp.23-36(1967)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
太陽電池は、砂利、石、木材などの飛来物を考慮する必要がある屋外に配置されるため、太陽電池用カバーガラスには強度の高いガラスが求められていることから、風冷強化ガラスを使用することが好ましい。風冷強化ガラスは、炉内でガラスを軟化点付近まで加熱後、ガラス表面を風冷して急激に冷やすことにより、ガラス表面に圧縮応力層を生成させて、物理的、熱的衝撃強度、疵に対する抵抗力を向上させたガラスである。
【0008】
風冷強化ガラスの強度は、風冷開始時の冷却開始時のガラス温度を高くすることで上昇する傾向にあるが、この温度を高くしすぎると、ガラスに反りが発生しやすくなる。なぜなら、実際的には、ガラスの風冷強化は、加熱炉内でガラスを搬送ロールで搬送させながら、所定の温度までの加熱が行われるため、ガラスをより高温で加熱することは、搬送ロール間の隙間で、ガラスが自重で垂れ下がるような変形を生じやすくさせ、結果としてガラスに反りを発生させやすくする。ガラスの反りが大きいと、太陽電池用カバーガラスと太陽電池との一体化を阻害するという問題がある。すなわち、ガラスの高強度化と、ガラスの反りの抑制は、相反する要求特性であり、反りの少ない風冷強化ガラスを得ることは一つの技術的な課題である。
【0009】
ここで、ガラスはその組成によって様々な物性値が異なり、これらの物性値によって、風冷強化する際の圧縮応力の生じ易さが異なる。ガラスの物性値と風冷強化時に生じる圧縮応力の関係は、Akeyoshi(非特許文献1参照)らによって次の(1)式で示される。
【0010】
圧縮応力σc=(α・E・h・Q)/((1−m)・12k) (1)
<α:熱膨張係数、E:ヤング率、h:板厚、Q:冷却能、m:ポアソン比、k:熱伝導率>
上記理論式(1)によれば、ガラスとしては、ヤング率、ポアソン比、熱膨張係数については大きな値をもつもの、熱伝導率については小さな値をもつものほど、強化し易いガラス、すなわち、より低い温度での強化が可能なガラス、ひいては反りの発生を抑制しやすいガラスであることがわかる。実用に供せられるソーダ石灰系ガラスでは、ヤング率、ポアソン比、熱膨張係数などの値は、組成によって大きく変動するものではないから、ガラスの熱伝導率をいかにして小さくするかが大きなポイントになる。
【0011】
ガラス中のFeOは、対象物を直接熱に変換しやすい近赤外領域である波長1100nm付近に光吸収のピークを有するため、この波長域の赤外線を吸収したガラスは加熱されることになる。すなわち、ガラス中のFeO量の増加は、ガラスに熱伝導率の上昇をもたらしやすくする。よって、強化しやすいガラスを得るためには、FeO量を少なくすることが求められる。
【0012】
従来、ガラス中の鉄酸化物に起因する光の吸収量と吸収波長域の調整や、ガラスの色味の調整、また、太陽電池用カバーガラス用途にあっては、FeOの光吸収によって引き起こされる800〜1000nmの光波長域の透過率の減少を抑制しようとする試みがなされてきた。しかし一方で、必要以上に鉄酸化物中のFeOの量を減少させることについての検討は行われていなかった。
【0013】
例えば、特許文献1は、鉄酸化物の量を0.02〜0.05質量%とし、実施例での開示においては、鉄酸化物中のFeOの量が22〜36%であるガラスを開示している。また、特許文献2は、鉄酸化物の量を0.02質量%より少なくしているが、具体的に開示されている鉄酸化物中のFeOの量は60%である。
【0014】
また、特許文献3及び4は、鉄酸化物の量を減少させたガラス中に、鉄酸化物の価数調整剤としてCeOを導入することにより、ガラス中に含まれる鉄酸化物の鉄の価数を制御している。特許文献3は、鉄酸化物中のFeOの量が3%と極めて低いガラスを開示しているが、前述したように、太陽電池用カバーガラスは屋外で長期間静置され、太陽光が長期に亘り照射されるものであることから、CeOが引き起こすソーラリゼーションにより、ガラスが着色するという問題が生じることがある。
【0015】
また、特許文献5は、鉄酸化物の量を0.04質量%以下とし、実施例では、鉄酸化物中のFeOの量が9.8〜16.7%であるガラスを開示しているが、鉄酸化物中のFeO量をさらに減少させることについては試みられていない。
【0016】
本発明は、上記を考慮し、太陽電池用カバーガラスに適した太陽光の高い透過率を有し、かつ風冷強化時に反りの発生を抑制し易いガラスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、上記した課題を解決するために、鉄酸化物の量が低減されたガラスにおいて、さらにFeOの量を低減させようとしてなしたものである。すなわち、本発明の太陽電池用カバーガラスは、平面状で厚さ2mm〜4mmのソーダ石灰系ガラスからなり、成分として、質量%で、
Alを1.1〜1.6、
CaOを9〜11、
MgOを2.5〜3.5、
全アンチモン酸化物をSb換算で0.1〜0.5、
鉄酸化物をFeに換算で0.005〜0.02有し、
Fe2+が、Fe2++Fe3+(ここで鉄酸化物をFeに換算した質量を指す)の2〜9%を占め、実質的に酸化セリウム及び酸化鉄以外の着色成分を含んでいないソーダ石灰系ガラスからなることを特徴とする。
【0018】
ガラス中のアンチモン酸化物は、鉄酸化物の鉄酸化物の価数調整剤として作用し、アンチモン酸化物の存在量によって、鉄酸化物中のFeOとFeとの量比を調整することができる。Fe2+が(Fe2++Fe3+)に占める率を、以降、「レドックス」として表記する。
【0019】
アンチモン酸化物の存在量は、レドックスに影響するが、アンチモン酸化物の量が増えたからといって必ずしもレドックスが減少するというわけではない。例えば、特許文献5の実施例では、アンチモン酸化物の量が、0.02−0.025質量%から、0.1−0.2質量%と増加しても、必ずしもレドックスが減少しているわけではない。レドックスには酸化アンチモンだけでなく、他の要因も影響しているであろうことがみてとれる。
【0020】
本発明では、ある特定のソーダ石灰系ガラスにおいて、全アンチモン酸化物をSb換算で0.1〜0.5質量%を含ませることで、鉄酸化物量を低減させたガラス中の「レドックス」を低減させるという知見を得、上記発明をなしたのである。
【0021】
また、前記ソーダ石灰系ガラスは、全アンチモン酸化物をSb換算で0.18〜0.35質量%含有することが好ましく、0.18〜0.25質量有することがより好ましい。
【0022】
また、本発明の太陽電池用カバーガラスの表層は、風冷強化によって形成された圧縮応力層を有していることが好ましく、JIS R3206:2003年(強化ガラス)に準拠して測定した反り量が1%以下であり、破砕したときの単位面積(50mm×50mm)あたりの破片数が、最小値で40個以上、好ましくは50個以上であることが好ましい。この破片数の最小値の上限は150以下、好ましくは140個以下としてもよい。
【0023】
本発明の前記太陽電池用カバーガラスの好適な製造方法は、目的のガラス板の成分となるように配合した原料を溶融して溶融ガラスを形成し、該溶融ガラスをロールアウト成形法と言われる方法により厚さ2mm〜4mmの板状のガラス板に成形する工程、前記ガラス板表層に風冷強化によって圧縮応力層を形成する工程により製造する方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、太陽電池用カバーガラスに適した太陽光の透過率を有し、かつ比較的薄い厚みの平面状のガラス板としたときでも、風冷強化時に反りの発生を抑制し易いガラス板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の太陽電池用カバーガラスに用いられるソーダ石灰系ガラスの成形に用いられる装置例の部分側面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、平面状で厚さ2mm〜4mm、好ましくは2.5〜3.5mm、より好ましくは2.7〜3.3mmのソーダ石灰系ガラスからなり、該ソーダ石灰系ガラスは、質量%で、Alを1.1〜1.6、CaOを9〜11、MgOを2.5〜3.5、全アンチモン酸化物をSb換算で0.1〜0.5、鉄酸化物をFeに換算で0.005〜0.02有し、Fe2+が(Fe2++Fe3+)の2〜9%を占め、実質的に酸化セリウム及び酸化鉄以外の着色成分を含んでいないことを特徴とする太陽電池用カバーガラスである。
【0027】
主成分として少なくともSiO、CaO、及びNaOを含有するものであり、各成分の質量の総和(SiO+CaO+NaO)が90質量%以上となるものである。本発明のソーダ石灰系ガラスは、SiOの含有量は、69〜72.5質量%であり、好ましくは69.5〜72質量%、より好ましくは70〜71.5質量%である。また、NaOの含有量は、13〜15質量%であり、より好ましくは13.5〜14.5質量%である。さらには、KOを含んでいてもよく、その含有量は0〜0.1質量%、好ましくは0〜0.08質量%である。
【0028】
鉄酸化物は、可視光〜近赤外線の光波長域の透過率を高いものとするためにその含有量を少なくすることが好ましい。本発明では、鉄酸化物をFe換算で0.005〜0.02質量%含有するものとしている。レドックスを低くすることは、400nm付近に光吸収のピークを有するFe量を増やすことになるが、本発明では、Fe量を前記した範囲としているので、ガラスの色味はニュートラルとなる。また、太陽電池のカバーガラスとして、シリコン系太陽電池などの最大感度波長領域(800〜1000nm)へ影響することも少ない。
【0029】
Feに換算した鉄酸化物の量が0.005未満の場合、ガラス原料の高純度化がコスト増の要因となり好ましくない。他方、0.02質量%超では、400nm付近の光吸収の影響もあり、ガラスの可視光透過率が減少する傾向があることや、FeO量の増加もたらすこととなり好ましいものではなくなる。Feに換算した鉄酸化物の量は、好ましくは0.008〜0.018質量%、より好ましくは0.011〜0.017質量%である。また、鉄酸化物の量が0.11未満である場合、0.005未満とする場合よりはコスト増を抑えられるが、量産化するには適さない。
【0030】
そして、本発明のガラスのレドックスは2〜9%であることを特徴としている。2%未満の場合、ガラス製造のコストが上昇する傾向となり好ましくなく、9%超の場合では、FeO量の低減が不十分で風冷強化の難易度が上昇し好ましくない。このレドックスは、好ましくは3〜9%、より好ましくは4〜9%である。
【0031】
本発明のソーダ石灰系ガラスは、全アンチモン酸化物をSb換算で、0.1〜0.5質量%有する。0.1質量%未満だと、レドックスを減少させる効果が小さく、0.5質量%超だと、原料のコスト高の要因となるばかりか、導入量を多くしてもレドックスを減少させる効果も見込みにくくなるからである。全アンチモン酸化物の含有量をSb換算で、好ましくは0.18〜0.35質量%、より好ましくは0.18〜0.25質量とする。
【0032】
アンチモン酸化物は、三酸化アンチモン(Sb)、五酸化アンチモン(Sb)、アンチモン酸ソーダ(NaSbO)などを、原料として使用してもよいが、アンチモン酸ソーダ(NaSbO)を使用することが好ましい。
【0033】
本発明のソーダ石灰系ガラスは、質量%で、Alを1.1〜1.6%、CaOを9〜11%、MgOを2.5〜3.5%含むものとしている。本発明では、例えば、特許文献5と比較して、アンチモン酸化物が同程度であったとしても、レドックスを低く抑制できている。この効果の要因は定かではないが、前記したアンチモン酸化物の量や、これら成分量を適切化するなどして、なしえたものと推察される。さらに好ましくは、Alを1.2〜1.5%、CaOを9.2〜10.5%、MgOを2.6〜3%としてもよい。
【0034】
また、MgOはガラスのアルカリ成分の溶出を抑制する成分であり、含有量が少ない程ガラスにヤケ等の欠陥が生じ易くなり、長期に亘る屋外使用に適さないガラスとなり易いが、本発明は特にヤケ等の欠陥は生じないものである。
【0035】
本発明のソーダ石灰系ガラスは、SOを含んでもよく、その含有量として、0.5質量%まで含ませてもよい。SOは、ガラスの溶解、清澄、成形性の改善の効果がある。こうした観点から、SOを好ましくは0.25〜0.5質量%、より好ましくは0.3〜0.4質量%含有させてもよい。
【0036】
本発明のソーダ石灰系ガラスは、紫外線吸収能を高めるためにTiOを適量含有させてもよい。ガラスが紫外線吸収能を持つことで、太陽電池や、太陽電池とカバーガラス間の中間膜の劣化を抑制させるなどの効果が生じるようになる。多量のTiOの含有により、ガラスが黄色味を帯びるようになることから、その含有量の上限は、0.1質量%、好ましくは0.07質量%、より好ましくは0.05質量%までとしてもよい。その下限は特に限定するものではないが、0.001質量%としてもよい。
【0037】
本発明のソーダ石灰系ガラスは、実質的に酸化セリウム及び酸化鉄以外の着色成分を含んでいないこととしている。実質的に酸化セリウムを含んでいないということは、酸化セリウムを含んでいたとしても、ガラスのソーラリゼーションを生じがたくさせている程度の含有量であり、ガラス中の含有量として10ppm未満、好ましくは1ppm未満となっているものを指している。
【0038】
酸化鉄以外の着色成分を含んでいないとは、酸化ニッケルや、酸化コバルト、酸化クロム、二酸化マンガンなどのソーダ石灰系ガラスを着色させる成分を含んでいないことを意味し、その含有量としては、15ppm未満、好ましくは10ppm未満となっているものを指している。
【0039】
図1を参照して、本発明の太陽電池用カバーガラスに使用されるソーダ石灰系ガラスの調製例を説明する。図1は、本発明の太陽電池用カバーガラスに用いられるソーダ石灰系ガラスの成形に用いられる装置例を示している。当該製造装置は、第1ロール1と第2ロール2の間にガラス素地である溶融ガラス3を通すことによって板状のカバーガラス22を成形するロールアウト成形装置である。本製造例は、錫浴上で溶融ガラスを板状に成形するフロート法とは異となり、成形時に還元雰囲気となりにくく、ガラス表層部のアンチモン酸化物が還元されて金属粒子となるような現象が生じにくく好ましい製造例である。
【0040】
溶融槽4内には溶融ガラス3が貯留される。溶融槽4の排出口4aには溶融ガラス3を第1ロール1と第2ロール2の間に案内するリップタイル5が接続される。リップタイル5には、溶融ガラス3が第1ロール1と第2ロール2に案内される際に、幅方向からの溶融ガラス3の漏れを防止するガイドブロック6が設けられる。溶融槽4の排出口4aには、溶融ガラス3の排出流量を調節するカットナイフ7が設けられる。
【0041】
第1ロール1は、固定装置8によって回転自在に支持される。また、第2ロール2は、固定装置9によって回転自在に支持される。
【0042】
第1ロール1と第2ロール2の間を通過して成形された成形ガラスは、搬送プレート10及び搬送ロール11を通じて搬送される。搬送プレート10は、成形ガラスが付着しないように冷却される。冷却には、風冷、水冷等によるクーラーが用いられる。
【0043】
溶融槽4から排出された溶融ガラス3は、成形温度まで冷却された後、第1ロール1と第2ロール2の間を通過して、2〜4mmの厚さに圧延成形される。このとき、第1ロール、第2ロールの表面にパターンが刻印されていると、パターンがガラス板表面に転写されるようになり好ましい。例えば、第1ロール1の表面には規則的なパターン(例えば、220μm程度の溝深さ)を刻印しておき、第2ロール2の表面には不規則な凹凸(例えば、5μm程度の溝深さ)を刻印しておいてもよい。
【0044】
上記製造装置などで得られたガラス板の風冷強化を行い、ガラス表層に圧縮応力層を形成してガラスの強度を向上させることが好ましい。表層に圧縮応力が強くかかっているガラスほど、ガラスを破砕したときの破片が小さくなり、破片数が多くなる。本発明の太陽電池用カバーガラスは、「JIS R3206:2003年(強化ガラス)」に準拠して測定した反り量が1%以下(好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下)であり、破砕したときの単位面積(50mm×50mm)あたりの破片数が、最小値で40個以上、好ましくは50個以上となるものが好ましい。当該最小値の上限を高くしようとすると反り量が大きくなる傾向があることから、上限は400個以下、好ましくは200個以下、より好ましくは150個以下としてもよい。
【0045】
上記製造装置などで得られたガラス板を搬送ロールで搬送しながらガラスをガラス転移温度付近(例えば、550〜650℃)まで加熱する。風冷強化ガラスの強度は、風冷開始時の冷却開始時のガラス温度を高くすることで上昇する傾向にあるが、この温度を高くしすぎると、ガラスに反りが発生しやすくなる。なぜなら、搬送ロール間の隙間で、ガラスが自重で垂れ下がるような変形を生じやすくさせるからである。
【0046】
本発明のガラス板では、好ましくは、ガラス板の温度が570〜630℃、より好ましく580〜620℃のときに、冷却ノズルから板ガラスに風を吹き付けて風冷強化を開始する。このとき、吹きつける風は風圧5〜30kPaとするのが好ましく、7〜20kPaとするのがより好ましい。尚、鉄酸化物の量の低減が図られていない通常のソーダ石灰系のフロートガラスは、平面状のガラス板を強化する場合、風冷開始時のガラス板の温度は、620〜670℃程度である。
【実施例】
【0047】
<ガラスの調製>
原料として、珪砂、酸化アルミニウム、ソーダ灰、硫酸ナトリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、アンチモン酸ソーダなどの原料を用いて表1に示す実施例1〜6、比較例1,4,5に示すガラス成分の割合となるように調合し、白金坩堝に充填した。試料の製造条件を実製造ラインの条件に近づけるように、当該白金坩堝を図1に示したような溶融槽内に挿入し、原料を溶解後、当該白金坩堝を溶融槽内から取出し、溶融ガラスを鋳型に流し込み、ガラスブロックとした。その後、550℃に保持した電気炉に移入し該炉内で徐冷し、ガラス試料を得た。得られたガラス試料の組成及び透過率を表1に示す。尚、比較例2、3は、特許文献5の実施例1及び2の値を参照のために引用したものである。
【0048】
ガラス成分の量は、ガラス試料を粉砕し、破砕したものを蛍光X線分析法に基づいて測定し求めたものである。また、レドックスは、比色法によりFe2+の量を求めてから得たものである。
【0049】
【表1】

【0050】
<得られたガラス試料の評価>
1)日射透過率、及び光波長1100nmでの透過率(又は吸収係数)
分光光度計U−4100(HITACHI製)を用いて、JIS R 3106に記載の板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法に準拠して測定し、板厚3.2mmにおける日射透過率及び光波長1100nmでの透過率を求めた。
【0051】
実施例1〜4のガラスの日射透過率は、90.8〜91.2であった。比較例1のガラスのそれは90.7で、比較例5のガラスは91.4であった。また実施例1〜4のガラスの光波長1100nmでの透過率は、90.6〜91.4であった。比較例1のガラスのそれは90.3で、比較例5のガラスは91.6であった。
【0052】
2)熱伝導率
レーザーフラッシュ法熱物性測定装置LFA−502(京都電子工業製)を用いて、JIS R 1611に記載のレーザーフラッシュ法による熱拡散率・比熱容量・熱伝導率試験方法に準拠して測定し、熱伝導率を求めた。
【0053】
実施例3のガラスの熱伝導率は、0.002317cal/cm・sec・℃であった。比較例1のガラスは、0.002333cal/cm・sec・℃であった。尚、鉄酸化物の量の低減が図られていない通常のソーダ石灰系のフロートガラスは、0.222326cal/cm・sec・℃であった。
【0054】
<ガラス板の風冷強化>
実施例1の組成を有するガラスを図1に示したような装置で板厚が3.2mmとなるように平面状のガラス板に成形した。成形されたガラス板から1m角サイズに切り出したものを図示しない風冷強化装置にて強化処理を行った。
【0055】
当該強化処理では、ガラス板をセラミック製の搬送ロールで搬送し、所定の温度に加熱された領域まで搬送後、炉外にガラス板を搬送し、ただちに冷却ノズルからガラス板に風を吹き付けて風冷強化を行う。炉外に搬送される直前のガラス板の温度を、風冷強化開始時のガラス板の温度とする。
【0056】
本例では、炉外に搬送される直前のガラス板の温度(ガラス中央部)の温度を600℃とし、風冷強化の処理を行った。ガラスが炉外に搬送されると同時に、冷却ノズルからガラス板に風圧11kPaで風を吹きつけ、ガラスの温度が400℃以下となるまで所定の時間保持した。
【0057】
得られた強化ガラスの反り量、及び破砕したときの単位面積(50mm×50mm)あたりの破片数を、「JIS R3206:2003年(強化ガラス)」に準拠して測定したところ、反り量は0.1%、破砕数は95個であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池用カバーガラスであり、該太陽電池用カバーガラスは平面状で厚さ2mm〜4mmのソーダ石灰系ガラスからなり、成分として、質量%で、
Alを1.1〜1.6、
CaOを9〜11、
MgOを2.5〜3.5、
全アンチモン酸化物をSb換算で0.1〜0.5、
鉄酸化物をFeに換算で0.005〜0.02有し、
Fe2+が(Fe2++Fe3+)の2〜9%を占め、実質的に酸化セリウム及び酸化鉄以外の着色成分を含んでいないソーダ石灰系ガラスからなることを特徴とする太陽電池用カバーガラス。
【請求項2】
ロールアウト成形されたガラス板を風冷強化したソーダ石灰系ガラスからなることを特徴とする請求項1記載の太陽電池用カバーガラス。
【請求項3】
前記太陽電池用カバーガラスの表層は、風冷強化によって形成された圧縮応力層を有しており、「JIS R3206:2003年(強化ガラス)」に準拠して測定した反り量が1%以下であり、破砕したときの単位面積(50mm×50mm)あたりの破片数が、最小値で40個以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の太陽電池用カバーガラス。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の太陽電池用カバーガラスを製造する製造方法であり、請求項1記載の成分となるように配合した原料を溶融して溶融ガラスを形成し、該溶融ガラスをロールアウト成形により厚さ2mm〜4mmの板状のガラス板に成形する工程、前記ガラス板表層に風冷強化によって圧縮応力層を形成する工程、を有ることを特徴とする太陽電池用カバーガラスの製造方法。
【請求項5】
風冷強化開始時のガラス板の温度を570℃〜630℃とすることを特徴とする請求項4記載の太陽電池用カバーガラスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−89938(P2013−89938A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232515(P2011−232515)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【特許番号】特許第4984002号(P4984002)
【特許公報発行日】平成24年7月25日(2012.7.25)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】