説明

太陽電池用シリコンウェーハおよびその製造方法

【課題】受光面積を拡大させて高い光電変換効率が得られ、スライスとは別の凹凸形成工程が不要で、シリコン系太陽電池の製造コストも低減可能な太陽電池用シリコンウェーハおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】スライス時のワイヤの動作条件として、ワイヤ列の双方向への走行を採用した。これにより、太陽電池用シリコンウェーハの表裏面に同方向に向かう多数の直線状の微細な凹溝を形成することができる。その結果、太陽電池用シリコンウェーハの受光面積が拡大し、高い光電変換効率が得られる。しかも、スライスとは別の凹溝形成工程が不要となり、シリコン系太陽電池の製造コストの低減が図れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、太陽電池用シリコンウェーハおよびその製造方法、詳しくはシリコン系太陽電池の基材となり、太陽電池用シリコンインゴットをスライスして得られる太陽電池用シリコンウェーハおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン系太陽電池は、単結晶シリコンインゴットまたは多結晶シリコンインゴットをスライスして得られた太陽電池用シリコンウェーハにPN接合を形成し、ウェーハ表裏面に電極を形成して製造される。近年、一般的なスライスではワイヤソーが利用される。
ワイヤソーによるスライス方法は、まず1本のワイヤを2〜4本のグルーブローラ間に所定ピッチで架け渡し、ワイヤ列を形成する。その後、各グルーブローラを回転させてワイヤを走行させ、遊離砥粒を含むスラリーをインゴット両側方のワイヤ列上に供給しながら、太陽電池用シリコンインゴットをワイヤ列に押し付ける。これにより、多数枚の太陽電池用シリコンウェーハが同時に得られる。
【0003】
ところで、一般的な太陽電池用シリコンウェーハの厚さは、200μm前後と薄肉である。そのため、ワイヤの双方向送りでは、スライス時に太陽電池用シリコンウェーハの割れやチッピングが生じ、ワイヤの断線が発生し易かった。そこで、この課題を解消するため、ワイヤの動作条件(ワイヤ列の送り方向)の1つとして、スライス面の高い平滑性が得られる一方向送りが採用されていた。これにより、太陽電池用シリコンウェーハの表裏面は、研削跡のソーマークが確認できないほど高平滑化(Rmax5〜10μm)していた。
【0004】
また、シリコン系太陽電池は、光電変換効率を高めるため、太陽電池用シリコンウェーハの表面(受光面)に無数の微細な凹凸を形成し、この表面での光反射率の低減を図っている。太陽電池用シリコンウェーハの表面に凹凸を形成する方法として、従来、シリコンの面方位によるエッチング速度の違いを利用し、アルカリ性水溶液を太陽電池用シリコンウェーハに接触させてエッチングを行う方法が開発されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−202831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このようなエッチング法によれば、結晶異方性の特性上、太陽電池用シリコンウェーハの表面に対して、Rmaxで20μm以上の表面粗さを実現させることができなかった。その結果、高い光電変換効率を得る際に必要な太陽電池用シリコンウェーハの受光面積(表面積)の拡大を十分に行うことができなかった。
また、前記凹凸の形成にエッチング処理を採用した場合には、太陽電池用シリコンウェーハからシリコン系太陽電池を製造する際、スライスとは別のエッチング工程が必要であった。これにより、太陽電池用シリコンウェーハがコスト高となっていた。このことは、エッチングとは異なる手法(例えば研削、レーザ照射など)によって、太陽電池用シリコンウェーハの表面に凹凸を形成させる場合も同じである。
【0007】
そこで、発明者は鋭意研究の結果、これまではウェーハ割れなどを誘発するとして危惧されていたワイヤの双方向走行に着目した。すなわち、太陽電池用シリコンウェーハの表裏面に、ワイヤ列を双方向へ走行させた際に形成されるソーマークと呼ばれる同方向に向う多数の直線状の凹溝が存在するものとすれば、上述した全ての問題が解消されることを知見し、この発明を完成させた。
【0008】
この発明は、受光面積を拡大させて高い光電変換効率が得られるとともに、スライスとは別の凹溝の形成工程が不要で、シリコン系太陽電池の製造コストも低減させることができる太陽電池用シリコンウェーハおよびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、PN接合および電極が形成されてシリコン系太陽電池に加工される太陽電池用シリコンウェーハにおいて、同方向に向う多数の直線状の凹溝が、表裏面に形成された太陽電池用シリコンウェーハである。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、太陽電池用シリコンウェーハを、その表裏面に、ワイヤ列を双方向へ走行させることで現出する、同方向に向う多数の直線状の凹溝を有するものとした。これにより、太陽電池用シリコンウェーハの受光面積が拡大し、高い光電変換効率が得られる。また、シリコンウェーハの裏面にも、ウェーハ表面の凹溝と同じ方向に向かう多数の直線状の凹溝が形成されることで、太陽電池モジュール製造工程でウェーハ裏面にアルミニウムなどの薄膜を形成した際、薄膜との接触面積が増大して両者の接着強度を高めることができる。しかも、スライスとは別の凹溝の形成工程が不要となり、シリコン系太陽電池の製造コストを低減させることができる。
【0011】
シリコン系太陽電池としては、単結晶シリコン系太陽電池、多結晶シリコン系太陽電池などが挙げられる。
太陽電池用シリコンウェーハの素材としては、単結晶シリコン、多結晶シリコンなどを採用することができる。
太陽電池用シリコンウェーハの形状としては、円形、角部が面取りされた四角形(単結晶シリコン製)、四角形(多結晶シリコン製)などを採用することができる。
【0012】
「直線状の凹溝」とは、太陽電池用シリコンウェーハの表裏面の全域にわたって、ほぼ等間隔で同方向に向かう直線的かつ平行に形成された多数の凹溝からなるソーマーク(研削痕)である。このソーマークは、固定砥粒ワイヤを双方向へ走行させながら、太陽電池用シリコンインゴットをスライスすることで形成される。そのため、太陽電池用シリコンウェーハの表面だけでなく、裏面にもウェーハ表面の凹溝と同じ方向(例えば、ウェーハ表裏面の凹溝ともX方向)に向かう同様の直線状の凹溝が存在する。また、直線状の凹溝の両端部分には、一方向への湾曲部(ダレ)が存在する場合もある。凹溝はソーマークであるので、凹溝の底面とウェーハ上面とには、Rmaxで2〜3μm程度のさらに微細な面荒れも存在する。
【0013】
太陽電池用シリコンウェーハの厚さは、160〜220μmである。160μm未満では、太陽電池用シリコンウェーハが薄すぎて、ウェーハ取り扱い上のウェーハの割れが著しく増加する。そのため、この割れ対策には太陽電池用シリコンウェーハの厚肉化が有効である。しかしながら、220μmを超えれば、シリコンの使用量が増加し、太陽電池用シリコンウェーハの製造コストが高まるので好ましくない。
太陽電池用シリコンウェーハの表裏面には、固定砥粒ワイヤを双方向へ走行させるスライスにより現出した1〜5μm(ウェーハ片面)の加工ダメージが存在する。ちなみに、遊離砥粒を利用してワイヤ切断(ワイヤを双方向へ走行)した場合には、一般的にウェーハ片面に5〜15μmの加工ダメージが現出する。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記凹溝は、ピッチが0.1〜5mmで、深さが1〜50μmである請求項1に記載の太陽電池用シリコンウェーハである。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、凹溝のピッチを0.1〜5mmとし、凹溝の深さを1〜50μmとしたので、凹溝の形成による太陽電池用シリコンウェーハの強度低下を防止しながら、太陽電池用シリコンウェーハの受光面積の拡大と、高い光電変換効率とを同時に満足させることができる。
【0016】
凹溝のピッチが0.1mm未満であれば、凹溝の形成による太陽電池用シリコンウェーハの強度が低下し易い。また、凹溝のピッチが5mmを超えれば、太陽電池用シリコンウェーハの受光面積の拡大が不十分で、高い光電変換効率が得られない。
凹溝の深さが1μm未満では、太陽電池用シリコンウェーハの受光面積の拡大が不十分で、高い光電変換効率が得られない。また、凹溝の深さが50μmを超えれば、凹溝の形成による太陽電池用シリコンウェーハの強度が低下するおそれがある。特に、凹溝がウェーハ表裏面で重なった部分では100μmを超える減厚となり、ウェーハの割れが発生し易くなる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、ワイヤソーの複数本のグルーブローラ間で走行中のワイヤ列に、スラリーを供給しながら太陽電池用シリコンインゴットを押し付け、多数枚の太陽電池用シリコンウェーハをスライスにより得る太陽電池用シリコンウェーハの製造方法において、前記ワイヤ列を構成するワイヤとして、外周面に砥粒が固定された固定砥粒ワイヤを使用し、前記ワイヤ列を双方向に走行させながら前記太陽電池用シリコンインゴットをスライスすることで、前記各太陽電池用シリコンウェーハの表裏面に、同方向に向う多数の直線状の凹溝を形成する太陽電池用シリコンウェーハの製造方法である。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、スライスに際して、双方向(往方向および復方向)へ走行中の固定砥粒ワイヤから構成されるワイヤ列に、太陽電池用シリコンインゴットを押し付ける。これにより、太陽電池用シリコンウェーハの表裏面に、ワイヤ列を双方向へ走行させた際に現出する多数の同方向に向かう粗い直線状の凹溝が形成される。それと同時に、ワイヤ表面の固定砥粒によって、さらに細かいRmaxで2〜3μm程度の同方向に向かう直線状の溝が形成される。その結果、太陽電池用シリコンウェーハの受光面積が拡大し、高い光電変換効率が得られる。しかも、スライスとは別の凹溝形成工程が不要となり、シリコン系太陽電池の製造コストを低減させることができる。しかも、固定砥粒ワイヤの使用により、遊離砥粒を使用したワイヤソーによるスライス時に比べて高切削効率となり、太陽電池用シリコンインゴットのスライス速度が高まる。なお、その後に凹溝形成用のエッチングを実施する場合でも、エッチング時間の短縮が図れる。
【0019】
ワイヤソーのグローブローラの使用本数は、例えば2本、3本または4本である。
固定砥粒ワイヤとしては、粒度が7〜25μmのダイヤモンド砥粒を、集中度20〜55、好ましくは50で、直径100〜300μmのピアノ線に、バインダにより加熱硬化または紫外線照射硬化させたものなどを採用することができる。バインダとしては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリルウレタン樹脂などを採用することができる。また、ワイヤの外周面にニッケルとともに、ダイヤモンド砥粒を電着させたものでもよい。
固定砥粒ワイヤの送り速度は、500〜1500m/分である。500m/分未満では、遊離砥粒を含まないスラリー(ラッピングオイル)が、ワイヤによってインゴットの切断箇所へ持ち込まれず、切断効率が低下する。1500m/分を超えれば、ワイヤに付着したスラリーが吹き飛ばされて切断効率が低下する。
【0020】
固定砥粒ワイヤの前進量は250〜450m、固定砥粒ワイヤの後退量は248〜499mである。前進と後退とのサイクル時間は、47.7〜88.9秒である。
インゴットのスライス平均速度は、400〜1200μm/分である。ウェーハ品質をさらに高めるためには、より低速な条件が好ましいが、400μm/分未満では生産性が低下し、かつワイヤ使用量が増加してコスト高を招くおそれがある。また、1200μm/分を超えれば、ワイヤに過剰な負荷が作用し、固定砥粒の磨滅や脱落が生じてインゴット切断が不可能となり、ワイヤ断線が発生し易くなる。インゴットの好ましいスライス速度は、500〜1000μm/分である。この範囲であれば、ウェーハの平坦度をより高めることができる。
【0021】
太陽電池用シリコンインゴットとしては、単結晶シリコンインゴット、多結晶シリコンインゴットを採用することができる。単結晶シリコンインゴットは、例えばチョクラルスキー(CZ)法または浮遊帯域融解(FZ)法により育成される。多結晶シリコンインゴットは、例えばシーメンス法により作製される。
特に、太陽電池用シリコンインゴットが多結晶シリコン製の場合には、結晶粒度分布が存在するため、従来法のエッチングではサイズが均一な凹凸は形成できず、ウェーハ面内で発電効率にバラツキが発生するおそれがある。しかしながら、この発明では、固定砥粒ワイヤによって機械的に直線状の凹溝を形成するので、結晶粒度分布に依存せず、ウェーハ面内で均一な発電効率が得られる。
スライス後の太陽電池用シリコンウェーハには、その表裏面に多数の直線状の凹溝が形成される。太陽電池用シリコンウェーハの裏面にも直線状の凹溝が形成されるので、太陽電池モジュール製造工程において、ウェーハ裏面にアルミニウムなどの薄膜を形成した際、薄膜との接触面積が増大し、両者の接着強度を高めることができる。なお、太陽電池モジュール製造工程における工程フローによっては、裏面側の凹溝は研磨などの平坦化処理により除去してもよい。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に記載および請求項3に記載の発明によれば、スライス時のワイヤの動作条件として、ワイヤ列の双方向への走行を採用している。そのため、太陽電池用シリコンウェーハの表裏面に多数の同方向に向う直線状の微細な凹溝が形成される。これにより、太陽電池用シリコンウェーハの受光面積が拡大し、高い光電変換効率が得られる。しかも、スライスとは別の凹凸形成工程が不要となり、シリコン系太陽電池の製造コストの低減が図れる。
また、ワイヤとして固定砥粒ワイヤを採用したので、スライス時、太陽電池用シリコンウェーハの表裏面に、固定砥粒によって直線的な筋引きが行われる。これにより、ウェーハ表裏面に多数本の粗い直線状の凹溝が形成される。それと同時に、ワイヤ表面の固定砥粒によって、さらに細かいRmaxで2〜3μm程度の直線状の溝が形成される。しかも、固定砥粒ワイヤの使用により遊離砥粒を使用したスライス時に比べて高切削効率となり、太陽電池用シリコンインゴットのスライス速度が高まる。
【0023】
請求項2に記載の発明によれば、凹溝のピッチを0.1〜5mmとし、凹溝の深さを1〜50μmとしたので、凹溝の形成による太陽電池用シリコンウェーハの強度低下を防止しながら、太陽電池用シリコンウェーハの受光面積の拡大と、高い光電変換効率とを同時に満足させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施例1に係る太陽電池用シリコンウェーハの平面図である。
【図2】この発明の実施例1に係る太陽電池用シリコンウェーハの要部拡大断面図である。
【図3】(a)は、この発明の実施例1に係る太陽電池用シリコンウェーハの製造方法で使用されるワイヤソーの使用状態の斜視図である。(b)は、図3(a)の要部拡大図である。
【図4】この発明の実施例1に係る太陽電池用シリコンウェーハの製造方法における固定砥粒ワイヤを使用した太陽電池用シリコンインゴットのスライス工程を示す要部拡大平面図である。
【図5】従来手段に係る太陽電池用シリコンウェーハの製造方法における遊離砥粒を含むスラリーを使用した太陽電池用シリコンインゴットのスライス工程を示す要部拡大平面図である。
【図6】この発明の実施例1に係る固定砥粒ワイヤを使用するワイヤソーでの双方向走行によってスライスされた太陽電池用シリコンウェーハの表面粗さプロファイルを示すグラフである。
【図7a】固定砥粒ワイヤを使用し、ワイヤの送りを双方向としてスライスした太陽光電池用シリコンウェーハの表面のサイト的な表面粗さの分布図(倍率:200倍)である。
【図7b】固定砥粒ワイヤを使用し、ワイヤの送りを双方向としてスライスした太陽光電池用シリコンウェーハの表面のサイト的な表面粗さの分布図(倍率:1000倍)である。
【図8a】遊離砥粒を含むスラリーを使用し、ワイヤの送りを一方向としてスライスした太陽光電池用シリコンウェーハの表面のサイト的な表面粗さの分布図(倍率:200倍)である。
【図8b】遊離砥粒を含むスラリーを使用し、ワイヤの送りを一方向としてスライスした太陽光電池用シリコンウェーハの表面のサイト的な表面粗さの分布図(倍率:1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例】
【0026】
図1および図2において、Wはこの発明の実施例1に係る太陽電池用シリコンウェーハで、この太陽電池用シリコンウェーハWは、太陽電池用シリコンインゴットをワイヤソーによりスライスし、PN接合および電極が形成されてシリコン系太陽電池に加工されるものである。
太陽電池用シリコンウェーハWの表裏面の全域には、同方向に向かう多数の直線状の凹溝Waが形成されている。凹溝Waのピッチaは1000μm程度、凹溝Waの深さbは5μm程度である。また、太陽電池用シリコンウェーハWの面荒れ(微細な溝群)cの程度は、1μm程度である。なお、ウェーハ表面の各凹溝Waの向き(例えばX方向)と、ウェーハ裏面の各凹溝Waの向き(X方向)とは同じである。このことは、微細な溝群である面荒れcの向きについても同様である。
【0027】
このように、太陽電池用シリコンウェーハWの表裏面全域、特に受光面となる表面全域に、ピッチが1000μm、深さが5μm程度の多数の直線状の凹溝Waを形成したので、太陽電池用シリコンウェーハWの受光面積が拡大し、高い光電変換効率が得られる。しかも、従来のようにスライスとは別の凹凸形成工程が不要となり、シリコン系太陽電池の製造コストの低減が図れる。
【0028】
次に、この発明の実施例1の太陽電池用シリコンウェーハWの製造方法を説明する。
まず、中間化合物であるトリクロロシラン(SiHCl)を水素により還元することで、多結晶シリコンを得るシーメンス法(Siemens Method)を利用した太陽電池用シリコンインゴットの製造方法を説明する。
これは、水冷したベルジャー型の反応器の中にシリコンの種棒を設置し、種棒に所定の電圧を印加して種棒を1100℃に加熱し、反応器内にトリクロロシラン(SiHCl)、還元剤の水素およびドーパントとしてのボロンガスを下方から導入する。これにより、シリコン塩化物を還元し、生成したシリコンが選択的に種棒の表面に付着することで、棒状の多結晶シリコンが気相成長させる。
次に、多結晶シリコンインゴットを、所定サイズの塊に破砕されて、太陽電池用の多結晶シリコンインゴットを鋳造する溶融原料とする。
【0029】
得られた多結晶シリコンの塊をルツボに投入し、電磁溶解連続鋳造方法により1辺の長さ160mm角の多結晶シリコンインゴットを製造する。この方法では、外周に誘導コイルが配置された導電性の無底ルツボを使用する。無底ルツボに挿入された原料シリコンは、誘導コイルの電磁誘導(15kHz、300kW)により、ルツボ内壁に非接触状態でシリコンの融点以上に加熱されて溶解する。その後、無底ルツボに原料シリコンを供給しながら、引き抜き装置により無底ルツボ内の融液を下方へ徐々に引き下げ、無底ルツボの直下に配置された徐冷装置により凝固させる。これにより、多結晶シリコンインゴットが連続的に製造される。連続鋳造された多結晶シリコンインゴットは、長さ400mm毎に切断され、研削により1辺が156mmの角柱に仕上げる。
【0030】
次に、図3を参照して、ワイヤソーを具体的に説明する。
図3(a)において、10はワイヤソーで、このワイヤソー10は、電磁溶解連続鋳造方法により鋳造された多結晶シリコンインゴットIを多数枚の多結晶シリコンからなる太陽電池用シリコンウェーハWにスライスする装置である。
【0031】
ワイヤソー10は、正面視して矩形状に配置された2本のグルーブローラ12A、12Bを有している。このうち、グルーブローラ12Aが駆動モータの回転力を伝達可能に連結された駆動側のローラ、グルーブローラ12Bが従動側のローラである。グルーブローラ12A、12B間には、1本の固定砥粒ワイヤ11aが、互いに平行かつ370μmピッチで巻き架けられている。これにより、グルーブローラ12A、12B間にワイヤ列11が現出される。
ワイヤ列11は、2本のグルーブローラ12A、12B間で駆動モータにより往復走行される。グルーブローラ12A、12Bの中間が、多結晶シリコンインゴットIを切断するワイヤ列11のインゴット切断位置a1である。
【0032】
多結晶シリコンインゴットIは、カーボンベッド19aを介して、多結晶シリコンインゴットIを昇降させる昇降台19の下面に固定されている。インゴット切断位置a1の両側の上方には、スラリーSをワイヤ列11上に連続供給するスラリーノズル30が、一対配設されている。スラリーSとしては、遊離砥粒を含まないラッピングオイル(100リットル/分)を採用している。
グルーブローラ12A、12Bは円筒形状で、これらの外周面は、ウレタンゴムからなる所定厚さのライニング材により被覆されている。各ライニング材の外周面には、ワイヤ溝12dが刻設されている(図3(b))。
【0033】
ワイヤとして外周面に多数の砥粒11bが固着された固定砥粒ワイヤ11aを使用する。具体的には、直径0.12mmのワイヤに粒径10〜25μmのダイヤモンドからなる砥粒11bを電着方式によるNiメッキにより固着させた固定砥粒ワイヤ11aを用いる。ワイヤ11aは、繰出し装置13のボビン20から導出され、供給側のガイドローラを介して、グルーブローラ12A、12Bに架け渡される。その後、導出側のガイドローラを介して、巻取り装置15のボビン21に巻き取られる。ボビン20、21の各回転軸は、駆動モータ16、17の対応する出力軸にそれぞれ連結されている。
各駆動モータ16、17を同期して駆動することで、一対の軸受18に軸支された各ボビン20、21が、その軸線を中心として図3(a)における時計回り方向または反時計回り方向に回転して、ワイヤ11aが双方向へ走行する。
【0034】
図3(a)に示すように、多結晶シリコンインゴットIのスライス時には、スラリーSを100リットル/分でスラリーノズル30よりワイヤ列11に供給しながら、駆動モータ16により繰出し装置13のボビン20を回転させる。これにより、ワイヤ11aをグルーブローラ12A、12Bに供給する。これと同時に、駆動モータ17により巻取り装置15のボビン21を回転し、グルーブローラ12A、12Bを介して、ワイヤ11aを巻き取る。
その際、一定の周期で各ボビン20、21の回転方向を変更し、ワイヤ11aを双方向へ走行させる。具体的には、固定砥粒ワイヤ11aの前進量を250m、固定砥粒ワイヤ11aの後退量を248m、前進と後退とを変更するサイクル時間を47.7秒とする。固定砥粒ワイヤ11aの送り速度は900m/分である。多結晶シリコンインゴットIのスライス速度700μm/分とする。
【0035】
ワイヤ列11の往復走行中、上方から多結晶シリコンインゴットIをワイヤ列11へ押し付ける。これにより、多結晶シリコンインゴットIが縦156mm、横120mmの矩形状を有し、かつボロン濃度が1.4×1016atoms/cm、比抵抗が1.0mΩ・cm(P形)の多数枚の太陽電池用シリコンウェーハWにスライスされる。すなわち、ワイヤ列11の往復走行時に、多数の砥粒11bがワイヤ列11の固定砥粒ワイヤ11aにより切断溝の底部に擦り付けられ、その底部が研削作用により徐々に削り取られる(図4)。
その後、太陽電池用シリコンウェーハWにPN接合を形成し、ウェーハ表裏面に電極を形成して製造される。具体的には、ウェーハ表面にリン(P)を熱拡散させてN型拡散層を形成し、その後、太陽電池用シリコンウェーハWの裏面にアルミニウムからなる裏面電極を形成するとともに、太陽電池用シリコンウェーハWの表面に銀からなる表面電極を形成する。
【0036】
このように、スライス時に、ワイヤ列11を双方向へ往復走行させて多結晶シリコンインゴットIをスライスするので、太陽電池用シリコンウェーハWの表裏面の全域に、ワイヤ列11を双方向へ走行させた際に現出する多数の同方向に向かう直線状の微細な凹溝Waが形成される。各凹溝Waは、ピッチaが1000μm、深さbが5μm程度、面荒れcが1μm程度のものである。その結果、太陽電池用シリコンウェーハWの受光面積が拡大し、高い光電変換効率が得られる。しかも、従来法のようにスライスとは別の凹凸形成工程(例えばエッチング工程)が不要となり、シリコン系太陽電池の製造コストを低減させることができる。
【0037】
また、固定砥粒ワイヤ11aを双方向へ走行させて太陽電池用シリコンインゴットIをスライスするように構成したので、遊離砥粒を含むスラリーを用いてスライスする場合に比べて、太陽電池用シリコンウェーハWの表裏面に、粗い直線状の凹溝Waを形成させることができる。すなわち、凹溝Waのピッチaが1000μm程度、凹溝Waの深さbが5μm程度である。また、太陽電池用シリコンウェーハWの面荒れcの程度は、1μm程度である。
【0038】
さらに、固定砥粒ワイヤ11aを使用するので、遊離砥粒を含むスラリーを使用したスライス時に比べて、多結晶シリコンインゴットIの切削効率が高い。そのため、多結晶シリコンインゴットIのスライス速度が速まる。これは、固定砥粒ワイヤ11aを利用したスライスの場合、砥粒11bと固定砥粒ワイヤ11aとが一体化し、スライス中の固定砥粒ワイヤ11aの移動速度と砥粒11bの移動速度とが同一になるためである。その結果、多結晶シリコンインゴットIの切断溝の全域(インゴットIの一端から他端)にわたり、均一なスライス速度が得られ、多結晶シリコンインゴットIの切削効率が高まる。これに対して、遊離砥粒11dを利用したスライスの場合、遊離砥粒11dとワイヤ11cとが一体化していないので、スライス中のワイヤ11cの移動速度(送り速度)より遊離砥粒11dの移動速度が遅くなる。その結果、多結晶シリコンインゴットIは、その切断開始端から切断終了端に向かって徐々に切断効率が低下する(図5)。
【0039】
実際に、実施例1の太陽電池用シリコンウェーハの製造方法に則り、太陽電池用シリコンインゴットをスライスした。そのときの太陽電池用シリコンウェーハの表面粗さのデータを図6に示す。
測定には、株式会社東京精密製の接触式粗さ計(Surfcom 130A)を使用した。測定条件としては、測定長が5mm、測定速度が0.3mm/s、CutOFFが0.8mmとした。
図6のグラフ中のウェーハ表面粗さプロファイルから明らかなように、遊離砥粒を含むスラリーを使用し、ワイヤを一方向へ走行させる従来法(表面粗さRmax5μm程度)に比べて、太陽電池用シリコンウェーハWの表裏面に、粗い直線状の凹溝Waが現出した。
【0040】
また、同一の太陽電池用シリコンインゴットをスライスして得られた別の太陽電池用シリコンウェーハについて、Keyence VK8500を用いて、ウェーハ表のサイト的な粗さ分布を測定した結果を図7に示す。図7aは倍率が200倍、図7bは1000倍である。これらの立体的な分布図から明らかなように、低倍率(200倍)での観察では、ワイヤ双方向の大きな凹溝(ワイヤの走行跡)を確認することができた。一方、高倍率(1000倍)では、直線的な凹溝(固定砥粒による研削跡)を確認することができた。
比較のため、固定砥粒ワイヤに代えて一般的なワイヤ(直径160μm、高張力鋼鉄線製)を使用し、同様に太陽電池用シリコンインゴットを切断して得られた太陽電池用シリコンウェーハについて、Keyence VK8500を使用し、その太陽電池用シリコンウェーハの表面粗さを測定した結果を図8に示す。なお、ここでは無砥粒のスラリーに代えて、ラッピングオイル100リットルに対して、平均粒度7〜8μmの遊離砥粒(GC砥粒)が110kg混入されたスラリーを使用する。ウェーハ表面のサイトの倍率は、図8aが200倍、図8bが1000倍である。これらの立体的な分布図から明らかなように、低倍率、高倍率の何れにおいても、太陽電池用シリコンウェーハの表面には直線的な凹溝(凹凸)は確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
この発明は、例えば発電用の太陽電池用シリコンウェーハに有用である。
【符号の説明】
【0042】
10 ワイヤソー、
11 ワイヤ列、
11a 固定砥粒ワイヤ、
11b 砥粒、
12A,12B グルーブローラ、
I 多結晶シリコンインゴット(太陽電池用シリコンインゴット)、
S スラリー、
W 太陽電池用シリコンウェーハ、
Wa 凹溝、
a ピッチ、
b 深さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PN接合および電極が形成されてシリコン系太陽電池に加工される太陽電池用シリコンウェーハにおいて、
同方向に向う多数の直線状の凹溝が、表裏面に形成された太陽電池用シリコンウェーハ。
【請求項2】
前記凹溝は、ピッチが0.1〜5mmで、深さが1〜50μmである請求項1に記載の太陽電池用シリコンウェーハ。
【請求項3】
ワイヤソーの複数本のグルーブローラ間で走行中のワイヤ列に、スラリーを供給しながら太陽電池用シリコンインゴットを押し付け、多数枚の太陽電池用シリコンウェーハをスライスにより得る太陽電池用シリコンウェーハの製造方法において、
前記ワイヤ列を構成するワイヤとして、外周面に砥粒が固定された固定砥粒ワイヤを使用し、
前記ワイヤ列を双方向に走行させながら前記太陽電池用シリコンインゴットをスライスすることで、前記各太陽電池用シリコンウェーハの表裏面に、同方向に向う多数の直線状の凹溝を形成する太陽電池用シリコンウェーハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8a】
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【図8b】
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