説明

太陽電池用ポリエステルフィルムおよびその製造方法

【課題】本発明の課題は、上記の従来技術における問題点を克服し、透明度が高く、高温・多湿な環境下で長時間使用しても機械的性質の低下が小さく、かつデラミネーションを起こし難い、太陽電池用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレートの二軸配向フィルムからなる太陽電池用ポリエステルフィルムであって、該フィルムのポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量が44,000〜61,000、かつ末端カルボキシル基濃度が6〜29当量/トンであり、該フィルムを温度85℃、湿度85%RHで3000時間エージングしたときの伸度保持率が50%以上、かつ150℃で30分間熱処理したときのフィルム長手方向および幅方向の熱収縮率がともに−0.1%〜1.5%であり、該フィルムの波長550nmでの光線透過率が80%以上、かつ引裂荷重が0.4N以上であることを特徴とする、太陽電池用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用ポリエステルフィルムに関する。さらに詳しくは、太陽電池の保護膜に好適で、苛酷な自然環境に対する優れた耐久性(とくには耐加水分解性)と、封止材や接着剤との良好な接着性を発揮するポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電システムは、クリーンエネルギーを利用する発電手段の一つとして普及が進んでいる。太陽電池モジュールの構造は、例えば特開2007−129014号公報に記載があるように、一般的には、受光側の透明前面基板と、充填材、太陽電池素子、充填材および裏面保護膜等を順に積層し、これらを真空吸引して加熱圧着するラミネーション法にて製造される。この太陽電池モジュールには、さらに、太陽電池素子から発電した電気を外部へ取り出すための配線を接続する端子ボックスや、太陽電池モジュールの強度向上のために金属フレーム等が取り付けられる。
【0003】
太陽電池モジュールの部材の裏面保護膜には、太陽電池モジュールの保護機能を有し、機械的特性に優れ、かつ耐候性、耐熱性、および耐加水分解性等の諸特性を備えていることが必要とされる。現在、太陽電池用裏面保護膜として、強度特性に優れたプラスチックシートを複数枚積層した複合シートが一般的に使用され、中でもフッ素系樹脂フィルムが広く用いられている。太陽電池モジュールの透明前面基板としてガラスを用いるのが一般的であるが、軽量化の観点からプラスチックシートへの関心も高まっており、例えばフッ素系樹脂フィルムが使用され始めている。
【0004】
しかし、フッ素系樹脂フィルムは、耐候性、耐熱性および耐加水分解性に優れるものの、ガスバリア性に乏しく、シートの腰が弱いという欠点がある。また、廃棄処理方法によっては環境負荷の懸念があることや、高コストである点も課題である。
【0005】
これに対し、特開2006−261189号公報や特開2009−188105号公報では二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの使用が提案されている。しかし、ポリエチレンテレフタレートフィルムを用いたものは、比較的安価であるが耐熱性や耐加水分解性が不十分であった。太陽電池の部材には、とりわけ耐加水分解性向上の要求が高く、これまでにも種々の提案がなされてきた。例えば、2,6−ナフタレンジカルボン酸含有のポリエステルフィルムを用いること(特開2007−007885号公報、特開2006−306910号公報)が提案されているが、これらは耐加水分解性には優れるものの紫外線による劣化変色が大きいうえに、ポリエチレンテレフタレートフィルムに比べて高価であるという問題があり、一般的な応用には至っていない。また、高分子量のポリエチレンテレフタレートフィルムを用いること(特開2002−26354号公報)、オリゴマー含有量の少ないポリエチレンテレフタレートフィルムを用いること(特開2002−100788号公報、特開2002−134770号公報、特開2002−134771号公報)が提案されているが、耐加水分解性としては従来に比べ改善するものの、太陽電池モジュールに積層したときにフィルムがデラミネーションを起こし、封止材や接着剤と接着しても剥がれやすく、内部の太陽電池素子を保護する機能が不十分であった。また、生産効率の向上が困難であるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−129014号公報
【特許文献2】特開2006−261189号公報
【特許文献3】特開2009−188105号公報
【特許文献4】特開2007−007885号公報
【特許文献5】特開2006−306910号公報
【特許文献6】特開2002−026354号公報
【特許文献7】特開2002−100788号公報
【特許文献8】特開2002−134770号公報
【特許文献9】特開2002−134771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点に注目してなされたものであり、本発明の課題は、上記の従来技術における問題点を克服し、透明度が高く、高温・多湿な環境下で長時間使用しても機械的性質の低下が小さく、かつデラミネーションを起こし難い、太陽電池用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、ポリエチレンテレフタレートの二軸配向フィルムからなる太陽電池用ポリエステルフィルムであって、該フィルムのポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量が44,000〜61,000、かつ末端カルボキシル基濃度が6〜29当量/トンであり、該フィルムを温度85℃、湿度85%RHで3000時間エージングしたときの伸度保持率が50%以上、かつ150℃で30分間熱処理したときのフィルム長手方向および幅方向の熱収縮率がともに−0.1%〜1.5%であり、該フィルムの波長550nmでの光線透過率が80%以上、かつ引裂荷重が0.4N以上であることを特徴とする、太陽電池用ポリエステルフィルムである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、透明度が高く、高温・多湿な環境下で長時間使用しても機械的性質の低下が小さく、かつデラミネーションを起こし難い、太陽電池用ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
[ポリエチレンテレフタレートの二軸配向フィルム]
本発明におけるポリエチレンテレフタレートは、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート単位であるポリエステルである。主たる繰り返し単位とはポリエステルを構成する全繰り返し単位のうち90モル%以上、好ましくは95モル%以上、特に好ましくは97モル%以上の繰り返し単位をいう。エチレンテレフタレート単位の占める割合が90モル%未満であると、フィルムの耐熱性や耐加水分解性が低下する。
【0012】
本発明におけるポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸をジカルボン酸成分とし、エチレングリコールをジオール成分としてなるが、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート単位である範囲で他の成分を共重合成分として含んでもよく、共重合成分はジカルボン酸成分でもジオール成分でもよい。
【0013】
共重合成分のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸の如き芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸の如き脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸を例示することができる。
共重合成分のジオール成分としては、ブタンジオール、ヘキサンジオールの如き脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオールを例示することができる。
【0014】
本発明においてフィルムの製造に用いるポリエチレンテレフタレートの極限粘度数は、好ましくは0.62〜0.90dl/g、さらに好ましくは0.67〜0.85dl/gである。極限粘度数が0.62dl/g未満であると、得られるフィルムのポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量を44,000以上にすることが困難であり、フィルムの耐加水分解性が劣る。他方、0.90dl/gを超えると未延伸フィルムを得るための溶融押出しが困難になる。
【0015】
なお、ポリエチレンテレフタレートの極限粘度数は、試料を重量比が6:4のフェノール:テトラクロロエタン混合溶媒に溶解後、35℃での測定値から求めた値である。
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、ポリエチレンテレフタレートの二軸配向フィルムからなる。二軸配向フィルムでないと強度が不十分である。
【0016】
[フィルムのポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量]
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、フィルムのポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量が44,000〜61,000であることが肝要である。重量平均分子量が44,000未満であるとフィルムの耐加水分解性が不十分となる。他方、61,000超えるポリエステルフィルムを作成するには、さらに高重合度のポリエステル原料が必要であり重合時間が長くなり、また、フィルムの製造工程においても原料の溶融粘度が高いために生産効率が上がらず不経済となる。
【0017】
[ポリエチレンテレフタレートの末端カルボキシル基濃度]
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、フィルムのポリエチレンテレフタレートの末端カルボキシル基濃度が6〜29当量/トン、好ましくは6〜24当量/トン、さらに好ましくは6〜20当量/トンの範囲である。末端カルボキシル基濃度が29当量/トンを超えると、フィルムの耐加水分解性が劣り、高温・多湿の条件下において長時間使用する場合にフィルムの物理的性質が低下し易い。他方、6当量/トン未満のフィルムを得るためにはそれ以上に末端カルボキシル基濃度の少ないポリエステルを原料とする必要があり、原料の重合時間が長く不経済である。
【0018】
[フィルムの耐加水分解性]
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、該フィルムを温度85℃、湿度85%RHで3000時間エージングしたときの伸度保持率が50%以上である。温度85℃、湿度85%RHの環境下において3000時間のエージングは、概ね30年間の屋外暴露状態に相当する、加水分解性の加速試験であり、上記伸度保持率が50%未満であると、耐加水分解性の不足により屋外での長期使用において劣化を引き起こし保護膜としての機能が低下する可能性がある。
伸度保持率を50%以上とするためには、フィルムのポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量および末端カルボキシル基濃度を本発明の範囲内として、後に述べる製造方法にてフィルムを製造すればよい。
【0019】
[フィルムの熱収縮率]
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、該フィルムを150℃で30分間熱処理したときのフィルム長手方向および幅方向の熱収縮率が、ともに−0.1%〜1.5%、好ましくは−0.05%〜1.2%、さらに好ましくは−0.01%〜1.0%である。フィルムの長手方向および幅方向のどちらか一方でも熱収縮率が1.5%を超えると、このフィルムを用いて太陽電池をユニット化する場合に配線が曲がったり、太陽電池素子にズレが発生したりする。
伸度保持率および熱収縮率を本発明の範囲とするためには、フィルムのポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量および末端カルボキシル基濃度を本発明の範囲内として、後に述べる製造方法にてフィルムを製造すればよい。
【0020】
[フィルムの光線透過率]
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、波長550nmでの光線透過率が80%以上、好ましくは83%以上、さらに好ましくは85%以上である。
太陽電池の電換効率において最も重要な光線は、おおよそ波長が350〜1000nmの光線であり、本発明における光線透過率は、波長550nmの光の透過率である。光線透過率が80%未満であると、太陽電池の透明前面基板や、両面受光型またはシースルー型太陽電池の裏面保護膜として使用した場合に、効率良く太陽光を入射させることができず、高い電換効率を得ることができない。
【0021】
[フィルムの引裂荷重]
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、JIS K7128に基づいて測定されるエレメンドルフ引裂荷重が0.4N以上、好ましくは0.6N以上である。エレメンドルフ引裂荷重が0.4N未満であるとフィルムの厚み方向に衝撃が伝播し易く、本発明のフィルムを太陽電池モジュールの一部材として使用した場合に、本発明のフィルムがデラミネーションを起こしやすい。フィルムがデラミネーションを起こすと、封止材や接着剤からの剥がれの原因となり、内部の太陽電池素子を保護する機能が損なわれたり、端子ボックスが脱落したりする。
【0022】
[フィルムの厚み]
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムの厚みは、例えば25〜250μm、好ましくは40〜225μm、特に好ましくは50〜200μmである。この厚みであることでモジュール製造工程でのハンドリングが容易で、高い透明性と耐加水分解性を得ることができる。
【0023】
[紫外線吸収剤]
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムの耐候性を向上させるために、フィルムのポリエチレンテレフタレート中に紫外線吸収剤を含有させることが好ましい。紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ヒンダードアミン系化合物を例示することができる。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。
紫外線吸収剤を含有させる場合、その含有量はフィルムのポリエチレンテレフタレート100重量部あたり、好ましくは0.1〜5重量部、さらに好ましくは0.2〜3重量部である。0.1重量部未満であると紫外線劣化防止効果が小さく、5重量部を超えるとポリエステルフィルムの製膜性が低下して好ましくない。
【0024】
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムに紫外線吸収剤を含有させる方法としては、例えば、ポリエステル重合工程でポリエステルに添加する方法、フィルム製膜前の溶融工程でポリエステルに練りこむ方法、二軸延伸フィルムに含浸する方法を用いることができる。ポリエステルフィルムの重量平均分子量の低下を防止する観点から、フィルム製膜前の溶融時に直接添加する方法かマスターバッチ法により行うことが好ましい。
【0025】
[添加剤]
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、表面を滑らせハンドリング性を良好にするために滑剤を含有してもよい。滑剤としては、有機物、無機物いずれを用いてもよく、無機物の滑剤としては、例えば二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素、アルミナの粒子を挙げることができる。分散性と滑り性の観点から、滑剤の平均粒径は、好ましくは0.1〜5.0μm、さらに好ましくは0.2〜4.0μmである。滑剤の粒子の形状は、板状、球状のいずれでもよい。滑剤の種類によっては、水分を吸着し易いものや配位し易いものがあり、滑剤に吸着または配位した水分がフィルムのポリエチレンテレフタレートの分子量を低下させ、耐熱性および耐加水分解性に乏しいフィルムとなることがあるため、滑剤として、吸着水や配位水の少ない構造および組成のものを用いることが好ましい。この観点から、滑剤として好ましくいものは真球状シリカである。
【0026】
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムには従来公知の添加剤を含有させてもよい。例えば酸化防止剤、耐加水分解剤、帯電防止剤、難燃剤を含有させることができる。酸化防止剤として、例えばヒンダードフェノール系化合物を、耐加水分解剤としては、例えばカルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物を例示することができる。
滑剤や添加剤は、それらを含む塗剤を、ポリエステルフィルムに塗布することで、またはポリエステルフィルム自体を多層構成としその少なくとも1層に滑剤や添加剤を含有させることで、本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムに含有させることができる。
【0027】
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、一枚で太陽電池モジュールにユニット化するか、他のフィルムや金属箔等と貼りあわせて複合シートにした後太陽電池モジュールにユニット化して使用される。一枚で使用する場合には、太陽電池用ポリエステルフィルムの上にEVA(エチレンビニルアセテート)などの封止剤の層を設け、複合シートの一部として使用する場合には、該ポリエステルフィルムの上にエポキシ系やウレタン系などの接着剤の層を設けることができる。
【0028】
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、封止樹脂や接着剤との接着性を向上させる目的で、フィルムの片面か両面に易接着性のコーティングを施してもよい。コーティングの構成材としては、ポリエステルフィルムと封止樹脂や接着剤の双方に優れた接着性を示す材であることが好ましく、例えばポリエステル樹脂やアクリル樹脂を例示することができ、さらに架橋成分を含有することが好ましい。コーティングには一般的な公知のコーティング方法を用いることができるが、好ましくは、延伸可能なポリエステルフィルムに前述のコーティングの構成成分を含む水性液を塗布した後、乾燥、延伸して、熱処理するインラインコーティング法で行う。このとき、フィルムのうえに形成された塗膜の厚さは0.01〜1μmであることが好ましい。
【0029】
[製造方法]
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、フィルムのポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量が44,000〜61,000、かつ末端カルボキシル基濃度が6〜29当量/トンである未延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを、まず二軸延伸し、つぎに、(Tm−20)〜(Tm−55)℃で5秒間以上熱固定し、そして、1.2〜3.5%の縦弛緩処理をすることで製造することができる。なお、ポリエステルの融点をTm、ガラス転移温度をTgと表記することがある。以下、製造方法を詳細に説明する。
【0030】
[ポリエチレンテレフタレートの製造]
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムを製膜する際に原料として用いるポリエチレンテレフタレートの製造方法について説明する。本発明に用いるポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールをエステル交換反応により反応させた後に重縮合反応を行う方法で製造することができる。製造過程において、発生するアルコールを除去させつつエステル交換反応を実施した後、リン酸化合物を添加して実質的にエステル交換反応を完了させ、次いで得られた反応生成物にアンチモン化合物を添加し、重縮合反応を行うことが好ましい。
【0031】
高い耐加水分解性を備える太陽電池用ポリエステルフィルムを得るためには、原料のポリエチレンテレフタレートとして、極限粘度数が高く、かつ末端カルボキシル基濃度が低いものを用いることが重要である。このポリエチレンテレフタレートは、例えば、重縮合反応により得られたポリエチレンテレフタレートにさらに固相重合を施すことで得ることができる。
【0032】
[フィルムの製造]
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、従来公知の製膜法に準拠して製造することができる。以下にその一例を示す。
まず、原料ポリエステルとして用いるポリエチレンテレフタレートを、スリットダイよりフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて未延伸フィルムとし、得られた未延伸シートを少なくとも1軸方向、好ましくは2軸方向に延伸する。延伸方法は逐次2軸延伸法でも同時2軸延伸法でもよい。
【0033】
逐次2軸延伸法の場合を例に説明すると、未延伸フィルムをロール加熱、赤外線加熱等で加熱し、長手方向に延伸して縦延伸フィルムを得る。この延伸は2個以上のロールの周速差を利用して行うのが好ましい。延伸温度はTg〜(Tg+70)℃とするのが好ましい。縦延伸後のフィルムは、続いて、横延伸、熱固定、熱弛緩の処理を順次施して二軸配向フィルムとするが、これら処理はフィルムを走行させながら行う。横延伸の処理はTgより高い温度から始める。そして(Tg+5)℃〜(Tg+70)℃に昇温しながら行う。横延伸過程での昇温は連続的でも段階的(逐次的)でもよいが、通常逐次的に昇温する。例えばテンターの横延伸ゾーンをフィルム走行方向に沿って複数に分け、ゾーン毎に所定温度の加熱媒体を流すことで昇温する。
【0034】
延伸倍率は、長手方向、長手方向と直交する方向(以降、横方向と呼ぶ)ともに、好ましくは2.8〜4.0倍、さらに好ましくは3.0〜3.8倍である。2.8倍未満とするとフィルムの厚み斑が悪くなり、4.0倍を超えるとフィルム面と平行な方向に分子の配向が高くなり引裂荷重が低くなる傾向にあり好ましくない。
【0035】
横延伸後のフィルムは、両端を把持したまま、(Tm−20)℃〜(Tm−55)℃の温度で、定幅または10%以下の幅減少下で、5秒間以上熱処理して熱収縮率を低下させると、寸法安定性がよくなる。(Tm−20)℃より高い温度で熱処理すると、引裂荷重は高くなるが、耐加水分解性が低下して好ましくない。他方、(Tm−55)℃より低い温度で熱処理すると、熱収縮率が大きくなり好ましくない。熱固定時間の上限は、生産性の観点から例えば2分間程度、好ましくは60秒間程度である。
【0036】
熱収縮量を本発明の範囲にする方法として、熱固定後、フィルム温度を常温に戻す過程で、把持しているフィルムの両端を切り落とし、フィルム長手方向の引き取り速度を調整し、長手方向に弛緩させる方法を用いることができる。この方法自体は、たとえば特開昭57−57628号公報に記載されている。弛緩させる手段としては、テンター出側のロール群の速度を調整する。弛緩させる割合として、テンターのフィルムライン速度に対してロール群の速度ダウンを行い、好ましくは1.0〜4.0%、さらに好ましくは1.2〜3.5%の速度ダウンを実施してフィルムを弛緩(この値を「弛緩率」という)して、弛緩率をコントロールすることにより、長手方向の熱収縮率を調整する。
【0037】
他の方法として、フィルムを懸垂状態で弛緩熱処理する方法などを用いても構わない。この方法は、例えば、開平1−275031号公報に示されている。また、横方向の寸法安定性を高める方法として、両端を切り落とすまでの過程で幅減少させる方法を用いることもできる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、測定および評価は以下の方法で行った。
【0039】
(1)フィルム厚み
フィルム試料をエレクトリックマイクロメーター(アンリツ製 K−402B)にて、10点厚みを測定し、平均値をフィルムの厚みとした。
【0040】
(2)極限粘度数(IV)
重量比が6:4のフェノール:テトラクロロエタン混合溶媒に試料を溶解後、35℃の温度にて測定した溶液粘度から、下式で計算した値を用いた。
ηsp/C=[η]+K[η]・C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)−1であり、Cは、溶媒100mlあたりの溶解ポリマー重量(g/100ml)、Kはハギンス定数である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。単位は[dl/g]で示す。
【0041】
(3)重量平均分子量
フィルム試料1mgにHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール):クロロホルム=1:1(体積比)0.5mlを加えて溶解(一晩)させ、測定直前にクロロホルムを9.5mlを加えて、メンブレンフィルター0.1μmでろ過しGPC分析を行った。測定機器、条件は以下のとおりである。
GPC:HLC−8020 東ソー製
検出器:UV−8010 東ソー製
カラム:TSK−gelGMHHR・M×2 東ソー製
移動相:HPLC用クロロホルム
流速:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:UV(254nm)
注入量:200μl
較正曲線用試料:ポリスチレン(Polymer Laboratories製EasiCal “PS−1”)
【0042】
(4)末端カルボキシル基濃度
試料10mgをHFIP:重クロロホルム=1:3(体積比)の混合溶媒0.5mlに溶解してイソプロピルアミンを数滴添加し、H−NMR法(50℃、600MHz)により定量した。
【0043】
(5)熱収縮率
JIS C2318に準じて、150℃、30分間の条件でフィルム試料を熱収縮させて、測定長を300mmとして下記計算式を用いて求めた。フィルム試料は幅、長さともに350mmとした。フィルム試料の長手方向および幅方向に正確に300mmの評点を5箇所ずつつけ、温度150℃に設定されたオーブン中に無荷重で入れ、30分間静置した。その後、室温に戻してからその寸法変化を読み取った。熱処理前の長さ(L0)と熱処理による寸法変化量(ΔL)より、下式に従って長手方向および幅方向の熱収縮率をそれぞれ求めた。各方向の熱収縮率はそれぞれ5箇所の評点で評価を行い、その平均値を用いた。
熱収縮率(%)=(ΔL/L0)×100
【0044】
(6)光線透過率
島津製作所(株)製分光光度計UV−3101PCを用い、JIS−K7105測定法Aに従って波長550nmの全光線透過率を測定した。
【0045】
(7)引裂荷重
東洋精機(株)製軽荷重引裂き試験機を用い、JIS K7128に基づいて測定した。下記基準により評価した。
◎:エレメンドルフ引裂荷重が0.6N以上
○:エレメンドルフ引裂荷重が0.4N以上0.6N未満
×:エレメンドルフ引裂荷重が0.4N未満
【0046】
(8)耐加水分解性
フィルムの長手方向に100mm長、幅方向に10mm幅に切り出した短冊状のフィルム試料を、温度85℃、湿度85%RHに設定した環境試験機内に3000時間放置した。その後フィルム試料を取り出しフィルム試料の長手方向の破断伸度を5回測定して平均値を求めた。引張試験は東洋ボールドウィン社製(商品名「テンシロン」)を用いて行い、チャック間距離50mm、引張速度50mm/minにて実施した。5点の平均値を放置前の破断伸度5点の平均値で割った値を破断伸度保持率(%)とし、下記基準にて耐加水分解性を評価した。なお、耐加水分解性は破断伸度保持率の高いものを良好と判断した。
破断伸度保持率(%)
=(処理時間3000時間後の破断伸度)/(処理前の破断伸度)×100
◎:保持率が70%以上
○:保持率が50%以上70%未満
×:保持率が50%未満
××:劣化が激しく、試料が破損して破断伸度を測定することができなかった。
【0047】
(9)押出性
押出性を以下の基準で評価した。
○:押出が容易である。
×:押出負荷が高く、フィルム作成に時間、コストがかかる。
【0048】
(参考例1)ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−a)
エステル交換反応容器にテレフタル酸ジメチルを100重量部、エチレングリコールを60重量部、酢酸マンガン四水塩をマンガン含有量に換算して30ミリモル%(テレフタル酸ジメチルのモル数を基準とする)仕込み、150℃に加熱して溶融し撹拌した。反応容器内温度をゆっくりと235℃まで昇温しながら反応を進め、生成するメタノールを反応容器外へ留出させた。メタノールの留出が終了したらフェニルホスホン酸を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後反応物を重合装置に移行し、重合触媒として酸化アンチモンと酢酸チタンをアンチモンとチタン含有量に換算して20ミリモル%、2ミリモル%、次いで平均粒径が1.5μmの真球状シリカ粒子0.08重量部をエチレングリコールスラリーにして添加した。その後、重合装置内の温度を235℃から290℃まで90分かけて昇温し、同時に重合装置内の圧力を大気圧から100Paまで90分かけて減圧した。重合装置の内容物の撹拌トルクが所定の値に達したら重合装置内を窒素ガスで大気圧に戻して重合を終了した。重合装置下部のバルブを開いて重合装置内部を窒素ガスで加圧し、重合の完了したポリエチレンテレフタレートをストランド状にして水中に吐出した。ストランドはカッターによってチップ化した。このようにして融点Tmが258℃、極限粘度数が0.60dl/g、末端カルボキシル基濃度が17当量/トンであるポリエチレンテレフタレートのポリマーを得た。得られたポリエステルをPET−aと称する。
【0049】
(参考例2)ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−b)
参考例1で得られたポリマー(PET−a)を150〜160℃で3時間予備乾燥した後、210℃、100トール、窒素ガス雰囲気下で5時間固相重合を行った。固相重合後の融点Tmは258℃、極限粘度数は0.72dl/g、末端カルボキシル基濃度は11当量/トンであった。これをPET−bと称する。
【0050】
(参考例3)ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−c)
参考例1で得られたポリマー(PET−a)を150〜160℃で3時間予備乾燥した後、210℃、100トール、窒素ガス雰囲気下で7時間固相重合を行った。固相重合後の融点Tmは258℃、極限粘度数は0.78dl/g、末端カルボキシル基濃度は9当量/トンであった。これをPET−cと称する。
【0051】
(参考例4)ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−d)
参考例1で得られたポリマー(PET−a)を150〜160℃で3時間予備乾燥した後、210℃、100トール、窒素ガス雰囲気下で13時間固相重合を行った。固相重合後の融点Tmは258℃、極限粘度数は0.90dl/g、末端カルボキシル基濃度は7当量/トンであった。これをPET−dと称する。
【0052】
(参考例5)ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−e)
参考例4で得られたPET−dの100重量部に紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール系の2,2’−メチレンビス(4−クミルフェニル−6−ベンゾトリアゾリル)フェノール(旭電化工業製アデカスタブLA−46、分子量659、融点210℃)を1重量部練りこみ、チップ化した。融点Tmは258℃、極限粘度数は0.76dl/g、末端カルボキシル基濃度は9当量/トンであった。これをPET−eと称する。
【0053】
(参考例6)ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−f)
参考例1で得られたポリマー(PET−a)を150〜160℃で3時間予備乾燥した後、210℃、100トール、窒素ガス雰囲気下で14時間固相重合を行った。固相重合後の融点Tmは258℃、極限粘度数は0.95dl/g、末端カルボキシル基濃度は7当量/トンであった。これをPET−fと称する。
【0054】
(参考例7)ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−g)
参考例1の真球状シリカ粒子の替わりに、ルチル型二酸化チタン粒子(平均粒径0.3μm)0.4重量部をエチレングリコールスラリーにして添加する以外は参考例1と同様に実施し、融点Tmが258℃、極限粘度数が0.60dl/g、末端カルボキシル基濃度が17当量/トンであるポリエチレンテレフタレートのポリマーを得た。得られたポリマーを150〜160℃で3時間予備乾燥した後、210℃、100トール、窒素ガス雰囲気下で12時間固相重合を行った。固相重合後の融点Tmは258℃、極限粘度数は0.87dl/g、末端カルボキシル基濃度は8当量/トンであった。これをPET−gと称する。
【0055】
[実施例1]
フィルムの原料ポリエステルとしてPET−bを回転式真空乾燥機にて180℃で3時間乾燥した後、押出し機に供給し285℃で溶融押出し、スリットダイよりシート状に成形した。さらにこのシートを表面温度20℃の冷却ドラムで冷却固化した未延伸フィルムを100℃にて長手方向(縦方向)に3.5倍延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き130℃に加熱された雰囲気中で長手に垂直な方向(横方向)に3.7倍延伸した。その後テンター内で222℃に加熱された雰囲気中で15秒間熱固定を行い、横方向に4.0%の幅入れを行い、続いて両端を切り落として長手方向に2.5%の弛緩率で弛緩した後室温まで冷やして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。
【0056】
[実施例2]
PET−bの替わりにPET−cを用い、熱固定までは実施例1と同様に実施して、熱固定の後、横方向に4.0%の幅入れを行い、続いて両端を切り落として長手方向に3.0%の弛緩率で弛緩した後、室温まで冷やして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。
【0057】
[実施例3]
PET−bの替わりにPET−cを用い、横方向の延伸までは実施例1と同様に実施して、横方向の延伸の後テンター内で235℃に加熱された雰囲気中で5秒間熱固定を行い、横方向に3.0%の幅入れを行い、続いて両端を切り落として長手方向に1.5%の弛緩率で弛緩した後、室温まで冷やして、厚み25μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。
【0058】
[実施例4]
PET−bの替わりにPET−cを用い、延伸の直前までは実施例1と同様に実施して、その後、長手方向に3.1倍、横方向に3.2倍延伸し、その後テンター内で222℃に加熱された雰囲気中で20秒間熱固定を行った後、横方向に3.0%の幅入れを行い、続いて両端を切り落として長手方向に2.0%の弛緩率で弛緩する以外は実施例1と同様にして、厚み250μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。
【0059】
[実施例5]
PET−bの替わりにPET−cを用い、溶融押出温度を295℃とする以外は実施例1と同様にして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。
【0060】
[実施例6]
PET−bの替わりにPET−cを用い、溶融押出温度を280℃、単位時間当りに押出機に供給する樹脂量を実施例1の1.25倍とする以外は実施例1と同様にして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。
【0061】
[実施例7]
PET−bの替わりにPET−dを用いる以外は実施例1と同様にして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。
【0062】
[実施例8]
PET−bの替わりにPET−eを用いる以外は実施例1と同様にして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。
【0063】
[実施例9]
PET−bの替わりにPET−cを用い、横方向の延伸までは実施例1と同様に実施し、その後テンター内で205℃に加熱された雰囲気中で15秒間熱固定を行い、横方向に4.0%の幅入れを行い、続いて両端を切り落として長手方向に3.4%の弛緩率で弛緩した後、室温まで冷やして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。
【0064】
[比較例1]
PET−bの替わりにPET−aを用いる他に実施例1と同様にして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。得られたフィルムの重量平均分子量が低く、耐加水分解性に乏しいものであった。さらに、フィルムが簡単にデラミネーションを起こし、封止材や接着剤とラミネートしても十分な接着強度が得られなった。
【0065】
[比較例2]
フィルムの厚みを変更する以外は実施例3と同様にして、厚み12μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。フィルムに腰がなく太陽電池モジュールの製造工程においてはハンドリングが困難で不向きであった。
【0066】
[比較例3]
PET−bの替わりにPET−cを用い、延伸条件として、実施例1の条件の替わりに長手方向に3.0倍、横方向に3.1倍延伸し、熱固定を行った後の幅入れを2.8%、長手方向の弛緩率を1.8%とした以外は実施例1と同様にして、厚み300μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。太陽電池モジュールの前面基板や、両面受光タイプやシースルータイプの裏面保護膜として使用するには光線透過率が低く、不向きであった。
【0067】
[比較例4]
PET−bの替わりにPET−cを用い、溶融押出温度を305℃とする以外は実施例1と同様にして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。フィルムの重量平均分子量が低く、耐加水分解性に劣るものであった。
【0068】
[比較例5]
PET−bの替わりにPET−fを用いる他は実施例1と同様にして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。溶融押出時の押出機負荷が高く、実施例1と比較して樹脂の供給量を70%に下げて製膜した。
【0069】
[比較例6]
PET−bの替わりにPET−cを用い、熱固定後の長手方向の弛緩率を1.0%とした以外は実施例1と同様にして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。長手方向の熱収縮率が高く、このフィルムを用いて太陽電池をユニット化すると内部の配線がずれ、配線同士が接触してしまった。
【0070】
[比較例7]
PET−bの替わりにPET−gを用い、熱固定後の長手方向の弛緩率を1.0%とした以外は実施例1と同様にして、厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。長手方向の熱収縮率が高く、このフィルムを用いて太陽電池をユニット化すると内部の配線がズレ、配線同士が接触してしまった。また、太陽電池モジュールの前面基板や、両面受光タイプやシースルータイプの裏面保護膜として使用するには光線透過率が低く、不向きであった。
【0071】
[比較例8]
PET−bの替わりにPET−cを用い、熱固定温度を200℃、横方向の幅入れを4.5%、長手方向の弛緩率を3.0%とした以外は実施例1と同様に実施して、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。耐加水分解性は非常に高いが、フィルムが簡単にデラミネーションを起こし、封止材や接着剤とラミネートしても十分な接着強度が得られなった。
【0072】
[比較例9]
PET−bの替わりにPET−cを用い、熱固定温度を240℃、長手方向の弛緩率を1.5%とした以外は実施例1と同様に実施して、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。耐デラミネーション性には優れるものの、耐加水分解性が低く、不向きであった。
【0073】
[比較例10]
熱固定後の長手方向の弛緩率を1.0%とした以外は実施例2と同様に実施して、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。長手方向の熱収縮率が高く、このフィルムを用いて太陽電池をユニット化すると内部の配線がずれ、配線同士が接触してしまった。
【0074】
[比較例11]
熱固定の時間を3秒とする以外は実施例2と同様に実施して、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。耐加水分解性は良好だが、フィルムが簡単にデラミネーションを起こし、封止材や接着剤とラミネートしても十分な接着強度が得られなった。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、太陽電池の構成部材として好適に用いることができる。例えば、太陽電池の前面基板や裏面保護膜として用いることができる。これらの用途に用いた場合、高透明でありながら、苛酷な自然環境に対する優れた耐久性(とくには耐加水分解性)と、封止材や接着剤との良好な接着性を発揮する。
本発明の太陽電池用ポリエステルフィルムは、高透明であり、太陽光の入射量を大きくできるため、太陽電池部材として、透明前面基板だけでなく、両面受光型やシースルー型太陽電池の裏面保護膜として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートの二軸配向フィルムからなる太陽電池用ポリエステルフィルムであって、該フィルムのポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量が44,000〜61,000、かつ末端カルボキシル基濃度が6〜29当量/トンであり、該フィルムを温度85℃、湿度85%RHで3000時間エージングしたときの伸度保持率が50%以上、かつ150℃で30分間熱処理したときのフィルム長手方向および幅方向の熱収縮率がともに−0.1%〜1.5%であり、該フィルムの波長550nmでの光線透過率が80%以上、かつ引裂荷重が0.4N以上であることを特徴とする、太陽電池用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
二軸配向フィルムがポリエチレンテレフタレート中に紫外線吸収剤を0.1〜5重量%を含有する、請求項1記載の太陽電池用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
フィルムのポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量が44,000〜61,000、かつ末端カルボキシル基濃度が6〜29当量/トンである未延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを、まず二軸延伸し、つぎに、(Tm−20)〜(Tm−55)℃で5秒間以上熱固定し、そして、1.0〜4.0%の縦弛緩処理をすることを特徴とする、太陽電池用ポリエステルフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2011−192790(P2011−192790A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57630(P2010−57630)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】