説明

太陽電池用リード線の製造方法および太陽電池用リード線

【課題】成形精度の高い太陽電池用リード線を簡単な設備で製造する。
【解決手段】溶融はんだが貯留されたはんだ貯留槽101に導体条2を浸漬したうえで、導体条2をその長手方向に沿って順次溶融はんだの液面Suから引き出す際に、液面より上方の導体条搬送路上に、はんだ貯留槽101から導体条2を引き出す方向に沿った挿通孔51aまたは挿通溝を有するダイス51を固定配置したうえで、はんだ貯留槽101に浸漬させた導体条2を、はんだ貯留槽101から引き出して挿通孔51aまたは挿通溝に挿通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用リード線に関し、特に、シリコン等からなる太陽電池パネル(ウェハ)に外部接続領域にはんだ接続されるリード線に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池用リード線(インターコネクタ)とは、太陽電池パネル(シリコン基板)と外部とを電気接続する線である。通常、隣接する一対の太陽電池パネルの一方の表面にある外部接続部位(銀メッキ領域)と、他方の裏面にある外部接続部位(銀メッキ領域)とは、当該太陽電池リード線により接続される。
【0003】
従来から、太陽電池用リード線は、横断面形状が平角状の導体をはんだ貯留槽に浸漬して引き上げることで、導体表面に溶融はんだを附着・凝固させて形成される。その際、生産効率を高めるためには、導体をはんだ貯留槽に浸漬通過させる処理を含めて処理速度(以下、線速という)を早めればよいのであるが、汎用の線速域においては、線速が早まる程、はんだ貯留槽から導体に附着して持ち出されるはんだ量が増加する。はんだ附着量の増加は、太陽電池用リード線全体の大型化や重量増加の原因となるうえに、接続に必要となる量よりも多量のはんだをリード線に設けることは、短絡の原因になる他、不要なはんだで太陽電池パネルの表面を覆うことで発電効率を低下させてしまう原因にもなる。
【0004】
そこで、溶融はんだの持ち出しを制限するために、従来からはんだ貯留槽に浮かべたフローティングダイスに導体を挿通させることで、溶融はんだの持ち出しを制御する製法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−021660号公報
【特許文献2】特開2002−263880号公報
【特許文献3】特開2010−095750号公報
【特許文献4】特開2010−016320号公報
【特許文献5】特開2010−027867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、生産効率の向上を図るために、線速をさらに高速化すると、溶融はんだの液面に浪打現象が生じる。浪打現象とは、平角導体条が液面を高速に通過することで、その影響を受けて液面にランダムに波が発生する現象である。浪打現象が生じると、その運動モーメントを受けたフローティングダイスがはんだ液面上で微少回転し、これによって、導体引き上げ時における本来のダイス位置から外れた位置への回転移動し(以下、このような回転移動をダイス回転ズレという)、これによってはんだ層の形成精度が低下してしまう。
【0007】
本発明は、このような実情に着目してなされたものであって、形成精度の高い太陽電池用リード線を生産効率よく製造することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
まず、平角導体条のはんだ付け工程において、ダイス回転ズレについて検証する。導体条としては、平角導体条の他に、従来から円柱型導体条も汎用されている。軸心に対して回転体となる円柱型導体条では、ダイスとの間で軸心が相互にずれなければ、周方向の位置合わせを厳密に行う必要がない。つまり、ダイス回転ズレはそれほど問題とはならない。しかしながら、搬送中の円柱型導体条にはんだ付け等の作業をする際には、その形状的特徴(主として回転体であること)から円柱型導体条が軸心をずらして位置ズレすることがある。以下、このような軸心のズレを伴う導体条の位置ズレを、導体条軸心ズレという。はんだの液面に浮遊するフローティングダイスは、このような導体条軸心ズレに追随して液面を移動可能であるために導体条軸心ズレに対しては、比較的有効にそのずれを吸収することができる。
【0009】
これに対して、平角導体条では、その形状的特徴(主として非回転体であること)から、円柱型導体条に比べて導体条軸心ズレは生じにくいものの、ダイス回転ズレが生じると、はんだ層の成形精度が低下してしまう。ここでいう成形精度の低下とは、平角導体条に対するはんだ層の周方向の位置ズレに起因する成形精度の低下を示している。比較的低速の線速で、平角導体条を搬送しながらはんだ付けを行う際には、上述した浪打現象は大きく生じず、したがってダイス回転ズレの影響は小さい。しかしながら、生産効率を上げるために線速を上げることで浪打現象が大きくなる(波高が高くなる)と、その運動モーメントを受けたフローティングダイスで大きくダイス回転ズレが生じて、はんだ層の形成精度が低下する。
【0010】
以上のことから明らかなように、線速を高めて平角導体条にはんだ層を形成する際においては、ダイス回転ズレを抑制して周方向におけるダイスと導体条との位置合わせを厳密に行う必要がある。しかしながら、従来のダイス構造(フローティングダイス)では、ダイス回転ズレを抑制することは困難であった。
【0011】
このような課題を解決するために、本発明の太陽電池用リード線の製造方法は、
対向する両面に接続面を有する導体条と、前記接続面それぞれに設けられたはんだ層とを備えた太陽電池用リード線の製造方法であって、
前記導体条を用意する第1の工程と、
溶融はんだが貯留されたはんだ貯留槽に前記導体条を浸漬したうえで、前記導体条をその長手方向に沿って順次前記溶融はんだの液面から引き出す第2の工程と、
を含み、
前記第2の工程では、前記液面より上方の導体条搬送路上に、前記導体条搬送路に沿った挿通孔または挿通溝を有するダイスを固定配置したうえで、前記はんだ貯留槽に浸漬させた前記導体条を、前記はんだ貯留槽から引き出して前記挿通孔または挿通溝に挿通させる。
【0012】
本発明によれば、導体条搬送路上に固定配置したダイスの挿通孔または挿通溝に前記導体条を挿通させることになるので、導体条搬送路に沿って搬送される導体条と挿通孔または挿通溝との間の相対的な位置ずれが生じなくなる。特に、ダイス回転ずれは、構造的に全く生じなくなる。そのため、導体条がダイスを挿通することによって導体条から除去されるはんだの量が安定するとともに、はんだ層の形状が一定化する。特に、導体条に対するはんだ層の回転方向の位置合わせ精度が向上する。これにより太陽電池用リード線の成形精度が向上する。
【0013】
なお、前記液面から前記導体条を引き出す方向は、前記液面の垂直方向であるのが好ましい。この方法では、挿通孔または挿通溝の下端が、液面と平行な方向(水平方向)に沿って配置されることになるので、挿通孔または挿通溝を挿通することで導体条から削ぎ落とされるはんだは、挿通孔または挿通溝の下端から四方に分散放出されるようになる。削ぎ落とされたはんだの放出方向が四方に分散することで、太陽電池用リード線の成形精度(特にはんだ厚み精度)がさらに向上する。
【0014】
本発明には、
前記第2の工程では、予め前記はんだ貯留槽内に、前記導体条と係合して前記導体条の向きを前記液面から前記導体条を引き出す方向に変更するターンロールを固定配置し、かつ前記方向に沿って前記液面を挟んで前記ターンロールと対向する位置に前記ダイスを配置し、かつ前記ダイスと前記ターンロールとを連結することで前記ダイスを固定配置したうえで、前記導体条の長手方向に沿って前記はんだ貯留槽内に引き入れた前記導体条を、前記ターンロールに係合させてその向きを前記方向に変更して前記はんだ貯留槽から引き出し、引き出した前記導体条を前記挿通孔または挿通溝に挿通させる、
という態様がある。
【0015】
上述した本発明の基本構成においては、太陽電池用リード線の成形精度(具体的にははんだ成形精度)を高めるためには、液面から導体条を引き出す方向に沿って、ダイスを正確に配置する必要がある。例えば、0.2mm程度の厚みを有する導体条の接続面に、20μm程度の厚みのはんだを形成する場合、ダイスの取り付けには非常に高い精度が要求される。ここで注目すべきことは、はんだ成形精度の向上において必要となるのは、導体条搬送路においてダイスの直前に位置して搬送路の位置を規定するターンロールに対するダイスの相対的な位置決め精度である、という点である。本態様ではこのことに着目して、ダイスとターンロールとを連結するという比較的簡単な構造改良を加えることで、導体条搬送路におけるダイスの位置決め精度を十分に高く確保している。これにより、はんだ層の成形精度が格段に向上する。
【0016】
なお、搬送路においてダイスよりさらに先側には、はんだ層付き導体条(完成した太陽電池用リード線)の向きをリード線巻き取り装置側に変更させる上部ロールが設けられるものもある。このような構成においてはんだ成形精度を高めるためには、上部ロールとダイスとの間の相対的な位置合わせにも配慮する必要があるとも考えられる。しかしながら、0.2mm程度の厚みを有する導体条の接続面に、20μm程度の厚みのはんだを形成する場合、ターンロールとダイスとの離間距離は100mm程度であるのに対して、ダイスと上部ロールとの離間距離(はんだの冷却期間を規定する)は、2500mm程度となり、前者は後者に比して極端に短い。例えば、ターンロールとダイス間の距離Aと、ターンロールと上部ロール間の距離Bとの間の比率(A/B)は、1/20〜1/50程度であることが好ましいとされ、より好ましいのは、1/20〜1/30とされている。これは、比率(A/B)が1/20以上になる(Bが20より小さくなる)と、軸合わせが困難になる傾向になり、1/50より小さくなる(Bが50を超える)と、装置の大型化を招くおそれがあるためである。なお、ここでいう距離とは、はんだ液面の垂直方向に沿った距離である。
【0017】
本態様は、このことに着目し、ターンロールとダイスとを連結するという必要最小限の構造改変を装置に加えることで最大の効果(はんだ層成形精度の向上)を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明によれば、形成精度の高い太陽電池用リード線を生産効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の太陽電池用リード線の構成を示す斜視図である。
【図2】実施の形態の太陽電池用リード線の製造方法における平角導体条製造工程の各段階をそれぞれ示す図群である。
【図3】実施の形態の太陽電池用リード線の製造方法に用いる太陽電池用リード線の製造装置の構成を示す図である。
【図4】実施の形態の太陽電池用リード線の製造方法に用いる太陽電池用リード線の製造装置の要部を示す横断断面図である。
【図5】実施の形態の太陽電池用リード線の製造方法に用いる太陽電池用リード線の製造装置の要部を示す縦断断面図である。
【図6】実施の形態の太陽電池用リード線の製造方法に用いる太陽電池用リード線の製造装置の要部を示す斜視図である。
【図7】実施の形態の太陽電池用リード線の製造方法に用いる太陽電池用リード線の製造装置の要部を示す分解斜視図である。
【図8】実施の形態の太陽電池用リード線の製造方法における挿通孔と平角導体条との間の隙間の好ましい状態の説明に供する図である。
【図9】実施の形態の太陽電池用リード線の製造方法における挿通溝を有するダイスと平角導体条との間の隙間の好ましい状態の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示すように、本実施の形態の太陽電池用リード線1は、長矩形状の断面形状を有する平角導体条2を備える。平角導体条2は例えば銅または銅合金から構成される。また、平角導体条2は、必要に応じて、その条の0.2%耐力を熱処理などで調整したもの(例えば、0.2%耐力を20〜65MPaという低耐力にしたもの)を適用しても良い。平角導体条2は一対の長辺側対向面と一対の短辺側対向面とを有し、長辺側対向面が接続面2a、2aとなっている。接続面2a、2aそれぞれには、はんだ層3、3が設けられている。はんだ層3、3は、平角導体条2より厚みが薄いものの、平角導体条2と同幅となっており、接続面2a、2aを覆っている。
【0021】
このような形状を有する太陽電池用リード線1では、はんだ層3、3の上面が平坦面となっているために、太陽電池用リード線1を太陽電池パネルに接続する際に、太陽電池用リード線1がパネル表面に密着して正確な位置決めが可能となる。
【0022】
次に本実施形態の太陽電池用リード線1の製造方法を説明する。ここでは、接続面2a、2aの幅Wが0.5〜4.0mm(好ましくは1.0〜2.0mm)、厚みTが0.1〜0.3mm(好ましくは0.15〜0.20mm)の大きさを有する太陽電池用リード線1を例にして本実施形態の太陽電池用リード線1の製造方法を説明する。
【0023】
製法は、平角導体条製造工程(第1の工程)と、はんだ層形成工程(第2の工程)とを含む。
【0024】
<平角導体条製造工程>
図2(a)に示すように、銅(タフビッチ銅、無酸素銅)アルミニウム等の導電体からなる直径3.0mm程度の丸形導線(軸線方向に対して、垂直な横断面が円形状の導体)10を用意する。丸形導体10は、周知のどのような方法で作製してもよい。次に、図2(b)に示すように、丸形導体10を丸径ダイス11を用いて伸線加工することで直径0.5mm程度まで縮径する。これにより、断面略円形の丸形導体12を形成する。また、図示はしないが、上記伸線加工の間、及び/又は、上記伸線加工後に熱処理工程を加えてもよい。次に図2(c)に示すように、圧延ローラ13を用いて丸形導体12を圧延処理する(押し潰す)ことで、トラック状の平角導体条2を形成する。また、図示はしないが、必要に応じて、上記圧延処理後に熱処理工程を設けてもよい。ここで、トラック状とは、図2(d)に示すように、圧延処理により互いに平行となった一対の平坦な長辺側対向面2a’、2a’の両側に設けられた円弧状の短辺側対向面2b、2bとを有する形状をいう。
【0025】
<はんだ層形成工程>
この工程では、図3に示す太陽電池用リード線製造装置100を用いる。太陽電池用リード線製造装置100は、長方形断面を有する平角導体条2にはんだ層3を形成するものである。太陽電池用リード線製造装置100を用いてはんだ層3を形成する材料(平角導体条2)としては、例えば、タフピッチ銅や、無酸素銅が挙げられるが、これらに限られるものではなく、各種材料からなる平角導体条2にはんだ層3を形成することが可能である。また、平角導体条2の断面寸法は、上述したように、例えば、2.0mm×0.2mm程度であるが、これに限られるものではない。はんだ層3が形成された平角導体条2は、例えば、太陽電池に用いられるシリコンセル同士を繋ぐ太陽電池用リード線1として使用される。
【0026】
太陽電池用リード線製造装置100は、はんだ貯留槽101と、供給装置102と、搬送機構103と、ダイス装置104と、巻き取り装置105とを備えている。太陽電池用リード線製造装置100では、巻き取り装置105が供給装置102から平角導体条2を引き出して巻き取る。巻き取りに際して搬送機構103は、搬送途中の平角導体条2を所定の搬送路に沿って搬送したうえで、巻き取り装置105に引き入れる。
【0027】
次に搬送機構103による平角導体条2の搬送路を説明する。搬送路においては、平角導体条2が、供給装置102からはんだ貯留槽3に引き入れられてさらに引き出されることで、平角導体条2には、はんだ貯留槽101に貯留されている溶融はんだが付着する。さらには、平角導体条2がはんだ貯留槽101から引き出される際に、平角導体条2に付着している余分な溶融はんだがダイス装置104によって除去されることで、所望量のはんだが平角導体条2に付着、凝固して所望厚さのはんだ層3として形成され、平角導体条2(太陽電池用リード線1)は搬送機構103によってさらに搬送されて、巻き取り装置105(具体的には、巻き取り装置105が有する巻き取りロール45a)に巻き取られる。
【0028】
以下、各装置の詳細を説明する。はんだ貯留槽101は、溶融温度以上に加熱されたはんだ(Sn−Pb合金等)が貯留されるようになっている。はんだ貯留槽101には、はんだを上記温度に加熱する加熱装置(図示せず)が設けられている。上記はんだは、Sn−Ag−Cu系の鉛フリーはんだを用いてもよい。
【0029】
供給装置102は、導体条供給スタンド41を備えている。導体供給スタンド41には、水平軸周りに回転する導体条収納ロール41aが設けられており、このロール41aには、はんだ層未形成状態の平角導体条2が巻き付けられている。
【0030】
搬送機構103は、供給ロール42と、ターンロール43と、上部ロール44とを備えている。これらローラ42、43、44は、周面に搬送案内溝が形成された円盤状のローラ形状を有している。供給ロール42は、導体条収納ロール41aの上方に位置し、水平軸周りに回転するように図示しない支持台に支持されている。ターンロール43は、はんだ貯留槽101内においてはんだSの液面Suよりも下側に設けられており、回転不能にはんだ貯留槽3内で支持されている。上部ロール44は、ターンロール43の直上方において液面Suより上方に位置し、水平軸周りに回転するように図示しない支持台に支持されている。
【0031】
巻き取り装置105は、水平軸周りに回転するように支持された巻き取りロール45aと、巻き取りロール45aを駆動する駆動装置45bとを有している。駆動装置45bは、巻き取りロール45aの回転速度を変更することができるようになっており、巻き取りロール45aの回転速度を変更することで、平角導体条2の送り速度を任意に変更することが可能となっている。なお、供給装置102には、平角導体条2をはんだ貯留槽3の溶融はんだ内に通過させる前に予熱する予熱装置が備えられていてもよい。
【0032】
全てのロール41a、42、43、44、45aは、軸心を水平にした状態で同一の垂直面上に配置されており、1本の平角導体条2を巻き掛けた状態で順次搬送することが可能となっている。具体的には、導体条収納ロール41aに巻回された平角導体条2は、供給ロール42を介して上方に向けて引き出される。導体条収納ロール41aから引出された平角導体条2は、供給ロール42によってその向きが斜め下方に変えられてはんだ貯留槽101に引き込まれる。はんだ貯留槽101に引き込まれた平角導体条2は、ターンロール43によってその向きが上方に変えられてはんだ貯留槽101から引き出される。はんだ貯留槽101から引き出された平角導体条2は、上部ロール44によってその向きが斜め下方に変えられて巻き取りロール45aに巻き取られる。
【0033】
なお、上部ロール44の位置は、平角導体条2の表面に付着したはんだ層3が、上部ロール44に到達する前に完全に冷却して固化するように、はんだ貯留槽3の液面Suから上方へ十分に離れた位置とされている。
【0034】
次にダイス装置104を説明するが、その前にターンロール43の取り付け構造を説明する。ターンロール43は、図4、図5に示すように、連結棒55と固定枠56とを介してはんだ貯留槽101外部の昇降装置に取り付けられている。なお、図1においては、昇降装置と固定枠56とを連結する連結バー60は図示されるものの、昇降装置本体は図示省略されている。ターンロール43は、昇降装置によってはんだ貯留槽101に搬入/搬出されるようになっている。
【0035】
固定枠56は、平面視、コの字状の二股板形状を有しており、中央の連結部56aと両先端56b、56bとを有している。両先端56b、56bは、互いに左右に向き合った状態で水平方向に延出しており、この状態で連結部56aが溶接等によって連結バー60に連結されている。
【0036】
連結棒55はターンロール43を回転不能に軸支している。なお、本実施の形態では、連結棒55は、偏心状態でターンロール43を軸支してもよいし、またターンロール43は回転可能な構造でも構わない。軸心位置でターンロール43を軸支してもよい。ターンロール43を軸支した連結棒55の両端それぞれが固定枠56の両先端に支持されており、これによりターンロール43は、連結棒55と固定枠56とを介して連結バー60に連結固定されている。
【0037】
ダイス装置104は、図4〜図7に示すように、ダイス51と、ダイスホルダ52と、ダイス治具53と、一対の連結板54、54とを備えている。連結板54、54の一端54aは、連結棒55の端部それぞれに固定連結されている。連結棒55はこの状態で上方に延出しており、連結板54、54の他端54bそれぞれは、はんだ貯留槽3の液面Suより上方に突出している。
【0038】
ダイス治具53は、図6等に示すように、上端が開放されたボックス形状を有しており、両連結板54、54の他端54b、54bの間に配置された状態で、他端54b、54bそれぞれにネジ止め固定されている。ダイスホルダ52は、図7に示すように、下側ホルダ52aと上側ホルダ52bとを備えており、ダイス51を挟んだ状態で下側ホルダ52aと上側ホルダ52bとがネジ連結されることで、ダイス51を水平状態に保持する。ダイス51は、板形状をしており、その厚み方向(ダイスホルダ52に保持された状態で上下方向(平角導体条2の引き出し方向)となる方向)に沿って挿通孔51aが形成されている。挿通孔51aは、平角導体条2の断面形状より一回り大きい孔形状を有しており、平角導体条2がはんだ貯留槽101から引き出される方向(搬送路)に沿ってダイス51に穿たれている。はんだ貯留槽101から引き出されたはんだ付着状態の平角導体条2が挿通孔51aを挿通することで、余分なはんだが平角導体条2から削ぎ落とされるようになっている。はんだの削ぎ落とし量(換言すれば平角導体条2の付着はんだ量)は、挿通孔51aの大きさを変更することで調整可能である。平角導体条2と挿通孔51との間に形成される隙間は、以下の状態であるのが好ましい。すなわち、図8に示すように、挿通孔51aと平角導体条2との間における、導体条厚さ方向の隙間αと導体条幅方向の隙間βとの間には、10×α≦β≦25×αの関係式が成立するのが好ましい。この関係式は、隙間βが10×αより小さい(10×α>β)と余分な溶融はんだを除去する効果が低下する傾向にある一方、隙間βが25×βを超えても(β>25×α)、余分な溶融はんだを除去する効果が著しく向上しないことに因って成立している。
【0039】
次に、図9を参照して、挿通溝51bを形成したダイス51’と平角導体条2との間の関係について説明する。平角導体条2と挿通溝51bとの間に形成される隙間α’、β’についても説明する。ダイス51’の溝内側面と、溝内側面に対向する平角導体条2との間の隙間α’、β’の形状(特に大きさ)は、上記した挿通孔51aと平角導体条2との間に形成される隙間α、βと同じになる。平角導体条2と対向する面がない溝51bの箇所(開放部)γは、非常に薄い平角導体条2の短辺側(厚さ)と対向する位置に設けられているので、この箇所(開放部)γにおいて、余分に平角導体条2に付着してはんだ貯留槽101から持ち出される溶融はんだはほとんどない。そのため、この箇所(開放部)γのダイス51a’に壁を設けて、余分なはんだを除去する必要はほとんど無い。なお、挿通溝51bを有するダイス51’を使用する場合、ダイスホルダ52の形状は適宜変更すればよい。
【0040】
下側ホルダ52aと上側ホルダ52bとには、ダイス51の挿通孔51aを挿通する平角導体条2をさらに挿通させる挿通開口52c、52dが形成されている。挿通開口52c、52dは、挿通孔51aより十分に大きい大きさを有している。
【0041】
ダイス51を収納保持したダイスホルダ52は、ダイス治具53の上部開口からダイス治具53に収納される。この状態で、ダイス治具53に螺着されている固定ネジ57が締め付けられることによってダイスホルダ52はダイス治具53の内壁面に押し付けられて固定される。このとき、ダイスホルダ52に保持されたダイス51は、平角導体条2がはんだ貯留槽101から引出される方向(搬送路)に沿って挿通孔51aが位置する状態で固定される。
【0042】
なお、ダイス治具53の底面には切欠53aが形成されている。切欠53aは、挿通孔51aと挿通孔52c、52dとを挿通した平角導体条2がさらにダイス治具53の底面を挿通するために設けられている。このようにしてダイス51は、はんだ貯留槽101内において、はんだの液面Suより若干上方位置において、水平状態で搬送路上で固定配置される。ダイス51が水平状態で保持されることで、ダイス51の挿通孔51aは垂直方向(平角導体条2の引き出し方向、すなわち、搬送路)に沿うことになる。ここで、ダイス51とはんだの液面Suとの離間距離xは、0mm<x≦25mmが適当であり、より好適には、0mm<x≦10mmである。
【0043】
次に、上記のように構成された太陽電池用リード線製造装置100を用いて平角導体条2の表面にはんだ層3を形成するめっき方法について説明する。まず、巻き取り装置105の駆動装置45bを作動させ、巻き取りロール45aを回転させる。巻き取りロール45aの回転により、線材供給スタンド41のロール41aに巻かれている平角導体条2が、導体条の搬送路に沿って供給ロール42に向かって送り出される。
【0044】
供給ロール42に達した平角導体条2の送り方向(搬送路)は、供給ロール42とターンロール43とにより、はんだ貯留槽101内へ向かう方向となり、こうして送られた平角導体条2は、やがてはんだ貯留槽101内の溶融はんだに入っていく。
【0045】
ターンロール43を経た平角導体条2は、その送り方向が鉛直上向きとなる。はんだ貯留槽101の液面Suより若干上方には、ターンロール43に連結された状態でダイス51が搬送路上に固定配置されており、ターンロール43を経た平角導体条2は、ダイス51に形成された挿通孔51aを通過することで、平角導体条2の表面に付着した余分な溶融はんだが除去される。
【0046】
ダイス51を通過することで余分な溶融はんだが除去されたはんだ付きの平角導体条2(太陽電池用リード線1)は、上部ロール44に向けて搬送される途中で空冷冷却により凝固してはんだ層3が形成される。はんだ層3が形成された平角導体条2(太陽電池用リード線1)は、上部ロール44を経て巻き取りロール45aに巻き取られる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の太陽電池用リード線製造装置100を用いれば、めっき厚の均一性が良く、品質の高いめっき処理が施された太陽電池用リード線1を作ることができる。ここでいうめっき厚の均一性が良い状態とは、具体的には、長手方向のはんだ層3の厚みの均一性が高く、平角導体条2の表裏でのはんだ層3の厚さの比が小さい状態をいう。
【0048】
本実施の形態では、ターンロール43に連結されて固定配置されたダイス51の挿通孔51aに平角導体条2を挿通させるので、平角導体条2と挿通孔51aとの間の相対位置が一定化して、搬送路に沿って搬送される平角導体条2と挿通孔51aとの間の相対的な位置ずれが生じなくなる。特に、ダイス回転ずれが、構造的に全く生じなくなる。これにより、ダイス51を挿通することによって平角導体条2から除去されるはんだの量が安定し(形成されるはんだ層3の厚みが均一となり)、太陽電池用リード線1の成形精度が向上する。特にはんだ層3の周方向の位置ズレが減少する。
【0049】
また平角導体条2の引き出し方向(搬送路)が液面Suの垂直方向となるので、挿通孔51aの下端が、液面Suと平行な方向(水平方向)に沿って配置されることになる。挿通孔51aを挿通することで平角導体条2から除去される溶融はんだは、挿通孔51aの下端から四方に分散して平角導体条2とダイス51との間の隙間から放出されるようになる。除去された溶融はんだの放出方向が四方に分散することで、太陽電池用リード線1の成形精度(特にはんだ層3の厚み精度)がさらに向上する。
【0050】
はんだ層3の成形精度を高めるためには、平角導体条2の引き出し方向に沿って、ダイス51を正確に配置する必要がある。本実施の形態のように、0.2mm程度の厚みを有する平角導体条2の接続面2aに、20μm程度の厚みのはんだを形成する場合、ダイス51の取り付けには非常に高い精度が要求される。はんだ成形精度の向上において必要となるのは、ターンロール43に対するダイス51の相対的な位置決め精度である。これは、ターンロール43は、ダイス51に最も近接する位置において平角導体条2の搬送路の位置を規定する部材であることに因っている。本実施の形態では、このことに着目して、ダイス51とターンロール43とを、ダイス装置104(連結板54、ダイス治具53、ダイスホルダ52)を介して連結するという、比較的簡単な構造改良を加えることで、搬送路におけるダイス51の相対的な位置決め精度を確保している。これにより、はんだ層3の成形精度がさらに向上する。
【0051】
ダイス51より平角導体条2の引き出し方向(搬送路)に沿ってさらに先側には上部ロール44が設けられている。はんだ層3の成形精度を高めるためには、上部ロール44とダイス51との間の相対的な位置合わせにも配慮する必要がある。このような考えに基づいてダイス51を上部ロール44に連結してもよい。ただし、0.2mm程度の厚みを有する平角導体条2の接続面2aに、20μm程度の厚みのはんだ層3を形成する場合、ターンロール43とダイス51との離間距離は100mm程度であるのに対して、ダイス51と上部ロール44との離間距離は、2500mm程度であって、前者は後者に比して極端に短い。このことに着目し、ターンロール43とダイス51とを連結すれば、必要最小限の構造改変を装置に加えることで最大の効果(はんだ層3の成形精度の向上)を得ることができる。
【0052】
なお、本発明の実施形態では、線材に平角導体条2を用いているが、断面形状が円形状の導線を用いてもよい。また、線材の材質は銅以外でもよい。
【0053】
また、本発明に係る装置及び方法は、各種めっき材料を加熱溶融状態にして各種線材に付着させ、被覆層(はんだ層3)を形成する場合全般に用いることができるものである。
【0054】
また、搬送機構103では、線材供給スタンド41から巻き取り装置105までの間に3つのロール(供給ロール42、ターンロール43、上部ロール44)を有し、この3つのロールにより、平角導体条2及び太陽電池用リード線1の送り方向を変更しているが、ロールの数は3つに限定されるものではない。さらに、上記のロールは、表面抵抗が少なく、回転しない固定棒であってもよい。
【0055】
加えて、図3では、線材供給スタンド41から平角導体条2を供給する態様で、製造工程を説明したが、これに限らず、例えば、丸形導体10から伸線加工、圧延加工を経て、平角導体条2を作製し、引き続き(直ちに)、平角導体条2をはんだ貯留槽101に浸漬、ターンロール43で方向転換、引き上げ、ダイス装置104、上部ロール44(搬送機構103)を経て、巻き取り装置105で太陽電池用リード線を製造する工程を採用してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1 太陽電池用リード線
2 平角導体条
2a 接続面
2a’ 長辺側対向面
2b 短辺側対向面
3 はんだ層
10 丸形導体
11 丸径ダイス
12 丸形導体
13 圧延ローラ
41 導体条供給スタンド
41a 導体条収納ロール
42 供給ロール
43 ターンロール
44 上部ロール
45a 巻き取りロール
45b 駆動装置
51 ダイス
51a 挿通孔
52 ダイスホルダ
52a 下側ホルダ
52b 上側ホルダ
52c、52d 挿通開口
53 ダイス治具
53a 切欠
54 連結板
54a 連結板の一端
54b 連結板の他端
55 連結棒
56 固定枠
56a 固定枠の連結部
56b 固定枠の先端
57 固定ネジ
100 太陽電池用リード線製造装置
101 はんだ貯留槽
101a 内壁面
102 供給装置
103 搬送機構
104 ダイス装置
105 巻き取り装置
T はんだ層の厚み
W 接続層の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する両面に接続面を有する導体条と、前記接続面それぞれに設けられたはんだ層とを備えた太陽電池用リード線の製造方法であって、
前記導体条を用意する第1の工程と、
溶融はんだが貯留されたはんだ貯留槽に前記導体条を浸漬したうえで、前記導体条をその長手方向に沿って順次前記溶融はんだの液面から引き出す第2の工程と、
を含み、
前記第2の工程では、前記液面より上方の導体条搬送路上に、前記導体条搬送路に沿った挿通孔または挿通溝を有するダイスを固定配置したうえで、前記はんだ貯留槽に浸漬させた前記導体条を、前記はんだ貯留槽から引き出して前記挿通孔または挿通溝に挿通させる、
ことを特徴とする太陽電池用リード線の製造方法。
【請求項2】
前記液面から前記導体条を引き出す方向は、前記液面の垂直方向である、
ことを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用リード線の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程では、予め前記はんだ貯留槽内に、前記導体条と係合して前記導体条の向きを前記液面から前記導体条を引き出す方向に変更するターンロールを固定配置し、かつ前記方向に沿って前記液面を挟んで前記ターンロールと対向する位置に前記ダイスを配置し、かつ前記ダイスと前記ターンロールとを連結することで前記ダイスを固定配置したうえで、前記導体条の長手方向に沿って前記はんだ貯留槽内に引き入れた前記導体条を、前記ターンロールに係合させてその向きを前記方向に変更して前記はんだ貯留槽から引き出し、引き出した前記導体条を前記挿通孔または挿通溝に挿通させる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の太陽電池用リード線の製造方法。
【請求項4】
対向する両面に接続面を有する導体条と、前記接続面それぞれに設けられたはんだ層とを備えた太陽電池用リード線の製造装置であって、
前記導体条の供給装置と、
前記導体条を前記供給装置から引き出して巻き取る巻き取り装置と、
溶融状態のはんだを貯留するはんだ貯留槽と、
前記供給装置から引き出された前記導体条を前記はんだ貯留槽に引き入れたうえで引き出し、さらに前記はんだ貯留槽から引き出した前記導体条を前記巻き取り装置に導く搬送機構と、
前記はんだ貯留槽から引き出した前記導体条を挿通させることで余分なはんだを前記導体条から削ぎ落とす挿通孔または挿通溝を有するダイスと、
を備え、
前記はんだ層の液面より上方の導体条搬送路上に前記挿通孔または挿通溝を沿わせた状態で、前記ダイスを固定配置する、
ことを特徴とする太陽電池用リード線の製造装置。
【請求項5】
前記液面から前記導体条を引き出す方向は、前記液面の垂直方向である、
ことを特徴とする請求項4に記載の太陽電池用リード線の製造装置。
【請求項6】
前記搬送機構は、前記はんだ貯留槽内に固定配置されて、前記導体条と係合して前記導体条の向きを前記液面から前記導体条を引き出す方向に変更するターンロールを備え、
前記方向に沿って前記液面を挟んで前記ターンロールと対向する位置に前記ダイスを配置し、かつ前記ダイスと前記ターンロールとを連結することで前記ダイスを固定配置する、
ことを特徴とする請求項4または5に記載の太陽電池用リード線の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−188686(P2012−188686A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51168(P2011−51168)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000003263)三菱電線工業株式会社 (734)
【Fターム(参考)】