説明

太陽電池用リード線の製造方法及び設備

【課題】0.2%耐力の低減処理がメッキ処理のための予熱処理を兼ねた太陽電池用リード線の製造方法及び設備を提供する。
【解決手段】太陽電池用リード線の製造設備は、メッキ槽32中に設けたターン用搬送ロール11、メッキ槽32よりも上流に設けた送り出し用搬送ロール12及びメッキ槽32よりも下流に設けた引上げ用搬送ロール13によって搬送経路に沿って線条の基材wを搬送する搬送機構10と、搬送機構10によって搬送される線条の基材wのうち、送り出し用搬送ロール12とターン用搬送ロール11との間の部分を加熱する加熱部20と、給電部20及び搬送機構10を制御する制御部40とを備える。制御部40が搬送機構10による基材wの搬送速度と加熱部20からの通電量を制御することで、搬送機構10で搬送される線条の基材wを給電部20からの通電により0.2%耐力を低減し、予熱状態のままでメッキ液に浸漬しメッキ処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用リード線の製造方法及びその製造に用いる設備に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールは、複数の太陽電池セルがリード線により連結して構成されている。リード線はインターコネクタとも呼ばれており、例えば平角線条の基材に半田メッキしたものである。
【0003】
インターコネクタは半田メッキを介して太陽電池のシリコンセルと接続される。しかし、インターコネクタとシリコンセルとは、熱膨張率が異なるため、半田接合時の熱影響により、熱膨張率の小さいシリコンセルに曲げ応力が発生する。つまり、インターコネクタと太陽電池セルとは剛性及び面積が異なるため、半田接続時の熱処理によってインターコネクタは太陽電池セルよりも先に変形する。インターコネクタの変形は、シリコンセルに反りや破損を生じさせる。そのため、インターコネクタの0.2%耐力を低減させることが求められている。ここで、0.2%耐力とは機械的特性の指標であり、インターコネクタの0.2%耐力が小さいほどシリコンセルの反りを低減させることができる。
【0004】
従来、インターコネクタは、導体をダイス加工処理又はロール加工処理した後にスリット加工し、平角の断面形状を有する薄く細長い線条に成形し、得られた線条の導体に加熱処理と半田メッキ処理とを施して製造されている。
【0005】
スリット加工後に行われる加熱処理は、ダイス加工、ロール加工又はスリット加工によって、平角の断面形状を有する細長い線条に成形された導体内部のひずみを取り除き、組織を軟化するために行われるものであって、いわゆる焼鈍処理として知られている。
【0006】
特許文献1〜4には、平角断面形状を有するよう線条に成形された導体における0.2%耐力を低減する熱処理方法として、間接加熱方式を採用することが開示されている。
【0007】
半田メッキ処理としては、例えば、特許文献5や特許文献6に開示されているように、加熱溶融状態の半田を貯留する貯留槽と、この貯留槽の液面近傍に設けたダイスと、貯留槽の内部に配設されて水平軸周りに回転するターンロールとを備えたものが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−16593号公報
【特許文献2】特開2009−27096号公報
【特許文献3】特開2009−280898号公報
【特許文献4】特開2010−141050号公報
【特許文献5】特開2010−95750号公報
【特許文献6】特開2011−58051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、平角の断面形状を有する細長い線条に成形された導体の0.2%耐力を低減するため、間接加熱方式の熱処理が用いられている。これは、特許文献4に記載されるように、間接加熱方式のほうが導体に熱エネルギーを十分に与えることができるため、導体そのものを通電加熱するいわゆる直接通電加熱よりも有利であると考えられていたためである。
【0010】
インターコネクタの基材となる導体に対して十分な熱エネルギーを与えるために、時間を十分かけて加熱することが必要となるところ、加熱温度が高ければ加熱時間は短くてもよいことが予想される。特許文献4には加熱時間を5秒から60秒とすることが開示されている。しかし、加熱温度を高くして加熱時間を短くすると、0.2%耐力の低減効果が十分でなく、加熱温度を高くしても、30秒以上の加熱時間が好ましいことが示されている。
【0011】
工程管理上、一般に、処理時間は短いほうが望ましく、導体の0.2%耐力を低減するための熱処理に関しても、加熱処理時間を短くすることが求められていた。
【0012】
さらに、半田メッキ処理においては、平角線条の基材においてはすべての面に均等にメッキが付着されることが望ましい。そのため、基材をメッキ液に浸す前に予熱処理することが一般的である。しかしながら、線条の基材を予熱するためだけに加熱設備を製造ラインに追加することは、設備コスト、ランニングコストの面からして無駄が多い。
【0013】
そこで、本発明においては、0.2%耐力の低減処理を短時間に行うことができ、その低減処理がメッキ処理のための予熱処理を兼ねた、太陽電池用リード線の製造方法及び設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明における太陽電池用リード線の製造方法は、線条の基材を搬送しながら、基材に通電加熱又は誘導加熱を行うことにより0.2%耐力の低減処理を施し、その通電加熱又は誘導加熱による加熱状態のまま線条の基材にメッキ処理を施す。
好ましくは、通電加熱又は誘導加熱による加熱温度がメッキ処理における温度よりも高い。
好ましくは、通電加熱又は誘導加熱による0.2%耐力の低減処理が、線条の基材を昇温し始めて5秒以内に終了する。
【0015】
本発明における太陽電池用リード線の製造設備は、溶融したメッキ液を貯えるメッキ槽と、メッキ槽中に設けられたターン用搬送ロールとメッキ槽よりも上流に設けられた送り出し用搬送ロールと上記メッキ槽よりも下流に設けられた引上げ用搬送ロールとによって搬送経路に沿って線条の基材を搬送する搬送機構と、搬送機構によって搬送される線条の基材のうち送り出し用搬送ロールとターン用搬送ロールとの間の部分を通電加熱するか又は誘導加熱する加熱部と、加熱部と搬送機構とを制御する制御部と、を備え、制御部が搬送機構による基材の搬送速度と加熱部における電気供給量とを制御することにより、搬送機構で搬送される線条の基材を加熱することで0.2%耐力を低減し、加熱状態のままでメッキ液に浸漬しメッキ処理を施す。
好ましくは、送り出し用搬送ロールが給電ロールであり、加熱部における給電配線の一端が送り出し用搬送ロールに接続され、給電配線の他端がメッキ液に浸漬した電極体に接続されていることで送り出し用搬送ロールとメッキ液とを電極として搬送中の線条の基材に給電する。
好ましくは、送り出し用搬送ロールとターン用搬送ロールとの間にリングトランスが設けられ、加熱部における給電配線がリングトランスに接続されて、リングトランスの一次側に給電され、リングトランスの中空に挿通した線条の基材がリングトランスの二次側として機能し、送り出し用搬送ロールとしての給電ロールとメッキ液に浸漬した電極体とが導通部材で接続されていることにより、線条の基材に給電する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、線条の基材を搬送しながら、基材を通電加熱して0.2%耐力低減処理を行い、その加熱状態のままメッキ液に浸漬してメッキ処理を行うため、メッキ処理のための予熱処理が不要となると同時に0.2%耐力の低減がなされ、生産効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る太陽電池用リード線の製造設備を模式的に示す図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る太陽電池用リード線の製造設備を模式的に示す図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る太陽電池用リード線の製造設備を模式的に示す図である。
【図4】本発明の第4実施形態に係る太陽電池用リード線の製造設備を模式的に示す図である。
【図5】本発明の第5実施形態に係る太陽電池用リード線の製造設備を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0019】
〔第1実施形態〕
図1は本発明の第1実施形態に係る太陽電池用リード線の製造設備を模式的に示す図である。本発明の第1実施形態に係る太陽電池用リード線の製造設備1は、搬送機構10と加熱部20とメッキ処理部30と制御部40とを備える。
【0020】
搬送機構10は、線条の基材wの搬送路に沿って所定の位置に搬送ロールが複数配置されて構成されている。図1に示すように、ターン用搬送ロール11がメッキ槽32中に設けられ、送り出し用搬送ロール12がメッキ槽32よりも上流に設けられ、引上げ用搬送ロール13がメッキ槽32よりも下流に設けられている。図示では、搬送ロールとして、入口用搬送ロール14が送り出し用搬送ロール12よりも上流に設けられており、出口用搬送ロール15が引上げ用搬送ロール15よりも下流に設けられている。搬送機構10は、例えば銅材でなる線条の基材wを搬送路に沿って搬送する。
【0021】
加熱部20は、搬送機構10によって搬送される線条の基材wのうち送り出し用搬送ロール12とターン用搬送ロール11との間の任意の部分に給電して、搬送中の基材wの一部分のみを通電加熱する。基材wは通電によりジュール熱が生じ、0.2%耐力の低減処理が施される。
【0022】
メッキ処理部30は、メッキ液31を溶融して貯えるメッキ槽32を備えている。ターン用搬送ロール11がメッキ液31に浸漬するようにターン用搬送ロール11がメッキ槽32の中に取り付けられている。メッキ液31を溶融加熱するためのヒーターやそれに付随する手段については図示を省略している。搬送機構10によって搬送中の基材wのうち、加熱部20からの給電によって0.2%耐力低減処理が施された部位が、加熱状態のままでメッキ液31に浸漬されて、メッキ処理が施される。
【0023】
制御部40は、搬送機構10による基材wの搬送速度と、加熱部20から基材wの或る区間に出力される電気供給量と、を制御する。この制御部40によって、線条の基材wに対して0.2%耐力の低減処理と予熱処理とが同時に施される。そのため、太陽電池用リード線の製造設備1を大型化することなく、また、メッキ処理前の予熱工程を別途行う必要なく、生産の効率化を図ることができる。
【0024】
図1に示す設備構成について更に詳細に説明する。
搬送機構10における搬送ロールとして、入口用搬送ロール14、送り出し用搬送ロール12が同じ高さ位置でメッキ槽32よりも高い位置に、この順で搬送方向に向かって配置されている。搬送される線条の基材wをメッキ液31に浸すことができるように、ターン用搬送ロール11がメッキ槽32に配置されている。引き上げ用搬送ロール13が、ほぼ垂直に基材wを引き上げ可能にメッキ槽32の頭上に配置される。引上げ用搬送ロール13と同じ高さに、出口用搬送ロール15が配置されており、ここから搬出される。何れの搬送ロール11〜15も回転軸を同じにして水平軸周りに回転するように配置され、ターン用搬送ロール11のみが他の搬送ロール12〜15と逆に回転する。搬送機構10により、水平の搬入路、傾斜路、引き上げ路、水平の搬出路からなる搬送路が形成されている。送り出し用搬送ロール12とメッキ液31との間には、傾斜した搬送路に沿って中空が形成された包囲体51が配置されており、この包囲体51内に基材wが貫通して搬送される。包囲体51にはArガスなどの希ガスその他不活性ガスが導入され、通電加熱により昇温した基材wにおける表面酸化を防止している。包囲体51内には不活性ガス以外にH2ガスなどの還元ガスが導入され、通電加熱により昇温した基材wの酸化した表面を還元するようにしてもよい。
【0025】
第1実施形態においては、送り出し用搬送ロール12は給電ロールで構成される。つまり、線条の基材wを送り出す際に接触し、送り出し用搬送ロール12の軸が滑動子24に接触している。これにより、線条の基材wと送り出し用搬送ロール12との接触点から送り出し用搬送ロール12を経由して滑動子24に交流電流を流せるように構成されている。
【0026】
加熱部20は、電源21に接続されて出力を制御する出力制御部22と、出力制御部22に給電配線23Aを介在して接続されかつ送り出し用搬送ロール12に電気的に接続する滑動子24と、出力制御部22に給電配線23Bを介在して接続されメッキ槽32中に配置される電極体25と、を備えている。電極体25はメッキ槽32中のメッキ液31に少なくとも一部が浸漬していればよいが、全体が浸漬していてもよい。電源21は商用電源、高周波電源の何れかが用いられる。出力制御部22の構成としては、例えば変成器を備え、変成器の一次側に電源21が接続されており、変成器の二次側に給電配線23A,23Bが接続されている。
【0027】
加熱部20は、このような構成を採用しているため、基材wのある区間に対して送り出し用搬送ロール12とメッキ液31とがそれぞれ電極として作用する。よって、搬送中の基材wのうち送り出し用搬送ロール12とメッキ液31との間にある区間(以下、「加熱区間」と呼ぶ。)では電流が流れジュール熱によって発熱する。
【0028】
基材wの各部、すなわち長手方向に仮想的に区分けした部分が、加熱区間を通過する時間、通電により生じるジュール熱によって昇温される。よって、送り出し用搬送ロール12とメッキ液31までの経路に沿った距離と基材wの搬送速度とを定めることにより、昇温時間が制御される。本実施形態においては、制御部40が、基材wの各部が加熱区間を通過するのに要する時間が5秒以下となるように、送り出し用搬送ロール12とメッキ液31との間の距離に応じて基材wの搬送速度を制御する。
【0029】
基材wの加熱区間で生じる単位長さ単位時間当たり生じるジュール熱は、加熱区間における基材wの寸法及び比熱と、送り出し用搬送ロール12とメッキ液31との間に流れる電流量とにより定まる。上記寸法は、送り出し用搬送ロール12とメッキ液31との間の長さ及び基材wの断面寸法によって定まるため、任意に設定できる。電流量は、滑動子24とメッキ液31との間に生じる電圧によって定まるため、出力制御部22からの出力電流、出力電圧の何れか一方又は双方を制御すればよい。
【0030】
そのため、制御部40で、複数の搬送ロール11〜15のうち少なくとも出口寄りの搬送ロールの回転速度を所定の値に制御し、かつ、出力制御部22からの出力電流、出力電圧の何れか又は双方を制御する。この制御により、例えば、基材wの昇温時間を0.5秒以内とし、メッキ液31に達した際の温度が650℃〜1020℃とすることができる。
【0031】
次に、図1に示す太陽電池用リード線の製造設備1による製造方法を説明する。太陽電池用リード線は線条の基材wにおける各面に半田メッキ層を施してなる。線条の基材wは例えば銅材でなり、例えば純度99.9999%以上の高純度銅、無酸素銅、リン脱酸銅、タフピッチ銅のいずれかを用いてもよい。基材wは、ダイス加工、ロール加工その他の加工により平角の線条に成形された後、スリット加工により所定の幅に成形されてなる。
【0032】
搬送機構10によって線条の基材wを搬送し、基材wの各部が送り出し用搬送ロール12を通過してメッキ液31に浸漬されるまでの間の短時間、通電されてジュール熱が発生し昇温する。基材wの各部がメッキ液31に触れる際には650℃乃至1020℃前後まで昇温する。この昇温工程によって、0.2%耐力の低減処理がなされかつメッキ処理に必要な予熱処理が施されている。加熱温度が1020℃前後よりも高いと、基材wが溶融するので好ましくない。ちなみに銅の融点は約1080℃である。加熱温度が650℃であれば、メッキ処理後の太陽電池用リード線の0.2%耐力が100MPa以下に低下する。ここで、基材wの各部位が通電される時間は5秒以下で十分である。これ以上長時間行うと、取扱いがし難くなるだけでなく寸法変形を生じやすくなる。
【0033】
このように、線条の基材wが、650℃以上1020以下で、5秒以下、特に0.3秒以上5秒以下の条件で、通電加熱又は誘導加熱される。この範囲外になると、太陽電池用リード線の0.2%耐力が100MPaを超えて実用上好ましくない。また、加熱による焼鈍処理の加熱温度、加熱時間がこの範囲外となると、靭性の指標の一つである伸び率が25%以下に低下するので好ましくない。
【0034】
このように基材wが搬送機構10によって搬送されながら、基材wの加熱区間で送り出し用搬送ロール12とメッキ液31との間で通電加熱され、0.2%耐力の低減処理がなされる。そして、基材wは加熱状態のまま予熱されてメッキ液31に浸漬され、ターン用搬送ロール11によりほぼ垂直に引き上げられる。これにより、線条の基材wの各表面、具体的には、上下の面及び左右の面にメッキ処理が施される。
【0035】
基材wが引上げ用搬送ロール13によってほぼ垂直に引き上げられるため、重力の影響により厚みが軸周りに対称となったメッキ層が形成される。メッキ槽32は半田材料を溶融状態となるように加熱されているため、メッキ液31の温度は加熱部20による加熱温度によりも低い。メッキ材料としては、Pb入り、Pbフリー、Suなどの材料があげられる。また、メッキ浴浸漬時間は、設備コスト、ランニングコスト及びメッキ浴の成分維持の観点を総合的に判断して3秒以下が望ましい。
【0036】
この製造方法によれば、線状の基材wに通電加熱によって0.2%耐力の低減処理を行い、加熱状態のままでメッキ処理が施される。そのため、予熱処理のみのための処理が不要となり、生産効率が向上する。
【0037】
図1に示す設備構成において、電源21が商用周波、高周波電源である場合には、入口用搬送ロール14と送り出し用搬送ロール12との間に、チョークコイル52を設置して、交流電流が入口用搬送ロール14に流れることを阻止することが好ましい。ただし、線条の基材wのうち、給電配線23Aに接続した送り出し用搬送ロール12とメッキ液31との間で電流を流せるようにすれば、電源21を直流電源とし、出力制御部22をスライダックによって出力電流又は出力電圧を調整してもよい。
【0038】
また、引上げ用搬送ロール13と出口用搬送ロール15との間に膜厚計53を設け、膜厚計53により基材wのメッキ層の厚みをモニタリングして、その値を制御部40にフィードバックをかけて基材wの搬送速度を制御するようにしてもよい。
【0039】
〔第2実施形態〕
図2は本発明の第2実施形態に係る太陽電池用リード線の製造設備2を模式的に示す図である。図2において第1実施形態と同一又は対応する構成要素については同一の符号を付してある。
【0040】
第2実施形態にあっては、第1実施形態と異なり、送り出し用搬送ロール12とターン用搬送ロール11との間で、メッキ槽32寄りに電極となる電極兼搬送ロール16が配置され、電極兼搬送ロール16に滑動子26を接触させ、この滑動子26と送り出し用搬送ロール12に接触させた滑動子24との間に出力制御部22からの給電配線23A,23Cがそれぞれ接続されている。電極兼搬送ロール16は、送り出し用搬送ロール12と同様、電極兼搬送ロール16の軸に滑動子26が滑りながら接触していることで、電極兼搬送ロール16により搬送される線条の基材wと接触している部位が、電極兼搬送ロール16を経由して滑動子26に導通することができる。
【0041】
この第2実施形態にあっては、送り出し用搬送ロール12と電極兼搬送用ロール16が電極となる。よって、制御部40が、これらの電極間に流れる交流電流、加熱区間の電圧の何れか一方又は双方と基材wの搬送速度とを制御することにより、基材wに対して0.2%耐力の低減処理を施すことができる。
【0042】
〔第3実施形態〕
図3は本発明の第3実施形態に係る製造設備を模式的に示す図である。図3において、第1実施形態と同一又は対応する構成要素については同一の符号を付している。
【0043】
図3に示す第3実施形態にあっては、第1実施形態と異なり、送り出し用搬送ロール12とターン用搬送ロール11との間にリングトランス27のコア27Aが設けられ、このリングトランス27の中空に包囲体51を挿通する。包囲体51内に基材wを挿通する。図1及び図2と同様、包囲体51内に不活性ガスや還元ガスを導入することで、基材wのうち加熱された部位の酸化を防止又は抑止することができる。
【0044】
リングトランス27の上流の送り出し用搬送ロール12に滑動子24を接触させ、電極体25の先端部又は全部をメッキ液31に浸漬し、滑動子24と電極体25とを導通部材29で接続する。リングトランス27の一次巻線27Bには出力制御部22からの給電配線23D,23Eが接続されている。
【0045】
図3に示す構成を採用すれば、基材wのうちリングトランス27の中空に挿通されている区間をリングトランス27の二次巻線、つまり二次側とすることで、出力制御部22から出力された変動電流により基材wの区間の両端において起電力が生じる。従って、当該区間の両端と滑動子24と電極体25とを介在して導通部材29との間で一つの回路が形成され、基材wの当該区間に電流が流れ、この区間が第1の実施形態と同様加熱区間となる。
【0046】
第3実施形態にあっては、リングトランス27の長さ、一次巻線27Bの巻数などを調整したうえで、制御部40で、出力制御部22からの出力電流の大きさ、搬送ローラの回転速度を制御することにより、基材wに対して0.2%耐力の低減処理を施すことができる。
【0047】
第3実施形態では、リングトランス27は送り出し用搬送ロール12及びメッキ液31との間に僅かな電圧しか生じないため、図1のようにチョークコイル52は不要となる。これにより設備コストが抑制される。電源20には商用周波数から400Hzまでの交流電源が使用可能である。電源20の周波数を高くすることにより、リングトランス27を小型化することができる。
【0048】
〔第4実施形態〕
図4は本発明の第4実施形態に係る製造設備を模式的に示す図である。図4において、第3実施形態と同一又は対応する構成要素については同一の符号を付してある。
【0049】
図4に示す第4実施形態にあっては、第3実施形態と異なり、送り出し用搬送ロール12とターン用搬送ロール11との間でメッキ槽32寄りに電極兼搬送ロール16が配置されている。送り出し用搬送ロール12と電極兼搬送ロール16との間にリングトランス27のコア27Aが設けられ、このリングトランス27の中空に基材wを挿通する。リングトランス27の両側の送り出し用搬送ロール12、電極兼搬送ロール16にそれぞれ滑動子24,26を接触させて、これらの滑動子24,26を導通部材29で接続する。リングトランス27の一次巻線27Bには出力制御部22からの給電配線が23D,23Eが接続されている。電極兼搬送ロール16はその軸に滑動子26が滑りながら接触していることにより、電極兼搬送ロール16らにより搬送される線条の基材wと接触している部位が、電極兼搬送ロール16を経由して滑動子26に導通する。
【0050】
図4においても、リングトランス27のコア27Aの中空内に包囲体51を挿通し、包囲体51内に基材wを挿通する。これにより、図3と同様、包囲体51内に不活性ガスや還元ガスを導入することにより、基材wのうち加熱された部位を酸化防止又は抑止することができる。
【0051】
図4に示す構成を採用することにより、基材wのうちリングトランス27の中空に挿通されている区間をリングトランス27の二次巻線とすることで、出力制御部22から出力された変動電流により基材wの区間の両端において起電力が生じ、当該区間の両端と滑動子12,26を介在して導通部材29との間で一つの回路が形成され、基材wの当該区間に電流が流れ、この区間が第1の実施形態と同様、加熱区間となる。第4実施形態では、交流電源としては商用電源、高周波電源であればよい。
【0052】
第4実施形態にあっては、リングトランス27の長さ、一次巻線27Bの巻数などを調整したうえで、制御部40が、出力制御部22からの出力電流の大きさ、搬送ローラの回転速度を制御することにより、基材wに対して0.2%耐力の低減処理を施すことができる。
【0053】
〔第5実施形態〕
図5は、本発明の第5実施形態に係る製造設備を模式的に示す図である。
図5に示す製造設備5では、図1に示す送り出し用搬送ロール12に滑動子24を設けず、メッキ液31に浸漬した電極体25を用いることなく、包囲体51に加熱コイル61を装着する。加熱部20における電源21が、出力制御部22を経由して給電配線23F,23Gにより加熱コイル61に接続されている。よって、電源21から高周波を投入することで基材wが加熱コイル61により誘導加熱される。よって、加熱コイル61の長さ、用いる周波数を設定し、制御部40が出力制御部22を制御して高周波の電源21から出力される電流、電圧等を制御すると共に、出口用搬送ローラ15の回転速度を制御することにより、基材wに対して0.2%耐力の低減処理を施すことができる。
【0054】
上述したように本発明の第1乃至第5実施形態では、搬送機構10によって搬送される基材wに対し加熱部20で通電加熱又は誘導加熱することで、基材wに0.2%耐力の低減処理が施され、その予熱された状態でメッキ液31に浸してメッキ処理を行うことができる。その際、制御部40が、線条の基材wに対して0.2%耐力の低減処理を施し搬送ロールの回転速度及び加熱部20による電気供給量などを制御する。
【0055】
上述した第1乃至第5実施形態においては、一本又は複数本の線条の基材wを搬送機構で送りながら、加熱処理及びメッキ処理を行うことができる。
【実施例】
【0056】
次に、基材wの0.2%耐力の低減処理に関する実施例について説明する。図1に示す製造設備1を用いて、加熱処理とメッキ処理を順に行った。また、加熱処理による焼鈍後の耐力及び伸び率については、メッキ槽32にはメッキ液31を入れないで行い、加熱処理による焼鈍の影響を調べた。その際、図2に示すように電極兼搬送ローラ16を用い、メッキ処理を行った場合と比較することができるよう、搬送ローラ等の間隔を調整した。用いた基材wは、断面サイズの厚みが0.2mmで幅が2mmの無酸素銅からなる。加熱処理前の基材wの0.2%耐力は、250Mpa以上であった。メッキ液にはSn−Ag−Cu系のPbフリー合金を用い、メッキ槽の温度を300℃とした。
【0057】
加熱条件を以下のようにした。
実施例1、2、3では、加熱温度を650℃とし、加熱時間をそれぞれ、0.5秒、3秒、5秒とした。
実施例4、5、6では、加熱温度を800℃とし、加熱時間をそれぞれ0.5秒、3秒、5秒とした。
実施例7、8、9では、加熱温度を900℃とし、加熱時間をそれぞれ0.5秒、3秒、5秒とした。
実施例10、11、12では、加熱温度を1000℃とし、加熱時間をそれぞれ0.3秒、3秒、5秒とした。
実施例13、14、15では、加熱温度を1020℃とし、加熱時間をそれぞれ0.3秒、3秒、5秒とした。
比較例1、2、3では、加熱温度を600℃とし、加熱時間を5秒、3秒、0.5秒とした。
比較例4では、加熱温度を1020℃、加熱時間を10秒とした。
【0058】
加熱処理後の線材と、加熱処理及びメッキ処理後の線材について、0.2%耐力をJIS−Z−2241に準じ測定し、各線材の伸び値をJIS−Z−2201に準じて測定した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
加熱処理を行うことにより、線条の基材wの0.2%耐力は、加熱処理前の値250Mpa以上から、実施例1乃至15、比較例1〜4の何れも100Mpa未満に低下したが、メッキ処理により0.2%耐力は増加した。加熱温度が一定の場合、加熱時間が長くなるほど0.2%耐力は低下した。加熱時間が一定の場合、加熱温度が高くなるほど0.2%耐力は低下した。
【0061】
よって、加熱温度が高いほど、また加熱時間が長いほど0.2%耐力が低くなる傾向にあった。そこで、加熱処理による焼鈍及びメッキ処理を施して得られる太陽電池用リード線としては、加熱温度が650℃以上1020℃以下であって、加熱時間が5秒以下であれば、0.2%耐力を100Mpa未満とすることができた。また、この条件下では、25%を超える伸び率を持たせることができた。
【0062】
実施例1〜15から、650℃以上1020℃以下の条件で加熱するという焼鈍により、これまでの間接加熱で必要とされていた30秒以上の加熱時間を大幅に短縮することが可能であり、加熱時間が0.3秒以上5秒以下の範囲であれば、0.2%耐力にも悪影響を与えないことが分かった。
【0063】
なお、比較例4のように加熱温度が高く加熱時間が5秒を超える条件の加熱処理では、たわみが発生し、変形が生じたため、線材ひいては太陽電池用リード線の品質を維持することが困難であった。
【0064】
次に、メッキ処理を行うに際して予熱処理の影響を調べた。図1に示すような製造設備1を用い、実施例15の加熱温度、加熱時間の条件で加熱処理しそのままメッキ処理したものと、同じ条件で加熱処理したものを一旦室温まで冷却し、室温状態のものをメッキ液に浸して引上げたものとを比較した。その結果、加熱処理したものをそのままメッキ処理した場合にはメッキが基材wの表面に綺麗にしかも均一なメッキ層が形成されていた。これに対し、加熱処理をして焼鈍したものを一旦室温まで冷却し予熱処理なくメッキ液に浸したものはメッキが一様に付いていなかった。メッキ処理する際、メッキ液に基材を浸す前に加熱しておくことにより、メッキを一様に綺麗に付着することができ、しかも付着強度も高くすることができると予測される。以上のことから、メッキ処理を行う際、予め加熱処理が必要であることが分かった。
【0065】
以上の実施例から、線条の基材wを加熱処理して焼鈍しその加熱状態のままメッキ処理を行うことで、所望の太陽電池用リード線を製造することができることが分かった。また、本発明の各実施形態では何れも効率よくかつ設備コスト、ライニングコストを低減することができる。
【0066】
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明の範囲において適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0067】
1,2,3,4,5:太陽電池用リード線の製造設備
10:搬送機構
11:ターン用搬送ロール
12:送り出し用搬送ロール
13:引上げ用搬送ロール
14:入口用搬送ロール
15:出口用搬送ロール
16:搬送ロール(電極兼搬送ロール)
20:加熱部
21:電源
22:出力制御部
23A,23B,23C,23D,23E,23F,23G:給電配線
24,26:滑動子
25:電極体
27:リングトランス
27A:コア
27B:一次巻線
29:導通部材
30:メッキ処理部
31:メッキ液
32:メッキ槽
40:制御部
51:包囲体
52:チョークコイル
53:膜厚計
61:加熱コイル
w:線条の基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線条の基材を搬送しながら、基材に通電加熱又は誘導加熱を行うことにより0.2%耐力の低減処理を施し、その通電加熱又は誘導加熱による加熱状態のまま線条の基材にメッキ処理を施す、太陽電池用リード線の製造方法。
【請求項2】
前記通電加熱又は誘導加熱による加熱温度が前記メッキ処理における温度よりも高い、請求項1に記載の太陽電池用リード線の製造方法。
【請求項3】
前記通電加熱又は誘導加熱による0.2%耐力の低減処理が、線条の基材を昇温し始めて5秒以内に終了する、請求項1又は2に記載の太陽電池用リード線の製造方法。
【請求項4】
溶融したメッキ液を貯えるメッキ槽と、
上記メッキ槽中に設けられたターン用搬送ロールと上記メッキ槽よりも上流に設けられた送り出し用搬送ロールと上記メッキ槽よりも下流に設けられた引上げ用搬送ロールとによって搬送経路に沿って線条の基材を搬送する搬送機構と、
上記搬送機構によって搬送される線条の基材のうち上記送り出し用搬送ロールと上記ターン用搬送ロールとの間の部分を通電加熱するか又は誘導加熱する加熱部と、
上記加熱部と上記搬送機構とを制御する制御部と、
を備え、
上記制御部が上記搬送機構による基材の搬送速度と上記加熱部における電気供給量とを制御することにより、上記搬送機構で搬送される線条の基材を加熱することで0.2%耐力を低減し、加熱状態のままでメッキ液に浸漬しメッキ処理を施す、太陽電池用リード線の製造設備。
【請求項5】
前記送り出し用搬送ロールが給電ロールであり、前記加熱部における給電配線の一端が前記送り出し用搬送ロールに接続され、上記給電配線の他端がメッキ液に浸漬した電極体に接続されることにより、前記送り出し用搬送ロールとメッキ液とを電極として搬送中の線条の基材に給電する、請求項4に記載の太陽電池用リード線の製造設備。
【請求項6】
前記送り出し用搬送ロールと前記ターン用搬送ロールとの間にリングトランスが設けられ、
前記加熱部における給電配線が上記リングトランスに接続されて、該リングトランスの一次側に給電され、
上記リングトランスの中空に挿通した線条の基材が該リングトランスの二次側として機能し、前記送り出し用搬送ロールとしての給電ロールと前記メッキ液に浸漬した電極体とが導通部材で接続されていることで該線条の基材に給電する、請求項4に記載の太陽電池用リード線の製造設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−77612(P2013−77612A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215138(P2011−215138)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(390029089)高周波熱錬株式会社 (288)
【Fターム(参考)】