説明

太陽電池用リード線及びその製造方法並びにそれを用いた太陽電池

【課題】低コストで、デザイン性に優れ、かつセルとの接合性に優れた太陽電池用リード線を提供する。
【解決手段】帯板状導電材2表面にめっき層4を形成した太陽電池用リード線1において、めっき層4の外側に自己融着性材料を含む被覆層5を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用リード線及びその製造方法並びにそれを用いた太陽電池に係り、特に、低コストで、デザイン性に優れ、かつセルとの接合性に優れた太陽電池用リード線及びその製造方法並びにそれを用いた太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池には、半導体基板として多結晶及び単結晶のSiセルが用いられる。
【0003】
図4(a)、図4(b)に示されるように、太陽電池40は、半導体基板41の所定の領域、すなわち半導体基板41の表面に設けられた表面電極42と裏面に設けられた裏面電極43に、太陽電池用リード線44a,44bをはんだで接合して作製される。半導体基板41内で発電された電力を太陽電池用リード線44a,44bを通じて外部へ伝送する。
【0004】
図5に示されるように、従来の太陽電池用リード線44(44a,44b)は、帯板状導電材45とその帯板状導電材45の上下面46a,46bに形成されためっき層47とを備える。帯板状導電材45は、例えば、円形断面の導体を圧延加工して帯板状にしたものであり、平角導体、平角線とも呼ばれる。
【0005】
めっき層47は、帯板状導電材45の上下面46a,46bに、溶融めっき法により溶融はんだを供給して形成したものである。
【0006】
溶融めっき法は、酸洗等により帯板状導電材45の上下面46a,46bを清浄化し、その帯板状導電材45を、溶融はんだ浴に通すことにより、帯板状導電材45の上下面46a,46bにはんだを積層していく方法である。めっき層47は、帯板状導電材45の上下面46a,46bに付着した溶融はんだが凝固する際に表面張力の作用によって、図5に示されるように、幅方向側部から中央部にかけて膨らんだ形状、いわゆる山形に形成される。
【0007】
この太陽電池用リード線44を所定の長さに切断し、エアで吸着して半導体基板41の表面電極(グリッド)42の上に移動し、半導体基板41の表面電極42にはんだ付けする。表面電極42には、表面電極42と導通する図示しない電極帯(フィンガー)が、あらかじめ形成されている。この表面電極42に太陽電池用リード線44aのめっき層47を接触させ、その状態ではんだ付けを行う。太陽電池用リード線44bを半導体基板41の裏面電極43にはんだ付けする場合も同様である。
【0008】
従来は、半導体基板41の表面電極42と太陽電池用リード線44aとの良好なはんだ接合性を得るために、表面電極42に太陽電池用リード線44aのめっき層47と同質のはんだを含浸させていたが、近年、半導体基板41の薄型化が進んできているため、表面電極42へのはんだ含浸時の半導体基板41の破損問題が表面化した。そこで、半導体基板41の破損を回避するため、表面電極42へのはんだ含浸工程の省略が進められている。
【0009】
半導体基板41の表面電極42と太陽電池用リード線44aとの良好なはんだ接合性を与えていたはんだ含浸工程の省略で、従来は接合性に問題の無かった太陽電池用リード線の中でも、十分な接合性の得られないケースが多く見られるようになった。半導体基板41と太陽電池用リード線44との接合は、表面電極42の電極材料(例えばAg)とめっき層47の接合材料(例えばSn)との間で金属間化合物(例えばAg3Sn)が形成されることでなされるが、このためには、フラックスの作用でめっき層47の表面と表面電極42の表面から酸化膜が除去されてはんだの金属原子(Sn)と電極の金属原子(Ag)とが直接衝突することと、加熱によりはんだ中のSn原子が他原子(Ag)の格子内に拡散しやすくなることが必要となる。すなわち、めっき層47の表面の酸化膜の厚みが厚い場合、フラックスによる酸化膜除去が不十分となり、はんだ付け不良が生じることとなる。
【0010】
表面電極42とめっき層47との間ではんだ付け不良が生じると、半導体基板41と太陽電池用リード線44との接合が不十分となるため、機械的な剥離や導通不良により、半導体基板41と太陽電池用リード線44との接合体である太陽電池40を組み込んだモジュールの出力低下を招く。
【0011】
一方、太陽電池用リード線44の金属光沢が外観を害する問題があり、対応策として太陽電池用リード線44の受光面に樹脂などを被覆する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0012】
特許文献1には、薄膜系太陽電池のセル間配線が目立たないように着色し、接合性の面からセルとの接合部は着色のための被覆を行わない方法が記載されている。また、特許文献2には、結晶系太陽電池の配線部材の表面を着色された樹脂層で被覆する方法、特許文献3には、結晶系太陽電池の配線部材の受光面のみを反射率の高い被覆材で着色する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平8−312089号公報
【特許文献2】特開2001−339089号公報
【特許文献3】特開2005−243972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述のように、太陽電池用リード線44を半導体基板41に強固に接合するには、めっき層47の表面の酸化膜厚を薄くすればよく、太陽電池用リード線44の金属光沢を目立たないようにするためには、着色された樹脂などを被覆すればよい。しかし、被覆を施した部位ではんだ接合が行えないため、特許文献1〜3のように、はんだ接合部位以外のみの被覆となり、工程が非常に煩雑で製造コストが高くなる問題がある。そこで、製造コストの増大を防ぐべく、モジュール表面のガラス板に黒色のマスク部を設けて太陽電池用リード線44の金属光沢を目立たなくする方法が採られている。しかし、この方法では発電に寄与する半導体基板(シリコンセル)41の受光面も覆ってしまうため、シャドウロスが生じ、太陽電池用リード線44を被覆しない従来のモジュールに比べて、発電効率が低下する問題がある。さらに、モジュールを組み立てるまでの間に、太陽電池用リード線44のめっき層47の表面が酸化し、モジュール製造時に半導体基板41の表面の電極と接合できない場合や接合不良による接触抵抗増大で、モジュールの発電効率が低下する問題もあった。
【0015】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、低コストで、デザイン性に優れ、かつセルとの接合性に優れた太陽電池用リード線及びその製造方法並びにそれを用いた太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための請求項1の発明は、帯板状導電材表面にめっき層を形成した太陽電池用リード線において、上記めっき層の外側に自己融着性材料を含む被覆層を有する太陽電池用リード線である。
【0017】
本発明の太陽電池用リード線によれば、めっき層の外側に自己融着性材料を被覆することで、めっき層の表面の酸化膜成長を抑制し、セルとの接合性に優れた太陽電池用リード線を得ることができる。
【0018】
請求項2の発明は、上記めっき層表面の酸化膜厚が7nm以下である請求項1に記載の太陽電池用リード線である。
【0019】
請求項3の発明は、上記自己融着性材料は、フェノキシ系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂のいずれかからなる樹脂成分を含有してなる請求項1又は2に記載の太陽電池用リード線である。
【0020】
請求項4の発明は、上記帯板状導電材は、体積抵抗率が50μΩ・mm以下の平角線である請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池用リード線である。
【0021】
請求項5の発明は、上記帯板状導電材は、Cu、Al、Ag、Auのいずれかからなる請求項1〜4のいずれかに記載の太陽電池用リード線である。
【0022】
請求項6の発明は、上記帯板状導電材は、タフピッチCu、低酸素Cu、無酸素Cu、リン脱酸Cu、純度99.9999%以上の高純度のCuのいずれかからなる請求項1〜5のいずれかに記載の太陽電池用リード線である。
【0023】
請求項7の発明は、上記めっき層は、Sn系はんだ、又は、第1成分としてSnを用い、第2成分としてPb、In、Bi、Sb、Ag、Zn、Ni、Cuから選択される少なくとも1つの元素を0.1mass%以上含むSn系はんだ合金からなる請求項1〜6のいずれかに記載の太陽電池用リード線である。
【0024】
請求項8の発明は、素線を圧延加工又はスリット加工することにより帯板状導電材を形成し、該帯板状導電材を連続通電加熱炉又は連続式加熱炉又はバッチ式加熱設備で熱処理し、その後、溶融はんだを供給して上記帯板状導電材にはんだめっきし、その後さらに自己融着性材料を被覆する太陽電池用リード線の製造方法である。
【0025】
本発明の太陽電池用リード線の製造方法によれば、自己融着性材料を被覆するものであるため、めっき線の長手方向全体に被覆が可能であり、優れたはんだ接合性を維持しつつ、製造工程の煩雑化を抑制することができる。
【0026】
請求項9の発明は、溶融はんだを供給して上記帯板状導電材にはんだめっきする際のめっき作業雰囲気の温度を30℃以下、めっき作業雰囲気の相対温度を65%以下とする請求項8に記載の太陽電池用リード線の製造方法である。
【0027】
請求項10の発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の太陽電池用リード線、請求項8又は9に記載の製造方法により製造された太陽電池用リード線のいずれかを、そのめっき層のはんだによって半導体基板の表面電極及び裏面電極にはんだ付けした太陽電池である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、低コストで、デザイン性に優れ、かつセルとの接合性に優れた太陽電池用リード線を得ることができるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施の形態を示す図であり、(a)は太陽電池用リード線の横断面図、(b)は太陽電池用リード線の材料となる帯板状導電材の外観斜視図である。
【図2】本発明において、めっき層を形成する溶融めっき設備の概略図である。
【図3】本発明において、自己融着性材料を塗布する塗布設備の概略図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係る太陽電池を示す図であり、(a)は横断面図、(b)は上面図である。
【図5】従来の太陽電池用リード線を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0031】
図1(a)に示されるように、本発明に係る太陽電池用リード線1は、帯板状導電材2の上下面3a、3bに溶融はんだを供給し、はんだ浴出口でめっきしてめっき層4を形成し、めっき層4の外側に自己融着性材料を被覆したものである。
【0032】
図1(b)は、帯板状導電材2の斜視図を示したものである。帯板状導電材2は、例えば上面3aと下面3bとが平坦面にされ、側面3cが凸状に膨らんで形成され、端面3dが適時の長さにカットされて形成される。
【0033】
本発明に用いる帯板状導電材2の材料の物性を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
帯板状導電材2は、体積抵抗率が比較的低い材料からなることが好ましい。体積抵抗率が低い材料としてはCu、Al、Ag、Auなどがある。
【0036】
Cu、Al、Ag、Auのうち体積抵抗率が最も低いのはAgである。したがって、帯板状導電材2の材料としてAgを用いると、太陽電池用リード線1を用いた太陽電池の発電効率を最大限にすることができる。また、帯板状導電材2としてAlを用いると、太陽電池用リード線1の軽量化を図ることができる。また、帯板状導電材2の材料としてCuを用いると、太陽電池用リード線1を低コストにすることができる。帯板状導電材2の材料としてCuを用いる場合、そのCuには、タフピッチCu、低酸素Cu、無酸素Cu、リン脱酸Cu、純度99.9999%以上の高純度のCuのいずれを用いてもよい。帯板状導電材2の0.2%耐力を最も小さくするためには、純度が高いCuを用いるのが有利である。よって、純度99.9999%以上の高純度Cuを用いると、帯板状導電材2の0.2%耐力を小さくすることができる。タフピッチCu又はリン脱酸Cuを用いると、太陽電池用リード線1を低コストにすることができる。
【0037】
以上より、帯板状導電材2は、Cu、Al、Ag、Auのいずれか、あるいは、タフピッチCu、低酸素Cu、無酸素Cu、リン脱酸Cu、純度99.9999%以上の高純度のCuのいずれかからなるとよい。
【0038】
帯板状導電材2には、例えば、体積抵抗率が50μΩ・mm以下の平角線を用いる。この平角線を圧延加工することによって、図1(a)、図1(b)のような横断面形状の帯板状導電材2を得ることができる。半導体基板41の表面電極42及び裏面電極43とめっき層4との接触面積を大きくし、半導体基板41からめっき層4への熱伝導を十分にするためには、めっき層4の形状を平角状にするのが好ましい。
【0039】
めっき層4は、帯板状導電材2の上下面3a、3bに付着した溶融はんだが凝固する際に表面張力の作用によって、幅方向側部から中央部にかけて膨らんだ形状、いわゆる山形に形成されるものでも、略平坦状に形成されるものでも、いずれであってもよい。
【0040】
めっき層4は、Sn系はんだ(Sn系はんだ合金)で形成される。Sn系はんだは、成分重量が最も重い第1成分としてSnを用い、第2成分としてPb、In、Bi、Sb、Ag、Zn、Ni、Cuから選択される少なくとも1つの元素を0.1mass%以上含むものである。これらのはんだは、1000ppm以下の微量元素をさらに含んでいてもよい。
【0041】
めっき層4の表面の酸化膜厚は7nm以下であるとよい。めっき層4の表面の酸化膜厚が厚くなると、図4に示した半導体基板41の表面電極42及び裏面電極43とのはんだ接合時にフラックスによる酸化膜除去が不十分となり、はんだ付け不良が生じ、結果的に、機械的な剥離が起こる、導通不良で十分な出力が得られないなどの問題が生じるためである。
【0042】
ここに、「自己融着性」とは、別途はんだなどの接合材を用いずに、樹脂が熱又は溶剤などで溶融し、太陽電池セルに接着させることを意味しており、このような性質を有する樹脂としては、例えばポリビニルブチラール系、ポリアミド系、エポキシ系及びポリエステル系などの熱融着性を有する樹脂や、アルコール可溶に変性されたポリアミド系などのアルコール融着性を有する樹脂が挙げられる。他にも、自己融着性を有する塗料としては、ポリヒドロキシポリエーテル樹脂などのフェノキシ樹脂にカーボンブラックやチタニアなどの着色剤を含有したものを用いることができる。フェノキシ樹脂にはスルホン基を含有して耐熱性を改善したものも使用可能である。また、はんだ接合性を向上させるべく、自己融着性材料の中にロジンのようなフラックス成分を含有させることも可能である。
【0043】
被覆層5は、セルとの接合が可能である限りにおいては、自己融着性材料に他の添加物を所定量含有する材料を主成分とするものでもよい。
【0044】
自己融着性材料を被覆することで保管条件下においてめっき層4の表面の酸化膜成長を遅らせることができ、酸化膜厚を7nm以下に抑制することができる。つまり、めっき層4の外層に自己融着性材料を被覆することで、めっき層4の表面の酸化膜成長を抑制し、モジュール組み立て前の長期保存にも、接合性を損なうことなく品質を維持することができる。
【0045】
また、本発明の太陽電池用リード線は、セルとの接合が可能である限りにおいては、必ずしも被覆層5とめっき層4とが直接に接している必要はなく、被覆層5とめっき層4との間にフラックス等の他に介在層を有する構造であってもよい。
【0046】
次に、本発明の太陽電池用リード線1の製造方法を説明する。
【0047】
先ず、原料の断面円形状の線材を圧延加工、又は平板をスリット加工して帯板状導電材2を形成し、これを熱処理する。
【0048】
このように、原料を帯板状導電材2に加工する加工方法としては、圧延加工、スリット加工のいずれも適用可能である。圧延加工とは、丸線を圧延して平角化する方式である。圧延加工により帯板状導電材2を形成すると、長尺で長手方向に幅が均一なものが形成できる。スリット加工は、種々の幅の材料に対応できる。つまり、原料の導電材の幅が長手方向に均一でなくても、幅が異なる多様な原料の導電材を使用する場合でも、スリット加工によって長尺で長手方向に幅が均一なものが形成できる。
【0049】
帯板状導電材2を熱処理することにより、帯板状導電材2の軟化特性を向上させることができる。帯板状導電材2の軟化特性を向上させることは、0.2%耐力を低減させるのに有効である。熱処理方法としては、連続通電加熱、連続式加熱、バッチ式加熱がある。連続して長尺にわたって熱処理するには、連続通電加熱、連続式加熱が好ましい。安定した熱処理が必要な場合には、バッチ式加熱が好ましい。酸化を防止する観点から、窒素などの不活性ガス雰囲気あるいは水素還元雰囲気の炉を用いるのが好ましい。不活性ガス雰囲気あるいは水素還元雰囲気の炉は、連続通電加熱炉又は連続式加熱炉又はバッチ式加熱設備により提供される。
【0050】
次いで、図2に示される溶融はんだめっき設備を用いて、帯板状導電材2の上下面3a、3bにめっき層4を形成する。ここで、はんだ浴20の温度は、使用はんだの融点よりも高めに設定する必要があるが、溶融状態でははんだ中のSnが容易に拡散して空気中の酸素と結びつき、酸化膜生成が顕著に進む。また、作業雰囲気の温度や湿度の高さも酸化膜生成促進に寄与する。よって、はんだ浴20の温度は、使用はんだの液相線温度+120℃以下(下限値は液相線温度+50℃以上)、めっき作業雰囲気の温度を30℃以下(下限値は10℃以上)、めっき作業雰囲気の相対湿度60%以下(下限値は10%以上)とすることが望ましい。ただし、はんだ浴20の温度は接触式温度計により帯板状導電材2のはんだ浴20への入口あるいは出口から5cm以内、めっき作業雰囲気の温度と相対湿度はめっき作業ラインより5cmの位置の測定値を示す。
【0051】
上記の製法により、めっき層4の表面の酸化膜厚を3.0nm以下(下限値は0.5nm以上)とすることができる。ここで示す酸化膜厚は、めっき層4の表面(上面あるいは下面)の5ヶ所についてオージェ分析を行い、得られたデプスプロファイルにおいて、酸素ピーク値が半減する時間で定義することができる。すなわち、酸化膜厚は、オージェ分析により得られたデータを平均した値である。また、ここで示す酸化膜の成分は、SERA(Sequential Electrochemical Reduction Analysis:連続電気化学還元法)により、Snの酸化物(SnO:酸化錫(II)、SnO2:酸化錫(IV))であることを確認することができ、SERA分析により得られるSnOの膜厚とSnO2の膜厚とを加えた酸化膜厚が、オージェ分析で得られる酸化膜厚にほぼ対応している。
【0052】
溶融はんだめっき後、図3のような設備で、めっき層4の表面に自己融着性材料を塗布し、ダイスなどにより被覆厚さを調整した後に、焼き付けする。このとき、自己融着性材料の焼き付け温度をはんだの液相線以下に抑えるとめっき層4の表面の酸化膜厚の成長を7nm以下(下限値は0.5nm以上)に抑制することができる。なお、ライン一貫化により、前述の溶融はんだめっき設備と組み合わせることで製造コストの低減が可能である。以上の工程により、本発明の太陽電池用リード線1が得られる。
【0053】
次に、本発明の太陽電池用リード線1の作用を説明する。
【0054】
本発明の太陽電池用リード線1を、図4に示した半導体基板41の表面電極42及び裏面電極43にはんだ付けするに際し、太陽電池用リード線1や半導体基板41の加熱温度は、めっき層4のはんだの融点付近の温度に制御される。その理由は、太陽電池用リード線1の帯板状導電材2(例えば銅)の熱膨張率と半導体基板41(Si)の熱膨張率が大きく相違するためである。熱膨張率の相違によって半導体基板41にクラックを発生させる原因となる熱応力が生じる。この熱応力を小さくするには、低温接合を行うのがよい。このような理由から、太陽電池用リード線1や半導体基板41の加熱温度は、めっき層4のはんだの融点付近の温度に制御される。また、ここでは、めっき層4は、略平坦状に形成されるものを使用している。
【0055】
上記接合時の加熱方法は、半導体基板41をホットプレート上に設置し、このホットプレートからの加熱と半導体基板41に設置された太陽電池用リード線1の上方からの加熱とを併用する方法である。
【0056】
この加熱によって自己融着性材料を含む被覆層5とめっき層4が溶融され、太陽電池用リード線1が半導体基板41の表面電極42及び裏面電極43にはんだ付けされる。
【0057】
本発明の太陽電池用リード線は、被覆層が自己融着性樹脂を主成分とするものであることから、熱による溶融をした後にめっきが半導体基板の表面電極又は裏面電極に接続するとともに、樹脂が流動して太陽電池用リード線と半導体基板の表面電極又は裏面電極の付近で接着する。つまり、樹脂が必要以上に漏れ広がらずに受光面積を確保できるという利点がある。
【0058】
尚、自己融着性材料を含む被覆層5が先に溶融され、また、めっき層4は山形に形成されていれば、自己融着性材料を含む被覆層5は、太陽電池用リード線1の側面側に流動して接着、その後溶融されるめっき層4と表面電極42及び裏面電極43とのはんだ付けがより確実なものとなる。
【0059】
これに対して、従来の太陽電池用リード線44は、モジュールを組み立てるまでの保存時にめっき層47の表面の酸化膜厚が厚くなるため、表面電極42とのはんだ接続時にフラックスによる酸化膜除去が不十分となり、はんだ付け不良が生じ、結果的に、機械的な剥離が起こる、導通不良で十分な出力が得られないなどの問題が生じる。
【0060】
本発明の太陽電池用リード線1では、めっき層4の表面の酸化膜厚を7nm以下とし、さらにその外層に自己融着性材料を被覆することでモジュール組み立て前の保存時にめっき層4の表面の酸化膜成長を抑制したので、接合時のフラックスによる酸化膜除去が容易になり、はんだ付け性が良好となるため、上記従来の問題は解決される。
【0061】
このように本発明に係る太陽電池用リード線1は、半導体基板41の表面電極42及び裏面電極43への接合が強固となるようにめっき層4の表面の酸化膜厚を7nm以下とすることが好ましい。これにより、はんだ接合時の酸化膜除去が容易になり、表面電極42及び裏面電極43に対する太陽電池用リード線1の強固なはんだ付けが可能になる。すなわち、機械的な剥離や導通不良によるモジュール出力低下を防ぐことができる。また、着色剤を含んだ自己融着性材料の被覆ではんだの金属光沢を遮ることができ、まためっき層4の表面の酸化膜成長を遅らせることができる。さらに、被覆材が自己融着性材料のため、セルとはんだ接合する部分も含めためっき線長手方向全体の被覆が可能であり、優れたはんだ接合性を維持しつつ、製造工程の煩雑化を抑制する効果も有する。
【0062】
次に、本発明の太陽電池について詳しく説明する。
【0063】
本発明の太陽電池は、これまで説明してきた太陽電池用リード線1を、めっき表面の酸化膜厚が7nm以下のめっき層4のはんだによって半導体基板41の表面電極42及び裏面電極43にはんだ付けしたものである。本発明の太陽電池は、めっき表面の酸化膜厚が7nm以下のめっき層4を有する太陽電池用リード線1を使用しているため、半導体基板41の表面電極42及び裏面電極43へのはんだ含浸は不要である。よって薄型化した半導体基板の電極へのはんだ含浸による半導体基板の破損を回避できる。ただし、本発明の太陽電池用リード線1は、電極へのはんだ含浸したタイプの半導体基板へも適用可能であり、その用途は電極にはんだを含浸しないタイプの半導体基板に限らない。また、モジュールのタイプも結晶系に限らず、薄膜系など、様々なモジュールの太陽電池用リード線を着色する場合に適用できる。
【0064】
本発明の太陽電池では、太陽電池用リード線1と表面電極42及び裏面電極43との接合面となるめっき層4の表面の酸化膜厚が7nm以下と極めて薄いため、半導体基板41の表面電極42及び裏面電極43とはんだ接合する際に、フラックスの作用で容易に酸化膜が破られ、良好なはんだ濡れ性が得られるため、めっき層4と表面電極42及び裏面電極43のはんだ接合が強固になる。すなわち、太陽電池用リード線1と半導体基板41との間で接合強度の高い接合が得られる。
【0065】
本発明の太陽電池によれば、太陽電池用リード線1と半導体基板41との接合強度が高いので、太陽電池モジュール製造時の歩留まり向上及びモジュール出力向上が図れる。また、太陽電池用リード線1を連続工程で製造でき、半導体基板41との接合も従来設備で可能なため、製造コストを上げることなく、デザイン性に優れるモジュールを提供できる。用途としては、人の目に触れることの多い車載用や住宅用に適用できるが、もちろん用途はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
(実施例)
原料の導電材であるCu材料を圧延加工して幅2.0mm、厚さ0.16mmの平角線状の帯板状導電材2を形成した。この帯板状導電材2をバッチ式加熱設備で熱処理し、さらに、この帯板状導電材2の周囲に図2に示した溶融めっき設備(はんだ浴温度340℃、作業現場の温度30℃、作業現場の湿度65RH%)でSn−3%Ag−0.5%Cuはんだ(液相線温度220℃)のめっきを施し、帯板状導電材2の上下面3a、3bにめっき層4(中央部のめっき厚が20μmの山形構造)を形成した(導体は熱処理Cu)。さらに、このはんだめっき線の周囲に図3に示した塗装設備でカーボンブラックを分散させたポリヒドロキシポリエーテル樹脂を含む自己融着性材料を溶剤が残らないような加熱条件で焼き付け被覆した。以上により、図1(a)の太陽電池用リード線1を得た。その後、太陽電池用リード線作製直後および60℃×95RH%の環境で1週間保管後に、酸化膜測定(オージェ分析)、接合力測定、モジュール効率測定を実施した。酸化膜厚測定は被覆した樹脂を剥離して実施した。
【0067】
(比較例1)
実施例の太陽電池用リード線1と同様に帯板状導電材を形成し、バッチ式加熱設備で熱処理し、さらに、この帯板状導電材の周囲に図2に示した溶融めっき設備(はんだ浴温度340℃、作業現場の温度30℃、作業現場の湿度65RH%)でSn−3%Ag−0.5%Cuはんだ(液相線温度220℃)のめっきを施し、帯板状導電材の上下面にめっき層(中央部のめっき厚20μm)を形成した(導体は熱処理Cu)。その後、太陽電池用リード線作製直後および60℃×95RH%の環境で1週間保管後に、酸化膜測定(オージェ分析)、接合力測定、モジュール効率測定を実施した。酸化膜厚測定は被覆した樹脂を剥離して実施した。
【0068】
(比較例2、3)
実施例の太陽電池用リード線1と同様に帯板状導電材を形成し、バッチ式加熱設備で熱処理し、さらに、この帯板状導電材の周囲に図2に示した溶融めっき設備(はんだ浴温度340℃、作業現場の温度30℃、作業現場の湿度65RH%)でSn−3%Ag−0.5%Cuはんだ(液相線温度220℃)のめっきを施し、帯板状導電材の上下面にめっき層(中央部のめっき厚20μm)を形成した(導体は熱処理Cu)。その後、太陽電池用リード線作製直後および60℃×95RH%の環境で1週間保管後に、酸化膜測定(オージェ分析)、接合力測定、モジュール効率測定を実施した。酸化膜厚測定は被覆した樹脂を剥離して実施した。
【0069】
比較例2は作製した太陽電池用リード線を半導体基板に接合した後に、太陽電池用リード線の接合面と反対側の面(モジュール表面)のみに黒色充填剤を含有するポリエステル樹脂を被覆しモジュールを作製した。
【0070】
比較例3は太陽電池用リード線の配線部をマスクすべく、配線部上に該当する部分を黒色に着色したガラス板を用いてモジュールを作製した。
【0071】
これら実施例および比較例1〜3の太陽電池用リード線(製造直後および60℃×95RH%×1週間保管後)のめっき層の表面の酸化膜厚をオージェ分析した結果、製造直後はいずれも酸化膜厚が2.5nmと薄く、60℃×95RH%×1週間保管後では、実施例は酸化膜厚が3.0nmと薄いのに対し、比較例1〜3はいずれも酸化膜厚が7.2nmと厚くなっていることが分かった。ここで、酸化膜厚は、オージェ分析によって得られるデプスプロファイル(スパッタ時間vs.組成比)において、酸素ピーク値が半減する時間で定義しており、次式で算出した。
酸化膜厚(nm)=SiO2換算スパッタレート(nm/min)×酸素ピーク値が半減する時間(min)
【0072】
これら実施例および比較例1〜3の太陽電池用リード線にロジン系フラックスを適量塗布し、それぞれの太陽電池用リード線をバスバ電極を2本有する155mm×155mm×160μmの半導体基板(予め電極にはんだ含浸なし)の上に設置し、ホットプレート加熱(260℃で30秒間保持)し、図4と同じように、太陽電池用リード線を半導体基板にはんだ付けした。さらに、これら半導体基板にはんだ付けした太陽電池用リード線の半導体基板に対する接合力を評価するために、90°剥離試験(試験速度:10mm/min、剥離長さ:15mm)を行った。また、作製した太陽電池用リード線と半導体基板の接合体をモジュールに組み込み、モジュール効率を従来の方法で作製したモジュール(比較例1)と比較した。
【0073】
実施例および比較例1〜3の評価結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2の「デザイン性」の欄は、太陽電池用リード線の金属光沢の遮断によるデザイン性の考慮の有無を示す。「製造コスト」の欄は、デザイン性を考慮しない従来の製法(比較例1)を基準とした場合の太陽電池用リード線およびモジュールの製造コストを示す。「製造直後のリード線使用」の欄において、「酸化膜厚」の欄は、オージェ分析によるデプスプロファイル(スパッタ時間vs.組成比)より求めた、めっき層の表面の酸化膜の厚み(サンプル数n=5の平均値)を示す。「接合力」の欄は、90°剥離試験により銅板と太陽電池用リード線を引っ張り、どのくらいの引張力で引っ張ったときに接合が剥がれるか試験を行った結果を示し、○は引張力10N以上、×は引張力10N未満を示す。「モジュール効率」の欄は、デザイン性を考慮しない従来の製法(比較例1)で得られたモジュール効率を基準とし、○はモジュール効率低下のないこと、×はモジュール効率が低下することを示す。また、「60℃×95RH%保管後のリード線使用」の欄は、それぞれの太陽電池用リード線を60℃×95RH%で保管後の「酸化膜厚」、「接合力」、「モジュール効率」の評価結果を示す。
【0076】
「デザイン性」評価の結果、デザイン性を考慮しない従来の製法(比較例1)以外は、モジュール外観において太陽電池用リード線の金属光沢が遮断されており、デザイン性に優れることが確認された。「製造コスト」評価の結果、製造工程が煩雑な比較例2は、従来の製法(比較例1)に比べて、製造コストが著しく増大するのに対し、実施例は連続的に太陽電池用リード線を製造することができ、しかも太陽電池用リード線を直接半導体基板であるシリコンセル上の電極にはんだ接合できるため、製造コストが従来(比較例1、3)と大きく変わらないことが分かった。「製造直後のリード線使用」の場合は、いずれの太陽電池用リード線もめっき層の表面の酸化膜厚が薄いため、接合力に優れるものの、比較例3の場合は、太陽電池用リード線の金属光沢を遮断するためにモジュールの表面のガラス板に黒い線を焼きつけ塗装しており、遮光性テープを施しており、シャドウロスが生じる分、従来に比べてモジュール効率が低下する。「60℃×95RH%保管後のリード線使用」の場合は、実施例以外は太陽電池用リード線の表面のめっき層の酸化膜成長が著しく、はんだ濡れ性が低下したため、半導体基板上の電極との接触抵抗が増大し、モジュール効率が低下することが分かった。
【符号の説明】
【0077】
1 太陽電池用リード線
2 帯板状導電材
4 めっき層
5 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯板状導電材表面にめっき層を形成した太陽電池用リード線において、上記めっき層の外側に自己融着性材料を含む被覆層を有することを特徴とする太陽電池用リード線。
【請求項2】
上記めっき層表面の酸化膜厚が7nm以下である請求項1に記載の太陽電池用リード線。
【請求項3】
上記自己融着性材料は、フェノキシ系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂のいずれかからなる樹脂成分を含有してなる請求項1又は2に記載の太陽電池用リード線。
【請求項4】
上記帯板状導電材は、体積抵抗率が50μΩ・mm以下の平角線である請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池用リード線。
【請求項5】
上記帯板状導電材は、Cu、Al、Ag、Auのいずれかからなる請求項1〜4のいずれかに記載の太陽電池用リード線。
【請求項6】
上記帯板状導電材は、タフピッチCu、低酸素Cu、無酸素Cu、リン脱酸Cu、純度99.9999%以上の高純度のCuのいずれかからなる請求項1〜5のいずれかに記載の太陽電池用リード線。
【請求項7】
上記めっき層は、Sn系はんだ、又は、第1成分としてSnを用い、第2成分としてPb、In、Bi、Sb、Ag、Zn、Ni、Cuから選択される少なくとも1つの元素を0.1mass%以上含むSn系はんだ合金からなる請求項1〜6のいずれかに記載の太陽電池用リード線。
【請求項8】
素線を圧延加工又はスリット加工することにより帯板状導電材を形成し、該帯板状導電材を連続通電加熱炉又は連続式加熱炉又はバッチ式加熱設備で熱処理し、その後、溶融はんだを供給して上記帯板状導電材にはんだめっきし、その後さらに自己融着性材料を被覆することを特徴とする太陽電池用リード線の製造方法。
【請求項9】
溶融はんだを供給して上記帯板状導電材にはんだめっきする際のめっき作業雰囲気の温度を30℃以下、めっき作業雰囲気の相対温度を65%以下とする請求項8に記載の太陽電池用リード線の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の太陽電池用リード線、請求項8又は9に記載の製造方法により製造された太陽電池用リード線のいずれかを、そのめっき層のはんだによって半導体基板の表面電極及び裏面電極にはんだ付けしたことを特徴とする太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−119538(P2011−119538A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276742(P2009−276742)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【出願人】(591039997)日立マグネットワイヤ株式会社 (63)
【Fターム(参考)】