太陽電池用半導体薄膜の製造方法および太陽電池用半導体薄膜
【解決手段】金属酸化物粒子を含有し、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を静電インクジェット方式によって吐出ノズルから透明電極板上に吐出することによりパターンを形成することを特徴とする太陽電池用半導体薄膜の製造方法。
【効果】本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法は、光電変換効率が高い太陽電池用半導体薄膜を製造することができ、さらには作業効率が高く、複雑なパターンを有する太陽電池用半導体薄膜を容易に製造するができる。本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法によれば、相互に接する層が、異なる粒径を有する金属酸化物粒子を含有する二層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜、および同一層内に、粒径が相互に異なる少なくとも2種類の金属酸化物粒子を含有する少なくとも一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜を製造することができ、これらの太陽電池用半導体薄膜は光電変換効率が高い。
【効果】本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法は、光電変換効率が高い太陽電池用半導体薄膜を製造することができ、さらには作業効率が高く、複雑なパターンを有する太陽電池用半導体薄膜を容易に製造するができる。本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法によれば、相互に接する層が、異なる粒径を有する金属酸化物粒子を含有する二層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜、および同一層内に、粒径が相互に異なる少なくとも2種類の金属酸化物粒子を含有する少なくとも一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜を製造することができ、これらの太陽電池用半導体薄膜は光電変換効率が高い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用半導体薄膜の製造方法および太陽電池用半導体薄膜に関する。さらに詳しくは、静電インクジェット方式によってパターニングを行う太陽電池用半導体薄膜の製造方法、およびその製造方法によって製造される太陽電池用半導体薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の少ないクリーンエネルギーとして太陽電池が注目されている。太陽電池の中でも色素増感型太陽電池は、形状が限定されてしまうSi型太陽電池では困難であった自由な形状の太陽電池が作製可能であることや、大掛かりな半導体装置を必要とせず、構造が単純で量産しやすいという観点から、次世代の太陽電池として特に期待されている。
【0003】
一般的な色素増感型太陽電池は、表面に色素が吸着されたTiO2粒子等の金属酸化物粒子からなる半導体薄膜が、ガラス板等の支持体上に透明電極層が形成されてなる透明電極板の透明電極層の上にコートされてなる電極と、ガラス板等の支持体上の透明電極層が形成されてなる対電極と、これら電極と対電極の間に封入された電解質とから構成させる。ここで、半導体薄膜を含む電極が負極、対電極が正極として作用する。負極側から光が照射されると、金属酸化物粒子の表面に吸着された色素がこの光を吸収し、励起する。この励起によって電子が発生し、この電子は金属酸化物粒子を介して透明電極層に移動し、2つの電極を接続する導線を通って対電極に移動する。対電極に移動した電子は、電解質中の酸化還元系を還元する。電子を発生させた色素は酸化体の状態になっており、この酸化体は電解質中の酸化還元系によって還元され、元の状態に戻る。このようにして電子が連続的に流れることにより、色素増感型太陽電池内では電気が発生する。
【0004】
色素増感型太陽電池は、上記の長所を有するが、その一方で光電変換効率が低いという短所を有している。色素増感型太陽電池の光電変換効率の向上を図る方法としては、金属酸化物粒子の改良、電解質の改良、色素の改良、半導体薄膜の形成方法の改良などが挙げられる。金属酸化物粒子の改良については、その種類(TiO2など)や焼成条件の検討等、電解質の改良については、電解質の半導体薄膜への拡散を向上させる技術の開発、色素の改良については、広範囲の波長に対応可能な色素の開発などが行われているが、光電変換効率を実用レベルまで向上させるにはこれらの対策のみでは限界があり、半導体薄膜の形成方法の改良が不可欠である。ところが、半導体薄膜の形成方法のような機械的な技術に関してはあまり多くの研究が行われていないのが実情である。
【0005】
従来、半導体薄膜は、特に金属酸化物系の半導体薄膜の場合、金属酸化物粒子を含有する半導体薄膜形成用組成物を透明電極板上にドクターブレード法、スピンコート法、スクリーン印刷法などにより塗布して形成されるのが一般的であった。しかし、これらの方法では、所定の厚みにするため半導体薄膜形成用組成物を重ね塗りして半導体薄膜を形成する場合には、半導体薄膜形成用組成物を1回塗布する毎に乾燥工程を繰り返さなければならず、作業効率が低かった。また、これらの方法では、複雑なパターンを有する半導体薄膜を形成することは困難であり、できたとしても経済性が低いという問題があった。
【0006】
これら以外の半導体薄膜の形成方法としては、インクジェット方式により半導体薄膜形成用組成物を透明電極板上に吐出して半導体薄膜を形成する方法が知られている(特許文献1および2)。この方法では、ピエゾ式およびサーマル式のインクジェットプリンターが用いられている。インクジェット方式によれば、所定の厚みに調整された半導体薄膜を形成する場合に、半導体薄膜形成用組成物を吐出した後、これを乾燥することなく次の半導体薄膜形成用組成物をその上に複数回吐出することが可能であり、上記ドクターブレード法等に比較して重ね塗りによるパターン形成の作業効率が高い。また、この方法では、複雑なパターンを有する半導体薄膜を容易に形成することができる。
【0007】
しかし、インクジェット方式により形成された半導体薄膜を有する太陽電池は、ドクターブレード法等によって形成された半導体薄膜を有する太陽電池に比較しても光電変換効率が低いという問題を有しており、実用化にはほど遠い状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−168496号公報
【特許文献2】特開2007−42572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の事情の下になされたものであり、本発明の目的は、光電変換効率が高い太陽電池用半導体薄膜の製造方法、さらには複雑なパターンを有する太陽電池用半導体薄膜を容易に製造する方法、そして作業効率が高い太陽電池用半導体薄膜の製造方法を提供することである。また、本発明の目的は、光電変換効率が高い太陽電池用半導体薄膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、静電インクジェット方式を用い、さらに高粘度の半導体薄膜形成用組成物を用いることにより、前記目的を達成し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、金属酸化物粒子を含有し、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を静電インクジェット方式によって吐出ノズルから透明電極板上に吐出することによりパターンを形成し、半導体薄膜を製造することを特徴とする太陽電池用半導体薄膜の製造方法である。
【0011】
前記発明の好適な態様として、半導体薄膜形成用組成物を吐出ノズルから透明電極板上に吐出することによりパターンを形成し、そのパターンの上に半導体薄膜形成用組成物を1回以上重ねて吐出することにより所定の厚みのパターンを形成する太陽電池用半導体薄膜の製造方法、
粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物を吐出ノズルから透明電極板上に順次吐出して、それぞれの半導体薄膜形成用組成物からなる層を積層してパターンを形成する太陽電池用半導体薄膜の製造方法、
粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物をそれぞれ別の吐出ノズルから透明電極板上に吐出して、前記複数種類の半導体薄膜形成用組成物に含有される金属酸化物粒子がランダムに混合されるように一層のパターンを形成する太陽電池用半導体薄膜の製造方法、および
前記金属酸化物粒子が酸化チタン粒子である太陽電池用半導体薄膜の製造方法を挙げることができる。
【0012】
また、他の発明は、金属酸化物粒子を含有し、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を用いて静電インクジェット方式により形成された少なくとも二層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜であって、相互に接する層が、異なる粒径を有する金属酸化物粒子を含有することを特徴とする太陽電池用半導体薄膜、および
金属酸化物粒子を含有し、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を用いて静電インクジェット方式により形成された少なくとも一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜であって、同一層内に、粒径が相互に異なる複数種類の金属酸化物粒子がランダムに混合された状態で含有されることを特徴とする太陽電池用半導体薄膜である。
【0013】
前記発明の好適な態様として、前記金属酸化物粒子が酸化チタン粒子である太陽電池用半導体薄膜を挙げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法は、静電インクジェット方式を採用し、さらにピエゾ式およびサーマル式のインクジェット方式では使用できなかった高粘度の半導体薄膜形成用組成物を使用することにより、光電変換効率が高い太陽電池用半導体薄膜を製造することができ、さらには平滑で膜厚の大きなパターン形成時の作業効率が高く、複雑なパターンを有する太陽電池用半導体薄膜を容易に製造することができる。
【0015】
本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法によれば、相互に接する層が、異なる粒径を有する金属酸化物粒子を含有する二層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜、および同一層内に、粒径が相互に異なる少なくとも2種類の金属酸化物粒子を含有する少なくとも一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜を製造することができ、これらの太陽電池用半導体薄膜は光電変換効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、太陽電池用半導体薄膜4の断面模式図である。
【図2】図2は、太陽電池用半導体薄膜8の断面模式図である。
【図3】図3は、半導体薄膜製造装置10の概略図である。
【図4】図4は、参考例1で得られたパターンの顕微鏡写真である。
【図5】図5は、参考例2で得られた印加電圧とライン幅との関係を示す図である。
【図6】図6は、参考例3で得られた印加電圧とライン幅との関係を示す図である。
【図7】図7は、参考例4で得られたパターンのライン幅とパターンの塗り回数との関係を示す図である。
【図8】図8は、太陽電池の製造方法を表す概略図である。
【図9】図9は、実施例1で得られた半導体薄膜における電圧と光電流密度との関係を示す図である。
【図10】図10は、実施例2で得られた半導体薄膜における電圧と光電流密度との関係を示す図である。
【図11】図11は、実施例3で得られた半導体薄膜における電圧と光電流密度との関係を示す図である。
【図12】図12は、実施例4で得られた半導体薄膜における電圧と光電流密度との関係を示す図である。
【図13】図13は、実施例5で得られた半導体薄膜における電圧と光電流密度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法は、金属酸化物粒子を含有し、粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を静電インクジェット方式によって吐出ノズルから透明電極板上に吐出することによりパターンを形成し、半導体薄膜を製造することを特徴とする。
【0018】
静電インクジェット方式は、パターン形成材料を満たした絶縁性の吐出ノズルと対向電極との間に電圧を印加することによって吐出ノズルの先端からパターン形成材料を吐出させる静電インクジェット現象を利用したパターン形成方式である。本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法における、静電インクジェット方式によるパターン形成材料である半導体薄膜形成用組成物の吐出は、公知の静電インクジェットプリンターを用いて行うことができる。
【0019】
本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法において使用する半導体薄膜形成用組成物は、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである。半導体薄膜形成用組成物の粘度が前記範囲内であると、光電変換効率が高く、複雑なパターンを有する太陽電池用半導体薄膜を製造することができ、さらにパターン形成時の作業効率が高くなる。また、複数回の吐出による重ね塗りが容易であるので、太陽電池用半導体薄膜の膜厚を所望の値に自由に調整することができる。前記粘度としては、好ましくは50〜10,000mPa・sであり、さらに好ましくは100〜1,000mPa・sである。半導体薄膜形成用組成物の粘度が、たとえば50mPa・s以上の高粘度であると、光電変換効率がより高く、より複雑なパターンを有する太陽電池用半導体薄膜を製造することができ、さらにパターン形成時の作業効率がより高くなる。また、複数回の吐出による重ね塗りがよりいっそう容易になるので、太陽電池用半導体薄膜の膜厚を所望の値に自由に調整することができるようになる。
【0020】
従来の太陽電池用半導体薄膜の製造に使用されていたピエゾ式およびサーマル式のインクジェット方式においては、上記のような高粘度の半導体薄膜形成用組成物を使用することはできず、逆にノズル詰りを防止するために低粘度、たとえば、10mPa・s以下の半導体薄膜形成用組成物が使用されていた。本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法が採用する静電インクジェット方式においては、前述のとおり、静電気により半導体薄膜形成用組成物を吐出させるため、高粘度の半導体薄膜形成用組成物、すなわちペースト状の半導体薄膜形成用組成物であっても使用することができる。
【0021】
高粘度の半導体薄膜形成用組成物を用いることにより、光電変換効率が高い太陽電池用半導体薄膜を製造することができるのは、半導体薄膜形成用組成物の粘度が高いと、分散媒および膜形成助剤などの、半導体材料以外の成分の含有量が少なくなる等の理由から、半導体材料が密に詰め込まれた半導体薄膜が得られ、その結果、光の照射により色素から発生した電子が半導体薄膜を通って、透明電極層に移動しやすくなるからと考えられる。また、半導体材料を密に詰め込むことができることにより、太陽電池用半導体薄膜製造の作業効率を高くすることができ、複雑なパターンを有する太陽電池用半導体薄膜であっても精度良く形成でき、膜厚制御も容易になるものと考えられる。
【0022】
前記半導体薄膜形成用組成物は、少なくとも半導体材料である金属酸化物粒子を含有する。半導体材料として金属酸化物粒子を用いると、多孔質金属酸化物半導体を得ることができるので好ましい。多孔質金属酸化物半導体は、光増感材吸着量が大きく、また電解質が保持されやすく、電子が移動しやすいので、光電変換効率が高い。金属酸化物粒子としては、たとえば、酸化チタン、酸化ランタン、酸化ジルコニウム、酸化ニオビウム、酸化タングステン、酸化ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム等からなる粒子を挙げることができる。これらの金属酸化物粒子は、1種単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0023】
これらの金属酸化物粒子の中でも、光触媒機能に優れている点で、酸化チタンが特に好ましい。また、酸化チタンの中でも、アナターゼ型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、ルチル型酸化チタンの1種または2種以上からなる結晶性酸化チタンが好ましい。結晶性酸化チタンはバンドギャップが高く、かつ誘電率が高く、他の金属酸化物粒子と比較して光増感材の吸着量が多い。さらに安定性、安全性が高く、膜形成が容易である等の優れた特性がある。
【0024】
金属酸化物粒子の電子顕微鏡観察により求められる粒径は、1〜500nmであることが好ましく、5〜300nmであることがさらに好ましい。粒径が前記範囲内にあると、比表面積の大きな金属酸化物薄膜が作製できる。また、金属酸化物粒子は球状であることが好ましい。
【0025】
半導体薄膜形成用組成物中の金属酸化物粒子の含有量は、通常1〜70質量%、好ましくは20〜50質量%である。金属酸化物粒子の含有量が前記範囲内にあると、半導体薄膜形成用組成物の粘度を前記範囲内に調整しやすく、また光電変換効率が高い太陽電池用半導体薄膜を製造しやすい。
【0026】
半導体薄膜形成用組成物には、粘度の調整等の目的で、分散媒を含有させることができる。分散媒としては、金属酸化物粒子を分散させることができ、乾燥により除去できるものであれば特に制限なく使用することができ、たとえば、水、アルコール、アセトン、ヘキサン、ジクロロメタン等が挙げられる。半導体薄膜形成用組成物中の分散媒の含有量は、半導体薄膜形成用組成物の粘度が前記範囲内に調整できるように適宜決定することができる。
【0027】
半導体薄膜形成用組成物には、組成物の粘度調整と共に、半導体薄膜の成膜性を高めるために、膜形成助剤を含有させることができる。膜形成助剤としては、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール等が挙げられる。半導体薄膜形成用組成物中の膜形成助剤の含有量は、通常0.1〜10質量%、好ましくは2〜5質量%である。膜形成助剤の含有量が前記範囲内にあると、半導体薄膜形成用組成物の粘度を、ノズルから吐出しやすい程度に調整でき、均一に乾燥した膜が得られ、さらに金属酸化物粒子が密に充填され、充填後の嵩密度が高くなり、電極との密着性の高い半導体薄膜を得ることができる。
【0028】
分散媒、膜形成助剤等を含む半導体薄膜形成用組成物層は、後述する焼成工程を経て、空洞の多い多孔質層を形成する。この多孔質層からなる半導体薄膜は、色素が吸着されやすく、また電解質が入りやすく、かつ保持されやすいことから、優れた光電変換効率を示す。
【0029】
その他、半導体薄膜形成用組成物には、分散剤、界面活性剤を含有させることができる。
分散剤は、酸化物半導体が凝集するのを防ぐ役割を果たし、酸化物半導体と化学的にまたは物理的に結合ないし吸着する有機物であればよく、アセチルアセトンが好適に使用される。アセチルアセトンのようなジケトナート化合物を使用すると、一部の金属酸化物は金属錯体を形成して、分散性および成膜性の向上に寄与する。また後述の焼成工程を経ると、その金属錯体は金属酸化物へと戻り、半導体薄膜を構成する。
【0030】
また界面活性剤は、溶媒に水を使用する時に酸化物半導体を均一に分散するのを助ける効果があり、アニオン系、カチオン系、ノニオン系などの様々な界面活性剤が使用可能である。
【0031】
吐出ノズルとしては、特に制限はなく、従来の静電インクジェット方式で使用されている吐出ノズルを使用することができる。通常、先端形状がテーパーまたはストレートの吐出ノズルが使用される。吐出ノズルの材料は、導電性であっても、絶縁性であってもよい。
【0032】
吐出ノズルの内径は、通常5μm〜500μmである。吐出ノズルの内径は、半導体薄膜形成用組成物の粘度の大きさ等に応じて決定される。通常、半導体薄膜形成用組成物の粘度が高い場合には内径の大きい吐出ノズルが使用され、半導体薄膜形成用組成物の粘度が低い場合には内径の小さい吐出ノズルが使用される。たとえば、半導体薄膜形成用組成物の粘度が50〜100mPa・sのときには、吐出ノズルの内径は好ましくは5〜200μmであり、より好ましくは5〜150μmである。半導体薄膜形成用組成物の粘度が100mPa・sより大きく30,000mPa・s以下のときには、吐出ノズルの内径は好ましくは30〜500μmであり、より好ましくは100〜500μmである。
【0033】
透明電極板としては、特に制限はなく、従来の太陽電池で使用されている透明電極板を使用することができる。透明電極板は、透明基板上に透明電極層が形成されてなる。透明基板の例としては、ガラス基板、ポリイミドやポリカーボネートなどの有機ポリマー基板が挙げられ、透明でかつ絶縁性、耐候性および耐熱性を有する基板が好ましい。透明電極層としては、酸化錫、Sb、FまたはPがドーピングされた酸化錫、Snおよび/またはFがドーピングされた酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、貴金属等からなる電極層を挙げることができる。たとえば、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛等からなる電極層が透明電極層として好適に使用される。このような透明電極層は、熱分解法、CVD法などの従来公知の方法により形成することができる。 透明基板および透明電極層は、紫外光、可視光、赤外光の透過率が高く、また抵抗値が小さいほうが、光電変換効率を高める上で好ましい。
【0034】
半導体薄膜形成用組成物の吐出ノズルからの吐出は、従来の静電インクジェット方式における吐出と同様に行うことができる。通常、対向電極上に透明電極板を載せ、その透明電極板から一定の間隔をあけて、半導体薄膜形成用組成物が充填された吐出ノズルの吐出口を対置させる。吐出ノズルに電圧をかけることにより、吐出ノズルと対向電極との間に電界が生じ、これにより吐出ノズルの吐出口から半導体薄膜形成用組成物が透明電極板の透明電極層上に吐出される。印加電圧は、通常−5kv〜5kvの範囲である。印加電圧の強度を制御することにより、吐出ノズルと対向電極との間に形成される電界の強度が制御される。電界の強度を制御することによって、吐出ノズルから吐出される半導体薄膜形成用組成物の量が調整される。吐出時に、対向電極を水平方向に移動させることにより、または吐出ノズルを水平方向に移動させることによりパターニングが行われる。パターンの形状は、目的に応じて適宜決定することができる。
【0035】
前述のとおり、静電インクジェット方式により高粘度の半導体薄膜形成用組成物の吐出を行うと、金属酸化物粒子が密に詰まったパターンを形成することができるので、本発明の製造方法においては、半導体薄膜形成用組成物の重ね塗りによる膜厚調整が容易である。具体的には、半導体薄膜形成用組成物を吐出ノズルから透明電極板上に吐出することによりパターンを形成し、そのパターンの上に半導体薄膜形成用組成物を1回以上重ねて吐出することにより所定の厚みのパターンを形成することができる。本発明では、この操作を重ね塗りと呼んでいる。この場合、同じ半導体薄膜形成用組成物を用いて重ね塗りをする限り、一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜が得られる。重ね塗りの回数には特に制限はない。
【0036】
色素増感型太陽電池の光電変換効率は、半導体薄膜の膜厚により影響を受けると考えられるが、ドクターブレード法などの従来の半導体薄膜の製造方法では、半導体薄膜の膜厚を調整することが困難であった。本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法では、前述のとおり、1回の吐出により形成されるパターンの厚みおよび重ね塗りの回数を適宜決定することにより、希望する所定の厚みの半導体薄膜を形成することができる。このため、本発明の製造方法を用いれば、光電変換効率と半導体薄膜の膜厚との関係を正確に把握することができ、その結果に基づいて最適な半導体薄膜の膜厚を把握することができる。場合によっては、本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法により最適な半導体薄膜の膜厚を決定しておき、ドクターブレード法など他の半導体薄膜の製造方法を使用して、その膜厚の半導体薄膜を製造してもよい。こうすることにより、効率的な最適膜厚を有する半導体薄膜の製造が可能になる。
【0037】
半導体薄膜を形成する際、それを構成する金属酸化物粒子の粒径は均一でも不均一でもよい。
また、重ね塗りをする際に、その前に吐出した半導体薄膜形成用組成物に含まれる金属酸化物粒子とは異なる粒径を有する金属酸化物粒子を含む半導体薄膜形成用組成物を順次吐出して、重ね塗りをすること、すなわち、粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物を吐出ノズルから透明電極板上に順次吐出して、それぞれの半導体薄膜形成用組成物からなる層を積層してパターンを形成することもできる。
【0038】
好ましくは、粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物を複数個の吐出ノズルに別々に充填し、そのうちの1個の吐出ノズルから透明電極板上に第1の半導体薄膜形成用組成物を吐出してパターンを形成し、そのパターンの上に他の吐出ノズルから第2の半導体薄膜形成用組成物を吐出してパターンを二層状に形成する。さらに必要に応じて、その上に任意の吐出ノズルから、相互に接する層に含まれる金属酸化物粒子の粒径が異なるように、第2の半導体薄膜形成用組成物とは別の半導体薄膜形成用組成物を吐出してパターンを積層してもよい。この方法により、少なくとも二層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜であって、相互に接する層が、異なる粒径を有する金属酸化物粒子を含有する太陽電池用半導体薄膜が製造される。層の数は、二層以上であれば特に制限はない。
【0039】
図1に、この方法によって形成される太陽電池用半導体薄膜の一具体例である太陽電池用半導体薄膜4の断面模式図を示す。図1においては、透明基板2の上に透明電極層3が形成されてなる透明電極板1における透明電極層3の上に太陽電池用半導体薄膜4が形成されている。太陽電池用半導体薄膜4は、透明電極層3の上に形成された第一層5と、第一層5の上に形成された第二層6と、第二層6の上に形成された第三層7とからなる。第一層5は、金属酸化物粒子5aを含む半導体薄膜形成用組成物を吐出して形成された層であり、金属酸化物粒子5aが充填されている。第二層6は、金属酸化物粒子5aよりも大きい粒径を有する金属酸化物粒子6aを含む半導体薄膜形成用組成物を吐出して形成された層であり、金属酸化物粒子6aが充填されている。第三層7は、金属酸化物粒子6aよりも大きい粒径を有する金属酸化物粒子7aを含む半導体薄膜形成用組成物を吐出して形成された層であり、金属酸化物粒子7aが充填されている。
【0040】
この方法によって形成される太陽電池用半導体薄膜においては、相互に接する層に含まれる金属酸化物粒子の粒径が異なっていれば、上層へいくに従って、金属酸化物粒子の粒径が小さくなるように層が並んでいても、金属酸化物粒子の粒径が大きくなるように層が並んでいても、またランダムに金属酸化物粒子の粒径が変化するように層が並んでいてもよい。また、相互に接していない層に含まれる金属酸化物粒子の粒径は同じであってもよく、たとえば第一層に含まれる金属酸化物粒子の粒径と第三層に含まれる金属酸化物粒子の粒径とが同じであってもよい。
【0041】
このような相互に接する層が異なる粒径を有する金属酸化物粒子を含有する充填密度の高い二層以上のパターンは、加熱炉中で400〜500℃で焼成することにより、粒子配列が緻密でかつ多孔質になって、光照射によって増感色素から生じた電子が半導体薄膜を通って透明電極層に伝達されやすくなる結果、光電変換効率の高い太陽電池用半導体薄膜が得られるという利点を有する。
【0042】
本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法においては、粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物をそれぞれ別の吐出ノズルから透明電極板上に吐出して、前記複数種類の半導体薄膜形成用組成物に含有される金属酸化物粒子がランダムに混合されるように一層のパターンを形成することもできる。好ましくは、粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物をそれぞれ別の吐出ノズルに充填し、透明電極板上にそれぞれの吐出ノズルから半導体薄膜形成用組成物を同時に吐出する。このとき、吐出ノズルもしくは透明電極板またはその両方を平面方向に動かして、同一層内に、粒径が相互に異なる複数種類の金属酸化物粒子がランダムに混合されるように一層のパターンを形成する。この方法により、同一層内に、粒径が相互に異なる複数種類の金属酸化物粒子がランダムに混合された状態で含有される少なくとも一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜が製造される。粒径が相互に異なる金属酸化物粒子の種類の数は、2種類以上であれば特に制限はない。
【0043】
図2に、この方法によって形成される太陽電池用半導体薄膜の一具体例である太陽電池用半導体薄膜8の断面模式図を示す。図2においては、透明基板2の上に透明電極層3が形成されてなる透明電極板1における透明電極層3の上に太陽電池用半導体薄膜8が形成されている。太陽電池用半導体薄膜8は、一層の膜であって、金属酸化物粒子8aと、金属酸化物粒子8aよりも粒子径が大きい金属酸化物粒子8bとから形成される。太陽電池用半導体薄膜8においては、金属酸化物粒子8aと金属酸化物粒子8bとがランダムに混合された状態で充填されている。
【0044】
この方法においては、上記のように一層のパターンを形成した後、その上に1回以上同様の方法で重ね塗りをして、所定の膜厚の太陽電池用半導体薄膜を製造することもできる。この場合、同じ半導体薄膜形成用組成物を用いて、同様のパターン形成条件を用いる限り、一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜が得られる。
【0045】
このように形成した一層のパターンの上に、そのパターンの形成に用いた半導体薄膜形成用組成物とは異なる半導体薄膜形成用組成物を用いてパターンを形成し、またはそのパターンの形成に用いた半導体薄膜形成用組成物と同じ半導体薄膜形成用組成物であっても、異なるパターン形成条件でパターンを形成することにより、二層以上のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜を製造することもできる。
【0046】
このような粒径が相互に異なる少なくとも2種類の金属酸化物粒子がランダムに混合された状態で含有される少なくとも一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜は、大きい粒子径を有する金属酸化物粒子間の空隙に小さい粒子径を有する金属酸化物粒子間が効率的に埋め込まれるため、金属酸化物粒子が密に充填され、光照射によって増感色素から生じた電子が半導体薄膜を通って透明電極層に伝達されやすくなる結果、光電変換効率が高くなるという利点を有する。
【0047】
図3に、本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法で使用する半導体薄膜製造装置の一具体例である半導体薄膜製造装置10の概略図を示す。半導体薄膜製造装置10は、半導体薄膜形成用組成物11を収容するシリンジ12と、シリンジ12に取り付けられた、吐出ノズルであり、液体針電極として機能するキャピラリーチューブ13と、パターンを形成する対象である透明電極板14と、透明電極板14を保持し、平板電極として機能する対向電極15と、キャピラリーチューブ13と対向電極15との間の電極間ギャップを変更するzステージ部16と、対向電極15を水平方向に移動させるxyステージ部17と、シリンジ12に高電圧を印加する高電圧電源18とを備えている。
【0048】
半導体薄膜製造装置10においては、対向電極15がアースされているので、印加される高電圧によって、シリンジ12と対向電極15との間に電界が形成される。その結果、シリンジ12に収容された半導体薄膜形成用組成物11がキャピラリーチューブ13の先端から液滴として吐出され、透明電極板14上に付着する。このとき、ステージ部16および17の作用によって対向電極15を移動させ、透明電極板14の水平方向の位置を調整することによりパターンが形成される。吐出量は、電界強度を制御することによって調整することができる。パターンの重ね塗りをする場合には、ステージ部16の作用によって対向電極15を垂直方向に移動させ、キャピラリーチューブ13の先端と対象物との距離を調節して重ね塗りを行う。
【0049】
上記のようにして形成された半導体薄膜形成用組成物からなるパターンを焼成して、太陽電池半導体薄膜を作製する。焼成条件は、従来の太陽電池用半導体薄膜の製造方法で行われている焼成の条件と同様であってよい。たとえば、加熱炉中で、400〜500℃で、5〜60分間焼成を行う。この焼成工程を経ると、金属酸化物粒子間の結合が強くなり、組織が緻密になって、光照射によって発生した電子が透明電極層に移動しやすくなる。
【0050】
色素増感型太陽電池の場合、半導体薄膜の表面に色素が吸着して、光電変換層が形成されている。色素としては、紫外光領域、可視光領域および赤外光領域の光を吸収して励起するものであれば特に制限はなく、たとえば公知の有機色素、金属錯体などを用いることができる。
【0051】
有機色素としては、分子中にカルボキシル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシル基、スルホン基、リン酸基、カルボキシアルキル基等の官能基を有する従来公知の有機色素が使用できる。具体的には、メタルフリーフタロシアニン、シアニン系色素、メタロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素およびウラニン、エオシン、ローズベンガル、ローダミンB、ジブロムフルオレセイン等のキサンテン系色素等が挙げられる。さらに、メルロクローム(Merurochrome)、メロシアニン、リボフラビンフォスフェート、テトラブロモフェノールブルー、テトラスルフォフタロシアニンも使用することができる。これらの有機色素は(金属酸化物)半導体膜への吸着速度が早いという特性を有している。
【0052】
金属錯体としては、特開平1-220380号公報、特表平5-504023号公報などに記載された銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニンなどの金属フタロシアニン、クロロフィル、ヘミン、ルテニウム-トリス(2,2'-ビスピリジル-4,4'-ジカルボキシラート)、シス-(SCN-)-ビス(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジカルボキシレート)ルテニウム、ルテニウム-シス-ジアクア-ビス(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジカルボキシラート)などのルテニウム-シス-ジアクア-ビピリジル錯体、亜鉛-テトラ(4-カルボキシフェニル)ポルフィンなどのポルフィリン、鉄-ヘキサシアニド錯体等のルテニウム、オスミウム、鉄、亜鉛、白金などの錯体を挙げることができる。これらの金属錯体は分光増感の効果や耐久性に優れている。
【0053】
有機色素または金属錯体は単独で用いてもよく、有機色素または金属錯体の2種以上を混合して用いてもよく、さらに有機色素と金属錯体とを併用してもよい。
半導体薄膜への色素の吸着方法には特に制限はなく、色素を溶媒に溶解した溶液に半導体薄膜を浸漬することによって吸着させることができる。また、色素溶液に金属酸化物粒子を分散させて、色素をあらかじめ前記金属酸化物粒子に吸着させておいてもよい。
【0054】
半導体薄膜に吸着させる色素の量は、色素が吸着されていない半導体薄膜の単位表面積(1cm2)あたり50μg以上であることが、高い光電変換効率を得る上で好ましい。
このようにして製造された光電変換用の半導体薄膜の膜厚は、通常0.01〜200μm、好ましくは1〜50μmである。前述のとおり、本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法では、太陽電池用半導体薄膜の膜厚を調整することが容易であるので、光電変換効率が大きくなるように太陽電池用半導体薄膜の膜厚を調整することができる。
【0055】
このようにして製造された太陽電池用半導体薄膜を用いて、従来の太陽電池用半導体薄膜の製造方法により製造された太陽電池用半導体薄膜と同様の方法で、太陽電池を製造することができる。
【0056】
色素増感型太陽電池の場合は、一般に、上記のようにして製造された太陽電池用半導体薄膜が前述の透明電極板の上にコートされてなる電極と、基板上に透明電極層が形成されてなる対電極と、これら電極と対電極の間に封入された電解質とからなる。
【0057】
対電極における基板としては、ガラス基板、高分子樹脂基板、金属基板等の実用強度を有する基板が用いられる。対電極の基板上に形成される透明電極層としては、還元触媒能を有するものであれば特に制限されるものでなく、白金、ロジウム、ルテニウム金属、ルテニウム酸化物等の電極材料、酸化錫、Sb、FまたはPがドーピングされた酸化錫、Snおよび/またはFがドーピングされた酸化インジウム、酸化アンチモンなどの導電性材料の表面に前記電極材料をメッキあるいは蒸着した電極、カーボン電極など従来公知の電極を用いることができる。 このような透明電極層は、基板上に前記電極を直接コーティング、メッキあるいは蒸着させて、導電性材料を熱分解法、CDV法等の従来公知の方法により導電層を形成した後、この導電層上に前記電極材料をメッキあるいは蒸着するなど従来公知の方法により形成することができる。
【0058】
電解質としては、電気化学的に活性な塩と、これと酸化還元系を形成する少なくとも1種の化合物との混合物が使用される。電気化学的に活性な塩としては、テトラプロピルアンモニウムヨーダイドなどの4級アンモニウムヨウ化物が挙げられる。酸化還元系を形成する化合物としては、キノン、ヒドロキノン、沃素(I-/I3-)、沃化カリウム、臭素(Br-/Br3-)、臭化カリウム等が挙げられる。酸化還元系を形成する化合物は、場合によってはこれらを混合して使用することもできる。
【0059】
このような電解質の使用量は、電解質の種類、後述する溶媒などの種類によっても異なるが、必要に応じて使用する溶媒との混合物中の濃度が概ね0.1〜5モル/リットルの範囲にあることが好ましい。また、溶媒としては、従来公知の溶媒を使用することができ、具体的には水、アルコール類、オリゴエーテル類、プロピオンカーボネート等のカーボネート類、燐酸エステル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N-ビニルピロリドン、スルホラン、炭酸エチレン、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【実施例】
【0060】
[パターニング方法]
後述の半導体薄膜形成用組成物を用いて、図3に示した半導体薄膜製造装置10によりパターニングを行った。半導体薄膜製造装置10を構成する要素は以下のとおりである。
シリンジ12:サイエンテック社製注射器シリンジ(容量10ml)
キャピラリーチューブ13:サイエンテック社製導電性キャピラリーチューブ(ノズル内径100μm)
透明電極板14:ガラス基板の上にFTO透明電極層が形成されてなる透明電極板
ステージ部16:中央精機(株)製2軸ステージコントローラーQT−CM2−35
ステージ部17:中央精機(株)製ALS−301−HM
高電圧電源18:松定プレシジョン社製高電圧アンプHVR−5P(−5〜5kV)
【0061】
シリンジ12およびキャピラリーチューブ13に、キャピラリーチューブ13の先端からの液位が50mmになるように、半導体薄膜形成用組成物11を満たした。ステージ部16を操作して、キャピラリーチューブ13を、その先端から透明電極板14までの距離(以下、「ギャップ」という)が一定値となるように配置した。高電圧電源18によってキャピラリーチューブ13に電圧を印加することにより、キャピラリーチューブ13から半導体薄膜形成用組成物を吐出させ、透明電極板14のFTO透明電極層上にパターンを形成した。
【0062】
[半導体薄膜形成用組成物の作製]
(作製例1)
スクリュー管瓶にTiO2粒子(電子顕微鏡観察により求めた粒径範囲20〜30nm)を1.85gおよび蒸留水1.00gを秤量し、撹拌機を用いて30秒間撹拌し、次いで30秒間脱泡した。その後、アセチルアセトン0.20mlを混合し、撹拌機を用いて30秒間撹拌し、次いで30秒間脱泡した。次に、界面活性剤(商品名トリトン−X)の30質量%水溶液1.00mlを混合し、撹拌機を用いて30秒間撹拌し、次いで2分間脱泡した。最後に、ポリエチレングリコール0.1850gを混合し、撹拌機を用いて90秒間撹拌し、次いで90秒間脱泡した。その後、超音波洗浄機を用いて30秒間さらに撹拌を加えることにより、半導体薄膜形成用組成物(以下、ペースト1という)を作製した。ペースト1の25℃における粘度は、450mPa・sであった。ペースト1の粘度は、振動式粘度計ビスコメイトVM−10A−L(CBC社製)により測定した。
【0063】
(作製例2)
秤量する蒸留水の量を2.00gとしたこと以外は作製例1と同様にして、半導体薄膜形成用組成物(以下、ペースト2という)を作製した。ペースト2の粘度は、106mPa・sであった。粘度の測定方法は、作製例1と同様である。
【0064】
(作製例3)
秤量する蒸留水の量を3.00gとしたこと以外は作製例1と同様にして、半導体薄膜形成用組成物(以下、ペースト3という)を作製した。ペースト3の粘度は、35mPa・sであった。粘度の測定方法は、作製例1と同様である。
【0065】
(作製例4)
秤量する蒸留水の量を0.50gとしたこと以外は作製例1と同様にして、半導体薄膜形成用組成物(以下、ペースト4という)を作製した。ペースト4の粘度は、671mPa・sであった。粘度の測定方法は、作製例1と同様である。
【0066】
(作製例5)
前記TiO2粒子の替わりに、電子顕微鏡観察により求めたが粒径200nmであるTiO2粒子を使用したこと以外は作製例2と同様にして、半導体薄膜形成用組成物(以下、ペースト5という)を作製した。ペースト5の粘度は、680mPa・sであった。粘度の測定方法は、作製例1と同様である。
【0067】
[参考例1]
ペースト1を用いて、前記パターニング方法により1回パターニングすることにより、ライン状のパターンを形成した。印加電圧を2.5V、ギャップを2.0mmとした。得られたパターンの顕微鏡写真(倍率250倍)を図4に示した。
【0068】
図4の(a)はパターン先端部の写真であり、(b)はパターン中央部の写真である。
このパターンの長さは5.00mm、幅は0.25mm、膜厚は、中央部で2.00μm、端部で5μmであり、表面が平滑で良好な形状であった。長さ、幅および膜厚は光学顕微鏡観察(倍率250倍)により測定した。
【0069】
[比較参考例1]
ペースト1の替わりにペースト3を用いたこと以外は参考例1と同様にして、パターンを形成した。
【0070】
このパターンの長さは5.00mm、幅は0.10mm、膜厚は、中央部で1.00μm、端部で5.00μmであった。長さ、幅および膜厚は光学顕微鏡観察(倍率250倍)により測定したが、平面形状は良好ではなかった。
【0071】
[参考例2]
ペースト1を用いて、前記パターニング方法により、様々な印加電圧において1回パターニングすることにより、ライン状のパターンを形成した。ギャップは1.5mmおよび2.0mmとした。各パターンのライン幅を光学顕微鏡観察(倍率100倍または250倍)により測定した。印加電圧とライン幅との関係を図5に示した。
【0072】
[参考例3]
ペースト1の替わりにペースト2を用いたこと以外は参考例3と同様にして、パターンを形成し、ライン幅を測定した。印加電圧とライン幅との関係を図6に示した。
【0073】
図5および図6より、印加電圧を高くするとライン幅が太くなることがわかった。これは、電圧が高くなることで、吐出されるペーストの量が多くなるからだと考えられる。また、ギャップを小さくすると、細いライン状のパターンを形成することが可能になることがわかった。これは、ギャップを小さくすることで、吐出されたペーストが透明電極板に付着するときの反発が低減されるからであると考えられる。
【0074】
[参考例4]
ペースト1を用いて、前記パターニング方法により、印加電圧1.8kV、ギャップ2.0mmとして、1回パターニングすることにより、ライン状の一層からなるパターンを形成した。このパターンのライン幅および膜厚を光学顕微鏡観察(倍率100〜250倍)により測定した。さらにステージ部16によりギャップを前記の大きさに調整し、そのパターンの上に前記と同条件でパターニングし、2回塗りパターンを作製した。この操作を繰り返して、80回塗りパターンまで作製した。20回塗りパターン、40回塗りパターン、60回塗りパターンおよび80回塗りパターンのライン幅および膜厚を光学顕微鏡観察(倍率250倍)により測定した。各パターンのライン幅および膜厚とパターンの塗り回数との関係を図7に示した。長さが1mmを超える対象物を測定する場合には倍率を100倍とした。
【0075】
図7より、パターンの層塗り回数を増やすことによって、ライン幅および膜厚は大きくなることがわかった。また、ライン幅に関しては、パターンの塗り回数が40回以上になるとそれ以上大きくならず、概ね一定となった。この結果から、ライン幅を維持したまま重ね塗りすることが可能であることがわかった。
【0076】
[実施例1]
太陽電池用半導体薄膜の製造
(パターニング)
ペースト1を用いて、前記パターニング方法により、印加電圧1.8kV、ギャップ2.0mmとして、1回パターニングすることにより、ライン状の1回塗りパターンを透明電極板14上に形成した。
【0077】
(焼成)
パターンが形成された透明電極板14を電気炉に入れ、450℃で30分間焼成した。
(色素吸着)
N3色素(シス-(SCN-)-ビス(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジカルボキシレート)ルテニウム(II))0.0141gをエタノール40.1mlで希釈して得られた溶液(0.5mmol/L)に、上記焼成済みのパターンが形成されている透明電極板14を40℃で3時間浸漬して、パターンにN3色素を吸着させ、太陽電池用半導体薄膜を製造した。この太陽電池用半導体薄膜のセル面積は0.0284cm2、膜厚は中央部で3μm、端部で2μmであった。セル面積および膜厚は光学顕微鏡観察(倍率250倍)により測定した。
【0078】
太陽電池の製造
簡易型太陽電池の製造方法を表す概略図を図8に示す。前記太陽電池用半導体薄膜が形成された透明電極板を、太陽電池用半導体薄膜が設けられた面が下側になるように配置し、その太陽電池用半導体薄膜の下に、それよりひとまわり大きいスペーサーフィルムを配置し、さらにそのスペーサーフィルムの下に白金電極を配置した。グレッツェル電解液(0.1mmol/L LiI、0.05mmol/L I2、0.6mmol/L 1,2-dimethyl-3-propylimidazolium iodide、 0.5mmol/L 4-t-butylpyridine をmethoxyacetonitorile に溶かして作成された電解質)をスペーサーフィルムの上に滴下した後、透明電極板、スペーサーフィルムおよび白金電極を重ね合わせることにより太陽電池を製造した。
【0079】
光電変換効率の測定
白金電極を正極、太陽電池用半導体薄膜が形成された透明電極を負極として、ソーラーシミュレーターにより、線面積0.0125cm2(長方形として概算)、A.M.1.5、光強度100mWcm-2の条件で光電変換効率を測定した。
【0080】
電圧と光電流密度との関係を図9に示した。また、短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(曲線因子)(ff)および光電変換効率(η)を表1に示した。
短絡電流(Jsc)は、キースリー社製2400ソースメータを使用して、電圧0V時の電流値から求めた。
【0081】
開放電圧(Voc)は、キースリー社製2400ソースメータを使用して、電流0mA時の電流値から求めた。
フィルファクター(曲線因子)(ff)は、(Vmax×Jmax/Voc×Jsc)により求めた。ここで、VmaxおよびJmaxは、それぞれ太陽電池の出力が最大となる時のV値およびJ値である。
光電変換効率(η)は、Voc×Jsc×ffにより求めた。
【0082】
[実施例2]
実施例1のパターニングと同様にして、ライン状の1回塗りパターンを透明電極板14状に形成した。さらにステージ部16によりギャップを前記の大きさに調整し、そのパターンの上に前記と同条件でパターニングし、2回塗りパターンを作製した。この操作を繰り返し、5回塗りパターンを作製した。
【0083】
以後、1回塗りパターンの替わりに前記5回塗りパターンを使用したこと以外は実施例1と同様にして、太陽電池用半導体薄膜および太陽電池の製造、ならびに光電変換効率の測定を行った。この太陽電池用半導体薄膜のセル面積は0.0733cm2であった。セル面積および膜厚は光学顕微鏡観察(倍率250倍)により測定した。
【0084】
電圧と光電流密度との関係を図10に示した。また短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(曲線因子)(ff)、光電変換効率(η)を表1に示した。短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(曲線因子)(ff)、光電変換効率(η)の求め方は実施例1と同様である。
【0085】
[実施例3]
実施例1のパターニングと同様にして、ライン状の1回塗りパターンを透明電極板14状に形成した。さらにステージ部16によりギャップを前記の大きさに調整し、そのパターンの上に前記と同条件でパターニングし、2回塗りパターンを作製した。この操作を繰り返し、50回塗りパターンを作製した。
【0086】
以後、1回塗りパターンの替わりに前記50回塗りパターンを使用したこと以外は実施例1と同様にして、太陽電池用半導体薄膜および太陽電池の製造、ならびに光電変換効率の測定を行った。この太陽電池用半導体薄膜のセル面積は0.062cm2であった。セル面積および膜厚は光学顕微鏡観察(倍率250倍)により測定した。
【0087】
電圧と光電流密度との関係を図11に示した。また、短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(曲線因子)(ff)、光電変換効率(η)を表1に示した。短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(曲線因子)(ff)、光電変換効率(η)の求め方は実施例1と同様である。
【0088】
【表1】
図9〜11および表1の結果から、1回塗りパターンからなる太陽電池用半導体薄膜から製造された太陽電池では光電変換効率が低いが、パターンの塗り回数を増やすことにより、光電変換効率が向上し、他の測定値も上昇した。このことから、色素増感型太陽電池においては、太陽電池用半導体薄膜の膜厚が重要な意味を持ち、これを厚くすることにより光電変換効率の高い色素増感型太陽電池が得られることがわかった。本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法は、前述のとおり、重ね塗りをすることが容易であり、膜厚の大きい太陽電池用半導体薄膜を容易に製造できるので、光電変換効率の高い太陽電池の製造に有効である。
【0089】
[実施例4]
ペースト2を用いて、前記パターニング方法により、印加電圧1.8kV、ギャップ2.0mmとして、正方形状にパターニングすることにより、0.5cm×0.5cmの1回塗りパターンを透明電極板14上に形成した。
【0090】
以下実施例1と同様に焼成および色素吸着を行い、太陽電池用半導体薄膜を製造した。この太陽電池用半導体薄膜のセル面積は0.25cm2であった。さらに、実施例1と同様に太陽電池を製造し、実施例1と同様に光電変換効率を測定した。
【0091】
電圧と光電流密度との関係を図12に示した。また、太陽電池用半導体薄膜の短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(曲線因子)(ff)および光電変換効率(η)を表2に示した。太陽電池用半導体薄膜の膜厚は、四隅部および中央部において測定した。膜厚は光学顕微鏡観察(倍率250倍)により測定した。
【0092】
[実施例5]
実施例4と同様に、1回塗りパターンを透明電極板14上に形成した。このパターン上に、ペースト5を用いて、前記と同条件で正方形状にパターニングすることにより、2層からなるパターンを透明電極板14上に形成した。
【0093】
以下実施例1と同様に焼成および色素吸着を行い、太陽電池用半導体薄膜を製造した。この太陽電池用半導体薄膜の2層構造を有する部分のセル面積は0.20cm2であった。さらに、実施例1と同様に太陽電池を製造し、実施例1と同様に光電変換効率を測定した。
【0094】
電圧と光電流密度との関係を図13に示した。また、太陽電池用半導体薄膜の短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(曲線因子)(ff)および光電変換効率(η)を表2に示した。
【0095】
【表2】
表2からわかるとおり、粒径が小さいTiO2粒子を含有する層と粒径が大きいTiO2粒子を含有する層とが積層されてなる半導体薄膜を有する太陽電池は、粒径が小さいTiO2粒子を含有する層のみからなる半導体薄膜を有する太陽電池に比較して、光電変換効率(η)が大きい。
【符号の説明】
【0096】
10・・半導体薄膜製造装置
11・・半導体薄膜形成用組成物
12・・シリンジ
13・・キャピラリーチューブ
14・・透明電極板
15・・対向電極
16・・ステージ部
17・・ステージ部
18・・高電圧電源
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用半導体薄膜の製造方法および太陽電池用半導体薄膜に関する。さらに詳しくは、静電インクジェット方式によってパターニングを行う太陽電池用半導体薄膜の製造方法、およびその製造方法によって製造される太陽電池用半導体薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の少ないクリーンエネルギーとして太陽電池が注目されている。太陽電池の中でも色素増感型太陽電池は、形状が限定されてしまうSi型太陽電池では困難であった自由な形状の太陽電池が作製可能であることや、大掛かりな半導体装置を必要とせず、構造が単純で量産しやすいという観点から、次世代の太陽電池として特に期待されている。
【0003】
一般的な色素増感型太陽電池は、表面に色素が吸着されたTiO2粒子等の金属酸化物粒子からなる半導体薄膜が、ガラス板等の支持体上に透明電極層が形成されてなる透明電極板の透明電極層の上にコートされてなる電極と、ガラス板等の支持体上の透明電極層が形成されてなる対電極と、これら電極と対電極の間に封入された電解質とから構成させる。ここで、半導体薄膜を含む電極が負極、対電極が正極として作用する。負極側から光が照射されると、金属酸化物粒子の表面に吸着された色素がこの光を吸収し、励起する。この励起によって電子が発生し、この電子は金属酸化物粒子を介して透明電極層に移動し、2つの電極を接続する導線を通って対電極に移動する。対電極に移動した電子は、電解質中の酸化還元系を還元する。電子を発生させた色素は酸化体の状態になっており、この酸化体は電解質中の酸化還元系によって還元され、元の状態に戻る。このようにして電子が連続的に流れることにより、色素増感型太陽電池内では電気が発生する。
【0004】
色素増感型太陽電池は、上記の長所を有するが、その一方で光電変換効率が低いという短所を有している。色素増感型太陽電池の光電変換効率の向上を図る方法としては、金属酸化物粒子の改良、電解質の改良、色素の改良、半導体薄膜の形成方法の改良などが挙げられる。金属酸化物粒子の改良については、その種類(TiO2など)や焼成条件の検討等、電解質の改良については、電解質の半導体薄膜への拡散を向上させる技術の開発、色素の改良については、広範囲の波長に対応可能な色素の開発などが行われているが、光電変換効率を実用レベルまで向上させるにはこれらの対策のみでは限界があり、半導体薄膜の形成方法の改良が不可欠である。ところが、半導体薄膜の形成方法のような機械的な技術に関してはあまり多くの研究が行われていないのが実情である。
【0005】
従来、半導体薄膜は、特に金属酸化物系の半導体薄膜の場合、金属酸化物粒子を含有する半導体薄膜形成用組成物を透明電極板上にドクターブレード法、スピンコート法、スクリーン印刷法などにより塗布して形成されるのが一般的であった。しかし、これらの方法では、所定の厚みにするため半導体薄膜形成用組成物を重ね塗りして半導体薄膜を形成する場合には、半導体薄膜形成用組成物を1回塗布する毎に乾燥工程を繰り返さなければならず、作業効率が低かった。また、これらの方法では、複雑なパターンを有する半導体薄膜を形成することは困難であり、できたとしても経済性が低いという問題があった。
【0006】
これら以外の半導体薄膜の形成方法としては、インクジェット方式により半導体薄膜形成用組成物を透明電極板上に吐出して半導体薄膜を形成する方法が知られている(特許文献1および2)。この方法では、ピエゾ式およびサーマル式のインクジェットプリンターが用いられている。インクジェット方式によれば、所定の厚みに調整された半導体薄膜を形成する場合に、半導体薄膜形成用組成物を吐出した後、これを乾燥することなく次の半導体薄膜形成用組成物をその上に複数回吐出することが可能であり、上記ドクターブレード法等に比較して重ね塗りによるパターン形成の作業効率が高い。また、この方法では、複雑なパターンを有する半導体薄膜を容易に形成することができる。
【0007】
しかし、インクジェット方式により形成された半導体薄膜を有する太陽電池は、ドクターブレード法等によって形成された半導体薄膜を有する太陽電池に比較しても光電変換効率が低いという問題を有しており、実用化にはほど遠い状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−168496号公報
【特許文献2】特開2007−42572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記の事情の下になされたものであり、本発明の目的は、光電変換効率が高い太陽電池用半導体薄膜の製造方法、さらには複雑なパターンを有する太陽電池用半導体薄膜を容易に製造する方法、そして作業効率が高い太陽電池用半導体薄膜の製造方法を提供することである。また、本発明の目的は、光電変換効率が高い太陽電池用半導体薄膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、静電インクジェット方式を用い、さらに高粘度の半導体薄膜形成用組成物を用いることにより、前記目的を達成し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、金属酸化物粒子を含有し、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を静電インクジェット方式によって吐出ノズルから透明電極板上に吐出することによりパターンを形成し、半導体薄膜を製造することを特徴とする太陽電池用半導体薄膜の製造方法である。
【0011】
前記発明の好適な態様として、半導体薄膜形成用組成物を吐出ノズルから透明電極板上に吐出することによりパターンを形成し、そのパターンの上に半導体薄膜形成用組成物を1回以上重ねて吐出することにより所定の厚みのパターンを形成する太陽電池用半導体薄膜の製造方法、
粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物を吐出ノズルから透明電極板上に順次吐出して、それぞれの半導体薄膜形成用組成物からなる層を積層してパターンを形成する太陽電池用半導体薄膜の製造方法、
粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物をそれぞれ別の吐出ノズルから透明電極板上に吐出して、前記複数種類の半導体薄膜形成用組成物に含有される金属酸化物粒子がランダムに混合されるように一層のパターンを形成する太陽電池用半導体薄膜の製造方法、および
前記金属酸化物粒子が酸化チタン粒子である太陽電池用半導体薄膜の製造方法を挙げることができる。
【0012】
また、他の発明は、金属酸化物粒子を含有し、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を用いて静電インクジェット方式により形成された少なくとも二層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜であって、相互に接する層が、異なる粒径を有する金属酸化物粒子を含有することを特徴とする太陽電池用半導体薄膜、および
金属酸化物粒子を含有し、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を用いて静電インクジェット方式により形成された少なくとも一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜であって、同一層内に、粒径が相互に異なる複数種類の金属酸化物粒子がランダムに混合された状態で含有されることを特徴とする太陽電池用半導体薄膜である。
【0013】
前記発明の好適な態様として、前記金属酸化物粒子が酸化チタン粒子である太陽電池用半導体薄膜を挙げることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法は、静電インクジェット方式を採用し、さらにピエゾ式およびサーマル式のインクジェット方式では使用できなかった高粘度の半導体薄膜形成用組成物を使用することにより、光電変換効率が高い太陽電池用半導体薄膜を製造することができ、さらには平滑で膜厚の大きなパターン形成時の作業効率が高く、複雑なパターンを有する太陽電池用半導体薄膜を容易に製造することができる。
【0015】
本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法によれば、相互に接する層が、異なる粒径を有する金属酸化物粒子を含有する二層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜、および同一層内に、粒径が相互に異なる少なくとも2種類の金属酸化物粒子を含有する少なくとも一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜を製造することができ、これらの太陽電池用半導体薄膜は光電変換効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、太陽電池用半導体薄膜4の断面模式図である。
【図2】図2は、太陽電池用半導体薄膜8の断面模式図である。
【図3】図3は、半導体薄膜製造装置10の概略図である。
【図4】図4は、参考例1で得られたパターンの顕微鏡写真である。
【図5】図5は、参考例2で得られた印加電圧とライン幅との関係を示す図である。
【図6】図6は、参考例3で得られた印加電圧とライン幅との関係を示す図である。
【図7】図7は、参考例4で得られたパターンのライン幅とパターンの塗り回数との関係を示す図である。
【図8】図8は、太陽電池の製造方法を表す概略図である。
【図9】図9は、実施例1で得られた半導体薄膜における電圧と光電流密度との関係を示す図である。
【図10】図10は、実施例2で得られた半導体薄膜における電圧と光電流密度との関係を示す図である。
【図11】図11は、実施例3で得られた半導体薄膜における電圧と光電流密度との関係を示す図である。
【図12】図12は、実施例4で得られた半導体薄膜における電圧と光電流密度との関係を示す図である。
【図13】図13は、実施例5で得られた半導体薄膜における電圧と光電流密度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法は、金属酸化物粒子を含有し、粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を静電インクジェット方式によって吐出ノズルから透明電極板上に吐出することによりパターンを形成し、半導体薄膜を製造することを特徴とする。
【0018】
静電インクジェット方式は、パターン形成材料を満たした絶縁性の吐出ノズルと対向電極との間に電圧を印加することによって吐出ノズルの先端からパターン形成材料を吐出させる静電インクジェット現象を利用したパターン形成方式である。本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法における、静電インクジェット方式によるパターン形成材料である半導体薄膜形成用組成物の吐出は、公知の静電インクジェットプリンターを用いて行うことができる。
【0019】
本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法において使用する半導体薄膜形成用組成物は、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである。半導体薄膜形成用組成物の粘度が前記範囲内であると、光電変換効率が高く、複雑なパターンを有する太陽電池用半導体薄膜を製造することができ、さらにパターン形成時の作業効率が高くなる。また、複数回の吐出による重ね塗りが容易であるので、太陽電池用半導体薄膜の膜厚を所望の値に自由に調整することができる。前記粘度としては、好ましくは50〜10,000mPa・sであり、さらに好ましくは100〜1,000mPa・sである。半導体薄膜形成用組成物の粘度が、たとえば50mPa・s以上の高粘度であると、光電変換効率がより高く、より複雑なパターンを有する太陽電池用半導体薄膜を製造することができ、さらにパターン形成時の作業効率がより高くなる。また、複数回の吐出による重ね塗りがよりいっそう容易になるので、太陽電池用半導体薄膜の膜厚を所望の値に自由に調整することができるようになる。
【0020】
従来の太陽電池用半導体薄膜の製造に使用されていたピエゾ式およびサーマル式のインクジェット方式においては、上記のような高粘度の半導体薄膜形成用組成物を使用することはできず、逆にノズル詰りを防止するために低粘度、たとえば、10mPa・s以下の半導体薄膜形成用組成物が使用されていた。本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法が採用する静電インクジェット方式においては、前述のとおり、静電気により半導体薄膜形成用組成物を吐出させるため、高粘度の半導体薄膜形成用組成物、すなわちペースト状の半導体薄膜形成用組成物であっても使用することができる。
【0021】
高粘度の半導体薄膜形成用組成物を用いることにより、光電変換効率が高い太陽電池用半導体薄膜を製造することができるのは、半導体薄膜形成用組成物の粘度が高いと、分散媒および膜形成助剤などの、半導体材料以外の成分の含有量が少なくなる等の理由から、半導体材料が密に詰め込まれた半導体薄膜が得られ、その結果、光の照射により色素から発生した電子が半導体薄膜を通って、透明電極層に移動しやすくなるからと考えられる。また、半導体材料を密に詰め込むことができることにより、太陽電池用半導体薄膜製造の作業効率を高くすることができ、複雑なパターンを有する太陽電池用半導体薄膜であっても精度良く形成でき、膜厚制御も容易になるものと考えられる。
【0022】
前記半導体薄膜形成用組成物は、少なくとも半導体材料である金属酸化物粒子を含有する。半導体材料として金属酸化物粒子を用いると、多孔質金属酸化物半導体を得ることができるので好ましい。多孔質金属酸化物半導体は、光増感材吸着量が大きく、また電解質が保持されやすく、電子が移動しやすいので、光電変換効率が高い。金属酸化物粒子としては、たとえば、酸化チタン、酸化ランタン、酸化ジルコニウム、酸化ニオビウム、酸化タングステン、酸化ストロンチウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム等からなる粒子を挙げることができる。これらの金属酸化物粒子は、1種単独で、または2種以上を混合して使用することができる。
【0023】
これらの金属酸化物粒子の中でも、光触媒機能に優れている点で、酸化チタンが特に好ましい。また、酸化チタンの中でも、アナターゼ型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、ルチル型酸化チタンの1種または2種以上からなる結晶性酸化チタンが好ましい。結晶性酸化チタンはバンドギャップが高く、かつ誘電率が高く、他の金属酸化物粒子と比較して光増感材の吸着量が多い。さらに安定性、安全性が高く、膜形成が容易である等の優れた特性がある。
【0024】
金属酸化物粒子の電子顕微鏡観察により求められる粒径は、1〜500nmであることが好ましく、5〜300nmであることがさらに好ましい。粒径が前記範囲内にあると、比表面積の大きな金属酸化物薄膜が作製できる。また、金属酸化物粒子は球状であることが好ましい。
【0025】
半導体薄膜形成用組成物中の金属酸化物粒子の含有量は、通常1〜70質量%、好ましくは20〜50質量%である。金属酸化物粒子の含有量が前記範囲内にあると、半導体薄膜形成用組成物の粘度を前記範囲内に調整しやすく、また光電変換効率が高い太陽電池用半導体薄膜を製造しやすい。
【0026】
半導体薄膜形成用組成物には、粘度の調整等の目的で、分散媒を含有させることができる。分散媒としては、金属酸化物粒子を分散させることができ、乾燥により除去できるものであれば特に制限なく使用することができ、たとえば、水、アルコール、アセトン、ヘキサン、ジクロロメタン等が挙げられる。半導体薄膜形成用組成物中の分散媒の含有量は、半導体薄膜形成用組成物の粘度が前記範囲内に調整できるように適宜決定することができる。
【0027】
半導体薄膜形成用組成物には、組成物の粘度調整と共に、半導体薄膜の成膜性を高めるために、膜形成助剤を含有させることができる。膜形成助剤としては、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール等が挙げられる。半導体薄膜形成用組成物中の膜形成助剤の含有量は、通常0.1〜10質量%、好ましくは2〜5質量%である。膜形成助剤の含有量が前記範囲内にあると、半導体薄膜形成用組成物の粘度を、ノズルから吐出しやすい程度に調整でき、均一に乾燥した膜が得られ、さらに金属酸化物粒子が密に充填され、充填後の嵩密度が高くなり、電極との密着性の高い半導体薄膜を得ることができる。
【0028】
分散媒、膜形成助剤等を含む半導体薄膜形成用組成物層は、後述する焼成工程を経て、空洞の多い多孔質層を形成する。この多孔質層からなる半導体薄膜は、色素が吸着されやすく、また電解質が入りやすく、かつ保持されやすいことから、優れた光電変換効率を示す。
【0029】
その他、半導体薄膜形成用組成物には、分散剤、界面活性剤を含有させることができる。
分散剤は、酸化物半導体が凝集するのを防ぐ役割を果たし、酸化物半導体と化学的にまたは物理的に結合ないし吸着する有機物であればよく、アセチルアセトンが好適に使用される。アセチルアセトンのようなジケトナート化合物を使用すると、一部の金属酸化物は金属錯体を形成して、分散性および成膜性の向上に寄与する。また後述の焼成工程を経ると、その金属錯体は金属酸化物へと戻り、半導体薄膜を構成する。
【0030】
また界面活性剤は、溶媒に水を使用する時に酸化物半導体を均一に分散するのを助ける効果があり、アニオン系、カチオン系、ノニオン系などの様々な界面活性剤が使用可能である。
【0031】
吐出ノズルとしては、特に制限はなく、従来の静電インクジェット方式で使用されている吐出ノズルを使用することができる。通常、先端形状がテーパーまたはストレートの吐出ノズルが使用される。吐出ノズルの材料は、導電性であっても、絶縁性であってもよい。
【0032】
吐出ノズルの内径は、通常5μm〜500μmである。吐出ノズルの内径は、半導体薄膜形成用組成物の粘度の大きさ等に応じて決定される。通常、半導体薄膜形成用組成物の粘度が高い場合には内径の大きい吐出ノズルが使用され、半導体薄膜形成用組成物の粘度が低い場合には内径の小さい吐出ノズルが使用される。たとえば、半導体薄膜形成用組成物の粘度が50〜100mPa・sのときには、吐出ノズルの内径は好ましくは5〜200μmであり、より好ましくは5〜150μmである。半導体薄膜形成用組成物の粘度が100mPa・sより大きく30,000mPa・s以下のときには、吐出ノズルの内径は好ましくは30〜500μmであり、より好ましくは100〜500μmである。
【0033】
透明電極板としては、特に制限はなく、従来の太陽電池で使用されている透明電極板を使用することができる。透明電極板は、透明基板上に透明電極層が形成されてなる。透明基板の例としては、ガラス基板、ポリイミドやポリカーボネートなどの有機ポリマー基板が挙げられ、透明でかつ絶縁性、耐候性および耐熱性を有する基板が好ましい。透明電極層としては、酸化錫、Sb、FまたはPがドーピングされた酸化錫、Snおよび/またはFがドーピングされた酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、貴金属等からなる電極層を挙げることができる。たとえば、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛等からなる電極層が透明電極層として好適に使用される。このような透明電極層は、熱分解法、CVD法などの従来公知の方法により形成することができる。 透明基板および透明電極層は、紫外光、可視光、赤外光の透過率が高く、また抵抗値が小さいほうが、光電変換効率を高める上で好ましい。
【0034】
半導体薄膜形成用組成物の吐出ノズルからの吐出は、従来の静電インクジェット方式における吐出と同様に行うことができる。通常、対向電極上に透明電極板を載せ、その透明電極板から一定の間隔をあけて、半導体薄膜形成用組成物が充填された吐出ノズルの吐出口を対置させる。吐出ノズルに電圧をかけることにより、吐出ノズルと対向電極との間に電界が生じ、これにより吐出ノズルの吐出口から半導体薄膜形成用組成物が透明電極板の透明電極層上に吐出される。印加電圧は、通常−5kv〜5kvの範囲である。印加電圧の強度を制御することにより、吐出ノズルと対向電極との間に形成される電界の強度が制御される。電界の強度を制御することによって、吐出ノズルから吐出される半導体薄膜形成用組成物の量が調整される。吐出時に、対向電極を水平方向に移動させることにより、または吐出ノズルを水平方向に移動させることによりパターニングが行われる。パターンの形状は、目的に応じて適宜決定することができる。
【0035】
前述のとおり、静電インクジェット方式により高粘度の半導体薄膜形成用組成物の吐出を行うと、金属酸化物粒子が密に詰まったパターンを形成することができるので、本発明の製造方法においては、半導体薄膜形成用組成物の重ね塗りによる膜厚調整が容易である。具体的には、半導体薄膜形成用組成物を吐出ノズルから透明電極板上に吐出することによりパターンを形成し、そのパターンの上に半導体薄膜形成用組成物を1回以上重ねて吐出することにより所定の厚みのパターンを形成することができる。本発明では、この操作を重ね塗りと呼んでいる。この場合、同じ半導体薄膜形成用組成物を用いて重ね塗りをする限り、一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜が得られる。重ね塗りの回数には特に制限はない。
【0036】
色素増感型太陽電池の光電変換効率は、半導体薄膜の膜厚により影響を受けると考えられるが、ドクターブレード法などの従来の半導体薄膜の製造方法では、半導体薄膜の膜厚を調整することが困難であった。本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法では、前述のとおり、1回の吐出により形成されるパターンの厚みおよび重ね塗りの回数を適宜決定することにより、希望する所定の厚みの半導体薄膜を形成することができる。このため、本発明の製造方法を用いれば、光電変換効率と半導体薄膜の膜厚との関係を正確に把握することができ、その結果に基づいて最適な半導体薄膜の膜厚を把握することができる。場合によっては、本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法により最適な半導体薄膜の膜厚を決定しておき、ドクターブレード法など他の半導体薄膜の製造方法を使用して、その膜厚の半導体薄膜を製造してもよい。こうすることにより、効率的な最適膜厚を有する半導体薄膜の製造が可能になる。
【0037】
半導体薄膜を形成する際、それを構成する金属酸化物粒子の粒径は均一でも不均一でもよい。
また、重ね塗りをする際に、その前に吐出した半導体薄膜形成用組成物に含まれる金属酸化物粒子とは異なる粒径を有する金属酸化物粒子を含む半導体薄膜形成用組成物を順次吐出して、重ね塗りをすること、すなわち、粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物を吐出ノズルから透明電極板上に順次吐出して、それぞれの半導体薄膜形成用組成物からなる層を積層してパターンを形成することもできる。
【0038】
好ましくは、粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物を複数個の吐出ノズルに別々に充填し、そのうちの1個の吐出ノズルから透明電極板上に第1の半導体薄膜形成用組成物を吐出してパターンを形成し、そのパターンの上に他の吐出ノズルから第2の半導体薄膜形成用組成物を吐出してパターンを二層状に形成する。さらに必要に応じて、その上に任意の吐出ノズルから、相互に接する層に含まれる金属酸化物粒子の粒径が異なるように、第2の半導体薄膜形成用組成物とは別の半導体薄膜形成用組成物を吐出してパターンを積層してもよい。この方法により、少なくとも二層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜であって、相互に接する層が、異なる粒径を有する金属酸化物粒子を含有する太陽電池用半導体薄膜が製造される。層の数は、二層以上であれば特に制限はない。
【0039】
図1に、この方法によって形成される太陽電池用半導体薄膜の一具体例である太陽電池用半導体薄膜4の断面模式図を示す。図1においては、透明基板2の上に透明電極層3が形成されてなる透明電極板1における透明電極層3の上に太陽電池用半導体薄膜4が形成されている。太陽電池用半導体薄膜4は、透明電極層3の上に形成された第一層5と、第一層5の上に形成された第二層6と、第二層6の上に形成された第三層7とからなる。第一層5は、金属酸化物粒子5aを含む半導体薄膜形成用組成物を吐出して形成された層であり、金属酸化物粒子5aが充填されている。第二層6は、金属酸化物粒子5aよりも大きい粒径を有する金属酸化物粒子6aを含む半導体薄膜形成用組成物を吐出して形成された層であり、金属酸化物粒子6aが充填されている。第三層7は、金属酸化物粒子6aよりも大きい粒径を有する金属酸化物粒子7aを含む半導体薄膜形成用組成物を吐出して形成された層であり、金属酸化物粒子7aが充填されている。
【0040】
この方法によって形成される太陽電池用半導体薄膜においては、相互に接する層に含まれる金属酸化物粒子の粒径が異なっていれば、上層へいくに従って、金属酸化物粒子の粒径が小さくなるように層が並んでいても、金属酸化物粒子の粒径が大きくなるように層が並んでいても、またランダムに金属酸化物粒子の粒径が変化するように層が並んでいてもよい。また、相互に接していない層に含まれる金属酸化物粒子の粒径は同じであってもよく、たとえば第一層に含まれる金属酸化物粒子の粒径と第三層に含まれる金属酸化物粒子の粒径とが同じであってもよい。
【0041】
このような相互に接する層が異なる粒径を有する金属酸化物粒子を含有する充填密度の高い二層以上のパターンは、加熱炉中で400〜500℃で焼成することにより、粒子配列が緻密でかつ多孔質になって、光照射によって増感色素から生じた電子が半導体薄膜を通って透明電極層に伝達されやすくなる結果、光電変換効率の高い太陽電池用半導体薄膜が得られるという利点を有する。
【0042】
本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法においては、粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物をそれぞれ別の吐出ノズルから透明電極板上に吐出して、前記複数種類の半導体薄膜形成用組成物に含有される金属酸化物粒子がランダムに混合されるように一層のパターンを形成することもできる。好ましくは、粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物をそれぞれ別の吐出ノズルに充填し、透明電極板上にそれぞれの吐出ノズルから半導体薄膜形成用組成物を同時に吐出する。このとき、吐出ノズルもしくは透明電極板またはその両方を平面方向に動かして、同一層内に、粒径が相互に異なる複数種類の金属酸化物粒子がランダムに混合されるように一層のパターンを形成する。この方法により、同一層内に、粒径が相互に異なる複数種類の金属酸化物粒子がランダムに混合された状態で含有される少なくとも一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜が製造される。粒径が相互に異なる金属酸化物粒子の種類の数は、2種類以上であれば特に制限はない。
【0043】
図2に、この方法によって形成される太陽電池用半導体薄膜の一具体例である太陽電池用半導体薄膜8の断面模式図を示す。図2においては、透明基板2の上に透明電極層3が形成されてなる透明電極板1における透明電極層3の上に太陽電池用半導体薄膜8が形成されている。太陽電池用半導体薄膜8は、一層の膜であって、金属酸化物粒子8aと、金属酸化物粒子8aよりも粒子径が大きい金属酸化物粒子8bとから形成される。太陽電池用半導体薄膜8においては、金属酸化物粒子8aと金属酸化物粒子8bとがランダムに混合された状態で充填されている。
【0044】
この方法においては、上記のように一層のパターンを形成した後、その上に1回以上同様の方法で重ね塗りをして、所定の膜厚の太陽電池用半導体薄膜を製造することもできる。この場合、同じ半導体薄膜形成用組成物を用いて、同様のパターン形成条件を用いる限り、一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜が得られる。
【0045】
このように形成した一層のパターンの上に、そのパターンの形成に用いた半導体薄膜形成用組成物とは異なる半導体薄膜形成用組成物を用いてパターンを形成し、またはそのパターンの形成に用いた半導体薄膜形成用組成物と同じ半導体薄膜形成用組成物であっても、異なるパターン形成条件でパターンを形成することにより、二層以上のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜を製造することもできる。
【0046】
このような粒径が相互に異なる少なくとも2種類の金属酸化物粒子がランダムに混合された状態で含有される少なくとも一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜は、大きい粒子径を有する金属酸化物粒子間の空隙に小さい粒子径を有する金属酸化物粒子間が効率的に埋め込まれるため、金属酸化物粒子が密に充填され、光照射によって増感色素から生じた電子が半導体薄膜を通って透明電極層に伝達されやすくなる結果、光電変換効率が高くなるという利点を有する。
【0047】
図3に、本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法で使用する半導体薄膜製造装置の一具体例である半導体薄膜製造装置10の概略図を示す。半導体薄膜製造装置10は、半導体薄膜形成用組成物11を収容するシリンジ12と、シリンジ12に取り付けられた、吐出ノズルであり、液体針電極として機能するキャピラリーチューブ13と、パターンを形成する対象である透明電極板14と、透明電極板14を保持し、平板電極として機能する対向電極15と、キャピラリーチューブ13と対向電極15との間の電極間ギャップを変更するzステージ部16と、対向電極15を水平方向に移動させるxyステージ部17と、シリンジ12に高電圧を印加する高電圧電源18とを備えている。
【0048】
半導体薄膜製造装置10においては、対向電極15がアースされているので、印加される高電圧によって、シリンジ12と対向電極15との間に電界が形成される。その結果、シリンジ12に収容された半導体薄膜形成用組成物11がキャピラリーチューブ13の先端から液滴として吐出され、透明電極板14上に付着する。このとき、ステージ部16および17の作用によって対向電極15を移動させ、透明電極板14の水平方向の位置を調整することによりパターンが形成される。吐出量は、電界強度を制御することによって調整することができる。パターンの重ね塗りをする場合には、ステージ部16の作用によって対向電極15を垂直方向に移動させ、キャピラリーチューブ13の先端と対象物との距離を調節して重ね塗りを行う。
【0049】
上記のようにして形成された半導体薄膜形成用組成物からなるパターンを焼成して、太陽電池半導体薄膜を作製する。焼成条件は、従来の太陽電池用半導体薄膜の製造方法で行われている焼成の条件と同様であってよい。たとえば、加熱炉中で、400〜500℃で、5〜60分間焼成を行う。この焼成工程を経ると、金属酸化物粒子間の結合が強くなり、組織が緻密になって、光照射によって発生した電子が透明電極層に移動しやすくなる。
【0050】
色素増感型太陽電池の場合、半導体薄膜の表面に色素が吸着して、光電変換層が形成されている。色素としては、紫外光領域、可視光領域および赤外光領域の光を吸収して励起するものであれば特に制限はなく、たとえば公知の有機色素、金属錯体などを用いることができる。
【0051】
有機色素としては、分子中にカルボキシル基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシル基、スルホン基、リン酸基、カルボキシアルキル基等の官能基を有する従来公知の有機色素が使用できる。具体的には、メタルフリーフタロシアニン、シアニン系色素、メタロシアニン系色素、トリフェニルメタン系色素およびウラニン、エオシン、ローズベンガル、ローダミンB、ジブロムフルオレセイン等のキサンテン系色素等が挙げられる。さらに、メルロクローム(Merurochrome)、メロシアニン、リボフラビンフォスフェート、テトラブロモフェノールブルー、テトラスルフォフタロシアニンも使用することができる。これらの有機色素は(金属酸化物)半導体膜への吸着速度が早いという特性を有している。
【0052】
金属錯体としては、特開平1-220380号公報、特表平5-504023号公報などに記載された銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニンなどの金属フタロシアニン、クロロフィル、ヘミン、ルテニウム-トリス(2,2'-ビスピリジル-4,4'-ジカルボキシラート)、シス-(SCN-)-ビス(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジカルボキシレート)ルテニウム、ルテニウム-シス-ジアクア-ビス(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジカルボキシラート)などのルテニウム-シス-ジアクア-ビピリジル錯体、亜鉛-テトラ(4-カルボキシフェニル)ポルフィンなどのポルフィリン、鉄-ヘキサシアニド錯体等のルテニウム、オスミウム、鉄、亜鉛、白金などの錯体を挙げることができる。これらの金属錯体は分光増感の効果や耐久性に優れている。
【0053】
有機色素または金属錯体は単独で用いてもよく、有機色素または金属錯体の2種以上を混合して用いてもよく、さらに有機色素と金属錯体とを併用してもよい。
半導体薄膜への色素の吸着方法には特に制限はなく、色素を溶媒に溶解した溶液に半導体薄膜を浸漬することによって吸着させることができる。また、色素溶液に金属酸化物粒子を分散させて、色素をあらかじめ前記金属酸化物粒子に吸着させておいてもよい。
【0054】
半導体薄膜に吸着させる色素の量は、色素が吸着されていない半導体薄膜の単位表面積(1cm2)あたり50μg以上であることが、高い光電変換効率を得る上で好ましい。
このようにして製造された光電変換用の半導体薄膜の膜厚は、通常0.01〜200μm、好ましくは1〜50μmである。前述のとおり、本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法では、太陽電池用半導体薄膜の膜厚を調整することが容易であるので、光電変換効率が大きくなるように太陽電池用半導体薄膜の膜厚を調整することができる。
【0055】
このようにして製造された太陽電池用半導体薄膜を用いて、従来の太陽電池用半導体薄膜の製造方法により製造された太陽電池用半導体薄膜と同様の方法で、太陽電池を製造することができる。
【0056】
色素増感型太陽電池の場合は、一般に、上記のようにして製造された太陽電池用半導体薄膜が前述の透明電極板の上にコートされてなる電極と、基板上に透明電極層が形成されてなる対電極と、これら電極と対電極の間に封入された電解質とからなる。
【0057】
対電極における基板としては、ガラス基板、高分子樹脂基板、金属基板等の実用強度を有する基板が用いられる。対電極の基板上に形成される透明電極層としては、還元触媒能を有するものであれば特に制限されるものでなく、白金、ロジウム、ルテニウム金属、ルテニウム酸化物等の電極材料、酸化錫、Sb、FまたはPがドーピングされた酸化錫、Snおよび/またはFがドーピングされた酸化インジウム、酸化アンチモンなどの導電性材料の表面に前記電極材料をメッキあるいは蒸着した電極、カーボン電極など従来公知の電極を用いることができる。 このような透明電極層は、基板上に前記電極を直接コーティング、メッキあるいは蒸着させて、導電性材料を熱分解法、CDV法等の従来公知の方法により導電層を形成した後、この導電層上に前記電極材料をメッキあるいは蒸着するなど従来公知の方法により形成することができる。
【0058】
電解質としては、電気化学的に活性な塩と、これと酸化還元系を形成する少なくとも1種の化合物との混合物が使用される。電気化学的に活性な塩としては、テトラプロピルアンモニウムヨーダイドなどの4級アンモニウムヨウ化物が挙げられる。酸化還元系を形成する化合物としては、キノン、ヒドロキノン、沃素(I-/I3-)、沃化カリウム、臭素(Br-/Br3-)、臭化カリウム等が挙げられる。酸化還元系を形成する化合物は、場合によってはこれらを混合して使用することもできる。
【0059】
このような電解質の使用量は、電解質の種類、後述する溶媒などの種類によっても異なるが、必要に応じて使用する溶媒との混合物中の濃度が概ね0.1〜5モル/リットルの範囲にあることが好ましい。また、溶媒としては、従来公知の溶媒を使用することができ、具体的には水、アルコール類、オリゴエーテル類、プロピオンカーボネート等のカーボネート類、燐酸エステル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、N-ビニルピロリドン、スルホラン、炭酸エチレン、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【実施例】
【0060】
[パターニング方法]
後述の半導体薄膜形成用組成物を用いて、図3に示した半導体薄膜製造装置10によりパターニングを行った。半導体薄膜製造装置10を構成する要素は以下のとおりである。
シリンジ12:サイエンテック社製注射器シリンジ(容量10ml)
キャピラリーチューブ13:サイエンテック社製導電性キャピラリーチューブ(ノズル内径100μm)
透明電極板14:ガラス基板の上にFTO透明電極層が形成されてなる透明電極板
ステージ部16:中央精機(株)製2軸ステージコントローラーQT−CM2−35
ステージ部17:中央精機(株)製ALS−301−HM
高電圧電源18:松定プレシジョン社製高電圧アンプHVR−5P(−5〜5kV)
【0061】
シリンジ12およびキャピラリーチューブ13に、キャピラリーチューブ13の先端からの液位が50mmになるように、半導体薄膜形成用組成物11を満たした。ステージ部16を操作して、キャピラリーチューブ13を、その先端から透明電極板14までの距離(以下、「ギャップ」という)が一定値となるように配置した。高電圧電源18によってキャピラリーチューブ13に電圧を印加することにより、キャピラリーチューブ13から半導体薄膜形成用組成物を吐出させ、透明電極板14のFTO透明電極層上にパターンを形成した。
【0062】
[半導体薄膜形成用組成物の作製]
(作製例1)
スクリュー管瓶にTiO2粒子(電子顕微鏡観察により求めた粒径範囲20〜30nm)を1.85gおよび蒸留水1.00gを秤量し、撹拌機を用いて30秒間撹拌し、次いで30秒間脱泡した。その後、アセチルアセトン0.20mlを混合し、撹拌機を用いて30秒間撹拌し、次いで30秒間脱泡した。次に、界面活性剤(商品名トリトン−X)の30質量%水溶液1.00mlを混合し、撹拌機を用いて30秒間撹拌し、次いで2分間脱泡した。最後に、ポリエチレングリコール0.1850gを混合し、撹拌機を用いて90秒間撹拌し、次いで90秒間脱泡した。その後、超音波洗浄機を用いて30秒間さらに撹拌を加えることにより、半導体薄膜形成用組成物(以下、ペースト1という)を作製した。ペースト1の25℃における粘度は、450mPa・sであった。ペースト1の粘度は、振動式粘度計ビスコメイトVM−10A−L(CBC社製)により測定した。
【0063】
(作製例2)
秤量する蒸留水の量を2.00gとしたこと以外は作製例1と同様にして、半導体薄膜形成用組成物(以下、ペースト2という)を作製した。ペースト2の粘度は、106mPa・sであった。粘度の測定方法は、作製例1と同様である。
【0064】
(作製例3)
秤量する蒸留水の量を3.00gとしたこと以外は作製例1と同様にして、半導体薄膜形成用組成物(以下、ペースト3という)を作製した。ペースト3の粘度は、35mPa・sであった。粘度の測定方法は、作製例1と同様である。
【0065】
(作製例4)
秤量する蒸留水の量を0.50gとしたこと以外は作製例1と同様にして、半導体薄膜形成用組成物(以下、ペースト4という)を作製した。ペースト4の粘度は、671mPa・sであった。粘度の測定方法は、作製例1と同様である。
【0066】
(作製例5)
前記TiO2粒子の替わりに、電子顕微鏡観察により求めたが粒径200nmであるTiO2粒子を使用したこと以外は作製例2と同様にして、半導体薄膜形成用組成物(以下、ペースト5という)を作製した。ペースト5の粘度は、680mPa・sであった。粘度の測定方法は、作製例1と同様である。
【0067】
[参考例1]
ペースト1を用いて、前記パターニング方法により1回パターニングすることにより、ライン状のパターンを形成した。印加電圧を2.5V、ギャップを2.0mmとした。得られたパターンの顕微鏡写真(倍率250倍)を図4に示した。
【0068】
図4の(a)はパターン先端部の写真であり、(b)はパターン中央部の写真である。
このパターンの長さは5.00mm、幅は0.25mm、膜厚は、中央部で2.00μm、端部で5μmであり、表面が平滑で良好な形状であった。長さ、幅および膜厚は光学顕微鏡観察(倍率250倍)により測定した。
【0069】
[比較参考例1]
ペースト1の替わりにペースト3を用いたこと以外は参考例1と同様にして、パターンを形成した。
【0070】
このパターンの長さは5.00mm、幅は0.10mm、膜厚は、中央部で1.00μm、端部で5.00μmであった。長さ、幅および膜厚は光学顕微鏡観察(倍率250倍)により測定したが、平面形状は良好ではなかった。
【0071】
[参考例2]
ペースト1を用いて、前記パターニング方法により、様々な印加電圧において1回パターニングすることにより、ライン状のパターンを形成した。ギャップは1.5mmおよび2.0mmとした。各パターンのライン幅を光学顕微鏡観察(倍率100倍または250倍)により測定した。印加電圧とライン幅との関係を図5に示した。
【0072】
[参考例3]
ペースト1の替わりにペースト2を用いたこと以外は参考例3と同様にして、パターンを形成し、ライン幅を測定した。印加電圧とライン幅との関係を図6に示した。
【0073】
図5および図6より、印加電圧を高くするとライン幅が太くなることがわかった。これは、電圧が高くなることで、吐出されるペーストの量が多くなるからだと考えられる。また、ギャップを小さくすると、細いライン状のパターンを形成することが可能になることがわかった。これは、ギャップを小さくすることで、吐出されたペーストが透明電極板に付着するときの反発が低減されるからであると考えられる。
【0074】
[参考例4]
ペースト1を用いて、前記パターニング方法により、印加電圧1.8kV、ギャップ2.0mmとして、1回パターニングすることにより、ライン状の一層からなるパターンを形成した。このパターンのライン幅および膜厚を光学顕微鏡観察(倍率100〜250倍)により測定した。さらにステージ部16によりギャップを前記の大きさに調整し、そのパターンの上に前記と同条件でパターニングし、2回塗りパターンを作製した。この操作を繰り返して、80回塗りパターンまで作製した。20回塗りパターン、40回塗りパターン、60回塗りパターンおよび80回塗りパターンのライン幅および膜厚を光学顕微鏡観察(倍率250倍)により測定した。各パターンのライン幅および膜厚とパターンの塗り回数との関係を図7に示した。長さが1mmを超える対象物を測定する場合には倍率を100倍とした。
【0075】
図7より、パターンの層塗り回数を増やすことによって、ライン幅および膜厚は大きくなることがわかった。また、ライン幅に関しては、パターンの塗り回数が40回以上になるとそれ以上大きくならず、概ね一定となった。この結果から、ライン幅を維持したまま重ね塗りすることが可能であることがわかった。
【0076】
[実施例1]
太陽電池用半導体薄膜の製造
(パターニング)
ペースト1を用いて、前記パターニング方法により、印加電圧1.8kV、ギャップ2.0mmとして、1回パターニングすることにより、ライン状の1回塗りパターンを透明電極板14上に形成した。
【0077】
(焼成)
パターンが形成された透明電極板14を電気炉に入れ、450℃で30分間焼成した。
(色素吸着)
N3色素(シス-(SCN-)-ビス(2,2'-ビピリジル-4,4'-ジカルボキシレート)ルテニウム(II))0.0141gをエタノール40.1mlで希釈して得られた溶液(0.5mmol/L)に、上記焼成済みのパターンが形成されている透明電極板14を40℃で3時間浸漬して、パターンにN3色素を吸着させ、太陽電池用半導体薄膜を製造した。この太陽電池用半導体薄膜のセル面積は0.0284cm2、膜厚は中央部で3μm、端部で2μmであった。セル面積および膜厚は光学顕微鏡観察(倍率250倍)により測定した。
【0078】
太陽電池の製造
簡易型太陽電池の製造方法を表す概略図を図8に示す。前記太陽電池用半導体薄膜が形成された透明電極板を、太陽電池用半導体薄膜が設けられた面が下側になるように配置し、その太陽電池用半導体薄膜の下に、それよりひとまわり大きいスペーサーフィルムを配置し、さらにそのスペーサーフィルムの下に白金電極を配置した。グレッツェル電解液(0.1mmol/L LiI、0.05mmol/L I2、0.6mmol/L 1,2-dimethyl-3-propylimidazolium iodide、 0.5mmol/L 4-t-butylpyridine をmethoxyacetonitorile に溶かして作成された電解質)をスペーサーフィルムの上に滴下した後、透明電極板、スペーサーフィルムおよび白金電極を重ね合わせることにより太陽電池を製造した。
【0079】
光電変換効率の測定
白金電極を正極、太陽電池用半導体薄膜が形成された透明電極を負極として、ソーラーシミュレーターにより、線面積0.0125cm2(長方形として概算)、A.M.1.5、光強度100mWcm-2の条件で光電変換効率を測定した。
【0080】
電圧と光電流密度との関係を図9に示した。また、短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(曲線因子)(ff)および光電変換効率(η)を表1に示した。
短絡電流(Jsc)は、キースリー社製2400ソースメータを使用して、電圧0V時の電流値から求めた。
【0081】
開放電圧(Voc)は、キースリー社製2400ソースメータを使用して、電流0mA時の電流値から求めた。
フィルファクター(曲線因子)(ff)は、(Vmax×Jmax/Voc×Jsc)により求めた。ここで、VmaxおよびJmaxは、それぞれ太陽電池の出力が最大となる時のV値およびJ値である。
光電変換効率(η)は、Voc×Jsc×ffにより求めた。
【0082】
[実施例2]
実施例1のパターニングと同様にして、ライン状の1回塗りパターンを透明電極板14状に形成した。さらにステージ部16によりギャップを前記の大きさに調整し、そのパターンの上に前記と同条件でパターニングし、2回塗りパターンを作製した。この操作を繰り返し、5回塗りパターンを作製した。
【0083】
以後、1回塗りパターンの替わりに前記5回塗りパターンを使用したこと以外は実施例1と同様にして、太陽電池用半導体薄膜および太陽電池の製造、ならびに光電変換効率の測定を行った。この太陽電池用半導体薄膜のセル面積は0.0733cm2であった。セル面積および膜厚は光学顕微鏡観察(倍率250倍)により測定した。
【0084】
電圧と光電流密度との関係を図10に示した。また短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(曲線因子)(ff)、光電変換効率(η)を表1に示した。短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(曲線因子)(ff)、光電変換効率(η)の求め方は実施例1と同様である。
【0085】
[実施例3]
実施例1のパターニングと同様にして、ライン状の1回塗りパターンを透明電極板14状に形成した。さらにステージ部16によりギャップを前記の大きさに調整し、そのパターンの上に前記と同条件でパターニングし、2回塗りパターンを作製した。この操作を繰り返し、50回塗りパターンを作製した。
【0086】
以後、1回塗りパターンの替わりに前記50回塗りパターンを使用したこと以外は実施例1と同様にして、太陽電池用半導体薄膜および太陽電池の製造、ならびに光電変換効率の測定を行った。この太陽電池用半導体薄膜のセル面積は0.062cm2であった。セル面積および膜厚は光学顕微鏡観察(倍率250倍)により測定した。
【0087】
電圧と光電流密度との関係を図11に示した。また、短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(曲線因子)(ff)、光電変換効率(η)を表1に示した。短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(曲線因子)(ff)、光電変換効率(η)の求め方は実施例1と同様である。
【0088】
【表1】
図9〜11および表1の結果から、1回塗りパターンからなる太陽電池用半導体薄膜から製造された太陽電池では光電変換効率が低いが、パターンの塗り回数を増やすことにより、光電変換効率が向上し、他の測定値も上昇した。このことから、色素増感型太陽電池においては、太陽電池用半導体薄膜の膜厚が重要な意味を持ち、これを厚くすることにより光電変換効率の高い色素増感型太陽電池が得られることがわかった。本発明の太陽電池用半導体薄膜の製造方法は、前述のとおり、重ね塗りをすることが容易であり、膜厚の大きい太陽電池用半導体薄膜を容易に製造できるので、光電変換効率の高い太陽電池の製造に有効である。
【0089】
[実施例4]
ペースト2を用いて、前記パターニング方法により、印加電圧1.8kV、ギャップ2.0mmとして、正方形状にパターニングすることにより、0.5cm×0.5cmの1回塗りパターンを透明電極板14上に形成した。
【0090】
以下実施例1と同様に焼成および色素吸着を行い、太陽電池用半導体薄膜を製造した。この太陽電池用半導体薄膜のセル面積は0.25cm2であった。さらに、実施例1と同様に太陽電池を製造し、実施例1と同様に光電変換効率を測定した。
【0091】
電圧と光電流密度との関係を図12に示した。また、太陽電池用半導体薄膜の短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(曲線因子)(ff)および光電変換効率(η)を表2に示した。太陽電池用半導体薄膜の膜厚は、四隅部および中央部において測定した。膜厚は光学顕微鏡観察(倍率250倍)により測定した。
【0092】
[実施例5]
実施例4と同様に、1回塗りパターンを透明電極板14上に形成した。このパターン上に、ペースト5を用いて、前記と同条件で正方形状にパターニングすることにより、2層からなるパターンを透明電極板14上に形成した。
【0093】
以下実施例1と同様に焼成および色素吸着を行い、太陽電池用半導体薄膜を製造した。この太陽電池用半導体薄膜の2層構造を有する部分のセル面積は0.20cm2であった。さらに、実施例1と同様に太陽電池を製造し、実施例1と同様に光電変換効率を測定した。
【0094】
電圧と光電流密度との関係を図13に示した。また、太陽電池用半導体薄膜の短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(曲線因子)(ff)および光電変換効率(η)を表2に示した。
【0095】
【表2】
表2からわかるとおり、粒径が小さいTiO2粒子を含有する層と粒径が大きいTiO2粒子を含有する層とが積層されてなる半導体薄膜を有する太陽電池は、粒径が小さいTiO2粒子を含有する層のみからなる半導体薄膜を有する太陽電池に比較して、光電変換効率(η)が大きい。
【符号の説明】
【0096】
10・・半導体薄膜製造装置
11・・半導体薄膜形成用組成物
12・・シリンジ
13・・キャピラリーチューブ
14・・透明電極板
15・・対向電極
16・・ステージ部
17・・ステージ部
18・・高電圧電源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物粒子を含有し、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を静電インクジェット方式によって吐出ノズルから透明電極板上に吐出することによりパターンを形成し、半導体薄膜を製造することを特徴とする太陽電池用半導体薄膜の製造方法。
【請求項2】
半導体薄膜形成用組成物を吐出ノズルから透明電極板上に吐出することによりパターンを形成し、そのパターンの上に半導体薄膜形成用組成物を1回以上重ねて吐出することにより所定の厚みのパターンを形成することを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用半導体薄膜の製造方法。
【請求項3】
粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物を吐出ノズルから透明電極板上に順次吐出して、それぞれの半導体薄膜形成用組成物からなる層を積層してパターンを形成することを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用半導体薄膜の製造方法。
【請求項4】
粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物をそれぞれ別の吐出ノズルから透明電極板上に吐出して、前記複数種類の半導体薄膜形成用組成物に含有される金属酸化物粒子がランダムに混合されるように一層のパターンを形成することを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用半導体薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物粒子が酸化チタン粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池用半導体薄膜の製造方法。
【請求項6】
金属酸化物粒子を含有し、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を用いて静電インクジェット方式により形成された少なくとも二層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜であって、相互に接する層が、異なる粒径を有する金属酸化物粒子を含有することを特徴とする太陽電池用半導体薄膜。
【請求項7】
金属酸化物粒子を含有し、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を用いて静電インクジェット方式により形成された少なくとも一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜であって、同一層内に、粒径が相互に異なる複数種類の金属酸化物粒子がランダムに混合された状態で含有されることを特徴とする太陽電池用半導体薄膜。
【請求項8】
前記金属酸化物粒子が酸化チタン粒子であることを特徴とする請求項6または7に記載の太陽電池用半導体薄膜。
【請求項1】
金属酸化物粒子を含有し、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を静電インクジェット方式によって吐出ノズルから透明電極板上に吐出することによりパターンを形成し、半導体薄膜を製造することを特徴とする太陽電池用半導体薄膜の製造方法。
【請求項2】
半導体薄膜形成用組成物を吐出ノズルから透明電極板上に吐出することによりパターンを形成し、そのパターンの上に半導体薄膜形成用組成物を1回以上重ねて吐出することにより所定の厚みのパターンを形成することを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用半導体薄膜の製造方法。
【請求項3】
粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物を吐出ノズルから透明電極板上に順次吐出して、それぞれの半導体薄膜形成用組成物からなる層を積層してパターンを形成することを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用半導体薄膜の製造方法。
【請求項4】
粒径が相互に異なる金属酸化物粒子を含有する複数種類の半導体薄膜形成用組成物をそれぞれ別の吐出ノズルから透明電極板上に吐出して、前記複数種類の半導体薄膜形成用組成物に含有される金属酸化物粒子がランダムに混合されるように一層のパターンを形成することを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用半導体薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記金属酸化物粒子が酸化チタン粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池用半導体薄膜の製造方法。
【請求項6】
金属酸化物粒子を含有し、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を用いて静電インクジェット方式により形成された少なくとも二層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜であって、相互に接する層が、異なる粒径を有する金属酸化物粒子を含有することを特徴とする太陽電池用半導体薄膜。
【請求項7】
金属酸化物粒子を含有し、25℃における粘度が50〜30,000mPa・sである半導体薄膜形成用組成物を用いて静電インクジェット方式により形成された少なくとも一層のパターンからなる太陽電池用半導体薄膜であって、同一層内に、粒径が相互に異なる複数種類の金属酸化物粒子がランダムに混合された状態で含有されることを特徴とする太陽電池用半導体薄膜。
【請求項8】
前記金属酸化物粒子が酸化チタン粒子であることを特徴とする請求項6または7に記載の太陽電池用半導体薄膜。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図4】
【公開番号】特開2012−59549(P2012−59549A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201706(P2010−201706)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】
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