説明

太陽電池用基材

【課題】光閉じ込め効果を得ることができる表面を備え、薄膜太陽電池の基材として用いたときに優れた光電変換効率を示す太陽電池を製造するのに有用な太陽電池用基材を提供する。
【解決手段】熱可塑性結晶性樹脂からなる基材フィルムおよびその少なくとも一方の面に設けられた不活性粒子を含有する塗布層からなる太陽電池用基材であって塗布層の中心面平均表面粗さRaが1〜150nmかつ該表面の局部山頂の平均間隔Sが100〜2500nmであることを特徴とする太陽電池用基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池の基材として用いられる太陽電池用基材に関し、さらに詳しくはフレキシブルタイプの薄膜太陽電池の基材として好適に用いられる太陽電池用基材に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池には、基材としてガラスを用いるリジットタイプと、プラスチックフィルムを用いるフレキシブルタイプがある。近年、携帯電話や携帯端末のような移動体通信機器の補助電源として、フレキシブルタイプの太陽電池が多く用いられるようになってきた。
【0003】
リジットタイプは、フレキシブルタイプに比べて、太陽電池セルでのエネルギーの変換効率は高いものの、太陽電池モジュールの薄型化や軽量化には限界があり、また衝撃を受けたときに、基材のガラスが割れて、太陽電池モジュールが破損する可能性がある。
【0004】
薄型化や軽量化を期待することができ、衝撃に対しても強いため、太陽電池モジュールとしてフレキシブルタイプが有利であり、以前から注目されていた。例えば、特開平1−198081号公報では、高分子フィルムの基材上にアモルファスシリコン層を電極層で挟んだ構造の薄膜太陽電池が開示されている。この他、特開平2−260577号公報、特公平6−5782号公報、特開平6−350117号公報には、可撓性基板を用いた太陽電池モジュールが開示されている。
【0005】
他方、アモルファスシリコンなどの薄膜太陽電池では、その光電変換効率を向上させるためには光吸収層の膜厚内での光吸収量を増大させることが重要であり、基材の表面に凹凸のある導電層を形成し、光を拡散させることによって光吸収層中での光の光路長を増加させることが、従来より行われてきた。
【0006】
基材の表面に凹凸のある金属層や金属酸化物層を形成するためには、一般的に350℃以上の高温に基材を晒す必要である。しかし、プラスチックフィルムを基材として用いる場合には、この温度に耐えることができず、この方法を適用することができない。
【0007】
そこで、樹脂溶液に充填剤を添加し支持体上に流延することにより表面に凹凸をつけ、その上に導電層を形成する方法(特開平1−119074号公報)が提案されている。この方法は、効果的に凹凸を形成するために充填剤濃度を高くする必要があるが、充填剤濃度を高めると基材が脆くなり実用に耐え得ない基材となってしまう。
【0008】
また、支持基板上に樹脂溶液を塗工して皮膜形成し、さらにその上に粒子を含む樹脂溶液を塗工皮膜形成する方法(特開平4−196364号公報)、基材フィルムの表面に紫外線硬化型の樹脂を塗工し、金型に押し付けて硬化させ凹凸を形成し、その上に導電層を形成する技術(特許第3749015号公報)が提案されている。
【0009】
しかし、これらの方法は、フィルム製造後に別工程で行われることから、コストアップの要因となるばかりでなく、凹凸層を形成する樹脂の塗工で用いられる残留溶媒が透明導電層形成時にガスとして揮発(脱ガス)し、塗工で形成した凹凸層の形状が、フィルム表面にうまく反映されない。
【0010】
なお、この脱ガスを利用した凹凸形成技術は、特公平7−50794号公報に記載されているが、樹脂中の残留溶媒および脱ガス量を正確に制御することは困難であり、凹凸形状のコントロールは非常に難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平1−198081号公報
【特許文献2】特開平2−260577号公報
【特許文献3】特公平6−5782号公報
【特許文献4】特開平6−350117号公報
【特許文献5】特開平1−119074号公報
【特許文献6】特開平4−196364号公報
【特許文献7】特許第3749015号公報
【特許文献8】特公平7−50794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、かかる技術の課題を解決して、光閉じ込め効果を得ることができる表面を備え、薄膜太陽電池の基材として用いたときに、優れた光電変換効率を示す太陽電池を製造するのに有用な太陽電池用基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、熱可塑性結晶性樹脂からなる基材フィルムおよびその少なくとも一方の面に設けられた不活性粒子を含有する塗布層からなる太陽電池用基材であって塗布層の中心面平均表面粗さRaが1〜150nmかつ該表面の局部山頂の平均間隔Sが100〜2500nmであることを特徴とする太陽電池用基材である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、閉じ込め効果を得ることができる表面を備え、薄膜太陽電池の基材として用いたときに、優れた光電変換効率を示す太陽電池を製造するのに有用な太陽電池用基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】フィルム表面の基準長さLにおける隣り合う局部山頂と、これに対応する平均線の長さS(i=1、i、n)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
[基材フィルム]
本発明における基材フィルムは、熱可塑性結晶性樹脂からなる基材フィルムであり、具体的には、熱可塑性結晶性樹脂を溶融押出にて未延伸シートとし、これを一軸方向または二軸方向に延伸して得た延伸フィルムである。フィルムを溶融押出および延伸によって製造せず、例えば溶液法にて製造すると、太陽電池に加工するためフィルムに導電層を設ける工程で、残留溶媒由来の脱ガスが発生し、導電層を設ける工程の前にフィルムに形成した凹凸構造が乱され、凹凸構造が太陽電池に正確に反映されない。機械的強度を維持する観点から、延伸フィルムは二軸延伸フィルムであることが好ましい。
【0017】
熱可塑性結晶性樹脂としては、溶融押出可能な熱可塑性結晶性樹脂を用い、例えばポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリエステルを用いることができる。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートが好ましい。熱可塑性結晶性樹脂のなかでも二軸延伸でき高い機械的強度を有し耐熱性を備えるポリエチレン−2,6−ナフタレートが特に好ましい。
【0018】
[塗布層]
本発明における塗布層は不活性粒子および紫外線硬化性樹脂から構成される。
【0019】
[不活性粒子]
本発明における不活性粒子は、光閉じ込め効果を得るために適切な凹凸を基材フィルムの上に形成するために、塗布層に配合して用いられる。不活性粒子の平均粒径は、好ましくは0.05〜5μm、さらに好ましくは0.1〜3μm、特に好ましくは0.5〜1μmである。不活性粒子の平均粒径をこの範囲とすることで、均一な導電層を形成することができる粗大突起のない表面を備えながらも、十分に光を散乱させる表面形状を形成することができる。
【0020】
不活性粒子としては、例えば、球状シリカ、多孔質シリカ、炭酸カルシウム、アルミナ、二酸化チタン、カオリンクレー、硫酸バリウム、ゼオライトといった無機粒子、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレンといった架橋高分子の粒子もしくは有機塩粒子を用いることができる。なお、不活性粒子は、単一の種類のものを用いてもよく、複数の種類のものを組み合わせて用いてもよい。平均粒径の異なる粒子を組み合わせてもよい。
【0021】
[紫外線硬化性樹脂]
紫外線硬化性樹脂としては、公知のものを使用することができるが、一般に、多官能性モノマー、単官能性モノマー、重合性オリゴマー、光重合開始剤および添加剤から構成される。
【0022】
多官能性モノマーとしては、例えば、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等を使用することができる。単官能性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート等を使用することができる。
【0023】
重合性オリゴマーとしては、例えば、エチレン性二重結合(好ましくはアクリロイル基またはメタクリロイル基)を複数有するウレタンオリゴマー、ポリエステルオリゴマーまたはエポキシオリゴマー等のオリゴマーを使用することができる。
【0024】
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾフェノン、ベンゾイルメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ジベンジル、5−ニトロアセナフテン、ヘキサクロロシクロペンタジエン、p−ニトロジフェニル、p−ニトロアニリン、2,4,6−トリニトロアニリン、1,2−ベンズアントラキノン、3−メチル−1,3−ジアザ−1,9−ベンズアンスロン;アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、アントラキノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン系化合物、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、カルバゾール、キサントン、1,1−ジメトキシデオキシベンゾイン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン、チオキサントン系化合物、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、トリフェニルアミン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、ビスアシルフォスフィンオキシド、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、フルオレノン、フルオレン、ベンズアルデヒド、ミヒラーケトン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、3−メチルアセトフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン(BTTB)等が挙げることができる。これらのうち、特にベンゾフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが好ましい。
【0025】
上記の多官能性モノマー、単官能性モノマー、重合性オリゴマー、光重合開始剤は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。重合性オリゴマー、多官能性モノマー、単官能性モノマーおよび光重合開始剤は、それぞれ1種用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
塗布層は、基材フィルムの片面に設けてもよく、両面に設けてもよい。
【0026】
[添加剤]
塗布層には、例えば、酸化防止剤、熱安定化剤、易滑剤(例えばワックス)、難燃剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤を添加してもよい。
なかでも、フィルムの耐候性を向上させるために、紫外線吸収剤を含有させることが好ましい。紫外線吸収剤としては、少量で効果のある吸光係数の大きい化合物が好ましく、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)および2,2’−(2,6−ナフチレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)が好ましい。
【0027】
[塗液]
塗布層は、塗布層を構成する不活性粒子および紫外線硬化性樹脂を溶剤に分散または溶解した塗液を基材フィルムに塗布することで作成する。このとき用いる溶剤は、紫外線硬化性樹脂と不活性粒子を均一に溶解または分散可能であれば、公知の溶剤の中から適宜に選択して使用することができる。例えば、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−ブロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等の1価または2価のアルコール、ベンゼン、トルエン、キシレンの芳香族炭化水素、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、炭酸プロピレン等のエステルを挙げることができる。これらの有機溶剤は単独で用いても2種以上を用いてもよい。
【0028】
[中心面平均表面粗さRa]
本発明の太陽電池用基材は、中心面平均表面粗さRaが1〜150nmかつ該表面の局部山頂間の平均間隔Sが500〜2500nmである表面を少なくとも一方の面に備えることが肝要である。
本発明において、表面の中心面平均表面粗さRaは1〜150nm、好ましくは2〜50nm、さらに好ましくは5〜20nmである。Raが1nm未満の表面は作製が困難である。他方、150nmを超えると表面の突起が大きすぎるため、その上に均一な導電層を形成するのが困難になる。
【0029】
[局部山頂間の平均間隔S]
本発明において、局部山頂間の平均間隔Sは100〜2500nm、好ましくは300〜2000nm、さらに好ましくは500〜1000nmである。Sが100nm未満であると凸凹が急峻となり、該フィルム上に各層を積層する場合に凹凸に十分にそろった積層構造を形成することができず、結果短絡等の問題が発生する。他方、Sが2500nmを超えると凹凸の頻度が少なすぎて十分に光を散乱せず、目的とする光閉じ込め効果を発揮しない。
【0030】
この局部山頂間の平均間隔Sは、表面の粗さ曲面からその平均面方向に基準長さLだけ切り取り、この基準長さLにおいて隣り合う局部山頂間のそれぞれについて対応する平均線の長さSを求め、平均線の長さSの平均値S(単位nm)を下記式から算出することで求める。
【数1】

【0031】
本発明の太陽電池用基材はニ軸延伸フィルム上に硬化性樹脂と不活性粒子の組成からなる層を塗工したものであり、上記の表面粗さは、粒子の平均粒径と含有量を適切な範囲とすることによって達成することができる。
例えば、平均粒径0.3μmの不活性粒子を用いる場合、1〜20体積%の範囲で不活性粒子を塗布層に含有させることでこの表面粗さを得ることができる。また、例えば平均粒径3μmの不活性粒子を用いる場合、0.1〜3体積%の範囲で熱可塑性樹脂に不活性粒子を含有させることでこの表面粗さを得ることができる。
【0032】
[厚み]
本発明の太陽電池用基材の厚みは、太陽電池の支持基材としてのスティフネスを維持し、太陽電池モジュールの可撓性を確保する観点から、好ましくは25〜250μm、さらに好ましくは50〜200μm、特に好ましくは60〜125μmである。
【0033】
本発明の太陽電池用基材は、全光線透過率が80%以上あると、スーパーストレート型の太陽電池の基材として、表面電極側基材としても用いることができるので好ましい。なお、全光線透過率が80%未満であっても太陽電池用基材としては用いることができ、特に裏面電極側基材として用いることができる。
【0034】
本発明の太陽電池用基材は、太陽電池への加工工程における加熱工程で寸法変化を抑制する観点から、200℃で10分間処理したときの熱収縮率が、好ましくは1%以下、さらに好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.6%以下である。
【0035】
[製造方法]
[基材フィルムの製造]
本発明の太陽電池用基材における基材フィルムは、熱可塑性結晶性樹脂の組成物を溶融し、これらを溶融押出して未延伸シートとし、これを延伸することによって製造することができる。実用的な機械的強度が得るために二軸延伸して二軸延伸フィルムとすることが好ましい。ここではポリエステルの二軸延伸フィルムを、逐次二軸延伸法により製造する例を詳述する。まず、ポリエステルを必要に応じて通常の加熱または減圧雰囲気下において乾燥することで水分を除去し、通常の溶融押出温度、すなわちポリエステルの融点(以下Tmと表わす)以上(Tm+50℃)以下の温度で溶融し、ダイのスリットから押出して、ポリエステルのガラス転移温度(以下Tgと表わす)以下に冷却した回転冷却ドラムの上で急冷固化することにより、非晶質の未延伸シートを得る。得られた未延伸シートを、Tg以上(Tg+50℃)以下の温度で、縦方向に2.5〜4.5倍の延伸倍率で延伸し、次いで横方向にTg以上(Tg+50℃)以下の温度で、2.5〜4.5倍の延伸倍率で延伸して二軸延伸フィルムとする。この二軸延伸フィルムは、さらにポリエステルの結晶化温度(以下Tcと表わす)以上(Tm−20℃)以下の温度で熱固定を行うことが好ましい。そして、熱収縮率を低下させる目的で、縦方向および/または横方向に、弛緩率0.5〜15%の範囲で熱弛緩処理を行うことが好ましい。
【0036】
熱弛緩処理は、フィルム製造時に行う方法の他に、巻き取った後に別の工程で熱処理を行ってもよい。巻き取った後の熱処理方法として、フィルムを懸垂状態で弛緩熱処理する方法を例えば用いることができる。この方法は、例えば特開平1−275031号公報に示されている。
なお、基材フィルムとしてポリエステルフィルムを用いる場合、例えば帝人デュポンフィルム製のQ68FAを用いることができる。
【0037】
[塗布層の塗設]
基材フィルム上に中心面平均表面粗さRa1〜150nmかつ該表面の局部山頂の平均間隔S100〜2500nmの塗布層を塗設するためには、塗布条件として以下の条件をとればよい。
すなわち、ニ軸延伸したフィルム上に、不活性粒子5〜20体積%、好ましくは10〜15体積%、紫外線硬化性樹脂5〜20体積%、好ましくは10〜15体積%、溶剤60〜90体積%、好ましくは70〜80体積%から構成される溶液を、バーコーターで塗布して塗膜を形成する。次に、乾燥機により、塗膜の揮発成分の溶剤を揮発させる。これには例えばコンベア式乾燥機を用い、例えば60〜80℃にて溶剤を揮発させる。その後、塗膜を硬化させる。塗膜の硬化にはUV照射装置を用い、照射出力60〜100W、好ましくは70〜80W、コンベア速度1〜10m/分、好ましくは5〜7m/分の条件のもとで紫外線照射を行う。この条件で塗膜を硬化させることで、フィルム上に中心面平均表面粗さRa1〜150nmかつ該表面の局部山頂の平均間隔S100〜2500nmの塗布層を設けることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
なお、各特性値は以下の方法で測定した。
【0039】
(1)固有粘度
オルソクロロフェノール溶媒による溶液の粘度を35℃にて測定し求めた。
【0040】
(2)各層の厚み
フィルムサンプルを三角形に切出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包埋した。包埋されたサンプルをミクロトーム(ULTRACUT−S)で縦方向に平行な断面を50nm厚の薄膜切片にした後、透過型電子顕微鏡を用いて、加速電圧100kVにて観察撮影し、写真から各層の厚みを測定した。
【0041】
(3)粒子の平均粒径
島津制作所製CP−50型セントリフューグルパーティクルサイズアナライザー(Centrifugal Particle Size Annalyzer)を用いて測定し、得られる遠心沈降曲線を基に算出した各粒径の粒子とその存在量との積算曲線から、50重量%に相当する粒径を読み取った(「粒度測定技術」日刊工業新聞発行、1975年 頁242〜247参照)。
【0042】
(4)中心面平均表面粗さ(Ra)
中心面平均表面粗さRaは、Zygo社製 非接触三次元表面構造解析顕微鏡(NewView5022)を用いて測定倍率100倍、測定面積70.3μm×52.8μm(=0.0037mm)の条件にて測定し、該顕微鏡に内蔵された表面解析ソフトにより以下の式より求めた。
【0043】
【数2】

ただし、Zjkは測定方向(70.3μm)、それと直交する方向(52.8μm)をそれぞれM分割、N分割したときの各方向のj番目、k番目の位置における2次元粗さチャート上の高さである。
【0044】
(5)局部山頂間の平均間隔(S)
局部山頂間の平均間隔(S)は、Zygo社製 非接触三次元表面構造解析顕微鏡(NewView5022)を用いて測定倍率25倍、測定面積70.3μm×52.8μm(=0.0037mm)の条件にて測定し、フィルム表面の粗さ曲面からその平均面方向に基準長さL(70.3μm)だけ切り取り、この基準長さLにおいて隣り合う局部山頂間のそれぞれについて対応する平均線の長さSを求め、平均線の長さSの平均値S(単位nm)を下記式から算出して、これを局部山頂間の平均間隔Sとした。この計算は、該顕微鏡に内蔵された表面解析ソフトにより以下の式を用いて計算した。
【0045】
【数3】

局部山頂間の平均間隔(S)の算出における基準長さLと、平均線の長さSとの関係を図1に示す。
【0046】
(6)フィルムの反射率
島津製作所(株)製分光光度計UV−3101PCを用い、JIS−K7105測定法Bに従って全光線反射率を求めた。測定条件は、スキャン速度200nm/秒、スリット幅20nm、サンプリングピッチ2.0nmとし、標準白色板は硫酸バリウムを用いた。波長300nm〜800nmの反射率を、その波長範囲内で平均して全光線反射率とした。
【0047】
(7)光電変換効率
フィルムの表面に、櫛形形状のマスクを用い、基板温度を常温とし、DCスパッタリング法によって2000ÅのAg薄膜をITO層上に形成した。次にRFスパッタリング法によって、ITO層(透明導電層)を、基板温度140℃の条件で2000Åの厚みで形成する。その後、このフィルムをプラズマCVD装置に入れ、1.33×10−5Paになるまで装置内を減圧し、続いて基板温度を140℃とし、水素ガスおよび少量のBガスを含むモノシランガス(モル比、SiH:H:B=1:181:3×10−3)を用いて、透明導電層上に厚み0.2μmのp型シリコン膜層を形成した。続いて水素ガスおよびモノシランガス(モル比、SiH:H=1:39)を用いて、p型シリコン膜層の上に厚み2μmのi型シリコン膜層を形成した。さらに、水素ガスおよび少量のPHガスを含むモノシランガス(モル比、SiH:H:PH=1:143:8×10−3)を用いて、i型シリコン膜層上に厚み0.4μmのn型シリコン膜層を形成した。その後、DCスパッタリング法によって200℃で酸化亜鉛薄膜を500Åの厚みで形成し、基板を常温まで連客してからAg薄膜(裏面電極層)を2000Åの厚みで形成し、薄膜太陽電池を得た。
【0048】
500Wのキセノンランプ(ウシオ電気社製)に太陽光シミュレーション用補正フィルター(オリエール社製AM1.5Global)を装着し、上記の薄膜太陽電池に対し、入射光強度が100mW/cmの模擬太陽光を、水平面に対して垂直になるよう照射した。システムは屋内、気温18℃、湿度50%の雰囲気に静置した。電流電圧測定装置(ケースレー製ソースメジャーユニット238型)を用いて、システムに印加するDC電圧を10mV/秒の定速でスキャンし、素子の出力する光電流を計測することにより、光電流−電圧特性を測定し、光電変換効率を算出した。
【0049】
[実施例1]
ポリエチレン−2,6−ナフタレート(非晶密度1.33、固有粘度:0.65)を、170℃で6時間乾燥させた後に押出機に供給し、溶融温度305℃でスリット状ダイより押出して、表面温度を50℃に維持した回転冷却ドラム上で急冷固化させて未延伸フィルムを得た。次いで縦方向に140℃で3.1倍に延伸した後、横方向に145℃で3.3倍に延伸し、245℃で5秒間熱固定処理および幅方向に2%収縮させ、厚さ75μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの200℃における熱収縮率は0.2%であった。
【0050】
この二軸延伸フィルム上に、日揮触媒化成社製真球シリカTE―500SIV(平均粒径0.5μm、真密度2.2)14体積%、紫外線硬化性樹脂(JSR株式会社製オプスターZ7501)11体積%およびメチルエチルケトン75体積%から構成される塗液を、バーコーター(松尾産業株式会社製RDS―#03)で塗布して塗膜を形成した。そして、コンベア式乾燥機(旭光学工業株式会社製)を用いた70℃での熱乾燥により塗膜の揮発成分のメチルエチルケトンを揮発させ、UV照射装置(日本電池株式会社CS−30型)で照射出力80W、コンベア速度5m/分の条件もとで紫外線照射法を行うことで塗膜を固化させ、不活性粒子を包含する塗布層を備える太陽電池用基材を作製した。得られた太陽電池用基材のRaは75nm、Sは500nm、全光線反射率は76%であり、この太陽電池基材について評価した光電変換効率は6.18%であった。
【0051】
[実施例2]
ポリエチレン−2,6−ナフタレート(非晶密度1.33、固有粘度:0.65)を、170℃で6時間乾燥させた後に押出機に供給し、溶融温度305℃でスリット状ダイより押出して、表面温度を50℃に維持した回転冷却ドラム上で急冷固化させて未延伸フィルムを得た。次いで縦方向に140℃で3.1倍に延伸した後、横方向に145℃で3.3倍に延伸し、245℃で5秒間熱固定処理および幅方向に2%収縮させ、厚さ75μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの200℃における熱収縮率は0.2%であった。
【0052】
この二軸延伸フィルム上に、富士酸化チタン社製酸化チタンTAD―110ME(平均粒径0.3μm、真密度4.0)10体積%、紫外線硬化性樹脂(JSR株式会社製オプスターZ7501)10体積%およびメチルエチルケトン80体積%から構成される塗液をバーコーター(松尾産業株式会社製RDS―#03)で塗布して塗膜を形成した。そして、コンベア式乾燥機(旭光学工業株式会社製)を用いた70℃での熱乾燥により塗膜の揮発成分のメチルエチルケトンを揮発させ、UV照射装置(日本電池株式会社CS−30型)で照射出力80W、コンベア速度5m/分のもとで紫外線照射法を行うことで塗膜を固化させ、不活性粒子を包含する塗布層を備える太陽電池用基材を作製した。得られた太陽電池用基材のRaは50nm、Sは1000nm、全光線反射率は54%であった。この太陽電池基材について評価した光電変換効率は6.80%であった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の太陽電池用基材は、フレキシブルタイプの薄膜太陽電池の基材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性結晶性樹脂からなる基材フィルムおよびその少なくとも一方の面に設けられた不活性粒子を含有する塗布層からなる太陽電池用基材であって塗布層の中心面平均表面粗さRaが1〜150nmかつ該表面の局部山頂の平均間隔Sが100〜2500nmであることを特徴とする太陽電池用基材。
【請求項2】
フレキシブルタイプの薄膜太陽電池の基材として用いられる、請求項1記載の太陽電池用基材。

【図1】
image rotate