説明

太陽電池用封止膜及びこれを用いた太陽電池

【課題】酸の発生が抑制され、透明性が高く、絶縁性が向上した太陽電池用封止膜を提供すること。
【解決手段】エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)及び架橋剤を含み、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体と前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体の質量比(EVA:EMMA)が、10:90〜90:10であることを特徴とする太陽電池用封止膜13A、13B。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池素子を封止し、各部材と接着一体化するための太陽電池用封止膜、及びこれを用いた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源の有効利用や環境汚染の防止等の面から、太陽光を電気エネルギーに直接、変換する太陽電池が広く使用され、更に生産性や耐久性の点から開発が進められている。
【0003】
太陽電池は、例えば、図1に示すように、ガラス基板などからなる表面側透明保護部材11、表面側封止膜13A、シリコン発電素子などの太陽電池用セル14、裏面側封止膜13B、及び裏面側保護部材12をこの順で積層し、減圧で脱気した後、加熱加圧して表面側封止膜13A及び裏面側封止膜13Bを架橋硬化させて接着一体化することにより製造される。太陽電池では、高い電気出力を得るために、複数の太陽電池用セル14が接続タブ15によって電気的に接続されて構成されている。
【0004】
太陽電池用封止膜(以下、略して封止膜とも称する。)には、安価であり高い透明性及び接着性を有することから一般にエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルムが用いられている(例えば、特許文献1)。そして、太陽電池用セルの機械的な耐久性の確保や、湿気又は水の透過による内部の導線や電極の発錆の防止のため、架橋剤を用いてEVAフィルムを架橋させることにより、高度な密着性及び接着強度で各部材を接着一体化させている。
【0005】
しかしながら、EVAはその構成成分として酢酸ビニルを含むため、設置時の高温時の湿気により経時的に加水分解して酢酸が生じ易く、酢酸により内部の導線や電極と接触して錆の発生を促進させる恐れがあるため、酸の発生を抑制することができる封止膜が求められている。
【0006】
また、絶縁性に優れるEVAを用いた封止膜では発電効率の低下の原因となるリーク電流の発生を抑制することができるが、近年では発電効率の更なる向上が求められていることから、封止膜の絶縁性の更なる向上が求められている。そして、特に表面側封止膜では、太陽光を吸収したり、反射させずに太陽電池用セルに入射させるため、高い透明性も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−183381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、酸の発生が抑制され、透明性が高く、絶縁性が向上した太陽電池用封止膜を提供することにある。
【0009】
また、本発明の目的は、この太陽電池用封止膜を用いた太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)及び架橋剤を含み、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体と前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体の質量比(EVA:EMMA)が、10:90〜90:10であることを特徴とする太陽電池用封止膜により達成される。
【0011】
酸が発生するEVAの代わりに、その分子構造から酸が発生しないエチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)を単独で使用することが考えられるが、EMMAは架橋性が低く、受光面側保護部材のガラスを支持するための硬度が低くなる可能性があり、また、濁度(ヘイズ)が比較的高いため透明性を十分に得られなくなる恐れがある。そのため、EVAとEMMAを上記質量比で併用することにより、酸の発生が抑制され、架橋後の硬度が高く、透明性が高い水準で確保された封止膜を得ることが可能となる。更に、EMMAは絶縁性が高いため、従来の封止膜よりも絶縁性に優れた封止膜となる。
【0012】
本発明の好ましい態様は以下の通りである。
【0013】
(1)前記質量比(EVA:EMMA)が、75:25〜10:90である。EVAの量に対してEMMAの量が多い場合には、絶縁性が極めて高く、封止膜としての透明性及び架橋性も確保される。
(2)前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体のメタクリル酸メチル含有量が、20〜35質量%である。
(3)架橋後の体積固有抵抗値が、1E+15Ω・cm以上である。
(4)150℃において15分間架橋反応を行ったときのキュアトルク値が、5N・cm以上である。
(5)前記エチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量が、20〜35質量%である。
(6)前記架橋剤が有機過酸化物である。架橋反応が十分に行われる封止膜を得ることが
できる。
(7)前記架橋剤は、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体と前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体の合計量100質量部に対して0.1〜5質量部含む。EVAとEMMAとのブレンドにおいて十分な架橋反応が生じるのに好適な量である。
(8)更に架橋助剤を含む。三次元構造が効率的に形成され、架橋密度をより向上させることができる。
(9)前記架橋助剤は、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体と前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体の合計量100質量部に対して0.1〜5質量部含む。
【0014】
また、上記目的は、この太陽電池用封止膜により太陽電池素子を封止してなることを特徴とする太陽電池によっても達成される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の太陽電池用封止膜は、EVAとEMMAを上記割合で含んでいるので、絶縁性及び透明性に優れ、架橋させた場合の硬度を向上させることができる。したがって、本発明の太陽電池用封止膜を用いれば、耐久性が高く、発電効率の高い太陽電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】一般的な太陽電池の構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。上述したように、本発明の太陽電池用封止膜は、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)と、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)を含んでおり、その質量比(EVA:EMMA)は90:10〜10:90である。EVAが少ない(EMMAが多い)と架橋度合いの指標であるキュアトルク値が低下したり、濁度(ヘイズ)が上昇する場合がある。EMMAが少ない(EVAが多い)と十分な絶縁性が得られない場合や、高温多湿時に発生する酸の量が増加する場合がある。
【0018】
質量比(EVA:EMMA)は特に75:25〜10:90、また50:50〜10:90、更に25:75〜15:85であることが好ましい。EVAの量に対してEMMAの量が多い場合には、絶縁性が極めて高く、封止膜としての透明性及び架橋性も確保される。
【0019】
また、本発明の太陽電池用封止膜は、架橋後の体積固有抵抗値が、1E+15Ω・cm以上、好ましくは2E+15Ω・cm以上であることが有利であり、更に、150℃において15分間架橋反応を行ったときのキュアトルク値が、5N・cm以上、好ましくは7N・cm以上であることが有利である。
【0020】
EVAにおける酢酸ビニル含有量は20〜35質量%、好ましくは22〜30質量%、特に好ましくは24〜28質量%であることが好ましい。20質量%未満であると十分な透明性が得られない場合があり、35質量%を超えると高温多湿条件下における酢酸の発生量が増加する恐れがある。
【0021】
また、EMMAにおけるメタクリル酸メチルの含有量は、20〜35質量%、好ましくは22〜30質量%、特に24〜28質量%であることが好ましい。20質量%より低いと透明性が低下する場合があり、35質量%より高いと加工性が低下する場合がある。
【0022】
EVAとEMMAのメルトフローレート(MFR)はそれぞれ、35g/10分以下、特に3〜10g/10分であることが好ましい。この範囲であれば、太陽電池作製時の封止工程における加熱加圧の際に、封止膜が溶融や位置ズレを起こして基板の端部からはみ出でるのを抑制することができ、高い封止性能を得ることができる。なお、本発明において、メルトフローレート(MFR)の値は、JIS K7210に従い、190℃、荷重21.18Nの条件に基づいて測定されたものである。
【0023】
本発明の太陽電池用封止膜は、EVA及びEMMAに加えて、さらにポリビニルアセタール系樹脂(例えば、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール(PVB樹脂)、変性PVB)、塩化ビニル樹脂を副次的に使用しても良い。
【0024】
[架橋剤]
本発明の太陽電池用封止膜は架橋剤を含んでいる。架橋剤は、有機過酸化物又は光重合開始剤を用いることが好ましい。なかでも、接着力、耐湿性、耐貫通性の温度依存性が改善された封止膜が得られることから、有機過酸化物を用いるのが好ましい。
【0025】
有機過酸化物としては、100℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであれば、どのようなものでも使用することができる。有機過酸化物は、一般に、成膜温度、組成物の調整条件、硬化温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して選択される。特に、半減期10時間の分解温度が70℃以上のものが好ましい。
【0026】
前記有機過酸化物としては、樹脂の加工温度・貯蔵安定性の観点から例えば、ベンゾイルパーオキサイド系硬化剤、tert−ヘキシルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシピバレート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ジ−n−オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、スクシニックアシドパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、4−メチルベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、m−トルオイル+ベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサネート、1,1−ビス(tert−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサネート、1,1−ビス(tert−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサネート、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−tert−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、tert−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert−ブチルパーオキシマレイックアシド、tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサン、tert−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、tert−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジ−メチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、等が挙げられる。
【0027】
ベンゾイルパーオキサイド系硬化剤としては、70℃以上の温度で分解してラジカルを発生するものであればいずれも使用可能であるが、半減期10時間の分解温度が50℃以上のものが好ましく、調製条件、成膜温度、硬化(貼り合わせ)温度、被着体の耐熱性、貯蔵安定性を考慮して適宜選択できる。使用可能なベンゾイルパーオキサイド系硬化剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ビスパーオキシベンゾエート、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。ベンゾイルパーオキサイド系硬化剤は1種でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
有機過酸化物として、特に、2,5−ジメチル−2,5ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,1−ビス(tert−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンが好ましい。これにより、良好に架橋され、優れた絶縁性を有する太陽電池用封止膜が得られる。
【0029】
封止膜に使用する有機過酸化物の含有量は、EVAとEMMAの合計量100質量部に対して、好ましくは0.1〜5質量部、より好ましくは0.2〜3質量部であることが好ましい。有機過酸化物の含有量は、少ないと架橋硬化時において架橋速度が低下する場合があり、多くなると共重合体との相溶性が悪くなる恐れがある。
【0030】
また、光重合開始剤としては、公知のどのような光重合開始剤でも使用することができるが、配合後の貯蔵安定性の良いものが望ましい。このような光重合開始剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノプロパン−1などのアセトフェノン系、ベンジルジメチルケタ−ルなどのベンゾイン系、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系、イソプロピルチオキサントン、2−4−ジエチルチオキサントンなどのチオキサントン系、その他特殊なものとしては、メチルフェニルグリオキシレ−トなどが使用できる。特に好ましくは、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルホリノプロパン−1、ベンゾフェノン等が挙げられる。これら光重合開始剤は、必要に応じて、4−ジメチルアミノ安息香酸のごとき安息香酸系又は、第3級アミン系などの公知慣用の光重合促進剤の1種または2種以上を任意の割合で混合して使用することができる。また、光重合開始剤のみの1種単独または2種以上の混合で使用することができる。
【0031】
前記光重合開始剤の含有量は、EVAとEMMAの合計量100質量部に対して0.1〜5質量部、好ましくは0.2〜3質量部である。
【0032】
[架橋助剤]
本発明の太陽電池用封止膜は、さらに架橋助剤を含んでいることが好ましい。架橋助剤は、EVA及びEMMAのゲル分率を向上させ、太陽電池用封止膜の接着性及び耐久性を向上させることができる。
【0033】
架橋助剤の含有量は、EVAとEMMAの合計量100質量部に対して、通常0.1〜5質量部、好ましくは0.1〜3質量部、特に好ましくは0.5〜2.5質量部で使用される。これにより、更に架橋後の硬度が向上した封止膜が得られる。
【0034】
前記架橋助剤(官能基としてラジカル重合性基を有する化合物)としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の3官能の架橋助剤の他、(メタ)アクリルエステル(例、NKエステル等)の単官能又は2官能の架橋助剤等を挙げることができる。なかでも、トリアリルシアヌレートおよびトリアリルイソシアヌレートが好ましく、特にトリアリルイソシアヌレートが好ましい。
【0035】
[接着性向上剤]
本発明の太陽電池用封止膜は、太陽電池モジュールに使用した場合の接着性能を向上させるため、更に接着向上剤を含んでいても良い。接着性向上剤としてはシランカップリング剤を使用することができる。シランカップリング剤としては、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0036】
この中でも特に、メタクリロキシ系シランカップリング剤(メタクリロキシ基を含むシランカップリング剤のことをいう。)であるγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが好ましく、中でもγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが特に好ましい。これらシランカップリング剤は、単独で使用しても、又は2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0037】
本発明の太陽電池用封止膜におけるシランカップリング剤の含有量は、EVAとEMMAの合計量100質量部に対して5質量部以下、好ましくは0.1〜2質量部であることが好ましい。
【0038】
[その他]
本発明の太陽電池用封止膜は、膜の種々の物性(機械的強度、透明性等の光学的特性、耐熱性、耐光性、架橋速度等)の改良あるいは調整、特に機械的強度の改良のため、必要に応じて、可塑剤、アクリロキシ基含有化合物、メタクリロキシ基含有化合物及び/又はエポキシ基含有化合物などの各種添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0039】
前記可塑剤としては、特に限定されるものではないが、一般に多塩基酸のエステル、多価アルコールのエステルが使用される。その例としては、ジオクチルフタレート、ジヘキシルアジペート、トリエチレングリコール−ジ−2−エチルブチレート、ブチルセバケート、テトラエチレングリコールジプタノエート、トリエチレングリコールジペラルゴネートを挙げることができる。可塑剤は一種用いてもよく、二種以上組み合わせて使用してもよい。可塑剤の含有量はEVAとEMMAの合計量100質量部に対して5質量部以下の範囲が好ましい。
【0040】
前記アクリロキシ基含有化合物及び前記メタクリロキシ基含有化合物としては、一般にアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体であり、例えばアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルやアミドを挙げることができる。エステル残基の例としては、メチル、エチル、ドデシル、ステアリル、ラウリル等の直鎖状のアルキル基、シクロヘキシル基、テトラヒドロフルフリル基、アミノエチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル基を挙げることができる。アミドの例としては、ジアセトンアクリルアミドを挙げることができる。また、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールとアクリル酸あるいはメタクリル酸のエステルも挙げることができる。
【0041】
前記エポキシ含有化合物としては、トリグリシジルトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、フェノール(エチレンオキシ)グリシジルエーテル、p−t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、グリシジルメタクリレート、ブチルグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0042】
前記アクリロキシ基含有化合物、前記メタクリロキシ基含有化合物、または前記エポキシ基含有化合物は、それぞれEVAとEMMAの合計量100質量部に対してそれぞれ一般に0.5〜5.0質量部、特に1.0〜4.0質量部含まれていることが好ましい。
【0043】
更に、本発明の太陽電池用封止膜は、老化防止剤を含んでいてもよい。老化防止剤としては、例えばN,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナミド〕等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤、ラクトン系熱安定剤、ビタミンE系熱安定剤、イオウ系熱安定剤等が挙げられる。
【0044】
上述した本発明の太陽電池用封止膜を形成するには、公知の方法に準じて行えばよい。
【0045】
例えば、上述した各成分を含む組成物を、通常の押出成形、又はカレンダ成形(カレンダリング)等により成形してシート状物を得る方法により製造することができる。また、前記組成物を溶剤に溶解させ、この溶液を適当な塗布機(コーター)で適当な支持体上に塗布、乾燥して塗膜を形成することによりシート状物を得ることもできる。尚、製膜時の加熱温度は、架橋剤が反応しない或いはほとんど反応しない温度とすることが好ましい。
【0046】
例えば、50〜90℃、特に40〜80℃とするのが好ましい。本発明の太陽電池用封止膜の厚さは特に制限されないが、0.05〜2mmである。
【0047】
本発明の太陽電池の構造は、本発明の太陽電池用封止膜を用いていれば、特に制限されない。例えば、表面側透明保護部材と裏面側保護部材との間に、本発明の太陽電池用封止膜を介在させて架橋一体化させることにより太陽電池用セルを封止させた構造などが挙げられる。なお、本発明において、太陽電池用セルの光が照射される側(受光面側)を「表面側」と称し、太陽電池用セルの受光面とは反対面側を「裏面側」と称する。
【0048】
前記太陽電池において、太陽電池用セルを十分に封止するには、例えば、図1に示すように表面側透明保護部材11、表面側封止膜13A、太陽電池用セル14、裏面側封止膜13B及び裏面側保護部材12を積層し、加熱加圧など常法に従って、封止膜を架橋硬化させればよい。
【0049】
前記加熱加圧するには、例えば、前記積層体を、真空ラミネータで温度135〜180℃、さらに140〜180℃、特に155〜180℃、脱気時間0.1〜5分、プレス圧力0.1〜1.5kg/cm2、プレス時間5〜15分で加熱圧着すればよい。この加熱加圧時に、表面側封止膜13Aおよび裏面側封止膜13Bに含まれるEVA及びEMMAを架橋させることにより、表面側封止膜13Aおよび裏面側封止膜13Bを介して、表面側透明保護部材11、裏面側透明部材12、および太陽電池用セル14を一体化させて、太陽電池用セル14を封止することができる。
【0050】
なお、本発明の太陽電池用封止膜は、図1に示したような単結晶又は多結晶のシリコン結晶系の太陽電池用セルを用いた太陽電池だけでなく、薄膜シリコン系、薄膜アモルファスシリコン系太陽電池、セレン化銅インジウム(CIS)系太陽電池等の薄膜太陽電池の封止膜にも使用することもできる。この場合は、例えば、ガラス基板、ポリイミド基板、フッ素樹脂系透明基板等の表面側透明保護部材の表面上に化学気相蒸着法等により形成された薄膜太陽電池素子層上に、本発明の太陽電池用封止膜、裏面側保護部材を積層し、接着一体化させた構造、裏面側保護部材の表面上に形成された太陽電池素子上に、本発明の太陽電池用封止膜、表面側透明保護部材を積層し、接着一体化させた構造、又は表面側透明保護部材、表面側封止膜、薄膜太陽電池素子、裏面側封止膜、及び裏面側保護部材をこの順で積層し、接着一体化させた構造等が挙げられる。なお、本発明において、太陽電池用セルや薄膜太陽電池素子を総称して太陽電池素子という。
【0051】
本発明の太陽電池に使用される表面側透明保護部材11は、通常珪酸塩ガラスなどのガラス基板であるのがよい。ガラス基板の厚さは、0.1〜10mmが一般的であり、0.3〜5mmが好ましい。ガラス基板は、一般に、化学的に、或いは熱的に強化させたものであってもよい。
【0052】
本発明で使用される裏面側保護部材12は、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリアミドなどのプラスチックフィルムが好ましく用いられる。また、耐熱性、耐湿熱性を考慮してフッ化ポリエチレンフィルム、特にフッ化ポリエチレンフィルム/Al/フッ化ポリエチレンフィルムをこの順で積層させたフィルムでも良い。
【0053】
なお、本発明の太陽電池用封止膜は、太陽電池(薄膜太陽電池を含む)の表面側及び/又は裏面側に用いられる封止膜に特徴を有する。したがって、表面側透明保護部材、裏面側保護部材、および太陽電池用セルなどの前記封止膜以外の部材については、従来公知の太陽電池と同様の構成を有していればよく、特に制限されない。
【0054】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0055】
太陽電池用封止膜の作製
表1及び表2に示す配合で各材料をロールミルに供給し、75℃において混練して太陽電池用封止膜組成物を調製した。この太陽電池用封止膜組成物を、80℃においてカレンダ成形し、放冷後、太陽電池用封止膜を作製した。
【0056】
<評価方法>
1.光線透過率(%)
離型PET(0.075mm厚)/太陽電池用封止膜(0.5mm厚)/離型PET
(0.075mm厚)の順で積層した積層体を真空ラミネータにて、90℃、真空時間2分、プレス時間8分の条件で仮圧着を行った後、155℃に設定したオーブンで45分間熱処理を行った。このサンプルについて、厚み方向の光線透過スペクトルを分光光度計(日立製作所株式会社製 U−4100)を用いて、波長範囲300〜1200nmの光線透過率を3箇所測定し、その平均値を算出した。
【0057】
2.体積固有抵抗(Ω・cm)
上記太陽電池用封止膜(0.5mm厚)を155℃、45分で架橋硬化させ、得られたサンプルについて、架橋硬化後の体積固有抵抗を抵抗測定装置(三井化学株式会社製 ハイレスタアップ)を用いて測定した。
【0058】
3.キュアトルク(N・cm)
上記太陽電池用封止膜(0.5mm厚)を5g秤量し、温度条件150℃で加熱し、15分後のトルク値をキュラストメーター(日本合成ゴム社製)にて読み取ることにより測定した。キュアトルク値は架橋硬化後における膜の硬度を示す指標値である。
【0059】
4.HAZE(%)
離型PET(0.075mm)/太陽電池用封止膜(0.5mm)/離型PET(0.075mm)の順で積層した積層体を真空ラミネータにて、90℃、真空時間2分、プレス時間8分の条件で仮圧着を行った後、155℃に設定したオーブンで45分間熱処理を行った。このサンプルについて、JIS K7105に準拠して、ヘイズメーター(スガ試験機株式会社製)にて測定を行うことによりヘイズ値を得た。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
<評価結果>
EVAが10質量部未満であり、EMMAが90質量部より多い場合には、キュアトルク値が低く、HAZEが高かった。一方、EMMAが10質量部未満であり、EVAが90質量部より多い場合には、体積固有抵抗が低く絶縁性に乏しかった。以上により、EVA:EMMAの質量比が10:90〜90:10の封止膜(実施例1〜7)は、架橋性及び透明性が高く、絶縁性が向上することが認められた。
【符号の説明】
【0063】
11 表面側透明保護部材
12 裏面側保護部材
13A 太陽電池用封止膜(表面側封止膜)
13B 太陽電池用封止膜(裏面側封止膜)
14 太陽電池用セル
15 接続タブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)及び架橋剤を含み、
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体と前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体の質量比(EVA:EMMA)が、10:90〜90:10であることを特徴とする太陽電池用封止膜。
【請求項2】
前記質量比(EVA:EMMA)が、75:25〜10:90であることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項3】
前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体のメタクリル酸メチル含有量が、20〜35質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項4】
架橋後の体積固有抵抗値が、1E+15Ω・cm以上であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項5】
150℃において15分間架橋反応を行ったときのキュアトルク値が、5N・cm以上であることを特徴する請求項1〜4の何れか1項に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項6】
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体の酢酸ビニル含有量が、20〜35質量%であることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項7】
前記架橋剤が、有機過酸化物であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項8】
前記架橋剤は、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体と前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体の合計量100質量部に対して0.1〜5質量部含むことを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項9】
更に架橋助剤を含むことを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の太陽電池用封止膜。
【請求項10】
前記架橋助剤は、前記エチレン−酢酸ビニル共重合体と前記エチレン−メタクリル酸メチル共重合体の合計量100質量部に対して0.1〜5質量部含むことを特徴とする請求項9に記載の太陽電池用封止膜
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の太陽電池用封止膜により太陽電池素子を封止してなることを特徴とする太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2013−89888(P2013−89888A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231349(P2011−231349)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】