説明

太陽電池用裏面保護フィルム及びそれを備える太陽電池モジュール

【課題】太陽電池素子を包埋する、エチレン・酢酸ビニル共重合体組成物等を含む充填材部との接着性、耐熱性及び耐候性に優れた太陽電池用裏面保護フィルム及びそれを備える太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】本発明の太陽電池用裏面保護フィルムは、含珪素ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物を含む単量体を重合して得られたグラフト重合樹脂等の、含珪素熱可塑性樹脂を含む樹脂層を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用裏面保護フィルム及びそれを備える太陽電池モジュールに関し、更に詳しくは、エチレン・酢酸ビニル共重合体組成物等を含む、太陽電池モジュールの充填材部との接着性に優れた太陽電池用裏面保護フィルム及びそれを用いた太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンエネルギーを利用する発電手段の一つとして、太陽電池モジュールを備える太陽光発電システムが普及している。太陽電池モジュールは、板状の太陽電池素子を多数配置するとともに、これらを、直列、並列に配線し、この素子を保護するためにパッケージして、ユニット化させたものである。そして、この太陽電池モジュールは、通常、太陽電池素子における、太陽光が当たる面をガラス板で覆い、例えば、透明性が高く耐湿性に優れるエチレン・酢酸ビニル共重合体等を含む組成物を用いて、太陽電池素子周辺の間隙を充填して充填材部を形成させた後、裏面、即ち、充填材部の露出面を樹脂材料からなる保護フィルムで封止させた構造となっている。
【0003】
太陽電池用裏面保護フィルムとしては、従来、フッ素樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等を含むフィルムが知られているが、充填材部との接着性及び長期耐久性が十分ではなかった。
特許文献1には、ポリエチレンテレフタレートからなるベースフィルムに、エチレン・酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン系樹脂との熱接着性を有するスチレン・オレフィン共重合体を含む熱接着層が形成された太陽電池裏面封止用フィルムが開示されている。
特許文献2には、ポリエチレンテレフタレートからなるベースフィルムに、ポリウレタン系樹脂又は有機シラン化合物を含む塗布層が形成されたフィルムが開示されている。
また、特許文献3には、エチレンテレフタレート単位を含むポリエステルフィルム、並びに、このフィルムに、架橋剤と、ガラス転移点が20℃〜100℃のポリエステル樹脂、アクリル樹脂等とを含む塗料を用いて形成された塗膜を備える太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−60218号
【特許文献2】特開2006−175764号
【特許文献3】特開2007−268710号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1〜3のように、接着層を備えるフィルムとした場合、エチレン・酢酸ビニル共重合体組成物等を含む充填材部との一定の接着性が得られるものの、この接着層を形成する工程を、別途、必要とし、また、塗布むら等による欠陥が生じることもあり、充填材部の保護について、必ずしも満足できるものではなかった。
本発明の目的は、その表面に、太陽電池素子を包埋する充填材部と接着させるための接着層を有さないフィルムであって、この充填材部との接着性、耐熱性及び耐候性に優れた太陽電池用裏面保護フィルム及びそれを備える太陽電池モジュールを提供することにある。
【0006】
また、上記のように、太陽電池モジュールは、板状の太陽電池素子が多数配置されてなるものであるが、太陽光が、隣り合う太陽電池素子の隙間から、太陽電池用裏面保護フィルムの方へ漏れることがあった。そして、近年、表裏両面で光電変換することができる太陽電池素子を備える太陽電池モジュールにおいて、太陽電池用裏面保護フィルムに、太陽光に対する反射機能を付与し、発電効率を向上させる検討がされている。
本発明の他の目的は、その表面に、太陽電池素子を包埋する充填材部と接着させるための接着層を有さないフィルムであって、この充填材部との接着性、耐熱性及び耐候性に優れ、太陽光、特に、波長400〜1,400nmの光に対する反射性に優れた樹脂層を備える太陽電池用裏面保護フィルム及びそれを備える太陽電池モジュールを提供することにある。
【0007】
また、太陽電池モジュールにおける太陽電池素子等の部材は、エチレン・酢酸ビニル共重合体組成物等を含む充填材部を通して透視しやすいことから、それを抑制し、太陽電池モジュールの外観性を向上させるために、暗色系着色層を太陽電池用裏面保護フィルムとして配設することが検討されている。しかしながら、暗色系着色層の構成材料によっては、太陽電池素子の隙間から漏れた太陽光を吸収し、蓄熱され、発電効率が低下する場合があった。
本発明の他の目的は、その表面に、太陽電池素子を包埋する充填材部と接着させるための接着層を有さないフィルムであって、この充填材部との接着性、耐熱性及び耐候性に優れ、波長800〜1,400nmの光に対する透過性、及び、波長400〜700nmの光に対する吸収性の両方に優れた樹脂層を備える太陽電池用裏面保護フィルム及びそれを備える太陽電池モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示される。
1.含珪素熱可塑性樹脂を含む樹脂層(以下、「第1樹脂層」ともいう。)を備えることを特徴とする太陽電池用裏面保護フィルム。
2.波長400〜1,400nmの光を、上記太陽電池用裏面保護フィルムにおける上記樹脂層(第1樹脂層)の表面に放射した場合、該光に対する反射率が50%以上である上記1に記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
3.上記樹脂層(第1樹脂層)が、更に、白色系着色剤を含む上記1又は2に記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
4.上記樹脂層(第1樹脂層)において、波長800〜1,400nmの光に対する透過率が60%以上であり、且つ、波長400〜700nmの光に対する吸収率が60%以上である上記1に記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
5.上記樹脂層(第1樹脂層)が、更に、赤外線透過性着色剤を含む上記1又は4に記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
6.上記含珪素熱可塑性樹脂が、含珪素ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物を含む単量体を重合して得られたグラフト重合樹脂を含む上記1乃至5のいずれかに記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
7.更に、上記樹脂層(第1樹脂層)に接合された他の樹脂層を備える上記1乃至6のいずれかに記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
8.上記他の樹脂層が白色樹脂層である上記7に記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
9.厚さが10〜1,000μmである上記1乃至8のいずれかに記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
10.上記1乃至9のいずれかに記載の太陽電池用裏面保護フィルムを備えることを特徴とする太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0009】
本発明の太陽電池用裏面保護フィルムによれば、含珪素熱可塑性樹脂を含む第1樹脂層を備えることから、この第1樹脂層と、太陽電池素子を包埋する、エチレン・酢酸ビニル共重合体組成物等を含む充填材部との接着性、耐熱性及び耐候性に優れる。従って、充填材部が確実に保護された太陽電池モジュールを与えることができる。
波長400〜1,400nmの光を、上記太陽電池用裏面保護フィルムにおける上記第1樹脂層の表面に放射したときに、上記光に対する反射率が50%以上である場合には、この第1樹脂層において、太陽光に対する反射性が優れるので、太陽光が、隣り合う太陽電池素子の隙間から、太陽電池用裏面保護フィルムの方へ漏れたときに、反射光を太陽電池素子の裏面に供給して、光電変換に利用し、発電効率を向上させることができる。
また、上記第1熱可塑性樹脂組成物が、更に、白色系着色剤を含む場合には、上記第1樹脂層において、太陽光に対する反射性が特に優れる。従って、単層型フィルムである場合のみならず、目的、用途により、第1樹脂層及び他の樹脂層を備える積層型フィルム等とした場合、並びに、第1樹脂層における上記充填材部と面しない側に部材を配設した場合、においても、他の樹脂層等の構成に関わりなく、発電効率の改良効果に優れる。
【0010】
上記第1樹脂層において、波長800〜1,400nmの光に対する透過率が60%以上であり、且つ、波長400〜700nmの光に対する吸収率が60%以上である場合には、太陽光が、隣り合う太陽電池素子の隙間から、太陽電池用裏面保護フィルムの方へ漏れたときに、第1樹脂層において、上記波長800〜1,400nmの光による蓄熱が抑制されるので、この第1樹脂層に接着する充填材部の蓄熱も抑制される。そして、このフィルムを用いて形成される太陽電池モジュールにおける蓄熱が抑制され、フィルムをはじめとする構成部材の変形及び発電効率の低下を抑制することができる。尚、上記第1樹脂層の、上記充填材部と面しない側に光反射性に優れた部材を配設した場合には、上記第1樹脂層を透過した光が、この部材の表面から反射し、反射光を太陽電池素子の裏面に供給して、光電変換に利用し、発電効率を向上させることができる。また、本発明の太陽電池用裏面保護フィルムが、この性質を有する第1樹脂層と、上記部材として他の樹脂層とを備える積層型フィルムであって、他の樹脂層が白色樹脂層である場合には、同様の効果を確実に得ることができる。
また、上記第1熱可塑性樹脂組成物が、更に、赤外線透過性着色剤を含む場合には、第1樹脂層が、波長800〜1,400nmの光に対する透過率が60%以上であり、且つ、波長400〜700nmの光に対する吸収率が60%以上である性質を有し、優れた暗色系外観を有する太陽電池モジュールを与えることができる。そして、太陽光がフィルムに当たった際に、フィルムをはじめとする構成部材の変形及び発電効率の低下を抑制するだけでなく、本発明の太陽電池用裏面保護フィルムを備える太陽電池を、家屋の屋根等に配設したとき、太陽電池の外観性に優れる。更に、本発明の太陽電池用裏面保護フィルムが、赤外線透過性着色剤を含む第1樹脂層と、他の樹脂層とを備える積層型フィルムであって、他の樹脂層が白色樹脂層である場合には、第1樹脂層における蓄熱及びその変形が抑制され、太陽電池モジュールにおける蓄熱が抑制され、発電効率の改良効果に優れる。
【0011】
上記含珪素熱可塑性樹脂が、含珪素ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物を含む単量体を重合して得られたグラフト重合樹脂を含む場合には、耐加水分解性、寸法安定性、耐衝撃性等に優れる。
【0012】
本発明の太陽電池モジュールによれば、上記本発明の太陽電池用裏面保護フィルムを備えることから、形状安定性に優れ、これにより、光電変換効率が改良された太陽電池を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の太陽電池用裏面保護フィルム(単層型)の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の太陽電池用裏面保護フィルム(積層型)の一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の太陽電池用裏面保護フィルム(積層型)の他の例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の太陽電池モジュールの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳しく説明する。尚、本明細書において、「(共)重合」とは、単独重合及び共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートを意味する。
【0015】
本発明の太陽電池用裏面保護フィルムは、含珪素熱可塑性樹脂を含む樹脂層(第1樹脂層)を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の太陽電池用裏面保護フィルムは、上記第1樹脂層のみを備える単層型フィルム1Aであってよいし(図1参照)、上記第1樹脂層11と、この第1樹脂層11に接合された他の層15とを備える積層型フィルム(積層型シートを含む)1Bであってもよい(図2及び図3参照)。他の層15は、後述される。
本発明において、太陽電池用裏面保護フィルムは、単層型フィルム及び積層型フィルムのいずれであっても、第1樹脂層の表面で、太陽電池モジュールの充填材部の露出面と接着させるために用いられる。
【0017】
上記第1樹脂層は、含珪素熱可塑性樹脂を単独で、又は、この含珪素熱可塑性樹脂を含む第1熱可塑性樹脂組成物を用いて得られた、可撓性を有する層である。この第1熱可塑性樹脂組成物は、後述するように、含珪素熱可塑性樹脂と、珪素非含有熱可塑性樹脂とを含有する組成物であってよいし、含珪素熱可塑性樹脂と、添加剤とを含有する組成物であってもよい。この第1樹脂層は、上記のように、単層型フィルムとすることができるので、含珪素熱可塑性樹脂及び第1熱可塑性樹脂組成物は、少なくともフィルム形成性を有する。
以下、含珪素熱可塑性樹脂のみを用いて第1樹脂層を形成する場合を含めて、上記第1樹脂層の形成に、第1熱可塑性樹脂組成物を用いることとして説明する。
【0018】
上記第1樹脂層に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移温度(以下、「Tg」ともいう。)は、好ましくは90℃〜220℃、より好ましくは95℃〜200℃、更に好ましくは100℃〜180℃、特に好ましくは105℃〜160℃である。このガラス転移温度Tgが上記範囲にあると、耐熱性に優れる。尚、Tgが高すぎると、上記第1樹脂層の可撓性が低下する傾向にある。一方、Tgが低すぎると、耐熱性が不十分となる傾向がある。ガラス転移温度Tgは、示差走査熱量計(DSC)により測定することができる。
尚、上記第1樹脂層を形成する第1熱可塑性樹脂組成物が複数の熱可塑性樹脂を含む場合、少なくとも1つの樹脂は、上記範囲のTgを有する。好ましくは、少なくとも1つの含珪素熱可塑性樹脂は、上記範囲のTgを有する。
【0019】
上記含珪素熱可塑性樹脂は、分子中に珪素原子を含む樹脂であり、芳香族ビニル樹脂(以下、「含珪素芳香族ビニル系樹脂」という。)、ポリオレフィン樹脂(含珪素ポリオレフィン系樹脂)、ポリ塩化ビニル樹脂(含珪素ポリ塩化ビニル系樹脂)、ポリ塩化ビニリデン樹脂(含珪素ポリ塩化ビニリデン系樹脂)、飽和ポリエステル樹脂(含珪素飽和ポリエステル系樹脂)、ポリカーボネート樹脂(含珪素ポリカーボネート系樹脂)、ポリアミド樹脂(含珪素ポリアミド系樹脂)、アクリル樹脂(含珪素アクリル系樹脂)、フッ素樹脂(含珪素フッ素系樹脂)、珪素樹脂等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせてアロイとして用いることができる。
尚、上記含珪素熱可塑性樹脂における、重合性不飽和化合物を含む単量体を重合して得られる樹脂の形態としては、含珪素重合性不飽和化合物を含む単量体を重合して得られた(共)重合体からなる樹脂;珪素非含有ゴムの存在下、含珪素重合性不飽和化合物を含む単量体を重合して得られたグラフト重合樹脂;含珪素ゴムの存在下、含珪素重合性不飽和化合物を含まない単量体を重合して得られたグラフト重合樹脂;含珪素ゴムの存在下、含珪素重合性不飽和化合物を含む単量体を重合して得られたグラフト重合樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明においては、太陽電池素子を包埋する、エチレン・酢酸ビニル共重合体組成物等を含む充填材部との接着性、耐熱性及び耐候性に優れることから、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を有する含珪素芳香族ビニル系樹脂が好ましい。
【0020】
尚、上記第1熱可塑性樹脂組成物に含まれる含珪素熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂成分(熱可塑性樹脂)の全量に対して、好ましくは1〜100質量%、より好ましくは3〜100質量%、更に好ましくは10〜90質量%である。上記割合であれば、上記第1熱可塑性樹脂組成物を含む第1樹脂層は、太陽電池素子を包埋する、エチレン・酢酸ビニル共重合体組成物等を含む充填材部との接着性、耐熱性及び耐候性に優れる。
【0021】
一方、上記珪素非含有熱可塑性樹脂としては、芳香族ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位を含むアクリル樹脂、フッ素樹脂や、珪素非含有ゴムの存在下、含珪素重合性不飽和化合物を含まない単量体を重合して得られた珪素非含有グラフト重合樹脂(ジエン系グラフト重合樹脂、アクリル系グラフト重合樹脂等)等が挙げられる。これらの樹脂は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
上記含珪素芳香族ビニル系樹脂は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を有する含珪素樹脂であり、以下に例示される。
[1]芳香族ビニル化合物と、含珪素重合性不飽和化合物とを含む単量体(以下、「単量体(m1)」という。)を重合して得られた含珪素共重合体
[2]珪素非含有ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物と、含珪素重合性不飽和化合物とを含む単量体(以下、「単量体(m2)」という。)を重合して得られたグラフト重合樹脂(以下、「グラフト重合樹脂(g1)」という。)
[3]含珪素ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物を含む単量体(以下、「単量体(m3)」という。)を重合して得られたグラフト重合樹脂(以下、「グラフト重合樹脂(g2)」という。)
これらのうち、好ましくは態様[2]〜[3]であり、特に好ましくは態様[3]である。
【0023】
上記態様[1]の含珪素共重合体は、芳香族ビニル化合物と、含珪素重合性不飽和化合物とを含む単量体(m1)を重合して得られた重合体である。
芳香族ビニル化合物は、少なくとも1つのビニル結合と、少なくとも1つの芳香族環とを有する化合物であれば、特に限定されない。その例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、トリブロモスチレン、フルオロスチレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの芳香族ビニル化合物のうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましい。
【0024】
また、含珪素重合性不飽和化合物は、珪素原子を有し、少なくとも1つのビニル結合を有する化合物であれば、特に限定されず、例えば、下記一般式(1)で表される化合物等を用いることができる。
Si(OR (1)
〔式中、Rは、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する炭素数1〜20の有機基であり、Rは、互いに同一又は異なって、水素原子、脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基である。〕
尚、炭素−炭素二重結合としては、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基、ノルボルネニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0025】
上記一般式(1)で表される含珪素重合性不飽和化合物としては、ビニルトリアルコキシシラン化合物、3−メタクリロキシアルキルトリアルコキシシラン化合物、3−アクリロキシアルキルトリアルコキシシラン化合物、アリルトリアルコキシシラン化合物、ノルボルネニルトリアルコキシシラン化合物、シクロヘキセニルエチルトリアルコキシシラン化合物等が挙げられる。
【0026】
上記ビニルトリアルコキシシラン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン等が挙げられる。
上記3−メタクリロキシアルキルトリアルコキシシランとしては、3−メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシメチルトリプロポキシシラン、3−メタクリロキシエチルトリプロポキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン等が挙げられる。
上記3−アクリロキシアルキルトリアルコキシシランとしては、3−アクリロキシメチルトリメトキシシラン、3−アクリロキシエチルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシメチルトリエトキシシラン、3−アクリロキシエチルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシメチルトリプロポキシシラン、3−アクリロキシエチルトリプロポキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリブトキシシラン等が挙げられる。
上記アリルトリアルコキシシランとしては、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリプロポキシシラン、アリルトリブトキシシラン等が挙げられる。
上記ノルボルネニルトリアルコキシシランとしては、ノルボルネニルトリメトキシシラン、ノルボルネニルトリエトキシシラン、ノルボルネニルトリプロポキシシラン、ノルボルネニルトリブトキシシラン等が挙げられる。
上記シクロヘキセニルエチルトリアルコキシシランとしては、シクロヘキセニルエチルトリメトキシシラン、シクロヘキセニルエチルトリエトキシシラン、シクロヘキセニルエチルトリプロポキシシラン、シクロヘキセニルエチルトリブトキシシラン等が挙げられる。
【0027】
また、上記以外の他の含珪素重合性不飽和化合物としては、ジエトキシメチルビニルシラン、トリス(2−メトキシエトキシ)ビニルシラン、p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン、1−(m−ビニルフェニル)メチルジメチルイソプロポキシシラン、3−(p−ビニルフェノキシ)プロピルメチルジエトキシシラン、3−(p−ビニルベンゾイロキシ)プロピルメチルジメトキシシラン、2−(p−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン、2−(m−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン、2−(o−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン、1−(p−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン、1−(m−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン、1−(o−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン、1−(o−ビニルフェニル)−1,1,2−トリメチル−2,2−ジメトキシジシラン、1−(p−ビニルフェニル)−1,1−ジフェニル−3−エチル−3,3−ジエトキシジシロキサン、m−ビニルフェニル−[3−(トリエトキシシリル)プロピル]ジフェニルシラン、[3−(p−イソプロペニルベンゾイルアミノ)プロピル]フェニルジプロポキシシラン、N−3−(メタクリロキシ−2−ヒドロキシプロピル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリス(メトキシエトキシ)シラン、3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート、3−[トリス(ジメチルビニルシロキシ)]プロピルメタクリレート、3−(トリクロロシリル)プロピルメタクリレート、トリメチルシリルメタクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)−3−メタクリロキシプロピルシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、アクリロキシトリメチルシラン、イタコン酸ビストリメチルシリル、(メタクリロキシメチル)ビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、2−(トリメチルシロキシ)エチルメタクリレ−ト、2−(アクリロキシエトキシ)トリメチルシラン、3−メタクリロキシプロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、(3−アクリロキシプロピル)メチルビス(トリメチルシロキシ)シラン、(3−アクリロキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3−アクリロキシプロピル)トリス(トリメチルシロキシ)シラン、トリクロロビニルシラン、アリルトリクロロシラン等が挙げられる。
【0028】
上記含珪素重合性不飽和化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
上記態様[1]の含珪素共重合体を形成する単量体(m1)は、芳香族ビニル化合物と、含珪素重合性不飽和化合物とからなるものであってよいし、芳香族ビニル化合物と、含珪素重合性不飽和化合物と、他のビニル系化合物とからなるものであってもよい。他のビニル系化合物としては、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
他のビニル系化合物のうち、上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−クロロ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。これらのシアン化ビニル化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの(メタ)アクリル酸エステル化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
上記マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらのマレイミド系化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。尚、マレイミド系化合物に由来する構造単位を導入する他の方法としては、例えば、無水マレイン酸を共重合し、その後イミド化する方法でもよい。
上記不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの不飽和酸無水物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
上記ヒドロキシル基含有不飽和化合物としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、ヒドロキシスチレン、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸5−ヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸7−ヒドロキシヘプチル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸9−ヒドロキシノニル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸11−ヒドロキシウンデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシドデシル等が挙げられる。これらのヒドロキシル基含有不飽和化合物は、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
上記アミノ基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノメチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−(ジ−n−プロピルアミノ)エチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ジ−n−プロピルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸3−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−(ジ−n−プロピルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−tert−ブチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸フェニルアミノエチル、4−アミノスチレン、4−ジメチルアミノスチレン、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、(メタ)アクリルアミン、N−メチル(メタ)アクリルアミン等が挙げられる。これらのアミノ基含有不飽和化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
上記アミド基含有不飽和化合物としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、3−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これらのアミド基含有不飽和化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
上記態様[1]の含珪素共重合体を構成する、含珪素重合性不飽和化合物に由来する構造単位の含有割合は、構造単位の全量に対して、好ましくは0.01〜15質量%、より好ましくは0.1〜10質量%である。上記割合であれば、この態様[1]の含珪素共重合体を含む第1樹脂層と、太陽電池素子を包埋する、エチレン・酢酸ビニル共重合体組成物等を含む充填材部との接着性、耐熱性及び耐候性に優れる。
また、上記態様[1]の含珪素共重合体において、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、及び、含珪素重合性不飽和化合物に由来する構造単位の含有割合は、特に限定されないが、これらの合計量は、上記含珪素共重合体を構成する構造単位の全量に対して、好ましくは40〜100質量%、より好ましくは60〜90質量%である。上記割合であれば、この態様[1]の含珪素共重合体を含む第1樹脂層と、太陽電池素子を包埋する、エチレン・酢酸ビニル共重合体組成物等を含む充填材部との接着性、耐熱性及び耐候性に優れる。
【0036】
上記態様[1]の含珪素共重合体の重量平均分子量(以下、「Mw」ともいう。)は、耐衝撃性、可撓性、成膜性、靭性等の観点から、好ましくは30,000〜1,000,000、より好ましくは50,000〜500,000である。上記Mwは、標準ポリスチレンを用いたGPCにより測定することができる。
【0037】
上記態様[1]の含珪素共重合体は、重合開始剤の存在下、上記単量体を重合することにより製造される。重合方法は、溶液重合等、公知の方法が適用される。
【0038】
上記態様[2]のグラフト重合樹脂(g1)は、珪素非含有ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物と、含珪素重合性不飽和化合物とを含む単量体(m2)を重合して得られたグラフト重合樹脂である。
また、上記態様[3]のグラフト重合樹脂(g2)は、含珪素ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物を含む単量体(m3)を重合して得られたグラフト重合樹脂である。
【0039】
上記態様[2]及び[3]において用いられる、珪素非含有ゴム及び含珪素ゴム(以下、併せて「ゴム成分」ともいう。)の構成成分は、以下に説明されるが、物理的性質(形状、大きさ、分子量等)は、特に限定されない。
上記ゴム成分の形状は、特に限定されず、粒子状(球状、略球状)、直線状、曲線状等とすることができる。粒子状である場合、その体積平均粒子径は、好ましくは5〜2,000nmであり、より好ましくは10〜1,800nmであり、更に好ましくは50〜1,500nmである。体積平均粒子径が上記の範囲にあれば、第1熱可塑性樹脂組成物の加工性及び得られる第1樹脂層の耐衝撃性等に優れる。尚、上記体積平均粒子径は、電子顕微鏡写真を用いた画像解析、レーザー回折法、光散乱法等により測定することができる。
【0040】
上記珪素非含有ゴムとしては、アクリル系ゴム;ポリブタジエン、ポリイソプレン等の単独重合体、スチレン・ブタジエン系共重合体、スチレン・イソプレン系共重合体、天然ゴム等のジエン系ゴム;共役ジエン系化合物よりなる単位を含む(共)重合体を水素添加してなる重合体(但し、水素添加率は、通常、50%以上。);エチレン単位と、炭素数3以上のα−オレフィンからなる単位とを含むエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム;ウレタン系ゴム等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
上記アクリル系ゴムは、好ましくは、アルキル基の炭素数が2〜8のアクリル酸アルキルエステル化合物に由来する構造単位を含む(共)重合体である。この構造単位の含有量は、構造単位の全量に対して、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0042】
上記アクリル酸アルキルエステル化合物としては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、アクリル酸アルキルエステル化合物は、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。
【0043】
上記アクリル系ゴムが、他の単量体に由来する構造単位を含む場合、他の単量体としては、塩化ビニル、塩化ビニリデン、シアン化ビニル化合物、芳香族ビニル化合物、ビニルエステル化合物、メタクリル酸アルキルエステル化合物、カルボキシル基含有不飽和化合物、メトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、プロポキシメチル(メタ)アクリレート、ブトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、プロポキシプロピル(メタ)アクリレート、ブトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシ−1−メチル−プロピル(メタ)アクリレート、2−プロポキシ−1−メチルプロピル(メタ)アクリレート、2−ブトキシ−1−メチルプロピル(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、含フッ素不飽和化合物等の単官能性単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のモノ又はポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、ジアリルマレエート、ジアリルサクシネート、トリアリルトリアジン等のジ又はトリアリル化合物、アリル(メタ)アクリレート等のアリル化合物、1,3−ブタジエン等の共役ジエン化合物等の、2以上の不飽和結合を有する多官能性単量体等が挙げられる。本発明においては、他の単量体は、多官能性単量体を含むことが好ましい。即ち、上記アクリル系ゴムは、上記多官能性単量体に由来する構造単位を含む共重合体であることが好ましい。
好ましいアクリル系ゴムを構成する、多官能性単量体に由来する構造単位の含有量は、低温衝撃性、可撓性等の観点から、構造単位の全量に対して、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.05〜8質量%、更に好ましくは0.1〜5質量%である。
【0044】
上記アクリル系ゴムのTgは、低温衝撃性、可撓性等の観点から、好ましくは−10℃以下である。
【0045】
上記アクリル系ゴムを製造する方法としては、乳化重合等が挙げられる。この場合、乳化剤の種類及びその使用量、開始剤の種類及びその使用量、重合時間、重合温度、攪拌条件等の製造条件を選択することにより、上記体積平均粒子径等を調整することができる。また、上記体積平均粒子径(粒子径分布)の他の調整方法としては、異なる粒子径を有する上記アクリル系ゴムの2種以上をブレンドする方法でもよい。
【0046】
上記含珪素ゴムとしては、含珪素重合性不飽和化合物と、ブタジエン等の共役ジエン化合物、エチレン、プロピレン等のα−オレフィン化合物及びアクリル酸アルキルエステル化合物から選ばれた少なくとも1種と、を含む単量体を共重合して得られたゴム(水添ゴムでもよい);1種又は2種以上のオルガノシロキサンの重縮合により得られたポリオルガノシロキサンからなるシリコーンゴム;オルガノシロキサンと、含珪素架橋剤(3又は4のアルコキシ基を有する飽和シラン化合物)とを用いて得られたゴム;オルガノシロキサンと、含珪素重合性不飽和化合物とを用いて得られたゴム;オルガノシロキサンと、含珪素架橋剤(3又は4のアルコキシ基を有する飽和シラン化合物)と、含珪素重合性不飽和化合物とを用いて得られたゴム;共役ジエン化合物と、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物等から選ばれた少なくとも1種の珪素非含有重合性不飽和化合物と、含珪素カップリング剤(アルキルジクロロシラン化合物、アルキルトリクロロシラン化合物、ジアルキルクロロシラン化合物、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、テトラアルコキシシラン化合物等)とを用いて得られたゴム等が挙げられる。上記含珪素ゴムは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記含珪素ゴムのうちの2種以上を組み合わせた場合、並びに、上記含珪素ゴムの少なくとも1種と、他のゴムとを組み合わせた場合は、複合ゴムといわれることがあるが、この複合ゴムにおいては、複数のゴムが化学結合していてよいし、絡み合いを有してよいし、単なる共存物であってもよい。
【0047】
上記含珪素ゴムとしては、含珪素重合性不飽和化合物と、アクリル酸アルキルエステル化合物とを含む単量体を共重合して得られたゴム(以下、「含珪素ゴム(s1)」という。)、オルガノシロキサンと、含珪素重合性不飽和化合物とを用いて得られたゴム(以下、「含珪素ゴム(s2)」という。)、オルガノシロキサンと、含珪素架橋剤(3又は4のアルコキシ基を有する飽和シラン化合物)と、含珪素重合性不飽和化合物とを用いて得られたゴム(以下、「含珪素ゴム(s3)」という。)、並びに、複合ゴム(以下、「含珪素ゴム(s4)」という。)が好ましい。
【0048】
上記含珪素ゴム(s1)の形成に用いる単量体のうち、含珪素重合性不飽和化合物は、上記態様[1]において例示した化合物を用いることができる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、含珪素重合性不飽和化合物は、p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン、2−(p−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン及び3−(p−ビニルベンゾイロキシ)プロピルメチルジメトキシシランが好ましく、p−ビニルフェニルメチルジメトキシシランが特に好ましい。上記単量体100質量%に含まれる含珪素重合性不飽和化合物の含有量は、好ましくは0.01〜15質量%、より好ましくは0.1〜10質量%である。
また、アクリル酸アルキルエステル化合物は、好ましくは、アルキル基の炭素数が2〜8のアクリル酸アルキルエステルであり、上記アクリル系ゴムの形成に用いるアクリル酸アルキルエステル化合物において例示した化合物を用いることができる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、アクリル酸アルキルエステル化合物は、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル及びアクリル酸2−エチルヘキシルが好ましい。上記単量体100質量%に含まれるアクリル酸アルキルエステル化合物の含有量は、好ましくは85〜99.99質量%、より好ましくは90〜99.9質量%である。
【0049】
上記含珪素ゴム(s1)の形成に用いる単量体は、含珪素重合性不飽和化合物と、アクリル酸アルキルエステル化合物とからなるものであってよいし、含珪素重合性不飽和化合物と、アクリル酸アルキルエステル化合物と、他の重合性化合物とからなるものであってもよい。他の重合性化合物としては、シアン化ビニル化合物、芳香族ビニル化合物、メタクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、アルコキシ基含有不飽和化合物、含フッ素不飽和化合物、2以上の不飽和結合を有する多官能性単量体等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明においては、上記単量体が多官能性単量体を含むことが好ましく、上記アクリル系ゴムの形成に用いる多官能性単量体において例示した化合物を用いることができる。その使用量は、上記単量体100質量%に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0050】
上記含珪素ゴム(s1)のTgは、低温衝撃性、可撓性等の観点から、好ましくは−10℃以下である。
【0051】
上記含珪素ゴム(s2)は、オルガノシロキサンと、含珪素重合性不飽和化合物とを用いて得られたゴムであり、オルガノシロキサンセグメントと、他のセグメントとを含むポリオルガノシロキサン系ゴムである。
また、上記含珪素ゴム(s3)は、オルガノシロキサンと、含珪素架橋剤(3又は4のアルコキシ基を有する飽和シラン化合物)と、含珪素重合性不飽和化合物とを用いて得られたゴムであり、オルガノシロキサンセグメントと、他のセグメントとを含むポリオルガノシロキサン系ゴムである。
上記含珪素ゴム(s2)及び(s3)は、好ましくは、乳化重合でラテックスの状態で得られる、例えば、米国特許第2,891,920号明細書、同第3,294,725号明細書等に記載された方法により製造されたポリオルガノシロキサン系ゴムとすることができる。
【0052】
上記ポリオルガノシロキサン系ゴムは、例えば、ホモミキサー又は超音波混合機を使用し、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸等のスルホン酸系乳化剤の存在下に、オルガノシロキサンと水とを剪断混合し、その後、縮合する方法により得られたラテックスに含まれるシリコーンゴムであることが好ましい。アルキルベンゼンスルホン酸は、オルガノシロキサンの乳化剤として作用するとともに、重合開始剤としても作用するので好適である。この際、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩、アルキルスルホン酸金属塩等を併用すると、グラフト重合樹脂を製造する際に、シリコーンゴムを安定に維持する効果があるので好ましい。尚、本発明においては、上記オルガノシロキサンの使用に際して、含珪素重合性不飽和化合物を併用しており、重合体末端が、ジメチルビニルシリル基、メチルフェニルビニルシリル基等で封止されていてもよい。また、上記ポリオルガノシロキサン系ゴムの末端は、例えば、ヒドロキシル基、アルコキシ基、トリメチルシリル基、メチルジフェニルシリル基等で封止されていてもよい。
【0053】
上記反応に用いるオルガノシロキサンは、例えば、下記一般式(2)で表される構造単位を有する化合物である。
(RSiO(4−m)/2) (2)
〔式中、Rは置換又は非置換の1価の炭化水素基であり、mは0〜3の整数を示す。〕
上記一般式(2)で表される化合物の構造は、直鎖状、分岐状又は環状であるが、上記化合物は、好ましくは環状構造を有するオルガノシロキサンである。このオルガノシロキサンが有するR、即ち、1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;及び、これら炭化水素基における炭素原子に結合した水素原子の一部がハロゲン原子、シアノ基等で置換された基;並びにアルキル基の水素原子の少なくとも1個がメルカプト基で置換された基等が挙げられる。
【0054】
上記オルガノシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン等の環状化合物の他に、直鎖状又は分岐状のオルガノシロキサンを用いることができる。これらは、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
尚、上記オルガノシロキサンは、予め縮合された、例えば、Mwが500〜10,000程度のポリオルガノシロキサンであってもよい。また、オルガノシロキサンがポリオルガノシロキサンである場合、その分子鎖末端は、ヒドロキシル基、アルコキシ基、トリメチルシリル基、メチルジフェニルシリル基等で封止されていてもよい。
【0055】
また、上記反応に用いる含珪素重合性不飽和化合物は、上記態様[1]において例示した化合物を用いることができる。これらの化合物は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、含珪素重合性不飽和化合物は、p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン、2−(p−ビニルフェニル)エチルメチルジメトキシシラン及び3−(p−ビニルベンゾイロキシ)プロピルメチルジメトキシシランが好ましく、p−ビニルフェニルメチルジメトキシシランが特に好ましい。
【0056】
上記含珪素ゴム(s2)及び(s3)の製造に際して、上記オルガノシロキサンと、上記含珪素重合性不飽和化合物とを併用する場合、上記含珪素重合製不飽和化合物の使用量は、これらの合計量100質量%に対し、好ましくは0.01〜15質量%、より好ましくは0.05〜12質量%、更に好ましくは0.1〜10質量%である。上記含珪素重合性不飽和化合物の使用量が多すぎると、得られる第1樹脂層の耐衝撃性及び耐候性が十分でない場合がある。
【0057】
上記含珪素ゴム(s3)の製造に際して用いられる含珪素架橋剤としては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等の3官能性架橋剤、テトラエトキシシラン等の4官能性架橋剤等が挙げられる。尚、これらの化合物を予め縮重合させてなる架橋性プレポリマーを使用してもよい。これらは、単独で用いてよいし、2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記含珪素架橋剤を用いて得られた含珪素ゴム(s3)の存在下、芳香族ビニル化合物を含む単量体(m3)を重合して得られたグラフト重合樹脂を含む第1樹脂層は、耐衝撃性に特に優れる。
【0058】
上記含珪素ゴム(s3)の製造に際して用いられる含珪素架橋剤の使用量は、オルガノシロキサン、グラフト交叉剤(通常、含珪素重合性不飽和化合物である)及び含珪素架橋剤の合計量100質量%に対し、通常、10質量%以下、好ましくは5質量%以下、更に好ましくは0.01〜5質量%である。上記含珪素架橋剤の使用量が、10質量%を超えると、得られるポリオルガノシロキサン系ゴムの柔軟性が損なわれ、得られる第1樹脂層の可撓性が低下する場合がある。
【0059】
上記含珪素ゴム(s2)又は(s3)の製造に用いられる乳化剤の使用量は、オルガノシロキサン及び含珪素重合性不飽和化合物の合計量100質量部に対し、通常、0.1〜5質量部、好ましくは0.3〜3質量部である。
上記含珪素ゴム(s2)又は(s3)の製造に用いられる水の使用量は、オルガノシロキサン及び含珪素重合性不飽和化合物の合計量100質量部に対し、通常、100〜500質量部、好ましくは200〜400質量部である。
また、上記含珪素ゴム(s2)又は(s3)の製造の際の縮合温度は、通常、5℃〜100℃である。
【0060】
上記含珪素ゴム(s2)及び(s3)の体積平均粒子径は、通常、500nm以下、好ましくは400nm以下、より好ましくは50〜400nmである。体積平均粒子径が500nm以下であれば、第1熱可塑性樹脂組成物の加工性及び得られる第1樹脂層の耐衝撃性等に優れる。一方、上記体積平均粒子径が500nmを超えると、第1樹脂層の光沢が低下する等、外観性が劣る傾向にある。
尚、上記体積平均粒子径は、含珪素ゴム(s2)及び(s3)の製造時に用いる乳化剤及び水の使用量、オルガノシロキサンの添加方法、ホモミキサー又は超音波混合機を使用したときの分散の程度等によって、容易に制御することができる。
【0061】
上記含珪素ゴム(s2)のTgは、低温衝撃性、可撓性等の観点から、好ましくは−150℃〜−30℃である。
上記含珪素ゴム(s3)のTgは、低温衝撃性、可撓性等の観点から、好ましくは−150℃〜−30℃である。
【0062】
上記複合ゴム(s4)は、以下に例示される。これらの態様においては、上記のように、ゴムどうしが化学結合していてよいし、絡み合いを有してよいし、単なる共存物であってもよい。
(1)上記含珪素ゴム(s1)及び(s2)の組合せ
(2)上記含珪素ゴム(s1)及び(s3)の組合せ
(3)上記含珪素ゴム(s1)、(s2)及び(s3)の組合せ
(4)アクリル系ゴム及び上記含珪素ゴム(s2)の組合せ
(5)アクリル系ゴム及び上記含珪素ゴム(s3)の組合せ
(6)アクリル系ゴム、上記含珪素ゴム(s2)及び(s3)の組合せ
【0063】
上記態様(4)〜(6)の複合ゴムは、例えば、特開平4−239010号公報に記載された方法により製造することができる。これらの態様の市販品としては、三菱レイヨン社製「メタブレンSX−006」(商品名)等が挙げられる。
【0064】
尚、上記態様[2]及び[3]に係る上記グラフト重合樹脂(g1)及び(g2)は、一般に、ゴム強化樹脂といわれる樹脂であり、単量体がゴムの周辺で重合した結果、ゴムの、表面及び内部のうちの少なくとも表面にグラフト重合体部を有する樹脂である。
【0065】
上記態様[2]におけるグラフト重合樹脂(g1)の形成に用いられる珪素非含有ゴムとしては、アクリル系ゴム、ジエン系ゴム等が挙げられるが、アクリル系ゴムが好ましい。
【0066】
上記グラフト重合樹脂(g1)の形成に用いられる単量体(m2)に含まれる芳香族ビニル化合物及び含珪素重合性不飽和化合物は、上記態様[1]において例示した化合物を用いることができる。上記単量体(m2)に含まれる芳香族ビニル化合物及び含珪素重合性不飽和化合物の割合は、これらの合計を100質量%とした場合に、それぞれ、好ましくは85〜99.99質量%及び0.01〜15質量%、より好ましくは90〜99.95質量%及び0.05〜10質量%である。
【0067】
上記単量体(m2)は、芳香族ビニル化合物と、含珪素重合性不飽和化合物とからなるものであってよいし、芳香族ビニル化合物と、含珪素重合性不飽和化合物と、他のビニル系化合物とからなるものであってもよい。後者の場合、上記単量体(m2)に含まれる芳香族ビニル化合物及び含珪素重合性不飽和化合物の合計量の割合は、通常、60質量%以上である。他のビニル系化合物としては、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
上記グラフト重合樹脂(g1)は、上記珪素非含有ゴムの存在下に、上記単量体(m2)を重合することにより製造されたものであるが、その製造方法は、特に限定されず、例えば、乳化重合、溶液重合、塊状重合等を適用することができる。
上記グラフト重合樹脂(g1)の製造に際して用いられる上記珪素非含有ゴム及び上記単量体(m2)の使用量の割合は、上記珪素非含有ゴム100質量部に対して、上記単量体(m2)が、好ましくは25〜400質量部、より好ましくは40〜300質量部である。
【0069】
また、上記態様[3]のグラフト重合樹脂(g2)の形成に用いられる単量体(m3)は、芳香族ビニル化合物のみからなるものであってよいし、芳香族ビニル化合物と、含珪素重合性不飽和化合物を除く他のビニル系化合物とからなるものであってもよい。後者の場合、上記単量体(m3)に含まれる芳香族ビニル化合物の割合は、好ましくは20質量%以上100質量%未満、より好ましくは40〜90質量%である。他のビニル系化合物としては、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
上記グラフト重合樹脂(g2)は、上記含珪素ゴムの存在下に、上記単量体(m3)を重合することにより製造されたものであるが、その製造方法は、特に限定されず、例えば、乳化重合、溶液重合、塊状重合等を適用することができる。
上記グラフト重合樹脂(g2)の製造に際して用いられる上記含珪素ゴム及び上記単量体(m3)の使用量の割合は、上記含珪素ゴム100質量部に対して、上記単量体(m3)が、好ましくは25〜400質量部、より好ましくは40〜300質量部である。
【0071】
本発明においては、上記含珪素芳香族ビニル系樹脂は、他の熱可塑性樹脂と組み合わせてもよい。他の熱可塑性樹脂は、分子中に珪素原子を含み且つ芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含まない樹脂、分子中に珪素原子を含まず且つ芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む樹脂、及び、分子中に珪素原子を含まず且つ芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含まない樹脂が挙げられる。
【0072】
分子中に珪素原子を含み且つ芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含まない樹脂としては、含珪素ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物を含まない単量体(以下、「単量体(m4)」という。)を重合して得られたグラフト重合樹脂(以下、「グラフト重合樹脂(g3)」という。)、含珪素アクリル系樹脂、含珪素ポリオレフィン系樹脂、含珪素ポリ塩化ビニル系樹脂、含珪素ポリ塩化ビニリデン系樹脂、含珪素飽和ポリエステル系樹脂、含珪素ポリカーボネート系樹脂、含珪素ポリアミド系樹脂、含珪素フッ素系樹脂、珪素樹脂等が挙げられる。
【0073】
分子中に珪素原子を含まず且つ芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含む樹脂としては、芳香族ビニル化合物を含む単量体(以下、「単量体(m5)」という。)を重合して得られた芳香族ビニル(共)重合体、及び、珪素非含有ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物を含む単量体(以下、「単量体(m6)」という。)を重合して得られた珪素非含有グラフト重合樹脂(以下、「グラフト重合樹脂(g4)」という。)が挙げられる。
【0074】
また、分子中に珪素原子を含まず且つ芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含まない樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、(メタ)アクリル酸エステル化合物に由来する構造単位を含むアクリル樹脂、フッ素樹脂や、珪素非含有ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物、含珪素重合性不飽和化合物を含まない単量体(以下、「単量体(m7)」という。)を重合して得られた珪素非含有グラフト重合樹脂(以下、「グラフト重合樹脂(g5)」という。)等が挙げられる。このグラフト重合樹脂(g5)としては、ジエン系グラフト重合樹脂、アクリル系グラフト重合樹脂等が挙げられる。
【0075】
上記第1熱可塑性樹脂組成物が、樹脂成分として、含珪素芳香族ビニル系樹脂と、他の熱可塑性樹脂とからなる場合、含珪素芳香族ビニル系樹脂及びグラフト重合樹脂(g4)の組み合わせ、含珪素芳香族ビニル系樹脂及びグラフト重合樹脂(g5)の組み合わせ、等とすることができる。
【0076】
上記含珪素熱可塑性樹脂としては、上記のように、含珪素芳香族ビニル系樹脂以外の樹脂であってもよく、その具体例は、上記グラフト重合樹脂(g3)のほか、芳香族ビニル化合物を含まない重合性不飽和化合物と、含珪素重合性不飽和化合物とを含む単量体を重合して得られた含珪素共重合体等が挙げられる。
これらの樹脂は、上記態様[1]〜[3]の樹脂成分、芳香族ビニル化合物を含む単量体(以下、「単量体(m5)」という。)を重合して得られた芳香族ビニル(共)重合体、上記グラフト重合樹脂(g4)等の、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を有する樹脂と組み合わせて用いることができ、その場合には、形成される第1樹脂層と、太陽電池素子を包埋する、エチレン・酢酸ビニル共重合体組成物等を含む充填材部との接着性、耐熱性及び耐候性に優れる。
【0077】
上記第1熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分が、グラフト重合樹脂(g3)と、単量体(m5)を重合して得られた芳香族ビニル(共)重合体、及び、グラフト重合樹脂(g4)から選ばれた少なくとも1種とを組み合わせてなる樹脂である場合(以下、態様[4]という。)について、説明する。
即ち、上記態様[4]は、以下に例示される。
(4−1)グラフト重合樹脂(g3)と、芳香族ビニル(共)重合体とからなる樹脂
(4−2)グラフト重合樹脂(g3)と、珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)とからなる樹脂
(4−3)グラフト重合樹脂(g3)と、珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)と、芳香族ビニル(共)重合体とからなる樹脂
【0078】
上記グラフト重合樹脂(g3)の形成に用いる含珪素ゴムとしては、上記含珪素ゴム(s1)〜(s4)が好ましい。
また、上記グラフト重合樹脂(g3)の形成に用いる単量体(m4)としては、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等から選ばれた少なくとも1種の化合物が用いられる。
【0079】
上記グラフト重合樹脂(g3)は、上記含珪素ゴムの存在下に、上記単量体(m4)を重合することにより製造されたものであるが、その製造方法は、特に限定されず、例えば、乳化重合、溶液重合、塊状重合等を適用することができる。
上記グラフト重合樹脂(g3)の製造に際して用いられる上記含珪素ゴム及び上記単量体(m4)の使用量の割合は、上記含珪素ゴム100質量部に対して、上記単量体(m4)が、好ましくは25〜400質量部、より好ましくは40〜300質量部である。
【0080】
上記芳香族ビニル(共)重合体の形成に用いられる単量体(m5)は、芳香族ビニル化合物のみからなるものであってよいし、芳香族ビニル化合物と、含珪素重合性不飽和化合物を除く他のビニル系化合物とからなるものであってもよい。後者の場合、上記単量体(m5)に含まれる芳香族ビニル化合物の割合は、好ましくは20質量%以上100質量%未満、より好ましくは40〜90質量%である。他のビニル系化合物としては、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、シアン化ビニル化合物が好ましい。
【0081】
上記芳香族ビニル(共)重合体は、上記単量体(m5)を重合することにより製造されたものであるが、その製造方法は、特に限定されず、例えば、乳化重合、溶液重合、塊状重合等を適用することができる。
【0082】
上記珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)の形成に用いる珪素非含有ゴムとしては、アクリル系ゴム、ジエン系ゴム等が挙げられるが、アクリル系ゴムが好ましい。
【0083】
上記珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)の形成に用いる単量体(m6)は、芳香族ビニル化合物のみからなるものであってよいし、芳香族ビニル化合物と、含珪素重合性不飽和化合物を除く他のビニル系化合物とからなるものであってもよい。後者の場合、上記単量体(m6)に含まれる芳香族ビニル化合物の割合は、好ましくは20質量%以上100質量%未満、より好ましくは40〜90質量%である。他のビニル系化合物としては、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0084】
上記珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)は、上記珪素非含有ゴムの存在下に、上記単量体(m6)を重合することにより製造されたものであるが、その製造方法は、特に限定されず、例えば、乳化重合、溶液重合、塊状重合等を適用することができる。
上記珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)の製造に際して用いられる上記珪素非含有ゴム及び上記単量体(m6)の使用量の割合は、上記珪素非含有ゴム100質量部に対して、上記単量体(m6)が、好ましくは25〜400質量部、より好ましくは40〜300質量部である。
【0085】
上記態様[4]において、上記態様(4−1)である場合、グラフト重合樹脂(g3)及び芳香族ビニル(共)重合体の含有割合は、特に限定されないが、グラフト重合樹脂(g3)の形成に用いた含珪素ゴムの含有割合が、樹脂成分の全体に対して、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%となるように選択される。含珪素ゴムの含有割合が、上記範囲にあると、得られる第1樹脂層の耐衝撃性に優れる。
【0086】
上記態様[4]において、上記態様(4−2)である場合、グラフト重合樹脂(g3)及び珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)の含有割合は、特に限定されないが、グラフト重合樹脂(g3)の形成に用いた含珪素ゴム、及び、珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)の形成に用いた珪素非含有ゴムの合計含有量の割合が、樹脂成分の全体に対して、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%となるように選択される。ゴム成分の合計含有量の割合が、上記範囲にあると、得られる第1樹脂層の耐衝撃性に優れる。
【0087】
上記態様[4]において、上記態様(4−3)である場合、グラフト重合樹脂(g3)、珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)及び芳香族ビニル(共)重合体の含有割合は、特に限定されないが、グラフト重合樹脂(g3)の形成に用いた含珪素ゴム、及び、珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)の形成に用いた珪素非含有ゴムの合計含有量の割合が、樹脂成分の全体に対して、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%となるように選択される。ゴム成分の合計含有量の割合が、上記範囲にあると、得られる第1樹脂層の耐衝撃性に優れる。
【0088】
また、上記第1熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分が、グラフト重合樹脂(g4)と、含珪素芳香族ビニル系樹脂である上記態様[1]〜[3]から選ばれた樹脂とを組み合わせてなる樹脂である場合(以下、態様[5]という。)について、説明する。
即ち、上記態様[5]は、以下に例示される。
(5−1)珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)と、上記態様[1]の含珪素共重合体とからなる樹脂
(5−2)珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)と、上記態様[2]の樹脂、即ち、グラフト重合樹脂(g1)とからなる樹脂
(5−3)珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)と、上記態様[3]の樹脂、即ち、グラフト重合樹脂(g2)とからなる樹脂
【0089】
上記態様[5]において、上記態様(5−1)である場合、珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)及び上記態様[1]の含珪素共重合体の含有割合は、特に限定されないが、珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)の形成に用いた珪素非含有ゴムの含有割合が、樹脂成分の全体に対して、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%となるように選択される。珪素非含有ゴムの含有割合が、上記範囲にあると、得られる第1樹脂層の耐衝撃性に優れる。
【0090】
上記態様[5]において、上記態様(5−2)である場合、珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)及びグラフト重合樹脂(g1)の含有割合は、特に限定されないが、珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)の形成に用いた珪素非含有ゴム、及び、グラフト重合樹脂(g1)の形成に用いた珪素非含有ゴムの合計含有量の割合が、樹脂成分の全体に対して、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%となるように選択される。ゴム成分の合計含有量の割合が、上記範囲にあると、得られる第1樹脂層の耐衝撃性に優れる。
【0091】
上記態様[5]において、上記態様(5−3)である場合、珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)及びグラフト重合樹脂(g2)の含有割合は、特に限定されないが、珪素非含有グラフト重合樹脂(g4)の形成に用いた珪素非含有ゴム、及び、グラフト重合樹脂(g2)の形成に用いた含珪素ゴムの合計含有量の割合が、樹脂成分の全体に対して、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%となるように選択される。ゴム成分の合計含有量の割合が、上記範囲にあると、得られる第1樹脂層の耐衝撃性に優れる。
【0092】
更に、上記第1熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分が、珪素非含有ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物、含珪素重合性不飽和化合物を含まない単量体(m7)を重合して得られた珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)と、含珪素芳香族ビニル系樹脂である上記態様[1]〜[5]から選ばれた樹脂とを組み合わせてなる樹脂である場合(以下、態様[6]という。)について、説明する。
即ち、上記態様[6]は、以下に例示される。
(6−1)珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)と、上記態様[1]の含珪素共重合体とからなる樹脂
(6−2)珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)と、上記態様[2]の樹脂、即ち、グラフト重合樹脂(g1)とからなる樹脂
(6−3)珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)と、上記態様[3]の樹脂、即ち、グラフト重合樹脂(g2)とからなる樹脂
(6−4)珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)と、上記態様[4]の樹脂とからなる樹脂
(6−5)珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)と、上記態様[5]の樹脂とからなる樹脂
【0093】
上記珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)の形成に用いる珪素非含有ゴムとしては、アクリル系ゴム、ジエン系ゴム等が挙げられるが、アクリル系ゴムが好ましい。
【0094】
上記珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)の形成に用いる単量体(m7)としては、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、アミノ基含有不飽和化合物、アミド基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等から選ばれた少なくとも1種の化合物が用いられる。
【0095】
上記珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)は、上記珪素非含有ゴムの存在下に、上記単量体(m7)を重合することにより製造されたものであるが、その製造方法は、特に限定されず、例えば、乳化重合、溶液重合、塊状重合等を適用することができる。
上記珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)の製造に際して用いられる上記珪素非含有ゴム及び上記単量体(m7)の使用量の割合は、上記珪素非含有ゴム100質量部に対して、上記単量体(m7)が、好ましくは25〜400質量部、より好ましくは40〜300質量部である。
【0096】
上記態様[6]において、上記態様(6−1)である場合、珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)及び上記態様[1]の含珪素共重合体の含有割合は、特に限定されないが、珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)の形成に用いた珪素非含有ゴムの含有割合が、樹脂成分の全体に対して、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%となるように選択される。珪素非含有ゴムの含有割合が、上記範囲にあると、得られる第1樹脂層の耐衝撃性に優れる。
【0097】
上記態様[6]において、上記態様(6−2)である場合、珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)及びグラフト重合樹脂(g1)の含有割合は、特に限定されないが、珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)の形成に用いた珪素非含有ゴム、及び、グラフト重合樹脂(g1)の形成に用いた珪素非含有ゴムの合計含有量の割合が、樹脂成分の全体に対して、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%となるように選択される。珪素非含有ゴムの合計含有量の割合が、上記範囲にあると、得られる第1樹脂層の耐衝撃性に優れる。
【0098】
上記態様[6]において、上記態様(6−3)である場合、珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)及びグラフト重合樹脂(g2)の含有割合は、特に限定されないが、珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)の形成に用いた珪素非含有ゴム、及び、グラフト重合樹脂(g2)の形成に用いた含珪素ゴムの合計含有量の割合が、樹脂成分の全体に対して、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%となるように選択される。珪素非含有ゴム及び含珪素ゴムの合計含有量の割合が、上記範囲にあると、得られる第1樹脂層の耐衝撃性に優れる。
【0099】
上記態様[6]において、上記態様(6−4)である場合、珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)及び上記態様[4]の樹脂の含有割合は、特に限定されないが、珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)の形成に用いた珪素非含有ゴム、及び、上記態様[4]の樹脂に含まれるゴム成分の合計含有量の割合が、樹脂成分の全体に対して、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%となるように選択される。ゴム成分の合計含有量の割合が、上記範囲にあると、得られる第1樹脂層の耐衝撃性に優れる。
【0100】
上記態様[6]において、上記態様(6−5)である場合、珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)及び上記態様[5]の樹脂の含有割合は、特に限定されないが、珪素非含有グラフト重合樹脂(g5)の形成に用いた珪素非含有ゴム、及び、上記態様[5]の樹脂に含まれるゴム成分の合計含有量の割合が、樹脂成分の全体に対して、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%となるように選択される。ゴム成分の合計含有量の割合が、上記範囲にあると、得られる第1樹脂層の耐衝撃性に優れる。
【0101】
上記グラフト重合樹脂(g1)〜(g5)の製造方法は、上記のように、公知の方法を適用することができるが、以下に、乳化重合による製造方法を説明する。
乳化重合においては、ゴム成分、単量体(単量体(m2)、(m3)、(m4)、(m6)及び(m7)を意味する)の他、通常、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤、水等が用いられる。
【0102】
上記重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物と、含糖ピロリン酸処方、スルホキシレート処方等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウロイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシラウレイト、tert−ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記重合開始剤の使用量は、上記単量体全量に対し、通常、0.1〜1.5質量%である。
尚、上記重合開始剤は、反応系に一括して、又は、連続的に添加することができる。
【0103】
上記連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、tert−テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;ターピノーレン類、α−メチルスチレンのダイマー等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記連鎖移動剤の使用量は、上記単量体全量に対し、通常、0.05〜2.0質量%である。
尚、上記連鎖移動剤は、反応系に一括して、又は、連続的に添加することができる。
【0104】
上記乳化剤としては、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩;高級脂肪族カルボン酸塩、脂肪族リン酸塩等が挙げられる。また、ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型化合物、アルキルエーテル型化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記乳化剤の使用量は、上記単量体全量に対し、通常、0.3〜5.0質量%である。
【0105】
乳化重合は、単量体、重合開始剤等の種類に応じた温度条件等で行うことができる。この乳化重合により得られたラテックスは、通常、凝固剤により凝固させ、樹脂成分を粉末状とし、その後、これを水洗、乾燥することによって精製される。この凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩;硫酸、塩酸等の無機酸;酢酸、乳酸等の有機酸等が用いられる。
【0106】
上記グラフト重合樹脂(g1)〜(g5)におけるグラフト率は、好ましくは20〜170%であり、より好ましくは30〜170%、更に好ましくは40〜150%である。このグラフト率が低すぎると、第1熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる第1樹脂層の可撓性が十分でない場合がある。一方、グラフト率が高すぎると、第1熱可塑性樹脂組成物の粘度が高くなり、薄肉化が困難になる場合がある。
【0107】
グラフト率は、下記式により求めることができる。
グラフト率(質量%)={(S−T)/T}×100
上記式において、Sは、1グラムのグラフト重合樹脂をアセトン(ゴム成分がアクリル系ゴムを含む場合、アセトニトリル)20ミリリットルに投入し、25℃で、振とう機により2時間振とうした後、5℃で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(グラム)であり、Tは、1グラムのグラフト重合樹脂に含まれるゴム成分の質量(グラム)である。このゴム成分の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)により求める方法等により得ることができる。
【0108】
上記グラフト率は、例えば、グラフト重合樹脂の製造時に用いる重合開始剤の種類及びその使用量、連鎖移動剤の種類及びその使用量、単量体の添加方法及び添加時間、重合温度等を、適宜、選択することにより調整することができる。
【0109】
上記グラフト重合樹脂のアセトン可溶分(ゴム成分がアクリル系ゴムを含む場合、アセトニトリル可溶分)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、好ましくは0.1〜2.5dl/g、より好ましくは0.2〜1.5dl/g、更に好ましくは0.25〜1.2dl/gである。極限粘度がこの範囲内であると、第1熱可塑性樹脂組成物の加工性に優れ、肉厚精度の高い第1樹脂層を形成することができる。
【0110】
ここで、極限粘度[η]は、以下の要領で求めることができる。
上記グラフト重合樹脂におけるグラフト率を求める際に、遠心分離後に回収されたアセトン可溶分(ゴム質重合体がアクリル系ゴムを含む場合、アセトニトリル可溶分)をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点調製し、ウベローデ粘度管を用いて、30℃で各濃度の還元粘度を測定し、極限粘度[η]が求められる。
【0111】
上記極限粘度[η]は、上記グラフト重合樹脂を製造する際に用いる、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤等の種類や量、更には重合時間、重合温度等を調整することにより、容易に制御することができる。
【0112】
上記第1樹脂層における、太陽電池素子を包埋する、エチレン・酢酸ビニル共重合体組成物等を含む充填材部との接着性が特に優れたものとするために、上記含珪素熱可塑性樹脂に由来する含珪素構造単位の含有量は、上記第1熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分(熱可塑性樹脂)を構成する構造単位の全量に対して、好ましくは0.05〜20質量%、より好ましくは0.07〜15質量%、更に好ましくは0.1〜10質量%である。上記含珪素構造単位の含有量が多すぎると、外観性が低下する場合がある。尚、上記含珪素構造単位とは、含珪素重合性不飽和化合物に由来する単位、及び、オルガノシロキサンに由来する単位を意味する。
【0113】
上記第1樹脂層が耐熱性に特に優れたものとするために、上記第1熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分(熱可塑性樹脂)は、マレイミド系化合物に由来する構造単位(以下、「構造単位(u1)」という。)を含むことが好ましい。この構造単位(u1)は、どの樹脂成分に由来するものであってもよい。即ち、上記含珪素熱可塑性樹脂が構造単位(u1)を含んでよいし、他の樹脂成分がこの構造単位(u1)を含んでもよい。
上記構造単位(u1)の含有量は、上記観点から、上記第1熱可塑性樹脂組成物に含まれる樹脂成分(熱可塑性樹脂)を構成する構造単位の全量に対して、好ましくは1〜45質量%、より好ましくは5〜40質量%、更に好ましくは10〜35質量%である。上記構造単位(u1)の含有量が多すぎると、第1樹脂層の可撓性が低下する場合がある。
【0114】
上記構造単位(u1)を有する樹脂成分は、好ましくは、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位と、構造単位(u1)とからなる共重合体である。各構造単位の含有割合は、特に限定されない。この共重合体としては、アクリロニトリル・スチレン・N−フェニルマレイミド共重合体等が挙げられる。
【0115】
上記第1樹脂層の形成に用いる第1熱可塑性樹脂組成物に配合される添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、着色剤、蛍光増白剤、耐候剤、充填剤、帯電防止剤、難燃剤、防曇剤、抗菌剤、防かび剤、防汚剤、粘着付与剤等が挙げられる。
【0116】
上記酸化防止剤としては、ヒンダードアミン系化合物、ハイドロキノン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、含硫黄化合物、含リン化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記酸化防止剤の含有量は、上記含珪素熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂の全量100質量部に対して、好ましくは0.05〜10質量部である。
【0117】
上記紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記紫外線吸収剤の含有量は、上記含珪素熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂の全量100質量部に対して、好ましくは0.05〜10質量部である。
【0118】
上記老化防止剤としては、ナフチルアミン系化合物、ジフェニルアミン系化合物、p−フェニレンジアミン系化合物、キノリン系化合物、ヒドロキノン誘導体系化合物、モノフェノール系化合物、ビスフェノール系化合物、トリスフェノール系化合物、ポリフェノール系化合物、チオビスフェノール系化合物、ヒンダードフェノール系化合物、亜リン酸エステル系化合物、イミダゾール系化合物、ジチオカルバミン酸ニッケル塩系化合物、リン酸系化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記老化防止剤の含有量は、上記含珪素熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂の全量100質量部に対して、好ましくは0.05〜10質量部である。
【0119】
上記可塑剤としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ブチルオクチルフタレート、ジ−(2−エチルヘキシル)フタレート、ジイソオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート等のフタル酸エステル類;ジメチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジ−(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、オクチルデシルアジペート、ジ−(2−エチルヘキシル)アゼレート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソブチルアゼレート、ジブチルセバケート、ジ−(2−エチルヘキシル)セバケート、ジイソオクチルセバケート等の脂肪酸エステル類;トリメリット酸イソデシルエステル、トリメリット酸オクチルエステル、トリメリット酸n−オクチルエステル、トリメリット酸イソノニルエステル等のトリメリット酸エステル類;ジ−(2−エチルヘキシル)フマレート、ジエチレングリコールモノオレート、グリセリルモノリシノレート、トリラウリルホスフェート、トリステアリルホスフェート、トリ−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、エポキシ化大豆油等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記可塑剤の含有量は、上記含珪素熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂の全量100質量部に対して、好ましくは0.05〜10質量部である。
【0120】
上記第1樹脂層の形成に用いる第1熱可塑性樹脂組成物は、含珪素熱可塑性樹脂等の原料成分を、ヘンシェルミキサー等で混合した後、溶融混練することにより調製することができる。溶融混練に用いる装置としては、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、連続ニーダー等が挙げられる。
【0121】
本発明の太陽電池用裏面保護フィルムが、図1に示すような単層型フィルム1Aである場合、このフィルム1Aの製造方法は、特に限定されず、押出法(インフレーションフィルム成形法、Tダイキャストフィルム成形法)、カレンダー成形法、プレス成形法等の方法が挙げられる。
【0122】
本発明の太陽電池用裏面保護フィルムは、上記含珪素熱可塑性樹脂を含む第1樹脂層を備えることから、第1樹脂層側の表面に、太陽電池素子を包埋する充填材部と接着させるための接着層を設けることなく、この第1樹脂層と、太陽電池素子を包埋する、エチレン・酢酸ビニル共重合体組成物等を含む充填材部との接着性に優れる。また、この第1樹脂層が上記構成を有することから、本発明の太陽電池用裏面保護フィルムが積層型フィルムである場合に、第1樹脂層と、この第1樹脂層に面する他の樹脂層等との接着性にも優れる。
【0123】
本発明の太陽電池用裏面保護フィルムの厚さは、好ましくは10〜1,000μmである。厚さの下限は、好ましくは15μm、より好ましくは20μm、更に好ましくは25μmである。また、厚さの上限は、好ましくは950μm、より好ましくは900μm、更に好ましくは850μmである。
【0124】
本発明の太陽電池用裏面保護フィルムが、単層型フィルム(第1樹脂層のみ)である場合、その厚さの下限は、上記充填材部との接着性の観点から、好ましくは10μm、より好ましくは15μm、更に好ましくは20μmである。また、厚さの上限は、通常、1,000μm、好ましくは800μm、より好ましくは600μm、更に好ましくは500μmである。
【0125】
本発明の太陽電池用裏面保護フィルムは、上記のように、第1樹脂層のみからなるフィルム、即ち、単層型フィルムであってよいし(図1参照)、第1樹脂層11と、この第1樹脂層11に接合された他の層15とからなる積層型フィルムであってもよい(図2及び図3参照)。
【0126】
上記他の層15は、目的、用途等に応じて、耐加水分解性、耐水性(防湿性)、光反射性及び難燃性の少なくとも1つの作用を付与する層等とすることができる。そして、この他の層15は、単一層であってよいし、2以上の層からなるものであってもよい。
上記他の層15の構成材料は、樹脂組成物(熱可塑性樹脂組成物又は硬化樹脂組成物)、無機化合物、金属等とすることができる。
積層型フィルムを表す図2のフィルム1Bは、第1樹脂層11と、この第1樹脂層11に接合された他の層15とを備える。この図2において、他の層15は、他の樹脂層を表している。
また、図3のフィルム1Cは、他の層15が、金属層151及び樹脂層153からなり、第1樹脂層11、金属層151及び樹脂層153が、順次、接合されたフィルムである。
【0127】
本発明の太陽電池用裏面保護フィルムが、図2及び図3に示すような積層型フィルム1Bである場合、第1樹脂層11及び他の層15の厚さは、それぞれ、好ましくは5〜600μm及び5〜800μm、より好ましくは10〜500μm及び8〜700μmである。
【0128】
本発明の太陽電池用裏面保護フィルムは、以下に例示される。
(1)波長400〜1,400nmの光を、太陽電池用裏面保護フィルムにおける第1樹脂層の表面に放射した場合、上記光に対する反射率が50%以上であるフィルム(以下、「本発明のフィルム(I)」という。)
(2)波長800〜1,400nmの光に対する透過率が60%以上であり、且つ、波長400〜700nmの光に対する吸収率が60%以上である第1樹脂層を有するフィルム(以下、「本発明のフィルム(II)」という。)
【0129】
本発明のフィルム(I)において、波長400〜1,400nmの光に対する反射率は、本発明の太陽電池用裏面保護フィルム(厚さ10〜1,000μm)の第1樹脂層の表面に上記光を放射して測定されるものである。上記反射率は、50%以上であり、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。この反射率が高いほど、上記光を、充填材部に配された太陽電池素子の方へ反射させることができ、光電変換効率を向上させることができる。
本発明において、「波長400〜1,400nmの光に対する反射率が50%以上である」とは、400nmから1,400nmまでの波長域における光の反射率を、400nm又は1,400nmから20nm毎に測定し、各反射率を用いて算出される平均値が50%以上であることを意味し、上記波長域における光の反射率が全て50%以上であることを要求するものではない。
【0130】
本発明のフィルム(I)において、第1樹脂層を構成するフィルムのみ(厚さ5〜1,000μm)に、波長400〜1,400nmの光を放射した場合、この光に対する反射率は、好ましくは50%以上であり、より好ましくは60%以上、更に好ましくは70%以上である。
【0131】
本発明のフィルム(I)において、波長400〜1,400nmの光に対する反射率を50%以上とするために、上記第1樹脂層の表面のL値(明度)が60以上であることが好ましい。
従って、上記性質を満足させる第1樹脂層を構成する第1熱可塑性樹脂組成物は、含珪素熱可塑性樹脂と、白色系着色剤とを含む熱可塑性樹脂組成物であることが好ましい。
【0132】
上記白色系着色剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、シリカ、2PbCO・Pb(OH)、[ZnS+BaSO]、タルク、石膏等が挙げられる。これらのうち、酸化チタンが好ましい。また、これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。上記第1熱可塑性樹脂組成物における白色系着色剤の含有割合は、上記光に対する反射性の観点から、上記含珪素熱可塑性樹脂を含む樹脂成分(熱可塑性樹脂)の全量100質量部に対して、好ましくは1〜45質量部、より好ましくは3〜40質量部、更に好ましくは5〜30質量部である。この白色系着色剤の含有量が多すぎると、本発明のフィルム(I)の可撓性が低下する場合がある。
尚、本発明のフィルム(I)の第1樹脂層の表面における、上記光に対する反射率を50%未満にまで低下させるものでなければ、目的、用途等に応じて、更に他の着色剤を用いることができる。他の着色剤を用いる場合、その含有割合は、上記含珪素熱可塑性樹脂を含む樹脂成分(熱可塑性樹脂)の全量100質量部に対して、通常、5質量部以下である。
【0133】
尚、本発明においては、図2に示すような、第1樹脂層11と他の層15とを備える積層型フィルム1Bであって、上記第1樹脂層11を構成するフィルムのみにおける上記光の反射率が50%未満である場合(第1樹脂層が白色系着色剤等を含まない場合等)、他の層15の構成材料を選択することによって、第1樹脂層の表面における波長400〜1,400nmの光に対する反射率が50%以上である本発明のフィルム(I)とすることができ、これにより、光電変換効率を向上させることができる。
【0134】
本発明のフィルム(I)が、単層型フィルムである場合、及び、積層型フィルムである場合、のいずれにおいても、第1樹脂層の表面において、光電変換に関与する光の反射性が優れるので、太陽光が、隣り合う太陽電池素子の隙間から、太陽電池用裏面保護フィルムの方へ漏れたときに、第1樹脂層から太陽光を反射させ、その反射光を太陽電池素子の裏面に供給して、光電変換に利用し、発電効率を向上させることができる。
【0135】
一方、本発明のフィルム(II)において、波長800〜1,400nmの光に対する透過率、及び、波長400〜700nmの光に対する吸収率は、第1樹脂層の表面に、即ち、厚さ10〜1,000μmの単層型フィルム(第1樹脂層のみ)の表面、又は、積層型フィルムにおける第1樹脂層を構成するフィルム(厚さ5〜1,000μm)のみに、各光を放射して測定されるものである。
上記透過率は、60%以上であり、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上である。この透過率が高いほど、第1樹脂層において、波長800〜1,400nmの光による蓄熱が抑制されるので、この第1樹脂層に接着する充填材部の蓄熱も抑制される。そして、このフィルム(II)を用いて形成される太陽電池モジュールの蓄熱が抑制され、発電効率を向上させることができる。
本発明において、「波長800〜1,400nmの光に対する透過率が60%以上」とは、第1樹脂層を構成するフィルムを用いて、800nmから1,400nmまでの波長域における光の透過率を、800nm又は1,400nmから20nm毎に測定し、各透過率を用いて算出される平均値が60%以上であることを意味し、上記波長域における光の透過率が全て60%以上であることを要求するものではない。
【0136】
また、本発明のフィルム(II)において、上記第1樹脂層を構成するフィルムの上記光の吸収率は、60%以上であり、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。この吸収率が高いほど、第1樹脂層を構成するフィルムの明度が低下し、暗色系の第1樹脂層が形成されることとなる。即ち、この第1樹脂層により、暗色系の太陽電池用裏面保護フィルムが形成されることとなる。これにより、太陽電池を、家屋の屋根等に配設したとき、外観性に優れる。
本発明において、「波長400〜700nmの光に対する透過率が60%以上」とは、第1樹脂層を構成するフィルムを用いて、400nmから700nmまでの波長域における光の吸収率を、400nm又は700nmから20nm毎に測定し、各吸収率を用いて算出される平均値が60%以上であることを意味し、上記波長域における光の吸収率が全て60%以上であることを要求するものではない。
【0137】
本発明のフィルム(II)では、第1樹脂層を構成するフィルムにおける、波長800〜1,400nmの光に対する透過率を60%以上、且つ、波長400〜700nmの光に対する吸収率を60%以上とするために、上記第1樹脂層を構成するフィルムは、可視光線を吸収し、赤外線を透過させる性質を有することが好ましい。
従って、上記性質を満足させる第1樹脂層を構成する第1熱可塑性樹脂組成物は、含珪素熱可塑性樹脂と、可視光線を吸収し、赤外線を透過させる性質を有する着色剤(以下、「赤外線透過性着色剤」という。)とを含む組成物であることが好ましい。
【0138】
上記赤外線透過性着色剤は、通常、白色以外の有色を呈しており、好ましくは黒色、褐色、濃青色、深緑色等の暗色系である。暗色系の赤外線透過性着色剤を用いることにより、第1樹脂層と充填材部との接着性を損なうことなく、優れた暗色系外観を有する太陽電池モジュールを与えることができる。
【0139】
上記赤外線透過性着色剤としては、ペリレン系顔料等が挙げられる。このペリレン系顔料としては、下記一般式(3)〜(5)で表される化合物等を用いることができる。
【化1】

〔式中、R及びRは、互いに同一又は異なって、ブチル基、フェニルエチル基、メトキシエチル基又は4−メトキシフェニルメチル基である。〕
【化2】

〔式中、R及びRは、互いに同一又は異なって、フェニレン基、3−メトキシフェニレン基、4−メトキシフェニレン基、4−エトキシフェニレン基、炭素数1〜3のアルキルフェニレン基、ヒドロキシフェニレン基、4,6−ジメチルフェニレン基、3,5−ジメチルフェニレン基、3−クロロフェニレン基、4−クロロフェニレン基、5−クロロフェニレン基、3−ブロモフェニレン基、4−ブロモフェニレン基、5−ブロモフェニレン基、3−フルオロフェニレン基、4−フルオロフェニレン基、5−フルオロフェニレン基、ナフチレン基、ナフタレンジイル基、ピリジレン基、2,3−ピリジンジイル基、3,4−ピリジンジイル基、4−メチル−2,3−ピリジンジイル基、5−メチル−2,3−ピリジンジイル基、6−メチル−2,3−ピリジンジイル基、5−メチル−3,4−ピリジンジイル基、4−メトキシ−2,3−ピリジンジイル基又は4−クロロ−2,3−ピリジンジイル基である。〕
【化3】

〔式中、R及びRは、互いに同一又は異なって、フェニレン基、3−メトキシフェニレン基、4−メトキシフェニレン基、4−エトキシフェニレン基、炭素数1〜3のアルキルフェニレン基、ヒドロキシフェニレン基、4,6−ジメチルフェニレン基、3,5−ジメチルフェニレン基、3−クロロフェニレン基、4−クロロフェニレン基、5−クロロフェニレン基、3−ブロモフェニレン基、4−ブロモフェニレン基、5−ブロモフェニレン基、3−フルオロフェニレン基、4−フルオロフェニレン基、5−フルオロフェニレン基、ナフチレン基、ナフタレンジイル基、ピリジレン基、2,3−ピリジンジイル基、3,4−ピリジンジイル基、4−メチル−2,3−ピリジンジイル基、5−メチル−2,3−ピリジンジイル基、6−メチル−2,3−ピリジンジイル基、5−メチル−3,4−ピリジンジイル基、4−メトキシ−2,3−ピリジンジイル基又は4−クロロ−2,3−ピリジンジイル基である。〕
【0140】
また、上記ペリレン系顔料としては、「Paliogen Black S 0084」、「Paliogen Black L 0086」、「Lumogen Black FK4280」、「Lumogen Black FK4281」(以上、いずれもBASF社製商品名)等の市販品を用いることができる。
上記赤外線透過性着色剤は、単独であるいは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0141】
上記第1熱可塑性樹脂組成物における赤外線透過性着色剤の含有割合は、上記各光に対する透過性及び吸収性の観点から、上記含珪素熱可塑性樹脂を含む樹脂成分(熱可塑性樹脂)の全量100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは0.1〜5質量部である。
尚、本発明のフィルム(II)に含まれる第1樹脂層を構成する第1熱可塑性樹脂組成物は、上記透過性及び吸収性を低下させるものでなければ、目的、用途等に応じて、他の着色剤を含むことができる。例えば、赤外線透過性着色剤以外の着色剤として、黄色系顔料、青色系顔料等を用い、下記のような組合せにより、種々の外観を有する太陽電池モジュールとすることができる。
[1]黒色系赤外線透過性着色剤及び黄色系顔料の組合せによる褐色着色
[2]黒色系赤外線透過性着色剤及び青色系顔料の組合せによる濃青色着色
他の着色剤を用いる場合、上記第1熱可塑性樹脂組成物における含有割合は、上記赤外線透過性着色剤100質量部に対して、通常、200質量部以下、好ましくは0.01〜100質量部である。
【0142】
尚、暗色系の着色剤としては、カーボンブラックが知られている。このカーボンブラックは、赤外線領域の波長の光を吸収するため、太陽光が、隣り合う太陽電池素子の隙間から、本発明のフィルム(II)の方へ漏れたときに、フィルムの温度が上昇しやすく、太陽電池素子を含む充填材部の温度を上昇させることがあり、発電効率を低下させる場合があるが、上記赤外線透過性着色剤を用いることにより、発電効率を低下させることなく、意匠性及び耐久性にも優れる。
【0143】
本発明のフィルム(II)が、単層型フィルム、即ち、第1樹脂層からなるフィルム1A(図1参照)である場合、太陽光が、隣り合う太陽電池素子の隙間から、太陽電池用裏面保護フィルムの方へ漏れたときに、第1樹脂層において、上記波長800〜1,400nmの光が透過し、この光による蓄熱が抑制されるので、この第1樹脂層に接着する充填材部の蓄熱が抑制される。そして、このフィルム(II)を用いて形成される太陽電池モジュールにおける蓄熱も抑制され、発電効率の低下を抑制することができる。従って、このフィルム(II)を、別途、光反射性を有する部材と組み合わせて太陽電池モジュールとすることにより、隣り合う太陽電池素子の隙間から漏れて第1樹脂層を透過した一部の太陽光を上記部材から反射させ、その反射光を、第1樹脂層を透過させつつ、太陽電池素子の裏面に供給して、光電変換に利用し、発電効率を向上させることができる。
また、本発明のフィルム(II)が、図2に示すような、積層型フィルム、即ち、第1樹脂層11と、他の層15とを備えるフィルム1Bである場合、他の層15に、例えば、光反射性を付与することにより、隣り合う太陽電池素子の隙間から漏れて第1樹脂層を透過した一部の太陽光を上記部材から反射させ、その反射光を、第1樹脂層を透過させつつ、太陽電池素子の裏面に供給して、光電変換に利用し、発電効率を向上させることができる。
【0144】
本発明のフィルム(II)が積層型フィルムである場合、第1樹脂層において、波長800〜1,400nmの光に対する透過率が60%以上であり、波長400〜700nmの光に対する吸収率が60%以上であり、且つ、波長800〜1,400nmの光を、上記太陽電池用裏面保護フィルムにおける第1樹脂層の表面に放射した場合、この光に対する反射率が50%以上であることが好ましい。この構成を備えることにより、暗色系外観を有し外観性に優れ、太陽光がフィルムに当たった際に、フィルムをはじめとする構成部材の変形を抑制し、発電効率を改良することができる。
このようなフィルム(II)とするためには、他の層が樹脂層であり、この樹脂層が白色樹脂層であることが好ましい。そして、この白色樹脂層を構成する組成物が、白色系着色剤を含むことが好ましい。この組成物が熱可塑性樹脂組成物又は硬化樹脂組成物であって、これらの樹脂組成物が白色系着色剤を含有する組成物である場合、樹脂の種類、白色系着色剤の種類及びその含有量は、特に限定されない。
【0145】
本発明の太陽電池用裏面保護フィルムが、第1樹脂層と、他の層とを備える積層型フィルムである場合、生産性、可撓性、作業性、反射性等の光特性等の観点から、他の層は、熱可塑性樹脂(以下、「第2熱可塑性樹脂」という。)を含有する熱可塑性樹脂組成物(以下、「第2熱可塑性樹脂組成物」という。)からなる樹脂層を含むことが好ましい。
【0146】
上記第2熱可塑性樹脂は、熱可塑性を有する樹脂であれば、特に限定されず、上記第1熱可塑性樹脂の説明にて例示した熱可塑性樹脂を用いることができ、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明において、第2熱可塑性樹脂としては、ゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニル化合物を含む単量体を重合して得られた共重合樹脂、又は、この共重合樹脂と、ゴム質重合体の非存在下に、芳香族ビニル化合物を含む単量体を重合して得られた芳香族ビニル系(共)重合体との混合物、からなるゴム強化芳香族ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂及びオレフィン系樹脂が好ましい。上記第2熱可塑性樹脂がゴム強化芳香族ビニル系樹脂を含む場合には、耐加水分解性、寸法安定性、耐衝撃性等に優れる。
【0147】
上記第2熱可塑性樹脂組成物は、第2熱可塑性樹脂のみからなる組成物であってよいし、第2熱可塑性樹脂と、添加剤とを含有する組成物であってもよい。添加剤の含有割合は、上記第1熱可塑性樹脂組成物の場合と同様とすることができる。
【0148】
本発明の太陽電池用裏面保護フィルムが、図2に示すような積層型フィルム1Bである場合、このフィルム1Bの製造方法は、他の層15の構成材料によって選択され、特に限定されないが、構成材料が熱可塑性樹脂組成物である場合には、共押出法(Tダイキャストフィルム成形法等)、熱融着法、ドライラミネーション法等の方法が挙げられ、硬化樹脂組成物、無機化合物、金属等である場合には、熱融着法、蒸着法、スパッタリング法等の方法が挙げられる。また、第1熱可塑性樹脂組成物を用いて得られたフィルムと、他の層15を構成することとなるフィルム等とを、ポリウレタン系樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、アクリル系樹脂組成物等の接着剤等により接合してもよい。
他の層15を構成することとなるフィルムとしては、ポリエステル系樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物からなるフィルム(以下、「ポリエステルフィルム」という。)、後述する水蒸気バリア層形成用フィルム等が挙げられる。ポリエステルフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム等が挙げられる。他の層15は、市販品を用いて形成されたものとすることができ、例えば、帝人デュポン社製「Melinex238」(商品名)、SKC社製「SR55」(商品名)、東レ社製「ルミラーX10P」、「ルミラーZV10」、「ルミラーX10S」、「ルミラーE20」(以上、商品名)等が挙げられる。他の層15がポリエステルフィルムを用いて形成された場合、耐傷性に優れた太陽電池用裏面保護フィルムとすることができる。
【0149】
本発明の太陽電池用裏面保護フィルムが積層型フィルムである場合、他の層15が水蒸気バリア層を含むものとすることができる。他の層15が、水蒸気バリア層のみからなるものとすることができ、更には、水蒸気バリア層及び他の樹脂層からなるものとすることもできる。
上記水蒸気バリア層を備える太陽電池用裏面保護フィルム1Cは、図3に例示され、第1樹脂層11と、金属層151及び樹脂層153からなる水蒸気バリア層15とを、備え、第1樹脂層11及び金属層151が接合している。
【0150】
上記水蒸気バリア層は、JIS K7129に準じて、温度40℃及び湿度90%RHの条件で測定した透湿度(「水蒸気透湿度」ともいう。)が、好ましくは3g/(m・day)以下、より好ましくは1g/(m・day)以下、更に好ましくは0.7g/(m・day)以下である性能を有する層である。
上記水蒸気バリア層は、好ましくは、電気絶縁性を有する材料からなる層である。
【0151】
上記水蒸気バリア層は、1種の材料からなる単層構造又は多層構造であってよいし、2種以上の材料からなる単層構造又は多層構造であってもよい。本発明においては、その表面に金属及び/又は金属酸化物からなる膜が形成されてなる蒸着フィルムが、水蒸気バリア層形成用材料として用いられて、水蒸気バリア層が形成されたことが好ましい。金属及び金属酸化物は、いずれも、単一物質であってよいし、2種以上であってもよい。
上記水蒸気バリア層形成用材料は、金属及び/又は金属酸化物からなる膜が、上層側樹脂層と、下層側樹脂層の間に配された3層型フィルムであってもよい。
【0152】
上記金属としては、アルミニウム等が挙げられる。
また、上記金属酸化物としては、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、スズ、ナトリウム、ホウ素、チタン、鉛、ジルコニウム、イットリウム等の元素の酸化物が挙げられる。これらのうち、水蒸気バリア性の観点から、酸化珪素、酸化アルミニウム等が特に好ましい。
上記金属及び/又は金属酸化物からなる膜は、メッキ、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング、プラズマCVD、マイクロウェーブCVD等の方法により形成されたものとすることができる。これらのうちの2つ以上の方法を組み合わせてもよい。
【0153】
上記蒸着フィルムにおける樹脂層としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム;ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリスルホンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリイミドフィルム等が挙げられる。この樹脂膜の厚さは、好ましくは5〜50μm、より好ましくは8〜20μmである。
【0154】
上記水蒸気バリア層は、市販品を用いて形成されたものとすることができる。例えば、三菱樹脂社製「テックバリアAX」、凸版印刷社製「GXフィルム」、東洋紡社製「エコシアールVE500」(以上、商品名)等のフィルム又はシートを、水蒸気バリア層形成用材料として用いることができる。
【0155】
上記第1樹脂層に面する水蒸気バリア層の配置は、特に限定されない。水蒸気バリア層形成用材料として蒸着フィルムを用いた場合、金属及び/又は金属酸化物からなる膜が、第1樹脂層に接合されていてよいし、蒸着膜が外側(表面側)にあってもよい。
【0156】
上記水蒸気バリア層の厚さは、好ましくは5〜300μm、より好ましくは8〜250μm、更に好ましくは10〜200μmである。上記水蒸気バリア層が薄すぎると、水蒸気バリア性が不十分になる場合があり、厚すぎると、本発明の太陽電池用裏面保護フィルムとしての柔軟性が不十分でない場合がある。
【0157】
上記他の層が水蒸気バリア層である積層型フィルムの製造方法は、以下に例示される。
(1)第1熱可塑性樹脂組成物を用いて、上記のようにして単層型フィルムを作製した後、この単層型フィルムの表面と、水蒸気バリア層形成用フィルムと、を熱融着又はドライラミネーション若しくは接着剤により接合する方法
(2)第1熱可塑性樹脂組成物を用いて、上記のようにして単層型フィルムを作製した後、この単層型フィルムの表面に、金属及び/又は金属酸化物からなる膜を形成する方法
(3)第1熱可塑性樹脂組成物を用いて、上記のようにして単層型フィルムを作製した後、この単層型フィルムの表面に、金属及び/又は金属酸化物からなる膜を形成し、次いで、この膜と、熱可塑性樹脂組成物を用いてなる他のフィルムとを、熱融着又はドライラミネーション若しくは接着剤により接合する方法
【0158】
本発明の太陽電池モジュールは、上記本発明の太陽電池用裏面保護フィルムを備えることを特徴とする。本発明の太陽電池モジュールの概略図は、図4に示される。
図4の太陽電池モジュール2は、太陽光の受光面側(図面で上側)から、表面側透明保護部材21、表面側封止膜(表面側充填材部)23、太陽電池素子25、裏面側封止膜(裏面側充填材部)27、及び上記本発明の太陽電池用裏面保護フィルム1が、この順で配設されたものとすることができる。
【0159】
上記表面側透明保護部材21としては、水蒸気バリア性に優れた材料からなるものが好ましく、通常、ガラス、樹脂等からなる透明基板が使用される。尚、ガラスは、透明性及び耐候性に優れるが、耐衝撃性が十分ではなく、重いため、家屋の屋根に載せる太陽電池とする場合には、耐候性の透明樹脂を用いることが好ましい。透明樹脂としては、フッ素系樹脂等が挙げられる。
上記表面側透明保護部材21の厚さは、ガラスを使用した場合は、通常、1〜5mm程度であり、透明樹脂を使用した場合は、通常、0.1〜5mm程度である。
【0160】
上記太陽電池素子25は、太陽光の受光により発電機能を有するものである。このような太陽電池素子としては、光起電力としての機能を有するものであれば、特に限定されることなく、公知のものを用いることができる。例えば、単結晶シリコン型太陽電池素子、多結晶シリコン型太陽電池素子等の結晶シリコン太陽電池素子;シングル結合型若しくはタンデム構造型等からなるアモルファスシリコン太陽電池素子;ガリウムヒ素(GaAs)やインジウム燐(InP)等のIII−V族化合物半導体太陽電池素子;カドミウムテルル(CdTe)や銅インジウムセレナイド(CuInSe)等のII−VI族化合物半導体太陽電池素子等が挙げられる。これらのうち、結晶シリコン太陽電池素子が好ましく、多結晶シリコン型太陽電池素子が特に好ましい。尚、薄膜多結晶性シリコン太陽電池素子、薄膜微結晶性シリコン太陽電池素子、薄膜結晶シリコン太陽電池素子とアモルファスシリコン太陽電池素子とのハイブリッド素子等を用いることができる。
【0161】
図3において、図示していないが、上記太陽電池素子25は、通常、配線電極及び取り出し電極を備える。配線電極は、太陽光の受光により、複数の太陽電池素子において生じた電子を集める作用を有するものであり、例えば、表面側封止膜(表面側充填材部)21側の太陽電池素子と、裏面側封止膜(裏面側充填材部)27側の太陽電池素子とを連結するように接続される。また、取り出し電極は、上記配線電極等により集められた電子を電流として取り出す作用を有するものである。
【0162】
上記表面側封止膜(表面側充填材部)21及び上記裏面側封止膜(裏面側充填材部)27(以下、これらを併せて「封止膜」という。)は、通常、互いに同一又は異なる封止膜形成材料を用いて、予め、シート状又はフィルム状の封止膜とした後、上記表面側透明保護部材21及び太陽電池用裏面保護フィルム1の間において、太陽電池素子25等を熱圧着して形成される。
各封止膜(充填材部)の厚さは、通常、100μm〜4mm程度、好ましくは200μm〜3mm程度、より好ましくは300μm〜2mm程度である。厚さが薄すぎると、太陽電池素子25が損傷する場合があり、一方、厚さが厚すぎると、製造コストが高くなり好ましくない。
【0163】
上記封止膜形成材料は、通常、樹脂組成物又はゴム組成物である。組成物に含有される樹脂としては、オレフィン系樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。また、ゴムとしては、シリコーンゴム、水添共役ジエン系ゴム等が挙げられる。これらのうち、オレフィン系樹脂及び水添共役ジエン系ゴムが好ましい。
【0164】
オレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブタジエン、イソプレン等のオレフィン、又は、ジオレフィンを重合して得られた重合体等のほか、エチレンと、酢酸ビニル、アクリル酸エステル等の他のモノマーとの共重合体、アイオノマー等を用いることができる。具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、エチレン・塩化ビニル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等が挙げられる。これらのうち、エチレン・酢酸ビニル共重合体及びエチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体が好ましく、エチレン・酢酸ビニル共重合体が特に好ましい。
【0165】
また、水添共役ジエン系ゴムとしては、水添スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックポリマー、オレフィン結晶・エチレンブチレン・オレフィン結晶ブロックポリマー、スチレン・エチレンブチレン・スチレンブロックポリマー等が挙げられる。好ましくは、下記の構造を有する共役ジエンブロック共重合体の水素添加物、即ち、芳香族ビニル化合物単位を含む重合体ブロックA;1,2−ビニル結合含量が25モル%を超える共役ジエン系化合物単位を含む重合体の二重結合部分を80モル%以上水素添加してなる重合体ブロックB;1,2−ビニル結合含量が25モル%以下の共役ジエン系化合物単位を含む重合体の二重結合部分を80モル%以上水素添加してなる重合体ブロックC;並びに芳香族ビニル化合物単位及び共役ジエン系化合物単位を含む共重合体の二重結合部分を80モル%以上水素添加してなる重合体ブロックD、から選ばれた少なくとも2種を有するブロック共重合体である。
【0166】
上記封止膜形成材料は、必要に応じて、架橋剤、架橋助剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、ヒンダードフェノール系やホスファイト系の酸化防止剤、ヒンダードアミン系の光安定剤、光拡散剤、難燃剤、変色防止剤等の添加剤を含有することができる。
上記のように、表面側封止膜(表面側充填材部)23を形成する材料と、裏面側封止膜(裏面側充填材部)27を形成する材料は、同一であっても異なってもよいが、接着性の点から同じであることが好ましい。
【0167】
本発明の太陽電池モジュールは、例えば、表面側透明保護部材、表面側封止膜、太陽電池素子、裏面側封止膜及び上記本発明の太陽電池用裏面保護フィルムを、この順に配置した後、これらを一体として、真空吸引しながら加熱圧着する、ラミネーション法等により製造することができる。
このラミネーション法におけるラミネート温度は、上記本発明の太陽電池用裏面保護フィルムの接着性の観点から、通常、100℃〜250℃程度である。また、ラミネート時間は、通常、3〜30分程度である。
【実施例】
【0168】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。尚、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0169】
1.評価方法
各種評価項目の測定方法を以下に示す。
1−1.熱可塑性樹脂中のゴム含有量
各樹脂層を構成する熱可塑性樹脂組成物を製造するための原料仕込み時の組成から、各樹脂層における熱可塑性樹脂の全量に対する、全てのゴム成分の合計割合を計算した。
1−2.N−フェニルマレイミド単位量及び含珪素構造単位量
各樹脂層を構成する熱可塑性樹脂組成物を製造するための原料仕込み時の組成から算出した。
1−3.ガラス転移温度(Tg)
JIS K 7121に準拠して、TA Instruments社製示差走査熱量計「DSC2910」(型式名)により測定した。
【0170】
1−4.剥離強度
太陽電池用裏面保護フィルムを短冊状(長さ200mm、幅15mm、厚さは表に記載)に裁断し、2枚の評価用フィルムを得た。エチレン・酢酸ビニル共重合体からなる長さ100mm、幅15mm及び厚さ400μmのフィルム「ウルトラパール」(商品名、サンビック社製)を、2枚の評価用フィルムの間に配置し、積層状態でラミネーターに入れた。その後、ラミネーターの上部及び下部を真空状態にし、150℃で5分間予熱した。次いで、上部を大気圧に戻して15分間プレスし、剥離強度測定用試料を得た。
得られた剥離強度測定用試料において、評価用フィルムが、EVAフィルムと接着していない部分からT字剥離することにより、剥離強度を測定した。また、剥離状態を評価した。剥離状態は、EVAフィルムが破壊している場合を「○」、EVAフィルム及び評価用フィルム部分の界面で破壊している場合を「×」とした。
【0171】
1−5.L値
太陽電池用裏面保護フィルム(50mm×50mm、厚さは表に記載)を測定試料とし、東洋精機製作所社製分光光度計「TCS−II」(型式名)を用いて、太陽電池用裏面保護フィルムにおける第1樹脂層表面のL値を測定した。
【0172】
1−6.波長400〜1,400nmの光に対する反射率(%)
太陽電池用裏面保護フィルム(50mm×50mm、厚さは表に記載)を測定試料とし、日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計「V−670」(型式名)により、反射率を測定した。即ち、測定試料の第1樹脂層表面に、光を放射し、400nmから1,400nmまでの波長域における反射率を、20nm毎に測定し、これらの平均値を算出した。
【0173】
1−7.波長800〜1,400nmの光に対する透過率(%)
赤外線透過性着色剤(ペリレン系黒色顔料)を含む第1熱可塑性樹脂組成物を用いて得られた第1樹脂層用フィルム(50mm×50mm、厚さは表に記載)を測定試料とし、日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計「V−670」(型式名)により、透過率を測定した。即ち、測定試料に、光を放射し、800nmから1,400nmまでの波長域における透過率を、20nm毎に測定し、これらの平均値を算出した。
【0174】
1−8.波長400〜700nmの光に対する吸収率(%)
赤外線透過性着色剤(ペリレン系黒色顔料)を含む第1熱可塑性樹脂組成物を用いて得られた第1樹脂層用フィルム(50mm×50mm、厚さは表に記載)を測定試料とし、日本分光社製紫外可視近赤外分光光度計「V−670」(型式名)により、透過率及び反射率を測定した。即ち、測定試料に、光を放射し、400nmから700nmまでの波長域における透過率及び反射率を、20nm毎に測定し、これらの平均値を算出した。吸収率は、透過率の平均値及び反射率の平均値を用いて、下記式により算出した。
吸収率(%)=100−{透過率(%)+反射率(%)}
【0175】
1−9.引張強度保持率(湿熱老化試験)
所定の大きさの太陽電池用裏面保護フィルムを、下記曝露試験に供し、曝露前後の引張強度をJIS K7127に準じて測定して、その比を算出した。
【数1】

<曝露試験>
太陽電池用裏面保護フィルムを短冊状(長さ200mm、幅15mm)に裁断し、温度85℃及び湿度85%RHの条件下、2,000時間放置した。
【0176】
1−10.寸法安定性
所定の大きさの太陽電池用裏面保護フィルムを、下記加熱試験に供し、加熱前後の標線の長さを測定し、下記式に基づいて、寸法変化率を算出した。
【数2】

算出値から、寸法安定性を、下記基準により判定した。
○:寸法変化率が1%未満である
△:寸法変化率が1%以上2%未満である
×:寸法変化率が2%以上である
<加熱試験>
太陽電池用裏面保護フィルムを正方形状(120mm×120mm)に裁断し、中央部に100mm×100mmの正方形の標線を引いた。このフィルムを、温度120℃の恒温槽に30分間放置した後、取り出して放冷した。
【0177】
1−11.光電変換効率向上率
温度25℃±2℃、及び、湿度50±5%RHに調整された室において、ペクセル・テクノロジーズ社製Solar Simulator「PEC−11」(型式名)を用いて、予め、セル単体の光電変換効率を測定した1/4多結晶シリコンセルの表面に、厚さ3mmのガラスを、裏面に、太陽電池用裏面保護フィルムを配置して、シリコンセルを挟み、ガラス及び太陽電池用裏面保護フィルムの間にEVAを導入してシリコンセルを封止し太陽電池モジュールを作製した。その後、温度の影響を低減させるために、光を照射後すぐに光電変換効率を測定した。得られた光電変換効率と、セル単体の光電変換効率とを用いて、光電変換効率向上率を求めた。
光電変換効率向上率(%)={(モジュールの光電変換効率−セル単体の光電変換効率)÷(セル単体の光電変換効率)}×100
【0178】
1−12.水蒸気バリア性
温度40℃、及び、湿度90%RHの条件下、MOCON社製水蒸気透過率測定装置「PERMATRAN W3/31」(型式名)を用いて、JIS K7129Bに準じて、水蒸気透湿度を測定した。尚、透過面として、第1樹脂層ではない側の表面を水蒸気側に配置した。
【0179】
1−13.耐傷性
太陽電池用裏面保護フィルムにおける第1樹脂層ではない側の表面を、東測精密工業株式会社製往復動摩擦試験機を用いて、綿帆布かなきん3号、垂直荷重500gで500往復摩擦させた。その後の表面を目視で観察し、下記基準で判定した。
○:傷が観察されなかった
△:傷がわずかに観察された
×:傷が明確に観察された
【0180】
2.太陽電池用裏面保護フィルムの製造原料
熱可塑性樹脂組成物の調製等に用いた原料成分を以下に示す。
【0181】
2−1.グラフト重合樹脂(A−1)
p−ビニルフェニルメチルジメトキシシラン1.3部及びオクタメチルシクロテトラシロキサン98.7部を混合し、これを、ドデシルベンゼンスルホン酸2.0部を溶解した蒸留水300部中に入れ、ホモジナイザーにより3分間攪拌して乳化分散させた。この乳化分散液を、コンデンサー、窒素導入口及び攪拌機を備えたセパラブルフラスコに移し、攪拌しながら、90℃で6時間加熱した。次いで、5℃で24時間保持し、縮合を完結させ、ポリオルガノシロキサン系ゴム(含珪素ゴム)を含むラテックスを得た。縮合率は93%であった。その後、このラテックスを、炭酸ナトリウム水溶液を用いてpH7に中和した。得られたポリオルガノシロキサン系ゴムの体積平均粒子径は300nmであった。
次に、攪拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、イオン交換水100部、オレイン酸カリウム1.5部、水酸化カリウム0.01部、tert−ドデシルメルカプタン0.1部、上記ポリオルガノシロキサン系ゴム40部を含む、pH7に調製されたラテックス、スチレン15部及びアクリロニトリル5部からなるバッチ重合成分を加え、攪拌しながら昇温した。温度が45℃に達した時点で、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第1鉄0.003部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート・二水塩0.2部及びイオン交換水15部よりなる活性剤水溶液、並びにジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.1部を添加し、1時間重合を行った。
その後、上記反応系に、イオン交換水50部、オレイン酸カリウム1部、水酸化カリウム0.02部、tert−ドデシルメルカプタン0.1部、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.2部、スチレン30部及びアクリロニトリル10部よりなるインクレメント重合成分を、3時間に渡って連続的に添加し、重合を続けた。添加終了後、更に攪拌を継続した。1時間後、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加し、重合を終了し、グラフト重合樹脂(A−1)を含むラテックスを得た。次いで、上記ラテックスに、硫酸1.5部を加えて、樹脂成分を90℃で凝固させ、その後、樹脂成分の水洗、脱水及び乾燥を行って、粉末状のグラフト重合樹脂(A−1)を得た。ガラス転移温度(Tg)は108℃、グラフト率は84%、極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は0.60dl/gであった。
【0182】
2−2.グラフト重合樹脂(A−2)
アクリル酸n−ブチル99部及びアリルメタアクリレート1部を乳化重合して得られた、体積平均粒子径100nmのアクリルゴム(ゲル含率90%)50部を含む固形分濃度40%のラテックスを収容した反応器に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部及びイオン交換水150部を加えて希釈した。その後、反応器内を窒素ガスで置換し、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.02部、硫酸第一鉄0.005部及びホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.3部を加え、撹枠しながら60℃まで昇温した。
一方、別途準備した容器において、スチレン37.5部及びアクリロニトリル12.5部の混合物50部に、ターピノーレン1.0部及びクメンハイドロパーオキサイド0.2部を溶解させ、その後、容器内を窒素ガスで置換し、単量体組成物を得た。
次いで、上記単量体組成物を、5時間かけて、一定流量で上記反応器に添加しながら70℃で重合を行い、グラフト重合樹脂(A−2)を含むラテックスを得た。このラテックスに、硫酸マグネシウムを添加し、樹脂成分を凝固させた。その後、樹脂成分の水洗、脱水及び乾燥を行って、粉末状のグラフト重合樹脂(A−2)を得た。ガラス転移温度(Tg)は108℃、グラフト率は93%、極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は0.30dl/gであった。
【0183】
2−3.グラフト重合樹脂(A−3)
アクリル酸n−ブチル97.5部、アリルメタアクリレート1部及びビニルメトキシシラン1.5部を乳化重合して得られた、体積平均粒子径100nmのアクリル系ゴム(ゲル含率90%)50部を含む固形分濃度40%のラテックスを収容した反応器に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部及びイオン交換水150部を加えて希釈した。その後、反応器内を窒素ガスで置換し、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.02部、硫酸第一鉄0.005部及びホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.3部を加え、撹枠しながら60℃まで昇温した。
一方、別途準備した容器において、スチレン37.5部及びアクリロニトリル12.5部の混合物50部に、ターピノーレン1.0部及びクメンハイドロパーオキサイド0.2部を溶解させ、その後、容器内を窒素ガスで置換し、単量体組成物を得た。
次いで、上記単量体組成物を、5時間かけて、一定流量で上記反応器に添加しながら70℃で重合を行い、グラフト重合樹脂(A−3)を含むラテックスを得た。このラテックスに、硫酸マグネシウムを添加し、樹脂成分を凝固させた。その後、樹脂成分の水洗、脱水及び乾燥を行って、粉末状のグラフト重合樹脂(A−3)を得た。ガラス転移温度(Tg)は108℃、グラフト率は93%、極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は0.30dl/gであった。
【0184】
2−4.グラフト重合樹脂(A−4)
撹拌機を備えたガラス製反応容器に、イオン交換水75部、ロジン酸カリウム0.5部、tert−ドデシルメルカプタン0.1部、体積平均粒子径270nmのポリブタジエンゴム(ゲル含率:90%)32部を含む固形分濃度57%のラテックス、体積平均粒子径550nmのスチレン・ブタジエン共重合体(スチレン単位量25%、ゲル含率50%)8部を含む固形分濃度68%のラテックス、スチレン15部及びアクリロニトリル5部を入れ、窒素気流中、攪拌しながら昇温した。内温が45℃に達した時点で、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部及びブドウ糖0.2部をイオン交換水20部に溶解した水溶液を加えた。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.07部を加え、70℃で重合を開始し、1時間重合させた。
その後、イオン交換水50部、ロジン酸カリウム0.7部、スチレン30部、アクリロニトリル10部、tert−ドデシルメルカプタン0.05部及びクメンハイドロパーオキサイド0.01部を3時間かけて連続的に添加し、重合を継続した。1時間重合させた後、2,2’−メチレン−ビス(4−エチレン−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加し、重合を完結させ、ラテックスを得た。
次いで、このラテックスに硫酸マグネシウムを添加し、樹脂成分を凝固させた。その後、水洗及び乾燥することにより、グラフト重合樹脂(A−4)を得た。グラフト率は72%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.47dl/gであった。また、ガラス転移温度(Tg)は、108℃であった。
【0185】
2−5.アクリロニトリル・スチレン共重合体
テクノポリマー社製AS樹脂「SAN−H」(商品名)を用いた。ガラス転移温度(Tg)は、108℃である。
【0186】
2−6.アクリロニトリル・スチレン・N−フェニルマレイミド共重合体
日本触媒社製アクリロニトリル・スチレン・N−フェニルマレイミド共重合体「ポリイミレックス PAS1460」(商品名)を用いた。N−フェニルマレイミド単位量は40%、スチレン単位量は51%、GPCによるポリスチレン換算のMwは120,000である。ガラス転移温度(Tg)は、173℃である。
【0187】
2−7.白色系着色剤
石原産業社製酸化チタン「タイペークCR−50−2」(商品名)を用いた。平均一次粒子径は0.25μmである。
【0188】
2−8.赤外線透過性着色剤
BASF社製ペリレン系黒色顔料「Lumogen BLACK FK4280」(商品名)を用いた。
【0189】
2−9.黄色着色剤
BASF社製キノフタロン系黄色顔料「Paliotol Yellow K0961HD」(商品名)を用いた。
【0190】
他の層を形成するフィルムとして、下記の水蒸気バリア層形成用フィルム及びポリエステルフィルムを用いた。
【0191】
2−10.水蒸気バリア層形成用フィルム(R−1)
三菱樹脂社製透明蒸着フィルム「テックバリアAX」(商品名)を用いた。PETフィルムの片面にシリカ蒸着膜を有する透明フィルムであり、厚さは12μm、水蒸気透湿度(JIS K7129)は0.15g/(m・day)である。
2−11.水蒸気バリア層形成用フィルム(R−2)
東洋紡社製無機2元蒸着バリアフィルム「エコシアールVE500」(商品名)を用いた。PETフィルムの片面に(シリカ/アルミナ)の蒸着を施した透明フィルムであり、厚さは12μm、水蒸気透湿度は0.5g/(m・day)である。
【0192】
2−12.樹脂層形成用フィルム(F−1)
東レ社製半透明PETフィルム「ルミラーX10S」(商品名)を用いた。厚さは50μmである。
2−13.樹脂層形成用フィルム(F−2)
帝人デュポン社製乳白色PETフィルム「Melinex238」(商品名)を用いた。厚さは75μmである。
【0193】
3.太陽電池用裏面保護フィルムの製造及び評価
3−1.単層型太陽電池用裏面保護フィルムの製造及び評価
実施例1−1
グラフト重合樹脂(A−1)40部と、アクリロニトリル・スチレン共重合体20部と、アクリロニトリル・スチレン・N−フェニルマレイミド共重合体40部と、白色系着色剤20部とを、ブラベンダーを用いて250℃で混練し、第1熱可塑性樹脂組成物を得た。その後、Tダイを用いて、厚さ35μmの単層型太陽電池用裏面保護フィルムを得た。この太陽電池用裏面保護フィルムについて、各種評価を行った。その結果を表1に示す。
【0194】
実施例1−2〜1−5及び比較例1−1〜1−2
表1に記載の成分を所定の割合で用いた以外は、実施例1−1と同様にして、単層型太陽電池用裏面保護フィルムを得た。この太陽電池用裏面保護フィルムについて、各種評価を行った。その結果を表1に併記した。
【0195】
【表1】

【0196】
表1から明らかなように、含珪素熱可塑性樹脂を含有しない熱可塑性樹脂組成物を用いた比較例1−1及び1−2による太陽電池用裏面保護フィルムは、エチレン・酢酸ビニル共重合体からなるフィルムとの接着において、剥離強度が12〜15Nと低く、接着性が十分ではなかった。
一方、含珪素熱可塑性樹脂を含む第1熱可塑性樹脂組成物を用いた実施例1−1〜1−5による太陽電池用裏面保護フィルムは、剥離強度が61〜77Nと高く、接着性に優れていた。
【0197】
3−2.2層型太陽電池用裏面保護フィルムの製造及び評価
実施例2−1
表2に記載の、第1樹脂層及び第2樹脂層を形成するための各原料成分を、二軸押出機(型式名「TEX44」、日本製鋼所製)を用いて、バレル温度270℃で溶融混練し、第1樹脂組成物及び第2樹脂組成物の、2種のペレットを得た。
次に、ダイ幅1,400mm及びリップ間隔1.5mmのTダイを有し、スクリュー径65mmの押出機2機を備える多層フィルム成形機を用い、各押出機に、第1樹脂組成物及び第2樹脂組成物を供給した。そして、Tダイから、溶融温度270℃で溶融樹脂を吐出させ、2層型軟質フィルムとした。その後、この2層型軟質フィルムを、エアーナイフにより、表面温度が95℃に制御されたキャストロールに面密着させつつ、冷却固化させ、厚さ70μmの積層型太陽電池用裏面保護フィルム(白−白型)を得た。尚、第1樹脂層及び第2樹脂層の厚さは、表2に記載の通りである。フィルムの厚さは、シックネスゲージ(型式名「ID−C1112C」、ミツトヨ社製)を用い、フィルムの製造開始から1時間経過後のフィルムを切り取り、フィルム幅方向の中心、及び、中心より両端に向けて、10mm間隔で厚さを測定し(n=107)、その平均値とした。フィルムの端部から20mmの範囲にある測定点の値は、上記平均値の計算から除去した。
この太陽電池用裏面保護フィルムについて、各種評価を行い、その結果を表2に併記した。
【0198】
実施例2−2〜2−5
表2に記載の、第1樹脂組成物及び第2樹脂組成物を形成するための原料成分を用いて、第1樹脂組成物及び第2樹脂組成物を製造した後、実施例2−1と同様にして、積層型太陽電池用裏面保護フィルム(白−白型)を得た。そして、これらの太陽電池用裏面保護フィルムについて、各種評価を行い、その結果を表2に併記した。
【0199】
【表2】

【0200】
実施例2−6〜2−10
表3に記載の、第1樹脂組成物及び第2樹脂組成物を形成するための原料成分を用いて、第1樹脂組成物及び第2樹脂組成物を製造した後、実施例2−1と同様にして、積層型太陽電池用裏面保護フィルム(黒−白型)を得た。そして、これらの太陽電池用裏面保護フィルムについて、各種評価を行い、その結果を表3に併記した。
【0201】
【表3】

【0202】
実施例2−11
表4に記載の第1樹脂組成物を形成するための原料成分を、ブラベンダーを用いて250℃で混練し、第1樹脂組成物を得た。その後、Tダイを用いて、この第1樹脂組成物からなる軟質フィルムを得た(厚さ150μm)。
次に、上記軟質フィルムの表面に、樹脂層形成用フィルム(F−1)を、ポリウレタン系の接着剤を用いて接着させ、積層型の太陽電池用裏面保護フィルムを得た。そして、この太陽電池用裏面保護フィルムについて、各種評価を行い、その結果を表4に併記した。
【0203】
実施例2−12
表4に記載の第1樹脂組成物と、樹脂層形成用フィルム(F−2)とを用いて、実施例2−11と同様にして、積層型の太陽電池用裏面保護フィルムを得た。そして、この太陽電池用裏面保護フィルムについて、各種評価を行い、その結果を表4に併記した。
【0204】
【表4】

【0205】
実施例2−13〜2−14
表5に記載の第1樹脂組成物と、樹脂層形成用フィルム(F−1)又は(F−2)とを用いて、実施例2−11と同様にして、積層型の太陽電池用裏面保護フィルムを得た。そして、この太陽電池用裏面保護フィルムについて、各種評価を行い、その結果を表5に併記した。
【0206】
【表5】

【0207】
3−3.水蒸気バリア層を有する太陽電池用裏面保護フィルムの製造及び評価
実施例3−1
表6に記載の第1樹脂層を形成するための原料成分を、ブラベンダーを用いて250℃で混練し、第1樹脂組成物を得た。その後、Tダイを用いて、この第1樹脂組成物からなる軟質フィルムを得た(厚さ120μm)。
次に、上記軟質フィルムの表面に、表6に記載の水蒸気バリア層形成用フィルム(R−1)を、蒸着膜が外表面となるようにして、ポリウレタン系の接着剤を用いて接着させ、水蒸気バリア層を有する太陽電池用裏面保護フィルムを得た。そして、この太陽電池用裏面保護フィルムについて、各種評価を行い、その結果を表6に併記した。
【0208】
実施例3−2
表6に記載の第1樹脂組成物を用い、実施例3−1と同様にして、軟質フィルムを得た後、表6に記載の水蒸気バリア層形成用フィルムを、蒸着膜が外表面となるようにして、ポリウレタン系の接着剤を用いて接着させ、水蒸気バリア層を有する太陽電池用裏面保護フィルムを得た。そして、この太陽電池用裏面保護フィルムについて、各種評価を行い、その結果を表6に併記した。
【0209】
【表6】

【0210】
実施例3−3〜3−4
表7に記載の第1樹脂組成物を用い、実施例3−1と同様にして、軟質フィルムを得た後、表7に記載の水蒸気バリア層形成用フィルムを、蒸着膜が外表面となるようにして、ポリウレタン系の接着剤を用いて接着させ、水蒸気バリア層を有する太陽電池用裏面保護フィルムを得た。そして、この太陽電池用裏面保護フィルムについて、各種評価を行い、その結果を表7に併記した。
【0211】
【表7】

【0212】
実施例3−5
表8に記載の、第1樹脂組成物を形成するための原料成分を、ブラベンダーを用いて250℃で混練し、第1樹脂組成物を得た。その後、Tダイを用いて、この第1樹脂組成物からなる軟質フィルムを得た(厚さ170μm)。
次に、上記軟質フィルムの表面に、表8に記載の水蒸気バリア層形成用フィルム(R−1)を、蒸着膜が外表面となるようにして、ポリウレタン系の接着剤を用いて接着させた。更に、水蒸気バリア層における蒸着膜の表面に、表8に記載の樹脂層形成用フィルム(F−1)をポリウレタン系の接着剤を用いて接着させ、水蒸気バリア層及び第2樹脂層を有する太陽電池用裏面保護フィルムを得た。そして、この太陽電池用裏面保護フィルムについて、各種評価を行い、その結果を表8に併記した。
【0213】
実施例3−6
表8に示した材料を用い、実施例3−5と同様にして、第1樹脂層、水蒸気バリア層及び第2樹脂層を有する太陽電池用裏面保護フィルムを得た。そして、この太陽電池用裏面保護フィルムについて、各種評価を行い、その結果を表8に併記した。
【0214】
【表8】

【0215】
実施例3−7〜3−8
表9に示した材料を用い、実施例3−5と同様にして、第1樹脂層、水蒸気バリア層及び第2樹脂層を有する太陽電池用裏面保護フィルムを得た。そして、この太陽電池用裏面保護フィルムについて、各種評価を行い、その結果を表9に併記した。
【0216】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0217】
本発明の太陽電池用裏面保護フィルムは、その樹脂層(第1樹脂層)において、太陽電池モジュールを構成する太陽電池素子を包埋する、エチレン・酢酸ビニル共重合体組成物等を含む充填材部との接着性、耐熱性及び耐候性に優れており、また、フィルム全体として、光反射性あるいは意匠性に優れており、家屋の屋根等に用いられる太陽電池を構成する太陽電池モジュールはもちろんのこと、柔軟性を有する太陽電池モジュールにおける裏面保護用部材として有用である。
【符号の説明】
【0218】
1、1A、1B及び1C:太陽電池用裏面保護フィルム
11:第1樹脂層
15:他の層(他の樹脂層、水蒸気バリア層等)
151:金属層
153:樹脂層
2:太陽電池モジュール
21:表面側透明保護部材
23:表面側封止膜
25:太陽電池素子
27:裏面側封止膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含珪素熱可塑性樹脂を含む樹脂層を備えることを特徴とする太陽電池用裏面保護フィルム。
【請求項2】
波長400〜1,400nmの光を、上記太陽電池用裏面保護フィルムにおける上記樹脂層の表面に放射した場合、該光に対する反射率が50%以上である請求項1に記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
【請求項3】
上記樹脂層が、更に、白色系着色剤を含む請求項1又は2に記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
【請求項4】
上記樹脂層において、波長800〜1,400nmの光に対する透過率が60%以上であり、且つ、波長400〜700nmの光に対する吸収率が60%以上である請求項1に記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
【請求項5】
上記樹脂層が、更に、赤外線透過性着色剤を含む請求項1又は4に記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
【請求項6】
上記含珪素熱可塑性樹脂が、含珪素ゴムの存在下、芳香族ビニル化合物を含む単量体を重合して得られたグラフト重合樹脂を含む請求項1乃至5のいずれかに記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
【請求項7】
更に、上記樹脂層に接合された他の樹脂層を備える請求項1乃至6のいずれかに記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
【請求項8】
上記他の樹脂層が白色樹脂層である請求項7に記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
【請求項9】
厚さが10〜1,000μmである請求項1乃至8のいずれかに記載の太陽電池用裏面保護フィルム。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の太陽電池用裏面保護フィルムを備えることを特徴とする太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−82927(P2013−82927A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−261617(P2012−261617)
【出願日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【分割の表示】特願2009−251252(P2009−251252)の分割
【原出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】