説明

太陽電池素子の電極形成用導電性ペースト及び太陽電池素子並びにその太陽電池素子の製造方法

【課題】簡単な方法で太陽電池の変換効率を向上させることができる、太陽電池素子の電極形成用導電性ペーストを提供する。
【解決手段】導電性粒子と、有機バインダと、溶剤と、ガラスフリットとを含有する太陽電池素子の電極形成用導電性ペーストにおいて、銀粉の表面に簡易な手段で脂肪酸マグネシウム塩および脂肪酸カルシウム塩の中から選択される1種以上の金属石鹸を被覆することで金属石鹸被覆銀粉を得ることができ、その金属石鹸被覆銀粉を用いて導電性ペーストを作製して太陽電池の表面電極を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池素子の電極形成用導電性ペースト及びその導電性ペーストを用いて形成された電極を有する太陽電池素子並びにその太陽電池素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な太陽電池素子は、図4に示すように、半導体基板21、拡散層22、反射防止層23、裏面電極24および表面電極25を備えている。
【0003】
この太陽電池素子は、例えば、以下のように製造される。シリコンからなる半導体基板21の受光面側(表面側)に、不純物の拡散層22と、窒化シリコン、酸化シリコンまたは酸化チタンなどからなる絶縁性の反射防止層23とが順次形成される。ここで、半導体基板21は、例えば、ホウ素などの半導体不純物を1×1016〜1018原子/cm3程度含有することにより、比抵抗1.5Ωcm程度の一導電型(例えば、p型)を呈するようにしたものである。単結晶シリコンの場合は引き上げ法などによって形成され、多結晶シリコンの場合は鋳造法などによって形成される。多結晶シリコンは、大量生産が可能で製造コスト面で単結晶シリコンよりも有利である。半導体基板21は、例えば、引き上げ法や鋳造法によって形成されたインゴットを100ないし300μm程度の厚みにスライスすることにより得られる。
【0004】
拡散層22は、半導体基板21の受光面に、リンなどの不純物を拡散させることにより形成される、半導体基板21の逆の導電型(例えば、n型)を呈する領域である。この拡散層22は、例えば、半導体基板21を炉中に配置して、オキシ塩化リン(POCl3)などの中で加熱することによって形成される。
【0005】
反射防止層23は、反射防止機能と併せて太陽電池素子の保護のために拡散層22の受光面側に形成されるものである。反射防止層23が窒化シリコン膜の場合、例えば、シラン(SiH4)とアンモニア(NH3)の混合ガスをグロー放電分解でプラズマ化して堆積させるプラズマCVD法などで形成される。例えば、反射防止層23は半導体基板21との屈折率差などを考慮して、屈折率が1.8〜2.3程度になるようにされ、0.05μmないし1.0μm程度の厚みに形成される。
【0006】
半導体基板21の表面には表面電極25が形成され、裏面には裏面電極24が形成される。表面電極25は、導電性粒子と、有機バインダと、溶剤と、ガラスフリットと、必要に応じて添加される物質とを含む導電性ペーストを印刷し、乾燥し、焼成することにより形成される。裏面電極24も導電性ペーストを印刷し、乾燥し、焼成することにより形成されるが、表面電極25と同一の導電性ペーストを用いる必要はない。特に、表面電極25はファイヤースルーの役割を担っており、適切な組成と焼成条件の選択は太陽電池の特性を高める上で重要である。このファイヤースルーとは、焼成の際、導電性ペーストに含まれているガラスフリットが反射防止層23に作用して当該層を溶解除去し、その結果、表面電極25と拡散層22が接触し、表面電極25と拡散層22のオーミック接続を得ることをいう。表面電極25と拡散層22との間で安定なオーミック接続が得られないと、太陽電池の直列抵抗が高くなる。
【0007】
太陽電池の変換効率を向上させるためには、太陽電池素子内の内部抵抗を低減させることや太陽電池素子内へ多くの太陽光を閉じ込めて吸収電流を増加させることが必要である。従って、安定なオーミック接続を得ることは太陽電池の変換効率を向上させるために重要である。また、受光面側に形成される電極の面積を小さくすること(細線の電極パターンを印刷できること)は、太陽電池素子内へ多くの太陽光を閉じ込めて太陽電池の変換効率を向上させるために重要である。
【0008】
例えば、特許文献1には、太陽電池の出力特性を向上させるために、一方の面に表面電極を設け、他方の面に集電部と出力取出部とからなる裏面電極を設け、集電部はアルミニウムとガラス成分と酸化マグネシウムを含有する太陽電池素子が開示されている。
【0009】
特許文献2には、光電変換率の高い太陽電池セルを提供するために、有機バインダーと、有機溶媒と、導電性粉末と、ガラスフリットと、金属単体、金属酸化物及び金属水酸化物の中の1種以上のものとを配合してなる電極形成用導電性ペーストが開示されている。
【0010】
特許文献3には、焼成時に断線のない配線パターンを形成するために、Agと、Mgのメタロオーガニック、Tiのメタロオーガニック、SnのメタロオーガニックおよびCaのメタロオーガニックンの中の1種以上のものを含有する導電性ペーストが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−152827号公報
【特許文献2】特開2007−19106号公報
【特許文献3】特開平2−10606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1のように太陽電池の集電部を特定組成のものとしたり、特許文献2や3のように、電極形成用の導電性ペースト中に金属単体等やMgのメタロオーガニック等の特定成分を含有するだけでは、太陽電池の変換効率を向上することは困難である。
【0013】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡単な方法で太陽電池の変換効率を向上させることができる、太陽電池素子の電極形成用導電性ペースト及び太陽電池素子並びにその太陽電池素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意試験研究を重ねた結果、銀粉の表面に簡易な手段で脂肪酸マグネシウム塩および脂肪酸カルシウム塩の中から選択される1種以上の金属石鹸を被覆することで金属石鹸被覆銀粉を得ることができ、その金属石鹸被覆銀粉を用いて導電性ペーストを作製して太陽電池の表面電極を形成すると変換効率が向上することを見出し、本発明の完成に至ったのである。
【0015】
すなわち、本発明の導電性ペーストは、導電性粒子と、有機バインダと、溶剤と、ガラスフリットとを含有する太陽電池素子の電極形成用導電性ペーストにおいて、導電性粒子の表面に有機金属化合物が被覆されていることを特徴としている。
【0016】
導電性粒子が銀粉であって、有機金属化合物が脂肪酸マグネシウム塩および脂肪酸カルシウム塩の中から選択される1種以上の金属石鹸であることが好ましい。
【0017】
金属石鹸の重量が銀粉重量に対して0.1重量%以上5重量%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の太陽電池素子は、半導体基板の受光面側に拡散層を形成し、この拡散層上に反射防止層と表面電極を有し、半導体基板の反受光面側に裏面電極を有する太陽電池素子において、表面電極は上記導電性ペーストを反射防止層上に印刷して焼成することにより形成されたものであることを特徴としている。
【0019】
本発明の太陽電池素子の製造方法は、半導体基板の受光面側に拡散層を形成し、この拡散層上に反射防止層を形成し、この反射防止層上に上記導電性ペーストを印刷し、半導体基板の反受光面側に裏面電極用導電性ペーストを印刷し、さらに、反射防止層上に印刷された導電性ペーストを焼成することによって拡散層と導通させて表面電極を形成し、裏面電極用導電性ペーストを焼成することによって裏面電極を形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の太陽電池素子の電極形成用導電性ペーストによれば、安定なオーミック接続を得るとともに細線電極パターン(ファインライン)の印刷が可能であるから、簡単な方法で太陽電池の変換効率を向上させることができる。また、簡単な方法で、その導電性ペーストを用いて形成された電極を有する太陽電池素子並びにその太陽電池素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】太陽電池素子の一例の断面図である。
【図2】図2(a)は図1の太陽電池素子の受光面側の平面図、図2(b)は図1の太陽電池素子の反受光面側の平面図である。
【図3】太陽電池モジュールの一例を示す断面図である。
【図4】一般的な太陽電池素子の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
(1)導電性粒子
導電性粒子としては、銀粉、銅粉、金粉など電気の良導体を用いることができるが、コスト面および大気中での焼成でも酸化しにくいという点を考慮して、銀粉が好ましい。
【0023】
銀粉としては、太陽電池の電極形成等に用いられる導電性ペーストに配合しうるものであれば特に限定されるものではない。銀粉の形状は、鱗片状、球形状、フレーク状、不定形状またはこれらを混合したものでもよい。要するに、銀粉の形状は特定のものに限定されない。
【0024】
銀粉の製造方法としては、アトマイズ法、湿式還元法など公知の方法を採用することができる。具体的には、湿式還元法であれば、硝酸銀の水溶液にアンモニア水を加えて銀アンミン錯体を形成した後、ホルマリン、ヒドラジンなどの還元剤を添加して銀に還元させて銀粉を得る方法や硝酸銀の水溶液に水酸化ナトリウムを加えて酸化銀粒子を生成させた後、ホルマリン、ヒドラジンなどの還元剤を添加して銀に還元させて銀粉を得る方法などを挙げることができる。その後は必要に応じて、銀粉を含有する溶液を固液分離して固体分としての銀粉と溶液に分離し、その銀粉を適当な洗浄剤で洗浄して銀粉に付着した液体を除去し、さらに、その銀粉を乾燥して水分を除去し、次いで、解砕や分級などの処理をを行って求める粒度の銀粉を得ることができる。
【0025】
銀粉を太陽電池の電極形成に用いられる導電性ペーストに配合する場合の銀粉の配合量は導電性ペースト全体に対して65ないし95重量%であるのが好ましい。65重量%未満では銀粉の配合量が少なすぎて焼成して得られる受光面電極の抵抗が上昇するという不都合があり、95重量%を超えると印刷性が悪くなり、物理的な接着強度が不足するという不都合があるからである。
【0026】
銀粉の平均粒径は、導電性ペーストを焼結するときの焼結特性に影響を与えるので(粒径の大きい銀粉は粒径の小さい銀粉よりもゆっくりとした速度で焼結される)、0.1〜5.0μmが好ましい。0.1μm未満であると焼結速度が速すぎ、物理的な接着強度が不足するという不都合がある。5.0μmを超えると、焼結速度はやや緩慢になるが、ペースト中での分散性および印刷性が悪くなり、細いラインを印刷するのが困難になるという不都合がある。本明細書において、平均粒径とは、レーザ回折法により粒径を測定した場合において、小径側から累積50%の粒径をいう。
【0027】
(2)有機金属化合物
本発明において導電性粒子を被覆するために使用される有機金属化合物は、低融点(300℃以下)のものであればよく、限定されるものではないが、脂肪酸マグネシウム塩および脂肪酸カルシウム塩の中から選択される1種以上の金属石鹸を用いることができる。脂肪酸の種類は、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸などの飽和脂肪酸でもよく、オレイン酸などの不飽和脂肪酸でもよいが、特に、ステアリン酸マグネシウムとステアリン酸カルシウムが好ましい。
【0028】
銀粉を被覆する金属石鹸の重量は、銀粉重量に対して0.1重量%以上5重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上2重量%以下であることがより好ましい。金属石鹸の被覆量が銀粉重量に対して0.1重量%未満であると、太陽電池の電極形成等に用いられる導電性ペーストに配合しても変換効率を向上することが困難である。一方、金属石鹸の被覆量が銀粉重量に対して5重量%を超えると、導電性が低下し、その結果、変換効率が悪くなる。
【0029】
銀粉を金属石鹸で被覆する方法としては、一般に混合機または解砕機と呼ばれる、回転エネルギーを利用して圧縮、剪断、衝撃、摩擦などの機械的外力を固体材料に加えて破壊する設備を用いて銀粉と金属石鹸とを混合および解砕する方法がコスト面から好ましい。この混合および解砕により、金属石鹸は細かくされるとともに銀粉の表面への付着と剥離を繰り返す。そして、一定時間以上混合および解砕を実行することにより、銀粉の表面には細かくなった金属石鹸の被覆層が形成されるようになる。金属石鹸が微細であるほど、より均一に銀粉表面に被覆されるため、金属石鹸の平均粒径は1μm以下であることが好ましい。混合および解砕時に粉体へ及ぼされる回転エネルギーが大きくなるほど、金属石鹸の被覆層の銀粉への付着力を高めることができるので、少なくとも600rpmの回転数で10分間以上混合および解砕を行うことが好ましい。なお、混合および解砕時の温度は200℃を超えない程度とするのが好ましい。
【0030】
なお、銀粉を金属石鹸で被覆する方法としては、例えば、水等の溶媒中で銀粉を撹拌しながら脂肪酸ナトリウム塩をその溶媒に添加して銀粉表面に脂肪酸ナトリウム塩を付着させた後、水溶性のマグネシウム塩またはカルシウム塩をその溶媒中に添加することによって脂肪酸ナトリウム塩の一部を脂肪酸マグネシウム塩や脂肪酸カルシウム塩に置換して銀粉表面に析出させるという方法を採用することもできる。しかし、乾式法は湿式法に比べて低コストであり、乾式下で銀粉表面に金属石鹸を被覆しても後記するような太陽電池の変換効率の向上効果は得られるため、乾式法による金属石鹸被覆法を採用するのが好ましい。銀粉と金属石鹸との混合および解砕を乾式下で行うとは、混合および解砕時に特別の分散媒を用いずに、乾燥した銀粉を金属石鹸で被覆することをいう。
【0031】
銀粉表面が金属石鹸で被覆されることによって太陽電池の変換効率が上昇するのは、金属石鹸で被覆された銀粉を含有する導電性ペーストで太陽電池の電極を形成して焼成すると、金属石鹸の融点はガラスフリットに比べて低いので(例えば、ステアリン酸マグネシウムの融点は約123℃であり、ステアリン酸カルシウムの融点は約152℃であるが、後記するように、本発明で使用可能なガラスフリットの軟化点は300℃以上)、銀粉を適正量の金属石鹸で被覆することによりファイヤースルー性が向上し、図1に示す表面バスバー電極5aとn型拡散層2との間で安定なオーミック接続を得て、太陽電池素子の内部抵抗を低減することができるからである。銀粉を金属石鹸で被覆する方式として、本発明の方式に代えて、金属石鹸で被覆されていない銀粉を有機溶媒の存在下でペースト化する際に金属石鹸粉末を配合する方式も考えられるが、ペースト化時に金属石鹸粉末を配合する方式では銀粉表面への金属石鹸の被覆量が十分ではなく、太陽電池素子の内部抵抗低減効果は本発明に比べて劣ったものになる。
【0032】
(3)ガラスフリット
本発明で使用可能なガラスフリットは、導電性ペーストが750ないし950℃で焼成されたときに、反射防止層を浸食し、適切に半導体基板への接着が行われるように、300ないし550℃の軟化点を有するものが好ましい。軟化点が300℃より低いと、焼成が進んで本発明の効果を十分に得ることができないという不都合がある。一方、軟化点が550℃より高いと、焼成時に十分な溶融流動が起こらないため、十分な接着強度が得られないという不都合がある。例えば、ガラスフリットとしては、Bi系ガラス、Bi23−B23−ZnO系ガラス、Bi23−B23系ガラス、Bi23−B23−SiO2系ガラス、Ba系ガラス、BaO−B23−ZnO系ガラスなどを用いることができる。
【0033】
ガラスフリットの形状は限定されず、球状でも、不定形状でもよい。
【0034】
ガラスフリットの配合量は導電性ペースト全体に対して0.1ないし10重量%であるのが好ましい。0.1重量%未満では接着強度が不十分となる場合がある。10重量%を超えると、ガラスの浮きや後工程での半田付け不良が生じることがある。
【0035】
(4)有機バインダ
有機バインダとしては、限定されるものではないが、メチルセルロース、エチルセルロース等のセルロース誘導体、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、脂肪族系石油樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、キシレン系樹脂、クマロンインデン系樹脂、スチレン系樹脂、ジシクロペンタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリイソブチル系樹脂等を用いることができる。
【0036】
有機バインダの配合量は導電性ペースト全体に対して0.1ないし30重量%であるのが好ましい。0.1重量%未満では、十分な接着強度を確保することができない。一方、30重量%を超えると、ペーストの粘度上昇により印刷性が低下する。
【0037】
(5)溶剤
溶剤としては、限定されるものではないが、ヘキサン、トルエン、エチルセロソルブ、シクロヘキサノン、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジアセトンアルコール、ターピネオール、メチルエチルケトン、ベンジルアルコール等を挙げることができる。
【0038】
溶剤の配合量は導電性ペースト全体に対して1ないし40重量%であるのが好ましい。それらの範囲外であると、ペーストの印刷性が低下するからである。
【0039】
(6)分散剤
ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、ラウリン酸などの分散剤を導電性ペーストに配合することができる。なお、分散剤は一般的なものであれば、有機酸に限定されるものではない。これら分散剤の配合量は導電性ペースト全体に対して0.05ないし10重量%であるのが好ましい。0.05重量%未満であるとペーストの分散性が悪くなるという不都合があり、10重量%を超えると焼成によって得られる受光面電極の抵抗が上昇するという不都合がある。
【0040】
(7)その他の添加剤
本発明においては、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、消泡剤、粘度調整剤などの各種添加剤を本発明の効果を妨げない範囲において導電性ペーストに配合することができる。
【0041】
(8)太陽電池素子の製造方法
太陽電池素子の製造方法について詳しく説明する。
【0042】
図1は、太陽電池素子の一例の断面の構造を示す概略図である。図2(a)は図1の太陽電池素子の受光面側(表面)の平面図、図2(b)は図1の太陽電池素子の反受光面側(裏面)の平面図である。
【0043】
シリコン基板1は、単結晶または多結晶シリコンなどからなる。このシリコン基板1は、ボロンなどの一導電型半導体不純物を含有し、比抵抗は、例えば、1.0ないし2.0Ωcm程度である。単結晶シリコン基板の場合には引き上げ法などによって形成され、多結晶シリコン基板の場合には鋳造法などによって形成される。引き上げ法や鋳造などによって形成されたシリコンのインゴットを200μm以下、好ましくは150μm以下の厚みにスライスしてシリコン基板1とする。なお、以下の説明においてはp型シリコン基板を用いて説明を行うが、n型シリコン基板を用いてもかまわない。
【0044】
このシリコン基板1は、そのスライス面を清浄化するために、表面をNaOHやKOH、またはフッ酸やフッ硝酸等で微量エッチングされる。
【0045】
その後、光入射面となるシリコン基板表面(受光面)側に、ドライエッチングやウエットエッチングなどを用いて、光反射率低減機能を有する凹凸面(粗面)を形成することが好ましい。
【0046】
次に、n型拡散層2を形成する。n型化ドーピング元素としては、リンを用いるのが好ましく、シート抵抗が40ないし100Ω/□程度のn+型とする。これにより、p型シリコン基板1との間にpn接合部が形成される。
【0047】
n型拡散層2はシリコン基板の受光面に形成されるものであり、ペースト状態にしたP25を塗布して熱拡散させる塗布熱拡散法、ガス状態にしたPOCl3を拡散源とした気相熱拡散法、およびP+イオンを直接拡散させるイオン打ち込み法などによって形成される。このn型拡散層2は、0.3ないし0.5μm程度の深さに形成される。
【0048】
なお、拡散を予定しない部位にも拡散領域が形成された場合、後でエッチングによって除去すればよい。後記するように、裏面(反受光面)のBSF領域をアルミニウムペーストによって形成する場合は、p型ドープ剤であるアルミニウムを十分な濃度で十分な深さまで拡散させることができるので、浅いn型拡散層の影響は無視することができるので、裏面側に形成されたn型拡散層を特に除去する必要はない。
【0049】
n型拡散層2の形成方法は上記に限定されるものではなく、例えば、薄膜技術を用いて、水素化アモルファスシリコン膜や、微結晶シリコン膜を含む結晶質シリコン膜などを形成してもよい。さらに、p型シリコン基板1とn型拡散層2との間にi型シリコン領域(図示せず)を形成してもよい。
【0050】
次に、反射防止層3を形成する。反射防止層3の材料としては、SiNx膜(Si34を中心にして組成xには幅がある)、TiO2膜、SiO2膜、MgO膜、ITO膜、SnO2膜、ZnO膜などを用いることができる。その厚さは、適当な入射光に対して無反射条件を再現できるよう、半導体材料に対して適宜選択することができる。例えば、シリコン基板1に対しては、屈折率は1.8ないし2.3程度、厚みは500ないし1000Å程度にすればよい。
【0051】
反射防止層3の製法としては、CVD法、蒸着法またはスパッタ法などを用いることができる。
【0052】
次に、BSF(Back Surface Field)層4を形成することが好ましい。ここで、BSF層とは、シリコン基板1の裏面側に一導電型半導体不純物が高濃度に拡散されてなる領域をいい、キャリヤの再結合による変換効率の低下を防ぐ役割を果たすものである。不純物元素としては、ボロンやアルミニウムを用いることができ、不純物元素濃度を高濃度にしてp+型とすることによって後記する裏面電極6との間にオーミック接続を得ることができる。
【0053】
BSF層4の製法としては、BBr3を拡散源とした熱拡散法を用いて800ないし10000℃程度で形成することができる。熱拡散法を用いる場合は、すでに形成してあるn型拡散層2には酸化膜などの拡散バリアをあらかじめ形成しておくことが好ましい。他の製法として、アルミニウムを用いる場合、アルミニウム粉末および有機ビヒクルを含むアルミニウムペーストを塗布した後、600ないし850℃程度で焼成してアルミニウムをシリコン基板1に向けて拡散する方法を用いることができ、この方法によると塗布面への所望の拡散領域を形成できるとともに、裏面側の不要な拡散層の除去を必要としない。しかも、焼成されたアルミニウムはそのまま裏面電極の集電電極として利用することもできる。
【0054】
次に、図2(a)に示すバスバー電極5aおよびフィンガー電極5bからなる表面電極5と、図2(b)に示すバスバー電極6aおよび集電電極6bからなる裏面電極6とを、シリコン基板1の表面側および裏面側に形成する。
【0055】
表面電極5は、シリコン基板1上に公知の塗布法を用いて本発明の太陽電池素子の電極形成用導電性ペーストを塗布し、ピーク温度が700ないし950℃程度で数十秒ないし数十分間焼成することにより形成できる。
【0056】
裏面電極6は、図2(b)に示すように、銀粉末とアルミニウム粉末と有機バインダと溶剤とガラスフリットを含む銀−アルミニウムペーストを塗布・焼成して形成されるバスバー電極6aと、アルミニウム粉末と有機バインダと溶剤とガラスフリットを含むアルミニウムペーストをシリコン基板1の略全面に塗布・焼成して形成される集電電極6bとを、一部が重なるように構成してもよい。
【0057】
なお、表面電極および裏面電極について、それぞれの電極形成用ペーストを塗布・乾燥した後、同時に焼成すれば、製造工程を減らすことができるので好ましい。各ペースト塗布の順序は特に限定されるものではない。
【0058】
導電性ペーストによる電極形成パターンは、太陽電池素子から効率よく集電するために、一般的に用いられているパターン、例えば、表面電極の場合であれば、図2(a)に示すように、櫛形パターンを採用することができる。
【0059】
(9)太陽電池モジュールの製造方法
上記のようにして製造した太陽電池素子を用いて太陽電池モジュールを製造する方法の一例について説明する。
【0060】
図3に示すように、配線11によって、隣接している太陽電池素子12の表面電極と裏面電極とを接続し、透明の熱可塑性樹脂などからなる表側充填材13と透明の熱可塑性樹脂などからなる裏側充填材14によって太陽電池素子12を挟み込み、さらに、表側充填材13の上側にガラスからなる透明部材15を配し、裏側充填材14の下側に機械特性に優れたポリエチレンテレフタレートなどのシートを耐候性に優れたポリフッ化ビニルのフィルムで覆った裏面保護材16を配し、これらの積層部材を適切な真空炉で脱気し、加熱・押圧して一体化することが好ましい。また、複数の太陽電池素子12が直列接続されている場合、複数の素子の中の最初の素子と最後の素子の電極の一端を出力取出部である端子ボックス17に出力取出配線18によって接続することが好ましい。さらに、太陽電池モジュールは、通常長期にわたって野外に放置されるため、アルミニウムなどからなる枠体によって周囲を保護することが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において適宜変更や修正が可能である。
【0062】
1.銀粉Aと銀粉Bの製造
〔銀粉Aの製造〕
銀54kgを含む硝酸銀水溶液4390kgに、25質量%のアンモニア水185kgと、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液7kgとを添加して、銀アンミン錯塩水溶液を得た。この銀アンミン錯塩水溶液の液温を25℃とし、3.2質量%の含水ヒドラジン水溶液400kgを上記銀アンミン錯塩水溶液に添加して銀粒子を析出させ、銀含有スラリーを得た。また、上記の含水ヒドラジン水溶液の添加終了後、銀量に対して0.4質量%のオレイン酸のエタノール溶液を上記銀含有スラリーに添加した。
【0063】
このようにして得られた銀含有スラリーを濾過および水洗し、含水銀粉ケーキを得た。この含水銀粉ケーキ18.9kgを気流式乾燥機((株)セイシン企業製の名称「フラッシュジェットドライヤー」、型番「FJD−4」)に60分間かけて投入し、乾燥銀粉17.4kgを得た。このときの使用風量は10.4m3/min、上記乾燥機の入口温度は100℃、出口温度は60℃であった。また、赤外水分計を用いて上記乾燥銀粉が乾燥していることを確認した。
【0064】
得られた乾燥銀粉をヘンシェルミキサーFM75型(三井鉱山株式会社製)により解砕して、平均粒径が1.3μmの銀粉Aを得た。
【0065】
〔銀粉Bの製造〕
銀32kgを含む硝酸銀水溶液500kgの温度を40℃に調整して、17.5質量%の水酸化ナトリウム水溶液117kgを添加し、酸化銀粒子を含有するスラリーを得た。22質量%のホルマリン水溶液25kgを上記の酸化銀粒子含有スラリーに添加して酸化銀を還元して銀粒子を析出させ、銀含有スラリーを得た。この銀含有スラリーを濾過、水洗および乾燥して得た銀粉に、滑剤としてステアリン酸を添加して混合後、振動ボールミルでステンレスボールを用いてフレーク化し、このフレーク状銀粉を40μmの目開きの篩いで分級し、平均粒径が4.4μmフレーク状の銀粉Bを得た。
【0066】
2.実施例1−3
〔実施例1〕
(1)半導体ウエハの準備
厚さが200μmで、外形が20mm×20mmの大きさで、比抵抗が1.5Ωcmの多結晶シリコンのp型シリコン基板の表面にn型拡散層が形成され、さらに、n型拡散層の上にSiNxの反射防止層が形成された半導体ウエハを準備した。
【0067】
(2)導電性ペーストの調製
a.BSF層と裏面集電電極形成用の導電性ペースト
アルミニウム粉末と、エチルセルロース(有機バインダ)と、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレート(溶剤)と、Bi23−B23−ZnO系ガラスフリットとを3本ロールミルで混合することによりペースト状にして、BSF層と裏面集電電極形成用の導電性ペーストを得た。
【0068】
b.裏面バスバー電極形成用の導電性ペースト
銀粉末と、アルミニウム粉末と、エチルセルロース(有機バインダ)と、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレート(溶剤)と、Bi23−B23系ガラスフリットとを3本ロールミルで混合することによりペースト状にして、裏面バスバー電極形成用の導電性ペーストを得た。
【0069】
c.表面バスバー電極と表面フィンガー電極形成用の導電性ペースト
〈ステアリン酸マグネシウムで被覆された銀粉の製造〉
銀粉A32kgに、市販のステアリン酸マグネシウム(和光純薬工業株式会社製)を粉砕して平均粒径D50を0.1μmとしたものを1.0重量%添加して、ヘンシェルミキサーFM75型(三井鉱山株式会社製)を用いて、羽根回転数1000rpm、処理時間20分の条件で混合および解砕を実施した後、40μmの目開きの篩いで分級し、ステアリン酸マグネシウムで被覆された銀粉を得た。
【0070】
〈導電性ペーストの製造〉
上記のようなステアリン酸マグネシウムで被覆された銀粉86重量部と、軟化点が約530℃のBa系ガラスフリット1重量部と、エチルセルロース1重量部(有機バインダ)と、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール モノイソブチレート9.5重量部(溶剤)と、ステアリン酸0.5重量部(分散剤)と、2重量部のTeO2とを配合したものを3本ロールミルで混合することによりペースト状にし、さらに、後記するスクリーン印刷時のペーストの粘度が約300Pa・sとなるように、上記有機溶剤を適宜添加して調製した。このようにして、表面バスバー電極と表面フィンガー電極形成用の導電性ペーストを得た。
【0071】
そして、この導電性ペーストの粘度とチクソトロピー比を以下に説明する方法で測定した。
【0072】
《粘度とチクソトロピー比の測定》
粘度計(ブルックフィールド社製のDV−III)を用い、コーンスピンドルCP−52( 角度3.0°、半径1.2cm) により、回転数1rpmにおける粘度と、回転数5rpmにおける粘度とを測定した。具体的には、25℃の循環水で保温したサンプルカップ内に導電性ペーストを5分間放置した後、回転数1rpmで5分間回転させた後と回転数5rpmで1分間回転させた後で粘度測定を行った。その粘度の数値(Pa・s)を以下の表1に示す。CP−52型式の場合、1rpmでの粘度はずり速度2/秒に相当し、5rpmでの粘度はずり速度10/秒に相当する。
【0073】
また、回転数1rpmで5分間回転させた後における粘度をαとし、回転数5rpmで1分間回転させた後における粘度をβとし、チクソトロピー比を、αをβで除することにより求めた。チクソトロピー比は4〜8が好ましく、5〜7がより好ましい。チクソトロピー比が4未満では、スクリーン製版の版離れが悪かったり、スクリーン印刷後に配線パターンが広がり易く、細線印刷への対応が困難になる等の問題があり、印刷性が悪化する。一方、チクソトロピー比が8を超えると、スクリーン印刷時のペーストの版抜け性が悪くなり、印刷性が悪化する。このチクソトロピー比(TI)の数値を以下の表1に示す。
【0074】
(3)導電性ペーストの印刷
上記(2)aのように調製した導電性ペーストを、(1)のように準備した半導体ウエハの裏面側の略全面にスクリーン印刷により塗布し、その導電性ペーストの上に、図2(b)の6aに示すような形状となるように(2)bのように調製した導電性ペーストをスクリーン印刷により塗布し、150℃で5分間乾燥を行った後、自然放冷により室温まで冷却した。
【0075】
次に、(1)のように準備した半導体ウエハの表面側に、図2(a)の5aおよび5bに示すような形状となるように(2)cのように調製した導電性ペーストをスクリーン印刷により塗布し、150℃で5分間乾燥を行った後、自然放冷により室温まで冷却した。
【0076】
なお、スクリーン印刷機としては一般的な低印圧の印刷機マイクロテック社製のMT−320Tを用い、表面バスバー電極5aと表面フィンガー電極5bの印刷には、SUS200メッシュの80μmのフィンガー幅設計(図2(a)の5bの幅が80μm)のスクリーン版を使用した。
【0077】
(4)焼成
以上のように導電性ペーストを塗布した半導体ウエハを、BTU社製のモデルPV309で4ゾーンの加熱ゾーンがある高速焼成炉に挿入して、Datapaq社の温度ロガーで半導体ウエハ表面の最高温度を確認しながら、その表面最高温度を焼成温度として、800℃の焼成温度で上記高速焼成炉に挿入してから取り出すまでの時間を約1分間として焼成した。この焼成過程において、半導体ウエハの裏面側に塗布したアルミニウムが半導体ウエハ側に拡散することにより、図1の4に示すようなBSF層が形成され、同時に図1の6bに示すような集電電極が形成されるのである。
【0078】
また、上記のように80μmのフィンガー幅設計でスクリーン印刷したものについて、そのフィンガー幅(図2(a)の5bの幅)がペースト焼成後においてどの程度変化しているかについて測定した。当初は80μmの幅で導電性ペーストを印刷しても、Siウエハの組織内にそのペーストがにじみやすいので、焼成後に測定するフィンガー幅は80μmより大きくなる。導電性ペーストがチクソトロピー性を備えていれば、にじみ量も抑えられるので、細線電極パターン(ファインライン)の印刷が可能となる。ペースト焼成後に測定したフィンガー幅の数値を以下の表1に示す。
【0079】
(5)電気特性の評価
以上のようにして作製した太陽電池素子試験片の変換効率を求めた。具体的には、共進電機株式会社製の商品名「KST−15Ce−1s」のIVトレーサーと、株式会社ワコム電創製の商品名「WXS−156S−10、AM1.5G」のソーラーシミュレーターとを用いて、100mW/cm2相当の入射光に対して得られる変換効率を求めた。以下の表1にその変換効率の数値を示す。
【0080】
〔実施例2〕
銀粉A32kgに対するステアリン酸マグネシウムの添加量を2.0重量%とした以外は実施例1と同様の操作を実施して、ステアリン酸マグネシウムで被覆された銀粉を得た。そのステアリン酸マグネシウムで被覆された銀粉を用いて実施例1と同様の方法で表面バスバー電極と表面フィンガー電極形成用の導電性ペーストと太陽電池素子試験片を作製し、その導電性ペーストの粘度とチクソトロピー比、ペースト焼成後のフィンガー幅の数値、ならびに変換効率を同上方法により測定した。それらの数値を以下の表1に示す。
【0081】
〔実施例3〕
銀粉A16kgと銀粉B16kgを混合した混合銀粉に対するステアリン酸マグネシウムの添加量を1.0重量%とした以外は実施例1と同様の操作を実施して、ステアリン酸マグネシウムで被覆された銀粉を得た。そのステアリン酸マグネシウムで被覆された銀粉を用いて実施例1と同様の方法で表面バスバー電極と表面フィンガー電極形成用の導電性ペーストと太陽電池素子試験片を作製し、その導電性ペーストの粘度とチクソトロピー比、ペースト焼成後のフィンガー幅の数値、ならびに変換効率を同上方法により測定した。それらの数値を以下の表1に示す。
【0082】
3.比較例1−3
〔比較例1〕
ステアリン酸マグネシウムで被覆されていない銀粉Aを用いて表面バスバー電極と表面フィンガー電極形成用の導電性ペーストを製造する場合において、銀粉Aに対して1重量%のステアリン酸マグネシウムを配合したものを使用して導電性ペーストを製造したこと以外は実施例1と同様の方法で太陽電池素子試験片を作製し、その導電性ペーストの粘度とチクソトロピー比、ペースト焼成後のフィンガー幅の数値、ならびに変換効率を同上方法により測定した。それらの数値を以下の表1に示す。
【0083】
〔比較例2〕
ステアリン酸マグネシウムで被覆されていない銀粉Aを用いて表面バスバー電極と表面フィンガー電極形成用の導電性ペーストを製造する場合において、銀粉Aに対して2重量%のステアリン酸マグネシウムを配合したものを使用して導電性ペーストを製造したこと以外は実施例1と同様の方法で太陽電池素子試験片を作製し、その導電性ペーストの粘度とチクソトロピー比、ペースト焼成後のフィンガー幅の数値、ならびに変換効率を同上方法により測定した。それらの数値を以下の表1に示す。
【0084】
〔比較例3〕
ステアリン酸マグネシウムで被覆されていない銀粉Aとステアリン酸マグネシウムで被覆されていない銀粉Bを混合した混合銀粉を用いて表面バスバー電極と表面フィンガー電極形成用の導電性ペーストを製造する場合において、銀粉Aを16kg、銀粉Bを16kgとし、AとBの混合銀粉に対して1重量%のステアリン酸マグネシウムを配合したものを使用して導電性ペーストを製造したこと以外は実施例1と同様の方法で太陽電池素子試験片を作製し、その導電性ペーストの粘度とチクソトロピー比、ペースト焼成後のフィンガー幅の数値、ならびに変換効率を同上方法により測定した。それらの数値を以下の表1に示す。
【0085】
4.参考例
参考例として、ステアリン酸マグネシウムで被覆されていない銀粉Aを用いて表面バスバー電極と表面フィンガー電極形成用の導電性ペーストを製造したこと以外は実施例1と同様の方法で太陽電池素子試験片を作製し、その導電性ペーストの粘度とチクソトロピー比、ペースト焼成後のフィンガー幅の数値、ならびに変換効率を同上方法により測定した。それらの数値を以下の表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
銀粉AとBの主たる差違は、銀粉Aの形状が球状又は不定形状であり、銀粉Bの形状がフレーク状であるという点であり、この銀粉形状の違いによって導電性ペーストの粘度とチクソトロピー比(TI)、ペースト焼成後のフィンガー幅の数値、ならびに変換効率に差違が見られる。
【0088】
銀粉Aを使用して導電性ペーストを作製した本発明の実施例1および2と、比較例1、および2とを比べると、適量のステアリン酸マグネシウムで被覆された銀粉を用いた本発明の実施例1、2に係るもののチクソトロピー比は比較例1、2より大きくなる。一方、本発明の実施例1、2に係るもののペースト焼成後のフィンガー幅の数値は比較例1、2より小さくなる。このように、本発明の導電性ペーストによれば、細線電極パターンの印刷が可能である。さらに、本発明の導電性ペーストによれば、細線電極パターンの印刷に加えて安定なオーミック接続が得られるので、本発明の実施例1、2に係るものの変換効率は比較例1、2より大きくなる。
【0089】
銀粉Aと銀粉Bとの混合銀粉を用いた実施例3と比較例3との間においても、この傾向は同じであり、本発明の実施例3に係るもののチクソトロピー比は比較例3より大きく、本発明の実施例3に係るもののペースト焼成後のフィンガー幅の数値は比較例3より小さく、本発明の実施例3に係るものの変換効率は比較例3より大きい。
【0090】
また、本発明の実施例1、2および3を比べると、銀粉Aのみを使用した実施例1、2のチクソトロピー比は銀粉Aと銀粉Bとの混合銀粉を用いた実施例3より高く、銀粉Aのみを使用した実施例1、2のペースト焼成後のフィンガー幅の数値は銀粉Aと銀粉Bとの混合銀粉を用いた実施例3より小さく、銀粉Aのみを使用した実施例1、2の変換効率の数値は銀粉Aと銀粉Bとの混合銀粉を用いた実施例3より大きい。これらの結果より、ステアリン酸マグネシウムで被覆された銀粉としては、球状又は不定形状の銀粉を用いるのが好ましいことが分かる。
【0091】
比較例1、2、3と参考例との比較において、比較例1、2、3のように、ペースト作製時の配合成分中に適量のステアリン酸マグネシウムを含めば、ペースト作製時の配合成分中にステアリン酸マグネシウムを含まない参考例より、ペースト焼成後のフィンガー幅の数値は小さくなる傾向にあり、変換効率は大きくなる傾向にあることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の導電性ペーストは、太陽電池素子の電極形成用導電性ペーストとして好適である。
【符号の説明】
【0093】
1 シリコン基板
2 n型拡散層
3 反射防止層
4 BSF層
5 表面電極
5a 表面バスバー電極
5b 表面フィンガー電極
6 裏面電極
6a 裏面バスバー電極
6b 裏面集電電極
11 配線
12 太陽電池素子
13 表側充填材
14 裏側充填材
15 透明部材
16 裏面保護材
17 端子ボックス
18 出力取出配線
21 半導体基板
22 拡散層
23 反射防止層
24 裏面電極
25 表面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子と、有機バインダと、溶剤と、ガラスフリットとを含有する太陽電池素子の電極形成用導電性ペーストにおいて、導電性粒子の表面に有機金属化合物が被覆されていることを特徴とする太陽電池素子の電極形成用導電性ペースト。
【請求項2】
導電性粒子が銀粉であって、有機金属化合物が脂肪酸マグネシウム塩および脂肪酸カルシウム塩の中から選択される1種以上の金属石鹸であることを特徴とする請求項1記載の太陽電池素子の電極形成用導電性ペースト。
【請求項3】
金属石鹸の重量が銀粉重量に対して0.1重量%以上5重量%以下であることを特徴とする請求項2記載の太陽電池素子の電極形成用導電性ペースト。
【請求項4】
半導体基板の受光面側に拡散層を形成し、この拡散層上に反射防止層と表面電極を有し、半導体基板の反受光面側に裏面電極を有する太陽電池素子において、表面電極は請求項1、2または3記載の導電性ペーストを反射防止層上に印刷して焼成することにより形成されたものであることを特徴とする太陽電池素子。
【請求項5】
半導体基板の受光面側に拡散層を形成し、この拡散層上に反射防止層を形成し、この反射防止層上に請求項1、2または3記載の導電性ペーストを印刷し、半導体基板の反受光面側に裏面電極用導電性ペーストを印刷し、さらに、反射防止層上に印刷された導電性ペーストを焼成することによって拡散層と導通させて表面電極を形成し、裏面電極用導電性ペーストを焼成することによって裏面電極を形成することを特徴とする太陽電池素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−171673(P2011−171673A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36546(P2010−36546)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(397059571)京都エレックス株式会社 (43)
【Fターム(参考)】