説明

太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムおよび太陽電池裏面保護膜

【課題】耐加水分解性に優れるとともに、長期に亘り部分放電開始電圧を高く維持することができる太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムおよびこれを用いた太陽電池裏面保護膜を提供する。
【解決手段】ポリエステル(A)100重量部と、側鎖にオキサゾリン基および芳香族基を有するビニル系重合体(B)0.5〜30重量部とからなるポリエステル組成物から構成されることを特徴とする、太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムおよびそれを用いた太陽電池裏面保護膜に関する。さらに詳しくは、部分放電開始電圧の経時耐久性に優れた太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムおよびそれを用いた太陽電池裏面保護膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電システムはクリーンエネルギーを利用する発電手段の一つとして普及が進んでいる。太陽電池モジュールの構造は、例えば実開平6−38264号公報に記載があるように、一般的には受光側のガラス基板と裏面側の保護膜との間に複数の板状太陽電池素子を挟み内部の隙間に封止樹脂を充填した構造をとる。
【0003】
太陽電池の部材としてフィルムを用いる場合、例えばポリエチレン樹脂やポリエステル樹脂のシートを用いたり、フッ素樹脂フィルムを用いたりすることが知られている(特許文献1,2)。また、フッ素樹脂フィルムの代わりに多層ポリエステルフィルムを用いることも知られている(特許文献3)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−261085号公報
【特許文献2】特開平11−186575号公報
【特許文献3】特開2005−11923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
太陽電池裏面保護膜には高い電圧がかかることがある。しかし、従来の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムでは、部分放電開始電圧を長期に亘り高く維持することは困難であった。
【0006】
本発明は、長期に亘り部分放電開始電圧を高く維持することができ、しかも耐加水分解性に優れた太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムおよびこれを用いた太陽電池裏面保護膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意研究した結果、ポリエステルに特定の反応性基を有するビニル系重合体を混合すれば上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリエステル(A)100重量部と、側鎖にオキサゾリン基および芳香族基を有するビニル系重合体(B)0.5〜30重量部とからなるポリエステル組成物から構成されることを特徴とする、太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムである。
【0009】
本発明はまた、この太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムを用いた太陽電池裏面保護膜である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、長期に亘り部分放電開始電圧を高く維持することができ、しかも耐加水分解性に優れた太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムおよびこれを用いた太陽電池裏面保護膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
[ポリエステル(A)]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムを構成するポリエステル組成物のポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸とグリコール成分とからなるポリエステルを用いることができる。例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、4,4′―ジフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸成分と、例えばエチレングリコール、1,4―ブタンジオール、1,4―シクロヘキサンジメタノール、1,6―ヘキサンジオール等のグリコール成分とから構成される芳香族ポリエステルを用いることができ、好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン―2,6―ナフタレンジカルボキシレートであり、特に好ましくはポリエチレンテレフタレートである。これらのポリエステルは共重合ポリエステルであってもよいが、共重合成分は20モル%以下であることが好ましい。また、機械特性と生産性の上から問題ない範囲内であれば、他の成分がブレンドされていてもよい。
【0012】
[ビニル系重合体(B)]
ポリエステル組成物のビニル系重合体(B)は、その側鎖にオキサゾリン基および芳香族基を有している必要がある。かかるビニル系重合体は、下記式(I)で表わされる付加重合性オキサゾリン化合物と、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンに例示される芳香族基を有する付加重合性ビニル化合物と、さらに必要に応じてアクリロニトリル、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレートに例示される脂肪族の付加重合性ビニル化合物と、を共重合することにより得ることができる。
【0013】
【化1】

【0014】
ビニル系重合体(B)においてオキサゾリン基の割合が少なすぎると部分放電開始電圧を長期間に亘り高く維持する効果が小さくなり、他方、多すぎると機械的特性が低下したり、経済的に不利になるので、ビニル系重合体(B)を構成する成分の付加重合性オキサゾリン化合物がビニル系重合体(B)において占める割合は、好ましくは0.5〜50重量%、特に好ましくは0.8〜30重量%である。
【0015】
ビニル系重合体(B)における芳香族基の割合が少なすぎると熱安定性が低下し湿熱環境下の強度保持率が低下し、他方、多すぎるとポリエステル(A)中でのビニル系重合体(B)の分散性が低下し易くなるので、ビニル系重合体(B)を構成する成分の芳香族基を有する付加重合性ビニル化合物がビニル系重合体において占める割合は、好ましくは50〜95重量%、特に好ましくは60〜90重量%である。
【0016】
ビニル系重合体(B)として好ましいものは、2−ビニル−2−オキサゾリン/スチレン共重合体、5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン/スチレン共重合体、4,4−ジメチル−2−ビニル−2−オキサゾリン/アクリロニトリル/α−メチルスチレン共重合体、5−メチル−2−ビニル−2−オキサゾリン/メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル/スチレン共重合体である。
【0017】
なお、ビニル系重合体(B)の数平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)の測定において、好ましくは1000〜40000、さらに好ましくは1500〜30000である。この範囲の数平均分子量のビニル系重合体(B)を用いることによって、部分放電開始電圧を長期間に亘り高く維持しながら、ポリエステル(A)中でのビニル系重合体(B)の良好な分散性を得ることができる。
【0018】
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムを構成するのは、上記のポリエステル(A)とビニル系重合体(B)との組成物である。この組成物におけるビニル系重合体(B)の含有量は、ポリエステル(A)100重量部に対して0.5〜30重量部、好ましくは1〜25重量部、特に好ましくは5〜15重量部である。含有量が0.5重量部未満であると部分放電開始電圧を長期間に亘り高く維持する効果が不十分であり、他方、30重量部を超えると、得られる組成物の機械的特性が低下する。
【0019】
本発明におけるポリエステル組成物は、ポリエステル(A)とビニル系重合体(B)とが互いに反応せずに単に混合物の状態であってもよいし、各成分の一部が反応した状態、すなわち、混合物と反応物とが併存する状態であってもよいし、あるいは、各成分が完全に反応した反応生成物として存在していてもよい。
【0020】
[固有粘度、末端カルボキシル基濃度]
このポリエステル組成物は、組成物の状態で測定したポリエステルの固有粘度(オルソクロロフェノール溶媒を用いて温度35℃で測定)が、好ましくは0.6〜1.0dl/g、特に好ましくは0.7〜0.9dl/gである。固有粘度がこの範囲であることによって、機械的特性および耐加水分解性に優れるフィルムを、溶融押出時の負荷が大きくなることなく、高い生産性で生産することができる。
【0021】
本発明におけるポリエステル組成物は、組成物の状態で測定したポリエステルの末端カルボキシル基濃度が、好ましくは10〜30eq/T、さらに好ましくは12〜28eq/Tである。末端カルボキシル基濃度がこの範囲であることによって、耐加水分解性に優れるフィルムを高い生産性で生産することができる。
【0022】
本発明におけるポリエステル組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲内で、従来公知の添加剤を含有していてもよい。この添加剤として、例えば有機または無機の滑剤粒子、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、潤滑剤を挙げることができる。
【0023】
[部分放電開始電圧]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、121℃、100%RHの環境下で50時間経過後の部分放電開始電圧が1000eV以上であることが好ましい。1000eV以上の部分放電開始電圧を備えることによって、太陽電池裏面保護膜として用いたときに長期間に亘り部分放電開始電圧を高く維持することができる。
【0024】
[耐加水分解性]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、温度121℃、湿度100%RHの環境下において50時間経過後の破断伸度保持率が、好ましくは75%以上である。75%以上の破断伸度保持率を備えることによって、長期間に亘り良好な耐加水分解性を維持することができる。
【0025】
[製造方法]
本発明におけるビニル系重合体(B)は、付加重合性オキサゾリン化合物と芳香族基を有するビニル系単量体、および、要すればさらに他の単量体とを、従来公知の重合方法で重合することで得ることができる。重合方法としては、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、バルク重合法を例示することができる。
【0026】
本発明におけるポリエステル組成物は、ポリエステル(A)とビニル系重合体(B)とを、例えば二軸混練押出機を用いて溶融混練することで製造することができる。また、ポリエステル(A)の重縮合反応が終了した時点で、ポリエステル(A)に所定量のビニル系重合体(B)を添加し、溶融混合後に押出すことによっても得ることができる。
【0027】
この溶融混練および押出しには、例えば、通常の射出成形機や、いわゆる射出圧縮成形機、二軸スクリュー押出機、一軸スクリュー押出機、ベント付き二軸スクリュー押出機、ベント付き一軸スクリュー押出機を用いることができる。
【0028】
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、例えば、次のようにして製造することができる。なお、ガラス転移温度をTgと称する。まず、予め滑剤を添加したポリエステル(A)とビニル系重合体(B)とを溶融混練して得たポリエステル組成物をフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて未延伸フィルムとし、この未延伸フィルムをTg〜(Tg+60)℃で長手方向に1回もしくは2回以上合計の倍率が3倍〜6倍になるよう延伸し、その後Tg〜(Tg+60)℃で幅方向に倍率が3〜5倍になるように延伸し、必要に応じてさらに、180℃〜255℃で1〜60秒間熱処理を行うことにより得ることができる。
【0029】
長手方向と横方向の延伸は、逐次二軸延伸法で行なってもよく、同時二軸延伸法で行ってもよい。なお、加熱時の寸法安定性を高めるためには、例えば特開平57−57628号公報に示される、熱処理工程で縦方向に収縮せしめる方法や、例えば特開平1−275031号公報に示されるフィルムを懸垂状態で弛緩熱処理する方法を用いてもよい。延伸後のフィルムの厚みは、好ましくは25〜300μm、さらに好ましくは38〜250μmである。
【0030】
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムでは、その少なくとも片面に易接着性の塗布層を設けてもよい。塗布層の形成は、延伸可能なポリエステルフィルムに、架橋剤とアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とを含有する塗液を塗布し、乾燥、延伸し、熱処理することにより行うことができる。塗膜の厚さは好ましくは0.01〜1μmである。
【0031】
[太陽電池裏面保護膜]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、単独または2枚以上を貼り合わせて、太陽電池裏面保護膜として使用することができる。
太陽電池裏面保護膜として用いる際には、水蒸気バリア性を付与する目的で、水蒸気バリア層を積層してもよい。この構成の太陽電池裏面保護膜は、JIS Z0208−73に従い測定される水蒸気の透過率が5g/(m・24h)以下であることが好ましい。
【0032】
かかる水蒸気バリア層としては、水蒸気バリア性を有するフィルムや箔を用いることができる。フィルムとしては、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリ塩化ビニリデンコートフィルム、ポリフッ化ビニリデンコートフィルム、酸化ケイ素蒸着フィルム、酸化アルミニウム蒸着フィルム、アルミニウム蒸着フィルムを例示することができ、箔としては、アルミニウム箔、銅箔を例示することができる。
【0033】
これらのフィルムまたは箔を用いて、太陽電池素子を封止するEVA(エチレンビニルアセテート)層をのせる側より、白色フィルム/水蒸気バリア層/本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルム、あるいは白色フィルム/本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルム/水蒸気バリア層といったラミネート構造の形態で太陽電池裏面保護膜として用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明における特性は、以下の方法により測定および評価した。
【0035】
(1)固有粘度
オルソクロロフェノール溶媒による溶液の粘度を35℃にて測定し求めた。
【0036】
(2)数平均分子量
溶媒としてテトラヒドロフランを用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC:日本ウォーターズ製)によって測定した。
【0037】
(3)カルボキシル基濃度
窒素雰囲気下でベンジルアルコールに溶解させ、滴定法により測定した。
【0038】
(4)部分放電開始電圧
厚み12ミクロンの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製 商品名:テイジンテトロンNS)の片面に厚さ80nmの酸化珪素の蒸着薄膜層を設けたものを水蒸気バリアフィルムとして、また厚み50ミクロンの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製 商品名:テイジンテトロンU2)を白色フィルムとして用意し、本発明のフィルムと合せて、白色フィルム/水蒸気バリアフィルム/本発明のフィルムの順となるように、武田薬品工業(株)製ポリウレタン接着剤(主剤タケラックA515/硬化剤タケネートA50=10/1の溶液)を用いてドライラミネート機で貼り合わせて、太陽電池裏面保護膜を作成した。
【0039】
この太陽電池裏面保護膜を用いて、湿熱処理(温度121℃、湿度100%RHの環境下で50時間経過)の前後の部分放電開始電圧(Umax)を、菊水電子工業(株)製部分放電試験器(モデルKPD2050)を用いて、IEC60664−1のpartial discharge testに準じて測定した。なお、測定は10点のサンプルについて行い、その平均値をとった。なお、部分放電開始電圧は下記基準にて評価した。
○:1000eV以上
×:1000eV未満
【0040】
なお、本来は太陽電池裏面保護膜として屋外暴露状態で20年間程度経過させ部分放電開始電圧を評価することが望ましいが、このような長い時間をかけて屋外暴露試験を行うことは困難であることから、この評価の代わりに、温度121℃、湿度100%RHの環境下において50時間経過させる加速試験行い、部分放電開始電圧を評価するものである。
【0041】
(5)耐加水分解性
フィルムの縦方向に100mm長、横方向に10mm幅に切り出した短冊状の試料片を、温度121℃、湿度100%RHに設定した環境試験機内に50時間放置した。その後試料片を取り出しその縦方向の破断伸度を5回測定し平均値を求めた。その平均値を放置前の破断伸度の測定値で割った値を破断伸度保持率(%)とし、下記基準にて耐加水分解性を評価した。
破断伸度保持率(%)
=(50時間経過後の破断伸度)/(初期の破断伸度)×100
○: 破断伸度保持率 75%以上
×: 破断強度保持率 75%未満
【0042】
なお、本来は太陽電池裏面保護膜として屋外暴露状態で20年間程度経過させ耐加水分解性を評価することが望ましいが、このような長い時間をかけて屋外暴露試験を行うことは困難であることから、この評価の代わりに、温度121℃、湿度100%RHの環境下において50時間経過させる加速試験行い、破断伸度保持率を評価するものである。
【0043】
[参考例1]
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備えたフラスコに、トルエン665部を仕込み、ゆるやかに窒素ガスを流しながら90℃に加熱した。そこへ、スチレン512部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン128部およびパ−ブチルO(日本油脂(株)製)25部からなる混合物を2時間にわたって滴下した。さらに、90℃で6時間攪拌を続けて反応を完結させた後、室温まで冷却して樹脂溶液を得た。次に得られた樹脂溶液をロータリーエバポレーターに移し、所定の温度および圧力でトルエンを留去した後、残留物を粉砕して、オキサゾリン基および芳香族基を有するビニル系重合体を得た。得られた重合体中にオキサゾリン基が存在することは、IRスペクトルにより、1655cm−1に特性吸収があることにより確認した。また、得られたビニル系重合体の数平均分子量をGPCにて測定したところ、30000であった。
【0044】
[参考例2]
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備えたフラスコに、トルエン665部を仕込み、ゆるやかに窒素ガスを流しながら90℃に加熱した。そこへ、スチレン171部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン128部、メタクリル酸メチル350部、アクリル酸ブチル50部およびパ−ブチルO(日本油脂(株)製)25部からなる混合物を2時間にわたって滴下した。さらに、90℃で6時間攪拌を続けて反応を完結させた後、室温まで冷却して樹脂溶液を得た。次に得られた樹脂溶液をロータリーエバポレーターに移し、所定の温度および圧力でトルエンを留去した後、残留物を粉砕して、オキサゾリン基および芳香族基を有するビニル系重合体を得た。得られた重合体中にオキサゾリン基が存在することは、IRスペクトルにより、1655cm−1に特性吸収があることにより確認した。また、得られたビニル系重合体の数平均分子量をGPCにて測定したところ、30000であった。
【0045】
[参考例3]
攪拌機、還流冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備えたフラスコに、トルエン665部を仕込み、ゆるやかに窒素ガスを流しながら90℃に加熱した。そこへ、メチルメタクリレート600部、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン128部およびパ−ブチルO(日本油脂(株)製)25部からなる混合物を2時間にわたって滴下した。さらに、90℃で6時間攪拌を続けて反応を完結させた後、室温まで冷却して樹脂溶液を得た。次に得られた樹脂溶液をロータリーエバポレーターに移し、所定の温度および圧力でトルエンを留去した後、残留物を粉砕して、オキサゾリン基および芳香族基を有するビニル系重合体を得た。得られた重合体中にオキサゾリン基が存在することは、IRスペクトルにより、1655cm−1に特性吸収があることにより確認した。また、得られたビニル系重合体の数平均分子量をGPCにて測定したところ、38000であった。
【0046】
[実施例1]
ジメチルテレフタレート(以下、DMTという)85重量部、エチレンエチレングリコール(以下、EGという)60重量部とを、酢酸カルシウム0.08重量部を触媒として反応器に仕込み、窒素雰囲気下で240℃まで昇温してエステル交換反応を行った。メタノールの留出量が理論量に対して90%以上に達した後、リン化合物としてポリマーに対し0.18重量%となるようにトリメチルホスフェート、および平均粒径1.5μmの塊状酸化珪素粒子がポリマーに対して350ppm含有するように調整したエチレングリコール溶液を添加し、次いで重合触媒として三酸化二アンチモン0.03重量部を添加した。その後、昇温と減圧を常法に従い徐々に行った。ポリエチレンテレフタレートが最終的に適度な溶融粘度になった時点で、参考例1で製造したビニル系重合体を、ポリエチレンテレフタレート100重量部に対して10重量部となるように添加した。その後、反応器内を3.0kPaに10分間保ち、反応を終了して固有粘度0.65、融点257℃のポリエチレンテレフタレート組成物を得た。これを285℃に加熱された押出機を用いて、20℃に維持した回転冷却ドラム上に溶融押出しして未延伸フィルムとした。次いで縦方向に100℃で3.5倍に延伸した後、横方向に110℃で3.8倍に延伸し、225℃で幅方向に3%収縮させながら熱固定し、厚さ50μmの太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムを得た。
【0047】
得られた太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムと、厚み12ミクロンの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製 商品名:テイジンテトロンNS)の片面に厚さ80nmの酸化珪素の蒸着薄膜層を設けたものを水蒸気バリアフィルムとして、また厚み50ミクロンの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製 商品名:テイジンテトロンU2)を白色フィルムとして用意し、白色フィルム/水蒸気バリアフィルム/太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムの順となるようにドライラミネート機で貼り合わせて、太陽電池裏面保護膜を作成した。
この太陽電池裏面保護膜を用いて、湿熱処理(温度121℃、湿度100%RHの環境下で50時間経過)の前後の部分放電開始電圧を測定した。これらの評価結果を表1に示す。
【0048】
[実施例2]
ビニル系重合体の配合割合を表1記載のとおり変更する以外は実施例1と同様にした。結果を表1に示す。
【0049】
[比較例1]
ビニル系重合体を添加しない以外は実施例1と同様にした。結果を表1に示す。
【0050】
[比較例2]
ビニル系共重合体として参考例3で製造したものを用いる以外は、実施例1と同様にした。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例3〜4]
(株)神戸製鋼製二軸混練押出機NEXT−60を用い、帝人ファイバー(株)製ポリエチレンテレフタレートFK−OMと参考例1(実施例3)または参考例2(実施例4)で製造したビニル系重合体とを重量比が100:25となるよう供給し、120kg/hの速度で溶融混練して押出し、固有粘度0.63のポリエチレンテレフタレート組成物を得た。このポリエチレンテレフタレート組成物を用いて、実施例1と同様にして太陽電池裏面保護膜を作成した。評価結果を表1に示す。
【0052】
[実施例5]
実施例1で得られたポリエチレンテレフタレート組成物を、さらに温度230℃、真空度0.5mmHgの条件下で24時間の間、固相重合を行ない、固有粘度0.87のポリエチレンテレフタレート組成物を得た。このポリエチレンテレフタレート組成物を用いて、実施例1と同様にして太陽電池裏面保護膜を作成した。評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、太陽電池裏面保護膜として好適に用いることができる。なお、太陽電池裏面保護膜は太陽電池の裏面に配置される、太陽電池の構成部材である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル(A)100重量部と、側鎖にオキサゾリン基および芳香族基を有するビニル系重合体(B)0.5〜30重量部とからなるポリエステル組成物から構成されることを特徴とする、太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
ビニル系重合体(B)の数平均分子量が1000〜40000である、請求項1記載の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリエステル組成物の状態で測定したポリエステルの固有粘度が0.6〜1.0dl/gかつ末端カルボキシル基濃度が10〜30eq/Tである、請求項1記載の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
121℃、100%RHの環境下で50時間経過後の部分放電開始電圧が1000eV以上である、請求項1記載の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムを用いた太陽電池裏面保護膜。

【公開番号】特開2010−31171(P2010−31171A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196195(P2008−196195)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】