説明

太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルム

【課題】高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質の低下が抑制された太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】アンチモン化合物および/またはチタン化合物を重縮合触媒として重合されたポリエチレンテレフタレート85〜96重量%およびルチル型酸化チタン粒子4〜15重量%のポリエステル組成物からなる白色ポリエステルフィルム層を含んでなる太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムであって、該ポリエステル組成物は、ポリエチレンテレフタレートを構成する全ジカルボン酸成分のモル数を基準として、10〜40ミリモル%の特定のリン酸化合物と、金属元素換算で合計2〜50ミリモル%のアンチモン元素および/またはチタン元素とを含有し、該太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、温度85℃、湿度85%RHの環境における3000時間エージング前後の伸度保持率が50%以上、デラミネーション強度が6N/15mm以上であることを特徴とする太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐環境性に優れた白色の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムに関する。詳しくは高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質の低下が抑制され、優れた耐デラミネーション性を有し、長時間使用しても良好な保護機能を維持する白色の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池モジュールを用いる太陽光発電システムは、クリーンエネルギーを利用する発電手段の一つとして普及が進んでいる。太陽電池モジュールの構造は、例えば特許文献1に記載があるように、一般的には、受光側の透明前面基板と、充填材、太陽電池素子、充填材および太陽電池裏面保護膜を順に積層し、これらを真空吸引して加熱圧着するラミネーション法によって製造される。
【0003】
太陽電池の裏面保護膜は、太陽電池素子の固定、保護、電気絶縁の目的で用いられるもので、耐熱性、耐加水分解性、UV耐性、隠蔽性、電気絶縁性が強く要求される。さらには、モジュール製造工程での作業効率向上や長時間保護機能を維持するために、高温時の寸法安定性を有していることも求められる。裏面保護膜は複数のフィルム、シートが積層された構成とするのが一般的であり、中でも、フッ素系樹脂フィルム/ポリエステルフィルム/フッ素系樹脂フィルムの構成が広く用いられている。
しかしながら、このようなフッ素系樹脂フィルムは、耐候性、耐熱性、耐加水分解性に優れるものの、ガスバリア性に乏しく、シートの腰が弱いという欠点がある。また、廃棄処理方法によっては環境負荷の懸念があることや、高コストである点も課題である。
【0004】
一方、フッ素系樹脂フィルムの替わりに耐熱ポリエステルフィルムを使用する例も数多く知られている。例えば、2,6−ナフタレンジカルボン酸含有のポリエステルフィルムを用いること(特許文献2、特許文献3)、高分子量のポリエチレンテレフタレートフィルムを用いること(特許文献4、特許文献5)、オリゴマー含有量の少ないポリエチレンテレフタレートフィルムを用いること(特許文献6、特許文献7、特許文献8)が検討されている。しかし、2,6−ナフタレンジカルボン酸含有のポリエステルフィルムは紫外線による劣化変色が大きい上にポリエチレンテレフタレートフィルムに比べて高価であり、この用途での使用は制限されていた。また、高分子量のポリエチレンテレフタレートフィルムやオリゴマー含有量の少ないポリエチレンテレフタレートフィルムは、比較的安価で耐加水分解性は優れるものの、生産効率の向上が課題であった。さらに、モジュールの太陽光の電換効率向上も求められ、裏面保護膜の反射光までも電換に利用するため、高反射率でかつ耐環境性に優れた白色のポリエステルフィルムの検討がすすめられているが、白色に着色されたポリエステルフィルムは、耐環境性で最も必要とされる耐加水分解性に乏しいため、この分野の使用が制限されていた。また、白色のポリエステルフィルムは着色剤を含有しない透明フィルムに比べ、フィルム内部にデラミネーションが発生し易く、太陽電池素子に水分などの影響が及び、太陽電池モジュールの発電性能の低下につながることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−129014号公報
【特許文献2】特開2007−007885号公報
【特許文献3】特開2006−306910号公報
【特許文献4】特開2002−026354号公報
【特許文献5】国際公開第07/105306号パンフレット
【特許文献6】特開2002−100788号公報
【特許文献7】特開2002−134770号公報
【特許文献8】特開2002−134771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる従来の太陽電池裏面保護膜が有する上記課題を解消する目的でなされたものであり、耐環境性に優れた白色の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムを提供することにある。すなわち、本発明の課題は、高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質の低下が抑制され、優れた耐デラミネーション性を有し、長時間使用しても良好な保護機能を維持する白色の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の金属元素の重縮合触媒とリン酸化合物を一定割合含有するポリエステルを用いて白色のフィルムを形成し、フィルムが高い結晶性とフィルム厚み方向に高い配向を有することにより、高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質の低下が抑制され、また優れた耐デラミネーション性が得られ、苛酷な自然環境に対する優れた耐久性(耐熱性、耐加水分解性、耐候性)が発現することを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明の目的は、アンチモン化合物および/またはチタン化合物を重縮合触媒として重合されたポリエチレンテレフタレート85〜96重量%およびルチル型酸化チタン粒子4〜15重量%のポリエステル組成物からなる白色ポリエステルフィルム層を含んでなる太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムであって、該ポリエステル組成物は、ポリエチレンテレフタレートを構成する全ジカルボン酸成分のモル数を基準として、10〜40ミリモル%の下記一般式(I)または(II)で表わされるリン酸化合物と、
【化1】

金属元素換算で合計2〜50ミリモル%の重縮合触媒由来のアンチモン元素および/またはチタン元素とを含有し、該太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、初期のデラミネーション強度が6N/15mm以上、温度85℃、湿度85%RHの環境における3000時間エージング前後の伸度保持率が50%以上である太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムによって達成される。
【0009】
また本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、好ましい態様として、温度130℃の環境における6000時間エージング前後の伸度保持率が40%以上であること、温度85℃、湿度85%RHの環境における3000時間エージング後のデラミネーション強度が4N/15mm以上であること、の少なくともいずれか1つを具備するものも包含される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質の低下が抑制され、優れた耐デラミネーション性を有し、長時間使用しても良好な保護機能を維持する白色の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
[ポリエチレンテレフタレート]
本発明におけるポリエチレンテレフタレートは、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、すなわちテレフタル酸またはその誘導体をジカルボン酸成分、エチレングリコールをジオール成分としてなるポリエステルポリマーである。主たる繰り返し単位とは、ポリエステルを構成する全繰り返し単位のうち90モル%以上、好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは97モル%以上を占める繰り返し単位である。
【0012】
本発明におけるポリエチレンテレフタレートには、本発明の効果が損なわれない範囲で他の成分を共重合してもよく、共重合成分は酸成分でもアルコール成分でもよい。共重合ジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が挙げられる。また共重合ジオール成分としては、ブタンジオール、ヘキサンジオールなどの脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジオールが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
上記のようなジカルボン酸成分及び/又はジオール成分の共重合量が10モル%を超える場合、耐デラミネーション性は向上するものの、結晶性が低下して耐熱性や耐加水分解性の低下につながり、また熱収縮率が高くなる。
【0013】
ポリエチレンテレフタレートの極限粘度数は、好ましくは0.62〜0.90dl/g、さらに好ましくは0.67〜0.85dl/gである。この範囲の極限粘度数であることで、フィルムのポリエステルの重量平均分子量を44,000〜61,000の範囲に調整することができ、耐熱性、耐加水分解性、耐デラミネーション性に優れ、フィルムの製膜時に容易に溶融押出しすることができる。なお、ポリエチレンテレフタレートの極限粘度数は、重量比が6:4のフェノール:テトラクロロエタン混合溶媒に溶解後、35℃での測定値から求めた値である。
【0014】
[リン酸化合物]
本発明において白色ポリエステルフィルム層を構成するポリエステル組成物は、ポリエチレンテレフタレートを構成する全ジカルボン酸成分のモル数を基準として10〜40ミリモル%、好ましくは10〜30ミリモル%、さらに好ましくは10〜20ミリモル%の割合で、下記一般式(I)または(II)で表されるリン酸化合物を含有していることが必要である。ここで本発明におけるリン酸化合物とは総称としてのリン酸化合物の意味で使用される。
【0015】
【化2】

【0016】
該リン酸化合物として、好ましくはフェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸である。
上記リン酸化合物の含有量が下限値に満たないと、得られるポリエステルフィルムの結晶性が不十分となり、十分な耐熱性、耐加水分解性が得られない。他方、上限値を超えてリン酸化合物を用いても効果が飽和し不経済なだけでなく、かえって耐加水分解性が低下する傾向がある。
このリン酸化合物は、ポリエチレンテレフタレートを重合する任意の段階で添加することにより、含有させることができる。
【0017】
なお、本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムが積層フィルムである場合は、少なくとも白色ポリエステルフィルム層を構成するポリエステル組成物において上述の量のリン酸化合物を含有することが必要であるが、好ましくは積層フィルムを構成する全てのポリエチレンテレフタレートについて、さらには積層フィルムの各層のポリエチレンテレフタレート全てについて、上述の量のリン酸化合物を含有していることが好ましい。
【0018】
[金属元素]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、上記のリン酸化合物と、重縮合触媒として用いられるアンチモン化合物に由来するアンチモン元素および/またはチタン化合物に由来するチタン元素を含有することでフィルムの結晶性を高め、高い耐熱性、耐加水分解性、寸法安定性を得ている。
【0019】
本発明において白色ポリエステルフィルム層を構成するポリエステル組成物は、ポリエチレンテレフタレートを構成する全ジカルボン酸成分のモル数を基準として、重縮合触媒由来のアンチモン元素および/またはチタン元素を金属元素換算で合計2〜50ミリモル%、好ましくは10〜40ミリモル%、さらに好ましくは15〜30ミリモル%含有する。
重縮合触媒由来のアンチモン元素および/またはチタン元素の含有量の合計が下限値に満たないと重縮合反応速度が遅すぎてポリエステル原料の生産性が低下するだけでなく、必要な極限粘度数をもつ結晶性のポリエステルを得ることができず、十分なフィルムの耐熱性、耐加水分解性が得られない。他方、かかるアンチモン元素および/またはチタン元素の含有量の合計が上限値を越える範囲だとフィルム中に過剰の重縮合触媒が存在することになり、フィルムの耐熱性、耐加水分解性がかえって低下するか、フィルムの着色が大きくなる。かかる重縮合触媒量は、生産性と重合度のバランスを考慮したうえで、できるかぎり添加量を抑えることが好ましい。
【0020】
アンチモン化合物としては、例えば酸化アンチモン、塩化アンチモン、酢酸アンチモン等の有機アンチモン化合物を例示することができ、好ましくは酸化アンチモンまたは酢酸アンチモンを用いる。これらのアンチモン化合物は単独で用いてもよく、複数の化合物を用いてもよい。
重縮合触媒由来のチタン化合物としては、ポリエステルの重縮合触媒として一般的なチタン化合物、例えば酢酸チタンやテトラ−n−ブトキシチタンを用いることができる。
【0021】
なお、本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムが積層フィルムである場合は、少なくとも白色ポリエステルフィルム層を構成するポリエステル組成物において上述の量の金属元素を含有することが必要であるが、好ましくは積層フィルムを構成する全てのポリエチレンテレフタレートについて、さらには積層フィルムの各層のポリエチレンテレフタレート全てについて、上述の量の金属元素を含有していることが好ましい。
【0022】
[ルチル型酸化チタン粒子]
本発明において白色ポリエステルフィルム層を構成するポリエステル組成物は、ルチル型酸化チタン粒子を含有する。酸化チタンの結晶形態には、ルチル型とアナターゼ型があるが、本発明ではルチル型酸化チタンを用いることで、フィルムの紫外線劣化を抑制し光線を長時間照射したときのフィルム変色や機械的強度の低下を少なくすることができる。
【0023】
ルチル型酸化チタン粒子の平均粒径は、好ましくは0.1〜5.0μm、特に好ましくは0.1〜3.0μmである。この範囲の平均粒径の粒子を用いることで、良好な分散状態でルチル型酸化チタン粒子をポリエチレンテレフタレート中に分散させることができ、粒子の凝集が起こらないため均一なフィルムを得ることができるとともに、良好な延伸性でフィルムを製膜することができる。
【0024】
ルチル型酸化チタン粒子をポリエチレンテレフタレート中に分散含有させ、ルチル型酸化チタン粒子を含有するポリエステル組成物にする方法として、従来から公知の各種の方法を用いることができる。その代表的な方法として、下記の方法を挙げることができる。
(ア)ポリエチレンテレフタレート合成時のエステル交換反応もしくはエステル化反応終了前に、ルチル型酸化チタン粒子を添加もしくは重縮合反応開始前に添加する方法。
(イ)ポリエチレンテレフタレートにルチル型酸化チタン粒子を添加し、溶融混練する方法。
(ウ)上記(ア)、(イ)の方法においてルチル型酸化チタン粒子を多量添加したマスターペレットを製造し、これらとルチル型酸化チタン粒子を含有しないポリエチレンテレフタレートとを混練して、所定量のルチル型酸化チタン粒子を含有させる方法。
(エ)上記(ウ)のマスターペレットをそのまま使用する方法。
【0025】
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムが単層フィルムである場合、太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、アンチモン化合物および/またはチタン化合物を重縮合触媒として重合されたポリエチレンテレフタレート85〜96重量%およびルチル型酸化チタン粒子4〜15重量%のポリエステル組成物からなる。すなわち、本発明におけるポリエステル組成物は、ポリエステル組成物100重量%あたりルチル型酸化チタン粒子を4〜15重量%、好ましくは4〜10重量%含有する。ルチル型酸化チタン粒子の含有量が4重量%未満であるとフィルムの紫外線劣化を抑制する効果が不十分である。他方、ルチル型酸化チタン粒子の含有量が上限値を超えると、フィルムがデラミネーションを起こしやすい、フィルムの耐熱性や耐加水分解性が低下する、フィルム強度が低下し破断しやすくなって生産性が低下する、などの問題が生じる。
【0026】
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムが積層フィルムである場合、太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、アンチモン化合物および/またはチタン化合物を重縮合触媒として重合されたポリエチレンテレフタレート85〜96重量%およびルチル型酸化チタン粒子4〜15重量%のポリエステル組成物からなる白色のポリエステルフィルムの層を表層に備えた太陽電池裏面保護膜用積層ポリエステルフィルムの態様をとることが好ましい。表層に備えることで高い耐光性を得ることができる。
【0027】
[重量平均分子量]
本発明において白色ポリエステルフィルム層を構成するポリエチレンテレフタレートは、好ましくはその重量平均分子量が44,000〜61,000である。重量平均分子量がこの範囲にあることで、良好な耐熱性、耐加水分解性および耐デラミネーションのフィルムを高い生産性で得ることができる。
【0028】
なお、本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムが積層フィルムである場合は、積層フィルムを構成する全てのポリエチレンテレフタレートについて、さらには、積層フィルムの各層のポリエチレンテレフタレート全てについて、上記重量平均分子量の範囲であることが好ましい。
【0029】
[末端カルボキシル基濃度]
本発明において白色ポリエステルフィルム層を構成するポリエチレンテレフタレートの末端カルボキシル基濃度は、好ましくは6〜29当量/トン、さらに好ましくは6〜24当量/トン、特に好ましくは6〜20当量/トンの範囲である。末端カルボキシル基濃度がこの範囲であることで、耐熱性および耐加水分解性に優れ、高温・多湿の条件において長時間使用した場合においても機械的性質の低下の少ないフィルムを得ることができる。他方、末端カルボキシル基濃度が6当量/トン未満のフィルムを得るためには、それ以上に末端カルボキシル基濃度の少ないポリエステルを原料とする必要があり、原料の重合時間を長くする必要がある。
【0030】
なお、本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムが積層フィルムである場合は、積層フィルムを構成する全てのポリエチレンテレフタレートについて、さらには、積層フィルムの各層のポリエチレンテレフタレート全てについて、上記末端カルボキシル基濃度の範囲であることが好ましい。
【0031】
[耐加水分解性]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、温度85℃、湿度85%RHの環境における3000時間エージング前後の伸度保持率が50%以上である。この温度85℃、湿度85%RHの環境において3000時間のエージングは、概ね30年間の屋外暴露状態に相当する耐加水分解性を検査する加速試験の一つであり、上記伸度保持率が50%未満である場合は、耐加水分解性の不足により屋外での長期使用において劣化を引き起こし、機械的性質が低下する可能性がある。かかる伸度保持率は好ましくは55%、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは65%以上である。
【0032】
伸度保持率を50%以上とするためには、上記のリン酸化合物と重縮合触媒を用い、フィルムのポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量と末端カルボキシル基濃度を明細書に説明される範囲とし、明細書に記載の製造方法にて製造すればよい。
【0033】
[デラミネーション強度(初期)]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、初期のデラミネーション強度が6N/15mm以上、好ましくは8N/15mm以上である。ここで初期のデラミネーション強度とは測定方法において詳述するように、フィルムを粘着テープを介してガラス板に貼着し、粘着剤を硬化させたものを引張試験機で剥離させて得られた剥離力をデラミネーション強度としている。
【0034】
初期デラミネーション強度が6N/15mm未満であると、フィルムを太陽電池裏面保護膜用に使用した場合に、気温の日中変動や季節変動に伴う熱膨張、収縮によりフィルム内部にデラミネーションが起こり、裏面保護膜の保護性能が低下して水分が内部に浸透し太陽電池素子に劣化が起こる。さらに、裏面保護膜上には太陽電池モジュールから電力を取り出すための配線ボックスが取り付けられるが、屋外で風雨にさらされた場合、フィルムのデラミネーションにより、配線ボックスが脱落することもある。
【0035】
ルチル型酸化チタン粒子を含む白色ポリエステルフィルムについて、初期のデラミネーション強度を6N/15mm以上とするためには、フィルムのポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量を明細書に記載される範囲とし、明細書に記載のフィルム製造方法、特に延伸倍率と熱処理条件を採用することで得られる。
【0036】
[デラミネーション強度(湿熱処理後)]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、温度85℃、湿度85%RHの環境における3000時間エージング後のデラミネーション強度が、好ましくは4N/15mm以上、さらに好ましくは6N/mm以上である。このデラミネーション強度が4N/15mm以上であることで、太陽電池裏面保護膜として屋外で長期間使用したときにもデラミネーションの発生することのない太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0037】
ルチル型酸化チタン粒子を含む白色ポリエステルフィルムについて、湿熱処理後のデラミネーション強度を4N/15mm以上とするためには、フィルムのポリエチレンテレフタレートの重量平均分子量を明細書に説明される範囲とし、かつ明細書に記載のフィルム製造方法、特に延伸倍率と熱処理条件を採用することで得られる。
【0038】
[熱収縮率]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、150℃30分間熱処理したときのフィルム長手方向および幅方向の熱収縮率がともに、好ましくは−0.1%〜1.5%、さらに好ましくは−0.05%〜1.2%、特に好ましくは−0.01%〜1.0%である。この範囲の熱収縮率であることで、このフィルムを用いて太陽電池をユニット化する場合に配線が曲がったりすることがなく、太陽電池素子にズレが発生することがなく、真空ラミネートで封止剤と貼り合わされたときにはみ出しが生じず、生産性が損なわれることがない。なお、マイナスの熱収縮率は、熱処理後でフィルム寸法が元より大きくなることを意味している。
【0039】
[耐熱性]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、温度130℃の環境において6000時間エージング後の伸度保持率が40%以上であることが好ましい。太陽電池裏面保護膜用に用いられる材料は米国UNDERWRITERS LABORATORIES社(以下ULと省略する)のRTI認定において、太陽電池モジュールが動作中に到達する最高温度より10〜15℃高い温度にて認定を取得していることが望ましい。年々太陽電池モジュールの高効率化が図られ発電量が大きくなっていることや、モジュールの設置場所によっても異なるが、モジュールの最高到達温度は100℃前後と言われており、裏面保護膜に使用する材料は120℃以上のRTI値にて認定を受けていることが要求される。この120℃以上のRTI値にてUL認定を受けるための目安として、温度130℃の環境において6000時間エージング後の伸度保持率が40%以上であることが好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。
【0040】
この伸度保持率を40%以上とするためには、ポリエステル組成物におけるルチル型チタン粒子の含有量、ポリエステル組成物に含まれる金属元素およびリン化合物の濃度、フィルムのポリエステルの重量平均分子量と末端カルボキシル基濃度を明細書に記載される範囲内とし、明細書に記載の製造方法にて製造すればよい。
【0041】
[耐候性]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、紫外線照射後の破断伸度保持率が好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である耐候性を備える。この範囲の破断伸度保持率を備えることで、高い耐候性を備え、太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムとして内部を十分に保護して封止剤や接着剤の劣化を防ぐことができる。この破断伸度保持率は、キセノンランプを用い550W/mの照射強度で200時間フィルムに紫外線照射する前後での破断伸度から算出する。
【0042】
伸度保持率を80%以上とするためには、フィルムを構成する酸化チタンの粒子としてルチル型酸化チタン粒子を用い、明細書に記載の範囲の濃度とすること、また明細書に記載のフィルム製造方法、特に延伸倍率と熱処理条件を採用することが重要である。さらに積層フィルムの場合、かかる方法で得られた層を入射光側に配置することが重要である。
【0043】
[フィルム厚み]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、白色ポリエステルフィルム層の厚みが5μm以上あればよい。かかる層厚みを有することにより、ルチル型酸化チタン粒子によるフィルムの紫外線劣化を十分に抑制できる。
【0044】
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、フィルムの特性を損なわない範囲で多層構成とし、積層フィルムとしてもよい。多層積層フィルムとする場合には、生産性の観点から共押出による多層積層フィルムとすることが好ましい。本発明ではルチル型酸化チタン粒子を紫外線によるフィルムの劣化を抑制するために用いていることから、多層積層フィルムとする場合には、光のあたる表層にルチル型酸化チタン粒子を含有するポリエステルフィルム層を配置する必要がある。
【0045】
すなわち、多層構成とする場合、本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、本発明の白色ポリエステルフィルム層を表層に備えた太陽電池裏面保護膜用積層ポリエステルフィルムの態様をとる。また、積層ポリエステルフィルムであるときは、白色ポリエステルフィルム層を太陽電池モジュールの外側になるように配置する必要がある。
【0046】
積層フィルムおよび単層フィルムのいずれの場合も、フィルム全体の厚みは、好ましくは40〜250μm、さらに好ましくは45〜220μm、特に好ましくは50〜200μmである。この範囲の厚みであることで、隠蔽性に優れ、フィルムの腰があり、製造上扱いやすいフィルムを高い生産性で得ることができる。
【0047】
[添加物]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、表面を滑らせハンドリング性を良好にするためにルチル型酸化チタン粒子の他に、滑剤を含有させてもよい。滑剤としては、有機物、無機物いずれの滑剤を用いてもよく、無機物の滑剤としては、例えば硫酸バリウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素、アルミナの粒子を挙げることができる。分散性と滑り性の観点から、滑剤は、好ましくは平均粒径0.1〜5.0μm、さらに好ましくは0.2〜4.0μmの粒子を用いる。粒子の形状は、板状、球状いずれであってもよいが、滑剤の中には水分を吸着し易いものや配位し易いものがあり、滑剤により持ち込まれた水分がフィルムの分子量を低下させ、耐熱性、耐加水分解性に乏しいものとなるため、吸着水や配位水の少ない構造、組成のものが好ましい。滑剤として特に好ましいものは、真球状シリカである。
【0048】
必要に応じてさらに性能を上げるために、本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、従来公知の各種添加剤を含有してもよく、例えば、耐加水分解剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤を添加することができる。耐加水分解剤としては、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド系化合物を例示することができる。酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系化合物を、紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物を例示することができる。これらの滑剤や添加剤はフィルムに塗布する方法で機能を付与してもよく、あるいは該ポリエステルフィルム自体を多層構成とし、その少なくとも1層にこれらの剤を添加する方法でもよい。
【0049】
[太陽電池裏面保護膜]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、フィルム1枚で太陽電池裏面保護膜として使用してもよく、他のシートと積層した積層体を太陽電池裏面保護膜として使用してもよい。積層体の例として、絶縁特性を向上させる目的で別のポリエステルフィルムと貼り合わせた積層体、さらに耐久性を向上させる目的でポリフッ化ビニルなどの高耐候性樹脂からなるフィルムと貼り合わせた積層体を例示することができる。
【0050】
太陽電池裏面保護膜として用いる際には、水蒸気バリア性を付与する目的で水蒸気バリア層を積層することが好ましい。この構成の太陽電池裏面保護膜は、JIS Z0208−73に従い測定される水蒸気の透過率が5g/(m・24h)以下であることが好ましい。かかる水蒸気バリア層としては、水蒸気バリア性を有するフィルムや箔を用いることができ、フィルムとしてポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリ塩化ビニリデンコートフィルム、ポリフッ化ビニリデンコートフィルム、酸化ケイ素蒸着フィルム、酸化アルミニウム蒸着フィルム、アルミニウム蒸着フィルム、箔としてはアルミニウム箔、銅箔を例示することができる。また、本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムに直接水蒸気バリア層をコート、あるいは蒸着しても構わない。これらの水蒸気バリア層は、一例として本発明のポリエステルフィルムがEVA層と接着して用いられる際にはEVA接着面の反対側に積層したり、またさらにその外側に別のフィルムを積層して、複数のフィルムで挟みこむ構造をとる形態で用いることもできる。
【0051】
[製造方法]
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムを製膜する際に用いるポリエチレンテレフタレートの製造方法について説明する。なお、ポリマーのガラス転移温度をTg、融点をTmと表記することがある。
【0052】
本発明に用いるポリエチレンテレフタレートの製造方法として、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールをエステル化反応させた後に重縮合反応を行う方法、テレフタル酸ジメチルに代表される芳香族ジカルボン酸エステルとエチレングリコールをエステル交換反応により反応させた後に重縮合反応を行う方法が挙げられる。例えばエステル交換反応を用いた製造過程において、発生するアルコールを除去させつつエステル交換反応を実施した後、リン酸化合物を添加して実質的にエステル交換反応を完了させ、次いで得られた反応生成物にアンチモン化合物および/またはチタン化合物を添加し、重縮合反応を行う。より高い耐加水分解性のポリエステルフィルムを得るためには、ポリエステル原料の高極限粘度数および低末端カルボキシル基濃度化が重要であり、固相重合を加えることが好ましい。
【0053】
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、従来公知の製膜法に準拠して製造することができる。以下にその一例を示す。まず、原料のポリエステルをスリットダイよりフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて未延伸フィルムとし、得られた未延伸シートを少なくとも1軸方向、好ましくは2軸方向に延伸する。延伸は逐次2軸延伸でも同時2軸延伸でもかまわない。例えば逐次2軸延伸を説明すると、未延伸フィルムをロール加熱、赤外線加熱等で加熱し、縦方向に延伸して縦延伸フィルムを得る。この延伸は2個以上のロールの周速差を利用して行うのが好ましい。延伸温度はポリエステルのTg以上の温度、さらにはTg〜(Tg+70℃)の範囲の温度とするのが好ましい。縦延伸後のフィルムは、続いて、横延伸、熱固定、熱弛緩の処理を順次施して二軸配向フィルムとするが、これら処理はフィルムを走行させながら行う。横延伸の処理はポリエステルのTgより高い温度から始める。そしてTgより(5〜70)℃高い温度まで昇温しながら行う。横延伸過程での昇温は連続的でも段階的(逐次的)でもよいが通常逐次的に昇温する。例えばテンターの横延伸ゾーンをフィルム走行方向に沿って複数に分け、ゾーン毎に所定温度の加熱媒体を流すことで昇温する。
【0054】
多層構成の場合は、各層の原料を必要に応じて乾燥させた後、各々を別々の押出機で溶融混合し、フィードブロックを用いて積層した後、スリットダイに展開して未延伸フィルムを得る同時多層押出し法で実施する。
【0055】
延伸倍率は、縦方向、縦方向と直交する方向(以降、横方向と呼ぶ)ともに2.8〜4.0倍の範囲で行い、さらに好ましくは3.0〜3.8倍である。2.8倍未満とするとフィルムの厚み斑が悪くなるだけでなく、耐熱性や耐加水分解性が低下しする。他方、4.0倍を超えるとデラミネーション強度の低下を引き起こす。
【0056】
横延伸後のフィルムは両端を把持したまま(Tm−20)〜(Tm−55)℃で熱処理を行うことで、耐加水分解性と耐デラミネーション特性の両方を良好にできる。またかかる温度で、定幅または10%以下の幅減少下で熱処理して熱収縮率を低下させると寸法安定性が良くなる。(Tm−20)℃より高い温度で熱処理するとフィルムの平面性が悪くなり、厚み斑が大きくなるだけでなく、耐加水分解性が低下する。また、(Tm−55)℃より低い温度で熱処理すると熱収縮率が大きくなり、耐デラミネーション性も悪化する。
【0057】
さらに、(Tm−55)℃以下の温度における熱収縮量を調整する方法として、熱固定後フィルム温度を常温に戻す過程で把持しているフィルムの両端を切り落し、フィルム縦方向の引き取り速度を調整し、縦方向に弛緩させる方法(特開昭57−57628号公報)を用いることができる。弛緩させる手段としてはテンター出側のロール群の速度を調整する。弛緩させる割合として、テンターのフィルムライン速度に対してロール群の速度ダウンを行い、好ましくは1.0〜4.0%、さらに好ましくは1.2〜3.5%の速度ダウンを実施してフィルムを弛緩(この値を「弛緩率」という)して、弛緩率をコントロールすることによって縦方向の熱収縮率を調整する。横方向の寸法安定性を高める方法としては、両端を切り落すまでの過程で幅減少させて、所望の熱収縮率を得ることもできる。
【0058】
本発明の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、接着剤を介して他シートと積層され裏面保護膜を構成するか、直接上に太陽電池素子の封止樹脂が設けられる。該ポリエステルフィルムと接着剤や封止樹脂との接着性を向上させる目的で、本発明の太陽電池裏面保護膜用フィルムの片面に易接着性のコーティングを施してもよい。接着剤としては例えばエポキシ系やウレタン系接着剤が多く用いられ、封止剤はほとんどがEVA(エチレンビニルアセテート)である。易接着性コーティング層の構成材としては、ポリエステルフィルムと接着剤あるいはEVAの双方に優れた接着性を示す材であることが好ましく、例えばポリエステル樹脂やアクリル樹脂を例示することができ、さらに架橋成分を含有することが好ましい。コーティングは一般的な既知のコーティング方法を用いることができる。好ましくは、延伸可能なポリエステルフィルムに、前述のコーティング層の構成成分を含む水性液を塗布した後、乾燥、延伸し、熱処理するインラインコーティング法で行う。このとき、フィルムの上に形成された塗膜の厚さは0.01〜1μmであることが好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。評価方法を以下に示す。
(1)フィルム厚み
フィルムサンプルをエレクトリックマイクロメーター(アンリツ製 K−402B)にて、10点厚みを測定し、平均値をフィルムの厚みとした。
【0060】
(2)極限粘度数(η)
重量比6:4のフェノール:テトラクロロエタン混合溶媒に溶解後、35℃の温度にて測定した溶液粘度から、下式で計算した値を用いた。
ηsp/C=[η]+K[η]2・C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)−1であり、Cは、溶媒100mlあたりの溶解ポリマー重量(g/100ml)、Kはハギンス定数である。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。単位は[dl/g]で示す。
【0061】
(3)重量平均分子量
フィルム試料1mgにHFIP:クロロホルム(1:1)0.5mlを加えて溶解(一晩)させ、測定直前にクロロホルムを9.5mlを加えて、メンブレンフィルター0.1μmでろ過しGPC分析を行った。測定機器、条件は以下のとおりである。
GPC:HLC−8020 東ソー製
検出器:UV−8010 東ソー製
カラム:TSK−gelGMHHR・M×2 東ソー製
移動相:HPLC用クロロホルム
流速:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:UV(254nm)
注入量:200μl
較正曲線用試料:ポリスチレン(Polymer Laboratories製 EasiCal “PS−1”)
【0062】
(4)末端カルボキシル基濃度
試料10mgをHFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール):重クロロホルム=1:3の混合溶媒0.5mlに溶解してイソプロピルアミンを数滴添加し、H−NMR法(50℃、600MHz)により定量した。
【0063】
(5)耐加水分解性
フィルムの縦方向に100mm長、横方向に10mm幅に切り出した短冊状の試料片を、温度85℃、湿度85%RHに設定した環境試験機内に3000時間放置する。その後試料片を取り出し、試料の縦方向の破断伸度を5回測定し、平均値を求めた。引張試験は東洋ボールドウィン社製(商品名「テンシロン」)を用いておこない、チャック間距離50mm、引張速度50mm/minにて実施した。5点の平均値を放置前の破断伸度5点の平均値で割った値を破断伸度保持率[%]とし、下記基準にて耐加水分解性を評価した。なお、耐加水分解性は破断伸度保持率の高いものを良好と判断した。
破断伸度保持率[%]
={(処理時間3000時間後の破断伸度)/(処理前の破断伸度)}×100
◎:破断伸度保持率が70%以上
○:破断伸度保持率が50%以上70%未満
×:破断伸度保持率が50%未満
【0064】
(6)デラミネーション強度(初期値)
幅15mmの短冊状にスリットした試料をノンキャリアー粘着テープ(厚み25μm、日栄化工株式会社製、MHM−25)を介してガラス板に貼着し、180℃、30分熱風乾燥して粘着剤を硬化させたものを用いた。これを引張試験機にセットし、引張速度500mm/minの速度で180°剥離し、フィルム内に強制的にデラミネーションを発生させた。デラミネーションが起こっている状態での剥離力を読み取り、デラミネーション強度とした(単位は、N/15mm)。なお、試料のデラミネーションが起こらずフィルム破断が発生した場合には、デラミネーション強度としては十分に高いものと判断し、◎とした。
◎:デラミネーション強度が8N/15mm以上
○:デラミネーション強度が6N/15mm以上8N/15mm未満
×:デラミネーション強度が6N/15mm未満
【0065】
(7)耐熱性
フィルムの縦方向に150mm長、横方向に10mm幅に切り出した短冊状の試料片を、温度130℃に設定したオーブン内に6000時間放置する。その試料片を取り出し、試料の縦方向の破断伸度を5回測定し、平均値を求めた。引張試験は東洋ボールドウィン社製(商品名「テンシロン」)を用いておこない、チャック間距離100mm、引張速度100mm/minにて実施した。5点の平均値を放置前の破断伸度5点の平均値で割った値を破断伸度保持率[%]とし、耐熱性を評価した。なお、耐熱性は破断伸度保持率の高いものを良好と判断した。
破断伸度保持率[%]
={(処理時間6000時間後の破断伸度)/(処理前の破断伸度)}×100
【0066】
(8)デラミネーション強度(湿熱処理後)
温度85℃、湿度85%RHの雰囲気にフィルムを3000時間保持した後、上記(6)と同様の方法でサンプルを作成して、180°剥離してデラミネーション強度を測定した(単位はN/15mm)。
【0067】
(9)耐候性
評価はJIS K7350−2に準拠して行った。フィルムの縦方向に75mm長、横方向に10mm幅に切り出した短冊状の試料片に、キセノンウェザーメーター(スガ試験機製 X75)を用いて550W/mの照射強度で、2時間ごとに18分間の水噴霧を行いながら200時間紫外線照射を行った後、試料の縦方向の破断伸度を5回測定し、平均値を求めた。引張試験は東洋ボールドウィン社製(商品名「テンシロン」)を用いて行い、チャック間距離50mm、引張速度50mm/minにて実施した。5点の平均値を照射前の破断伸度5点の平均値で割った値を破断伸度保持率[%]とし、下記基準にて耐候性を評価した。なお、耐候性は破断伸度保持率の高いものを良好と判断した。
破断伸度保持率[%]
={(照射時間200時間後の破断伸度)/(照射前の破断伸度)}×100
【0068】
(10)平均粒径
粒度分布計(堀場製作所製LA−950)にて、粒子の粒度分布を求め、d50での粒子径を平均粒径とした。
【0069】
(参考例1) ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−a)
エステル交換反応容器にテレフタル酸ジメチルを100重量部、エチレングリコールを60重量部、酢酸マンガン四水和物を仕込み、150℃に加熱して溶融し撹拌した。反応容器内温度をゆっくりと235℃まで昇温しながら反応を進め、生成するメタノールを反応容器外へ留出させた。メタノールの留出が終了したらフェニルホスホン酸を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後反応物を重縮合装置に移行し、酸化アンチモンおよび酢酸チタンの両方を添加した。
ついで重合装置内の温度を235℃から290℃まで90分かけて昇温し、同時に装置内の圧力を大気圧から100Paまで90分かけて減圧した。重合装置内容物の撹拌トルクが所定の値に達したら装置内を窒素ガスで大気圧に戻して重合を終了した。重合装置下部のバルブを開いて重合装置内部を窒素ガスで加圧し、重合の完了したポリエチレンテレフタレートをストランド状にして水中に吐出した。ストランドはカッターによってチップ化した。
このようにして極限粘度数が0.64dl/g、末端カルボキシル基濃度が17当量/トンであるポリエチレンテレフタレートのポリマーを得た。ポリマー中の重縮合触媒、リン酸化合物の濃度は、Mnが30mmol%、Sbが20mmol%、Tiが3mmol%、フェニルホスホン酸が15mmol%であった。これをPET−aと称する。
【0070】
(参考例2) ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−b)
参考例1で得られたポリマー(PET−a)を150〜160℃で3時間予備乾燥した後、210℃、100トール、窒素ガス雰囲気下で7時間固相重合を行った。固相重合後の極限粘度数は0.82dl/g、末端カルボキシル基濃度は10当量/トンであった。これをPET−bと称する。
【0071】
(参考例3) ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−c)
参考例1で得られたポリマー(PET−a)を150〜160℃で3時間予備乾燥した後、210℃、100トール、窒素ガス雰囲気下で10時間固相重合を行った。固相重合後の極限粘度数は0.90dl/g、末端カルボキシル基濃度は8当量/トンであった。これをPET−cと称する。
【0072】
(参考例4) ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−d)
参考例1で得られたポリマー(PET−a)40重量部と堺化学株式会社製ルチル型酸化チタン粒子TCR−52(平均粒径0.2μm)を60重量部とをブレンドし、二軸混練機に供給して280℃で溶融した。溶融混練したポリエステル組成物をストランド状にして水中に吐出し、カッターによってチップ化した。これをPET−dと称する。
【0073】
(参考例5) ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−e)
参考例2で得られたポリマー(PET−b)60重量部と堺化学株式会社製ルチル型酸化チタン粒子TCR−52(平均粒径0.2μm)を40重量部とをブレンドし、二軸混練機に供給して280℃で溶融した。溶融混練したポリエステル組成物をストランド状にして水中に吐出し、カッターによってチップ化した。これをPET−eと称する。
【0074】
(参考例6) ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−f)
参考例3で得られたポリマー(PET−c)60重量部と堺化学株式会社製ルチル型酸化チタン粒子TCR−52(平均粒径0.2μm)を40重量部とをブレンドし、二軸混練機に供給して280℃で溶融した。溶融混練したポリエステル組成物をストランド状にして水中に吐出し、カッターによってチップ化した。これをPET−fと称する。
【0075】
(参考例7) ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−g)
参考例2で得られたポリマー(PET−b)60重量部とチタン工業株式会社製アナターゼ型酸化チタン粒子KA−30T(平均粒径0.2μm)を40重量部とをブレンドし、二軸混練機に供給して280℃で溶融した。溶融混練したポリエステル組成物をストランド状にして水中に吐出し、カッターによってチップ化した。これをPET−gと称する。
【0076】
(参考例8) ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−h、PET−i)
重縮合触媒として酢酸チタンは使用せず酸化アンチモンのみとし、リン酸化合物を正リン酸とする以外は参考例1と同様に実施し、極限粘度数0.64dl/g、末端カルボキシル基濃度25当量/トン、MnとSbの濃度が30mmol%、20mmol%、正リン酸の濃度が15mmol%であるポリエチレンテレフタレートのポリマーを得た。次いで、得られたポリマーを150〜160℃で3時間予備乾燥した後、210℃、100トール、窒素ガス雰囲気下で10時間固相重合を行った。固相重合後の極限粘度数は0.82dl/g、末端カルボキシル基濃度は18当量/トンであった。これをPET−hと称する。
さらに、得られたポリマー(PET−h)60重量部と堺化学株式会社製ルチル型酸化チタン粒子TCR−52(平均粒径0.2μm)を40重量部とをブレンドし、二軸混練機に供給して280℃で溶融した。溶融混練したポリエステル組成物をストランド状にして水中に吐出し、カッターによってチップ化した。これをPET−iと称する。
【0077】
(参考例9) ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−j、PET−k)
フェニルホスホン酸の含有量を5mmol%となるように調整する以外は参考例1と同様に実施し、極限粘度数0.64dl/g、末端カルボキシル基濃度25当量/トンであるポリエチレンテレフタレートのポリマーを得た。次いで、得られたポリマーを150〜160℃で3時間予備乾燥した後、210℃、100トール、窒素ガス雰囲気下で10時間固相重合を行った。固相重合後の極限粘度数は0.82dl/g、末端カルボキシル基濃度は18当量/トンであった。これをPET−jと称する。
さらに、得られたポリマー(PET−j)60重量部と堺化学株式会社製ルチル型酸化チタン粒子TCR−52(平均粒径0.2μm)を40重量部とをブレンドし、二軸混練機に供給して280℃で溶融した。溶融混練したポリエステル組成物をストランド状にして水中に吐出し、カッターによってチップ化した。これをPET−kと称する。
【0078】
(参考例10) ポリエチレンテレフタレートの製造(PET−l、PET−m)
フェニルホスホン酸の含有量を50mmol%となるように調整する以外は参考例1と同様に実施し、極限粘度数0.64dl/g、末端カルボキシル基濃度25当量/トンであるポリエチレンテレフタレートのポリマーを得た。次いで、得られたポリマーを150〜160℃で3時間予備乾燥した後、210℃、100トール、窒素ガス雰囲気下で7時間固相重合を行った。固相重合後の極限粘度数は0.82dl/g、末端カルボキシル基濃度は10当量/トンであった。これをPET−lと称する。
さらに、得られたポリマー(PET−l)60重量部と堺化学株式会社製ルチル型酸化チタン粒子TCR−52(平均粒径0.2μm)を40重量部とをブレンドし、二軸混練機に供給して280℃で溶融した。溶融混練したポリエステル組成物をストランド状にして水中に吐出し、カッターによってチップ化した。これをPET−mと称する。
【0079】
[実施例1〜3]
表1に示したとおりの配合比でポリエステル原料を混合し、回転式真空乾燥機にて180℃で3時間乾燥した後、押出機に供給し285℃で溶融押出し、スリットダイよりシート状に成形した。さらにこのシートを表面温度20℃の冷却ドラムで冷却固化した未延伸フィルムを100℃にて長手方向(縦方向)に3.4倍延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き130℃に加熱された雰囲気中で長手に垂直な方向(横方向)に3.7倍延伸した。その後テンター内で222℃に加熱された雰囲気中で15秒間熱固定を行い、横方向に4.0%の幅入れを行い、続いて両端を切り落として長手方向に2.5%の弛緩率で弛緩した後、室温まで冷やして厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
[比較例1]
原料の種類と配合比を変更するほかは実施例1と同様にして行い、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。フィルムの重量平均分子量が低く、耐加水分解性、デラミネーション強度、耐熱性に劣り、太陽電池裏面保護膜用としては不向きであった。
【0083】
[比較例2]
原料の配合比を変更するほかは実施例1と同様にして行い、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。フィルムの重量平均分子量が低く、さらにチタン濃度が高いために、耐加水分解性、デラミネーション強度、耐熱性に劣り、太陽電池裏面保護膜用としては不向きであった。
【0084】
[比較例3]
原料の配合比を変更するほかは実施例1と同様にして行い、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。耐加水分解性、デラミネーション強度、耐熱性は良好であったが、耐候性に劣り、太陽電池裏面保護膜用としては不向きであった。
【0085】
[比較例4]
表1に示すとおりの原料に変更するほかは実施例1と同様にして行い、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。耐候性に劣り、太陽電池裏面保護膜用としては不向きであった。
【0086】
[実施例4]
表1に示すとおりの配合比で層(A)のポリエステル原料を混合し、回転式真空乾燥機にて180℃で3時間乾燥した後、押出機1に供給し285℃で溶融押出しした。層(B)は、PET−bを回転式真空乾燥機にて180℃で3時間乾燥した後、押出機2に供給し285℃で溶融押出しした。それぞれの押出機で溶融した樹脂組成物を、2層フィードブロック装置を使用して合流させ、その積層状態を保持したままスリットダイよりシート状に成形した。層(A)と層(B)の厚み比率が20%:80%になるように原料の供給量を調整した。キャスティングから熱固定までは実施例1と同様に行い、横方向に4.0%の幅入れを行ったあと、続いて両端を切り落として長手方向に3.0%の弛緩率で弛緩した後、室温まで冷して厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。デラミネーション強度は層(B)側をガラス板に貼着し測定した。
【0087】
[比較例5]
層(B)の原料をPET−aにし、長手方向の弛緩率を2.5%とする他は実施例4と同様に実施し、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。デラミネーション強度は層(B)側をガラス板に貼着し測定した。フィルム全体で測定した重量平均分子量が低く、耐加水分解性、デラミネーション強度、耐熱性に劣り、太陽電池裏面保護膜用としては不向きであった。
【0088】
[比較例6]
原料を表1のとおりとする他は実施例1と同様にして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。フィルムの結晶性が不十分で、耐加水分解性に劣り、太陽電池裏面保護膜用としては不向きであった。
【0089】
[比較例7]
原料の配合比を表1のとおりとする他は実施例1と同様にして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。フィルムの結晶性が不十分で、耐加水分解性に劣り、太陽電池裏面保護膜用としては不向きであった。
【0090】
[比較例8]
原料の配合比を表1のとおりとする他は実施例1と同様にして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。理由は明らかではないが、耐加水分解性、耐熱性に劣り、太陽電池裏面保護膜用としては不向きであった。
【0091】
[比較例9]
熱固定温度を200℃とする以外は実施例1と同様にして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。耐加水分解性は良好であったが、デラミネーション強度が低いことなど問題点があり、太陽電池裏面保護膜用としては不向きであった。
【0092】
[比較例10]
熱固定温度を245℃とする以外は実施例1と同様にして、厚み75μmのポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性は表2のとおりであった。耐加水分解性に劣り、太陽電池裏面保護膜用としては不向きであった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明のポリエステルフィルムは、高温・多湿な環境下での長時間使用における機械的性質の低下が抑制され、優れた耐デラミネーション性を有しており、長時間使用しても良好な保護機能を維持する白色の太陽電池裏面保護膜として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンチモン化合物および/またはチタン化合物を重縮合触媒として重合されたポリエチレンテレフタレート85〜96重量%およびルチル型酸化チタン粒子4〜15重量%のポリエステル組成物からなる白色ポリエステルフィルム層を含んでなる太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムであって、該ポリエステル組成物は、ポリエチレンテレフタレートを構成する全ジカルボン酸成分のモル数を基準として、10〜40ミリモル%の下記一般式(I)または(II)で表わされるリン酸化合物と、金属元素換算で合計2〜50ミリモル%の重縮合触媒由来のアンチモン元素および/またはチタン元素とを含有し、該太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルムは、初期のデラミネーション強度が6N/15mm以上、温度85℃、湿度85%RHの環境における3000時間エージング前後の伸度保持率が50%以上であることを特徴とする太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルム。
【化1】

【請求項2】
温度130℃の環境における6000時間エージング前後の伸度保持率が40%以上である、請求項1記載の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
温度85℃、湿度85%RHの環境における3000時間エージング後のデラミネーション強度が4N/15mm以上である、請求項1または2に記載の太陽電池裏面保護膜用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2012−18971(P2012−18971A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153937(P2010−153937)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】