説明

太陽電池裏面保護膜用積層フィルム

【課題】優れた耐候性および耐加水分解性を備えた太陽電池裏面保護膜用積層フィルムおよび太陽電池裏面保護膜を提供する。
【解決手段】98〜70重量%のシンジオタクチックポリスチレンおよび2〜30重量%の熱可塑性ポリエステルからなる厚み20μm以上200μm以下の層(A)およびその少なくとも一方の面に設けられた平均粒径が0.1〜5.0μmのルチル型酸化チタン粒子10〜30重量%および熱可塑性ポリエステル90〜70重量%からなる厚み5μm以上の層(B)から構成され、層(B)の厚みは積層フィルム総厚みの25%以下の厚みであり、高圧水銀ランプ200w/mで8hr照射したときのイエローインデックスの変化ΔYIが8未満であることを特徴とする、太陽電池裏面保護膜用積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池裏面保護膜用積層フィルムおよびそれを用いた太陽電池裏面保護膜に関し、詳しくは、優れた耐加水分解性、耐候性を備える太陽電池裏面保護膜用積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電システムは、クリーンエネルギーを利用する発電手段の一つとして、普及が進んでいる。太陽電池モジュールは、例えば実開平6−38264号公報に記載があるように、一般的には、受光側のガラス基板と裏面保護膜との間に複数の板状太陽電池素子を挟み、内部の隙間に封止樹脂を充填した構造をとる。
【0003】
また、太陽電池の裏面側の保護膜として、ポリエステルフィルムを用いることが知られている(特開2001−148497号公報、特開2001−257372号公報、特開2003−60218号公報)。これらのポリエステルフィルムは、長期使用における耐加水分解性が未だに不十分であることから改良が試みられ、高分子量のポリエチレンテレフタレートフィルムを用いること(特開2002−26354号公報)、オリゴマー含有量の少ないポリエチレンテレフタレートフィルムを用いること(特開2002−100788号公報、特開2002−134770号公報、特開2002−134771号公報)、2,6−ナフタレンジカルボン酸含有のポリエステルフィルムを用いること(特開2007−007885号公報、特開2006−306910号公報)が提案されている。また、ポリエステルフィルムの耐加水分解性を上げる手法としてシンジオタクチックポリスチレンとの積層が提案されている(特開2009−238448号公報)。しかし、シンジオタクチックポリスチレンフィルムは、耐加水分解性は向上するが紫外線による劣化が起こりやすく、耐候性に乏しいため、太陽電池裏面保護に用いることは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−38264号公報
【特許文献2】特開2001−148497号公報
【特許文献3】特開2001−257372号公報
【特許文献4】特開2003−60218号公報
【特許文献5】特開2002−26354号公報
【特許文献6】特開2002−100788号公報
【特許文献7】特開2002−134770号公報
【特許文献8】特開2002−134771号公報
【特許文献9】特開2007−007885号公報
【特許文献10】特開2006−306910号公報
【特許文献11】特開2009−238448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解消し、優れた耐候性および耐加水分解性を備えた太陽電池裏面保護膜用積層フィルムおよび太陽電池裏面保護膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、98〜70重量%のシンジオタクチックポリスチレンおよび2〜30重量%の熱可塑性ポリエステルからなる厚み20μm以上200μm以下の層(A)およびその少なくとも一方の面に設けられた平均粒径が0.1〜5.0μmのルチル型酸化チタン粒子10〜30重量%および熱可塑性ポリエステル90〜70重量%からなる厚み5μm以上の層(B)から構成され、層(B)の厚みは積層フィルム総厚みの25%以下の厚みであり、高圧水銀ランプ200w/mで8hr照射したときのイエローインデックスの変化ΔYIが8未満であることを特徴とする、太陽電池裏面保護膜用積層フィルムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた耐候性および耐加水分解性を備えた太陽電池裏面保護膜用積層フィルムおよび太陽電池裏面保護膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
[シンジオタクチックポリスチレン]
本発明において層(A)は98〜70重量%のシンジオタクチックポリスチレンおよび2〜30重量%の熱可塑性ポリエステルからなる。
層(A)を構成するシンジオタクチックポリスチレンは、立体化学構造がシンジオタクチック構造を有するポリスチレンであり、核磁気共鳴法(13C−NMR法)により測定されるタクティシティーが、ダイアッド(構成単位が2個)で75%以上、好ましくは85%以上、ペンタッド(構成単位が5個)で30%以上、好ましくは50%以上のものである。
【0010】
かかるシンジオタクチックポリスチレンとしては、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)として、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(プロピルスチレン)、ポリ(ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)およびポリ(ビニルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)としてポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)およびポリ(フルオロスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)としてポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)を例示することができる。
これらのうち、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレ
ン)、ポリ(p−ターシャリーブチルスチレン)が好ましい。
【0011】
シンジオタクチックポリスチレンは、ホモポリマーでも、シンジオタクティシティが前記範囲内であれば他のポリスチレンとの共重合体、2種以上のポリスチレンとの混合体のいずれであってもかまわない。
またシンジオタクチックポリスチレンの重合平均分子量は、好ましくは10000〜500000、さらに好ましくは50000〜500000である。重合平均分子量がこの範囲にあることで、耐熱性および機械的特性を確保しながら良好な製膜性を得ることができ好ましい。
シンジオタクチックポリスチレンの融点は、好ましくは230〜280℃、さらに好ましくは240〜275℃である。融点がこの範囲にあることで、層(B)との積層フィルムを容易に得ることができ好ましい。
【0012】
[熱可塑性ポリエステル]
本発明における熱可塑性ポリエステルとしては、熱可塑性のポリエステルを用い、好ましくは芳香族ポリエステルを用いる。この芳香族ポリエステルとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートを用いることができる。これらは、ホモポリマーであってもよく、コポリマーであってもよい。複数のポリマーのブレンド体であってもよい。
これらポリエステルの中でも、ポリエチレンテレフタレートは紫外線による黄変が少なく、フィルムとしての特性からみても好ましい。
【0013】
熱可塑性ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレートのコポリマーを用いる場合、共重合成分としては、例えばイソフタル酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、4,4′―ジフェニルジカルボン酸といった芳香族ジカルボン酸成分、1,4―ブタンジオール、1,4―シクロヘキサンジメタノール、1,6―ヘキサンジオールといったジオール成分を例示することができる。共重合成分の割合は、結果としてポリエチレンテレフタレートのコポリマーの融点が、例えば245〜280℃、好ましくは250〜280℃の範囲になる割合である。コポリマー融点が245℃未満になると耐熱性が低下し、280℃を越えると生産性が低下して好ましくない。
【0014】
熱可塑性ポリエステルのポリエステルの固有粘度は、好ましくは0.68dl/g以上、さらに好ましくは0.70〜0.95dl/gである。固有粘度が0.68dl/g未満ではフィルムの重量平均分子量を47000〜65000の範囲に調整することが困難であり、また、フィルムがデラミネーションを起こしやすく好ましくない。0.95dl/gより高いと溶融粘度が高いため溶融押出しが困難になり、また重合時間が長く不経済であり好ましくない。
【0015】
[ルチル型酸化チタン粒子]
酸化チタンの結晶形態には、ルチル型とアナターゼ型がある。本発明の太陽電池裏面保護膜用積層フィルムにおいては、ルチル型酸化チタンの粒子を用いる。このルチル型酸化チタン粒子を用いることで、フィルムの紫外線劣化を抑制し、光線を長時間照射したときのフィルム変色や機械的強度の低下を少なくすることができる。
本発明におけるルチル型酸化チタン粒子の平均粒径は、0.1〜5.0μm、好ましくは0.1〜3.0μmである。0.1μm未満であると分散性が悪くなり、粒子の凝集が起こるため、均一なフィルムを得ることができない。他方、5.0μmを超えるとフィルムの延伸性が悪くなる。
【0016】
[層(A)の組成]
層(A)は、98〜70重量%のシンジオタクチックポリスチレンおよび2〜30重量%の熱可塑性ポリエステル、好ましくは90〜80重量%のシンジオタクチックポリスチレンおよび10〜20重量%の熱可塑性ポリエステルから構成される。熱可塑性ポリエステルの含有量が2重量%未満であると層(B)との密着性が不十分で層剥離が起きやすくなる。また、熱可塑性ポリエステルの含有量が30重量%を超えると、耐加水分解性に劣る。
【0017】
層(A)は、ルチル型酸化チタン粒子を含有することが好ましい。その場合、層(A)のシンジオタクチックポリスチレン100重量%あたり、ルチル型酸化チタン粒子を好ましくは0.4〜3重量%、さらに好ましくは1.0〜2.0重量%含有する。この範囲で含有することで、層(A)と層(B)との良好な密着性を得ることができ、積層界面から層間剥離が発生することをさらに抑制することができ、耐加水分解性に優れ、強伸度保持率を高く維持することができ、他の積層材との接着性に優れた積層フィルムを得ることができる。
【0018】
[層(B)の組成]
層(B)は、ルチル型酸化チタン粒子10〜30重量%および熱可塑性ポリエステル90〜70重量%からなる。層(B)は、ルチル型酸化チタン粒子を10〜30重量%、好ましくは14〜25重量%含有する。ルチル型酸化チタン粒子が10重量%未満であるとフィルムの十分な耐候性を得ることができず、紫外線による劣化が起こり易い。他方、30重量%を超えると層(A)との密着性に乏しくなり積層界面から層間剥離が生じるだけでなく、積層フィルムの耐加水分解性が低下して、早く劣化する。
【0019】
[層構成]
本発明の太陽電池裏面保護膜用積層フィルムは、耐候性、耐加水分解性および他積層材との接着性を鼎立させるために、層(A)およびその少なくとも一方の面に設けられた層(B)から構成される。
本発明の太陽電池裏面保護膜用積層フィルムを太陽電池裏面保護膜として用いるときには、シンジオタクチックポリスチレンの耐候性を向上させるとともに太陽電池を紫外線から保護する観点から、層(B)が太陽電池モジュールの外側になるように配置する。
層(B)の厚みは、5μm以上であり、かつ積層フィルム総厚みの25%以下の厚みである。層(B)の厚みが5μm未満であるとフィルムに十分な耐候性が得られず紫外線によるフィルム変色が大きくなる。また、積層フィルム総厚みの25%を超えると、フィルムの耐加水分解性に劣り伸度保持率が低下し劣化が速くなる。
【0020】
[耐候性]
本発明の太陽電池裏面保護膜用積層フィルムは、層(B)側からの紫外線照射前後において、層(B)のイエローインデックスの変化ΔYIが8未満、好ましくは5未満である耐候性を備える。ΔYIが8以上であると、耐候性の不足により太陽電池裏面保護膜用フィルムとして太陽電池を保護することができない。
このΔYIは、高圧水銀ランプを用い200W/mの照射強度で8時間フィルムに紫外線照射する前後でのフィルムのYI値の変化量であり、日本電色工業製自動色差計(SE−Σ90型)を用いて測定した、紫外線照射前後のフィルムのYI値から、下記式で算出される。
ΔYI=照射後のYI値−照射前のYI値
【0021】
[耐加水分解性]
本発明の太陽電池裏面保護膜用積層フィルムは、長期間屋外に暴露され使用されることから高温・高湿度環境で長期間加水分解による伸度低下が小さいことが好ましく、具体的には温度121℃、湿度100%RHの環境下において200時間エージング後の伸度保持率が80%以上であれば、当該用途で十分な耐久性を備えていると言うことができる。
【0022】
[添加剤]
層(A)および/または層(B)には、本発明の目的を阻害しない範囲で、従来公知の添加剤を含有してもよい。この添加剤としては、例えば、酸化防止剤、末端封止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤を挙げることができる。酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系化合物を、熱安定剤としては、例えばリン系化合物を、紫外線吸収剤としては、例えばベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物を例示することができる。
【0023】
[製造方法]
本発明の太陽電池裏面保護膜用積層フィルムは、上述のシンジオタクチックポリスチレンと熱可塑性ポリエステルとを原料とし、これらをそれぞれ溶融状態で積層し、例えば共押出製膜法によりシート状に押出した後、テンター法、インフレーション法など公知の製膜方法を用いて製造することができる。
以下、一例としてシンジオタクチックポリスチレン、ポリエステルおよびポリエステルに酸化チタン粒子を含有させたマスターペレットを用いて、2層積層フィルム(A/Bの構成)を製造する例を挙げて説明する。以下、ガラス転移温度をTg、融点をTmという。
【0024】
まず層(A)用に調整したポリマー組成物を乾燥後、(Tma)〜(Tma+70)℃(Tmaは層(A)を構成するポリマーの融点を表わす)の温度範囲内で溶融する。同時に、層(B)用に調整したポリマー組成物を必要に応じて乾燥し、(Tmb)〜(Tmb+70)℃(Tmbは層(B)を構成するポリマーの融点を表わす)の温度範囲内で溶融する。溶融は各々別々の押し出し機でおこなう。続いて、フィードブロックを用いた同時多層押出し法により、未延伸積層シートを製造する。すなわち層(A)を構成するポリマーの溶融物と層(B)を構成するポリマーの溶融物とを、フィードブロックを用いて層(A)/層(B)となるように2層に積層し、スリットダイに展開して押出しを実施する。この時、フィードブロックで積層されたポリマーは積層された形態を維持している。
【0025】
次に、得られた未延伸積層シートを、少なくとも1軸方向、好ましくは二軸方向に延伸する。延伸は、逐次二軸延伸でもよく、同時二軸延伸でもよい。逐次二軸延伸する場合、スリットダイより押出されたポリマーは、キャスティングドラムで冷却固化され、未延伸積層シートとなる。この未延伸積層シートを、ロール加熱、赤外線加熱等で加熱し、縦方向に延伸して縦延伸積層フィルムを得る。この延伸は2個以上のロールの周速差を利用して行うのが好ましい。延伸温度は層(A)のTga(Tgaは層(A)を構成するポリマーのガラス転移温度を表わす)以上の温度、さらには(Tga)〜(Tga+40℃)とするのが好ましい。
【0026】
縦延伸後のフィルムは、続いて、横延伸、熱固定、熱弛緩の処理を順次施して二軸配向フィルムとするが、これら処理はフィルムを走行させながら行う。横延伸の処理はTgaより高い温度から始める。そしてTgaより(5〜70)℃高い温度まで昇温しながら行う。横延伸過程での昇温は連続的でも段階的(逐次的)でもよいが通常逐次的に昇温する。例えばテンターの横延伸ゾーンをフィルム走行方向に沿って複数に分け、ゾーン毎に所定温度の加熱媒体を流すことで昇温する。
【0027】
延伸倍率は、用途の要求特性にもよるが、縦方向、縦方向と直交する方向(以降、横方向と呼ぶ)ともに、好ましくは3.0〜4.2倍、さらに好ましくは3.2〜4.0倍である。3.0倍未満とするとフィルムの厚み斑の良好なフィルムが得られない。また、耐加水分解性に劣るフィルムとなり好ましくない。他方、4.2倍を超えると層(A)と層(B)の密着力が低くなり好ましくない。
【0028】
横延伸後のフィルムは両端を把持したまま(Tma−20℃)〜(Tma−80℃)で定幅または10%以下の幅減少下で熱処理して熱収縮率を低下させると寸法安定性が良くなる。これより高い温度で熱処理するとフィルムの平面性が悪くなり、厚み斑が大きくなり好ましくない。また、(Tma−80)℃より低い温度で熱処理すると熱収縮率が大きくなることがあり好ましくない。
【0029】
二軸延伸後の積層フィルムの厚みは、好ましくは25〜250μm、さらに好ましくは40〜200μm、特に好ましくは50〜125μmである。25μm未満であると耐候性が低下して好ましくなく、他方、250μmを超えると不経済なだけである。
【0030】
本発明の太陽電池裏面保護膜用積層フィルムのうえに太陽電池素子の封止樹脂を設ける場合、フィルムと封止樹脂との接着性を向上させる目的で、太陽電池モジュールの内側に接する層のうえに易接着性のコーティング層を設けてもよい。コーティング層の構成材としては、フィルムとEVAの双方に優れた接着性を示す材を用いることが好ましく、この材として、例えばポリエステル樹脂やアクリル樹脂を例示することができ、これらの樹脂にさらに架橋成分を含有させることが好ましい。
【0031】
コーティング層の塗設は、一般的な既知のコーティング方法を用いることができるが、好ましくは、延伸可能なフィルムに前述のコーティング層の構成成分を含む水性液を塗布した後、乾燥、延伸し、熱処理するインラインコーティング法で行う。このとき、フィルムの上に形成されるコーティング層の厚さは0.01〜1μmであることが好ましい。
【0032】
[太陽電池裏面保護膜]
本発明の太陽電池裏面保護膜用積層フィルムは、単独で太陽電池裏面保護膜として用いてもよく、また積層フィルムの2枚以上を貼り合わせて太陽電池裏面保護膜として用いてもよい。
例えば、絶縁特性を向上させる目的で別の透明ポリエステルフィルム等と貼り合わせて用いることができる。
太陽電池裏面保護膜として用いる際に、水蒸気バリア性を付与する目的で、水蒸気バリア層を積層することが好ましい。この構成の太陽電池裏面保護膜は、JIS Z0208−73に従い測定される水蒸気の透過率が5g/(m・24h)以下であることが好ましい。
【0033】
水蒸気バリア層としては、水蒸気バリア性を有するフィルムや箔を用いることができる。フィルムとしては、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリ塩化ビニリデンコートフィルム、ポリフッ化ビニリデンコートフィルム、酸化ケイ素蒸着フィルム、酸化アルミニウム蒸着フィルム、アルミニウム蒸着フィルムを例示することができ、箔としては、アルミニウム箔、銅箔を例示することができる。水蒸気バリア層は、コーティングで設けてもよく、蒸着で設けてもよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づき本発明を説明する。各特性値ならびに評価法は下記の方法によって測定、評価した。
【0035】
(1)フィルム厚み
フィルムの試料をエレクトリックマイクロメーター(アンリツ製 K−402B)にて、10点厚みを測定し、平均値をフィルムの厚みとした。
【0036】
(2)各層の厚み
フィルムから試料を三角形に切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂にて包埋した。そして、包埋されたサンプルをミクロトーム(ULTRACUT−S)で縦方向に平行な断面を50nm厚の薄膜切片にした後、透過型電子顕微鏡を用いて、加速電圧100kvにて観察撮影し、写真から各層の厚みを測定し、平均厚みを求めた。
【0037】
(3)ガラス転移点(Tg)、融点(Tm)
フィルムの試料について、示差走査熱量装置TA Instruments製 MDSC Q100を用い、昇温速度20℃/分でガラス転移および融解ピークを求めた。なお、サンプル量はフィルム原料チップの測定の場合は10mg、フィルムの測定の場合は20mgとした。
【0038】
(4)耐候性
高圧水銀ランプ(東芝製 TOS CURE 401)を用いて、フィルムに200W/mの照射強度で8時間紫外線照射を行った。予め測定しておいた紫外線照射前のフィルムのYI値と、紫外線照射前のフィルムのYI値を用いて、ΔYIを下記式に従い算出し、下記の基準で耐光性を評価した。なお、イエローインデックスのYI値は、日本電色工業製自動色差計(SE−Σ90型)を用いて層(B)の面について測定した。
ΔYI=照射後のYI値−照射前のYI値
○:ΔYIが8未満
△:ΔYIが8以上12未満
×:ΔYIが12以上
【0039】
(5)耐加水分解性
121℃−2atm−100%RHの雰囲気にフィルムを200時間エージングした後、ASTM−D61Tによりフィルムの破断伸度を測定し、エージング前の破断伸度を100%にしたときの比(保持率)で比較し下記の基準で判定した。
○:保持率が80%を超える
△:保持率が50以上80%未満
×:保持率が50%未満
【0040】
(6)ポリエステルの固有粘度(IV)
試料0.6gをオルソクロロフェノール50ml中に加熱溶解した後、一旦冷却させ、遠心分離機により白色無機顔料等の無機物を取り除き、その溶液をオストワルド式粘度管を用いて35℃の温度条件で測定した溶液粘度から算出した。
【0041】
(参考例1)PET−A
エステル交換反応容器にジメチルテレフタレートを100重量部、エチレングリコールを61重量部、酢酸マグネシウム四水塩を0.06重量部仕込み、150℃に加熱して溶融し撹拌した。反応容器内温度をゆっくりと235℃まで昇温しながら反応を進め、生成するメタノールを反応容器外へ留出させた。メタノールの留出が終了したらトリメチルリン酸を0.02重量部添加した。トリメチルリン酸を添加した後、三酸化アンチモンを0.03重量部添加し、反応物を重合装置に移行した。ついで重合装置内の温度を235℃から290℃まで90分かけて昇温し、同時に装置内の圧力を大気圧から100Paまで90分かけて減圧した。重合装置内容物の撹拌トルクが所定の値に達したら装置内を窒素ガスで大気圧に戻して重合を終了した。重合装置下部のバルブを開いて重合装置内部を窒素ガスで加圧し、重合の完了したポリエチレンテレフタレートをストランド状にして水中に吐出した。ストランドはカッターによってチップ化した。このようにして固有粘度が0.65dl/gであるポリエチレンテレフタレートのポリマーを得た。これをPET−Aと称する。
【0042】
(参考例2)PET−B
参考例1で得られたPET−Aを60重量部と、テイカ株式会社製ルチル型酸化チタン粒子JR301(平均粒径0.3μm)を40重量部とをブレンドし、二軸混練機に供給して280℃で溶融した。溶融混練したポリエステル組成物をストランド状にして水中に吐出し、カッターによってチップ化した。これをPET−Bと称する。
【0043】
(参考例3)PET−C
参考例1で得られたPET−Aを60重量部と、堺化学工業株式会社製沈降性硫酸バリウム粒子300R(平均粒径0.7μm)を40重量部とをブレンドし、二軸混練機に供給して280℃で溶融した。溶融混練したポリエステル組成物をストランド状にして水中に吐出し、カッターによってチップ化した。これをPET−Cと称する。
【0044】
[実施例1]
シンジオタクチックポリスチレン(出光化学株式会社製、グレード;130ZC)、PET−AおよびPET−Bをシンジオタクチックポリスチレンが90重量%、ポリエチレンテレフタレートが19重量%、ルチル型酸化チタン粒子が1重量%となるように混合し、回転式真空乾燥機にて180℃で3時間乾燥した後、押出機1に供給し280℃で溶融押出しした。これを層(A)とする。
層(B)は、PET−AとPET−Bを、ルチル型酸化チタン粒子の含有率が20重量%となるように混合し、回転式真空乾燥機にて180℃で3時間乾燥した後、押出機2に供給し280℃で溶融押出しした。それぞれの押出機で溶融した樹脂組成物を、2層フィードブロック装置を使用して合流させ、その積層状態を保持したままスリットダイよりシート状に成形した。さらにこのシートを表面温度25℃の冷却ドラムで冷却固化した未延伸フィルムを120℃にて長手方向(縦方向)に3.4倍延伸し、25℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き140℃に加熱された雰囲気中で長手に垂直な方向(横方向)に3.7倍延伸した。その後テンター内で220℃に加熱された雰囲気中で熱固定を行い、横方向に3%の幅入れを行い、室温まで冷やして太陽電池裏面保護膜用積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの層構成は表1のとおりであった。評価結果を表1に示す。
【0045】
[実施例2〜9、比較例1〜4]
フィルムの層構成を表1に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にして太陽電池裏面保護膜用積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの評価結果は表1のとおりであった。なお、比較例1は、B/A/Bの3層構成とし、2種の溶融した樹脂組成物を3層フィードブロック装置を使用して合流させることで積層した。
【0046】
【表1】

【0047】
ただし、表において、「酸化チタン」はルチル型酸化チタンを意味し、「PET」はポリエチレンテレフタレートを意味する。
なお、シンジオタクチックポリスチレンとして用いた130ZC(出光化学株式会社製)は、立体化学構造がシンジオタクチック構造を有するポリスチレンであり、核磁気共鳴法(13C−NMR法)により測定されるタクティシティーが、ダイアッド(構成単位が2個)100%、ペンタッド(構成単位が5個)99%以上である。
【0048】
[比較例5]
層(B)のポリエステルを、それぞれPET−AとPET−Cを硫酸バリウムの含有率が20重量%となるように混合した以外は実施例1と同様にして太陽電池裏面保護膜用積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの層構成は表1のとおりであった。評価結果を表1に示す。
【0049】
[比較例6]
フィルムの層構成を表1に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にして太陽電池裏面保護膜用積層フィルムを得た。得られたフィルムは層間の密着力に乏しく、手で容易に層(A)と層(B)との間で剥離できる状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の太陽電池裏面保護膜用積層ポリエステルフィルムは、太陽電池裏面保護膜として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
98〜70重量%のシンジオタクチックポリスチレンおよび2〜30重量%の熱可塑性ポリエステルからなる厚み20μm以上200μm以下の層(A)およびその少なくとも一方の面に設けられた平均粒径が0.1〜5.0μmのルチル型酸化チタン粒子10〜30重量%および熱可塑性ポリエステル90〜70重量%からなる厚み5μm以上の層(B)から構成され、層(B)の厚みは積層フィルム総厚みの25%以下の厚みであり、高圧水銀ランプ200w/mで8hr照射したときのイエローインデックスの変化ΔYIが8未満であることを特徴とする、太陽電池裏面保護膜用積層フィルム。
【請求項2】
熱可塑性ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである、請求項1記載の太陽電池裏面保護膜用積層フィルム。

【公開番号】特開2011−192791(P2011−192791A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57631(P2010−57631)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】