説明

太陽電池裏面封止用二軸配向ポリエスエルフィルム

【課題】 良好な耐加水分解性と製膜性を有するポリエステルフィルム、特に太陽電池裏面封止フィルムに好適なポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 ジオール成分中の0.5〜2.0モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノールであるポリエステルからなるフィルムであり、固有粘度が0.70dl/g以上であり、末端カルボキシル基量が26当量/トン以下であり、ポリエステルフィルム中に、チタン元素、周期表第2族から選ばれる元素およびリン元素を含有することを特徴とする太陽電池裏面封止用二軸配向ポリエスエルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルフィルム、特に耐加水分解性に優れた太陽電池裏面封止フィルムに適したポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換効果を利用して光エネルギを電気エネルギに変換する太陽光発電は、クリーンエネルギを得る手段として広く行われている。そして、太陽電池セルの光電変換効率の向上に伴って、多くの個人住宅にも太陽光発電システムが設けられるようになってきている。このような太陽光発電システムを実際のエネルギ源として用いるために、複数の太陽電池セルを電気的に直列に接続させた構成をなす太陽電池モジュールが使用されている。
【0003】
太陽電池モジュールは高温高湿度環境で長期間使用されるので、太陽電池裏面封止用フィルムにも長期耐久性が求められる。太陽電池裏面封止用フィルムとしては、例えば特許文献1に記載されているような、フッ素系フィルムを用いた技術が開示されている。しかし、フッ素系フィルムは高価であるので、太陽電池裏面封止用フィルムの価格も高価なものになってしまうという問題がある。
【0004】
太陽電池裏面封止用フィルムとして、ポリエステル系フィルムが用いられている技術が開示されている。ポリエステル系フィルムを、高温高湿度環境で使用すると、分子鎖中のエステル結合部位の加水分解が起こり、機械的特性が劣化することが知られている。よって、ポリエステル系フィルムを屋外で長期(例えば20年)にわたって使用する場合、あるいは高湿度環境で使用する場合を想定して、加水分解を抑制すべく様々な検討が行われている。一方で、ポリエステルフィルム製造における高速製膜化の要求に伴い、製膜時、静電印加法による冷却ロールへの密着性を高めて、製膜速度を向上できるように、樹脂溶融時の体積固有抵抗値(以後、ρV値と表すことがある)の低いポリエチレンテレフタレート樹脂が要求されている。
【0005】
ポリエチレンテレフタレート樹脂はテレフタル酸とエチレングリコールとをエステル化反応、および重縮合反応して得られる。反応触媒としてチタン化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物などが使用されるが、チタン化合物は反応活性が高く、触媒としての使用量が少なくて済むので触媒由来の異物が少なく、また安価であるため使用されることが多くなっている。
【0006】
特許文献2には、2種のポリエチレンテレフタレート樹脂を混合使用してフィルム中の末端カルボキシル基量(以後、AVと表すことがある)を低減し、耐加水分解性を向上したフィルムが記載されている。また、フィルムの生産性を向上すべく溶融時の体積固有抵抗値を低くするためマグネシウム、カルシウム、リチウム、マンガン等の金属を100ppm以下、好ましくは60ppm以下、最も好ましくは50ppm以下で含有させる旨の記載があるが具体的な方法についての記載は無く具体的に開示された技術により製造されたポリエチレンテレフタレート樹脂はρV値が高く、フィルム生産性が悪い。
【0007】
特許文献3,4にはポリエステルフィルムの生産性の改良を目的として特定量のリン化合物、2価の金属化合物、周期表第4A族のチタン族元素から選ばれる少なくとも1種の元素の化合物を含有するポリエステル樹脂が記載されているが、特許文献3に記載の技術で製造された樹脂は末端カルボキシル基量が多く、高IV品ではなく、耐加水分解性の点で改良の余地がある。特許文献4に記載の技術で製造された樹脂は、太陽電池裏面封止用途には固有粘度が低く、耐加水分解性の点で改良の余地がある。
【0008】
特許文献5にはチタン化合物、マグネシウム化合物、リン化合物を用い、末端カルボキシル基が低減されているとともに高い固有粘度、低環状3量体含有量のポリエステル樹脂が記載されているが、開示された技術により製造されたポリエチレンテレフタレート樹脂はρV値が高く、フィルム生産性が悪い。また、開示された技術により製造されたポリエチレンテレフタレートフィルムは、結晶性が高いため、高温高湿環境下で保持すると、結晶化が促進され、脆性破壊が起こりやすくなり、耐加水分解性の点で改良の余地がある。
【0009】
特許文献6にはポリエステル樹脂のρV値を下げる方法として、金属化合物をポリエステル樹脂に配合すること、配合するに際しては配合物の均一性、操作性を向上させるため、金属化合物を直接ポリエステル樹脂に混合することを避けて、予め高濃度に含有させたポリエステル樹脂いわゆるマスターバッチとフィルム原料ポリエステル樹脂とをブレンドする方法が記載されている。しかし、マスターバッチを得るにはマスターバッチ用のポリエステル樹脂を製造し、このポリエステルに金属化合物を高濃度に混合して押出機で練りこみペレット化する工程が必要になり煩雑である。
【0010】
その他、ポリエステルの加水分解防止のため、ポリエステル分子鎖の末端カルボキシル基量を封止する発明も開示されている。例えば、特許文献7や特許文献8には、カルボン酸と反応する化合物を添加することで、分子鎖末端のカルボキシル基量を低減させることによる耐加水分解性を向上させる技術が開示されている。しかし、これらの化合物は、製膜プロセスでの溶融押出工程、または、マテリアルリサイクル工程において、ゲル化を誘発し、異物を発生させる可能性が高く、環境的にもコスト的にも好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−186575号公報
【特許文献2】特開2007−204538号公報
【特許文献3】特開2005−89516号公報
【特許文献4】特開2007−70462号公報
【特許文献5】特開2005−89741号公報
【特許文献6】特開昭60−248737号公報
【特許文献7】特開平9−227767号公報
【特許文献8】特開平8−73719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その解決課題は、良好な耐加水分解性と製膜性を有するポリエステルフィルム、特に太陽電池裏面封止フィルムに好適なポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は、ジオール成分中の0.5〜2.0モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノールであるポリエステルからなるフィルムであり、固有粘度が0.70dl/g以上であり、末端カルボキシル基量が26当量/トン以下であり、ポリエステルフィルム中に、チタン元素、周期表第2族から選ばれる元素およびリン元素を含有することを特徴とする太陽電池裏面封止用二軸配向ポリエスエルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐加水分解性の良い太陽電池裏面封止用ポリエステルフィルムを効率良く提供することができ、本発明の工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリエステルフィルム中のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とジオール成分とを重縮合させて得られるものを指す。
【0017】
ジカルボン酸成分としては、具体的には、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、およびこれらの炭素数1〜4程度のアルキルエステル、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,5−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,7−デカヒドロナフタレンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびこれらの炭素数1〜4程度のアルキルエステル、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸およびこれらの炭素数1〜4程度のアルキルエステル等挙げられる。
【0018】
ジオール成分としては、具体的にはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、2,5−ノルボルナンジメチロール等の脂環式ジオール、および、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオールがあげられる。このうち、芳香族ジオール成分は、さらにアルキレンオキシドを付加させて使用することもできる。例えば、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパンにエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドを付加させた、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキシド付加物またはプロピレンオキシド付加物等があげられる。
【0019】
さらに、前記ジオール成分およびジカルボン酸成分以外の共重合成分として、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−βヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、および、ステアリルアルコール、ヘネイコサノール、オクタコサノール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステル等の三官能以上の多官能成分、等の一種または二種以上をジカルボン酸成分に対して1モル%以下の量で用いることができる。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムは、ジカルボン酸成分が、テレフタル酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分とを用いることが好ましいが、さらに好ましいジカルボン酸成分は、テレフタル酸である。テレフタル酸がジカルボン酸成分の90モル%以上であることが好ましく、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98.5モル%以上である。テレフタル酸の占める割合が前記範囲未満では、ポリエステル樹脂をフィルムなどに成形した場合その機械的強度、耐熱性が劣る傾向となる。
【0021】
また、ジオール成分については、主成分としてエチレングリコールを、共重合成分として、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメチロール等の脂環式ジオール、および、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオールを含ませることが好ましく、本発明においては、ジオール成分の共重合成分として、1,4−シクロヘキサンジメタノール(以下、CHDMと表現することもある)を必須とするものである。
【0022】
エチレングリコールが、ジオール成分の90モル%以上であることが好ましく、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは96モル%以上である。エチレングリコールの占める割合が前記範囲未満では、ポリエステル樹脂をフィルムなどに成形した場合、その機械的強度、耐熱性が劣る傾向となる。
【0023】
本発明において、1,4−シクロヘキサンジメタノールのジオール成分中の占める割合は、0.5〜2.0モル%である。1,4-シクロヘキサンジメタノールが0.5モル%未満では、フィルムの結晶化度が高いため、高温高湿度環境下に保持すると結晶化が促進されやすく、脆性破壊が起こりやすいため、耐加水分解性が低下する。一方、1,4-シクロヘキサンジメタノールが2.0モル%より多いと、フィルムの耐熱性低下に伴い、耐加水分解性も劣る。
【0024】
本発明のリエステルフィルム中のポリエステル樹脂の固有粘度(IV)は、0.70dl/g以上、好ましくは0.71dl/g以上である。ポリエステルフィルム中のポリエステル樹脂の固有粘度(IV)を0.70dl/g以上とすることにより、長期耐久性や耐加水分解性が良好なフィルムとすることができる。一方、ポリエステルフィルムの極限粘度の上限はないが、重縮合反応の効率、溶融押出工程での圧力上昇防止の点から0.90dl/g程度が上限となる。
【0025】
本発明のポリエステルフィルムの末端カルボキシル基量(AV)が26当量/トン以下、好ましくは24当量/トン以下である。末端カルボキシル基量(AV)が26当量/トンを超えると、ポリエステルフィルムの耐加水分解性が劣る。下限については特に設けないが、重縮合反応の効率、溶融押出工程での熱分解等の点から通常は5当量/トン程度である。
【0026】
本発明のフィルムはチタン元素を含有する必要があり、その含有量は通常10重量ppm以下であり、好ましくは8重量ppm以下、さらに好ましくは7重量ppm以下である。下限については特に設けないが、実際には1ppm程度が現在の技術では下限となる。チタン化合物の含有量が多すぎると、ポリエステルを溶融押出する工程で分解が起こりやすく、末端カルボキシル基量AVが高くなるため耐加水分解性が低下しやすい傾向がある。また、チタン元素を全く含まない場合、ポリエステル原料製造時の生産性が劣り、目的の重合度に達したポリエステル原料を得られない。
【0027】
本発明のフィルムのリン元素は、通常はリン化合物に由来するものであり、ポリエステル製造時に添加される必須成分である。本発明においては、ポリエステル成分中のリン元素量は通常70重量ppm以下の範囲であり、好ましくは50重量ppm以下であり、さらに好ましくは40重量ppm以下である。下限については特に設けないが、実際には1重量ppm程度が現在の技術では下限となる。リン元素量が多すぎると、製膜後のフィルムの加水分解が促進することになる傾向がある。
【0028】
リン化合物としては、具体的には、例えば、正リン酸、ポリリン酸、および、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(トリエチレングリコール)ホスフェート、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、モノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート等のリン酸エステル等の5価のリン化合物、並びに、亜リン酸、次亜リン酸、および、トリメチルホスファイト、ジエチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリスドデシルホスファイト、トリスノニルデシルホスファイト、エチルジエチルホスホノアセテート、トリフェニルホスファイト等の亜リン酸エステル等が挙げられ、中でも、重縮合反応速度制御性の面から、5価のリン化合物のリン酸エステルが好ましく、トリメチルホスフェート、エチルアシッドホスフェートが特に好ましい。
【0029】
本発明のポリエステルフィルム中には、周期表第2族から選ばれる原子の化合物を必須成分として含有する必要があり、当該化合物の具体例としてはマグネシウム化合物が挙げられる。当該化合物の含有量は、原子として好ましくは8重量ppm以上、さらに好ましくは10重量ppm以上である。一方、好ましくは40重量ppm以下、さらに好ましくは30重量ppm以下、特に好ましくは20重量ppm以下である。ポリエステルフィルム中に占める周期表第2族から選ばれる原子の化合物の含有量が少なすぎると、溶融成形してフィルムを製造するとき、フィルムの高速製膜が困難となる傾向がある。一方、周期表第2族から選ばれる原子の化合物を多く含んだポリエステル樹脂を用いて溶融成形を行うと、樹脂の末端カルボキシル基量AVが多くなり、得られるポリエステルフィルムの熱安定性、耐加水分解性が劣る傾向がある。なお、周期表第2族から選ばれる原子の化合物を、製膜時に直接添加する場合は、必ずしも、樹脂の末端カルボキシル基量AVが多くなるとは限らない。
【0030】
本発明のポリエステルフィルムの285℃における体積固有抵抗値(ρV)は60×10Ω・cm以下であることが好ましく、さらに好ましくは40×10Ω・cm以下であり、特に好ましくは10×10Ω・cm以下である。ポリエステルフィルムの285℃における体積固有抵抗値ρVが大きすぎると、フィルムを製造するとき、樹脂の体積固有抵抗値ρVが高くフィルムの高速製膜が困難となる傾向がある。
【0031】
本発明で使用するポリエステル樹脂の製造方法としては、基本的には、公知のポリエステル樹脂の製造方法により製造することができる。すなわち、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、必要に応じて用いられる共重合成分等と共に、スラリー調製槽に投入し、攪拌下に混合して原料スラリーとなし、該原料スラリーをエステル化反応槽で常圧〜加圧下、加熱下で、エステル化反応させた後、得られたエステル化反応生成物としてのポリエステル低分子量体を重縮合槽に移送し、常圧から漸次減圧としての減圧下、加熱下で、溶融重縮合させることによりさらに必要に応じて固相重縮合させることにより、製造できる。反応は回分法でも連続法でも行える。
【0032】
本発明で使用するポリエステルフィルムには、微粒子を含有させることが、フィルムの巻上げ工程、塗工工程、蒸着工程等での作業性を向上させる上で望ましい。この微粒子としてはシリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、リン酸リチウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、フッ化リチウム、酸化アルミニウム、カオリン等の無機粒子やアクリル樹脂、グアナミン樹脂等の有機粒子や触媒残差を粒子化させた析出粒子を挙げる事ができるが、これらに限定されるものではない。これら粒子の中では、一時粒子の凝集粒子である多孔質シリカ粒子が特に好ましい。多孔質シリカ粒子はフィルムの延伸時に粒子周辺にボイドが発生しにくいため、フィルムの透明性を向上させる特長を有する。
【0033】
この多孔質シリカ粒子を構成する一次粒子の平均粒径は0.001〜0.1μmの範囲であることが好ましい。一次粒子の平均粒径が0.001μm未満ではスラリー段階で解砕により極微細粒子が生成し、これが凝集体を形成して、ヘーズが高くなる原因となることがある。一方、一次粒子の平均粒径が0.1μmを超えると、粒子の多孔性が失われ、その結果、ボイド発生が少ない特長が失われることがある。
【0034】
さらに、凝集粒子の細孔容積は、通常0.5〜2.0ml/g、好ましくは0.6〜1.8ml/gの範囲である。細孔容積が0.5ml/g未満では、粒子の多孔性が失われ、ボイドが発生しやすくなり、フィルムの透明性が低下する傾向がある。細孔容積が2.0ml/gより大きいと、解砕、凝集が起こりやすく、粒径の調整を行うことが困難となる場合がある。
【0035】
本発明におけるポリエステルフィルムに粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用し得る。例えば、上述のポリエステル樹脂を製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後重縮合反応開始前の段階でエチレングリコール等に分散させたスラリーとして添加し重縮合反応を進めてもよい。また、粒子をポリエステル樹脂と粒子を含んだポリエステル樹脂を、予めブレンド後ベント付き押出機で溶融混練する方法でも良い。その他、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0036】
なお、本発明のポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、熱安定剤、潤滑剤、帯電防止剤、染料を添加することができる。
【0037】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10〜500μm、好ましくは15〜400μm、さらに好ましくは20〜300μmの範囲である。
【0038】
本発明においては、ポリエステルの溶融押出機を2台または3台以上用いて、いわゆる共押出法により2層または3層以上の積層フィルムとすることができる。層の構成としては、A原料とB原料とを用いたA/B構成、またはA/B/A構成、さらにC原料を用いてA/B/C構成またはそれ以外の構成のフィルムとすることができる。
【0039】
以下、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法に関して具体的に説明するが、本発明の要旨を満足する限り、本発明は以下の例示に特に限定されるものではない。
【0040】
すなわち、公知の手法により乾燥したまたは未乾燥のポリエステルチップ(ポリエステル成分)を混練押出機に供給し、ポリエステル成分の融点以上である温度に加熱し溶融する。次いで、溶融したポリエステルをダイから押出し、回転冷却ドラム上でガラス転移温度以下の温度になるように急冷固化し、実質的に非晶状態の未配向シートを得る。この場合、シートの平面性を向上させるため、シートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、本発明においては静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。溶融押出工程においても、条件により末端カルボキシル基量が増加するので、本願発明においては、押出工程における押出機内でのポリエステルの滞留時間を短くすること、一軸押出機を使用する場合は原料をあらかじめ水分量が通常50ppm以下、好ましくは30ppm以下になるように十分乾燥すること、二軸押出機を使用する場合はベント口を設け、通常40ヘクトパスカル以下、好ましくは30ヘクトパスカル以下、さらに好ましくは20ヘクトパスカル以下の減圧を維持すること等の方法を採用する。
【0041】
本発明においては、このようにして得られたシートを二軸方向に延伸してフィルム化する。延伸条件について具体的に述べると、前記未延伸シートを好ましくは縦方向に70℃〜145℃で2〜6倍に延伸し、縦一軸延伸フィルムとした後、横方向に90℃〜160℃で2〜6倍延伸を行い、熱固定工程に移る。
【0042】
熱固定温度はポリエステルフィルムの厚みにより好ましい範囲が異なる。すなわち、ポリエステルフィルムが50μmの厚みであれば、200℃〜245℃で1秒〜600秒間の熱処理を行うことが好ましく、さらに好ましくは210℃〜240℃であり、特に好ましくは215℃〜235℃である。熱固定温度が200℃未満であると、長手方向の収縮率が高すぎて、実用に供することができないことがある。一方、熱固定温度が245℃より高いと、結晶性が高くなり、耐加水分解性を初めとする長期耐久性の良好なポリエステルフィルムを得ることができないことがある。ポリエステルフィルムが75μmの厚みであれば、195℃〜245℃で1秒〜600秒間の熱処理を行うことが好ましく、さらに好ましくは205℃〜240℃であり、特に好ましくは210℃〜235℃である。熱固定温度が195℃未満であると、長手方向の収縮率が高すぎて、実用に供することができないことがある。一方、熱固定温度が245℃より高いと、結晶性が高くなり、耐加水分解性を初めとする長期耐久性の良好なポリエステルフィルムを得ることができないことがある。ポリエステルフィルムが125μmの厚みであれば、190℃〜235℃で1秒〜600秒間の熱処理を行うことが好ましく、さらに好ましくは195℃〜230℃であり、特に好ましくは205℃〜225℃である。熱固定温度が190℃未満であると、長手方向の収縮率が高すぎて、実用に供することができないことがある。一方、熱固定温度が230℃より高いと、結晶性が高くなり、耐加水分解性を初めとする長期耐久性の良好なポリエステルフィルムを得ることができないことがある。ポリエステルフィルムが188μmの厚みであれば、190℃〜230℃で1秒〜600秒間の熱処理を行うことが好ましく、さらに好ましくは195℃〜227℃であり、特に好ましくは200℃〜227℃である。熱固定温度が190℃未満であると、長手方向の収縮率が高すぎて、実用に供することができないことがある。一方、熱固定温度が230℃より高いと、結晶性が高くなり、耐加水分解性を初めとする長期耐久性の良好なポリエステルフィルムを得ることができないことがある。
【0043】
ポリエステルフィルムの脆性破壊性も含んだ耐加水分解性は、フィルム全体に関連する特性であり、本願発明においては、共押出による積層構造を有するフィルムの場合、当該フィルムを構成するポリエステル全体に対し、ポリエステル樹脂として、1,4−シクロヘキサジメタノール成分量、固有粘度、末端カルボキシル基量、チタン元素、リン元素の含有量、周期表第2族から選ばれる原子の化合物の含有量のそれぞれが上記を満足することが必要である。
【0044】
本発明において、ポリエステルフィルム中のポリエステル成分の末端カルボキシル基量を特定範囲とするため、例えば、ポリエステルチップの押出工程における押出機内でのポリエステル成分の滞留時間を短くすることなどによってポリエステルフィルムは得られる。また、低末端カルボキシル基量のポリエステルチップを製膜することで、末端カルボキシル基量が特定範囲のポリエステルフィルムを得てもよい。また、フィルム製造において、溶融工程を経た再生原料を配合するとポリエステル成分の末端カルボキシル基量が特定範囲から外れて増大する傾向があるので、本願発明においてはかかる再生原料を配合しないことが好ましく、配合するとしても40重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。
【0045】
本発明においては、前記延伸工程においてまたはその後に、フィルムに接着性、帯電防止性、滑り性、離型性等を付与するために、フィルムの片面または両面に塗布層を形成したり、コロナ処理等の放電処理を施したりすることなどもできる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、この実施例に限定されるものではない。なお、フィルムの諸物性の測定および評価方法を以下に示す。
【0047】
(1)ポリエステルの全ジオール成分に対するCHDM成分の比率(モル%)
H−NMRによりCHDM成分の比率を求めた。
【0048】
(2)固有粘度(dl/g)
粉砕した樹脂またはフィルム試料0.5gを、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒中に溶解し、毛細管粘度計を用いて、1.0(g/dl)の濃度の溶液の流下時間、および、溶媒のみの流下時間を測定し、それらの時間比率から、Hugginsの式を用いて、極限粘度を算出した。その際、Huggins定数を0.33と仮定した。
【0049】
(3)末端カルボキシル基量AV(当量/トン)
いわゆる滴定法によって、末端カルボキシル基量の量を測定した。試料を粉砕した後、熱風乾燥機にて140℃で15分間乾燥させ、デシケーター内で室温まで冷却した試料から、0.1gを精秤して試験管に採取し、ベンジルアルコール3mlを加えて、乾燥窒素ガスを吹き込みながら195℃、3分間で溶解させ、次いで、クロロホルム5mlを徐々に加えて室温まで冷却した。この溶液にフェノールレッド指示薬を1〜2滴加え、乾燥窒素ガスを吹き込ながら攪拌下に、0.1Nの水酸化ナトリウム溶液(溶媒種:水/メタノール/ベンジルアルコール)で滴定し、黄色から赤色に変じた時点で終了とした。また、ブランクとして試料を使用せずに同様の操作を実施し、末端カルボキシル基量を次式より求めた。
末端カルボキシル基量(当量/トン)=(A−B)×0.1×f/W
(ここで、Aは滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μl)、Bはブランクでの滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μl)、Wは試料の量(g)、fは0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価である。)
なお、0.1Nの苛性ソーダのベンジルアルコール溶液の力価(f)は、試験管にメタノール5mlを採取し、フェノールレッドのエタノール溶液を指示薬として1〜2滴加え、0.1Nの苛性ソーダのベンジルアルコール溶液0.4mlで変色点まで滴定し、次いで、力価既知の0.1Nの塩酸水溶液を標準液として0.2ml採取して加え、再度、0.1Nの苛性ソーダのベンジルアルコール溶液で変色点まで滴定した(以上の操作は、乾燥窒素ガス吹き込み下で行った)。以下の式によって力価(f)を算出した。
力価(f)=0.1(N)の塩酸水溶液の力価×0.1Nの塩酸水溶液の採取量(μl)/0.1Nの苛性ソーダのベンジルアルコール溶液の滴定量(μl)
【0050】
(4)元素含有量(重量ppm)
蛍光X線分析装置(島津製作所社製型式「XRF−1800」)を用いて、チタン元素(Ti)、リン元素(P)、マグネシウム(Mg)の含有量を測定した。樹脂もフィルムも一度溶融してディスク状に成型したものを試験片とした。
【0051】
(5)体積固有抵抗ρV(Ω・cm)
フィルム20gを、内径20mm、長さ180mmの枝付き試験管に入れ、管内を十分に窒素置換した後、160℃のオイルバス中に浸漬し、管内を真空ポンプで1Torr以下として4時間真空乾燥し、次いで、オイルバス温度を285℃に昇温して樹脂試料を溶融させた後、窒素復圧と減圧を繰り返して混在する気泡を取り除いた。この溶融体の中に、面積1cmのステンレス製電極2枚を5mmの間隔で並行に(相対しない裏面を絶縁体で被覆)挿入し、温度が安定した後に、抵抗計(ヒューレット・パッカード社製「MODEL HP4339B」)で電極間に直流電圧100Vを印加し、そのときの抵抗値から体積固有抵抗値(Ω・cm)を求めた。
【0052】
(6)製膜性(静電印加密着性)
ポリエステル樹脂試料を290℃で溶融押し出し、静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して未延伸シートを得た。その際、シートのロール面側に束縛気泡が発生せず、安定して巻き取れるシート巻取り速度より、以下のように静電印加密着性を評価することにより、フィルム製膜性を評価した。静電印加密着性が良好になるほど、高速製膜性に優れ、フィルム製膜性が向上する。4段階評価による巻取り速度と静電印加密着性の関係を下記表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
(7)耐加水分解性
パーソナルプレッシャークッカー装置(平山製作所社製)を用いて、ポリエステルフィルムを120℃−100%RHの雰囲気にてフィルムを96時間処理する。オートグラフAG-I(島津製作所社製)にて、得られたフィルムの製膜方向とは垂直方向(TD方向)に対し、200mm/分の速度で、フィルムの機械的特性として破断伸度を測定した。処理前後での破断伸度の維持率(%)を下記の式にて算出し、下記の基準で評価した。
破断伸度維持率[%]=処理後の破断伸度÷処理前の破断伸度×100
○:維持率が30%以上
△:維持率が5〜30%
×:維持率が5%未満
保持率が高いほうが良好な耐加水分解性であることを示す。
【0055】
[製造例1]<ポリエステル樹脂(1)の製造法>
精留塔を備えた攪拌機付きエステル交換反応槽にジメチルテレフタレート1700重量部、エチレングリコール1200重量部を仕込み、エステル交換反応触媒として酢酸マグネシウム四水塩1.39重量部をエチレングリコール溶液として添加し、反応温度150〜240℃、常圧下、反応によって生じるメタノールを留去させつつ、エステル交換反応を行い反応時間4時間にてエステル交換反応生成物としてのポリエステル低分子量体(オリゴマー、エステル交換反応率99.5%)を得た。このオリゴマーを留出管を備えた攪拌機付き重縮合反応槽に移送した。移送後のオリゴマーに平均分子量140.01のエチルアシッドホスフェート0.57重量部を、20分後にテトラブチルチタネート0.24重量部をそれぞれエチレングリコール溶液として添加した。さらに、シリカ粒子51重量部を添加した。シリカ粒子はエチレングリコール中に分散させスラリー状として添加した(シリカ粒子:富士シリシア製 SL320)。シリカ粒子添加後、反応槽内を常圧から徐々に0.2kPaまで減圧にするとともに反応温度を240℃から280℃に昇温しその後280℃にて重縮合反応を行い、減圧開始から214分後、常圧に戻して反応終了とし、反応槽底部より重縮合物をストランド状に押し出し、水冷しつつカッティングしポリエステル樹脂(1)のペレットを得た。得られたポリエステル樹脂(1)のIV、AV、元素含有量を以下および下記表2に示す。
固有粘度IV=0.643dl/g
末端カルボキシル基量AV=24当量/トン
チタン含有量=20重量ppm
マグネシウム含有量=93重量ppm
リン含有量=74重量ppm
【0056】
[製造例2]<ポリエステル樹脂(2)の製造法>
精留塔を備えた攪拌機付きエステル交換反応槽にジメチルテレフタレート1700重量部、エチレングリコール1200重量部を仕込み、エステル交換反応触媒として酢酸マグネシウム四水塩1.50重量部をエチレングリコール溶液として添加し、反応温度150〜240℃、常圧下、反応によって生じるメタノールを留去させつつ、エステル交換反応を行い反応時間4時間にてエステル交換反応生成物としてのオリゴマー(エステル交換反応率99.5%)を得た。このオリゴマーを留出管を備えた攪拌機付き重縮合反応槽に移送した。移送後のオリゴマーに酢酸マグネシウム四水塩1.50重量部をエチレングリコール溶液として添加し、5分後にエチルアシッドホスフェート1.45重量部をさらに5分後に、三酸化アンチモン0.76重量部をそれぞれエチレングリコール溶液として添加した。さらに、シリカ粒子51重量部を添加した。シリカ粒子はエチレングリコール中に分散させスラリー状として添加した。シリカ粒子添加後、反応槽内を常圧から徐々に0.2kPaまで減圧にするとともに反応温度を240℃から280℃に昇温しその後280℃にて重縮合反応を行い、減圧開始から272分後、常圧に戻して反応終了とし、反応槽底部より重縮合物をストランド状に押し出し、水冷しつつカッティングしポリエステル樹脂(2)のペレットを得た。ポリエステル樹脂(2)のIV、AV、元素含有量を以下、および表2に示す。
固有粘度IV=0.650dl/g
末端カルボキシル基量AV=60当量/トン
チタン含有量=0重量ppm
マグネシウム含有量=200重量ppm
リン含有量=190重量ppm
【0057】
[製造例3]<ポリエステル樹脂(3)>
スラリー調製槽、およびそれに直列に接続された2段のエステル化反応槽、および2段目のエステル化反応槽に直列に接続された3段の溶融重縮合槽からなる連続重合装置を用い、スラリー調製槽に、テレフタル酸とエチレングリコールを重量比で865:485の割合で連続的に供給すると共に、エチルアシッドホスフェートの0.3重量% エチレングリコール溶液を、得られるポリエステル樹脂1トン当たりのリン原子としての含有量P が6重量ppmとなる量で連続的に添加して、攪拌、混合することによりスラリーを調製し、このスラリーを、窒素雰囲気下で260℃ 、相対圧力50kPaG 、平均滞留時間4時間に設定された第1段目のエステル化反応槽、次いで、窒素雰囲気下で260℃、相対圧力5kPaG 、平均滞留時間1.5時間に設定された第2段目のエステル化反応槽に連続的に移送して、エステル化反応させた。
また2段目反応槽には槽上部に設けた配管を通じて、酢酸マグネシウム4水和物の0.6重量%エチレングリコール溶液を、得られるポリエステル樹脂1トン当たりのマグネシウム原子としての含有量Mが6重量ppmとなる量で連続的に添加した。引き続いて、前記で得られたオリゴマーを連続的に溶融重縮合槽に移送する際、その移送配管中のオリゴマーに、テトラ−n−ブチルチタネートを、チタン原子の濃度0.15重量%、水分濃度を0.5重量%としたエチレングリコール溶液として、得られるポリエステル樹脂1トン当たりのチタン原子としての含有量が4重量ppmとなる量で連続的に添加しつつ、270℃、2.6kPaに設定された第1段目の溶融重縮合槽、次いで、278℃、圧力0.5kPaに設定された第2段目の溶融重縮合槽、次いで、280℃、0.3kPaに設定された第3段目の溶融重縮合槽に連続的に移送して、得られるポリエステル樹脂の固有粘度IVが0.64dl/gとなるように各重縮合槽における滞留時間を調整して溶融重縮合させ、重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口から連続的にストランド状に抜き出して、水冷後、カッターで切断してポリエステル樹脂(3)のペレットを製造した。ポリエステルエステル樹脂(3)のIV、AV、元素含有量を以下および表2に示す。
固有粘度IV=0.650dl/g
末端カルボキシル基量AV=22当量/トン
チタン含有量=4重量ppm
マグネシウム含有量=6重量ppm
リン含有量=6重量ppm
【0058】
[製造例4]<ポリエステル樹脂(4)の製造法>
ポリエステル樹脂(3)を、窒素雰囲気下で約160℃に保持された攪拌結晶化機内に滞留時間が約60分となるように連続的に供給して結晶化させた後、塔型の固相重縮合装置に連続的に供給し、窒素雰囲気大気圧下210℃で、滞留時間16時間、固相重縮合させポリエステル樹脂(4)を得た。ポリエステルエステル樹脂(4)のIV、AV、元素含有量を以下、および表2に示す。
固有粘度IV=0.820dl/g
末端カルボキシル基量AV=12当量/トン
チタン含有量=4重量ppm
マグネシウム含有量=6重量ppm
リン含有量=6重量ppm
【0059】
[製造例5]<ポリエステル樹脂(5)の製造法>
ポリエステル樹脂(3)の製造法においてエチルアシッドホスフェートの添加量をリン原子としての含有量P が10重量ppm、酢酸マグネシウムの添加量をマグネシウム原子としての含有量が15重量ppm、テトラ−n−ブチルチタネートの添加量をチタン原子としての含有量 が0 8重量ppmとなるように変更した以外はポリエステル樹脂(3)の製造法と同様にして行いポリエステル樹脂(5)を得た。ポリエステル樹脂(5)のIV、AV、元素含有量を以下、および表2に示す。
固有粘度IV=0.638dl/g
末端カルボキシル基量AV=28当量/トン
チタン含有量=8重量ppm
マグネシウム含有量=15重量ppm
リン含有量=10重量ppm
【0060】
[製造例6]<ポリエステル樹脂(6)>
ポリエステル樹脂(5)を、窒素雰囲気下で約160℃に保持された攪拌結晶化機内に滞留時間が約60分となるように連続的に供給して結晶化させた後、塔型の固相重縮合装置に連続的に供給し、窒素雰囲気大気圧下210℃で、滞留時間16時間、固相重縮合させポリエステル樹脂(6)を得た。ポリエステル樹脂(6)のIV、AV、元素含有量を以下および表2に示す。
固有粘度IV=0.700dl/g
末端カルボキシル基量AV=24当量/トン
チタン含有量=8重量ppm
マグネシウム含有量=15重量ppm
リン含有量=10重量ppm
【0061】
[製造例7]<ポリエステル樹脂(7)>
出発原料をテレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール54重量部と1,4−シクロヘキサンジメタノール25重量部とし、触媒としてテトラブチルチタネート0.0110重量ppm、リン酸81重量ppmを反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とし、さらに1時間反応を継続した。その後、温度を230℃から徐々に昇温すると共に圧力を常圧より徐々に減じ、最終的に温度を280℃、圧力を0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、固有粘度0.81に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ストランド状に抜き出して、水冷後、カッターで切断してポリエステル樹脂(7)のペレットを製造した。ポリエステル樹脂のIV、AV,元素含有量、CHDM含有量を以下および表2に示す。
固有粘度IV=0.811dl/g
末端カルボキシル基量AV=12当量/トン
チタン含有量=10重量ppm
リン含有量=26重量ppm
CHDM(1,4−シクロヘキサンジメタノール)の含有量=33モル%
【0062】
[製造例8]<ポリエステル樹脂(8)>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム四水塩を0.02部加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃ とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物にエチルアシッドホスフェート0.03部を添加した後、重縮合槽に移し、三酸化アンチモンを0.04部加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ストランド状に抜き出して、水冷後、カッターで切断してポリエステル樹脂ペレット(プレポリマー)を製造した。前記ポリエステル樹脂ペレット(プレポリマー)を出発原料とし、真空下220℃にて固相重合を行って、ポリエステル樹脂(8)を得た。ポリエステル樹脂(8)のIV、AV、元素含有量を以下および表2に示す。
固有粘度IV=0.850dl/g
末端カルボキシル基量AV=34当量/トン
チタン含有量=0重量ppm
マグネシウム含有量=32重量ppm
リン含有量=66重量ppm
【0063】
[製造例9]<ポリエステル樹脂(9)>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩 441重量ppmを加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃ とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物を重縮合槽に移し、正リン酸をリン量が1000重量ppmとなるように添加した後、二酸化ゲルマニウム加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、ポリエステル(9)を得た。ポリエステル樹脂(9)のIV、AV、元素含有量を以下および表2に示す。
固有粘度IV=0.630dl/g
末端カルボキシル基量AV=45当量/トン
チタン含有量=0重量ppm
マグネシウム含有量=69重量ppm
リン含有量=1000重量ppm
【0064】
[製造例10]
精留塔を備えた攪拌機付きエステル交換反応槽にジメチルテレフタレート1700重量部、エチレングリコール1200重量部を仕込み、エステル交換反応触媒として酢酸マグネシウム四水塩0.60重量部(マグネシウムとして40重量ppm/樹脂)をエチレングリコール溶液として添加し、反応温度150〜240℃、常圧下、反応によって生じるメタノールを留去させつつ、エステル交換反応を行い反応時間4時間にてエステル交換反応生成物としてのポリエステル低分子量体(オリゴマー)を得た。このときのエステル交換反応率は低く、重縮合反応に供することができなかった。
【0065】
[製造例11]
精留塔を備えた攪拌機付きエステル交換反応槽にジメチルテレフタレート1700重量部、エチレングリコール1200重量部を仕込み、エステル交換反応触媒として酢酸マグネシウム四水塩1.49重量部(マグネシウムとして100重量ppm/樹脂)をエチレングリコール溶液として添加し、反応温度150〜240℃、常圧下、反応によって生じるメタノールを留去させつつ、エステル交換反応を行い反応時間4時間にてエステル交換反応生成物としてのオリゴマー(エステル交換反応率99.5%)を得た。このオリゴマーを留出管を備えた攪拌機付き重縮合反応槽に移送した。移送後のオリゴマーに酢酸マグネシウム四水塩4.45重量部(マグネシウムとして300重量ppm/樹脂)をエチレングリコール溶液として添加し、5分後にエチルアシッドホスフェート1.45重量部をさらに5分後に、三酸化アンチモン0.76重量部をそれぞれエチレングリコール溶液として添加した。さらに、シリカ粒子51重量部を添加した。シリカ粒子はエチレングリコール中に分散させスラリー状として添加した。シリカ粒子添加後、反応槽内を常圧から徐々に0.2kPaまで減圧にするとともに反応温度を240℃から280℃に昇温しその後280℃にて重縮合反応を行い、272分後、常圧に戻して反応終了とし、反応槽底部より重縮合物をストランド状に押し出し、水冷しながらカッティングしポリエステル樹脂のペレットを得た。この樹脂のIVは0.432dL/gと低く、AVは73当量/トンと多く、フィルムに成形するには適さなかった。
【0066】
実施例1〜7:
ポリエステル樹脂1〜ポリエステル樹脂9のペレットを表3に示す割合で混合し、ベント付き二軸押出機により、290℃で溶融して押し出し、表面温度を40℃に設定した冷却ロール上に、静電印加密着法を適用してキャスティングして未延伸シートを得た。次いで、83℃で縦方向に3.7倍延伸した後、テンターに導き、110℃で横方向に3.9倍延伸し、さらに、220℃で熱処理を行い、厚さ50μmのポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの、CHDM量、IV、AV、元素含有量を下記表3に示す。フィルムのρv、未延伸シートを得る際に行ったフィルム製膜性評価結果(高速製膜性)、およびポリエステルフィルムの耐加水分解性を下記表4に示す。
【0067】
比較例1〜5:
ポリエステル樹脂1〜ポリエステル樹脂9のペレットを表5に示す割合で混合し、ベント付き二軸押出機により、290℃で溶融して押し出し、表面温度を40℃に設定した冷却ロール上に、静電印加密着法を適用してキャスティングして未延伸シートを得た。次いで、83℃で縦方向に3.7倍延伸した後、テンターに導き、110℃で横方向に3.9倍延伸し、さらに、220℃で熱処理を行い、厚さ50μmのポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの、CHDM量、IV、AV、元素含有量を表5に示す。フィルムのρv、未延伸シートを得る際に行ったフィルム製膜性評価結果(高速製膜性)、およびポリエステルフィルムの耐加水分解性を下記表6に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
【表6】

【0073】
ポリエステルフィルムの諸物性(すなわちCHDM含有量、固有粘度、末端カルボキシル基量、元素含有量)が上記の範囲内であれば、耐加水分解性と製膜性の両方を満足するフィルムとなることが実施例からわかるが、上記の範囲外であれば、耐加水分解性もしくは、製膜性を満足できないフィルムとなることが比較例からわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のポリエステルフィルムは、例えば、太陽電池封裏面封止用として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジオール成分中の0.5〜2.0モル%が1,4−シクロヘキサンジメタノールであるポリエステルからなるフィルムであり、固有粘度が0.70dl/g以上であり、末端カルボキシル基量が26当量/トン以下であり、ポリエステルフィルム中に、チタン元素、周期表第2族から選ばれる元素およびリン元素を含有することを特徴とする太陽電池裏面封止用二軸配向ポリエスエルフィルム。
【請求項2】
周期表第2族から選ばれる少なくとも1種の原子がマグネシウムである請求項1に記載の太陽電池裏面封止用二軸配向ポリエスエルフィルム。

【公開番号】特開2011−243761(P2011−243761A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114925(P2010−114925)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】