説明

太陽電池評価装置およびそれに用いられる光源評価装置

【課題】太陽電池の照射光量に対する分光感度の非線形性を補償する。
【解決手段】太陽電池評価装置1におけるソーラシミュレータ(照明光源)3の光量校正を行う光源評価装置10において、分光放射計13によってソーラシミュレータ3の照射光を取込み、その分光放射照度L(λ)を求める。一方、分光感度測定装置5では、白色バイアス光の強度を複数i段階に変化させ、都度、分光光源から輝線照射を行うDSR法によって、太陽電池2の分光感度Pi(λ)=P(λ,Ib)=P(λ,∫L(λ)dλ)を求める。そして演算部14は、2つの分光放射照度S(λ)および分光放射照度L(λ)と分光感度Pi(λ)とから、基準太陽光で規定の短絡電流Istcとなるときの照射光エネルギーEssおよび実際にソーラシミュレータ3による照射光エネルギーEssを求め、両者が一致するようにソーラシミュレータ3の光量をフィードバック制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池を評価するための装置およびそれに用いられる光源評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前記太陽電池は、近年広く普及し、メーカ間、製品間の競争が激しくなっている。また、その組成も、単結晶シリコンから、アモルファスシリコン、薄膜シリコン、有機化合物などの多くの種類が開発されている。そこで、これらの太陽電池の光電変換効率を公正に評価するために、評価方法が、IEC60904やJIS規格(C8905〜C8991)で定義されている。
【0003】
これは、太陽電池は、材料および構造に起因する固有の分光感度特性を有するので、その光電変換特性が、性能評価用の照射光の分光放射照度に大きく依存するためである。そのため、一般に太陽電池の性能測定は、国際的に協定された標準試験条件の下に、基準太陽光の分光放射照度(=S(λ))に近似させた分光放射照度L(λ)を持つソーラシミュレータを用い、屋内で実施されることが多い。
【0004】
しかしながら、ソーラシミュレータは、キセノンランプと光学フィルタとを組み合わせて構成されており、その照明光を前記基準太陽光に近似させるのは非常に難しい。図6は、前記の基準太陽光の分光放射照度S(λ)を示すものであり、IEC60904に示されたものである。また、図7には、ソーラシミュレータの分光放射照度L(λ)の一例を示す。波長域および照度レベルの異なる前記図6とこの図7とを組み合わせると、図8のようになる。図8において、参照符号α1は基準太陽光の分光放射照度S(λ)を示し、参照符号α2はソーラシミュレータの分光放射照度L(λ)を示す。
【0005】
そこで、特許文献1には、相互に異なる波長範囲の光を発する複数の光源(キセノンランプとハロゲンランプ)に、各光源からの光を、波長依存性を有する鏡で選択的に透過/反射させ、その透過/反射光を合成することで、紫外から赤外まで、太陽光に類似のスペクトルを有する光を発生するようにしたソーラシミュレータが提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、ソーラシミュレータの光量変動を補正するために、光源の放射照度を測定し、かつ、この照度測定センサの応答特性を太陽電池自体の応答特性に合わせることで、ソーラシミュレータの光量変動をキャンセルさせている。なお、下記の非特許文献1については、実施の形態において参照する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−235903号公報
【特許文献2】特開2004−134748号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J. Metzdorf “Calibration of solar cells: The differential spectral responsivity method” Applied Optics 1 May 1987 Vol.26 No.9 P.1701
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の技術は、いずれもソーラシミュレータ単体での校正の方法を提案している。しかしながら、ソーラシミュレータには、メーカ間、および同じメーカでも機差が存在しており、それぞれが前述の特性を満足していても、異なるソーラシミュレータで測定すると、発電量が異なってしまうという問題があった。
【0010】
そこで、測定者は、たとえば産業技術総合技術研究所(=国際的に統一された基準太陽光スペクトル等を持っている国立またはそれに準じる機関)に、サンプルとなる太陽電池を送付して測定を依頼する。それに応じて該機関は、所有している限りなく基準太陽光に近い高近似ソーラシミュレータ用いて前記サンプルの自然太陽光AM1.5、100mW/cmにおける短絡電流Iscを求め、測定値(=A)を記載して依頼者に返送する。これを受けて測定者は、返送されて来た前記サンプルを、以降、自社の基準セルとして、ソーラシミュレータの光量調整用に使用している。すなわち、前記基準セルを用いて、その短絡電流IscがAとなるように、ソーラシミュレータの光量を調整してから、実際に測定すべき(検査対象の製品の)太陽電池の特性を測定している。これは、前述のように基準太陽光の分光スペクトルを厳密に再現するのは困難であるが、可能な限り、各社のソーラシミュレータをそれに合せ込むための手法である。
【0011】
ところが、上述の手法では、基準セルによる校正が完了するまでには、測定者がサンプルを作成して郵送し、公的機関がサンプルを測定して返送することが必要であり、時間および費用が掛かるという問題がある。しかも、校正は一度だけ行えばよいのでなく、測定すべき太陽電池の分光感度が変わる都度、新たに基準セルを作成して校正をやり直す必要があり、前記時間および費用は膨大なものになる。
【0012】
そこで、本件発明者は、被測定太陽電池の分光感度P(λ)を予め測定しておき、分光放射照度L(λ)のソーラシミュレータでの照射光による短絡電流をELとするとき、分光放射照度S(λ)での基準太陽光による短絡電流を、
ES=EL・{∫S(λ)・P(λ)dλ}/{∫L(λ)・P(λ)dλ}
から換算することで、前記の基準セルを不要にする太陽電池の評価方法を提案している。
【0013】
しかしながら、上述の手法は、シリコン単結晶太陽電池のように、前記分光感度P(λ)が安定している結晶系太陽電池には有効であるものの、薄膜系の太陽電池(アモルファス、微結晶、化合物系、色素増感、有機系等)において、前記分光感度P(λ)が照射光量によって変化してしまう特性を有するものでは、誤差が生じるという問題がある。
【0014】
本発明の目的は、分光感度が光量によって変化する太陽電池の評価にあたって、照明光源の光量調整を正確に行うことができる光源評価装置およびそれを用いる太陽電池評価装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の光源評価装置は、太陽電池を照明する光源の分光放射照度L(λ)を測定する分光放射計と、予め測定されている基準太陽光の分光放射照度S(λ)を記憶する第1の記憶部と、予め複数iの各照度レベルで測定されている前記太陽電池の白色バイアス光による短絡電流Ibの波長λ毎の依存性:P(λ,Ib)(=P(λ,∫L(λ)dλ))、すなわち波長λ毎の総照射光量)を、前記各照度レベルにおける分光感度Pi(λ)として記憶する第2の記憶部と、前記太陽電池の複数iの各照度レベルにおける分光感度Pi(λ)と、前記基準太陽光の分光放射照度S(λ)と、前記光源の分光放射照度L(λ)とを用いて演算で求める分光感度Ps(λ)を用いて、太陽電池を照明する光源の光量調整用の値を演算する演算部とを含むことを特徴とする。
【0016】
好ましくは、前記演算部は、前記太陽電池の複数iの各照度レベルにおける分光感度Pi(λ)の中から、前記基準太陽光の分光放射照度S(λ)と前記光源の分光放射照度L(λ)との差に対応する分光感度Ps(λ)を選択し、その分光感度Ps(λ)の太陽電池に対して、前記光源からの照明光が実際に光電変換に作用する照度レベルの実効値を、ソーラシミュレータ調整用の短絡電流Iscとして求める。
【0017】
上記の構成によれば、ソーラシミュレータ(照明光源)を備えて構成される太陽電池評価装置などに用いられ、前記ソーラシミュレータ(照明光源)の光量調整などのために用いられる光源評価装置であって、通常、規定通りの光量(1000W/m)となっているかの校正を行うにあたっては、予め短絡電流(Isc)が値付けられた基準太陽電池を用い、その短絡電流(Isc)が所定の値となるように調整されるのに対して、本発明では、前記基準太陽電池に代えて、分光放射計および演算部ならびに分光感度測定装置を用いる。
【0018】
具体的には、前記分光放射計で前記ソーラシミュレータ(照明光源)の分光放射照度L(λ)を測定する一方、第1の記憶部には規格などで予め定められている基準太陽光の分光放射照度S(λ)を記憶しておくとともに、第2の記憶部には前記分光感度測定装置で予め測定した前記太陽電池の複数iの各照度レベルにおける分光感度Pi(λ)を記憶しておく。そして、前記演算部が、前記太陽電池の複数iの各短絡電流レベル(白色バイアス光による短絡電流値Ib)における分光感度Pi(λ)の中から、前記基準太陽光の分光放射照度S(λ)と前記光源の分光放射照度L(λ)との差に対応する分光感度Ps(λ)を選択し、その分光感度Ps(λ)の太陽電池に対して、前記光源からの照明光が実際に光電変換に作用する照度レベルの実効値を演算する。その実効値が前記の規定通りの光量となるように、表示やフィードバック制御などで前記ソーラシミュレータ(照明光源)の光量調整を行えばよい。
【0019】
したがって、前述のような基準太陽電池が不要になり、太陽電池の種類(=分光感度)が変わっても、容易にその太陽電池に規定通りの光量が照射される状態を再現することができ、基準セル作成や校正の費用と時間とを削減することができる。また、前記分光放射照度S(λ)に、任意の光源、たとえばD65光源の数値データを与えることで、前記太陽電池を、その任意の光源で使用した場合の発電量の測定も行えるようになる。同様に、前記基準太陽光の分光放射照度S(λ)を変更することで、地表(AM1.5)でのものであるが、宇宙(AM0)や、任意の地域での発電量の測定も行えるようになる。
【0020】
さらに、本方式では、IEC61215に要求されている200W/m(=0.2Sun)における発電量の測定も、S(λ)を、0.2Sunに変更することで、太陽電池の非線形性を考慮して、ソーラシミュレータの調整用の短絡電流を提供できる。
【0021】
また、前記複数iの各照度レベルにおける分光感度Pi(λ)は、前記太陽電池の白色バイアス光による短絡電流Ibの波長λ毎の依存性:P(λ,Ib)(=P(λ,∫L(λ)dλ)、すなわち波長λ毎の総照射光量)であり、たとえばi段階で放射照度を変化させて、都度、分光感度Pi(λ)を測定するとともに、前記分光放射計で測定された前記分光放射照度L(λ)から、短絡電流ibと放射照度との微分係数を求め、放射照度と短絡電流との関係を求めるので、実際のソーラシミュレータ(照明光源)の分光照度波形から太陽電池に適正な短絡電流を発生する分光放射照度をより正確に求めることができるようになる。
【0022】
さらにまた、本発明の光源評価装置では、前記演算部は、演算結果に応答して、前記光源の光量をフィードバック制御することを特徴とする。
【0023】
その場合、前記演算部は、前記予め複数iの照度で測定されている前記太陽電池の分光感度Pi(λ)と、前記光源の分光放射照度L(λ)とから、絶対分光感度法を用いて、放射照度が基準態様電池の1000W/m相当になるように、前記光源の光量を調整することを特徴とする。
【0024】
上記の構成によれば、前記演算部は、前記予め複数iの照度で測定されている前記太陽電池の分光感度Pi(λ)と、前記光源の分光放射照度L(λ)とから、絶対分光感度法を用いて、放射照度が1000W/mとなるまでの分光感度Pi(λ)を、前記光源の分光放射照度L(λ)での分光感度Ps(λ)として用いる。
【0025】
これによって、前記のように実際に太陽電池の光電変換に作用する照度レベルの実効値が規定通りの値、すなわち1000W/mの時に発生される短絡電流を発生する強度となるように、前記ソーラシミュレータ(照明光源)の光量調整を行うことができる。
【0026】
また、本発明の光源評価装置では、前記演算部は、演算結果を表示することを特徴とする。
【0027】
上記の構成によれば、作業者は、表示を見て、前記のように実際に太陽電池の光電変換に作用する照度レベルの実効値が規定通りの値となるように、前記ソーラシミュレータ(照明光源)の光量調整を行うことができる。
【0028】
さらにまた、本発明の光源評価装置では、前記演算部は、演算結果を外部出力することを特徴とする。
【0029】
上記の構成によれば、パーソナルコンピュータなどの外部の制御装置などによって、前記のように実際に太陽電池の光電変換に作用する照度レベルの実効値が規定通りの値となるように、前記ソーラシミュレータ(照明光源)の光量調整を行うことができる。
【0030】
また、本発明の太陽電池評価装置では、前記の光源評価装置と、前記基準太陽光を模した光を発生し、測定対象の前記太陽電池に照射する前記光源としてのソーラシミュレータと、前記ソーラシミュレータからの照射光による前記太陽電池の発電特性を測定する電流・電圧計を備えることを特徴とする。
【0031】
上記の構成によれば、前述のように太陽電池の入射光量に対する分光感度Pi(λ)の非線形性を考慮して、前記基準太陽光の照射光での発電特性をより正確に求めることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の光源評価装置およびそれを用いる太陽電池評価装置は、以上のように、分光放射計でソーラシミュレータ(照明光源)の分光放射照度L(λ)を測定する一方、第1の記憶部には基準太陽光の分光放射照度S(λ)を記憶しておくとともに、第2の記憶部には太陽電池の複数iの各照度レベルにおける分光感度Pi(λ)を記憶しておき、演算部が、前記太陽電池の複数iの各短絡電流レベル(バイアス光による短絡電流レベルIb)における分光感度Pi(λ)、ソーラシミュレータによる短絡電流Iscを発生するための分光放射照度を求める。
【0033】
それゆえ、照射照度により太陽電池の分光感度が変化する太陽電池においても、容易にその太陽電池に規定通りの照度が照射される状態を再現することができるので、基準セルを作成し、公的機関で値付けする為の、費用と時間とを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施の一形態に係る太陽電池評価装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の一形態に係る太陽電池評価装置における分光感度の考え方を説明するための図である。
【図3】多結晶シリコン太陽電池における分光感度の照度依存性を示すグラフである。
【図4】太陽電池の短絡電流と照射光エネルギーEおよびその微分応答との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の一形態に係るソーラシミュレータの光量調整の方法を説明するためのフローチャートである。
【図6】基準太陽光による分光放射照度を示すグラフである。
【図7】一例のソーラシミュレータの分光放射照度を示すグラフである。
【図8】基準太陽光と一例のソーラシミュレータとの分光放射照度の違いを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、本発明の実施の一形態に係る光源評価装置10を備える太陽電池評価装置1の構成を示すブロック図である。この太陽電池評価装置1は、前記JIS規格(C8912)で定義されている基準太陽光を模した光を発生し、測定対象の太陽電池2に照射する従来からのソーラシミュレータ(照明光源)3と、その照射光による前記太陽電池2の発電特性(短絡電流Iscなど)を測定する電流・電圧計4と、前記光源評価装置10とを備えて構成される。
【0036】
注目すべきは、本発明の太陽電池評価装置1では、ソーラシミュレータ3からの照明光の照射にあたって、その光量を前記光源評価装置10を用いて調整することである。調整の際は、測定対象の太陽電池2に代えて、この光源評価装置10が、そのまま被照射領域に配置されて光量を測定するようにしてもよく、あるいは、この図1で示すように、ソーラシミュレータ3から太陽電池2への光路にミラー7が介在され、そのミラー7によって、前記ソーラシミュレータ3による照射光の一部の光を反射(たとえば99%を通過、1%を反射)させて該光源評価装置10に入射させてもよい。
【0037】
基準太陽光の分光放射照度S(λ)のデータは、前述のように予めIECなどで規定されたものであり、記録媒体や通信ネットワークなどを介して頒布され、前記第1の記憶部11に格納されている。
【0038】
また、測定対象の太陽電池2の分光感度Pi(λ)は、分光感度測定装置5において、オフライン処理によって、予め前記複数i段階に照度を変化させて、都度、分光感度P(λ)が測定されたものを、前記記録媒体や通信ネットワークなどを介して第2の記憶部12に格納されている。ここで、太陽電池2の分光感度Pi(λ)の測定方法については、JIS規格(C8915)には、2つ定義されている。先ず第1は、単色光照射(半値幅が5nm以下で、25nmピッチで単色の光照射)を行い、それによる太陽電池2からの電流を逐次求めるものである。第2は、放射照度1000W/mの白色バイアスの光照射を行いつつ、前記単色光を照射し、太陽電池2からの電流を逐次求めるものである。標準測定条件では、基準太陽光が照射されているので、白色バイアスが印加された状態での分光感度が必要になる。また、単結晶等の分光感度が照度依存性のない太陽電池の場合、第1の方法でもよいが、分光感度に照度依存性のある太陽電池では、第2の方法による分光感度が必要となる。このため、本実施の形態では、第2の測定方法を用いる。
【0039】
前記光源評価装置10では、前記基準太陽光による前記図6で示す分光放射照度S(λ)のデータを記憶している第1の記憶部11と、予め複数iの照度で測定されている前記太陽電池2の分光感度Pi(λ)のデータを記憶している第2の記憶部12とのデータから、演算部14が、後述するようにして、理論上の短絡電流Iscrefを求め、表示部15に表示する。
【0040】
Iscref=∫Pi(λ)*S(λ)dλ ・・・(1)
ここに、Pi(λ)は、基準太陽光と同じ放射照度で測定された太陽電池の分光感度である。以下、これを1Sunと記す。
【0041】
また、前記光源評価装置10では、ソーラシミュレータ3から太陽電池2への照明光が入射されると、分光放射計13で測定された分光放射照度L(λ)と、前記分光感度Pi(λ)とのデータから、演算部14が、下式から、短絡電流Iscを求め、表示部15に表示する。
【0042】
Isc=∫Pi(λ)*L(λ)dλ ・・・(2)
前記演算部14での短絡電流Iscの演算結果は、上述のように表示部15に表示されるとともに、該演算部14は、その演算結果に応じた光量制御信号CTLを作成し、Isc=Iscrefとなるように、ソーラシミュレータ3の光量調整を行う。該演算部14はまた、演算結果を外部のパーソナルコンピュータなどに出力して、それらの外部機器を介して、ソーラシミュレータ3の光量調整等を行うようにしてもよい。
【0043】
以下に、前記複数iの分光感度Pi(λ)の求め方を詳しく説明する。本実施の形態は、非特許文献のJ.Metzdorf が提唱しているDifferential spectral responsivity method[以下、DSRと記す]を用いて、非線形特性を持つ太陽電池測定におけるソーラシミュレータの光量調整方法を提供する。
【0044】
先ず、以下に前記DSR(1000W/mの照度下での分光感度であることを保証する方式)方式の要約を説明するが、詳細は非特許文献1に示されている。本実施の形態では、DSR方式で使用している照射強度量として、分光放射計13で測定している分光放射照度の積分値を用いていることが特徴となる。
【0045】
図3は、前記光源評価装置10における分光感度Pi(λ)の考え方を説明するための図である。図3に示すように、太陽電池に照射する照射強度が増え、短絡電流が増加するに従い、長波長の分光感度が増加する。この様子を、図3の参照符号F0;F1,F2,F3,・・・(F0は、F1,F2,F3,・・・の集合図、すなわち図3を模式化したもの)の図に示す。これらのF1,F2,F3,・・・の図を、照射強度を横軸に、短絡電流を縦軸に変換すると、参照符号Faの図に示すように、照射強度がΔEだけ変化した場合、短絡電流がΔI変化することになる。
【0046】
ここで、線形の太陽電池の場合、Faの傾きは照射強度に依存せず、一定の値のため、照射強度と短絡電流との関係を示すグラフは直線になるが、太陽電池が非線形特性を持つ場合、照射強度により傾きが異なるため、Faに示すような曲線になる。この例では、照射光エネルギーが増えるに従い、長波長側の感度が増えて、ΔI/ΔEの値が大きくなり、直線でなくなっている。
【0047】
そこで、分光放射照度L(λ)と、短絡電流Iscとの関係を求めるためには、様々な太陽電池の短絡電流(ib)において分光感度Pi(λ,ib)を求めておき、このP(λ,ib)と分光感度測定時の照射強度A(λ)との関係を、微分応答として下記で求められる。先ず、照射エネルギーの変化分ΔE(λ)としては、kを小さい値の数値として、
ΔE(λ)=k×A(λ) ・・・(3)
であり、短絡電流Iの変化分ΔI(λ)は、
ΔI(λ)=P(λ,ib)×ΔE(λ) ・・・(4)
であり、全エネルギーの変化分ΔE(I)は、
ΔE(I)=∫ΔE(λ)dλ=∫k×A(λ)dλ ・・・(5)
となり、全短絡電流の変化分ΔIは、
ΔI=∫ΔI(λ)dλ=∫P(λ,ib)×ΔE(λ)dλ
=∫P(λ,ib)×k×A(λ)dλ ・・・(6)
となる。そして、特定のスペクトルの光による照射強度の微少変化(dE)による短絡電流の微少変化(dI)の関係P(ib)は、
【0048】
【数1】

【0049】
となる。
【0050】
上式7により、短絡電流Ibの値と照射光エネルギーEの値との間の微分応答が、図4(a)のように求められる。図4(a)に示す関係は、照射光の分光放射照度の波形A(λ)に依存して変化する。
【0051】
そして、式7で得られる微分応答の逆数を、下式で示すように、0から特定の短絡電流値Iの範囲まで積分することにより、照射光エネルギーE(I)を求めることができる。
【0052】
【数2】

【0053】
上式8に示される光エネルギーEは、積分範囲上限となるIの関数となる。同時に、この特定分光放射照度波形による放射強度Eとそれにより発生する太陽電池短絡電流Iとの関係は、図4(b)に示すように分光放射照A(λ)に依存する。
【0054】
また、前記式7の計算において、A(λ)をAM1.5のスペクトルとし、上式8により図4(b)の関係を求め、下式で示すように、照射光エネルギーEstcの値が前記1000W/mとなる場合の短絡電流Istcを算出すれば、その値が、基準太陽光で照明した場合の太陽電池2の短絡電流となる。
【0055】
【数3】

【0056】
他方、実際のソーラシミュレータ3で照明した場合の照射強度Essは、
【0057】
【数4】

【0058】
となる。
【0059】
こうして求められたソーラシミュレータ3の光エネルギーEssが実現するように、前記演算部14が分光放射照度L(λ)の測定を繰り返すことにより、適正なソーラシミュレータ強度に調整することができる。
【0060】
図5は、上述のようなソーラシミュレータ3の光量調整の様子を説明するためのフローチャートである。先ずステップS101では、色々な分光放射照度A(λ)での分光感度P(λ,ib)が測定される。次に、ステップS102では、各分光感度P(λ,ib)でのAM1.5の基準スペクトルに対する短絡電流値(ib)での微分応答が、前記式7の計算によって求められる。続いてステップS103では、その微分応答を前記式8に従い積分し、短絡電流Iと照射光エネルギーEとの関係を求める。さらにステップS104では、前記照射光エネルギーEが1000W/mとなる標準状態での短絡電流Istcが前記式9で求められる。
【0061】
一方、前記ステップS101からはまた、ステップS105に移り、各分光感度P(λ,ib)でのソーラシミュレータ3からの分光放射照度L(λ)のスペクトルに対する短絡電流値(ib)での微分応答が、前記式7の計算によって求められる。続いてステップS106では、その微分応答を前記式8に従い積分し、短絡電流Iと照射光エネルギーEとの関係を求める。さらにステップS107では、前記ステップS104で求められた短絡電流Istcとなるときの照射光エネルギーEssが前記式10で求められる。
【0062】
一方、ステップS111ではソーラシミュレータ3の分光放射照度L(λ)の測定が行われ、ステップS112ではソーラシミュレータ3で照射された照射光エネルギーが求められており、ステップS108では、前記ステップS107で求められた照射光エネルギーEstcと、前記ステップS112で求められたソーラシミュレータ3の実際の照射光エネルギーEssとが一致しているか否かが判断され、一致している場合には光量調整動作を終了し、一致していない場合にはステップS109に移って、ソーラシミュレータ3の照射光強度を調整し、再度ステップS111で分光放射照度L(λ)の測定が行われた後、前記ステップS105に戻る。
【0063】
このようにして、基準太陽光で求められた照射エネルギー量Estcによる短絡電流Iscrefと、ソーラシミュレータ3の照射エネルギー量Essによる短絡電流Iscとの値を一致させることで、基準太陽光とは異なる分光放射照度でも、正確に基準太陽光照明と同等の短絡電流になるように調整することができる。なお、前記ソーラシミュレータ3の照射エネルギー量Essの調整は、前記演算部14が、前記照射エネルギー量Ess,Estcまたは短絡電流Isc,Iscrefを表示部15に表示して、作業者が、両者の値が同一になるように光量調整することで行ってもよく、或いは前記演算部14が、両者の差を表す光量制御信号CTLをソーラシミュレータ3に出力することで行ってもよい。
【0064】
このように構成することで、ソーラシミュレータ3の校正に前述のような基準セルが不要になり、太陽電池2の種類(=分光感度)が変わっても、簡単に校正を行うことができる。また、ソーラシミュレータ3は、その分光放射照度L(λ)が基準太陽光源による分光放射照度S(λ)に必要以上に高い精度で一致しているような必要はなく、該ソーラシミュレータ3の低コスト化を図ることができる。
【0065】
さらにまた、前記分光放射照度S(λ)に、任意の光源、たとえばD65光源の数値データを与えることで、前記太陽電池2を、その任意の光源で使用した場合の短絡電流に調整ができる。同様に、前記基準太陽光の分光放射照度S(λ)は、地表(AM1.5)でのものであるが、宇宙(AM0)や、任意の地域でのシミュレーションも行えるようになる。
【符号の説明】
【0066】
1 太陽電池評価装置
2 太陽電池
3 ソーラシミュレータ(照明光源)
4 電力計
5 分光感度測定装置
7 ミラー
10 光源評価装置
11 第1の記憶部
12 第2の記憶部
13 分光放射計
14 演算部
15 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池を照明する光源の分光放射照度L(λ)を測定する分光放射計と、
予め測定されている基準太陽光の分光放射照度S(λ)を記憶する第1の記憶部と、
予め複数iの各照度レベルで測定されている前記太陽電池の白色バイアス光による短絡電流Ibの波長λ毎の依存性:P(λ,Ib)を、前記各照度レベルにおける分光感度Pi(λ)として記憶する第2の記憶部と、
前記太陽電池の複数iの各照度レベルにおける分光感度Pi(λ)と、前記基準太陽光の分光放射照度S(λ)と、前記光源の分光放射照度L(λ)とを用いて演算で求める分光感度Ps(λ)を用いて、太陽電池を照明する光源の光量調整用の値を演算する演算部とを含むことを特徴とする光源評価装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記太陽電池の複数iの各照度レベルにおける分光感度Pi(λ)の中から、前記基準太陽光の分光放射照度S(λ)と前記光源の分光放射照度L(λ)との差に対応する分光感度Ps(λ)を選択し、その分光感度Ps(λ)の太陽電池に対して、前記光源からの照明光が実際に光電変換に作用する照度レベルの実効値を演算することを特徴とする請求項1記載の光源評価装置。
【請求項3】
前記演算部は、演算結果に応答して、前記光源の光量をフィードバック制御することを特徴とする請求項1または2記載の光源評価装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記予め複数iの照度で測定されている前記太陽電池の分光感度Pi(λ)と、前記光源の分光放射照度L(λ)とから、絶対分光感度法を用いて、前記基準太陽光のスペクトルが、照射エネルギーが1000W/mの場合と同じ短絡電流Ibを与える分光放射照度となるように、前記光源の光量を調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光源評価装置。
【請求項5】
前記演算部は、演算結果を表示することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光源評価装置。
【請求項6】
前記演算部は、演算結果を外部出力することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光源評価装置。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の光源評価装置と、
前記基準太陽光を模した光を発生し、測定対象の前記太陽電池に照射する前記光源としてのソーラシミュレータと、
前記ソーラシミュレータからの照射光による前記太陽電池の発電特性を測定する電流・電圧計とを備えることを特徴とする太陽電池評価装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−39036(P2012−39036A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180396(P2010−180396)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(303050160)コニカミノルタセンシング株式会社 (175)
【出願人】(591060245)株式会社相馬光学 (14)
【Fターム(参考)】