説明

太陽電池

【課題】 太陽電池に関し、太陽電池に於ける光検知層がエネルギ・バンド・ギャップE0よりも小さいエネルギの光も吸収できるようにして、光起電力に寄与するキャリアの生成量を大きくする、即ち、変換効率を向上しようとする。
【解決手段】 pin構造で構成され、光検知層であるi層3に3次元量子閉じ込め作用をもつ量子ドットDを含み、量子ドットD及びそれを囲むバリア層のエネルギ・バンド構造がtype II を成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検知層中に量子ドットを形成することで高効率化した太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体太陽電池としては、Si、GaAsなどのバルク或いは量子井戸が用いられ、その変換効率の理想限界は30〔%〕程度であって、所要の電力を得る為には、大面積にしなければならず、高コストにならざるを得ない。
【0003】
そこで、従来から太陽電池の効率を向上する為に種々な努力がなされていて、例えば、光検知層、即ち、活性層中に量子ドットを導入した構造のものが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、pin太陽電池の活性層であるi層に於ける量子井戸中に量子ドットを形成した構造に関する発明が開示されていて、量子井戸が感応する波長光以外の波長光にも感応するようになっている。
【0005】
然しながら、特許文献1の発明に於ける量子ドットは通常のtype I であり、量子ドットの周囲には阻止層が存在していないので、このような構成からすれば、高効率化について、さほどの期待はできないと思われる。
【0006】
また、特許文献2には、pin太陽電池の活性層であるi層に於ける量子ドット層を複数層にした構造に関する発明が開示されていて、量子ドット層の総数を増すことで感度を向上できるようになっている。
【0007】
然しながら、特許文献2の発明に於ける量子ドットも通常のtype I であり、量子ドットの周囲には阻止層も存在していないので、このような構成からすれば、高効率化について、さほどの期待はできないと思われる。
【0008】
更にまた、量子ドットを形成する方法や量子ドットの構造についても種々な開発がなされていて、例えば特許文献3には、高さ1〔nm〕程度の極めて薄い島を複数層重ねることで高さ5〔nm〕〜30〔nm〕程度の1個の量子ドットを形成し、その量子ドット内の組成は、薄い島自体の組成を変えたり、異種の薄い島の積層数比を変えたりして制御する発明が開示されている。
【0009】
特許文献3に開示された発明に依れば、量子ドットの組成、即ち、エネルギ・バンド・ギャップを自在に制御することができ、そして、薄い島の組成や異種の薄い島の積層数比を変えることで必要とする阻止層も形成することができる。
【特許文献1】特開2002−141531号公報
【特許文献2】特開平8−264825号公報
【特許文献3】特許第26969206号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明では、太陽電池に於ける光検知層がエネルギ・バンド・ギャップE0よりも小さいエネルギの光も吸収できるようにして、光起電力に寄与するキャリアの生成量を大きくする、即ち、変換効率を向上しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に依る太陽電池に於いては、pin構造で構成され、光検知層であるi層に3次元量子閉じ込め作用をもつ量子ドットを含み、量子ドット及びそれを囲むバリア層のエネルギ・バンド構造がtype II を成すことが基本になっている。
【発明の効果】
【0012】
前記手段を採ることに依り、pin構造の太陽電池に於ける光検知層であるi層は、エネルギ・バンド・ギャップE0よりも小さいエネルギの光も吸収することができ、光起電力に寄与するキャリアの生成量は大きくなり、変換効率は向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
pin構造の太陽電池に於ける光検知層、即ち、i層に量子ドットで代表される3次元量子閉じ込め効果を奏する微細構造を設ける。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明に於ける実施例1である太陽電池の動作例を説明する為のエネルギ・バンド・ダイヤグラムを表し、D1は量子ドット領域、EV は価電子帯の上端、EC は伝導帯の下端、E0はエネルギ・バンド・ギャップ、E1 並びにE2 はエネルギ・バンド・ギャップE0よりも小さいエネルギをもつ光をそれぞれ示している。尚、エネルギE1 或いはE2 をもつ光はバルクのみでは吸収されない波長の光である。
【0015】
本発明の太陽電池では、光検知層中に形成する量子ドットはtype II であり、この構成にすることで変換効率は向上する。因に、従来の量子ドットをもつ太陽電池では、量子ドットは全てtype I のものを用いている。
【0016】
図1(A)参照
図示のエネルギ・バンド構造を示す太陽電池にエネルギE1 の光が入射して吸収され たとする。
【0017】
図1(B)参照
前記状態になると、正孔が量子ドット外に移動してしまうので、電子は量子ドット内 に長時間滞在することになる。
【0018】
図1(C)参照
量子ドット内の電子がエネルギE2 の光を吸収し、量子ドットの周囲に在るバリア層 の伝導帯に励起される結果、光起電力が発生する。
【0019】
一般に、キャリアを単なる量子井戸に閉じ込める場合、即ち、1次元閉じ込めの場合には、伝導帯に在るキャリアが量子井戸中に落ち込むことが知られ、これが変換効率を低下させる一因になっている。
【0020】
然しながら、量子ドットのような3次元閉じ込め構造の場合、フォノンボトルネックと呼ばれる量子ドット固有の現象に依って、バリア層から量子ドットに落ち込むキャリアは少なくなるので変換効率の低下は抑止される。
【0021】
type II の量子ドットを用いる本発明の太陽電池の場合にも、前記フォノンボトルネックに起因する効果を享受することが可能であり、バリア層から量子ドットに落ち込むキャリアは少なく、従って、光励起されたキャリアを有効に利用することができる。
【実施例2】
【0022】
図2は本発明に於ける実施例2である太陽電池の動作例を説明する為のエネルギ・バンド・ダイヤグラムを表し、図1に於いて用いた記号と同記号は同部分を示すか或いは同じ意味を持つものとし、また、(A)は本発明の場合を、そして、(B)は参考に挙げた量子井戸の場合をそれぞれ示している。
【0023】
図2(A)から明らかなように、伝導帯に在る励起キャリアは、type II の量子ドット領域D1に落下することなく飛び越えてゆくが、図2(B)の単なる量子井戸ではキャリアが落ち込んでしまう。
【0024】
ところで、ひとたび励起されて伝導帯の下端、或いは、価電子帯の上端に在るキャリアは量子ドット内に落ち込まないようにすることが好ましいので、量子ドットの周辺一部にキャリア注入阻止層を形成しておくことは有効である。
【実施例3】
【0025】
図3は本発明に於ける実施例3である太陽電池を説明する為のエネルギ・バンド・ダイヤグラムを表し、また、理解を容易にする為、平面で見たキャリア注入阻止層をもつ量子ドットを付記してある。尚、図1に於いて用いた記号と同記号は同部分を示すか或いは同じ意味を持つものとする。
【0026】
図に於いて、Dは量子ドット、B1 はキャリア(この場合電子)注入阻止層、B2 はキャリア(この場合正孔)注入阻止層、Bc はキャリア注入阻止層B1 に起因する伝導帯の下端に於けるバリア、BV はキャリア注入阻止層B2 に起因する価電子帯の上端に於けるバリアをそれぞれ示している。尚、量子ドットDはp層とn層とに挟まれたi層中に存在している。
【0027】
図から容易に知得できることであるが、キャリア注入阻止層B1 及びB2 は、量子ドットDの片側にのみ形成すれば良く、その形成方法としては、例えばGaAsx Sb1-x からなる量子ドットDの場合では、特許文献3に開示されている方法、即ち、組成を徐々に変化させつつ積層することで達成される。
【0028】
その場合の組成例としては、
ドット組成:GaAsx Sb1-x (x=0)
母組成:GaAsx Sb1-x (x=0.5)
阻止層組成:GaAsx Sb1-x (x=1)
である。
【0029】
図4は実施例3である太陽電池を動作させた場合について説明する為のエネルギ・バンド・ダイヤグラムを表し、図3に於いて用いた記号と同記号は同部分を示すか或いは同じ意味を持つものとする。
【0030】
図示したエネルギ・バンド・ダイヤグラムは、i層がp層とn層に挟まれていることに依って生じる電界が加わっている状態を表しているので、エネルギ・バンドは傾斜していて、量子ドットDに入り込もうとするキャリアがキャリア注入阻止層B1 或いはB2 に依るバリアBc やBV に依って跳ね返される様子が表されている。
【0031】
図5は本発明に依る太陽電池の具体的構造を表す要部切断側面図であり、図に於いて、1は基板、2はn層、3はi層(光検知層)、Dは量子ドット、4はp層、5はp側電極、6はn側電極をそれぞれ示している。
【0032】
図示の太陽電池に於ける各部分の主要データを例示すると、
(1) 基板1
材料:n−GaAs
不純物濃度:1×1018〔cm-3
(2) n層2
材料:n−GaAs
不純物濃度:1×1018〔cm-3
厚さ:100〔nm〕
(3) i層(光検知層)3
母体材料:GaAs
量子ドット:GaSb
母体材料(GaAsバリア層)の厚さ:20〔nm〕〜50〔nm〕
積層数:50層
(4) p層4
材料:p−GaAs
不純物濃度:1×1018〔cm-3
厚さ:100〔nm〕
である。
【0033】
各層を成長させる際、固体ソースを用いたMBE(molecular beam epitaxy)法を適用し、量子ドット層であるi層3を成長させた際の成長温度は450〔℃〕〜550〔℃〕、そして、他の層の成長温度は550〔℃〕〜650〔℃〕とした。
【0034】
前記太陽電池に於ける変換効率をAM1.5の場合について計算した。この場合、GaSbからなる量子ドットDをサイズが不均一になるように成長させ、そのばらつきを波長0.94〔μm〕〜1.12〔μm〕、i層3の母体材料は前記した通りのGaAsであり、母体材料と量子ドットDとの吸収係数は充分に大きいとした。
【0035】
量子ドットDに於ける吸収で生成されたキャリアが他の赤外光の吸収で全てバリアの外に出たとした場合の変換効率は46〔%〕、そして、GaAsバルクでの太陽電池の変換効率は36〔%〕と計算されるので、10〔%〕の効率改善となる。
【0036】
前記説明した各実施の形態では、太陽電池の構成材料に化合物半導体を用いたが、Si半導体に代替することも可能であり、その場合、
(1) 基板1
材料:n−Si
不純物濃度:1×1018〔cm-3
(2) n層2
材料:n−Si
不純物濃度:1×1018〔cm-3
厚さ:100〔nm〕
(3) i層(光検知層)3
量子ドット:SiGe
Siバリア層の厚さ:20〔nm〕〜50〔nm〕
積層数:50層
(4) p層4
材料:p−Si
不純物濃度:1×1018〔cm-3
厚さ:100〔nm〕
にすることができる。
【0037】
本発明に於いては、前記説明した実施例を含め、多くの形態で実施することができ、以下、それを付記として例示する。
【0038】
(付記1)
pin構造で構成され、光検知層であるi層に3次元量子閉じ込め作用をもつ量子ドットを含み、量子ドット及びそれを囲むバリア層のエネルギ・バンド構造がtype II を成すこと
を特徴とする太陽電池。
【0039】
(付記2)
光検知層であるi層は、
エネルギ・バンド構造が伝導帯の下端で不連続が無いか或いは僅かであって且つ価電子帯の上端で深い量子井戸を生成し、
正孔に対しのみ3次元量子閉じ込めを行うものであること
を特徴とする(付記1)記載の太陽電池。
【0040】
(付記3)
光検知層であるi層は、
エネルギ・バンド構造が価電子帯の上端で不連続が無いか或いは僅かであって且つ伝導帯の下端で深い量子井戸を生成し、
電子に対しのみ3次元量子閉じ込めを行うものであること
を特徴とする(付記1)記載の太陽電池。
【0041】
(付記4)
光検知層であるi層に於ける量子ドット材料とバリア層材料とが GaAsx Sb1-x /GaAsy Sb1-y (x≠y)
の組み合わせからなること
を特徴とする(付記2)記載の太陽電池。
【0042】
(付記5)
光検知層であるi層に於ける量子ドット材料とバリア層材料とが Six Ge1-x /Siy Ge1-y (x≠y)
の組み合わせからなること
を特徴とする(付記2)記載の太陽電池。
【0043】
(付記6)
量子ドットのn層側に量子ドットへの正孔の注入を阻止するバリアとなるキャリア注入阻止層が形成されてなること
を特徴とする(付記2)記載の太陽電池。
【0044】
(付記7)
量子ドットのp層側に量子ドットへの電子の注入を阻止するバリアとなるキャリア注入阻止層が形成されてなること
を特徴とする(付記3)記載の太陽電池。
【0045】
(付記8)
量子ドットのサイズが不均一であること
を特徴とする(付記1)乃至(付記7)の何れか1記載の太陽電池。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に於ける実施例1である太陽電池の動作例を説明する為のエネルギ・バンド・ダイヤグラムである。
【図2】本発明に於ける実施例2である太陽電池の動作例を説明する為のエネルギ・バンド・ダイヤグラムである。
【図3】本発明に於ける実施例3である太陽電池を説明する為のエネルギ・バンド・ダイヤグラムである。
【図4】実施例3である太陽電池を動作させた場合について説明する為のエネルギ・バンド・ダイヤグラムである。
【図5】本発明に依る太陽電池の具体的構造を表す要部切断側面図である。
【符号の説明】
【0047】
1 基板
2 n層
3 i層(光検知層)
D 量子ドット
4 p層
5 p側電極
6 n側電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pin構造で構成され、光検知層であるi層に3次元量子閉じ込め作用をもつ量子ドットを含み、量子ドット及びそれを囲むバリア層のエネルギ・バンド構造がtypeIIを成すこと
を特徴とする太陽電池。
【請求項2】
光検知層であるi層は、
エネルギ・バンド構造が伝導帯の下端で不連続が無いか或いは僅かであって且つ価電子帯の上端で深い量子井戸を生成し、
正孔に対してのみ3次元量子閉じ込めを行うものであること
を特徴とする請求項1記載の太陽電池。
【請求項3】
光検知層であるi層は、
エネルギ・バンド構造が価電子帯の上端で不連続が無いか或いは僅かであって且つ伝導帯の下端で深い量子井戸を生成し、
電子に対しのみ3次元量子閉じ込めを行うものであること
を特徴とする請求項1記載の太陽電池。
【請求項4】
量子ドットのn層側に量子ドットへの正孔の注入を阻止するバリアとなるキャリア注入阻止層が形成されてなること
を特徴とする請求項2記載の太陽電池。
【請求項5】
量子ドットのp層側に量子ドットへの電子の注入を阻止するバリアとなるキャリア注入阻止層が形成されてなること
を特徴とする請求項3記載の太陽電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−114815(P2006−114815A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302705(P2004−302705)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、文部科学省、科学技術試験研究委託費 光・デバイス技術の開発、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願 平成16年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構、「フォトニックネットワーク技術の開発事業」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】