説明

太陽電池

【課題】超格子構造中にミニバンドが形成され、p型およびn型半導体領域へ効率よくキャリアを取り出すことができる太陽電池を提供する。
【解決手段】p型半導体層1と、n型半導体層12と、前記p型半導体層と前記n型半導体層とに挟まれた超格子半導体層10とを備え、前記超格子半導体層10は、障壁層と量子ドットからなる量子ドット層とが交互に繰り返し積層された超格子構造を有し、前記超格子半導体層は、前記超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体側に近づくに従い前記量子ドットのバンドギャップが徐々に広くなるように積層される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超格子構造を有する太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、より広い波長範囲の光を利用し光電変換効率を高めるために様々な研究開発が行われている。例えば、量子ドット技術を利用して価電子帯と伝導帯との間に中間バンドを設け、二段階で電子を励起することにより、より長波長の光を利用する太陽電池が提案されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
このような量子ドットを有する太陽電池は、化合物太陽電池に量子ドットを有する量子ドット層をi層として挿入したものである。母体半導体中に量子ドット層を挿入することで、量子ドット間の電子的結合により超格子ミニバンドを形成し、ミニバンドを介した二段階の光励起によって未利用だった波長域の光吸収(母体材料のバンドギャップより小さいエネルギーのフォトンの吸収)が可能となり、光電流を増加させることができる。量子ドットで生成されたキャリアは、ミニバンド中を移動し、光励起または熱励起によってp型およびn型の母体半導体領域へと移動し、外部より取り出される。
また、量子カスケードレーザ分野では、電圧が印加された状態でミニバンドが形成される超格子構造が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−101201号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】PHYSICAL REVIEW LETTERS、97巻、247701ページ、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ミニバンドを利用したpin積層構造を有する量子ドット太陽電池の変換効率を向上させるためには、内部電界下でi層のミニバンドを形成しつつ、i層からp型およびn型半導体層へのキャリア取り出し効率を向上させる必要がある。現在、ミニバンドを利用した量子ドット太陽電池において、量子ドットにおける光電流取り出し効率は最大数%程度に止まっている。これは、量子ドットからのキャリア取り出し方法である光励起、熱励起における以下の課題によるものと考えられる。ミニバンドを介した光励起において、2番目の光子の生成速度が量子ドット内の再結合速度よりも小さい。また、熱励起に関しては、量子ドットで生成されたキャリアにとって、エネルギー障壁の大きさが熱エネルギーkT(k:ボルツマン定数、T:絶対温度)よりも十分大きくキャリア励起されにくい(室温300Kでの熱エネルギーは約26meV)。以上から、量子ドット層からp型およびn型半導体領域への効率的なキャリア取り出し方法が課題となっている。
【0007】
また、電場を印加した際、ミニバンド構造を形成するための量子準位間の共鳴トンネル効果が破綻し、波動関数が局在化するワニエ・シュタルク局在と呼ばれる現象が起こる。エネルギー面では、量子準位がeFD(D:超格子周期、F:電場強度)のエネルギー間隔に分裂されるシュタルク階段状態となり、ミニバンド形成に影響をもたらす。ミニバンドを形成できない場合、各量子ドットで生成されたキャリアは障壁層を越えて隣の量子ドットに移動しなければならないため、キャリア取り出し効率が著しく低下する。
【0008】
量子カスケードレーザ分野では、このシュタルク効果を考慮した例があるが(特許文献1)、従来の量子ドット太陽電池のモデルではシュタルク効果を考慮していない。特許文献1に示す構造は、量子井戸層または障壁層の厚みを変えることで複数のフラットバンドのミニバンドを形成している。注入された電子は、上方ミニバンドから下方ミニバンドを放射遷移し、さらに下方ミニバンドから注入/緩和領域を通じて隣のユニットにある上方ミニバンドに移動し、再び下方ミニバンドへ放射遷移することを繰り返す構造となっている。一方で、太陽電池分野においては、i型半導体層である吸収層中でのキャリア移動が効率的である必要があり、i型半導体層全体に渡って一つのミニバンドを形成することが望ましい。特許文献1に示す構造においては、超格子構造全体に渡って複数のフラットバンドのミニバンドを形成しているが、超格子構造の一方の端からもう一方の端まで一つに繋がるミニバンドは形成されていない。また、離散化したエネルギー値を有する量子井戸の量子準位は、わずかな厚みの違いでそれぞれ変化するため、シュタルク効果を考慮して両方のミニバンドをフラットバンドとなるよう超格子構造を形成することは製造工程において複雑となる。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、超格子構造中にミニバンドが形成され、p型およびn型半導体領域へ効率よくキャリアを取り出すことができる太陽電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、p型半導体層と、n型半導体層と、前記p型半導体層と前記n型半導体層とに挟まれた超格子半導体層とを備え、前記超格子半導体層は、障壁層と量子ドットからなる量子ドット層とが交互に繰り返し積層された超格子構造を有し、前記超格子半導体層は、前記超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体側に近づくに従い前記量子ドットのバンドギャップが徐々に広くなるように積層されたことを特徴とする太陽電池を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、超格子半導体層は、障壁層と量子ドットからなる量子ドット層とが交互に繰り返し積層された超格子構造を有するため、超格子構造にミニバンドを形成することができ、通常の伝導帯−価電子帯間の遷移に加え、ミニバンドを介した電子遷移を利用することができ、より広い波長範囲の光を利用し光電変換効率を高めることができる。
本発明によれば、前記超格子半導体層は、前記超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体側に近づくに従い前記量子ドットのバンドギャップが徐々に広くなるように積層されるため、超格子構造のバンド構造を適当変調することができる。超格子構造のバンド構造を適当変調させることで、超格子半導体層が受光することにより生じる内部電界下においてシュタルク効果を補償し、量子ドット間の電子的結合(波動関数の繋がり)によるミニバンドを形成することができる。また、本適当変調により、量子準位とn型領域側の障壁層とのエネルギー差が半導体p型領域から半導体n型領域の方向に向けて徐々に小さくすることができ、量子ドット内で生成されたキャリアの取り出しを容易とすることができる。
また、特定バンドギャップごとに十分光吸収できるよう、複数の量子ドット層ごとに適当変調させた構造を作製すれば、幅広い波長域の太陽光を十分に吸収させることが可能で、かつ容易にn型半導体領域からキャリア取り出し可能となる。以上により、従来の技術に比べてキャリア取り出しの効率を向上させ、短絡電流および開放電圧を飛躍的に改善することができ、高い変換効率を有する太陽電池を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の太陽電池の構成を示す概略断面図である。
【図2】(a)は超格子半導体層の一部の概略断面図であり、(b)は実験1のシミュレーションにより得られた超格子構造のバンド図である。
【図3】実験1のシミュレーションにより得られた超格子構造の伝導帯の各エネルギー値の波動関数を並べた図である。
【図4】実験1のシミュレーションにより得られた超格子構造の伝導帯の最小エネルギー値の波動関数を示した図である。
【図5】(a)は超格子半導体層の一部の概略断面図であり、(b)は実験2のシミュレーションにより得られた超格子構造のバンド図である。
【図6】実験2のシミュレーションにより得られた超格子構造の伝導帯の各エネルギー値の波動関数を並べた図である。
【図7】実験2のシミュレーションにより得られた超格子構造の伝導帯の最小エネルギー値の波動関数を示した図である。
【図8】(a)は超格子半導体層の一部の概略断面図であり、(b)は実験3のシミュレーションにより得られた超格子構造のバンド図である。
【図9】実験3のシミュレーションにより得られた超格子構造の伝導帯の各エネルギー値の波動関数を並べた図である。
【図10】実験3のシミュレーションにより得られた超格子構造の伝導帯の最小エネルギー値の波動関数を示した図である。
【図11】(a)は超格子半導体層の一部の概略断面図であり、(b)は実験4のシミュレーションにより得られた超格子構造のバンド図である。
【図12】実験4のシミュレーションにより得られた超格子構造の伝導帯の各エネルギー値の波動関数を並べた図である。
【図13】実験4のシミュレーションにより得られた超格子構造の伝導帯の最小エネルギー値の波動関数を示した図である。
【図14】(a)は超格子半導体層の一部の概略断面図であり、(b)は比較実験のシミュレーションにより得られた超格子構造のバンド図である。
【図15】比較実験のシミュレーションにより得られた超格子構造の伝導帯の各エネルギー値の波動関数を並べた図である。
【図16】比較実験のシミュレーションにより得られた超格子構造の伝導帯の最小エネルギー値の波動関数を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の太陽電池は、p型半導体層と、n型半導体層と、前記p型半導体層と前記n型半導体層とに挟まれた超格子半導体層とを備え、前記超格子半導体層は、障壁層と量子ドットからなる量子ドット層とが交互に繰り返し積層された超格子構造を有し、前記超格子半導体層は、前記超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体側に近づくに従い前記量子ドットのバンドギャップが徐々に広くなるように積層されたことを特徴とする。
【0013】
超格子構造とは、共に半導体からなりバンドギャップが異なる障壁層と井戸層(量子ドット層を含む)とが繰り返し積層された構造であり、井戸層の電子の波動関数が隣接井戸の波動関数と大きく相互作用する構造をいう。
量子ドットとは、100nm以下の粒子サイズを有する半導体微粒子であり、量子ドットを構成する半導体よりもバンドギャップの大きい半導体で囲まれた微粒子である。
量子ドット層とは、複数の量子ドットで構成される層であり、超格子構造の井戸層となる。
量子準位とは、量子ドットの電子の離散的なエネルギー準位をいう。
障壁層とは、量子ドットを構成する半導体よりもバンドギャップの大きい半導体からなり、超格子構造を構成する。
ミニバンドとは、超格子構造の井戸層の電子の波動関数が隣接井戸の波動関数と相互作用し、量子井戸の量子準位間の共鳴トンネル効果が生じ形成されるバンドをいう。
【0014】
本発明の太陽電池において、前記超格子半導体層は、前記超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体層側に近づくに従い前記量子ドットのサイズが徐々に小さくなるように積層されたことが好ましい。
このような構成によれば、量子ドットの量子サイズ効果により、超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体側に近づくに従い量子ドットのバンドギャップが徐々に広くすることができる。
【0015】
本発明の太陽電池において、前記量子ドットは、半導体混晶からなり、前記超格子半導体層は、前記超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体層側に近づくに従い前記量子ドット層に含まれる前記量子ドットの混晶比を変化するように積層されたことが好ましい。
このような構成によれば、量子ドットの混晶比の変化により量子ドットのバンドギャップを変化させることができ、超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体側に近づくに従い量子ドットのバンドギャップが徐々に広くすることができる。
本発明の太陽電池において、前記超格子半導体層は、前記n型半導体層に最近接する前記量子ドット層とその量子ドット層のn型半導体層側に積層された前記障壁層との間のエネルギー障壁の大きさが室温300Kにおいて26meV以下になるように積層されたことが好ましい。
このような構成によれば、超格子構造に形成されたミニバンドの伝導帯に光励起された電子が熱励起により超格子構造の最もn型半導体側の障壁層の伝導帯下端のエネルギー準位に励起されることができ、ミニバンドに光励起された電子を容易に取り出すことができる。
【0016】
本発明の太陽電池において、前記超格子半導体層は、前記量子ドット層の1つに含まれる量子ドットの伝導帯下端の量子準位とこの量子ドットのn型半導体層側の障壁層の伝導帯下端のエネルギー準位との差がp型半導体側からn型半導体側に近づくに従い徐々に小さくなるように積層されたことが好ましい。
このような構成によれば、pin接合またはpn接合などが受光することにより生じる内部電界下においてシュタルク効果を補償し、量子ドット間の電子的結合(波動関数の繋がり)によるミニバンドを形成することができる。
本発明の太陽電池において、前記超格子半導体層は、前記pin接合またはpn接合などに光が照射された場合に形成される内部電界下において前記超格子構造にミニバンドが形成されるように積層されたことが好ましい。
このような構成によれば、通常の伝導帯−価電子帯間の遷移に加え、ミニバンドを介した電子遷移を利用することができ、より広い波長範囲の光を利用し光電変換効率を高めることができる。
【0017】
本発明の太陽電池において、前記超格子半導体層は、前記ミニバンドの伝導帯の波動関数が前記超格子構造全体に渡って繋がるように積層されたことが好ましい。
このような構成によれば、通常の伝導帯−価電子帯間の遷移に加え、ミニバンドを介した電子遷移を利用することができ、より広い波長範囲の光を利用し光電変換効率を高めることができる。
本発明の太陽電池において、前記超格子半導体層は、前記ミニバンドの伝導帯において最もエネルギーの低い波動関数が前記超格子構造全体に渡って繋がるように積層されたことが好ましい。
このような構成によれば、通常の伝導帯−価電子帯間の遷移に加え、ミニバンドを介した電子遷移を利用することができ、より広い波長範囲の光を利用し光電変換効率を高めることができる。また、ミニバンドに光励起されたキャリアをミニバンド中で効率よく移動させることができる。
本発明の太陽電池において、前記超格子半導体層は、前記ミニバンドが伝導帯において1つのみ形成されるように積層されたことが好ましい。
このような構成によれば、ミニバンドに光励起されたキャリアをミニバンド中で効率よく移動させることができる。
本発明の太陽電池において、p型半導体層、n型半導体層および超格子半導体層は、pn接合(pn-n接合、pp-n接合、p+pn接合、pnn+接合を含む)またはpin接合を形成することが好ましい。
このような構成によれば、pin接合またはpn接合が受光することにより、起電力を生じさせることができる。
さらに、本発明の太陽電池において、n型半導体層面が太陽光入射側であって、p型半導体層は下面であることが望ましい。このような構造によれば、太陽光の長波長側の光がより底部にまで侵入するため、効率良く太陽光を吸収することができる。
【0018】
本発明の太陽電池において、前記障壁層または前記量子ドット層は、III−V族化合物半導体からなることが好ましい。
このような構成によれば、量子ドットの粒子サイズを容易に変化させることができ、また、混晶のIII−V族化合物半導体とすることにより、混晶比を容易に変化させることができる。
本発明の太陽電池において、前記障壁層は、GaAsからなり、前記量子ドット層は、InxGa1-xAs(0<x≦1)からなることが好ましい。
このような構成によれば、量子ドットの粒子サイズを容易に変化させることができ、また、混晶比を容易に変化させることができる。
【0019】
本発明の太陽電池において、前記超格子半導体層は、前記超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体層側に近づくに従い前記量子ドットのサイズを1nm以下の変化量で徐々に小さくなるように積層されたことが好ましい。また、前記量子ドットのサイズの変化量は、0.5nm以上1nm以下となるように積層されたことがさらに好ましい。0.5nm以上1nm以下であれば制御が可能である。
このような構成によれば、超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体側に近づくに従い量子ドットのバンドギャップが徐々に広くすることができる。
本発明の太陽電池において、前記量子ドットは、半導体混晶からなり、前記超格子半導体層は、前記超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体層側に近づくに従い前記量子ドット層に含まれる前記量子ドットの混晶比を0.1以下の変化量で変化するように積層されたことが好ましい。また、隣接する2つの量子ドット層の混晶比の差が0.01以上0.1以下となるように積層されたことが好ましい。0.01以上0.1以下であれば制御が可能である。
このような構成によれば、超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体側に近づくに従い量子ドットのバンドギャップが徐々に広くすることができる。
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す構成は、例示であって、本発明の範囲は、図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
図1は本発明の一実施形態の太陽電池の構成を示す概略断面図である。
本実施形態の太陽電池20は、p型半導体層1と、n型半導体層12と、p型半導体層1とn型半導体層12とに挟まれた超格子半導体層10とを備え、超格子半導体層10は、障壁層8と量子ドット7からなる量子ドット層6とが交互に繰り返し積層された超格子構造を有し、超格子半導体層10は、超格子半導体層10のp型半導体層側からn型半導体側に近づくに従い量子ドット7のバンドギャップが徐々に広くなるように積層されたことを特徴とする。
【0021】
また、本実施形態の太陽電池20は、バッファー層3、ベース層4、窓層14、コンタクト層15、p型電極18、n型電極17をさらに有してもよい。
以下、本実施形態の太陽電池20について説明する。
【0022】
1.p型半導体層およびn型半導体層
p型半導体層1は、p型不純物を含む半導体からなり、i型半導体層、n型半導体層12とともにpin接合またはpn接合を構成することができる。
n型半導体層12は、n型不純物を含む半導体からなり、i型半導体層、p型半導体層1とともにpin接合またはpn接合を構成することができる。
このpin接合またはpn接合が受光することにより、起電力が生じる。また、このことにより、超格子半導体層10に内部電界が形成される。
p型半導体層1およびn型半導体層12は、図1のようにどちらか一方が基板であってもよく、両方ともCVD法などにより形成された薄膜であってもよい。
【0023】
2.超格子半導体層
超格子半導体層10は、p型半導体層1とn型半導体層12に挟まれ、pin接合またはpn接合を構成することができる。また、超格子半導体層10は、障壁層8と量子ドット層6とが交互に繰り返し積層された超格子構造を有する。超格子半導体層10は、i型半導体であってもよく、受光することにより起電力が生じれば、p型不純物またはn型不純物を含む半導体層であってもよい。
超格子半導体層10を構成する障壁層8と量子ドット層6を構成する材料は、特に限定されないが、例えば、III―V族化合物半導体から構成することができる。量子ドット層6は、障壁層8よりもバンドギャップの狭い半導体材料で構成される。
【0024】
また、超格子半導体層10を構成する材料は、他に周期律表の第IV族半導体、第III族と第V族からなる化合物半導体、第II族と第VII族からなる化合物半導体あるいはこれらの混晶材料としてもよい。例えば、障壁層8の材料にGaNAsで量子ドット層材料にInAsや、障壁層材料にGaPで量子ドット層材料にInAs、障壁層材料にGaAsで量子ドット層材料にGaSb等が考えられる。
【0025】
超格子半導体層10に含まれる超格子構造は、例えば、分子線エピタキシー(MBE)法や有機金属化学気相成長法(MOCVD)等を用いて形成することができるが、これらの方法を用いた現状の量子ドット作製技術では、xy方向の量子ドット間で電子的結合が起きる密度を形成することはできていない。なお、x方向とは、図1に示すような積層面に平行な方向であり、y方向とは、積層面に平行な方向であり、x方向に垂直な方向である。また、z方向とは、図1に示すような積層面に垂直な方向である。
【0026】
一方、z方向に関しては、2つの量子ドット層6の間に作製する障壁層8の厚みを薄くすることで量子ドット7間の電子的結合が生じさせることができる。そのため、量子ドットを用いた超格子構造を考えた場合、量子ドット構造の波動関数はz方向にのみ閉じ込めをおこなった量子井戸の波動関数と同じであることを意味する。一方、量子ドット構造のエネルギー値は、z方向のエネルギー値Ezに、x方向およびy方向のエネルギー値(Ex、Ey)を足し合わせた値と考えて差し支えない。ExおよびEyは、電界がかかっていない状態での単一量子井戸で得られるエネルギー値より求まる。
【0027】
従来のミニバンドを利用した量子ドット太陽電池では、光照射時に内部電界が生じ、各量子ドットの量子準位がeFD(D:超格子周期、F:電場強度)のエネルギー間隔に分裂するシュタルク階段状態となることでキャリア移動度が低下してしまう。そこで、この内部電界を考慮して各量子ドット7の量子準位高さを適当変調することによって、ミニバンド形成を維持させることができる。このミニバンド形成を維持するための各量子ドット7の量子準位高さは、超格子半導体層10を、量子ドット層6の1つに含まれる量子ドット7の量子準位とこの量子ドット7のn型半導体層側の障壁層8の伝導帯準位との差がp型半導体側からn型半導体側に近づくに従い徐々に小さくなるように積層することにより適当変調することができる。このことにより、超格子構造に内部電界が生じたときに、各量子ドットの量子準位を実質的に同じにすることができ、超格子構造全体に渡って繋がったミニバンドを形成することができる。
なお、超格子構造全体に渡って繋がったミニバンドは、積層方向に積層した各量子ドットのそれぞれの波動関数が局在せずに波動関数が各量子ドット上に延びることにより形成される。つまり、各量子ドットがそれぞれ隣接する量子ドットと強く相互作用し合い波動関数が局在しないときに形成される。
【0028】
量子ドット7の量子準位をこのように変調する方法としては、例えば、各量子ドット層6に含まれる量子ドット7の粒子サイズを変化させる方法と、量子ドット7を半導体混晶で構成し各量子ドット層6に含まれる量子ドット7の混晶比を変化させる方法と、各量子ドット層6に含まれる量子ドット7の粒子サイズと混晶比の両方を変化させる方法が挙げられる。これらの方法により、超格子半導体層10のp型半導体層側からn型半導体側に近づくに従い量子ドット7のバンドギャップが徐々に広くなるように超格子構造を形成することができ、各量子ドット7の量子準位を変調することができる。
【0029】
粒子サイズの変化率や混晶比の変化率は、超格子半導体層の超格子構造に形成されるミニバンドが内部電界下においても維持されるように決定される。超格子半導体層に内部電界が均一にかかる場合、それに応じて粒子サイズの変化率や混晶比の変化率が決定される。超格子半導体層が十分に厚い場合や超格子半導体層に不純物をドープした場合、内部電界が超格子半導体層全体で均一にかからず、超格子半導体層の中央付近では電界がかからないことが想定されるが、この場合、各層ごとに想定される内部電界の大きさを考慮して各量子ドット7の量子準位がおおよそ同じになるように粒子サイズの変化率や混晶比の変化率が決定される。また、粒子サイズの変化率や混晶比の変化率は、各量子ドット7の量子準位が超格子構造全体において、実質的に同じエネルギー値になるように決定することができる。このことにより、波動関数が重なり合い、ミニバンドを形成することができる。なお、量子サイズの変化率や混晶比の変化率は、超格子構造全体で一定であってもよく、各量子ドット層6ごとに変化させてもよい。
【0030】
量子ドット7の粒子サイズを変化させる方法は、例えば、超格子半導体層10のp型半導体側からn型半導体層側に近づくに従い各量子ドット層6に含まれる量子ドットの粒子サイズを1nm以下の変化量で徐々に小さくなるように超格子半導体層10を積層する方法である。各量子ドット層6に含まれる量子ドット7の粒子サイズを徐々に小さくなると量子サイズ効果により、量子ドット7の量子準位を徐々に高くすることができる。従って、この方法により、超格子半導体層10は、超格子半導体層10のp型半導体層側からn型半導体側に近づくに従い量子ドット7のバンドギャップが徐々に広くなるように積層することができる。
【0031】
量子ドット7の混晶比を変化させる方法は、例えば、量子ドットをInxGa1-xAs(0<x≦1)などの半導体混晶で構成し、超格子半導体層のp型半導体側からn型半導体層側に近づくに従い各量子ドット層に含まれる量子ドットを構成する材料の混晶比xを0.1以下刻みで大きくしていく、または小さくしていく方法である。混晶比を変更することにより、各量子ドット層6に含まれる量子ドット7のバンドギャップを徐々に広くすることができる。従って、この方法により、超格子半導体層10は、超格子半導体層10のp型半導体層側からn型半導体側に近づくに従い量子ドット7のバンドギャップが徐々に広くなるように積層することができる。
【0032】
また、上述の量子ドット7の粒子サイズを変化させる方法と、上述の量子ドット7の混晶比を変化させる方法の両方を合わせて行うことによっても同様に超格子半導体層10を、この方法により、超格子半導体層10は、超格子半導体層10のp型半導体層側からn型半導体側に近づくに従い量子ドット7のバンドギャップが徐々に広くなるように積層することができる。量子ドット7の粒子サイズおよび混晶比の両方を変更することでより幅広い変調を行うことができる。
【0033】
このバンド変調を最低エネルギー値の波動関数が超格子半導体層10のp型半導体層側からn型半導体層側まで超格子半導体層10全体に渡って繋がるように行うことで、ミニバンドが形成される。これにより、量子ドット層6で生成されたキャリアはミニバンド中を移動し、n型半導体層まで容易に移動することができるようになる。適当変調させた際、量子ドット7の量子準位高さはn型半導体層12に近くなるに従い徐々に大きくなっているので、量子ドット7と障壁層8との間のエネルギー障壁の大きさは徐々に小さくなる。n型半導体層12に最近接する量子ドット層6とそのn型半導体層側の障壁層8との間のエネルギー障壁の大きさは各量子ドット層6と隣接する障壁層との間のエネルギー障壁の中で最小となる。つまり、n型半導体層12に最近接する量子ドット7以外の量子ドット7で生成されたキャリアは、生成時におけるエネルギー障壁高さに比べて低いエネルギー障壁高さでキャリア取り出しされる。よって、量子ドット層6で生成されたキャリア取り出しを容易にすることができる。
【0034】
超格子構造の最適な構造は、超格子半導体層10のp型半導体側からn型半導体側まで数十〜数百層に及ぶ量子ドット層6の各量子準位を階段状に大きくしていくものである。つまり、n型半導体層12に最近接する量子ドット7におけるエネルギー障壁の大きさが熱エネルギー未満となるまで量子ドット層6を積層する(最適積層数と呼ぶこととする)構造となる。また、最適積層数まで量子ドット層6を積層しない場合でも、各量子ドット7でのキャリア生成時におけるエネルギー障壁高さと比べて、n型半導体層12に最近接する量子ドットでのエネルギー障壁高さは低く、励起されやすくなる。
【0035】
さらに、内部電界下で各量子ドット7の伝導帯基底準位で構成するミニバンドを形成しつつ、複数の量子ドット層6ごとに量子準位を変調させる構造をとることできる。これにより、各バンドギャップにおける吸収量を向上させることができ、太陽電池に応用する場合、太陽光の幅広い波長を光電流にすることが可能となる。
【0036】
以上の構造は、ミニバンド形成可能な量子井戸層を挿入した量子井戸太陽電池においても同様の適当変調によって適応可能である。しかしながら、三次元方向に閉じ込めである量子ドットは、一次元方向のみの閉じ込めである量子井戸と比べて量子準位は高くなりやすく、即ちエネルギー障壁の大きさを小さくしやすく、太陽電池に応用する際キャリア取り出しが容易となる為より好ましい。
【0037】
3.太陽電池の製造方法
量子ドット層・量子井戸層は、分子線エピタキシー(MBE)法や有機金属化学気相成長(MOCVD)法等の手法により形成することができる。一般的には、Stranski―Krastanov(S―K)成長と呼ばれる方法で量子ドットを成長させることができる。上記手法の材料構成比を変えることで量子ドットまたは量子井戸の混晶比を調整することができ、原材料・成長温度・圧力・堆積時間等を変えることによって量子ドットのサイズまたは量子井戸幅を調整することができる。
【0038】
本実施形態の太陽電池20の製造においては、例えば、膜厚制御に優れた分子線エピタキシー(MBE)法や有機金属化学気相成長法(MOCVD)等を用い、量子ドット太陽電池を製造することができる。本実施形態の太陽電池20は、例えば母体半導体材料としてGaAsを、量子ドット材料として混晶比xにより禁制帯幅が約1.42(GaAs)から0.36eV(インジウム砒素:InAs)まで容易に変化させ得るインジウムガリウム砒素(InxGa1-xAs)を用いて製造することができる。以下、このような太陽電池20の製造方法を詳細に説明する。
【0039】
まず、p−GaAs基板1を有機系洗浄液で洗浄した後、硫酸系エッチング液によってエッチングし、さらに10分間流水洗浄を施した後、MOCVD装置内に支持する。この基板1の上にバッファー層3として300nm p+−GaAs層を形成する。バッファー層3は、その上に形成すべき光吸収層の結晶性を向上させるための層である。続いてp+−GaAsバッファー層3上に300nm p−GaAsベース層4および障壁層8となる1nm GaAs層を結晶成長させた後、自己組織化機構を用いてInAs(x=1)量子ドット層6を形成する。
【0040】
この障壁層8と量子ドット層6の結晶成長の繰り返しを、p型半導体層1に最近接する量子ドットからn型半導体層12に最近接する量子ドットまで、InxGa1-xAsの混晶比xを1から徐々に小さくしながら行うことができる。もしくは、ある一定の混晶比xで、量子ドット7のサイズを少しずつ変化させながら行うことができる。もしくは、混晶比xと量子ドットサイズの両方を変化させてもよい。
【0041】
量子ドット層6を結晶成長させた後は、結晶表面の平坦性を回復するためにGaAsキャップ層(図示せず)を約4nm成長させて超格子半導体層10を完成させる。続いて、キャップ層の上に250nm n−GaAs層12を結晶成長させてpin構造を形成し、次いで、窓層14として50nm n−Al0.75 Ga0.25 As層を形成する。次いで、100nm p+−GaAsコンタクト層15を結晶成長により形成する。次に、MOCVD装置から取り出した後、p型電極18を基板裏面の全面に形成する。次いで、コンタクト層15上にフォトリソグラフィーとリフトオフ技術により櫛型電極を形成し、この櫛型電極をマスクとしてコンタクト層15を選択エッチングしてn型電極17を形成することで、量子ドット太陽電池20を形成することができる。
【0042】
基板処理温度は、例えば、Inの再脱離を防ぐために量子ドット層6を含む超格子半導体層10を作製時のみ520℃とし、それ以外の層は590℃として結晶成長を行うことができる。
また、n型ドーパントとして例えばSiを、p型ドーパントとしては例えばBeを用いることができる。電極材料としては例えば、Auを用い、抵抗加熱蒸着法により真空蒸着で形成することができる。
【0043】
尚、ここで示した例は一例であり、本発明の太陽電池に用いる基板、バッファー層、量子ドット、ドーパント、電極などの各材料や、各プロセスで使用する洗浄剤、基板処理温度、製造装置等は、ここで示した例に限定されない。
【0044】
シミュレーション実験
MATLABソフトを用いシュレディンガー方程式を解くシミュレーション実験を行った。
[実験1]
実験1は、各量子ドットの混晶比を変えることによって量子準位を変調させた量子ドット太陽電池の例である。以下、図2〜4を参照してより具体的に説明する。
図2(b)に実験1により計算された各量子ドットで混晶比を変えることによって量子準位を変調させた超格子構造のバンド図を示し、図2(a)に超格子半導体層10の一部の概略断面図を示す。なお、図2(a)は、図1の一点鎖線で囲んだ範囲Aに対応している。また、図2(b)の横軸は、超格子半導体層のp型半導体層側の界面を0としたときの積層方向(図1のz方向)の距離を示し図2(a)の横方向と位置関係を一致させている。また、図2(b)の縦軸は、エネルギーを示している。
実験1では、障壁層21a〜c、n型半導体層、p型半導体層を構成する母体半導体材料にガリウムヒ素(GaAs)、量子ドット層22を構成する量子ドット材料にインジウムガリウム砒素(InxGa1-xAs)を用い、量子ドット層22が20層積層した超格子構造に内部電界15kV/cmが印加されたときのエネルギーバンドを計算するシミュレーションを行った。n型およびp型母体半導体の不純物濃度は超格子半導体層23よりも十分大きいため、内部電界は超格子半導体層23において均一にかかっていると考えている。
なお、15 kV/cmの内部電界とは、例えば400nmの超格子半導体層23に内部電界0.6Vがかかっていることに等しい。また、360nmの超格子半導体層23に内部電界0.54Vや、300nmの超格子半導体層23に内部電界0.45V等も同様の印加電界15kV/cmとなる。
【0045】
n型半導体層に近くなるに従い徐々に量子ドット層22の量子準位を高くなるように量子ドット層22の混晶比xを変更させている。実験1では、2つの量子ドット層22に挟まれる障壁層21bの厚みは1nm、量子ドットのサイズは縦横(xy方向)20nm、高さ(z方向)5nmとし、n型半導体層に最近接する量子ドット層22のn型半導体層側の障壁層21cおよびp型半導体層に最近接する量子ドット層22のp型半導体層側の障壁層21aは、十分な厚みとして20nmとした。ガリウムヒ素とインジウムヒ素との間の障壁高さは0.697eVとした。
【0046】
また、図2(b)において、価電子帯ではホールの有効質量が重いことから一つのバンドであるとみなされ、実線により、伝導帯側のとりうる一部のエネルギー値と最小エネルギーの波動関数のみを示した。点線は、障壁層21a〜cの伝導帯下端のエネルギー準位と、量子ドットがバルクの状態の伝導帯下端のエネルギー準位を有するとしたときのエネルギー準位とを示した線である。図3は、伝導帯側のとりうる各エネルギー値の波動関数を並べたものである。また、図4は、伝導帯の最小エネルギーの波動関数の拡大図である。
各実験結果を示した図5〜7、図8〜10、図11〜13、図14〜16は、それぞれ図2〜4に対応している。
【0047】
図4からわかるように、最小エネルギーの波動関数が超格子構造全体(図4の横軸の距離20nm〜140nmの範囲)に渡って完全に繋がっており、キャリア移動度の高いミニバンドが形成されていることがわかる。
さらに、量子ドット層22の量子準位はn型半導体層に近づくに従い徐々に大きくなり、各量子ドット層22と障壁層21bとの間のエネルギー障壁の大きさが小さくなっていることがわかる。
また、図2のバンド図において、量子ドット層22の最低量子準位と隣接するn型半導体側の障壁層21bとのエネルギー差は、p型半導体層に最近接する量子ドット層22と障壁層21aとの間(図2(b)に示した差e)の547meVからn型半導体層に最近接する量子ドット層22と障壁層21cとの間(図2(b)に示した差d)の376meVと徐々に小さくなっている。つまり、ミニバンドを形成した状態でエネルギー障壁の大きさが徐々に小さくなっており、生成キャリアをn型半導体層から容易に取り出すことができることを示している。
【0048】
[実験2]
実験2は、各量子ドット層の量子ドットサイズを変えることによって量子準位を変調させた量子ドット太陽電池の例である。以下、図5〜7を参照してより具体的に説明する。
図5(b)は、母体半導体材料にガリウムヒ素(GaAs)、量子ドット材料にインジウムヒ素(InAs)を用いた、積層数10層の量子ドット構造に内部電界15 kV/cmが印加されたときのバンド図を示しており、図5(a)は、超格子半導体層10の一部の概略断面図を示す。実験1と同様に、n型およびp型母体半導体の不純物濃度はi層よりも十分大きいため、内部電界はi層において均一にかかっていると考えている。
【0049】
図5(b)では、各量子ドット層22で量子ドットサイズを変えることによって量子準位を変調させた超格子構造のバンド図を示す。図5(b)では、n型半導体層に近づくに従い徐々に量子準位を高くしている。このバンド図において、価電子帯ではホールの有効質量が重いことから一つのバンドであるとみなされ、伝導帯側のとりうる一部のエネルギー値と最小エネルギーの波動関数のみを示した。障壁層21bの厚みは1nm、量子ドットのサイズは縦横(xy方向)20nm、高さ(z方向)5nmとし、n型半導体層に最近接する量子ドット層22のn型半導体層側の障壁層21cおよびp型半導体層に最近接する量子ドット層22のp型半導体層側の障壁層21aは、十分な厚みとして20nmとした。図5(b)では、量子ドット層22の高さ(z方向)を5nmから徐々に小さくした。ガリウムヒ素とインジウムヒ素との間の障壁高さは0.697eVとした。図6では、各エネルギー値の波動関数をそれぞれ示している。図7では、最小エネルギーの波動関数の拡大図を示している。
【0050】
図7からわかるように、最小エネルギーの波動関数が超格子構造全体(図7の横軸の距離20nm〜70nmの範囲)に渡って完全に繋がっており、キャリア移動度の高いミニバンドが形成されていることがわかる。
さらに、量子ドット層22の量子準位はn型半導体層に近づくに従い徐々に大きくなり、各量子ドット層22と障壁層21bとの間のエネルギー障壁の大きさが小さくなっていることがわかる。
図5のバンド図に関して、各量子ドットのサイズを、p型半導体側の界面からn型半導体側に近づくに従い、順に小さくしていくと、量子ドット層22の量子準位と隣接するn型半導体側の障壁層21bとのエネルギー差は、p型半導体層に最近接する量子ドット層22と障壁層21aとの間(図5に示した差g)の547meVからn型半導体最近接の量子ドット層22と障壁層21cとの間(図5に示した差f)の483meVと徐々に小さくなっている。つまり、ミニバンドを形成した状態で、エネルギー障壁の大きさが徐々に小さくなっており、生成キャリアをn型半導体領域から容易に取り出すことができることを示している。
【0051】
[実験3]
実験3は、複数の量子ドット層毎に混晶比を変えることによって量子準位を変調させた量子ドット太陽電池の例である。以下、図8〜10を参照してより具体的に説明する。
図8(b)は、量子ドット層10層ごとに混晶比を変えることによって量子準位を変調させた合計積層数20層の超格子構造に内部電界5kV/cmが印加されたときのバンド図を示しており、図8(a)は、超格子半導体層10の一部の概略断面図を示す。なお、内部電界5 kV/cmとは、1200nmのi型半導体層に内部電界0.6Vがかかっていることに等しい。また、1000nmのi型半導体層に内部電界0.5Vや、800nmのi型半導体層に内部電界0.4V等も同様の印加電界5kV/cmとなる。
これまでと同様、母体半導体材料にガリウムヒ素(GaAs)、量子ドット材料にインジウムガリウム砒素(InxGa1-xAs)を用い、障壁層の厚みは1 nm、量子ドットのサイズは縦横(xy方向)20nm、高さ(z方向)5nmで、量子ドット層両端の障壁層21a、21cは十分な厚みとして20nmとした。ガリウムヒ素とインジウムヒ素との間の障壁高さは0.697eVとした。図9では、各エネルギー値の波動関数を示し、図10では、最小エネルギーの波動関数の拡大図を示している。図10から、最小エネルギーの波動関数が超格子構造全体(図10の横軸の距離20nm〜140nmの範囲)に渡って完全に繋がっている。また、量子ドット層22の最低量子準位と隣接するn型半導体側の障壁層21bとのエネルギー差は、p型半導体層に最近接する量子ドット層22と障壁層21aと間(図8(b)に示した差i)では564meVであったが、n型半導体層に最近接する量子ドット層22と障壁層21cとの間(図8(b)に示した差h)では507meVと、徐々に小さくなっている。つまり、ミニバンドを形成した状態でエネルギー障壁の大きさが徐々に小さくなっており、生成キャリアをn型半導体領域から容易に取り出すことができることを示している。
【0052】
また、複数の量子ドット層毎に混晶比を変えたことにより、量子ドット層の各バンドギャップで十分な光吸収が可能となる。
つまり、複数の量子ドット層ごとに材料変調させた量子ドット太陽電池は、量子ドット層の各バンドギャップに応じた光を十分に吸収させることが可能であり、幅広い波長の光を吸収させることが可能で、かつ容易にn型半導体領域からキャリア取り出しできる。
【0053】
[実験4]
実験4は、各量子ドット層の混晶比を変えることによって量子準位を変調させ、n型半導体層に最近接する量子ドット層とそのn型半導体層側の障壁層との間のエネルギー障壁の大きさを26meV以下とした量子ドット太陽電池の例である。以下、図11〜13を参照してより具体的に説明する。
図11(b)は、母体半導体材料にガリウムヒ素(GaAs)、量子ドット材料にインジウムガリウム砒素(InxGa1-xAs)を用いた、積層数20層の量子ドット構造に内部電界15 kV/cmが印加されたときのバンド図を示しており、図11(a)は、超格子半導体層10の一部の概略断面図を示す。n型およびp型母体半導体の不純物濃度は超格子半導体層よりも十分大きいため、内部電界は超格子半導体層において均一にかかっていると考えている。
【0054】
図11(b)に各量子ドット層22で混晶比を変えることによって量子準位を変調させた量子ドット構造のバンド図を示す。図11(b)に示すようにn型半導体層に近づくに従い徐々に量子準位を高くしている。図11(b)のバンド図において、価電子帯ではホールの有効質量が重いことから一つのバンドであるとみなされ、伝導帯側のとりうる一部のエネルギー値と最小エネルギーの波動関数のみを示した。障壁層の厚みは1nm、量子ドットのサイズは縦横(xy方向)4nm、高さ(z方向)4nmとし、量子ドット層両端の障壁層21a、21cは十分な厚みとして20nmとした。ガリウムヒ素とインジウムヒ素との間の障壁高さは0.697eVとした。図12では、各エネルギー値の波動関数をそれぞれ示している。図13では、最小エネルギーの波動関数の拡大図を示している。
【0055】
図13からわかるように、最小エネルギーの波動関数が超格子構造全体(図13の横軸の距離20nm〜120nmの範囲)に渡って完全に繋がっており、キャリア移動度の高いミニバンドが形成されていることがわかる。
さらに、量子ドット層22の量子準位はn型半導体層に近づくに従い徐々に大きくなり、各量子ドット層22と障壁層21bとの間のエネルギー障壁の大きさが小さくなっていることがわかる。
また、図11のバンド図において、量子ドット層22の最低量子準位と隣接するn型半導体側の障壁層21bとのエネルギー差は、p型半導体層に最近接する量子ドット層22と障壁層21aとの間の147meVからn型半導体層に最近接する量子ドット層22と障壁層21cとの間の5meVと徐々に小さくなっている。つまり、ミニバンドを形成した状態でエネルギー障壁の大きさが徐々に小さくなっており、さらに、そのエネルギー障壁の大きさが室温300Kにおける熱エネルギーである26meV以下となることで、生成キャリアをn型半導体領域からより容易に取り出すことができることを示している。
なお、実験1〜4におけるすべての量子準位の変調において、量子ドットのサイズの変化量は1nm以下、量子ドットの混晶比の変化量は0.1以下とした。
【0056】
[比較実験]
比較実験では、混晶比や量子ドットサイズを変えず、即ち量子準位を変調しなかった量子ドット太陽電池の例を示す。以下、図14〜図16を参照してより具体的に説明する。
図14(b)には、材料変調や量子ドットサイズを変えず、量子準位の変調を行わない場合で、積層数20層の超格子構造に内部電界を15 kV/cm印加したバンド図を示しており、図14(a)には、超格子半導体層10の一部の概略断面図を示す。これまでと同様、母体半導体材料にガリウムヒ素(GaAs)、量子ドット材料にインジウムヒ素(InAs)を用い、障壁層の厚みは1nm、量子ドットのサイズは縦横(xy方向)20nm、高さ(z方向)5nmで、量子ドット層両端の障壁層21a、21cは十分な厚みとして20 nmとした。ガリウムヒ素とンジウムヒ素との間の障壁高さは0.697eVとした。
【0057】
図15では、各エネルギー値の波動関数を示し、図16では、最小エネルギーの波動関数の拡大図を示している。図16からわかるように、実験1に示すような変調ありの場合と異なり、最小エネルギーの波動関数が超格子半導体層23の全体に渡って完全には繋がっていない。つまり、横軸の距離が約90nm〜140nmの範囲のみ最小エネルギーの波動関数が延びており、超格子構造全体(図16の横軸の距離20nm〜140nmの範囲)にはこの波動関数は延びておらず、超格子構造全体としては波動関数が局在化している。従って、量子準位を変調した場合と比べてキャリアの移動度が大きく低下し、非効率的な量子ドット太陽電池となると考えられる。
【符号の説明】
【0058】
1: p型半導体基板(p型半導体層) 3:バッファー層 4:ベース層 6、22:量子ドット層 7:量子ドット 8、21a、21b、21c:障壁層 10、23:超格子半導体層 12:n型半導体層 14:窓層 15:コンタクト層 17:n型電極 18:p型電極 20:太陽電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型半導体層と、n型半導体層と、前記p型半導体層と前記n型半導体層とに挟まれた超格子半導体層とを備え、
前記超格子半導体層は、障壁層と量子ドットからなる量子ドット層とが交互に繰り返し積層された超格子構造を有し、
前記超格子半導体層は、前記超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体側に近づくに従い前記量子ドットのバンドギャップが徐々に広くなるように積層されたことを特徴とする太陽電池。
【請求項2】
前記超格子半導体層は、前記超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体層側に近づくに従い前記量子ドットのサイズが徐々に小さくなるように積層された請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
前記量子ドットは、半導体混晶からなり、
前記超格子半導体層は、前記超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体層側に近づくに従い前記量子ドット層に含まれる前記量子ドットの混晶比が変化するように積層された請求項1または2に記載の太陽電池。
【請求項4】
前記超格子半導体層は、前記量子ドット層の1つに含まれる量子ドットの伝導帯下端の量子準位とこの量子ドットのn型半導体層側の障壁層の伝導帯下端のエネルギー準位との差がp型半導体側からn型半導体側に近づくに従い徐々に小さくなるように積層された請求項1〜3のいずれか1つに記載の太陽電池。
【請求項5】
前記超格子半導体層は、前記n型半導体層に最も近接する前記量子ドット層とその量子ドット層のn型半導体層側に積層された前記障壁層との間のエネルギー障壁の大きさが室温300Kにおいて26meV以下になるように積層された請求項1〜4のいずれか1つに記載の太陽電池。
【請求項6】
前記超格子半導体層は、前記超格子半導体層に光が照射された場合に形成される内部電界下において前記超格子構造にミニバンドが形成されるように積層された請求項1〜5のいずれか1つに記載の太陽電池。
【請求項7】
前記超格子半導体層は、前記ミニバンドの伝導帯の波動関数が前記超格子構造全体に渡って繋がるように積層された請求項6に記載の太陽電池。
【請求項8】
前記超格子半導体層は、前記ミニバンドの伝導帯において最もエネルギーの低い波動関数が前記超格子構造全体に渡って繋がるように積層された請求項6または7に記載の太陽電池。
【請求項9】
前記超格子半導体層は、前記ミニバンドが伝導帯において1つのみ形成されるように積層された請求項6〜8のいずれか1つに記載の太陽電池。
【請求項10】
前記p型半導体層、前記n型半導体層および前記超格子半導体層は、pn接合またはpin接合を形成する請求項1〜9のいずれか1つに記載の太陽電池。
【請求項11】
前記n型半導体層、前記超格子半導体層および前記p型半導体層は、前記n型半導体層側から光が入射するように配置される請求項1〜10のいずれか1つに記載の太陽電池。
【請求項12】
前記障壁層または前記量子ドット層は、III−V族化合物半導体からなる請求項1〜11のいずれか1つに記載の太陽電池。
【請求項13】
前記障壁層は、GaAsからなり、
前記量子ドット層は、InxGa1-xAs(0<x≦1)からなる請求項1〜12のいずれか1つに記載の太陽電池。
【請求項14】
前記超格子半導体層は、前記超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体層側に近づくに従い前記量子ドットのサイズを1nm以下の変化量で徐々に小さくなるように積層された請求項1〜13のいずれか1つに記載の太陽電池。
【請求項15】
前記量子ドットは、半導体混晶からなり、
前記超格子半導体層は、前記超格子半導体層のp型半導体層側からn型半導体層側に近づくに従い前記量子ドット層に含まれる前記量子ドットの混晶比を0.1以下の変化量で変化するように積層された請求項1〜14のいずれか1つに記載の太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−89756(P2012−89756A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236723(P2010−236723)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】