説明

失血の予防及び軽減

【課題】心臓胸郭部の手術、例えば冠動脈バイパス移植術及び他の外科的処置を受ける患者において、特にそのような処置が心−肺バイパスのような体外循環を含む場合に、術中の失血及び/又は全身炎症反応のような患者の虚血及び/又は全身炎症反応を予防又は軽減させるための方法を提供する。
【解決手段】侵襲性外科的処置、特に心臓胸郭部の手術を受ける患者における術中の失血及び全身炎症反応を軽減又は予防するためのセリンプロテアーゼを阻害するポリペプチドからなるカリクレインインヒビターの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連技術
本願は、2002年6月7日に出願された米国仮出願第60/387,239号、及び2002年8月28日に出願された米国仮出願第60/407,003号の利益を主張する。
【0002】
上記出願の全教示は本明細書中に援用される。
【背景技術】
【0003】
プロテアーゼは広範な生物学的経路に関与する。特に、カリクレイン、プラスミン、エラスターゼ、ウロキナーゼプラスミノーゲンアクチベーター、トロンビン、ヒトリポタンパク質結合凝固インヒビター、並びに第VIIa因子、第IXa因子、第Xa因子、第XIa因子及び第XIIa因子などの凝固因子のようなセリンプロテアーゼは、例えば全身及び局所の虚血、腫瘍浸潤、フィブリン溶解、術中の失血、並びに炎症のような血流に影響する経路に関係がある。したがって、特定のセリンプロテアーゼのインヒビターは、さまざまな虚血性疾患に対する潜在的薬物標的として注目されている。
【0004】
そのようなインヒビターの1つである、ウシ肺から得られたアプロチニン(ウシ膵トリプシンインヒビター又はBPTIとも呼ばれる)は、術中の失血を軽減させる上での予防的使用のため、及び例えば冠動脈バイパス移植術処置の過程で心−肺バイパス術(CPB)を受ける患者の輸血の必要性のために米国で承認されている。アプロチニンはトラジロール(登録商標)の商品名で市販されており(バイエル社医薬部門、ウエストヘーブン、コネチカット)、膵炎の治療に用いるために以前に承認されている。アプロチニンの有効性は、血漿カリクレイン及びプラスミンを含む種々のセリンプロテアーゼを阻害する比較的非特異的な能力に関連している。これらのプロテアーゼは、接触活性化システム(CAS)の多くの経路において重要である。
【0005】
CASは、全血が外来基質表面(例えばカオリン、ガラス、硫酸デキストラン、又は損傷を受けた骨表面)と接触したとき最初に活性化される。セリンプロテアーゼであるカリクレインは、好中球、プラスミン、凝固、及び種々のキニンの活性化をもたらすCASカスケードを開始する血漿酵素である。カリクレインは、接触活性化カスケードの初期においてタンパク質分解イベントにより活性化されるまで不活性分子として循環するチモーゲン(プレ−カリクレイン)として分泌される。カリクレインの特異的阻害は、CPBに関連する失血及び例えば種々の侵襲性外科的処置のあいだに直面するような全身炎症反応(SIR)の発症を制御するための非常に魅力的なアプローチであることは明らかである。
【0006】
冠動脈バイパス移植術(CABG)処置のためのCPBにおいて術中の失血を予防するための唯一の認可化合物であるにもかかわらず、アプロチニンは期待されたほど広く使用されていない。CPBを必要とする患者へのこのウシポリペプチドの使用に関し、そして特にCABG処置でのこの化合物の使用に関し、深刻な懸念がある。アプロチニンはカリクレインに特異的ではなく、複数の経路で更なる酵素(例えばプラスミン)と相互作用する。したがって、アプロチニンの作用機構は非常に不確かなものであり、アプロチニン治療のあいだに何が影響されるかについての正確な理解の欠如は、治療のあいだの合併症の危険性を生ずる。しばしば引用される合併症の1つは、線溶経路に対するアプロチニン作用によるコントロール不良の血栓症である。術中の主要血管血栓症のような超急性イベントだけでなく、CABG処置後の移植開存性に対しても懸念がある。更に、ウシ肺から得られた天然タンパク質として、ヒトへのアプロチニン投与は、患者への1回目の投与後、より多くは繰り返し投与後に重篤な過敏症又はアナフィラキシー反応又はアナフィラキシー様反応を惹起し得る。これは、繰り返しCAPG処置を受ける多数の患者に特に関心が寄せられている。更に、ウシ海綿状脳症のヒトへの伝染の潜在的ベクターとしてウシ供給源由来物質の使用に関し、公共の関心が高まっている。
【0007】
これら関心事により、CPB患者におけるCAPG処置、又は股関節置換術のようにCASの活性化をもたらす外科手術を受けた患者において、術中の失血及びSIRの発症を予防又は軽減させるためのより有効でより特異的な手段及び方法に関する必要性が依然としてあることは明らかである。
【発明の開示】
【0008】
本発明はセリンプロテアーゼを阻害するペプチドの発見に基づくものである。例えばカリクレインのようなセリンプロテアーゼは、例えば術中の過剰な失血及び全身炎症反応の発症をもたらす経路に関与する。好ましいカリクレインペプチドインヒビターには、Marklandらの米国特許第6,333,402号及び第6,057,287号に記載されるものが含まれる。これらの内容は本明細書中にその全体が援用される。本発明は部分的に、限定されるものではないが術中の失血及び全身炎症反応の発症を含む種々の虚血を排除又は軽減する上での使用に好適な治療方法及び組成物におけるペプチドの使用にかかるものである。術中の失血は、補体成分及び凝固/線溶系の接触活性化をもたらす侵襲性の外科的処置に起因する。より詳細には、本発明は、侵襲性外科的処置、特に心臓胸郭部の手術を受ける患者における術中の失血及び全身炎症反応を軽減又は予防するためのカリクレインインヒビターの使用方法を提供するものである。
【0009】
1つの態様において、本発明は、アミノ酸配列:Xaa1 Xaa2 Xaa3 Xaa4 Cys Xaa6 Xaa7 Xaa8 Xaa9 Xaa10 Xaa11 Gly Xaa13 Cys Xaa15 Xaa16 Xaa17 Xaa18 Xaa19 Xaa20 Xaa21 Xaa22 Xaa23 Xaa24 Xaa25 Xaa26 Xaa27 Xaa28 Xaa29 Cys Xaa31 Xaa32 Phe Xaa34 Xaa35 Gly Gly Cys Xaa39 Xaa40 Xaa41 Xaa42 Xaa43 Xaa44 Xaa45 Xaa46 Xaa47 Xaa48 Xaa49 Xaa50 Cys Xaa52 Xaa53 Xaa54 Cys Xaa56 Xaa57 Xaa58(配列番号1)を含むポリペプチドを含む組成物を患者に投与することを含む、患者の虚血を予防又は軽減するための方法にかかるものであり、ここで、Xaa1、Xaa2、Xaa3、Xaa4、Xaa56、Xaa57又はXaa58はそれぞれ個別に1つのアミノ酸であるか又は存在せず;Xaa10はAsp及びGluから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa11はAsp、Gly、Ser、Val、Asn、Ile、Ala及びThrから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa13はArg、His、Pro、Asn、Ser、Thr、Ala、Gly、Lys及びGlnから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa15はArg、Lys、Ala、Ser、Gly、Met、Asn及びGlnから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa16はAla、Gly、Ser、Asp及びAsnから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa17はAla、Asn、Ser、Ile、Gly、Val、Gln及びThrから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa18及びHis、Leu、Gln及びAlaから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa19はPro、Gln、Leu、Asn及びIleから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa21はTrp、Phe、Tyr、His及びIleから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa22はTyr及びPheから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa23はTyr及びPheから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa31はGlu、Asp、Gln、Asn、Ser、Ala、Val、Leu、Ile及びThrから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa32はGlu、Gln、Asp、Asn、Pro、Thr、Leu、Ser、Ala、Gly及びValから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa34はThr、Ile、Ser、Val、Ala、Asn、Gly及びLeuから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa35はTyr、Trp及びPheから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa39はGlu、Gly、Ala、Ser及びAspから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa40はGly及びAlaから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa43はAsn及びGlyから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa45はPhe及びTyrから成る群より選択されるアミノ酸であり;そしてポリペプチドはカリクレインを阻害する。
【0010】
特定の態様において、虚血は患者に施す外科的処置による術中の失血である。外科的処置は例えば心−肺バイパス術又は冠動脈バイパス移植術のような心臓胸郭部の手術であり得る。
【0011】
特定の態様において、配列番号1の個々のアミノ酸位置は以下の1つ以上であり得る:Xaa10はAspであり、Xaa11はAspであり、Xaa13はProであり、Xaa15はArgであり、Xaa16はAlaであり、Xaa17はAlaであり、Xaa18はHisであり、Xaa19はProであり、Xaa21はTrpであり、Xaa31はGluであり、Xaa32はGluであり、Xaa34はIleであり、Xaa35はTyrであり、Xaa39はGluである。
【0012】
他の態様において、本発明は、アミノ酸配列:Xaa1 Xaa2 Xaa3 Xaa4 Cys Xaa6 Xaa7 Xaa8 Xaa9 Xaa10 Xaa11 Gly Xaa13 Cys Xaa15 Xaa16 Xaa17 Xaa18 Xaa19 Xaa20 Xaa21 Xaa22 Xaa23 Xaa24 Xaa25 Xaa26 Xaa27 Xaa28 Xaa29 Cys Xaa31 Xaa32 Phe Xaa34 Xaa35 Gly Gly Cys Xaa39 Xaa40 Xaa41 Xaa42 Xaa43 Xaa44 Xaa45 Xaa46 Xaa47 Xaa48 Xaa49 Xaa50 Cys Xaa52 Xaa53 Xaa54 Cys Xaa56 Xaa57 Xaa58(配列番号1)を含むポリペプチドを含む組成物を患者に投与することを含む、患者への外科的処置に関連する全身炎症反応の発症を予防又は軽減するための方法にかかるものであり、ここで、Xaa1、Xaa2、Xaa3、Xaa4、Xaa56、Xaa57又はXaa58はそれぞれ個別に1つのアミノ酸であるか又は存在せず;Xaa10はAsp及びGluから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa11はAsp、Gly、Ser、Val、Asn、Ile、Ala及びThrから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa13はArg、His、Pro、Asn、Ser、Thr、Ala、Gly、Lys及びGlnから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa15はArg、Lys、Ala、Ser、Gly、Met、Asn及びGlnから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa16はAla、Gly、Ser、Asp及びAsnから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa17はAla、Asn、Ser、Ile、Gly、Val、Gln及びThrから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa18はHis、Leu、Gln及びAlaから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa19はPro、Gln、Leu、Asn及びIleから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa21はTrp、Phe、Tyr、His及びIleから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa22はTyr及びPheから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa23はTyr及びPheから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa31はGlu、Asp、Gln、Asn、Ser、Ala、Val、Leu、Ile及びThrから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa32はGlu、Gln、Asp、Asn、Pro、Thr、Leu、Ser、Ala、Gly及びValから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa34はThr、Ile、Ser、Val、Ala、Asn、Gly及びLeuから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa35はTyr、Trp及びPhe;Xaa39はGlu、Gly、Ala、Ser及びAspから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa40はGly及びAla;Xaa43はAsn及びGlyから成る群より選択されるアミノ酸であり;Xaa45はPhe及びTyrから成る群より選択されるアミノ酸であり;そしてポリペプチドはカリクレインを阻害する。特定の態様において、外科的処置は例えば心−肺バイパス術又は冠動脈バイパス移植術のような心臓胸郭部の手術であり得る。特定の態様において、配列番号1の個々のアミノ酸位置は以下の1つ以上であり得る:Xaa10はAspであり、Xaa11はAspであり、Xaa13はProであり、Xaa15はArgであり、Xaa16はAlaであり、Xaa17はAlaであり、Xaa18はHisであり、Xaa19はProであり、Xaa21はTrpであり、Xaa31はGluであり、Xaa32はGluであり、Xaa34はIleであり、Xaa35はTyrであり、Xaa39はGluである。
【0013】
更に他の態様において、本発明は、アミノ酸配列:Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Arg Ala Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ile Tyr Gly Gly Cys Glu Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号2)から成るポリペプチドを含む組成物を患者に投与することを含む、患者への外科的処置に関連する全身炎症反応の発症を予防又は軽減する方法にかかるものであり、ポリペプチドはカリクレインを阻害する。1つの態様において、外科的処置は例えば心−肺バイパス術又は冠動脈バイパス移植術のような心臓胸郭部の手術である。
【0014】
他の態様において、本発明は、アミノ酸配列:Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Arg Ala Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ile Tyr Gly Gly Cys Glu Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号2)から成るポリペプチドを含む組成物を患者に投与することを含む、患者の虚血を予防又は軽減するための方法にかかるものであり、ポリペプチドはカリクレインを阻害する。特定の態様において、虚血は患者に施す外科的処置による術中の失血であり得る。1つの態様において、外科的処置は例えば心−肺バイパス術又は冠動脈バイパス移植術のような心臓胸郭部の手術である。
【0015】
更に他の態様において、本発明は、アミノ酸配列:Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Arg Ala Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ile Tyr Gly Gly Cys Glu Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp (配列番号2のアミノ酸3〜60)から成るポリペプチドを含む組成物を患者に投与することを含む、患者への外科的処置に関連する全身炎症反応の発症を予防又は軽減するための方法にかかるものであり、ポリペプチドはカリクレインを阻害する。1つの態様において、外科的処置は例えば心−肺バイパス術又は冠動脈バイパス移植術のような心臓胸郭部の手術である。
【0016】
他の態様において、本発明は、アミノ酸配列:Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Arg Ala Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ile Tyr Gly Gly Cys Glu Gly AsnGln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号2のアミノ酸3〜60)から成るポリペプチドを含む組成物を患者に投与すること含む、患者の虚血を予防又は軽減するための方法にかかるものであり、ポリペプチドはカリクレインを阻害する。特定の態様において、虚血は患者に施す外科的処置による術中の失血であり得る。1つの態様において、外科的処置は例えば心−肺バイパス術又は冠動脈バイパス移植術のような心臓胸郭部の手術である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、冠動脈バイパス移植術(CABG)処置、特にCABG処置が心−肺バイパス(バイパス装置)などの体外血液循環を包含する場合に関連するような軟部組織及び骨組織の外傷を受けた患者に生じ得る接触活性化システム及び全身炎症反応(SIR)に関与する主要な複数の経路及び関連イベントの単純化した図解である。矢印は、カスケードにおける1つの成分又はイベントから他の成分又はイベントへの活性化を示す。両方向の矢印は、成分又はイベントの両方向への活性化作用を示す。破線矢印は、1つの成分又はイベントの他の成分又はイベントの活性化への起こり得る関与を示す。略語は以下の通りである:「tPA」=組織プラスミノーゲンアクチベーター;「C5a」=補体系のタンパク質成分;「fXIIa」=活性カリクレインを形成するプレカリクレインのアクチベータータンパク質;「外因性」=外因性凝固系;「内因性」=内因性凝固系。
【図2】図2は、プラスミドpPIC−K503中の本発明のKIポリペプチドのDNAの一部及び対応の推定アミノ酸を示す。挿入DNAは、囲み領域でコードされるアミノ酸配列を有するPEP−1 KIポリペプチドのアミノ末端にインフレームで融合させたサッカロミセス・セレビジエのmatαプレプロシグナルペプチド(下線)をコードする。囲み領域に示すPEP−1 KIポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号2であり、KIポリペプチドの対応のヌクレオチドコード配列は配列番号3である。破線矢印は、配列決定用テンプレートの作製に用いられるAOX領域における2つのPCRプライマー配列の位置及び方向を示す。図の全ヌクレオチド配列のDNA配列は、融合タンパク質の構造コード配列を含み、配列番号27で表される。配列の2重下線部分は診断用プローブ配列を示す。BstBI及びEcoRIは、それぞれ配列中のパリンドロームの6量体制限酵素切断部位の位置を示す。アスタリスクは翻訳終止コドンである。
【図3A】図3Aは、本発明の好ましい態様のアミノ酸配列アラインメント、これらの変異体が由来する天然LACI配列、(配列番号32)、及び他の公知のKunitzドメイン(配列番号29〜31及び33〜53)を示す。システイン残基をハイライトしてある。
【図3B】図3Bは、本発明の好ましい態様のアミノ酸配列アラインメント、これらの変異体が由来する天然LACI配列、(配列番号32)、及び他の公知のKunitzドメイン(配列番号29〜31及び33〜53)を示す。システイン残基をハイライトしてある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の好ましい態様を以下に記載する。
本発明は、カリクレインで惹起される例えば術中の失血及び/又は全身炎症反応(SIR)のような、特に例えば外科的処置、具体的には心臓胸郭部の手術、例えば、冠動脈バイパス移植術(CABG)処置のような心−肺バイパス術(CPB)を含む外科的処置を受ける患者において虚血を予防又は軽減するための改善された方法における使用を可能にする、特異的に血漿カリクレインを阻害するカリクレインインヒビター(KI)ポリペプチド群の発見に基づくものである。KIは、例えば小児心臓手術、肺移植、全股関節置換術及び同所性肝移植に特異的に用いて、CABG術中の発作、こうした処置中の体外膜酸素化(ECMO)及び脳血管障害(CVA)を軽減又は予防することができる。
【0019】
心臓胸郭部の手術とは胸部、最も一般的には心臓及び肺の外科手術である。心臓胸郭部の手術で治療される典型的な疾患には、冠動脈疾患;肺、食道及び胸壁の腫瘍及びがん;心血管及び弁の異常;並びに胸部又は心臓に関与する先天性異常が含まれる。心臓胸郭部の手術を治療に用いる場合、失血(例えば手術で誘発される虚血)及び全身炎症反応(SIR)の発症の危険性を招く。手術で誘発されるSIRは、重篤な臓器機能不全(全身炎症反応症候群;SIRS)をもたらし得る。
【0020】
本発明に有用なポリペプチド
本発明に有用なKIポリペプチドはKunitzドメインポリペプチドを含む。1つの態様において、これらのKunitzドメインは、ヒトリポタンパク質結合凝固インヒビター(LACI)タンパク質のKunitzドメイン1を含むループ構造の変異体型である。LACIは、内部に3つの明確なペプチドループ構造を含有し、それは系列のKunitzドメインである(Girard,T.ら、1989.Nature、338:518−520)。LACIの3つのKunitzドメインは、特に優れた親和性はないが、カリクレインに結合して阻害する能力を付与する。本明細書に記載されるLACIのKunitzドメイン1の変異体はスクリーニングされ、単離されており、向上した親和性及び特異性をもってカリクレインに結合する(例えば本明細書中に援用される米国特許第5,795,865号及び第6,057,287号を参照されたい)。本発明に有用な好ましいポリペプチドの1例は、配列番号2のアミノ酸3〜60で定義されるアミノ酸配列を有する。
【0021】
本発明に有用な全てのポリペプチドはカリクレインに結合し、当該技術分野に公知のカリクレイン結合及び阻害アッセイを用いて測定したところ、好ましいポリペプチドはカリクレインインヒビター(KI)でもある。本明細書に記載される変異体Kunitzドメインポリペプチドのカリクレインに対する向上した親和性及び特異性は、心臓胸郭部の手術、例えばCPB及び特にCABG外科的処置での使用の根拠を提供し、そのような処置を受けている患者の術中の失血及び/又はSIRの発症を予防又は軽減させる。本発明に用いられるKIポリペプチドは、当初カリクレインへの結合能についてファージディスプレイライブラリーをスクリーニングして単離された変異体Kunitzドメインポリペプチドのアミノ酸配列を有するか又は含む。
【0022】
本発明の方法及び組成物に有用なKIポリペプチドは、アミノ酸配列:
Xaa1 Xaa2 Xaa3 Xaa4 Cys Xaa6 Xaa7 Xaa8 Xaa9 Xaa10 Xaa11 Gly Xaa13 Cys Xaa15 Xaa16 Xaa17 Xaa18 Xaa19 Xaa20 Xaa21 Xaa22 Xaa23 Xaa24 Xaa25 Xaa26 Xaa27 Xaa28 Xaa29 Cys Xaa31 Xaa32 Phe Xaa34 Xaa35 Gly Gly Cys Xaa39 Xaa40 Xaa41 Xaa42 Xaa43 Xaa44 Xaa45 Xaa46 Xaa47 Xaa48 Xaa49 Xaa50 Cys Xaa52 Xaa53 Xaa54 Cys Xaa56 Xaa57 Xaa58(配列番号1)
を含むKunitzドメインポリペプチドを含む。
【0023】
「Xaa」はペプチド鎖における位置を表し、多くのさまざまなアミノ酸のいずれでもよい。例えば本明細書に記載されるKIペプチドについては、Xaa10はAsp又はGluであり得る;Xaa11はAsp、Gly、Ser、Val、Asn、Ile、Ala又はThrであり得る;Xaa13はPro、Arg、His、Asn、Ser、Thr、Ala、Gly、Lys又はGlnであり得る;Xaa15はArg、Lys、Ala、Ser、Gly、Met、Asn又はGlnであり得る;Xaa16はAla、Gly、Ser、Asp又はAsnであり得る;Xaa17はAla、Asn、Ser、Ile、Gly、Val、Gln又はThrであり得る;Xaa18はHis、Leu、Gln又はAlaであり得る;Xaa19はPro、Gln、Leu、Asn又はIleであり得る;Xaa21はTrp、Phe、Tyr、His又はIleであり得る;Xaa31はGlu、Asp、Gln、Asn、Ser、Ala、Val、Leu、Ile又はThrであり得る;Xaa32はGlu、Gln、Asp、Asn、Pro、Thr、Leu、Ser、Ala、Gly又はValであり得る;Xaa34はIle、Thr、Ser、Val、Ala、Asn、Gly又はLeuであり得る;Xaa35はTyr、Trp又はPheであり得る;Xaa39はGlu、Gly、Ala、Ser又はAspであり得る。アミノ酸Xaa6、Xaa7、Xaa8、Xaa9、Xaa20、Xaa24、Xaa25、Xaa26、Xaa27、Xaa28、Xaa29、Xaa41、Xaa42、Xaa44、Xaa46、Xaa47、Xaa48、Xaa49、Xaa50、Xaa52、Xaa53及びXaa54は如何なるアミノ酸でもよい。更に、配列番号1の最初の4アミノ酸及び最後の3アミノ酸は、それぞれ任意に存在してもしなくてもよく、存在する場合は如何なるアミノ酸でもよい。
【0024】
配列番号1に定義されるペプチドは、カリクレインに結合するポリペプチドのセットを形成する。例えば本発明の好ましい態様において、本発明の方法及び組成物に有用なKIポリペプチドは以下の可変位置を有する:Xaa11はAsp、Gly、Ser又はValであり得る;Xaa13はPro、Arg、His又はAsnであり得る;Xaa15はArg又はLysであり得る;Xaa16はAla又はGlyであり得る;Xaa17はAla、Asn、Ser又はIleであり得る;Xaa18はHis、Leu又はGlnであり得る;Xaa19はPro、Gln又はLeuであり得る;Xaa21はTrp又はPheであり得る;Xaa31はGluである;Xaa32はGlu又はGlnであり得る;Xaa34はIle、Thr又はSerであり得る;Xaa35はTyrである;そしてXaa39はGlu、Gly又はAlaであり得る。
【0025】
請求している発明のより特定の態様は、以下の可変位置のアミノ酸で定義される:Xaa10はAspである;Xaa11はAspである;Xaa13はPro又はArgであり得る;Xaa15はArgである;Xaa16はAla又はGlyであり得る;Xaa17はAlaである;Xaa18はHisである;Xaa19はProである;Xaa21はTrpである;Xaa31はGluである;Xaa32はGluである;Xaa34はIle又はSerであり得る;Xaa35はTyrである;そしてXaa39はGlyである。
【0026】
また、本発明の範囲に包含されるのは、本明細書に記載されるポリペプチドの部分を含むペプチドである。例えば、ポリペプチドは特定のカリクレインエピトープに対する結合ドメインを含むであろう。本明細書に記載されるポリペプチドのそのような断片も包含されるであろう。
【0027】
本明細書に記載される方法及び組成物に有用なKIポリペプチドはKunitzドメインを含む。配列番号1に包含される配列のサブセットが以下に記載される(示されていない場合、「Xaa」は、配列番号1について認められるのと同じセットのアミノ酸を意味する):

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Xaa10 Xaa11 Gly Xaa13 Cys Xaa15 Xaa16 Xaa17 Xaa18 Xaa19 Arg Xaa21 Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Xaa31 Xaa32 Phe Xaa34 Xaa35 Gly Gly Cys Xaa39 Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号33)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Arg Ala Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ile Tyr Gly Gly Cys Glu Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号2のアミノ酸3〜60)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Lys Ala Asn His Leu Arg Phe Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ser Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号4)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly His Cys Lys Ala Asn His Gln Arg Phe Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Thr Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号5)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly His Cys Lys Ala Asn His Gln Arg Phe Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Gln Phe Thr Tyr Gly Gly Cys Ala Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号6)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly His Cys Lys Ala Ser Leu Pro Arg Phe Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ile Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号7)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly His Cys Lys Ala Asn His Gln Arg Phe Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ser Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号8)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly His Cys Lys Gly Ala His Leu Arg Phe Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ile Tyr Gly Gly Cys Glu Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号9)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Arg Cys Lys Gly Ala His Leu Arg Phe Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ile Tyr Gly Gly Cys Glu Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号10)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Gly Gly Arg Cys Arg Gly Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ser Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号11)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Arg Ala Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ser Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号12)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Val Gly Arg Cys Arg Gly Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ser Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号13)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Val Gly Arg Cys Arg Gly Ala Gln Pro Arg Phe Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ser Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号14)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Ser Cys Arg Ala Ala His Leu Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ser Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号15)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Glu Gly Gly Ser Cys Arg Ala Ala His Gln Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ser Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号16)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Arg Gly Ala His Leu Arg Phe Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ser Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号17)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly His Cys Arg Gly Ala Leu Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ser Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号18)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Ser Gly Asn Cys Arg Gly Asn Leu Pro Arg Phe Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ser Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号19)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Ser Gly Arg Cys Arg Gly Asn His Gln Arg Phe Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ser Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号20)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Gly Gly Arg Cys Arg Ala Ile G1n Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ser Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号21)、

Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Arg Cys Arg Gly Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ser Tyr Gly Gly Cys Gly Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号22)。

図3A及び3Bはこれらの配列のアミノ酸配列アラインメント、これらの変異体が由来する天然のLACI配列(配列番号32)、及び他の公知のKunitzドメイン(配列番号29〜31及び33〜53)を提供する。
【0028】
本明細書に記載される方法及び組成物に有用なKIポリペプチドは、いずれかの標準ポリペプチド合成プロトコール及び装置を用いて合成によって作製することができる。例えば、本明細書に記載されるKIポリペプチドの段階的合成は、アミノ(N)端保護基を最初の(即ちカルボキシ端)アミノ酸から除去し、ポリペプチド配列中の次のアミノ酸のカルボキシ末端へカップリングすることにより行うことができる。このアミノ酸も好適に保護される。カルボジイミド、対称性酸無水物、又はヒドロキシベンゾトリアゾールエステル若しくはペンタフルオロフェニルエステルなどの「活性エステル」基の形成のような反応基の形成により、次のアミノ酸のカルボキシ基を活性化させて、結合したアミノ酸のN末端と反応させることができる。好ましい固相ペプチド合成法には、α−アミノ保護基としてtert−ブチルオキシカルボニルを用いるBOC法、及び9−フルオレニルメチルオキシカルボニルを用いてアミノ酸残基のα−アミノを保護するFMOC法が含まれる。両方法とも当業者に周知である(Stewart,J.及びYoung,J.、固相ペプチド合成(W.H.Freeman社、サンフランシスコ、1989);Merrifield,J.、1963.Am.Chem.Soc.、85:2149−2154;Bodanszky,M.及びBodanszky,A.、ペプチド合成の実践(Springer−Verlag、ニューヨーク、1984)、これら文献の全体の教示は本明細書中に援用される)。所望により、更なるアミノ端及び/又はカルボキシ端アミノ酸をアミノ酸配列中にデザインし、ポリペプチド合成中に付加することができる。
【0029】
あるいは、本発明の組成物及び方法に有用なKunitzドメインポリペプチド及びKIポリペプチドを、多くの細胞、及び細菌発現ベクター、酵母発現ベクター、バキュロウイルス発現ベクター、ほ乳類ウイルス発現ベクター等を含むがこれらに限定されない対応する発現ベクターのいずれかを用いる組換え法により作製することができる。本発明の組成物及び方法に有用なKunitzドメインポリペプチド及びKIポリペプチドは、本明細書に記載されるKunitzドメイン又はKIポリペプチドのコード配列を含む核酸分子を用いて遺伝子組換えにより作製することもできる。ここで、核酸分子は、当該技術分野で利用可能な遺伝子導入法を用いて宿主動物のゲノムに統合されてそこから発現されることができる。Kunitzドメインポリペプチド又はKunitzドメインを含むKIポリペプチドのコード配列を発現ベクター中の他のコード配列に融合させて、宿主細胞で容易に発現する融合ポリペプチドを形成することが必須又は有益である場合もある。そのような融合ポリペプチドを発現する宿主細胞は融合ポリペプチドもプロセシングし、所望のアミノ酸配列のみを含有する本発明に有用なKunitzドメイン又はKIポリペプチドを産生することが好ましい。いずれかの他のアミノ酸が、発現したKunitzドメイン又はKIポリペプチドに付着したままである場合、このような付加的アミノ酸は、Kunitzドメイン又はKIポリペプチドのカリクレイン結合活性及び/又はカリクレイン阻害活性を減少させて、本発明の方法又は組成物におけるポリペプチドの使用を排除すべきではないことは明らかである。
【0030】
本明細書に記載される方法及び組成物に有用なKIポリペプチドを作製するのに好ましい組換え発現システムは、KIポリペプチド又はKunitzドメインポリペプチドのアミノ酸配列をコードする核酸配列が、同じリーディングフレームでサッカロミセス・セレビジエのmatαプレプロリーダーペプチド配列をコードするヌクレオチド配列と連結されるのを可能にする酵母発現ベクターであり、これは作動可能な酵母プロモーターの制御下にある。次に、得られる組換え酵母発現プラスミドは、標準方法により、適切な適合性酵母宿主の細胞に形質転換されることができ、この細胞は組換え酵母発現ベクターから組換えタンパク質を発現できる。そのような組換え発現ベクターで形質転換された宿主酵母細胞は、融合タンパク質をプロセシングして、本発明の方法及び組成物に有用な活性KIポリペプチドを提供することも可能であることが好ましい。そのようなKunitzドメインを含む組換えKunitzドメインポリペプチド及びKIポリペプチドを作製するための好ましい酵母宿主はピキア・パスアトリスである。
【0031】
上記のように、本明細書に記載される方法及び組成物に有用なKIポリペプチドは、本明細書に記載されるKunitzドメインポリペプチドを含むことができる。KIポリペプチドは、付加的なフランキング配列、好ましくは長さ1〜6アミノ酸を、このような付加的アミノ酸がカリクレイン結合親和性又はカリクレイン阻害活性を顕著に減少させて本明細書に記載される方法及び組成物における使用を排除することがないことを条件として、アミノ末端及び/又はカルボキシ末端に含むことができ場合もある。このような付加的アミノ酸を、KIポリペプチドを特定の組換え宿主細胞中で発現させるために意図的に付加することができ、又は更なる機能を提供するため、例えば、KIポリペプチドを他の分子へ連結させるために、若しくはポリペプチドの精製を容易にする親和性部分を提供するために付加することもできる。付加的アミノ酸は、Kunitzドメインのジスルフィド結合を妨げるシステインを含まないことが好ましい。
【0032】
本発明の方法及び組成物に有用な好ましいKunitzドメインポリペプチドの例は、配列番号2の残基3〜60のアミノ酸配列を有する。酵母融合タンパク質発現システムで(例えば統合発現プラスミドpHIL−D2に基づいて)発現及びプロセシングさせる場合、このようなKunitzドメインポリペプチドは、付加的アミノ端Glu−Alaジペプチドを、S.セレビジエのmatαプレプロリーダーペプチド配列との融合から保つ。酵母宿主細胞から分泌される場合、リーダーペプチドの多くは融合タンパク質からプロセシングされて配列番号2のアミノ酸配列(図2囲み領域を参照されたい)を有する機能的KIポリペプチド(以後「PEP−1」と称する)を生ずる。
【0033】
本明細書に記載される方法及び組成物に有用な特に好ましいKIポリペプチドは、カリクレインに対し、現在失血を軽減させるためにCAPG処置に使用することが認可されているアプロチニンよりも1000倍高いオーダーで結合親和性を有する。本明細書に記載されるこのようなKIポリペプチドの驚くほど高い結合親和性は、このようなKIポリペプチドが、他の分子標的(以下の表1を参照されたい)を除外して、カリクレインに対し高度に特異性を発揮することを示している。したがって、本発明のこのようなポリペプチドの使用は、患者における起こり得る治療標的に関し、多くの考察を軽減させる。例えばアプロチニンによって発揮されるより低度の特異性は、起こり得る多面的副作用をもたらし、治療メカニズムに関してあいまいである。
【0034】
例えば配列番号1で定義されるポリペプチドは不変位置を含有し、例えば位置5、14、30、51及び55はCysのみであり得る。例えば位置6、7、8、9、20、24、25、26、27、28、29、41、42、44、46、47、48、49、50、52、53及び54のような他の位置は、如何なるアミノ酸(非天然アミノ酸を含む)でもよい。特定の好ましい態様において、1つ以上のアミノ酸が天然配列のアミノ酸に対応する(例えば配列番号32、図3を参照されたい)。好ましい態様において、少なくとも1つの可変位置は天然配列とは異なる。更に他の好ましい態様において、アミノ酸はそれぞれ個別に又は集団で保存又は非保存アミノ酸置換により置換されることができる。保存アミノ酸置換は1つのアミノ酸を類似の化学構造を有する他のアミノ酸に置換し、タンパク質機能に影響を与えない。非保存アミノ酸置換は1つのアミノ酸を非類似の化学構造を有する他のアミノ酸に置換する。保存アミノ酸置換の例には、例えばAsn→Asp、Arg→Lys及びSer→Thrが含まれる。好ましい態様において、これらのアミノ酸の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20及び/又は21は個別に又は集団で、如何なる組合せでも、配列番号2の対応の位置に相当するよう選択されることができる。
【0035】
他の位置、例えば位置10、11、13、15、16、17、18、19、21、22、23、31、32、34、35、39、40、43及び45は、選択されるアミノ酸セットのいずれでもよい。したがって、配列番号1は可能な配列のセットを定義する。このセットの各メンバーは、例えば、位置5、14、30、51及び55にシステイン、及び位置10、11、13、15、16、17、18、19、221、22、23、31、32、34、35、39、40、43及び45にアミノ酸の特定のセットのいずれか1つを含有する。好ましい態様において、これらのアミノ酸の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18及び/又は19は、個別に又は集団で、如何なる組合せでも、配列番号2の対応の位置に相当するよう選択されることができる。ペプチドは、配列番号2に対し、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%又は少なくとも95%相同であることが好ましい。
【0036】
方法及び組成物
また、本発明は、虚血を予防又は軽減させるための方法にかかるものである。本発明において好ましいのは、特に心臓胸郭部の手術に関連した、患者の術中の失血及び/又は全身炎症反応(SIR)を予防又は軽減させるための方法である。治療方法は、Kunitzドメインを含むKIポリペプチドの投与を包含する。この方法の1つの態様は、広範なセリンプロテアーゼ、例えばウシ肺から単離され、近年CAPG処置への使用が認可されたアプロチニン(トラジロール(登録商標);バイエル社医薬部門、ウエストヘーブン、コネチカット)よりも、カリクレインに対しおよそ1000倍以上高い親和性を有する配列番号1のアミノ酸配列を含有するペプチドの使用を包含する。
【0037】
多くの外科的処置のいずれか、特に体外循環、例えば、CPBなどの心臓胸郭部の手術、及び/又は胸骨分離若しくは股関節置換術などの骨外傷に関与する処置を受ける患者には、術中の失血及び炎症の危険性がある。患者の血液と骨の切断表面又はCPB装置との接触は、接触活性化システム(CAS)を含む1つまたはいくつかの望まれないカスケード反応を活性化させるのに十分である。これは即時輸血を必要とする術中の大量失血及び全身炎症反応(SIR)をもたらし得、続いて組織及び臓器に永久的な損傷をもたらし得る。特定のメカニズム又は理論に限定されることを望まないが、CABG処置におけるような、心臓胸郭部の手術、例えばCPBに関連して起こる失血は、おそらく大量の毛細血管漏出に起因するようであり、即時輸血で元に戻さなければならない重大な失血をもたらし得る
本明細書に記載される方法は、例えば、外科的処置、特に体外循環、例えば、CPBのような心臓胸郭部の手術を必要とする場合の外科的処置を受ける患者の術中の失血及びSIRを含む、種々の虚血を予防又は軽減させるのに有用である。本発明の方法は、CPB又は他の心臓手術を必要とするCABG処置を受ける患者の術中の失血及び/又はSIRを予防又は軽減させるのに特に有用である。
【0038】
医療用途に好ましい組成物は、本明細書に記載されるKIポリペプチドを含む。このような有用な組成物は、1種以上の医薬的に許容可能なバッファー、担体及び賦形剤を更に含むことができ、これらは、患者への組成物のより一層の投与、組成物のKIポリペプチドの増大した循環半減期、患者の血液化学への組成物の増大した適合性、組成物の増大した保存性、及び/又は患者への投与に対する組成物の増大した有効性を含むがこれらに限定されない所望の特徴を組成物に提供することができる。本明細書に記載されるKIポリペプチドに加え、組成物は、侵襲性外科的処置を受けた患者に更なる予防及び治療の恩恵を提供する1種以上の他の医薬的に活性な化合物を更に含むことができる。
【0039】
本発明の方法に有用な組成物は、Kunitzドメインポリペプチド又は本明細書に記載されるようなKunitzドメインポリペプチドを含むKIポリペプチドのいずれかを含む。特に好ましいのは、配列番号2のアミノ酸3〜60の58アミノ酸配列を有するKunitzドメインポリペプチドを含むKIポリペプチドである。本発明の方法及び組成物に有用なこのように特に好ましいKIポリペプチドの例は、配列番号2の60アミノ酸配列を有するPEP−1 KIポリペプチドである。配列番号2のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は配列番号3に提供される(例えば図2のヌクレオチド309〜488を参照されたい)。本発明は、公知の遺伝コードに基づいて、ヌクレオチド配列によってコードされるそれぞれのアミノ酸を1種以上の公知の縮重コドンで単に置き換えることにより、配列番号3のヌクレオチド配列の縮重型も提供することが理解される。配列番号3のヌクレオチド7〜180、及びその縮重型は、配列番号2のアミノ酸3〜60の58アミノ酸配列を有する非天然Kunitzドメインポリペプチドをコードする。
【0040】
種々の核酸分子のいずれも、限定されるものではないが組換えファージゲノム、組換え哺乳動物ウイルスベクター、組換え昆虫ウイルスベクター、酵母ミニ染色体、及び種々のプラスミドを含めて、配列番号3のヌクレオチド7〜180のヌクレオチド配列、縮重型、及びその部分を含むことができる。このようなプラスミドには、そのようなヌクレオチドコード配列をクローニングし及び/又は発現させるのに用いられるものを含む。発現ベクターは、特定のヌクレオチド配列に作動可能に連結させることができるプロモーター、及び特定のヌクレオチドコード配列を機能的メッセンジャーRNA(mRNA)に転写し、更にこのmRNAを対応のポリペプチドに翻訳することが可能な適切な宿主細胞を提供する。次に、このようにして産生されるポリペプチドを宿主細胞から単離することができる。本明細書に記載されるKunitzドメイン又はKIポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子は、標準の核酸合成法、組換えDNA法、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、及びそれらのいずれかの組合せで作製することができる。
【0041】
術中の失血及び心臓の血流減少
医学の大きな進歩により、失血をもたらすか又は患者が失血する危険性の高い多くの高度に侵襲性な外科的処置が日々行われている。このような患者は正常な血液供給及び止血を回復及び維持するために注意深くモニターされなければならず、輸血を必要とするかもしれない。失血を伴う外科的処置には、心臓胸郭部の手術、例えばCPBのような体外循環法を包含するものが含まれる。このような方法において、患者の心臓は停止され、循環、酸素供給、及び血量維持が体外回路及び合成膜人工肺を用いて人工的に行われる。このような技術は心臓手術に普通に用いられている。更に、CABGに必要とされる胸骨分離又は股関節置換術処置のように骨に大規模な外傷を伴う外科手術もCASの活性化に関連するようであり、これは血液及び脈管系に種々の破壊をもたらし得る。
【0042】
アテローム硬化性冠動脈疾患(CAD)は1つまたはいくつかの冠動脈内腔の狭窄を引き起こす;これは心筋(即ち心臓の筋肉)への血流を制限し、狭心症、心不全、及び心筋梗塞を引き起こし得る。冠動脈アテローム硬化の末期では冠循環はほとんど完全に閉塞し得、生命をおびやかす狭心症又は心不全を引き起こし、死亡率が高い。CAPG処置は、閉塞血管を橋渡しし、心臓に血液を回復させることを必要とするかもしれない;これらは潜在的に生命を維持する。CAPG処置は最も侵襲性の外科手術であり、1つ以上の健常な静脈又は動脈を移植して、疾患血管の閉塞領域周辺に「バイパス」を提供する。CAPG処置は小さいが重大な術中の危険性を伴うが、アテローム硬化性心血管疾患の死亡率及び罹患率からの速やかな救済を患者に提供する点で非常に成功している。これらの非常に有望な結果にもかかわらず、最終的に第2回、ときに第3回の処置を受ける患者数の明らかな増加が示すように、繰り返しのCAPG処置が必要とされることが多い。第1回目のCAPG処置で見られる術中の死亡率及び罹患率は、こうした再処置において増加している。
【0043】
合併症のないCADに対する低侵襲外科技術には改善点がある。しかしながら、弁膜性及び/又は先天性の心疾患、心臓移植、並びに主要な大動脈処置に対して行われるほぼ全てのCAPG処置は、CPBで支持されている患者について依然として行われている。CPBにおいて、大きなカニューレを患者の大血管に挿入し、膜人工肺を用いて血液の機械的なポンプ作用及び血液供給を可能にしている。血液は肺を流れずに患者に戻され、この処置のあいだ血流が低下する。心臓は心筋保護液を用いて停止され、患者は脳損傷及び体外回路、即ちCPB回路によって増加される末梢循環量を妨げるのに役立つように冷却される。この体外回路はドナー血液による「プライミング」を必要とし、生理食塩水混合物が体外回路の充填に用いられる。CPBはほぼ半世紀のあいだに行われた種々の処置に大規模に用いられ、うまくいっている。人工的表面、血液細胞、血液タンパク質、損傷した血管内皮、及び骨などの血管外組織の相互作用は、止血を妨げ、頻繁にCASを活性化する。これは上記のように、血液及び脈管系に種々の混乱をもたらし得る。このような混乱は術中の過剰な出血をもたらし、即時輸血を必要とする。CPBにおける対外回路を通した全血の循環の結果には、凝固系及び補体系の接触活性化により開始される全身炎症反応(SIR)も含むことができる。実際、一見して機械的に成功しているCPB外科的処置に関連する罹患率及び死亡率の多くは、凝固系、線溶系、又は補体系を活性化する効果の結果である。このような活性化は、肺系に損傷を与え、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、腎臓及び内臓循環の機能障害、並びに失血及び輸血の必要性をもたらす一般的な凝固障害の誘導をもたらし得る。術中の失血の危険性に加えて、SIRに関連する更なる病理には、神経認知不足、、脳卒中、腎不全、急性心筋梗塞、及び心組織損傷が挙げられる。
【0044】
輸血にも重大な感染の危険性が存在し、CABG又はCPBを要する他の類似処置の費用も増加する。薬理学的診療がなければ、たとえ優れた外科技術があっても典型的には3〜7単位の血液が1人の患者に費やされなければならない。したがって、CPB及びCAPG処置を受ける患者において術中の出血及びSIRを軽減又は予防するための新規且つ改善された薬理学的に有効な化合物の開発に関し、少なからぬ動機がある。
【0045】
KIポリペプチドの投与及び用量の検討
本明細書に記載されるKIポリペプチドは、医薬的に許容可能な組成物で、外科的処置の前、あいだ、及び/又は後に患者に投与することができる。「医薬的に許容可能な」組成物という用語は、本発明の化合物とともに、患者に投与される非毒性担体又は賦形剤を意味し、その担体又は賦形剤はその組成物の生物活性又は薬理活性を破壊しない。本明細書に記載されるKIポリペプチドは、カリクレイン阻害量のKIポリペプチドを患者に送達するのに好適な、例えば非経口及び吸入などの全身投与を含むがこれらに限定されないいずれかの手段により局所的に又は全身的に投与することができる。非経口投与が特に好ましい。
【0046】
非経口投与についは、ポリペプチドは、静脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下に注入することができる。静脈内投与が好ましい。典型的には、静脈投与用組成物は、滅菌等張水性バッファー中の溶液である。他の医薬的に許容可能な担体には、限定されるものではないが、滅菌水、生理食塩水溶液、及び緩衝食塩水(リン酸塩又は酢酸塩のようなバッファーを含む)、アルコール、植物油、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、パラフィン、などが含まれる。必要であれば、組成物は、活性化合物と有害に反応しない限り、可溶化剤及び注入部位の痛みを和らげるためのリドカインのような局所麻酔剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、塩、潤滑剤などを含むこともできる。同様に、組成物は、慣用の賦形剤、例えば非経口投与、経腸投与又は鼻腔内投与に好適な医薬的に許容可能な有機又は無機担体基剤を含むことができ、これらは活性化合物と有害に反応しない。一般に、成分は別々に又は一緒にあわせて単位剤形に供給され、例えば凍結乾燥粉末又は無水濃縮物として、活性物質の量を活性単位で示すアンプル又はサチェットなどの密封容器に供給されるであろう。組成物を点滴で投与する場合、滅菌医薬品グレード「注射用水」又は塩を含有する輸液ボトルで調剤することができる。組成物を注射で投与する場合、成分を投与前に混合することができるように、注射用の滅菌水又は塩のアンプルを提供することもできる。
【0047】
好ましくは、本発明の方法は、認可されたいずれかの処置にしたがい患者にKIポリペプチドを静脈内注射として投与することを含む。したがって、本明細書に記載されるKIポリペプチドは、アプロチニン投与に関し認可されたプロトコールに近年用いられているのと同様の時期に、必要数又は必要濃度のカリクレイン阻害単位(KIU)を患者に提供するのに要する量で、CABG処置を受ける患者に投与することができる。本発明によれば、本明細書に記載されるKIポリペプチドは、出血異常がSIRの下流効果の結果として起こり得る場合、手術直後に患者に投与することもできる。例えば、CPBを含む処置において、本明細書に記載されるKIポリペプチドを、初期負荷用量として、例えば麻酔を導入する前に10分のような慣用の時間有効な量で、患者に投与することができる。次に、麻酔導入時に第2用量のKIポリペプチドをCPBプライミング溶液に注入することができる(「ポンプ・プライム容量」)。次に患者は、外科的処置のあいだ、及び指示がある場合は処置後、継続的且つ制御された静脈内注射用量に置かれることができる。
【0048】
近年、CABG処置を受ける患者へのアプロチニン投与に関し米国で認可された2つの投薬計画がある(トラジロール(登録商標);バイエル社医薬部門、ウエストヘーブン、コネチカットの製品ラベル及び挿入物を参照されたい)。認可された投与計画の1つは、静脈内負荷用量2百万KIU、ポンプ・プライム容量へ2百万KIU、及び外科手術1時間当たり500,000KIUを用いる。認可されたもう1つの投与計画は、静脈内負荷容量百万KIU、ポンプ・プライム容量百万KIU、及び外科手術1時間当たり250,000KIUを用いる。これらの投与計画はKIUに基づいているため、特定のKIポリペプチドの比活性及びKIUが標準アッセイで決定されれば、これらの投与計画は、本明細書に記載されるいずれのKIポリペプチドにも容易に適用される。本明細書に記載される代表的KIポリペプチドの、アプロチニンと比較して増大した結合親和性及び阻害活性により、本発明の組成物及び方法が必要数又は必要濃度のKIUを患者に提供するのに要するのは、患者当たりより少ないミリグラム(mg)であると予想される。
【0049】
本発明の方法におけるKIポリペプチドを用いた投薬に関し、いくつかの考慮すべき事項は、配列番号2(分子量7,054ダルトン)のアミノ酸配列を有する本発明の代表的PEP−1 KIポリペプチドの例により具体的に示すことができる。
【0050】
以下の表1は、カリクレイン及び他の11の公知の血漿プロテアーゼに対するPEP−1 KIポリペプチドの親和性(Ki,app)の比較を提供する。
【0051】
【表1】

【0052】
明らかに、PEP−1 KIポリペプチドはヒト血漿カリクレインに対し高度に特異的である。更に、カリクレインに対するPEP−1の親和性(Ki,app)は、カリクレインに対するアプロチニンの親和性よりも1000倍高い:カリクレインに対するPEP−1のKi,appは約44pMであるが(表1)、カリクレインに対するアプロチニンのKi,appは30,000pMである。したがって、PEP−1の用量は、モル当たりの基準で、アプロチニンに用いられるよりもおよそ1000倍低いであろう。しかしながら、いくつかの他の因子についての検討が、PEP−1の用量について、実践に役立つより正確な評価を与えるかもしれない。このような因子には、特定の患者においてCPBのあいだ活性化されるカリクレインの量、SIRを誘引するのに要するカリクレイン濃度、並びに患者におけるPEP−1のバイオアベイラビリティ及び薬理分布が含まれる。それにもかかわらず、本発明の方法による、アプロチニンの使用に関し現在認可されている用量で提供されるKIポリペプチドの使用は、特異性が低く低親和性のウシアプロチニンについての現在の使用に対し、顕著な改善を提供することが依然として期待されている。
【0053】
例えば、血漿中の循環プレカリクレインの全量はおよそ500nMであるとみられる(Silverberg,M.ら、「接触システム及びその障害」、Blood:Principles and Practice of Hematology、Handin,R.ら、編、JB Lippincott社、フィラデルフィア、1995)。全てのプレカリクレインが活性化されたならば、カリクレインを化学量論的に阻害するのに少なくとも500nMのPEP−1が必要とされるであろう。したがって、5リットルの血漿を有する個人は、血漿濃度が500nMに達するのに約18mgのPEP−1を必要とするであろう。
【0054】
考慮すべき他の要因は、患者にSIRを誘発するのに要するカリクレインの閾値濃度である。活性カリクレイン濃度が例えば1nM以下に維持される必要がある場合、カリクレインに対する高親和性により、PEP−1は、SIRを阻害するのに必要なタンパク質量で、アプロチニンよりも有意な利益を与える。特に、PEP−1濃度1nMは、1nMで存在するカリクレインを99.6%阻害するが(即ち、血中にはわずか0.4pMの遊離カリクレインが残留)、アプロチニン濃度1nMは、1nMで存在するカリクレインを24.5%阻害するのみである。アプロチニンが1nMのカリクレインを99%阻害するには、少なくとも3μMの血漿アプロチニン濃度を必要とする(即ちPEP−1よりも3000倍高濃度)。
【0055】
CPBを受ける患者に対し、PEP−1の初期臨床用量は、アプロチニンの上記推奨投与計画(1×10KIU)から概算することができる。アプロチニンは、イヌ血圧アッセイを用いて測定された比阻害活性が7143KIU/mgであると添付文書に報告されている。したがって、1×10KIUのアプロチニンは140mgのアプロチニンと等価である(即ち1×10KIU/7143KIU/mg=140mgのアプロチニン)。血漿容量5リットルの患者において、140mgはおよそ4.3μMアプロチニン(アプロチニンの分子量は6512ダルトンである)に相当する。PEP−1に用いられる標準阻害アッセイにおいて、アプロチニンの比活性は0.4KIU/mgポリペプチドである。用量140mgは、アプロチニンの負荷用量56KIU(140mg×0.4KIU/mg=56KIU)に相当するであろう。逆に、PEP−1 KIポリペプチドの比活性は、標準阻害アッセイにおいて10KIU/mgであるため、アプロチニン140mgに等価なKIU数を提供するのに必要とされるPEP−1は、わずか5.6mg用量であろう。血漿容量5リットルの患者において、これは約160nM PEP−1(PEP−1の分子量は7054ダルトンである)に相当する。但し、全ての血漿カリクレイン(500nM)が活性化される場合及び/又はこのKIポリペプチドが患者にほとんど分散していない場合には、高用量のPEP−1 KIポリペプチドが必要とされ得る。
【0056】
更に、KIポリペプチドは、上記のように非天然のものでもよく、また、合成又は組換えにより作製することもでき、それにより、ウシ肺から単離されるアプロチニンの場合のように自然の動物供給源からのタンパク質の単離中に起こり得る伝染性疾患による潜在的汚染を避けることができる。ポリペプチドを含む治療又は医薬組成物についての行政上及び公共の容認のための高まる重要性は、種々の病理物質の起こり得る汚染の回避及びヒト患者への伝染である。ウシ組織から単離したタンパク質の安全性についての特別の関心事は、ウイルス介在疾患、細菌介在疾患、及び、特に伝染性ウシ海綿状脳症に曝露され得る危険性を排除することである。
【0057】
ヒトLACIタンパク質のKunitzドメイン1の変異体のように、KIポリペプチドを患者に投与することからは、ウシタンパク質であり、特に、2度目のCAPG処置のような繰り返し投与において、患者にアナフィラキシー反応及びアナフィラキシー様反応を引き起こすことが立証されているアプロチニンと比較して、副作用はほとんど予想されない。更に、本明細書に記載されるKIポリペプチドのカリクレインに対する高度に特異的な結合は、アプロチニンで観察される血栓傾向を有効に制限又は排除し、且つCAPG処置後の移植開存性とともに観察される問題を軽減させるであろう。
【0058】
以下の非限定的実施例を参照して本発明を更に説明する。本明細書で引用する全ての特許、特許出願及び他の全ての出版物及びウェブサイトの教示は、本明細書にその全体が援用される。
【実施例1】
【0059】
代表的KIポリペプチド
本発明の組成物及び方法に有用な非天然KIポリペプチド(PEP−1)を、ファージディスプレイライブラリーの組換えファージに提示されたカリクレイン結合ポリペプチドとして同定した。PEP−1は以下のアミノ酸配列を有する:Glu Ala Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Arg Ala Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ile Tyr Gly Gly Cys Glu Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号2)。PEP−1の分子量は7,054ダルトンである。
【0060】
PEP−1アミノ酸配列(配列番号2のアミノ酸3〜60)をコードする組換えファージDNAのヌクレオチド配列(配列番号3)を単離し、組換えファージDNAから決定された標準的方法で配列決定した。PEP−1は、酵母株ピキア・パストリスのHis4表現型宿主細胞中で、更なる特徴付けに有用な量で組換えタンパク質として産生した。
【実施例2】
【0061】
KIポリペプチドを発現させるための組換えプラスミドの構築
開始プラスミドpHIL−D2はアンピシリン耐性であり、P.パストリスに由来する野生型アレルのHis4を含有する。組換え発現プラスミドpPIC−K503中にmatαプレプロ−PEP−1融合タンパク質のコード配列を含む最終DNA配列を図2に示す。以下のようにpHIL−D2のDNA配列を改変してpPIC−K503を作製した。
【0062】
1. pHIL−D2の3’AOX1領域におけるBstBI部位は、His4遺伝子の下流に位置するが、部分的制限消化、フィルイン、及びライゲーションにより除去し、TTCGAA(配列番号23)からTTCGCGAA(配列番号24)へ配列変更した。この改変は、プラスミドへの発現カセットのクローニングを容易にし、管理するために行った。
【0063】
2. His4の下流に位置するbla遺伝子を有するAatII部位は、制限消化、フィルイン、及びライゲーションにより除去し、GACGTC(配列番号25)からGACGTACGTC(配列番号26)へ配列を改変した。この改変は、AatII部位を有する発現カセットのプラスミドへのクローニングを容易にするために行った。オリジナルのカリクレイン結合ディスプレイファージからのヌクレオチド配列に基づき、450塩基対(bp)から成るPEP−1をコードするDNAを合成した。pHIL−D2プラスミド中の挿入物の最終DNA配列は、5’AOX1配列及び3’AOX1配列(図2に示す部分)が側面にあり、PEP−1 KIポリペプチドの構造コード配列に融合したS.セレビジエのmatαプレプロシグナルペプチドを含む融合タンパク質をコードする。酵母宿主細胞からのPEP−1の分泌を容易にするためにシグナルペプチドを付加した。挿入物を形成するためのオリゴヌクレオチドは、合成され、又は商業的に得た(Genesis Labs、ウッドランド、テキサス)。挿入物はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で作製した。次にmatαプレプロ/PEP−1融合タンパク質をコードする連結した合成DNAを、ライゲーションにより改変pHIL−D2プラスミドのBstBI部位とEcoRI部位のあいだに導入した。
【0064】
連結産物を用いて大腸菌株XL1 Blueを形質転換した。PCRアッセイを用い、所望のプラスミド構築物について大腸菌の形質転換体をスクリーニングした。細胞抽出物由来のDNAを、5’AOX1配列及び3’AOX1配列(上記及び図2を参照されたい)を含有するプライマーを用いてPCRで増幅した。正確な塩基対数のPCR産物を配列決定した。更に、クローニング部位の両側およそ20〜50bpについて配列決定し、推定配列を得た。pHIL−D2プラスミド中の挿入物の最終DNA配列(プラスミドpPIC−K503を産生するためのもの)を、5’及び3’AOX1フランキング配列の一部、並びにPEP−1 KIポリペプチドの構造コード配列に融合したS.セレビジエのmatαプレプロシグナルペプチドを含む融合タンパク質の対応のアミノ酸配列とともに図2に示す。所望の発現プラスミド構築物による形質転換体であるプラスミドpPIC−K503を、PEP−1の日常的産生用酵母細胞株を調整するために選択した。
【実施例3】
【0065】
組換え酵母細胞株からのPEP−1の製造
His4表現型を有するP.パストリスのスフェロプラストGS 115を、発現プラスミドpPIC−K503(上記)をSacI部位で直線化してこのプラスミドDNAを宿主5’AOX1部位へ相同組換えした後に、これを用いて形質転換した。産生株の表現型はHis4である。全プラスミドを酵母の5’AOX1ゲノム配列へ挿入した。
【0066】
形質転換からの単離物を、単一炭素源としてメタノールを用い、外来ヒスチジン非存在下での増殖についてスクリーニングした。形質転換体の95%以上は、単一炭素源としてメタノールを用いて増殖する野生型の能力を保持しており、プラスミドがトランス置換ではなく相同組換えで宿主ゲノムに挿入されたことを示した。これらの形質転換体は増殖に外来ヒスチジンを必要とせず、プラスミドが宿主ゲノムに統合されたことを示した。選択したコロニーをクローニングした。小規模培養発現実験を行い、高レベルの活性PEP−1を培地へ分泌するクローンを同定した。精製培養上清溶液中のPEP−1分泌レベルを、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)でPEP−1レベルについて定量し、カリクレイン阻害を評価した。サンプルされた培養間で高レベルのPEP−1発現に基づき、PEP−1産生について酵母クローンを選択した。
【0067】
PEP−1を産生するP.パストリスのマスター及び作業用細胞バンクを商業的に準備した(MDS Pharma Services、ボセル、ワシントン)。酵母におけるPEP−1の標準的産生は、以下の3工程を含む:(1)種培養の準備、(2)発酵、及び(3)培養物の回収。
【0068】
種培養工程は、滅菌接種材料ブロス(酵母窒素塩基、リン酸カリウム、及びグリセロール、pH=5)を含有する6つのフラスコ(それぞれ300mL)の接種から成り、P.パストリスの作業用細胞バンクのバイアル1本の内容物はPEP−1を産生する。フラスコをオービタルシェーカー(300rpm)中、30℃±2℃でおよそ13時間接種した。
【0069】
滅菌ブロスを充填した100リットルの密封式ブラウン発酵槽中で発酵を行った。6つの種培養フラスコの内容物を発酵槽に移して各々の発酵を開始した。およそ24時間後、発酵槽中のグリセロールが消耗し、追加のグリセロールを更におよそ8時間加えた。
【0070】
次に、混合供給相を、これはおよそ83時間続いたが、グリセロール及びメタノール原材料の添加により開始した。この時間の終了後、発酵を止め、発酵槽の内容物を精製水で希釈した。PEP−1の精製及び処理は以下の5工程から成る:(1)展開(expanded)ベッドクロマトグラフィ、(2)陽イオン交換クロマトグラフィ、(3)疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)、(4)限外ろ過及びダイアフィルトレーション、並びに(5)最終ろ過及び包装。
【0071】
最初の精製工程は展開ベッドクロマトグラフィから成る。希釈した発酵培養物を、Streamline SP樹脂(アマシャム・ファルマシア Streamline200 クロマトグラフィカラム、アマシャム・ファルマシア、ピスカタウェイ、ニュージャージー)を充填した平衡化カラムにかけた。次にカラムを上向きモードで洗浄し(50mM酢酸、pH=3.0〜3.5)、展開ベッドからの酵母細胞を水で洗い流した。展開ベッドが洗浄を促進するところまでトップアダプターを上げた。流れを止め、ベッドを静置させた。アダプターを、静置したベッドのわずかに上になるように下げた。流れを逆向きにした。溶出液を回収した。50mM酢酸ナトリウム、pH4.0を用いて、下向きモードで洗浄を継続した。溶出液を回収した。50mM酢酸ナトリウム、pH6.0を用いてPEP−1をカラムから溶出させた。溶出液を50リットル容器に回収した。次に溶出液を0.22μフィルターに通して精製部位に位置する清潔な容器にろ過した。PEP−1濃度を測定するために更にサンプルを回収した。次に展開ベッドカラムからのろ過した溶出液を用いて陽イオン交換クロマトグラフィ工程を行った。15mMクエン酸三ナトリウム、pH6.2でPEP−1をカラムから溶出させた。
【0072】
付加的なタンパク質を疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)でPEP−1調整品から除去した。HICの前に、陽イオン交換カラムからの溶出液を硫酸アンモニウムで希釈した。溶出液をカラムにかけ、リン酸カリウム(100mM)中の硫酸アンモニウム(0.572M)、pH7.0でPEP−1を溶出させた。溶出液をA280値に基づきフラクションに回収した。全画分を予め秤量した滅菌PETGボトルに回収した。
【0073】
選択した画分を清潔な容器にプールした。このプールを限外ろ過で濃縮した。濃縮したPEP−1調整品を10倍量のPBS、pH7.0で直ちにダイアフィルトレーションした。
【0074】
バルクPEP−1の汚染微生物数を最小限にするため、包装前に最終ろ過工程を行った。バルク溶液を0.22μフィルターでろ過し、予め秤量した滅菌PETGボトルに回収した。ロット放出試験のためにサンプルを取り出した。バルクの残りを滅菌PETGボトルに無菌的に分注し、−20℃で保存した。
【実施例4】
【0075】
カリクレイン阻害アッセイ
カイネティック試験を用いてPEP−1などのKIポリペプチドの阻害活性を測定した。このカイネティックアッセイは、基質プロリルフェニルアラニルアルギニル アミノ メチル クマリンのカリクレインによる切断後に蛍光を測定する。公知量のカリクレインを、マイクロタイタープレート上の好適な反応バッファー中で、連続的に希釈したKIポリペプチド標準リファレンス又は連続的に希釈したKIポリペプチド試験サンプルとともにインキュベートした。各サンプルについて3回実行した。基質溶液を加え、励起波長360mn及び蛍光波長460nmを用いて直ちにプレートを読んだ。標準リファレンス曲線及びサンプル曲線のそれぞれうち少なくとも2つは、有効とみなされるR値0.95を有することが必要とされる。
【0076】
本発明を、好ましい態様を参照して具体的に示して説明するが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲を逸脱することなく、形式的に及び細部に種々の改変がなされ得ることが当業者には理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列:Xaa1 Xaa2 Xaa3 Xaa4 Cys Xaa6 Xaa7 Xaa8 Xaa9 Xaa10 Xaa11 Gly Xaa13 Cys Xaa15 Xaa16 Xaa17 Xaa18 Xaa19 Xaa20 Xaa21 Xaa22 Xaa23 Xaa24 Xaa25 Xaa26 Xaa27 Xaa28 Xaa29 Cys Xaa31 Xaa32 Phe Xaa34 Xaa35 Gly Gly Cys Xaa39 Xaa40 Xaa41 Xaa42 Xaa43 Xaa44 Xaa45 Xaa46 Xaa47 Xaa48 Xaa49 Xaa50 Cys Xaa52 Xaa53 Xaa54 Cys Xaa56 Xaa57 Xaa58(配列番号1)を含むポリペプチドを含む組成物を患者に投与することを含む、患者の虚血を予防又は軽減するための方法であって、
Xaa1、Xaa2、Xaa3、Xaa4、Xaa56、Xaa57又はXaa58はそれぞれ個別に1つのアミノ酸であるか又は存在せず;
Xaa10はAsp及びGluから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa11はAsp、Gly、Ser、Val、Asn、Ile、Ala及びThrから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa13はArg、His、Pro、Asn、Ser、Thr、Ala、Gly、Lys及びGlnから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa15はArg、Lys、Ala、Ser、Gly、Met、Asn及びGlnから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa16はAla、Gly、Ser、Asp及びAsnから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa17はAla、Asn、Ser、Ile、Gly、Val、Gln及びThrから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa18はHis、Leu、Gln及びAlaから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa19はPro、Gln、Leu、Asn及びIleから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa21はTrp、Phe、Tyr、His及びIleから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa22はTyr及びPheから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa23はTyr及びPheから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa31はGlu、Asp、Gln、Asn、Ser、Ala、Val、Leu、Ile及びThrから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa32はGlu、Gln、Asp、Asn、Pro、Thr、Leu、Ser、Ala、Gly及びValから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa34はThr、Ile、Ser、Val、Ala、Asn、Gly及びLeuから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa35はTyr、Trp及びPheから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa39はGlu、Gly、Ala、Ser及びAspから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa40はGly及びAlaから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa43はAsn及びGlyから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa45はPhe及びTyrから成る群より選択されるアミノ酸であり;そして、
ポリペプチドがカリクレインを阻害する、前記方法。
【請求項2】
虚血が、患者に施す外科的処置による術中の失血である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
外科的処置が心臓胸郭部の手術である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
心臓胸郭部の手術が心−肺バイパス術又は冠動脈バイパス移植術である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
Xaa10がAspである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
Xaa11がAspである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
Xaa13がProであり、Xaa15がArgであり、Xaa16がAlaであり、Xaa17がAlaであり、Xaa18がHisであり、そしてXaa19がProである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
Xaa21がTrpである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
Xaa31がGluである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
Xaa32がGluである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
Xaa34がIleである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
Xaa35がTyrである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
Xaa39がGluである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
アミノ酸配列:Xaa1 Xaa2 Xaa3 Xaa4 Cys Xaa6 Xaa7 Xaa8 Xaa9 Xaa10 Xaa11 Gly Xaa13 Cys Xaa15 Xaa16 Xaa17 Xaa18 Xaa19 Xaa20 Xaa21 Xaa22 Xaa23 Xaa24 Xaa25 Xaa26 Xaa27 Xaa28 Xaa29 Cys Xaa31 Xaa32 Phe Xaa34 Xaa35 Gly Gly Cys Xaa39 Xaa40 Xaa41 Xaa42 Xaa43 Xaa44 Xaa45 Xaa46 Xaa47 Xaa48 Xaa49 Xaa50 Cys Xaa52 Xaa53 Xaa54 Cys Xaa56 Xaa57 Xaa58(配列番号1)を含むポリペプチドを含む組成物を患者に投与することを含む、患者への外科的処置に関連する全身炎症反応の発症を予防又は軽減するための方法であって、
Xaa1、Xaa2、Xaa3、Xaa4、Xaa56、Xaa57又はXaa58はそれぞれ個別に1つのアミノ酸であるか又は存在せず;
Xaa10はAsp及びGluから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa11はAsp、Gly、Ser、Val、Asn、Ile、Ala及びThrから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa13はArg、His、Pro、Asn、Ser、Thr、Ala、Gly、Lys及びGlnから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa15はArg、Lys、Ala、Ser、Gly、Met、Asn及びGlnから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa16はAla、Gly、Ser、Asp及びAsnから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa17はAla、Asn、Ser、Ile、Gly、Val、Gln及びThrから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa18はHis、Leu、Gln及びAlaから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa19はPro、Gln、Leu、Asn及びIleから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa21はTrp、Phe、Tyr、His及びIleから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa22はTyr及びPheから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa23はTyr及びPheから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa31はGlu、Asp、Gln、Asn、Ser、Ala、Val、Leu、Ile及びThrから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa32はGlu、Gln、Asp、Asn、Pro、Thr、Leu、Ser、Ala、Gly及びValから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa34はThr、Ile、Ser、Val、Ala、Asn、Gly及びLeuから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa35はTyr、Trp及びPheから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa39はGlu、Gly、Ala、Ser及びAspから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa40はGly及びAlaから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa43はAsn及びGlyから成る群より選択されるアミノ酸であり;
Xaa45はPhe及びTyrから成る群より選択されるアミノ酸であり;そして、
ポリペプチドがカリクレインを阻害する、前記方法。
【請求項15】
外科的処置が心臓胸郭部の手術である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
心臓胸郭部の手術が心−肺バイパス術又は冠動脈バイパス移植術である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
Xaa10がAspである、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
Xaa11がAspである、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
Xaa13がProであり、Xaa15がArgであり、Xaa16がAlaであり、Xaa17がAlaであり、Xaa18がHisであり、そしてXaa19がProである、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
Xaa21がTrpである、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
Xaa31がGluである、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
Xaa32がGluである、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
Xaa34がIleである、請求項14に記載の方法。
【請求項24】
Xaa35がTyrである、請求項14に記載の方法。
【請求項25】
Xaa39がGluである、請求項14に記載の方法。
【請求項26】
アミノ酸配列:
Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Arg Ala Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ile Tyr Gly Gly Cys Glu Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号2)から成るポリペプチドを含む組成物を患者に投与することを含む、患者の虚血を予防又は軽減するための方法であって、
ポリペプチドがカリクレインを阻害する、前記方法。
【請求項27】
虚血が、患者に施す外科的処置による術中の失血である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
外科的処置が心臓胸郭部の手術である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
心臓胸郭部の手術が心−肺バイパス術又は冠動脈バイパス移植術である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
アミノ酸配列:
Met His Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Arg Ala Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ile Tyr Gly Gly Cys Glu Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号2)から成るポリペプチドを含む組成物を患者に投与することを含む、患者への外科的処置に関連する全身炎症反応の発症を予防又は軽減するため方法であって、
ポリペプチドがカリクレインを阻害する、前記方法。
【請求項31】
外科的処置が心臓胸郭部の手術である、請求項14に記載の方法。
【請求項32】
心臓胸郭部の手術が心−肺バイパス術又は冠動脈バイパス移植術である、請求項15に記載の方法。
【請求項33】
アミノ酸配列:
Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Arg Ala Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ile Tyr Gly Gly Cys Glu Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号2のアミノ酸3〜60)から成るポリペプチドを含む組成物を患者に投与することを含む、患者の虚血を予防又は軽減するための方法であって、
ポリペプチドがカリクレインを阻害する、前記方法。
【請求項34】
虚血が、患者に施す外科的処置による術中の失血である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
外科的処置が心臓胸郭部の手術である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
心臓胸郭部の手術が心−肺バイパス術又は冠動脈バイパス移植術である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
アミノ酸配列:
Ser Phe Cys Ala Phe Lys Ala Asp Asp Gly Pro Cys Arg Ala Ala His Pro Arg Trp Phe Phe Asn Ile Phe Thr Arg Gln Cys Glu Glu Phe Ile Tyr Gly Gly Cys Glu Gly Asn Gln Asn Arg Phe Glu Ser Leu Glu Glu Cys Lys Lys Met Cys Thr Arg Asp(配列番号2のアミノ酸3〜60)から成るポリペプチドを含む組成物を患者に投与することを含む、患者への外科的処置に関連する全身炎症反応の発症を予防又は軽減するための方法であって
ポリペプチドがカリクレインを阻害する、前記方法。
【請求項38】
外科的処置が心臓胸郭部の手術である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
心臓胸郭部の手術が心−肺バイパス術又は冠動脈バイパス移植術である、請求項38に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公開番号】特開2013−49698(P2013−49698A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−242083(P2012−242083)
【出願日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【分割の表示】特願2010−4265(P2010−4265)の分割
【原出願日】平成15年6月6日(2003.6.6)
【出願人】(502352519)ダイアックス、コープ (16)
【氏名又は名称原語表記】DYAX CORP.
【Fターム(参考)】