説明

女性用姿勢矯正下着

【課題】 伸縮性素材による脇から肩にかけての引張りがなく、また、体幹である腹部や腰部のサポートを有しないため、圧迫感・違和感をほとんど感じず快適に日常的に着用することができ、毎日着用することによって姿勢改善効果とバストアップ効果を奏する、女性用姿勢矯正下着の提供を目的とする。
【解決手段】 伸縮力および伸縮方向が異なる複数の領域から構成される無端または有端の帯状体であって、前記帯状体を身体に装着した時に、前記複数の領域のうち、第5肋骨、第6肋骨、第7肋骨および第8肋骨の全てまたは一部を覆う位置に伸張力が最も強い領域が配され、前記伸張力が最も強い領域の繊維の伸張方向は、肩甲骨下角を胸椎骨方向に押し上げるように構成されている帯状体からなることを特徴とする女性用姿勢矯正下着とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肩甲骨下角を胸椎骨方向に押し上げるように伸縮力を発揮する構成を有する女性用姿勢矯正下着に関する。
【背景技術】
【0002】
姿勢の良さは、人の美しさにとって重要である。特に女性の美しいプロポーションにとって、乳房は重要な要素である。美しいプロポーションが崩れる要因は、矢状面と前額面の姿勢の崩れである。矢状面の姿勢の崩れである習慣性円背は、矢状面の姿勢を構築している頚椎・胸椎・腰椎の弯曲バランスが崩れ、胸椎後弯角が増大することで生じ、胸椎後弯角が増大することによって胸郭前方に位置する乳房は必然的に前方に下がる状態となる。また、胸椎後弯角が増大すると、姿勢バランスをとるために、頭部が前方に出て、腰椎が後弯角増大に陥りやすくなり、重心が後方に傾き歩行運動に支障をきたすこともある。前額面の姿勢の崩れである習慣性側弯は、片側にバッグを持ったり、仕事やスポーツで片側に体を傾けたりすることなどの影響により、背骨を支える左右の筋バランスが崩れ、強く収縮した方に骨格が変性することによって発生し、左右の乳房の位置が傾き、乳房の高さが異なる状態となる。これらの姿勢の崩れは、腰痛や肩凝り、緊張性頭痛などを引き起こし、健康面での問題を招いている。
【0003】
上記のように崩れた姿勢を正しく補正するための下着が数多く存在する。例えば、特許文献1には、伸縮性テープを、脇側の後身頃から脇を通し、肩を経て後身頃の上端に接合することによって、上半身の前屈を防止し、両肩甲骨を引き寄せることによって背筋を強化する姿勢矯正具としての効果を有するブラジャーとして使用できるハーフトップが開示されている。また、特許文献2には、伸縮性素材からなる身生地と強緊締部からなる下着であって、その強緊締部は、前身頃において左右の胸近傍から裾近傍にかけて幅広となっており、下着の下部で交差することで腹直筋をリフトアップし、後身頃において左右の肩甲骨下方の僧帽筋から脊柱起立筋の一部を通って背中中央で交差し反対側の腰近傍に至ることで、背部の筋肉(僧帽筋と脊柱起立筋)をサポートする姿勢矯正下着が開示されている。
【0004】
しかしながら、伸縮性テープを脇から肩に通す構造(特許文献1)では、脇から肩にかけて引っ張られることによる圧迫感は避けられず、また、姿勢矯正の効果を得るためには、伸縮性テープの幅は、通常のブラジャーのストラップより太くならざるを得ないため、日常的に着用する下着としては、快適さやファッション性の点において適切ではない。また、伸縮性素材が腹部と背部中央で交差する構造(特許文献2)では、腹部と背部の中央部分の強着圧のため圧迫感は避けられず、また、姿勢矯正のための腹部と背部のサポートを必ず必要とするため、気温の高い夏の着用は息苦しさを感じることがあり、薄手の服の下には着ることが困難な場合もあるという点で、日常的に着用する下着としては、快適さやファッション性の点において適切ではない。さらに、従来の姿勢矯正のための下着の多くは、下着全体に圧力をかけることによって、菱形筋と僧帽筋を抑えて姿勢を矯正するものであるため、部分的に圧迫感を感じ、違和感を感じるという欠点もあった。
【0005】
さらに、筋肉の強化による姿勢矯正のためには、日常的な着用が必要となるところ、上記のような、圧迫感や違和感があり、時には不快に感じ、快適さやファッション性の点において問題のある姿勢矯正のための下着は、毎日の着用には不向きであり、その結果、姿勢矯正という効果の面で未だ満足度が低いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−214813号公報
【特許文献2】特開2011−99191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した習慣性円背や習慣性側弯による姿勢の崩れを矯正しつつ、従来の姿勢矯正のための下着が有する、圧迫感や違和感、ファッション性に欠けるなどの問題点を解決すべくなされたものであって、伸縮性素材による脇から肩にかけての引張りがなく、また、体幹である腹部や腰部のサポートを有しないため、圧迫感・違和感をほとんど感じず快適に日常的に着用することができ、毎日着用することによって姿勢改善効果とバストアップ効果を奏する、女性用姿勢矯正下着の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
胸椎後弯角が増大した場合、すなわち、円背の状態にある時、胸郭後面にあって胸椎から均等な位置にある肩甲骨は左右に離れ、肩甲骨外転位をとる。この肩甲骨外転位にあるとき、肩甲骨内転に作用する菱形筋は伸展位をとる。その菱形筋と拮抗的に働く肩甲骨内側にある前鋸筋は短縮している。このような円背の状態を改善するためには、肩甲骨を内転位させることが必要である。肩甲骨は胸郭後面にある遊離骨であり、肩甲骨内転位には、胸郭面にしっかり添う形で胸椎方向に内転させる菱形筋と肋骨面に添わす前鋸筋の作用が欠かせない。
【0009】
具体的には、菱形筋が短縮性収縮し、前鋸筋が伸張性収縮すれば、肩甲骨は胸椎中心に近づき、肩甲骨内転位が実現できる。肩甲骨内転位となれば、その拮抗面にあって、胸郭前方にある大胸筋が広がる伸展作用が引き出される。その大胸筋伸展作用は、胸郭全体を持ち上げる。この胸郭全体の広がりと持ち上がりは、胸椎後弯角を減少させる効果を示す。この胸椎後弯角の減少は、胸郭前方面にある乳房も上方に持ち上げ、乳房を理想的な位置に導き、バストアップ効果を得ることも可能となる。
【0010】
上記のように、肩甲骨の位置を決定している菱形筋と前鋸筋に着眼し、肩甲骨の位置を本来の位置に正すことで、美しい姿勢と美しいバストを手にすることができると考えられる。そこで、肩甲骨を内転位に導くために、肩甲骨下角の位置より外側の位置、第5肋骨、第6肋骨、第7肋骨、第8肋骨あたりに、横伸びを止める力が最も強く、その直交にある方向には伸びる力を持つ素材を配置する。この位置はちょうど胸郭側方に位置し、第5肋骨、第6肋骨、第7肋骨、第8肋骨に付着する前鋸筋の下方にあたる。その位置からやや内側、つまり胸椎に近づく範囲で斜めの方向に伸縮する、異なる伸張力の素材を順に配置する。伸張力の強さは、素材の伸縮力の強さとその部分の面積による。肩甲骨下角に位置する部分の素材の伸張力を最大とし、伸縮力と素材の面積を変化させて、肩甲骨が内転位をとるように、伸張力が胸椎方向に向かって多段階的に変化するように素材を配置した。
【0011】
本発明の実施形態は、伸縮力および伸縮方向が異なる複数の領域から構成される無端または有端の帯状体であって、前記帯状体を身体に装着した時に、前記複数の領域のうち、第5肋骨、第6肋骨、第7肋骨および第8肋骨の全てまたは一部を覆う位置に伸張力が最も強い領域が配され、前記伸張力が最も強い領域の繊維の伸張方向は、肩甲骨下角を胸椎骨方向に押し上げるように構成されている帯状体からなることを特徴とする女性用姿勢矯正下着、に関する。
【0012】
本発明の他の実施形態は、前記の帯状体に、カップ部分(5)および肩紐部分(6)を備えた女性用姿勢矯正下着であって、前記帯状体は、有端であり、前記複数の領域のうち、身体に装着した時に胸郭部分を取り巻くアンダーバストの中央に位置する領域(1)と、当該領域の左右に隣接する領域(2)、および当該帯状体の端部を構成する領域(3)を備え、前記領域(2)は、第5肋骨、第6肋骨、第7肋骨および第8肋骨の前方から側方の一部を覆う位置に配されることを特徴とする女性用姿勢矯正下着、に関する。
【0013】
本発明の他の実施形態は、前記領域(2)は、胸郭前方の第8肋骨で全長の1/2あたりから第7肋骨、第6肋骨、第5肋骨の側方部にある位置を通過し肩甲骨外側縁に向かう中央部分(2−2)と、その前方部分(2−1)およびその後方部分(2−3)に分かれ、前記中央部分(2−2)に、前記領域(1)より強着圧で、伸縮目が筋肉に対して直交に伸びにくい目を持つ素材を搭載することを特徴とする上記の女性用姿勢矯正下着、に関する。
【0014】
本発明の他の実施形態は、前記領域(1)に使用する素材は、100cN〜300cNの範囲の伸張力を有し、前記前方部分(2−1)および前記後方部分(2−3)は、前記領域(1)より強着圧であり、前記中央部分(2−2)は前記前方部分(2−1)および前記後方部分(2−3)よりも強着圧であることを特徴とする上記の女性用姿勢矯正下着、に関する。
【0015】
本発明の他の実施形態は、肩紐部分(6)を有さないことを特徴とする上記の女性用姿勢矯正下着、に関する。
【0016】
本発明の他の実施形態は、前記帯状体が無端であることを特徴とする上記の女性用姿勢矯正下着、に関する。
【0017】
本発明の他の実施形態は、均質な素材と、その上に、ひとつ以上、複数のより伸張力の強い素材をさらに搭載した帯状体であって、前記より伸張力の強い素材をさらに搭載した部分が、当該帯状体を装着した時に、第5肋骨、第6肋骨、第7肋骨および第8肋骨の全てまたは一部を覆う位置に配される帯状体からなることを特徴とする女性用姿勢矯正下着、に関する。
【0018】
本発明の他の実施形態は、伸張力の異なる複数の素材を縫合した帯状体であって、前記伸張力の異なる複数の素材のうち伸張力の最も強い素材部分が、当該帯状体を装着した時に、第5肋骨、第6肋骨、第7肋骨および第8肋骨の全てまたは一部を覆う位置に配される帯状体からなることを特徴とする女性用姿勢矯正下着、に関する。
【0019】
本発明の他の実施形態は、複数の伸張力の異なる部分、即ち伸張力の弱い部分と、伸張力の強い部分を必要な位置に配置し、一体的に編成された編地を用いた帯状体であって、前記伸張力の異なる部分のうち伸張力の最も強い部分が、当該帯状体を装着した時に、第5肋骨、第6肋骨、第7肋骨および第8肋骨の全てまたは一部を覆う位置に配される帯状体からなることを特徴とする女性用姿勢矯正下着、に関する。
【発明の効果】
【0020】
帯状体を備えた本発明に係る女性用姿勢矯正下着によれば、装着した時に肩甲骨下角を胸椎骨方向に押し上げるように伸縮力を発揮する構成である領域(以下、「バイアスリフト構成領域」という)の持つ伸張力は、脇の側面から斜め上方へ、アンダーバストの位置の水平線(基準線(I))から胸椎骨方向へ導かれ、その伸縮力が胸郭を構成する肋骨に作用し、胸椎後弯に伴う肋骨の前方下方への下がりを抑制するとともに肋骨と胸郭部分を持ち上げるという効果を得ることが可能となる。
【0021】
また、帯状体を備えた本発明に係る女性用姿勢矯正下着によれば、バイアスリフト構成領域は、肩甲骨外側縁から肩甲骨下角に働きかけ、前鋸筋を伸展方向に伸ばし、肩甲骨下角を胸郭の外側から胸椎中心へ導く下方回旋運動をサポートする。その効果によって、胸椎から肩甲骨内側縁につく菱形筋を短縮方向に収縮させ、肩甲骨を胸椎中心へ導く下方回旋運動をサポートすることで、無理なく肩甲骨を内転させ習慣性円背を改善することが可能となる。
【0022】
さらに、帯状体を備えた本発明に係る女性用姿勢矯正下着によれば、バイアスリフト構成領域は、胸郭側方部にあって、左右対称の位置から胸椎方向へ左右に均等な強伸縮力を持つ素材を斜めに働かせることになり、胸椎側方に傾いた胸郭部を支えて持ち上げることが可能となる。また、胸椎中心から肩甲骨下角位置まで左右対称に配した強着圧の素材部分は、左右から脊椎中心方向に左右均等な緊締力を与え、左右の筋バランスを整えて習慣性側弯を改善することが可能となる。
【0023】
さらに、帯状体を備えた本発明に係る女性用姿勢矯正下着によれば、バイアスリフト構成領域は、左右の体幹回旋角度の差異を減少させ、また、胸郭前方にある乳房を上方に位置させ、左右の乳房の位置をほぼ同一の位置に整えるという、左右バランスの改善とバストアップが可能となる。
【0024】
さらに、帯状体に、カップ部分(5)および肩紐部分(6)を備えた本発明の女性用姿勢矯正下着によれば、カップ部分(5)の上辺部分(5−1)と肩紐部分(6)の伸びやすい素材は、乳房とその下の筋肉を抑えつけず、体の動きを妨げることはなく、かつ、乳房の重みを重力下に下げる力に対して拮抗的に働き、肩から胸郭後方へ乳房を持ち上げるという作用効果を奏し、上記の効果に加えて、さらなるバストアップが可能となり、より一層の習慣性円背の改善が可能となる。
【0025】
また、帯状体を備えた本発明に係る女性用姿勢矯正下着によれば、帯状体は多段階的に伸縮力を変化させた構成となっており、必要な部分のみに局所的に圧力をかけ、開放すべき部分は開放するため、呼吸がし易く、圧迫感が少なく、長時間着用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、台布部分(1)とバック部分(2)を含む、伸縮力および伸縮方向が異なる複数の領域から構成される有端の帯状体の1つの実施形態の正面図である。矢印の方向は、素材が伸縮する方向を示す。
【図2】図2は、図1の左側のバック部分(2)の拡大図である。バック部分(2)は、胸郭前方の第8肋骨で全長の1/2あたりから第7肋骨、第6肋骨、第5肋骨の側方部にある位置を通過し肩甲骨外側縁に向かう中央部分(2−2)と、その前方部分(2−1)およびその後方部分(2−3)に分かれる。
【図3】図3は、図1の帯状体にカップ部分(5)および肩紐部分(6)を備えた本発明の女性用姿勢矯正下着の正面図である。
【図4】図4は、図1の帯状体にカップ部分(5)および肩紐部分(6)を備えた女性用姿勢矯正下着を装着した時の左側面図(a)、(b)、(c)と背面図(d)であり、本発明の女性用姿勢矯正下着と筋肉または骨格との位置関係を示す。矢印は、バイアスの作用する方向を示す。
【図5】図5は、骨格(肋骨(R)、肩甲骨(S)、椎骨(V)および胸骨(BB))の正面図(a)、左側面図(b)、背面図(c)である。
【図6】図6は、筋肉(前鋸筋(M1)、菱形筋(M2)、大胸筋(M3)および僧帽筋(M4))と骨の位置関係を示す正面図(a)、左側面図(b)、背面図(c)、(d)である。
【図7】図7は、正常姿勢の図(a)と円背の図(b)、(c)、(d)である。遊離骨である肩甲骨(S)が、上方に回旋し(b)、外転位となり(c)、脊椎の一部である胸椎の後弯が増大し、円背の状態となる(d)。矢印は、転位の方向を示す。
【図8】図8は、習慣性円背を改善する仕組みを示す図である。肩甲骨が外転位にある円背状態(a)から、肩甲骨下角が下方回旋し(b)、肩甲骨が内転することによって(c)、正常姿勢となる(d)。矢印は、転位の方向を示す。
【図9】図9は、図1の帯状体にカップ部分(5)を備えた女性用姿勢矯正下着の正面図である。
【図10】図10は、他の実施形態である帯状体にカップ部分(5)および肩紐部分(6)を備えた本発明の女性用姿勢矯正下着の正面図である。
【図11】図11は、肩甲骨の位置(左右バランス)の測定部位(背巾(L1)、胸巾(L2)、胸椎から肩甲骨上角の左右巾(L3)、胸椎から肩甲骨内側縁の左右巾(L4))を示す((a)背面図、(b)正面図)。
【図12】図12は、椅子座位での体幹回旋角度の測定部位(K1:左回旋角度、K2:右回旋角度)を示す。
【図13】図13は、下着を装着していない場合(破線)と、本発明の女性用姿勢矯正下着を装着した場合(実線)のシルエットの比較である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る女性用姿勢矯正下着の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明するが、本発明では、装着した時に肩甲骨下角を胸椎骨方向に押し上げるように伸縮力を発揮する構成である領域、すなわちバイアスリフト構成領域の配置について、身体や筋肉、骨格の名称を用いて説明するので、理解を容易にするために、まず、本発明の特徴をなすバイアスリフト構成領域の配置に使用する骨格や筋肉の人体における位置を説明する。
【0028】
図5は、人体の骨格の一部を示した正面図(a)、左側面図(b)、背面図(c)である。(V)は、体の中心を通る椎骨であり、上から、7個の頚椎、12個の胸椎、5個の腰椎、仙骨、尾骨となる。(R)は、肋骨であり、両側に12本ずつ存在し、上から、第1肋骨(R1)、第2肋骨(R2)、第3肋骨(R3)、第4肋骨(R4)、第5肋骨(R5)、第6肋骨(R6)、第7肋骨(R7)、第8肋骨(R8)、第9肋骨(R9)、第10肋骨(R10)、第11肋骨(R11)、第12肋骨(R12)となる。(BB)は、胸骨である。背面の中心を胸椎、前方の中心を胸骨(BB)とし、それぞれの骨に肋骨(R)が繋がり胸郭腔が形成される。(S)は、肩甲骨であり、胸郭後面にあり、遊離骨として筋肉に付着している。
【0029】
図6は、人体の筋肉の一部を示した正面図(a)、左側面図(b)、背面図(c)(d)である。(M1)が前鋸筋、(M2)が菱形筋、(M3)が大胸筋、(M4)が僧帽筋である。前鋸筋(M1)は、第1〜8肋骨の外側面から肩甲骨の内側縁と下角の前面についており、肩甲骨を前外方に引っ張る。菱形筋(M2)は、背骨(第7頚椎と第1〜5胸椎棘突起)から肩甲骨の内側縁についており、遊離骨である肩甲骨を支え、また、大胸筋に引っ張られる。大胸筋(M3)は、鎖骨、胸骨と肋軟骨(第2〜第7前面)、腹直筋鞘の3部から、上外方に集まりながら、上腕骨の大結節稜についており、上腕骨の外転・内転、挙上・下制に関わる。僧帽筋(M4)は、後頭部から12胸椎まで付いており、上部線維、中部線維、下部線維に分かれ、上部線維は肩甲骨を持ち上げ、中部線維は肩甲骨を内側に引っ張り、下部線維は肩甲骨を下に下げ、上部線維と下部線維の両方が収縮するときは肩甲骨を回転させる。
【0030】
筋肉の運動には、筋肉が縮むコンセントリック収縮(短縮性筋収縮)という運動と、筋肉が伸びるエキセントリック収縮(伸張性筋収縮)という運動があり、この2つの運動は、拮抗的に働く。本発明においては、菱形筋と前鋸筋が拮抗的に働く運動を利用する。
【0031】
図7は、正常姿勢が円背の状態となる経緯を図示したものである。正常姿勢(a)から、胸椎後弯角が増大し、肩甲骨が左右に離れ外転した状態が円背である。肩甲骨が外転位すると((b)矢印の方向)、肩甲骨内転に作用する菱形筋(M2)は伸展位をとり、前鋸筋(M1)は短縮する((c)矢印の方向)結果、背巾が広がり、一方、胸巾が狭まる。円背姿勢(d)は、バストを下げ、乳房の左右のアンバランスを招くのみでなく、肩凝りや緊張性頭痛などを引き起こし健康面での問題も招く。
【0032】
図8は、習慣性円背を改善する仕組みを図示したものである。円背状態(a)の外転位にある肩甲骨(S)を内転位させるために((b)矢印の方向)、菱形筋(M2)の短縮性収縮、前鋸筋(M1)の伸張性収縮を引き起こす力を働かせることによって((c)矢印の方向)、習慣性円背を改善することが可能となる(正常姿勢(d))。
【0033】
本発明の技術的特徴である、肩甲骨外側縁下部から肩甲骨下角を胸椎骨方向に押し上げるように多段階的な伸縮力を発揮する構成の領域、すなわちバイアスリフト構成領域は、伸張力の異なる素材の組合せや重ね使いによって、様々なバリエーションがあるが、理解を容易にするために、まず、もっとも単純な基本構造の帯状体(図1)を示し、具体的に説明する。
【0034】
図1は、伸縮力および伸縮方向が異なる複数の領域から構成される有端の帯状体の1つの実施形態を示す正面図である。図1に示す帯状体は、装着した時に胸郭部分を取り巻くアンダーバストの中央に位置する領域(以下、「台布部分」という)(1)と、その左右の領域(以下、「バック部分」という)(2)、および有端の帯状体の端部同士を連結する領域(以下、「連結部分」という)(3)から構成される。左右それぞれのバック部分は、着用時に着用者の背中で連結されるため、その先端部には、互いに連結するための連結部材(4)が取り付けられている。連結部分(3)は、伸縮しない素材であれば特に限定されず、また、連結部材(4)は、係脱可能な部材であれば特に限定されない。
【0035】
図2は、図1の左側のバック部分(2)の拡大図であり、このバック部分(2)は、装着した時、本発明の特徴をなす肩甲骨下角を胸椎骨方向に押し上げるように伸縮力を発揮する構成を備える。バック部分(2)は、3つの部分、装着された時に胸郭前方の第8肋骨で全長の1/2あたりから第7肋骨、第6肋骨、第5肋骨の側方部にある位置を通過し肩甲骨外側縁に向かう中央部分(2−2)と、その前方部分(2−1)およびその後方部分(2−3)からなり、伸縮力が多段階的に変えられている。なお、本発明において、素材の配置の説明に「・・・あたり」という用語を用いているが、これは所定の指定された位置から多少のずれがあっても、そのずれは本発明の目的が達成できる範囲においては差し支えないことを意味している。
【0036】
バック部分(2)の素材の伸張力の方向(以下、「バイアスが作用する方向」という)は、肩甲骨下角を胸椎骨方向に押し上げるように伸縮力を発揮する向きであり、そのバイアスが作用する方向(図2矢印実線の方向)は、胸郭部を取り巻くアンダーバストの部位の水平線を基本線とする(基準線(I)、図4(b)参照)と、その基準線(I)から胸椎骨方向斜め上方に30度〜80度の範囲であり、好ましくは、40度〜45度の範囲である(図2矢印実線の方向)。
【0037】
バック部分(2)の中央部分(2−2)は、装着した時、肩甲骨外側縁に向け強着圧で、伸縮目が筋肉に対して直交に伸びにくい目を持つ素材であり、バック部分(2)の前方部分(2−1)および後方部分(2−3)は、主に斜めに伸びやすいが、基準線(I)方向(図2矢印破線の方向)にも伸びやすい目を持つ素材である。これらを台布部分(1)の左右に、前方部分(2−1)、中央部分(2−2)、後方部分(2−3)を組み合わせることによって左右のバック部分(2)が形成される。
【0038】
前方部分(2−1)、中央部分(2−2)、後方部分(2−3)を組み合わせる方法としては、均質な素材と、その上に、ひとつ以上、複数の素材を組合せることによって、より伸張力の強い部分を搭載する方法や、伸張力の弱い素材と、伸張力の強い素材を複数組合せ縫合する方法、複数の伸張力の異なる部分、即ち伸張力の弱い部分と伸張力の強い部分、を必要な位置に配置し、一体的に編成する方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
台布部分(1)の伸張力は、約100cNから約300cNの範囲であり、その伸張力によって肩甲骨下角を下方回旋方向に働かせる中央部分(2−2)の伸張力は、台布部分(1)の伸張力の約200%から約400%であり、前方部分(2−1)と後方部分(2−3)の伸張力は、台布部分(1)の伸張力の約101%から約200%である。台布部分(1)の伸張力は、より好ましくは、約200cNから約300cNの範囲である。
【0040】
図3は、バイアスリフト構成領域を有する図1の帯状体に、さらにカップ部分(5)と肩紐部分(6)を備える本発明の女性用姿勢矯正下着の正面図である。カップ部分(5)は、乳房の形を潰さず、大胸筋の広がりを抑制しない着圧を有する素材によって構成し、カップ部分(5)の大きさは、乳房の形を整えるように乳房を覆う程度であれば、特に限定されない。カップ上方部分(5−1)と肩紐部分(6)の素材は、伸縮する素材であれば、特に限定されない。
【0041】
バイアスリフト構成領域を有する帯状体に、さらにカップ部分(5)と肩紐部分(6)を備える本発明の女性用姿勢矯正下着は、装着した時に、カップ部分(5)の上辺部分(5−1)と肩紐部分(6)の伸びやすい素材は、乳房とその下の筋肉を抑えつけず、体の動きを妨げることはなく、かつ、乳房の重みを重力下に下げる力に対して拮抗的に働き、肩から胸郭後方へ乳房を持ち上げるという作用効果を奏し、後述の効果に加えて、さらなるバストアップが可能となり、より一層の習慣性円背の改善が可能となる。
【0042】
図4は、バイアスリフト構成領域を有する図1の帯状体に、さらにカップ部分(5)と肩紐部分(6)を備える本発明の女性用姿勢矯正下着の装着位置を示す。(a)に示すように、バック部分(2)は、第5肋骨(R5)、第6肋骨(R6)、第7肋骨(R7)、第8肋骨(R8)、および第9肋骨(R9)の全部または少なくともその一部を覆うサイズであり、その位置にある前鋸筋全体を覆うサイズである。肩甲骨外側縁に向け強着圧で、伸縮目が筋肉に対して直交する方向に伸びにくい目を持つ素材部分は、少なくとも胸郭前方の第6肋骨(R6)、第7肋骨(R7)、第8肋骨(R8)の前方1/2あたりから側方面全域を覆い、最大で胸郭後方部の第6肋骨(R6)、第7肋骨(R7)、第8肋骨(R8)の1/2程度の面積である。図4(b)、(c)の矢印は、バイアスの作用する方向を示す。バイアスが作用する方向は、基準線(I)から胸椎骨方向斜め上方に30度〜80度の範囲であり、好ましくは、40度〜45度の範囲である。
【0043】
本発明に係る女性用姿勢矯正下着のバイアスリフト構成領域が持つ伸張力は、脇の側面から斜め上方へ基準線(I)から胸椎骨方向へ導かれ(図4(b)、(c))、その伸縮力が胸椎から胸郭を構成する肋骨(R)に作用し、胸椎後弯に伴う肋骨の前方下方への下がりを抑制するとともに肋骨(R)と胸郭部分を持ち上げるという効果を得ることが可能となる。
【0044】
また、本発明に係る女性用姿勢矯正下着のバイアスリフト構成領域は、肩甲骨内側縁から肩甲骨下角に働きかけ、前鋸筋(M1)を伸展方向に伸ばし、肩甲骨下角を胸郭の外側から胸椎中心へ導く下方回旋運動をサポートすると共に、菱形筋(M2)を短縮方向に収縮させ、胸郭後面にある遊離骨である肩甲骨を胸椎中心へ導く上方回旋運動をサポートすることで、無理なく肩甲骨を内転させ円背を改善することが可能となる(図4(b)、図8参照)。
【0045】
さらに、本発明に係る女性用姿勢矯正下着のバイアスリフト構成領域によれば、胸郭側方部にあって、左右対称の位置から胸椎中心方向へ強伸縮力を持つ素材を斜めに働かせることになり、胸椎側方に傾いた胸郭部を支えて持ち上げることが可能となり、また、胸椎中心から肩甲骨下角位置まで左右対称に配した強着圧の素材部分は、左右から脊椎中心方向に左右均等な緊締力を与え、左右の筋バランスを整えて習慣性側弯を改善することが可能となる(図6(d)参照)。さらに、本発明の女性用姿勢矯正下着のバイアスリフト構成領域の素材部分が有する左右均等の伸張力は、体の中心である脊柱上に集まり止まることにより、左右の筋バランスを整え、より大きな効果を奏することが可能となる。
【0046】
さらに、本発明に係る女性用姿勢矯正下着のバイアスリフト構成領域は、左右の体幹回旋角度の差異を減少させ、また、胸郭前方にある乳房を上方に位置させ、左右の乳房の位置をほぼ同一の位置に整えるという、左右バランスの改善とバストアップが可能となる。
【0047】
以上のように、本発明に係る女性用姿勢矯正下着のバイアスリフト構成領域は、装着した時、バイアスが作用する方向へ伸張する(図4(b)(c)の矢印参照)。この伸張力によって、肩甲骨下角が胸椎骨方向に両側から他動的に押し上げられ、内転し(図8(b)参照)、肩甲骨内側の位置を胸椎中心位置に引き戻す内転方向へ誘導する。また、この誘導によって、肩甲骨内側縁と胸椎を繋ぐ菱形筋(M2)のコンセントリック収縮作用と、肩甲骨内側面にある前鋸筋(M1)のエキセントリック収縮作用が引き出され(図4(b)、図8(c)参照)、肩甲骨(S)の内転位の位置を確保することが可能となる。肩甲骨が内転位となることで、胸郭前方の大胸筋(M3)が伸展し、広がり、習慣性円背の改善効果が得られる(図8(d)参照)。
【0048】
図9は、多段階的に伸縮力を変化させた帯状体にカップ部分(5)を備えた本発明に係る女性用姿勢矯正下着の他の実施形態の正面図である。肩紐部分を有さないこの女性用姿勢矯正下着では、カップ部分(5)のすぐ隣の前方部分(2−1)には、肋骨を安定させるために、肩紐部分がある場合より強い着圧を有する素材を使用することが好ましい。
【0049】
肩紐がないことによって、肩周辺を覆わない構造の衣服を着用する場合にも姿勢矯正効果を有する本発明の女性用姿勢矯正下着を着用することが可能となり、毎日の良好な習慣性姿勢を取り戻し、正しい姿勢に引き戻す効果を得ることが可能となる。
【0050】
図10は、より多段階的に伸縮力を変化させた他の実施形態である帯状体を備えた本発明に係る女性用姿勢矯正下着の正面図である。バック部分(2)の中央部分(2−2)は、前方部分(2−1)より伸張力の強い素材または二重使いの部分(2−2−1)、さらに伸張力の強い素材または三重使いの部分(2−2−2)、および前方部分(2−1)より伸張力の強い素材または二重使いの部分(2−2−3)からなる。
【0051】
バイアスリフト構成領域の素材の圧力にさらに変化を持たせることによって、着圧が分散され、圧迫感をさらに感じにくくなり、より楽に呼吸することが可能となる。
【0052】
本発明に係る女性用姿勢矯正下着のバイアスリフト構成領域を有する帯状体を、上記に示した実施形態以外にも、ボディスーツ、ボディシェイパー、バージスシェイパー、ブラスリップ、ブラキャミソール、ロングラインブラ等の女性用姿勢矯正下着に備えることによって、姿勢矯正効果とバストアップ効果を奏することが可能となる。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
1)肩甲骨の位置(左右バランス)の測定
円背とは、前述の通り、胸椎後弯角が増大し、肩甲骨が左右に離れ外転した状態であり、背巾が広がっている一方、胸巾が狭まっている。そこで、本発明の女性用姿勢矯正下着の効果を、背巾、胸巾、胸椎から肩甲骨上角の左右巾、胸椎から肩甲骨内側縁の左右巾を測定することによって評価した。
【0054】
2)測定方法
図11は、肩甲骨の位置(左右バランス)の測定部位を示す。被験者は、その場で2〜3回足踏みをしてからだをほぐし、手をストンと下ろした状態で自然に立ち、顔は上げ下げせず、まっすぐ前を見た。このように直立した被験者の背面を、固定したデジタルカメラで撮影した。測定は、背巾(L1)、胸巾(L2)、胸椎から肩甲骨上角の左右巾(L3)、胸椎から肩甲骨内側縁の左右巾(L4)の4箇所で行った。この測定を、下着を装着していない場合(以下、「対照例」とする)、バイアスリフト構成領域を有する帯状体およびカップ部分と肩紐部分を備えた本発明の女性用姿勢矯正下着を装着した場合(以下、「実施例」とする)、またはバイアスリフト構成領域を有さないカップ部分と肩紐部分を備えた女性用下着を装着した場合(以下、「比較例」とする)に行った。
【0055】
3)測定結果
以下に各被験者の測定結果を示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
【表3】

【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
上記の結果から、バイアスリフト構成領域を有する帯状体およびカップ部分と肩紐部分を備えた本発明の女性用姿勢矯正下着を装着した場合(実施例)、バイアスリフト構成領域を有さないカップ部分と肩紐部分を備えた女性用下着を装着した場合(比較例)と比較して、ほとんどの被験者で、背巾(L1)は狭まり、胸巾(L2)は広がり、胸椎から肩甲骨上角の左右巾(L3)、または胸椎から肩甲骨内側縁の左右巾(L4)の差は小さくなっていることが分かる。これは、本発明の特徴をなす帯状体のバイアスリフト構成領域の作用によって菱形筋が短縮する一方、その拮抗する前鋸筋が伸展し、また、胸椎から肩甲骨内側縁までの左右の筋緊張性が同等となり、肩甲骨が胸椎方向に引き寄せられ内転位に変化したことを表わしている。さらに、菱形筋が短縮することで、大胸筋が広がって胸が開き、胸郭と前後のバランスが整ったことによって、胸椎後弯が改善されたことを示している。すなわち、本発明の女性用姿勢矯正下着を装着した場合、習慣性円背改善効果が得られたと言える。
【0062】
(実施例2)
1)椅子座位での体幹回旋角度(関節可動域:ROM)の測定
姿勢の崩れである円背と側弯は、前述の通り、それぞれ、頚椎・胸椎・腰椎の弯曲バランスの崩れと左右の筋肉の不均等な筋緊張性が原因であり、これらは、関節可動域の減少や、左右の関節可動域の不均衡となって現れる。そこで、本発明の女性用姿勢矯正下着の効果を、椅子座位での関節可動域(体幹回旋角度)を測定することによって評価した。
【0063】
2)測定方法
被験者の肩のラインに線を引き、中心の肩峰に印をつけ、肩峰と乳様突起を結ぶ直線と鼻の中心を通る直線が垂直に交わるところで角度測定器を頭に設置した。被験者は、背筋を伸ばし姿勢を正して、背もたれのない椅子に深く腰掛け、頭が動かないよう固定された状態で、足を肩幅と等間隔に開いて肩が前後に動かないよう脇をしめて、手を肩にそえる形で左または右に回旋し、最も回旋した時の角度を記録した(K1:左回旋角度、K2:右回旋角度、図12参照)。この測定を、下着を装着していない場合(対照例)、バイアスリフト構成領域を有する帯状体およびカップ部分と肩紐部分を備えた本発明の女性用姿勢矯正下着を装着した場合(実施例)、またはバイアスリフト構成領域を有さないカップ部分と肩紐部分を備えた女性用下着を装着した場合(比較例)に行った。
【0064】
3)測定結果
以下に各被験者の測定結果を示す。
【0065】
【表6】

【0066】
上記の結果から、ほとんどの被験者において、バイアスリフト構成領域を有する帯状体およびカップ部分と肩紐部分を備えた本発明の女性用姿勢矯正下着を装着した場合(実施例)、下着を装着していない場合(対照例)より回旋角度が大きくなっていることが分かる(被験者(6)、(7)、(10)、(11)、(12))。また、バイアスリフト構成領域を有する帯状体およびカップ部分と肩紐部分を備えた本発明の女性用姿勢矯正下着を装着した場合(実施例)、バイアスリフト構成領域を有さないカップ部分と肩紐部分を備えた女性用下着を装着した場合(比較例)よりも左右の体幹回旋角度の差異が減少していることが分かる(被験者(6)、(8)、(9)、(12))。これは、本発明の特徴をなすバイアスリフト構成領域の作用により、頚椎・胸椎・腰椎の弯曲バランスが整った結果、関節可動域が大きくなって回旋し易くなり、また、左右の筋肉の筋緊張性が均等となった結果、左右バランスが整い、左右の関節可動域の差異が減少したことを示している。すなわち、本発明の女性用姿勢矯正下着を装着した場合、習慣性円背改善効果および習慣性側弯改善効果が得られたと言える。
【0067】
(実施例3)
1)全身のシルエットの観察
さらに、本発明の女性用姿勢矯正下着の姿勢改善効果とバストアップ効果を、側面からの全身のシルエットの観察によって評価した。
【0068】
2)測定方法
被験者は、前もって定めた立ち位置に、2〜3回足踏みしてからだをほぐしてから、自然体で手をストンと下ろした状態で、かつ、顔は上げ下げせず、まっすぐ前を見た状態で直立した。このように直立した被験者の左側面を固定したデジタルカメラで撮影した。この測定を、下着を装着していない場合(対照例)と、バイアスリフト構成領域を有する帯状体およびカップ部分と肩紐部分を備えた女性用姿勢矯正下着を装着した場合(実施例)に行った。対照例のシルエットをベースに、実施例のシルエットのデータを重ねて表わした。
【0069】
3)測定結果
図13に被験者(1)〜(5)の観察結果を示す。破線が下着を装着していない時のシルエットであり、実線がバイアスリフト構成領域を有する帯状体およびカップ部分と肩紐部分を備えた本発明の女性用姿勢矯正下着を装着した場合のシルエットである。
【0070】
図13に示した結果から、本発明の女性用姿勢矯正下着を装着した場合、ほとんどの被験者において、胸の位置と腰の位置が上がり、直線的であった脊柱がS字状となっていることが分かる。これは、本発明の特徴をなすバイアスリフト構成領域によって、前鋸筋が伸展方向に伸び、かつ菱形筋が短縮方向に収縮したことによって、遊離骨である肩甲骨が胸椎中心へと導かれ下方回旋運動をして内転し、背骨が正常なS字状カーブを描き、また、胸郭部が支えられ大胸筋が開いたことを示している。すなわち、胸椎後弯角の改善によって、頚椎・胸椎・腰椎でなす弯曲バランスが、本来の正しい弯曲形成に導かれ、姿勢改善効果が得られたと言える。
【産業上の利用可能性】
【0071】
バイアスリフト構成領域を有する帯状体を備えた本発明の女性用姿勢矯正下着は、装着された時に肩甲骨下角を胸椎骨方向に押し上げるように伸縮力を発揮し、習慣性円背改善、姿勢矯正の効果を有する。また、バイアスリフト構成領域を有する帯状体を備えた本発明の女性用姿勢矯正下着は、従来の姿勢矯正下着が少なからず有していた脇から肩への引張りや腹部と背部の圧迫感がほとんどないため開放感があり、また通常の下着と同様の外見であるためファッション性が劣るという問題もないため、毎日の使用に適している。さらに、バイアスリフト構成領域を有する帯状体を備えた本発明の女性用姿勢矯正下着は、装着した時、肩甲骨内転と下方回旋に作用する筋肉の収縮作用を引き出し、これは、習慣性円背状態を改善する同筋肉の収縮作用に繋がる。更に、バイアスリフト構成領域を有する帯状体を備えた本発明の女性用姿勢矯正下着を日常的に装着することで同上の筋肉エクササイズを実践していることになり、習慣性円背を一過性に改善するだけでなく、良好な習慣性姿勢を取り戻し、正しい姿勢に引き戻す効果に繋がることが期待される。
また、上記のような装着による姿勢改善効果とエクササイズ効果は、習慣性円背が原因の肩凝り、緊張性頭痛症の緩和にもつながるため、肩凝り、緊張性頭痛症の改善のための女性用姿勢矯正下着として好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0072】
1・・・台布部分
2・・・バック部分
2−1・・・前方部分
2−2・・・中央部分
2−2−1・・・(2−1)より伸張力の強い素材または二重使いの部分
2−2−2・・・(2−2−1)よりさらに伸張力の強い素材または三重使いの部分
2−2−3・・・(2−1)より伸張力の強い素材または二重使いの部分
2−3・・・後方部分
3・・・連結部分
4・・・連結部材
5・・・カップ部分
5−1・・・カップ部分の上辺部分
6・・・肩紐部分
I・・・基準線
R・・・肋骨
R1・・・第1肋骨
R2・・・第2肋骨
R3・・・第3肋骨
R4・・・第4肋骨
R5・・・第5肋骨
R6・・・第6肋骨
R7・・・第7肋骨
R8・・・第8肋骨
R9・・・第9肋骨
R10・・・第10肋骨
R11・・・第11肋骨
R12・・・第12肋骨
S・・・肩甲骨
V・・・椎骨
BB・・・胸骨
M1・・・前鋸筋
M2・・・菱形筋
M3・・・大胸筋
M4・・・僧帽筋
L1・・・背巾
L2・・・胸巾
L3・・・胸椎から肩甲骨上角の左右巾
L4・・・胸椎から肩甲骨内側縁の左右巾
K1・・・左回旋角度
K2・・・右回旋角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮力および伸縮方向が異なる複数の領域から構成される無端または有端の帯状体であって、前記帯状体を身体に装着した時に、前記複数の領域のうち、第5肋骨、第6肋骨、第7肋骨および第8肋骨の全てまたは一部を覆う位置に伸張力が最も強い領域が配され、前記伸張力が最も強い領域の繊維の伸張方向は、肩甲骨下角を胸椎骨方向に押し上げるように構成されている帯状体からなることを特徴とする女性用姿勢矯正下着。
【請求項2】
請求項1に記載の帯状体に、カップ部分(5)および肩紐部分(6)を備えた女性用姿勢矯正下着であって、前記帯状体は、有端であり、前記複数の領域のうち、身体に装着した時に胸郭部分を取り巻くアンダーバストの中央に位置する領域(1)と、当該領域の左右に隣接する領域(2)、および当該帯状体の端部を構成する領域(3)を備え、前記領域(2)は、第5肋骨、第6肋骨、第7肋骨および第8肋骨の前方から側方の一部を覆う位置に配されることを特徴とする女性用姿勢矯正下着。
【請求項3】
前記領域(2)は、胸郭前方の第8肋骨で全長の1/2あたりから第7肋骨、第6肋骨、第5肋骨の側方部にある位置を通過し肩甲骨外側縁に向かう中央部分(2−2)と、その前方部分(2−1)およびその後方部分(2−3)に分かれ、前記中央部分(2−2)に、前記領域(1)より強着圧で、伸縮目が筋肉に対して直交に伸びにくい目を持つ素材を搭載することを特徴とする請求項2に記載の女性用姿勢矯正下着。
【請求項4】
前記領域(1)に使用する素材は、100cN〜300cNの範囲の伸張力を有し、前記前方部分(2−1)および前記後方部分(2−3)は、前記領域(1)より強着圧であり、前記中央部分(2−2)は前記前方部分(2−1)および前記後方部分(2−3)よりも強着圧であることを特徴とする請求項3に記載の女性用姿勢矯正下着。
【請求項5】
肩紐部分(6)を有さないことを特徴とする請求項2に記載の女性用姿勢矯正下着。
【請求項6】
前記帯状体が無端であることを特徴とする請求項2に記載の女性用姿勢矯正下着。
【請求項7】
均質な素材と、その上に、ひとつ以上、複数のより伸張力の強い素材をさらに搭載した帯状体であって、前記より伸張力の強い素材をさらに搭載した部分が、当該帯状体を装着した時に、第5肋骨、第6肋骨、第7肋骨および第8肋骨の全てまたは一部を覆う位置に配される帯状体からなることを特徴とする女性用姿勢矯正下着。
【請求項8】
伸張力の異なる複数の素材を縫合した帯状体であって、前記伸張力の異なる複数の素材のうち伸張力の最も強い素材部分が、当該帯状体を装着した時に、第5肋骨、第6肋骨、第7肋骨および第8肋骨の全てまたは一部を覆う位置に配される帯状体からなることを特徴とする女性用姿勢矯正下着。
【請求項9】
複数の伸張力の異なる部分、即ち伸張力の弱い部分と、伸張力の強い部分を必要な位置に配置し、一体的に編成された編地を用いた帯状体であって、前記伸張力の異なる部分のうち伸張力の最も強い部分が、当該帯状体を装着した時に、第5肋骨、第6肋骨、第7肋骨および第8肋骨の全てまたは一部を覆う位置に配される帯状体からなることを特徴とする女性用姿勢矯正下着。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−49939(P2013−49939A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189843(P2011−189843)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【特許番号】特許第5080672号(P5080672)
【特許公報発行日】平成24年11月21日(2012.11.21)
【出願人】(500349591)マキクリエイション株式会社 (6)
【出願人】(390016850)株式会社カドリールニシダ (7)
【Fターム(参考)】