説明

好気微生物による土壌/地下水の浄化方法

【課題】有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水を、原位置で好気微生物を利用して浄化する際、硝化細菌の存在を迅速に検出して、効果的に亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制して、効率よく浄化を行う。
【解決手段】
供給路L1から酸素含有ガスを送り、ガス供給路L3から注入井戸4a、4b、4cに分散して混合ガスGを土壌1および地下水2中に注入し、注入井戸4aから、地下水を含むサンプルを汲み上げて、採取容器10に採取する。このサンプルについてリアルタイムPCRによりアンモニア酸化細菌の菌数を測定する。測定値が所定値を超過した段階で、ガスボンベ6からガス状硝化抑制物質(アセチレン)を送り、供給路L3から注入井戸4a、4b、4cに分散して混合ガスGを土壌1および地下水2中に注入し、土壌中に存在する好気微生物の作用により有機汚染物質を分解し、硝化細菌による亜硝酸性窒素や硝酸性窒素の生成を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好気微生物を利用することにより、有機汚染物質によって汚染された土壌および/または地下水を浄化する方法に関し、特に有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水を、原位置で好気微生物を利用して、別の有機汚染物質を生成させることなく浄化する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機汚染物質で汚染された土壌や地下水を浄化する方法として、汚染地下水を揚水処理するとともに汚染土壌を掘削し、汚染現場外に搬出して処理する方法(掘削除去)が多く用いられている。しかしながら、掘削除去はコストが高く、ブラウンフィールド問題の深刻化や搬出汚染土壌の不適正処理につながりうることが指摘されている。このような点を解決し、有機汚染物質で汚染された土壌または地下水を原位置で浄化する方法として、汚染物質に対する分解活性を有する生物を利用して浄化する方法、すなわちバイオレメディエーション(Bioremediation:生物修復法)がある。
【0003】
このようなバイオレメディエーションにより土壌または地下水を原位置で浄化する方法として、特許文献1(特開平10−180237)には、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン等の有機塩素系の汚染物質で汚染された土壌または地下水等の汚染部位に、アンモニア酸化細菌およびそのアンモニア酸化細菌の増殖基質であるアンモニア水溶液を注入し、汚染物質とアンモニア酸化細菌とを接触させることにより、有機塩素化合物を分解除去する方法が示されている。この方法では、独立栄養微生物であるアンモニア酸化細菌が、その増殖基質であるアンモニアを分解するとき、これと同様のメカニズムで有機塩素系の汚染物質を分解する作用を利用して浄化する方法である。従って特許文献1には、アンモニア酸化細菌を注入しないで、他の好気微生物を利用することにより、有機物等の有機汚染物質を分解して浄化することは示されていない。
【0004】
一方、特許文献2(特開2006−198548、特許4431979)には、油で汚染された土壌および地下水の汚染部位に、窒素源を少なくとも含む無機塩と酸素源とを注入し、汚染部位に存在する細菌によって前記油を浄化処理する土壌および地下水の油浄化方法において、汚染部位に硝化抑制物質を注入し、油で汚染された土壌や地下水の浄化の妨げとなる硝化を抑制して油を浄化する方法が示されている。この方法は前記特許文献1の有機塩素系の汚染物質とは異なり、一般的な有機物である油を一般的な好気性微生物により酸化分解する方法である。この好気性微生物は従属栄養微生物であり、汚染物質である一般的な有機物を基質として酸化分解する。この際、従属栄養微生物の補助栄養源として窒素源を注入する必要があるが、硝化細菌が共存すると、注入した窒素源が分解されるので、特許文献2では地下水の硝酸イオン濃度を測定し、その測定結果に基づいて硝化抑制物質を注入し、硝化を抑制して油を浄化している。
【0005】
しかし特許文献2は浄化対象物質が油のみであり、さらに窒素源を含む無機塩を注入することを必須としている。硝化抑制物質としては、チオ尿素、2−アミノ−4−クロル−6−メチルピリミジン、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジシアンジアミド、サルファーチアゾール、N−2,5−ジクロルフェニル、サクシナミド酸、1−アミジノ−2チオウレア(グアニルチオウレア)、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール塩酸塩などが示されている。これらの硝化抑制物質は水溶性の固体薬剤として得られ、窒素源を含む無機塩とともに水溶液とされ、酸素源と混合して土壌または地下水に注入される。この場合、硝化抑制物質を含む水溶液は、酸素源と均一に混合できない状態で注入されるため、硝化抑制物質の抑制効果は十分とはいえない。
【0006】
また好気条件において土壌・地下水中にアンモニア性窒素や有機態窒素が過剰にある場合、これらの窒素はアンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌の働きによって、亜硝酸性窒素や硝酸性窒素が生成することがある(硝化反応)。亜硝酸性窒素および硝酸性窒素は、メトヘモグロビン血症を起こす等、人体に有害なため、浄化において亜硝酸性窒素や硝酸性窒素が生成することは好ましくない。特許文献2では、硝化抑制物質は酸素源や無機塩類の有効活用の目的で用いられており、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成抑制の目的は示されていない。また特許文献2では、地下水の硝酸イオン濃度を測定し、その測定結果に基づいて硝化抑制物質を注入し硝化を抑制しているので、硝化抑制物質により硝化細菌の生育が抑制され、その結果硝酸イオン濃度の上昇が停止するまでにはタイムラグがあり、迅速に制御することができない。硝酸性窒素濃度と亜硝酸性窒素濃度の合計値である酸化態窒素濃度が規制値を超えると処理停止にする必要があるのでタイムラグが短いことは重要である。
【0007】
非特許文献1には、メタン、エタン、エチレンおよびアセチレンはいずれも効果的に亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制することが示されている。また非特許文献2には、アセチレン以外のアセチレン化合物の中にも硝化抑制物質があることが示されている。これらはいずれも、農業において肥料として使用される窒素源の硝化を抑制するために用いられており、土壌または地下水を原位置で浄化する場合に適用することは示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−180237
【特許文献2】特開2006−198548(特許4431979)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】G. W. McCarty, et al, Inhibition of nitrification in soil by gaseous hydrocarbons, Biology and Fertility of Soils, 11, 231(1991)
【非特許文献2】G. W. McCarty, Modes of action of nitrification inhibitors, Biology and Fertility of Soils, 29, 1(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水を、原位置で好気微生物を利用して浄化する際、アンモニア酸化細菌の存在を迅速に検出して、効果的に亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制し、効率よく浄化を行うことができる土壌/地下水の浄化方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は次の好気微生物による土壌/地下水の浄化方法である。
(1) 有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水を、原位置で好気微生物を利用して浄化する方法であって、
処理対象地域の土壌および/または地下水に、酸素含有ガスを供給して有機汚染物質を浄化する酸素含有ガス供給工程、
処理対象地域の土壌および/または地下水中のアンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数および遺伝子数から選ばれる1種以上を測定する菌測定工程、ならびに
菌測定工程の測定値が予め設定した所定値を超過したときに、処理対象地域の土壌および/または地下水に、酸素含有ガスに加えて、ガス状硝化抑制物質を連続的または間欠的に供給することにより、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制して、有機汚染物質
を浄化する抑制物質供給工程
を含むことを特徴とする好気微生物による土壌/地下水の浄化方法。
(2) 菌測定工程の測定がPCRによるものである上記(1)記載の方法。
(3) PCRがリアルタイムPCRまたはMPN−PCRによるものである上記(2)記載の方法。
(4) ガス状硝化抑制物質がメタン、エタン、エチレンおよびアセチレンから選ばれる1種類以上の物質である上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5) ガス状硝化抑制物質の供給している時間が、供給時間と停止時間の合計に対して、15%以上50%以下である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の方法。
(6) ガス状硝化抑制物質が少なくともアセチレンを含み、かつ、供給するガス中のアセチレン濃度が100volppmから2.5vol%の範囲である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 処理対象地域の土壌および/または地下水に、窒素源を供給する上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の方法。
【0012】
本発明において、処理対象となる土壌および/または地下水は好気微生物により分解可能な有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水である。浄化の対象となる汚染物質は、好気微生物により好気的雰囲気で分解可能な有機汚染物質であり、一般的な有機物はこれに含まれる。炭水化物、蛋白質、脂肪等の通常の好気微生物により分解可能なBOD成分は、分解可能な有機汚染物質の代表的な例である。好気微生物による分解が困難な炭化水素、その他の有機汚染物質であっても、特別な好気微生物を馴養することにより、あるいはBOD成分等の他の易分解性の成分とともに浄化することなどにより、好気微生物による分解が容易になるものも本発明の対象に含まれる。本発明において、分解可能な有機汚染物質の好ましい例としては、ベンゼン、フェノール、シアン、油、その他のBOD成分などがあげられる。
【0013】
本発明において、処理対象となる土壌および/または地下水には、好気微生物により分解可能な有機汚染物質が含まれていればよく、これらの他に、さらに好気微生物により分解できない汚染物質が、浄化を目的としない汚染物質として含まれていてもよい。ここでさらに含まれている浄化を目的としない汚染物質が、好気微生物により分解できない場合は、前処理または後処理として、他の浄化法により浄化することができる。本発明において、「土壌/地下水」は「土壌および/または地下水」の意味で用いられる。
【0014】
上記のような有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水に、酸素含有ガス供給工程として原位置で酸素含有ガスを供給すると、土壌および/または地下水に酸素が溶解し、好気微生物により有機汚染物質が分解され、浄化が行われる。この場合、好気微生物が有機汚染物質を基質として増殖するが、この増殖には補助栄養源として窒素源が必要である。窒素源としては、土壌および/または地下水中に蛋白質等の有機態窒素やアンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素などが存在する場合は、これらが利用されるが、これらが存在しない場合には、外部から供給する。
【0015】
上記の有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水に、補助栄養源としての窒素源の存在下に、原位置で酸素含有ガスを供給すると、土壌および/または地下水に酸素が溶解するため、好気微生物が有機汚染物質を基質として増殖する。これにより有機汚染物質が酸化分解され、浄化が行われる。このとき窒素源が補助栄養源として利用され、好気微生物が増殖するが、土壌/地下水中にアンモニア性窒素や有機態窒素が過剰になると、共存するアンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌の働きによって硝化反応が起こり、過剰の窒素が亜硝酸性窒素や硝酸性窒素に硝化される。
【0016】
このような硝化細菌は処理対象地域の土壌および/または地下水中に、最初から生息す
る場合もあるが、通常の汚染地域では嫌気状態では、極めて低濃度でしか生息しない場合が多い。このような場合、酸素含有ガス供給工程において酸素含有ガスを供給して浄化を行うと、好気状態になるにつれてアンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌が増殖し、亜硝酸性窒素や硝酸性窒素が生成する。このようなアンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌による硝化反応を防止するために、処理対象地域の土壌および/または地下水に、酸素含有ガスとともにガス状硝化抑制物質を供給することにより、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制して、有機汚染物質を浄化することができる。
【0017】
ところが浄化開始の初期、つまり酸素含有ガスの供給を開始した時点では、アンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌は少ないことが多く、実質的に硝化反応は起こらない。これらの硝化細菌が一定レベルまで増殖してから硝化反応が顕在化することから、それまでにガス状硝化抑制物質を供給するのは経済的に無駄である。そこで本発明では、菌測定工程において、処理対象地域の土壌および/または地下水中のアンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数および遺伝子数から選ばれる1種以上を継続的に測定する。アンモニア酸化細菌の菌濃度および菌数については遺伝子数により測定することができる。この菌測定工程は、酸素含有ガス供給工程の開始と同時に開始することができるが、酸素含有ガス供給工程の開始後、一定時間、例えばアンモニア酸化細菌が増殖するのに必要な時間が経過した後に開始してもよい。菌測定工程の測定値が予め設定した所定値を超過したときに、処理対象地域の土壌および/または地下水に、酸素含有ガスとともにガス状硝化抑制物質を連続的または間欠的に供給する抑制物質供給工程を開始するが、その後も菌測定工程を継続することができる。
【0018】
菌測定工程は遺伝子解析により処理対象地域の土壌および/または地下水中のアンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数、遺伝子数などを継続的に測定するが、この測定はPCR、特にリアルタイムPCRにより定量するのが好ましい。遺伝子解析においてはアンモニア酸化細菌に特有の遺伝子を対象として解析を行って遺伝子数を測定し、さらにその遺伝子数からアンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数を測定する。遺伝子解析の方法としては、プライマーペアにより遺伝子を増幅するPCRが好ましく、特に遺伝子を増幅する際、ハイブリダイゼイションプローブを用いて定量するリアルタイムPCR、および最確数法と組合わせたMPN−PCRが好ましいが、他の解析方法でもよい。
【0019】
硝化細菌には、アンモニア性窒素を亜硝酸性窒素に酸化するアンモニア酸化細菌、および亜硝酸性窒素を硝酸性窒素に酸化する亜硝酸酸化細菌などが含まれ、本発明ではアンモニア酸化細菌を測定対象とするが、これらは両方を測定対象としてもよい。すなわちアンモニア性窒素の酸化が最初に起こるので、アンモニア酸化細菌を測定対象とすることにより、硝化細菌全体の増殖を早い段階で検知し、迅速に対応措置を講じることができるので好ましいが、さらに亜硝酸酸化細菌をも測定対象としてもよい。アンモニア酸化細菌および亜硝酸酸化細菌は、それぞれ特異な酵素をコードする遺伝子を有し、またそれぞれの菌の菌学的特性も異なり、これによる特異的な遺伝子を有するので、これらを標的として遺伝子数を測定することができる。
【0020】
アンモニア酸化細菌としては、Nitrosomonas属、Nitrosococcus属、Nitrosospira属、Nitrosolobus属等に属する細菌が知られており、また亜硝酸酸化細菌としては、Nitrobacter属、Nitrococcus属等に属する細菌などが知られている。これらの硝化細菌はそれぞれ特異的な遺伝子として、アンモニアまたは亜硝酸の酸化に関わる酵素をコードする遺伝子を有している。アンモニア酸化細菌の場合は、アンモニア酸化酵素であるアンモニアモノオキシゲナーゼ遺伝子を有しており、この遺伝子はアンモニア酸化細菌に特有なものであるため、測定対象として好適である。亜硝酸酸化細菌にも同様の酵素遺伝子があるので、測定対象とすることができる。測定対象としては他の酵素遺伝子でもよく、また酵素遺伝子以外の他の遺伝子でもよく、またリボソーム遺伝子でもよい。
【0021】
上記のアンモニアモノオキシゲナーゼ遺伝子のように、アンモニア酸化細菌に特有の遺伝子であっても、細菌の属、種、菌株等により塩基配列が異なる部分があるので、それぞれに共通な塩基配列の部分をPCRのプライマーペアやハイブリダイゼイションプローブとして利用するのが好ましい。この場合、アンモニア酸化細菌以外の細菌が測定されないように、特異的な部分から共通な塩基配列を選択するようにするのが好ましい。このような選択を行うためには、アンモニア酸化細菌のみを選択的に抽出できるプライマーを、文献や遺伝子のデータベースから調べて設計することができる。亜硝酸酸化細菌の場合、あるいは他の遺伝子などの場合も同様である。上記のプライマーペアは、アッパープライマーおよびロアプライマーとしてPCRに利用される。またハイブリダイゼイションプローブは、放射性元素、蛍光物質、化学物質、抗原、抗体または酵素などの標識物質で標識して、PCRを行い、増幅された塩基配列の定量に利用される。
【0022】
アンモニア酸化細菌測定用のPCRのプライマーペアやハイブリダイゼイションプローブに制限はないが、以下の配列のものが使用できる。
(1)プライマーペア
配列番号1: GGHGACTGGGAYTTCTGG
配列番号2: CCTCKGSAAAGCCTTCTTC
(配列番号1において、HはA、CまたはTを意味し、YはCまたはTを意味する。また配列番号1において、KはGまたはTを意味し、SはGまたはCを意味する。)
(2)ハイブリダイゼーションプローブ
配列番号3: TTCTACTGGTGGTCRCACTACCCCATCAACT
(配列番号3において、RはAまたはGを意味する。)
【0023】
以下、アンモニア酸化細菌をPCRで測定する場合について説明する。アンモニア酸化細菌の遺伝子数は、対象土壌/地下水から抽出したDNAを鋳型として、定量性のあるPCR法(リアルタイムPCR、MPN−PCRなど)を行って得ることができる。すなわちアンモニア酸化細菌の遺伝子数は、対象土壌/地下水から抽出したDNAを鋳型とし、前記アンモニア酸化細菌測定用のプライマーセットを用いて、サーマル・サイクリングによるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、アンモニア酸化細菌に特異的なDNA配列を増幅し、増幅されたDNAを検出することにより、アンモニア酸化細菌のDNA量(遺伝子数)を得ることができる。
【0024】
リアルタイムPCRは、PCRの増幅量をリアルタイムでモニターし解析する方法であり、エンドポイントでPCR増幅産物を確認する従来のPCR法に比べて、DNAやRNAの正確な定量ができるので好ましい。ただしリアルタイムPCRを行うには、DNAをPCR増幅するサーマルサイクラーとその増幅産物をモニタリングする分光蛍光光度計とを一体化したリアルタイムPCR専用のPCR装置が必要となる。リアルタイムPCRには、1本のチューブで1ステップで行う方法と、2ステップに分けて行う方法の2通りの実験方法があるが、正確性の高い2ステップPCRが好ましい。一方、MPN−PCRは、最確数法をPCR法に応用したものである。試料の希釈系列を複数本ずつ作製し、PCR後に目的の増幅産物が得られたものを陽性と判断する。そして最確数表により試料中の標的とする遺伝子量を算出する。
【0025】
本発明で用いるガス状硝化抑制物質は、好気微生物による有機汚染物質の好気性酸化が行われる条件において、アンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌による硝化反応を抑制する物質であって、ガス状で得られる物質であればよい。このようなガス状硝化抑制物質としてはメタン、エタン、エチレンおよびアセチレンから選ばれる1種類以上の物質が好ましいが、非特許文献2に記載されたアセチレン以外のアセチレン化合物、その他のガス状の硝化抑制物質などであってもよい。特に好ましいガス状硝化抑制物質として
は、アセチレンがあげられる。アセチレンはガス溶接等で一般に使われており、容易に入手できる。またメタン、エタン、エチレンおよびアセチレンの中で、アセチレンは最も硝化抑制効果が高い。
【0026】
本発明ではガス状硝化抑制物質は、酸素含有ガスとともに処理対象地域の土壌および/または地下水に供給する。ガス状硝化抑制物質を供給する量は、硝化反応を抑制するのに必要な量である。この量は処理対象地域の土壌および/または地下水に存在する有機汚染物質および窒素源の種類、量、好気微生物および硝化反応に関与するアンモニア酸化細菌等の硝化細菌の種類、量ならびに供給するガス状硝化抑制物質の種類、純度などにより変わるので、予め試験により量を決めておくことが好ましい。本発明では、ガス状硝化抑制物質は酸素含有ガスとともに供給するが、ガス状硝化抑制物質と酸素含有ガスを混合状態で供給するのが好ましい。
【0027】
酸素含有ガスとしては通常空気が用いられるが、酸素富化空気、あるいは他の成分が混入した空気でもよい。酸素含有ガスは有機汚染物質の酸化のために供給するので、大量のガスが供給され、一般的には、0.05〜10m/h、好ましくは0.5〜5m/h程度の流量で供給されるが、ガス状硝化抑制物質はこれに比べると少量の供給となる。このため少量のガス状硝化抑制物質を大量の酸素含有ガスに混入して希釈した状態で供給することになる。このときの酸素含有ガス中のガス状硝化抑制物質の濃度は、酸素含有ガスおよびガス状硝化抑制物質の種類、純度、組成、ならびにこれらの供給すべき量などによって異なるが、濃度の下限は硝化抑制に最低限必要な濃度になり、上限は爆発限界により決まる。アセチレンは100volppm以上で有意に亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制するので、100volppmが下限となり、爆発限界は2.5vol%であるので、2.5vol%が上限となる。またアセチレン濃度が極端に高い場合、アセチレンの微生物分解によって酸素が消費され、効果的に浄化できなくなる。
【0028】
酸素含有ガスを供給する際、常にガス状硝化抑制物質を混入して供給してもよいが、ガス状硝化抑制物質を間欠的に混入して供給するのが好ましい。ガス状硝化抑制物質を間欠的に供給する場合、ガス状硝化抑制物質の供給している時間が、供給時間と停止時間の合計に対して、15%以上50%以下であることが好ましい。例えば、合計時間が7日の場合、ガス状硝化抑制物質を供給している時間が1.33日以上、好ましくは1.33〜3.5日に設定することができる。ガス状硝化抑制物質を供給している時間中は混合ガスが供給され、ガス状硝化抑制物質の供給を停止している時間中は酸素含有ガスのみが供給される。ガス状硝化抑制物質の間欠供給は、数時間単位の繰り返し、数日単位の繰り返しを適宜設定して行うことができる。
【0029】
酸素含有ガスおよびガス状硝化抑制物質の供給方法は、これらのガスを土壌および/または地下水中に均一に分散させ、好気微生物を利用する好気性酸化反応および硝化反応の抑制ができる方法を採用する。好気性酸化反応には、汚染土壌や汚染地下水の全体に酸素を供給し、好気条件を保つことが重要であり、エアースパージングによるガスの供給が採用できる。この方法は処理対象地域に注入井戸を形成して、酸素含有ガスおよびガス状硝化抑制物質を供給し、土壌および/または地下水中に分散(sparge)させる方法である。注入井戸は処理対象地域に複数個、好ましくは格子状に分散させ、ガスの混合、供給装置に連絡するのが好ましい。
【0030】
ガス状硝化抑制物質の調製方法に制限はないが、土壌および/または地下水に供給する酸素を含むガスに、予めガス状硝化物質を混合しておく方法、酸素を含むガスの供給配管からガス状硝化抑制物質をライン注入し混合する方法、あるいは酸素を含むガスを供給する井戸やトレンチにガス状硝化抑制物質を直接吹き込んで井戸やトレンチ、土壌または地下水内で混合する方法等があげられる。
【0031】
土壌および/または地下水中に蛋白質等の有機態窒素やアンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素などが存在する場合は、窒素源を外部から供給しなくてもよいが、これらが存在しない場合には、外部から窒素源を供給する。外部から供給する窒素源としては制限はないが、アンモニアやその塩、尿素、アミノ酸やその塩等が使用できる。亜硝酸やその塩、および硝酸やその塩は人体に有害なため、使用しないことが好ましい。窒素源を外部から供給する場合、窒素源は独立した供給路から供給してもよいが、ガスとともに供給してもよい。
【0032】
有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水に、原位置で酸素含有ガスとともにガス状硝化抑制物質を供給すると、土壌および/または地下水に酸素が溶解し、好気微生物により有機汚染物質が分解され、浄化が行われるが、このときガス状硝化抑制物質により亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成が抑制され、土壌および/または地下水に存在する窒素源は好気微生物の増殖に効率的に用いられるとともに、有機汚染物質である亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の発生は防止される。
【0033】
有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水に酸素含有ガスを供給して浄化する方法では、酸素が供給された部分においてのみ有機汚染物質が分解されるので、汚染土壌や汚染地下水の全体に酸素を供給することが重要である。同様に硝化反応も、酸素が供給された部分においてのみ進行し、亜硝酸性窒素あるいは硝酸性窒素が生成する。従って、酸素含有ガスとともにガス状硝化抑制物質を供給することにより、酸素ガスが供給される部分にだけ硝化抑制物質を供給することになり、効率的に硝化を抑制しつつ、汚染土壌や汚染地下水を浄化することが可能となる。
【0034】
特許文献2では、硝化抑制物質を注入して窒素源の分解を防ぐことにより、油汚染土壌/地下水の浄化を効率化することを目的としており、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成抑制は目的としていない。しかし特許文献2のように、固体または液体状の硝化抑制物質を用いると、酸素が供給される部分に適切に供給できず、逆に酸素が供給されない部分に拡散ないし漏洩することになり、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の抑制は非効率的である。
【0035】
硝化抑制物質はアンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌に含まれる酵素と反応して失活させることにより、亜硝酸性窒素や硝酸性窒素の生成を抑制する。非特許文献2には、アセチレンが硝化細菌のアンモニアモノオキシゲナーゼ(AMO)によってエポキシ化され、AMOと反応して、共有結合することによって、AMOを失活させることが示されている。この場合、蛋白質のデノボ合成が必要となるため、AMOの活性回復には時間を要する。活性回復するまでは亜硝酸性窒素や硝酸性窒素の生成は抑制される。このためAMOの活性が回復するまでの間は硝化抑制物質の供給を停止することができ、ガス状硝化抑制物質を間欠的に供給しても、亜硝酸性窒素や硝酸性窒素の生成を抑制することができ、これによりさらに効率よく浄化を行うことができる。
【0036】
このように菌測定工程の測定値が予め設定した所定値を超過した後、抑制物質供給工程において、汚染土壌/汚染地下水へ酸素含有ガスに加えて、ガス状硝化抑制物質を連続的または間欠的に供給することにより、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制して、有機汚染物質を浄化することができる。ここで抑制物質供給工程に移った後も菌測定工程を継続して、処理対象地域の土壌および/または地下水中のアンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数、遺伝子数などを測定することができる。この場合、アンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数、遺伝子数などはほぼ一定の範囲内におさまり、極端に増減しないことが多く、ガス状硝化抑制物質の供給量の増減は必要ないが、増減が激しい場合には、それに応じてガス状硝化抑制物質の供給量を増減することができる。
【0037】
アンモニア酸化細菌の増殖状態をモニタする上では、硝酸性窒素または亜硝酸性窒素の濃度を検出するよりも、アンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数、遺伝子数などを検出する方が感度よく正確に測定できる。またアンモニア酸化細菌が一定濃度以上に増殖した後に、実質的に問題となるレベルの硝化が起き、かつアンモニア性窒素の酸化が亜硝酸の酸化より先に起こるので、アンモニア酸化細菌を測定対象とすることにより、硝化細菌全体の増殖を早い段階で検知し、迅速にガス状硝化抑制物質を供給して対応措置を講じることができる。アンモニア酸化細菌の増殖から硝酸性窒素または亜硝酸性窒素の濃度が高くなるまでにはタイムラグがあるため、アンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数、遺伝子数などを検出してガス状硝化抑制物質を供給する方が、硝酸性窒素または亜硝酸性窒素の濃度を検出する方法よりも、硝酸性窒素または亜硝酸性窒素の生成を防止するのに有効である。このため遺伝子解析により菌濃度、菌数、遺伝子数などを測定することにより、アンモニア酸化細菌の存在を迅速に検出して、ガス状硝化抑制物質を供給することができ、これによりタイムラグにより硝酸性窒素濃度が高くなることを防止でき、ガス状硝化抑制物質の無駄なく、効率的に亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制できる。
【0038】
菌濃度、菌数の測定方法はPCR法など遺伝子数に基づく測定法が好ましく、これ以外の培養等の方法では硝化細菌の生育が遅いため実用性に乏しいが、PCR法以外に新しい菌濃度、菌数の測定方法が実現すればそれらによってもよい。PCR法の場合でも、測定に3日ほどかかる場合があるが、土壌中の地下水の流速は小さく、かつ硝化反応(代謝速度)が遅いので、抑制物質供給工程に移行するときの菌濃度、菌数の設定値を適切に選択することにより、PCR法でも十分モニタリングに耐えられる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水を、原位置で好気微生物を利用して浄化する際、アンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数および遺伝子数から選ばれる1種以上を測定し、測定値が予め設定した所定値を超過したときに、処理対象地域の土壌および/または地下水に、酸素含有ガスに加えて、ガス状硝化抑制物質を連続的または間欠的に供給するようにしたので、アンモニア酸化細菌の存在を迅速に検出して、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を効果的に抑制し、効率よく浄化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態の好気微生物による土壌・地下水の浄化方法を示す断面図である。
【図2】実施例1および比較例1におけるTOC濃度の経時変化を示すグラフである。
【図3】比較例1におけるアンモニア酸化細菌遺伝子数および酸化態窒素濃度の経時変化を示すグラフである。
【図4】実施例1におけるアンモニア酸化細菌遺伝子数および酸化態窒素濃度の経時変化を示すグラフである。
【図5】実施例2、比較例2において、TOC濃度の経時変化を示すグラフである。
【図6】実施例2、比較例2において、酸化態窒素濃度の経時変化を示すグラフである。
【図7】実施例3、比較例3において、液中TOC濃度の経時変化を示すグラフである。
【図8】実施例3、比較例3において、液中酸化態窒素濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を図面により説明する。図1は実施形態の好気微生物による土壌・地下水の浄化方法を示しており、1は処理対象地域の有機汚染物質で汚染された土壌
、2は土壌1中を流れる地下水で、3は地下水面を示す。処理対象地域の土壌1中には、地下水面3を超えて地下水2の流域にいたるように複数の注入井戸4a、4b、4cが設けられている。コンプレッサ5から伸びる酸素ガス供給路L1と、ガスボンベ6から伸びる硝化抑制物質ガス供給路L2とが合流して混合器(ラインミキサ)7に連絡し、混合器7から伸びるガス供給路L3が注入井戸4a、4b、4cに連絡している。硝化抑制物質ガス供給路L2には弁8が設けられ、制御装置9により制御されるように構成されている。注入井戸4aからサンプリング路L4を通して地下水を含むサンプルを汲み上げて、採取容器10に採取する。このサンプルについてリアルタイムPCRによりアンモニア酸化細菌の遺伝子数を測定して菌濃度や菌数を算出し、測定結果を制御装置9に入力すると、制御装置9から弁8に制御信号が発信されるように構成されている。
【0042】
上記の構成における土壌/地下水の浄化方法は、コンプレッサ5で空気を圧縮して酸素ガス供給路L1から酸素含有ガスを送り、混合器7を通してガス供給路L3から注入井戸4a、4b、4cに分散して混合ガスGを土壌1および地下水2中に注入し、浄化を行う。このときガスボンベ6から混合器7へガス状硝化抑制物質の注入は行わないで、酸素ガスのみの供給による酸素含有ガス供給工程の浄化を行う。
【0043】
これと同時に、またはこれに先立って、ポンプ11により注入井戸4aから、サンプリング路L4を通して地下水を含むサンプルを汲み上げて、採取容器10に採取する。菌測定工程として、このサンプルについてリアルタイムPCRによりアンモニア酸化細菌の遺伝子数を測定し、菌濃度や菌数を算出して測定結果を制御装置9に入力する。
【0044】
酸素ガスのみの供給による浄化を行うことにより、土壌/地下水中のアンモニア酸化細菌が増殖し、その菌数や菌濃度が高くなり、制御装置9に入力された測定値が予め設定した所定値を超過した段階で、制御装置9からの制御信号により弁8が開く。そしてガスボンベ6からガス状硝化抑制物質(アセチレン)を弁8で流量制御して硝化抑制物質ガス供給路L2を通して送り、これを酸素ガスと合流させて混合器7で混合してガス供給路L3から注入井戸4a、4b、4cに分散して混合ガスGを土壌1および地下水2中に注入し、抑制物質供給工程の浄化を行う。
【0045】
土壌1および地下水2中では、注入井戸4a、4b、4cから混合ガスが供給されることにより酸素が溶解し、土壌中に存在する好気微生物の作用により有機汚染物質が分解される。このとき酸素含有ガスが供給される部分には、ガス状硝化抑制物質も供給されるので、アンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌による亜硝酸性窒素や硝酸性窒素の生成が抑制される。ガス状硝化抑制物質の供給によりアンモニア酸化細菌や亜硝酸酸化細菌等の硝化細菌に含まれる酵素が失活するので、制御装置9により弁8を開閉し、ガス状硝化抑制物質を間欠注入するように制御する。
【0046】
図1では注入井戸4bについてのみ混合ガスGが影響半径Xの範囲に吹き出される状態を図示しているが、注入井戸4a、4cについても同様のことが行われる。注入井戸4a、4b、4cはそれぞれの影響半径Xが処理対象地域の所定範囲を覆うように配置される。処理対象地域の土壌1では地下水2は一定方向に流れるので、注入井戸4a、4b、4cは汚染地域における地下水流の上流側に配置することにより全体の浄化が可能になる。また図1では、窒素源が存在するためこれを供給しない例を示しているが、窒素源を供給する場合は、注入井戸4a、4b、4cを通して供給してもよく、また他の供給路から供給してもよい。
【0047】
また図1では注入井戸4aについてのみ、サンプリング路L4を設けて地下水を含むサンプルを汲み上げているが、注入井戸4b、4cにも設けてもよい。注入井戸のほか、処理対象地域に設置した観測井戸において地下水を採取し、地下水中におけるアンモニア酸
化細菌の遺伝子数を測定することができる。地下水を採取・分析する頻度に制限はないが、1ヵ月に1回程度実施することが望ましい。本実施形態においては菌濃度や菌数まで求めて制御する例を示したが、これらを求めず、遺伝子数のみで制御してもよい。この場合は遺伝子数の増加が認められた時点、望ましくは遺伝子数が7×10copies/mLとなった時点で硝化抑制物質の供給を開始することができる。また本実施形態では弁8を自動制御する例について説明したが、単に測定結果に基づいて硝化抑制の作業の開始時期を判定するものであってもよい。
【0048】
以下、アンモニア酸化細菌の遺伝子数を測定するためのリアルタイムPCRについて説明する。
<プライマー設計>
リアルタイムPCRでは、目的の遺伝子を検出できるプライマー(およびプローブ)の入手が必要となる。これらは前記の通り、専用データベースや文献および専用ソフトウェアを用いて自身で設計することができる。
本発明においては、対象のアンモニア酸化細菌(NitrosomonasNitrosococcusNitrosospiraNitrosolobusなど)について、PCR増幅効率が高く、増幅の特異性が高く、アニーリングの安定性の高いプライマーを専用ソフトウェアで設計して、前記配列番号1および2のプライマー、ならびに配列番号3のハイブリダイゼイションプローブを得た。
【0049】
<測定工程>
リアルタイムPCRでは、アンモニア酸化細菌の遺伝子(鋳型DNA)を含むサンプルに、DNA合成のための基質となるdNTP、予め化学合成した2種類のプライマーDNA(プライマーペア)、DNAポリメラーゼ(Taqポリメラーゼ)、およびハイブリダイゼイションプローブからなる反応液を混合した後、PCR装置にセットし、温度の上げ下げをするプログラムを数十回繰り返し行う。
【0050】
この際、まず酵素を活性化する初期変性を行う。次いで増幅反応として、まず短時間高温処理して鋳型となる二本鎖DNAを一本鎖に解離する変性工程、反応液の温度を下げて2種類の各プライマーをそれぞれの鋳型一本鎖DNAの相補的な塩基配列と水素結合させるアニーリング工程、Taqポリメラーゼが働く最適温度にして各プライマーに鋳型と相補的なdNTPが次々と付加されDNA 合成が進行する伸長工程を順次行う。この一連の増幅反応(変性→アニーリング→伸長)を繰り返すことにより、新たに合成されたDNA断片が順に鋳型となり、2つのプライマーに挟まれた目的のDNA領域が指数関数的に増幅される。この増幅反応を繰り返し、プローブの蛍光が検出された時点でサイクル数を記録して終了とする。
【0051】
PCRの温度条件は測定対象の菌の種類等によって適宜設定するが、対象がアンモニア酸化細菌である場合は、例えば以下の通り設定することができる。変性温度は、10秒程度で鋳型2本鎖DNAを1本鎖DNAへ解離することが可能である温度であり、92〜96℃が好ましい。アニーリング温度は、40秒程度で該1本鎖DNAへのプライマーのアニーリングを優先的に起こすことが可能である温度であり、55〜65℃が好ましい。伸長温度は、1秒程度で該1本鎖DNAに相補的なDNAの合成を可能にする温度であり、65〜75℃が好ましい。
【0052】
<遺伝子数算出>
サンプル中に鋳型DNAが多いほど少ないサイクル数で蛍光を検出できるようになるため、DNA量既知の標準サンプルについてPCR反応を行う。蛍光を検出できたサイクル数を横軸に、初発のDNA量(遺伝子数)を縦軸にプロットし、検量線を作成しておく。そしてサンプルについてPCR反応を行い、蛍光を検出できるサンプル数を求め、求めたサイクル数とDNA量との検量関係から、サンプル中の目的のDNA量(遺伝子数)が得
られる。
【0053】
<遺伝子数から菌数への拡張>
なおアンモニア酸化細菌が1個のセル当たりどの程度の遺伝子数を保有しているかについては、文献等により調べることができる。このセル当たりの遺伝子数と、PCRで検出した遺伝子数の値とから、アンモニア酸化細菌の菌数や菌濃度を算出することができ、この菌数や菌濃度に基づいて硝化抑制の要否を判定することもできる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0055】
〔比較例1〕:
汚染物質(TOC)としてブドウ糖を水道水に添加し、BOD分解能および硝化能を有する活性汚泥を添加して摸擬汚染地下水を調製した。
上記模擬汚染地下水1Lに対し、栄養塩として塩化アンモニウムと、pH緩衝液および栄養塩として、リン酸緩衝液(リン酸二水素カリウム+リン酸水素二ナトリウム)を添加後、散気管を用い、空気を20mL/minの流量で吹き込んだ。反応は室温で行った。ブドウ糖および栄養塩の初期濃度を表1に示す。
【0056】
【表1】

【0057】
上記の空気吹き込みによる反応の過程で、経時的に反応液からサンプリングして、前記配列番号1および2のプライマーをプライマーペアとし、配列番号3のプローブをハイブリダイゼイションプローブとし、6−カルボキシフルオレセイン(6−FAM)で標識を付し、前記手法によりリアルタイムPCRを行い、アンモニア酸化細菌の遺伝子数を測定した。実施例のリアルタイムPCRにおいて、変性温度は95℃(10秒)、アニーリング温度は60℃(40秒)、伸長温度は72℃(1秒)である。
【0058】
また上記反応において、経時的に反応液のTOC濃度を測定し、ブドウ糖の分解挙動を調べた結果を図2に示す。さらに経時的に亜硝酸性窒素、硝酸性窒素の濃度を測定し、両者の合計を酸化態窒素濃度とした結果を、アンモニア酸化細菌の遺伝子数を測定結果とともに図3に示す。図3において、酸化態窒素濃度およびアンモニア酸化細菌遺伝子数のプロットはサンプリングの時点の値を示す。
【0059】
図2より、空気注入によって反応液のTOC濃度は急激に低下し、有機物が効果的に分解されることが分かる。また図3より、空気注入の開始初期には、アンモニア酸化細菌遺
伝子数が少なく、酸化態窒素濃度も低いが、9日目にはアンモニア酸化細菌遺伝子数が急増し、その後も増加しており、一方酸化態窒素濃度は15日目に増加が始まっていることから、酸化態窒素濃度はアンモニア酸化細菌遺伝子数の増加よりも約6日遅れのタイムラグで増加することが示されている。
【0060】
〔実施例1〕:
上記比較例1により、アンモニア酸化細菌遺伝子数が所定値を超過したときに、ガス状硝化抑制物質を供給すれば、ガス状硝化抑制物質の無駄なく、効率的に亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制できることが分かる。
そこで実施例1では、ガス状硝化抑制物質を供給する時点の指標とするためのアンモニア酸化細菌遺伝子数の所定値を7×10copies/mLとし、この遺伝子数となる反応時間(日)を図3より、空気注入から5日目とした。空気注入から4日目まではガス状硝化抑制物質を注入せず、5日目から空気とともにガス状硝化抑制物質を注入して反応させるようにしたこと以外は比較例1の条件で試験を行った。
【0061】
すなわち比較例1と同様に、表1の摸擬汚染地下水1Lに対し、栄養塩として塩化アンモニウムと、pH緩衝液および栄養塩として、リン酸緩衝液(リン酸二水素カリウム+リン酸水素二ナトリウム)を添加後、散気管を用い、空気を20mL/minの流量で吹き込んで酸素ガスのみによる反応を行った後、5日目以降は空気あるいはアセチレン混合空気(アセチレン1000volppm)を20mL/minの流量で交互に吹き込んで混合ガスによる反応を行った。いずれの反応も室温で行った。
【0062】
上記の空気およびアセチレン混合ガス吹き込みによる反応の過程で、比較例1と同様にしてリアルタイムPCRを行い、アンモニア酸化細菌の遺伝子数を測定した。また上記反応において、経時的に反応液のTOC濃度を測定し、ブドウ糖の分解挙動を調べた結果を図2に示す。さらに経時的に亜硝酸性窒素、硝酸性窒素の濃度を測定し、両者の合計を酸化態窒素濃度とした結果を、アンモニア酸化細菌の遺伝子数を測定結果とともに図4に示す。図4において、Aはアセチレン混合空気の注入を開始した時点(5日目)を示し、また酸化態窒素濃度およびアンモニア酸化細菌遺伝子数のプロットはサンプリングの時点の値を示す。
【0063】
すなわち上記実施例1は、比較例1における空気注入の5日目に、空気+アセチレン注入を開始した試験である。図2の実施例1の結果より、空気注入によって比較例1の場合と同様に、反応液のTOC濃度は急激に低下し、有機物が効果的に分解されることが分かる。また図4から、空気+アセチレン注入により、アンモニア酸化細菌遺伝子数の増加は止まり、酸化態窒素濃度は検出されない状態が続くことが分かる。この結果より、アンモニア酸化細菌遺伝子数を測定して測定値が所定値に達した時点で、ガス状硝化抑制物質の供給を開始すれば、タイムラグの後に酸化態窒素濃度が高くなることを防止でき、ガス状硝化抑制物質の無駄なく、効率的に亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制できることが分かる。
【0064】
〔実施例2〕:
実施例1において、アセチレン混合空気の曝気条件を表2に示すように変えて、経時的にTOC濃度、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素の濃度を測定し、ブドウ糖の分解挙動および酸化態窒素の生成挙動を調べた結果を図5および図6に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
上記の結果、図5および図6に示すように、実施例2の各条件では、ブドウ糖(TOC)は分解されることが確認された。供給時間が供給時間と停止時間の合計に対して15%未満である条件1〜3では、日数の経過とともに、酸化態窒素が生成し、酸化態窒素濃度(硝酸性窒素濃度と亜硝酸性窒素濃度の合計値)が地下水基準10mg−N/Lを上回った。供給時間が上記合計時間に対して15%以上50%以下である条件4、5では、実験期間中、酸化態窒素が生成しなかった。上記の結果より、アセチレン混合空気の供給時間が、供給時間と停止時間の合計に対して15%以上50%以下の場合にブドウ糖(TOC)が分解され、かつ、効果的に亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制できることが分かる。
【0067】
〔比較例2〕:
実施例2において、アセチレン混合空気を使用せず、常に空気を吹き込んだこと以外、実施例2と同じ方法でブドウ糖の分解挙動および酸化態窒素の生成挙動を調べた。
上記の結果、図5および図6に示すように、ブドウ糖(TOC)は分解されたものの、地下水環境基準(10mg−N/L)を上回る濃度の酸化態窒素が生成した。
【0068】
〔実施例3〕:
砂(宇部珪砂6号)300gに対し、汚染物質(TOC)としてスクロースを670mg−C/kgとなるように添加し、含水率25重量%となるよう水道水100mLを添加し、よく混合して模擬汚染土壌とした。上記模擬汚染土壌に対し、表1組成からブドウ糖を除いた模擬地下水900mLを添加した。
【0069】
上記模擬汚染土壌/地下水に対し、散気管を用い、空気あるいはアセチレン混合空気(アセチレン1000volppm)を20mL/minの流量で交互に吹き込んだ。アセチレン混合空気の吹き込み時間(供給時間)は2日、アセチレンを含まない空気の吹き込み時間(停止時間)は6日とし、実験は室温で行った。
【0070】
経時的に液中のTOC濃度、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素の濃度を測定し、スクロース(TOC)の分解挙動および酸化態窒素の生成挙動を調べた。また、実験前後の土壌中のTOC濃度を測定した。その結果を図7、図8および表3に示す。
上記の結果、図7、図8および表3に示すように、アセチレン混合空気の供給により、地下水および土壌中のスクロース(TOC)が分解され、かつ、酸化態窒素の生成は認められなかった。
【0071】
〔比較例3〕:
実施例3において、アセチレン混合空気を使用せず、常に空気を吹き込んだこと以外、実施例3と同じ方法でスクロース(TOC)の分解挙動および酸化態窒素の生成挙動を調べた。また、実験前後の土壌中のTOC濃度を測定した。その結果を図7、図8および表3に示す。
【0072】
【表3】

【0073】
上記の結果、図7、図8および表3に示すように、スクロース(TOC)は分解されたものの、地下水環境基準を上回る濃度の酸化態窒素が生成した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
好気微生物を利用することにより、有機汚染物質によって汚染された土壌および/または地下水を浄化する方法、特に有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水を、原位置で好気微生物を利用して、別の有機汚染物質を生成させることなく浄化する方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0075】
1: 土壌、2: 地下水、3: 地下水面、4a,4b,4c: 注入井戸、5: コンプレッサ、6: ガスボンベ、7: 混合器(ラインミキサ)、8: 弁、9: 制御装置、10:採取容器、11:ポンプ、G: 混合ガス、X: 影響半径、L1: 酸素ガス供給路、L2: 硝化抑制物質ガス供給路、L3: ガス供給路、L4: サンプリング路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機汚染物質で汚染された土壌および/または地下水を、原位置で好気微生物を利用して浄化する方法であって、
処理対象地域の土壌および/または地下水に、酸素含有ガスを供給して有機汚染物質を浄化する酸素含有ガス供給工程、
処理対象地域の土壌および/または地下水中のアンモニア酸化細菌の菌濃度、菌数および遺伝子数から選ばれる1種以上を測定する菌測定工程、ならびに
菌測定工程の測定値が予め設定した所定値を超過したときに、処理対象地域の土壌および/または地下水に、酸素含有ガスに加えて、ガス状硝化抑制物質を連続的または間欠的に供給することにより、亜硝酸性窒素および硝酸性窒素の生成を抑制して、有機汚染物質を浄化する抑制物質供給工程
を含むことを特徴とする好気微生物による土壌/地下水の浄化方法。
【請求項2】
菌測定工程の測定がPCRによるものである請求項1記載の方法。
【請求項3】
PCRがリアルタイムPCRまたはMPN−PCRによるものである請求項2記載の方法。
【請求項4】
ガス状硝化抑制物質がメタン、エタン、エチレンおよびアセチレンから選ばれる1種類以上の物質である請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ガス状硝化抑制物質の供給している時間が、供給時間と停止時間の合計に対して、15%以上50%以下である請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ガス状硝化抑制物質が少なくともアセチレンを含み、かつ、供給するガス中のアセチレン濃度が100volppmから2.5vol%の範囲である請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
処理対象地域の土壌および/または地下水に、窒素源を供給する請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−250171(P2012−250171A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124345(P2011−124345)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】