説明

好熱性リパーゼ産生菌およびその利用

【課題】コンポスト等の高温条件下においても生存可能なリパーゼ活性を有する好熱菌を提供すること。
【解決手段】生育可能温度が55〜80℃および生育至適温度が70〜75℃であり、リパーゼ活性を有するテルモエロバクター・サブテラネウス(Thermaerobacter subterraneus)または生育可能温度が45〜75℃および生育至適温度が60〜65℃であり、リパーゼ活性を有するゲオバシルス・ステアロテルモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は好熱性リパーゼ産生菌およびその利用に関し、更に詳細には、80℃程度の高温においても生育可能な好熱性リパーゼ産生菌およびこのリパーゼ産生菌ならびにその分泌物を含有する油脂分解剤に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂分解酵素であるリパーゼは、アミラーゼやプロテアーゼとともに三大消化酵素の1つとして重視され、医学、生理学、生化学など種々の視点から多くの研究が手がけられている。現在までに、リパーゼは動物のみならず、植物、微生物に至るまで広く存在することが知られている。
【0003】
現在では、リパーゼは微生物から安定な状態で取得され、取り扱えるようになっており、各方面でリパーゼの工業的生産が行われ、その生産技術も次第に確立されてきている。
【0004】
上記のようにリパーゼは油脂分解酵素であり、家庭、飲食店、工場等からの廃水中の油脂処理や、医療、洗剤あるいはエステル合成等に利用されているが、それらの用途に応じて特殊な用途を有するものも多数提供されている。
【0005】
一方、近年ゴミ等の廃棄物処理方法の一つとして、コンポスト法が注目を浴びている。コンポスト法では、特に生ゴミ等を微生物の作用により分解し、最終的に肥料として利用しようとするものである。このコンポスト法では、コンポスト中の微生物が、ゴミに含まれる有機物をアルコール類、有機酸、二酸化炭素に分解し、その過程で発熱するが、従来のコンポスト法の場合、その発熱は、60〜80℃の温度が1日続く程度であった。
【0006】
しかし、改良された最近のコンポスト法では、上記した発熱は、90℃またはそれ以上の温度が1週間近く続くため、このような高温下において生育可能なコンポスト用微生物が求められており、これはリパーゼ生産菌についても例外でない。また、一般の油脂についても、常温で固体状のものも多いことから、これらが溶解する高温で生育し、リパーゼを産生するリパーゼ産生菌の提供も求められいるが、その様な菌はあまり報告されていないのが実情であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明はコンポスト等の高温条件下においても生育可能で、リパーゼ活性を有する好熱性のリパーゼ産生菌の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記した微生物を見出すべく、種々の検索を行った結果、高温コンポストにより得られた堆肥中からリパーゼ活性を有する新規好熱菌を見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、生育可能温度が45〜80℃、生育至適温度が60〜75℃の範囲にある好熱性リパーゼ産生菌を提供するものである。
【0010】
また本発明は、生育可能温度が55〜80℃、生育至適温度が70〜75℃の範囲にあり、テルモエロバクター・サブテラネウス(Thermaerobacter subterraneus)に属する上記好熱性リパーゼ産生菌を提供するものである。
【0011】
更に本発明は、生育可能温度が45〜75℃、生育至適温度が60〜65℃の範囲にあり、ゲオバシルス・ステアロテルモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)に属する上記好熱性リパーゼ産生菌を提供するものである。
【0012】
更にまた、本発明は上記の好熱性リパーゼ産生菌の1種または2種以上、それらの培養外液およびそれらから採取される酵素を含有する油脂分解剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の好熱性リパーゼ産生菌は、高温条件下においても生育し、リパーゼを生産するものである。
【0014】
従って、本発明の好熱性リパーゼ産生菌、それらの培養外液およびそれらから採取される酵素を、高温型コンポスト等や常温で固形の油脂の分解など、高温下における油脂分解が必要な場において好適に利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の好熱性リパーゼ産生菌は、前記したようにその生育可能温度が45〜80℃で、生育至適温度が60〜75℃の範囲にあるものである。このような好熱性リパーゼ産生菌は、例えば、高温型コンポストより得られた堆肥から分離、取得することができる。より具体的には、例えば、滅菌した液状培地中に高温コンポスト堆肥を懸濁させ、これを70℃以上の温度で所定時間培養させた後、この上清を固形培地上に接種し、生育したコロニー中からリパーゼ活性を有するものを選抜することにより得られる。
【0016】
後記するように、16S rDNA配列により解析した結果、本発明者らがこのようにして得た本発明の好熱性リパーゼ産生菌には、テルモエロバクター・サブテラネウス(Thermaerobacter subterraneus)に属するものとゲオバシルス・ステアロテルモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)に属するものが含まれていることが明らかになった。
【0017】
具体的に、本発明者が見出したテルモエロバクター・サブテラネウスの代表的なものとして、CLPT01、CLPT05およびCLPT08と名付けた3種が、またゲオバシルス・ステアロテルモフィルスの代表的なものとして、CLPT11およびCLPT13と名付けた2種が挙げられるので、以下これらについて順次説明する。
【0018】
テルモエロバクター・サブテラネウスに属する好熱性リパーゼ産生菌の菌学的性質:
【0019】
<形態>
【表1】

【0020】
<生育状態>
【表2】

【0021】
<生理学的性質>
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
<リパーゼ活性>
トリブチリン(Tribuyrin)、o−ニトロフェニル ラウレート(o-Nitrophenyl laurate)、p−ニトロフェニル パルミテート(p-nitrophenyl palmitate)の分解活性を有する。
【0024】
上記したCLPT01、CLPT05およびCLPT08の16S rDNA配列を近隣接合法(Saito et al., Mol. Biol. Evol., 4, 406-25.)により解析し、これに基づき記載した系統樹を図1に示す。この結果から上記各菌株はテルモエロバクター・サブテラネウス(Thermaerobacter subterraneus)であると判断した。
【0025】
なお、本出願人らはこれらを、各々2004年7月2日に、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)へ寄託した(寄託番号FERM P−20111、FERM P−20112およびFERM P−20113)。
【0026】
ゲオバシルス・ステアロテルモフィルスに属する好熱性リパーゼ産生菌の菌学的性質:
【0027】
<形態>
【表5】

【0028】
<生育状態>
【表6】

【0029】
<生理学的性質>
【表7】

【0030】
【表8】

【0031】
<リパーゼ活性>
トリブチリン、o−ニトロフェニル ラウレートの分解活性を有する。
【0032】
上記したCLPT11およびCLPT13の16S rDNA配列を、近隣接合法(Saito et al., Mol. Biol. Evol., 4, 406-25.)により解析し、これに基づき記載した系統樹(図1)からこれら微生物はゲオバシルス・ステアロテルモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)であることが判明した。
【0033】
なお、本出願人らはこれら微生物を、各々2004年4月22日に、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)へ寄託した(寄託番号FERM P−20016およびFERM P−20017)。
【0034】
以上説明した、本発明の好熱性リパーゼ産生菌は、これを培養することにより、その培養物中にリパーゼを産生させることができ、必要により、精製等をおこなって耐熱性リパーゼを採取することができる。また、好熱性リパーゼ産生菌の1種または2種以上もしくはそれらの培養外液や前記耐熱性リパーゼを使用し、必要に応じて適当な担体と組み合わせることにより、高温においても作用する油脂分解剤とすることができる。
【0035】
上記油脂分解剤は、高温下での油脂分解の用途に使用でき、例えば、高温型コンポストや、常温で固体の油脂を加温し、液状として分解させる用途等に使用することが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は何らこれらに制約されるものではない。
【0037】
実 施 例 1
リパーゼを産生する好熱菌のスクリーニング:
液状の培地1(Tryptone 6g/L、Yeast Extract 6g/L、NaCl 2 g/L、MgCl・6HO 1g/L)を、水酸化ナトリウムでpHを8に調整した後、オートグレーブ(121℃、15分)で加熱殺菌した。この培地に、−80℃で保存していた堆肥(発酵温度96℃の高温型コンポストで製造された)を約200mg加え、懸濁させた。この懸濁物を70℃で3時間インキュベートした。別途調製した培地1に1.5%の寒天を加えて固形の培地2を得た。この培地2のプレートに上記インキュベート物の上清の50μlまたは200μlを植菌し、70℃で培養した。
【0038】
プレート上にコロニーが形成された後、ランダムにコロニーを選択し、基質である0.5%(vol/vol)トリブチリン(Tributyrin:ナカライテスク株式会社)の入った培地3のプレートに白金針にて植菌し、70℃で培養した。その結果を図2に示した。なお、前記培地3としては1.5%の寒天の入った培地1をオートクレーブした後、50mlのコーニングチューブにこの培地を25ml、トリブチリンを125μl加え、蓋をしめ、トリブチリンの粒が見えなくなるまで振り、シャーレに注いで固まったものを使用した。トリブチリンの入ったプレートは白く濁っており、リパーゼを産生する菌の周辺はトリブチリンの分解により透明となるためハローが形成される。
【0039】
上記培養により、ハローが形成されるか若しくは菌の増殖速度が高いものとして、CLPT01、CLPT05、CLPT08、CLPT11およびCLPT13を選択した。
【0040】
実 施 例 2
リパーゼ活性の測定:
直径18mmの試験管に、前記培地1を5ml、−80℃で保存してあるグリセロールストックの菌体を爪楊枝でかきとり加え、70℃で一晩培養後、OD660=0.3になったものを測定用に使用した。この培養液を1.5ml容量のマイクロ遠心分離管にとり、5,000rpm、10分間、4℃の条件で遠心し、上清を除いた。そこに同量の0.05Mのリン酸バッファー(kpi;pH7.6)を加え、菌を縣濁した。その菌溶液を1.5ml容量のマイクロ遠心分離管にそれぞれ100μl分注した。100μlの菌溶液が入った1.5ml容量のマイクロ遠心分離管に、0.05Mのkpi(pH7.6)を800μl、0.01Mの後記の基質100μlを加えて混合し、70℃で0分、30分、60分、120分の時間でインキュベートした。基質としては、p−ニトロフェニル パルミテート(p−NPP)およびo−ニトロフェニル ラウレート(o−NPL)(共にSIGMA製)を用いた。
【0041】
インキュベート後、100mMの炭酸ナトリウムを125μl加え、混合した。次いで、13,000rpm、10分、4℃の条件で遠心し、上清を新しい1.5ml容量のマイクロ遠心分離管に移した。上清の吸光度(Abs.)は、吸光光度計(DU-640 Spectrophotometer:BECKMAN製)を用いて、p−NPPは430nm、o−NPLは420nmで測定した。その結果をそれぞれ図3(p−NPP活性のなかったCLPT11およびCLPT13の結果は図示せず)および図4に示した。リパーゼ活性のあるものは、基質からフェニル基が生成されるため吸光度の値が高くなった。
【0042】
上記測定により、CLPT01、CLPT05、CLPT08、CLPT11およびCLPT13の何れにもリパーゼ活性があることが分かった。
【0043】
実 施 例 3
顕微鏡による観察:
<グラム染色>
グラム染色のため菌溶液10μlをスライドガラスにのせ、火炎固定した。グラム溶液A(クリスタルバイオレット溶液:和光純薬工業製)の2μlをスライドガラス上に滴下し、1分間染色した。MilliQで洗浄後、グラム溶液B(ルゴール液:和光純薬工業製)の10μlを添加し、1分間放置した。最後にグラム溶液C(サフラン溶液:和光純薬工業製)を10μl添加し、1分間染色した。MilliQで洗浄、乾燥後、カバーガラスをかぶせ、マニキュアで封じ、微分干渉顕微鏡(BX60(オリンパス製):1,000倍)で観察した。その結果を図5に示した。なお、ポジティブコントロールとしてバシルス・サブチルス(Bacillus subtills)、ネガティブコントロールとしてエシェリシア・コリ(Escherichia coli)を使用した。
【0044】
グラム染色の結果、何れの菌株も染色されず、グラム陰性であった。
【0045】
<形態観察>
各菌株の大きさおよびべん毛の有無を確認するため透過型電子顕微鏡で観察した(図6)。また、その結果を表9に示した。
【0046】
【表9】

【0047】
実 施 例 4
至適生育条件等の検討:
<生育pHおよび至適生育pH>
培地1のpHを塩酸または水酸化ナトリウムを用いてpH6〜9.5まで0.5刻みで調整して室温条件で使用した。直径18mmの試験管に各pHの培地5ml、菌溶液100μlを加え70℃で一晩振盪培養した。培養後の660nmの吸光度を分光光度計(スペクトロニック20A:島津製作所製)で測定した。測定は各3回行い、その平均値から至適pHを検討した。
【0048】
上記測定の結果、CLPT01の生育pHは6.0〜9.0、至適生育pHは8.0であり、CLPT05の生育pHは6.5〜8.5、至適生育pHは8.0であり、CLPT08の生育pHは6.5〜9.0、至適生育pHは8.0であった。また、CLPT11の生育pHは6.0〜8.5、至適生育pHは7.0であり、CLPT13の生育pHは6.0〜8.5、至適生育pHは7.5であった。
【0049】
<生育塩化ナトリウム濃度および至適生育塩化ナトリウム濃度>
培地1に塩化ナトリウムを加えて、塩化ナトリウム濃度を0〜5質量%まで0.5質量%刻みで調整して室温条件で使用した。直径18mmの試験管に各塩化ナトリウム濃度の培地5ml、菌溶液100μlを加え70℃で一晩振盪培養した。培養後の660nmの吸光度を分光光度計で測定した。測定は各3回行い、その平均値から至適生育塩化ナトリウム濃度を検討した。
【0050】
上記測定の結果、CLPT01、CLPT05、CLPT08、CLPT11およびCLPT13の生育塩化ナトリウム濃度は3.5%以下であり、至適生育塩化ナトリウム濃度は0.5%であった。
【0051】
<生育温度、至適生育温度および世代時間>
上記測定において、振盪培養時の温度を60〜80℃まで5℃刻みで調整して、それぞれ成長曲線を作成した(図7)。得られた曲線から対数増殖期での世代を計算した。
【0052】
上記測定の結果、CLPT01は120分(70℃)、CLPT05は(70分)、CLPT08は(60分)CLPT11およびCLPT13は10分(65℃)であった。
【0053】
試 験 例 1
菌体培養上清のリパーゼ活性の測定:
<温度耐性>
エタノールに溶かした10mMのo−ニトロフェニルラウレートを100μl、10mMのリン酸バッファー(pH7.6)を800μl、上清100μl(直径18mmの試験管に培地5ml、−80℃で保存してあるグリセロールストックの菌体を爪楊枝でかきとり加え、CLPT11および13は60℃、CLPT01、05および08は70℃で一晩培養後、OD660=0.3になった培養液を1.5mlのマイクロ遠心チューブに取り、5,000rpm、10分、4℃で遠心し、上清を得た)を1.5mlのマイクロ遠心チューブに加え、120分、55−80℃の範囲、5℃間隔でインキュベートを行った。インキュベート後、10mMの炭酸ナトリウムを250μl加え、13,000rpm、10分、4℃で遠心した。遠心後、その上清を新しい1.5mlのマイクロ遠心チューブに移した。上清の吸光度(Abs.)は、吸光光度計(DU-640 Spectrophotometer:BECKMAN製)を用いて、405nmで測定した。その結果を図8に示した。なお、405nmの時のPNは、1.457×10cmmol−1で計算した。
【0054】
上記測定の結果、分解活性が最も高い温度は、CLPT01、05および08が共に75℃であり、CLPT11および13が共に60℃であった。温度範囲は、CLPT01、05および08が共に60−80℃、CLPT11および13が共に55−60℃であった。
【0055】
<pH耐性>
酵素反応を行うにあたり、pHの調整に以下のバッファーを使用した。
pH4.0−6.0:酢酸ナトリウムバッファー
pH6.0−7.5:リン酸カルシウムバッファー
pH7.0−10.0:トリス−塩酸バッファー
pH9.0−10.0:グリシン−水酸化ナトリムバッファー
【0056】
エタノールに溶かした10mMのp−ニトロフェニルラウレートを100μl、10mMの各バッファーを800μl、上清の100μl(直径18mmの試験管に培地5ml、−80℃で保存してあるグリセロールストックの菌体を爪楊枝でかきとり加え、CLPT11および13は60℃、CLPT01、05および08は70℃で一晩培養後、OD660=0.3になった培養液を1.5mlのマイクロ遠心チューブに取り、6,000rpm、10分、4℃で遠心し、上清を得た)を1.5mlのマイクロ遠心チューブに加え、CLPT11および13は60℃、CLPT01、05および08は70℃で、30分インキュベートを行った。インキュベート後、10mMの炭酸ナトリウムを250μl加え、13,000rpm、10分、4℃で遠心した。遠心後、上清を新しい1.5mlのマイクロ遠心チューブに移した。上清の吸光度は、吸光光度計(DU-640 Spectrophotometer:BECKMAN製)を用いて、405nmで測定した。その結果を図9に示した。なお、405nmの時のPNは、1.457×10cmmol−1で計算した。
【0057】
上記測定の結果、分解活性が最も高いpHは、CLPT01、05および08が共に8.0であり、CLPT11は7.0であり、CLPT13は7.5であった。pH範囲は、CLPT01、05および08が共に6.0−9.0、CLPT11および13が共に6.0−8.0であった。
【0058】
<基質特異性>
(1)ニトロフェニルエステル類
菌体培養上清の基質特異性を、基質として以下の炭素数を有するニトロフェニルエステル類を用いて検討した。
p−ニトロフェニルアセテート(C2)
p−ニトロフェニルブチレート(C4)
p−ニトロフェニルカプリレート(C8)
p−ニトロフェニルカプレート(C10)
p−ニトロフェニルラウレート(C12)
o−ニトロフェニルミリステート(C14)
p−ニトロフェニルパルミテート(C16)
o−ニトロフェニルステアレート(C18)
【0059】
エタノール、アセトニトリルまたはイソプロパノールに溶かした10mMの各基質を100μl、10mMのリン酸バッファー(pH7.6)を800μl、上清の100μl(直径18mmの試験管に培地5ml、−80℃で保存してあるグリセロールストックの菌体を爪楊枝でかきとり加え、CLPT11および13は60℃、CLPT01、05および08は70℃で一晩培養後、OD660=0.3になった培養液を1.5mlのマイクロ遠心チューブに取り、6,000rpm、10分、4℃で遠心し、上清を得た)を1.5 mlのマイクロ遠心チューブに加え、CLPT11および13は60℃、CLPT01、 05および08は70℃で60分インキュベートを行った。インキュベート後、10mMの炭酸ナトリウムを250μl加え、1,3000rpm、10分、4℃で遠心した。遠心後、上清を新しい1.5mlのマイクロ遠心チューブに移した。上清の吸光度(Abs.)は、吸光光度計(DU-640 Spectrophotometer:BECKMAN製)を用いて、420nmで測定した。その結果を図10に示した。なお、菌体培養上清の基質特異性は、p−ニトロフェニルカプレートの活性を100%として計算した。
【0060】
上記測定の結果、分解活性が最も高い基質は、CLPT01、05および08が共にC12であり、CLPT11および13が共にC10であった。分解活性があった鎖長は、CLPT01および05が共にC2−C18であり、CLPT08はC2−C16であり、CLPT11はC2−C12であり、CLPT13はC2−C10であった。
【0061】
(2)トリグリセロール類
菌体培養上清の基質特異性を、基質として以下の炭素数を有するトリグリセロール類を用いて検討した。
トリアセチン(C2)
トリブチリン(C4)
トリカプリリン(C8)
トリカプリン(C10)
トリラウリン(C12)
トリミリスチン(C14)
トリパルミチン(C16)
【0062】
各基質、蒸留水および0.2mMのアラビアゴムをFastPrep、BIO101(Qbiogene製)を用いてスピード6.0、2分で乳化させ、100mMの基質溶液をそれぞれ調製した。これらの基質溶液を100μl、上清の900μl(直径18mmの試験管に培地5ml、−80℃で保存してあるグリセロールストックの菌体を爪楊枝でかきとり加え、CLPT11および13は60℃、CLPT01、05および08は70℃で一晩培養後、OD660=0.3になった培養液を1.5mlのマイクロ遠心チューブに取り、6,000rpm、10分、4℃で遠心し、上清を得た)を1.5mlのマイクロ遠心チューブに混ぜ、CLPT11および13は60℃、CLPT01、05および08は70℃で、18時間インキュベートを行った。インキュベート後、試験管に反応物の450μlを移し、直ぐに3Mの塩酸を250μl加え、さらにn−ヘキサンを3ml加えた。ボルテックスを用いて2分で脂肪酸を抽出し、新しい試験管に抽出した有機層2.5mlを移した。そこに、銅試薬(90mMの酢酸銅(II)1水和物溶液を調製し、ピリジンでpHを6.1に調製したもの)の0.5mlを加え、ボルテックスを1.5分行い、更に、遠心後に有機層の2mlを新しい試験管に移した。ジエチルジチオカルバミン酸を無水エタノールで溶かし、5.8mMに調製したクロモジェニック試薬を0.4ml加え混ぜた。有機層の吸光度(Abs.)は、吸光光度計(DU-640 Spectrophotometer:BECKMAN製)を用いて、430nmで測定した。その結果を図11に示した。なお、菌体培養上清の基質特異性は、トリカプリリンの活性を100%として計算した。
【0063】
上記測定の結果、分解活性が最も高い基質は、CLPT01、05、08、11および13が共にC8であった。分解活性があった鎖長は、CLPT01、05および08が共にC2−C16であり、CLPT11および13はC2−C14であった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の新規好熱菌は、高温条件下においてもリパーゼ活性を有するので、高温型コンポスト等に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、本発明微生物の16SrDNA配列に基づく系統樹を示す図面である。
【図2】図2は、トリブチリンを基質とした培地上でのリパーゼ活性を有する好熱菌のスクリーニングの結果を示す写真である。
【図3】図3は、本発明微生物のp−NPP活性を示す図面である。
【図4】図4は、本発明微生物のo−NPL活性を示す図面である。
【図5】図5は、本発明微生物のグラム染色の結果を示す写真である。
【図6】図6は、本発明微生物の透過型電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は、本発明微生物の振盪培養時の成長曲線を示す図面である。
【図8】図8は、本発明微生物の菌体培養上清の温度耐性を示す図面である。
【図9】図9は、本発明微生物の菌体培養上清のpH耐性を示す図面である。
【図10】図10は、本発明微生物の菌体培養上清の基質特異性(ニトロフェニルエステル類)を示す図面である。
【図11】図11は、本発明微生物の菌体培養上清の基質特異性(トリグリセロール類)を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生育可能温度が45〜80℃、生育至適温度が60〜75℃の範囲にある好熱性リパーゼ産生菌。
【請求項2】
生育可能温度が55〜80℃、生育至適温度が70〜75℃の範囲にあり、テルモエロバクター・サブテラネウス(Thermaerobacter subterraneus)に属するものである請求項第1項記載の好熱性リパーゼ産生菌。
【請求項3】
テルモエロバクター・サブテラネウス
CLPT01(FERM P−20111)である請求項第1項記載の好熱性リパーゼ産生菌。
【請求項4】
テルモエロバクター・サブテラネウス
CLPT05(FERM P−20112)である請求項第1項記載の好熱性リパーゼ産生菌。
【請求項5】
テルモエロバクター・サブテラネウス
CLPT08(FERM P−20113)である請求項第1項記載の好熱性リパーゼ産生菌。
【請求項6】
生育可能温度が45〜75℃、生育至適温度が60〜65℃の範囲にあり、ゲオバシルス・ステアロテルモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)に属するものである請求項第1項記載の好熱性リパーゼ産生菌。
【請求項7】
ゲオバシルス・ステアロテルモフィルス
CLPT11(FERM P−20016)である請求項第1項記載の好熱性リパーゼ産生菌。
【請求項8】
ゲオバシルス・ステアロテルモフィルス
CLPT13(FERM P−20017)である請求項第1項記載の好熱性リパーゼ産生菌。
【請求項9】
請求項第1項ないし第8項の何れかの項記載の好熱性リパーゼ産生菌の1種または2種以上、それらの培養外液およびそれらから採取される酵素を含有する油脂分解剤。
【請求項10】
高温型コンポスト用である請求項第9項記載の油脂分解剤。


【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−230303(P2006−230303A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50946(P2005−50946)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(301000273)アートエンジニアリング株式会社 (1)
【Fターム(参考)】