説明

婦人靴に於けるヒール取付部の補強装置

【課題】 ヒール取付部の強度、剛性を高め、ヒール取付部とヒール部材の連結状態を強固、堅牢とし、シャンク及び補強板は、前後方向でのスライド調節が可能で、取扱い易く、構成簡素で、耐久性があり、組立容易で、量産に適し、経済的で、事故等を確実に防げて、安全で、信頼性ある婦人靴に最適な補強装置を提供する。
【解決手段】 中底ボード5と、ファイバーボード2と、補強板3と、シャンク4とを備え、シャンク4と補強板3とファイバーボード2は、固定具20によって鋲着し、シャンク4と補強板3とファイバーボード2とヒール部材7は、止着釘25、26の叩打により止着し、止着釘25は、中底ボード5を貫通し、切欠長孔15及び長孔10に挿通し、ファイバーボード2を貫通してヒール部材7に止着し、複数の止着釘26は、中底ボード5及び補強板3及びファイバーボード2を貫通してヒール部材7に止着するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、比較的高いヒールを有する婦人靴等で採用されるもので、ヒール等に比較的強い不意の外力等が加えられた時でも、ヒール取付部からヒール部材が脱落したり、或いはヒール取付部が変形したりすることがないように工夫した婦人靴に於けるヒール取付部の補強装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のヒール取付部にあっては、例えば、特許文献1の従来例として開示されているような手段が採用されていた。
すなわち、靴底をヒール本体に載置し、下面に金属製剛体からなる縦細のシャンクをハトメでハトメ留めした中底を該靴底の上面に載置し、中底の上面からクギをヒール芯体に靴底を貫通して打ちつけて組み立てていた。すなわち、中底で靴底をヒール本体に留めて一体化し、更に、中底の上面に中敷により上記ハトメ及びクギの頭を覆って貼着するような手段が採用されていた。
【0003】
【特許文献1】特開平10−146202号(図8、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前述の如き従来からの手段によるものは、特に、高いヒールの場合に、ヒール等に比較的強い不意の外力等が加えられると、ヒール取付部からヒール部材が脱落したり、或いはヒール取付部が大きく変形したりする虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明は、ヒール取付部の強度、剛性を高められるようにすると共に、ヒール取付部とヒール部材との連結状態がより強固となるようにして、強い外力等がヒール等に加えられても、ヒール部材が脱落したり、ヒール取付部が変形したりすることがなく、使用者の事故を防ぎ、より安全で、信頼性ある婦人靴を提供できるようにすべく創出されたものである。
【0006】
しかして、請求項1記載のヒール取付部の補強装置にあっては、婦人靴の略靴底形状を呈する中底ボード5と、この中底ボード5下面の略後半部がわに接着される比較的硬質なファイバーボード2と、このファイバーボード2と中底ボード5の間に介装される薄板金属状の補強板3と、ファイバーボード2と中底ボード5の間に介装されると共に、その後端部がわが補強板3と中底ボード5との間に介装される適宜金属製のシャンク4とを備え、このシャンク4には、後端がわが開放されている平面略U字状となる切欠長孔15が切設されると共に、この切欠長孔15の前方がわに取付孔16が穿設され、前記補強板3には、後端部寄りに前後方向に長い長孔10が穿設され、シャンク4と補強板3とファイバーボード2は、前記取付孔16及び長孔10に挿通されると共にファイバーボード2を貫通する略リベット状の固定具20によって鋲着され、更に、シャンク4と補強板3とファイバーボード2とヒール部材7は、ファイバーボード2の上面がわからの複数の止着釘25、26の叩打により止着され、少なくとも中央の一本の止着釘25は、中底ボード5を貫通し、切欠長孔15及び長孔10に挿通され、ファイバーボード2を貫通してヒール部材7に止着され、中央の止着釘25の周囲に配される他の複数の止着釘26は、中底ボード5及び補強板3及びファイバーボード2を貫通してヒール部材7に止着されるように構成する手段を採用した。
【0007】
また、請求項2記載のヒール取付部の補強装置にあっては、補強板3全体に、その厚み方向で凹凸状となるような補強凹凸部11を多数設ける手段を採用した。
【発明の効果】
【0008】
従って、請求項1記載のヒール取付部の補強装置によれば、補強板3を設けたことで、ヒール取付部の強度、剛性が高められるようになり、ヒール取付部とヒール部材7との連結状態も強固となり、強い外力等がヒール等に加えられた場合でも、ヒール部材7が脱落したり、ヒール取付部が変形したりすることがなく、使用者の事故を確実に防ぎ、より安全で、信頼性ある婦人靴を提供できるようになる。
しかも、構成が簡素で、耐久性があり、組立も容易で、量産に適し、経済的で、ヒールの高い婦人靴に最適なヒール取付部の補強装置となる。
【0009】
特に、シャンク4と補強板3とファイバーボード2は、前記取付孔16及び長孔10に挿通されると共にファイバーボード2を貫通する略リベット状の固定具20によって鋲着され、更に、シャンク4と補強板3とファイバーボード2とヒール部材7は、ファイバーボード2の上面がわからの複数の止着釘25、26の叩打により止着され、少なくとも中央の一本の止着釘25は、中底ボード5を貫通し、切欠長孔15及び長孔10に挿通され、ファイバーボード2を貫通してヒール部材7に止着され、中央の止着釘25の周囲に配される他の複数の止着釘26は、中底ボード5及び補強板3及びファイバーボード2を貫通してヒール部材7に止着されるように構成したので、ヒール取付部の強度、剛性を格段に高められ、加えて、ヒール取付部とヒール部材7との連結状態も格段に強固で、堅牢となる。
【0010】
更に、シャンク4には、後端がわが開放されている平面略U字状となる切欠長孔15が切設されると共に、この切欠長孔15の前方がわに取付孔16が穿設され、前記補強板3には、後端部寄りに前後方向に長い長孔10が穿設されているので、シャンク4及び補強板3は、前後方向での位置決め前のスライド調節が可能となり、より組立て易く、取扱い易い補強装置となる。
【0011】
また、請求項2記載のヒール取付部の補強装置によれば、多数の補強凹凸部11によって、補強板3全体の強度及び剛性が増すようになる。
しかも、補強板3がファイバーボード2や中底ボード5やシャンク4に接触している時の食い付き状態が良くなると共に、前後左右方向での補強板3の滑り等が生じる虞がなくなり、より優れた止着状態が期待できるようになる。
加えて、止着釘26が補強板3を貫通する際に、止着釘26先端と補強板3表面との間で前後左右方向に滑りが生じ難くなり、止着釘26を所望の通りに止着させることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を図示例に基づいて説明すると、次の通りである。
本発明のヒール取付部の補強装置は、例えば、比較的高いヒールを有する婦人靴等に有効なもので、ヒール等に比較的強い不意の外力等が加えられた時でも、ヒール取付部からヒール部材が脱落したり、或いはヒール取付部が変形したりすることがないようにしたヒール取付部の補強装置である。
【0013】
具体的には、婦人靴の略靴底形状を呈する中底ボード5と、この中底ボード5下面の略後半部がわに接着される比較的硬質なファイバーボード2と、このファイバーボード2と中底ボード5の間に介装される薄板金属状の補強板3と、ファイバーボード2と中底ボード5の間に介装されると共に、その後端部がわが補強板3と中底ボード5との間に介装される適宜金属製のシャンク4とを備えたものである。
【0014】
そして、前記シャンク4には、後端がわが開放されている平面略U字状となる切欠長孔15が切設されると共に、この切欠長孔15の前方がわに取付孔16が穿設され、前記補強板3には、後端部寄りに前後方向に長い長孔10が穿設されている。
【0015】
また、シャンク4と補強板3とファイバーボード2は、前記取付孔16及び長孔10に挿通されると共にファイバーボード2を貫通する略リベット状の固定具20によって鋲着される。
【0016】
更に、シャンク4と補強板3とファイバーボード2とヒール部材7は、ファイバーボード2の上面がわからの複数の止着釘25、26の叩打により止着される。
しかも、少なくとも中央の一本の止着釘25は、中底ボード5を貫通し、切欠長孔15及び長孔10に挿通され、ファイバーボード2を貫通してヒール部材7に止着され、中央の止着釘25の周囲に配される他の複数の止着釘26は、中底ボード5及び補強板3及びファイバーボード2を貫通してヒール部材7に止着されるように構成されている。
【0017】
加えて、補強板3全体には、その厚み方向で凹凸状となるような補強凹凸部11を多数設けてある。
【実施例】
【0018】
図中1は、アウトソールとなる本底で、この本底1は、例えば、適宜ゴム材や、適宜合成樹脂材や、皮革や、これらの複合材等によって構成され、ファイバーボード2と中底ボード5の下面部分に接着されると共に、ヒール部材7の前面部分に接着できるように形成されている。尚、本底1は、ファイバーボード2の外縁部分及び取付部5の先端がわ外縁部分に巻きつけられるようにしてその下面部分に固定される甲被部材9の一部にも接着されるものである。
【0019】
ファイバーボード2は、例えば、適宜合成樹脂材や、適宜紙材や、これらの複合材や、これらをガラス繊維等で強化したもの等によって構成され、比較的硬質で、強度が高いものが利用される。しかも、靴底の略後半部分に合致するような適宜湾曲した板状に形成されている。
【0020】
補強板3は、例えば、比較的薄い金属板材(或いは、強化された適宜合成樹脂材や、強化された複合材等でも良い)等によって構成され、後端がわが円弧状となるような比較的大きな略舌片状に形成されている。
そして、補強板3は、左右方向中央で且つ後端部寄りとなる位置に、前後方向に長い長孔10が穿設されており、更に、補強板3の上下面には、その厚み方向で凹凸状となるような補強凹凸部11が多数設けられている。
尚、補強凹凸部11は、例えば、前後方向に長い凸条と凹条を左右方向に於いて交互に配し、更に、前後方向に於いて、左右方向に長い凸条と凹条を交互に設けるようにしてもと良いし、その他適宜構成のものが採用できる。すなわち、多数の補強凹凸部11によって、補強板3全体の強度及び剛性が増すように構成されていれば良い。
【0021】
シャンク4は、例えば、適宜金属板材(或いは、強化された適宜合成樹脂材や、強化された複合材等でも良い)等によって構成され、婦人靴の形状に応じて上下方向に予め湾曲していると共に、前後方向に長い細長帯状に形成されている。
そして、シャンク4は、前後方向に長く且つ後端がわが開放されている略細長U字状の切欠長孔15が後端部分に切設されており、この切欠長孔15の前端近傍に、小円孔状の取付孔16が穿設されている。
更に、シャンク4には、適宜補強ビード17が設けられており、シャンク4自身の強度や剛性が高められるように形成されている。
【0022】
中底ボード5は、例えば、適宜紙材(或いは、強化紙材)や、適宜合成樹脂材(或いは、適宜発泡性樹脂材)や、これらの複合材等によって構成され、婦人靴の形状に合致するように形成されている。
【0023】
図中6は、例えば、適宜皮革(或いは、合成材でも良い)によって婦人靴の形状に合致するように形成される中敷で、この中敷6は、中底ボード5の上面に接着されるようになっている。しかも、この中敷6によって、止着釘25、26の頭部が隠れるようになる。
尚、中敷6と中底ボード5との間の後部がわ(止着釘25、26の頭部が配されている部分)に、例えば、適宜発泡性樹脂材等によって構成される充填クッション材を介装せしめても良い(図示せず)。
【0024】
ヒール部材7は、例えば、適宜合成樹脂材や、適宜木材や、適宜複合材等によって構成され、婦人靴の形状、寸法に応じて、その形状、寸法等が決定される。
【0025】
甲被部材9は、例えば、適宜皮革や、適宜合成皮革等によって構成され、婦人靴の形状、寸法に応じて、その形状、寸法等が決定される。尚、甲被部材9は、一枚で構成されたものであっても良いし、複数枚で構成されたものであっても良い。
【0026】
ところで、本底1とファイバーボード2との間の隙間部分(甲被部材9が存在しない部分)や、本底1と中底ボード5との間の隙間部分(甲被部材9が存在しない部分)には、例えば、適宜発泡性樹脂材等によって構成される充填クッション材を介装せしめ、本底1とファイバーボード2、本底1と中底ボード5の接着安定性が夫々増すように構成しても良い。
【0027】
固定具20は、例えば、適宜金属材等によって構成され、中空状のリベットやハトメ状に形成されており、この固定具20によって、シャンク4の取付孔16と補強板3の長孔10に挿通させ、ファイバーボード2を貫通して、シャンク4と補強板3とファイバーボード2とが、確実に、強固に、且つ安定的に鋲着できるように構成されている。
【0028】
止着釘25、26は、例えば、適宜金属材等によって構成されると共に適宜抜け止め防止手段が施されたものが利用されている。
そして、止着釘25、26は、中底ボード5(ファイバーボード2)の上面がわから下方に向って叩打することにより止着できるよう構成されており、中底ボード5とシャンク4と補強板3とファイバーボード2とヒール部材7とが、確実に、強固に、且つ安定的に固着できるように構成されている。
【0029】
特に、中央の一本の止着釘25にあっては、例えば、その頭部下方に比較的大きな円環状の頭部受板が配置されており、止着釘25の頭部が、中底ボード5を貫通しないようにすると共に、シャンク4の切欠長孔15の周縁部分に確実に中底ボード5を介して係止するように形成してある。
また、中央の一本の止着釘25は、中底ボード5を貫通し、切欠長孔15及び長孔10に挿通され、ファイバーボード2を貫通してヒール部材7に止着できるように形成されている。
尚、中央の止着釘25は、複数設けても良い。
【0030】
更に、前記中央の止着釘25の周囲に配される複数(例えば、四本)の止着釘26は、例えば、中央の止着釘25より稍細いものが利用され、中底ボード5及び補強板3及びファイバーボード2を貫通してヒール部材7に止着できるように形成されている。
【0031】
ところで、補強装置の具体的構成、形状、寸法、材質、本底1の具体的構成、形状、寸法、材質、ファイバーボード2の具体的構成、形状、寸法、材質、配設位置、補強板3の具体的構成、形状、寸法、材質、配設位置、シャンク4の具体的構成、形状、寸法、材質、配設位置、中底ボード5の具体的構成、形状、寸法、材質、中敷6の具体的構成、形状、寸法、材質、ヒール部材7の具体的構成、形状、寸法、材質、甲被部材9の具体的構成、形状、寸法、材質、長孔10の具体的構成、形状、寸法、配設位置、補強凹凸部11の具体的構成、形状、寸法、数、配設位置、切欠長孔15の具体的構成、形状、寸法、配設位置、取付孔16の具体的構成、形状、寸法、数、配設位置、補強ビード17の具体的構成、形状、寸法、数、配設位置、固定具20の具体的構成、形状、寸法、材質、配設位置、数、止着釘25、26の具体的構成、形状、寸法、材質、数、配設位置等は、図示例のもの等に限定されることなく、適宜自由に設定、変更できるものである。
【0032】
本発明の補強装置は、前述の如く構成されており、次のようなヒールの取付強さの試験結果からも明らかなように、ヒールが高い(長い)程、より優れた、強度を発揮できるものとなっている。
【表1】

【表2】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を例示する分解斜視図である。
【図2】本発明を例示する一部省略縦断側面図である。
【図3】本発明を例示する部分縦断正面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 本底 2 ファイバーボード
3 補強板 4 シャンク
5 中底ボード 6 中敷
7 ヒール部材
9 甲被部材
10 長孔 11 補強凹凸部
15 切欠長孔 16 取付孔
17 補強ビード
20 固定具
25 止着釘 26 止着釘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
婦人靴の略靴底形状を呈する中底ボードと、この中底ボード下面の略後半部がわに接着される比較的硬質なファイバーボードと、このファイバーボードと中底ボードの間に介装される薄板金属状の補強板と、ファイバーボードと中底ボードの間に介装されると共に、その後端部がわが補強板と中底ボードとの間に介装される適宜金属製のシャンクとを備え、このシャンクには、後端がわが開放されている平面略U字状となる切欠長孔が切設されると共に、この切欠長孔の前方がわに取付孔が穿設され、前記補強板には、後端部寄りに前後方向に長い長孔が穿設され、シャンクと補強板とファイバーボードは、前記取付孔及び長孔に挿通されると共にファイバーボードを貫通する略リベット状の固定具によって鋲着され、更に、シャンクと補強板とファイバーボードとヒール部材は、ファイバーボードの上面がわからの複数の止着釘の叩打により止着され、少なくとも中央の一本の止着釘は、中底ボードを貫通し、切欠長孔及び長孔に挿通され、ファイバーボードを貫通してヒール部材に止着され、中央の止着釘の周囲に配される他の複数の止着釘は、中底ボード及び補強板及びファイバーボードを貫通してヒール部材に止着されるように構成したことを特徴とする婦人靴に於けるヒール取付部の補強装置。
【請求項2】
補強板全体に、その厚み方向で凹凸状となるような補強凹凸部を多数設けたことを特徴とする請求項1記載の婦人靴に於けるヒール取付部の補強装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−255198(P2006−255198A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77827(P2005−77827)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(505099691)株式会社モエ (1)
【Fターム(参考)】