説明

嫌気性微生物に気体資源を供給して有機物を生産するための方法及び装置

【課題】CO2、一酸化炭素/CO、水素/H2などの気体資源を原料として、嫌気性微生物によって有機物を製造する方法において、気体資源の供給と、嫌気性雰囲気の維持を可能とすることが本発明の課題である。
【解決手段】本発明者らは、ガス透過膜に注目し、嫌気性微生物への気体資源の供給と嫌気性微生物の培養環境の維持を実現した。すなわち、疎水性ガス透過膜等のガス交換膜を介する液相と気相間のガス交換によって、気体資源を嫌気性微生物に供給するとともに、嫌気性微生物の生育環境からの脱酸素を可能とした。さらに、気体の循環経路に脱酸素工程を導入すれば、嫌気的雰囲気は容易に維持できる。また気相のガス組成の調節によって、気体基質の供給量も調節することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嫌気性微生物に気体資源を供給して有機物を生産するための方法及び装置に関する。より具体的には、嫌気性微生物による気体資源からの有機物産生過程において、嫌気性雰囲気を維持しつつ発酵液へ気体資源を供給して有機物を生産する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
嫌気性微生物を用いるエタノール発酵や酢酸発酵は、古くから行われてきた。古典的な発酵反応において利用される原料には、主に糖類や穀物などの農産物が利用されるのが一般的である。これらの原料から、有機物であるアルコールや有機酸を製造する方法も古くから知られている。具体的には、エタノール、ブタノール、酢酸、あるいは乳酸などを微生物を利用して製造する方法が公知である。更に近年では、微生物発酵は、植物由来の資源からエタノール発酵により燃料用エタノールを産生する方法としても注目されている。微生物発酵によるエタノールの製造は古くから行われてきたが、石油代替エネルギーとして製造されるエタノールは、特に、通称「バイオエタノール」などと呼ばれる。また、同様に微生物と発酵条件を適切に選ぶことにより、植物由来の再生可能資源から有用な有機物として、例えば有機酸、アルコール、アルデヒド、エステルなどへ転化する技術も研究されてきた。
【0003】
植物由来の資源を発酵により有用な有機物に転化する方法においては、微生物が資源として利用する原料の多くがグルコースである。実際には、穀物由来のデンプン質や、砂糖や糖蜜そのものを原料として利用し、酵素や微生物自体の作用によって、グルコースを生成する。これらの原料は、本来食品や飼料としての価値の高い炭化水素源である。つまり、古典的な発酵反応は、価値の高い炭化水素源を原料として消費する。したがって、資源そのものの有効利用の観点や経済的な観点から多くの問題を抱えていた。バイオエタノールの急激な普及が、世界的な穀物価格の急騰をもたらしたことは記憶に新しい。食料との競合を避けるために、食用にできない植物資源の利用も試みられている。具体的には、木材や藁といったセルロース資源の利用が提案されている。
しかし有機物を生成する微生物は、これらの植物資源を直接利用することはできない。そのため、微生物による発酵の前に、予め植物資源をグルコースなどの糖に分解する必用がある。具体的には、酵素処理や物理的な分解によって、セルロース資源を、菌体が利用し易い糖質に予め転化するなどの補助工程が必要である。
【0004】
グルコース等の糖を資化する古典的な発酵反応に対し、気体を資源として有価物である有機物を産生する方法は次の様な利点が期待できる。すなわち、まず、食物と競合しない原料から有機物を製造することができる。例えば二酸化炭素や一酸化炭素などの炭素含有気体は、通常は利用が困難な無機物とされてきた。そのため、通常は、そのまま大気に放出されていた。あるいは、燃焼処理(酸化処理)の後に、やはり大気中に放出されていた。したがって、二酸化炭素、一酸化炭素、水素などを含む混合気体(合成ガス)を、炭素を固定化した有価物、例えば有機酸、アルコール、アルデヒド、エステルなどの有機物へと転化する技術は非常に魅力的である。特に、温室効果ガスとして大気への放出削減が求められている二酸化炭素を、できる限り大気放出せずに資源として有用な有機物に転化、再利用する点で、近年、重要な意義がある。
【0005】
現在、有価物である有機酸、アルコール、アルデヒド、エステルなどの多くは、天然ガス、石油や石炭といった化石燃料を起源とする炭化水素源から直接的に、分離又は化学的に合成されている。これらの炭化水素源から一度ガス化炉などによる合成ガス化工程を経て気体資源とした場合であっても、気体資源に金属触媒などを用いて高温、高圧下で化学反応させることにより目的とする有機物を合成している。
例えば、有機酸として非常に重要な酢酸は、アセトアルデヒド、ブタン、ナフサ、エチレンなどの酸化等を利用して合成する方法が知られている。現在では、酢酸は、安価な炭化水素源からガス化炉で発生させた一酸化炭素とメタノールをカルボニル化反応させる、メタノール法で得るのが工業的な生産方法の主流となっている。メタノール法においては、レアメタルでもあるロジウムやイリジウムなどの金属触媒の存在下で、高温かつ高圧でメタノールと一酸化炭素を混合し、次の反応式にしたがって酢酸が製造されている。
CH3OH + CO → CH3COOH
【0006】
これらの化学的な酢酸の合成方法においては、多くの場合、主にガス化や加熱工程で二酸化炭素が生成される。しかし副次的に生成された二酸化炭素は、そのまま大気中に放出しているのが現状である。また、火力発電、セメント生産、又は鉄鋼生産などの各種製造業における工業プロセスにおいても、多量の二酸化炭素を排出する。ここでも二酸化炭素は気体資源として利用されることなく大気中に放出され続けてきた。
【0007】
上記気体資源から嫌気性微生物の代謝によって酢酸やエタノールといった有機物が生成されることは、学術的にはかねてより知られていた。嫌気性微生物は、気体資源、例えば一酸化炭素や二酸化炭素を炭素源として酢酸を生産する微生物として、これまでに、例えば次のような微生物が見出されている。
アセトバクテリウム(Acetobacterium)属
クロストリジウム(Clostridium)属
ユーバクテリウム(Eubacterium)属
バクテロイデス(Bacteroides)属
スポロミューサ(Sporomusa)属
アセトゲニウム(Acetogenium)属
モーレラ (Moorella)属
【0008】
これらの微生物は、いわゆる絶対独立栄養性細菌に分類される。したがって、これらの微生物は、一般的に嫌気性であって、生育系内に酸素が存在すると、その生育は阻害される傾向にある。また、これらの微生物は、一酸化炭素や二酸化炭素を炭素源とし、水素ガスをエネルギー源として生育しながら、ほぼ常温かつ常圧の条件下で酢酸を代謝経路に含む産生過程を経て菌体外へ有機物を放出する。例えば、微生物は以下に示す反応にしたがって、二酸化炭素2モルと水素4モルから酢酸1モルを作り出すことが知られている(特開平01-098472、J. Biosci. Bioeng., 2005, 99, 252-258、次世代産業基盤技術研究開発制度、バイオリアクター研究開発総括報告書、昭和56年度〜昭和63年度、他)
2CO2 + 4H2 → CH3COOH
【0009】
また、気体を資化する微生物の利用について、次のような報告がある。
*二酸化炭素と水素よりエタノールと酢酸を産生する新規なクロストリジウム属又はその派生属(特開2003−339371号)
*酸化炭素と水素よりエタノールと酢酸を産生する嫌気性微生物(特表2004−504058号)
*各種化学工業プロセスより排出される廃ガスを微生物発酵により有価な有機物として回収する方法(特表2000−513233号)
更に、主として一酸化炭素、二酸化炭素、並びに水素からなる合成ガスを資化する嫌気性微生物によるエタノールの産生量を向上させる技術も報告されている。すなわち、これらのガスの代謝経路中、酢酸産生代謝経路に含まれるアセチルCoAから酢酸を産生する経路を意図的に阻害することにより、菌体にエタノールを優先的に産生させる方法である(遠山ら,三井造船技報,No.197(2009−6)p.23)。
以上のような、微生物発酵によって気体資源を有用な有機物に転化する方法を工業的な製造技術に応用することができれば、気体資源から環境負荷の少ない方法で有機物を得ることができる。また原料である気体資源として、従来は廃棄されていた二酸化炭素を組み合わせれば、二酸化炭素の再資源化につながる。
【0010】
気体資源を利用する発酵においては、気体資源を微生物に供給する方法が課題となる。気体を発酵液に供給する手段として、散気吸収法が一般的に用いられている。散気吸収法を行うための発酵槽の代表的な構造を図2に示した。図2の発酵槽においては、気体資源は発酵槽内に直接導入され、攪拌される。散気吸収法は、発酵液下部の散気管から微細な気泡として気体資源を供給し、発酵槽を高速で攪拌することで、発酵液に浮遊する気泡をできるだけ長く発酵液に滞留させて菌体に取り込ませる方法である。散気吸収法においては、供給した気体のほとんどが発酵液から気体のまま浮上してしまう問題があった。このような条件においては、供給された気体は、単に培養液中を通過しているだけで、発酵液に溶解して貯蔵されることがないため、微生物に利用されることなく発酵液から放出されてしまう。気体の利用率を上げるためには、発酵液から浮上してしまった大部分の気体を回収して繰り返し発酵液に供給する、気体循環法を行うしかなかった。
【0011】
気泡が発酵液に浮遊している間に発酵液または微生物への吸収効率を向上させるために、散気する装置や条件を工夫して、気泡の微小化や発生数を増加させるなどの対策が取られてきた。しかし、発酵液に吸収されることなく無駄に循環させる気体の送風エネルギーが非常に大きな負担となる。あるいは、液体への気体資源の溶解効率を向上させることを目的として、発酵液中での気液接触面積を増やすために気泡をできるだけ小さくする特殊な散気管を利用することも知られている。しかし、微細孔を通じて気体資源を供給するには、強い供給圧力を要し、送気圧損が大きくなる課題が存在していた。また、気泡の浮上速度を抑えるため発酵液全体を非常な高速で攪拌するなどの手法でも、単に液体を攪拌するだけに大変なエネルギーが消費される問題があった。これらの理由により、気体資源を微生物を用いて資化する発酵法では、かえってエネルギーロスが大きくなるという問題が生じていた。さらに、散気吸収法では気泡界面に発酵液成分や微生物菌体が凝集して浮上したり(フローテーション)、あるいは激しい攪拌によるせん断力で微生物菌体が損傷する問題などもあった。
【0012】
特殊な散気法として、微小気泡を発酵液に利用する方法も提案されている(例えば、特開2007−312689号、特開2007−82438号)。実際には、直径(気泡径)が数10μm程度(マイクロバブル)や数100nm以下(ナノハブル)の微小気泡が利用されている。しかしこれらの公知技術においては、気泡の微小化は、単に微生物を刺激して活性化したり、発酵液の管理や処理をより容易にすることを目的としていた。微細孔を介して微小気泡を発生させるためには、送気圧を高めるためのエネルギーが必要となるが、当該目的のためにあえて微小気泡を選択している。また、仮に菌体の代謝に必要な量をすべてマイクロバブルやナノハブルといった微小気泡によって供給するには、非現実的なほど多数の微小気泡を発酵槽へ供給しなければならない。もともと気泡の体積が微小であることから、気泡当たりの気体の供給量が著しく制限されるためである。したがって、気体の微小化によって菌体に気体資源を供給することには、限界がある。
【0013】
水素や一酸化炭素など水に対する溶解度の低い気体を多孔質膜を介して、菌体に供給する発酵方法も提案されている(特開2007−83437号)。しかしこの方法は、水に対する溶解度の低い気体を多孔質膜から発酵液に一方的に供給する提案に過ぎない。現実には、気体を資化する微生物は、気体の溶解性とは無関係に、一定の割合で気体を資化する。資化される複数の気体の間に著しい溶解性の差があると、溶解性の低い気体資源が枯渇することになる。しかし単に溶解度の低い気体資源の供給を改善するだけでは、水に対する溶解度の高い二酸化炭素などの気体とともに気体資源として用いた場合に、菌体の気体消費バランスに合った気体供給を維持できない。
【0014】
特に、発酵液は水溶液であるのに対して、水素や一酸化炭素などの気体資源は水に対する溶解度が低い。例えば、気体資源より有機物を産生する代表的な絶対嫌気性菌の場合、菌の代謝に必要な二酸化炭素と水素のモル比率は1:1以上、通常1:2〜3以上である。つまり、水への溶解度が非常に高い二酸化炭素に比べて、非常に低い水素の発酵液への取り込みが、有機物産生の律速因子であった。
【0015】
また、嫌気性雰囲気を破壊する酸素の水に対する溶解度は、むしろ水素や一酸化炭素など溶解度が低い気体資源より大きい。そのため、通常の物理的な脱気手段では発酵液に気体資源を供給しながら脱酸素処理を簡単に行うことはできなかった。そこで、発酵液の嫌気性雰囲気を維持するためにシステインなどの高価な還元剤を多量に含有させなければならないなどの問題があった。
発酵液に十分量の気体資源を供給するために、次のような対策が考えられる。
*気体の供給圧力を非常に高くすることで溶解量を増加させる
*液温を低くして、水、すなわち発酵液に対する気体資源の溶解量を増加させる
しかしこのような条件は、一方で微生物の発酵を妨げる要因となる恐れがあった。また発酵液の温度を低く保つことは、酸素の溶解を助けることにもつながる。
【0016】
したがって、菌体に対する気体資源の供給課題に加えて、発酵に関わる微生物が嫌気性菌である場合、発酵液の嫌気性雰囲気を維持することが重要である。アセトバクテリウム属など絶対嫌気性菌ではかなり厳密に培養環境を管理することが必要とされている。これまで、特に絶対嫌気性菌の発酵では、次のような対策が採られていた。
*発酵槽や付帯装置を大気から隔離密封して酸素の混入を防止
*供給する気体資源は厳密に脱酸素処理する
*脱酸素剤を発酵液に添加して一定の濃度に維持する
脱酸素剤は、発酵を維持するために行う発酵槽への添加物、例えば補充培地や供給水、pH調整剤などからの酸素の混入や、発酵液自身からの酸素発生に備えて、添加される。言うまでもなく、発酵液に加えて嫌気雰囲気を維持するための脱酸素剤には、微生物毒とならない緩やかな還元剤を選択する必要がある。したがって、脱酸素剤には、例えば高価なシステインなどが用いられていた。
【0017】
また、一酸化炭素や二酸化炭素と水素を代謝して酢酸やエタノールを生成する微生物の多くは、先に述べたように嫌気性細菌であり生育系内に酸素が存在すると生育阻害される。したがって、燃焼ガスの様なかなりの酸素を含む二酸化炭素排気ガスをそのまま気体資源として用いることは望ましくない。例えば、特許4101295号では、水素と一酸化炭素を含む工場等からの廃ガスを原料として、微生物の作用で酢酸を製造する方法が記載されている。しかし現実の工場の排ガスは多かれ少なかれ無視できない量の酸素を含むため、微生物に対する気体資源としてそのまま用いることは望ましくないと言える。
このように、一酸化炭素や二酸化炭素と水素を含む気体資源を、嫌気性菌の培養液に供給しつつ、発酵液を嫌気性雰囲気に維持することを工業的に実施することは、事実上困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平01−098472号
【特許文献2】特開2003−339371号
【特許文献3】特表2004−504058号
【特許文献4】特表2000−513233号
【特許文献5】特開2007−082438号
【特許文献6】特開2007−082437号
【特許文献7】特表2007−312689号
【特許文献8】特許4101295号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】J. Biosci. Bioeng., 2005, 99, 252-258
【非特許文献2】次世代産業基盤技術研究開発制度、バイオリアクター研究開発総括報告、昭和56年度〜昭和63年度(p195−229)
【非特許文献3】遠山ら,三井造船技報,No.197(2009−6)p.23
【非特許文献4】Marcel Mulder, 吉川ら監修,"膜技術 第2版",p320-325,アイピーシー(1997))
【非特許文献5】大嶺浩,実用産業情報,29,417,2002.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、一酸化炭素、二酸化炭素、水素等の気体資源を嫌気性微生物に供給し、有機物を製造するための方法、あるいは装置の提供を課題とする。あるいは本発明は、嫌気性微生物を含む発酵液に、気体資源を供給する方法に関する。更に別の態様において、本発明は、嫌気性微生物の培養環境を維持するための方法、あるいはそのための装置を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、一酸化炭素、二酸化炭素、並びに水素を気体資源として、嫌気性微生物の代謝を利用して酢酸やエタノール等の有機物を工業的に、かつ効率的に製造できる技術を提供した。特に、気体資源である、一酸化炭素、二酸化炭素、並びに水素は、ガス化工程を経ることで化石燃料のみならず、食料とならない植物資源や有機性廃棄物などからも得ることができる。気体資源を利用して工業的に有機物を製造することができれば、これらの有機素材を、有機物の生産に利用でき、原料を多様化することができる。その結果、食料と競合しない有機素材を原料とすることができ、環境負荷の小さい有価物の生産法を実用化することができる。
【0022】
本発明においては、疎水性ガス透過膜を利用し特定の条件下で運転を行うことで、気体資源を効率良く嫌気性微生物に供給することができる。更に、本発明の好ましい態様において、菌体の育成条件である嫌気性雰囲気を発酵液に与え、維持することができる。公知の嫌気性菌の培養においては、嫌気的な雰囲気を維持するために、高価な脱酸素剤を培養液に添加する必要があった。しかし本発明においては、ガス交換膜によって、簡便に、しかも継続的に脱酸素を行うことができる。すなわち本発明は、その好ましい態様において、気体を資化する嫌気性発酵において、高い生産性と安価で安定した運転性を実現できる生産方法と、より簡便な生産装置を提供する。特に、発酵液が水溶液である場合、水に対する溶解度の低い気体資源を、より小さいエネルギーで供給することが可能となった。また本発明においては、菌体を損傷する心配のある強いせん断圧力を発酵液に与える必要も無い。
本発明において、嫌気性微生物に供給する二酸化炭素として、これまで大気中に排出されてきた二酸化酸素を利用することで、大気中に排出される二酸化炭素の削減が可能となった。
【0023】
嫌気性微生物による有機物の製造方法は、大気放出されてきた二酸化炭素を炭素源としてほぼ常温かつ常圧で有価物としての有機物の製造を実現する。また、微生物発酵では、菌体内反応に高温や高圧を必要としないので、エネルギー効率に優れた有機物の合成方法を実現することができる。更に、化学合成に必要なレアメタルなどの触媒を必要としないので、使用する原材料においても環境負荷の低い方法といえる。
【0024】
更に、本発明においては、気体資源はガス透過膜を介して水性媒体(発酵液)に供給される。微生物はガス透過膜を通過できないので、気体資源を予め無菌処理する必要が無い。本発明においては、気相側でガスの循環や補充、脱酸素や水蒸気などの添加といった、様々な付加工程を組み合わせることができる。これらの一連の付加的な処理を行った場合であっても、気相は常に水性媒体(発酵液)とガス透過膜で隔てられていて、液相側は無菌的に維持される。また気相側で付加的な工程において使用する脱酸素剤などの成分も、水性媒体に持ち込まれることがないため、幅広い成分を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に基づく有機物の製造用装置の基本的な構成を示す図である。
【図2】嫌気性微生物による気体資源の資化を利用して有機物を製造するための代表的な公知の装置の構成を示す図である。
【図3】本実施形態の嫌気性微生物による、気体資源を用いる有機物生産装置の構成の一例を示すプロセスフロー図である。気体供給装置(104)において、疎水性のガス透過膜(104a)を介して発酵液(102)と気相部(104b)の界面が形成されガス交換が行われる。
【図4】本実施形態の嫌気性微生物による、気体資源を用いる有機物生産装置の構成の別の一例を示すプロセスフロー図である。図3に示された気体供給装置のガス循環回路内に酸素吸収手段が付加されている。気相部(104b)を構成するガスが、ガス循環回路内に配置された脱酸素剤(112;好ましくは液状)と接触し、酸素が吸収される。図中の破線は気体資源(101)及び気体供給バルブ(110d)を接続できる場所を示す。
【図5】本実施形態の嫌気性微生物による、気体資源を用いる有機物生産装置の構成の別の一例を示すプロセスフロー図である。図4に示す態様に、発酵槽(103)を接続した例を示す。発酵槽(103)には、撹拌機(113)や各種センサー類(114)等を付加することができる。図中、破線は、発酵液入りバルブ(110b)及び供給液(102d)を接続できる場所を示す。
【図6】本実施形態の嫌気性微生物による、気体資源を用いる有機物生産装置の構成の別の一例を示すプロセスフロー図である。図5の態様における発酵槽(103)と気体供給装置(104)の間に、ろ過装置(106)を設けた例である。ろ過装置(106)内のろ過膜(106a)によって、発酵槽(103)内の発酵液(102)から、微生物菌体が除かれたろ過液(102b)を取り出し、気体供給装置(104)に供給される。図中の破線は、戻り液調整バルブ(110l)を接続できる場所を示す。
【図7】本実施形態の嫌気性微生物による、気体資源を用いる有機物生産装置の構成の別の一例を示すプロセスフロー図である。図6に示された態様において、ろ過装置(106)と気体供給装置(104)の間に、更に有機物の抽出装置(107)を追加した例を示す。抽出装置(107)には有機物抽出用の溶媒が供給されて、発酵液に蓄積された有機物が抽出される。そして、有機物を抽出した溶媒は、有機物分離装置(108)に移送され、有機物が溶媒から分離される。図中の破線は、戻り液調整バルブ(110l)を接続できる場所を示す。
【図8】本実施形態の嫌気性微生物による、気体資源を用いる有機物生産装置の構成の別の一例を示すプロセスフロー図である。図3に示した気体供給装置(104)に、水素回収装置(111)を組み合わせた例を示す。水素回収装置(111)は水素分離膜(111a)を備え、気相内の水素を選択的に分離して、水素を回収した気体資源(101c)として再び気相部(104b)に戻される。図中の破線は、気体資源(101)と気体供給バルブ(110d)を接続できる場所を示す。
【図9】本実施形態の嫌気性微生物による、気体資源を用いる有機物生産装置の構成の別の一例を示すプロセスフロー図である。発酵槽(103)、ろ過装置(106)、および気体供給装置(104)を含む、本発明による有機物製造装置の基本的な構成を示す。図中の破線は、戻り液調整バルブ(110l)を接続できる場所を示す。
【符号の説明】
【0026】
有機物生産装置:100
気体資源:101
気体供給装置処理後の気体資源:101a
廃棄気体資源:101b
水素を回収した気体資源:101c
水素が回収された残渣の気体資源:101d
発酵液:102
気体供給装置処理後の発酵液:102a
ろ過液:102b
濃縮液:102c
供給液:102d
抽出処理後のろ過液:102d
発酵槽:103
発酵槽の液相部:103a
発酵槽の気相部:103b
気体供給装置:104
疎水性のガス透過膜:104a
気体供給装置の気相部:104b
気体供給装置の液相部:104c
気相バッファタンク:105
ろ過装置:106
ろ過膜:106a
抽出装置:107
有機物分離装置:108
発酵液供給ポンブ:109a
気体循環ポンブ:109b
ろ過液供給ポンブ:109c
抽出残液供給ポンブ:109d
抽出液送液ポンプ:109e
発酵液循環バルブ:110a
発酵液入りバルブ:110b
発酵液出バルブ:110c
気体供給バルブ:110d
廃棄気体バルブ:110e
発酵液調整バルブ:110f
気体廃棄バルブ:110g
発酵液取り出しバルブ:110h
濃縮液バルブ:110i
ろ液液取り出しバルブ:110j
有機物生産装置:200
循環気体調整バルブ:110k
戻り液調整バルブ:110l
水素が回収された残渣の気体廃棄バルプ:110m
ろ過液循環バルブ:110n
水素回収装置:111
水素分離膜:111a
脱酸素剤:112
攪拌機:113
各種センサー類:114
微生物により産生された有機物を含んだ抽出液:115
微生物により産生された有機物:116
抽出液:117
有機物生産装置:300
有機物生産装置:400
有機物生産装置:500
有機物生産装置:600
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明者らは、気体資源を資化して有機物を与える嫌気性微生物によって、低コストで効率的に有機物を得るには、培養液への気体資源の供給が課題であることに着目した。具体的には、散気吸収法などの従来の方法では、例えば水素や一酸化炭素などの水に溶解しにくい気体資源の供給が制限される。
【0028】
一方、液体へ気体を吸収させる処理、あるいは逆に液体から気体を除去する脱気処理、すなわち液体と気体間で物質移動(気体吸収、脱離)を行わせる手段として、「膜コンタクタ」と称される方法も知られている。これは、膜を介して液−液,気−液間で物質(気体分子)を移動あるいは、分離する方法である。例えば、代表的な膜を介したガス吸収を行わせる手法として、人工肺と称される血液酸素富化法が知られている。「膜コンタクタ」は、膜を介して気液の接触が行われる点で、気体と液体を直接接触させる、一般的な散気吸収法やガス吸収塔などとは異なる方法である。
【0029】
例えば、人工肺に用いられている非多孔膜は、ガス透過膜である。人口肺は、人体から取り出した血液に、非多孔膜を介して気体を接触させ、血液に酸素を吸収させた後、再び体内へ戻すことで肺機能を一時的に代替または補助することができる。非多孔膜は、シリコーンなど酸素透過性に富んだガス透過膜からなる。ガス透過膜からなる人口肺においては、気体(空気または酸素ガス)で血液をバブリングさせる代わりに、ガス透過膜を介して酸素を供給する。この場合、バブリング法と異なり、液体と気体が直接接触しないため赤血球などの血液成分に損傷を与え難いといった利点があるものの、気体が一度膜素材内部に溶解して、膜の両側における気体の分圧差に応じて非多孔膜内を拡散するため、膜の機械的強度が保持できる範囲内で、膜厚を薄くしても十分な量の気体を膜透過させることができない問題があった。
【0030】
一方、疎水性微多孔膜に対し、血液などの水溶液が毛管圧現象により微多孔部に浸透できないことを利用して、多孔膜により維持された気相と液相との気液界面を直接形成させる「膜コンタクタ」も公知である。この種の「膜コンタクタ」においては、両者間に含まれる成分の分圧差により、気体成分のガス交換を行わせる。例えば人工肺用途の場合、血液は酸素の溶解性が高く、ヘモグロビンの様に選択的に酸素吸収を行う成分も含む。そのため血液は、容易に気相(空気または酸素ガス)より酸素を吸収する。また一方で人工肺処理前の血液は酸素濃度が低く、二酸化炭素濃度が高いため、例えば若干の二酸化炭素を含み、酸素濃度がそれほど高くない空気そのものを気相に用いても、血中の二酸化炭素は容易に気相に分散する。その結果、膜を介して、酸素を血液中へ、二酸化炭素を気体中へ吸収させることを、容易に行うことができた。この場合、気液界面が膜の微孔により維持されているため、散気吸収法やガス吸収塔などに比べて、多量の微小気泡が液相に生ずることも無く、気液相の混在も生じないなどの利点があった。
【0031】
また、気―液型の「膜コンタクタ」は、液相に気体成分を選択的に取り込む吸収剤を溶解することで、気相からの有用な成分を液相に取り込むことを選択的かつ容易にすることもできる。例えば、液相に特殊なエチレンのキャリヤー化合物を溶解させることで、気体のエタンとエチレンを分離する手法なども提案されてきた(Marcel Mulder, 吉川ら監修,"膜技術 第2版",p320-325,アイピーシー(1997))。
【0032】
一方、上記の「膜コンタクタ」は、医療や食品、電子工業などにおいて用いられる液体、特に水の脱気やガス溶解処理にも用いられている。脱気は、気相側に水への溶解度の低い気体をスイープガスとして流したり、気相側を減圧することで、水などの液体に溶解した気体を液体から除去する。水においては、特に溶解度の高い酸素や二酸化炭素を水蒸気とともに除去するのが主な目的である。逆にガス溶解処理は、例えば気相に水に対する溶解度の高い二酸化炭素を供給して液相側の水に吸収させることで、炭酸水を製造する方法として用いられている(大嶺浩,実用産業情報,29,417,2002.)。
【0033】
脱気にしろガス溶解にしろ、いずれもポリエチレンやポリプロピレンなど疎水性高分子からなる微多孔膜(Micro porous membrane)が用いられることが多い。具体的には、セルガード社のLiqui−Cel (登録商標)やDIC社のSEPAREL(登録商標)などが知られている。ただし、DIC社のSEPAREL(登録商標)の場合は、疎水性微多孔膜の表面に極薄い皮膜があるため、直接気液界面は形成されておらず、気体成分はその皮膜に溶解拡散することで両相間を移動するとされている。
【0034】
しかし公知の脱気やガス溶解処理においては、いずれも液相における溶解度の高い気体を処理の対象としていた。また、ガス溶解処理においては、気相に供給する気体の価値が液体より極めて低いことから、液相に吸収しきれなかった気体成分や、液体から気体側に吸収された不要な成分を含む、処理後の気相ガスは利用価値が低く、通常はそのまま廃棄されて再利用されることは無かった。また、スイープガスを用いた場合は、その分圧差分だけ液相にスイープガスが吸収されため、不要な成分が液相に溶解してしまう問題もあった。
更に、液体が水溶液の場合は、気相に水蒸気が含まれないと、かなりの量の水が水蒸気として気相に流出していた。気体以外の揮発成分が液体に含まれる場合には、水蒸気と同様に気相に揮発成分が流出したりしてしまうが、これらも廃棄するしかなかった。
【0035】
以上のように、ガス透過性の膜を介したガス溶解法においても、公知の方法では、溶解度の違うガスを適切なバランスで供給する方法は知られていない。あるいは、嫌気的雰囲気を維持するための簡便な方法が提供されていないために、嫌気性微生物の工業的な利用そのものが制限されていた。本発明者らは、ガス交換膜を介して培養液と気体資源を接触させて、気体資源の培養液への供給と嫌気的雰囲気の構築と維持を容易に実現しうる条件を見出して本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の有機物の製造方法、並びにそのための装置を提供する。
【0036】
〔1〕(1) H2および、(2) CO2およびCOのいずれか、または両方を資化して有機物を生成する嫌気性微生物を水性媒体中で嫌気培養し、前記水性媒体中に蓄積する微生物によって資化された有機物を前記水性媒体から回収する有機物の製造方法であって、以下の工程を含む方法;
(a) 前記水性媒体と、H2、CO2、およびCOの少なくとも1つのガスを含む気相とを前記ガスの透過を許容するガス透過膜を介して接触させて、前記水性媒体と気相との間でガス交換が行われる界面を形成する工程、
(b) (a)の界面において、前記気相におけるH2、CO2、およびCO並びに0の各分圧をそれぞれa1,a2,a3並びにa4とし、水性媒体に含まれる前記気体の有する圧力をb1,b2,b3並びにb4とした時、気相側の分圧を、a1>b1,a2>b2,a3>b3、かつa4<b4に維持して、(a)の界面から前記気相のガスを前記水性媒体に吸収させ、かつ前記水性媒体中の酸素を前記気相に分散させる工程、および
(c) 前記水性媒体中に蓄積される資化有機物を前記水性媒体から回収する工程。
〔2〕ガス透過膜が疎水性素材で構成されたガス透過膜である〔1〕に記載の方法。
〔3〕疎水性素材が、ポリエチレン/PE、ポリプロピレン/PP、ポリテトラフルオロエチレン/PTFE、ポリ-4メチルペンテン1、およびシリコーンゴムからなる群から選択されるいずれかの素材、またはそれらの複合材料である〔2〕に記載の方法。
〔4〕疎水性素材が、ポリエチレン/PE、ポリプロピレン/PP、およびポリテトラフルオロエチレン/PTFEからなる群から選択されるいずれかの素材、またはそれらの複合材料からなり、当該疎水性素材、またはそれらの複合材料からなるガス透過膜が微多孔膜である〔3〕に記載の方法。
〔5〕気相がO2を除去されたガスで構成される〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕気相を構成するガスのO2分圧を3kPa以下に維持する工程を付加的に含む〔1〕−〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕気相を構成するガスが、(1)H2および、(2)CO2およびCOのいずれか、または両方を含み、ガスに占める(1)H2の割合(モル比)が、(2)CO2およびCOの合計と等しいか、またはそれ以上である〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕気相を構成するガスをガス回路内で循環させる工程を付加的に含む〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕気相を構成するガスが循環するガス回路内において、ガス回路中のガスからO2を除去する工程を含む〔8〕に記載の方法。
〔10〕O2を除去する工程が、ガス回路内で気相を構成するガスとO2吸収剤を接触させる工程である〔9〕に記載の方法。
〔11〕気相を構成するガスが循環するガス回路内において、ガス回路内のガスからH2を回収し、回収されたH2を再びガス回路内に循環させるとともに、回収できなかった残存ガスを廃棄する工程を付加的に含む〔8〕−〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕気相を構成するガスが循環するガス回路内において、気相を構成するガスにH2、CO2、およびCOからなる群から選択された少なくとも1つのガスを新たに供給する工程を付加的に含む〔8〕−〔11〕のいずれかに記載の方法。
〔13〕前記水性媒体が揮発成分を含み、気相を構成するガスが循環するガス回路内において、気相を構成するガスの前記揮発成分の分圧を、液相と等しく保つ工程を含む〔8〕−〔12〕のいずれかに記載の方法。
〔14〕揮発成分が水であり、気相を構成するガスの水分圧を液相と等しく保つ〔13〕に記載の方法。
〔15〕嫌気性微生物を含む水性媒体が前記水性媒体の透過を許容するろ過膜で区画されており、前記嫌気性微生物菌体を区画内に保持し、前記ろ過膜を透過した水性媒体を前記ガス透過膜を介して気相と接触させる〔1〕−〔4〕に記載の方法。
〔16〕ろ過膜が、ミクロフィルターまたは限外ろ過膜である〔15〕に記載の方法。
〔17〕前記水性媒体を水性媒体回路内で循環させる工程を付加的に含み、該水性媒体回路内において、前記ガス透過膜を介してろ過液と気相とを接触させ、気相と接触したろ過液を、ろ過膜に保持された嫌気性微生物に戻す〔15〕または〔16〕に記載の方法。
〔18〕嫌気性微生物を含む水性媒体が、嫌気性微生物を含んだままガス透過膜に接触する〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔19〕前記ガス透過膜が該ガス透過膜を外壁とする中空糸であり、該中空糸の内部にガスを、中空糸の外部に水性媒体を配置する〔1〕−〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔20〕中空糸の内部のガスを移動させるとともに、中空糸の外部の水性媒体も移動させ、かつ両者の移動方向を対向させる〔19〕に記載の方法。
〔21〕中空糸の外部を流れる水性媒体に乱流を与える〔19〕または〔20〕に記載の方法。
〔22〕以下の構成要素を含む、(1)H2および、(2) CO2およびCOのいずれか、または両方を資化して有機物を生成する嫌気性微生物を水性媒体中で嫌気培養し、前記水性媒体中に有機物を生成するための有機物の製造装置;
(1) H2、CO2、およびCOの少なくとも1つのガスを含む気相とを前記ガスの透過を許容するガス透過膜であって、該ガス透過膜を介して一方に水性媒体を、他方に気相を配置したときに、両者の間でガス交換が行われる界面を形成するガス透過膜、
(2) (1)のガス透過膜と接続され、H2、CO2、およびCOの少なくとも1つのガスを含む気相を構成するガスを循環させるガス回路、および
(3) (1)のガス透過膜と接続され、水性媒体を循環させる水性媒体回路。
〔23〕ガス透過膜が疎水性素材で構成されたガス透過膜である〔22〕に記載の装置。
〔24〕疎水性素材が、ポリエチレン/PE、ポリプロピレン/PP、ポリテトラフルオロエチレン/PTFE、ポリ-4メチルペンテン1、およびシリコーンゴムからなる群から選択されるいずれかの素材、またはそれらの複合材料である〔23〕に記載の装置。
〔25〕前記ガス透過膜が該ガス透過膜を外壁とする中空糸であり、該中空糸の内部にガスを、中空糸の外部に水性媒体を配置する〔22〕−〔24〕のいずれかに記載の装置。
〔26〕複数の前記中空糸がカラムに充填され、該カラムに前記水性媒体が循環する〔25〕に記載の装置。
〔27〕前記中空糸の内部を循環するガスと、外部を循環する水性媒体の循環方向を対向させる〔25〕または〔26〕に記載の装置。
〔28〕ガス循環回路中に、酸素吸収剤が配置された〔22〕−〔27〕のいずれかに記載の装置
〔29〕酸素吸収剤が、液体である〔28〕に記載の装置。
〔30〕ガス循環回路中に、水素の回収手段を付加的に含み、該水素回収手段によってガス循環回路中のガスから回収した水素を、再度、ガス循環回路に循環させるとともに、回収できなかった残存ガスを廃棄する〔22〕−〔29〕のいずれかに記載の装置。
〔31〕(3)の水性媒体回路中に配置され、前記水性媒体の透過は許容するろ過膜で区画された前記嫌気性微生物菌体を保持する微生物保持区画を付加的に含む〔22〕−〔30〕のいずれかに記載の装置。
〔32〕ろ過膜を介して微生物保持区画から回収された水性媒体から、水性媒体中に蓄積された前記微生物によって資化された有機物を回収する有機物抽出手段を水性媒体回路の中に付加的に有する〔31〕に記載の装置。
【0037】
本発明は、(1) H2並びに、(2) CO2およびCOのいずれか、または両方を資化して有機物を生成する嫌気性微生物を水性媒体中で嫌気培養し、前記水性媒体中に蓄積する微生物によって資化された有機物を前記水性媒体から回収する有機物の製造方法であって、以下の工程を含む方法に関する。
(a) 前記水性媒体と、H2、CO2、およびCOの少なくとも1つのガスを含む気相とを前記ガスの透過を許容するガス透過膜を介して接触させて、前記水性媒体と気相との間でガス交換が行われる界面を形成する工程、
(b) (a)の界面において、前記気相におけるH2、CO2、およびCO並びに0の各分圧をそれぞれa1,a2,a3並びにa4とし、水性媒体に含まれる前記気体の有する圧力をb1,b2,b3並びにb4とした時、気相側の分圧を、a1>b1,a2>b2,a3>b3、かつa4<b4に維持して、(a)の界面から前記気相のガスを前記水性媒体に吸収させ、かつ前記水性媒体中の酸素を前記気相に分散させる工程、および
(c) 前記水性媒体中に蓄積される資化有機物を前記水性媒体から回収する工程。
【0038】
本発明においては、気体資源を資化しうる微生物として、(1) H2並びに、(2) CO2およびCOのいずれか、または両方を資化して有機物を生成する嫌気性微生物が利用される。例えば、以下のような資化性を備えた嫌気性微生物が公知である。
(1) H2+(2) CO2 →[有機物]
(1) H2+(2) CO →[有機物]
(1) H2+(2) CO2およびCO →[有機物]
したがって、上記の資化性を有する微生物は、これらの気体資源を資化して目的とする有機物を生成する限り、任意の嫌気性微生物を本発明に利用することができる。一方、本発明における水性媒体は、嫌気性微生物を含む任意の水性媒体であることができる。微生物の活動を利用して有機物を製造する本発明においては、水性媒体は、通常、微生物の生育及び菌体の維持に必要な成分を含む培養液である。生育とは微生物の増殖と同義である。一方、菌体の維持とは、嫌気性微生物が生存を継続して目的とする有機物を産生する活性を維持することを意味する。
【0039】
嫌気性微生物の発酵によって有機物を生成することから、本発明においては、培養液は発酵液とも言う。嫌気性微生物を含む培養液は、嫌気性微生物が分散した状態で後に述べる気液界面に直接接触することができる。あるいは、嫌気性微生物菌体が透過できない膜内に菌体を保持し、培養液にのみ気液界面との接触を許容することもできる。更に、嫌気性微生物を、菌体が透過しない限外ろ過膜や半透膜内に保持し、これらの膜を透過するガス吸収性の液体を本発明における水性媒体とすることもできる。水性媒体は、後に述べる気液界面の間で、嫌気性微生物に供給すべき気体資源、あるいは嫌気性微生物の生存環境(すなわち半透膜の内部)から除去すべき気体成分を運搬する。このとき、嫌気性微生物の生存のための培地成分のうち、半透膜を透過しない分子量の大きな成分は、半透膜内部に嫌気性微生物とともに保持される。
【0040】
本発明の有機物の製造方法は、(a)上記の嫌気性微生物を含む水性媒体と、H2、CO2、およびCOの少なくとも1つのガスを含む気相とを前記ガスの透過を許容するガス透過膜を介して接触させて、前記水性媒体と気相との間でガス交換が行われる界面を形成する工程を含む。水性媒体と気相との界面は、界面を介してガス交換が行われる限り、両者が直接接触する態様のみならず、あるいはガス交換膜を介して間接的に接触している場合も含む。
【0041】
ガス交換が行われる界面は、例えば、疎水性素材(hydrophobic materials)で構成されたガス透過膜(gas permeable membrane.)を利用することによって形成することができる。ガス透過膜を構成する疎水性素材としては、ポリエチレン/PE、ポリプロピレン/PP、ポリテトラフルオロエチレン/PTFE、ポリ-4メチルペンテン1、およびシリコーンゴムからなる群から選択されるいずれかの素材、またはそれらの複合材料を挙げることができる。これらの疎水性素材には、ガスが透過する開口部を持つ素材と、開口部ではなくガスの浸透と拡散によってガスを透過させる素材が含まれる。例えばシリコーンゴムなどは、開口部を持たず浸透によってガスを透過させる素材である。本発明における好ましいガス透過膜は、膜表面に開口部を備えたガス透過膜である。開口部を備える疎水性素材としては、ポリエチレン/PE、ポリプロピレン/PP、およびポリテトラフルオロエチレン/PTFEからなる群から選択されるいずれかの素材、またはそれらの複合材料を挙げることができる。これらのガス透過膜は、膜の内部に開口部を有する限り、その両面あるいは片面が、ガス透過性の素材の薄膜で覆われたものであることもできる。
【0042】
本発明において、多孔性のガス交換膜のポアサイズは、少なくとも気体資源が通過できる大きさであり、他方で嫌気性微生物を保持する水性媒体が当該ガス交換膜に接触したときに表面張力によって物理的に界面を維持することができる大きさを越えなければ、任意の大きさとすることができる。より具体的には、平均ポワサイズとして、通常0.0005μm〜5μm、好ましくは0.01μm〜1μm、より好ましくは0.01μm〜0.5μmである。本発明に用いる多孔性ガス交換膜のガス交換能力は、ポアサイズのみならず、空隙率の影響も受ける。一般に、空隙率が大きいほど、ガス交換能力は高まる。一方で、膜素材の体積が減るため、膜の強度が低下する傾向がある。したがって、利用環境において膜の物理的な構造が維持できる範囲で、空隙率の高い膜素材を利用するのが有利である。空隙率とは、膜全体の体積に対する開口部の割合(体積比)を言う。商業的に供給されているガス交換膜として利用可能な多孔性膜は、いずれも本発明に利用することができる。本発明における好ましい多孔性膜の空隙率は、例えば10〜90%、通常15〜70%、好ましくは20〜50%、より好ましくは25〜40%である。
【0043】
本発明の方法は、前記工程(a)に加えて、(b) (a)の界面において、前記気相におけるH2、CO2、およびCO並びに0の各分圧をそれぞれa1,a2,a3並びにa4とし、水性媒体に含まれる前記気体の有する圧力をb1,b2,b3並びにb4とした時、気相側の分圧を、a1>b1,a2>b2,a3>b3、かつa4<b4に維持して、(a)の界面から前記気相のガスを前記水性媒体に吸収させ、かつ前記水性媒体中の酸素を前記気相に分散させる工程を含む。既に述べたように、嫌気性微生物が有機物を生成するために要求するH2、CO2、COなどの気体資源、あるいは嫌気性微生物の生存環境から除去すべき0の水性媒体に対する溶解度は、それぞれ異なる。具体的には、CO2や0が水性媒体に溶解しやすいのに対して、H2は極めて溶解性が低い。このようなまちまちの溶解特性を有する気体資源の供給と、水性媒体から0の除去を両立させるためには、本発明によって規定される条件が必要である。本発明によって規定される各条件は、次のようにまとめることができる。
気相側 液相側
H2分圧 (a1) > H2分圧 (b1)
CO2分圧 (a2) > CO2分圧 (b2)
CO分圧 (a3) > CO分圧 (b3)、かつ
O2分圧 (a4) < O2分圧 (b4)
ただし、気相側と液相側のガス分圧は、微生物の活動に伴って、通常、連続的に変化する。したがって、上記条件を維持する中で、一時的に気相側と液相側が同気体で等分圧になる状態も起こりえる。しかし、気相と液相のガス分圧を監視し、必要な条件の維持に努めれば、例外的に上記の条件を外れる状況は一過性である。したがって、このような一時的な条件の乱れは、許容される。
【0044】
以上の条件を維持することによって、気体資源H2、CO2、およびCOは、常に気相側から液相側に供給される一方、0は水性媒体から気相側に吸収される。水性媒体を嫌気性微生物の活動に好適な環境に維持するためには、水性媒体中の酸素濃度を例えば2.0ppm以下、好ましくは0.5ppm以下、より好ましくは0.1ppm程度に維持するのが望ましい。一般に、有機物の産生に適した嫌気性微生物は、酸素濃度を0.1ppm以下に保つことにより、菌体は安全に維持され、有機物の生成に酸素が与える影響も無視しうる。25℃における純水中のO2濃度0.1ppmが、O2分圧約250Paに相当する。したがって、液相の温度が25−35℃の場合、気相を構成するガスにおけるO2分圧(a4)は、通常300Pa以下、例えば250Pa以下であることが望ましい。本発明において、O2分圧(a4)は、通常300Pa以下、例えば250Pa以下に維持するとは、気相の、O2分圧が基準とする値を越えた場合に速やかに基準以下に下げる場合を含む。したがって、一時的に気相のO2分圧が基準を超えることがあっても、後に述べるように酸素吸収手段などの作用によって速やかに基準以下とされた場合には、O2分圧が維持されたと見なされる。このような条件を、本発明においては、「実質的に酸素が除去された状態」と定義することができる。
【0045】
水性媒体中の気体の量と圧力(分圧; partial pressure)について、具体的に説明する。一般に、水性媒体への気体の溶解は、純水に対する挙動と同一と見なされるため、水性媒体と気相との界面における水性媒体への気体の溶解は、ヘンリー則(Henry’s low)に従うと仮定できる。すなわち、水性媒体に含まれる気体の各成分の重量分率を、wi (w1, w2, w3, w4, ......)とすると、「水性媒体に含まれる気体の有する圧力」bi (b1, b2, b3, b4, ......)は、下記式(1)で表すことができる。
〔数1〕
bi = Mo・Ki・wi/Mi ( i =1, 2, 3, 4,・・・・) (式1)
ここで、Kiはi番目の気体成分のヘンリー定数である。各気体のヘンリー定数、化学便覧改定5版基礎編(丸善株式会社)II-144に記載された水へのi番目の気体の温度Tにおける溶解度の値から決定できる定数である。また、式中のMiは、i番目の気体成分の分子量、Moは水の分子量である。
【0046】
水性媒体における当該気体の分圧:biと気相の分圧:aiの差圧:Δpiがあるとき、気体(i)は、ヘンリー式(式2)にしたがって、分圧の高い方から低い方に移動し、平衡状態(すなわち分圧が等しい状態)となる。具体的には、液相(水性媒体)の分圧が低いときは、気体は、気相から液相(水性媒体)に吸収されて、平衡状態となる。あるいは逆に気相側の分圧が低いときは、平衡状態となるまで、気体が液相から気相へ分散する。
〔数2〕
ai = Ki・(Mi/Mo)・wi(ai) ・・・(2-1)
bi = Ki・(Mi/Mo)・wi(bi) ・・・(2-2)
式中、wi(ai), wi(bi)は、圧力aiおよびbiにおけるi番目の気体成分の重量分率である。
【0047】
更に、各気体の差圧:Δpiが式3によって以下のように導かれる。
〔数3〕
Δpi = ai - bi = Ki・(Mi/Mo)・Δwi ・・・(3)
ここで、Δwiは平衡に達するまでの吸収量(正の値の場合)、または分散量(負の値の場合)である。
【0048】
ただし、本発明においては、ガス透過膜から水性媒体へのガスの浸出を防ぐのが望ましいため、Σai−Σbiの値:ΔPを水性媒体のガス透過膜に対する毛管圧以下とするのが好ましい。更に、ΔPが大きすぎると、ガス透過膜が圧力によって物理的に破壊される心配が生じるため、一定の範囲に維持するのが望ましい。したがって、例えば、ガス透過膜としてポリプロピレン/PP製の多孔性膜を用い、30℃でガス交換を行う場合、ΔPは、通常0.6MPa以下、望ましくは0.3MPa以下、より望ましくは0.1MPa以下とすることができる。PP以外のガス透過膜を利用する場合も、同程度の条件が望ましい。ΔPは、膜の強度や本発明を実施する温度条件を考慮して、適切な条件を設定することができる。
【0049】
なお、気相側の全圧:P(total pressure)は、気相を構成するガスの各分圧の総和で決定される。本発明においては、水性媒体に供給すべきガスである、H2、CO2、およびCOが正圧、逆に液相から吸収すべきガスであるO2が負圧となる。したがって、水性媒体へのガスの漏出やガス透過膜の物理的な破壊を防ぐためには、気相を構成するガスの分圧の総和を考慮して、各ガスの分圧を制御するのが望ましい。
【0050】
以上のような条件の下で、ガス透過膜を介して水性媒体と気相とを接触させることによって、前記界面を介してガス交換が行われる。各ガスの気相から液相への吸収、あるいは液相から気相への分散は、各ガスの差圧が0(平衡状態)となるまで連続的に起きる。各ガスの差圧、吸収や分散の速度は一定ではない。例えば、水性媒体への溶解度が高いCO2が容易に平衡状態に達するのに対して、溶解度が低いH2が平衡状態に達するのには時間がかかることが多い。いずれにせよ、各ガスの特徴に応じて、気相における各ガスの成分を調節することによって、連続的にガス交換は行われ、水性媒体中の各ガスの組成を理想的な状態に維持することができる。
【0051】
本発明においては、嫌気性微生物の活動により、基質ガスが資化されて有機物が生成する。したがって、有機物の生成に応じて基質ガスが消費され、水性媒体中の基質ガス濃度が低下する。そのため、本発明における気相側のガスは、その分圧をモニタリングし一定の範囲に維持することが望ましい。気相のガス分圧は、例えば公知のガスセンサーを利用してモニタリングすることができる。同様に、水性媒体中のガス分圧も、モニタリングすることができる。モニタリングの結果、気相あるいは液相中でH2、CO2、あるいはCO分圧の低下が検出されたときに、気相側の当該ガスを補充してその分圧を上昇させ、水性媒体への供給量を増やすことができる。
【0052】
先に述べたように、CO2と比べるとH2の水性媒体への溶解度は低い。したがって、気相側のガス組成は、H2の割合を高くしておくのが好ましい。具体的には、ガスに占める(1)H2の割合(モル比)を、(2)CO2およびCOの合計よりも高く維持するのが好ましい。より具体的には、(1)H2の割合(モル比)を、(2)CO2およびCOの合計の等倍、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上とすることができる。なお炭素源として水性媒体に供給されるCO2およびCOは、有機物を生産する嫌気性微生物の資化性に応じて選択することができる。例えば、用いる嫌気性微生物が、CO資化性であるとしても、CO2単独で十分な有機物の生産能力を示す場合には、必ずしもCOを供給する必要はない。あるいは、CO2とCOの両方を与えることで有機物の生産量が向上する場合には、両方を供給することもできる。
【0053】
本発明において、ガス交換は、気液界面において局所的に行われる。したがって、気相全体の平均分圧では、液相よりも高い分圧が維持されるとしても、界面付近の分圧が局所的に平衡に達すると、ガス交換が一時的に停止する。しかし気相内のガス濃度の偏りは、気相全体の平均分圧が平衡に達するまで、平衡と拡散を繰り返して、いずれ解消される。しかし、気相を占めるガスを積極的に循環させれば、気相内のガス分圧の偏りを防止することができる。気相中の各ガス成分の分圧をモニタリングし、調節することで水性媒体中のガス環境を維持する場合にも、気相を循環させるのが好ましい。循環させることにより、気相中のガスが均質化され、水性媒体との間のガス交換を効率的に行うことができる。本発明において、気相を構成するガスは、外気から遮断されたガス回路内で循環させることができる。
あるいは、気液界面で水性媒体とのガス交換を終えた混合ガスは、そのまま排気することもできる。排気は、連続的に行うこともできるし、所定の時間毎に新しい混合ガスと置換するバッチ処理によって廃棄することもできる。
【0054】
ガス濃度の偏りは、ガス回路内のみならず、水性媒体中でも起こりうる。すなわち、気相側との界面に近いところでは、ガスの分圧が気相のガスと平衡状態に達したとしても、界面から離れて位置においては、平衡には達していないかもしれない。したがって、本発明においては、気相側と同様に、水性媒体も循環させることが好ましい。水性媒体も循環させる場合、水性媒体の循環方向と、気相の循環方向を対向させることによって、相対的な循環速度を向上させることができる。循環速度の向上は、ガス交換効率の向上に貢献する。更に水性媒体および気体に乱流を加えれば、更にガス交換効率の向上が期待できる。特に、拡散がより遅い水性媒体に乱流を発生させることは、特に好ましい。乱流とは、非一方向流とも呼ばれ、水性媒体が経時的に不規則な運動を示すことを言う。好ましい乱流は、水性媒体が、大きさや回転方向が異なる細かい渦を形成する。例えば、水性媒体の流れ方向に邪魔板や障害物を配置したり、ガス透過膜が中空糸状であれば中空糸に直交する流れを作ることで中空糸そのものを流れを乱す障害物にでき、乱流を発生させることができる。
【0055】
例えば、ガス交換膜で構成されたガス交換用モジュールが商業的に供給されている。商業的に供給されているガス交換モジュールは、ガス交換膜からなる中空糸を束ねたものがカラムの中に充填されている。中空糸を束ねた構造とすることによって、ガス交換が可能な有効面積を大きくできる。ガス交換モジュールにおける中空糸の内部空間と外部空間は、中空糸表面を介してのみ連絡される。中空糸のいずれかの側に存在する媒体と、他方に存在する媒体の間で、中空糸表面を介してガス交換が行われる。通常、これらのガス交換モジュールは、液体媒体からの脱気などの一方向のガス交換に利用されることが多かった。しかし本発明においては、原料となる気体資源の供給と、水性媒体中の酸素などの除去という2方向性のガス交換を行うことで、嫌気性微生物による有機物の効率的な製造を実現できることを見出した。
単に液相にガスを供給するためには、膜コンタクタにおける気相側の圧力を高めれば、目的を達成することができた。あるいは逆に、液相からガスを除去する場合には気相側の気圧を低く保てばよい。しかし、2方向性のガス交換を行うためには、単なる気圧の制御ではなく、気相を構成するガスの分圧を制御しなければならない。1つのガス透過膜を利用して2方向性のガス交換を実現したことによって、本発明は、従来にない、まったく新しい培養環境の制御方法を実現した。言い換えれば、水性媒体への気体資源の供給と、同じ水性媒体からの酸素(O2)の除去を、1つの共通のガス透過膜を介して実現したことが本発明の大きな特徴である。このような2方向性のガス交換を行うために、単なる全圧の制御ではなく、供給のためのガスと、除去すべきガスの分圧を個別に制御するというガス交換の原理を、嫌気性微生物の培養環境に応用した点で、本発明は、周知の培養技術と大きく異なる。
【0056】
ガス交換用モジュールを本発明に利用する場合、通常、中空糸の内側を気相とし、外側に水性媒体を配置することができる。あるいは逆に、中空糸の内側に水性媒体を、外側に気相を配置することもできる。そして、両者の循環方向を対向させることで、両者のガス交換効率の向上が期待できる。嫌気性微生物を含む水性媒体を保持する培養槽から、水性媒体の一部を抜き取り、ガス交換モジュールに供給することで、ガス交換を行うことができる。ガス交換モジュールに供給された水性媒体は、ガス交換モジュール内を通貨後、再び培養槽に循環させる。水性媒体を連続的にガス交換モジュールに循環させることにより、気体資源の供給と水性媒体の脱酸素を連続的に行うことができる。また、培養槽へ返送される液の一部を、培養槽からガス交換モジュールへ供給する液に加えることで、培養液のガス交換滞留時間を増やすとともに供給液流量を増やし、発酵槽の負担を軽くしつつガス交換効率を高めることもできる。あるいは、ガス交換モジュールに供給した水性媒体を一定時間インキュベートした後に、培養槽に戻してガス交換を行うこともできる(バッチ処理)。
【0057】
本発明においては、有機物を生成するための原料となる)H2、CO2、あるいはCOをガス交換膜を介して水性媒体に供給するとともに、同様にガス交換によって嫌気性微生物の生育環境からO2を除去する。すなわち気相側のO2濃度を低くすることで、水性媒体中に含まれるO2を気相側に拡散させ、水性媒体中のO2が除かれる。いったん嫌気性微生物の生育環境からO2を消去した後も、例えば空気との接触、培地成分からの酸素分子の遊離や、新たに補給される培地成分による酸素の持込などによって、O2が水性媒体中にもたらされる可能性は常にある。したがって、本発明の好ましい態様においては、単にO2分圧の低い気相を供給するのみならず、気相側のガスに含まれるO2を除去する工程を含む。例えば、前記ガス回路内に、O2除去手段を設けることができる。例えばO2吸収剤に気相を構成するガスを接触させることで、気相中のO2を除去することができる。酸素吸収剤は公知である。
【0058】
例えば分子状酸素を除去するための酸化触媒を置くことができる。酸化触媒としては、スチールウール法が公知である。スチールウール法においては、酸性の硫酸銅などに接触させたスチールウール(綿状の鉄)をガス回路の内部に置く。スチールウールを構成する鉄とその表面の銅の作用により急速に酸素が消費され、ガス回路の内部から分子状酸素が除去される。あるいは液状の酸素吸収剤も公知である。例えば、アルカリ性ピロガロール溶液は、強力な脱酸素剤である。例えばガス回路内において、ガスをアルカリ性ピロガロール溶液に通過させることによって、ガス回路内の低酸素環境を維持することができる。液状の脱酸素剤は、曝気等の操作によって気相と容易に接触させることができるうえに、交換も容易なことから、本発明における好ましい脱酸素剤である。
【0059】
なお水溶液にガスを接触させることによって、ガス回路内を水蒸気飽和に近い状態に維持することができる。ガス透過膜を介するガス交換は、全ての気体で起きる。したがって、気相側の水蒸気分圧が低いと、水性媒体を構成する水が気相側に蒸発して水性媒体の濃縮が起きる可能性がある。酸素吸収剤として水溶液を利用すると、O2が吸収されるだけでなく、気相側の水蒸気分圧を高く維持する効果をあわせて期待することができる。したがって、水性の酸素吸収剤は、本発明における好ましい酸素吸収剤である。あるいは、酸素吸収剤に加えて、気相側に水蒸気を積極的に供給することもできる。例えば、気相を構成するガスを水に通過させたり、あるいは気相中に水蒸気や水滴を供給し、水蒸気分圧を高く維持することもできる。更に、水性媒体中に水以外の揮発性成分がある場合には、当該揮発性成分の気相における分圧についても、水性媒体と等しくしておくことができる。
【0060】
本発明において、ガス回路内のガスからH2を回収し再びガス回路内に循環させるとともに、H2以外のガスを廃棄することができる。繰り返し述べているとおり、H2の水性媒体に対する溶解度は低い。一方で、CO2の溶解性は著しく高い。したがって、実際には水性媒体へのCO2の供給が速やかに行われるのに対して、H2の供給が遅れる。言い換えれば、CO2が比較的容易に平衡に達するのに対して、気相側のH2分圧は比較的緩やかに低下し続ける。気相側の全圧は、気相を構成するガスの分圧の総和である。気相の全圧に上限がある場合、水性媒体への供給が早いガスに代えて、供給の遅いガス成分の分圧を高めるのは合理的である。つまり、本発明においては、いったん十分量のCO2(あるいはCO2とCO、あるいはCO)を供給後は、これらの供給済みのガスに代えて、最も供給遅いH2の分圧を高めるのが合理的である。つまり、CO2(あるいはCO2とCO、あるいはCO)が平衡に達した後、これらのガス分圧が低下した分だけ、H2分圧を高めることができる。またガス交換を通じて気相側には、水性媒体中の副生成物も吸収されている。副生成物には、例えば嫌気性微生物の活動によって生成するアンモニアや硫化水素等の、嫌気性微生物の活動を妨げる成分も含まれる。あるいは、N2などの不活性ガスも、ガス交換によって気相側に吸収される。不活性ガスの存在は嫌気性微生物の生育に直接関与することは無い。しかし、全圧が制限される中で効果的なガス交換を行うには、不活性ガスも廃棄することは好ましい。
【0061】
なお、本発明において、H2の回収とは、H2の濃縮を意味する。すなわち、ガス回路内の混合気体を、比較的H2に富む分画と、比較的H2に乏しい分画とに分け、H2に富む分画を再びガス回路内に循環させることを指す。ここで、「比較的H2に富む分画」とは、「比較的H2に乏しい分画」に比較して、より多くのH2を含むことによって定義される。したがって、必ずしも純度の高いH2を分離する必要はない。気相を構成する混合ガス中のH2は、例えば水素分離膜によって回収することができる。ポリイミド、酢酸セルロース、ポリスルフォン複合膜、ポリアミド、ポリエーテルアミドなどのガス分離能を有する素材を利用して、水素などのガスを他の成分から分離することができる膜が公知である。水素分離膜は、膜内のガスの透過速度の差を治療して、水素を選択的に分離する膜である。本発明に利用する場合には、気相を構成する混合ガスを水素分離膜に接触させ、水素分離膜の他方の側の圧力を低くすることによって、混合ガス中のH2を選択的に回収することができる。水素分離膜の水素に対する選択性は、膜内のガスの透過速度の差に依存する。したがって、必ずしも水素のみを回収するものではないが、H2に富む分画を得るには十分な選択性を持つ。水素分離膜によって回収された比較的H2に富む分画は、そのままガス回路内に循環させることができる。あるいは、必要に応じ、更にH2以外の成分を吸収あるいは吸着した後に、ガス回路内に循環させることもできる。もしもガスの廃棄によって水性媒体中への供給量が減る場合には、必要に応じて、H2、あるいはそれ以外のガス(すなわちCO2、および/またはCO)を補充することもできる。
【0062】
なお本発明において、「H2以外のガス」には、比較的H2に乏しい分画が含まれる。したがって、水素分離膜によってH2を回収した後の混合気体は、本発明における「H2以外のガス」に含まれる。また、H2以外のガスの廃棄とは、ガス回路からいったんガス回路外にガスを取り出すことを意味する。したがって、取り出されたガスを直ちに廃棄するのみならず、必要なガスを回収して再びガス回路内に循環させたり、あるいは他の目的に利用することを妨げるものではない。また、モレキュラーシーブなどを用いて物理吸着によりH2分画する手段を用いることも可能だが、簡便に、かつ連続的にH2分画を行なえる点で膜分離法が好適に用いられる。
【0063】
ガス回路内において行われる酸素の吸収やH2の回収などの処理は、気相を構成する混合ガスの一部に対して継続して行うことができる。すなわち、ガス回路の一部から分岐する酸素吸収回路を設け、当該回路において気相を構成するガスの一部を酸素吸収剤に接触させることができる。同様に、ガス回路の一部から分岐するH2回収回路において水素透過膜を介してH2に富む分画を回収し、再びガス回路に添加することができる。あるいは、ガス回路内において、混合気体を酸素吸収剤に通過させることもできる。一般に、水素分離膜はOの透過能力が低い。したがって、水素分離膜で気相部からH2に富む分画を回収することによって、O除去効果も期待できる。
【0064】
本発明において、水性媒体中に存在する嫌気性微生物は、供給される気体資源と、水性媒体中に溶解された培地成分を補助的に利用して、有機物を生成する。したがって、水性媒体は嫌気性微生物の生育に好適な環境に維持される。具体的には、温度やpHの条件を嫌気性微生物による有機物の生産に好適な条件に調節する。水性媒体のpHは、気体資源の供給と消費にともない、培養の継続に中に上下する可能性がある。したがって、水性媒体のpHをモニタリングし、好適な条件に維持するのが望ましい。また温度条件を一定に保つために、水性媒体の温度もモニタリングし、一定の温度に維持するのが望ましい。
水性媒体中に蓄積される有機物は、培養終了後に回収することができる。あるいは、培養継続中に、水性媒体の一部を取り出して、生成物を回収することもできる。水性媒体に蓄積された有機物は公知の方法で回収することができる。生成物を回収した後の水性媒体を、再び培養系に再利用することもできる。
【0065】
上記のとおり、本発明においては、ガス透過膜を介する液相(発酵液又はそのろ過液)と気相(気体資源)間のガス交換により、気体資源を微生物に供給するとともに、嫌気的培養環境を維持する。更に本発明は、気体資源の供給とともに、同じガス透過膜を介して水性媒体(発酵液)の脱酸素処理を行う方法とその方法を用いる気体供給装置により行われる。また、気体供給装置から液相接触後の気体を回収して、再度気体供給装置に気体資源を返送して、気体を循環させることで、気体資源の有機物への転化を効率良く行う方法とそのプロセスフローを提供する。
【0066】
本発明においては、ガス透過膜を介して接触する液相と気相において、液相側に対する気相側の気体資源成分の分圧を高くする一方、酸素分圧を低く保ちながらガス交換を行うことで、発酵液に対して気体の供給と脱酸素処理が達成される。また、本発明は、以下のような1種以上の別工程を、ガス透過膜を介した気液接触によるガス交換のための工程にさらに組み合わせることで、気体資源を有用な有機物にさらにより効率良く転化する種々のプロセスフローを構築する方法を提供する。あるいは以下の各工程を行うための手段を付加的に含む、遊戯物の製造装置を提供する。
微生物に消費された気体資源を補充する際の気体成分の組成を調整する工程、
ガス透過膜を介した気液接触後に気体を回収する工程、
回収した気体を気体処理装置に循環する工程、
液相に吸収された気体資源を補充する工程、
気体の脱酸素処理工程、気体の水素分離工程、
気体をバイパス分離させて2種以上の気体を作る工程、
気体をバイパス分離させて2種以上の気体を混合する工程、
気体をバイパス分離させて2種以上の気体を分離又は混合する際の比率を調整する工程、
回収した気体の一部若しくは全部を系外に連続的に又は断続的に排出する工程、
発酵液に含まれる揮発成分を含む溶液に気体を接触させ揮発成分を気体に含ませる工程、
気体を水溶液に接触させて水分を気体に含ませる工程、
発酵液をろ過処理する工程、
発酵液又はそのろ過液を気体供給装置に循環する工程、
発酵槽を設置して発酵液をろ過装置又は気体供給装置に供給する工程、
発酵槽へ返送される発酵液又はろ過液をバイパスさせて、気体供給装置に供給する工程、
発酵液又はそのろ過液から微生物が産生した有機物を取り出す工程、
発酵槽へ返送される発酵液又はろ過液をバイパスさせて、気体供給装置に供給する工程、
【0067】
また本発明には、上記のようにガス透過膜に所望の気体分圧差が維持される気体資源を連続して供給することができる場合は、気液接触後に気体を回収および循環させずそのまま廃棄するか、あるいは回収した気体の一部を系外に連続してまたは断続的に排出することもできる。
【0068】
本発明の液相(発酵液)に供する水性媒体は、そのまま、もしくは菌体をろ別したろ過液が用いられ、ガス透過膜において気体資源を吸収して、かつ脱酸素された液体として発酵槽へ返送され、発酵液中の微生物の代謝に利用される。また、発酵槽を持たずガス透過膜の液相側空間を発酵槽として使用する方法と生産装置も本発明に含まれる。また、菌体をろ別したろ過液を気体供給装置に供給する前に、微生物により生産された有機物を抽出装置又は直接に有機物分離装置に供給し、予め微生物により生産された有機物を回収したろ過液を気体供給装置に供給する方法と生産装置も本発明に含まれる。
【0069】
<気体供給方法>
本発明は、嫌気性微生物を用いて少なくとも酸化炭素(一酸化炭素及び二酸化炭素のいずれかまたは両方)と水素を含む気体資源を有機物に転化する発酵法において、ガス透過膜を介して発酵液又はそのろ過液(水溶液:液相)と気体資源(気相)を接触させ、ガス透過膜を介して、液相側に対し気相側の気体資源の分圧を高く、酸素分圧を低くすることにより、発酵液に気体資源を吸収させて菌体に供給するとともに、発酵液中の溶存酸素を気相へ吸収することで、発酵液の嫌気性雰囲気を維持する気体の供給方法を提供する。さらに、以下に例示される各種の付加的な工程を付帯させることで、上記の液相に接触する気体の資源成分の分圧差を維持しつつ、さらに発酵液の嫌気性雰囲気を維持して、より効率良く気体資源を無駄なく有機物に転換することを行うプロセスフローを構築することができる。
微生物に資化された気体成分を気体供給装置に補充する工程、
補充気体の成分を調製する工程、
気液接触後の液体を回収して再度液相へ循環する工程、
気液接触後の気体を回収して再度気相へ循環する工程、
気体の循環経路に脱酸素処理及び/又は水素分離処理を行う工程、
気体供給装置から気体を系外へ排出する工程、
気体供給装置へ供給する気体に予め揮発成及び/又は水分を含ませる工程、
発酵液を予めろ過する工程、
さらに、上記分圧差が維持される気体資源を連続して供給することができる場合は、接触後に気体を回収および循環させず、気相の一部を系外に連続してまたは断続的に排出する、上記の嫌気性発酵を行う方法を提供する。
【0070】
<有機物生産装置>
本発明における気体供給を、有機物生産装置:100(図3)を例に取って説明する。有機物生産装置:100は、ガス透過膜:104aを介して気液界面を構成する気体供給装置:104を備える。発酵液:102が循環供給されている気体供給装置:104へ気体資源:101を供給することで、気体供給装置:104内部で、発酵液への気体資源の供給が行われ、発酵液:102中に含まれる微生物により有機酸やアルコールといった有用な有機物を効率良く産生させる装置により実施される。有機物生産装置:100及び有機物生産装置:200(図4)として例示したプロセスフローでは、気体供給装置の液相部:104cと発酵液が充填された配管が、発酵槽:103を兼ねる例である。
なお、液相:104cに吸収されず、かつ液相から酸素を吸収した気体:101aは気体供給装置に返送される。ここで、バルブ:110eの開閉操作により継続的に又は断続的に気体:101aの一部又は全部を廃棄気体:101bとして系外に排出することで、気相:104bに蓄積された酸素及び過剰な成分を除くことができる。あるいは、気体:101aを回収して循環することなく、気体資源:101を供給するのみで、間欠的又は継続的に廃棄気体:101bを系外へ排出することも可能である。
【0071】
発酵液:102中に蓄積する微生物により産生された有機物:116は、バルブ:110aと110hの開閉操作により継続的に又は断続的に系外に発酵液と共に取り出される。なお、取り出した発酵液及び消費された培地の補充は、供給液:102dとして気体供給装置に供給する。また、気体資源:101の補充は、気体供給装置に直接することに代えて、気体:101aと任意の箇所で混合することもできる。
有機物生産装置:200(図4)について更に具体的に説明する。図4に示す有機物生産装置:200は、有機物生産装置:100に加えて、気相バッファタンク:105を備え、気体供給装置:104へ返送する気体資源:101aの調圧を行う。さらに、気相バッファタンク:105内部に脱酸素剤:112を充填することで、回収した気体が吸収した酸素を除去することもできる。脱酸素剤:112に代えて揮発成分の溶液又は脱酸素剤の水溶液を充填することで、揮発成分又は水分を気体に含ませることもできる。
【0072】
続いて、有機物生産装置:300(図5)を例にとり、本発明の態様を具体的に説明する。る図5に示す有機物生産装置:300は、有機物生産装置:200に加えて発酵液:102を貯蔵する発酵槽:103を備える。発酵槽から発酵液:102の一部を取り出し、気体資源:101が送気されている気体供給装置:104へ送液し、気体供給装置:104内部で発酵液への気体資源の供給と脱酸素処理を行う。さらに、処理後の発酵液:102aは発酵槽:103へ返送されるか、一部又は全部を間欠的又は継続して気体供給装置へ返送して、循環することができる。一方、処理後の気体資源:101aは、廃棄され、又は回収されて気体供給装置:104へ返送されて循環される構成を取る。
【0073】
あるいは、本発明は、有機物生産装置:400(図6)に示す構成を含むこともできる。すなわち、図6に示す、有機物生産装置:400は、有機物生産装置:300に加えてろ過装置:106を備える。発酵槽から発酵液:102の一部を取り出して気体供給装置:104へ送液する前に、ろ過装置:106によりろ過処理を行う。ろ過液:102bは気体供給装置:104へ送液され、濃縮液:102cは発酵槽:103へ返送される。
【0074】
さらに、有機物生産装置:500(図7)においては、ろ過装置:106によりろ過処理をしたろ過液:102bを気体供給装置:104へ送液する前に、抽出装置:107により、微生物が産生した有機物:116を抽出液:117(非水溶液)に抽出した液:115として取り出し、その残液(水溶液)を気体供給装置:104へ送液する。抽出装置:107から取り出された抽出液:115は、有機物分離装置:108へ送られ、公知の方法で抽出液:117と有機物:116に分離され、それぞれ回収することができる。抽出液:117は、抽出装置:107へ返送され循環使用される。
【0075】
また、有機物生産装置:600(図8)は、有機物生産装置:100に加えて、水素回収装置:111を備える。気体供給装置:104へ返送する気体資源:101aの一部又は全部を、水素回収装置:111に送気して、水素に富んだ気体と水素に乏しい気体に分離する。水素に乏しい気体は廃棄するか、別工程に送る。水素に富んだ気体は、一部を水素分離処理した場合、水素分離処理しなかった回収した気体:101aと混合するか、全部を水素分離処理した場合、回収した気体:101aそのものとして気体供給装置から回収して循環させる工程に用いる。
なお、有機物生産装置の構成要素は一例を示したものであり、必要に応じ付帯的な構成要素を加えることは構わない。また、有機物生産装置:100〜600に例示した各構成要素は、気体供給装置:104を除き、各例示間で任意に組み合わせ、付加又は削除することができる。
【0076】
<気体供給装置へ送液する発酵液>
気相に接触させる液相(水性媒体)は、発酵液をそのまま発酵槽から取り出して用いるか、取り出した液から菌体などを膜ろ過などで取り除いたろ過液を用い、気相に接触させてから培養槽へ返送される。発酵液から菌体などをろ別する方法は、膜ろ過法、遠心ろ過、フィルタープレスなど公知の方法を用いることができる。特に膜ろ過法が好適である。菌体のろ過に用いるろ過膜は、菌体の透過を阻止するに十分小さい孔径を有する膜であれば、任意の膜を利用することができる。市販されているミクロフィルター(MF膜)、限外ろ過膜(UF膜)、又は逆浸透膜(RO膜)などから適宜、選択することができる。また、分離膜の種類を変えて多段の膜処理をすることも可能である。ろ過膜は、発酵液の組成と菌体の種類に応じて適宜選択することができる。例えば限外ろ過膜は、菌体による膜自身や膜モジュールの目詰まりが少なく、また大きなろ過速度を得ることができるので好ましい。
限外ろ過膜などで発酵液から予め菌体を除去してからガス透過膜に接触させることによって、発酵液に含まれる酵素やタンパク質などを予め除去することで、気相との接触に用いるガス透過膜の汚れをより軽減できる。なお、膜ろ過した場合は、ろ過液を気体に接触させた後に、ろ過液の一部又は全部を、任意の割合で再び気体供給装置へ返送して循環する、ろ過濃縮液と再度混合する、又は発酵槽へ返送することができる。また、膜ろ過で得られる菌体等の濃縮液又はろ過液の一部若しくは全部を、間欠的に又は継続的に発酵槽へ返送せずに系外へ取り出して、微生物が産生した有機物を回収することもできる。また、この操作は、発酵槽の菌体濃度を調整したり、老化した菌体や蓄積した老廃物の廃棄手段としたり、発酵槽に蓄積する有害物質や不要物の除去手段としたり、又は発酵液組成の調整をする手段として用いることができるが、供給液:102dの供給と合わせて行うことが望ましい。
【0077】
また、発酵液又はそのろ過液を発酵槽へ返送する時、又は発酵液又はそのろ過液を気相と接触させる前に、気体から資化した有機物を回収する処理や、発酵液のpH調整、補充培地や水など発酵維持に必要な成分の添加、新たな菌体の補充、発酵液又はそのろ過液の一部を抜き取って廃棄するなど、発酵を安定に維持するために必要な処理を行うことができる。
【0078】
菌体等を膜ろ過するとき、ろ過と有機物の回収工程の、どちらを先に行うか、また両者の間に他の処理を行うかは、有機物の取り出し方法により任意に選択できる。菌体等を膜ろ過する工程を含む場合は、菌体を保護し、気相との接触を含むその他の処理をより安定して行えるため、ろ過液を気体資源との接触および気体資源から転化した有機物を取り出す処理の前にろ過に供することが望ましい。有機物の取り出しを蒸留、溶剤抽出、膜蒸留、又は膜分離などで行う場合は、発酵液又はそのろ過液に含まれる気体が少なく、また供給する気体資源を無駄なくに発酵槽へ届けるため、気相との接触処理の前に行うことが好適に行われる。
【0079】
<発酵液のろ過処理用モジュール>
発酵液の膜ろ過に用いる分離膜の形状に特に制限は無い。処理液当たりの膜のろ過面積を確保するため、中空糸型の膜モジュールが好適に用いられる。具体的には、市販されて膜モジュールから任意に選択して使用できる。中空糸膜は、膜の汚れや流路の閉塞などを予防するため、クロスフローろ過や逆圧洗浄といったろ過運転方法を取ることができ、発酵液のろ過処理では好ましく行われる。また、中空糸膜の内側、外側のいずれかに液体を供給し、もう一方の側に気体を供給することは、任意に選択できる。中空糸膜の外側に液体を供給した場合でも、中空糸膜を収納するモジュール構造を工夫することで、液体の流れに乱流を起こさせ高い効率で気体の気液間の物質移動を行うことができる。
【0080】
好ましい膜ろ過の方法は、例えば、ポリスルホン、あるいはポリエーテルスルホン材の中空糸(ホローファイバー)型限外ろ過膜を利用し、中空糸膜の内側に発酵液を流すクロスフローろ過する方法である。また、微生物と産生された有機酸やアルコールなど低分子有機物を分離でき、かつ十分なろ過速度を得るため、膜性能としては分画分子量が3万〜15万の限外ろ過膜が好ましく用いられる。
さらに、ろ過装置:106は、気体供給装置への送液を止めるか、複数のろ過装置を切り替えて運転を継続することで、逆圧洗浄や薬品洗浄などの公知の方法で膜汚れを取り除き、ろ過性能を維持することが望ましい。
【0081】
<気体供給装置へ送気する気相を構成するガス>
本発明では、嫌気性微生物が代謝資源として用いることができる気体資源として、少なくとも酸化炭素(一酸化炭素及び二酸化炭素のいずれか、または両方)と水素が含まれており、これらの気体が菌体に資源として取り込まれ代謝されて、有機物に資化される。ここで、気体資源は、少なくとも酸化炭素(一酸化炭素及び二酸化炭素のいずれか、または両方)と水素を含む。気相を構成するガスが、気体資源に加えて、付加的な気体を含むことは許容される。例えば、水蒸気、アンモニアなどが含まれていてもかまわない。さらに、菌体の育成阻害を生じない範囲で、気体の不純物として二酸化硫黄など硫黄酸化物、二酸化窒素など窒素酸化物などを含むことや、窒素、アルゴンなどの不活性ガスを含むことも許容される。ただし、培養液の嫌気性雰囲気を維持できる範囲内で、液相(水溶液:発酵液またはそのろ過液)と接触する際には、気体中の酸素の含有を抑制することが必要である。
【0082】
本発明において、気体資源は、各種の有機性廃棄物をガス化して調製することができる。有機性廃棄物としては、例えば次のようなものを利用することができる。
生ごみ、
食品加工廃棄物、
発酵廃棄物やその排水、
汚水、
汚泥など、
可燃性廃棄物など生活や産業から生じた有機性廃棄物、
木材、廃材、穀物や果実を収穫した後の育成植物や藁などの植物由来の炭化水素源、
これらの種々のバイオマス原料からガス化炉にて発生させたガス(合成ガス)を用いることができる。穀物や果実、種子、綿、繊維など食用または非食用農産物をガス原料に用いることもできるが、資源の有効利用の観点からは、有機性廃棄を用いることが好ましい。
【0083】
一方、炭化水素化合物、天然ガス、コールタール、アスファルト、煤(すす)、合成ゴム、ナフサ、石油又は石炭など、いわゆる化石燃料由来の炭化水素源を、そのままガスとして又は熱分解したガス、調整された量の酸素を加えながら燃焼させて発生させたガス(部分酸化ガス)としてガス化炉から得たガス(合成ガス)も用いることができる。この場合、原料の組成が比較的安定しているため、そこから発生させた気体資源の組成も比較的安定しており、微生物の発酵管理がより容易になる点で好ましく用いられる。
また、さらにこれら合成ガスに水又は水蒸気を反応させる水性シフト反応により得られるガス(合成ガス)も、気体資源の組成、特に水素成分を新たに発生または増加させることができるため好適に用いることができる。水性シフト反応は、水性ガス転化や水性ガス変性などとも呼ばれる反応で、以下のようにCOと水蒸気からCO+Hを生成する。
CO+HO→CO+H
さらに、有機性廃棄物や食用または非食用農産物と化石燃料由来の炭化水素源とを任意に混合した炭化水素源をガス化炉の原料とすることもできる。
【0084】
これらを総じて気体資源(合成ガス)と本発明では称し、少なくとも一酸化炭素及び/又は二酸化炭素並びに水素を含む混合気体として安定して、まとまった量を工業的に得ることができる気体であれば望ましい。これらを、さらに改質、分離等の操作を行うことで、本発明により適した気体資源の組成に調整することも可能である。また、得られた合成ガスと別の気体発生源から生じる一酸化炭素、二酸化炭素又は水素を任意の割合で混合することも、気体資源の組成の調整法として好適に用いることができる。また、別の気体資源、例えば廃ガスに含まれる成分、特に一酸化炭素または二酸化炭素を、有機物として固定化し、別の気体発生源を含めた全体としての二酸化炭素の大気放出量を削減する手段として用いる場合は、環境保護の観点から合成ガスと別の気体資源の混合使用が好ましい。
【0085】
また、油精製、カーボンブラック、コークス、アンモニア、メタノール生産などのプラントから排出される廃ガスを気体資源として利用することもできる。廃ガスを気体資源として用いるときは、排ガスをそのまま、あるいは組成を調整して合成ガスに代えて用いることもできる。特に、一酸化炭素又は水素に富む廃ガスは、そのまま、または水性シフト反応させることで、水素に富んだ気体資源として、そのまま、または組成を調整して、あるいは本発明に言う別な気体資源の発生源から得られた気体と混合して、本発明の気体資源として好適に用いられる。
【0086】
その他にも、木炭製造炉、コークス炉、炭素繊維製造炉などにおいて、焼成や不完全燃焼(蒸し焼き)によって製品を生産する際に発生する廃ガスを気体資源として利用することができる。あるいは、不完全燃焼し易い、例えば廃タイヤなどの合成ゴム製品を焼却する際の廃ガスを気体資源として利用することも可能であり、資源を無駄なく有効に利用できるうえに、二酸化炭素の大気放出量の削減効果を期待できる。
ただし、これらの焼却にともなって生成する廃ガスには、しばしば多量の酸素が含まれる。本発明の気体資源として利用するときには、十分に脱酸素する必要がある。
【0087】
火力発電においては、石炭などの化石燃料をそのまま燃焼させずに一度ガス化する石炭ガス化複合発電や天然ガスなどを燃料としたコンバインドサイクル発電を導入することでエネルギー効率が改善されてきた。これらの発電を最適化するために生じる剰余ガスや廃棄ガスを本発明の気体資源として有効に利用することができる。また、ガス化の過程で、石炭などに含まれる水銀などの汚染物質を予め除去できすることができる。更に、ガス化の過程で、化石燃料に含まれる硫黄を硫化水素(H2S)として取り出すこともできる。化石燃料中の硫黄は、燃焼に伴って生成する硫黄化合物の原因となる。これらの特徴を持つガス化技術は、火力発電プラントなどにおける汚染物質の環境への放出を防止するための技術としても評価されている。火力発電用ガス化炉は本発明の有用な気体資源発生源として期待できる。
【0088】
上記のように、各種のガス化方法によって生成するガスの組成は、ガス化される炭化水素源の種類に依存して変化する。したがって、必要に応じ、一酸化炭素及び/又は二酸化炭素並びに水素を精製した後に嫌気性微生物と接触させることもできる。ここで嫌気性微生物に接触させる一酸化炭素及び/又は二酸化炭素並びに水素は、嫌気性微生物による有機物の製造を妨げない限り、他の成分を含むことができる。例えば、メタン、窒素やガス化の過程で副生物として生成が予測される成分は、嫌気性微生物に対して影響を与えることは無い。そのため、これらの成分を含んだ状態で、気体資源を回収し、嫌気性微生物に接触させることは許容される。また、例えばアスファルトを炭化水素源としてガス化した場合に生成される気体資源には、嫌気性微生物に影響を与えるレベルの酸素は含まれておらず、そのまま発酵槽に供給できる組成である。ただし、必要に応じ脱硫、脱硝、精製、成分調整などを行うことを妨げるものではない。
【0089】
なお、本発明に用いる嫌気性微生物には、代謝に用いる気体に少なくとも一酸化炭素及び/又は二酸化炭素と水素が含まれることが必要である。通常、有機物を産生する菌の代謝に必要な一酸化炭素及び/又は二酸化炭素と水素のモル比率は、1:1以上、有機酸では好ましくは1:2以上、アルコール類では1:3以上であることからすると、供給する気体資源の内、特に二酸化炭素が供給過剰となり菌体に利用されず発酵槽または循環気体中に蓄積される恐れがある。例えば、ガス化炉より得られた一酸化炭素を水と反応させる水性シフト反応では、1モルの一酸化炭素と1モルの水から、二酸化炭素と水素のモル比率1:1の混合ガスが得られる。このため、水性シフト反応で得られるガスのみを気体資源として菌体に酢酸を産生させた場合、二酸化炭素が過剰となる。
2CO+4H→CHC00H+2H
【0090】
また、気体の不純物として含まれるもので、一部代謝されるが代謝量が少ない成分、例えばアンモニアや窒素化合物、硫黄化合物やリン化合物など、または窒素など不活性な気体で本来菌体が消費しない成分などは、発酵槽で消費されないものが気体成分として蓄積して微生物に代謝される気体成分の分圧を下げてしまう。また、当初は菌体育成阻害濃度以下であっても、気体の微量な不純物が経時的に発酵槽に蓄積して菌体の育成阻害を生じさせることで、発酵の効率を低下させてしまうこともある。特に、気液接触後の気体を回収して循環供給させる場合では、循環する気体の一部または全部を、連続的にまたは一時的に系外に排出して新たな気体資源と入れ替えることで、液相(発酵液またはそのろ過液)の廃棄したい気体の分圧が気相側より高く成る様に気相の組成を調整することが、気相側の蓄積を防止するために必要である。さらに、気相側の一部または全部を、連続的にまたは断続的に系外に排出して新たな気体資源と入れ替えることによって、気相側の不要な気体の分圧が下る。その結果、液相(水性媒体)中に含まれる不要な気体を、気相側にへ移動させることができ、発酵液中の過剰な又は不要な気体成分の蓄積を防止するために有効である。
【0091】
また、二酸化炭素は工業的に得られる気体資源に水素と同量かより過剰に含まれることが多い。そのため、予め分離して適正な気体組成に調整するか、循環気体経路に二酸化炭素または水素の分離手段を設けて、循環気体の一部または全部を分離処理して、再度、液相に接触させる気体資源の組成を適正に保つことが好ましい。この際、分離した過剰な二酸化炭素は廃棄すればよい。しかし、地中などに二酸化炭素を埋設隔離することによって、環境中への二酸化炭素の放出を抑制することもできる。
水素の分離処理は、深冷分離法、吸着法、膜分離法など公知の手段で行うことができるが、温度や圧力変動が少ない膜分離法が好適に用いられる。気体の分離膜としては、セラミック製膜がノリタケ社より、ポリイミドやポリアミド系の有機高分子膜がモンサント社や宇部興産社より市販されている。
また、一酸化炭素(菌体が代謝しない場合に限る)、アンモニア、硫黄酸化物、窒素酸化物なども、循環気体経路に除去手段を設けて、循環気体の一部または全部を除去処理した後、再度、液相に接触させることで、気体資源の組成を適正に保つことが好ましい。
【0092】
本発明に用いる嫌気性微生物は、発酵液に少なくとも一酸化炭素及び/又は二酸化炭素と水素が含まれていれば、育成、有価物の産生を行うため、気体資源の組成比を特に限定する必要はない。しかし、有機物の産生に必要な二酸化炭素と水素のモル比率は、1:1以上、有機酸では好ましくは1:2以上、アルコール類では1:3以上であることから、気体資源の水素濃度は、一酸化炭素及び/又は二酸化炭素と少なくとも同量、好ましくは2倍以上であることが好ましい。したがって、例えば、過剰な一酸化炭素及び/又は二酸化炭素を系外に排出することによって、一酸化炭素及び/又は二酸化炭素に対して当量以下の水素を供給して、有機物の生産を行わせることもできる。
【0093】
本発明において、嫌気性微生物は代謝における水素の還元エネルギーを利用して、生育し、有価物を産生する。嫌気性微生物の発酵による有価物の産生をより効率的に行うためには、水素を菌体に極力有効に摂取、代謝させるのが望ましい。とりわけ、水素自身の水に対する溶解度が低く、気液界面での液相への吸収が一酸化炭素及び/又は二酸化酸素、特に二酸化炭素より格段に低いことから、気液界面に接触させる気体資源における水素の組成比を上げ、二酸化炭素より高い水素分圧を維持することで高い発酵効率を得ることができる。一方、発酵液中の水素濃度が高くなりすぎると菌体の育成阻害を生じることも知られている。しかし実際には、通常の条件の下では、水素過剰の弊害が起きるほど水素が過剰に供給うされることは稀である。本発明において、気相側の気体資源における水素の上限を考慮するとすれば、疎水性ガス透過膜を介して気液接触する際の気体資源における二酸化炭素に対する水素分圧は、2倍以上1000倍以下、好ましくは3倍以上300倍以下、より好ましくは10倍以上150倍以下、さらに好ましくは30倍以上60倍以下であることが望ましい。
【0094】
また、液相に対する気体資源の全圧を液相より高くすることで、気液界面でのガス交換の効率を上げ、気体資源の液相濃度を上げ、かつ脱酸素を促進することも可能である。この場合、液相と気相の相対的な圧力差は、好ましくは0.5倍以上4倍以下、より好ましくは0.8倍以上3倍以下、さらに好ましくは等倍以上2倍以下であり、両相間の圧力差が大きくなりすぎると、特にガス透過膜に微多孔膜を用いた場合には、気液界面が維持できなくなって気相のガスが液相内に侵入する恐れがある。あるいは圧力によってガス透過膜が破壊される、気体が液相へ噴出したり、膜モジュールが壊れるなど、気体供給装置を安定に運転できなくなる他、発酵槽での発泡や槽内の圧力上昇が安定した発酵を阻害する問題が発生する。
【0095】
気液接触後の発酵液またはその濾過液はほぼ飽和もしくは過飽和濃度まで気体資源を取り込んでいる。そのため、返送などの流動または槽の攪拌に伴って発泡する場合がある。発泡自体は有機物の生産や嫌気性微生物に影響を与えることはない。しかし、発泡により菌体が浮上する(フローテーション)と、有機物の生産性が低下する場合もある。したがって、発酵液は、できるだけ穏やかに移送することが望ましい。逆に、例えば次のような取り扱いは避けるのが好ましい。
*発酵槽を高速で攪拌する、
*高い流速での送液処理
*返送液を培養槽で滝状の流下させる
【0096】
したがって、発酵槽に用いる攪拌翼の形状によるが、通常のパドル翼であれば、1000rpm以下、好ましくは500rpm、さらに好ましくは250rpm以下の懸濁物の沈降が生じない程度の攪拌で十分である。
また、発酵液の送液も、発酵液100mlに対し、1〜10000ml/minの循環量が好ましいが、より好ましくは5〜1000ml/min、さらに好ましくは5〜500ml/minである。循環量が少ないと該有機物の回収効率が低くなり、循環量が多いとポンプの運転エネルーが無駄になったり、発酵液の安定性が悪くなる傾向がある。
さらに、送液に用いるポンプの形式も、発泡や圧の脈動をできるだけ抑える観点から、ペリスタポンプ、ピストンペンプ、ダイヤフラムポンプ、モーノポンプなど低圧で高せん断が架かり難く、菌体の破損やキャビテーションによる発泡が生じ難い送液手段から選ばれるポンプ類から選択されることが好ましい。
【0097】
本発明においては、気液界面での水素分圧を二酸化炭素より高く保つために、必ずしも初めから気体資源自身の組成の水素濃度を上げる必要はない。本発明の好ましい態様においては、最初の気液接触処理後に回収された気体資源は、回収されて再び気液界面に供給される。気体資源が循環し、気液接触を繰り返せば、気相側ではより水溶液に吸収され易い二酸化炭素濃度が減り、相対的に、一酸化炭素や水素、特に水素濃度が次第に高くなる。このため、液相側では水素濃度はほぼ維持されたまま、二酸化炭素濃度が気相と等分圧にまで上昇していく。言い換えれば、気相側の二酸化炭素濃度が低下して平衡にいたる。このため、発酵槽で菌体に消費される量に見合った量だけ、循環される気体からいずれの成分も減少するものの、発酵槽での二酸化炭素の消費は水素の消費を下回るため、常に液相側では二酸化炭素の分圧が水素を上回ることになる。結果的に、循環気体資源に新たな気体資源を追加投入しない限り、二酸化炭素の分圧が液相側で下がるのみで、気相側では、液相に対し常に二酸化炭素は均しいかやや高い分圧が、水素は高い分圧が維持される。なぜなら、本発明の菌体が利用できる水素は発酵槽に吸収された水素であり、気相に供給された水素を直ちに消費することはできないからである。なお発酵液による水素の吸収とは、水素の発酵液への溶解、もしくは発酵液中に浮遊する気泡状態の水素を含む。
【0098】
したがって、循環される気体資源に新たに水素が二酸化炭素を大きく上回る気体資源をかなりの量で供給し続けない限り、二酸化炭素、水素とも徐々に菌体により代謝、消費されるが、水素の液相への吸収が律速となるため、循環される気体の組成は当初の供給組成に比べ、水素濃度が大幅に増加した状態で平衡に達することになる。
一方、循環する気体に気体資源を補充する場合、循環する気体の組成は液相より二酸化炭素と水素の分圧を高く維持しなければならないが、補充する気体資源の量と組成は、菌体の消費および循環気体から一時的または連続的に系外へ排出する一部または全部の気液接触後の循環気体が構成する組成と量により任意に選択することができる。
【0099】
なお、循環経路に水素の分離手段を設けて水素を回収し再循環ガスへ混合することは、分離された一方の二酸化炭素や吸収された酸素、不活性ガス、不純成分ガスを系外に排出することで、供給される気体資源の水素濃度が十分高くない場合でも、補充された新たな気体資源と回収循環される気体の混合ガスの水素濃度を高く維持することができ、かつ蓄積された過剰の二酸化炭素などと一緒に系外へ排出されることを防止でき、より好ましい。
【0100】
培養液に含まれる気体成分の組成を適切に保つために、発酵槽の液面より上に存在する気体の一部または全部を、連続的にまたは一時的に系外に排出して新たな気体資源と置き換えることもできる。特に培養槽の調圧を兼ねて培養槽の液面より上に存在する気体の系外への放出や新たな気体資源の供給は、安定した発酵槽の運転に重要である。さらに、不活性ガスを除く気体の多くは、その一部が、水溶液中で水と反応したり、培養液成分やpH調整剤により無機塩に転化されて嫌気性微生物の利用できない形態となる。例えば二酸化炭素は、炭酸または炭酸塩に転化される。菌体に利用されずに蓄積した無機塩等や溶存する菌体の育成阻害物質を除去することを目的として、培養液の一部または全部を、連続的にまたは一時的に系外に排出して新たな培養液を発酵槽に補充することも、菌体の代謝に必要な資源を補充するために培養液を減量する以外の目的として重要である。
【0101】
本発明に用いる微生物は嫌気性であることから、供給する気体資源は低い酸素濃度であることが必要であるため、もともと低い濃度の酸素しか含んでいない気体資源を用いるか、予め脱酸素処理を施した気体資源を用いることが望ましい。しかし、どうしても極微量の酸素が気体資源に含まれるため、気体資源を循環使用する過程で気体に蓄積するか、培養液に吸収されて培養槽内に蓄積されてしまう。また、補充培地や供給水からの酸素の混入や発酵液から酸素が発生することもあるため、培養液中の酸素濃度を低く維持することは発酵を管理する上で非常に重要な操作となる。
【0102】
従来の方法では、システインなどの脱酸素剤を発酵液に添加し、適切な濃度で維持する必要があった。他方、本発明では、疎水性ガス透過膜を介して発酵液(水溶液:液相)と気体資源(気相)を接触させ、疎水性微孔膜により維持された界面において、液相側に対し気相側の気体成分の分圧を高く、酸素分圧を低くすることにより、発酵液に気体資源を供給するとともに、発酵液中の溶存酸素を気相へ吸収する。こうして、発酵液の嫌気性雰囲気を維持しながら気体資源を供給することで、発酵液から気相側に溶存酸素を常時吸収できるため、培養液の脱酸素処理を培養液に脱酸素剤を加えることなく可能とした。ただし、より厳密な嫌気性管理を行うために一定量の脱酸素剤を発酵液に含有させることを妨げるものではない。
【0103】
<気体供給装置>
本発明において、疎水性微孔膜を有する気体供給装置:104には、水など液体の脱気膜として従来用いられてきた脱気膜モジュールを、そのまま用いることができる。例えば、セルガード社の「Liqui−Cel」(登録商標)、DCI社の「SEPAREL」(登録商標)が上げられる。
例えば水の脱気においては、膜モジュールのいずれか一方に脱気すべき水を置き、反対側を陰圧にすれば、脱気は行われる。しかし本発明においては、脱酸素処理の対象となる水性媒体には大量の気体資源を供給する必要がある。嫌気性微生物により資化される気体を溶解させている場合、単に陰圧にする通常の脱気処理では、溶存酸素と一緒に溶解した気体資源も液体から脱気されてしまう。その結果、脱酸素処理後、再度、気体資源を溶解させる必要がある。なお、水性媒体から除去された気体には酸素も含まれているので、そのままでは再利用はできない。そこで、本発明によって提供された特定の条件下で、ガス交換を行わせることが重要となる。
特に、本発明に用いる嫌気性微生物は水素を要求する。水に対する溶解度は、水素よりも酸素の方が高い。そのため、気相側の水素分圧が十分高くないと、分圧差による脱酸素処理ができないか、酸素と同時に液相から同量もしくはそれ以上の水素が気相へ移動してしまうことになる。
【0104】
本発明においては、同じ脱気膜を用いながらも、液相側に対し気相側の気体成分の分圧を高く、酸素分圧を低くすることで、気体資源の脱気を防ぎつつ、酸素を水性媒体から脱気することが可能となった。本発明によれば、脱酸素剤を発酵液に添加し、適切な濃度で維持する必要がなく、効率良く脱酸素処理を行うことができる。また、より発酵液の嫌気状態を確実に保つため、従来用いてきたシステインなどの高価な脱酸素剤を培養液に添加した場合であっても、脱酸素剤が消費されることはほとんど無く、濃度を維持するために追添する必要も無くなった。
【0105】
本発明に用いる気体資源は、液相(発酵液またはそのろ過液)の溶存ガス分圧に対し、気体資源の分圧が高く、酸素分圧が低い組成の合成ガスを用いることが望ましい。ここで気体資源の分圧が高いとは、一酸化炭素、二酸化炭素、および水素からなる群から選択される少なくとも1種類のガスの分圧が、液相における当該ガスの分圧よりも高いことを言う。そのために、予め脱酸素処理を施して気体資源の分圧を高く、酸素分圧を低く調整した気体を使用することもできる。しかし、本発明においては、ガス交換が行われる疎水性ガス透過膜により維持された界面における各気体成分の液相に対する分圧差が重要であり、気体と液体が接する環境において、液相の溶存ガス分圧に対し、気体資源の分圧が高く、酸素分圧を低く維持していれば、気体資源の組成は問わない。
【0106】
特に、発酵液に接触したものの液にまだ吸収されなかった気体を回収し、再度、液に接触させて気体資源を有効に発酵液に供給させる場合、この気体循環工程において、脱酸素処理を施すことは、気体資源の有効活用に重要である。脱酸素処理は、従来知られているガス吸収、ガス吸着、燃焼や酸素選択透過膜など任意の方法を持いることができる。また、ガス吸収において脱酸素剤を用いる場合であっても、本発明においては薬剤を培養液に加える必要が無いため微生物毒性を考慮する必要が無い。そのため、硫化ナトリウム、ハイドロサルファド、亜硫酸ナトリウム、硫化水素ナトリウム、ヒドラジンなどの還元剤、鉄粉、鉄線(スチールウール)、銅粉、活性アルミナなどの還元性金属微粉末、など幅広い脱酸素剤を利用することができる。
例えば、スチールウールを用いる場合においては、酸性の硫酸銅などに接触させたスチールウール(綿状の鉄)を気相バッファタンクに充填し、スチールウールを構成する鉄とその表面の銅の作用により急速に酸素を吸収して、循環気体資源から酸素を取り除くことができる。
【0107】
本発明で用いる気体資源は、少なくとも酸化炭素(一酸化炭素および二酸化炭素のいずれか、または両方)と水素を含む気体である。先に述べたとおり、これらの気体の水溶液に対する溶解度の差は非常に大きい。その結果、いったん水性媒体(発酵液)に接触後に回収された気体に含まれる二酸化炭素の量は、水素に比べ格段に少なくなる。二酸化炭素と反応するヒドラジンなどの酸素吸収剤を用いても、実質的な脱酸素効果を得ることができる。また、微生物の育成阻害を生じない程度で、気体資源に一酸化炭素、硫化水素などの還元性ガスを加えておけば、培養液の脱酸素剤として作用する。
本発明において、液相に吸収された気体を補充するために混合する新たな気体資源には、混合後の気体の成分の分圧が先に述べた分圧差を満足する限り、酸素の混入は許容される。気体の補充は、脱酸素処理前に行い、補充後に混合ガスを脱酸素処理することが望ましい。あるいは補充される気体資源の酸素濃度が十分に低ければ、今王ガスの脱酸素処理後に補充しても差し支えない。
【0108】
本発明においては、液相(発酵液またはそのろ過液)の溶存ガス分圧に対し、気体資源の分圧が高く、酸素分圧が低い組成の気体を液相に接触させガス交換が行われる。ガス交換の後の気体の回収と循環は必須ではなく、そのまま再利用することなく系外へ排出することもできる。
【0109】
本発明において、発酵液中の酸素濃度は、発酵に用いる嫌気性微生物の育成阻害を防止するために、1ppm以下、好ましくは0.5ppm以下、さらに好ましくは0.1ppm以下に保つのが望ましい。すなわち、液相と気相間のガス交換を経て、液相側の酸素濃度を、この条件に維持できるように、条件を調整することが望まれる。このため、発酵槽の容量に応じて、発酵槽からガス交換処理へ抜き取る液量、ガス交換面積(疎水性ガス透過膜の面積)、ガス透過膜モジュールへの供給速度などの諸条件が決められる。例えば、気体資源と発酵液の気体供給装置への供給比率は0.2〜20気体量/液量/分が好ましい。更に、気相として供給される気体資源中の酸素濃度は、発酵液またはそのろ過液中の酸素分圧より低く設定されなければならない。具体的には、気相中の酸素濃度は、通常3000Pa以下、好ましくは1000Pa以下、さらに好ましくは500Pa以下、より好ましくは250Pa以下である。
【0110】
さらに、本発明に用いる気体資源は水蒸気を含むことができる。発酵液またはそのろ過液に対し、飽和水蒸気以下の場合、気体資源に水性媒体を構成する水が水蒸気として吸収されることになる。その結果、気液接触後の気体資源を系外に排出する場合は、発酵槽から徐々に脱水が生じることになる。この場合、発酵液の組成を安定に維持するためには、水性媒体に水を補充するのが望ましい。一方、気液接触後の吸収されなかった気体を回収し循環接触する場合は、気体の循環によって発酵液またはそのろ過液の飽和水蒸気圧で気体資源の水分量は維持される。ただし、循環経路中で脱酸素処理を施す場合に、気相中の水分が脱酸素剤と反応、吸収、凝縮するなどして、脱酸素効率を下げる可能性がある。この場合、脱酸素処理に先立って冷却による凝縮やモレキュラーシーブなどによる吸着で水分を除去することも可能である。なお、除去した水は通常は廃棄する。しかし、水を回収して培養槽へ返送したり、あるいは脱酸素処理後の気体資源に水蒸気として混合することもできる。望ましくは、脱酸素剤を水溶液に溶解しておき、散気拡散や濡れ壁といった方法で気体資源と接触させて、回収気体の循環経路内の水分量を一定に保つ脱酸素処置が行われる。この場合の脱酸素剤は二酸化炭素との反応性が低い還元剤が好ましく、硫化ソーダ水溶液や鉄粉の懸濁液などが上げられる。
【0111】
本発明における気体資源には、嫌気性微生物が産生する有機物の蒸気を含むことができる。水性媒体(発酵液)に対し、気相側の有機物の分圧が低い場合、気体資源に有機物も吸収されることになる。このため、気液接触後の気体資源を系外に排出する場合は、発酵槽から徐々に有機物が失われる。つまり、発酵で産生した有機物のロスを意味し、好ましくない。
一方、気液接触後の吸収されなかった気体を回収し循環接触する場合は、気体の循環によって発酵液またはそのろ過液における有機物の飽和蒸気圧で気体資源中の量は維持される。ただし循環経路に脱酸素処理を設置した場合に、先に述べた水蒸気と同様に、有機物の蒸気が脱酸素剤と反応、吸収、凝縮するなどして、脱酸素効率を下げる可能性がある。この場合、脱酸素処理に先立って冷却による凝縮やモレキュラーシーブなどによる吸着で除去することも可能である。望ましくは、脱酸素剤として産生有機物の影響を受けない物質を選択することができる。
【0112】
特に、揮発性の高い有機物、例えはエタノール、エチルエーテル、アセトン、酢酸エチルなど、が微生物の産生物である場合、気体資源を気液接触させる前に当該有機物を蒸気として加え、気液接触時の有機物分圧を液相の分圧と等しくすることで、気相側への流出を予防することができる。この場合、揮発性の高い有機物は冷却などで容易に凝縮し、簡単な加熱で再び蒸発させることができるため、気液接触の前に蒸発させた有機物を気体資源に混合し、気液接触の後に凝縮して回収することで、無駄無く気体資源の循環経路に組み込むことができる。また、気液接触後の気体を系外に放出する場合であっても、同様に回収することができる。回収は、産生された有機物のロスを防ぐために有効である。特に、有機物の沸点が水より低い場合には、気液接触による気相側への流出が大きくなるので、気体資源の供給工程でのロスを防ぎ、微生物の産生物を無駄なく回収するために非常に有効である。
【0113】
<発酵液に含まれる菌体>
本発明においては、一酸化炭素及び/又は二酸化炭素と水素を資化し、酢酸を生産する嫌気性微生物を用いることができる。例えば以下の群から選択される属に分類される微生物が、酢酸を代謝経路に含み有機物を生産する能力を有することが知られている。
アセトバクテリウム(Acetobacterium)属
クロストリジウム(Clostridium)属
ユーバクテリウム(Eubacterium)属
バクテロイデス(Bacteroides)属
スポロミューサー(Sporomusa)属
アセトゲニウム (Acetogenium)属
モーレラ (Moorella)属
【0114】
したがって、これらの属に分類された微生物から選択され、水素と一酸化炭素及び/又は二酸化炭素を利用して嫌気発酵によって酢酸を代謝経路に含み、酢酸及び/又はエタノールを生成する微生物は、本発明における好ましい微生物である。中でも、アセトバクテリウム(Acetobacterium)属、クロストリジウム(Clostridium)属、またはモーレラ (Moorella)属に属する微生物は、本発明における酢酸産生能を有する微生物として好ましい。微生物が酢酸を生成することは、培養液のpHの低下や微生物を水素と一酸化炭素及び/又は二酸化炭素の存在下で嫌気培養し、培養物中に生成される酢酸を検出することにより確認することができる。より具体的には、例えば、以下の微生物を、本発明における微生物として利用することができる。
【0115】
アセトバクテリウム・エスピーNo.446,FERM P-7017
(Acetobacterium sp. No.446,FERM P-7017)
アセトバクテリウム・エスピー MA-1,FERM P-8676
(Acetobacterium sp. MA-1,FERM P-8676)
アセトバクテリウム・ウッディ,ATCC 29683
(Acetobacterium Woodii,ATCC 29683)
クロストリジウム・アセチカム,DSM 1496
(Clostridium aceticum, DSM 1496)
クロストリジウム・グリコリカム,ATCC29797
(Clostridium glycolicum,ATCC29797)
クロストリジウム・エスピーNo.307, FERM P-7487
(Clostridium sp No.307 FERM P-7487)
クロストリジウム・エスピーNo.484,FERM P-7488
(Clostridium sp No.484,FERM P-7488)
クロストリジウム・エスピーNo.68-2,FERM,P-7367
(Clostridium sp No.68-2 FERM,P-7367)
クロストリジウム・エスピーNo.670,FERM P-8047
(Clostridium sp No.670,FERM P-8047)
クロストリジウム・エスピーNo.672,FERM P-8049
(Clostridium sp No.672,FERM P-8049)
ユーバクテリウム・エスピーNo.477,FERM P-8045
(Eubacterium sp No.477,FERM P-8045)
ユーバクテリウム・リモサム,ATCC 8486
(Eubacterium limosum,ATCC 8486)
ユーバクテリウム・リモサム,ATCC 10825
(Eubacterium limosum,ATCC10825)
バクテロイデス・エスピーNo.669,FERM P-8046
(Bacteroides sp No.669,FERM P-8046)
バクテロイデス・エスピーNo.671,FERM P-8048
(Bacteroides sp No.671,FERM P-8048)
バクテロイデス・オヴァタス, ATCC 8483
(Bacteroides ovatus, ATCC 8483)
スポロミューサー・スファエロイデス,DSM 2875
(Sporomusa sphaeroides,DSM 2875)
スポロミューサ・オヴァタ,DSM-2662
(Sporomusa ovata,DSM-2662)
アセトゲニウム・キヴィ,ATCC 33488
(Acetogenium kivui,ATCC 33488)
モーレラ・サーモアセチカ,ATCC 31490
(Moorella thermoacetica, ATCC 31490)
モーレラ・サーモアセチカ,ATCC 35608
(Moorella thermoacetica, ATCC 35608)
モーレラ・サーモアセチカ,ATCC 39073
(Moorella thermoacetica, ATCC 39073)
モーレラ・サーモアセチカ,ATCC 39289
(Moorella thermoacetica, ATCC 39289)
モーレラ・サーモアセチカ,ATCC 49707
(Moorella thermoacetica, ATCC 49707)
モーレラ・サーモオートトロフィカ,ATCC 33924
(Moorella thermoautotrophica, ATCC 33924)
上記微生物は、その寄託番号に示された寄託機関から入手することができる。各受託番号は、当該微生物が、それぞれ次の寄託機関に寄託されていることを示す。
FERM 特許生物寄託センター;International Patent Organism Depositary (IPOD)
http://unit.aist.go.jp/pod/ci/index.html
ATCC American Type Culture Collection (ATCC)
http://www.atcc.org/
DSM German Collection of Microorganisms and Cell Cultures (DSMZ)
http://www.dsmz.de/
【0116】
なお、上記の微生物は、酢酸とともにしばしばエタノールなどのアルコールも生成する。各生成物の割合を調整して一方をより優先的に産生させる方法は公知である。たとえば、酢酸産生菌は、酢酸産生代謝経路にアセチルCoAから酢酸を産生する経路を有する。酢酸産生を阻害することにより、代謝経路をエタノール産生に強制する方法も公知である。
【0117】
<発酵液に含まれる培地>
本発明においては、気体資源を有機物として固定化する生産能を有する嫌気性微生物は、その生産に適した条件で水素および一酸化炭素及び/又は二酸化炭素と接触させられる。本発明における生産に適した条件とは、例えば酢酸を生産する場合は、酢酸生成活性を持つ嫌気性微生物の生存と活動が維持されることを言う。より具体的には、嫌気性微生物の生存が可能な嫌気条件が維持され、当該微生物の活性と増殖を支持するための栄養素が与えられることを言う。嫌気性微生物の生存に適した種々の培地組成が公知である。したがって、先に示した酢酸生産能を有する嫌気性微生物でも、当業者は、適切な培地組成を選択することができる。
【0118】
例えば、本発明で用いられる培地には、水溶性の有機物を炭素源として加えることができる。水溶性の有機物として、以下の化合物を挙げることができる。
ソルボース
フラクトース
グルコース
炭素源としての培地に加える有機物の濃度は、効率的に培地中の微生物を発育させるために適宜調節することができる。一般的には、0.1〜10wt/vol%の範囲から添加量を選択することによって、過不足を避けることができる。
【0119】
上記の炭素源に加えて、培地には、窒素源が加えられる。本発明において、窒素原としては通常の発酵に用いうる各種の窒素化合物を用いることができる。好ましい窒素源は、アンモニウム塩、および硝酸塩である。より好ましい窒素源は、塩化アンモニウム、および硝酸ソーダーであるが、気体資源にアンモニアガスとして含有させ気体供給装置を介して培養液に供給することも可能である。更に、炭素源や窒素源に加えて、微生物の培養に適した他の有機物あるいは無機物を培地に加えることもできる。例えば、ビタミンなどの補因子や各種の塩類等の無機化合物を培地に加えることによって、微生物の増殖や活性を増強できる場合もある。例えば無機化合物、ビタミン類、動植物由来の微生物増殖補助因子として以下のものをあげることができる。
無機化合物 ビタミン類
リン酸二水素カリ ビオチン
硝酸マグネシウム 葉酸
硝酸マンガン ピリドキシン
塩化ナトリウム チアミン
塩化コバルト リボフラビン
塩化カルシウム ニコチン酸
硫酸亜鉛 パントテン酸
硫酸銅 ビタミンB12
明ばん チオクト酸
モリブデン酸ソーダ p-アミノ安息香酸
ホウ酸等
動植物由来の微生物増殖補助因子
酵母エキス
肉エキス
ペプトン類
【0120】
これらの無機化合物やビタミン類、あるいは増殖補助因子を添加して培養液を製造する方法は公知である。培地は、液体、半固体、あるいは固体とすることができる。本発明の酢酸の製造方法において、好ましい培地の形態は、液体培地として水溶液が好ましい。 本発明において、嫌気性微生物は、公知の嫌気性微生物の培養方法にしたがって培養することができる。工業的な製造には、培地や基質ガスを連続的に供給することができ、かつ培養物を回収するための機構を備えた連続培養システム (continuous fermentation system)が好適である。特に好適なシステムを実施態様に具体的に示した。
【0121】
<発酵槽>
嫌気性微生物の培養においては、連続培養システム内への酸素の混入を防ぐことが必要である。培養器は通常用いられる培養槽がそのまま利用できる。嫌気性微生物の培養にも利用することができる培養タンクは市販されている。予め植菌操作の前に、培養槽内に混入した酸素を、窒素などの不活性気体あるいは基質ガスなどで置換することにより、嫌気的な雰囲気を作ることができるが、培養液のみを発酵槽に充填し、気体供給装置を動かす空運転を十分行った後、別に菌体を培養しておいた発酵液を発酵槽に送液することで足りる。
【0122】
発酵槽は、例えば嫌気培養ジャー(anaerobic jar)を嫌気性微生物の培養用のバイオリアクターとすることができる。嫌気培養ジャーは、金属、ガラス、あるいは合成樹脂製の気密容器で構成され、内部を大気中の酸素から遮断することができるものであれば良い。特に、発酵槽内部圧力を大気圧力よりわずかに高く保つことは、外部から発酵系への汚染を予防するため好適に行われる。また、気体供給装置の気相側を発酵槽として機能させ、発酵槽を省くことも可能である。
さらに、圧力計、温度計、pH計、COD計、酸素濃度計、伝導度計、赤外等の分光光度計などのセンサー類を発酵槽の液相部及び気相部に取り付け、センサー類から得られる情報により発酵液の環境を監視すること(モニタリング)は非常に好ましい。
【0123】
発酵槽の形状によっては、培養液のむらを無くすため十分に攪拌することが好ましく、市販の攪拌機等を利用することもできる。培養槽内の培養物を攪拌することによって、培地成分や気体資源が嫌気性微生物に接触させる機会を増やして、有機物の生成効率を最適化することができる。
微生物の十分な生育のため、培養物の水素イオン濃度は、4.0〜8.0が好ましく、4.5〜7.5がより好ましい。また、有機物の産生を増加させるため、培養槽の温度は25℃〜55℃が好ましく、30℃〜50℃がより好ましい。連続培養システムにおいては、発酵槽には新鮮な培地が連続的又は間欠的に供給される。有機物の産生を効率良く行うため、発酵槽に供給される新鮮な培地の量は、培養槽内の培養物における希釈率が時間当たり0.04〜2/hrが好ましい。より好ましい希釈率は0.08〜1/hrである。また、新鮮な培地に代えて別にバッチで培養した新鮮な菌体を含む培養液を用いることもできる。
さらに、発酵槽の液量を調整したり、古くなった菌体や微量の蓄積成分を除くため、連続して又は間欠的に発酵槽から直接、または気体供給装置またはろ過装置から返送した発酵液を系外に廃棄することもできる。あるいは、発酵槽の上部に溜まる気相を系外に連続して又は間欠的に排出することは、装置内の圧力を適正に保つためと蓄積する不要な気体成分を取り除くために重要な操作である。
【0124】
<産生物の取り出し方法>
発酵槽で産生された有機物は、発酵槽から直接、または気体供給装置またはろ過装置へ送液又は返送される発酵液を系外に取り出して、公知の手段で発酵液から取り出すことができる。例えは、溶剤抽出法、蒸留法、吸着法、透析法、電気透析法、膜分離法などが上げられるが、処理が容易に行なえて菌体に対する影響も少ないことから、発酵液のろ過液を気体供給装置に供給する前に、有機物の取り出しを行うことが好ましい。
【0125】
例えば、発酵液のろ過液:102bを抽出装置:107へ送液し、産生された有機酸やアルコールなどを有機溶剤に接触させて水相から有機相へ抽出した後、抽出処理後のろ過液:102dを気体供給装置:104へ送液することで、溶剤抽出で問題となるガスの発生を極力抑えることができる。抽出後の有機溶剤は、有価物分離装置:108において、中和や蒸留、逆抽出などの公知の方法単独で、あるいは組み合わせることで有機溶剤から微生物により産生された有機物を分離、回収することができる。
【0126】
上記有機溶剤は、水に対する溶解度が低く、菌体に対する毒性の少ない炭化水素化合物が好ましく、特に水に対する溶解度が0.05g/100g(25℃)の脂肪族炭化水素が好適に用いられる。産生された有機物が酢酸などの有機物の場合、有機酸と選択的に結合する有機化合物を有機溶剤に適宜溶解させることで抽出効率をより高めることができ、モノエタノールアミン(MEA) ジエタノールアミン(DEA)、ジグリコールアミン(DGA)などのアミン系有機物やリン酸トリブチル (TBP)、トリ-n-オクチルルフォスフィンオキシド(TOPO)などのリン化合物が用いられる
【0127】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0128】
<本発明の有機物の製造装置>
本発明は、以下の構成要素を含む、(1)H2および、(2) CO2およびCOのいずれか、または両方を資化して有機物を生成する嫌気性微生物を水性媒体中で嫌気培養し、前記水性媒体中に有機物を生成するための有機物の製造装置に関する。
(1) H2、CO2、およびCOの少なくとも1つのガスを含む気相とを前記ガスの透過を許容するガス透過膜であって、該ガス透過膜を介して一方に水性媒体を、他方に気相を配置したときに、両者の間でガス交換が行われる界面を形成するガス透過膜、
(2) (1)のガス透過膜と接続され、H2、CO2、およびCOの少なくとも1つのガスを含む気相を構成するガスを循環させるガス回路、および
(3) (1)のガス透過膜と接続され、水性媒体を循環させる水性媒体回路。
【0129】
本発明の有機物製造装置の基本的な構成を図1に基づいて説明する。本発明の有機物の製造装置は、(1) H2、CO2、およびCOの少なくとも1つのガスを含む気相とを前記ガスの透過を許容するガス透過膜であって、該ガス透過膜を介して一方に水性媒体を、他方に気相を配置したときに、両者の間でガス交換が行われる界面を形成するガス透過膜を備える。好ましいガス透過膜は、疎水性素材からなる微多孔性膜である。ガス透過膜は気相と液相の界面でガス交換を行い、液相を構成する水性媒体に気体資源を供給するための気体供給装置として作用する。図1に示す気体供給装置は、ガス透過膜(破線)を介して、気相側に供給される水素、二酸化炭素、あるいは一酸化炭素などの気体資源を液相に供給する。一方、気体供給装置には発酵槽から水性媒体(発酵液)が供給され、気体供給装置内のガス透過膜を介して気液界面を形成し、気液界面においてガス交換が行われる。気体供給装置は、例えばガス交換膜で構成されたガス交換用モジュールで構成することができる。ガス交換用モジュールは先に述べたようにガス透過膜からなる中空糸を束ねてカラムに充填したものである。カラムはステンレスやプラスチックなどからなり、カラム内部に充填されている中空糸の外側に水性媒体を供給する接続バルブを備える。ガス交換用モジュールには、モジュールの内部に充填されている中空糸の内腔に気相を供給する接続バルブも設けられている。中空糸の例えば内腔に気相を循環させ外側に水性媒体(発酵液)を循環させてガス交換を行うことができる。あるいは、ガス交換用モジュールに単に発酵液を満たして、気体供給装置の内部を発酵槽として利用することもできる。
【0130】
図1の有機物製造装置は、気体資源供給装置においてガス透過膜と接続され、H2、CO2、およびCOの少なくとも1つのガスを含む気相を構成するガスを循環させるガス回路を備える。ガス回路は、閉鎖された回路内を気相を構成するガスが循環する。ガス回路は、気体資源供給装置の中空糸内部に接続されている気相供給用接続バルブと気密に接続され、内部の気相を循環させるためのポンプを備える。最も基本的なガス回路は、気体供給装置に接続された金属や合成樹脂、あるいはガラスなどからなるパイプで構成される。ガス回路には、気体資源の供給量を調節するためのバルブを備えることができる。またガス回路内においては、先に述べたように脱酸素処理などの任意の処理を行うことができる。また、ガス回路から気体を廃棄したり、あるいは逆にガス回路に新たな気体を補充することもできる。
【0131】
図1の有機物製造装置は、ガス透過膜と接続され、水性媒体を循環させる水性媒体回路を備える。図1においては、水性媒体回路は、発酵槽内の発酵液の一部を気体供給装置に供給してガス交換を行わせた後、発酵液を発酵槽に返送している。発酵槽は、合成樹脂やステンレス製の液密な容器で、必要に応じ温度調節機構を備える。発酵槽内の発酵液は水性媒体として気体資源供給装置に供給される。水性媒体を移送する水性媒体回路は、気体資源供給装置と発酵槽とを接続する液密な構造からなる。具体的には、金属や合成樹脂の管状構造を、前記ガス交換モジュールの中空糸の外側に連絡する接続バルブに連結して水性媒体回路とすることができる。水性媒体回路は、水性媒体を循環させるポンプのほかに、嫌気性微生物菌体をろ過するろ過膜などを備えることができる。他方、発酵槽には、発酵液の環境を監視するためにインライン分光光度計、伝道度計、溶存酸素センサー(DO電極)やpH電極等の各種センサーを配置することができる。更に、発酵槽内に滞留する気体を廃棄するためのバルブを備えることもできる。引き続き、以下に、本発明の装置の好ましいな態様について、具体的に説明する。
【0132】
<第一の有機物生産装置:100>
図3.は、本実施形態の微生物による有機物生産装置の構成の一例を示すプロセスフローである。有機物生産装置:100は、微生物により気体資源(一酸化炭素及び/又は二酸化炭素と水素):101から、有機物:116、例えば酢酸などの有機酸及び/又はエタノールなどのアルコールなど、を生産する装置である。ただし、圧力計、温度計などの計器類、安全弁、ドレーン弁、加温機器、冷却機器、保温材、観察窓、試料投入口、サンブリング口などの弁やバルブ、配管、ハッチ等の通常の装置が具備すべき機器、部品および本装置の運転管理に必要な計器、部品は、特に明記しない限り適宜具備、使用することができ、以下の説明で明記することを省略する。
【0133】
有機物生産装置:100(図3)は、気体供給装置:104を備える。気体供給装置:104は、疎水性のガス透過膜:104aを介して、気相部:104bと液相部:104cに仕切られており、形状は問わない。例えば、疎水性のガス透過膜:104aが中空糸膜である場合は、中空糸膜で仕切られた内側と外側が該当する。通常は、中空糸膜の外側と中空糸膜の束を収めた外筒(シェルまたはハウジング)を液相に、中空糸膜の内側を気相として用いるが、どちらが気相部、液相部になってもかまわない。なお、液相部:104cと発酵液循環配管は、いわゆる発酵槽を兼ねる。
【0134】
液相部:104cには、微生物と培地の水溶液からなる発酵液:102が充填されており、液相部:104bの両端に発酵液入りおよび出配管が接続されており、気体供給装置:104の内部に収納されガス透過膜:104aにそって発酵液102が流動する構造を有する。発酵液入り配管から発酵液供給ポンブ:109aにより発酵液:102が、気体供給装置:104の液相部:104bへ送液される。また、もう一端の発酵液出配管からは、疎水性のガス透過膜:104aを介して気相部:104bと気体成分の吸収、除去処理された発酵液が気体供給装置:104より取り出される。発酵液循環バルブ:110aを備えた発酵液循環配管により、発酵液入りと出配管は接続されているが、発酵液入り配管への循環配管の接続は、発酵液供給ポンブ:109aの入り側に設けられている。また、発酵液入りおよび出配管には、循環配管より外側に、それぞれ発酵液入りバルブ:110bと発酵液出バルブ:110cが備えられている。
【0135】
培地や水、新たな微生物など供給液:102dを発酵液に供給する場合は、発酵液入りバルブ:110bと発酵液出バルブ:110cを開き、供給液を補充しつつ発酵液の一部を発酵液出配管より系外へ取り出す。液相部:104bの圧力を適切に保つため、発酵液入りバルブ:110bと発酵液出バルブ:110cの開度は適宜調整できる。また、この操作を行う場合、発酵液循環バルブ:110aは通常閉じるが、適度な開度で発酵液の一部を循環させたまま行うこともできる。また、供給液の供給や発酵液の取り出しの内、一方の操作のみを行うことも可能だが、液相部:104bの圧力は適切に保たれなければならない。
【0136】
一方、気相部:104bには、少なくとも一酸化炭素及び/又は二酸化炭素と水素を含む気体資源:101が充填されている。気相部:104bの両端には、気体入り、出および循環配管が接続されており、気体供給装置:104の内部に収納されガス透過膜:104aにそって気体資源:101が流動する構造を有する。疎水性のガス透過膜:104aを介して液相部:104cと気体成分の供給、吸収処理された気体は、気体供給装置:104から気体出配管に備えられた気体循環ポンブ:109bにより排気され、循環配管により気体供給装置:104に設けられた気相部:104bのもう一端より気相部:104bへ返送される。これにより、気相部:104bの気体は気体供給装置:104の内部で循環され、液相部:104cと繰り返し接触して気体成分の供給、吸収処理が効率良く行われる。
【0137】
気体入り配管には、気体供給バルブ:110dが備えられ、通常は閉じられているが、気相部:104bの圧力調整や微生物により消費された気体資源を補充するため、適切な開度で開いたままで置くか、間欠的に開くことで気体資源:101を気体供給装置:104へ供給する。なお、気体資源:101の圧力は気相部:104bより高く設定され、かつ気相部:104bの各成分の圧力は、液相部:104cに含まれる各気体成分の圧力に対し、本発明の気液界面圧力差を維持する圧力であり、また気体資源:101の各成分の組成も、本発明の気液界面圧力差を維持する組成である必要がある。
ただし、この条件が維持できる限りにおいて、気体循環配管を気体入り配管の気体供給バルブ:110dより気体供給装置:104側に接続することができる。
【0138】
気体出配管から気体循環ポンブ:109bにより、気体供給装置:104の外部へ送気する気体循環配管には、気体廃棄バルブ: 110eを備えた気体廃棄配管が接続されている。気体廃棄バルブ: 110eは通常閉じられているが、気相部:104bに蓄積した不要な気体成分を系外へ排出したり、気相部:104bの圧力を適切に調整するため、適切な開度で常時開いて置いたり、間欠的に開くことで気体供給装置:104から廃棄気体資源:101bとして排出する。
なお、気体供給装置:104内部の気相部:104bと液相部:104cの気体と液体の流れ方向は、特に限定するものではないが、より効率的に気液接触を行うために、向流となることが望ましい。
【0139】
<第二の有機物生産装置:200>
図4.は、本実施形態の微生物による有機物生産装置の構成の別の一例を示すプロセスフローである。有機物生産装置:200は、基本的には有機物生産装置:100と同様構成である。そのため、以下、有機物生産装置:200に特有の点を中心に説明する。
【0140】
有機物生産装置:200は、気体供給装置:104とその付属配管、バルブ、ポンブを有機物生産装置:100と同様に備える他、気体の循環配管に気相バッファタンク:105を備える。いずれも設置位置に特に制限は無いが、運転管理が容易な気体廃棄配管接続部と気体供給装置:104戻り部に設置することが好ましい。また、気相バッファタンク:105出側に循環気体調整バルブ:110fを備えても良い。さらに、気体供給バルブ:110dを備えた気体供給配管を、気体供給装置:104では無く、気相バッファタンク:105の入り側または出側に接続することもできる。気相バッファタンク:105の入り側に接続した場合、廃棄気体配管の接続部より気体供給装置:104の循環配管接続側に接続することが好ましく、気相バッファタンク:105で、気体資源:101と気体供給装置処理後の気体資源:101aとを効率良く混合して気体供給装置:104へ供給できる他、廃棄気体資源:101bを廃棄した後なので気体資源:101を有効に気体供給装置:104とその気体循環経路に留めることができる。
【0141】
あるいは、有機物生産装置:600で説明する水素回収装置:111を気相バッファタンク:105と直列に、又は並列に設置することができる。水素回収装置:111により分離された水素に富んだ気体は気体供給装置:104戻り部へ送られ循環気体として使用され、水素に乏しい気体はそのまま系外へ廃棄することが好ましく行われる。
気相バッファタンク:105の内部に、脱酸素剤:112を保持することは、気体供給装置処理後の気体資源:101aが含有する酸素を気体廃棄バルブ:110eを開いて系外へ、気体資源:101を不必要に廃棄することなく、気体供給装置の気相部:104bにおける酸素分圧を低く保つために特に好ましく行われる。さらに、気体供給バルブ:110dを備えた気体供給配管を、気体供給装置:104では無く、気相バッファタンク:105の入り側に接続することは、気体資源:101に含まれる酸素を予め取り除いて気体供給装置:104へ供給できることから、最も望ましい形態の一つである。
【0142】
脱酸素剤:112の供給や取替えは、気相バッファタンク:105に適宜専用の配管等を取り付けることで容易に実施することができる。また、気相バッファタンク:105を複数個、並列に循環気体配管に接続し、これらを切り替えて使用することで、消耗した脱酸素剤:112を入れ換えたり再生処理することを、有機物生産装置を運転しながら、容易に行うことができる。
【0143】
<第三の有機物生産装置:300>
図5.は、本実施形態の微生物による有機物生産装置の構成の別の一例を示すプロセスフローである。有機物生産装置:300は、基本的には有機物生産装置:200と同様構成である。そのため、以下、有機物生産装置:300に特有の点を中心に説明する。
有機物生産装置:300は、気体供給装置:104および気相バッファタンク:105とその付属配管、バルブ、ポンブを有機物生産装置:200と同様に備える他、発酵槽:103を気体供給装置:104の発酵液入り配管側に備える。
発酵槽:103は、有機物生産装置:200における発酵液入り、取り出し配管と接続され、気体供給装置:104と連通されている。発酵槽:103は、有機物生産装置:100および200において気体供給装置の液相部:104cおよび発酵液循環配管が果たしていた微生物発酵槽機能を、強化、高々効率化する役割を果たす。発酵槽:103は、気体供給装置:104の気体資源供給機能に応じた容積を有し、発酵液(微生物と培地、水等から成る)中で微生物が気体資源を有機物として資化、産生するために、十分な滞留時間と環境を提供する。
【0144】
<発酵槽:103>
発酵槽:103は、公知のあらゆる形式の発酵槽を用いることができるが、図3.では一般的なジャー型発酵槽を例示して、一つの構成の例示をする。発酵槽:103は、攪拌機:113を備える。図3.ではパドル型攪拌羽を有する攪拌機を例示したが、各種の攪拌機を適宜選択することもでき、発酵槽:103の容積、形状と発酵液入りおよび取り出し配管の位置と形状により、攪拌機:113を使用しないこともできる。攪拌機:113は、発酵液の濃度むらや沈降を予防し、発酵槽内の発酵液の組成や温度を均一に保てる程度に、攪拌羽を極低速で回転させることで足りる。
【0145】
また、発酵槽:103は、各種センサー類:114を備える。各種センサー類:114として、圧力計、温度計、pH計、COD計、酸素濃度計、伝導度計、赤外等の分光光度計などが例示でき、必要に応じて発酵槽:103の液相部:103aおよび/又は気相部:103bに設置される。各種センサー類から得られる情報は、有機物生産装置:300の具備する他の機器から得られる運転情報と合わせ、発酵液:102において微生物が気体資源を有機物として資化、産生するために最も適切な環境を維持する目的で、有機物生産装置:300を構成する各機器の運転状態を調整するために用いられる。
【0146】
発酵槽:103の液相部:103aおよび気相部:103bには、それぞれ発酵液調整バルブ:110fおよび気体廃棄バルブ:110gをそれぞれ有する配管を接続することができる。両バルブは通常閉じられているが、必要に応じ開くことで液相部:103aの発酵液および気相部:103bの気体を装置の外へ取り出し廃棄することができる。
液相部:103aの発酵液を廃棄することによって、液量を調整することができる。発酵液の補充と廃棄を同時に行えば、発酵液の一部を新鮮な供給液と入れ換え、古くなった菌体や蓄積された不要成分を発酵液:102から除去することができる。なお、発酵液調整バルブ:110fの代わりに発酵液取り出しバルブ:110hを備えた配管を、気体供給装置:104に接続される発酵液入り配管または出配管に接続することもできる。さらに、これらの配管より発酵槽:103に保持された発酵液:102を取り出して、廃棄する代わりに有機物生産装置:300の生産液として、目的とする有機物を分離、回収する工程に供することもできる。
気相部:103bの圧力は、外気圧よりわずかにではあるが常に高く保つことが、発酵槽:103の嫌気性条件を維持し、他の菌体による汚染を予防するために好ましい。ただし、必要に応じて気体廃棄バルブ:110gを一部または間欠的に開放することで、気相部:103bの一部の気体を装置の外へ取り出し廃棄することは、気相部:103bに蓄積する不要成分を除去するために必要な操作である。液量が増加する、供給液:102dを発酵槽:103へ供給する操作と連動して行うことが、気相部:103bの圧力を下げず、例えば100Pa以上、好ましくは1000Pa以上装置外より高くして気相部:103bの一部を取り出せるので好ましい。
【0147】
発酵槽:103は、有機物生産装置:200における発酵液入り、取り出し配管と接続され、気体供給装置:104と連通されている。発酵液は、発酵槽:103の直近に設置された発酵液供給ポンブ:109aにより発酵槽の液相部:103aから気体供給装置:104へ送液され、気体供給装置:104の発酵液取り出し配管により、気体供給装置処理後の発酵液:102aとして発酵槽:103へ返送される。この発酵液入り配管に、発酵液取り出しバルブ:110hを備えた配管を接続する場合は、発酵液供給ポンブ:109aの出側に接続し、気体供給装置:104への送液量を調整しながら発酵液:102を取り出すのが、装置管理を容易にできるため好ましい。
また、発酵液取り出し配管には、発酵液入りバルブ:110bを備えた配管を発酵槽:103の直近で接続しても良いが、発酵液入りバルブ:110bを備えた配管は発酵槽:103に直接接続する方が、供給液:102dを容易に供給できる。ただし、いずれの場合も供給液:102dの圧力は供給される側より高く保つことが必要である。
【0148】
なお、図5.に明示はされていないが、発酵槽:103は温調機能が付与されており、発酵液:102において微生物が気体資源を有機物として資化、産生するために最も適切な環境を維持する。温調機能は、公知の方法から適宜選択でき、例えば発酵槽:103をジャケットで覆ったり、温調液を流す蛇管を発酵槽:103内部に具備させたりする方法がある。また、有機物生産装置:300の機器、配管を保温したり、二重管とすることで有機物生産装置:300を構成する各機器の温度を調整することもできる。
【0149】
<第四の有機物生産装置:400>
図6.は、本実施形態の微生物による有機物生産装置の構成の別の一例を示すプロセスフローである。有機物生産装置:400は、基本的には有機物生産装置:300と同様構成である。そのため、以下、有機物生産装置:400に特有の点を中心に説明する。
【0150】
有機物生産装置:400は、気体供給装置:104、気相バッファタンク:105及び発酵槽:103とその付属配管、バルブ、ポンブを有機物生産装置:300と同様に備える他、ろ過装置:106を発酵槽:103と気体供給装置:104の発酵液入り配管側に備える。ろ過装置:106は、発酵槽:103の発酵液取り出し配管と発酵液戻し配管に接続され、発酵槽:103と連通されており、発酵槽:103の直近に設置された発酵液供給ポンブ:109aにより発酵槽の液相部:103aからろ過装置:106の原液入り口に発酵液:102が供給され、濃縮液出口側から濃縮液:102cが取り出され、濃縮液バルブ:101iを備えた濃縮液返送配管により発酵槽:103へ返送される。ろ過装置:106は、公知のろ過装置から適宜選択でき、その運転も公知の方法により行われる。
また、ろ過装置:106のろ過液取り出し口(透過液取り出し口)は、気体供給装置:104の有機物生産装置:300における発酵液入りバルブ:110bを有する配管と接続され、ろ過液供給ポンブ:109cにより気体供給装置:104へ送液される。気体供給装置処理後の発酵液:102aは、気体供給装置:104と発酵槽:103に直接または濃縮液返送配管に接続された発酵液返送配管より、発酵槽:103に返送される。
【0151】
発酵槽:103の直近に設置された発酵液供給ポンブ:109aから吐出されたろ過液は、ろ液供給配管により気体供給装置:104へ送液される。気体供給装置への送液経路の途中にろ過液の液取り出しバルブ:110jを備えたろ液取り出し配管をろ液供給配管に接続し、ろ過液:102bの一部または全部を有機物生産装置:400の系外へ取り出すことができる。有機物生産装置:400から、微生物により気体資源が資化、産生された有機物を取り出す箇所は、有機物生産装置:100,200,300,400の構成を例示する際に記載したように、適宜選択できる。取り出す場所に応じて、有機物を回収する発酵液の状態は異なる。具体的には、次のような発酵液を有機物の回収のために有機物生産装置:400から取り出すことができる。
目的とする有機物と菌体を含む発酵液:102
気体供給装置処理後の発酵液:102a(ろ過処理有りまたは無し)、
ろ過処理されたろ過液:102bまたは濃縮液:102c
いずれの発酵液を取り出すにしろ、有機物の回収方法は公知である。気体供給装置:104へ供給される前のろ過液:102bとして取り出した場合、低分子の有機物濃度が最も高く、また菌体など固形物を含まない上、含有する気体資源も最も少ないなどから、有機物を分離、回収操作が容易になるため最も好ましい。なお、ろ過液:102bの取り出しはろ過液液取り出しバルブ:110jの開度を調整して連続して、または開閉を間欠的に行うことができるが、供給液:102dの供給と連動して行うことが、有機物生産装置:400の安定した運転管理から好ましい。
【0152】
<第五の有機物生産装置:500>
図7.は、本実施形態の微生物による有機物生産装置の構成の別の一例を示すプロセスフローである。有機物生産装置:500は、基本的には有機物生産装置:400と同様構成である。そのため、以下、有機物生産装置:500に特有の点を中心に説明する。
【0153】
有機物生産装置:500は、気体供給装置:104、気相バッファタンク:105、ろ過装置:106及び発酵槽:103とその付属配管、バルブ、ポンブを有機物生産装置:400と同様に備える他、抽出装置:107と有機物分離装置:108を備える。抽出装置:107は、ろ過装置:106と気体供給装置:104の発酵液入り配管側の間に設置される。また、有機物分離装置:116は、抽出液送液ポンプ:109eを具備する抽出液送液配管と接続されている。
なお、発酵槽:103と気相バッファタンク:105およびそれらの付属配管、バルブ、ポンブ類は基本的に有機物生産装置:400と同様であり、図5.に明示してない。また、有機物生産装置:400と同様に気相バッファタンク:105は、省略することもできる。
【0154】
抽出装置:107は、ろ過装置:106のろ過液取り出し配管が気体供給装置:104のろ過液入り口に接続、連通されており、ろ過装置:106の直近に設置されたろ過液供給ポンブ:109cにより気体供給装置:104のろ過液入り口に、ろ過装置:106よりろ過液:102bが送液される。
また、抽出装置:114から抽出処理後のろ過液:102dは抽出残液供給ポンブ:109dにより気体供給装置:104の発酵液入り配管側へ送液される。通常、抽出液:117にろ過液(水溶液)より比重の低い有機溶剤が用いられるため、ろ過液:102dは抽出装置:115の中央付近より上部から供給され、抽出装置:115の下部に集められた抽出処理後のろ過液:102dは抽出装置:115の下部より抜き取られる。
一方、抽出液:115は抽出装置:107の中央付近より下部から供給され、抽出装置:115の上部に集められた抽出処理後の抽出液:115は抽出装置:107の上部より抜き取られる。なお、抽出処理には公知の抽出装置を適宜選択することができ、その場合の配管や操作は選択された装置に最も適した手段で行われる。
図示した有機物生産装置:500には、有機物生産装置:400において、微生物により気体資源:101が固定、資化することで産生された有機物:116を抽出法により、発酵液:102から分離、回収する一つの実施形態を例示した。微生物により気体資源:101が固定、資化することで産生された有機物を別の手段で分離する場合には、抽出装置:107に代えて別の手段を行う装置を設置することができる。
【0155】
抽出装置:107の上部より抜き取られた抽出処理後の抽出液:115は、抽出液送液ポンプ:109eを備えた抽出液送液ポンプにより、有機物分離装置:108へ送液される。有機物分離装置:108では、微生物により気体資源:101が固定、資化することで産生された有機物が抽出液より回収され、抽出液は再生される。再生された抽出液:115は、抽出装置:107へ返送され、循環使用される。有機物分離装置:108では、使用した抽出液:115と産生された有機物:116の特性に合わせた公知の方法で両者の分離を行ない、産生された有機物:116を回収する。なお、有機物分離装置:108は、公知の分離方法による複数の工程から構成されていてもよい。
【0156】
<第六の有機物生産装置:600>
有機物生産装置:600(図8)は、気体供給装置:104とその付属配管、バルブ、ポンブを有機物生産装置:100と同様に備える他、気体の循環配管に有機物生産装置:200の気相バッファタンク:105に代えて、水素回収111を備える。設置位置に特に制限は無いが、運転管理が容易な気体廃棄配管接続部と気体供給装置:104戻り部に設置することが好ましい。
さらに、気体供給バルブ:110dを備えた気体供給配管を、気体供給装置:104では無く、水素分離装置:111の入り側または出側に接続することもできる。水素回収装置:111の入り側に接続した場合、廃棄気体配管の接続部より気体供給装置:104の循環配管接続側に接続することが好ましく、気体資源:101と気体供給装置処理後の気体資源:101aの混合気体から、水素回収装置:111で処理された水素に富んだ気体資源:101cとして気体供給装置:104に供給でき、かつ廃棄気体資源:101bに代えて水素に乏しい気体:101dを系外へ排出することが出来る。特に、水素回収装置:111が「分子ふるい」膜で、低分子の水素を選択的に透過させる分離膜の場合、過剰の二酸化炭素、窒素などの不活性気体、硫化水素若しくは硫黄酸化物や窒素酸化物などの不純物気体が優先して水素に乏しい気体資源:101dに含まれるため廃棄気体資源:101bを無くすことも可能になる。また、水素に乏しい気体廃棄バルブ:101mを開閉若しくは開度を調整することにより、間欠的又は連続して水素に乏しい気体:101dを系外へ排出することが出来る。
【0157】
なお、有機物生産装置:200で説明した気相バッファタンク:105を水素分離装置:111と共に備えることもできる。この場合、水素分離装置:111と気相バッファタンク:105とは、複数を直列に、又は並列に設置することができる。水素分離装置:111では、水素に富んだ気体資源:101cに含まれる一酸化炭素及び/又は二酸化炭素が乏しくなるため、循環気体バイパスバルプ:110nの開度を調整して、気体供給装置:104へ供給する循環気体の組成を調整する必要がある。
また、気相バッファタンク:105の内部に、脱酸素剤:112を入れて脱酸素処理を行う場合、水素分離装置:111の後段に気相バッファタンク:105を設置することが好ましい。なぜらば、「分子ふるい」膜を用いた場合、水素回収装置:111自身がある程度の酸素除去機能を有するため、脱酸素剤:112を有効に働かせられるからである。
以下、実施例に従って本発明を更に具体的に説明する。
【実施例1】
【0158】
使用した有機物生産装置を図1に示す。表1に示す組成の培養液500mLを1L容発酵槽に分注、滅菌し、該培養液のDOを測定した。DOは40%であった。次に水素、二酸化炭素(4:1)の混合ガスをLiqui-Cell(登録商標),1×5.5''(セルガード社)を装着した気体供給装置へ供給圧0.1MPa、流速1.0L/minで循環、供給した。同時に発酵槽と気体供給装置間で培養液を25mL/minで循環、供給した。また発酵槽を250rpmで攪拌した。30分後の培養液のDOは0%であり、残存空気を除去することができた。次に該培養液にアセトバクテリウム・ウッディ(Acetobacterium Woodii,ATCC 29683)を接種し、接種前と同じ該有機物生産装置運転条件で、35℃で培養を行った。接種した菌体濃度が2.7g dry cell/Lのとき、5時間後に酢酸4g/Lを蓄積した。
【0159】
〔比較例1〕
実施例1と同じ有機物生産装置を使用し、気体供給装置への水素、二酸化炭素(4:1)の混合ガス供給圧をかけないこと以外は実施例1と同一条件で酢酸生産を検討した。有機物生産装置運転30分後のDOは10%であった。次に実施例1と同様に菌を接種し35℃培養を行ったが、酢酸は生産されなかった。
【0160】
〔比較例2〕
気体供給装置がない有機物生産装置(図2)を使用し、実施例1と同様に該培養液発酵槽へ分注、滅菌し、水素、二酸化炭素(4:1)の混合ガスを発酵槽へ循環させた。運転50分後の培養液のDOはゼロであった。実施例1と同様にアセトバクテリウム・ウッディ(Acetobacterium Woodii,ATCC 29683)を接種し、35℃で培養を行ったところ、接種した菌体濃度が2.7g dry cell/Lのとき、5時間後に酢酸1.2g/Lを蓄積した。
【実施例2】
【0161】
使用した有機物生産装置を図3に示す。表1に示す組成の培養液200mLを予め滅菌し、Liqui-Cell(登録商標),1×5.5’’(セルガード社)を装着した気体供給装置付発酵槽の発酵槽部分に供給した。次に水素、二酸化炭素(4:1)の混合ガスを気体供給装置へ供給圧0.1MPa、流速1.0L/minで循環した。同時に培養液を25mL/minで循環、供給した。30分後に発酵槽部分の培養液にアセトバクテリウム・ウッディ(Acetobacterium Woodii,ATCC 29683)を接種し、接種前と同じ装置運転条件で、35℃で培養を行った。接種した菌体濃度が1.4g dry cell/Lのとき、6時間後に酢酸2.6g/Lを蓄積した。
水素。二酸化炭素、それぞれの気体はTCD検出によるガスクロマトグラフで測定し、酢酸はUVによる高速液体ク口マトグラフで検出した。
【0162】
〔表1〕
培養液の組成(1L中)
0.1%レザズリン 水溶液 1mL
10%NH4Cl水溶液 10mL
1M KH2PO4(pH7.0)水溶液 5mL
20% MgSO4・7H2O 水溶液 0.5mL
ビタミン溶液 20mL
ミネラル溶液 40mL
NaHCO3 10g
酵母エキス 0.2g

ビタミン溶液組成(mg/L)
ビオチン 2
葉酸 2
ピリドキシン塩酸 10
チアミン塩酸 5
リボフラビン 5
ニコチン酸 5
パントテン酸Ca 5
ビタミンB12 0.01
p-アミノ安息香酸 5
チオクト酸 1

ミネラル溶液組成(g/L)
ニトリロ3酢酸 0.25
MnSO・4H2O 0.25
NaCl 0.5
FeSO・7H2O 0.05
CoCl・6H2O 0.09
CaCl・2H2O 0.07
ZnSO・7H2O 0.09
CuSO 0.03
AlK(SO・12H2O 0.009
BO 0.005
NaMoO・2H2O 0.006
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明は、気体資源を原料とする嫌気性微生物による有機物の製造に有用である。本発明においては、水性媒体に対する溶解性が異なる複数の気体資源を、効率的に水性媒体に供給し、嫌気性微生物による有機物の生成に好適な条件を容易に維持することができる。また、嫌気性微生物の生育に必要な嫌気的な雰囲気を、ガス交換によって容易に維持することができる。嫌気性微生物の活動を利用する有機物の製造を、より容易に安定して工業的に実施することができ、生産される有機物のコストダウンが可能となる。気体資源を資化して、酢酸を初めとする各種の有機酸などの有機物を生成する嫌気性微生物が公知である。本発明は、これらの嫌気性微生物を利用する有機物の製造方法に幅広く応用することができる。
さらに、大気に放出される前に二酸化炭素を有機物として資化することになるため、結果として大気中の二酸化炭素の固定技術として利用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) H2および、(2) CO2およびCOのいずれか、または両方を資化して有機物を生成する嫌気性微生物を水性媒体中で嫌気培養し、前記水性媒体中に蓄積する微生物によって資化された有機物を前記水性媒体から回収する有機物の製造方法であって、以下の工程を含む方法;
(a) 前記水性媒体と、H2、CO2、およびCOの少なくとも1つのガスを含む気相とを前記ガスの透過を許容するガス透過膜を介して接触させて、前記水性媒体と気相との間でガス交換が行われる界面を形成する工程、
(b) (a)の界面において、前記気相におけるH2、CO2、およびCO並びに0の各分圧をそれぞれa1,a2,a3並びにa4とし、水性媒体に含まれる前記気体の有する圧力をb1,b2,b3並びにb4とした時、気相側の分圧を、a1>b1,a2>b2,a3>b3、かつa4<b4に維持して、(a)の界面から前記気相のガスを前記水性媒体に吸収させ、かつ前記水性媒体中の酸素を前記気相に分散させる工程、および
(c) 前記水性媒体中に蓄積される資化有機物を前記水性媒体から回収する工程。
【請求項2】
ガス透過膜が疎水性素材で構成されたガス透過膜である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
疎水性素材が、ポリエチレン/PE、ポリプロピレン/PP、ポリテトラフルオロエチレン/PTFE、ポリ-4メチルペンテン1、およびシリコーンゴムからなる群から選択されるいずれかの素材、またはそれらの複合材料である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
疎水性素材が、ポリエチレン/PE、ポリプロピレン/PP、およびポリテトラフルオロエチレン/PTFEからなる群から選択されるいずれかの素材、またはそれらの複合材料からなり、当該疎水性素材、またはそれらの複合材料からなるガス透過膜が微多孔膜である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
気相がO2を除去されたガスで構成される請求項1−請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
気相を構成するガスのO2分圧を3kPa以下に維持する工程を付加的に含む請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
気相を構成するガスが、(1)H2および、(2)CO2およびCOのいずれか、または両方を含み、ガスに占める(1)H2の割合(モル比)が、(2)CO2およびCOの合計と等しいか、またはそれ以上である請求項1−請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
気相を構成するガスをガス回路内で循環させる工程を付加的に含む請求項1−請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
気相を構成するガスが循環するガス回路内において、ガス回路中のガスからO2を除去する工程を含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
O2を除去する工程が、ガス回路内で気相を構成するガスとO2吸収剤を接触させる工程である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
気相を構成するガスが循環するガス回路内において、ガス回路内のガスからH2を回収し、回収されたH2を再びガス回路内に循環させるとともに、回収できなかった残存ガスを廃棄する工程を付加的に含む請求項8−請求項10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
気相を構成するガスが循環するガス回路内において、気相を構成するガスにH2、CO2、およびCOからなる群から選択された少なくとも1つのガスを新たに供給する工程を付加的に含む請求項8−請求項11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記水性媒体が揮発成分を含み、気相を構成するガスが循環するガス回路内において、気相を構成するガスの前記揮発成分の分圧を、液相と等しく保つ工程を含む請求項8−請求項12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
揮発成分が水であり、気相を構成するガスの水分圧を液相と等しく保つ請求項13に記載の方法。
【請求項15】
嫌気性微生物を含む水性媒体が前記水性媒体の透過を許容するろ過膜で区画されており、前記嫌気性微生物菌体を区画内に保持し、前記ろ過膜を透過した水性媒体を前記ガス透過膜を介して気相と接触させる請求項1−請求項4に記載の方法。
【請求項16】
ろ過膜が、ミクロフィルターまたは限外ろ過膜である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記水性媒体を水性媒体回路内で循環させる工程を付加的に含み、該水性媒体回路内において、前記ガス透過膜を介してろ過液と気相とを接触させ、気相と接触したろ過液を、ろ過膜に保持された嫌気性微生物に戻す請求項15または請求項16に記載の方法。
【請求項18】
嫌気性微生物を含む水性媒体が、嫌気性微生物を含んだままガス透過膜に接触する請求項1−4のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記ガス透過膜が該ガス透過膜を外壁とする中空糸であり、該中空糸の内部にガスを、中空糸の外部に水性媒体を配置する請求項1−請求項4のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
中空糸の内部のガスを移動させるとともに、中空糸の外部の水性媒体も移動させ、かつ両者の移動方向を対向させる請求項19に記載の方法。
【請求項21】
中空糸の外部を流れる水性媒体に乱流を与える請求項19または請求項20に記載の方法。
【請求項22】
以下の構成要素を含む、(1)H2および、(2) CO2およびCOのいずれか、または両方を資化して有機物を生成する嫌気性微生物を水性媒体中で嫌気培養し、前記水性媒体中に有機物を生成するための有機物の製造装置;
(1) H2、CO2、およびCOの少なくとも1つのガスを含む気相とを前記ガスの透過を許容するガス透過膜であって、該ガス透過膜を介して一方に水性媒体を、他方に気相を配置したときに、両者の間でガス交換が行われる界面を形成するガス透過膜、
(2) (1)のガス透過膜と接続され、H2、CO2、およびCOの少なくとも1つのガスを含む気相を構成するガスを循環させるガス回路、および
(3) (1)のガス透過膜と接続され、水性媒体を循環させる水性媒体回路。
【請求項23】
ガス透過膜が疎水性素材で構成されたガス透過膜である請求項22に記載の装置。
【請求項24】
疎水性素材が、ポリエチレン/PE、ポリプロピレン/PP、ポリテトラフルオロエチレン/PTFE、ポリ-4メチルペンテン1、およびシリコーンゴムからなる群から選択されるいずれかの素材、またはそれらの複合材料である請求項23に記載の装置。
【請求項25】
前記ガス透過膜が該ガス透過膜を外壁とする中空糸であり、該中空糸の内部にガスを、中空糸の外部に水性媒体を配置する請求項22−請求項24のいずれかに記載の装置。
【請求項26】
複数の前記中空糸がカラムに充填され、該カラムに前記水性媒体が循環する請求項25に記載の装置。
【請求項27】
前記中空糸の内部を循環するガスと、外部を循環する水性媒体の循環方向を対向させる請求項25または請求項26に記載の装置。
【請求項28】
ガス循環回路中に、酸素吸収剤が配置された請求項22−請求項27のいずれかに記載の装置
【請求項29】
酸素吸収剤が、液体である請求項28に記載の装置。
【請求項30】
ガス循環回路中に、水素の回収手段を付加的に含み、該水素回収手段によってガス循環回路中のガスから回収した水素を、再度、ガス循環回路に循環させるとともに、回収できなかった残存ガスを廃棄する請求項22−請求項29のいずれかに記載の装置。
【請求項31】
(3)の水性媒体回路中に配置され、前記水性媒体の透過は許容するろ過膜で区画された前記嫌気性微生物菌体を保持する微生物保持区画を付加的に含む請求項22−請求項30のいずれかに記載の装置。
【請求項32】
ろ過膜を介して微生物保持区画から回収された水性媒体から、水性媒体中に蓄積された前記微生物によって資化された有機物を回収する有機物抽出手段を水性媒体回路の中に付加的に有する請求項31に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−100547(P2012−100547A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249277(P2010−249277)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000002901)株式会社ダイセル (1,236)
【Fターム(参考)】