説明

子宮体がんの検査方法、子宮体がんの検査薬、並びに子宮体がん抗原に対する抗体

【課題】 子宮体がん組織を高い感度と特異性で検出することができる、子宮体がんの検査方法を提供すること。
【解決手段】 ヒトから分離された生体試料における、CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、及びSLC25A27遺伝子からなる群から選択される少なくとも一の遺伝子の発現を検出することにより、高い感度と特異性で、子宮体がんの検査を行うことができることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮体がんの検査方法、子宮体がんの検査薬、並びに子宮体がん抗原に対する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮体がんは世界的に女性の生殖管によく見られる悪性腫瘍の一つであり、2004年においては199000の新規発症例と55000人の死亡例が報告されている(非特許文献1)。また、日本においても子宮体がんの発症率及び死亡率は年々増加している。かかる発症率と死亡率を減少すべく、子宮体がんの検査方法の開発は必要とされているにも関わらず、有効な子宮体がんの検査方法は未だ確立されていない(非特許文献2)。
【0003】
子宮体がんにおける一般的な症状として不正子宮出血が挙げられる。不正子宮出血を起こした女性に対する子宮体がんの検査方法としては、子宮内容除去術(子宮頸管拡張及び子宮内掻爬術)が標準的な方法として長年用いられており、最近では、例えば、経膣超音波検査、子宮体細胞診、吸引による子宮体掻爬、子宮体サンプリングといった不正子宮出血を起こした女性に対する検査方法が多々報告されている(非特許文献3〜5)。しかしながら、不正子宮出血に基づいて子宮体がんと診断されるのはたった10%の女性に過ぎず(非特許文献6、7)、60〜70%の女性においては器質的な異常は認められていない(非特許文献8)。このように、これら検査方法には、感度および特異性に問題があった。
【0004】
一方、子宮体がんにおいては、STC2(stanniocalcin 2)、MSH2(mutS homolog 2)、MUC1(mucin1)のような、沢山の種類の生体分子が高発現していることが報告されており(特許文献1〜5、非特許文献9〜20)、これらをバイオマーカーとして用いて、子宮体がんを検査することが試みられている。しかしながら、この方法においても、子宮体がん組織と正常な子宮体とを明確に区別することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2007−515957号公報
【特許文献2】特表2003−515535号公報
【特許文献3】特表平9−506509号公報
【特許文献4】特表平11−506940号公報
【特許文献5】特表平9−509822号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】The global burden of disease:2004update、World Health Organization、2008
【非特許文献2】Cancer Statistics in Japan 2009、Foundation for Promotion of Cancer Research、2009
【非特許文献3】Smith,R.A.,Cokkinides,V.&Brawley,O.W.、「CA Cancer J Clin」、2009、59、27−41
【非特許文献4】Holst,J.,Koskela,O.&vonSchoultz,B.、「Ann Chir Gynaecol」、1983、72、274−277
【非特許文献5】Gredmark,T.,Kvint,S.,Havel,G.&Mattsson,L.A.、「Br J Obstet Gynaecol」、1995、102、133−136
【非特許文献6】Choo,Y.C.,Mak,K.C.,Hsu,C.,Wong,T.S.&Ma,H.K.、「Obstet Gynecol」、1985、66、225−228
【非特許文献7】Gull,B.,Karlsson,B.,Milsom,I.&Granberg,S.、「Am J Obstet Gynecol」、2003、188、401−408
【非特許文献8】Kondo,E.,et al.、「Cytopathology」、2008、19、28−33
【非特許文献9】Kipp,B.R.,et al.「Cancer」、2008、114、228−235
【非特許文献10】Cheung,A.N.,Chiu,P.M.&Khoo,U.S.、「Hum Pathol」、1997、28、91−94
【非特許文献11】Torenbeek,R.,et al.、「Histopathology」、1998、32、20−27
【非特許文献12】Shih,H.C.,et al.、「Hum Pathol」、2003、34、471−478
【非特許文献13】Chu,P.G.,Arber,D.A.&Weiss,L.M.、「Am J Clin Pathol」、2003、120、64−70
【非特許文献14】Lau,S.K.,Weiss,L.M.&Chu,P.G.、「Am J Clin Pathol」、2004、122、61−69
【非特許文献15】Hong,S.C.,et al.、「J Obstet Gynaecol Res」、2006、32、379−386
【非特許文献16】Kobel,M.,et al.、「Mod Pathol」、2006、19、581−587
【非特許文献17】Galgano,M.T.,Hampton,G.M.&Frierson,H.F.,Jr.、「Mod Pathol」、2006、19、847−853
【非特許文献18】Modica,I.,et al.、「Am J Surg Pathol」、2007、31、744−751
【非特許文献19】Tanabe,K.,et al.、「Cancer Sci」、2008、99、1125−1130
【非特許文献20】Zheng,W.,et al.、「Am J Surg Pathol」、2008、32、304−315
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、子宮体がん組織を高い感度と特異性で検出することができる、子宮体がんの検査方法並びに子宮体がんの検査薬を提供することにある。さらなる本発明の目的は、このような検査に有用な、子宮体がん抗原に対する抗体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、まず、シグナルシークエンストラップ法(SST−REX法)により、細胞表面に発現あるいは細胞から分泌される蛋白質をコードするcDNAを選抜した。次いで、選抜したcDNAがコードする蛋白質に対するモノクローナル抗体を作製して、公知の抗体も含め、子宮体がんに対する特異性を検討した。その結果、CRELD1蛋白質、GRK5蛋白質、SLC25A27蛋白質、MSH2蛋白質、及びSTC2蛋白質は、子宮体がんにおいて高発現している一方で、正常な子宮体で発現しておらず、これら蛋白質に対する抗体を用いることにより、子宮体がん組織を高い感度と特異性で検出しうることを見出した。さらに、本発明者らは、CRELD1蛋白質、GRK5蛋白質、SLC25A27蛋白質、及びSTC2蛋白質に対する各々のモノクローナル抗体について、軽鎖及び重鎖の可変領域のアミノ酸配列を決定することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、子宮体がん組織に特異的に発現する分子を標的とした子宮体がんの検査方法、子宮体がんの検査薬、並びにこれら検査に有用な抗体に関し、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。
(1) ヒトから分離された生体試料における、CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、及びSLC25A27遺伝子からなる群から選択される少なくとも一の遺伝子の発現を検出することを特徴とする子宮体がんの検査方法、
(2) ヒトから分離された生体試料における、CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、及びSLC25A27遺伝子からなる群から選択される少なくとも一の遺伝子と、MSH2遺伝子及びSTC2遺伝子からなる群から選択される少なくとも一の遺伝子の発現を検出することを特徴とする子宮体がんの検査方法、
(3) ヒトから分離された生体試料における、CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、SLC25A27遺伝子、MSH2遺伝子、及びSTC2遺伝子の発現を検出することを特徴とする子宮体がんの検査方法、
(4) 遺伝子の発現を蛋白質レベルで検出することを特徴とする(1)〜(3)のうちのいずれかに記載の検査方法、
(5) 抗体を用いて検出することを特徴とする(4)に記載の検査方法、
(6) 下記(a)〜(c)のうちのいずれかを有効成分とすることを特徴とする子宮体がんの検査薬、
(a)CRELD1蛋白質に結合する抗体、GRK5蛋白質に結合する抗体、及びSLC25A27蛋白質に結合する抗体からなる群から選択される少なくとも一の抗体
(b)CRELD1蛋白質に結合する抗体、GRK5蛋白質に結合する抗体、及びSLC25A27蛋白質に結合する抗体からなる群から選択される少なくとも一の抗体と、MSH2蛋白質に結合する抗体及びSTC2蛋白質に結合する抗体からなる群から選択される少なくとも一の抗体との組み合わせ
(c)CRELD1蛋白質に結合する抗体、GRK5蛋白質に結合する抗体、SLC25A27蛋白質に結合する抗体、MSH2蛋白質に結合する抗体、及びSTC2蛋白質に結合する抗体の組み合わせ。
(7) 下記(a)〜(d)のうちのいずれかに記載の抗体
(a)配列番号:1〜3に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:4〜6に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、CRELD1蛋白質に結合する抗体
(b)配列番号:7〜9に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:10〜12に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、GRK5蛋白質に結合する抗体
(c)配列番号:13〜15に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:16〜18に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、SLC25A27蛋白質に結合する抗体
(d)配列番号:19〜21に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:22〜24に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、STC2蛋白質に結合する抗体、
および
(8) 下記(a)〜(d)のうちのいずれかに記載の抗体
(a)配列番号:26に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:28に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、CRELD1蛋白質に結合する抗体
(b)配列番号:30に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:32に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、GRK5蛋白質に結合する抗体
(c)配列番号:34に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:36に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、SLC25A27蛋白質に結合する抗体
(d)配列番号:38に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:40に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、STC2蛋白質に結合する抗体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の検査方法によれば、子宮体がん組織を高い感度と特異性で検出することができる。CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、SLC25A27遺伝子、MSH2遺伝子、およびSTC2遺伝子がコードする蛋白質に対する抗体は、優れた子宮体がんの検査薬となる。これら抗体を組み合わせで用いることにより、子宮体がんの検査の感度を飛躍的に高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】抗ACT038−617抗体(2D1E12I抗体、抗CRELD1モノクローナル抗体)と子宮体がんとの反応性を免疫組織化学的染色法で解析した結果を示す光学顕微鏡観察写真である。
【図2】抗ACT038−617抗体(2D1E12I抗体、抗CRELD1モノクローナル抗体)と正常な子宮体との反応性を免疫組織化学的染色法で解析した結果を示す光学顕微鏡観察写真である。
【図3】抗ACT043−0113抗体(2F11C3抗体、抗GRK5モノクローナル抗体)と子宮体がんとの反応性を免疫組織化学的染色法で解析した結果を示す光学顕微鏡観察写真である。
【図4】抗ACT043−0113抗体(2F11C3抗体、抗GRK5モノクローナル抗体)と正常な子宮体との反応性を免疫組織化学的染色法で解析した結果を示す光学顕微鏡観察写真である。
【図5】抗MSH2モノクローナル抗体と子宮体がんとの反応性を免疫組織化学的染色法で解析した結果を示す光学顕微鏡観察写真である。
【図6】抗MSH2モノクローナル抗体と正常な子宮体との反応性を免疫組織化学的染色法で解析した結果を示す光学顕微鏡観察写真である。
【図7】抗ACT067−0116抗体(3A8B14抗体、抗SLC25A27モノクローナル抗体)と子宮体がんとの反応性を免疫組織化学的染色法で解析した結果を示す光学顕微鏡観察写真である。
【図8】抗ACT067−0116抗体(3A8B14抗体、抗SLC25A27モノクローナル抗体)と正常な子宮体との反応性を免疫組織化学的染色法で解析した結果を示す光学顕微鏡観察写真である。
【図9】抗ACT004−262抗体(2D4C4抗体、抗STC2モノクローナル抗体)と子宮体がんとの反応性を免疫組織化学的染色法で解析した結果を示す光学顕微鏡観察写真である。
【図10】抗ACT004−262抗体(2D4C4抗体、抗STC2モノクローナル抗体)と正常な子宮体との反応性を免疫組織化学的染色法で解析した結果を示す光学顕微鏡観察写真である。
【図11】抗ACT038−617抗体(2D1E12I抗体)と、CRELD1遺伝子を発現するBa/F3細胞との反応性をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【図12】抗ACT043−0113抗体(2F11C3抗体)と、GRK5遺伝子を発現するBa/F3細胞との反応性をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【図13】抗ACT067−0116抗体(3A8B14抗体)と、SLC25A27遺伝子を発現するBa/F3細胞との反応性をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【図14】抗ACT004−262抗体(2D4C4抗体)と、STC2遺伝子を発現するBa/F3細胞との反応性をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【図15】抗ACT038−617抗体(2D1E12I抗体)の可変領域のアミノ酸配列とCDR予測の結果を示す図である。
【図16】抗ACT043−0113抗体(2F11C3抗体)の可変領域のアミノ酸配列とCDR予測の結果を示す図である。
【図17】抗ACT067−0116抗体(3A8B14抗体)の可変領域のアミノ酸配列とCDR予測の結果を示す図である。
【図18】抗ACT004−262抗体(2D4C4抗体)の可変領域のアミノ酸配列とCDR予測の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ヒトから分離された生体試料における、
(1) CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、及びSLC25A27遺伝子からなる群から選択される少なくとも一の遺伝子の発現、
(2) CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、及びSLC25A27遺伝子からなる群から選択される少なくとも一の遺伝子と、MSH2遺伝子及びSTC2遺伝子からなる群から選択される少なくとも一の遺伝子の発現、
又は
(3) CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、SLC25A27遺伝子、MSH2遺伝子、及びSTC2遺伝子の発現、
を検出することを特徴とする子宮体がんの検査方法を提供する。
【0013】
本発明において「生体試料」とは、CRELD1遺伝子等の発現を検出する際の対象となる生体由来の細胞、組織、体液等であり、「ヒトから分離された」とは、ヒトの生体から細胞、組織、体液等を摘出することによって、当該細胞、組織、体液等が、その由来の生体と完全に隔離されている状態をいう。生体試料の摘出の方法は特に限定されることなく、公知の方法を用いることができる。例えば、子宮内容除去術(子宮頸管拡張及び子宮内掻爬術)、吸引による子宮体掻爬、膣内へのタンポン挿入が挙げられる。これらの方法の中では、子宮体がん等から剥離した細胞等を生体を侵襲することなく摘出できるという観点から、膣内へのタンポン挿入が好ましい。また、細胞、組織、体液等を摘出する「生体」としては、子宮体がんの患者に限らず、健常者(子宮体がんのおそれがある者を含む)を対象とすることもできる。
【0014】
本発明において、発現を検出する「CRELD1遺伝子」は、典型的には、ACCESSION No.NM_015513で特定されるDNA配列からなる遺伝子であり、「GRK5遺伝子」は、典型的には、ACCESSION No.NM_005308.2で特定されるDNA配列からなる遺伝子であり、「SLC25A27遺伝子」は、典型的には、ACCESSION No.NM_004277で特定されるDNA配列からなる遺伝子であり、「MSH2遺伝子」は、典型的には、ACCESSION NM_000251.1で特定されるDNA配列からなる遺伝子であり、「STC2遺伝子」は、典型的には、ACCESSION No.NM_003714.2で特定されるDNA配列からなる遺伝子である。しかしながら、遺伝子のDNA配列は、その変異などにより、自然界において(すなわち、非人工的に)変異しうる。従って、本発明においては、このような天然の変異体も、検出対象となりうる。
【0015】
また、本発明における子宮体がんの検査方法は、前述の通り、CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、及びSLC25A27遺伝子からなる群から選択される少なくとも一の遺伝子の発現を検出するものであり、これら遺伝子群の中から一もしくは二の遺伝子の発現を検出してもよく、三種の遺伝子全てを検出してもよいが、子宮体がんに対する感度が高いという観点から、三種の遺伝子全てを検出することが好ましい。また、一の遺伝子の発現を検出して子宮体がんの検査を行う場合は、子宮体がんに対する感度が高いという観点から、CRELD1遺伝子を標的とすることが好ましい。
【0016】
本発明における子宮体がんの検査方法においては、CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、及びSLC25A27遺伝子からなる群から選択される少なくとも一の遺伝子の発現の検出と、既に子宮体がんとの関連が知られている遺伝子(MSH2遺伝子及びSTC2遺伝子からなる群から選択される少なくとも一の遺伝子)の発現の検出とを組み合わせることができる。本発明においては、CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、及びSLC25A27遺伝子、MSH2遺伝子、及びSTC2遺伝子の全ての遺伝子の発現を検出することにより、最も高い感度をもって、子宮体がんの検査を行うことができる(表4参照のこと)。
【0017】
また、本発明における子宮体がんの検査方法においては、CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、SLC25A27遺伝子、MSH2遺伝子、及びSTC2遺伝子からなる群より選択されるいずれの一の遺伝子の発現を検出した場合でも、極めて高い特異性で子宮体がんの検査を行うことができる(表4参照のこと)。
【0018】
本発明において「遺伝子の発現を検出する」とは、遺伝子の発現の有無の検出、および発現の程度の検出の双方を含む意である。遺伝子の発現量は、絶対量としてまたは相対量として把握することができる。相対量を把握する場合には、例えば、用意した標準試料の遺伝子の発現量と比較して判断することができる。「標準試料」は、標的遺伝子を発現しているか否かが事前に特定されている試料である。例えば、既に子宮体がんの存在している部位が特定されている病理組織を、本発明の標準試料とすることができる。また、子宮体がんに罹患していない組織(正常組織)も、本発明の標準試料とすることができる。
【0019】
さらに、本発明において「遺伝子の発現」とは、遺伝子の転写および翻訳の双方を含む意である。従って、本発明における「遺伝子の発現の検出」には、mRNAレベルおよび蛋白質レベルでの検出の双方が含まれる。
【0020】
本発明における遺伝子の発現の検出には、公知の手法を用いることができる。mRNAレベルで検出する方法としては、例えば、RT−PCR、DNAマイクロアレイ解析法、ノーザンブロッティング、in situ ハイブリダイゼーション、ドットブロット、RNaseプロテクションアッセイ法が挙げられる。また、蛋白質レベルで検出する方法としては、例えば、免疫組織化学的染色法、イメージングサイトメトリー、フローサイトメトリー、ELISA法、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降法、イムノブロッティング、抗体アレイ、等の抗体を用いて検出する方法(免疫学的手法)が挙げられる。本発明においては、簡便性の観点から、蛋白質レベルで検出する方法が好ましく、特に抗体を用いて検出する方法(免疫学的手法)が好ましい。
【0021】
本発明における抗体を用いて検出する方法(免疫学的手法)では、CRELD1蛋白質に結合する抗体(抗CRELD1蛋白質抗体)、GRK5蛋白質に結合する抗体(抗GRK5蛋白質抗体)、SLC25A27蛋白質に結合する抗体(抗SLC25A27蛋白質抗体)、MSH2蛋白質に結合する抗体(抗MSH2蛋白質抗体)、およびSTC2蛋白質に結合する抗体(抗STC2蛋白質抗体)が使用され、当該抗体を各々の抗体が結合する蛋白質に接触させ、当該抗体の各蛋白質への結合性(結合量)を指標として、CRELD1蛋白質等が検出される。ここで「接触」とは、抗体が標的蛋白質を認識できうる生理条件下に、当該抗体と当該蛋白質をおくことを意味する。例えば、当該抗体を用いて、細胞表面上の当該蛋白質の染色を行う場合には、当該抗体を含有した溶液に、ヒトの生体(被検体)から分離した細胞、組織、体液等を浸す、あるいは、当該細胞、組織、体液等に、当該抗体を含有した溶液を十分に滴下もしくは噴霧し、当該抗体が当該細胞、組織、体液等に存在する当該蛋白質を認識できうる生理条件下におくことを意味する。
【0022】
本発明の抗体の標的となる「CRELD1蛋白質」は、典型的には、ACCESSION No.NP_056328で特定されるアミノ配列からなる蛋白質であり、「GRK5蛋白質」は、典型的には、ACCESSION No.NP_005299で特定されるアミノ配列からなる蛋白質であり、「SLC25A27蛋白質」は、典型的には、ACCESSION No.NP_004268.1で特定されるアミノ酸配列からなる蛋白質であり、「MSH2蛋白質」は、典型的にはACCESSION No.NP_000242.1に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質であり、「STC2蛋白質」は、典型的には、ACCESSION No.NP_003705で特定されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。蛋白質は、このような典型的なアミノ酸配列を有するもの以外に、天然においてアミノ酸が変異したものも存在しうる。従って、本発明の抗体の標的となる「蛋白質」には、このような天然の変異体が含まれる。天然の変異体は、通常、上記典型的なアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなる。アミノ酸配列の置換、欠失、挿入もしくは付加は、一般的には、10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内、1アミノ酸)である。
【0023】
本発明の検査方法に用いる「抗体」は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよく、また、抗体の機能的断片であってもよい。また、「抗体」には、免疫グロブリンのすべてのクラスおよびサブクラスが含まれる。「ポリクローナル抗体」は、異なるエピトープに対する異なる抗体を含む抗体調製物である。また、「モノクローナル抗体」とは、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体(抗体断片を含む)を意味する。ポリクローナル抗体とは対照的に、モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を認識するものである。本発明の抗体は、好ましくはモノクローナル抗体である。本発明の抗体は、自然環境の成分から分離され、および/または回収された(即ち、単離された)抗体である。本発明において抗体の「機能的断片」とは、抗体の一部分(部分断片)であって、標的蛋白質を特異的に認識するものを意味する。具体的には、Fab、Fab’、F(ab’)2、可変領域断片(Fv)、ジスルフィド結合Fv、一本鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ダイアボディー、多特異性抗体、およびこれらの重合体などが挙げられる。
【0024】
本発明の抗体は、ポリクローナル抗体であれば、抗原(標的蛋白質、その部分ペプチド、またはこれらを発現する細胞など)で免疫動物を免疫し、その抗血清から、従来の手段(例えば、塩析、遠心分離、透析、カラムクロマトグラフィーなど)によって、精製して取得することができる。また、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ法や組換えDNA法によって作製することができる。
【0025】
ハイブリドーマ法としては、代表的には、コーラーおよびミルスタインの方法(Kohler & Milstein, Nature, 256:495(1975))が挙げられる。この方法における細胞融合工程に使用される抗体産生細胞は、抗原(標的蛋白質、その部分ペプチド、またはこれらを発現する細胞など)で免疫された動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、サル、ヤギ)の脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血白血球などである。免疫されていない動物から予め単離された上記の細胞またはリンパ球などに対して、抗原を培地中で作用させることによって得られた抗体産生細胞も使用することが可能である。ミエローマ細胞としては公知の種々の細胞株を使用することが可能である。抗体産生細胞およびミエローマ細胞は、それらが融合可能であれば、異なる動物種起源のものでもよいが、好ましくは、同一の動物種起源のものである。ハイブリドーマは、例えば、抗原で免疫されたマウスから得られた脾臓細胞と、マウスミエローマ細胞との間の細胞融合により産生され、その後のスクリーニングにより、標的蛋白質に特異的なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。標的蛋白質に対するモノクローナル抗体は、ハイブリドーマを培養することにより、また、ハイブリドーマを投与した哺乳動物の腹水から、取得することができる。
【0026】
組換えDNA法は、上記本発明の抗体またはペプチドをコードするDNAをハイブリドーマやB細胞等からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主細胞(例えば哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞など)に導入し、本発明の抗体を組換え抗体として産生させる手法である(例えば、P.J.Delves, Antibody Production: Essential Techniques, 1997 WILEY、P.Shepherd and C. Dean Monoclonal Antibodies, 2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS、Vandamme A.M. et al., Eur. J. Biochem. 192:767−775(1990))。本発明の抗体をコードするDNAの発現においては、重鎖または軽鎖をコードするDNAを別々に発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよく、重鎖および軽鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主細胞を形質転換してもよい(WO94/11523号公報参照)。本発明の抗体は、上記宿主細胞を培養し、宿主細胞内または培養液から分離・精製し、実質的に純粋で均一な形態で取得することができる。抗体の分離・精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている方法を使用することができる。トランスジェニック動物作製技術を用いて、抗体遺伝子が組み込まれたトランスジェニック動物(ウシ、ヤギ、ヒツジまたはブタなど)を作製すれば、そのトランスジェニック動物のミルクから、抗体遺伝子に由来するモノクローナル抗体を大量に取得することも可能である。
【0027】
本発明の検査方法に用いる抗体は、好ましくは、本実施例に記載の、抗ACT038−617抗体(2D1E12I抗体)、抗ACT043−0113抗体(2F11C3抗体)、抗ACT067−0116抗体(3A8B14抗体)、抗ACT004−262抗体(2D4C4抗体)(以下、単に「本実施例に記載の抗体」と称することがある)の軽鎖CDR1〜CDR3を含む軽鎖可変領域と、重鎖CDR1〜CDR3を含む重鎖可変領域を保持する抗体あるいはそれらのアミノ酸配列変異体である。具体的には、以下の抗体である。
<抗CRELD1蛋白質抗体>
(a)配列番号:1〜3に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:4〜6に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、CRELD1蛋白質に結合する抗体
<抗GRK5蛋白質抗体>
(b)配列番号:7〜9に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:10〜12に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、GRK5蛋白質に結合する抗体
<抗SLC25A27蛋白質抗体>
(c)配列番号:13〜15に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:16〜18に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、SLC25A27蛋白質に結合する抗体
<抗STC2蛋白質抗体>
(d)配列番号:19〜21に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:22〜24に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、STC2蛋白質に結合する抗体。
【0028】
本発明の検査方法に用いる抗体は、特に好ましくは、本実施例に記載の抗体の軽鎖可変領域と、重鎖可変領域を保持する抗体あるいはそのアミノ酸配列変異体である。具体的には、以下の抗体である。
<抗CRELD1蛋白質抗体>
(a)配列番号:26に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:28に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、CRELD1蛋白質に結合する抗体
<抗GRK5蛋白質抗体>
(b)配列番号:30に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:32に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、GRK5蛋白質に結合する抗体
<抗SLC25A27蛋白質抗体>
(c)配列番号:34に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:36に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、SLC25A27蛋白質に結合する抗体
<抗STC2蛋白質抗体>
(d)配列番号:38に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:40に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、STC2蛋白質に結合する抗体
抗MSH2蛋白質抗体は、例えば、本実施例において用いた市販の抗体あるいはそのアミノ酸配列変異体を用いることもできる。
【0029】
本発明の抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体鎖をコードするDNAへの変異導入によって、またはペプチド合成によって作製することができる。抗体のアミノ酸配列が改変される部位は、改変される前の抗体と同等の活性を有する限り、抗体の重鎖または軽鎖の定常領域であってもよく、また、可変領域(フレームワーク領域およびCDR)であってもよい。CDR以外のアミノ酸の改変は、抗原との結合親和性への影響が相対的に少ないと考えられるが、現在では、CDRのアミノ酸を改変して、抗原へのアフィニティーが高められた抗体をスクリーニングする手法が公知である(PNAS, 102:8466−8471(2005)、Protein Engineering, Design & Selection, 21:485−493(2008)、国際公開第2002/051870号、J. Biol. Chem., 280:24880−24887(2005)、Protein Engineering, Design & Selection, 21:345−351(2008))。
【0030】
改変されるアミノ酸数は、好ましくは、10アミノ酸以内、より好ましくは5アミノ酸以内、最も好ましくは3アミノ酸以内(例えば、2アミノ酸以内、1アミノ酸)である。アミノ酸の改変は、好ましくは、保存的な置換である。本発明において「保存的な置換」とは、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換することを意味する。化学的に同様なアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本発明の属する技術分野でよく知られている。例えば、酸性アミノ酸(アスパラギン酸およびグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン・アルギニン・ヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン・アラニン・バリン・ロイシン・イソロイシン・プロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン・トレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン・メチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン・グルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン)で分類することができる。アミノ酸配列変異体は、抗原への結合活性が対象抗体(代表的には、本実施例に記載の抗体)と同等であることが好ましい。抗原への結合活性は、例えば、抗原を発現するBa/F3細胞を作製し、抗体サンプルとの反応性をフローサイトメーターで解析することにより評価することができる(後述の実施例3参照)。また、抗原への結合活性は、上記した通り、例えば、後述の実施例4に記載の子宮体がん組織の免疫染色により評価することができる。
【0031】
一旦、本実施例に記載の抗体が得られた場合、当業者であれば、その抗体が認識する蛋白質上のペプチド領域(エピトープ)を特定して、その領域に結合する種々の抗体を作製することができる。抗体のエピトープは、標的となる蛋白質のアミノ酸配列から得られたオーバーラップする合成オリゴペプチドへの結合を調べるなどの周知の方法によって決定することができる(例えば、Ed Harlow and D.Lane, Using Antibodies, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press,、米国特許4708871号)。ファージディスプレイによるペプチドライブラリーをエピトープマッピングに用いることもできる。二つの抗体が同一または立体的に重なり合ったエピトープと結合するかどうかは、競合アッセイ法により決定することができる。
【0032】
また、本発明の検査方法に用いる抗体としては、標識物質を結合させた抗体を使用することができる。当該標識を検出することにより、標的蛋白質に結合した抗体量を直接測定することが可能である。標識物質としては、抗体に結合することができ、化学的又は光学的方法に検出できるものであれば特に制限されることはなく、例えば、ペルオキシダーゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンイソチオシアネート(RITC)、アルカリホスファターゼ、ビオチン、及び放射性物質などが挙げられる。
【0033】
さらに、標識物質を結合させた抗体を用いて標的蛋白質に結合した抗体量を直接測定する方法以外に、標識物質を結合させた二次抗体を利用する方法や二次抗体と標識物質を結合させたポリマーを利用する方法などの間接的検出方法を利用することもできる。ここで「二次抗体」とは、上記本発明の抗体に特異的な結合性を示す抗体である。例えば、上記本発明の抗体をウサギ抗体として調製した場合には、二次抗体として抗ウサギIgG抗体を使用することができる。ウサギ、ヤギ、マウスなどの様々な生物種に由来する抗体に対して、使用可能な標識二次抗体が市販されており、本発明の抗体の由来する生物種に応じて、適切な二次抗体を選択し、本発明において使用することができる。二次抗体に代えて、標識物質を結合させたプロテインGやプロテインAなどを用いることも可能である。
【0034】
本発明の免疫組織化学的染色法によれば、子宮体がんの罹患の有無、子宮体がんの存在している部位や状況(転移部位や転移の状況、新たな組織に浸潤していく子宮体がん由来の細胞の存在様式などを含む)を視覚的にとらえることができるため、目視では正常と区別しにくい子宮体がんの検出、特に早期の子宮体がんの検出に有用である。さらに、イメージングサイトメトリー及びフローサイトメトリーにおいては、本発明の抗体によって染色された子宮体がん由来の細胞の定量的な評価を自動的に行うことができる点で有用である。
【0035】
本発明の免疫学的手法においては、複数種の抗体を、各々異なる蛍光色素等で標識して併用することにより、ヒトから分離された生体試料を多重に染色して解析することができる。
【0036】
子宮体がんの患者以外の者、すなわち、子宮体がんが認定されていない者を対象として、上記方法を実施して得られた情報は、子宮体がんの罹患の有無の判定評価等に利用できる。本発明の方法に基づけば、染色性という客観性に優れた指標を基に子宮体がんの診断を行うことができる。
【0037】
一方、子宮体がんの患者を対象として、上記方法を実施して得られた情報は、当該患者の病態の評価ないし把握、治療効果の評価などに利用できる。例えば、子宮体がんの治療と並行して本発明の方法を実施すれば、結果として得られる情報を基に治療効果を評価することができる。具体的には、薬剤投与後に本発明の方法を実施することで病理組織における染色性の変化を調べ、染色部位の増減の推移から治療効果を判定することができる。このように本発明の方法を治療効果のモニターに利用してもよい。
【0038】
被検体における子宮体がんの診断は、通常、医師(医師の指示を受けた者も含む。以下同じ。)によって行われるが、本発明の方法によって得られる、病理組織におけるCRELD1遺伝子等の発現量に関するデータは、医師による診断に役立つものである。よって、本発明の方法は、医師による診断に役立つデータを収集し、提示する方法とも表現しうる。
【0039】
また、本発明は、上記本発明の抗体又はそれらの組み合わせを有効成分とすることを特徴とする子宮体がんの検査薬を提供する。本発明の検査薬に用いる抗体は、上記した通り、標識したものであってもよい。本発明の検査薬は、抗体成分の他、組成物として許容される他の成分を含むことができる。このような他の成分としては、例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩、標識化合物、二次抗体などが挙げられる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D−マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、ジエチリン亜硫酸塩、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としてはアジ化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。
【0040】
また、上記本発明の検査薬の他、標識の検出に必要な基質、陽性対照や陰性対照、あるいは試料の希釈や洗浄に用いる緩衝液等を組み合わせることができ、子宮体がんの検出用キットとすることもできる。また、標識されていない抗体を抗体標品とした場合には、当該抗体に結合する物質(例えば、二次抗体、プロテインG、プロテインAなど)を標識化したものを組み合わせることができる。さらに、かかる子宮体がんの検出用キットには、当該キットの使用説明書を含めることができる。
【0041】
さらに、本発明は、本実施例に記載の抗体の軽鎖CDR1〜CDR3を含む軽鎖可変領域と、重鎖CDR1〜CDR3を含む重鎖可変領域を保持する抗体あるいはそれらのアミノ酸配列変異体をも提供する。具体的には、以下の抗体である。
<抗CRELD1蛋白質抗体>
(a)配列番号:1〜3に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:4〜6に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、CRELD1蛋白質に結合する抗体
<抗GRK5蛋白質抗体>
(b)配列番号:7〜9に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:10〜12に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、GRK5蛋白質に結合する抗体
<抗SLC25A27蛋白質抗体>
(c)配列番号:13〜15に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:16〜18に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、SLC25A27蛋白質に結合する抗体
<抗STC2蛋白質抗体>
(d)配列番号:19〜21に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:22〜24に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、STC2蛋白質に結合する抗体。
【0042】
さらに、本発明は、本実施例に記載の抗体の軽鎖可変領域と、重鎖可変領域を保持する抗体あるいはそのアミノ酸配列変異体をも提供するものである。具体的には、以下の抗体である。
<抗CRELD1蛋白質抗体>
(a)配列番号:26に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:28に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、CRELD1蛋白質に結合する抗体
なお、配列番号:26に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子のDNA配列を配列番号:25に示し、配列番号:28に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子のDNA配列を配列番号:27に示す。
<抗GRK5蛋白質抗体>
(b)配列番号:30に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:32に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、GRK5蛋白質に結合する抗体
なお、配列番号:30に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子のDNA配列を配列番号:29に示し、配列番号:32に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子のDNA配列を配列番号:31に示す。
<抗SLC25A27蛋白質抗体>
(c)配列番号:34に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:36に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、SLC25A27蛋白質に結合する抗体
なお、配列番号:34に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子のDNA配列を配列番号:33に示し、配列番号:36に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子のDNA配列を配列番号:35に示す。
<抗STC2蛋白質抗体>
(d)配列番号:38に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:40に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、STC2蛋白質に結合する抗体
なお、配列番号:38に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子のDNA配列を配列番号:37に示し、配列番号:40に記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子のDNA配列を配列番号:39に示す。
【0043】
これら抗体は、上記の本発明の子宮体がんの検査方法に用いることができるが、その他、標的となる蛋白質を検出するための研究目的や子宮体がんの治療目的に用いることも考えられる。ヒトの治療目的に用いる場合には、キメラ抗体、ヒト化抗体、あるいはヒト抗体であることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1] SST−REXの実施
細胞表面に発現している膜あるいは分泌遺伝子情報を網羅的に得るために各種ヒト細胞からSST−REXを実施した。
【0046】
(1)cDNAの作製
ヒト由来のがん細胞2×10個をTrizol(R)(invitrogen社製、カタログ番号:15596−026)1mlに懸濁して5分放置し、クロロフォルムを200μl添加して15秒間懸濁後、12,000×gで15分間遠心した。この遠心後の上清と500μlのイソプロパノールを混ぜ合わせた後、12,000×gで10分間遠心した。得られたペレットを80%エタノールで洗浄し、全RNA200μg以上を得て、以後の実験に供した。
【0047】
得られた全RNAすべてを100μlの水に溶かし、FastTrack2.0 mRNA Isolation kit(invitrogen社製、カタログ番号:K1593−02)を用いて、mRNA 3μgを得た。SuperScriptTM Choice System(invitorgen社製、カタログ番号:18090−019)を用いて、得られたmRNAから2本鎖cDNAの作製を行った。
【0048】
(2)pMX−SSTベクターへのcDNA配列の組み込み(キメラ化)
レトロウイルスベクターpMX−SSTに得られたcDNAを組み込むためにpMX−SSTベクター(Nature Biotechnology 17:487−490(1999) 参照)5μgを制限酵素BstXIを用いて、100μlの反応系で45℃で4時間切断処理した。反応液すべてを1%アガロースゲルにて電気泳動し、ベクター部位に相当する約5000塩基の長さのDNA断片を切り出した。さらにWizard(R) SV Gel and PCR Clean−Up System(promega社製、カタログ番号:A9282)を用いて、約5000塩基の長さのDNA断片を精製した。このようにして得られたDNA断片をpMX−SSTベクターをBstXIで制限酵素処理したものとし、これを1μl当たり50ナノグラム含む水溶液となるよう調製した。
【0049】
先に調製した2本鎖cDNAは、平滑末端であり、BstXIで制限酵素処理したpMX−SSTと直接結合させることはできない。そこで、2本鎖cDNAの両端にBstXIの制限酵素切断後のDNA配列を持たせるための作業を行った。BstXI Adapter(invitorgen社製、カタログ番号:N408−18)9μgを10μlの水に溶かしたBstXI Adapter水溶液に2本鎖cDNAを溶かした。これにLigationHigh(TOYOBO社製、コード番号:LGK−201)を5μl添加し、懸濁して、16℃で16時間反応させて、BstXI Adapterと2本鎖cDNAとを結合させた。その後、SuperScriptTM Choice System(invitorgen社製、カタログ番号:18090−019)に添付のサイズ分画カラムを用いて、鎖長が約400塩基以下のDNA断片を除去した。その後、得られた容量の10分の1量の3M酢酸ナトリウムと2.5倍量のエタノールを添加し、転倒混和した後、20,400×gで30分遠心した。遠心後の上清を除去して得た沈殿を15μlの水に溶かし、1.5%のアガロースゲルにて電気泳動した。その後、約500塩基から約4000塩基の長さを持った2本鎖cDNA断片とBstXI Adapterとの結合体を含んだゲルを切り出し、Wizard(R) SV Gel and PCR Clean−Up System(promega社製、カタログ番号:A9282)を用いて、2本鎖cDNAとBstXI Adapterとの結合体を精製した。
【0050】
BstXIで制限酵素処理したpMX−SSTベクター50ng、取得した2本鎖cDNAとBstXI Adapterとの結合体の全量、およびT4 DNA ligaseを、20μlの反応系にて室温で3時間処理し、pMX−SSTベクターをBstXIで制限酵素処理したものと上記結合体とを結合させた。反応液の組成は能書にしたがって調整した。
【0051】
(3)cDNAライブラリの増幅
pMX−SSTベクターを用いて構築したcDNAライブラリを大腸菌に導入して増幅を行った。cDNAライブラリに、5μgのtRNA、12.5μlの7.5M酢酸ナトリウム、および70μlのエタノールを加え、転倒混和した後、20,400×gで30分遠心し、上清を捨て沈殿を得た。得られた沈殿に500μlの70%エタノールを加え、20,400×gで5分遠心し、上清を捨て得られた沈殿を10μlの水に溶かした。cDNAを大腸菌内で増幅させるために、そのうちの2μlを、コンピテントセル(invitrogen社製、カタログ番号:18920−015)23μlと混ぜ、1.8kVの条件でエレクトロポレーションを行い、1mlのSOC培地に全量を懸濁した。この作業を2回行い、大腸菌を懸濁したSOC培地を37℃で90分間、振とう培養した。その後、この培養溶液全量を、培地1ml当たりアンピシリン100μgを含むLB培地500mlに投入し、37℃で16時間、振とう培養した。
【0052】
cDNAライブラリの大腸菌への導入数、およびpMX−SSTベクターと結合したcDNAの鎖長を確認するために、培養液5μlを取り出し、50μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天培地にプレーティングした。
【0053】
その結果、5μlをプレーティングしたLB寒天培地に150個のコロニーの生育が見られた。これにより培養液500ml中に1.5×10個の独立したcDNAライブラリがあると考えられた。また、コロニーのうち任意の16個についてプラスミドを抽出し、制限酵素BstXIで制限酵素処理し、処理物を1%アガロースゲルにて電気泳動を行い、pMX−SSTベクター上のcDNAの長さを計測した。その結果、平均値は約1000塩基であった。
【0054】
残りの培養液から集菌し、10 NucleoBond(R) AX 500 columns(日本ジェネティクス社製、カタログ番号:740574)を用いてプラスミドを精製し、増幅されたcDNAライブラリ系を確立した。
【0055】
(4)cDNAライブラリのパッケージングおよびSST−REX法の実施
cDNAライブラリ由来遺伝子が組み込まれたpMX−SSTレトロウイルスベクターRNAを含むレトロウイルスを産生させるため、ウイルスパッケイジング細胞Plat−E(Gene Ther. 7(12):1063−6(2000)Jun)2×10個を、4mlのDMEM培地(Wako社製、コード番号:044−29765)を含む6cmディッシュに懸濁し、37℃で5%COの条件で24時間培養した。一方、100μlのopti−MEM(GIBCO社製、製品番号:31985070)と9μlのFugene(Roche社製、製品コード:1814443)を混ぜ、5分室温で放置後、3μgのcDNAライブラリを添加し、15分室温で放置した。cDNAライブラリを含む溶液を、培養後のPlat−E細胞に滴下し、24時間後に上清を入れ替えて同一条件で培養を続けた。さらに24時間後の上清を0.45μmのフィルターを通してろ過した。
【0056】
この取得したろ過上清0.5mlを、4×10個のBa/F3細胞を含むRPMI−1640(コージンバイオ株式会社製)培地9.5mlが入れられた10cmディッシュ中に加えた。
【0057】
さらに10μlのポリブレン(CHEMICON社製、カタログ番号:TR−1003−G)と10ngのIL−3を添加し、24時間培養した。その後、細胞を3回RPMI−1640培地で洗浄し、新しいRPMI−1640培地200mlに懸濁して96ウェルプレート20枚に均等分量になるようにまき、Ba/F3細胞の自律増殖能に基づくセレクションおよびクローニングを試みた。10日後から20日後までに増殖が見られた細胞をSST−REXに基づいて選抜されたものとし、該細胞が各ウェルいっぱいに増殖するまでさらに培養を続けた。
【0058】
(5)SST−REXで得られた遺伝子産物の解析
各ウェルから得られた細胞の半分量は拡大培養して、ストック細胞とした。さらに、ストック細胞を培養して、組み込まれたcDNA由来のペプチド分子を細胞外に発現するトランスフェクタントBa/F3細胞(以下、「SSTクローン細胞」とも言う)を、抗体作製のための免疫原細胞として、また、スクリーニング対象の細胞として用いた。各ウェルから得られた細胞の残り半分からはゲノムを抽出してシークエンスを行い、導入されたcDNA由来の遺伝子を解析した。シークエンスにおいては、得られたゲノムに対して、LA taq DNA polymerase(TaKaRa社製、製品番号:#RR002)またはPrimeSTAR MAX DNA polymerase(TaKaRa社製、製品番号:#R045A)を用いて、PCRを行った。PCRプライマーには、以下の配列を用いた。

SST3’側−T7 5’−TAATACGACTCACTATAGGGCGCGCAGCTGTAAACGGTAG−3’(配列番号:41)
SST5’側−T3 5’−ATTAACCCTCACTAAAGGGAGGGGGTGGACCATCCTCTA−3’(配列番号:42)

PCR産物をWizard(R) SV Gel and PCR Clean−Up System(promega社製、製品番号:A9282)などを用いて精製した。
【0059】
その後、精製したPCR産物について、BigDye Terminator v3.1 Cycle sequencing(ABI社製、カタログ番号:4337456)およびDNAシークエンサーABI3100XLを用いて、シークエンスを行った。シークエンスのプライマーには以下のものを用いた。

SST5’側−T3 5’−ATTAACCCTCACTAAAGGGAGGGGGTGGACCATCCTCTA−3’(配列番号:42)

得られたシークエンスデータは、BLAST検索(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)とSignalP 3.0 Server(http://www.cbs.dtu.dk/services/SignalP/)を利用して解析した。
【0060】
[実施例2] モノクローナル抗体の作製
免疫動物はマウスBALB/cを使用し、まず、免疫賦活剤として、TiterMax Gold(Alexis Biochemicals社製、カタログ番号:ALX−510−002−L010)を等量のPBSと混和して乳化したもの50μlを投与した。翌日、SSTクローン細胞を免疫原細胞として5×10個投与し、さらに免疫原細胞を2日おきに4回注入した。最初の免疫から約2週間後、摘出した二次リンパ組織をすりつぶし、抗体産生細胞を含む細胞集団を得た。それらの細胞と融合パートナー細胞を混合し、ポリエチレングリコール(MERCK社製、カタログ番号:1.09727.0100)を用いた細胞融合によりハイブリドーマ]を作製した。融合パートナー細胞としては、マウスミエローマ細胞P3U1(P3−X63−Ag8.U1)を用いた。
【0061】
ハイブリドーマは、HAT(Sigma−Aldrich社製、製品番号:、H0262)、5% BM−condimed(Roche社製、カタログ番号:663573)、15%FBS、1%ペニシリン/ストレプトイマイシン溶液(GIBCO社製、カタログ番号:15140−122、製品名:Penicillin−streptomycin liquid(以降「P/S」と略す))を含むRPMI1640(Wako社製)選択培地で10〜14日間培養した。次に、実施例3に示すフローサイトメトリーにより免疫原細胞に反応し、免疫原細胞に抗原遺伝子を含まないBa/F3細胞(陰性対照細胞)に反応しないハイブリドーマを選択した。限界希釈によりモノクローン化し、免疫原細胞が発現するSST−REX由来の遺伝子に対する抗体を産生するハイブリドーマクローンを得た。
【0062】
得られたハイブリドーマは、必要量HT(製品名:HT media supplement(50X)Hybri−Max 、Sigma−Aldrich社製、製品番号:H0137)、15% FBS、1% P/S溶液を含むRPMI−1640培地を用いて、維持した。
【0063】
モノクローン化されたハイブリドーマから精製された抗体の取得は、次のように行った。ハイブリドーマを無血清培地(製品名:Hybridoma−SFM、GIBCO社製、カタログ番号:12045−076)に馴化して拡大培養後、一定期間培養して培養上清を得た。次いで、この培養上清に含まれるIgG画分をProtein A セファロース(GEヘルスケア社製、コード番号:17−1279−03)、MAPS−II結合バッファー(BIO−RAD社製、カタログ番号:153−6161)、MAPS−II溶出バッファー(BIO−RAD社製、カタログ番号:153−6162)を用いて精製した。溶出されたIgGをPBSで透析し、精製抗体画分を得た。
【0064】
[実施例3] フローサイトメトリーを用いた抗体スクリーニング
得られた抗体と、各種細胞(目的遺伝子を発現するBa/F3細胞、目的遺伝子を発現していないBa/F3細胞など)との反応性を、フローサイトメトリーを用いて解析した。
【0065】
本実施例においては、細胞懸濁バッファーおよび以降の洗浄バッファーには、0.5% BSAと2mM EDTAを含有するPBSを用いた。抗体と反応させる各種細胞(対象細胞)を、96穴プレート(BD Falcon社製、カタログ番号:353911)に、細胞懸濁液が1ウェルあたり5×10個の細胞を含み100μlに成るよう調整し、分注した。
【0066】
細胞懸濁液の各サンプルに、ハイブリドーマ培養上清あるいは2μg/mlの精製抗体(以降、「抗体溶液」と称する)50μlを添加し、抗体と細胞とを反応させた。抗体溶液のアイソタイプ対照としては、mouse IgG1(BioLegend社製、カタログ番号:400412)、mouse IgG2a(BioLegend社製、カタログ番号:400224)、mouse IgG2b(BioLegend社製、カタログ番号:400324)をそれぞれ2μg/mlづつ含む洗浄バッファーを用いた。ハイブリドーマの培養上清と対象細胞を室温で30分反応後、700×gで2分間の遠心を行って培養上清を除去し、さらに洗浄バッファーを100μl加え、再度700×gで2分間の遠心を行って上清を除去し、細胞を洗浄した。
【0067】
次に、洗浄後の細胞ペレットに、検出用2次抗体として、Goat anti−mouse IgG, F(ab’)2−PE(Beckman Coulter、IM0855)を洗浄バッファーで200倍に希釈したものを50μl添加し、暗所において室温で30分反応させた。反応後、700×gで2分間の遠心を行って上清を除去し、さらに洗浄バッファーを100μl加え、再度700×gで2分間の遠心を行って上清を除去し、細胞を洗浄した。その後、適当量の洗浄バッファーで細胞を懸濁し、フローサイトメトリー(Beckman Coulter社製、製品番号:FC500MPL)により、抗体と細胞の反応性について解析した。
【0068】
反応性の測定では、前方散乱と側方散乱の測定値より生細胞を選択するようにゲートをかけた。選択された生細胞に対して抗体との反応性に基づくPEの蛍光強度を測定し、アイソタイプ対照の反応強度を基準として、免疫原細胞に対して有意に反応性が認められるが、陰性対照細胞に対して反応性が認められない培養上清を産生するハイブリドーマ細胞を候補クローンとして選択した。
【0069】
[実施例4] 子宮体がんを検出するためのモノクローナル抗体セットの確立
前記スクリーニングによって得られたハイブリドーマ培養上清(モノクローナル抗体)及び後述の市販抗体(子宮体がんにおいて高発現しているとして報告されている抗原を認識する抗体)の中から、子宮体がんに対する特異性の高い抗体を選抜するために、免疫組織化学的染色のよるスクリーニングを行った。
【0070】
なお、免疫組織化学的染色は以下の通りに行った。
(免疫組織化学的染色)
OCTコンパウンド(サクラファインテック株式会社製)で包埋した凍結組織から厚さ5μmの凍結切片を得た。なお、用いた組織は国立がん研究センターの倫理委員会を通した、手術後のがん組織、及びその周辺の正常組織である。得られた凍結切片を4%パラホルムアルデヒド溶液中に4℃で10分間浸漬し、凍結切片中の組織等を固定し、超純水ですすいだ。3%過酸化水素水/メタノール溶液に30分間浸漬し、内在性ぺルオキシダーゼの活性を阻害し、PBSで5分間2回すすいだ。室温下で30分間5%スキムミルク/PBSに浸漬し、非特異的蛋白質の吸着を阻害した。スキムミルク/PBSを除去した後に、以下のものを添加し、室温下で1時間インキュベートした。
・前記スクリーニングによって得られたハイブリドーマの培養上清(1:250)
・市販のマウス由来のモノクローナル抗体
抗CA125モノクローナル抗体(Covance社製、1:40)、抗CA15−3モノクローナル抗体(コスモバイオ社製、1:625、抗CD44v6モノクローナル[CD44 variant 6]抗体(ミリポア社製、1:250)、抗CD64モノクローナル抗体、抗Cdk2[cyclin−dependent kinase 2]モノクローナル抗体、抗Ezrinモノクローナル抗体、抗MSH2モノクローナル抗体、抗MUC1モノクローナル抗体、及び、抗Syndecan1モノクローナル抗体(Santa Cruz社製、1:50)、抗EpCAM1モノクローナル抗体(AbD Serotec社製、1:250)、抗FcγRI[Fc fragment of IgG receptor]モノクローナル抗体(R&D systems社製、1:250)、抗panCEACAM[pan carcinoembryonic antigen cell adhesion molecule]モノクローナル抗体(Alexis社製、1:250)
・市販のヤギ由来のポリクロ―ナル抗体
抗HE4[human epididymis protein 4]ポリクロ―ナル抗体、抗HP1γ[heterochromatin protein 1γ]ポリクロ―ナル抗体、抗IMP3[insulin−like growth factor 2 mRNA binding protein 3]ポリクロ―ナル抗体、及び、抗XTRP3[X transporter protein 3]ポリクロ―ナル抗体(Santa Cruz社製、1:50)
・市販のウサギ由来のポリクロ―ナル抗体
抗Midkineポリクロ―ナル抗体(abcam社製、1:250)、及び、抗Calpain13ポリクロ―ナル抗体(Santa Cruz社製、1:50)
なお、ハイブリドーマの培養上清及び抗体に関する記載において括弧内の数値は各々の抗体等を使用した際の希釈率を示すものである。また、抗EpCAMモノクローナル抗体は、子宮体がん組織及び正常子宮体の上皮を強く染色することができるので、ポジテチィブコントロールとしてを用いた。
【0071】
以上の抗体等でインキュベートした後、PBSで5分間、2回すすぎ、切片をHRP標識2次抗体で室温下で30分間インキュベートした。そして、PBSで5分間、さらに2回すすいだ後、DAB+(3,3’−ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド)基質キット(Dako社製)で5分間インキュベートした。最後に切片をリンスし、へマトキシリン溶液で対比染色し、光学顕微鏡で10倍に拡大し観察した。
【0072】
免疫組織化学的染色の評価は、患者の予後に関する情報を知らされていない婦人科医学の専門家が行った。また、染色強度は下記基準に基づき評価した
(−)染色されていないか、弱く染色されている
(+)適度に染色されている
(2+)強く染色されている。
【0073】
前記免疫組織化学的染色の方法を用い、先ず、第一段階のスクリーニングとして、ハイブリドーマの培養上清104種を用いた子宮体がん組織の凍結切片(N=1)及び正常子宮体の凍結切片(N=3)の免疫組織化学的染色を行った。得られた結果は表1に示す。なお、表1〜3において、「EC」は「子宮体がん組織」を、「N」は「正常な子宮体」を示し、影が付された項目は各スクリーニングにおいて選択された培養上清又は抗体であることを示す。第一段階のスクリーニングの結果、子宮体がんの検出が可能なモノクローナル抗体の候補として、正常子宮体では発現しておらず、子宮体がんにしか発現していない抗原を認識できるものとして、32種のハイブリドーマ上清に含有される36種のモノクローナル抗体を選択した。なお、ハイブリドーマ上清とモノクローナル抗体の数が一致しないのは、いくつかのハイブリドーマ上清においては2種以上のモノクローナル抗体が含有されているからである。
【0074】
【表1】

【0075】
次に、第二段階のスクリーニングとして、子宮体がんにおいて高発現しているとして報告されている抗原を認識する18種の抗体を前記36種のモノクローナル抗体に加えた、計54種の抗体による、子宮体がん組織の凍結切片(N=13)及び正常子宮体の凍結切片(N=10)の免疫組織化学的染色を行った。得られら結果は表2に示す。第ニ段階のスクリーニングの結果、正常子宮体には決して反応せず、いくつかの子宮体がんに対して反応した、計21種の抗体を選択した。
【0076】
【表2】

【0077】
最後に、第三段階のスクリーニングとして、第二段階のスクリーニングに用いた凍結切片に更に子宮体がん組織の凍結切片(N=15)及び正常子宮体の凍結切片(N=12)を追加し、子宮体がん組織の凍結切片(N=28)及び正常子宮体の凍結切片(N=22)の免疫染色を前記21種の抗体を用いて行い、正常子宮体では決して発現しておらず、子宮体がんにしか発現していない抗原を認識でき、更にがんの間質部位ではなく、がん細胞を染色することができる、子宮体がんの検出が可能な抗体を選択した。結果は図1〜10及び表3に示す。なお、図1〜10中のスケールバーは200μmを示し、表3において、アスタリスク(*)が付された抗体はがんの間質部位を強く染色する抗体を示し、ダブルアスタリスク(**)が付された抗体はがんの間質部位を弱く染色する抗体を示す。以上の結果、5種のモノクローナル抗体を、正常子宮体には反応せず、子宮体がんのみを検出することのできるモノクローナル抗体として選択した。
【0078】
【表3】

【0079】
前記、免疫組織化学的染色によるスクリーニングでのこった抗体のうち4種については、得られた抗体の抗原としたSSTクローン細胞は以下の通りである
(1)ACT038−617_2D1E12I: Homo sapiens cysteine−rich with EGF−like domains 1 (CRELD1), transcript variant 2, mRNA(NM_015513)
(2)ACT043−113_2F11C3:Homo sapiens G protein−coupled receptor kinase 5 (GRK5), mRNA(NM_005308)
(3)ACT067−116_3A8B14:Homo sapiens solute carrier family 25, member 27 (SLC25A27), nuclear gene encoding mitochondrial protein, mRNA(NM_004277)
(4)ACT004−262_2D4C4:Homo sapiens stanniocalcin 2 (STC2), mRNA(NM_003714.2)。
【0080】
さらに前記4種のモノクローナル抗体については、抗原として用いた各SSTクローン細胞との反応性をフローサイトメーターで検証した。得られた結果は図11〜14に示す。これらの結果から明らかなように、各モノクローナル抗体はそれぞれの抗原に反応することが確認された。
【0081】
また、産生抗体のアイソタイプを、アイソストリップキット(Roche社製、製品番号:1493027)を用いて決定した結果、抗ACT067−116モノクローナル抗体はIgM/kであり、他3種類はすべてIgG2a/kであった。そして、前記5種のモノクローナル抗体を用いて、28の子宮体がん組織の免疫組織化学的染色を行った。得られた結果は表4に示す。
【0082】
【表4】

【0083】
CRELD1(cysteine−rich with EGF−like domains 1)、GRK5(G−protein−coupled receptor kinase 5)、MSH2、SLC25A27(solute carrier family 25, member 27)、STC2(stannimocalcin 2)を各々特異的に認識する、本発明のモノクローナル抗体を用いた子宮体がん組織の免疫組織化学的染色における陽性率は、各々60.7%(17/28)、32.1%(9/28)、35.7%(10/28)、21.4%(6/28)、35.7%(10/28)であった。また、これらモノクローナル抗体の全てを併用した場合、子宮体がん組織の免疫組織化学的染色における陽性率は85.7%(24/28)であった。一方、22の正常子宮体の免疫染色を行った結果、前記5種全てのモノクローナル抗体において、正常子宮体の免疫染色における陰性率は、100%(22/22)であった。これらの結果から明らかなように、本発明の抗体は、子宮体がんと正常な子宮体とを明確に区別することが可能な優れた抗体であり、またこれらの抗体を組み合わせて用いることによって、子宮体がんに対する特異性(感度)の高い子宮体がんの検査薬又は検査方法を提供することができる。
【0084】
[実施例5] 抗体可変領域決定方法
前記4種モノクローナル抗体の可変領域の遺伝子配列を明らかにするため、得られた抗体産生細胞ハイブリドーマ細胞2×10個をTrizol(invitrogen社製、カタログ番号:15596−026)1mlに懸濁し5分放置し、クロロフォルムを200μl添加して、15秒間懸濁後、12,000×gで15分間遠心し、上清を得た。この上清と500μlのイソプロパノールを混合した後、12,000×gで10分間遠心した。得られたペレットを80%エタノールで洗浄し、全RNA40μgを得た。その全量を20μlの水で溶かした。そのうち、全RNA5μg分の溶液を使用して、SuperScriptTM Choice System(invitorgen社製、カタログ番号:18090−019)を用いて、全RNAから2本鎖cDNAを作製した。得られた2本鎖cDNAをエタノール沈殿後、LigationHigh(TOYOBO社製、コード番号:LGK−201)を用いて2本鎖cDNAの5’末端と3’末端を結合させ、そのうち1μlを鋳型としてPCRを行った。プライマーとしては、重鎖と軽鎖の定常領域に対して設計したものを使用した。プライマーの配列は、次の通りである。
【0085】
すなわち、前記 抗ACT038−617抗体、抗ACT043−113抗体、及び抗ACT004−262抗体(IgG2a/k)の重鎖の配列決定には
重鎖5’側gtccacgaggtgctgcacaat(配列番号:43)
重鎖3’側aggtcaaggtcactggctcaggg(配列番号:44)
を使用した
また、前記 抗ACT067−116抗体(IgM/k)の重鎖の配列決定には
重鎖5’側ctctcagcatggaaggacag(配列番号:45)
重鎖3’側gataccctggatgacttcag(配列番号:46)
を使用した
さらに、前記4種モノクローナル抗体の軽鎖の配列決定には
軽鎖5’側aagatggatacagttggtgc(配列番号:47)
軽鎖3’側tgtcaagagcttcaacagga(配列番号:48)
を使用した。
【0086】
PCR産物を1.5%ゲルにて電気泳動を行った後、切り出して精製を行った。精製したDNAを用いてシークエンスを行った。軽鎖については、精製したDNAをクローニングした後、シークエンスを行った。決定された軽鎖の可変領域の塩基配列を配列番号:25、29、33、37に、アミノ酸配列を配列番号:26、30、34、38に、重鎖の可変領域の塩基配列を配列番号:27、31、35、39に、アミノ酸配列を配列番号:28、32、36、40に示す。
【0087】
また、これら可変領域のアミノ酸配列について、UCLの「Andrew C.R. Martin’s Bioinformatics Group」のサイトにおける配列分析(http://www.bioinf.org.uk/abysis/tools/analyze.cgi)を利用してナンバリングし、「Table of CDR Definitions」に記載の基準(http://www.bioinf.org.uk/abs/#kabatnum)に従ってCDR領域を同定した。CDR予測の結果と軽鎖および重鎖のシグナル配列は図15〜18に示す。また、軽鎖のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列を配列番号:1〜3、7〜9、13〜15、19〜21に、重鎖のCDR1、CDR2、CDR3のアミノ酸配列を配列番号:4〜6、10〜12、16〜18、22〜24に示す。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上説明したように、本発明の子宮体がんの検査方法によれば、子宮体がん組織を高い感度と特異性で検出することができる。本発明の抗体は、このような検査のための優れた薬剤となる。本発明の子宮体がんの検査方法においては、子宮体がんから剥離した細胞を検体として用いることにより、生体を侵襲することなく簡便に検査を行うことができる。このように子宮体がんの検査方法および検査薬は、医療上極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトから分離された生体試料における、CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、及びSLC25A27遺伝子からなる群から選択される少なくとも一の遺伝子の発現を検出することを特徴とする子宮体がんの検査方法。
【請求項2】
ヒトから分離された生体試料における、CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、及びSLC25A27遺伝子からなる群から選択される少なくとも一の遺伝子と、MSH2遺伝子及びSTC2遺伝子からなる群から選択される少なくとも一の遺伝子の発現を検出することを特徴とする子宮体がんの検査方法。
【請求項3】
ヒトから分離された生体試料における、CRELD1遺伝子、GRK5遺伝子、SLC25A27遺伝子、MSH2遺伝子、及びSTC2遺伝子の発現を検出することを特徴とする子宮体がんの検査方法。
【請求項4】
遺伝子の発現を蛋白質レベルで検出することを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項5】
抗体を用いて検出することを特徴とする請求項4に記載の検査方法。
【請求項6】
下記(a)〜(c)のうちのいずれかを有効成分とすることを特徴とする子宮体がんの検査薬
(a)CRELD1蛋白質に結合する抗体、GRK5蛋白質に結合する抗体、及びSLC25A27蛋白質に結合する抗体からなる群から選択される少なくとも一の抗体
(b)CRELD1蛋白質に結合する抗体、GRK5蛋白質に結合する抗体、及びSLC25A27蛋白質に結合する抗体からなる群から選択される少なくとも一の抗体と、MSH2蛋白質に結合する抗体及びSTC2蛋白質に結合する抗体からなる群から選択される少なくとも一の抗体との組み合わせ
(c)CRELD1蛋白質に結合する抗体、GRK5蛋白質に結合する抗体、SLC25A27蛋白質に結合する抗体、MSH2蛋白質に結合する抗体、及びSTC2蛋白質に結合する抗体の組み合わせ。
【請求項7】
下記(a)〜(d)のうちのいずれかに記載の抗体
(a)配列番号:1〜3に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:4〜6に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、CRELD1蛋白質に結合する抗体
(b)配列番号:7〜9に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:10〜12に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、GRK5蛋白質に結合する抗体
(c)配列番号:13〜15に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:16〜18に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、SLC25A27蛋白質に結合する抗体
(d)配列番号:19〜21に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:22〜24に記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、STC2蛋白質に結合する抗体。
【請求項8】
下記(a)〜(d)のうちのいずれかに記載の抗体
(a)配列番号:26に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:28に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、CRELD1蛋白質に結合する抗体
(b)配列番号:30に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:32に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、GRK5蛋白質に結合する抗体
(c)配列番号:34に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:36に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、SLC25A27蛋白質に結合する抗体
(d)配列番号:38に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域と、配列番号:40に記載のアミノ酸配列若しくは該アミノ酸配列からシグナル配列が除去されたアミノ酸配列、又はこれらのアミノ酸配列の少なくともいずれかにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列を含む重鎖可変領域とを保持し、STC2蛋白質に結合する抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−21943(P2012−21943A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161808(P2010−161808)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(510097747)独立行政法人国立がん研究センター (35)
【出願人】(306037034)株式会社ACTGen (3)
【Fターム(参考)】