説明

子宮内膜受容性の診断方法

本発明は、基準のリピドームのバイオマーカーに対する脂質バイオマーカー、とくにプロスタグランジンPGE2および/またはPGF2αのパターンを収集し比較することを含む、子宮内膜受容性の非侵襲的な診断方法に関する。本方法は、特に、哺乳動物の雌、好ましくは女性の妊娠の状況を決定するために適用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胚着床に対する子宮内膜受容性を検出するための非侵襲的な方法に関する。本方法は、哺乳動物の雌、好ましくは女性の妊娠の状況(status fertility)を決定するために特に適用可能である。本発明はさらに、前記方法を実行するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
妊娠しようとするカップルの推定12%が不妊に苦しんでおり、また妊娠時の年齢が上がったことから、この数字は増加の傾向にある。不妊夫婦を妊娠させるよう支援すべく、体外受精(IVF)がこれまで以上に用いられている。ルイーズ・ブラウンの誕生につながった1978年に初めて成功したIVF処置以来、多くの技術的および医学的進歩が、効率を向上させるために貢献してきており、最近では、IVF処置を受ける女性の約70%が成功を収めた。それでも患者の約50%がまだ妊娠していないか、または早期流産を経験しているため、当該分野における研究を継続するための一層の努力が科学界の間で求められている。
【0003】
IVFとは、一般的には、女性患者またはドナーから成熟した卵子を回収すること;人工培地での卵子のインキュベーション;患者またはドナーから精子の収集およびその後の準備;精子による卵子の受精;良質の胚のモニタリングおよび選択;ならびにこれらの子宮内腔への移行を含む複数のステップのプロセスである。妊娠が進行できるためには、受容性のある子宮内膜に胚を着床しなければならない。この特定のステップが失敗の大きな割合に関与することがよく認識されていることから、この問題について考えられる原因および解決策を検討することは臨床的に関連性がある。
【0004】
移行された胚の着床は、受容性のある子宮内膜と機能的胚盤胞との間の同調したクロストークを含む[Wang, H., and Dey, SK. 2006. Roadmap to embryo implantation: clues from mouse models. Nature Review Genetics. 7:185-199]。この現象は、月経周期(女性)の19日目および23日目の間にまたがる子宮内膜受容性の自己限定の期間である着床ウィンドウの間にのみ起こり得るものである。これは、通常の月経周期では、適切な子宮内膜受容性につながる、子宮内膜における一連の細胞分子的なイベントを誘発する、卵巣エストロゲンおよびプロゲステロンの局所作用を介して実現される。後者は、50年以上前に提案され、今日もなお子宮内膜受容性を測定するのに好ましい方法である、子宮内膜の日付診のためのNoyesの基準を用いて評価される[Noyes, RW., Hertig, AJ., and Rock, J. 1950. Dating the endometrial biopsy. Fertil Steril. 1:3-25]。今日では、卵子提供IVFの15年の経験に照らして、それは、組織学的評価は臨床的に重要な情報をほとんど追加しておらず、子宮内膜受容性の機能評価に置き換えられるべきであることが、受け入れられている。
【0005】
分子細胞生物学、および新たな分析技術開発の時代は、受容性のある子宮内膜についてのより一貫した予測因子の探索を助けてきた。ステロイドホルモンの誘導に伴い、子宮内膜細胞の表面にあるピノポード(pinopode)、インテグリンなどの接着分子、サイトカイン、成長因子、脂質およびその他のものの存在を含む、子宮内膜受容性の潜在的なバイオマーカーを作製する構造的および分子的メディエーターの多くが、今日までに同定されている[Nikas, G., and Aghajanova. 2002. Endometrial pinopodes: some more understanding on human implantation? Reprod Biomed Online 4 Suppl. 3:18-23; Lessey, BA. 2003. Two pathways of progesterone action in the human endometrium: implications for implantation and contraception. Steroids. 68:809-815; Robb L, Dimitriadis E, Li R, Salamonsen LA., 2002. Leukemia inhibitory factor and interleukin-11: cytokines with key roles in implantation. J Reprod Immunol. 57: 129-141]。例示により、2種のプロスタグランジン(PG)、すなわち、プロスタグランジンE2(PGE2)およびプロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)の産生は、着床ウィンドウが存在する黄体中間期におけるヒト子宮内膜を増加させる[Hoozemans DA et al. Human embryo implantation: current knowledge and clinical implications in assisted reproductive technology. Reprod Biomed Online 2004, 9(6):692-715]。
【0006】
さらに、遺伝子解析およびプロテオミクス解析により、子宮内膜受容性の評価のための新たなエキサイティングなツールが追加されており、ヒトでの着床についてより深い洞察を得るべく、子宮の受容性に関連付けられる分子を同定するために、子宮内膜の生検試料を用いることができる。しかしながら、ヒトでの着床にとって重要である特定の因子が1つも確認されていないことから、これらのアプローチはまだ、日常のIVF診療に適用できるような結果を残していない[Strowitzki, T., Germeyer, A., Popovici, R., et al. 2006. The human endometrium as a fertility-determining factor. Human Reproduction Update. 12:617-630]。さらに、生検依存技術の適用を妨げる主因は、これらの侵襲的な性質、および、着床の必要なエンドポイントを中断させる、適切なタイミングでの子宮内膜生検の必要性にある[van der Gaast, MH., Beier-Hellwig, K., Fauser, BC., et al. 2003. Endometrial secretion aspiration prior to embryo transfer does not reduce implantation rates. Reprod Biomed Online. 7:105-109]。
【0007】
子宮内膜分泌物の分析は、子宮内膜受容性の調査のための新しい、非破壊的な可能性である。重要なのは、子宮内膜液の吸引が妊娠率には影響しないことである[van der Gaast et al., 2003、上にて引用]。このアプローチは、周期の日と関連する個々のタンパク質の信頼できる読み出した値を提供し、ルミネックスシステムを用いたプロテインアレイにおいて効率的であることを証明してきた[Boomsma, CM., Kavelaars, A., Eijkemans, MJC., et al. 2009. Cytokine profiling in endometrial secretions: a non invasive window on endometrial receptivity. Reprod Biomed Online. 18:85-94]ことから、非侵襲的な適用のためのフィールドを開拓した。
【0008】
いくつかの生化学的なマーカーが子宮内膜受容性を評価することで開示されてきた[Giudice, L.C. 1999. Hum Reprod 14 Suppl 2:3-16; Achache, H et al.; Human Reproduction Update, 2006; 12:731-46, Thomas, K et al.; Fertil. Steril. 2003; 80:502-507; WO03062832]が、診療所で用いることができる、女性の胚着床に対する子宮内膜受容性を検出するための特定のかつ信頼性のある分子バイオマーカーの需要がある。
【0009】
メタボロミクスは、細胞、組織、および生体液中の小分子(すなわち、代謝物)の系統的な研究に打ち込む分野である。代謝物は、細胞調節プロセスの最終産物であり、それらのレベルは、遺伝的または環境の変化に対して増幅した生物系の反応とみなすことができる。臨床医は、メタボロームに含まれる情報の小さな部分、例えば、糖尿病をモニタリングするためのグルコースの測定、心臓血管的な健康のためのコレステロールの測定、に何十年も頼ってきた。メタボロームの拡張された、かつ高感度の測定をすることができる、新たな洗練されたメタボロミック解析のプラットフォームおよびインフォマティクスのツールは、既に開発されてきた。
【0010】
脂質は、構造成分(例えば、細胞膜)、エネルギー貯蔵成分として、およびシグナル伝達分子として重要な役割を果たすことが知られている。脂質は、カルボアニオンベースのチオエステル縮合に、および/またはカルボカチオンベースのイソプレン単位の縮合に完全にまたは部分的に由来し得る疎水性または両親媒性小分子として広く定義されている。「リピドミクス」は、分子レベルでの拡張された脂質プロファイル(リピドームの(lipidomic)プロファイル)を測定して特徴づけることにより、脂質に照らして生物学的プロセスを解明することを目的とするメタボロミクスのサブフィールドとみなすことができる。伝統的な臨床脂質測定は、トリグリセリド、コレステロール、またはリポタンパク質の総量を定量化する。しかしながら、血清脂質プロファイルは、分子レベルではより複雑である。現行のリピドミクスプラットフォームは、スフィンゴ脂質、リン脂質、ステロールエステル、アシルグリセロール、ステロール、胆汁酸、脂肪酸、エイコサノイド、プロスタグランジン、およびステロイドなどの複数の脂質のクラスにまたがる何百もの多様な脂質分子種の定量的な特徴づけを可能にする[Seppaanen-Laakso, T and Oresic, M. 2009. How to study lipidomes. J Molec Endocr. 42: 185-190]。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、驚くべきことに、女性からの子宮内膜液の試料中のプロスタグランジンE2(PGE2)、プロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロスタグランジンのレベルが、胚着床に対する子宮内膜受容性と関連しているという発見に基づく。したがって、前記プロスタグランジン、PGE2および/またはPGF2αが、子宮内膜液試料中で決定されたとき、これらを胚着床に対する子宮内膜受容性のバイオマーカーとして用いることができる。
【0012】
一側面において、本発明は、プロスタグランジンE2(PGE2)、プロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロスタグランジンが、子宮内膜液試料中で決定されたときの、前記プロスタグランジンの胚着床に対する子宮内膜受容性のバイオマーカーとしての使用に関する。
【0013】
他の側面において、本発明は、哺乳動物の雌における胚着床に対する子宮内膜受容性を検出するための方法に関し、前記方法は、
a)前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液試料中のプロスタグランジンE2(PGE2)、プロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロスタグランジンのレベルを決定すること;ならびに
b)前記子宮内膜液試料中の前記プロスタグランジンのレベルを、胚着床に対する子宮内膜受容性と関連づけること
のステップを含む。
【0014】
他の側面において、本発明は、哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウを選択するための方法であって、前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中のPGE2レベルおよび/またはPGF2αレベルを決定することを含み、ここで、前記着床ウィンドウは、前記試料中の前記プロスタグランジンPGE2またはPGF2αのうち少なくとも1つのレベルが基準試料との関係において増加するときに選択される、前記方法に関する。
【0015】
他の側面において、本発明は、哺乳動物の雌の妊娠状況を評価するための方法に関し、前記方法は、前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベルならびにこれと前記哺乳動物の雌の妊娠状況(fertility status)との関連性に基づく。
【0016】
他の側面において、本発明は、哺乳動物の雌が胚を受容し着床するのに適した条件下にあるか否かを評価する方法に関し、前記方法は、前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベルならびに胚を受容し着床するための条件との関連性に基づく。特定の態様において、前記哺乳動物の雌は、体外受精(IVF)プロセスの対象となった女性である。
【0017】
他の側面において、本発明は、哺乳動物の雌における子宮内膜の成熟をモニタリングするための方法に関し、前記方法は、前記哺乳動物の雌における子宮内膜液の試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベルならびにこれと子宮内膜の成熟との関連性に基づく。
【0018】
他の側面において、本発明は、哺乳動物の雌における体外受精の方法に関し、前記方法は、前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベルならびにこれと子宮内膜の成熟との関連性に基づくものであって、ここで、前記子宮内膜が成熟であるときに、胚が前記哺乳動物の雌の子宮へ導入される。
【0019】
他の側面において、本発明は、PGE2および/またはPGF2αのための基準脂質を含むキットに関する。哺乳動物の雌における胚着床に対する子宮内膜受容性を検出するための、または哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウを選択するための、または哺乳動物の雌の妊娠状況を評価するための、または哺乳動物の雌が胚を受容し着床するのに適した条件下にあるか否かを評価するための、または哺乳動物の雌における子宮内膜の成熟をモニタリングするための、または、哺乳動物の雌における体外受精の方法における前記キットの使用は、本発明のさらなる側面を構成する。
【0020】
他の側面において、本発明は、子宮内膜受容性を増強することができる化合物を同定するための方法に関する。
他の側面において、本発明は、避妊薬を同定するための方法に関する。
他の側面において、本発明は、脂質組成物に関し、前記脂質組成物は、哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウの間に前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液試料から得られる。哺乳動物の雌における胚着床に対する子宮内膜受容性を決定するための前記脂質組成物の使用は、本発明のさらなる側面を構成する。
【0021】
他の側面において、本発明は、哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウを選択するための方法に関し、
a)前記哺乳動物の雌から子宮内膜液の試料を提供すること;
b)前記試料からリピドームのプロファイルを収集すること;および
c)前記収集されたリピドームのプロファイルを哺乳動物の雌の妊娠状況と関連づけること
のステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、自然の月経周期の間の女性からの子宮内膜液試料とは異なる脂質のレベルを示しており、脂質は、タンデム質量分析と組み合わせて液体クロマトグラフィーにより同定した[A:N−アラキドノイルエタノールアミン(AEA);B:N−パルミトイルエタノールアミン(PEA);C:N−オレオイルエタノールアミン(OEA);D:2−アラキドノイルグリセロール(2−AG);E:N−ステアロイルエタノールアミン(SEA);F:N−リノレオイルエタノールアミン(LEA);G:プロスタグランジンE2(PGE2);H:プロスタグランジンF2アルファ(PGF2α);I:プロスタグランジンF1アルファ(PGF1α)]。
【0023】
【図2】図2は、月経周期の全体にわたり得られた女性の子宮内膜液試料中のプロスタグランジンE2(PGE2)およびプロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)のレベルを示す[I群(0〜8日目);II群(9〜14日目);III群(15〜18日目);IV群(19〜23日目)およびV群(24〜30日目)]。
【0024】
発明の詳細な説明
本発明の目的は、女性における胚を着床するための子宮内膜受容性を検出するための特定のかつ信頼性のあるバイオマーカーを提供することにある。バイオマーカーは、例えば、哺乳動物の雌における胚着床に対する子宮内膜受容性を検出するために、または哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウを選択するために、または哺乳動物の雌の妊娠状況を評価するために、または哺乳動物の雌が胚を受容し着床するのに適した条件下にあるか否かを評価するために、または哺乳動物の雌における子宮内膜の成熟をモニタリングするために、または、哺乳動物の雌における体外受精の方法において、用いることができる。特定の態様において、前記哺乳動物の雌は、女性である。さらなる特定の態様において、前記女性は、体外受精(IVF)プロセスの対象となった女性である。
【0025】
本発明者らは、驚くべきことに、いくつかの脂質化合物を、胚着床に対する子宮内膜受容性のバイオマーカーとして用いることができることを今見出した。特に、本発明者らは、着床ウィンドウと一致する女性の月経周期の19〜21日目の間の子宮内膜液試料中のいくつかの脂質レベルを分析した。これにより、月経周期に沿って子宮内膜液試料中の脂質プロファイルを決定することによって、哺乳動物の雌における着床ウィンドウを同定することが現在可能である。本方法は、哺乳動物の雌からの確立された脂質プロファイルと、基準のリピドームのバイオマーカーとの比較に基づく。特定の態様において、前記哺乳動物の雌は、女性である。
【0026】
特定の態様において、本発明者らは、2種の特定の脂質、すなわちプロスタグランジンPGE2およびPGF2αの濃度が、着床ウィンドウと一致する女性の月経周期の19〜21日目の間の子宮内膜液試料中で有意に増加することを観察した。これにより、月経周期に沿って子宮内膜液試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベルを決定することにより、女性の着床ウィンドウを同定することが、現在可能である。
【0027】
7−[3−ヒドロキシ−2−(3−ヒドロキシオクタ−1−エニル)−5−オキソ−シクロペンチル]ヘプタ−5−エン酸であるPGE2は、天然のプロスタグランジンであり、医学においては「ジノプロストン(dinoprostone)」としてもまた知られており;分娩で重要な効果を有し(子宮頸部を軟化し、子宮収縮を引き起こす)、また、破骨細胞による骨吸収を刺激する因子を放出するための骨芽細胞を刺激する。ジノプロストンは直接血管拡張薬であり、平滑筋を弛緩し、交感神経終末からのノルアドレナリンの放出を阻害することから、他のプロスタグランジンと同様に堕胎薬として用いることができる。
【0028】
(Z)−7−[(1R,2R,3R,5S)−3,5−ジヒドロキシ−2−[(E,3S)−3−ヒドロキシオクタ−1−エニル)シクロペンチル]ヘプタ−5−エン酸であるPGF2αもまた、天然のプロスタグランジンであり、医学においては「ジノプロスト(dinoprost)」としてもまた知られており;医学においては、分娩を誘発するためにおよび堕胎薬として用いられる。
【0029】
したがって、プロスタグランジンPGE2および/またはPGF2αが、子宮内膜液試料中で決定されたとき、哺乳動物の雌、好ましくは女性の胚着床に対する子宮内膜受容性のバイオマーカーとして用いることができる。さらに、前記プロスタグランジン(単数または複数)PGE2および/またはPGF2αが、哺乳動物の雌、好ましくは女性からの子宮内膜液中で決定されたときの、前記プロスタグランジン(単数または複数)の前記哺乳動物の雌における胚着床に対する子宮内膜受容性のバイオマーカー(単数または複数)としての使用は、本発明の一側面を構成する。本明細書において「バイオマーカー」とは、任意の脂質、例えば、PEG2およびPGF2αなどのプロスタグランジンを指し、それらの子宮内膜液中レベル(濃度)は、対象の生理学的状態との関係で変更される。
【0030】
特定の態様において、本発明は、哺乳動物の雌、例えば、女性からの子宮内膜液の試料中のプロスタグランジンPGE2、PGF2α、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロスタグランジンのレベルを、哺乳動物の雌、例えば、女性の胚着床に対する子宮内膜受容性のバイオマーカーとして用いることができるという発見に基づいている。
【0031】
本明細書において用語「子宮内膜液」とは、子宮の内腔に分泌されるすべての化合物が含まれる腺上皮の分泌物を指す[Aplin JD et al. The Endometrium, 2nd. edn: INFORMA healtcare; 2008]。簡単に言うと、子宮内膜は、女性またはヒトまたは非ヒト霊長類などの哺乳動物の雌の子宮壁(平滑筋細胞ならびに支持間質および血管組織からなる子宮壁の筋層または中間層)を裏打ちする表面組織、すなわち、哺乳動物の子宮の内膜を構成する。子宮内膜は、エストロゲンおよびプロゲステロンホルモンに非常に敏感であり、いくつかの機能層からなる。子宮内膜の組織構造は、子宮の内腔に直接接触している上皮を構成する外部細胞層、および子宮内膜の厚さの約80%を構成する、間質と命名される内部細胞層を含む。さらに、子宮内膜は、血管および子宮内膜へその機能的特性を付与する特殊な細胞を含む。子宮内膜上皮は、2つの領域で構築されている連続的な細胞層である内腔の上皮(子宮内膜の表面を裏打ちする上皮細胞)および腺上皮(子宮内膜の表面の下に腺を形成する上皮細胞)を構成し、ここで前記領域は、物理的に異なり、分子的に認識可能である[Brown SE et al. Endometrial glycodelin-A expression in the luteal phase of stimulated ovarian cycles. Fertil Steril 2000, 74(1):130-133]。内腔上皮は、病原体の攻撃に対する物理的な障壁を表しており、その先端面に、子宮内腔の物質の吸収に関与するピノポードと命名される構造を発達させるが、腺上皮は、子宮の内腔に分泌されるすべての化合物を含む子宮内膜液を形成する分泌物に関与する[Aplin JD et al. (2008)、上にて引用]。
【0032】
子宮内膜腺による前記分泌物の関連性は、前記腺の形成における阻害が妊娠の開始を不可能にする家畜モデルにおいて示されている[Gray CA et al. Evidence that absence of endometrial gland secretions in uterine gland knockout ewes compromises conceptus survival and elongation. Reproduction 2002, 124(2):289-300]。したがって、ヒトにおける直接的な証拠はないものの、欠損した子宮内膜腺活性が妊娠障害を引き起こし得ることが提唱されている[Burton GJ et al. Human early placental development: potential roles of the endometrial glands. Placenta 2007, 28 Suppl A:S64-69]。したがって、興味深いことに、従前から報告されてきたように[van der Gaast et al. The feasibility of a less invasive method to assess endometrial maturation-comparison of simultaneously obtained uterine secretion and tissue biopsy. BJOG 2009, 116(2):304-312]、子宮内膜液の組成は、子宮内膜全体ではなく、子宮内膜腺活性に依存する。van der Gaastらは、子宮内膜組織でのレベルに対して子宮内膜液でのレベルが異なっており、互いに対応しないいくつかのタンパク質を示す。
【0033】
したがって、本発明は、哺乳動物の雌における胚着床に対する子宮内膜受容性を検出するための方法およびキット;哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウを選択するための方法およびキット;哺乳動物の雌が胚を受容し着床するのに適した条件下にあるか否かを評価するための方法およびキット;子宮内膜の成熟をモニタリングするための方法およびキット;ならびに哺乳動物の雌における体外受精のための方法およびキットを提供する。特定の態様において、前記哺乳動物の雌は、ヒトまたは非ヒト霊長類の雌、好ましくは女性である。さらなる特定の態様において、前記女性は、体外受精(IVF)プロセスの対象となった女性である。別の特定の態様において、本方法は、前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液試料中のPGE2、PGF2α、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロスタグランジンのレベルを検出することを含む方法であって、ここで前記プロスタグランジンのレベルは、胚着床に対する子宮内膜受容性と関連している。別の態様において、本方法は、前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液試料中の、哺乳動物の雌の月経周期の複数の段階から得られた1または2以上の子宮内膜液試料中の、PGE2および/またはPGF2αのレベル(単数または複数)を検出することを含む。別の態様において、本方法は、前記哺乳動物の雌における子宮内膜液の試料からリピドームのプロファイルを収集すること、および前記収集されたリピドームのプロファイルを前記哺乳動物の雌の妊娠状況と関連づけることを含む。
【0034】
一態様において、本発明の方法は、前記プロスタグランジン、PGE2およびPGF2αのレベルが、月経周期中の子宮内膜液の一時的なパターンに従い、そして前記子宮内膜液中の前記プロスタグランジンのレベルが、着床ウィンドウ、すなわち、子宮内膜が受胎に対して受容性がある間の時間ウィンドウの間に増加するという発見に基づく。
【0035】
他の側面において、本発明は、哺乳動物の雌における胚着床に対する子宮内膜受容性を検出するための方法(以下「本発明の方法[1]」という)に関し、前記方法は、
a)前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液試料中のプロスタグランジンE2(PGE2)、プロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロスタグランジンのレベルを決定すること;ならびに
b)前記子宮内膜液試料中の前記プロスタグランジンのレベルを、胚着床に対する子宮内膜受容性と関連づけること
のステップを含む。
【0036】
本明細書中における用語「胚着床に対する子宮内膜受容性」とは、子宮内膜受容性ウィンドウの間の子宮内膜の状態を指す。用語「子宮内膜受容性ウィンドウ」とは、理想的なヒトの28日月経周期の19〜21日目の間の期間を指す。同様の周期が他の哺乳動物で知られており、本明細書に記載の方法をかかる周期に適応させることは、当該技術分野の範囲内である。
【0037】
さらに、本明細書中における用語「哺乳動物」は、任意の哺乳動物、例えば、ヒトおよび非ヒト霊長類、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、イヌなどが含まれる。好ましい特定の態様において、前記哺乳動物は、女性である。用語「女性」は、ヒトの女性を指す。いくつかの態様において、本発明の方法の範囲内の哺乳動物の雌は、女性であり、月経周期の段階は、初期分泌期および中期分泌期からなる群から選択される。
【0038】
本発明によれば、研究対象の哺乳動物の雌(例えば、女性)の子宮内膜液の試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベルが決定される。子宮内膜液試料を、従来の手段によって、前記哺乳動物の雌から採取することができる。例示としては、女性からの子宮内膜液の試料を、例1で述べたように、すなわち、穏やかに子宮頸部経由で子宮腔へ空の柔軟なカテーテルを導入し、注射器で徐々に吸引を行うことによって、得ることができる。主要な課題の1つは、適切な純度の試料の収集にあることから、カテーテル抜去時の子宮頸管粘液による汚染を防止するために、胚移行カテーテルのアウターシースは、吸引を行った後に、外子宮口から適切な深さまで前進し、その後、子宮頸管粘液は、子宮内膜分泌物の吸引前に吸引される。さらに、一般的に子宮内膜液は、結果に影響を与える可能性がある細胞を含まないが、一態様において、ひとたび子宮内膜液試料が抽出されれば、試料は、試料中に存在し得るあらゆる最終的な細胞成分を除去するために遠心分離に供される。満足いく数の子宮内膜液試料を良好な試料収集の実施と組み合わせると、誤った結果を避けるのに十分となるであろう。
【0039】
哺乳動物の雌における胚着床に対する子宮内膜受容性のより信頼性の高い検出を得るために、月経周期に沿って子宮内膜液試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベルを決定するのが好ましい。したがって、本発明の方法[1]は、毎日、あるいは2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27または28日のそれぞれで実行することができ、これにより子宮内膜液試料中のプロスタグランジンPGE2および/またはPGF2αの発現プロファイルを全月経周期に沿って決定することができる。典型的に、女性では、子宮内膜液試料は、増殖期(月経周期1〜14日目、またはLHピークの前)、初期分泌期(月経周期15〜19日目、またはLHピーク後1〜5日目)、中期分泌期(月経周期20〜24日目、またはLHピーク後6〜10日目)、および後期分泌期(月経周期25〜28日目、またはLHピーク後11〜14日目)の間に得ることができる。本発明によれば、胚着床に対して子宮内膜受容性がある間の子宮内膜液中のPGE2および/またはPGF2αのレベルは、全月経周期の間に最大となる。
【0040】
胚着床に対する子宮内膜受容性の決定は、IVF、胚移転などの多くの技術において、ならびに、自然に妊娠しようとしているカップルの受胎にとって最適な時期を決定するために特に重要である。
【0041】
本明細書における用語「レベル」は、広い意味を有しており、定量的な量(例えば、重量またはモル)、半定量的な量、相対的な量(例えば、クラスまたは比率内の重量%またはモル%)、濃度などを意味することができる。特定の態様において、PGE2およびPGF2αのレベルは、液体のモル/グラムで表される[この場合は、試料は液体であったが、その少ない容量のため、試料を秤量し、前記化合物の重量を参照することによって表した(値は正規に標準化した)]。
【0042】
子宮内膜液試料中のPGE2および/またはPGF2αレベルの決定が、検出されるべき、かつ必要に応じて定量化されるべき脂質の観点から、任意の適切な方法を用いて決定することができ、例示的で非限定的な方法には、薄層クロマトグラフィー(TLC)、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、質量分析(MS)、NMR分光法など、およびこれらの組合せ(例えば、LC/MSなど)が含まれる。特定の態様において、前記脂質(PGE2およびPGF2α)は、タンデムMSと組み合わせたLC[LC/MS/MS]によって同定された。タンデム質量分析には、とりわけ、トリプル四重極、イオントラップ、四重極/飛行時間型の機器が含まれる。これらの機器は典型的に、衝突活性化(断片化)の前に、化合物をその分子量に基づいて単離するための四重極技術、および断片化された成分の質量の分析を用いる。これは、混合物を、質量分析計に適用される試料と同じ質量で他の化合物が混入していない状態のみにまで精製しなければならないことを意味する。これはしばしば、組織からの液−液抽出およびそれに続く固相抽出法によって達成することができる。四重極技術は、約1amuの分解能を提供し;質量分析計内の改善した単離は、より高度な分解能を可能にするTOF/TOF機器を用いて達成される。
【0043】
生体試料からのPGE2およびPGF2αレベルを決定するための代替的な方法が開示されており、例えばVoyksnerおよびBushは、とりわけプロスタグランジンPGE2およびPGF2αを含むアラキドン酸の代謝産物、サーモスプレーHPLC/MS分析が、高感度かつ特異的であることが証明されたことを開示しており[Voyksner, R.D. & Bush, E.D. Determination of prostaglandins, and other metabolites of arachidonic acid by thermospray HPLC/MS using post column derivatization. Biomedical and Environmental Mass Spectrometry, Volume 14, Issue 5:213 - 220 (published online: 13 Apr 2005)];Surrentiらは、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)による、ヒト胃液中のPGE2の分離および定量化のための迅速かつ実用的な方法を開示しており、[Surrenti C. et al., High Performance Liquid Chromatographic Method for Prostaglandin E2 Determination in Human Gastric Juice Without Derivatization. Journal of Liquid Chromatography & Related Technologies, Volume 7, Issue 12 , October 1984, pages 2409 - 2419];ならびに、Bastaniらは、異なる生体試料中のPGF2α誘導体の濃度の決定のために、タンデム質量分析検出と連動した負のエレクトロスプレーイオン化(ESI)とLCに基づいた分析法(LC/MS/MS)を開発した[Bastani, N.E., et al. Determination of 8-epi PGF2α concentrations as a biomarker of oxidative stress using triple-stage liquid chromatography/tandem mass spectrometry. Rapid Communications in Mass Spectrometry, Volume 23 Issue 18, pages 2885 - 2890 (published Online: 10 Aug 2009)]。生体試料中の脂質を検出し、必要に応じて定量化するための別の適切な方法では、脂質を標識するための安定同位体トレーサーを採用している。
【0044】
特定の態様において、PGE2およびPGF2αレベルを、タンデム質量分析(MS)と組み合わせた液体クロマトグラフィー(LC)[LC/MS/MS]を用いて測定する。
【0045】
PGE2および/またはPGF2αのレベルは、定量的および/または半定量的分析に基づくことができる。例えば、半定量的な方法は、絶対的または相対的数値を付与することなく、しきい値以上の特定の脂質(PGE2および/またはPGF2α)代謝物(単数または複数)のレベルを決定するか、または異なる脂質代謝物の比率を決定するために用いることができる。定量的な方法は、生体試料中の特定の脂質代謝物(単数または複数)の相対的または絶対的な量を決定するために用いることができる。
【0046】
半定量的な方法では、しきい値またはカットオフ値を、当技術分野で公知の任意の手段によって決定することができ、それは、必要に応じて、予め決定された値である。特定の態様において、しきい値を、例えば、アッセイの過去の経験および/または哺乳動物の雌(例えば、女性)の集団に基づいて定められているというような意味合いで予め決定される。また、用語「予め決定された」値とは、具体的な値がアッセイごとに異なり、あるいは各アッセイ毎に決定され得る場合であっても、しきい値に到達する方法は予め決定されているか、定められていることを示すことができる。
【0047】
別の側面において、本発明は、哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウを選択するための方法(以下、「本発明の方法[2]」という)であって、前記哺乳動物の雌における子宮内膜液の試料中のPGE2のレベル、PGF2αのレベル、またはPGE2およびPGF2αの両方のレベルを決定することを含み、ここで前記着床ウィンドウは、前記試料中の前記プロスタグランジンPGE2またはPGF2αのうち少なくとも1つのレベルが基準試料に関連して増加するときに選択される、前記方法に関する。
【0048】
本明細書中における表現「選択するための方法」は、哺乳動物の雌(例えば、女性)が、胚着床に対する受容性のある期間にいる確率を決定するための方法に関する。当業者であれば、前記予測は、研究対象の哺乳動物の雌(例えば、女性)の100%に対して正しいわけではないことが分かるだろう。しかしながら、前記表現は、予測方法が、哺乳動物の雌(例えば、女性)のうち統計的に有意な数にとって正しい結果を提供することを必要とし、これは、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983において説明されるとおり、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、またはMann-Whitney検定などの標準的な統計的手法を用いることによって決定することができる。適切な信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、好ましくは、少なくとも90%、または最も好ましくは、少なくとも95%である。好ましくは、p値は、0.2、0.1、または、最も好ましくは、0.05である。
【0049】
本明細書中における用語「着床ウィンドウ」は、子宮内膜が受胎に対し受容性がある間の時間ウィンドウを包含し、ヒトにおいては、これは月経周期の分泌段階に発生する。着床は、黄体形成ホルモン(LH)のサージの後6〜8日目として定義されている。着床ウィンドウは、通常の月経パターンに基づき、予想される月経期間の初日の約7日前として推定することができ、すなわち、これはヒトにおける28日間の理想月経周期の19〜21日目に対応する。同様の周期が他の哺乳動物においても開示されていることから、本発明の方法は、任意の哺乳動物の雌に適応させることができる。
【0050】
PGE2および/またはPGF2αのレベルは、研究対象の哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中で決定される。好ましい特定の態様において、前記哺乳動物の雌は、女性である。子宮内膜液試料は、本発明の方法[1]との関連で述べたような従来の手段によって、哺乳動物の雌から得ることができる。さらに、子宮内膜液試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベルの決定は、本発明の方法[1]との関連で議論したような任意の適切な方法を用いて決定することができる。特定の態様において、PGE2およびPGF2αのレベルを、タンデム質量分析(MS)と組み合わせた液体クロマトグラフィー(LC)[LC/MS/MS]を用いて測定する。
【0051】
本発明の方法[2]によれば、PGE2および/またはPGF2αのレベルの決定は、基準試料中の前記プロスタグランジンのレベルに関連する必要がある。効果的には、着床ウィンドウは、分析された子宮内膜液試料中の前記プロスタグランジンPGE2またはPGF2αの少なくとも1つのレベルが基準試料との関係において増加するときに選択される。本発明によると、研究対象の哺乳動物の雌からの子宮内膜液試料中のPGE2またはPGF2αなどのプロスタグランジンのレベルは、研究対象の子宮内膜液試料中の前記プロスタグランジンのレベルが基準試料に対して少なくとも1.1倍、1.5倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍またはそれ以上であるときに、基準試料中の前記プロスタグランジンのレベル「との関係において増加」する。
【0052】
本明細書における用語「基準試料」は、哺乳動物の雌、例えば女性、から前記哺乳動物の非妊性期の間に得た子宮内膜液試料に関する。非妊性期中の前記プロスタグランジンの産生に関する、異なる哺乳動物の雌(例えば、女性)の間に存在し得る未必的なバラつきにより、典型的には、基準試料は、哺乳動物の雌の集団の同量の試料を組み合わせることによって得ることができる。特定の態様において、典型的な基準試料は、十分な臨床的資料が揃っている女性から取得される。前記試料において、バイオマーカー(PGE2および/またはPGF2α)の通常の濃度(すなわち、基準濃度)を、例えば、基準集団における平均濃度を確立することにより決定することができる。バイオマーカーの基準濃度を決定するために、例えば、年齢などのいくつかの考慮事項を想定すべきである。例示的には、好ましくは上述の考慮事項(例えば、年齢など)を想定して分類した少なくとも2、少なくとも10、少なくとも100、好ましくは1,000以上の哺乳動物の雌、例えば女性、の群の同量が、参照群として考えられる。
【0053】
特定の態様において、基準試料は、女性からのまたは女性の集団からの子宮内膜液から、前記単数の女性または複数の女性の非妊性期間中に得られる。基準試料は、前記単数の女性または複数の女性の非妊性期間の任意の日に得ることができ、特定の態様において、前記基準試料は、月経周期の15日目前、典型的には月経周期の5〜15日目の間に得られる。予め決定された値は、上記で定義したとおり、月経周期段階の子宮内膜液試料を用いて算出することができる。
【0054】
代替的に、着床ウィンドウのより信頼性の高い決定を得るためには、月経周期に沿ってPGE2および/またはPGF2αのレベルを決定するのが好ましい。したがって、本発明の方法[2]は、毎日、または2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27または28日のそれぞれで実行することができ、これにより前記プロスタグランジンPGE2および/またはPGF2αの発現プロファイルは、全月経周期に沿って決定することができる。典型的に、女性では、子宮内膜液試料は、増殖期(月経周期1〜14日目、またはLHピークの前)、初期分泌期(月経周期15〜19日目、またはLHピーク後1〜5日目)、中期分泌期(月経周期20〜24日目、またはLHピーク後6〜10日目)、および後期分泌期(月経周期25〜28日目、またはLHピーク後11〜14日目)の間に得ることができる。このように、最適な着床ウィンドウは、全月経周期の間にPGE2および/またはPGF2αのレベルが最大に達する期間に対応する。
【0055】
特定の態様において、基準試料は、前記プロスタグランジン(PGE2および/またはPGF2α)のレベルを定量化するために、研究対象と同じ哺乳動物の雌(例えば、女性)の不妊性期から得られ、前記情報は、基準値として用いることができる。
【0056】
別の特定の態様において、基準試料は、一般的な哺乳動物の雌の集団(例えば、女性の集団)の非妊性期の間に得られ、前記プロスタグランジン(PGE2および/またはPGF2α)のレベル(単数または複数)を、基準値を確立するために、定量化し、組み合わせる。
本発明によれば、子宮内膜の分泌物中の生物活性脂質を、それらの相対的なレベルを決定し、着床および妊娠成果との関連性を確立するために分析する。
【0057】
したがって、他の側面において、本発明は、哺乳動物の雌における妊娠状況を評価するための方法に関し、前記方法は、
−前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中のPGE2のレベル、PGF2αのレベル、またはPGE2およびPGF2αの両方のレベルを決定すること、ならびに
−前記プロスタグランジン(単数または複数)PGE2および/またはPGF2αのレベルを妊娠状況と関連づけること
を含む。
【0058】
上記のように得られた、研究対象の哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベルは、本発明の方法[1]との関係において議論したように任意の適切な方法を用いて決定することができる。
【0059】
本方法は、前記哺乳動物の雌の子宮内膜における着床ウィンドウの間の子宮内膜液試料中の前記プロスタグランジン(複数または単数)PGE2および/またはPGF2αのレベルを評価することを目的とする。子宮内膜液中のPGE2および/またはPGF2αのレベルは、子宮内膜受容性および妊娠の可能性と関連する。したがって、本方法によれば、前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベルを知ることで、妊娠するための最適条件が満たされている彼女の月経周期中の最も妊性である日(複数)を知ることができる。
本方法の好ましい特定の態様において、前記哺乳動物の雌は、女性である。
【0060】
他の側面において、本発明は、哺乳動物の雌が胚を受容し着床するのに適した条件下にあるか否かを評価するための方法に関し、前記方法は、
−前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中のPGE2のレベル、PGF2αのレベル、またはPGE2とPGF2αの両方のレベルを決定すること、ならびに
−前記プロスタグランジン(単数または複数)PGE2および/またはPGF2αのレベルを、胚を受容し着床するための条件と関連づけること
を含む。
【0061】
上記のように得られた、研究対象の哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベルは、本発明の方法[1]との関係において議論したように任意の適切な方法を用いて決定することができる。また、本方法は、前記哺乳動物の雌の子宮内膜における着床ウィンドウの間の前記プロスタグランジン(単数または複数)PGE2および/またはPGF2αのレベルを評価することを目的としている。PGE2および/またはPGF2αレベルは、受容する哺乳動物の雌の、胚を受容し着床する条件および受胎の可能性と関連づけられる。再び、本発明によれば、前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベルを知ることで、妊娠するための最適条件が満たされている彼女の月経周期中の最も妊性である日(複数)を知ることができる。
【0062】
特定の態様において、前記哺乳動物の雌は、女性であり、好ましくは体外受精(IVF)プロセスの対象となった女性である。その場合には、PGE2および/またはPGF2αレベルは、受容する女性の、胚を受容し着床する条件および受胎の可能性が関連づけられる。前記女性からの子宮内膜液の試料は、胚の着床前であればいつでも得ることができ、例えば、胚移行の数分(例えば、15分)から数時間(例えば、4〜6時間)前、またはさらには数日(例えば、1、7、14またはそれ以上)前である。特定の態様において、本方法は、胚移行の5〜6時間前に、非破壊的な形式で得られた子宮内膜液について行うものとして計画される。
【0063】
上述のように、子宮内膜受容性のバイオマーカーとして作用する子宮内膜の分泌物内の特定の脂質メディエーターを同定する能力は、IVFプロセスにとって非常に重要である。子宮内膜生検を得る必要性を排除することによって、女性にとってストレスのかかるステップが回避される。さらに、信頼性がないことが証明されている、子宮の形態学的情報のみを提供する超音波エコー検査(ultrasound ecography)または磁気共鳴などの非侵襲的技術の開発にもかかわらず、正しい子宮内膜の日付診が不正確に得られる。本発明は、胚移行の数時間前に子宮の生化学的特性および適切な受容性のある子宮内膜を決定するための、したがって、胚着床が成功する機会を増加させるための方法を提供する。したがって、子宮内膜因子を最適化することにより、着床率を少なくとも5%、典型的には少なくとも10%改善することができる。
【0064】
他の側面において、本発明は、哺乳動物の雌における子宮内膜の成熟をモニタリングするための方法に関し、前記方法は、
a)前記哺乳動物の雌の月経周期の複数段階から得た前記哺乳動物の雌からの子宮内膜の試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベル(単数または複数)を決定すること;ならびに
b)前記プロスタグランジン(単数または複数)のPGE2および/またはPGF2αのレベルを、子宮内膜成熟と関連づけること
のステップを含む。
【0065】
代替的に、本側面によれば、哺乳動物の雌における子宮内膜の成熟をモニタリングするための方法は、
a)前記哺乳動物の雌から子宮内膜液試料を得ること;
b)前記哺乳動物の雌からの前記子宮内膜液試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベル(単数または複数)を決定すること;
c)ステップa)およびb)を、前記哺乳動物の雌の月経周期の複数段階から得た子宮内膜液の試料を用いて繰り返すこと;ならびに
d)前記プロスタグランジン(単数または複数)PGE2および/またはPGF2αのレベル(単数または複数)を、子宮内膜成熟と関連づけること
のステップを含む。
【0066】
上記のように得られた、研究対象の哺乳動物の雌からの子宮内膜液の前記試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベルは、本発明の方法[1]との関係で議論したように任意の適切な方法を用いて決定することができる。
【0067】
本方法によれば、子宮内膜液の試料は、前記プロスタグランジンPGE2および/またはPGF2αのレベルを子宮内膜成熟と関連付けられるようにするために、すなわち、月経周期に沿った子宮内膜の状態を知るために、研究対象の哺乳動物の雌の月経周期の複数段階、例えば女性の理想的な月経の場合では、増殖期(月経周期1〜14日目、またはLHピークの前)、初期分泌期(月経周期15〜19日目)、中期分泌期(月経周期20〜24日目)および後期分泌期(月経周期25〜28日目)の間に得られる。
【0068】
特定の態様において、前記哺乳動物の雌は、女性であり、例えば、IVFプロセスの対象となった女性である。
【0069】
他の側面において、本発明は、哺乳動物の雌における体外受精の方法に関し、前記方法は、
a)前記哺乳動物の雌の月経周期の複数段階から得た前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベル(単数または複数)を決定すること;
b)ステップb)の1または2以上の子宮内膜液試料中の前記プロスタグランジン(複数または単数)PGE2および/またはPGF2αのレベル(単数または複数)を子宮内膜成熟と関連づけること;ならびに
c)前記子宮内膜が成熟であるときに、胚を前記哺乳動物の子宮へ導入すること
のステップを含む。
【0070】
代替的に、この側面によれば、哺乳動物の雌における体外受精の方法は、
a)前記哺乳動物の雌から子宮内膜液試料を得ること;
b)前記哺乳動物の雌からの前記子宮内膜液試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベル(単数または複数)を決定すること;
c)ステップa)およびb)を、前記哺乳動物の雌の月経周期の複数段階から得た子宮内膜液試料を用いて繰り返すこと;ならびに
d)ステップc)の1または2以上の子宮内膜液試料中の前記プロスタグランジン(単数または複数)PGE2および/またはPGF2αのレベル(単数または複数)を子宮内膜成熟と関連づけること
e)前記子宮内膜が成熟であるときに、胚を前記哺乳動物の子宮へ導入すること
のステップを含む。
【0071】
上記のように得られた、研究対象の哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中のPGE2および/またはPGF2αのレベルは、本発明の方法[1]との関係で議論したように任意の適切な方法を用いて決定することができる。
【0072】
本方法によれば、子宮内膜液の試料は、上述のように、研究対象の哺乳動物の雌の月経周期の複数段階から得られ、一度子宮内膜が成熟すると、胚が前記哺乳動物の雌の子宮へ導入される。
【0073】
特定の態様において、前記哺乳動物の雌は、女性であり、例えば、IVFプロセスの対象となった女性である。
【0074】
本発明はまた、本発明の方法を実施するためのキットに関する。「キット」とは、少なくともPGE2のための基準脂質またはPGF2αのための基準脂質を含む任意の製品(例えば、パッケージまたは容器)を意図している。キットは、本発明の方法を実行するためのユニットとして宣伝、配布、または販売してもよい。さらに、キットは、キットおよび使用するための指示を説明した添付文書を含んでもよい。一態様において、指示は、胚着床に対する子宮内膜受容性を検出するための、または胚の着床ウィンドウを選択するための、または妊娠状況を評価するための、または哺乳動物の雌が胚を受容し着床するのに適した条件下にあるか否かを評価するための、または哺乳動物の雌における子宮内膜の成熟をモニタリングするための、または哺乳動物の雌における体外受精のための方法を記載する。
【0075】
キットは、PGE2および/またはPGF2α(例えば、既知の純度と濃度のPGE2および/またはPGF2α脂質)のための前記基準脂質に加えて、1種または2種以上の試薬もまた含んでもよく、前記試薬は、PGE2および/またはPGF2αのレベルを決定するために選択された手法によって選択され、当業者であれば、前記脂質のレベルを決定するための特定の手法を実行するために必要な試薬を知っている。
【0076】
前記キットは、哺乳動物の雌における胚着床に対する子宮内膜受容性を検出するため、または哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウを選択するため、または哺乳動物の雌の妊娠状況を評価するため、または哺乳動物の雌が胚を受容し着床するのに適した条件下にあるか否かを評価するため、または哺乳動物の雌における子宮内膜の成熟をモニタリングするため、または哺乳動物の雌における体外受精のために用いることができる。したがって、前記キットは、胚移行手順の何時間も前に、受容性のある子宮内膜の予測となる、試料の正確な分析評価のために用いることができる。前述したキットの使用は、本発明のさらなる側面を構成する。
【0077】
したがって、前述したとおり、本発明は、着床ウィンドウの間の子宮内膜液中の脂質プロファイルの同定に基づいて、数々の非侵襲的な診断方法、および前記方法を実行するためのキットを提供する。特定の態様において、前記脂質プロファイルは、PGE2および/またはPGF2αを含む。
【0078】
本発明によって提供される方法は、現行の着床率を、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%増加すると予想される。着床率の改善は、功を奏する結果の機会の増加を伴うよりよい医療援助を提供することにより、医療界および患者の両方に有益である。妊娠率を増加させることによって、2回目の処置を経る必要がある患者の有意な割合が、かかる必要性を回避し、したがって、それが表し得る不安および経済問題を回避するだろう。
【0079】
さらに、本発明によって提供される方法およびキットは、医療界に、IVF処置における胚移行前の子宮内膜受容性の診断における強力なツールを提供するだろう。前記方法は、侵襲的なアプローチの必要性を排除し、胚移行手順のわずか数時間前に、子宮内膜受容性のリアルタイムな生化学の読み出した値を提供することによって、現行の着床率を改善するだろう。その結果、患者は、動揺させる生検収集プロセスをを避ける。
【0080】
本発明はさらに、子宮内膜受容性を増強することができる化合物を同定するための方法、ならびに、避妊薬を同定するための方法を提供する。
したがって、他の側面において、本発明はさらに、子宮内膜受容性を増強することができる化合物を同定するための方法であって、
(i)PGE2および/またはPGF2α産生細胞を、試験対象の化合物(候補化合物)と接触させること;ならびに
(ii)PGE2および/またはPGF2αのレベルを決定すること、
を含み、ここで、前記化合物が、前記細胞による前記PGE2および/またはPGF2αの産生の増加を引き起こす場合、前記候補化合物は子宮内膜受容性を増強するのに適している、前記方法を提供する。
【0081】
他の側面において、本発明はさらに、避妊薬を同定するための方法であって、
(i)PGE2および/またはPGF2α産生細胞を、試験対象の化合物(候補化合物)と接触させること、および
(ii)PGE2および/またはPGF2αのレベルを決定すること、
を含み、ここで、前記化合物が、前記細胞による前記PGE2および/またはPGF2αの産生の低下を引き起こす場合、前記候補化合物は、避妊薬として適している、前記方法を提供する。
【0082】
両方の場合において、子宮内膜受容性を増強することができる化合物を同定するため、または避妊薬を同定するための前記方法において試験される候補化合物は、実際には任意の化合物であることができ、低分子量化合物および、タンパク質、核酸、脂質などの巨大分子の両方を含む。本明細書における表現「接触」には、前記PGE2および/またはPGF2α産生細胞へ候補化合物を導入するための任意の可能な方法が含まれる。
【0083】
事実上任意のPGE2および/またはPGF2α産生細胞を、(子宮内膜受容性を増強することができる化合物を同定するための、または避妊剤を同定するための)前記方法の実施において用いることができるが、特定の態様において、前記PGE2および/またはPGF2α産生細胞が、子宮内膜の上皮細胞[上皮子宮内膜細胞]、好ましくはヒト上皮子宮内膜細胞であることができ;別の特定の態様において、前記PGE2および/またはPGF2α産生細胞は、子宮内膜からの細胞株、好ましくは子宮内膜からのヒト細胞株であり、前記細胞はPGE2および/またはPGF2αを産生する能力を有する。この場合、前記PGE2および/またはPGF2αのレベルは、上述した任意の手法によって培地中で決定することができる。代替的に、前記PGE2および/またはPGF2α産生細胞が動物モデルに存在することもまた可能であり;その後、前記PGE2および/またはPGF2αレベルを、上述した任意の手法により、前記動物モデルからの子宮内膜液からの試料中で決定することができる。
【0084】
前記PGE2および/またはPGF2αの産生の増加は、候補化合物が、胚を着床するための子宮内膜受容性を潜在的に増強または増加させるのに適していることを示し得る。同様に、前記PGE2および/またはPGF2αの産生の低下は、前記化合物が胚を着床するための子宮内膜受容性を低減させることから、候補化合物を避妊薬として用いることができることを示し得る。
【0085】
さらなる側面において、本発明は、脂質組成物に関し、ここで前記脂質組成物は、哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウの間に前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液試料から得られたものである。前記脂質組成物は、胚を着床するための子宮内膜受容性を決定するために用いることができる。
特定の態様において、前記哺乳動物の雌は、女性である。
【0086】
さらに、特定の態様において、前記脂質組成物は、以下の脂質から選択された脂質を含む:N−アラキドノイルエタノールアミン(AEA)、N−パルミトイルエタノールアミン(PEA)、N−オレオイルエタノールアミン(OEA)、2−アラキドノイルグリセロール(2−AG)、N−ステアロイルエタノールアミン(SEA)、N−リノレオイルエタノールアミン(LEA)、プロスタグランジンE2(PGE2)、プロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)、プロスタグランジンF1アルファ(PGF1α)およびこれらの組み合わせ。好ましい態様において、前記脂質組成物は、PGE2、PGF2α、およびこれらの組み合わせから成る群から選択されるプロスタグランジンを含むが、これは、前記特定の脂質(単数または複数)のレベルが、着床ウィンドウと一致する、女性の月経周期の19〜21日目の間の子宮内膜液試料において、有意に増加するからである。
【0087】
したがって、別の側面において、本発明は、哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウを選択するための方法に関し、
a)前記哺乳動物の雌から子宮内膜液の試料を提供すること;
b)前記試料からリピドームのプロファイルを収集すること;および
c)前記収集されたリピドームのプロファイルを、哺乳動物の雌の妊娠状況と関連づけること
のステップを含む。
【0088】
研究対象の哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料は、上述したように、従来の方法によって得ることができる。
研究対象の哺乳動物の雌からの子宮内膜液の前記試料からリピドームのプロファイルを得ることは、さまざまな化学技術および高分解能の分析技術とともに行うことができる。適切な分析技術としては、質量分析(MS)および核磁気共鳴分光法(NRS)が含まれるが、これらに限定されない。個々の脂質または脂質のクラスを再溶解することができ、それらの構造的な情報を提供することができる高分解能の技術は、前記生体試料から脂質プロファイルを収集するのに用いることができる。質量分析(MS)でリピドームのプロファイルを収集することは、本発明の一態様である。MS機器は、HPLCなどの高性能分離法と連動させることができる。
【0089】
リピドームのプロファイルを収集するために用いられる分析技術は、個々の脂質または脂質のクラスの正確な量または少なくとも相対的な量を定量化または測定することができるはずである。収集された脂質プロファイルを、基準リピドームバイオマーカーと比較するとき、収集されたリピドームのプロファイル中の個々の脂質または脂質のクラスの量を用いる。特定の態様において、脂質のレベルは、後述するように、LC/MS/MSによって決定される。
【0090】
基準のリピドームのバイオマーカーは、研究対象と同じ哺乳動物の雌から確立することができるか、または、それは一般化した集団からのものであることができる。同じ哺乳動物の雌が基準のリピドームのバイオマーカーを作成するために用いられる場合、試料を、前記哺乳動物の雌から、その非妊性日の間に収集することができる。そして、基準のリピドームのバイオマーカーが、その哺乳動物の雌の最初の脂質プロファイルから作成される。このリピドームバイオマーカーは、ベースラインまたは開始点として用いられる。一連のリピドームのプロファイルは、月経周期に沿って収集することができる。そして、これらのリピドームのプロファイルは、以前に作成した基準のリピドームのバイオマーカーと比較される。
【0091】
基準のリピドームのバイオマーカーは、哺乳動物の雌の一般化された集団から作成することもできる。一般化された集団を用いる場合、前記のものからのいくつかの脂質プロファイルは組み合わされ、リピドームのバイオマーカーは、この組み合わせから作成される。
【0092】
特定の態様において、基準のリピドームのバイオマーカーは、以下の脂質から選択される1種または2種以上の脂質(単数または複数)である:N−アラキドノイルエタノールアミン(AEA)、N−パルミトイルエタノールアミン(PEA)、N−オレオイルエタノールアミン(OEA)、2−アラキドノイルグリセロール(2−AG)、N−ステアロイルエタノールアミン(SEA)、N−リノレオイルエタノールアミン(LEA)、プロスタグランジンE2(PGE2)、プロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)、プロスタグランジンF1アルファ(PGF1α)およびこれらの組み合わせ。好ましい態様において、前記脂質プロファイルは、PGE2、PGF2α、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロスタグランジンを含むが、これは、前記特定の脂質(単数または複数)のレベルが、着床ウィンドウと一致する、女性の月経周期の19〜21日目の間の子宮内膜液試料において、有意に増加するからである。
【0093】
本発明の別の側面は、リピドームの基準バイオマーカーを形成する基準脂質を含むキットである。キットは、上述の方法を実行するためのユニットとして宣伝、配布または販売されてもよい。さらに、キットは、キットおよび使用するための指示を説明した添付文書を含んでもよい。一態様において、指示は、胚着床に対する子宮内膜受容性を検出するための、または胚の着床ウィンドウを選択するための、または妊娠状況を評価するための、または哺乳動物の雌が胚を受容し着床するのに適した条件下にあるか否かを評価するための、または哺乳動物の雌における子宮内膜の成熟をモニタリングするための、または哺乳動物の雌における体外受精のための方法を記載する。
【0094】
キットは、リピドームの基準バイオマーカーを形成する前記基準脂質に加えて、1種または2種以上の試薬もまた含んでもよく、前記試薬は、分析する子宮内膜液試料における脂質のレベルを決定するために選択された手法によって選択され、当業者であれば、前記脂質のレベルを決定するための特定の手法を実行するために必要な試薬を知っている。
【0095】
前記キットは、哺乳動物の雌における胚着床に対する子宮内膜受容性を検出するため、または哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウを選択するため、または哺乳動物の雌の妊娠状況を評価するため、または哺乳動物の雌が胚を受容し着床するのに適した条件下にあるか否かを評価するため、または哺乳動物の雌における子宮内膜の成熟をモニタリングするため、または哺乳動物の雌における体外受精のために用いることができる。したがって、前記キットは、胚移行手順の何時間も前に、受容性のある子宮内膜の予測となる、試料の正確な分析評価のために用いることができる。前述したキットの使用は、本発明のさらなる側面を構成する。
【0096】
以下の例は、本発明を説明するが、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0097】
例1
PGE2およびPGF2αの濃度は、着床ウィンドウの間に有意に増加する
1.1 材料
質量分析実験のために用いられるHPLCグレードのメタノールおよびアセトニトリルを、VWRインターナショナル(Plainview, NY)から購入した。HPLCグレードの水、質量分析/HPLCグレードの酢酸、ギ酸、および酢酸アンモニウムを、Sigma-Aldrich(St. Louis, MO)から購入した。
【0098】
1.2 方法論
設計。本発明者らは、インフォームド・コンセントに署名を得たあと、39人の健康な女性ドナーにおいて単盲検試験を行った。すべての試料を、自然な月経周期の間に女性から採取した;子宮内膜吸引液に、識別番号を割り当て、分析の前に標準的な方法を用いて保存した。
【0099】
子宮内膜分泌物吸引手順。砕石位で横たわっている患者について、膣鏡の挿入の後に子宮頸部を洗浄した。穏やかに子宮頸部経由で子宮腔へ空の柔軟なカテーテル(Wallace, Smith Medical International)を導入し、10mlの注射器で徐々に吸引を行った。カテーテル抜去時の子宮頸管粘液による汚染を防止するために、胚移行カテーテルのアウターシースは、吸引を行った後に、外子宮口から4cmの深さまで前進した。吸引物が、子宮内膜分泌物ではなく子宮頸管粘液を表すことを実証するため、患者内比較のために、子宮頸管粘液を、子宮内膜分泌物の吸引前に吸引した。
【0100】
試料分析。子宮内膜液抽出液からの脂質を、タンデム質量分析(MS)を組み合わせた液体クロマトグラフィー(LC)により同定した。HPLCグレードの水を、30%有機溶液を作るために試料に追加した。脂質を、前述のとおり、C18固相抽出カラムで部分的に精製した[Bradshaw, HB., Rimmerman, N., Krey, JF and Walker, JM. 2006. Sex and hormonal cycle differences in rat brain levels of pain-related cannabimimetic lipid mediators. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 291: R349-358]。つまり、各500mgのカラムを、5mlメタノールおよび2.5mlの水で調整し、続いて水/上澄み溶液をロードした。そして、カラムを、2mlの水および1.5mlの55%メタノールで洗浄した。化合物を、1.5mlのメタノールで溶出した。溶出液を、質量分析の前に、最大速度でボルテックスした。
【0101】
タンデム質量分析には、とりわけ、トリプル四重極、イオントラップ、四重極/飛行時間型の機器が含まれる。これらの機器は典型的に、衝突活性化(断片化)の前に、その分子量に基づいて化合物を単離するための四重極技術、および断片化された成分の質量分析を用いる。これは、混合物を、質量分析計に適用される試料と同じ質量で他の化合物が混入していない状態のみにまで精製しなければならないことを意味する。これはしばしば、組織からの液−液抽出およびそれに続く固相抽出法によって達成することができる。四重極技術は、約1amuの分解能を提供し;質量分析計内の改善した単離は、より高度な分解能を可能にするTOF/TOF機器を用いて達成される。
【0102】
具体的には、分析物の迅速な分離が、ZORBAX Eclipse XDB 2.1×50 mm逆相カラム(Agilent 1100 series autosampler, Wilmington, DE)上への10μlの注射を用いて得られた。勾配溶出(200μl/分)が、島津製作所(Columbia, Maryland)の一対の10AdVPポンプへの圧力下で形成された。質量分光分析は、エレクトロスプレーイオン源を備えたApplied Biosystems/MDS Sciex(Foster City, CA)API 3000トリプル四重極質量分析計を用いて実行した。各化合物のレベルを、LC/MS/MSシステムにおいて複数反応モニタリング(MRM)により分析した。
【0103】
質量分析定量。合成標準の既知の濃度の線形回帰のパワーフィット(power fit)に基づいて、試料中の分析物の量を定量化する、Analyst software(Applied Biosystems-MDS Sciex; Framingham MA)を用いて、分析物の定量化を達成した。統計的な差は、平均値の95%信頼区間を用いたpost-hoc Fisher’s LSDによるANOVAを用いて決定した(SPSS software, Chicago, IL)。
【0104】
1.3 結果
月経周期を通して得た計39の子宮内膜液試料[I群(0〜8日目)(n=8);II群(9〜14日目)(n=8);III群(15〜18日目)(n=8);IV群(19〜23日目)(n=8)およびV群(24〜30日目)(n=7)]を、独立した2つの単一盲検実験における脂質濃度の変化について分析した。
【0105】
最初の実験(n=13)では、本発明者らは、着床ウィンドウと一致する、月経周期の19〜21日目の間の2つの特定の脂質(PGE2およびPGF2α)の濃度の有意な増加を見出した。試料中で同定された残りの脂質[N−アラキドノイルエタノールアミン、N−パルミトイルエタノールアミン、N−オレオイルエタノールアミン、2−アラキドノイルグリセロール、N−ステアロイルエタノールアミン、N−リノレオイルエタノールアミン、PGF1α]のいずれも、月経周期の間に有意な変化を経なかった(図1)。
【0106】
第二の実験(n=26)は、最初の実験で報告されたものと同じ脂質のピークを確認した。両方の実験(n=39)からの組み合わせた結果は、臨床的な着床ウィンドウの間に、各脂質の濃度でそれぞれ2倍および20倍のピークを実証する(図2)。
【0107】
これらの結果は、PGE2および/またはPGF2αが、着床ウィンドウの間のヒト子宮内膜受容性の重要なバイオマーカーであることを示唆する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の雌における胚着床に対する子宮内膜受容性を検出するための方法であって、
a)前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液試料中のプロスタグランジンE2(PGE2)、プロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロスタグランジンのレベルを決定すること;ならびに
b)前記子宮内膜液試料中の前記プロスタグランジンのレベルを、胚着床に対する子宮内膜受容性と関連づけること
のステップを含む、前記方法。
【請求項2】
哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウを選択するための方法であって、前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中のプロスタグランジンE2(PGE2)のレベル、プロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)のレベル、またはPGE2およびPGF2αの両方のレベルを決定することを含み、ここで、前記着床ウィンドウは、前記試料中の前記プロスタグランジンPGE2またはPGF2αのうち少なくとも1つのレベルが基準試料との関係において増加するときに選択される、前記方法。
【請求項3】
哺乳動物の雌の妊娠状況を評価するための方法であって、
−前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中のプロスタグランジンE2(PGE2)のレベル、プロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)のレベル、またはPGE2およびPGF2αの両方のレベルを決定すること、ならびに
−前記プロスタグランジン(単数または複数)PGE2および/またはPGF2αのレベルを妊娠状況と関連づけること
を含む、前記方法。
【請求項4】
哺乳動物の雌が胚を受容し着床するのに適した条件下にあるか否かを評価するための方法であって、
−前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液の試料中のプロスタグランジンE2(PGE2)のレベル、プロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)のレベル、またはPGE2およびPGF2αの両方のレベルを決定すること、ならびに
−前記プロスタグランジン(単数または複数)PGE2および/またはPGF2αのレベルを、胚を受容し着床するための条件と関連づけること
を含む、前記方法。
【請求項5】
哺乳動物の雌における子宮内膜の成熟をモニタリングするための方法であって、
a)前記哺乳動物の雌の月経周期の複数段階から得た前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液試料中のプロスタグランジンE2(PGE2)のレベル、プロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)のレベル、またはPGE2およびPGF2αの両方のレベルを決定すること;ならびに
b)前記プロスタグランジン(単数または複数)のPGE2および/またはPGF2αのレベルを、子宮内膜成熟と関連づけること
のステップを含む、前記方法。
【請求項6】
哺乳動物の雌における体外受精の方法であって、
a)前記哺乳動物の雌の月経周期の複数段階から得た前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液試料中のプロスタグランジンE2(PGE2)のレベル、プロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)のレベル、またはPGE2およびPGF2αの両方のレベルを決定すること;
b)ステップb)の1または2以上の子宮内膜液試料中の前記プロスタグランジン(複数または単数)PGE2および/またはPGF2αのレベル(単数または複数)を子宮内膜成熟と関連づけること;ならびに
c)前記子宮内膜が成熟であるときに、胚を前記哺乳動物の子宮へ導入すること
のステップを含む、前記方法。
【請求項7】
哺乳動物の雌が女性である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
子宮内膜受容性を増強することができる化合物を同定するための方法であって、
(i)PGE2および/またはPGF2α産生細胞を、試験対象の化合物と接触させること;ならびに
(ii)PGE2および/またはPGF2αのレベルを決定すること、
を含み、ここで、前記化合物が、前記細胞による前記PGE2および/またはPGF2αの産生の増加を引き起こす場合、前記化合物は、子宮内膜受容性を増強するのに適している、前記方法。
【請求項9】
避妊薬を同定するための方法であって、
(i)PGE2および/またはPGF2α産生細胞を、試験対象の化合物と接触させること;ならびに
(ii)PGE2および/またはPGF2αのレベルを決定すること、
を含み、ここで、前記化合物が、前記細胞による前記PGE2および/またはPGF2αの産生の増加を引き起こす場合、前記化合物は、子宮内膜受容性を増強するのに適している、前記方法。
【請求項10】
プロスタグランジンE2(PGE2)のための基準脂質および/またはプロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)のための基準脂質を含むキット。
【請求項11】
哺乳動物の雌における胚着床に対する子宮内膜受容性を検出するための、または哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウを選択するための、または哺乳動物の雌の妊娠状況を評価するための、または哺乳動物の雌が胚を受容し着床するのに適した条件下にあるか否かを評価するための、または哺乳動物の雌における子宮内膜の成熟をモニタリングするための、または哺乳動物の雌における体外受精の方法における、請求項10に記載のキットの使用。
【請求項12】
脂質組成物であって、哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウの間に前記哺乳動物の雌からの子宮内膜液試料から得られた、前記脂質組成物。
【請求項13】
胚着床に対する子宮内膜受容性を決定するための、請求項12に記載の脂質組成物の使用。
【請求項14】
哺乳動物の雌における胚の着床ウィンドウを選択するための方法であって、
a)前記哺乳動物の雌から子宮内膜液の試料を提供すること;
b)前記試料からリピドームのプロファイルを収集すること;および
c)前記収集されたリピドームのプロファイルを哺乳動物の雌の妊娠状況と関連づけること
のステップを含む、前記方法。
【請求項15】
プロスタグランジンE2(PGE2)、プロスタグランジンF2アルファ(PGF2α)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択されるプロスタグランジンの使用であって、前記プロスタグランジンは、胚着床に対する子宮内膜受容性のバイオマーカーとして子宮内膜液試料中で決定される、前記使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−518244(P2013−518244A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549374(P2012−549374)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【国際出願番号】PCT/EP2011/050867
【国際公開番号】WO2011/089240
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(512192093)エキポ アイヴィイー インヴェスティガシオン エス.エル. (1)
【氏名又は名称原語表記】EQIPO IVI INVESTIGACION S.L.
【住所又は居所原語表記】Guadassuar,1,E−46015 Valencia Espana
【Fターム(参考)】