説明

子宮頸がん検査用マーカー及び子宮頸がんの検査方法

【課題】DNAのメチル化異常を指標とする子宮頸がん発症高リスク群の検査用マーカーを提供する。さらに、当該マーカーを検出することによる、子宮頸がん発症高リスク群の検査方法を提供する。
【解決手段】MIK1及びMIK2についてはプロモーター領域のCpG領域におけるDNAがメチル化された遺伝子からなり、MIK3についてはプロモーター領域のCpG領域におけるDNAが脱メチル化された遺伝子からなるいずれかの遺伝子をマーカーとする。またこれらのマーカーのうち、いずれかを検出することによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAのメチル化異常を指標とする子宮頸がん発症高リスク群の検査用マーカーに関する。さらに、当該マーカーを検出することによる、子宮頸がん発症高リスク予測検査方法に関する。より詳しくは、当該マーカーを検出することによる、ヒトパピローマウイルス(以下、「HPV」という。)に感染した場合の子宮頸がん発症リスクを予測するための検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮頸がんは、女性特有のがんとしては罹患率及び死亡率ともに世界で第一位であり、約500,000人が発症し、約270,000人が死亡すると推計されている。子宮頸がんは、殆どの場合HPV感染が原因で引き起こされる。発がん性HPVには15種類ほどの型があり、中でもHPV16型と18型は子宮頸がんから多く検出される型である。発がん性HPVは8割もの女性が一生のうちに一度は感染するという、ありふれたウイルスであるが、ほとんどの場合は感染してもウイルスが自然に排除されるため、子宮頸がんを発症するのは感染した女性の1%未満と考えられている。すなわち、HPV感染を高額の検査で明らかにしても、子宮頸がん発症に至る頻度が低いことから、細胞診やHPV検査のみでは子宮頸がん発症高リスク群の同定には不十分である。細胞診検体で検出可能な子宮頸がん高リスク診断マーカーが望まれている。
【0003】
近年、遺伝子の異常なメチル化、即ち特定の遺伝子についてのCpGに富む領域(以下「CpG領域」又は「CpG島」という。)でのメチル化シトシンを検出することによるがんの検査について、数多く報告されている。高等真核生物において、DNAは、CGジヌクレオチド中のグアノシンの5'側に位置するシトシンでのみメチル化される。CpG領域が、遺伝子のプロモーター領域に存在する場合に、CpG領域でのシトシンのメチル化による修飾が、遺伝子発現において重要な制御効果を有する。常染色体では殆ど全ての遺伝子関連のCpG領域がメチル化から保護されているが、CpG領域の広範にわたるメチル化は、刷込み遺伝子の転写の不活性化及び雌の不活性X染色体上の遺伝子の転写の不活性化などと関連している。
【0004】
CpG領域におけるシトシンの異常なメチル化は、不死化細胞又は形質転換細胞では頻繁に見られる事象であり、ヒトがんにおける特定のがん抑制遺伝子の転写の不活性化と関連すると考えられている。そして、幾つかの生物学的機能は、DNA中のメチル化された塩基に起因している。最も確立された生物学的機能は、コグネイト制限酵素による消化からのDNAの保護である。制限修飾現象は細菌でしか見られないと考えられていたが、その後哺乳動物細胞にも別のメチラーゼがあり、これはCpGのグアニンの5'側に隣接するDNA上のシトシン残基だけを限定的にメチル化することが明らかになった。このメチル化は、遺伝子活性、細胞分化、腫瘍発生、X染色体の不活性化、遺伝子刷込み、及びその他の主要な生物学的プロセスにおいて或る役割を担っていることが報告されている(Razin,A.,H.,及びRiggs,R.D.編,DNA Methylation Biochemistry and Biological Significance,Springer-Verlag,New York,1984)。
【0005】
例えば、CDH1、CDH13、RASSF1A、hMLH1、HSPA2、SOCS1、SOCS2、GSTP1、DAPK、TIMP3、hTERT、SFRP2、SFRP4、SFRP5及びCCND2及び/又はそれらのプロモーター、イントロン、第1エクソン、制御因子及び/又はエンハンサーからなる群から選択される1つ又はそれ以上の遺伝子におけるCpG領域でのメチル化を検出することによる婦人科細胞増殖障害の分析方法について開示がある(特許文献1)。また、HPVの存在と、特定の遺伝子におけるCpG領域でのメチル化状態を確認した内容が開示されている(特許文献2)。例えば、特許文献2の段落番号0055において、CD14、ENDRB、HIC、RARB1、PGR、SFRS8、TMSB10、ABCG2、MFNG、LAMR1、RAGE、ABL1、CRBP、GPR37、HRK、RARA、SYK、ECE1、MME、TEM、NF2、XIAP、RARRES1、FLI1、HTLF、LDHB、RB1、TGD、CDK4、MMP14、RAB32、BARD1、NF1、LIM2、MMP2、DAB2、BMP6、CDKN1C、DAB2IP、LMNB1、MMP28、HAI2、SOCS1、HIC2、MSH6、RIN2、HMGA1、JUN、S100P*、SRF、VDR、DKK3、KRAS2、PLAU、TNFRSF10B、CDH1、MAC30、DDB2、PAX6、AXL、EIF4A2、SLIT2、RECK、TERC、GATA5、STAT1の各ゲノム領域のメチル化状態が、がんのマーカーとなりうる可能性があるとして列挙されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−531512号公報
【特許文献2】特表2009−507498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、DNAのメチル化異常を指標とする子宮頸がん発症高リスク群の検査用マーカーを提供することを課題とする。さらに、当該マーカーを検出することによる、子宮頸がん発症高リスク予測のための検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、ヒト子宮頸がん細胞株、子宮頸がん症例、子宮頸部細胞診検体において、がん関連遺伝子等のCpG領域部位でのメチル化状態を確認したところ、特定の遺伝子のメチル化とHPV感染との関連において、がん発症高リスクを予測可能なことを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.MIK1、MIK2及びMIK3から選択されるいずれかの遺伝子を含む子宮頸がん検査用マーカー。
2.遺伝子が、MIK1及びMIK2についてはプロモーター領域のCpG領域におけるDNAがメチル化された遺伝子からなり、MIK3についてはプロモーター領域のCpG領域におけるDNAが脱メチル化された遺伝子からなるものである、前項1に記載の子宮頸がん発症高検査用マーカー。
3.さらに、RARB、FHIT、TERC、p16、TIMP3、CDH1、GSTP1、MGMT、MLH1、PTENから選択される少なくとも2種の遺伝子を含む、前項1又は2に記載の子宮頸がん検査用マーカー。
4.前項2に記載の各遺伝子が、プロモーター領域のCpG領域におけるDNAがメチル化された遺伝子からなる、前項3に記載の子宮頸がん検査用マーカー。
5.子宮頸がん検査用マーカーが、ヒトパピローマウイルス感染後の子宮頸がんの発症リスクを予測するマーカーである、前項1〜4のいずれか1に記載の子宮頸がん検査用マーカー。
6.被検者から取得した検体から、前項1〜5のいずれか1に記載の子宮頸がん検査用マーカーを検出することを特徴とする、子宮頸がんの検査方法。
7.以下の工程を含む、子宮頸がんの検査方法:
1)被検者から取得した検体から、DNAを抽出する工程;
2)抽出したDNAについて、前項1〜5のいずれか1に記載の子宮頸がん検査用マーカーを構成するDNAを増幅しうるプライマーを用いて、DNAを増幅させる工程;
3)増幅産物を検出する工程。
8.子宮頸がんの検査が、ヒトパピローマウイルス感染後の子宮頸がんの発症リスクを予測する検査である、前項6又は7に記載の子宮頸がんの検査方法。
9.各遺伝子マーカー検出用のプライマーを含む、子宮頸がん検査用キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明の子宮頸がん発症高リスク群の検査用マーカーによれば、ハイリスクHPVに感染した場合の子宮頸がん発症高リスク群を検出することができる。本発明の検査方法は、子宮頸部細胞診を行なった患者について、膣洗浄液を検体として利用できることから、一度採取した検体を有効に活用することができ、被検者に対しても低い負担で検査を行うことができる。また、本発明の検査方法により検出された子宮頸がん発症高リスク群では、HPVに感染に対して予防的に対応することができ、また感染後であっても、より効果的な治療方法を提供することができる。一方、高リスク群ではないと判断された場合には、不必要な処理を行うことなく、効果的に治療を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ヒト子宮頸がん細胞株9種について、HPV感染の有無を確認し、各細胞株におけるがん関連遺伝子10種について、CpG領域のDNAメチル化状態を、メチル化特異的PCR法で解析した結果を示すパネルである。(実施例1)
【図2】ヒト子宮頸がん細胞株9種について、各細胞株における独自のエピジェネティクスマーカー3種のCpG領域のDNAメチル化状態又は脱メチル化状態を、メチル化特異的PCR法で解析した結果を示すパネルである。(実施例2)
【図3】ヒト子宮頸がん7症例について、エピジェネティクスマーカー3種のCpG領域のDNAメチル化状態又は脱メチル化状態を、メチル化特異的PCR法で解析した結果を示すパネルである。(実施例3)
【図4】子宮頸部細胞診により得た検体のうち、異常を認めた23症例について、エピジェネティクスマーカー3種のCpG領域のDNAメチル化状態又は脱メチル化状態を、メチル化特異的PCR法で解析した結果を示すパネルである。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、子宮頸がん検査用マーカーとは、子宮頸がん発症高リスク群を検出するためのマーカーをいう。より具体的には、発がん性HPVに感染した場合の子宮頸がん発症リスクの高い者を検出するためのマーカーをいう。背景技術の欄でも説明したように、発がん性HPVは8割もの女性が一生のうちに一度は感染するという、ありふれたウイルスであるが、ほとんどの場合は感染してもウイルスが自然に排除されるため、子宮頸がんを発症するのは感染した女性の1%未満と考えられている。従来では、HPV感染を高額の検査で明らかにしても、子宮頸がん発症にいたる頻度が低いことから、細胞診やHPV検査のみでは子宮頸がん発症高リスク群の同定には不十分である。本発明の子宮頸がん検査用マーカーにより、発がん性HPVに感染した場合に、子宮頸がん発症リスクを予測することができる。
【0013】
本発明における子宮頸がん検査用マーカーの対象となる遺伝子は、MIK1、MIK2及びMIK3である。具体的には、MIK1及び/又はMIK2のいずれかの遺伝子においてメチル化(M)、あるいはMIK3遺伝子の脱メチル化(U)が、子宮頸がん検査用マーカーとなりえる。MIK1はheparan sulfate (glucosamine) 3-O-sulfotransferase 2 (HS3ST2)遺伝子、MIK2はREC8 homolog(REC8)遺伝子、MIK3はserpin peptidase inhibitor, clade B (ovalbumin), member 5(SERPINB5)遺伝子であり、これらの遺伝子におけるプロモーター領域のCpG領域がメチル化又は脱メチル化を検出することにより、子宮頸がん発症高リスク群を検査することができる。
【0014】
本発明において、被検者は、子宮頸がん発症しているか、又は発症の可能性を有するものを対象とし、それらのうち特にHPVに感染しているか、又は感染していると疑われる者を対象とすることができる。本発明の検査用マーカーを用いて検査することにより、HPV感染による子宮頸がんの発症リスクを予測することができる。本発明の検査用マーカーが検出された場合、被検者は、HPV感染した場合に、子宮頸がん発症リスクが高いと予測することができる。
【0015】
本発明において、被検者から取得した検体とは、被検者由来であってがん組織が混入していると考えられる検体が好ましく、具体的には膣洗浄液が好適である。例えば、子宮頚部から採取した検体、又は当該検体取得の際や、膣分泌液等の塗抹標本検査の際の膣洗浄液を用いるのが好適である。被検者から検体を取得する方法は、特に限定されず、自体公知の方法によることができる。
【0016】
本発明において、特定遺伝子のメチル化検出の前処理として、DNAを抽出することが必要である。DNAの抽出方法は、自体公知の方法を適用することができ、具体的にはMagExtractor(東洋紡製)やQIAamp Stool DNA Isolation Kit(QIAGEN製)などの市販品を用いることができる。次に、重亜硫酸塩(disulfite)などの処理により生体検体中に存在するDNAの全ての非メチル化シトシンをウラシルに転換させることが必要である。前記重亜硫酸塩処理後、本発明の特定の遺伝子又は遺伝子座の必要な領域、例えばCpG領域をPCR等の核酸増幅法により増幅し、該増幅したDNAについて非メチル化シトシンがウラシルへ転換されたか否かを確認することができる。
【0017】
該増幅したDNA中の非メチル化シトシンがウラシルへ転換されたか否かの確認は、遺伝子又は遺伝子座の必要な領域、例えばCpG領域、プロモーター領域若しくは5'領域などについて、重亜硫酸塩処理によってもメチル化シトシンがウラシルに転換されない配列、及び非メチル化シトシンがウラシルに転換した配列を増幅しうる各プライマーを用いてDNAを増幅させ、該増幅産物を確認することにより行うことができる。検体材料の性質上、増幅される遺伝子は250bp以下が好ましく、より好ましくは230bp以下である。
【0018】
本発明の特定の遺伝子又は遺伝子座の塩基配列は、HS3ST2遺伝子についてはGenebank Accession No.AC003661に示す如くである。これらの遺伝子のプロモーター領域又は5'領域に存在するCpG領域の核酸増幅用プライマーとして、以下のものを使用することができる。
【0019】
HS3ST2遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG領域を増幅しうるプライマーは以下のとおりである。
プライマー1:5'-GTCGGTAGCGCGTTTCGTTC(配列番号1)
プライマー2:5'-GACGACGACGCGACTATAC(配列番号2)
プライマー3:5'- GAGTTGGTAGTGTGTTTTGTTT(配列番号3)
プライマー4:5'- CACTCACAAAACACTCAACA(配列番号4)
【0020】
プライマー1(配列番号1)とプライマー2(配列番号2)はメチル化シトシンの存在するアレルにハイブリダイズするように設計されており、この2つのプライマーにより、メチル化シトシンを検出する104bpの増幅産物が得られる。
一方、プライマー3(配列番号3)とプライマー4(配列番号4)はメチル化シトシンの存在しないアレルのみにハイブリダイズするように設計されており、もしメチル化シトシンが存在しないならばこれらのプライマーにより、122bpの増幅産物が得られる。
【0021】
すなわち、HS3ST2遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG領域のシトシンにメチル化が認められる場合は104bpの遺伝子増幅産物が認められることになり、また、HS3ST2遺伝子のプロモーター領域に存在するプロモーター領域のシトシンにメチル化が認められない場合は122bpの遺伝子増幅産物が認められることになる。HS3ST2遺伝子の必要な領域を増幅しうるプライマーであれば、上記プライマーに限定されず、同様の機能を有するプライマーを用いることもできる。好ましくは、配列番号1〜4のプライマーをセットで使用することにより、一度の核酸増幅処理で、HS3ST2遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG領域のシトシンのメチル化に応じて塩基数の異なるDNAの増幅を確認することができる。
【0022】
本発明の特定の遺伝子又は遺伝子座の塩基配列は、REC8遺伝子についてはGenebank Accession No. AL136295に示す如くである。これらの遺伝子のプロモーター領域又は5'領域に存在するCpG領域の核酸増幅用プライマーとして、以下のものを使用することができる。
【0023】
REC8遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG領域を増幅しうるプライマーは以下のとおりである。
プライマー5:5'- GGATATTTGGCGTTTTCGATTC(配列番号5)
プライマー6:5'- GAACGCTTCGAAACACCG(配列番号6)
プライマー7:5'- GGATATTTGGTGTTTTTGATTT(配列番号7)
プライマー8:5'- ACAAACACTTCAAAACACCA(配列番号8)
【0024】
プライマー5(配列番号5)とプライマー6(配列番号6)はメチル化シトシンの存在するアレルにハイブリダイズするように設計されており、この2つのプライマーにより、メチル化シトシンを検出する99bpの増幅産物が得られる。
一方、プライマー7(配列番号7)とプライマー8(配列番号8)はメチル化シトシンの存在しないアレルのみにハイブリダイズするように設計されており、もしメチル化シトシンが存在しないならば、これらのプライマーにより、100bpの増幅産物が得られる。
【0025】
すなわち、REC8遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG領域のシトシンにメチル化が認められる場合は99bpの遺伝子増幅産物が認められることになり、また、REC8遺伝子のプロモーター領域に存在するプロモーター領域のシトシンにメチル化が認められない場合は100bpの遺伝子増幅産物が認められることになる。REC8遺伝子の必要な領域を増幅しうるプライマーであれば、上記プライマーに限定されず、同様の機能を有するプライマーを用いることもできる。好ましくは、配列番号5〜8のプライマーをセットで使用することにより、一度の核酸増幅処理で、REC8遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG領域のシトシンのメチル化に応じて塩基数の異なるDNAの増幅を確認することができる。
【0026】
本発明の特定の遺伝子又は遺伝子座の塩基配列は、SERPINB5遺伝子についてはGenebank Accession No. AC0903071に示す如くである。これらの遺伝子のプロモーター領域又は5'領域に存在するCpG領域の核酸増幅用プライマーとして、以下のものを使用することができる。
【0027】
SERPINB5遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG領域を増幅しうるプライマーは以下のとおりである。
プライマー9:5'- ATTTTTCGGTTTTGCGTGGGTC(配列番号9)
プライマー10:5'- ACCCAACTCCACGCCCCG(配列番号10)
プライマー11:5'- TATTTTTTGGTTTTGTGTGGGTT(配列番号11)
プライマー12:5'- CCCAACTCCACACCCCA(配列番号12)
【0028】
プライマー9(配列番号9)とプライマー10(配列番号10)はメチル化シトシンの存在するアレルにハイブリダイズするように設計されており、この2つのプライマーにより、メチル化シトシンを検出する228bpの増幅産物が得られる。
一方、プライマー11(配列番号11)とプライマー12(配列番号12)はメチル化シトシンの存在しないアレルのみにハイブリダイズするように設計されており、もしメチル化シトシンが存在しないならば、これらのプライマーにより脱メチル化を検出する122bpの増幅産物が得られる。
【0029】
すなわち、SERPINB5遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG領域のシトシンにメチル化が認められる場合は228bpの遺伝子増幅産物が認められることになり、また、SERPINB5遺伝子のプロモーター領域に存在するプロモーター領域のシトシンにメチル化が認められない場合は122bpの遺伝子増幅産物が認められることになる。SERPINB5遺伝子の必要な領域を増幅しうるプライマーであれば、上記プライマーに限定されず、同様の機能を有するプライマーを用いることもできる。好ましくは、配列番号9〜12のプライマーをセットで使用することにより、一度の核酸増幅処理で、SERPINB5遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG領域のシトシンのメチル化に応じて塩基数の異なるDNAの増幅を確認することができる。
【実施例】
【0030】
本発明の理解を助けるために、実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでないことはいうまでもない。
【0031】
(実施例1)がん関連種遺伝子における特定ゲノムのメチル化について
本実施例では、ヒト子宮頸がん細胞株9種について、HPV感染の有無を確認し、各細胞株におけるがん関連遺伝子10種について、CpG領域のDNAメチル化状態を、メチル化特異的PCR法で解析した。ヒト子宮頸がん細胞株としては、CX−8、CX−1、CX−6、EM−1、EM−2、CX−7、CX−2、CX−5、CX−3を用い、遺伝子としてはRARB、FHIT、TERC、p16、TIMP3、CDH1、GSTP1、MGMT、MLH1、PTENについて解析を行なった。
【0032】
その結果、図1のパネルに示すように、EM−2、CX−7及びCX−2については、HPVの感染は認められず、その他の細胞についてはHPV感染を認めた。各遺伝子において2種以上、好ましくは4種以上においてメチル化異常が認められた場合、子宮頸がんと判断できるものと考えられた。なお、図1において、「M」とは、各遺伝子のプロモーター領域におけるCpG領域におけるメチル化を認めたことを意味し、「なし」とは満ちるかを認めないことを意味する。
【0033】
(実施例2)3種のエピジェネティクスマーカーのメチル化について(1)
実施例では、実施例1で用いたヒト子宮頸がん細胞株9種について、3種のエピジェネティクスマーカーMIK1及びMIK2の遺伝子についてはメチル化を、MIK3遺伝子については脱メチル化について確認した。
【0034】
本発明における子宮頸がん検査用マーカーの対象となる遺伝子は、MIK1、MIK2及びMIK3である。具体的には、MIK1及び/又はMIK2のいずれかの遺伝子においてメチル化(M)、あるいはMIK3遺伝子の脱メチル化(U)が、子宮頸がん検査用マーカーとなりえる。MIK1はheparan sulfate (glucosamine) 3-O-sulfotransferase 2 (HS3ST2)遺伝子、MIK2はREC8 homolog(REC8)遺伝子、MIK3はserpin peptidase inhibitor, clade B (ovalbumin), member 5(SERPINB5)遺伝子であり、これらの遺伝子におけるプロモーター領域のCpG領域がメチル化又は脱メチル化を検出することにより、子宮頸がん発症高リスク群を検査することができる。
【0035】
HS3ST2遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG領域を増幅しうるプライマーは以下のとおりである。
プライマー1:5'-GTCGGTAGCGCGTTTCGTTC(配列番号1)
プライマー2:5'-GACGACGACGCGACTATAC(配列番号2)
プライマー3:5'- GAGTTGGTAGTGTGTTTTGTTT(配列番号3)
プライマー4:5'- CACTCACAAAACACTCAACA(配列番号4)
【0036】
プライマー1(配列番号1)とプライマー2(配列番号2)はメチル化シトシンの存在するアレルにハイブリダイズするように設計されており、プライマー3(配列番号3)とプライマー4(配列番号4)はメチル化シトシンの存在しないアレルのみにハイブリダイズするように設計されている。
【0037】
REC8遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG領域を増幅しうるプライマーは以下のとおりである。
プライマー5:5'- GGATATTTGGCGTTTTCGATTC(配列番号5)
プライマー6:5'- GAACGCTTCGAAACACCG(配列番号6)
プライマー7:5'- GGATATTTGGTGTTTTTGATTT(配列番号7)
プライマー8:5'- ACAAACACTTCAAAACACCA(配列番号8)
【0038】
プライマー5(配列番号5)とプライマー6(配列番号6)はメチル化シトシンの存在するアレルにハイブリダイズするように設計されており、プライマー7(配列番号7)とプライマー8(配列番号8)はメチル化シトシンの存在しないアレルのみにハイブリダイズするように設計されている。
【0039】
SERPINB5遺伝子のプロモーター領域に存在するCpG領域を増幅しうるプライマーは以下のとおりである。
プライマー9:5'- ATTTTTCGGTTTTGCGTGGGTC(配列番号9)
プライマー10:5'- ACCCAACTCCACGCCCCG(配列番号10)
プライマー11:5'- TATTTTTTGGTTTTGTGTGGGTT(配列番号11)
プライマー12:5'- CCCAACTCCACACCCCA(配列番号12)
【0040】
プライマー9(配列番号9)とプライマー10(配列番号10)はメチル化シトシンの存在するアレルにハイブリダイズするように設計されており、プライマー11(配列番号11)とプライマー12(配列番号12)はメチル化シトシンの存在しないアレル、即ち脱メチル化のみにハイブリダイズするように設計されている。
【0041】
その結果、図2のパネルに示すように、HPVの感染を認めないEM−2を除き、HPV感染を認めたその他の細胞について、いずれの場合もMIK1及びMIK2については、メチル化(M)を認め、MIK3については脱メチル化(U)を示し、脱メチル化を認めた。
【0042】
(実施例3)3種のエピジェネティクスマーカーのメチル化について(2)
本実施例では、子宮頸がん7症例から採取した膣洗浄液について、3種のエピジェネティクスマーカーMIK1及びMIK2各遺伝子のメチル化、並びにMIK3の脱メチル化を確認した。
【0043】
その結果、図3のパネルに示すように、各検体のうち173TについてはHPVの感染を認めず、その他については感染を認めた。HPVの感染を認めない173T及び、HPV感染を認めたその他の検体について、いずれの場合もMIK1及びMIK2についてメチル化(M)を認め、MIK3については、脱メチル化(U)を示した。MIK3のUについても、マーカーとなりえるものと思われた。なお、発がんの過程ではHPVが関与していても、臨床検体ではHPVが陰性化してしまう可能性も考えられる。
【0044】
(実施例4)3種のエピジェネティクスマーカーのメチル化について(3)
本実施例では、子宮頸部細胞診71株のうち、異常を認めた23症例について、3種のエピジェネティクスマーカーについてメチル化の有無を確認した。各検体は全てHPV感染を認めた。
【0045】
その結果、図4のパネルに示すように、被検者4、5、10、14及び18についてはMIK1のメチル化を認めなかったが、細胞診で異常を認めなかった被検者4、5を除き、MIK2でメチル化を認めるか、又はMIK3で脱メチル化を認めた。以上の結果、MIK1及びMIK2についてはメチル化を認めるか、あるいはMIK3について、脱メチル化を認めることで、HPV感染者における子宮頸がんが発症する子宮頸がん発症高リスク群を検出しうることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上詳述したように、本発明の子宮頸がん発症高リスク群の検査用マーカーによれば、ハイリスクHPVに感染した場合の子宮頸がん発症高リスク群を検出することができる。本発明の検査方法は、子宮頸部細胞診を行なった患者について、膣洗浄液を検体として利用できることから、一度採取した検体を有効に活用することができ、被検者に対しても低い負担で検査を行うことができる。また、本発明の検査方法により検出された子宮頸がん発症高リスク群では、HPVに感染に対して予防的に対応することができ、また感染後であっても、より効果的な治療方法を提供することができる。一方、高リスク群ではないと判断された場合には、不必要な処理を行うことなく、効果的に治療を施すことができ、医療経済の軽減化の一助ともなりうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MIK1、MIK2及びMIK3から選択されるいずれかの遺伝子を含む子宮頸がん検査用マーカー。
【請求項2】
遺伝子が、MIK1及びMIK2についてはプロモーター領域のCpG領域におけるDNAがメチル化された遺伝子からなり、MIK3についてはプロモーター領域のCpG領域におけるDNAが脱メチル化された遺伝子からなるものである、請求項1に記載の子宮頸がん発症高検査用マーカー。
【請求項3】
さらに、RARB、FHIT、TERC、p16、TIMP3、CDH1、GSTP1、MGMT、MLH1、PTENから選択される少なくとも2種の遺伝子を含む、請求項1又は2に記載の子宮頸がん検査用マーカー。
【請求項4】
請求項2に記載の各遺伝子が、プロモーター領域のCpG領域におけるDNAがメチル化された遺伝子からなる、請求項3に記載の子宮頸がん検査用マーカー。
【請求項5】
子宮頸がん検査用マーカーが、ヒトパピローマウイルス感染後の子宮頸がんの発症リスクを予測するマーカーである、請求項1〜4のいずれか1に記載の子宮頸がん検査用マーカー。
【請求項6】
被検者から取得した検体から、請求項1〜5のいずれか1に記載の子宮頸がん検査用マーカーを検出することを特徴とする、子宮頸がんの検査方法。
【請求項7】
以下の工程を含む、子宮頸がんの検査方法:
1)被検者から取得した検体から、DNAを抽出する工程;
2)抽出したDNAについて、請求項1〜5のいずれか1に記載の子宮頸がん検査用マーカーを構成するDNAを増幅しうるプライマーを用いて、DNAを増幅させる工程;
3)増幅産物を検出する工程。
【請求項8】
子宮頸がんの検査が、ヒトパピローマウイルス感染後の子宮頸がんの発症リスクを予測する検査である、請求項6又は7に記載の子宮頸がんの検査方法。
【請求項9】
各遺伝子マーカー検出用のプライマーを含む、子宮頸がん検査用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−44924(P2012−44924A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190089(P2010−190089)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】