説明

子癇前症の予測および予防

本開示は、妊婦における子癇前症のリスク増加を評価する方法に関する。本明細書に記載の方法は、妊婦の生体試料中のレラキシンレベルの測定、および場合によりC反応性タンパク質レベルの測定を用いる。開示はさらに、妊婦へのレラキシン医薬製剤の投与を介して、子癇前症のリスクを低下させる方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年11月24日に出願された米国仮特許出願第61/200,150号の米国特許法第119(e)条の下の利益を主張するものであり、本出願は全目的のため全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、妊婦における子癇前症(preeclampsia)のリスク増加を評価する方法に関する。本明細書に記載の方法は、妊婦の生体試料中のレラキシンレベルの測定、および場合によりC反応性タンパク質レベルの測定を用いる。開示はさらに、妊婦へのレラキシン医薬製剤の投与を介して、子癇前症のリスクを低下させる方法を含む。
【背景技術】
【0003】
子癇前症(妊娠中毒症としても知られる)は、通常は第2期後期または第3期の妊婦、および出産後最初の6週間の産後女性に影響する致死的な状態である。子癇前症は、新規発症の尿中タンパク質(タンパク尿)および高血圧により診断される。該状態は、妊婦の腎臓、肝臓、脳、心臓および胎盤に影響する。子癇前症は、妊娠の約8から10パーセントに発生し、陣痛誘発または帝王切開のいずれかによる妊娠の終了により緩和されるのみである。原因は依然としてほとんど不明である。子癇前症は初回妊娠中に最も多く発生する。子癇前症のリスクは、35歳超または18歳未満の女性、この状態に遺伝的になりやすい女性、既存の高血圧症、糖尿病、ループスのような自己免疫疾患、第V因子ライデンのようなさまざまな遺伝性栓友病、または腎疾患に罹患している女性、肥満女性を含む特定の妊婦群、および多胎妊娠女性(双子、三つ子以上)で中程度に増加することも知られている。子癇前症を発症する単独の最も重大なリスクは、以前の妊娠で子癇前症になったことである。
【0004】
子癇前症は通常、妊娠20週後に発症するが、胞状奇胎(hydatiform mole)がある場合、より早期に始まることもあり得る。子癇前症は、徐々にまたは突然発症し得、妊娠期間中軽度のままであるまたは重度になる可能性がある。高血圧およびタンパク尿に加えて一般的な症状は、尿酸の上昇、点滅光または視界不良などの視覚問題、持続性頭痛、手足の極度の腫脹、体液貯留、右上腹部の疼痛である。未治療の場合、子癇前症は、母体の肝臓または腎臓を損傷する、胎児から酸素を奪う、および子癇(発作)の原因となる可能性がある。子癇前症の徴候を有する妊婦は、医師により注意深くモニターされなければならない。中程度から重度の子癇前症は多くの場合、安静、硫酸マグネシウム、および高血圧のための薬剤により病院で治療される。不幸なことに、分娩は依然として子癇前症に対する唯一の真の「治癒」である。事実、女性が重度の子癇前症を有する、または軽度から中程度の子癇前症で予定日が近い場合、分娩は依然としてこれまでで最善の治療である。陣痛は次いで、帝王切開が必要と思われない限り、投薬により開始される。出産後最初の数日以内に、母親の血圧は通常は正常に戻るが、重度の子癇前症では、血圧が正常に戻るのに数週間を要する場合がある。
【0005】
具体的には、子癇前症は、妊婦が高血圧(少なくとも4時間をおいて取られた2つの別々の測定値が140/90mm Hg以上)および24時間尿サンプル中のタンパク質300mg(すなわち、タンパク尿)を発症する場合に診断される。腫脹または浮腫、(特に手および顔の)は、子癇前症診断の重要な徴候と長い間考えられたが、正常妊娠女性の最大40%もまた浮腫を有し得ることから、今日の医療では高血圧症およびタンパク尿のみが診断に必要である。しかし、押した場合に凹みを残すことで顕著となる圧痕浮腫、すなわち、異常な腫脹(特に手、足、または顔の)は、重大である可能性があり、医師に報告しなければならない。子癇は死に至る可能性があるが、子癇前症は明らかに無症候性である場合、または典型的な妊娠関連疾患の症状を示す場合がある。例えば、肝臓障害を反映し、およびヘルプ症候群(すなわち、溶血、肝酵素の上昇および血小板減少)と呼ばれる重症型の子癇前症の典型である上腹部痛は、妊娠のきわめて一般的な問題である胸焼けと容易に混同され得る。したがって、子癇前症の推定診断は、一致する子癇前症の特徴に頼っており、確定診断は出産が認められた後、症状が退行するまで一般に不可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
子癇前症スクリーニングの領域では進歩があったが、臨床医は、子癇前症のリスクがある妊婦をモニターする最適な戦略に取り組み続けている。母親および子どもの両方を子癇前症の悪影響から守るアプローチが望まれる。本開示は、妊婦が子癇前症を有するまたは子癇前症になりやすいかどうかを判定する方法を提供してこのニーズに応える。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、妊婦において子癇前症を発症するリスクを評価する方法、および可能性を低下させる方法を提供する。本開示の1つの大きな利点は、療法をタイミング良く開始できるように、子癇前症の発症リスクを妊娠中の早期に評価することができる点である。本開示の別の利点は、子癇前症を予防または軽減するために、子癇前症のリスクが高いと判定された妊婦を、比較的低レベルのレラキシンまたはこのアゴニストで治療することができる点である。レラキシンの早期投与は、妊娠第1期中にH2レラキシンが比較的欠乏している妊婦における妊娠合併症数を劇的に減少させることができる。レラキシンは妊婦に自然発生するため、外因性レラキシンによる治療が有害な副作用を伴うはずはない。本開示のさらに別の利点は、子癇前症、および子癇前症になりやすい妊娠被験者のサブセットにおける疾患進行をよりよく理解するための研究および/または臨床試験に、豊富な患者集団を選択することができる点である。
【0008】
1つの態様では、本開示は、妊娠第1期の妊娠ヒト女性を選択するステップと、ヒト女性における子癇前症の発症リスクを評価するため、妊娠ヒト女性でのレラキシンタンパク質レベルを検出するステップとを含む、妊娠ヒト女性における子癇前症の発症リスクを評価する方法を提供する。別の態様では、本開示は、妊娠第2期の妊娠ヒト女性を選択するステップと、ヒト女性における子癇前症の発症リスクを評価するため、妊娠ヒト女性でのレラキシンタンパク質レベルを検出するステップとを含む、妊娠ヒト女性における子癇前症の発症リスクを評価する方法を提供する。別の態様では、本開示は、子癇前症の発症前の妊娠ヒト女性を選択するステップと、ヒト女性における子癇前症の発症リスクを評価するため、妊娠ヒト女性でのレラキシンタンパク質レベルを検出するステップとを含む、妊娠ヒト女性における子癇前症の発症リスクを評価する方法を提供する。レラキシンは血中で検出することができる。好ましくは、レラキシンは、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などのレラキシンに対する抗体を用いて検出される。本開示の1つの実施形態では、ヒト女性は妊娠5から14週である。本開示の別の実施形態では、ヒト女性は妊娠5から28週である。本開示の別の実施形態では、ヒト女性は1人を超える子どもを妊娠している。本開示の別の実施形態では、妊娠ヒト女性は35歳超である。さらに別の実施形態では、妊娠ヒト女性は18歳以下である。さらに別の実施形態では、妊娠ヒト女性は遺伝的に子癇前症になりやすい。本開示の別の態様では、方法は、妊娠ヒト女性におけるC反応性タンパク質(CRP)レベルを検出するステップとをさらに含む。CRPは血中で検出される。好ましくは、CRPは、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体などのCRPに対する抗体を用いて検出される。
【0009】
別の態様では、本開示は、妊娠ヒト女性が血流中約500pg/ml未満のレラキシンレベルを有する、妊娠第1期の該妊娠ヒト女性を選択するステップとを含む、妊娠ヒト女性における子癇前症の発症可能性を低下させる方法を提供する。別の態様では、本開示は、妊娠ヒト女性が血流中約500pg/ml未満のレラキシンレベルを有する、妊娠第2期の該妊娠ヒト女性を選択するステップとを含む、妊娠ヒト女性における子癇前症の発症可能性を低下させる方法を提供する。別の態様では、本開示は、妊娠ヒト女性が血流中約500pg/ml未満のレラキシンレベルを有する、子癇前症の発症前の該妊娠ヒト女性を選択するステップとを含む、妊娠ヒト女性における子癇前症の発症可能性を低下させる方法を提供する。方法は、妊娠ヒト女性における子癇前症の発症可能性を低下させるため、妊娠ヒト女性に医薬製剤でのレラキシンを投与するステップとをさらに含む。レラキシンは、1日あたり約10μg/kgから約100μg/kg被験者体重の量で妊娠ヒト女性に投与することができる。1つの好ましい実施形態では、レラキシンは、1日あたり約30μg/kg被験者体重の量で妊娠ヒト女性に投与される。レラキシン投与は、欠乏が顕著になり次第開始することができ、妊娠期間中継続することができる。このように、レラキシンは、例えば、妊娠中を通じて約10ng/mlのレラキシン血清濃度を維持するように被験者に投与される。レラキシン医薬製剤は、皮下(SQ)または他の経路により投与することができる。例えば、レラキシンは、注入ポンプによる持続注入により送達することができる。
【0010】
本開示の医薬製剤に使用されるレラキシンは、例えば、合成もしくは組換えレラキシン、または薬学的に有効なレラキシンアゴニストもしくは模倣剤であってもよい。本開示の1つの実施形態では、レラキシンはH1ヒトレラキシンである。別の実施形態では、レラキシンはH2ヒトレラキシンである。さらに別の実施形態では、レラキシンはH3ヒトレラキシンである。さらなる実施形態では、レラキシンは合成もしくは組換えヒトレラキシン、または薬学的に有効なレラキシンアゴニストもしくはレラキシン模倣剤である。故に、子癇前症のリスクがある妊娠ヒト女性は、合成もしくは組換えヒトレラキシンまたはレラキシンアゴニストもしくは模倣剤の医薬製剤で治療することができる。本開示の1つの実施形態では、妊娠ヒト女性は合成ヒトレラキシンで治療される。別の実施形態では、妊娠ヒト女性は組換えヒトレラキシンで治療される。さらに別の実施形態では、妊娠ヒト女性は薬学的に有効なレラキシンアゴニストまたは模倣剤で治療される。レラキシンは、皮下、筋肉内、静脈内、舌下および吸入を含むがこれらに限定されない幾つかの異なる経路により、妊娠ヒト女性に投与することができる。1つの好ましい投与経路は、皮下(SQ)投与である。
【0011】
本開示はさらに、妊娠第1期の妊娠ヒト女性を選択するステップと、ヒト女性における子癇前症の発症リスクを評価するため、妊娠ヒト女性でのレラキシンタンパク質レベルを検出するステップとを含む、妊娠ヒト女性における子癇前症の発症リスクを評価するのに使用するレラキシンを提供する。本開示はさらに、妊娠第2期の妊娠ヒト女性を選択するステップと、ヒト女性における子癇前症の発症リスクを評価するため、妊娠ヒト女性でのレラキシンタンパク質レベルを検出するステップとを含む、妊娠ヒト女性における子癇前症の発症リスクを評価するのに使用するレラキシンを提供する。本開示はさらに、子癇前症の発症前の妊娠ヒト女性を選択するステップと、ヒト女性における子癇前症の発症リスクを評価するため、妊娠ヒト女性でのレラキシンタンパク質レベルを検出するステップとを含む、妊娠ヒト女性における子癇前症の発症リスクを評価するのに使用するレラキシンを提供する。本開示はさらに、妊娠ヒト女性が血流中約500pg/ml未満のレラキシンレベルを有する、妊娠第1期の該妊娠ヒト女性を選択するステップを含む、妊娠ヒト女性における子癇前症の発症可能性を低下させるのに使用するレラキシンを提供する。本開示はさらに、妊娠ヒト女性が血流中約500pg/ml未満のレラキシンレベルを有する、妊娠第2期の該妊娠ヒト女性を選択するステップを含む、妊娠ヒト女性における子癇前症の発症可能性を低下させるのに使用するレラキシンを提供する。本開示はさらに、妊娠ヒト女性が血流中約500pg/ml未満のレラキシンレベルを有する、子癇前症の発症前の該妊娠ヒト女性を選択するステップを含む、妊娠ヒト女性における子癇前症の発症可能性を低下させるのに使用するレラキシンを含む。
【0012】
さらに、本開示は、a)子癇前症の発症前の妊婦から得られた生体試料中のH2レラキシン濃度を測定するステップと、b)H2レラキシン濃度が妊婦の下位4分の1の濃度(下位四分位濃度)のカットオフ値未満である場合、前記妊婦は子癇前症を発症するリスクが高いと判定するステップとを含む、妊婦が子癇前症を発症するリスクが高いかどうかを評価する方法を提供する。幾つかの実施形態では、下位四分位濃度は、同様の在胎期間および同様の地域の妊婦群で測定されたH2レラキシン濃度の上位75%から下位25%を区切るH2レラキシン濃度である。幾つかの実施形態では、本開示の目的のための同様の在胎期間の同様の妊婦集団は、テスト被験者(例えば、ステップaおよびbの妊婦)と同じ期間、好ましくはプラスマイナス1カ月の在胎期間、またはより好ましくはプラスマイナス2週間の在胎期間の妊婦集団である。幾つかの実施形態では、本開示の目的のための同様の地域の同様の妊婦集団は、テスト被験者(例えば、ステップaおよびbの妊婦)の好ましくは1000マイル以内、またはより好ましくは500マイル以内の、同じ大陸、同じ国に居住する妊婦集団である。幾つかの好ましい実施形態では、生体試料は血漿または血清を含む。幾つかの好ましい実施形態では、H2レラキシンはH2レラキシンに対する抗体を用いて測定されるのに対し、これらの実施形態のサブセットでは、H2レラキシンは酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)で測定される。幾つかの実施形態では、子癇前症の発症前は、妊娠5週から15週にわたる妊婦の第1期中である。本開示はまた、妊婦が、子癇前症になりやすい群であって、初回妊娠、35歳超、18歳未満、多胎妊娠および既存状態のうちの1つまたは複数を含む群の一部である方法も提供する。幾つかの実施形態では、既存状態は、高血圧症、糖尿病、ループス、栓友病、腎疾患、および肥満から成る群から選択される。幾つかの好ましい実施形態では、下位四分位濃度のカットオフ値は約500pg/mlである。さらに本開示は、生体試料中のC反応性タンパク質(CRP)濃度を測定するステップと、H2レラキシン濃度が約500pg/mlより高い場合でも、CRP濃度が約13.5mcg/mlより高い場合、該妊婦は子癇前症を発症するリスクが高いと判定するステップとをさらに含む方法を提供する。あるいは本開示は、生体試料中のC反応性タンパク質(CRP)濃度を測定するステップと、H2レラキシン濃度が約500pg/mlより高い場合でも、CRP濃度が約1.5mcg/ml未満の場合、該妊婦は子癇前症を発症するリスクが高いと判定するステップとをさらに含む方法を提供する。本開示はまた、a)妊婦から得られた生体試料中のH2レラキシン濃度を測定するステップと、b)H2レラキシン濃度が妊婦の下位四分位濃度のカットオフ値未満である場合、該妊婦は子癇前症を有する(子癇前症に罹患している)と判定するステップとを含む、妊婦が子癇前症を有するかどうかを評価する方法も提供する。幾つかの好ましい実施形態では、生体試料は、妊婦が子癇前症の少なくとも1つの症状を示している場合に該妊婦から得られ、方法は、該妊婦が子癇前症を有すると診断するための一部に使用される。これらの実施形態のサブセットでは、子癇前症の少なくとも1つの症状は、浮腫、重度の頭痛、視覚変化、上部腹痛、悪心、嘔吐、目眩、尿排出量の減少、および1週間あたり2ポンドを超える突然の体重増加から成る群の1つまたは複数を含む。
【0013】
また、本開示は、a)妊娠第1期中に得られた生体試料中、約500pg/ml未満の血清H2レラキシン濃度を有する妊婦を選択するステップと、b)該妊婦が子癇前症を発症する可能性を低下させるために医薬製剤でのH2レラキシンを該妊婦に投与するステップとを含む、妊婦が子癇前症を発症する可能性を低下させる方法も提供する。幾つかの実施形態では、H2レラキシンは、妊娠の最終部(例えば、H2レラキシン濃度の判定後)の間中1日あたり約30μg/kg体重の量で妊婦に投与される。幾つかの実施形態では、H2レラキシンは、妊娠中を通じて約10ng/mlのレラキシンの血清濃度を維持するために妊婦に投与される。好ましい方法では、血清H2レラキシン濃度は免疫アッセイにより判定される。幾つかの実施形態では、妊娠第1期は妊娠5週から15週にわたる。幾つかの実施形態では、妊婦は子癇前症になりやすい群であって、初回妊娠、35歳超、18歳未満、多胎妊娠および既存状態のうちの1つまたは複数を含む群の一部である。これらの実施形態のサブセットでは、既存状態は高血圧症、糖尿病、ループス、栓友病、腎疾患、および肥満から成る群から選択される。幾つかの特に好ましい実施形態では、妊婦は北米出身である。より好ましくは、妊婦は、北米の工業北東地域(例えば、ピッツバーグから250マイル以内)出身である。
【0014】
さらに、本開示は、H2レラキシンと反応するモノクローナル抗体であって、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC) PTA−8423として示されたハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体を提供する。さらなる実施形態では、PTA−8423のハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体、マイクロプレート、および試料のH2レラキシン濃度を測定するための説明書を含む免疫アッセイキットが提供される。幾つかの好ましい実施形態では、免疫アッセイは、ポリクローナル抗レラキシン抗体をさらに含むH2レラキシン捕捉アッセイである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】在胎期間に関して子癇前症(PE)女性(HPUおよびHP群)における血清レラキシン濃度を示す図である。線は同じ被験者由来の試料を結んでいる。菱形は、後に子癇前症を発症し、および内因性レラキシンレベルが最初の15週に500pg/mlより低かった妊婦由来の試料を示す。四角形は、後に子癇前症を発症したが、内因性レラキシンレベルが500pg/mlを上回った妊婦由来の試料を示す。菱形は、子癇前症を発症しなかった妊婦由来の試料を示す。正常な妊娠結果を有する女性で、最初の15週に500pg/mlより低いレラキシン濃度であった者はほとんどいなかったことに注意すべきである。
【図2】試験被験者から採取された第1試料のレラキシン濃度の二変量ヒストグラム(すなわち、子癇前症クラスター)の図解である。被験者が異なる時点で試験に採用されたため、第1試料は在胎期間5から11週から得られた。
【図3】分岐数が1および終端ノード数が2である、HPUおよびHP妊娠(すなわち、子癇前症女性)に関する分類および回帰木(CART)の図解である。レラキシン(Rlx)による特異度が96%であるのに対し、感度は37%である。この分類木に使用されたデータは図1に示されている。これは、妊娠の後期に子癇前症を発症するリスクが高い女性集団を特定するのに、血清レラキシンを使用できることを図示している。この予測は、子癇前症の臨床症状が出現する数カ月前に行うことができる。
【図4】分岐数が3および終端ノード数が4である、HPUおよびHP妊娠(すなわち、子癇前症女性)に関するCART分析を示す図である。レラキシン(Rlx)およびC反応性タンパク質(CRP)による特異度が93%であるのに対し、感度はレラキシン(Rlx)単独と比べて83%に改善した(図3参照)。CRP測定の追加は、レラキシン(Rlx)濃度単独の判定では特定されなかった子癇前症になりやすい女性の特定を可能にする。
【図5】分岐数が3および終端ノード数が4である、HPU、HUまたはHP妊娠(すなわち、子癇前症女性を含む高血圧女性)に関する分類木を示す図である。レラキシン(Rlx)およびC反応性タンパク質(CRP)測定による特異度は63%、感度は96%である。
【図6】分岐数が5および終端ノード数が6である、HPU、HUまたはHP妊娠(すなわち、子癇前症女性を含む高血圧女性)に関する分類木を示す図である。レラキシン(Rlx)、C反応性タンパク質(CRP)、およびクレアチニン(CREAT)測定による特異度は92%、感度は87%である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
概説
1つの態様では、本開示は、妊娠ヒト被験者における子癇前症の発症リスクを評価する方法に関する。本明細書に記載の方法は、妊娠第1期中の妊婦から得られた生体試料中のレラキシン、および場合によりC反応性タンパク質(CRP)のレベルの測定を用いる。子癇前症は、女性が妊娠中に入院する主な理由の1つであることから、医療制度に対する高コストと関連している。子癇前症は、特に母親の血圧が140/90mmHgを超えた場合に、母体または胎児の健康上の懸念のため帝王切開による妊娠の早期終結をもたらすことが多いため、子癇前症またはこの症状で入院する妊婦の予後はこれまで深刻であった。今日現在、妊娠の終結以外に子癇前症の治癒はない。この問題を軽減するため、本開示は、子癇前症の発症可能性またはリスクを評価するのに使用できるテストを提供する。好ましい実施形態では、テストは、女性をモニターでき、子癇前症が完全に進展するのを防ぐための適切な介入を行えるように妊娠早期(例えば、第1期)で行われる。子癇前症のリスク増大を早期に認識することは、担当医師が妊娠患者の状態を発症から安定化できるようにする。高血圧を予防または低下させるための療法形態での介入は、同様に、母親および子どもの死亡リスクを低下させ、妊娠の早期終結のリスクをさらに低下させる。
【0017】
本明細書に記載の通り、妊婦におけるレラキシンレベルの測定によって、女性が子癇前症を発症するかどうかを予測することができる。このように、低レベルのレラキシンは状態の高度に特異的な指標になる。ヒト被験者に関して本明細書では用語レラキシン(天然レラキシンおよび内因性レラキシン)は、特に規定のない限り、H2レラキシンを指す。図1および3は、妊婦におけるレラキシンレベルが500pg/mlより低い場合、女性が子癇前症を発症する可能性は96%にもなることを示している(CART分析に関する図3参照)。事実、図1のデータを用いて特定された子癇前症女性の3分の1が、レラキシンレベルが500pg/mlより低い。さらなる実施形態では、レラキシンレベルに加えて天然C反応性タンパク質(CRP)レベルを測定することにより、テストはさらにより感受性になる。例えば図4は、CRPが約1.5μg/ml未満または約13.5μg/mlを超える場合、テストの感度は83パーセントまで上昇することを示している。
【0018】
別の態様では、本開示は、薬学的に活性なH2レラキシンまたはH2レラキシンアゴニストの投与により、子癇前症の発症可能性を予防または低下させる方法を提供する。より具体的には、妊娠中の女性を安定させ、および子癇前症が発症するのを予防するため、内因性レラキシンレベルが500pg/mlより低い場合に外因性H2レラキシンを妊婦に投与することができる。このように、妊婦は、妊娠の最終期間中(例えば、H2測定後)、合成もしくは組換えヒトレラキシンの医薬製剤またはレラキシンアゴニストにより治療され、レラキシンは主に予防薬として機能する。
【0019】
定義
用語「内因性レラキシン」または「天然レラキシン」は、本明細書では互換的に使用され、当技術分野でよく知られている自然発生のペプチドホルモンレラキシンを指す。女性では、レラキシンは卵巣の黄体、胸部ならびに、妊娠中は、胎盤、絨毛膜、および脱落膜によっても産生される。内因性レラキシンレベルは、黄体による産生の結果、排卵後に上昇し、黄体期中期および後期にピークに達する。受胎できない月経周期では、レラキシン濃度は検出不能なレベルまで減少する。しかし、受胎できる月経周期では、レラキシン濃度は急増し、第1期にピークに達する。レラキシン濃度は次いで緩やかに減少し始めるが、妊娠期間中上昇したままである。ヒト被験者に関して本明細書では用語レラキシン(天然レラキシンおよび内因性レラキシン)は、特に規定のない限り、H2レラキシンを指す。
【0020】
用語「外因性レラキシン」は、本明細書では、インタクトな完全長ヒトレラキシンまたは生物活性を保持するレラキシン分子の一部を含む、非内因性ヒトレラキシンを意味する。用語「外因性レラキシン」は、ヒトH1プレプロレラキシン、プロレラキシン、およびレラキシン;H2プレプロレラキシン、プロレラキシン、およびレラキシン;ならびにH3プレプロレラキシン、プロレラキシン、およびレラキシンを含む。用語「レラキシン」は、さらに、生物学的に活性な(「薬学的に活性な」とも本明細書で呼ばれる)、組換え、合成または天然源由来のレラキシン、およびアミノ酸配列変異体などのレラキシン変異体を含む。このように、該用語は、合成H1、H2およびH3ヒトレラキシンならびに組換えH1、H2およびH3ヒトレラキシンを含む、合成ヒトレラキシンおよび組換えヒトレラキシンを含む。該用語は、さらに、レラキシン受容体(例えば、LGR7受容体、LGR8受容体、GPCR135、GPCR142等)から結合レラキシンを競合的に置換する全ての薬剤を含む、レラキシンアゴニスト、レラキシン模倣剤および/またはレラキシン類似体ならびに生物活性を保持するこれらの部分など、レラキシン様活性を有する活性薬剤を含む。故に、薬学的に有効なレラキシンアゴニストまたは模倣剤は、レラキシン受容体に結合してレレラキシン様反応を誘発することができる、レラキシン様活性を有するいずれかの薬剤である。さらに、本明細書ではヒトレラキシンの核酸配列は、ヒトレラキシン(例えば、H1、H2および/またはH3)の核酸配列と必ずしも100%同一でなくてもよいが、ヒトレラキシンの核酸配列と少なくとも約40%、50%、60%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一であることができる。レラキシンは、本明細書では、当業者に既知の任意の方法により作製することができる。このような方法の例は、例えば、米国特許第5,759,807号、およびBullesbachら(1991年)The Journal of Biological Chemistry 266(17):10754〜10761頁に示されている。レラキシン分子および類似体の例は、例えば、米国特許第5,166,191号に示されている。
【0021】
自然発生の生物学的に活性なレラキシンは、ヒト、ネズミ(すなわち、ラットまたはマウス)、ブタ、または他の哺乳動物源由来であってもよい。また、インビボでの半減期を増大するために修飾されたレラキシン、例えば、ペグ化レラキシン(すなわち、ポリエチレングリコールに結合されたレラキシン)、分解酵素による切断に供される、レラキシンにおけるアミノ酸の修飾等も含まれる。該用語はまた、Nおよび/またはC末端トランケーションを有するAおよびB鎖を含むレラキシンも含む。一般に、H2レラキシンでは、A鎖はA(1〜24)からA(10〜24)まで異なり得、B鎖はB(1〜33)からB(10〜22)まで異なり得;およびH1レラキシンでは、A鎖はA(1〜24)からA(10〜24)およびB鎖はB(1〜32)からB(10〜22)まで異なり得る。また、用語「レラキシン」の範囲内には、1つまたは複数のアミノ酸残基の他の挿入、置換、または欠失、グリコシル化変異体、非グリコシル化レラキシン、有機および無機塩、レラキシンの共有結合修飾された誘導体、プレプロレラキシン、およびプロレラキシンも含まれる。また、該用語には、米国特許第5,811,395号に開示されたレラキシン類似体を含むがこれに限定されない、野生型(例えば、自然発生)配列とは異なるアミノ酸配列を有するレラキシン類似体も含まれる。レラキシンアミノ酸残基に対する可能な修飾には、N末端を含む遊離アミノ基のアセチル化、ホルミル化もしくは類似の保護、C末端基のアミド化、またはヒドロキシルもしくはカルボン酸基のエステルの形成(例えば、ホルミル基の付加によるB2でのトリプトファン(Trp)残基の修飾)が含まれる。ホルミル基は、容易に除去可能な保護基の典型例である。他の可能な修飾には、異なるアミノ酸(天然アミノ酸のD型を含む)との、Bおよび/またはA鎖内の1つまたは複数の天然アミノ酸の置換(ノルロイシン(Nle)、バリン(Val)、アラニン(Ala)、グリシン(Gly)、セリン(Ser)またはホモセリン(HomoSer)との、B24におけるMet部分の置換を含むが、これらに限定されない)が含まれる。他の可能な修飾には、該鎖からの天然アミノ酸の欠失、または該鎖への1つまたは複数の余分なアミノ酸の付加が含まれる。さらなる修飾には、プロレラキシンのB/CおよびC/A接合部におけるアミノ酸置換(この修飾はプロレラキシンからのC鎖の切断を促進する)、および例えば、米国特許第5,759,807号に記載されているような非自然発生Cペプチドを含む変異体レラキシンが含まれる。
【0022】
また、用語「レラキシン」により、レラキシンおよび異種ポリペプチドを含む融合ポリペプチドも含まれる。異種ポリペプチド(例えば、非レラキシンポリペプチド)融合パートナーは、融合タンパク質のレラキシン部分に対しC末端またはN末端であってもよい。異種ポリペプチドには、免疫学的に検出可能なポリペプチド(例えば、「エピトープタグ」);検出可能なシグナルを生成することができるポリペプチド(例えば、緑色蛍光タンパク質、アルカリホスファターゼなどの酵素、および当技術分野で既知の他のもの);サイトカイン、ケモカイン、および成長因子を含むがこれらに限定されない、治療ポリペプチドが含まれる。変異体をもたらすレラキシン分子構造におけるこのような変異または変化は全て、レラキシンの機能(生物)活性が維持される限り、本開示の範囲内に含まれる。好ましくは、レラキシンアミノ酸配列または構造のいずれかの修飾は、レラキシン変異体で治療される個体において免疫原性を増加させないものである。記載された機能活性を有するようなレラキシン変異体は、当技術分野で既知のインビトロおよびインビボアッセイを用いて容易に同定することができる。
【0023】
幾つかの実施形態では、本開示は、レラキシンアゴニストの投与を含む方法を提供する。幾つかの方法では、レラキシンアゴニストは、RXFPl、RXFP2、RXFP3、RXFP4、FSHR(LGRl)、LHCGR(LGR2)、TSHR(LGR3)、LGR4、LGR5、LGR6 LGR7(RXFPl)およびLGR8(RXFP2)から選択されるがこれらに限定されない、1つまたは複数のレラキシン関連Gタンパク質共役受容体(GPCR)を活性化する。幾つかの実施形態では、レラキシンアゴニストは、Compugen社のWO 2009/007848の式Iのアミノ酸配列(レラキシンアゴニスト配列の教示のため参照により本明細書に組み込まれる)を含む。例示的なレラキシンアゴニストは、Corthera社の国際出願PCT/US2009/044251(配列番号:4〜8のレラキシンアゴニスト配列の教示のため参照により本明細書に組み込まれる)にも開示されている。
【0024】
本開示はまた、式Iポリペプチドの相同体も含み、このような相同体は、例示的なレラキシンアゴニストのアミノ酸配列(例えば、Corthera社のPCT/US2009/044251の配列番号5または配列番号6)と少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%以上、例えば100%同一であってもよく、デフォルトパラメータ(場合によりおよび好ましくは以下を含む:フィルタリング(このオプションはSeg(タンパク質)プログラムを用いてクエリから反復配列または低複雑度配列をフィルタリングする)、タンパク質のスコア行列がBLOSUM62、ワードサイズが3、E値が10、ギャップコストが11、1(初期化および(初期化および伸長))を用いる米国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のBlastPソフトウェアを用いて決定することができる。場合によりおよび好ましくは、核酸配列同一性/相同性は、デフォルトパラメータ(好ましくはDUSTフィルタプログラムを用いることを含み、また好ましくはE値10を有すること、低複雑度配列をフィルタリングすることおよびワードサイズ11も含む)を用いる米国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のBlastNソフトウェアにより決定される。最後に本開示は、上記のポリペプチド、および自然発生のまたは人工的に導入された(ランダムにまたは標的化方法で)、1つまたは複数のアミノ酸の欠失、挿入または置換などの突然変異を有するポリペプチドのフラグメントも含む。
【0025】
用語「妊娠」は、妊娠9カ月(最終月経期から40週)を指し、伝統的に3つの期間、すなわち、異なる段階の胎児発達が起こるおよそ3カ月の明確に区別できる期間に分けられる。第1期は、基本的な細胞分化の期間である。第1期は、胎児の動きを母親が初めて感じる(胎動初感)ことで終わると考えられ、これは通常は第3カ月(すなわち在胎期間約12から14週)の終わり頃に起きる。第2期は、体組織の急速な成長および成熟の期間である(在胎期間約15から約28週)。未熟児で生まれる第2期の胎児は、入院治療次第で生存できる可能性がある。第3期は、胎児の成長の最終段階を示す。組織が完成し、脂肪が胎児の皮膚下に蓄積し、および胎児が出生のための位置に移動する(在胎期間約29から42週)。この期間は、出生自体により終了する。
【0026】
記載された値との関連で使用される場合の用語「約」は、記載された値のプラスマイナス最大10%の範囲(例えば、記載された値の90〜110%)を含む。例えば、約30mcg/kg/日の静脈内(IV)注入速度は、27mcg/kg/日から33mcg/kg/日のIV注入速度を含む。
【0027】
「治療的に有効な」は、患者のベースライン状態または未治療もしくはプラセボ治療(例えば、レラキシンで治療されない)被験者の状態と比べて、測定可能な所望の医学的または臨床的ベネフィットをもたらすであろう薬学的に活性なレラキシンの量を指す。
【0028】
子癇前症
子癇前症(preeclampsia)(またはpre−eclampsia)は、低酸素状態になる浅く着床した胎盤が原因となり得、胎盤からのアップレギュレート炎症性メディエーター(血管内皮で作用する)の分泌を特徴とする免疫反応をもたらす。浅い着床は、胎盤に対する母体免疫系の反応から生じる。この理論は、胎児およびこの胎盤由来の父親抗原に対する確立した免疫寛容の欠如を示唆する証拠に関連している。子癇前症の幾つかのケースでは、母親は、母体の免疫反応をダウンレギュレートするための、胎盤が分泌するタンパク質に対する受容体が欠けていると考えられる(Moffettら、Placenta Suppl. A:S51〜6頁、2007年)。しかし、子癇前症の多くのケースでは、胎盤に対する母体の反応は、正常な着床が起こるのを可能にしているように思われる。慢性高血圧症または自己免疫疾患などの基礎疾患から生じる炎症のベースラインレベルが高い女性は、妊娠の炎症影響に対する寛容が低くなり得る可能性がある。
【0029】
多くの理論が、なぜ子癇前症が起きるのか説明しようと試み、該症候群を以下の状態(内皮細胞損傷、胎盤の免疫拒絶、胎盤灌流障害、血管反応性の変化、プロスタサイクリンとトロンボキサンの間の不均衡、塩分および水分の貯留を有する糸球体濾過率の低下、血管内容積の減少、中枢神経系興奮性の増加、播種性血管内凝固、子宮筋伸長(虚血)、ビタミン不足を含む食事要因、および遺伝要因を含む)の存在と関連づけてきた。
【0030】
子癇前症の理解は、胎盤を低酸素症になりやすくする極めて変わりやすい第1段階、これに続く例えば、内皮細胞損傷、血管反応性の変化、糸球体内皮症の典型的病変、血管内容積の減少、炎症等をもたらす可溶性因子が放出する、2段階のプロセスとしてである。幾つかの試験は、該状態になりやすい母親においては、内皮(血管の内層)への損傷、代謝の変化、炎症、および他の病的反応の原因となるホルモンまたは化学物質の放出をもたらす、胎盤への不十分な血液供給の概念を裏付ける(DrifeおよびMagowan(編) Clinical Obstetrics and Gynaecology、第39章、367〜370頁)。
【0031】
幾つかの試験は、不十分な灌流から生じる低酸素症が、VEGFおよびPLGFアンタゴニストであるsFlt−1をアップレギュレートし、母体内皮の損傷および胎盤の成長の制限をもたらすことを示唆する(Maynardら、J Clin Invest、111(5):649〜58頁、2003年)。さらに、TGF−ベータアンタゴニストであるエンドグリンは、子癇前症を発症する妊婦で上昇する(Venkateshaら、Nat Med、12(6):642〜649頁、2006年)。可溶性エンドグリンは恐らく、母体免疫系により産生される細胞表面エンドグリンのアップレギュレーションに反応して胎盤によりアップレギュレートされるが、sEngが母体内皮により産生される可能性もある。sFlt−1およびsEngどちらのレベルも、疾患の重症度が増すに伴い増加し、ヘルプ症候群ケースではsEngレベルがsFlt−1レベルを上回る。ヘルプ症候群は、溶血、肝酵素の上昇、および 血小板減少を特徴とする、子癇前症の重度の変異型である。sFlt−1およびsEngは両方とも、全ての妊婦である程度アップレギュレートされる。これは、妊娠における高血圧疾患が、正常な妊娠適応の失敗したものであるという考えを裏付ける。胎盤細胞栄養芽層の初期母体拒絶は、浅い着床に関連した子癇前症のようなケースでは、不適切にリモデルされたらせん動脈の原因になり得、下流の低酸素症およびアップレギュレートされたsFlt−1およびsEngに反応した母体症状の出現をもたらす。
【0032】
胎児赤芽球などの胎児の細胞、および無細胞胎児DNAは、子癇前症を発症する女性における母体循環で増加することも実証されている。これらの知見は、子癇前症とは、低酸素病変などの胎盤病変が増加した胎児物質の母体循環への侵入を可能にし、免疫反応および内皮損傷をもたらし、最終的には子癇前症および子癇をもたらす疾患プロセスである、という仮説を生んだ。
【0033】
統計は、子癇前症および関連の妊娠障害(子癇および妊娠高血圧障害など)は、世界中の母体死亡、ならびに乳児の死亡および病気の大部分に関与していることを示す。年間約76,000人の女性がこれらの障害のため死亡している。女性の中には症状を全く経験しない者もいるため、子癇前症は特に危険である。これが、スクリーニングおよび予測の改善がこの状態の診断に不可欠な理由である。女性は子癇前症または高血圧妊娠と診断された後、いずれかの1つまたは複数の以下の薬物療法(メチルドパ、ヒドララジン、ラベタロール、ニフェジピン、硫酸マグネシウム、ベタメタゾンおよびデキサメタゾンを含む)を受ける可能性がある。
【0034】
カルシウム、アスピリンおよび抗酸化剤(例えば、ビタミンCおよびE)などの予防戦略は、十分に成功してはない。幾つかのケースでは、メタ分析に基づくアスピリンによる子癇前症リスクのわずかな減少があり得る(PARISコラボレーション)が、これは治癒ではない。厳格な血圧管理は、脳卒中などの深刻な母体の罹患を予防することができるが、疾患を十分に治療することもない。
【0035】
レラキシン
内因性または天然レラキシンは、インスリンにサイズおよび形が類似したペプチドホルモンである。より具体的には、レラキシンは、インスリン遺伝子スーパーファミリーに属するエンドクリンおよびオートクリン/パラクリンホルモンである。コードされたタンパク質の活性型は、ジスルフィド結合(2つの鎖間および1つの鎖内)により結合された、A鎖およびB鎖から成る。故に、構造は、ジスルフィド結合の配置がインスリンに酷似している。ヒトでは、3つの既知の非対立レラキシン遺伝子、レラキシン−1(RLN−1またはH1)、レラキシン−2(RLN−2またはH2)およびレラキシン−3(RLN−3またはH3)がある。H1およびH2は、高い配列相同性を共有する。この遺伝子に関して記載された異なるアイソフォームをコードする2つの選択的スプライス転写変異体がある。H1およびH2は、生殖器官で異なって発現される(米国特許第5,023,321号;およびGaribay−Tupasら、Molecular and Cellular Endocrinology 219:115〜125頁、2004年参照)のに対し、H3は主に脳内で見出される。レラキシンペプチドファミリーおよびこの受容体の進化が、当技術分野で記載されている(Wilkinsonら、BMC Evolutionary Biology 5(14):1〜17頁、2005年;およびWilkinsonおよびBathgate、第1章、Relaxin and Related Peptides、Landes Bioscience and Springer Science+Business Media、2007年参照)。
【0036】
レラキシンは、特異的レラキシン受容体、すなわち、LGR7(RXFP1)およびLGR8(RXFP2)ならびにGPCR135およびGPCR142を活性化すると考えられる。LGR7およびLGR8は、Gタンパク質共役受容体の固有のサブグループを代表する、ロイシンリッチリピート含有、Gタンパク質共役受容体(LGR)である。これらは、ヘプタヘリカル膜貫通ドメインおよび大きなグリコシル化細胞外ドメインを含有し、LH受容体またはFSH受容体などグリコプロテオホルモン(glycoproteohormone)に対する受容体と遠縁に当たる。これらのレラキシン受容体は心臓、平滑筋、結合組織、ならびに中枢および自律神経系で見出される。H1、H2、ブタおよびクジラレラキシンなどの強力なレラキシンは、共通の特定の配列を保有する。ラット、サメ、イヌおよびウマレラキシンなど、保存H1およびH2配列から逸脱するレラキシンは、LGR7およびLGR8受容体を介した生物活性の低下を示す(Bathgateら、Ann NY Acad Sci、1041:61〜76頁、2005年; Receptors for Relaxin Family Peptides)。しかし、H2レラキシンに類似して、H3レラキシンはLGR7受容体を活性化する(Satokoら、J Biol Chem、278(10):7855〜7862頁、2003年)。さらに、H3はGPCR135受容体(Van der Westhuizen、Ann NY Acad Sci、1041:332〜337頁、2005年)およびGPCR142受容体を活性化することが示されている。GPCR135およびGPCR142は、2つの構造的に関連したGタンパク質共役受容体である。マウスおよびラットGPCR135は、ヒトGPCR135に高い相同性(すなわち、85%超)を示し、ヒトGPCR135にきわめて類似した薬理学的特性を有する。ヒトおよびマウスおよびラットレラキシン−3は、マウス、ラット、およびヒトGPCR135に高親和性で結合および活性化する。対照的に、マウスGPCR142は、ヒトGPCR142ではあまりよく保存されない(すなわち、74%相同性)。サル、ウシ、およびブタ由来のGPCR142遺伝子がクローン化され、ヒトGPCR142に高い相同性を示すことが示された(すなわち、84%超)。異なる種由来のGPCR142の薬理学的特性評価は、レラキシン−3が異なる種由来のGPCR142に高親和性で結合することを示した(Chenら、Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics、312(1):83〜95頁、2005年)。
【0037】
レラキシンおよび妊娠
レラキシンの特徴的な機能は、妊娠中の子宮頸部および膣の細胞外マトリックスのリモデリングならびに満期時の胎膜の破裂に関与する生化学的プロセスの制御を含む、女性生殖器官生理機能と関連がある。これらの修飾は、子が産道を通過できるようにし、難産(すなわち、分娩中の胎児下降もしくは子宮頸部拡張の著しい遅れもしくは停止またはこの両方)を予防する。さらに、レラキシンは、子宮および胎盤の成長を促進し、血管発生および子宮内膜の増殖に影響する(Parryら、Adv Exp Med Biol、612:34〜48頁、2007年)。
【0038】
ヒトでは、循環で見出されるレラキシンは、妊娠および非妊娠女性の両方において主に卵巣の黄体により産生される。レラキシンは、排卵約14日以内にピークに達し、次いで妊娠がない場合は減少し、月経をもたらす。妊娠第1期中には血清レベルが上昇する。さらに、レラキシンは、脱落膜および栄養膜により産生されるが、このレラキシンが循環に侵入するとは考えられていない。レラキシンのピークは第1期の14週間に到達される。レラキシンは、妊娠中の生殖組織および幾つかの他の組織の成長およびリモデリングで注目されている。上述の通り、レラキシンの作用はレラキシン受容体により媒介される。
【0039】
子癇前症の母親のもとに生まれた子どもは、しばしば、出生体重が低く、これに続く後年の心臓血管状態のリスクがより高い。低出生体重の乳児を出産する母親は、虚血性心臓疾患および死亡のリスクがより高い。具体的には、早期に小さな新生児を出産する子癇前症女性は、対照女性より10倍高い虚血性心臓疾患の入院率または死亡率を有する。心臓血管リスクは、この状態に罹患していない女性に比べて子癇前症を有する女性で増加するという極めて強力な証拠がある。事実、いずれかの妊娠高血圧障害は、高血圧症および脳卒中のリスクが後に増加する。出産2から4カ月後、子癇前症女性の3分の2が、微量アルブミン尿(すなわち、少量のタンパク質(例えば、アルブミン)の尿中への漏出)を依然として有し得る。閉経後女性では、微量アルブミン尿は重大な心臓血管リスク因子である。さらに、子癇前症は、女性における長期リスクを意味する、インスリン抵抗性およびホモシステインレベルの上昇と関連がある(Davisonら、J Am Soc Nephrol、15:2440〜2448頁、2004年)。
【0040】
正常妊娠中は、糸球体濾過率(GFR)および腎血漿流量は、それぞれ40から65および50から85パーセント増加する。特に、レラキシンは、妊娠中の腎血管拡張を媒介する。レラキシンは、血管ゼラチナーゼ活性を増加させ、これによりビッグETからET1−32へ変換し、腎血管拡張、過剰濾過ならびに内皮ET受容体および一酸化窒素を介した腎小動脈の筋原性反応性の低下をもたらすことが知られている(Jeyabalanら、Frontiers in Bioscience 12:2425〜2437頁、2007年)。
【0041】
尿酸は、プリン代謝の最終産物である。プリンは、身体により自然に産生され、食事からも得られる。ヒトでは、ほとんどの循環尿酸は肝臓により産生され、約66パーセントが腎臓により排出されるのに対し、約33パーセントは胃腸管により排出される。尿酸の血清濃度は通常、GFRの増加、近位尿細管再吸収の低下、および糸球体フィルター帯電変化の可能性の結果、正常妊娠中に低下する。子癇前症における胎盤由来の抗血管新生因子は、該疾患中の糸球体内皮症(すなわち、子癇前症に特徴的な組織学的病変)、タンパク尿、および高血圧症に寄与し得ると考えられる。子癇前症を有するほとんどの女性では、腎血漿流量および糸球体濾過率は、輸入細動脈抵抗の増加および/または限外濾過係数の低下の結果、わずかに低下する。腎クリアランス低下のため、この血清尿酸濃度は主に増加する。GFRの低下は、尿酸濾過負荷量の減少をもたらす。さらに、血漿量の減少は、ナトリウムに結合した近位尿細管再吸収の増加に寄与する。子癇前症における尿中タンパク質排泄の増加は、糸球体フィルターのサイズおよび/または電荷選択性の変化、糸球体毛細管圧増加の可能性、および近位尿細管再吸収障害に続発する(Jeyabalanら、上記参照)。
【0042】
正常ヒト妊娠中に、総タンパク質、アルブミン、低分子量タンパク質、および尿細管酵素の尿中排泄量は増加する。子癇前症妊娠では、腎機能は低下する。幾つかの試験によれば、GFRおよび有効腎血漿流量(ERPF)は、それぞれ32パーセントおよび24パーセント減少する(Jeyabalanら、上記参照)。子癇前症における腎循環の障害に関与する正確な機序は、依然として不明である。ERPFの減少は、高い腎血管抵抗が原因であると考えられる。腎輸入(前糸球体細動脈(pre-glomerular aerteriolar))抵抗の上昇は、総腎血管抵抗の増加に対する主要な寄与因子であり得る。この点で、子癇前症における輸入細動脈緊張の増加が、高い全身動脈圧に因る損傷から糸球体を保護する可能性がある。ERPFの減少、限外濾過係数の低下、またはこの両方は、子癇前症におけるGFR低下の可能性のある機序であり得る(Jeyabalanら、上記参照)。
【0043】
理論に拘束されることを望むものではないが、レラキシン作用の基底にある機序は、血管拡張および血管新生を刺激することに基づくと広く考えられている。第一に、レラキシンは、子宮での血管新生を刺激して胎児および母体の血管のより良い結合を提供する(すなわち、母体のらせん動脈数を増加させる、母体のらせん動脈を修飾するおよび/または母体らせん動脈の栄養膜浸潤を促進する)と考えられる。血管新生および血管拡張を増加させることは、子癇前症の病因、すなわち母親から子どもへの不十分な血液供給ならびに胎盤および母体の器官灌流の低下を標的にする。レラキシンが妊婦に投与されると、レラキシンは子宮および胎盤で受容体に結合し、VEGF産生を刺激する。VEGFは、同様に、内皮細胞に結合して血管新生を刺激する。これは、母親と子どもの間のより良い血液供給を提供する。第二に、レラキシンは強力な血管拡張剤であり、故にいずれも子癇前症を有する女性で低下する子宮胎盤および母体の全身性器官灌流(systemic organ perfusion)を改善できる。レラキシンは、一酸化窒素シンターゼ経路を介して働き、これにより一酸化窒素NOを刺激してヒトにおける血管拡張を増加させる。故に、妊娠中のレラキシンの投与は、子癇前症の最も有害な症状の1つ(すなわち、140/90mmHgレベル以上での高血圧)の発症を予防する可能性がある。第三に、糸球体濾過率(GFR)および腎血漿流量(RPF)は、深刻な妊娠高血圧合併症である子癇前症では減少することが知られている。故にレラキシンの投与は、妊婦における腎血流も増加させる可能性があり、これにより子癇前症リスクをさらに低下させる可能性がある。さらに、レラキシンは潜在的抗炎症効果を有する。
【0044】
C反応性タンパク質(CRP)および妊娠
CRPは、身体での炎症に反応して肝臓により産生される血漿タンパク質を指す。炎症は、損傷、感染または高血圧などの状態に起因し得る。CRPは、先天性免疫系の一部および慢性全身性炎症マーカーと見なされている。CRPはまた、心臓血管イベントの独立した予測因子でもある。CRPは、アルブミン合成がIL−6および循環において増加する他のサイトカインに因り減少するのと同時に、急性期反応物質として正常妊娠で増加すると考えられる。特に、IL−1およびIL−6レベルは子癇前症でより高く、これはCRPレベルも子癇前症でより高い理由を説明し得る。この知見は、子癇前症中に悪化する、正常妊娠の炎症反応と一致する。故に、血清レラキシンレベルに加えて血清CRPレベルについて妊婦をテストすることは、これらの女性が子癇前症をどれ程発症する可能性があるかのさらなる洞察を提供することができる。もう1つの因子としてCRPを用いることにより、本明細書に記載のH2レラキシンテストの感度が増大する。
【0045】
血清CRPは、子癇の既往(例えば、高血圧腎症妊娠中の発作)を有する女性で上昇することが見出されている。事実、子癇前症または子癇の既往を有する女性は、依然として不明のままである理由のため妊娠後の心臓血管疾患。炎症、脂質異常症およびインスリン抵抗性は、高い子癇前症リスクと関連がある、およびCRPは、上昇した場合、炎症および心臓血管リスクの指標となると考えられる(Hubelら、Hypertension 51:1499〜1505頁、2008年)。
【0046】
低レラキシンレベルは子癇前症を予測する
CART(分類および回帰木)は、実験例に開示された試験中に妊婦から得られたデータを分析するのに使用された。子癇前症予測に使用されるパラメータは、レラキシンおよび、場合により、C反応性タンパク質(CRP)である。図1に見ることができるように、妊娠中の在胎期間は3つの期間、すなわち、0〜15週(第1期)、15〜25週(第2期)、および25〜35週(第3期)に分けられる。疾患が十分に進展するのを防ぐ治療を開始するため、子癇前症マーカーについてできる限り早期に妊婦をテストすることが有益である。故に、第1期に女性をテストすることは、妊娠第2または第3期中に女性をテストするより好ましい。テストがより早期にできない場合、妊娠第2および/または第3期に女性をテストできる場合もある。
【0047】
CARTは、従属変数がそれぞれカテゴリー的か数値的かによって、分類または回帰木のいずれかを作成する非パラメトリック法である。木は、モデリングデータセット中の特定の変数の値に基づきルールを収集して形成される。このように、ルールは、変数の値に基づく分岐が従属変数に基づく観測をいかによく区別できるかに基づき選択される。ひとたびルールが選択されノードを2つに分岐すると、同じ論理が各子ノードに適用される(すなわち、これは再帰的手続きである)。分岐停止は、CARTがさらなるゲインを検出しない、または幾つかの事前に設定された停止ルールが満足される場合に行うことができる。木の各枝は終端ノードで終了する。各観測は、1つのノードおよび正確には1つの終端ノードに分類され、各終端ノードは、一連のルールにより一意的に定義される。
【0048】
子癇前症は一般に、高血圧症およびタンパク尿などの症状により定義される。妊婦の中には尿酸上昇も患う者もいる。故に、子癇前症女性は、高血圧症およびタンパク尿(HP)を示す者、および高血圧症、タンパク尿および尿酸(HPU)を示す者の2群に分類される。特に、妊婦が高血圧症および尿酸上昇(HU)を示す場合など、妊婦がタンパク尿の症状を示さない場合、妊婦は通常、子癇前症よりむしろ高血圧妊娠を有すると考えられる。本明細書で論じられるCART分析の目的のため、以下の群が表1に定義される。
【0049】
【表1】

【0050】
図3の分類木を参照すると、分岐数は1であり、終端ノード数は2である。より具体的には、最上部のボックスは、子癇前症と分類された35人の被験者(点線)、および正常と分類された24人の被験者(実線)がいることを示す。59人の合計試験被験者のうち、14人の被験者は476.7pg/mlより低いH2レラキシンレベルを有し、45人の被験者は476.7pg/mlを超えるレラキシンレベルを有した。レラキシンテストがどれ程特異的かをさらに判定するため、子癇前症被験者および正常被験者が2群に分岐され、左の1つのボックスは476.7pg/mlレラキシンより低い者を示し、右の1つのボックスは476.7pg/mlレラキシンを超える者を示す。左に見ることができるように、476.7pg/mlレラキシンより低いレラキシンレベルを有する者のうち、13人が子癇前症を発症したのに対し、1人のみが正常妊娠であり、このテストを高度に特異的にするものである(より詳細な分析については実施例2参照)。
【0051】
別の小さな試験は、オーストラリア出身のあまりよく明らかにされていない妊婦集団から得られた試料を用いて行われた。第2の試験では、2つの試料のみが500pg/ml未満のレラキシンを含有し、これらの2つの試料のうち1試料のみが子癇前症被験者から得られた。これは、北米(例えば、ピッツバーグ、PA)出身の妊婦から、特定の在胎期間で採取された試料を用いて行われた第1のより大きな試験とは異なる。2つの試験間の起こり得る試料採取の違いに加えて、オーストラリアの試験集団が均質な白人集団であると推定されるのに対し、北米試験集団の被験者の30%超がアフリカ系アメリカ人であった。したがって、好ましい実施形態では血液試料は、妊娠第1期中の妊婦から得られる。幾つかの実施形態では、妊婦は北米人である。これらの実施形態のサブセットでは、北米の被験者は合衆国および/またはカナダ出身である。さらなる実施形態では、試験被験者はアフリカ系である。
【0052】
レラキシンの投与は子癇前症の発症を予防する
子癇前症は危険な状態であり、妊娠中、分娩中および分娩後最大6週の間のいつでも出現し得るが、子癇前症は最終期(第3期)に最も頻繁に生じ、ほとんどの場合妊娠20〜35週までは生じない。子癇前症は、徐々に発症、または極めて突然発症し得る(数時間で再燃することすらある)が、徴候および症状は数カ月間気づかれない場合がある。子癇前症が無症候性で、日常的な血圧チェックおよび/または尿検査中に突然出現し、赤ん坊は予定日が近い(36週後)ならば、陣痛が誘発され、赤ん坊が出産され、および母親は注意深くモニターされる。子癇前症が妊娠早期に生じる場合、この影響はさらにより深刻である。管理下で母親の血圧を維持するため、例えば、安静、薬物療法およびさらには入院が指示される場合がある。可能な限り子宮で維持されるのが赤ん坊の一番の利益になる。不幸にも、子癇前症の唯一の治癒は赤ん坊の出産であり、予定日前に赤ん坊を出産するのが母親の一番の利益になり得る。医師は、ベータ遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、ヒドララジン、アルファメチルドーパ、クロニジン、および稀なケースでは、ラシックスまたは利尿剤(ウォーターピル)などの降圧剤を処方することができるが、後者は一般に勧められない。血圧が薬物療法および治療で管理することができない、ならびに母親および/または乳児の健康が危険な状態にあるならば、生存可能な赤ん坊が早産され得るように乳児の肺の成熟を助けるため、母親はステロイドを与えられる場合がある。
【0053】
本開示は、子癇前症を発症する可能性を低下させる措置を講じることができるように、子癇前症になりやすい妊婦を特定する方法を提供する。本開示はさらに、約500pg/ml未満のH2レラキシンレベルが、妊娠第1期中に得られた血液試料由来の血漿または血清で測定される場合、妊娠第1および/または第2期に妊婦にH2レラキシンを投与して子癇前症のリスクを低下または子癇前症を予防する方法を提供する。H2レラキシンは、低レラキシンレベル(例えば、500pg/mlより下)が検出され次第、妊婦に好ましくは予防的に投与される。しかし、子癇前症は、妊娠20〜35週まで発症しないことが多い。故に、レラキシンが症状の発症前の妊娠中後期に投与されるならば、これは、本格的な子癇前症の可能性の低下に依然として有益であり得る。
【0054】
本開示の1つの実施形態では、レラキシンは合成ヒトレラキシンである。本開示の別の実施形態では、レラキシンは組換えヒトレラキシンである。本開示のさらなる別の実施形態では、レラキシンはレラキシンアゴニストまたはレラキシン模倣剤である。レラキシンが投与される場合、これは好ましくはH2レラキシンである。さらなる実施形態では、レラキシンは、H2レラキシンのAもしくはB鎖およびH1またはH2レラキシンのAもしくはB鎖を含むキメラレラキシンである。合成ヒトレラキシンおよびキメラは、CBL Biopharma社(ボールダー、CO)から入手可能である。幾つかの実施形態では、レラキシンは、Compugen社(テルアビブ、イスラエル)により製造されたものなどのH2レラキシンアゴニストである。他のあまり好ましくはない実施形態では、レラキシンはH1ヒトレラキシン、またはH3ヒトレラキシンである。レラキシンは、ひとたび欠乏が判定されると、1日あたり約10μg/kgから約100μg/kg被験者体重の量で被験者に投与することができる。1つの好ましい実施形態では、レラキシンは、妊娠期間中または妊娠の一部の間中、1日あたり約30μg/kg被験者体重の量で被験者に投与される。このように、レラキシンは、例えば、妊娠中を通じて約10ng/mlのレラキシン血清濃度を維持するように被験者に投与される。レラキシン医薬製剤は、皮下(SQ)または他の経路により投与することができる。
【0055】
妊娠ヒト女性にレラキシンを投与することの有益な効果は、血管新生および血管拡張の両方を刺激する受容体特異的薬剤として作用するレラキシンの直接的結果であると考えられる。血管新生を増加させることは、子癇前症の原因、すなわち最終的には母親における危険なほど高い血圧をもたらす母親から子どもへの不十分な血液供給を標的にする。血管拡張を増加させることはさらに、降圧および腎臓での腎血流の増加を助け、子癇前症の症状をさらに減少させる。故に、妊娠ヒト女性が、特定のレラキシン受容体(例えば、LRG7、LGR8、GPCR135、GPCR142受容体)を標的にする薬学的に活性なレラキシンまたは薬学的に有効なレラキシンアゴニストを有する医薬組成物を投与される場合、その結果は子癇前症の改善または予防である。
【0056】
濃縮ヒト集団
早期検出の1つの利点は、該疾患によりなりやすい女性群を研究試験および/または臨床試験のため濃縮すること、および予防対策のテストを容易にすることである。本開示は、子癇前症および疾患進行および疾患との闘い方をより良く理解するための臨床および/または研究試験のため患者の濃縮集団を選択することを含む、新規のスクリーニングプロセスを可能にする。女性の濃縮集団は、低レラキシンレベルのテストにより定義することができ、科学的および/または臨床的に意義のある結果を得るためにはるかに少ない患者が必要とされる。妊娠第1または第2期中または子癇前症症状の出現前の妊婦が、血流中のレラキシンレベルを検査されてもよく、約500pg/ml未満のレラキシンレベルを有する者が、濃縮患者集団に選択される。この有益な選択プロセスがなければ、新規の薬剤または作用物質が子癇前症に効果を有するかどうかを判定するのに、数百人の女性のスクリーニングを必要とするであろう。故に、本開示は、子癇前症を発症するより高い可能性を有する妊婦を濃縮集団から選択すること、および新規作用物質の有効性についてこれらの女性をテストすることを含む、臨床および/または研究試験中に子癇前症を治療または予防する新規作用物質のスクリーニング方法を提供する。濃縮集団には、約500pg/ml未満である血流中レラキシンレベルを有する、妊娠第1および第2期中または子癇前症症状の出現前の女性が含まれる。
【0057】
レラキシン組成物および製剤
レラキシン、レラキシンアゴニスト、レラキシン模倣剤および/またはレラキシン類似体は、本開示の方法で使用される医薬品として調製される。生物学的もしくは薬学的に活性なレラキシン(例えば、合成レラキシン、組換えレラキシン)またはレラキシンアゴニスト(例えば、レラキシン類似体またはレラキシン様モジュレーターまたはレラキシン模倣剤)のレラキシン受容体への結合に関連した生物学的反応を刺激することができる任意の組成物または化合物が、本開示で医薬品として使用され得る。調製および投与法に関する一般的詳細は、科学的文献に十分に記載されている(Remington's Pharmaceutical Sciences、Maack Publishing Co、イーストン Pa.参照)。薬学的に活性なレラキシンを含有する医薬製剤は、医薬品の製造のための当技術分野で既知の任意の方法により調製することができる。本開示の方法で使用される薬学的に活性なレラキシンまたはレラキシンアゴニストを含有する製剤は、皮下(SQ)、筋肉内、静脈内、舌下、局所、経口および吸入を含むがこれらに限定されない、任意の従来許容可能な方法で投与するために調製されてもよい。説明例が以下に記載される。1つの好ましい実施形態では、レラキシンは皮下(SQ)投与される。
【0058】
薬剤が皮下(SQ)送達される場合、薬学的に活性なレラキシンまたは薬学的に有効なレラキシンアゴニストを含有する製剤は、滅菌注射水性または油性懸濁液などの滅菌注射製剤の形態であってもよい。例えば、レラキシンは、これが極めて溶けやすくおよび安定するpH5.0、酢酸ナトリウムで希釈されてもよい。患者は、必要な限り持続注入によりレラキシン組成物で治療することができる。例えば、レラキシン注入ポンプは、皮下投与される針までカニューレを介してレラキシンを送達し、ポンプは患者の衣服の下のベルトに装着されてもよい。レラキシンは、患者が子癇前症の症状をモニターされている間、適時レラキシン注射により投与することもできる。用量は、患者ごとに調整することができる。
【0059】
レラキシン懸濁液は、上述されたような適切な分散または湿潤剤および懸濁化剤を用いて既知の技術により調製することができる。滅菌注射製剤はまた、非毒性の非経口的に許容可能な希釈剤または溶媒中の滅菌注射溶液または懸濁液であってもよい。使用することができる許容可能なビヒクルおよび溶媒は、水、および等張食塩水のリンゲル液である。さらに、滅菌固定油は、溶媒または懸濁化媒質として従来通りに使用することができる。この目的のため、合成モノまたはジグリセリドを含む任意の無菌固定油が使用され得る。さらに、オレイン酸などの脂肪酸も同様に、注射剤の調製において使用することができる。
【0060】
本開示の水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適切な賦形剤との混合でレラキシンを含有する。このような賦形剤には、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアカシアゴムなどの懸濁化剤、ならびに自然発生のホスファチド(例えば、レシチン)、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合物(例えば、ステアリン酸ポリオキシエチレン)、エチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、エチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール由来の部分エステルとの縮合物(例えば、ポリオキシエチレンソルビトールモノ−オレエート)、またはエチレンオキシドと脂肪酸およびヘキシトール無水物由来の部分エステルとの縮合物(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート)などの分散剤または湿潤剤が含まれる。水性懸濁液はまた、p−ヒドロキシ安息香酸塩エチルまたはp−ヒドロキシ安息香酸塩n−プロピルなどの1つまたは複数の保存剤、1つまたは複数の着色剤、1つまたは複数の香味剤、およびスクロース、アスパルテームまたはサッカリンなどの1つまたは複数の甘味剤も含有してもよい。製剤は、オスモル濃度を調整することができる。
【0061】
油性懸濁液は、植物油(ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油もしくはココナッツ油など)、または鉱油(流動パラフィンなど)にレラキシンを懸濁して調製することができる。油性懸濁剤は、増粘剤(ミツロウ、固形パラフィンまたはセチルアルコールなど)を含有することができる。甘味剤は、口当たりのよい経口製剤を提供するのに添加することができる。これらの製剤は、アスコルビン酸などの抗酸化剤の添加により保存することができる。
【0062】
水の添加による水性懸濁液の調製に適切な本開示の分散性粉末および顆粒は、分散、懸濁化および/または湿潤剤、ならびに1つまたは複数の保存剤と混合してレラキシンから調製することができる。適切な分散または湿潤剤および懸濁化剤は、上に開示されたものにより例示されている。さらなる賦形剤、例えば甘味剤、香味剤および着色剤も存在していてもよい。
【0063】
本開示の医薬製剤は、水中油型エマルションの形態であってもよい。油性相は、オリーブ油もしくはラッカセイ油などの植物油、流動パラフィンなどの鉱油、またはこれらの混合物であってもよい。適切な乳化剤には、自然発生のゴム(アカシアゴムおよびトラガカントゴムなど)、自然発生のホスファチド(ダイズ、レシチンなど)、脂肪酸およびヘキシトール無水物由来のエステルまたは部分エステル(ソルビタンモノ−オレエートなど)、ならびにこれらの部分エステルとエチレンオキシドとの縮合物(ポリオキシエチレンソルビタンモノ−オレエートなど)が含まれる。エマルションはまた、甘味剤および香味剤も含有することができる。シロップ剤およびエリキシル剤は、グリセロール、ソルビトールまたはスクロースなどの甘味剤により調製することができる。このような製剤は、粘滑剤、保存剤、香味剤または着色剤も含有してもよい。
【0064】
レラキシン製剤の投与および投与計画
本開示の方法で使用される薬学的に活性なH2レラキシンまたは薬学的に有効なH2レラキシンキメラ、アゴニスト、または模倣剤を含有する製剤は、皮下、筋肉内、静脈内、舌下、局所、経口および吸入を含むがこれらに限定されない、任意の従来許容可能な方法で投与することができる。投与は、薬剤の薬物動態および他の特性ならびに患者の健康状態により変わるであろう。一般的ガイドラインが以下に示されている。
【0065】
本開示の方法は、妊婦における子癇前症の発症可能性を低下させる。これを達成するのに適切な、レラキシン単独または別の作用物質もしくは薬剤との併用での量は、治療的に有効な用量と考えられる。この使用に有効な投与スケジュールおよび量、すなわち、「投与計画」は、患者の健康の全身状態、患者の身体状態、妊娠の種類(例えば、単胎vs多胎妊娠)、年齢等を含む様々な要因により決まるであろう。患者の投与計画の計算では、投与方法も考慮される。投与計画は、薬物動態、すなわち、吸収速度、生物学的利用速度、代謝速度、クリアランス速度等も考慮しなければならない。これらの原則に基づき、レラキシンは、妊婦における子癇前症の発症を低下または予防するのに使用することができる。本開示はまた、レラキシンまたはレラキシンアゴニストもしくは模倣剤および、場合により、同時、単独または連続投与用の別の薬剤も提供する。例えば、本開示は、レラキシンおよび、場合により、必要に応じて療法で併用するための高血圧剤を提供する。別の例では、本開示はさらに、レラキシンおよび、場合により、併用療法での発作予防のためのMgSO4を提供する。
【0066】
本開示は、妊婦における子癇前症の発症を低下または予防する医薬品の製造におけるレラキシンの使用も提供する。このように、医薬品は妊娠中に投与するため調製される。本開示はさらに、レラキシンが妊婦に投与するため調製される、子癇前症の発症可能性を低下させる方法で使用するためのレラキシンまたはレラキシン類似体もしくは模倣剤を提供する。
【0067】
技術水準は、臨床医が個々の妊婦ごとにレラキシンの投与計画を決定するのを可能にする。説明例として、レラキシンについて以下に提供されるガイドラインは、本開示の方法を実践する場合に投与される薬学的に活性なレラキシンを含有する製剤の投与計画、すなわち、投与スケジュールおよび投与レベルを決定するための指針として使用することができる。一般的ガイドラインとして、薬学的に活性なH1、H2および/またはH3ヒトレラキシン(例えば、合成、組換え、類似体、アゴニスト、模倣剤等)の日用量は、典型的には1日あたり約10から約100μg/kg被験者体重の範囲での量であることが予期される。妊娠ヒト女性に投与することができる。1つの好ましい実施形態では、レラキシンの用量は、妊娠期間中約30μg/kg/日である。別の実施形態では、これらの用量は、例えば、約10ng/mlのレラキシン血清濃度をもたらす。1つの好ましい実施形態では、薬学的に有効なレラキシンまたはこのアゴニストは、妊娠期間中または妊娠の一部の間中、約30μg/kg/日で投与される。別の実施形態では、レラキシンの投与は、約0.5から約300ng/ml、より好ましくは約0.5から約100ng/ml、および最も好ましくは約0.5から約10ng/mlのレラキシンの血清濃度を維持するように継続される。最も好ましくは、レラキシンの投与は、妊娠期間中10ng/ml以上のレラキシンの血清濃度を維持するように継続される。これらのレラキシン濃度は、子癇前症の発症可能性を低下させることができ、これにより、高血圧症(hypertension)、高血圧(high blood pressure)、タンパク尿、腎不全および死亡などの母親における症状を減少させることができる。さらに、これらのレラキシン濃度は、乳児における低出生体重の可能性および関連リスクおよび乳児の死亡を低下または予防することができる。被験者に応じて、レラキシン投与は、妊娠している母親および子どもでの安定性を達成するのに特定の期間または必要とされる限り維持される。例えば、レラキシンは、妊娠の終了まで連続注入により投与することができる。これは、注入ポンプまたは他の手段により達成することができる。あるいは、レラキシンは、必要に応じて第1および/または第2期中のみ投与されてもよい。
【0068】
レラキシン特異的およびCRP特異的抗体
レラキシンおよび/またはCRPのエピトープを特異的に認識できる抗体の産生方法が、本明細書に記載されている。このような抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、ヒト、ヒト化またはキメラ抗体、単鎖抗体、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fab発現ライブラリーにより生成されたフラグメント、抗イディオタイプ(抗Id)抗体、および上記いずれかのエピトープ結合フラグメントが含まれ得るが、これらに限定されない。レラキシンおよび/またはCRPに対する抗体の産生のため、様々な宿主動物を、レラキシンタンパク質もしくはCRPタンパク質、またどちらか一方の部分を注射して免疫化することができる。このような宿主動物には、ウサギ、マウス、およびラットが含まれ得るが、これらに限定されない。フロイント(完全および不完全)、水酸化アルミニウムなどのミネラルゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール(pluronic polyol)、ポリアニオン、ペプチド、油エマルション、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、ならびにBCG(カルメットゲラン桿菌)およびコリネバクテリウム・パルブム(Corynebacterium parvum)などの潜在的に有用なヒトアジュバントを含むがこれらに限定されない、様々なアジュバントを、宿主種に応じて、免疫学的反応を増加するのに使用することができる。
【0069】
ポリクローナル抗体は、レラキシンもしくはCRP、またはレラキシンもしくはCRPの抗原性機能誘導体などの抗原で免疫化された動物の血清由来抗体分子の異種集団である。ポリクローナル抗体の産生のため、上述されたもののような宿主動物を、レラキシンまたはCRPを注射して免疫化することができる。免疫化された動物における抗体価は、固定化ポリペプチドを用いた酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によるなど、標準的手法により経時的にモニターすることができる。所望であれば、抗体分子は、動物から(例えば、血液から)単離され得、さらにタンパク質Aクロマトグラフィーなどのよく知られた手法により精製されてIgG画分を得られ得る。レラキシンまたはCRPなど特定の抗原に対する抗体の均質集団であるモノクローナル抗体は、培養における連続細胞系(当技術分野でよく知られている)による抗体分子の産生を提供する任意の手法により得ることができる。このような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgDおよびこれらのいずれかのサブクラスを含む、いずれかのイムノグロブリンクラスであってもよい。本開示のmAbを産生するハイブリドーマは、インビトロまたはインビボで培養することができる。
【0070】
モノクローナル抗体分泌ハイブリドーマを調製する代わりに、レラキシンおよび/またはCRPに対するモノクローナル抗体を、レラキシン、CRPまたはこれらの誘導体で組換えコンビナトリアルイムノグロブリンライブラリー(例えば、抗体ファージディスプレイライブラリー)をスクリーニングして同定および単離することができる。ファージディスプレイライブラリーを生成およびスクリーニングするためのキットが市販されている。さらに、標準的組換えDNA法を用いて作製することができる、ヒトおよび非ヒト部分の両方を含むキメラおよびヒト化モノクローナル抗体などの組換え抗体は、本開示の範囲内である。キメラ抗体は、ネズミmAb由来の可変領域およびヒトイムノグロブリン定常領域を有するもの(例えば、米国特許第4,816,567号および4,816,397号)など、異なる部分が異なる動物種に由来する分子である。ヒト化抗体は、非ヒト種由来の1つまたは複数の相補的決定領域(CDR)およびヒトイムノグロブリン分子由来のフレームワーク領域を有する非ヒト種由来の抗体分子である(例えば、米国特許第5,585,089号)。このようなキメラおよびヒト化モノクローナル抗体は、当技術分野で既知の組換えDNA法により生成することができる。
【0071】
本明細書に記載の抗体は、妊婦が、対応する健康な妊婦よりも子癇前症を発症するリスクが高いかどうかを判定するため、妊婦の血液がレラキシンレベルについてテストされる任意のアッセイにおいて使用することができる。血液中のレラキシンレベルが約500pg/mlを下回るならば、女性は子癇前症を発症するリスクがより高く、妊娠の全期間または一部の期間に注意深くモニターされ、かつ/またはレラキシンで治療される必要がある。場合により、妊婦の血液は、より感度の高いアッセイを達成するためCRPレベルをさらにテストされてもよい。血液中のCRPレベルが1.5mcg/mlより低いまたは13.5mcg/mlを超えるならば、女性はさらにより子癇前症を発症する可能性がある。ELISA、バイオアッセイ、免疫アッセイ等を含む、血液中のレラキシンおよび/またはCRPレベルの正確な判定を可能にする任意のアッセイが、本明細書で使用され得る。市販のキットも使用され得る。
【0072】
実験
以下の略語が本明細書で使用される:mcgまたはμg(マイクログラム)、ml(ミリリットル)、pg(ピコグラム)、BMI(体格指数)、CART(分類および回帰木)、CI(信頼区間)、CREAT(クレアチニン)、CRP(C反応性タンパク質)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、HP(高血圧症、タンパク尿)、HPU(高血圧症、タンパク尿、尿酸)、HU(高血圧症、尿酸)、RlxまたはRLX(レラキシン)。
【0073】
以下の特定の例は、本開示を例示することを意図するものであり、特許請求の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0074】
子癇前症妊婦の試験
卵巣の黄体から放出されるペプチドホルモンであるレラキシンは、妊娠中の強力な血管拡張剤である。血清H2濃度は第1期中に上昇し、第2期早期にピークに達し、著しい母体腎臓および全身血管拡張と一致する。対照的に、不十分な血管拡張の適応および全身性血管抵抗性の増加が、子癇前症の顕著な特徴である。この例は、妊娠中の血清レラキシンの測定、および第1期中の血清レラキシンの低下と子癇前症の発症リスクの増加との関連の判定を示す。
【0075】
13週間未満の妊娠女性62人のコホート内症例対照試験を行った。62人の試験被験者のうち、37人の女性が、20週間の妊娠後の高血圧症およびタンパク尿の新規発症により定義されているような子癇前症を発症した。残りの被験者は正常血圧であり、および合併症のない妊娠であった。H2レラキシンはELISAにより測定した(ただし、バイオアッセイ、RT−PCR等などの他のアッセイもこの目的に適切である)。ロジスティック回帰を含む記述統計をデータ分析に使用した。
【0076】
具体的には、血清中のヒトレラキシン2の濃度は、R&D Systems Analytical Testing Service(ミネアポリス、MN)を用いて免疫アッセイにより測定した。この免疫アッセイで使用したH2レラキシン特異的モノクローナル抗体は、3F2.F2ハイブリドーマにより産生されたマウスIgG1であった。3F2.F2ハイブリドーマは、BAS Medical社、現Corthera Inc.社(サンマテオ、CA)により開発され、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC、マナサス、VA)特許寄託指定(Patent Deposit Designation)PTA−8423としてブタペスト条約下で寄託された。3F2.F2抗体を使用するH2レラキシンELISAは、十分に妥当性を確認した。有意な交差反応性または干渉は、組換えヒトIGF−I、IGF−II、インスリン(アミノ酸25〜100)、インスリン様3、レラキシン1(H1)およびレラキシン3(H3)とは観察されなかった。さらに、有意な交差反応性または干渉は、組換えイヌ、ブタまたはげっ歯類(マウスおよびラット)レラキシン−2とは観察されなかった。
【0077】
血清レラキシン濃度は、子癇前症女性と対照間の有意差はなかった(中央値および四分位範囲、670.4[456.9〜1117.2]vs.802.3[570.8〜966.4]pg/ml、p=0.47)。しかし、下位四分位に近いカットオフである477pg/ml未満のレラキシン濃度を有する女性は、子癇前症を発症するオッズ比が6.2であった(95%CI 1.3〜30.7、p=0.025)。試料採取時点での妊娠期間、体格指数(BMI)、人種、および喫煙状態を調整後、これらの女性が子癇前症を発症する可能性は7.4倍高く(95%CI 1.4〜38.9、p=0.02)、驚くほど高かった。この強い関連は、新規発症の高血圧症、タンパク尿、および高尿酸血症を有する女性サブグループ(有害転帰率がより高いより均質な子癇前症サブセット)で持続した(調整OR 6.9、95% CI 1.2〜40、p=0.03)。
【0078】
この試験は、低血清レラキシン濃度が子癇前症の独立したリスク因子であることを示している。妊娠早期のレラキシンの欠乏に続発する不十分な血管拡張の適応が、子癇前症の病因にさらに寄与する可能性がある。
【実施例2】
【0079】
子癇前症予測の統計分析
CART(分類および回帰木)を用いて、表2に示した特徴を有する69人の妊婦から得られたデータを分析した。この拡大分析は、実施例1の最初の試験被験者、および数人の追加被験者から得られたデータに基づく。子癇前症予測に使用したパラメータは、最初はH2レラキシンレベルであり、次いでC反応性タンパク質(CRP)レベルも使用した。図1に見ることができるように、妊娠中の在胎期間は、3つの期間、すなわち、0〜15週(第1期)、15〜25週(第2期)、および25〜35週(第3期)に分けられた。図1は、子癇前症女性(HPUおよびHP群)における血清レラキシン濃度を在胎年齢に関して示す。線は同じ被験者由来の試料を結ぶ。三角形は、子癇前症を後期に発症し、最初の15週に内因性H2レラキシンレベルが500pg/mlより低かった妊婦由来の試料を表す。四角形は、子癇前症を後期に発症し、および内因性H2レラキシンレベルが約500pg/mlであった妊婦由来の試料を表す。菱形は、子癇前症を発症しなかった妊婦由来の試料を表す。これらの女性で、最初の15週に500pg/mlより低いH2レラキシン濃度であった者はほとんどいなかったことに注意すべきである。
【0080】
【表2】

【0081】
CART分析では、最初の15週の被験者由来の全試料を平均化した。これは、被験者ごとに妊娠中の異なる時点で採取した試料数が異なったためである。図3の分類木を参照すると、分岐数は1であり、終端ノード数は2であった。より具体的には、最上部のボックスは、476.7pg/mlより低い天然H2レラキシンレベルを有する35人の子癇前症被験者(点線参照)、および476.7pg/mlを超える天然レラキシンレベルを有する24人の正常被験者(実線参照)がいたことを示す。レラキシンテストの特異度をさらに判定するため、子癇前症被験者および正常被験者を2群に分岐させ、左のボックス2は476.7pg/ml以下の血清H2レラキシンを有するような被験者示し、右のボックス3は476.7pg/mlを超える血清H2レラキシンを有するような被験者を示す。左のボックス2に見ることができるように、476.7pg/mlレラキシン以下のH2レラキシンレベルを有する者のうち、13人が子癇前症を発症したのに対し、1人のみが正常妊娠であり、このテストを高度に特異的にするものである。右のボックス3に見ることができるように、476.7pg/mlを超えるH2レラキシンレベルを有する者のうち、23人が正常妊娠であり、22人が子癇前症を発症した。右のボックス2に示された結果は、テストの感度を増加させるための第2パラメータの組み入れを促した。
【0082】
図4は、図3と同じ分類木、その上C反応性タンパク質(CRP)レベルに基づくさらなる分岐を示す。476.7を超えるH2レラキシンレベルを有する被験者を、13.481mcg/ml以下のCRPレベルを有する者、および13.481mcg/mlを超えるCRPレベルを有する者に分岐させた。著しいことに、13.81mcg/mlを超えるCRPレベルを有するような女性は、子癇前症を発症する可能性が極めて高く、これは、子癇前症を発症した9人の妊婦および正常妊娠をした1人の妊婦を表すボックス5に示されている。ボックス4を、1.4681mcg/ml以下のCRPレベルを有する者、および1.4681mcg/mlを超えるCRPレベルを有する者にさらに分岐させた。ボックス6に見ることができるように、7人が子癇前症を発症したのに対し、1人のみが正常妊娠であり、このテストをより高感度にするものである。CRP測定を使用することにより、テストの感度は83%まで増加した。
【0083】
図5は、高血圧妊娠(HP、HPUおよびHU被験者、表1および2も参照)の分類木を示す。被験者を、妊娠早期の血清H2レラキシンおよびCRP濃度に基づき4群に分岐させた。これらの2つの測定の使用により、極めて良好な感度レベルが得られた。事実、レラキシンおよびCRP測定の両方を使用すると、特異度は63%、感度は96%であった。
【0084】
図6は、高血圧妊娠の別の分類木を示す(すなわち、HP、HPUおよびHUを含む48人の高血圧女性および25人の正常女性)。被験者を、図5のように血清H2レラキシンおよびCRPレベル、ならびに予測をさらに洗練させるためのクレアチニンレベルに基づき分岐させた。これらの3つの分析物により、高血圧症を後に発症する妊娠を予測するための極めて高感度および特異的なアルゴリズムを開発した。レラキシン、CRP、およびクレアチニン(CREAT)により、特異度は92%、感度は87%であった。これらの女性は子癇前症ではなく高血圧妊娠の候補にすぎないため、H2レラキシンおよびCRPに加えてCREATを用いて高血圧症の可能性を判定した。
【実施例3】
【0085】
妊婦における子癇前症の予測
妊婦由来の血清試料は妊娠早期に採取する。血清H2レラキシン濃度およびCRP濃度はELISAにより判定する。図3に示されたようなアルゴリズムを用いて、子癇前症を発症する可能性を判定する。例えば血清H2レラキシンレベルが300pg/mlならば、患者は子癇前症のほぼ確実な発症を予防するための治療を受ける。血清レラキシンレベルが600pg/mlならば、CRPレベルも検査される。CRPレベルが1.5mcg/mlより高くおよび13.5mcg/ml未満ならば、妊娠は正常妊娠と見なされる。しかし、妊娠被験者のCRPレベルがこの範囲外であるならば、妊娠被験者は子癇前症を発症するリスクが高い。
【0086】
本開示の様々な修正および変形形態は、本開示の範囲および趣旨から逸脱することなく当業者に明らかであろう。本開示は特定の好ましい実施形態との関係で記載されているが、請求されたような本開示がこのような特定の実施形態に不当に限定されるべきでないことが理解されるべきである。実際、当業者により理解される、本開示を実施するための記載された方法の様々な修正は、特許請求の範囲内であることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
妊婦が子癇前症を発症するリスクが高いかどうかを評価する方法であって、
a)子癇前症の発症前の前記妊婦から得られた生体試料中のH2レラキシン濃度を測定するステップと、
b)前記H2レラキシン濃度が妊婦の下位四分位濃度のカットオフ値未満である場合、前記妊婦は子癇前症を発症するリスクが高いと判定するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記生体試料が血漿または血清を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記H2レラキシンが、前記H2レラキシンに対する抗体を用いて測定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記H2レラキシンが、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により測定される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記子癇前症の発症前が、妊娠5週から15週にわたる前記妊婦の妊娠第1期中である、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記妊婦が子癇前症になりやすい群の一部であり、前記群が初回妊娠、35歳超、18歳未満、多胎妊娠および既存状態のうちの1つまたは複数を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記既存状態が、高血圧症、糖尿病、ループス、栓友病、腎疾患および肥満から成る群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
下位四分位濃度の前記カットオフ値が約500pg/mlである、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記生体試料中のC反応性タンパク質(CRP)濃度を測定するステップと、前記H2レラキシン濃度が約500pg/mlより高い場合であっても、前記CRP濃度が約13.5mcg/mlより高い場合、前記妊婦は子癇前症を発症するリスクが高いと判定するステップとをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記生体試料中のC反応性タンパク質(CRP)濃度を測定するステップと、前記H2レラキシン濃度が約500pg/mlより高い場合であっても、前記CRP濃度が約1.5mcg/ml未満の場合、前記妊婦は子癇前症を発症するリスクが高いと判定するステップとをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
妊婦が子癇前症を有するかどうかを評価する方法であって、
a)前記妊婦から得られた生体試料中のH2レラキシン濃度を測定するステップと、
b)前記H2レラキシン濃度が妊婦の下位四分位濃度のカットオフ値未満である場合、前記妊婦は子癇前症を有すると判定するステップと
を含む、方法。
【請求項12】
前記生体試料が、前記妊婦が子癇前症の少なくとも1つの症状を示しているときに前記妊婦から得られ、前記方法が、前記妊婦が子癇前症を有すると診断するための一部に使用される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記子癇前症の少なくとも1つの症状が、浮腫、重度の頭痛、視覚変化、上部腹痛、悪心、嘔吐、目眩、尿排出量の減少、および1週間あたり2ポンドを超える突然の体重増加から成る群の1つまたは複数を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
妊婦が子癇前症を発症する可能性を低下させる方法であって、
a)妊娠第1期中に得られた生体試料中、約500pg/ml未満のH2レラキシン濃度を有する妊婦を選択するステップと、
b)前記妊婦が子癇前症を発症する可能性を低下させるために医薬製剤でのH2レラキシンを前記妊婦に投与するステップと
を含む、方法。
【請求項15】
前記H2レラキシンが、妊娠の最終期間中1日あたり約30μg/kg体重の量で前記妊婦に投与される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記H2レラキシンが、妊娠中を通じて約10ng/mlのレラキシンの血清濃度を維持するように前記妊婦に投与される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記血清H2レラキシン濃度が免疫アッセイにより判定される、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記第1期が妊娠5週から15週にわたる、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記妊婦が子癇前症になりやすい群の一部であり、前記群が初回妊娠、35歳超、18歳未満、多胎妊娠および既存状態のうちの1つまたは複数を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記既存状態が、高血圧症、糖尿病、ループス、栓友病、腎疾患および肥満から成る群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記妊婦が北米出身である、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
H2レラキシンと反応するモノクローナル抗体であって、アメリカンタイプカルチャーコレクション PTA−8423で示されるハイブリドーマにより産生される、モノクローナル抗体。
【請求項23】
請求項22に記載のモノクローナル抗体、マイクロプレート、および試料のH2レラキシン濃度を測定するための説明書を含む、免疫アッセイキット。
【請求項24】
前記免疫アッセイが、さらにポリクローナル抗レラキシン抗体を含むH2レラキシン捕捉アッセイである、請求項23に記載の免疫アッセイキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−510061(P2012−510061A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537723(P2011−537723)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【国際出願番号】PCT/US2009/065795
【国際公開番号】WO2010/060102
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(510301987)コーセラ,インコーポレーテッド (6)
【出願人】(501251600)ユニバーシティ オブ ピッツバーグ オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケーション (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF PITTSBURGH OF THE COMMONWEALTH SYSTEM OF HIGHER EDUCATION
【出願人】(507371168)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファンデーション インコーポレーティッド (38)
【Fターム(参考)】