説明

孔のシール構造

【課題】複数のケーシング部材の合わせ面に跨って形成された複雑な形状の孔を良好な組付性にてシールすること。
【解決手段】孔71に挿入された栓1は、挿入手前側の端部が閉塞された円筒状の本体部2と、本体部の外周より軸方向に間隔をおいて径方向に延出された複数の円環状部2と、本体部の挿入手前側の端部外周より径方向に延出され、ケーシング外部壁面51に係止された係止部4と、を備える弾性体からなる。栓の円環状部2は、外径側ほど薄肉に形成され、かつ、無負荷状態において、挿入奥側の面が外径側ほど挿入手前側に後退した部分を有しており、栓の円環状部2が孔の内壁面52に密着し、かつ、少なくとも1つの円環状部がケーシング5,6の孔71を貫通して内部壁面52,62に係合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のケーシング部材の合わせ面に跨って形成された孔に栓を挿入することで前記孔をシールする、孔のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッション、エンジン等のケーシングに設けられた孔から騒音の漏れを防止したり、孔内へのダスト侵入を防止するために、孔に栓を挿入することが従来より行われている。
【0003】
例えば特許文献1には、コネクタハウジングの端子収納室の端子挿入孔に防水用コネクタ用ゴム栓を挿入してダスト、水等の浸入を防止している。このゴム栓は、前記端子挿入孔の内壁面に密着可能なシール用突条部を備えている。
【0004】
図10および図11は、従来より実施されている自動車のトランスミッションケース5とエンジン10を側方または底から視た図である。エンジン10とトランスミッションケース5とは連結されており、エンジンオイルを貯留するオイルパン6が、エンジン10の下部にボルト81,82にて締結されている。図示する例では、オイルパン6をエンジン10下部に締結するボルト81,82の多くは露出しているが、一部のボルト81が、トランスミッションケース5内に隠れている。この隠れたボルト81を着脱するには、トランスミッションケース5およびオイルパン6の境界底部に設けられたボルト挿通用孔71,72から長手タイプのソケットレンチを挿入し、奥まった場所にあるボルト81に装着しなければならない。
【0005】
上記ボルト挿通用孔71,72は、トランスミッションケース5の内外空間を連通しており、そのままでは、同ケース5内で発生する騒音がボルト挿通用孔71,72を通じて外に放射されるため、普段は、ボルト挿通用孔71,72に、騒音漏れ、異物侵入等を防止するためのゴム製の栓が挿入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−223307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、トランスミッションケース5とオイルパン6との間に設けられたボルト挿通用孔71,72は、図5に示すように、真円を形成しておらず、長軸d1と短軸d2の長さが異なる非円形孔や、異なる半径r1、r2からなる円弧で構成される孔(以下「異径孔」ともいう。)である場合がある。
【0008】
騒音漏れや異物侵入を確実に防止するためには、ボルト挿通用孔71,72をできるだけ隙間なく塞ぐことが重要となる。そのために、従来は、上記非円形孔や異径孔に合致する形状の栓を使用してボルト挿通用孔71,72を塞いでいた。
【0009】
ところが、非円形孔や異径孔に合致する形状の栓を使用してボルト挿通用孔71,72を塞ぐ際に、栓に方向性ができ、組付時に栓の向きを確認する必要が生じるため、組付性が悪化していた。また、孔の内壁面全体に対して均等な締め代(つぶし代)ができるため、栓を孔に挿入する際の抵抗が大きくなり、組付性が悪化するという問題もあった。
【0010】
特許文献1に開示されている栓は、一部材で構成された真円状の孔をシールするためのものであり、複数の部材の合わせ面に跨って形成された非円形孔、異径孔等の複雑な形状の孔をシールするのに適していない。
【0011】
本発明は既述の問題に鑑みて創案されたものであり、複数のケーシング部材の合わせ面に跨って形成された複雑な形状の孔を良好な組付性にてシールすることが可能な孔のシール構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するための手段として、本発明の孔のシール構造は、以下のように構成されている。
【0013】
すなわち、本発明の孔のシール構造は、それぞれ所定の厚さを有する複数のケーシング部材の合わせ面に跨って形成された孔に栓が挿入されてなるものを前提としており、前記栓は、円柱状又は挿入手前側の端部が閉塞された円筒状の本体部と、前記本体部の外周より軸方向に間隔をおいて径方向に延出された複数の円環状部と、前記本体部の挿入手前側の端部外周より径方向に延出され、ケーシング外部壁面に係止された係止部と、を備える弾性体からなる。そして、前記栓の円環状部は、外径側ほど薄肉に形成され、かつ、無負荷状態において、挿入奥側の面が外径側ほど挿入手前側に後退した部分を有している。また、前記栓の前記円環状部が前記孔の内壁面に密着し、かつ、少なくとも1つの前記円環状部が前記ケーシングの前記孔を貫通して前記複数のケーシングの内部壁面に係合している。
【0014】
かかる構成を備える孔のシール構造では、孔に挿入される栓に、本体部の外周より軸方向に間隔をおいて径方向に延出された円環状部が設けられており、この円環状部が外径側ほど薄肉に形成され、かつ、無負荷状態において、挿入奥側の面が外径側ほど挿入手前側に後退した部分を有することにより、その剛性が低減されている。この結果、円環状部は、複雑な孔形状に対応して柔軟に変形し易く、孔形状が複雑であってもほぼ隙間無くシールすることが可能となる。また、円環状部が上記形状部分を有することで、栓を孔へ挿入する際の抵抗の低減、抜け防止も図られ、良好な組付性と確実な組付状態の維持が期待できる。また、少なくとも1つの円環状部がケーシングの孔を貫通して内部壁面に係合していることによっても栓の抜け防止が図られている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の孔のシール構造によれば、孔形状が複雑であってもほぼ隙間無くシールすることが可能となる。また、栓を孔へ挿入する際の抵抗の低減、抜け防止が図られ、良好な組付性と確実な組付状態の維持が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る栓を示す図である。(a)は栓の平面図であり、(b)は栓の正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】トランスミッションケースのエンジンオイルパンに対する合わせ面等を示す図である。合わせ面にはハッチングを施している。
【図4】図3のB−B断面図である。
【図5】図4のC矢視図である。
【図6】図3において、ボルト挿通用孔に栓が挿入された状態を示す図である。図3と同様に合わせ面にはハッチングを施している。
【図7】図4において、ボルト挿通用孔に栓が挿入された状態を示す図である。
【図8】図7のD−D断面図である。図中でドットを付した部分は円環状部を示している。
【図9】厚さの異なる3つのケーシングに跨って形成された、それぞれ半径の異なる円弧等からなる孔の例を示す図である。
【図10】トランスミッションケース、エンジン、エンジンオイルパン等の外形を示す概略側面図である。
【図11】トランスミッションケース、エンジン、エンジンオイルパン等の外形を示す概略底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る孔のシール構造について図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態では、トランスミッションケース(ケーシング部材)とエンジンオイルパン(ケーシング部材)との合わせ面に跨って形成されたオイルパン締結用ボルトの挿通用孔に栓が挿入されたものを例に挙げて説明する。本明細書では、栓が挿入される方向に向かって、奥側を「挿入奥側」といい、同方向に向かって手前側を「挿入手前側」という。
【0018】
図1および図2に示すように、孔に挿入される栓1は、本体部2と、本体部2の外周に形成された複数の円環状部3と、係止部4とを備える弾性体で構成されている。弾性体としてゴム、樹脂等が挙げられる。
【0019】
本体部2は、図2に示すように、一端部が閉塞した有底円筒状に形成されている。前記一端部は挿入手前側となり、他端部は挿入奥側となる。なお、本体部2の内部を中空状とすることで、本体部2等の剛性を下げているが、本体部2の径を小さくして剛性を下げれば、本体部2として円柱状のものを採用することも可能である。
【0020】
上記円環状部3は、本体部2の外周より軸方向に間隔をおいて径方向に延出している。以下、円環状部3を挿入奥側から挿入手前側に向かって順に「第1円環状部3a」、「第2円環状部3b」、・・・、「第5円環状部3e」という。これらの円環状部3は、外径側ほど薄肉に形成され、かつ、無負荷状態(栓1が孔に挿入される前の状態)において、挿入奥側の面が外径側ほど挿入手前側に後退している。このように円環状部3が形成されていることにより、栓1の孔への挿入時の抵抗低減、孔からの抜け防止、円環状部3の低剛性化が図られている。円環状部3の剛性を低下させることにより、栓1が複雑な形状の孔に挿入される際に、円環状部3が当該孔形状に対応して柔軟に変形し、孔の内壁面に対して隙間なく密着し易くなる。なお、円環状部3の外径は、当然に、シールすべき孔の最大径部より大きい値とされる。
【0021】
図1および図2に例示する円環状部3では、内径側から外径側全体に亘って肉厚が変化しているが、内径側の肉厚を一定にし、外径側の肉厚のみを上記のように変化させてもよい。
【0022】
上記係止部4は、挿入手前側の端部外周から径方向に延出している。この係止部4は、栓1を挿入する孔の内径より大径のものとされ、栓1が孔に対して所定位置まで挿入されるとケーシングの外部壁面に係止するように設けられている。
【0023】
図3〜図5は、トランスミッションケース5とエンジンオイルパン6の合わせ面に跨って形成されたボルト挿通用孔71,72を示している。これらのボルト挿通用孔71,72は、図10,図11に基づき技術背景の欄で説明したように、トランスミッションケース5内に隠れているエンジンオイルパン6を締結するためのボルト81およびその工具をケーシングの底から挿通するための孔である。
【0024】
図3に示すように、ボルト挿通用孔71,72では、孔の内壁面71a,72aの部位によって深さが異なっている。具体的には、孔71,72は何れも図3中左側部分が浅く図3中右側部分が深くなっている。また、図4に示すように孔71は、エンジンオイルパン6側で孔深さが深くなっており、トランスミッションケース5側で孔深さが浅くなっている。孔72については図示しないが、同様に、エンジンオイルパン6側で孔深さが深くなっており、トランスミッションケース5側で孔深さが浅くなっている。図5に示すように、これらのボルト挿通用孔71,72は、長軸d1と短軸d2の長さが異なり(非円形孔)、また、半径r1で形成されたトランスミッションケース5側の円弧と半径r2で形成されたエンジンオイルパン6側の円弧とで構成される孔(異径孔)となっている。
【0025】
上記ボルト挿通用孔71,72にそれぞれ前記栓1を挿入すると、各円環状部3が挿入手前側に屈曲(弾性変形)して、内壁面71a,72a内を摺動し、円環状部3が孔71,72を貫通する際に屈曲状態から元の形状に復帰する。このとき、栓1を挿入している作業者は節度感を得られる。したがって、栓1の挿入完了位置で、何れかの円環状部3が孔71,72を貫通するとともに、屈曲状態から元の形状に復帰するように設計しておくことで、作業者は、栓1の挿入完了を感覚的に把握することができる。
【0026】
図6および図7に示すように、係止部4がトランスミッションケース5の外部壁面51又はエンジンオイルパン6の外部壁面61に係るまで栓1が挿入されると、栓1の円環状部3の少なくとも1つがボルト挿通用孔71,72を貫通してケーシング(トランスミッションケース5又はエンジンオイルパン6)の内部壁面52,62に係合する。
【0027】
一方のボルト挿通用孔71に挿入された栓1は、その係止部4がトランスミッションケース5の外部壁面51およびエンジンオイルパン6の外部壁面61に係合しており、第1および第2円環状部3a,3bがボルト挿通用孔71を貫通し、第2円環状部3bがトランスミッションケース5の内部壁面52とエンジンオイルパン6の内部壁面61に係合している。また、栓1の第4〜第5円環状部3c〜3eがボルト挿通用孔71の内壁面71aに密着している。
【0028】
また、もう一方のボルト挿通用孔72に挿入された栓1については、その係止部4がトランスミッションケース5の外部壁面51に係合し、第1および第2円環状部3aの全体および第3円環状部3cの一部(図中左側)がボルト挿通用孔72貫通している。また、第3円環状部3cの一部がトランスミッションケース5の内部壁面52に係合し、栓1の第4および第5円環状部3d,3eがボルト挿通用孔72の内壁面72aに密着している。
【0029】
図8は、図7のD−D断面図である。この図に示すように、ボルト挿通用孔71が複雑な形状をした孔であっても、栓1の円環状部3の剛性が低くなっていることから、円環状部3がボルト挿通用孔71の形状に対応して変形し、ボルト挿通孔71の内壁面71aとの隙間を概ね塞ぐことができる。
【0030】
以上に説明した本実施形態に係る孔のシール構造によれば、既述したように、栓1の円環状部3の低剛性化が図られており、孔形状に対応して柔軟に変形し易くなっていることから複雑な形状孔でもシールすることができる。
【0031】
また、既述したように、栓1の円環状部3は、ボルト挿通用孔71,72への挿入時の抵抗の低減、抜け防止を図る形状とされているので、良好な組付性や確実な組付状態の維持が期待できる。
【0032】
また、少なくとも2つ以上の円環状部3がボルト挿通用孔71,72の内壁面71a,71bに密着していることにより、栓1の組付時の倒れを防止でき、これにより良好な組付性が確保される。
【0033】
また、円環状部3が軸方向に間隔をおいて複数設けられ、既述したように円環状部3の低剛性化が図られていることで、1つの栓1によって様々な形状およびサイズの孔をシールすることが可能である。
【0034】
既述の実施形態では、それぞれ所定の厚さを有する2つのケーシング部材(トランスミッションケース5とエンジンオイルパン6)の合わせ面に跨って形成されたボルト挿通孔71,72に栓1を挿入して、これらの孔71,72をシールする構造について説明したが、シールすべき孔が3つ以上のケーシング部材の合わせ面に跨って形成されたものであっても本発明を適用することができ、既述と同様の作用効果を得ることができる。例えば図9に示すように、孔94が、それぞれ厚さの異なる3つのケーシング91,92,93に跨って形成され、それぞれ半径の異なる円弧等からなるものであっても上記栓1を挿入することで概ね隙間無くシールすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、例えば、自動車のトランスミッションとエンジンのケーシングとの境界に設けられた孔をシールするためのシール構造として適用することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 栓
2 本体部
3 円環状部
4 係止部
5 トランスミッションケース(ケーシング部材)
6 エンジンオイルパン(ケーシング部材)
51 外部壁面
61 外部壁面
52 内部壁面
62 内部壁面
71 ボルト挿通用孔(ケーシング部材の合わせ面に跨って形成された孔)
71a 内壁面
72a 内壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ所定の厚さを有する複数のケーシング部材の合わせ面に跨って形成された孔に栓が挿入されてなる、孔のシール構造であって、
前記栓は、円柱状又は挿入手前側の端部が閉塞された円筒状の本体部と、前記本体部の外周より軸方向に間隔をおいて径方向に延出された複数の円環状部と、前記本体部の挿入手前側の端部外周より径方向に延出され、ケーシング外部壁面に係止された係止部と、を備える弾性体からなり、
前記栓の円環状部は、外径側ほど薄肉に形成され、かつ、無負荷状態において、挿入奥側の面が外径側ほど挿入手前側に後退した部分を有しており、
前記栓の前記円環状部が前記孔の内壁面に密着し、かつ、少なくとも1つの前記円環状部が前記ケーシングの前記孔を貫通して前記複数のケーシングの内部壁面に係合した、ことを特徴とする孔のシール構造


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−137166(P2012−137166A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291473(P2010−291473)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】