説明

孔版印刷装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、孔版印刷装置に関し、さらに詳しくは、印刷用紙を版胴に向け圧接させるために用いられるプレスロ−ラに関する。
【0002】
【従来の技術】周知のように、穿孔された原紙を版胴周面に捲装し、この原紙に対して印刷用紙を圧接させて印刷を行う孔版印刷装置にあっては、印刷用紙を版胴に圧接させるプレスロ−ラの構造として、例えば、実開昭54−174407号公報に記載されたものがある。これによれば、プレスロ−ラは、回転自在の揺動ア−ムにおける回転中心に対する一方側端部に支持されて版胴と対向し、この揺動ア−ムの回転中心に対する他方側端部と不動部との間にかけられた弾性体の付勢により版胴に圧接するようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、孔版印刷装置においては、印刷用紙の圧接開始時期として、版胴周に捲装されている原紙の穿孔開始点よりも僅かに前方に相当する時期とされ、この時期にプレスロ−ラによる圧接が行われるようになっている。そして、上述したプレスロ−ラは、スプリングによる付勢を以って圧接するようになっており、圧接開始および離間時期はプレスロ−ラが支持されている部材側に設けてあるカムフォロア−と係合するカムの形状により設定されるようになっている。
【0004】しかしながら、このような圧接開始時期の設定にあっては、次のような問題があった。すなわち、プレスロ−ラは剛体である版胴に対してスプリングによる付勢を介して衝突することになるので、その衝突した際に跳ね返り、所謂、振動を起こすことがある。上述した振動やバウンドは、版胴の低速回転時であれば収まるまでの間での版胴の移動量が少ないことで画像上での影響は小さいものの、高速回転になるに従って、版胴からの跳ね返りが収まるまでの間の版胴の移動量が大きくなり、その間での版胴とインクロ−ラとの間の接触圧および印刷用紙への圧接力が不足したり、あるいは不安定になることがある。従って、このような事態は、図5において符号Aで示すプレスロ−ラの軌跡となって現われ、このプレスロ−ラのバウンドが大きいほど画像先端部でインクが付着しないで、所謂、白抜け部Bができたり、また、濃度ムラを起こす結果を招く。さらには、高速回転時でのプレスロ−ラの衝突は、高速になるほどカムの回転速度も上がることから、例えば、圧接開始を瞬時に行うためにカム曲線を急変させたような場合には、衝突に際しての騒音も大きく発生することになる。
【0005】そこで、本発明の目的は、上述した従来の孔版印刷装置、とくに、プレスロ−ラの圧接構造における問題に鑑み、異常画像の発生を防止し、又騒音の発生も抑えることのできるプレスロ−ラを備えた孔版印刷装置を得ることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】この目的を達成するため、本発明は、回転自在に設けてある円筒状の多孔性版胴表面にメッシュスクリ−ン等を捲装し、上記版胴の最外周には多数の孔を穿たれている原紙を装着して版胴の内部よりインキロ−ラおよびドクタ−ロ−ラによりインクを均一に供給すると共に、上記版胴に対して接離可能な方向に変位するプレスロ−ラにより印刷用紙を版胴周面に押圧し、上記版胴の孔部および原紙に有する孔を介して版胴内からインクをにじみ出させて印刷用紙上に印刷する孔版印刷装置において、上記プレスロ−ラの押圧開始時期を、上記印刷用紙への印刷開始時期には上記プレスローラの振動やバウンドが収束している程度に早める構成を備えたことを特徴としている。
【0007】また、本発明は、プレスロ−ラが、導電性を持たせてあることを特徴としている。
【0008】さらに本発明は、版胴に対してプレスローラが急激に当接しない速度で、上記プレスローラを変位させる構成を有することを特徴としている。
【0009】
【作用】本発明によれば、プレスロ−ラの振動やバウンドがまった状態で印刷を開始されるようにできる。
【0010】また、本発明によれば、印刷用紙と接触するプレスロ−ラにより印刷用紙に帯電している電荷を除電される。
【0011】さらに本発明によれば、プレスロ−ラが版胴に衝突する際の衝撃力を小さくされる。
【0012】
【実施例】以下、図1乃至図4において、本発明実施例の詳細を説明する。
【0013】図1は本発明実施例による孔版印刷装置の全体構成を示しており、同図において、孔版印刷装置1は、図示しないモ−タ等により回転自在とされている版胴2を備えている。上述した版胴2は、無数の孔を明けられた金属円筒で構成されており、その外表面に網目状のメッシュスクリ−ンを配置され、このメッシュスクリ−ンの網目部および無数の孔から後述するインクをにじみ出すようになっている。また、版胴2の周面における印刷領域外に相当する位置には、多数の孔を穿たれている原紙3を把持するためのクランプ部材4が設けてあり、このクランプ部材4によって、一端を把持した状態で原紙3を周面に捲装できるようになっている。
【0014】一方、版胴2の内部には、インク供給機構が設けてあり、この機構は、周面の一部に吐出口を有するインク供給パイプ5と、版胴2の内周面に接触して版胴2と連れ回る関係を設定されているインクロ−ラ6と、このインクロ−ラ6の周面と僅かな隙間を設定されて図示矢印方向に回転するドクタ−ロ−ラ7とで構成されており、インクロ−ラ6とドクタ−ロ−ラ7とで形成されるV字状のインク溜りで練られたインクをインクロ−ラ6の周面を伝わせて版胴2の内周面に持ち来し、その内周面からのにじみ出しを行わせるようになっている。
【0015】また、上述した版胴2の周壁をはさんでインクロ−ラ6と対向する位置には、版胴2の外周面に対して接離自在のプレスロ−ラ8が配置されており、そして、版胴2の回転方向におけるプレスロ−ラ8の下流側には版胴2の外周面に対して接離自在の剥離爪9が配置されている。上述したプレスロ−ラ8は後述する印刷用紙の搬送時に版胴2に向け変位するようになっており、また、剥離爪9は、印刷行程が終了した時点で版胴2に向け変位するようになっており、それらの機能を発揮しないときには、二点鎖線で示すように、版胴2の外周面から離間した態位を設定されている。
【0016】従って、印刷用紙11がレジストロ−ラ10から繰り出されると、図2に示すように、プレスロ−ラ8は版胴2に対して印刷用紙11を押圧する態位に設定され、そして、剥離爪9は、プレスロ−ラ8との対向部において印刷行程が終了した印刷用紙11を版胴2から剥離する態位にされる。
【0017】また、上述した版胴2の近傍には図示しない給紙装置が設けてあり、この給紙装置は版胴2とプレスロ−ラ8との対向位置の近傍に配置されているレジストロ−ラ10を備えており、このレジストロ−ラ10は、版胴2に捲装されている原紙4との印刷開始を合わせるための給紙タイミングを設定した上で印刷用紙11を繰り出すようになっている。
【0018】一方、上述したプレスロ−ラ8は、版胴2に向けての押圧機構として、図3に示す構成を備えている。すなわち、プレスロ−ラ8の押圧機構は、支軸12Aを中心にして回転可能な揺動ア−ム12を備えており、この揺動ア−ム12における一方の端部にはプレスロ−ラ8が支持され、また、他方の端部にはカムフォロア−13が回転自在に支持されている。そして、上述した揺動ア−ム12における回転中心付近には、揺動ア−ムの各端部に向かう方向とは直角な方向に延長された補助ア−ム12Bが設けてあり、この補助ア−ム12Bには不動部との間に掛けられているスプリング14の一端が掛けてあり、このスプリング14の付勢によって揺動ア−ム12は、カムフォロア−13を後述するカム15に圧接する方向の回転習性を付与されている。
【0019】すなわち、カム15は、その外径形状として、図4に示すように、印刷用紙11での画像先端位置に相当するインク供給開始位置である穿孔開始点(α)に対して、プレスロ−ラ8の押圧開始時期を著しく早めることのできる形状とされており、本実施例の場合、版胴2とプレスロ−ラ8との対向位置に上述した穿孔開始点(α)が到達するよりも約25mm以上前に相当する時期にプレスロ−ラ8の押圧を開始することができる形状としてある。従って、プレスロ−ラ8は、印刷用紙11と対応するよりも前に版胴2に対して当接していることになる。
【0020】本実施例は以上のような構造であるから、印刷用紙11が繰り出される前にプレスロ−ラ8の押圧が開始されるので、プレスロ−ラ8が版胴2に衝突した際の跳ね返りによる振動は、図4において符号Cで示す軌跡のように、印刷用紙11に対する印刷開始時までに収束させることができる。
【0021】本実施例によれば、プレスロ−ラ8が版胴2に衝突した際に生じる振動やバウンドの影響を印刷開始前になくすことができるので、印刷画像の白抜けや濃度ムラの発生を防止することができる。
【0022】一方、上述したカム15は、外径形状を決める要因として、上述したプレスロ−ラの押圧開始時期を設定することの他に、カムリフトの急激な変化を生じさせないようにすることがある。すなわち、図3において、プレスロ−ラ8の押圧態位を設定するためのカムリフトを得るまでの時期を従来のもの(図中、符号θ1で示す位置)に対して遅い時期に得られるようにしてある(図中、符号θ2で示す位置)。従って、カムリフトの変化は緩やかな状態とされ、これによりプレスロ−ラ8が版胴2に接触するための移動速度を小さくされることになる。このような構造によると、版胴2に対するプレスロ−ラ8の衝撃力を小さくすることができ、これによって、衝突時の騒音を抑えることができる。
【0023】また、上述したプレスロ−ラ8は、従来のようにニトリルゴムを用いるのでなく、例えば、抵抗値の低い導電性のものとしても良い。このような構造にすることで、例えば、印刷用紙11が給紙されてから原紙3に接触するまでの間に原紙3に当接した際、原紙3に帯電している電荷を除電することができ、これにより、印刷用紙11が原紙3の帯電により原紙3に付着したまま剥離されない状態となるのを未然に防止できる。
【0024】
【発明の効果】以上、本発明によれば、版胴に対するプレスロ−ラの押圧開始時期を、印刷用紙の画像先端位置がプレスロ−ラに対向するよりも著しく早い時期とすることでプレスロ−ラの振動やバウンドを収束させた状態で印刷用紙の押圧を可能にできる。従って、振動やバウンドによるインクロ−ラと版胴との接触が不安定になったり、あるいは印刷用紙の接触不良による画像抜け等の弊害を防止することができる。
【0025】また、カムの外径形状をプレスロ−ラの押圧用カムリフトが得られるまでの時間を遅くする形状とすることでプレスロ−ラの移動速度を遅くすることが可能になる。従って、プレスロ−ラが版胴に衝突した際の衝撃力を小さくして騒音の発生を抑えることができる。
【0026】さらに、プレスロ−ラを導電性とすることで印刷用紙が対向するまでの間に原紙に帯電している電荷を除電することができる。従って、印刷用紙が原紙に対して静電的に付着してしまうのを防いで剥離不良の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明実施例による孔版印刷装置の全体構成を示す模型図である。
【図2】図1に示した装置の作用を説明するための一部拡大図である。
【図3】図1に示した装置の要部を説明するための模型図である。
【図4】図3に示した要部の作用を説明するための印刷用紙の状態を説明する模型図である。
【図5】従来の印刷装置における問題点を説明するための印刷用紙の状態を示す模型図である。
【符号の説明】
1 孔版印刷装置
2 版胴
3 原紙
8 プレスロ−ラ
11 印刷用紙
12 揺動ア−ム
12A 支軸
13 カムフォロア−
15 カム

【特許請求の範囲】
【請求項1】回転自在に設けてある円筒状の多孔性版胴表面にメッシュスクリ−ン等を捲装し、上記版胴の最外周には多数の孔を穿たれている原紙を装着して版胴の内部よりインキロ−ラおよびドクタ−ロ−ラによりインクを均一に供給すると共に、上記版胴に対して接離可能な方向に変位するプレスロ−ラにより印刷用紙を版胴周面に押圧し、上記版胴の孔部および原紙に有する孔を介して版胴内からインクをにじみ出させて印刷用紙上に印刷する孔版印刷装置において、上記プレスロ−ラの押圧開始時期を、上記印刷用紙への印刷開始時期には上記プレスローラの振動やバウンドが収束している程度に早める構成を備えたことを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項2】請求項1記載の孔版印刷装置において、上記プレスロ−ラは導電性を有することを特徴とする孔版印刷装置。
【請求項3】請求項1記載の孔版印刷装置において、記版胴に対してプレスローラが急激に当接しない速度で、上記プレスローラを変位させる構成を有することを特徴とする孔版印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3222483号(P3222483)
【登録日】平成13年8月17日(2001.8.17)
【発行日】平成13年10月29日(2001.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−60116
【出願日】平成3年3月25日(1991.3.25)
【公開番号】特開平4−294186
【公開日】平成4年10月19日(1992.10.19)
【審査請求日】平成10年2月25日(1998.2.25)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【参考文献】
【文献】特開 平2−248282(JP,A)
【文献】実開 昭59−59361(JP,U)