説明

孔部用マスキング具

【課題】ワークへの着脱が迅速に行なえるとともに、繰り返して使用できる孔部用マスキング具を得る。
【解決手段】相対する一対の挟持片(3a)を弾性体(5)の反力により互いに接近方向に移動させてなる耐熱性の挟持具(2)を設け、前記各挟持片(3a)の少なくとも一方に、ワーク(20)の孔部(21)を閉塞する耐熱性のマスキング体(10)を設ける。前記マスキング体(10)はワーク(20)の孔部(21)の外周縁部に当接する板材とし、該板材の当接面側に前記孔部(21)に嵌合するガイド(11)を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装、メッキ等の表面処理を行なう際に、ワークの孔部を閉塞して該孔部の表面処理を阻止する孔部用マスキング具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、産業機械等に使用されるボルト、ナットは、運転時に発生する振動によって緩み易く、特に、ボルトの頭部、あるいはナットが接触する孔部の外周縁部に塗料が施されていると、該塗料が振動によって剥離、及び粉砕されて外部に逸脱し、ボルト、ナットの緩みが助長されることになる。また、ネジ孔に塗料、メッキ等が施されているとボルトのねじ込みが困難となる。
【0003】
従来では、ワークの孔部への表面処理を阻止するために、硬質熱可塑性プラスチック発泡体によりテーパー状の栓体を形成し、該栓体をワークの孔部に差し込むようにしたものがあった。このものは、表面処理後に栓体を加熱、収縮させて孔部から取り除くようにしていたため、孔部からの除去作業に手数および費用が嵩むとともに、一度使用した栓体は廃棄処理する必要があり、経費が増大するものであった。さらに、前記栓体は加熱されると収縮して孔部の閉塞機能が低下するため、乾燥炉で塗料を加熱乾燥させる形式のものには適さないものであった。
【特許文献1】特開2005−46733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ワークへの着脱が迅速に行なえるとともに、繰り返して使用できる孔部用マスキング具を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前記目的を達成するために以下の如く構成したものである。即ち、請求項1に係る発明は、相対する一対の挟持片を弾性体の反力により互いに接近方向に移動させてなる耐熱性の挟持具を設け、前記各挟持片の少なくとも一方に、ワークの孔部を閉塞する耐熱性のマスキング体を設ける構成にしたものである。
請求項2に係る発明は、前記マスキング体はワークの孔部の外周縁部に当接する板材とし、該板材の当接面側に前記孔部に嵌合するガイドを設けるようにしたものである。
請求項3に係る発明は、相対する挟持片のうち、一方の挟持片にワークの孔部を閉塞するマスキング体を設け、他方の挟持片にワークの面に当接する先端が先鋭な耐熱性の当接体を設けるようにしたものである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に係る発明は、挟持具を弾性体の反力に抗して拡開操作し、この状態でマスキング体をワークの孔部に対面させた後、前記挟持具の拡開操作を解除すると、該挟持具の弾性体の反力で前記マスキング体が孔部に当接し、該孔部を閉塞することになる。これにより、ワークを表面処理した際に、前記マスキング体が孔部の表面処理を阻止することになる。この場合、前記挟持具及びマスキング体は耐熱性となっているので、塗料を焼き付け乾燥させる形式のものにも使用することができる。また、前記表面処理後に挟持具を弾性体の反力に抗して拡開操作すれば、マスキング体がワークの孔部を開放し、孔部用マスキング具をワークから容易に離脱させることができる。このため、孔部の閉塞、開放が迅速に行なえ、ワークの表面処理作業が効率よく行なえることになる。
請求項2に係る発明は、マスキング体をワークの孔部に対面させた後、前記挟持具の拡開操作を解除すると、ガイドが前記孔部に嵌合してマスキング体を孔部の所定位置に位置決めすることになる。これにより、マスキング体による孔部の閉塞が迅速かつ高精度に行なえることになる。
請求項3に係る発明は、挟持片の一方に設けたマスキング体がワークの一方の面に形成した孔部を閉塞し、挟持片の他方に設けた当接体がワークの他方の面に小面積で当接することになる。これにより、ワークの一方の面のみに形成され孔、盲孔等を円滑に閉塞することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下本発明の実施例を図面に基いて説明する。図面において、図1は本発明の第1実施例を示す一部断面側面図、図2は図1の平面図、図3は本発明の第2実施例を示す一部断面側面図、図4は図3の平面図、図5は本発明の第3実施例を示す平面図、図6は本発明の第4実施例を示す一部断面側面図である。
【0008】
図1において、1は孔部用マスキング具であり、金属製の挟持具2に金属製のマスキング体10を取り付けてなる。前記挟持具2は、目玉クリップと通称されるクリップからなる。即ち、前部に広幅な挟持片3a、後部に小幅な操作片3b、前後方向中間部に直交方向に屈曲する連結片3cを有する一対の作動体3−1,3−2を設け、各作動体3−1,3−2を、各連結片3cが重なる如く、図1において上下に向き合わせ、該連結片3cに支点ピン4を挿通し、各作動体3−1,3−2を支点ピン4を中心として回動可能に連結する。
【0009】
そして、前記支点ピン4に、弾性体をなすコイルばね5を挿通するとともに、その一端5aを一方(上部)の作動体3−1の操作片3bに、その他端5bを他方(下部)の作動体3−2の操作片3bにそれぞれ係止し、該コイルばね5の反力により、前記各作動体3−1,3−2を、各挟持片3aが互いに接近方向に移動する如く回動付勢する。
【0010】
前記各挟持片3aの前端部にホルダ6(6−1,6−2)を固着する。各ホルダ6は、直径約5mmの針金を屈曲させてなり、図1、図2に示すように、挟持片3aの幅方向に延びて該挟持片3aに固着される固着片6a、該固着片6aの両端から側面視コ字状に屈曲して前方に延びる突出片6bを有する。なお、各突出片6bの幅方向(図2において上下方向)間隔は、ワーク20に形成された孔部21のピッチに対応させる。
【0011】
前記ホルダ6の各突出片6bの端部にマスキング体10を固着する。該マスキング体10は、厚さ約2mmの金属板により、ワーク20の孔部21よりも大径となる円板状に形成してなり、該マスキング体10を前記各突出片6bの端部に上下に対面させて溶接固着する。該マスキング体10の直径は、ワーク20の孔部21の外周縁部に当接するワッシャ、ナット、あるいはボルトの頭部等の直径と略対応させる。前記孔部21は、ワークに形成されるねじ孔、通し孔、盲孔等を対象とする。
【0012】
図1において上下に対面するマスキング体10のうちの一方、本例では上部側のマスキング体10aの当接面(下面)側にガイド11を溶接固着する。該ガイド11は、図1に示すように、ワーク20の孔部21に遊嵌する直径とし、該ガイド11を孔部21に嵌合させることにより、上下のマスキング体10a,10bが孔部21と同軸となるように位置決めする。なお、前記ガイド11は、上部側のホルダ6の突出片6bの先端部(下端部)を上部側のマスキング体10aの中心部から下方に突出させて形成するようにしてもよい。
【0013】
前記実施例によれば、挟持具2の上下の操作片3bを接近方向に操作すると、各挟持片3a、及び各ホルダ6を介して上下のマスキング体10a,10bが上下方向に開く。この状態でマスキング体10a,10bをワーク20の孔部21に対面させた後、前記挟持具2の拡開操作を解除すると、コイルばね5の反力で上下のマスキング体10a,10bが接近して孔部21の上下の外周縁部を閉塞することになる。このとき、ガイド11が前記孔部21に嵌合して各マスキング体10a,10bを孔部21と略同軸位置に位置決めすることになる。
【0014】
これにより、ワーク20を表面処理した際に、前記マスキング体10(10a,10b)が孔部21の外周縁部の表面処理を阻止することになる。また、前記表面処理後に挟持具2をコイルばね5の反力に抗して拡開操作すれば、マスキング体10がワーク20の孔部21を開放し、孔部用マスキング具1をワーク20から容易に離脱させることができる。この離脱した孔部用マスキング具1は次段のワーク20に前述と同様にして取り付けることができる。
【0015】
図3、図4は第2実施例を示す。図3、図4において、1−1は孔部用マスキング具であり、挟持具2にマスキング体10−1及び当接体12を取り付けてなる。挟持具2は前述と略同様の目玉クリップからなる。前記挟持具2の各挟持片3aの前端部に、前述と略同様のホルダ6(6−1,6−2)を固着し、該ホルダ6の上部側の各突出片6b−1の端部にマスキング体10−1を、下部側の各突出片6b−2の端部に当接体12を互いに上下に対向させて固着する。
【0016】
前記マスキング体10−1は、金属板により大径の円板部と小径の円板部とを一体に有する平面視瓢箪形に形成し、ワーク10−1の上面壁20aに接近させて形成した径の異なる2個の孔部21a,21bを一括して上面側から覆うようになっている。前記当接体12は金属板により側面視三角状に形成し、その底片を下部側の各突出片6bの端部に溶接固着し、上部側の頂点12aがワーク10−1の下面20bに点接触するようにする。前記マスキング体10−1の大径側の円板部にガイド11を固着する。該ガイド11はワーク10−1の大径側の孔部21aに遊嵌するようになっている。
【0017】
前記第2実施例の孔部用マスキング具1−1は、角パイプからなるワーク10−1の上面壁20aに形成した孔部21a,21b、あるいは厚肉ワークの上面側に形成した盲孔を閉塞する際に適用されるもので、マスキング体10−1が前記孔部21a,21bを覆ってこの部が表面処理されるのを防止し、当接体12の頂点12aがワーク10−1の下面20bに点接触し、該下面20bの表面処理を阻害しないようにしたものである。その他は前述した実施例と略同様の構造となっている。
【0018】
図5は第3実施例を示す。図5において、1−2は孔部用マスキング具であり、挟持具2にマスキング体10を取り付けてなる。挟持具2は前述と略同様の目玉クリップからなる。前記挟持具2の各挟持片3aの前端部にホルダ6を固着する。該ホルダ6は線材を側面視コ字状に屈曲させ、その後端部を、図5に示すように、挟持具2の各挟持片3aの幅方向中心部に固着し、各ホルダ6の先端部にそれぞれ1個のマスキング体10を互いに対面させて固着するようにしたものである。この場合、ワーク20に形成される孔部21が盲孔であったり、一方の面のみに存在する際には、該孔部21に対面する一方のホルダ6にマスキング体10を、他方のホルダ6に前述と同様の当接体12を固着する。その他は前述した実施例と略同様の構造となっている。
【0019】
図6は第4実施例を示す。図6において、1−3は孔部用マスキング具であり、挟持具13にマスキング体10を取り付けてなる。前記挟持具13は、一本の線材により形成されている。即ち、ステンレス製のばね線材により、後部をリング状に湾曲させて蓄圧部13aを形成し、前後方向中間部に上下に平行する操作部13bを形成し、前部に、上下方向に交差した後、反転屈曲させて互いに対向するホルダ部13cを形成し、該ホルダ部13cの先端部に、第1実施例と同様のマスキング体10(10a,10b)を互いに対面させて固着し、上部側のマスキング体10aの下面に小径のガイド11を固着する。なお、前記蓄圧部13aは上下の操作部13bから直交方向に延出する直線状にしてもよい。その他は前述した実施例と略同様の構造となっている。
【0020】
前述したマスキング体10、ガイド11、及び当接体12は耐熱性を有する硬質プラスチック、あるいはセラミックにより形成してもよい。また、前記マスキング体10は円錐体状とし、これを孔部21に嵌合させるようにしてもよい。また、前記マスキング体10はホルダ部13cの先端部に回動可能に取り付けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施例を示す一部断面側面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】本発明の第2実施例を示す一部断面側面図である。
【図4】図3の平面図である。
【図5】本発明の第3実施例を示す平面図である。
【図6】本発明の第4実施例を示す一部断面側面図である。
【符号の説明】
【0022】
1(1−1,1−2,1−3) 孔部用マスキング具
2 挟持具
3−1、3−2 作動体
3a 挟持片
3b 操作片
3c 連結片
4 支点ピン
5 コイルばね(弾性体)
5a 一端
5b 他端
6(6−1,6−2) ホルダ
6a 固着片
6b 突出片
10(10−1) マスキング体
11 ガイド
12 当接体
12a 頂点
13 挟持具
13a 蓄圧部
13b 操作部
13c ホルダ部
20 ワーク
21 孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対する一対の挟持片(3a)を弾性体(5)の反力により互いに接近方向に移動させてなる耐熱性の挟持具(2)を設け、前記各挟持片(3a)の少なくとも一方に、ワーク(20)の孔部(21)を閉塞する耐熱性のマスキング体(10)を設けたことを特徴とする孔部用マスキング具。
【請求項2】
マスキング体(10)はワーク(20)の孔部(21)の外周縁部に当接する板材とし、該板材の当接面側に前記孔部(21)に嵌合するガイド(11)を設けたことを特徴とする請求項1記載の孔部用マスキング具。
【請求項3】
相対する挟持片(3a)のうち、一方の挟持片(3a)にワーク(20)の孔部(21)を閉塞するマスキング体(10)を設け、他方の挟持片(3a)にワーク(20)の面に当接する先端が先鋭な耐熱性の当接体(12)を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の孔部用マスキング具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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