説明

学習意欲改善剤

【課題】
副作用の問題のない、安全性に優れた抗うつ剤を提供すること。また、学習意欲の改善に有用で、継続的摂取可能な学習意欲改善剤を提供すること。
【解決手段】
2,5-ジケトピペラジン構造の環状ジペプチドを有効成分として含有する抗うつ剤および学習意欲改善剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,5-ジケトピペラジン構造の環状ジペプチドを有効成分とする抗うつ剤、または学習意欲改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高度に複雑化した現代社会において、意欲の低下が問題となっている。例えば、「モチベーションクライシス」という言葉が叫ばれており、若者のモチベーション低下が大きな問題になっている。また、うつ病患者の多くは意欲低下症状を示すと言われており、意欲低下を改善できる薬剤の開発が望まれている。
【0003】
現在、うつ病の治療又は予防薬として、三環系抗うつ薬および四環系抗うつ薬に加えて、選択的セロトニン再取込み阻害剤((以下、「SSRI」)とセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(以下、「SNRI」)が臨床に導入されている。SSRIとSNRIは、従来の三環系抗うつ薬の副作用を大幅に改善した抗うつ薬である(医学のあゆみ 219巻、13号、963-968、2006)。しかしながら、副作用が改善されたとはいえ、SSRIおよびSNRIには、依然として副作用が報告されている。
【0004】
安全性の観点から、天然物から抽出された成分を有効成分とする、うつ病の治療又は予防剤が種々報告されている。例えば、イチョウ葉から抽出された成分であるイチョウ葉エキス(特開2007−99660号公報)や、ホップエキス(特開2002−58450号公報)などが報告されているが、原料が通常摂取する食材ではなく、量的な食経験が乏しいため、安全性が確立されているとはいいがたい。
【0005】
一方、2,5−ジケトピペラジン環化合物などの環状ジペプチドは、様々な生理活性を有することが知られており、今後、医療・薬理分野において需要が拡大することが予想されている。ジペプチドは単体アミノ酸にない物理的性質や新たな機能を付加させることが可能であり、アミノ酸以上の応用範囲を有するものとして期待されている。また、ジペプチドは直鎖状又は環状等の構造の違いによっても物理的性質や新たな機能が付加されることが知られている。
【0006】
環状ジペプチドについては、次のような報告がある。例えば、焙煎したココア中(J. Agric. Food Chem. 2005, 53, 7222-7231)、またはコーヒー中(J. Agric. Food Chem. 2000, 48, 3528-3532)に生成されるピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(1-メチルエチル)-,(3S,8aS)やピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(2-メチルプロピル)-,(3S,8aS)は苦味成分として機能すること、鶏肉の加熱処理物からは21種類の環状ジペプチドが生成することが報告されている(Eur. Food Res. Technol. (2004) 218:589-597)。また、2,5-ジペラジンジオン,3,6-ビス(1H-インドール-3-イルメチル)-,(3S,6S)及びピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン, ヘキサヒドロ-3-(フェニルメチル)-,(3S,8aS)は抗ガン作用を有し(J. Pharm Pharmacol. 2000 Jan;52(1):75-82)、ピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン, ヘキサヒドロ-3-(1H-インドール-3-イルメチル)-,(3S,8aS)及びピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン, ヘキサヒドロ-3-(フェニルメチル)-,(3S,8aS)は抗菌作用を有し、ピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(1H-インドール-3-イルメチル)-,(3S,8aS)及び2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(1H-インドール-3-イルメチル)-,(3S,6S)は抗カビ作用を有することが報告されている(Pharmazie 1999 Oct;54(10):772-5)。しかし、これまで環状ジペプチドがうつ病の治療や予防に有用であることや学習意欲改善効果を有することは報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−99660号公報
【特許文献2】特開2002−58450号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】医学のあゆみ 219巻、13号、963-968、2006
【非特許文献2】J. Agric. Food Chem. 2005, 53, 7222-7231
【非特許文献3】J. Agric. Food Chem. 2000, 48, 3528-3532
【非特許文献4】Eur. Food Res. Technol. (2004) 218:589-597
【非特許文献5】J. Pharm Pharmacol. 2000 Jan;52(1):75-82.
【非特許文献6】Pharmazie 1999 Oct;54(10):772-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、副作用の問題のない、安全性に優れた抗うつ剤を提供することである。また、本発明の目的は、学習意欲の改善に有用で、継続的摂取可能な学習意欲改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、チキンエキス中にSSRIまたはSNRI活性を有する成分、学習意欲改善作用を有する成分が含まれることを見出した。さらに、本発明者らは、それら活性成分を2,5-ジケトピペラジン構造の環状ジペプチドであると特定し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、次の[1]〜[8]である。
[1] 2,5-ジケトピペラジン構造の環状ジペプチドを有効成分とする、抗うつ剤。
[2] 環状ジペプチドが2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)、ピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(1H-イミダゾール-4-イルメチル)-,(3S,8aS)、およびピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(1H-インドール-3-イルメチル)-,(3S,8aS)からなる群から選択される一種以上である、[1]記載の抗うつ剤。
[3] さらに、2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(1H-インドール-3-イルメチル)-,(3S,6S)、ピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(2-メチルプロピル)-,(3S,8aS)、およびピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(1-メチルエチル)-,(3S,8aS)からなる群から選択される一種以上を含有する、[2]記載の抗うつ剤。
[4] 経口剤である[1]〜[3]のいずれかに記載の抗うつ剤。
[5] うつ病、老人性うつ症状、気分の抑うつ、意欲の低下、不安、またはそれらに伴う不眠、食欲不振の予防および/または治療剤である、[1]〜[4]のいずれかに記載の抗うつ剤。
[6] 2,5-ジケトピペラジン構造の環状ジペプチドを有効成分とする、学習意欲改善剤。
[7] 環状ジペプチドが2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)である、[6]記載の学習意欲改善剤。
[8] 経口剤である、[6]または[7]記載の学習意欲改善剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、SSRI活性またはSNRI活性を有する抗うつ剤、および学習意欲改善剤を提供する。本発明の抗うつ剤、および学習意欲改善剤は、それらの作用が優れていることに加え、極めて安全性が高く、しかも精製品は無味無臭で白色を呈しているため、飲食品への配合に適している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、試験サンプルの摂取により、マウスが逃避台に到達するまでの時間(逃避潜時)が反復試行により短縮されるかの試験結果を示す。
【図2】図2は、試験サンプルの摂取により、マウスが逃避台に到達するまでの時間(逃避潜時)が反復試行により短縮されるかの試験結果を示す。
【図3】図3は、試験サンプルの摂取により、マウスが逃避台に到達するまでの時間(逃避潜時)が反復試行により短縮されるかの試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明は、2,5-ジケトピペラジン構造の環状ジペプチドを有効成分として含有する、抗うつ剤または学習意欲改善剤である。
【0015】
本明細書でいう抗うつ剤は、うつ病、老人性うつ症状、気分の抑うつ、生活意欲や学習意欲などの意欲の低下、不安、またはそれらに伴う不眠、食欲不振の予防および/または治療効果を有する剤である。
【0016】
特に、2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)(CA Registry Number: 2862-51-3)(以下、「化合物A」という。)、ピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(1H-イミダゾール-4-イルメチル)-,(3S,8aS)(CA Registry Number: 53109-32-3)(以下、「化合物B」という。)、ピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(1H-インドール-3-イルメチル)-,(3S,8aS)(CA Registry Number: 38136-70-8)(以下、「化合物C」という。)はセロトニントランスポーター結合阻害活性を有し、2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(1H-インドール-3-イルメチル)-,(3S,6S)(CA Registry Number: 20829-55-4)(以下、「化合物D」という。)、ピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(2-メチルプロピル)-,(3S,8aS)(CA Registry Number: 2873-36-1)(以下、「化合物E」という。)、ピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(1-メチルエチル)-,(3S,8aS) (CA Registry Number: 2854-40-2)(以下、「化合物F」という。)はノルエピネフリントランスポーター結合阻害活性を有する。前者はSSRI抗うつ剤として、また、後者は前者のいずれか一つと組合せることで、SNRI抗うつ剤として有用である。
【0017】
中でも、化合物Aは、マウスを用いた単回投与(急性)毒性試験において、2g/kg投与しても毒性を示さず、ラットを用いた28日間反復投与毒性試験において、最大無差用量2g/kg/day以上であった。さらに、遺伝毒性試験として、Ames試験、染色体異常試験およびマウス小核試験においても変異原性を示さないことから、極めて安全性に優れた抗うつ剤である。
【0018】
ここで、SSRI抗うつ剤とは、セロトニントランスポーターに選択的に結合し、このセロトニントランスポーターによるセロトニン再取り込みを阻害する作用を有する剤である。セロトニントランスポーター結合阻害活性は、例えば、Eur. J. Pharmacol., 368: 277-283, 1999に記載の方法にて測定することができる。すなわち、3Hラベルしたイミプラミン(imipramine)がCHO細胞で発現させたヒトセロトニントランスポーターへ結合するのを阻害するかどうかで測定する。化合物Aがセロトニントランスポーターへの結合を50%阻害する濃度(IC50)は、8.1μMである。
【0019】
SNRI抗うつ剤とは、セロトニントランスポーターおよびノルエピネフリントランスポーターに結合し、セロトニンおよびノルエピネフリンの再取り込みを阻害する作用を有する剤である。ノルエピネフリントランスポーター結合阻害活性は、例えば、Nature, 350: 350-354, 1991に記載の方法にて測定することができる。すなわち、Hラベルしたニソキセチン(nisoxetine)がCHO細胞で発現させたヒトノルエピネフリントランスポーターへ結合するのを阻害するかどうかで測定する。
【0020】
また、Morris型水迷路は、空間認識の記憶学習を測定する方法として報告された(Learn. Motiv. 12, 239-260 (1981))。マウスは周囲の風景を記憶し、その記憶を頼りにゴールの逃避台の場所を探して水を張ったプール内を泳ぎ回り、逃避台に到着することから、逃避台までの到達時間(逃避潜時)を評価のパラメータとする。本試験におけるマウスは、Morris型水迷路試験を行う前に逃避台の無いプールで泳がせることにより意欲を低下させたマウスであることから、逃避台への時間を短縮させることは、すなわち学習意欲を改善しているとみなすことができる。
【0021】
2,5-ジケトピペラジン構造の環状ジペプチドである化合物A等の有効成分は、市販の合成試薬を用いてもよいが、安全性の観点からは、天然物から抽出したものを用いる方が好ましい。天然物から化合物A等を得る方法の例示として、以下の工程を含む方法を挙げることができる:
(1)獣鳥肉類、魚介類、または貝類を原料とし、液体中にて加熱することにより、それらに含有される水溶性タンパク質を除去する前処理工程;
(2)前記前処理後に液体を交換し、再度加熱する工程;および
(3)得られた液サンプルをろ過する工程。
【0022】
上記前処理工程(1)にて用いる原料は、有用成分である化合物A等の2,5-ジケトピペラジン構造の環状ジペプチドを多く含む天然物、特に、獣鳥肉類、魚介類、または貝類が好ましい。獣鳥肉類には、畜肉である牛、豚、馬、羊、およびやぎ、獣肉である畜肉以外の肉、例えばイノシシやシカ、家禽肉である鶏、七面鳥、ウズラ、アヒルおよび合鴨、野鳥肉である家禽肉以外の鳥類の肉、例えば鴨、キジ、スズメ、およびツグミなどが含まれる。また、一般の食生活で食される魚介類および貝類を用いることができる。その他、植物体として、コーヒーやココア等を用いることもできる。これらの獣鳥肉、魚介類、および貝類の中でも、化合物A等を効率的に高濃度で得ることができる鶏肉を用いるのが好ましい。
【0023】
鶏肉を用いると化合物Aが多く得られる理由は不明であるが、鶏肉のタンパク質が連続したフェニルアラニン(−Phe−Phe−)の構造を多く有するため、ジペプチド(Phe−Phe)が多く生成されることにより、結果として、目的とする化合物Aが多量に得られるものと推測される。
【0024】
前処理工程(1)としては、畜肉中に含有される水溶性タンパク質を低減させる処理を行えばよく、例えば、水中にて100℃〜160℃で30分〜数時間(好ましくは3時間〜8時間程度、さらに好ましくは3時間〜4時間程度)ボイルすればよい。加熱装置としては、圧力鍋、オートクレーブなどを条件に合わせて用いることができる。
【0025】
また、加熱工程(2)は、高温高圧(100℃以上、1気圧以上)で行うことが好ましく、例えば、100℃以上、さらに好ましくは125℃以上が好ましい。同様に、加熱装置としては、圧力鍋、オートクレーブなどを条件に合わせて用いることができる。
【0026】
前処理工程(1)および加熱工程(2)は、液交換は行わず連続する工程であっても、前処理工程の後、一旦原料を取り出し、液交換を行った後にさらに加熱工程を行ってもよい。前処理工程(1)の後に液交換を行い、その後に加熱工程(2)を行った方が、よりブリックスが低いサンプルが得られることから、液交換は行った方が好ましい。
【0027】
なお、工程(1)及び工程(2)における加熱処理は、植物体及び動物体の焦げを防止するため、溶媒中で行うのが好ましい。溶媒としては、水、エタノール、又はこれらの混合物等を用いるのが好ましい。すなわち、タンパク質(好ましくは、連続したフェニルアラニン(−Phe−Phe−)の構造を多く有するタンパク質)を含有する植物体又は動物体に溶媒を混合して加熱処理を施し、その溶媒を回収することで、化合物Aを高含有する溶液が得られる。尚、化合物Aの濃度は、種々の方法で定量することができるが、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量することができる。
【0028】
得られた化合物A等の2,5-ジケトピペラジン構造の環状ジペプチドを含む溶液をそのまま本発明の剤として用いてもよいし、必要に応じて、精製又は濃縮して、有効成分濃度を高めて用いてもよい。濃縮は、エバポレーターや凍結乾燥などにより実施することができる。
【0029】
ろ過工程は、剤の形態に応じて、適宜濾過強度を決めればよく、当業者によく知られた方法にて行うことができる。
本発明の抗うつ剤および学習意欲改善剤には、適宜、担体、賦形剤、安定化剤、酸化防止剤、防腐剤、界面活性剤等の添加物を加えてもよい。正確な投与量は、疾患の重症度、年齢、性別、体重等により適宜決定すればよいが、ヒトの場合、例えば、有効成分を、1回あたり0.002〜20mg/kg、1日数回投与する。好ましくは1日1から3回投与するが、投与の時期は特に限定されない。
【0030】
投与方法は、経口投与または非経口投与等いずれの投与方法であってもよいが、投与の容易さから経口剤とするのが好ましい。経口剤の形態は、錠剤、カプセル剤、粉剤、顆粒剤、液剤、エリキシル剤等、いずれであってもよい。また、経口剤の場合は、通常有効成分を賦形剤と共に、または賦形剤なしに錠剤等に製剤化される。この際に用いられる賦形剤としては、ゼラチン、乳糖、グルコース等の糖類、小麦澱粉、米澱粉、とうもろこし澱粉等の澱粉類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸塩、タルク、植物油、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール、ガム、ポリアルキレングリコール等が挙げられる。
【0031】
経口剤は、本発明の有効成分を0.01〜80重量%、好ましくは0.01〜60重量%の含量で含む。液剤としては、本発明の有効成分を0.01〜20重量%含む懸濁剤またはシロップが例示される。この場合、担体としては、香料、シロップ、製剤学的ミセル体等の水溶賦形剤を用いる。
【0032】
本発明を以下の実施例により、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例]
【実施例1】
【0033】
各種環状ペプチドのトランスポーター結合阻害活性の測定
各種環状ジペプチドのセロトニントランスポーターおよびノルエピネフリントランスポーターの結合阻害活性を前述の既報(セロトニントランスポーター結合阻害活性;Eur J Pharmacol, 368, 277-283, 1999およびノルアドレナリントランスポーター結合阻害活性;Nature, 350, 350-354, 1991)に従って測定した。化合物Cは、(株)ペプチド研究所で合成してもらい、他の環状ジペプチドは、Bachem AG (Bubendorf, Switzerland)から購入した。各トランスポーターへの結合を50%阻害する各種環状ペプチド濃度(IC50)で示した(表1)。
【0034】
【表1】

【実施例2】
【0035】
学習意欲改善作用(1)
抗うつ作用および学習意欲増加作用について、当該技術分野で知られている方法、すなわちMorris型水迷路学習(Morris Water Maze:MWM)で評価した。
まず、直径90cm、高さ35cmの円筒状のタンクに、墨汁で色を黒くした水を水深20cmになるように入れて、水温を22±1℃とした。このタンクに、C57BL/6マウス(雄性、9週齢)を入れ、オープン・スペース・スイミング(OSS)を行った。OSSを行うと、マウスはその行動に変化を起こし、うつ状態に相当する状態になる。5日間のOSS試行の後、マウスを7群に分けた。
【0036】
次に、上記の直径90cm、高さ35cmの円筒状のタンクに、直径10cmの逃避台を水深0.5cmとなるように設置した。上記7群に分けたマウスに、化合物A(Bachem AG (Bubendorf, Switzerland))又は比較薬物マレイン酸フルボキサミン(fluvoxamine maleate)を生理食塩水に懸濁して経口投与した。投与60分後に、上記逃避台が設置されたタンクにマウスを投入し、水面下に置かれた不可視の逃避台を見つけ出すまでの時間(逃避潜時)を測定し、空間認知の記憶学習力を評価した(MWM)。コントロールマウスとして、OSSを行っていない動物に生理食塩水を投与して、MWMを行った。MWMは1日5回、10日間行った。
【0037】
結果を図1に示す。図1より明らかなとおり、OSSを行っていないマウス(no OSS-Vehicle)では、逃避潜時が反復試行により短縮されていくが、OSSを行ったマウスでは学習の意欲が低下しており、逃避潜時が短縮されなかった(OSS-Saline)。一方、化合物Aを投与した群では、投与量が増加するに伴い、逃避潜時が短縮された。0.02mg/kg投与群では、OSSを行った動物に生理食塩水を投与したコントロール群(OSS-Saline)に比べて、MWMの試行10日後の逃避潜時は20%程度短縮された。また、20mg/kg投与群では、SSRIとして多用されているマレイン酸フルボキサミン投与群(OSS-Fluvoxamine)と比較して、MWMの試行10日後の到達時間はほぼ同程度であった。このことから、化合物Aが学習意欲増加作用を有することが示された。
【実施例3】
【0038】
学習意欲改善作用(2)
実施例2と同様の方法で、マウスに20mg/kgの化合物Aを投与した後に、MWM試験を行った。比較として、直鎖状のジペプチド(Phe−Phe)を20mg/kg投与した後に、MWM試験を行った。
【0039】
図2に結果を示す。図2より明らかなとおり、直鎖状のジペプチド(Phe−Phe)は、有意な作用が確認できなかったが、化合物Aは、コントロール群(OSS−Vehicle)と比較して有意な学習意欲改善作用が認められた。すなわち、学習意欲改善作用は、環状ジペプチド構造が必要であることが分かった。
【実施例4】
【0040】
学習意欲改善作用(3)
実施例2と同様の方法で、さらに、0.002mg/kg投与群を追加して、同様にMWM試験を行った。
MWMの試行7日後の逃避台への到達時間を図3に示す。化合物Aは、0.02mg/kg以上の投与で効果が確認された。動物の有効量からヒトへの投与量を推定する場合、動物種差を考慮した係数10(食品の安全性評価、栗飯原景昭、内山充編著、学会出版センター、1987)を用いると、ヒト投与量はマウス投与量の1/10となる。従って、上述で有効であった0.02mg/kgはヒト(50kg)において0.1mg/ヒトとなる。化合物Aを含有する食品を飲料とし、その容量を100mlとすると、その有効濃度は1.0μg/mlとなる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、SSRI活性またはSNRI活性を有する抗うつ剤、および学習意欲改善剤を提供する。本発明の抗うつ剤、および学習意欲改善剤は、それらの作用が優れていることに加え、極めて安全性が高く、しかも精製品は無味無臭で白色を呈しているため、飲食品への配合に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,5-ジケトピペラジン構造の環状ジペプチドを有効成分とする、抗うつ剤。
【請求項2】
環状ジペプチドが2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)、ピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(1H-イミダゾール-4-イルメチル)-,(3S,8aS)、およびピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(1H-インドール-3-イルメチル)-,(3S,8aS)からなる群から選択される一種以上である、請求項1記載の抗うつ剤。
【請求項3】
さらに、2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(1H-インドール-3-イルメチル)-,(3S,6S)、ピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(2-メチルプロピル)-,(3S,8aS)、およびピロロ[1,2-a]ピラジン-1,4-ジオン,ヘキサヒドロ-3-(1-メチルエチル)-,(3S,8aS)からなる群から選択される一種以上を含有する、請求項2記載の抗うつ剤。
【請求項4】
経口剤である、請求項1〜3のいずれか一項記載の抗うつ剤。
【請求項5】
うつ病、老人性うつ症状、気分の抑うつ、意欲の低下、不安、またはそれらに伴う不眠、食欲不振の予防および/または治療剤である、請求項1〜4のいずれか一項記載の抗うつ剤。
【請求項6】
2,5-ジケトピペラジン構造の環状ジペプチドを有効成分とする、学習意欲改善剤。
【請求項7】
環状ジペプチドが2,5-ピペラジンジオン,3,6-ビス(フェニルメチル)-,(3S,6S)である、請求項6記載の学習意欲改善剤。
【請求項8】
経口剤である、請求項6または7記載の学習意欲改善剤。


【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公表番号】特表2012−517998(P2012−517998A)
【公表日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549842(P2011−549842)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国際出願番号】PCT/JP2010/053594
【国際公開番号】WO2011/077760
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【出願人】(501106768)セレボス パシフィック リミテッド (4)
【Fターム(参考)】