説明

安全な免疫抑制剤または免疫異常抑制剤組成物

【課題】T細胞の免疫応答の異常亢進(例えば、サイトカインの異常産生)に起因する疾患を治療または予防することができる、新規かつ安全な免疫抑制剤または免疫異常の抑制剤組成物を提供すること
【解決手段】スプラタストまたはその塩およびパンテチンを含有する医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンテチン、およびスプラタストまたはその塩を含有する医薬組成物に関する。さらに、本発明は、T細胞によるサイトカインの異常産生を抑制する医薬組成物、免疫を抑制するため、あるいは、免疫の異常な亢進に起因する疾患を治療または予防するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の免疫応答の主体をなすリンパ球がT細胞であり、T細胞には免疫反応を調節するヘルパーT細胞(以下、Thと称することがある)がある。ヘルパーT細胞にはTh1細胞とTh2細胞がある。
【0003】
Th1の活性化に伴ってインターフェロンγ(以下、IFN−γと称することがある)やインターロイキン2(以下、IL−2と称することがある)などのサイトカインが産生され、Th2の活性化に伴ってインターロイキン4(以下、IL−4と称することがある)などのサイトカインが産生される。
【0004】
これらのサイトカインは、感染防御などの生体防御に重要な役割をはたすが、異常に産生が亢進すると生体に有害な影響を及ぼす。
【0005】
例えば、慢性関節リウマチは、Th1細胞からのIFN−γなどのサイトカインの異常産生により、本来はウイルス、バクテリアなどに対する感染防御などの細胞性免疫が、自己の関節の組織を攻撃して関節が破壊されることで歩行障害などを生じさせる疾患である。また、アレルギー性疾患は、Th2細胞からのIL−4などのサイトカインの異常産生により生じると考えられている。
【0006】
一方、免疫抑制剤であるシクロスポリンやタクロリムスは、Th細胞からのサイトカインの産生を強く抑制することが知られており、慢性関節リウマチ、アレルギー性疾患であるアトピー性皮膚炎などの自己免疫疾患の治療薬として使用されている。しかし、これらの薬物は副作用が多く、治療の途中で投与を中断したり、別の薬剤に切り替えたりしなければならず、より安全な治療薬が望まれている。
【0007】
パンテチンはCoAの前駆物質であり、粥状硬化進展抑制作用、血清脂質改善作用、脂肪酸酸化促進作用、血小板数改善作用、腸管運動促進作用などが知られている。また、パンテチンがIL−2の活性を優位に増強することも知られている(非特許文献1参照)。
【0008】
また、スプラタストは、抗アレルギー作用、IgE抗体産生抑制作用、IL−4およびIL−5産生抑制作用などを有する一方で、IFN−γ産生促進作用を有することが報告されている(例えば、非特許文献2、3参照)。
【0009】
これまでに、パンテチンとスプラタストの併用により免疫抑制作用を奏することは報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】炎症 VOL2 NO.4 AUTUMN pp.445−446,1982
【非特許文献2】医療用医薬品集2009年版 JAPIC 2008年
【非特許文献3】Prog.Med.VOL28 NO.9 pp.2167〜2173,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、T細胞の免疫応答の異常亢進(例えば、サイトカインの異常産生)に起因する疾患を治療または予防することができる、新規かつ安全な免疫抑制剤または免疫異常の抑制剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、このようなヘルパーT細胞(Th)の異常な免疫応答を抑制する組成物を探索すべく、マウスより摘出した脾臓細胞からThを分離し、抗原特異的刺激によりT細胞から産生されるサイトカイン(IFN−γ、IL−4)を指標として、鋭意スクリーニングを行ってきた。
【0013】
その結果、パンテチンとスプラタストとの併用により、既存の免疫抑制剤のシクロスポリンに匹敵するほどの、IFN−γおよびIL−4の産生抑制効果が発現することを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明は、
(1)スプラタストまたはその塩およびパンテチンを含有する医薬組成物、
(2)スプラタストまたはその塩がスプラタストトシル酸塩である、前記(1)に記載の医薬組成物、
(3)パンテチンとスプラタストまたはその塩とのモル比が、パンテチン/スプラタストまたはその塩=1/2〜3/2である、前記(1)に記載の医薬組成物、
(4)IL−4の産生を抑制するための、前記(1)〜(3)いずれか1項に記載の医薬組成物、
(5)IFN−γの産生を抑制するための、前記(1)〜(4)いずれか1項に記載の医薬組成物、
(6)免疫を抑制または免疫異常を抑制するための、前記(1)〜(5)いずれか1項に記載の医薬組成物、
(7)免疫の異常な亢進に起因する疾患を治療または予防するための、前記(1)〜(6)いずれか1項に記載の医薬組成物、ならびに、
(8)免疫の異常な亢進に起因する疾患が、アレルギー性気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、全身性エリテマトーデスまたは慢性関節リウマチである、前記(7)に記載の医薬組成物、
である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の、パンテチン、およびスプラタストまたはその塩を含有する医薬組成物は、T細胞、特にThの免疫応答の異常亢進によって生ずるサイトカインの異常産生を顕著に抑制するため、例えば慢性関節リウマチ、アレルギー性気管支喘息、アレルギー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎などのアレルギー性疾患、アトピー性皮膚炎、乾癬、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患などの免疫の異常な亢進に起因する疾患に対する治療薬または予防薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】スプラタストトシル酸塩(以下、「トシル酸スプラタスト」という場合がある)単剤、トシル酸スプラタストおよびパンテチンの併用、ならびにシクロスポリン単剤を投与した場合のIL−4産生への影響を示した図である。
【図2】トシル酸スプラタスト単剤、トシル酸スプラタストおよびパンテチンの併用、ならびにシクロスポリン単剤を投与した場合のIFN−γ産生への影響を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の医薬組成物に使用されるパンテチンは、第15改正日本薬局方に収載されており、容易に入手することができる。
【0018】
本発明に使用されるスプラタストの塩としては、塩酸塩、硫酸塩などの無機酸塩や、クエン酸、安息香酸、トシル酸などの有機酸塩を挙げることができるが、本発明においては、トシル酸塩が好ましい。なお、スプラタストトシル酸塩は市販されている。
【0019】
本発明の医薬組成物におけるパンテチンとスプラタストまたはその塩との含有量は、本発明の効果が奏される限り、特に限定されない。また、本発明の免疫抑制剤におけるパンテチンとスプラタストまたはその塩のモル比も、本発明の効果が奏される限り、特に限定されないが、好ましくは、パンテチン/スプラタストまたはその塩のモル比=1/2〜3/2であり、より好ましくは、パンテチン/スプラタストまたはその塩のモル比=2/2〜3/2である。
【0020】
本発明の医薬組成物は、パンテチンとスプラタストまたはその塩とを含有し、後述する試験例からも明らかなように、IL−4およびIFN−γの産生を抑制するため、免疫抑制剤として、また、免疫の異常な亢進に起因する疾患を治療するために使用することができる。免疫の異常な亢進に起因する疾患としては、例えば、アレルギー性気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
本発明の医薬組成物には、必要に応じて他の薬剤を加えることができる。他の薬剤としては、例えば、慢性関節リウマチやアレルギー性疾患などにおいて現在使用されている気管支拡張剤や既知の抗アレルギー剤、ステロイド剤などが挙げられる。
【0022】
現在、慢性関節リウマチや重症の喘息やアトピー性皮膚炎に対しては、ステロイド剤が最も有効であるとして頻繁に使用されているが、ステロイド剤は長期投与によりステロイド皮膚症、誘発感染症、副腎皮質機能不全、また使用中止後のリバウンドなどの種々の副作用の生じることが問題となっている。従って、本発明の医薬組成物をステロイド剤と併用することにより、ステロイドの使用量を減量することが可能である。同様に副作用の強い免疫抑制剤であるシクロスポリン、シクロフォスファミド、タクロリムスなども使用量を減量することができる。本発明の医薬組成物に、これらの他の薬剤を加える場合には、他の薬剤との合剤であってもよいし、また他の薬剤と併用しても良い。
【0023】
本発明の医薬組成物には、さらに、慢性関節リウマチやアレルギー性疾患などを治療するのに好ましい投与経路に適した薬学的に許容される添加剤を含んでいてもよい。また、本発明の医薬組成物は、通常許容される賦形剤、結合剤、安定化剤などをと共に配合することにより製造することができる。また、注射剤形で用いる場合は、通常許容される緩衝剤、溶解補助剤、等張剤などを添加することもできる。
【0024】
投与法としては、経口および非経口投与のいずれも使用可能である。経口投与の場合はカプセル剤または錠剤、顆粒剤などの剤形で投与することができ、非経口投与の場合は水溶性溶液による皮下あるいは静脈注射剤、点滴剤、点鼻剤、点眼剤あるいは軟膏などの剤形で用いることができる。
【0025】
投与量は、対象疾患を有効に治療するに充分な量を使用することが可能であるが、一般に、症状、年齢、体重などにより異なるが、経口投与の場合、本発明の医薬組成物に含有されるスプラタストまたはその塩およびパンテチンの合計量あたり、大人では1日当たり1〜1000mgの範囲、好ましくは10〜500mgの範囲を1回または数回に分けて投与することができる。非経口投与(注射剤)の場合、本発明の医薬組成物に含有されるスプラタストまたはその塩およびパンテチンの合計量あたり、0.1〜500mgの範囲、好ましくは3〜100mgの範囲を1回または数回に分けて投与することができる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例などを示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)錠剤
【0028】
【表1】

【0029】
(2)製法
上記成分および分量をとり、第15改正日本薬局方製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製する。
【0030】
(試験例)マウス脾臓細胞から分離したCD4陽性T細胞のサイトカイン産生に対する作用
1.実験方法
1)動物
BALB/cマウスは日本チャールスリバー(横浜)より購入し、5週齢の雄を使用した。
【0031】
2)培地
RPMI1640培地(Gibco)に、非働化した牛胎児血清(Fetal Bovine Serum,DSファーマバイオメディカル株式会社)を10%になるように使用した。
【0032】
3)薬剤
パンテチン(第一三共プロファーマ製)16.7μg/mL、トシル酸スプラタスト(岩城製薬製)0.3、1、3、10、30μg/mLになるように、さらに両薬物の併用されるように培地により希釈、調製した。また対照薬としてシクロスポリン(和光純薬製)0.1μg/mLを使用した。
【0033】
4)脾臓細胞からCD4陽性T細胞(Th細胞)の分離
脾臓から脾細胞を分離し、溶血、白血球を分離した。さらにDynabeads FlowComp Mouse CD4(invitrogen社)を用いてCD4陽性T細胞を分離した。
【0034】
5)CD4陽性T細胞の刺激によるサイトカイン産生
調製したCD4陽性T細胞浮遊液(8×10 cells/mL)に、上記3)にて調製した薬剤または対照薬とDynabeads Mouse T−Activator CD3/CD28(invtorogen社)を4μL添加し、37℃、5% CO 存在下で3日間培養した(0.4ml/well)。その後、上清中に産生されるIL−4とIFN−γを、それぞれELISA法により定量した。ELISA法にはBender MedSystems社製のサイトカイン測定キットを使用した。
【0035】
2.結果
結果を図1および図2に示す。なお、図1および2における無刺激とは、CD4陽性T細胞浮遊液に、薬剤もDynabeads Mouse T−Activator CD3/CD28も添加しなかった場合であり、コントロールとは、薬剤を添加せずDynabeads Mouse T−Activator CD3/CD28のみを添加した場合である。
【0036】
図1および図2から、Dynabeads Mouse T−Activator CD3/CD28の添加により、IL−4およびIFN−γが産生された。そして、パンテチン単独ではIL−4やIFN−γの産生の増強が認められた。また、トシル酸スプラタスト単独ではIFN−γの産生のわずかな増強が認められた。ところが、驚くべきことに、両薬物を併用すると、サイトカインの産生を強力に抑制することが知られているシクロスポリンと同程度に、非常に強いサイトカインの抑制が認められた。従って、パンテチンとトシル酸スプラタストの併用によりT細胞の異常亢進によるサイトカインの異常産生を抑制することができることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプラタストまたはその塩およびパンテチンを含有する医薬組成物。
【請求項2】
スプラタストまたはその塩がスプラタストトシル酸塩である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
パンテチンとスプラタストまたはその塩とのモル比が、パンテチン/スプラタストまたはその塩=1/2〜3/2である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
IL−4の産生を抑制するための、請求項1〜3いずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
IFN−γの産生を抑制するための、請求項1〜4いずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
免疫を抑制または免疫異常を抑制するための、請求項1〜5いずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
免疫の異常な亢進に起因する疾患を治療または予防するための、請求項1〜6いずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
免疫の異常な亢進に起因する疾患が、アレルギー性気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、乾癬、全身性エリテマトーデスまたは慢性関節リウマチである、請求項7に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−246454(P2011−246454A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97755(P2011−97755)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】