説明

安全ネット

【課題】従来の安全ネットにおける問題点を解決し、耐候性に優れ、かつ生分解性を有する安全ネットを提供する。
【解決手段】 2官能性リン化合物を0.1〜1.5%含有する融点130℃以上のポリ乳酸を主体とする繊維からなることを特徴とする安全ネットであり、繊維の破断強度が4.5cN/dtex以上、破断伸度が15%以上であることが好ましく、繊維が原着糸であることがより好ましい。この構成により、本発明の安全ネットは使用時の耐候性に優れ、長期間にわたってその性能を維持するだけでなく、生分解性も有しており、製品処分を行う際、土中に埋没することで地球環境に影響を与えることなく廃棄することが安易に行えるため極めて有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安全ネットに関するものであり、詳しくは、建築資材用として使用する際に十分な機械特性と優れた耐候性を有し、使用後廃棄された場合において生分解性を有する安全ネットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建築作業の現場においても作業の安全性が重視され、安全ネットが広く使用されている。安全ネットに要求される特性としては編強力、耐衝撃吸収性が挙げられ、さらに耐候性、難燃性に優れたものが望まれる。
【0003】
従来、安全ネットには特許文献1に記載されているようにポリエチレンテレフタレート繊維が多く使用されてきた。ポリエチレンテレフタレートからなる安全ネットは機械特性に優れるが、耐候性が十分ではなく、屋外での長時間の使用による強度低下が大きいことが問題であった。また、ポリエチレンテレフタレートから得られた製品は用済み後の処分において、生分解性を有さないため、最終的に焼却又は埋め立てにするしか処分の手段がなく、大気汚染や埋め立て地確保の問題があったほか、不法に廃棄された場合には環境破壊を引き起こすなどの問題があった。
【特許文献1】特公昭61−2145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は使用時において優れた機械特性と耐候性を有し、使用後自然環境下において徐々に分解消滅することによって焼却による大気の汚染の心配がなく、万が一放置された場合にも環境破壊を引き起こすことのない安全ネットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明の安全ネットは主として次の構成を有する。すなわち、融点130℃以上の脂肪族ポリエステルを主体とする繊維からなることを特徴とする安全ネットである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の安全ネットは使用時の耐候性に優れ、長期間にわたってその性能を維持するだけでなく、生分解性も有しており、製品処分を行う際、土中に埋没することで地球環境に影響を与えることなく廃棄することが安易に行えるため極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用い得る脂肪族ポリエステルは、融点が130℃以上のものであれば特段の制約はなく、ポリ乳酸、ポリ−3−ヒドロキシプロピオネート、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−3−ヒドロキシブチレートバリレートおよびこれらのブレンド物、変性物等を用いることができる。なお、本発明において融点とは、DSC測定で得られる溶融ピークの温度をいう。融点が130℃よりも低い場合には、製糸時、特に紡糸時に単繊維間の融着が著しくなり、更に延伸性不良が発生するなど製品の品位が著しく損なわれる。好ましくは融点は150℃以上であり、さらに好ましくは融点が170℃以上である。
【0008】
安全ネットを構成する繊維の素材としてこれらの脂肪族ポリエステル類を用いることにより優れた耐候性を得ることができる。また、これらの脂肪族ポリエステルは生物分解性或いは加水分解性が高く、使用後は自然環境中で容易に分解されるという利点を有する。さらに、使用する繊維の繊度や繊維構造、あるいは編み構造やコーティングにより安全ネットの設計を変更することにより、分解性を制御することができる。
【0009】
脂肪族ポリエステルの中でも特にポリ乳酸が好適である。ポリ乳酸の製造方法には、L−乳酸、D−乳酸、LD−乳酸(乳酸のラセミ体)を原料として一旦環状二量体であるラクチドを生成せしめ、その後開環重合を行う二段階のラクチド法と、当該原料を溶媒中で直接脱水縮合を行う一段階の直接重合法が知られている。本発明で好ましく用いられるポリ乳酸はいずれの製法によって得られたものであってもよい。ラクチド法によって得られるポリマーの場合にはポリマー中に含有される環状2量体が溶融紡糸時に気化して糸斑の原因となるため、溶融紡糸以前の段階でポリマー中に含有される環状2量体の含有量を0.1wt%以下とすることが望ましい。
【0010】
ポリ乳酸の平均分子量は高いほど好ましく、通常少なくとも5万、好ましくは少なくとも10万、好ましくは10〜30万である。平均分子量をこのように少なくとも5万とする場合には繊維の強度物性を優れたものとすることができ好ましい。
【0011】
また、本発明において好ましく用いられるポリ乳酸は、乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。共重合可能な成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。
【0012】
また、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマーを内部可塑剤として、あるいは外部可塑剤として用いることができる。
【0013】
本発明の安全ネットに使用する繊維の破断強度は4.5cN/dtex以上、さらには5.0cN/dtex以上であることが好ましい。かかる範囲とすることで、所望の編強力を達成するための安全ネットの目付量が大きくなりすぎることはない。
【0014】
また、本発明の安全ネットに使用する繊維の破断伸度は15%以上、さらには18%以上であることが好ましい。かかる範囲とすることで、安全ネットが衝撃を受け止める際の伸びが十分となり、応力が特定部位に集中せず破断しにくくなる他、安全ネットが人体を受け止める際の減速度(G値)を小さくでき、人体に対するダメージを小さく抑制することができる。
【0015】
本発明の脂肪族ポリエステルには、着色顔料、難燃剤、紫外線安定化剤、艶消し剤、消臭剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤等を必要に応じて添加することができる。
【0016】
着色顔料としては無機顔料の他、シアニン系、スチレン系、フタロシアイン系、アンスラキノン系、ペリノン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、キノクリドン系、チオインディゴ系などのものを使用することができる。繊維の着色は意匠性の点からだけではなく、繊維の耐候性を向上できる点からも好ましい。
【0017】
本発明の安全ネットに難燃性を付与するには、繊維に難燃剤として2官能性リン化合物を0.1〜1.5%含有することが好ましい。難燃剤としての2官能性リン化合物は具体的には下記化学式(I)〜(III)の構造を有するものが好ましく用いられる。
【0018】
【化1】

【0019】
【化2】

【0020】
【化3】

【0021】
(式(I)〜(III)中、R1,R5は同じか又は異なる基であって、炭素数1〜18の炭化水素基を表し、R2,R3はそれぞれ同じか又は異なる基であって、炭素数1〜18の炭化水素基又は水素原子を表し、A1は2価の有機基、A3は3価の有機残基を表し、R4はカルボキシル基又はそのエステルを表し、R6はカルボキシル基又はそのエステルあるいは互いに下記(IV)で示される基を介してA2と環を形成する2価のエステル形成性官能基を表わす。)
【0022】
【化4】

【0023】
前記の式(I)におけるリン化合物の好ましい具体例としては、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジフェニル等があげられる。
【0024】
前記の式(II)におけるリン化合物の好ましい具体例としては、(2−カルボキシエチル)メチルスルフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、(2−メトキシカルボキシエチル)フェニルホスフィン酸メチル、(4−メトキシカルボニルフェニル)フェニルホスフィン酸メチル、(2−(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)エチル)メチルホスフィン酸のエチレングリコールエステル等が挙げられる。
【0025】
前記の式(III)におけるリン化合物の好ましい具体例としては、(1,2−ジカルボキシエチルホスフィンオキシド(2,3−ジカルボキシプロピル)ジメチルホスフィンオキシド、(2,3−ジメトキシカルボニルエチル)ジメチルホスフィンオキシド、(1,2−ジ(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)ジメチルホスフィンオキシド等があげられる。
【0026】
前記の式(I)〜(III)に示した化合物の中でも、特に式(II)のリン化合物がポリエステルとの共重合性がよく、重縮合反応時の飛散が少ないことからより好ましく用いられる。
【0027】
上記の2官能性リン化合物の添加量は0.1〜1.5%とすることが好ましい。添加量をかかる範囲とすることで難燃性向上効果を十分とする一方、繊維の機械特性、耐候性を優れたものとすることができる。
【0028】
また、紫外線安定化剤として、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系化合物を好ましく用いることもできる。この際の配合量は繊維重量に対して0.005〜1.0wt%が好ましい。
【0029】
本発明に用いられる繊維は通常の溶融紡糸で得られるもので構わない。すなわち、乾燥処理されたポリマーを、例えばエクストルーダーやプレッシャーメルターで溶融した後、メタリングポンプによって計量し、紡糸パック内等で濾過を行った後、口金から吐出される。吐出された糸は冷却風等によって冷却・固化された後、油剤を付与されて、引き取られ、その後延伸される。口金の吐出孔径は丸断面の場合0.2〜1.0mm程度が好ましく使用される。冷却域では、常温、40〜70℃程度に加温あるいは冷却された気体を、15〜50m/分の線速度で吹き付ければよい。この冷却域の条件も、紡出されるポリマーの溶融粘度、単繊維繊度、ドラフト率、単繊維数等の設定条件によって選択すればよい。
【0030】
延伸に当たっては延伸の前に一旦巻き取る2工程法を用いても、紡糸後巻き取ることなく引き続いて延伸を行う直接紡糸延伸法を用いてもどちらでも構わない。引き取り速度は繊維強度の観点から4000m/分以下、また生産性の観点から300m/分以上であることが好ましい。延伸倍率は引き取り速度によって変わり、得られた繊維の伸度が上記したような範囲になるように調整されればよい。さらに、紡出直下、冷却・固化の前には加熱帯を設置して糸条をポリマーの融点以上の温度に加熱し、繊維の強度を高めることが好ましい。延伸は1段延伸でも2段以上の多段延伸でも構わないが、強度を得る観点から2〜4段延伸が好ましく、巻き取り前にはポリマーの融点より20〜80℃程度低い温度で熱処理が行われることが好ましく、また寸法安定性の観点から1〜20%の弛緩処理が行われることが好ましい。紡糸によって得られるマルチフィラメントの繊度、フィラメント数は好ましくはそれぞれは250dtex〜4000dtex、20〜500である。
【0031】
製網にはまず得られたポリエステル繊維を2〜6本合わせ、下撚りを施し、該下撚り糸を2〜8本合糸して下撚りとは逆の方向に撚りを施すことで合撚糸を得る。次いで得られた合撚糸をラッセル編機などで編成することによってネットを得る。得られたネットは必要に応じてさらに100〜160℃で30〜300秒程度の熱処理を施してもよい。
【0032】
前記した、紡出直下、冷却・固化の前に加熱帯を設置する場合において、加熱帯の温度は120〜350℃、その長さは5〜300cmが好ましく使用される。この加熱帯の条件についても、紡出されるポリマーの溶融粘度、単繊維繊度、ドラフト率、単繊維数等の設定条件によって選択すればよい。糸条の延伸に必要な熱を与える方法としては、加熱ロール、スチーム、接触熱板、熱ピン、乾熱非接触ヒーターなど公知の手法を用いればよい。
【0033】
以下、実施例により本発明の特徴を具体的に説明する。
【実施例】
【0034】
本実施例において採用した測定方法を以下に示す。
(a)繊維の強度、伸度
試料を気温20℃、湿度65%の温調室にてテンシロン引張試験機を用い、糸長25cm、引張速度30cm/分で測定した。
(b)難燃性
JIS L 1091(D法)により測定した。
(c)耐候性
安全ネットの耐候性は、JIS L 1096の耐候性A法によって100時間の処理を行った後の引張強度を測定し、処理前の引張強度に対する保持率を求めた。
(d)生分解性
安全ネットを土壌中に6ヶ月埋めておき、取り出し後の繊維の強度を測定し、強度保持率を算出した。
【0035】
[実施例1、2]
[2−(β−ヒドロキシエトキシカルボニル)エチル]メチルホスフィン酸をリン含有量として表中に期した量と、スチレン系イエローとシアニン系ブルーとカーボンを1:1.5:0.1重量比の割合で調整した着色剤0.3重量%とを含む重量平均分子量20万のポリL−乳酸を240℃で紡糸した後7倍に加熱延伸し、1110dtex、144フィラメントのポリ乳酸繊維を得た。得られた繊維をラッセル編機によってフロント7000dtex、バック4700dtexの編み地とし、目付量410g/m2 の安全ネット得た。得られた繊維及び安全ネットの特性を表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
[実施例3]
着色剤を含まない以外は実施例1と同様のポリ乳酸繊維を得、実施例1と同様に安全ネットを得た。得られた繊維及び安全ネットの特性を表1に併せて示した。
【0038】
[比較例1]
リン化合物を含まない以外は実施例1と同様のポリ乳酸繊維を得、実施例1と同様に安全ネットを得た。得られた繊維及び安全ネットの特性を表1に併せて示した。
【0039】
[比較例2]
着色剤およびリン化合物を含まない以外は実施例1と同様のポリ乳酸繊維を得、実施例1と同様に安全ネットを得た。得られた繊維及び安全ネットの特性を表1に併せて示した。
【0040】
[比較例3]
1110dtex、144フィラメントのポリエチレンテレフタレート繊維(表1中、PETと表示)を使用し、実施例1と同様に安全ネットを得た。繊維及び安全ネットの特性を表1に併せて示した。
【0041】
[比較例4]
1110dtex、144フィラメントのポリカプロラクトン繊維(表1中、PCLと表示)を使用し、実施例1と同様に安全ネットを得た。繊維及び安全ネットの特性を表1に併せて示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2官能性リン化合物を0.1〜1.5%含有する融点130℃以上のポリ乳酸を主体とする繊維からなることを特徴とする安全ネット。
【請求項2】
繊維の破断強度が4.5cN/dtex以上、破断伸度が15%以上であることを特徴とする請求項1に記載の安全ネット。
【請求項3】
繊維が原着糸であることを特徴とする請求項1または2に記載の安全ネット。

【公開番号】特開2008−174896(P2008−174896A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15842(P2008−15842)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【分割の表示】特願平11−26538の分割
【原出願日】平成11年2月3日(1999.2.3)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】