説明

安全弁を有する経口フィルム製剤

【課題】変形・劣化させることなく容易に保管することができ、薬物量を確保し、水なしで安全に服薬できる安全弁を有するフィルム製剤を提供すること。
【解決手段】最小の差渡しの長さが15mm以上、かつ面積175mm2以上のフィルム製剤であって、周縁にかからない弁用切り込みを設けたことを特徴とする安全弁を有する経口フィルム製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
気道を閉塞することなく安全に服薬できる安全弁を有する経口フィルム製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化の加速に伴い、服薬コンプライアンスの向上が大きなテーマになっている。
服薬コンプライス低下の原因の一つとして、嚥下障害が挙げられる。疾患によっては水の摂取が制限されている場合、寝たきりの状態で水とともに薬剤を服用することが困難な場合等がある。このような実態の問題点に関し、多くの報告ならびに問題解決のための提案がなされている(例えば、非特許文献1、2、3参照)。
特に高齢者の服薬性の向上のために適した剤形として、ウエハーやゼリーが上げられている(例えば、非特許文献4参照)。
【0003】
一方、口腔内で速やかに崩壊、溶解する固形製剤は、高齢者のみならず、錠剤の嚥下を苦手とする幼児、小児を対象とした薬剤や、片頭痛・狭心症、アレルギー性喘息などの頓服薬、高血圧症、糖尿病、高コレステロール症、高尿酸症等の生活習慣病対象薬にも適した剤形である。
【0004】
これらの状況に対応すべく、近年、水なしでも口腔内で容易に崩壊する口腔内崩壊錠や、口腔内崩壊フィルム製剤の開発が活発になってきている。このうち口腔内崩壊フィルム製剤については、その薄さから口腔内崩壊錠よりさらに少ない唾液量で崩壊させることが可能であり、安全面及び服薬し易さの点から各種薬剤における幅広い利用が期待されている。
【0005】
口腔内崩壊フィルム製剤に関し、薬物含有層に含有される薬物の味、臭い等を完全にマスキングすることができる経口投与を目的としたフィルム製剤であり、薬物が前記経口投与剤の内部に封入されるようにしたフィルム製剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、高湿度及び低湿度下で安定なフィルム製剤を形成するために、速溶性を維持しながらも、高湿度及び低湿度下において柔軟性が高く、べたつきが少ない安定したフィルム製剤も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、柔軟性、付着性において優れ、口腔粘膜付着性と徐放性を付与したフィルム製剤の製造方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
さらに、口腔内の殺菌・消毒を目的としたフィルム状トローチ剤であり、噛み砕かれたり、飲み込まれたりすることで薬効が直ぐに無くなる等の欠点を克服するために、粘膜に付着し、口腔内の水分により徐々に溶解して、薬物を持続的に放出することにより薬効を発揮させるフィルム状のトローチ剤が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−289868号公報
【特許文献2】特開2005−232072号公報
【特許文献3】特開昭62−135417号公報
【特許文献4】特開2001−288074号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】報告書「高齢者の服用の実態と剤形に対する意識調査」雑誌「Ther Res」27(6) 2006年6月20日
【非特許文献2】論文「高齢者に投与最適な新規製剤および包装容器」雑誌「ファルマシア」30(12) 2004年 日本薬学会発行
【非特許文献3】論文「高齢者向け新規製剤の開発-難消化性デキストリン含有ゼラチンゼリーの製剤化に関する基礎的検討-」雑誌「病院薬学」22(5) 1996年 日本病院薬学会発行
【非特許文献4】論文「高齢者の服薬性向上・口腔ケアのための製剤開発」雑誌「日本老年医学会雑誌」45(5) 2008年 日本老年医学会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
経口フィルム製剤の服用方法としては、二つに大別される。
口内炎治療薬やトローチ剤のように口腔粘膜に付着させて使用する場合は、適用箇所に製剤を直接貼り付け、なじませる。
また速崩壊性を付与した口腔内崩壊フィルム製剤の場合は、通常は舌の上に製剤を置き、上顎で挟んで、崩壊した後に、唾液とともに嚥下する。この際に、口腔内乾燥症等唾液量が極端に少ない特異な場合や、小児などが誤った服用方法を行った場合に、フィルムが十分に崩壊しないまま、咽喉部に到達する危険性がある場合がある。最悪の場合、咽喉部をフィルムが覆うことで、気道の確保ができず、重篤な呼吸困難に陥ることも考えられる。上述した従来技術においては、このようなことに関する問題提起や解決への試みはなされていない。
【0012】
なお、錠剤においては、第15改正日本薬局方解説書(廣川書店)の製剤総則15.錠剤に記載されているように、その大きさは円形で最大直径が1.5cmである。これは、上記のような危険性を避けるための対応である。
医薬品製造指針別冊 医薬品製造[輸入]承認基準2000年版(じほう)の剤形に関する記述の中で、「直径1.5cmを越えるチュアブル錠については、ドーナツ型以外は認められない。」とされている。これは、咽喉部に錠剤が留まった際に、錠剤中央の穴を通して呼吸を確保するための対応である。
【0013】
(発明の目的)
本発明は、上述した従来技術の経口フィルム製剤の問題点に鑑みてなされたものであって、変形・劣化させることなく容易に保管することができ、薬物量を確保し、水なしで安全に服薬できる安全弁を有するフィルム製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、
最小の差渡しの長さが15mm以上、かつ面積175mm2以上のフィルム製剤であって、周縁にかからない弁用切り込みを設けたことを特徴とする安全弁を有する経口フィルム製剤である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フィルム製剤の特性である、崩壊性および可撓性を失うことなく、水ありなしに関わらず安全に服薬でき、薬物量を減ずることがない安全性を有するフィルム製剤を提供することができる。特に、完全に穴を開けてしまうのではなく、弁状の切り込みを入れることにより、フィルム製剤の全体をロスなく有効に使用して最大限の薬物量を確保したフィルム製剤を提供することができる。
【0016】
最小の差渡し長さが15mm以上、かつ面積175mm2以上の経口フィルム製剤より小さい場合、経口フィルム製剤が気孔を塞ぐおそれが少ない。
【0017】
薬物の具体例としては、催眠鎮静薬・抗不安薬、抗てんかん薬、鼻炎用薬、解熱鎮痛消炎薬、抗パーキンソン薬、精神神経用薬、局所麻酔薬、脳循環代謝改善薬、鎮けい薬、鎮暈薬、強心薬、不整脈用薬、利尿薬、血圧降下薬、血管収縮薬、血管拡張薬、高脂血症用薬、呼吸促進薬、鎮咳薬、去たん薬、鎮咳去たん薬、気管支拡張薬、含嗽薬、止しゃ薬・整腸薬、抗潰瘍薬、健胃消化薬、制酸薬、便秘薬、利胆薬、滋養強壮保健薬、痛風治療薬、糖尿病用薬、抗生物質、抗菌薬、骨粗しょう症用薬、骨格筋弛緩薬、抗リウマチ薬、ホルモン薬、アルカロイド系麻薬、血液凝固阻止薬、抗悪性腫瘍薬、抗ヒスタミン薬、勃起不全治療薬、アレルギー用薬等が挙げられる。
【0018】
より具体的には、以下の物質が挙げられる。
催眠鎮静薬・抗不安薬:エスタゾラム、ニトラゼパム、ジアゼパム、フェノバルビタール、アルプラゾラム、クロルジアゼポキシド
【0019】
抗てんかん薬:フェニトイン、カルバマゼピン、バルプロ酸ナトリウム
【0020】
解熱鎮痛消炎薬:アスピリン、アセトアミノフェン、エテンザミド、イブプロフェン、塩化リゾチーム、メフェナム酸、ジクロフェナクナトリウム、ケトプロフェン、インドメタシン、フェナセチン、カフェイン
【0021】
抗パーキンソン薬:塩酸アマンタジン、レボドパ、塩酸トリヘキシフェニジル
【0022】
精神神経用薬:スルリピド、ハロペリドール、クロルプロマジン、レセルピン、リスペリドン、マレイン酸フルボキサミン
【0023】
局所麻酔薬:プロカイン、リドカイン
【0024】
脳循環代謝改善薬:塩酸メクロフェニキサート、ニセルゴリン、タルチレリン
【0025】
鎮けい薬:臭化水素酸スコポラミン、塩酸パパベリン、硫酸アトロピン、臭化プロパンテリン
【0026】
鎮暈薬:塩酸ジフェニドール、ジメンヒドリナート、塩酸メクリジン、d-マレイン酸クロルフェニラミン、臭化水素酸スコポラミン
【0027】
強心薬:ジゴキシン、ユビデカレノン、塩酸エチレフリン、塩酸ドパミン
【0028】
不整脈用薬
塩酸メキシレチン、塩酸プロプラノロール、ピンドロール、アテノロール
【0029】
利尿薬:イソソルビド、フロセミド、ヒドロクロルチアジド、スピロノラクトン、トリアムテレン、ナフトピジル
【0030】
血圧降下薬:塩酸デラプリル、カプトプリル、ペリンドブリルエルブミン、塩酸ヒドララジン、塩酸ラベタロール、塩酸ニカルジピン、ニルバジピン、ニフェジピン、ジルチアゼム、ニトレンジピン、塩酸バルニジピン、塩酸エホニジピン、ベシル酸アムロジピン、フェロジピン、シルニジピン、アラニジピン、塩酸マニジピン、ロサルタンカリウム、カンデサルタンシレキセチル
【0031】
血管収縮薬:塩酸フェニレフリン、プソイドエフェドリン、塩酸フェニルプロパノールアミン
【0032】
血管拡張薬:塩酸ベラパミル、シンナリジン
【0033】
高脂血症用薬:セリバスタチンナトリウム、シンバスタチン、プラバスタチンナトリウム、アトルバスタチンカルシウム水和物、クロフィブラート
【0034】
呼吸促進薬:酒石酸レバロルファン
【0035】
鎮咳薬:クロペラスチン、臭化水素酸デキストロメトルファン
【0036】
去たん薬:塩酸アンブロキソール、塩酸ブロムヘキシン、L−カルボシステイン
【0037】
鎮咳去たん薬:グアヤコールスルホン酸カリウム、グアイフェネシン、リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン、塩酸メチルエフェドリン、ヒベンズ酸チペピジン、塩酸トリメトキノール、デキストロメトルファンフェノールフタリン塩
【0038】
気管支拡張薬:テオフィリン、硫酸サルブタモール、硫酸オキシプレナリン、塩酸メトキシフェナミン、トリメトキノール、プロカテロール、モンテルカストナトリウム
【0039】
含嗽薬:アズレン、ポビドンヨード
【0040】
止瀉薬・整腸薬:塩酸ロペラミド、ベルベリン、ラクトミン、有胞子性乳酸菌、ビフィズス菌、納豆菌、酪酸菌
【0041】
抗潰瘍薬:ランソプラゾール、オメプラゾール、ラベプラゾール、ファモチジン、シメチジン、塩酸ラニチジン、スルピリド、デプレノン、スクラルファート
【0042】
健胃消化薬:ジアスターゼ、ロートエキス、セルラーゼAP3、リパーゼAP、ケイヒ油
【0043】
制酸薬:炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、沈降炭酸カルシウム、酸化マグネシウム
【0044】
便秘薬:センノシド、センノシドカルシウム、ビサコジル、ピコスルファートナトリウム
【0045】
利胆薬:デヒドロコール酸、トレピブトン
【0046】
滋養強壮保健薬:ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE(酢酸d−α−トコフェロールなど)、ビタミンB1(ジベンゾイルチアミン、フルスルチアミン塩酸塩など)、ビタミンB2(酪酸リボフラビンなど)、ビタミンB6(塩酸ピリドキシンなど)、ビタミンC(アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウムなど)、ビタミンB12(酢酸ヒドロキソコバラミン、メコバラミン、シアノコバラミンなど)などのビタミン、カルシウム、マグネシウム、鉄などのミネラル、タンパク、アミノ酸、生薬
【0047】
痛風治療薬:アロプリノール、コルヒチン
【0048】
糖尿病用薬:トルブタミド、グリベンクラミド、アカルボース、ボグリボース、塩酸ピオグリタゾン
【0049】
抗生物質:セファレキシン、セファクロル、アモキシシリン、塩酸ピプメシリナム、塩酸セフォチアムヘキセチル、セファドロキシル、セフィキシム、セフジトレンピボキシル、セフテラムピボキシル、セフポドキシミプロキセチル、アンピシリン、シクラシン、エノキサシン、カルモナムナトリウム
【0050】
抗菌薬:トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、臭化ドミフェン、4級アンモニウム塩、亜鉛化合物、サングイナリン、フッ化物、アレキシジン、オクトニジン、EDTA、ナリジクス酸、エノキサシン、オフロキサシン、スルファメトキサゾール、トリメトプリム
【0051】
骨粗しょう症用薬:イプリフラボン、アレンドロン酸ナトリウム
【0052】
骨格筋弛緩薬:メトカルバモール
【0053】
抗リウマチ薬:メトトレキセート、ブシラミン
【0054】
ホルモン薬:リオチロニンナトリウム、リン酸デキサメタゾンナトリウム、プレドニゾロン、オキセンドロン、酢酸リュープロレリン、トリアムシノロンアセトニド、ヒドロコルチゾン
【0055】
アルカロイド系麻薬:アヘン、塩酸モルヒネ、トコン、塩酸オキシコドン、塩酸アヘンアルカロイド、塩酸コカイン
【0056】
血液凝固阻止薬:ジクマロール
【0057】
抗悪性腫瘍薬:5−フルオロウラシル、ウラシル、マイトマイシン、塩酸マニジピン、塩酸ピオグリタゾン
【0058】
副交感神経遮断薬:ベラドンナ総アルカロイド、ダツラエキス、ホマトロピン、トロピカミド、ブチルスコポラミン、メベンゾラート
【0059】
抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬:マレイン酸クロルフェニラミン、マレイン酸カルビノキサミン、フマル酸クレマスチン、塩酸ジフェンヒドラミン、クエン酸ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェニルピラリン、塩酸プロメタジン、塩酸トリプロリジン、ロラタジン、メキタジン、アンレキサノクス、セラトロダスト、クロモグリク酸ナトリウム、フマル酸ケトチフェン、プランルカスト水和物、塩酸フェキソフェナジン、ベシル酸ベポタスチン、塩酸セチリジン、塩酸エピナスチン
【0060】
勃起不全治療薬:バルデナフィル塩酸塩水和物、シルデナフィル塩酸塩、クエン酸シルデナフィル
【0061】
その他:ニコチン、ニコチンレジネート
【0062】
活性成分として用いる食品成分は、フィルム製剤による摂取が可能なものであれば、特に制限はない。食品成分は常温で固体又は液体いずれの状態であってもよい。
食品成分の具体例としては、香料、果汁、植物エキス、動物エキス、ビタミン等が挙げられる。
【0063】
より具体的には、メントール、レモンオイル、ペパーミント、スペアミント、シソ果汁、コエンザイムQ10、キダチアロエエキス、セイヨウオトギリソウエキス、マリアアザミエキス、イチョウ葉エキス、アカブドウ葉エキス、ノコギリヤシ果実エキス、パンプキン種子エキス、セイヨウニンジンボクエキス、セイヨウカノコソウエキス、ホップエキス、ローズヒップエキス、エヒナセアエキス、ショウガエキス、ニンニクエキス、DHA、EPA、ラクトフェリン抽出物、ビタミン、アミノ酸、サーディンペプチド等が挙げられる。
【0064】
上記の物質の中には、その性質上、薬物及び食品成分の両方に該当するものもある。この場合、当該物質を含むフィルムは、その使用目的により薬物及び食品成分の何れとしても使用可能である。
本発明で使用する活性成分は、公知化合物を含み、市場において容易に入手可能であるか、又は、合成可能である。
又、活性成分は、単独で又は2種以上の組み合わせで使用することができる。
【0065】
活性成分は、その種類や添加量によりフィルム製剤へ苦味及び/又は不快な味を与える場合がある。フィルム製剤が口腔内投与用である場合は、苦味及び/又は不快な味をマスキングして、服用時の障害を取り除くことが好ましい。
【0066】
苦味や不快な味を与える活性成分としては塩酸フェキソフェナジン、塩酸セチリジン、メキタジン、塩酸ジフェンヒドラミン、臭化水素酸デキストロメトルファン、マレイン酸フルボキサミン、塩酸フェニレフリン等があげられる。
【0067】
本発明に適用可能なマスキング手法は特に限定されない。しかし、口腔内で溶かして服用するというフィルム製剤の特性を生かす点から、マスキング剤を用いた手法が好ましい。具体的な手法としては、シクロデキストリンによる包摂化、イオン交換樹脂による吸着化、及び、難水溶化物質を用いたマイクロカプセル化(又はマイクロマトリックス化)が挙げられる。
【0068】
マスキング剤であるシクロデキストリンとしては、アルファ型、ベータ型及びガンマ型のシクロデキストリンを用いることができる。シクロデキストリンの種類は、活性成分の物理化学的性質(分子量等)に基づいて適宜選択することができる。シクロデキストリンによる包摂化は、活性成分含有層製造前に予め行ってもよく、また、活性成分含有層の製造時に他の成分(活性成分、水溶性高分子及び崩壊剤)と同時に混合することにより行ってもよい。
【0069】
マスキング剤であるイオン交換樹脂としては、カチオン交換樹脂やアニオン交換樹脂を用いることができる。具体例としては、ROHM AND HASS FRANCE製のAMBERLITE IRP69、IRP64、IRP88やIRP43等があげられる。
イオン交換樹脂の種類は、活性成分の物理化学的性質(pH等)に基づいて適宜選択することができる。イオン交換樹脂による吸着化は、活性成分含有層製造前に予め行ってもよく、また、活性成分含有層の製造時に他の成分(活性成分、水溶性高分子及び崩壊剤)と同時に混合することにより行ってもよい。
【0070】
マスキング剤である難水溶化物質としては、前述のイオン交換樹脂、ステアリン酸、ステアリルアルコール、硬化油、ワックス(例えばカルナウバロウ)、エチルセルロース、アクリル系ポリマー、ポリ乳酸、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートやカルボキシメチルエチルセルロース等があげられる。難水溶化物質の種類は、活性成分の物理化学的性質(苦味の強度、溶解性、pH、融点等)に基づいて適宜選択することができる。
【0071】
難水溶化物質によるマイクロカプセル化(マイクロマトリックス化)は、活性成分含有層製造前に予め行っておくことが好ましい。具体的には、活性成分を難水溶化物質で被覆するか、又は活性成分を難水溶化物質中へ練り込むことによりマイクロカプセル又はマイクマトリックスを形成する。
【0072】
形成方法としてはスプレークーリング法が好ましい。マイクロカプセル及びマイクロマトリックスの粒子径(レーザー回析・散乱法による平均粒径)は、フィルム製剤を口腔内で溶かした際に、ざらつきを感じさせない点で10〜300μmであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1実施形態の安全弁を有する経口フィルム製剤の平面図である。
【図2】本発明の第2実施形態の安全弁を有する経口フィルム製剤の平面図である。
【図3】本発明の第3実施形態の安全弁を有する経口フィルム製剤の平面図である。
【図4】本発明の第4実施形態の安全弁を有する経口フィルム製剤の平面図である。
【図5】本発明の第5実施形態の安全弁を有する経口フィルム製剤の平面図である。
【図6】第1比較例の安全弁を有する経口フィルム製剤の平面図である。
【図7】第2比較例の安全弁を有する経口フィルム製剤の平面図である。
【図8】第3比較例の安全弁を有する経口フィルム製剤の平面図である。
【図9】第4比較例の安全弁を有する経口フィルム製剤の平面図である。
【図10】第5比較例の安全弁を有する経口フィルム製剤の平面図である。
【図11】第6比較例の安全弁を有する経口フィルム製剤の平面図である。
【図12】第7較例の安全弁を有する経口フィルム製剤の平面図である。
【図13】第8較例の安全弁を有する経口フィルム製剤の平面図である。
【図14】吸気用開口面積測定装置の説明斜視図である。
【0074】
(第1実施形態)
(1)経口フィルム製剤10は、1層の活性成分含有層と1層の活性成分非含有層とからなる2層構造のフィルム製剤である。本明細書において、物質量は乾燥品基準で示す。
(2)活性成分非含有層の製造
水溶性高分子としてのヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトキシル基含量28〜30%、ヒドロキシプロポキシル基含量7〜12%、動粘度12.5〜17.5mm2/s)(信越化学工業(株)製、商品名:TC−5S)10.0g、可塑剤としての濃グリセリン1.0gを、溶媒である精製水の90ml中に溶解して溶液を作成した。
得られた溶液をベーカ−アプリケーター(株式会社 井元製作所製)を用いてポリエチレンテレフタレート製のフィルム形成用型枠へ展延した。60℃下で溶媒を通風乾燥することにより溶媒を除去してフィルムを形成した。
【0075】
(3)活性成分含有層の製造
活性成分としてのd−マレイン酸クロルフェニラミン6.0g及びベラドンナアルカロイド0.6g、水溶性高分子としてのヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトキシル基含量28.0〜30.0%、ヒドロキシプロポキシル基含量7.0〜12.0%、動粘度2.5〜3.5mm2/s)(信越化学工業(株)製、商品名:H.P.M.C TC−5E)30.0g、乳化剤としてのショ糖脂肪酸エステル12.0g、甘味剤としてのアセスルファムカリウム3.0g及びアスパルテーム3.0g、矯味剤としてのL−メントール6.6g、可塑剤としての濃グリセリン18.0g及び、非水発泡性崩壊剤としての結晶セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムとの混合物(配合比(質量基準)80:20)、動粘度30〜100mPa・s)(旭化成ケミカルズ株式会社製、商品名:セオラスRC−A591NF)56.7gを、溶媒である高濃度エタノール水溶液(エタノール濃度:80容量%)の120.0g中に溶解して溶液を作成した。
得られた溶液をベーカーアプリケーター(株式会社 井元製作所製)を用いて、活性成分非含有層が形成されている型枠上へ展延した。60℃下で溶媒を通風乾燥することにより溶媒を除去してフィルムを形成した。
【0076】
(4)形成したフィルムを、型枠から剥離し、裁断して、図1に示すように、短辺20.0mm、長辺30.0mm、厚さ0.14mm(活性成分含有層:0.13mm、活性成分非含有層:0.01mm)の矩形のフィルム製剤10を得た。このフィルム製剤10の中央部に、短径6mmの楕円弧形で、幅0mmの楕円弧切り込み12を入れた。
【0077】
(第2実施形態)
第1実施形態のフィルム製剤10と同一のフィルム製剤20の中央部に、図2に示すように、短径6mmの半楕円形で、幅0mmの楕円弧切り込み22を縦に同一方向を向けて2個入れた。
【0078】
(第3実施形態)
第1実施形態のフィルム製剤10と同一のフィルム製剤30の中央部に、図3に示すように、短径6mmの楕円弧形で、幅0mmの楕円弧切り込み22を、縦に反対方向を向けて2個入れた。
【0079】
(第4実施形態)
第1実施形態のフィルム製剤10と同一のフィルム製剤40の中央部に、図4に示すように、短径6.0mmの楕円弧形で、幅0.25mmの楕円弧切り込み42を入れた。
【0080】
(第5実施形態)
第1実施形態のフィルム製剤10と同一のフィルム製剤5の中央部に、図5に示すように、短径6mmの楕円弧形で、幅0mmの楕円弧切り込み52を入れ、楕円弧切り込み42の中央部で、切り込みを0.1mm切断した。
【0081】
(第1比較例)
第1実施形態のフィルム製剤10と同一のフィルム製剤110の中央部に、図6に示すように、短径4mmの楕円弧形で、幅0mmの楕円弧切り込み112を縦に入れた。
【0082】
(第2比較例)
第1実施形態のフィルム製剤10と同一のフィルム製剤120の中央部に、図7に示すように、短径6mmの楕円弧形で、幅0mmの楕円弧切り込み112を縦に入れた。さらに、楕円弧切り込み112の左端からフィルム製剤120の左縁に至る横切り込み114をいれた。
【0083】
(第3比較例)
第1実施形態のフィルム製剤10と同一のフィルム製剤130の中央部に、図8に示すように、短径6mmの楕円弧形で、幅0mmの楕円弧切り込み132を縦に入れ、楕円弧切り込み132の中央部で、切り込みを1mm切断した。
【0084】
(第4比較例)
第1実施形態のフィルム製剤10と同一のフィルム製剤140の中央部に、図9に示すように、フィルム製剤20の左右縁に至る長さ3mm、幅0mmの横切り込み142をいれた。
【0085】
(第5比較例)
第1実施形態のフィルム製剤10と同一のフィルム製剤150の中央部に、図10に示すように、長径4mmの楕円弧形で、幅0mmの楕円弧切り込み152を、横に反対方向を向けて2個入れた。
【0086】
(第6比較例)
第1実施形態のフィルム製剤10と同一のフィルム製剤160の中央部に、図11に示すように、短径6mmの楕円弧形の孔を設けた。
【0087】
(第7比較例)
第1実施形態のフィルム製剤10と同一のフィルム製剤170の中央部に、図12に示すように、短径6mmの楕円弧形で、幅2mmの切り込み172を設けた。
【0088】
(第8比較例)
第1実施形態のフィルム製剤10と同一のフィルム製剤180の中央部に、図13に示すように、半径3mmの円形の孔182を設けた。
【0089】
(実施形態及び比較例の評価)
上述した実施形態及び比較例のフィルム製剤の強度及び吸気用開口面積を測定した。
強度測定は、ばね式手秤(株式会社三光精衝所 1kg)を用い、引っ張り強度(g)を測定した。フィルム製剤の強度は、フィルム製剤の引っ張り強度に基づく下記の基準にしたがい評価した。
○ 強度あり:強度が500g以上
× 強度なし:強度が500gより低い
【0090】
吸気用開口面積測定は、吸気試験により行った。吸気用開口面積測定装置200は、図14に示すように、直径15mmの吸気孔202を開けた、長さ200mm、横150mm、厚さ5mmのプレート204に、真空ポンプ(ヤマト科学株式会社YAMATO MINIVAC PD-136)を用いて吸気孔202からの吸気量を30L/分に設定した直径100mmのホース206を取り付けて構成される。
【0091】
測定は、フィルム製剤の中央部の切り込み等が吸気孔202の上になるように、フィルム製剤(図示せず)をプレート204の上に配置して、吸気時におけるフィルム製剤10の開放面積を測定した。吸気時におけるフィルム製剤10の開放面積は、市販されている直径15mm以上のトローチ剤に基づく下記の基準に従って評価した。
【0092】
市販されている直径15mm以上のトローチ剤の一般的なものの外径は6mm、面積28.3mm2、新トニントローチL(佐藤製薬)の形状は、外径18mm、内径6mm、クールワンのどトローチ(佐藤製薬)形状:外径18mm、内径6mmである。
○ 気道確保に十分な開放面積:開放面積が28.3mm2以上
× 気道確保に十分ではない開放面積:開放面積が28.3mm2より小さい
【0093】
測定結果は、表1に示すとおりである。
【表1】

【0094】
表1に示す測定結果により、実施形態1ないし5が、強度及び吸気用開口面積とも、フィルム製剤としての強度と気道を閉塞した際の安全性とを両立していることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最小の差渡しの長さが15mm以上、かつ面積175mm2以上のフィルム製剤であって、周縁にかからない弁用切り込みを設けたことを特徴とする安全弁を有する経口フィルム製剤。
【請求項2】
前記弁用切り込みの幅が、1mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の安全弁を有する経口フィルム製剤。
【請求項3】
前記弁用切り込みが、断続的であることを特徴とする請求項1に記載の安全弁を有する経口フィルム製剤。
【請求項4】
前記弁用切り込みが、円弧状、楕円孤状またはコの字型であることを特徴とする請求項1に記載の安全弁を有する経口フィルム製剤。
【請求項5】
前記弁用切り込みが開放した際に生ずる孔の面積が、25mm2 以上であることを特徴とする請求項1に記載の安全弁を有する経口フィルム製剤。
【請求項6】
前記フィルム製剤が、活性成分と、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群より選ばれる水溶性高分子と、崩壊剤とを含む活性成分含有層と、
メチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む活性成分非含有層とからなり、
該活性成分の量が、該フィルム製剤の総質量の0.1質量%〜75.0質量%であり、
該活性成分含有層における活性成分と水溶性高分子との合計量が、該活性成分含有層の総質量の15.0質量%〜95.0質量%であることを特徴とする請求項1に記載の安全弁を有する経口フィルム製剤。
【請求項7】
前記フィルム製剤が、活性成分とヒドロキシプロピルメチルセルロ−スと崩壊剤とを含む活性成分含有層と,ヒドロキシプロピルメチルセルロ−スを含む活性成分非含有層とからなるフィルム製剤であって、崩壊剤が結晶セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムとの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の安全弁を有したフィルム製剤。
【請求項8】
前記フィルム製剤が、崩壊剤が結晶セルロースとカルボキシメチルセルロースナトリウムとのコロイダルグレードの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の安全弁を有する経口フィルム製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−251954(P2011−251954A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128702(P2010−128702)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(592142670)佐藤製薬株式会社 (17)
【Fターム(参考)】