説明

安定した酸化臭素調合物、生物付着制御のためのその製造方法および使用

【課題】工業用水システムにおける生物付着制御のための、酸化臭素を含む安定した殺生物剤調合物を提供する。
【解決手段】水に臭素酸アルカリまたはアルカリ土類金属を溶解させて、溶液を作成するステップと、ハロゲン安定剤を溶液に添加するステップであって、ハロゲン安定剤がR−NH2、R−NHR1、R−SO2−NH2、R−SO2−NHR1、R−CO−NH2、R−CO−NH−R1およびR−CO−NH−CO−R1からなる群より選択され、Rが水酸基、アルキル基または芳香基であり、R1がアルキル基または芳香基であるステップと、そして、臭素を前記溶液に添加するステップによって調製される酸化臭素化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用水システムにおける生物付着制御に使用される調合物に関する。さらに詳細には、本発明は、安定した酸化臭素調合物を調製する方法および工業用水システムにおける生物付着の制御でのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
元素の液体臭素は有効な殺生剤であるが、その低い溶解性(<4g/100g 水)、低い沸点(54.3℃)、高い蒸気圧(25℃にて214mmHg)、そして強度の腐食性によって、工業用途での殺生剤としての使用が制限される。別の酸化臭素化合物である臭素酸塩には、抗菌作用がほとんどない。臭素酸塩も哺乳類に対しては非常に毒性であり、発癌性の疑いがある。臭化物などの非酸化無機臭素化合物は、抗菌作用がほとんど、または全くない。
【0003】
水性臭素溶液と臭素安定剤の混合物を用いて、殺生剤として使用するための安定した酸化臭素化合物が生成されている。不安定化水性臭素溶液は非常に酸性で不安定であり、刺激性の高い臭素煙を放出する。しかし、液体臭素から作成可能な安定化次亜臭素酸塩の濃度は、臭素の水への溶解度が低いため、限定されている。
【0004】
臭素を活性化して次亜臭素酸塩にするために、臭素安定剤に加えて、次亜塩素酸塩などの酸化剤を添加することも提案されている。臭素から次亜臭素酸塩への変換が終了した後、スルファミン酸塩などのハロゲン安定剤を添加して次亜臭素酸塩を安定させる。これは酸化ハロゲン含有量のレベルが高い(Br2として約14%)改良プロセスであるが、本プロセスはなお、臭素源としての次亜臭素酸ナトリウム(NaOBr)を合成する独立したステップが必要である。NaOBrは非常に不安定であり、ただちに不均衡化を起こして、どちらも抗菌作用をほとんど、または全く持たない臭素と臭素酸塩になる。さらに、次亜臭素酸ナトリウム(NaOCl)が活性化剤として使用されるため、安定化生成物の濃度は、利用可能なNaOClの濃度に制限される。
【0005】
現場で使用するために臭素を生成する方法も知られている。このようなプロセスは、電解によって臭素酸塩を酸性条件下で臭素、次亜臭素酸、次亜臭素酸イオンおよび三臭化水素などの活性臭素化合物に変換させることを含む。しかし、上のプロセスは現場で使用するために臭素を生成するため、臭素安定化を最適にする方法または手段は扱われていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、高濃度の安定酸化臭素調合物を安全に生成する方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、臭化アルカリまたはアルカリ土類金属および次亜臭素酸アルカリまたはアルカリ金属を水中で混合して、水溶液を提供するステップと、溶液を25℃未満、好ましくは20℃未満、さらに好ましくは10℃未満の温度に冷却するステップと、次の溶液に、R-NH2、R-NH-R1、R-SO2-NH2、R-SO2-NHR1、R-CO-NH2、R-CO-NH-R1、R-CO-NH-CO-R1(ここでRは水酸基、アルキル基または芳香基であり、R1はアルキル基または芳香基である)からなる群から選択されるハロゲン安定剤を加えるステップを含む、安定した酸化臭素調合物を生成する方法を提供することによって、上述のニーズを満足する。好ましいハロゲン安定剤としては、サッカリン、ベンゼンスルホンアミド尿素、チオ尿素、クレアチニン、シアヌル酸、アルキルヒダントイン、モノまたはジエタノールアミン、有機スルホンアミド、ビウレット、スルファミン酸、有機スルファミン酸およびメラミンが挙げられる。スルファミン酸は、最も好ましいハロゲン安定剤である。
【0008】
ある実施態様では、ハロゲン安定剤を、組み合わされた臭化アルカリまたはアルカリ土類金属および臭素酸アルカリまたはアルカリ土類金属のモル量とほぼ等しいモル量だけ溶液に加える。
【0009】
ある実施態様では、ハロゲン添加ステップによって、溶液のpHが2未満となる。
【0010】
ある実施態様では、該方法は、ハロゲン安定剤添加ステップの後、5分以上の間、溶液を撹拌することを含む。
【0011】
ある実施態様では、該方法は、ハロゲン安定剤添加ステップの後、水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属の添加によって、溶液のpHを13より高い値に調整することを含む。
【0012】
ある実施態様では、臭化アルカリまたはアルカリ土類金属および臭素酸アルカリまたはアルカリ土類金属を混合するステップがさらに、臭化:臭素酸アルカリまたはアルカリ土類金属のモル比が約2:1となるように、臭化アルカリまたはアルカリ土類金属および臭素酸アルカリまたはアルカリ土類金属を混合することを含む。
【0013】
ある実施態様では、本発明の方法は、約2モルの臭化アルカリまたはアルカリ土類金属および約1モルの次亜臭素酸アルカリまたはアルカリ金属を水中で混合して、水溶液を提供するステップと、次いで溶液を10℃未満の温度に冷却するステップと、溶液のpHを2未満に下げるために溶液に、R-NH2、R-NH-R1、R-SO2-NH2、R-SO2-NHR1、R-CO-NH2、R-CO-NH-R1、R-CO-NH-CO-R1(ここでRは水酸基、アルキル基または芳香基であり、R1はアルキル基または芳香基である)からなる群から選択される酸性ハロゲン安定剤を添加するステップを含み、安定した酸化臭素化合物を提供する。好ましいハロゲン安定剤としては、尿素、チオ尿素、クレアチニン、シアヌル酸、アルキルヒダントイン、モノまたはジエタノールアミン、有機スルホンアミド、ビウレット、スルファミン酸、有機スルファミン酸およびメラミンが挙げられる。酸性ハロゲン安定剤は、組み合わされた臭化アルカリまたはアルカリ土類金属および臭素酸アルカリまたはアルカリ土類金属のモル量とほぼ等しいモル量だけ溶液に加え、その後、5分以上の間、溶液を撹拌するステップと、溶液のpHを13より高いレベルに上昇させるために、溶液に水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属を添加するステップが続く。
【0014】
ある実施態様では、本発明の方法は、ハロゲン安定剤、水および水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属を含む腐食性溶液を調製するステップと、溶液を撹拌および冷却しながら溶液に臭素または塩化臭素を添加するステップとを含む、安定した酸化臭素化合物を調製する方法を提供する。
【0015】
ある実施態様では、ハロゲン安定剤は、R-NH2、R-NH-R1、R-SO2-NH2、R-SO2-NHR1、R-CO-NH2、R-CO-NH-R1、R-CO-NH-CO-R1(ここでRは水酸基、アルキル基または芳香基であり、R1はアルキル基または芳香基である)からなる群から選択される。好ましいハロゲン安定剤としては、サッカリン、ベンゼンスルホンアミド尿素、チオ尿素、クレアチニン、シアヌル酸、アルキルヒダントイン、モノまたはジエタノールアミン、有機スルホンアミド、ビウレット、スルファミン酸、有機スルファミン酸およびメラミンが挙げられる。
【0016】
ある実施態様では、腐食性溶液のpHは、臭素または塩化臭素の添加後に13よりも高い。
【0017】
ある実施態様では、臭素または塩化臭素を添加するステップは、ハロゲン安定剤のモル比とほぼ等しく、水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属のモル比の1/2にほぼ等しいモル比で臭素または塩化臭素を加えることとして特徴付けられる。
【0018】
ある実施態様では、溶液は25℃未満の温度まで冷却する。
【0019】
ある実施態様では、臭素または塩化臭素を添加するステップは、臭素を空気に曝露せずに実施する。
【0020】
ある実施態様では、溶液のpHを13より高くするために、臭素または塩化臭素を添加した後に、水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属を添加する。
【0021】
ある実施態様では、本発明の方法は、アルカリまたはアルカリ土類金属臭素酸塩を水に溶解させて、溶液を作成するステップと、次に、R-NH2、R-NH-R1、R-SO2-NH2、R-SO2-NHR1、R-CO-NH2、R-CO-NH-R1、R-CO-NH-CO-R1(ここでRは水酸基、アルキル基または芳香基であり、R1はアルキル基または芳香基である)からなる群から選択されるハロゲン安定剤を溶液に添加するステップとを含む、水溶液中で安定した酸化臭素化合物を調製する方法を提供する。好ましいハロゲン安定剤としては、サッカリン、ベンゼンスルホンアミド、尿素、チオ尿素、クレアチニン、シアヌル酸、アルキルヒダントイン、モノまたはジエタノールアミン、有機スルホンアミド、ビウレット、スルファミン酸、有機スルファミン酸およびメラミンが挙げられる。ハロゲン安定剤を添加した後、臭素または塩化臭素を溶液に添加する。
【0022】
ある実施態様では、溶液を25℃未満、好ましくは15℃未満、さらに好ましくは10℃未満の温度に冷却するステップは、臭素を溶液に添加するステップと同時に実施する。
【0023】
ある実施態様では、本発明は安定した酸化臭素調合物を含む水性殺生剤溶液を提供する。該溶液は、スルファミン酸塩がとして使用される場合、-SO3NHBrおよび-SO3NBr2からなる群から選択される少なくとも1種類の酸化臭素化合物および溶液のpHレベルを13よりも高くするのに十分な量の塩基を含む。
【0024】
ある実施態様では、溶液中の塩基は水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属である。
【0025】
したがって本発明の利点は、臭素煙が発生しない安全で十分な方法で液体臭素または塩化臭素を使用して、安定した酸化臭素含有溶液を生成することである。
【0026】
本発明の別の利点は、次亜臭素酸を生成するための別個のステップを必要とせずに、高濃度の安定した次亜臭素酸を生成することである。
【0027】
本発明のまた別の利点は、高レベルの臭素酸などの望ましくない副生成物を生じずに、安定した酸化臭素化合物を生成する方法を提供することである。
【0028】
本発明のさらにまた別の利点は、本発明の方法が塩化物を発生しないため、本発明の方法がより腐食性の低い、安定した酸化臭素調合物を提供することである。
【0029】
本発明のまた別の利点は、輸送するのにより安全であり、非酸性である安定した酸化臭素調合物を提供することである。
【0030】
本発明のさらに別の利点は、不安定した酸化臭素化合物よりも他の水処理化学薬品との適合性が高い、工業用水システムにおける生物付着を制御するための、安定した酸化臭素調合物を生成することである。
【0031】
工業用水システムとしては、冷却水システム、冷却池、貯水池、甘水用途、装飾用噴水、殺菌装置、蒸発凝縮器、静水圧殺菌器および蒸留器、ガス洗浄塔システムおよび空気洗浄器システムが挙げられる。
【0032】
本発明の別の利点は、パルプおよび紙加工システムにおける生物付着制御の改良された方法を提供することである。
【0033】
本発明の別の利点は、生成された油田水と接触する装置表面で起きる生物付着制御の方法を提供することである。
【0034】
本発明の別の利点は、食品加工システムにおける生物付着制御の改良された方法を提供することである。
【0035】
また本発明の別の利点は、飲料加工システムにおける生物付着制御の改良された方法を提供することである。
【0036】
さらに本発明の別の利点は、再生水システムにおける生物付着制御の改良された方法を提供することである。
【0037】
本発明の別の利点は、固い表面を殺菌する改良された方法を提供することである。
【0038】
本発明の別の利点は、汚れた衣類の洗濯およびセルロース材料の製造のための改良された漂白方法を提供することである。
【0039】
また、本発明の別の利点は、果物や他の食料品などの食料品を洗浄する改良された方法を提供することである。
【0040】
本発明の他の目的および利点は、以下の詳細な説明および添付された請求項を検討すれば明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、冷却水および他の工業システムにおける生物付着制御のための幅広い濃度の安定した酸化臭素化合物を生成するための、複数の調合物および方法を提供する。
【0042】
ある実施態様では、本発明が採用した戦略は、臭化アルカリまたはアルカリ土類金属および臭素酸アルカリまたはアルカリ土類金属の混合物を、水中で臭素源として利用する。臭素酸も酸化剤として作用する。臭素酸に対する臭素のモル比は、2:1が最適である。次に溶液を好ましくは25℃未満の温度、さらに好ましくは10未満の温度まで冷却する。次いで、溶液のpHを2未満に低下させるために、溶液に酸性安定剤または酸性安定化溶液を加える。さらに、最適な安定化のために、臭素酸に対して等モル量となるように、追加の安定剤を加える。理論に制限されることなく、以下の反応が生じると考えられる:
HO-SO2-NH2 -> H+-O-SO2-NH2 (1)
2Br-+ BrO3- + 3H+ -> 3HbrO (2)
HBrO + -O-SO2-NH2 -> -O-SO2-NH-Br, -O-SO2-NBr2,
および他の安定した酸化臭素化合物 (3)
臭素、臭素酸およびスルファミン酸塩は、得られた溶液中に共存するため、反応(1)から反応(2)は相互に関して引き続いて生じる。理論に制限されることなく、酸化臭素安定剤の存在および臭素酸に対する臭素の正しい比は、以下の式に従って、臭素発生を防止していると考えられる:
5NaBr + NaBrO3 +6H+ -> 3Br2 + 6Na+ + 3 H2O (4)
反応(4)が反応(2)の場合に起きると、未加工の臭素源の半分は反応(5)に従って、非生物致死性および非酸化性臭素に逆変換される;
Br2+ H2O -> HBrO + HBr (5)
しかし、本発明に従って調製した生成物の分析によって、反応収率は50%を超えることが確認される。実際に、80%を超える臭素源が酸化臭素形に変換された。したがって、少なくとも80%の反応収率が達成された。
【0043】
2未満のpHでの反応1-3の反応時間は、よく撹拌しながら5〜10分の間である。生成物をただちに使用しない場合は、製品を熱安定性にするために、NaOHなどの強塩基を加えてpHレベルを13より高くする。pH調整の間、酸塩基反応から生じる熱によって上昇した温度が生成物を分解する可能性があるため、温度制御が重要である。したがって、冷却が必要なことがある。
【0044】
上記のプロセスで作成した生成物は熱安定性が良好であり、利用可能なハロゲンの総濃度はBr2として34%という高さである。
【0045】
実施例
以下の実施例は本発明を例示し、当業者に本発明の作成および使用方法を教えるためのものである。これらの実施例は、発明またはその保護をいかなる場合にも制限するものではない。
【0046】
実施例I
実施例によって、21.2グラムのNaBrO3、32.8グラムのNaBrおよび100グラムの水を混合し、その溶液を3℃に冷却し、48グラムのスルファミン酸を該溶液に加え、溶液を10分間撹拌することによって、上述の方法に従った安定した酸化臭素生成物の合成を実施する。次に溶液温度を4〜14℃に制御しながら、48グラムの50%NaOH水溶液を該溶液にゆっくりと加えた。生じた生成物はpH 13.77の金色がかった黄色の溶液で、利用可能なハロゲン濃度はBr2として25.1%であった。本実施例では、すべての臭素源(臭素および臭素酸)が安定した酸化臭素に変換された場合、理論Br2%は29.9である。したがって、収率は約84%である。
【0047】
実施例II
別の実施例によって、21.2グラムのNaBrO3、32.8グラムのNaBrおよび100グラムの水を反応器内で混合し、その溶液を3℃に冷却し、44グラムのスルファミン酸を該溶液に加え、溶液を10分間撹拌し、3〜14℃に制御しながら、43グラムの50%NaOH水溶液を該溶液にゆっくりと加えることによって、上述の方法に従った安定した酸化臭素生成物の合成を実施する。生じた生成物はpH14.11の金色がかった黄色の溶液で、利用可能なハロゲン濃度はBr2として27.7%であった。本実施例では、すべての臭素源(臭素および臭素酸)が安定した酸化臭素に変換された場合、理論Br2%は31.2である。したがって、収率は約88.8%である。
【0048】
別の実施例において、液体臭素を酸化剤および臭素源の療法として使用する。スルファミン酸塩および他の窒素塩基化合物を安定剤として使用した。さらに、生成物のpHを維持するために、十分な量の水酸化アルカリまたはアルカリ金属が必要である。調合物の温度も、安定した酸化窒素を生成するためにきわめて重要である。十分なpHと温度制御がないと、発熱反応によって生じた熱により、酸化種が迅速に分解する。
【0049】
高濃度の安定した酸化臭素調合物を調製するプロセスは、2つのステップからなる。
【0050】
第1のステップでは、スルファミン酸、水および水酸化アルカリまたはアルカリ土類金属(好ましくはNaOH、Mg(OH)2または他の水酸化物)を混合して、腐食性安定化溶液を調製する。アルカリまたはアルカリ土類金属のpHは14よりも高い。次の臭素化ステップによって生じる酸を中和し、最終生成物のpHを高く(好ましくは13より高い)維持するために、過剰の水酸化物を故意に加える。液体臭素に対するスルファミン酸塩の好ましいモル比は、1:1である。液体臭素に対する水酸化物の好ましいモル比は、2.2:1である。安定剤溶液は、スルファミン酸アルカリまたはアルカリ土類金属を水に溶解させ、適切な量の水酸化物を加えることによっても得られる。
【0051】
該プロセスは通常、適切な混合装置を備えたジャケット付きガラス反応器内で実施する。反応器の冷却システムは、反応温度が最適範囲で制御できるように設定する必要がある。臭素化ステップの間、反応温度が過度に高いと、スルファミン酸塩の加水分解が加速され、望ましい生成物の分解を引き起こす。
【0052】
該プロセスの第2のステップは、安定化溶液によく撹拌しながら液体臭素をゆっくりと加えることである。元素臭素が空気に曝露されるのを防ぐため、臭素はテフロン(登録商標)管によって安定化溶液に直接加えることが好ましい。反応温度が好ましくは25℃以下になるように、添加速度を制御する。反応温度が上昇すると、生成物の収率が低下する。反応温度が35℃以上になると、スルファミン酸塩は加水分解して硫酸塩とアンモニアになる。生じたアンモニアは次亜臭素酸塩と反応し、それを消費して、激しい発泡として確認できる窒素ガスを生成する。液体臭素を適切な速度で添加すると、液体臭素は即時に反応して、安定化される。該プロセスは、検出可能な臭素煙を発生しない。
【0053】
上述のプロセスで作成した生成物は、検出可能な臭素酸(イオンクロマトグラフィー分析により50ppm未満)を含まないことがわかった;室温で2ヶ月間保管しても、検出可能な生成物濃度の変化は見られなかった。(Br2として)16.2%の生成物の場合、該生成物の半減期は57℃で74.5日である。
【0054】
実施例III
実施例によって、52.16グラムのスルファミン酸、42.0グラムの水および128.0グラムの50% NaOH水溶液を500mlの3つ首ガラス反応器内で混合して、上述の方法に従った安定した酸化臭素生成物の合成を実施する。混合物を絶えずかき混ぜながら約3℃の温度まで冷却し、水浴で冷やす。82.5グラムの液体臭素(99.8% Br2)を液体にゆっくりと加え、反応温度を制御し10℃以下に維持した。生じた溶液のpHは12.5である。溶液のpHは3.0グラムの50% NaOHを加えて13より高いレベルにする。生じた溶液の臭素含有率はBr2として26.2%であるが、100% 変換の場合の理論含有率は、Br2として27.0%である。
【0055】
室温(21℃)で一晩保存した後、大量の結晶の生成が確認された。0.45μmのフィルターを用いて、結晶を液体から分離し、次に真空下で結晶を一晩脱水した。固体生成物中に46.8%のBr2が検出されたが、Br2としての18.7%の含有率が液体内に残った。固体生成物は水溶性が非常に高いことがわかった。したがって、本発明は、水溶性である固体の安定した酸化臭素生成物を提供する。
【0056】
上の例で得られた固体生成物は、安定した酸化臭素化合物の濃度が非常に高い。
残りの含有量は水、過剰なNaOHおよびNaBrであると考えられる。
【0057】
他のハイブリッド法を用いて、安定した酸化臭素化合物を生成することができる。このような方法の1つは、臭素酸塩を酸化剤および臭素源として、液体臭素を酸化剤、臭素源および酸性化合物として、スルファミン酸または他の適切なハロゲン安定剤を窒素安定剤として使用することからなる。反応機構は以下のようになる:
Br2+ H2O -> 2H+ + Br- +OBr- (6)
BrO3- + 2Br- + H+ -> 3OBr- (7)
OBr-+安定剤 -> 安定した酸化臭素 (8)
該プロセスは、臭素酸塩および水を溶解させ、スルファミン酸または他の安定剤を溶液に加え、液体臭素をゆっくりと添加し、生じた生成物を長期間保存する場合は、NaOHを加えてpHレベルを13より高い値に調整することによって実施できる。該プロセスは、特に液体臭素の添加の間は、25℃未満の温度で実施する必要がある。
【0058】
別の実施例では、本発明の安定した酸化臭素化合物を使用して、工業用水システム、パルプおよび紙加工システム、食品および飲料加工システムおよび水再生システムにおいて改良された生物付着制御を行うために使用できる。本発明の安定した酸化臭素化合物は、漂白剤として、および固い表面の殺菌にも使用できる。実施例のみによって、本発明は、各種加工システムによって食品を輸送するためおよび加工装置ならびに廃水流を殺菌するために、使用する水性溶媒に添加してもよい。
【0059】
本明細書で述べた現在の好ましい実施態様に対して各種の変更および修正を行うことは当業者にとって明らかである。このような変更および修正は、本発明の範囲および精神を逸脱せずに、それに伴う利点を減少させずに実施できる。
したがって、そのような変更および修正は、添付請求項の範囲に含まれるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定した酸化臭素化合物を水溶液中で生成する方法であって、
水に臭素酸アルカリまたはアルカリ土類金属を溶解させて、溶液を作成するステップと、
ハロゲン安定剤を溶液に添加するステップであって、ハロゲン安定剤がR-NH2、R-NH-R1、R-SO2-NH2、R-SO2-NHR1、R-CO-NH2、R-CO-NH-R1およびR-CO-NH-CO-R1からなる群より選択され、Rが水酸基、アルキル基または芳香基であり、R1がアルキル基または芳香基であるところのステップと、そして、
臭素を前記溶液に添加するステップと
からなる方法。
【請求項2】
ハロゲン安定剤が、サッカリン、ベンゼンスルホンアミド、尿素、チオ尿素、クレアチニン、シアヌル酸、アルキルヒダントイン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、有機スルホンアミド、ビウレット、スルファミン酸、有機スルファミン酸およびメラミンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
臭素添加ステップと同時に行われる、
溶液を25℃未満の温度に冷却するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
水に臭素酸アルカリまたはアルカリ土類金属を溶解させて、溶液を作成するステップと、
ハロゲン安定剤を溶液に添加するステップであって、ハロゲン安定剤がR-NH2、R-NH-R1、R-SO2-NH2、R-SO2-NHR1、R-CO-NH2、R-CO-NH-R1およびR-CO-NH-CO-R1からなる群より選択され、Rが水酸基、アルキル基または芳香基であり、R1がアルキル基または芳香基であるところのステップと
によって調製される安定した酸化臭素化合物。
【請求項5】
ハロゲン安定剤が、サッカリン、ベンゼンスルホンアミド、尿素、チオ尿素、クレアチニン、シアヌル酸、アルキルヒダントイン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、有機スルホンアミド、ビウレット、スルファミン酸、有機スルファミン酸およびメラミンからなる群から選択される、請求項4に記載の安定した酸化臭素化合物。
【請求項6】
生物付着を制御するために酸化剤を添加する工業用水システム、パルプおよび紙加工システム、生成された油田水と接触する装置表面、食品加工システム、飲料加工システム、水再生システムでの生物付着制御の方法であって、請求項5に記載の安定した酸化臭素化合物を酸化剤として使用することを含む方法。

【公開番号】特開2010−189264(P2010−189264A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32131(P2010−32131)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【分割の表示】特願2000−613764(P2000−613764)の分割
【原出願日】平成11年12月9日(1999.12.9)
【出願人】(599109663)ナルコ ケミカル カンパニー (8)
【氏名又は名称原語表記】NALCO CHEMICAL COMPANY
【住所又は居所原語表記】One Nalco Center,Naperville,Illinois 60563−1198,United States of America
【Fターム(参考)】