説明

安定なアトルバスタチン製剤の設計

【課題】製剤のpHを抑えつつ、安定性を担保することができるアトルバスタチン含有製剤を提供する。
【解決手段】pHを低下させたアトルバスタチン含有製剤を入れた容器に乾燥剤を同封させることにより、アトルバスタチンの分解を抑え、安定化に寄与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不安定なアトルバスタチン若しくはその塩を含有した製剤について、製剤のpHを高めずに、且つ安定化を担保するための製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アトルバスタチン若しくはその塩(以降、アトルバスタチンと言うこともある。)はHMG−CoA還元酵素阻害剤として、高コレステロール血症の治療に用いられている。そして、この物質を含有した医薬品製剤は現在多く使用されている。
【0003】
アトルバスタチンにおいて、特にカルシウム塩は、pHに依存して溶解度が変化することも知られている。また、経時的に分解を起こすことが知られている。特に、経時的に分解を起こすことは、医薬品の保管の関係上、非常に問題になる。
【0004】
そこで、アトルバスタチンの分解を抑えるために、製剤中に炭酸カルシウムを含有したアトルバスタチン製剤について提案されている(特許文献1)。
【0005】
炭酸カルシウムは制酸剤としても使用されている。すなわち、炭酸カルシウムは胃の中のpHを変動させることが可能な物質である。そして、アトルバスタチンの市販品であるリピトール製剤は100mLの精製水にて懸濁させ、pHを測定すると、9.5程度の数値を示す。すなわち、局所的であれ、消化管内のpHを変動させることが考えられる。先に記載したとおり、アトルバスタチンはpHに依存して溶解性が異なる。従って、消化管の条件によりアトルバスタチンの溶解度が変動し、結果的にアトルバスタチンの血中濃度に個体差が生じる可能性がある。
【0006】
胃の中のpHは大凡1〜3程度であり、十二指腸は5、小腸は6.5程度である。従って、これらのpHに近づけた製剤を設計することにより、個体差のばらつきをより抑える製剤が設計できると考えた。
【特許文献1】特表平8−505640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、消化管内のpHに近づけたアトルバスタチン含有の製剤を設計すると、アトルバスタチンが経時的に分解することが知られている。実際、炭酸カルシウムを除く、もしくは製剤の懸濁液のpHが9以下になるような製剤設計をすると、ラクトン体をはじめとする不純物が経時的に増加することが確認された。よって、これらの不純物の増加を抑える新たな製剤設計が必要となった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは様々な検討を実施した結果、アトルバスタチンを含有した製剤について乾燥剤とともに包装することにより、アトルバスタチンの不純物の増加を抑制することを見出し、本発明を完成した。そして、従来、安定性が担保できないような弱アルカリ物質を含有した製剤でも安定化を担保することができる製剤について発明した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のような発明である。
(1)乾燥剤と共に包装したアトルバスタチン若しくはその塩含有製剤
(2)アトルバスタチンがカルシウム塩である(1)の製剤
(3)乾燥剤がシリカゲル若しくはゼオライトである(1)ないし(2)の製剤
(4)アトルバスタチン含有製剤のpHが9以下である(1)ないし(3)の製剤
(5)アトルバスタチン含有製剤のpHが8.5以下である(1)ないし(4)の製剤
(6)アトルバスタチン含有製剤に炭酸水素ナトリウムを含有した(1)ないし(5)の製剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明はアトルバスタチン含有製剤の製剤pHを通常の消化管のpHに近づけつつ、アトルバスタチンの安定性を担保することができる製剤の設計である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に使用する乾燥剤は、一般的に使用されているものであれば特段問題ない。具体的には、水蒸気圧10mmHg、25℃で水分吸着量が10wt%以上のものであればよい。具体的には、その素材として活性アルミナ、シリカゲル、ゼオライト等が挙げられる。好ましくは、シリカゲル若しくはゼオライトであり、更に好ましくは、ゼオライトである。
【0012】
また、これらの使用量は発明の効果が発揮できれば、量について特段規定はない。好ましくは、アトルバスタチン含有錠剤が100錠入った容器に1g以上、更に好ましくは、2g以上である。
【0013】
上記の乾燥剤と共にアトルバスタチン含有の錠剤を入れる容器としては、乾燥剤の効果を損なわないものであれば、どのような材質のものを使用しても特段問題ない。具体的には、ガラス、アルミ、防湿性の高いプラスチック等が挙げられる。
【0014】
また、アトルバスタチン含有製剤は精製水で懸濁させた際にそのpHが9以下になるような製剤であることが好ましい。pHの測定方法としては、アトルバスタチンとして10mg相当になるように製剤等を採取し、精製水100mLに懸濁させた。この懸濁液についてpHを測定する方法を採用した。本発明はこの方法により測定したpHが9以下であることが好ましく、更に、8.5以下(以下、低アルカリ領域とも言う。)であることがより好ましい。
【0015】
このように、本発明のアトルバスタチン含有製剤では、低アルカリ領域にできる添加剤を含有することにより、発明の効果を発揮することができる。このような添加剤としては、アルカリ金属塩若しくはアルカリ土類金属塩が挙げられるが、これらに限定しなくてもよい。好ましくは、ナトリウム塩であり、更に好ましくは、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0016】
また、これらの添加剤以外にも本発明の効果を損なわなければ適宜、従来公知の種々の滑沢剤、可溶化剤、緩衝剤、吸着剤、結合剤、懸濁化剤、抗酸化剤、充填剤、pH調整剤、賦形剤、分散剤、崩壊剤、崩壊補助剤、防湿剤、防腐剤、溶剤、溶解補助剤、流動化剤等を使用することができる。
【0017】
賦形剤としては、例えば結晶セルロース、コーンスターチ、バレイショデンプン、無機塩等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、コーンスターチ、バレイショデンプン等のデンプン類、部分アルファー化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルスターチ等が挙げられる。結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、寒天、ハチミツ等が挙げられる。
【0018】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、タルク、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。また、コーティング剤としては例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー、アミノアクリルメタクリレートコポリマーE、アミノアクリルメタクリレートコポリマーRS、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS等が挙げられる。更に、矯味成分としては、例えば、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。発泡剤としては、例えば、重曹等が挙げられる。人口甘味料としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、アスパルテーム、ステビア、ソーマチン等が挙げられる。マスキング剤としては、例えば、エチルセルロース等の水不溶性高分子、メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸ブチル・メタアクリル酸ジエチルアミノエチル・コポリマー等の胃溶性高分子等が挙げられる。
【0019】
アトルバスタチン含有製剤はこれらの添加剤等を含有すれば特段どのような製造方法で製造しても問題ない。具体的には、顆粒を製造する方法として流動層造粒、攪拌造粒、転動造粒、乾式造粒若しくはこれらを組み合わせた方法が挙げられる。また、これらの顆粒を用い、そのまま製剤として市販することも可能である。しかし、服用性改善をするためにカプセル化や圧縮成形することも可能である。これらの方法は一般的に知られている方法で実施することが可能である。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0021】
実施例1
アトルバスタチンカルシウム27.05g、乳糖(乳糖DMV200M DMV(株)製)81.8g、炭酸水素ナトリウム(炭酸水素ナトリウム 旭硝子(株)製)70g、結晶セルロース(セオラスPH-101 旭化成ケミカルズ(株)製)140gとクロスカルメロースナトリウム(アクチゾル FMC (株)製)10.5gを攪拌造粒機にて、下記に記載した結合剤を用いて顆粒を製造した。
【0022】
なお、結合液はヒドロキシプロピルセルロース(HPC−L 日本曹達(株)製)7g、ブチルヒドロキシアニソール(サステン1−F 日揮ユニバーサル(株)製)0.07gとポリソルベート80(TO−10M 日光ケミカルズ(株)製)1.4gを精製水60mLとエタノール 60mLに溶解した溶液である。
【0023】
この顆粒337.82gにクロスカルメロースナトリウム(アクチゾル FMC(株)製) 10.5gとステアリン酸マグネシウム(ステアリン酸マグネシウム 太平化学産業(株)製) 1.75gを添加し、V型混合機にて混合した。この顆粒を用いて圧縮成形機にて打錠を行った。
【0024】
この打錠品を用い、下記の方法で製造したフィルムコーティング液にてコーティングを実施した。なお、コーティングはドリアコーターを用いた。
【0025】
コーティング液の組成は ヒプロメロース(TC−5R 信越化学工業(株)製)7g、マクロゴール6000(マクロゴール6000 三洋化成工業(株)製)1gと酸化チタン( 酸化チタンA−110 堺化学工業(株)製)2gを精製水100gに溶解した溶液である。
【0026】
このように製造した錠剤を用い、下記の条件で安定性試験を実施した。なお、比較として、既に販売されているリピトール錠5mg(アステラス製薬(株)製)を用いた。
【0027】
安定性試験は下記の条件で実施した。
温度:70℃
期間:4日間
包装容器:アルミ袋(100錠/袋)
ゼオライトの有無:ゼオライト(MS新越化成工業(株)製)を使用した場合は1袋あたり2.5g使用
評価項目:総類縁物質
試験方法:錠剤5錠を崩壊法で抽出し, USPに準じて逆相UPLC法により測定
【0028】
上記のように行った結果、下記の表1のような結果を得た。
【表1】

【0029】
なお、製剤のpHについては下記のように測定を行い、表2のような結果となった。
【0030】
測定方法
アトルバスタチンとして10mg相当(上記実施例1の錠剤を2錠)になるように製剤等を採取し、精製水100mLに懸濁させた。この懸濁液を用いて日本薬局方pH測定法に従って、pHを測定した。
【表2】

【0031】
表1及び表2のように製剤のpHが低い場合でも、乾燥剤であるゼオライトを包装容器内に入れることによりアトルバスタチンの安定性を担保することができた。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明により、消化管のpHに近い製剤にもかかわらず、不純物の発生を抑える、すなわち、安定化に寄与することができるため、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥剤と共に包装したアトルバスタチン若しくはその塩含有製剤
【請求項2】
アトルバスタチンがカルシウム塩である請求項1の製剤
【請求項3】
乾燥剤がシリカゲル若しくはゼオライトである請求項1ないし2の製剤
【請求項4】
アトルバスタチン含有製剤のpHが9以下である請求項1ないし3の製剤
【請求項5】
アトルバスタチン含有製剤のpHが8.5以下である請求項1ないし4の製剤
【請求項6】
アトルバスタチン含有製剤に炭酸水素ナトリウムを含有した請求項1ないし5の製剤


【公開番号】特開2012−36129(P2012−36129A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178041(P2010−178041)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000208145)大洋薬品工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】